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3−3  燃焼ガス漏洩の原因の推定
3−3−1  燃焼ガスの漏洩箇所についての検討
(1) 故障の木解析(FTA)
 燃焼ガスのノズル部からの漏れを頂上現象とするFTAを行った結果は、図2−3−4に示すとおりである。
 ノズル部(モータケースとの接合部を含む)からの燃焼ガスの漏れが発生する部位としては、ノズル部を構成する部品(以下「構造部品」という。)と構造部品の結合部(Oリング部)が考えられる。
 ノズル温度1の温度上昇に着目すると、燃焼ガスが漏れる経路として9つの事象が考えられる。また、ノズル温度センサ1のノズルへの接着方法に着目すると、センサの外側から直接、水平または垂直方向から加熱される場合と、センサが設置されている部材側(内側)から加熱される場合が考えられる。

(2) 温度センサの加熱試験及びシミュレーション解析等
 燃焼ガスの漏洩箇所を検証するため、加熱実験及び燃焼ガス拡散のシミュレーション解析を実施した。

1) 各種電気配線の加熱試験
 後部アダプタ内の電気配線が燃焼ガスにさらされた場合、電気配線の絶縁劣化及び短絡までの時間を確認するため、加熱試験を実施した。
 この結果、電気配線の短絡故障までの時間は、電気配線毎に数秒〜数十秒でばらつくこと、電気配線の故障モードとして、最初に芯線とシールド間で短絡故障し、次に芯線間の短絡故障、そして最後に断線故障に至ることを確認した。
 本章2−2(3)で示した温度センサ等の異常事象については、この加熱試験の結果を基にしている。

2) サーマルカーテン温度センサの加熱試験
 サーマルカーテン温度センサの加熱率及び温度上昇開始までの時間を確認するため、サーマルカーテン温度センサの加熱試験を実施した。
 この結果、実際のフライトデータより得られたサーマルカーテン温度センサの温度上昇率(約6度/秒)を与える加熱率は、約13キロワット毎平方メートル程度であることを確認した。また、サーマルカーテン温度センサの温度上昇開始までの時間は、最大で0.4秒であることを確認した。

3) ノズル温度センサの加熱試験
 加熱方向によるノズル温度センサの加熱率及び温度上昇開始までの時間を確認するため、ノズル温度センサの加熱試験を実施した。
 この結果、加熱方向別に次のことを確認した。
 ・外側水平加熱 温度上昇開始までの時間は、約1.1秒。最大温度上昇率は、約15度/秒。
 ・外側垂直加熱 温度上昇開始までの時間は、約0.8秒。最大温度上昇率は、約1,000度/秒程度。
 ・内側加熱 温度上昇開始までの時間は、約0.2秒。数百度/秒程度の急激な温度上昇。

4) 燃焼ガス拡散のシミュレーション解析
 後部アダプタ内への燃焼ガスの漏洩が発生してから、サーマルカーテンの温度上昇発生までの時間を評価するため、後部アダプタ内における燃焼ガス拡散のシミュレーション解析を実施した。
 この解析結果から、燃焼ガスがノズル部から漏れた場合、2)の実験結果から確認されたサーマルカーテン温度センサの加熱率が約13キロワット毎平方メートルとなるのは、0.2秒以下であることを確認した。

(3) 燃焼ガスの漏洩時間についての検討
 実際のテレメトリデータより、ノズル温度1は、打上げ後約62.2秒から温度上昇を開始しており、サーマルカーテン温度は、打上げ後約63.0秒から温度上昇を開始している。その温度上昇を開始した時間の差は、約0.8秒である。
 実験及びシミュレーション解析結果から、燃焼ガスが漏れてからサーマルカーテンの温度上昇が開始するまでの時間を考える。サーマルカーテンの温度上昇から推測される燃焼ガス漏洩の開始時間は、シミュレーション解析による燃焼ガスの拡散時間約0.2秒と実験結果による温度上昇時間約0.4秒を加えた、約0.6秒が必要であることから、遅くても打上げ後約62.4秒であると考えられる。
 ノズル温度1の外側から加熱された場合、実験及び解析結果から、少なくとも温度上昇より0.8秒前(打上げ後約61.4秒)に燃焼ガスが漏れ始める必要がある。
 燃焼ガスの漏洩が発生する時間について、実際のテレメトリデータと実験及びシミュレーション解析結果からの推定を比較すると、少なくとも1秒以上の差があり一致しない。このことから、ノズル外側から加熱される可能性はないと推定する(図2−3−5)。

(4) 燃焼ガスの漏洩箇所についての検討(まとめ)
 加熱実験及び解析結果等から推定すると、燃焼ガスの漏洩箇所は、ノズル部の内側である。
 つまり、燃焼ガスがノズル内側からノズル温度センサ1を加熱し、その後、後部アダプタに漏洩・拡散したと推定する。

3−3−2  燃焼ガスの漏洩経路についての検討
(1) 故障の木解析(FTA)
 ノズル内側からの加熱を頂上事象とするFTAを行った結果は、図2−3−6のとおりである。ノズル内側から燃焼ガスが漏洩する経路としては、次の2つの事象が考えられる。
a)  ホルダB/アウタパネルの損傷による漏れ
b)  ホルダA/ホルダBの結合部からの漏れ

(2) 想定事象についての検討
 ホルダB/アウタパネルの損傷による漏れの想定事象としては、ライナアフトB2の表面後退、またはライナアフトB2とホルダA/ホルダB間の接着層より燃焼ガスがホルダBに到達し、ホルダBが溶融・破孔し、燃焼ガスが後部アダプタ内に漏洩することが考えられる。
 ホルダA/ホルダBの結合部からの漏れの想定事象としては、何らかの要因でライナアフトB2とホルダA/ホルダB間の接着層及びホルダA/ホルダB間の結合部に、燃焼ガスの漏れる経路が生成され、結合部のボルト孔、フランジ面から燃焼ガスが後部アダプタ内に漏洩することが考えられる。

(3) ホルダB/アウタパネルの損傷による漏れについての検討
 燃焼ガスがホルダBに到達する経路についての検証を行うため、サブサイズモータより小型の固体のモータを使用した加熱試験を実施した。

1) ノズル温度センサ1近傍でホルダBが加熱・破孔する場合
 ノズル温度センサ1近傍において、ライナアフトB2に表面後退が発生し、燃焼ガスがホルダBに到達し、ホルダBが溶融・破孔することにより燃焼ガスが漏洩することが考えられる。
 この事象を模擬した実験結果から、ホルダBが溶融・破孔した場合の温度上昇は、実際のノズル温度1の挙動と一致しており、本事象が発生した可能性が高いと推定する。

2) ノズル温度センサ1から離れた箇所でホルダBが破孔する場合
 ノズル温度センサ1から離れた箇所で、ライナアフトB2に表面後退が発生し、ホルダBが溶融するとともに、アウタパネル/ホルダB間の接着層が軟化し、燃焼ガスが漏洩する経路が生成され、アウタパネル端部から燃焼ガスが漏洩することが考えられる。
 この事象を模擬した実験結果では、ノズル温度センサ1から離れた箇所(65ミリメートル以上)では、アウタパネルの破孔及び接着層からの燃焼ガスの漏れは発生せず、ノズル温度の上昇もわずかであった。
 このことから、本事象が発生した可能性はないと推定する。
 なお、ホルダBの溶融・破孔を模擬した熱伝導解析の結果から、ノズル温度センサ1から40ミリメートル以内で加熱された場合、実際のノズル温度1の挙動と一致することが確認された。

3) アウタパネルが破孔する場合
 ノズル温度センサ1から離れた箇所で、ライナアフトB2に表面後退が発生し、ホルダBが溶融・破孔するとともに、さらにその破孔した部分でアウタパネルも破孔し、燃焼ガスが漏洩することが考えられる。
 この事象を模擬した実験結果では、約2秒間の燃焼ガスの噴射に対して、アウタパネルの破孔は発生しなかった。また、アウタパネルをあらかじめ破孔させた場合の実験でも、実際のノズル温度1の挙動と一致しないことが確認された。
 このことから、本事象が発生した可能性はないと推定する。

4) 接着層への燃焼ガス流入によりホルダBが破孔する場合
 ライナアフトB2とホルダA/ホルダB間の接着層に何らかの要因で燃焼ガスが漏洩する経路が生成され、流入した燃焼ガスによりホルダBが加熱され、ホルダBが溶融・破孔することにより燃焼ガスが漏洩することが考えられる。
 この事象を模擬した実験結果では、ノズル温度の上昇が小さく、実際のノズル温度1の挙動と一致しないことが確認された。また、ホルダA及びホルダBの熱伝導解析結果より、ホルダBに比べてホルダAが先に融点に達して破孔するため、ノズル温度1の温度上昇よりサーマルカーテンの温度上昇が早くならなければならず、実際のテレメトリデータと一致しない。
 このことから、本事象が発生した可能性はないと推定する。

(4) ホルダA/ホルダBの結合部からの漏れの検討
 何らかの要因でライナアフトB2とホルダA/ホルダB間の接着層及びホルダA/ホルダB間の結合部に燃焼ガスが漏洩する経路が生成され、結合部のボルト孔、フランジ面から燃焼ガスが漏洩することが考えられる。
 この事象を模擬(Oリングの欠損)した実験結果では、結合部からの燃焼ガスの漏れはなく、ノズル温度の上昇は微少であった。また、燃焼ガスが結合部から後部フランジ内に流入した場合の解析の結果から、想定される燃焼ガスの最大流量は、10グラム/秒程度であり、サーマルカーテンの温度上昇に必要な流量に比べ一桁小さいものである。
 このことから、本事象が発生した可能性はないと推定する。

(5) 燃焼ガスの漏洩経路についての検討(まとめ)
 燃焼ガスの漏洩を模擬した実験結果等から推定すると、燃焼ガスの漏洩経路は、ノズル開口部のライナアフトB2の表面後退により、ノズル温度センサ1の近傍(数十ミリメートルの範囲)のホルダBに燃焼ガスが到達し、その熱によりホルダBが溶融・破孔し、その結果、後部アダプタにまで通じたことによるものである。


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