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3− 3. 電力伝送機能での異常発生の可能性についての検討
 電力伝送機能を有する太陽電池パドル系及び電源系サブシステムにおいて、異常が発生する可能性のある部位は、次のとおりである(図2−3−2)。
  a) 太陽電池パドル電力ライン
  b) 太陽電池パドルハーネス
  c) パドル駆動機構電力ライン
  d) パドル駆動機構接続ハーネス
  e) 電源系サブシステム
 なお、異常発生の可能性の検討に当たっては、故障モードを電気回路における開放(断線)または短絡(ショート)とし、故障を生じさせる要因としては、熱サイクル、振動、デブリ等の機械的要因、帯電・放電等の電気的要因、放射線、電子線、原子状酸素等の宇宙環境要因及び製造不良等が考えられる。
 このうち、宇宙環境要因については、運用異常時には、電力伝送機能に異常を引き起こすような大量の放射線や大きな磁場変動は観測されていない。また、製造記録等を確認した結果、異常は認められないことから、製造不良等に伴う異常発生の可能性は低いと考える。

  (1) 太陽電池パドル電力ラインで異常が発生する可能性についての検討
太陽電池パドル電力ラインで異常が発生する要因としては、機械的要因、電気的要因が考えられる。

1 機械的要因についての検討
 太陽電池パドル電力ラインでの機械的要因による異常としては、はんだ付け部とコネクタ部の破断が考えられる。
 はんだ付け部としては、太陽電池セル部、ブランケット間接続部(拝み部)、ミニブランケット部があり、そのはんだの破断が考えられる。これらの箇所におけるテレメトリデータに基づく軌道上予測温度は、すべてはんだ溶融温度以下である。また、太陽電池セル部及びブランケット間接続部では、熱サイクル試験において問題ないことを確認している。
 太陽電池パドルの機械的な破断については、3−1.(1)と同様に、可能性はないと考える。また、電力異常後においても、ブランケット部中央部の銅ハーネスで送られる信号線からのデータは正常に送信されており、断線していないことから、電力ラインのみの破断は考えられない。
 ハーネスとコネクタとの接続は、すべて圧着タイプのコネクタを使用しており、1系及び2系がほぼ同様に、パドルの機械的挙動に変化を現さずに破断した可能性はないと考える。

2 電気的要因についての検討
 太陽電池パドル電力ラインでの電気的要因による異常としては、帯電・放電による太陽電池セルと銅ハーネスの間の短絡、ブランケット間接続部における銅ハーネス接続部の開放または短絡、あるいは太陽電池セル間の短絡によるものが考えられ、それぞれが連鎖的に波及し、約3分間で異常発生直前の62回路のうち51回路の開放または短絡が発生した可能性は否定できない。

3 まとめ
 以上のことから、太陽電池パドル電力ラインにおいて、機械的要因によって異常が発生した可能性はないと考えるが、電気的要因によって異常が発生した可能性は否定できない。

  (2) 太陽電池パドルハーネスで異常が発生する可能性についての検討
 太陽電池パドルハーネスで異常が発生する要因としては、接続部での機械的要因と、太陽電池パドルハーネスの機械的要因、電気的要因が考えられる。

1 接続部における機械的要因についての検討
 太陽電池パドルハーネスの接続部は、コネクタにより接続されており、機械的要因による異常が考えられる。
 コネクタは、ねじ止めされており、5個のコネクタのうち電力低下分に相当する4個のコネクタが約3分間に順次、劣化または破損した可能性は低いと考える。

2 太陽電池パドルハーネスにおける機械的要因、電気的要因についての検討
 太陽電池パドルハーネスの異常が発生する事象としては、機械的要因、電気的要因によって、順次開放または短絡することにより電力低下が発生することが考えられる。前述のとおり、今回の電力低下の特徴は、約3分間に1系及び2系がほぼ同様に、約100ワットの倍数で、約6キロワットから約1キロワットまで低下したことであり、この発生電力の低下は、62回路が11回路に減少したことに相当する。
 「みどり2」の太陽電池パドルハーネスは、大電力ハーネス束と小電力ハーネス束の2つに分けられている。大電力ハーネス束には、1系と2系の両方の電力用のハーネス合計52回路(104本)及び信号線が束ねられ、小電力ハーネス束には、1系と2系の両方の電力用のハーネス合計12回路(24本)及び信号線が束ねられており、1.3.(2)で示したとおり、それぞれ接地されていないMLIで覆われている。
 発生電力については、3−2.(2)で示したとおり、異常発生前において、既に2回路分が低下していたと考えられている。この2回路のうち1系か2系か特定されていない1回路が小電力ハーネス束を経由した回路であり、大電力ハーネス束の51回路すべてが、約3分間で開放または短絡したと考えると、これまでに判明している現象と良く一致している。
 さらに、小電力ハーネス束には信号線も一緒に束ねられており、その信号線の信号に異常が見られない。信号線に異常がなく、電力ハーネスのみが開放または短絡する事象は考えにくいことから、小電力ハーネス束に異常が発生した可能性は低いと考える。

3 まとめ
 以上のことから、電力低下は、太陽電池パドルハーネスの大電力ハーネス束の異常により発生した可能性が高いと考える。

  (3) パドル駆動機構電力ラインで異常が発生する可能性についての検討
 パドル駆動機構電力ラインで異常が発生する要因としては、機械的要因、電気的要因が考えられる。

1 機械的要因についての検討
 コネクタは、ねじ止めされており、5個のコネクタのうち電力低下分に相当する4個のコネクタが約3分間に順次、破損する可能性は低いと考える。
 また、パドル駆動機構内のスリップリングとブラシの間の開放については、ブラシが冗長構成になっていること及びブラシブロックがねじ止めされていることを考慮すると、51個のブラシが、約3分間で順次開放に至る可能性は低いと考える。
 さらに、パドル駆動機構内部にはんだ付けを用いているが、テレメトリデータに基づく軌道上予測温度ははんだ溶融温度より十分低く、はんだが順次溶融した可能性は低いと考える。

2 電気的要因についての検討
 パドル駆動機構電力ラインが電気的要因により短絡する可能性が考えられる。しかし、テレメトリデータは、電力低下の発生と同時にパドル駆動機構内の温度も低下していることを示しているので、パドル駆動機構内の電力ラインが短絡した可能性はないと考える。

3 まとめ
 以上のことから、パドル駆動機構電力ラインで異常が発生した可能性は低いと考える。

  (4) パドル駆動機構接続ハーネスで異常が発生する可能性についての検討
 パドル駆動機構接続ハーネスで異常が発生する要因としては、ハーネスまたはコネクタ部における機械的要因と、ハーネスにおける電気的要因が考えられる。

1 機械的要因についての検討
 パドル駆動機構接続ハーネスの開放の可能性について、パドル駆動機構接続ハーネスは、複数のコネクタに分岐して接続されているため、51回路分のハーネスが約3分間に順次開放した可能性は低いと考える。
 パドル駆動機構接続ハーネスの短絡の可能性について、テレメトリデータは、電力低下の発生と同時にパドル駆動機構内の温度も低下していることを示しているので、短絡した可能性はないと考える。

2 電気的要因についての検討
 パドル駆動機構接続ハーネスは、MLIで巻かれているが、接地されているため、帯電及び放電が発生する可能性は低く、帯電及び放電によって発生電力が約6キロワットから約1キロワットに低下する可能性は低いと考える。

3 まとめ
 以上のことから、パドル駆動機構接続ハーネスで異常が発生した可能性は低いと考える。

  (5) 電源系サブシステムで異常が発生する可能性についての検討
1 機械的要因についての検討
 発生電力の低下及びパドル駆動機構の温度低下を示すテレメトリデータの事象に一致する電力系サブシステムにおける故障の要因は、シャント回路のブロッキングダイオードの開放が考えられる。ブロッキングダイオード開放故障の可能性として異常発熱が考えられるが、それらはアルミニウム合金製の台(シャシ)に並べて実装されており、仮に1つのダイオードが異常により定格ジャンクション温度上限(200ド)になっても、隣接するダイオードは最大7ド程度しか上昇せず、異常が波及することはない。また、ブロッキングダイオードの接続にはんだ付けが用いられているが、軌道上予測温度からは、はんだが順次溶融する可能性は低いと考える。
 なお、短絡故障の場合は、発生電力の低下とならずテレメトリデータと一致しない。

2 電気的要因についての検討
 ブロッキングダイオードのサージ電流特性は、図2−3−3に示すとおりであり、この電流値以下であれば故障には至らない。また、仮に上記の値を越えるサージ電流がブロッキングダイオードに流れた場合でも、使用しているブロッキングダイオードはメタロジカルボンディングで接合したタイプ(溶接タイプ)であるため、過大サージ電流の故障モードとしては短絡であり、この場合でも発生電力の低下とならずテレメトリデータと一致しない。
 また、シャント回路の1系と2系は独立の筐体であり、偶発故障により、それぞれのブロッキングダイオードで、1系及び2系がほぼ同様に約3分間で51個の開放故障が発生する可能性は低いと考える。

3 まとめ
 以上のことから、電源系サブシステムで異常が発生した可能性は低いと考える。

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