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3− 7 異常発生のシナリオに対しての検証結果(まとめ)
 「みどり2」では、運用異常までに得られたテレメトリデータが限られているが、これまでの検証試験等の結果から、異常が発生したシナリオを推定した。

  (1) 太陽電池パドル電力ラインでの異常発生のシナリオ
 太陽電池パドル電力ラインでは、これまでの検証試験等からは、持続放電により1回路の開放または短絡が発生する可能性がある。約3分間で異常発生直前の62回路のうち51回路にも及ぶ開放または短絡に至る要因は確認されていないが、何らかの要因により開放または短絡が継続し他の回路に及ぶ可能性は、現時点では否定しきれない。

  (2) 太陽電池パドルハーネスでの異常発生のシナリオ
 「みどり2」は、打上げから運用異常が発生するまでの約10ヶ月間で、約4400回の熱サイクルを受けている。この間に、太陽電池パドルハーネスは、日照中にそれ自身の発熱により、高温時には許容温度(200ド)を超え、230ドまで上昇していた可能性が高い。このことを踏まえ、これまで行ってきた検証試験等から推定する有力なシナリオは、以下のとおりである(図2−3−13)。

1) 10月25日以前の事象
1 ハーネスの損傷
 ハーネスが高温となり固着することにより、被覆に損傷が発生する。
 なお、損傷がいつ発生するかという時期は特定できないが、かなりの回数の熱サイクルを受けた後に損傷が発生することが、検証試験で確認されている。
 一方、微小な宇宙デブリの衝突によりハーネス被覆が損傷した可能性は否定できない。

2 MLIとハーネス間のトリガ放電及びハーネス間の単発放電
 日陰中またはオーロラ帯通過時に、接地されていない太陽電池パドルハーネスのMLIが帯電し、その帯電したMLIと損傷したハーネス間でトリガ放電が起こり、放電プラズマが発生する。この放電プラズマを介して、損傷が隣接しているハーネス間で単発放電が発生する。
 トリガ放電、ハーネス間の単発放電が繰り返し発生することにより、損傷したハーネス間に炭化導電路が形成され、成長する。

2) 10月25日の事象
 運用異常が起こる直前の10月25日0時50分前後に、「みどり2」は、極域のオーロラ帯を通過している。

1 ハーネス間の持続放電
 「みどり2」が極域のオーロラ帯を通過する際、MLIが通常よりも多く帯電し、放電が起こりやすい環境となっていたと考えられる。なお、「みどり2」とほぼ同時刻に極域のオーロラ帯を通過したNOAA−17は、通常よりも2桁程度多い電子の流量があったことを観測している。
 MLIとハーネス間のトリガ放電及びそれに続くハーネス間の単発放電から、損傷したハーネス間にできていた炭化導電路を介して発熱を伴う短絡(持続放電)に発展した。

2 隣接ハーネスへの波及
 1組の損傷ハーネスが、持続放電による発熱により熱損傷し、開放または短絡に至る。また、熱損傷による発熱が隣接するハーネスに波及し、その被覆が熱損傷することにより生じた炭化導電路を介して発熱を伴う短絡が新たに発生し、ハーネスの開放または短絡が継続する。この事象が徐々にハーネス束全体に至り、大電力ハーネス束が開放または短絡した。
 なお、ハーネスの熱損傷により発生したガスがMLIから噴出したと仮定すれば、電力低下中に起きた「みどり2」の姿勢変動及び軌道低下も説明が可能である。

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