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別紙3

国際宇宙ステーション(ISS)計画の今後の進め方について

1.  はじめに

  国際宇宙ステーション(ISS)計画は、日本、米国、ロシア、欧州、カナダの5極15カ国が参加する国際協力プロジェクトであり、人類として本格的に宇宙に活動の領域を広げていく大きな一歩となるものである。我が国がISS計画に参加し、有人宇宙技術の修得をはじめとする先端技術開発と宇宙環境を利用した科学研究等の活動を推進する貴重な機会を得ることは、国際的な貢献を果たしていくだけでなく、我が国の宇宙開発利用の展開にとって大きな意義を有する。この観点から、我が国はこれまで、日本の実験棟(JEM。愛称「きぼう」)の開発をはじめ着実に計画の進展を図ってきたところであり、今後とも、安全で確実なJEMの打上げ及び有意義な運用・利用の実施に向けて、計画を推進していく。
  一方、米国におけるISS計画の見直し、ISS利用の準備の進展と利用拡大・多様化への要請、厳しい国内財政事情、宇宙3機関の統合など、我が国のISS計画を取り巻く環境は近年大きく変化している。ISS計画は長い期間と多くの経費を要する計画であり、その推進に当たっては、安定かつ着実な実施とともに、状況の変化に適時的確に対応することが重要となる。従って、ISS計画の意義を踏まえその目標を達成するための取り組みを進めるとともに、近年の環境変化に対応し、我が国のISS計画をより効果的・効率的なものにする観点から、計画の実施にかかる検討を行う必要がある。

2. 計画検討の基本的方向

  米国におけるISS見直し検討に対しては、ISSでの活動が我が国をはじめとする参加各極の期待に応え得るものとなるよう引き続き要請するとともに、十分な国際調整を行っていく。これに併せ、我が国のISS計画に関して、以下の方向で検討を行う。

(1) JEMの確実な打上げに向けた準備
  我が国のISS計画のこれまでの進展を踏まえ、有人宇宙技術等の先端技術の着実な蓄積と宇宙環境利用の推進のため、米国をはじめとした参加各極における検討状況に対応しつつ、安全・確実なJEM打上げに向けた準備について引き続き着実に推進していく。
 
(2) JEM利用計画、運用・利用体制
  利用計画については、これまでの地上における研究や利用の準備の進展を受け、科学研究や技術開発等のそれぞれの分野において重点化を図るとともに、さまざまな発展可能性を確保し、利用の多様化を図るための検討を行う。また、我が国のISS計画を効果的・効率的に実施するため、運用・利用の体制について、民間活力の導入など、従来の枠組みにとらわれない観点より検討を行い、経費の削減とともに利用サービスの向上や柔軟性の確保を図る。
 
(3) スケジュール及び資金計画
  利用計画や運用・利用体制の見直し及び今後見込まれる状況の推移に対し余裕をもって対応するとともに、我が国の宇宙開発利用全体の整合性の中で資金規模の適正化を図るため、JEM打上げを含むスケジュール及び資金計画についても必要な見直しを行う。

3.  利用計画の見直し

3.1  基本的な考え方

  JEMを一層有効に活用していくためには、宇宙開発機関にとどまらない利用の拡大が重要であり、従来の宇宙関係の枠組み以外からのJEM利用への参加と財源の多様化について、積極的に促進していく。また、従来の宇宙開発利用としての取り組みについては、費用対効果の観点から利用計画の重点化を図っていく。

3.2  利用分野毎の重点化等の考え方

(1) 科学研究分野
  これまで研究コミュニティとの連携、科学利用の裾野の拡大を進めてきた成果を踏まえて選択と集中を行い、国際的に競える研究分野を優先的に実施して適時的確な成果創出を目指すとともに、国際的に高い評価を得ている科学観測を優先的に実施することにより国際貢献を目指す。
  当面の搭乗員3人体制による影響に対しては、研究領域毎もしくは装置毎の集中利用期間を設定し、実験及び搭乗員作業の効率化を図ることや、既存装置の自動運転機能、地上からの遠隔運用機能の活用などにより、これを軽減する方策を講ずる。
 
(2) 先端技術開発分野
  有人宇宙技術については、JEM等の軌道上検証を確実に行い、基盤技術開発の達成度を確認するとともに、JEM等を宇宙実証実験室として利用し、将来の有人宇宙活動に必要となる技術を開発・蓄積を図る。そのための目標設定とそれを達成するための道筋の作成を実施する。
  JEM曝露部を利用した技術開発については、当面は実験室としての機能の検証と技術データの取得に重点を置き、将来的には、JEM特有の実験環境を活用した先端技術の開発の検討を行う。
 
(3) 応用利用分野
  産業界や関係省庁によるR&D利用を促進するため、宇宙環境利用の有効性を実証するための取り組みを推進する。特に、ポストゲノム時代における蛋白質構造解析・機能解析のための蛋白質結晶育成の分野で、大きな需要が期待できるため、JEM利用に先立って継続的に宇宙実験の機会を確保して早期の成果創出を目指す。また、他の分野についても応用利用領域の開拓を進める。
 
(4) 一般利用分野
  従来取り組んでいる科学研究・技術開発利用に加えて、科学や技術に対する興味・関心を醸成したり、宇宙利用に対する新たな価値観の形成を促すような新たなISS利用事業を積極的に展開し、利用の拡大を図る。

3.3  利用の分野間の資源配分

  利用を効果的に進めるためには、「科学研究」、「先端技術開発」、「応用利用」、「一般利用」の各分野間の需要、成果を見極めつつ、重み付けや軌道上資源配分について、大枠を設定することが必要である。

4.  運用・利用体制の整備の方向性

4.1  基本的な考え方

  環境変化を踏まえ、計画をより効果的・効率的に推進するために、利用・運用体制を、サービスの提供者と利用者の切り分け、サービスの向上・柔軟性確保のための民間活力導入の観点より検討を行う。

4.2  利用分野毎の体制の考え方

(1) 科学研究分野
  新宇宙機関が、大学共同利用システムなどをその長所を活かしつつ活用し、関連機関と連携して推進できる体制を構築するとともに、研究コミュニティと連携して広範な研究の推進、育成及び多様な財源を確保する方策について検討する必要がある。
 
(2) 先端技術開発分野
  新宇宙機関が大学・研究機関・民間との効果的な連携を図りつつ、JEMを軌道上実験室として効果的に利用できる体制を構築する。
 
(3) 応用利用分野
  産業界及び関係省庁による宇宙環境利用を促進するため、当面は新機関がこれらの関係機関と連携(共同研究、共同プロジェクト)して宇宙環境利用の有効性を実証する取り組みを推進しつつ、産業界及び関係省庁の主体性を活かせる体制の整備と段階的な移行を図る。
 
(4) 一般利用分野
  民間の主体的な取り組みによる利用の分野については、利用機会を開放し、民間活力による体制を検討するとともに、教育等公的な取り組みを要する分野については、新機関が関係機関と連携しつつ実施する体制の構築を図る。また、民間利用促進のための適切な制度・枠組みについて検討する。

4.3  利用体制全体の課題

  各利用分野の目的を達成するため、それぞれの特徴を活かしたきめ細かな推進体制の整備、分野間の資源配分に関する総合調整のための機構の整備、新宇宙機関・関係省庁・大学・研究機関・民間との効率的・効果的な連携の実現について検討する必要がある。

4.4  JEM等のシステム運用体制の取り組み

  従来は、初期段階の運用・利用の終了後も、民間企業等の支援を受けて、定常段階の運用と利用推進をNASDAが引き続き実施し、JEMやHTVの運用を通じて、有人宇宙活動に係る技術の蓄積を実施することとしていた。今後、有人宇宙技術蓄積、JEMの有人安全、宇宙飛行士の訓練・認証・健康管理に係る業務等については、引き続き新宇宙機関が実施することとするが、定常化した運用業務については、確立した技術を段階的に民間に移転し、JEMやHTVの運用へ民間活力を導入することにより、JEMやHTVの運用の効率化、運用経費の削減を図る。

4.5  民間活力の導入

  初期運用段階終了を目途にJEM等の運用・利用への民間活力導入を図るべく、検討を開始する。検討に当たっては、民間の参画に当たっての事業性の評価を踏まえ、政府/新機関/民間企業の役割分担について整理するとともに、民間からの提案を積極的に受けつつ、作業を進める。

5.  スケジュールの考え方

  JEMの開発や運用・利用に向けた準備については、安全・確実にJEMを打ち上げ、軌道上検証が実施できるよう、これまでの進展と国際調整を踏まえ、引き続き着実に推進していく。
  一方、利用計画の重点化や運用・利用体制の効率化等を行うに当たっては、研究コミュニティとの調整や民間企業との連携等を含めて周到な準備を行うことが重要である。
  また、米国におけるISS計画の見直し検討等の今後の推移を見極めていくことも重要となる。このため、今後見込まれる状況の推移に対して余裕をもって対応可能となるよう、国際パートナーとの調整を踏まえつつ、JEM打上げを含むスケジュールに関して見直しを行い、計画の安定性と柔軟性を確保することとする。

6.  資金計画の考え方

  我が国のISS計画に関する資金規模に関しては、確実な開発や運用に向けた十分な資金の確保を図る必要がある一方、厳しい国内財政事情を踏まえ、我が国の宇宙開発利用全体の整合性の中で、適正化を図る必要がある。
  特に、定常運用経費については、国際パートナーと調整を図りつつ、利用計画の重点化や民間活力導入による利用・運用体制の効率化等を図ることにより、従来の試算からの大幅な削減に努める。

7.  今後の進め方

  我が国のISS計画については、今後、以上の考え方に基づき計画の確実な実施について検討を進める。
  米国におけるISS計画見直しの状況等を踏まえるとともに国際パートナーとの調整を進めつつ、今後、利用計画、運用・利用体制について1年程度をかけ、文部科学省及び宇宙開発事業団において検討を行う。なお、スケジュール見直しなど、予算への反映が必要な事項については早急に検討を行う。また、特に、利用計画の見直しに当たっては研究コミュニティとの十分な調整と意見の反映を確保するとともに、一般の国民に対して理解を得るよう努める。
  宇宙開発委員会は、検討の状況について、適宜報告を受けるとともに、その結果について、適切な時期に審議を行う。

 

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