4.次期固体ロケットプロジェクトの事前評価結果

(1)プロジェクトの目的(プロジェクトの意義の確認)

 次期固体ロケットプロジェクトは、小型衛星計画への対応及び固体ロケットシステム技術の維持・向上を目的としている。
 本プロジェクトは、基本戦略や長期計画等に規定されているわが国における宇宙開発利用全体の意義、目標及び方針等を踏まえるとともに、その目的は、次期長期計画の検討の一環として実施された輸送系ワーキンググループの結論に的確に対応するものと認められる。
 科学分野での衛星打上げ需要に関し、今後10年程度を展望すれば、小型衛星が過半を占める状況にある。このような状況をかんがみれば、ミューファイブロケットを維持し、使用していくより、本プロジェクトで目指している低コストで信頼性・運用性を向上させた次期固体ロケットで対応していく方が、ユーザへの柔軟な対応や経費の観点から見て、より得策である。
 また、固体ロケットシステム技術の維持の観点では、単に確立したロケットを定常的に使用し続ける(即ち製造設備と技能者を維持し続ける)だけでは、技術は早晩陳腐化するとともに、空洞化していくものである。従って、将来に向け技術を維持していくためには、程度の差はあれ、何らかの形の開発機会を用意することが不可欠である。このための方途としては1ミューファイブロケットの改良のための開発、2新規の固体ロケット開発の二つがあるが、ミューファイブロケットは、性能を追求してきた結果、改善の余地が少なく、将来への発展性、所要経費等をかんがみれば、2が選択すべき道であると考えられる。また、技術の維持という観点から大きな要素である、人材の育成という点においても、新規の固体ロケット開発はより大きな効果が期待できる。
 本プロジェクトは、固体ロケットの長所を生かし、システム構成と運用を簡素化することで、小型衛星の打上げに適した、信頼性が高く、運用性、経済性に優れた小型ロケットを開発することを目的としており、上述の主旨に照らし、その目的は適切である。

判定:妥当

(2)プロジェクトの目標

 プロジェクトの目的に対応した目標として、軌道投入能力、打上げ費用、機体製造期間及び射場作業期間の四項目について具体的な数値目標が設定されている。軌道投入能力は、中期的に見通される科学ミッションへの対応という観点から適切である。打上げ費用は、ミューファイブロケットの実績に対して大きな低減が図られるとともに、世界の固体ロケットと比肩しうるものであると認められる。さらに、機体製造期間や、射場作業期間の短縮は簡素化されたシステムの実現を目指すという目的に対し、画期的な目標設定となっており、高い評価を与えることができる。以上のとおり、これらの目標は、本プロジェクトの目標として適切である。

判定:妥当

(3)開発方針

 本目標を達成するための開発方針は、小型衛星への柔軟な対応、信頼性の向上、コスト低減、運用性向上の四つの事項に即して示されている。
 小型衛星への柔軟な対応に関しては、多様な軌道へ対応できるようにすること、音響環境・分離衝撃等のペイロード搭載環境を緩和すること、短期間・高頻度打上げに対応できるようにすることとしている。この方針は、燃焼中断ができないため、誘導性の自由度が低いことや、環境条件が比較的厳しいといった固体ロケットの短所を克服しつつ、本質的な簡素性から、小型のペイロードを効率的、機動的に打上げられる固体ロケットの長所を伸ばす方針として設定されており、適切である。
 信頼性の向上に関しては、高速シリアルバス化や点検の自律搭載化により、打上げシステムの革新的な簡素化を図るとともに、実績がある信頼性の高い技術を活用すべく基幹ロケットとの基盤の共有化・強化を図ろうとしており、適切である。
 コスト低減に関しては、汎用性・共通性に十分配慮した地上設備簡素化と整備性・耐候性を考慮した運用効率化を追求している。また、既存のコンポーネントを活用しつつ、性能に大きな影響を与える要素を抽出し適切な改良を施し、トータルシステムとしての性能向上とコストの低減を同時に図っている。例えば、推進薬量が大きくコストがかさむ一方で打ち上げ能力に対する感度の低い第1段ロケットにはSRB−Aをほぼそのまま流用し、推進薬量が小さいために相対的に打上げコストに与える影響は小さいが打ち上げ能力に対する感度の高い上段モータ(第2段と第3段ロケット)においては、ミューファイブロケットの上段モータをベースに、ロケット全体の能力が最大になるようにさらに改良を加えるなど、ロケットシステム全体の高度な最適化を目指している。これらの方針は、運用における汎用性、共通性にも配慮しつつ、ロケットシステムにおける、性能とコストのバランスを図るものであり、従来ミューファイブロケットの課題であった経済性等を改善するものであり、妥当である。
 運用性向上に関しては、射場作業や打上げにおける安全性確保を前提としつつ、打上げシステムの革新的な向上のために搭載系のインテリジェント化や点検機能の自律化、運用の最適化や地上系のコンパクト化等の次世代標準技術を取り入れること、ロケット整備の短期間化による機動性の高い運用手法を実現すること、高度電子情報網を活用することとしている。これらは、次世代の打ち上げシステム(低コストで運用性、機動性の良い打ち上げシステム)の標準になると想定され、我が国の固体ロケットシステムを世界最高レベルに維持するために不可欠なものであるとともに、次期基幹ロケットなど我が国の次世代の輸送系にも適用可能なものであり、輸送系の将来に向けて先導的な役割を担い、我が国の宇宙開発のレベルをさらに上げることにも貢献するものであり、高い評価を与えることができる。
 このように、単なる既存コンポーネントの組み合わせでは及ばない、トータルとしてバランスの取れた高品質なシステムを目指しているとともに、固体、液体に関わらず、ロケットシステムのさらなる発展を牽引するものであり、本プロジェクトの開発方針は適切である。
 なお、今後に向けた助言は以下のとおりである。

判定:妥当

(4)実施体制

 実施体制については、JAXA(ジャクサ)の宇宙基幹システム本部の中に、固体ロケット研究チームが設置され、同本部内の研究開発センターや宇宙科学研究本部等のJAXA(ジャクサ)内組織との連携・支援のもとに開発研究を実施する体制の構築を行うこととしており、設定された目標の達成に対し、適切である。
 なお、今後に向けた助言は、以下のとおりである。

判定:妥当

(5)その他

 以下の項目については、「開発」移行段階で評価するものであるが、「開発研究」への移行時点における検討の進捗状況を踏まえ、「開発研究」に向け配慮すべき事項について助言する。

1システム選定及び基本設計要求

  • 効率の良いシステムの設計を行うためには、システム全体の立場からのすり合わせが重要なことから、まず全体システムの設計を行い、そこを出発点として各要素の仕様を固め、設計を進めてゆく基本を実現していくべきである。また、運用性、整備性の良いロケットを設計することが、コスト低減のキーの一つであることから、設計当初から運用担当、設備担当も加えてシステム設計を行うことが必要である。
  • 搭載系のネットワーク化及び自己診断機能等については基幹ロケットにも将来採用され得る技術なので標準化を念頭に置いた開発研究を望む。
  • 打上げ作業の効率向上を目指していくつかの新しい技術を取り込むとのことであるが、これらについては単に信頼性だけでなく、故障修理などの保守性や保全性についても設計要求を明確にするなど、稼働率の向上を目指すことを望む。
  • 研究開発を行うにあたっては、Mシリーズロケットにおける作業方法の長所を生かしつつ、JAXA(ジャクサ)の航空宇宙のスタンダードに基づいた技術標準、技術管理、プログラム管理に基づいて開発を行うべきである。

2開発計画(スケジュール、資金計画、設備の整備計画等)

  • 我が国独自の固体ロケットシステムの技術力、人材の維持、継承において支障のないスケジュールを設定するよう留意するべきである。

3リスク管理

  • リスク管理は、どのようにしたら事前に出来るだけのリスクを洗い出すことが可能か、突然問題が発生した場合それを如何に迅速に処置するか、の二点が重要である。前者に関しては、設計と開発計画がある程度固まった時点で、様々な分野の経験者の意見を聞いて潜在するリスクの精査をすることが必要であり、後者に関しては非常用対策を常に考え、またスケジュールに反映していくことが必要である。

(6)総合評価

 次期固体ロケットプロジェクトは、小型衛星の需要に対応するとともに、固体ロケット技術の維持・発展を図る、極めて大きな意義を有した計画である。
 今回の事前評価では、次期固体ロケットプロジェクトの目的、目標、開発方針、実施体制について審議を行った。その結果、次期固体ロケットプロジェクトについては、現時点で「開発研究」に移行することは妥当であると判断した。
 なお、開発研究に向け配慮すべきこととして、固体ロケット技術の技術的・人的経験が適切に継承されていくことが重要であること、搭載系のネットワーク化及び自己診断機能等については、基幹ロケットにも将来採用され得る技術なので、標準化を念頭に置いた開発研究をすること、新しい技術を取り込む際には、故障修理などの保守性や保全性についても設計要求を明確にすること、技術作業において従来の固体ロケット開発時の長所を生かしつつ、JAXA(ジャクサ)の航空宇宙のスタンダードに基づいた技術標準、技術管理、プログラム管理に基づいて開発を行うべきであること等の意見が提出された。JAXA(ジャクサ)においては、これらの助言について今後適切な対応がなされることを望む。

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