4.GPM/DPRプロジェクトの事前評価結果

(1)プロジェクトの目的(プロジェクトの意義の確認)

 統合的地球観測という世界的な動きの中で大きな位置を占めるものとして、全球規模の水循環を高精度・高頻度で観測するため国際協力ミッションGPMが計画されており、GPM/DPRプロジェクトはその中核を担うものである。このGPM/DPRプロジェクトでは、降水レーダがコアとなる技術であり、我が国は運用中の熱帯降雨観測衛星(TRMM)/降水レーダ(PR)における多くの成果にみられるように、この技術について十分な実績を持ち、GPM/DPRではその技術をさらに発展させ、世界最高水準のレベルとしている。従ってこのGPM/DPRプロジェクトを成功させることによって、我が国はGPMにおいて中心的役割を果たすことができ、ひいてはGEOSSへ貢献をすることができる。更にその貢献を通じて、我が国の科学技術力を大きくアピールすることもでき、有意義なプロジェクトである。
 このGPM/DPRプロジェクトでは、「地球観測の推進戦略」の分野別推進戦略において示された基本方針や、運用中TRMM/PRユーザからの要望、衛星観測によるモニタリングデータの利用コミュニティからの要望等を踏まえ、以下を目的として計画されている。

 これらの目的は、国内の諸政策が求める衛星観測による水循環分野での地球規模変動の把握のために、全球における高精度・高頻度の降水観測データ取得が必要という要求を満たし、また我が国における多くの分野からの要望に応える形で明確な設定となっており適切である。

判定:妥当

(2)プロジェクトの目標

 上記の目的に対応した目標は、GPM/DPRプロジェクトのみで達成される目標と、NASA(ナサ)の分担分が正常に機能して達成される目標及び国際協力機関の分担が正常に機能して達成される目標に大別される。
 前者の目標について今回の評価対象としたが、これらの目標は、国際GPM計画に対するミッション要求を考慮し、国内の関連研究組織や国際間の調整結果に基づいて、対象とする物理量・計測精度等が具体的に成功基準として設定されており適切である。
 なお、後者の目標については、NASA(ナサ)が開発するマイクロ波放射計や他機関が開発する副衛星群が正常に機能することが必要となるため、今回の評価の対象範囲外ということで参考として示しているが、内容は実利用に深く関わるものであり、これらの目標の達成に向けて、処理アルゴリズム開発や地上設備等についても確実に開発していくものと期待する。

判定:妥当

(3)開発方針

 目標を達成するための開発方針としては、ミッション要求の達成および確実な開発が基本方針として挙げられ、更に信頼性の向上と、JAXA(ジャクサ)/NASA(ナサ)間の技術的要求の整合性に留意した開発が挙げられている。これらは、NASA(ナサ)のバス機器にDPRが搭載されるという本プロジェクトの特徴を考慮した開発方針であり、目標の達成に対し適切である。
 なお2つのレーダの内の一つ(KaPR)について、NICTが開発研究段階におけるシステムEMの製作・試験や送受信系のPFM用デバイス評価を担当し、JAXA(ジャクサ)が開発段階以降でのPFM製作・試験を実施するとの開発分担に特に留意し、NICT−JAXA(ジャクサ)間の連絡・開発体制の強化の方策が具体的に示されており、信頼性の向上を保つ意味からも十分な配慮がなされていると評価できる。
 また、NASA(ナサ)の衛星バスに搭載されるということによる技術的要求の整合性を図るため、インタフェースに関わる技術要求をインタフェース管理仕様書として制定しているが、継続してNASA(ナサ)との密接な情報交換・調整が必要である。
 なお、今後に向けた助言は以下のとおりである。

判定:妥当

(4)システム選定及び設計要求

 主衛星の共同開発にあたり、NASA(ナサ)が衛星バス・マイクロ波放射計の開発・追跡管制を実施し、JAXA(ジャクサ)がDPRの開発を実施し、打上げ費用を等分負担しつつH−2Aロケットによる打上げを実施し、データ処理を共同で実施する分担としている。
 DPRはTRMM/PRの技術を継承・発展させたKa帯とKu帯の2種類の波長を持つ2つの機器(KaPR・KuPR)から構成され、お互いのビームをマッチングすることで、高緯度での積雪や弱い雨から低緯度での豪雨まで、全球降水の高精度な観測を実現しようとするものであり、目標を達成するために妥当な構成となっている。また、DPRの信頼性の向上を図るため、全損となる単一故障点は極力避け、KuPRとKaPRのどちらか片方だけでも動作できるサバイバル性を確保する構成としており適切である。さらにTRMM/PRで開発実績のある機器・技術を活用すると共に、性能の向上や信頼性向上を図り、送受信系の新規デバイスの開発やシステム制御データ処理部等の設計を実施している。これら新規技術やクリティカルな要素については、フロントローディングとして設計解析や試作評価を実施し、実現性を確認しており妥当である。
 GPM主衛星の設計寿命については、ミッション目的やミッション要求の達成と、開発コストや衛星コンフィギュレーション上の制約を含む技術的な制約のトレードオフの結果から、設計寿命を3年2ケ月とし燃料は5年分を保証する量を搭載することが決定され、日米双方のプロジェクトサイエンティストも参加する日米共同作業部会、GPM国際計画ワークショップ、利用検討委員会において公表され、日米を含む世界中の研究者・利用者を含めて了解されている。この設計寿命については、TRMM/PRで長期間運用による成果が顕著であることから、GPM/DPRにおいて設計寿命をより長くするべきであるという意見があった。これらの意見を考慮し長期運用を可能とするようにNASA(ナサ)と調整することを期待する。
 地上システムは、DPRの観測立案、ミッションデータのデータ処理等の機能を持つミッション運用系システム、処理アルゴリズム開発や応用研究等の機能を持つ利用研究系システムから構成される。いずれも運用の低コスト化・信頼性の向上のため、既存のデータ処理システムの開発・運用における資産、培ったノウハウを活用すると共に、運用の自動化を最大限考慮することとしており適切である。

判定:妥当

(5)開発計画(資金計画、スケジュール、実施体制等)

 資金計画についてはTRMM/PRの開発実績や、NASA(ナサ)との費用分担を考慮すると概ね適切である。
 スケジュールについては過去に2回NASA(ナサ)の予算不足により打上げ延期した経緯があるが、NASA(ナサ)の来年度開発予算の状況や米国科学アカデミーからの遅滞無きGPM計画の実施勧告の状況を鑑み、再度の打上げ延期の可能性は極めて小さいとしているが、打上げの遅れや予算計画の変更等が起こり得るので、NASA(ナサ)との調整に留意が必要である。現在設定している開発スケジュールでは、打上げ2年前に衛星システム試験のためにNASA(ナサ)へのDPRの引渡しが要求されており、ステップを踏んだ開発方式と開発スケジュールを考慮すると、平成20年度からPFM用の部品製造に着手する計画は妥当である。
 実施体制については、プロジェクトサイエンティストがGPM/DPR計画全般に対する研究利用面からの提言・助言をおこない、GPM利用検討委員会はプロジェクトサイエンティストと連携をとりながら、ユーザからのミッション要求の検討や利用研究の検討を実施することとしている。JAXA(ジャクサ)はNICTの支援を受けてDPRの開発運用を実施し、NASA(ナサ)とインタフェースを明確にしつつGPMを共同で開発する体制となっている。また、衛星開発企業との開発分担としては、JAXA(ジャクサ)がDPRシステムに対する開発仕様を設定し、契約企業はその開発仕様を満足する設計と製造および検証をおこなうこととしている。この実施体制については、役割と責任の範囲などについて的確に明示されており妥当である。

判定:概ね妥当

(6)リスク管理

 リスク管理については「GPM/DPR総合プロジェクトリスク管理計画書」をまとめ、これに基づき管理をおこなうこととしている。外的要因が主となるものとして、NASA(ナサ)主衛星の開発遅延による打上げ延期、副衛星群の減少による降雨サンプリング誤差の増大や、H−2Aロケットの打上げ延期等が挙げられるが、ダメージが最小となるような対策を検討している。開発研究移行段階で識別された、新規部品や新規開発ソフトウェアについては、バックアップを検討した上で評価試験を実施するなど、フロントローディングによりリスクを低減することができており適切である。またリスク項目をカテゴリに分けた開発研究段階での処置に基づき、開発移行後の対応計画が比較的具体的に示されており適切である。

判定:妥当

(7)総合評価

 GPM/DPRプロジェクトは、地球規模の水循環メカニズムの把握に貢献するために、全球の降水を高頻度、高精度で観測するシステムを構築しようとするものであり、気象予報や洪水予警報等の現業分野への貢献が期待されることも踏まえると、極めて大きな意義を有している。
 今回の事前評価では、GPM/DPRプロジェクトの目的、目標、開発方針、システム選定及び基本設計要求、開発計画、及びリスク管理等について審議をおこなった。その結果、GPM/DPRプロジェクトについて、現時点で「開発」に移行することは妥当であると判断した。

 なお、GPM/DPRプロジェクトは、国際協力ミッションGPMの中核を担うものとして計画されており、降水レーダという我が国の優位な技術を活かし、GPM計画においてリーダーシップを発揮して大きな貢献をしていくことを期待したい。また、主衛星を共同開発するNASA(ナサ)との密なる情報交換・調整の必要性や、信頼性確保のための体制の強化等についても指摘があった。JAXA(ジャクサ)においては、これらの助言について今後適切な対応がなされることを望む。

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