2.地上安全対策

 H−2Aロケット14号機によるWINDSの打上げに際し、射場及びその周辺における人命・財産の安全を確保するため、これまでの打上げ経験を踏まえて以下に示す安全対策がとられている。

 地上安全対策においては、ロケットの推進薬等の射場における取扱いから、打上げ後の後処置作業終了までの一連の作業すべてが対象となっている。

 これら地上安全確保業務として、打上げ執行責任を持つMHIが、関係法令や機構の安全要求を満足する安全管理計画書を機構に提出し、打上げ安全監理責任を持つ機構が、MHIの安全管理計画書を評価し、要求を満足する安全管理体制になっているかを確認している。その上で機構は、打上げ作業全体の地上安全計画を制定し、MHIの実施する危険作業手順書の承認を行う。また、MHIが危険作業を実施する際には、機構が立入規制作業、陸・海・空警戒監視を実施する。以上のような形で、安全確認が徹底されている。

1.ロケットの推進薬等の射場における取扱いに係る安全対策

 ロケットの推進薬等(火薬類、高圧ガス、危険物及び毒物)(表−1及び図−1)の射場における取扱いに関し、以下のとおり適切な対策が講じられている。

(1)静電気対策

 火薬類、高圧ガス、可燃性液体等の取扱いに際しては、発火等の発生を防止するため、第1段ロケット、第2段ロケット及び固体ロケットブースタ(SRB−A)及び固体補助ロケット(SSB)等の接地、静電気除去板への触手、帯電性資材の使用禁止、帯電防止作業衣等の着用、湿度管理等の静電気対策がとられている。

(2)保護具の着用

 火薬類、高圧ガス、危険物等の取扱いに際しては、作業員の安全を確保するため、特殊作業衣、安全靴、保護面等の保護具の着用が義務付けられている。

(3)防護設備の使用等

 高圧ガスの充填・加圧作業については、作業員の安全確保のため原則として遠隔操作することとされ、止むを得ず機体側で操作するときは人員を制限し、防護設備の使用等の対策をとることとされている。

(4)推進薬等の取扱い施設に関する巡視等

 ロケットの推進薬等の取扱い施設については、不審者の立ち入り等を防止するため、防犯警報装置の設置と常時監視に加えて、夜間等には警備員による巡視及び打上げ整備期間中の射場における24時間体制の警戒等が行われている。

(5)発火性物品の持込み規制等

 ロケットの推進薬等の存在する区域については、事故等を防止するため、ライター、グラインダー、溶接機、バッテリー等の持込み及び非防爆電気機器の使用等が規制されている。
 また、指定場所以外での火気使用及び喫煙は禁止されているとともに液化水素、液化酸素貯蔵タンク周辺等では非防爆電気機器、携帯電話の使用及びフラッシュ撮影は禁止されている。

(6)その他の対策

 ロケット打上げ後の燃料及び酸化剤の供給配管内の残留液の抜取り等の後処置作業は、打上げ整備作業時の安全対策に準じて実施され安全が確保されている。
 電波機器の取扱いに関し、電波放射時における危険区域への立入禁止、放射に際しての各種確認が行われている。
 窒素添加四酸化二窒素(MON−3)及びヒドラジンの取扱い作業中、又は保管されている環境下での作業中は、MON−3及びヒドラジン濃度測定器により常時環境モニターを行い安全が確認されている。
 密閉空間内で酸欠のおそれのある作業をする場合は、酸素濃度計を使用して安全が確認されている。

2.警戒区域の設定

 ロケットの打上げに係る作業期間中の各段階に応じて、以下のとおり適切な警戒区域が設定され、関係者以外の立ち入り規制等が行われている。

(1)整備作業期間における警戒区域

 事故等の影響を最小限にするため、MON−3及びヒドラジンの充填・加圧及び固体ロケットブースタ(SRB−A)及び固体補助ロケット(SSB)の点検・組立、ロケット・衛星・衛星フェアリングの組立、カウントダウン等の各段階について、安全評価基準32(1)に基づき警戒区域が設定されている。
 この区域については、事故等の防止のため、関係者以外の立ち入りはすべて禁止されるとともに、要所に警戒員を配置して警戒が行われる。さらに、射場内でのMON−3、ヒドラジン及びSRB−A等の移送中は、移送経路周辺の道路の通行が規制され、消防車、救急車及び救護員が配置されている。

(2)打上げ時における警戒区域

 液化水素及び液化酸素の充填のための最終準備作業が開始される前の適切な時期からは、万一爆発が起こった場合にも、爆風圧、飛散物、ファイアボールによる放射熱、落下物、有害物質等に対する安全を確保するため、警戒区域が設定され、警戒が行われている。

 地上安全に係る警戒区域については安全評価基準32(2)に基づき、爆風に対する保安距離約1,850メートルが最大となる。しかしながら飛行中断時に発生する落下破片の及ぶ範囲及び打上げ運用性の観点から、警戒区域は射点を中心とする半径3キロメートルの範囲等に設定されている(表−2、図−2及び図−3)。

 警戒区域のうち陸上については、関係者以外の立ち入りを規制するため、立て札による表示等が行われるとともに、要所に警戒員を配置して巡回を行う等必要な措置が講じられている。また、警戒区域周辺については、鹿児島県警察本部等へ協力を依頼している。

 海上については、一般の船舶が立ち入らないよう、光学設備、海上監視レーダによる監視及び警戒船による警戒が行われるほか、鹿児島海上保安部へ連絡員が派遣され、射場と緊密な連絡をとることとなっている。これに加えて海上保安庁及び鹿児島県の協力により、巡視船、航空機等により警戒が行われている。

 さらに、警戒区域の上空についても、一般航空機の安全を確保するため、要所に配置された警戒員により監視が行われるほか、国土交通省大阪航空局種子島空港出張所と射場との間で緊密な連絡がとられている。

 打上げ事故時には、衛星搭載推進薬が流出・蒸発してガス拡散が射場周辺に及ぶことが想定される。ガス拡散に対する安全の確保の観点から、ガス拡散範囲の予測に基づき、射点から約4,500メートルまでの陸上及び海上が通報連絡範囲として設定されている(図−4)。事前の安全対策として、町役場を含めた通報連絡体制の整備等が実施される他、事故時には通報連絡範囲内の人に対して屋内待避等の連絡等が行われる。

3.航空機及び船舶に対する事前通報

 打上げまでの期間においては、航空機及び船舶の航行の安全を確保するため、以下のとおり適切な時期に必要な情報が通報されている。

 事前に海上保安庁及び国土交通省航空局に対して打上げを行う旨の通報が行われ、船舶に対しては水路通報により、また、航空機に対してはノータムにより全世界を対象に情報が通知される。
 また、打上げ日時に変更があった場合は、速やかに関係機関へ通報がなされる。

4.作業の停止等

 打上げ作業期間中においては、以下のとおり、必要な場合に適切に作業の停止を行うよう、安全上の措置が講じられている。

 打上げ作業期間中は、事故等の発生及び被害の拡大防止を図るため、射場安全主任卓、総合防災監視設備及び射点安全卓において常時作業が監視されており、作業安全上支障が生じ又は生ずるおそれがあるときは、打上げ安全監理責任者又は保安主任(図−12)により作業の全部又は一部の停止が指令される。
 作業が停止され、打上げが延期される場合で、火工品結線解除、燃料・酸化剤の排出作業等が必要な場合は、安全を十分配慮した逆行スケジュールに従って実施される。

5.防災対策

 射場における事故等の防止のため、以下のとおり、適切な対策がとられている。

(1)防災設備の設置及び防災計画の作成

 警報装置(火災報知器等)、防火・消防設備(図−5)等の防災設備が設置され、火災検知、防犯警報等の情報は総合防災監視所等でモニターされる。
 また、防災のための機構内部規程が整備されており、防火、消防及び防護の設備については、危険作業の実施に先立ち十分な点検が行われる。

(2)荒天、襲雷、地震時等の対策

 ロケットの推進薬等の取扱い等危険作業実施中に「台風警戒報」又は「雷警戒報」が発令された場合は、作業が停止され、必要な安全対策が実施された後、安全な場所へ退避が行われる。
 「津波警報」が発令された場合又は地震が発生した場合は、状況により作業を停止し、応急措置が講じられた後、安全な場所へ退避が行われる。
 警報等解除後は、ロケット、衛星、施設設備等の必要な点検及び被害調査が実施され、安全が確認された後、平常作業への復帰がなされる。

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