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宇宙開発委員会

2001/10/22 議事録
第38回宇宙開発委員会議事録

第38回宇宙開発委員会  議事録

1. 日時  平成13年10月22日(金)14:00〜17:00
   
2. 場所  経済産業省別館8階825会議室
   
3. 議題
(1) H−2Aロケット試験機1号機の打上げ結果及び試験機2号機の準備状況について
(2) H−2Aロケット試験機2号機の打上げ及び高速再突入実験(DASH)に係る安全の確保に関する調査審議について
(3) 「我が国の宇宙開発利用の在り方」について
(4) その他
   
4. 資料
 
委38−1−1 H−2Aロケット試験機1号機の打上げ結果について
委38−1−2−1 H−2Aロケットワークショップの開催結果について
委38−1−2−2 H−2Aロケット試験機2号機以降への反映事項について
委38−1−3 H−2Aロケット試験機2号機の準備状況について
委38−1−4 H−2Aロケット連続成功への取り組み
委38−1−5 H−2Aロケット試験機1号機等のレビューについて
委38−2 H−2Aロケット試験機2号機の打上げ及び高速再突入実験(DASH)に係る安全の確保に関する調査審議について(案)
委38−3 (井尻先生  参考資料)
委38−4 第37回宇宙開発委員会議事録要旨(案)
参考 H−2Aロケットの打上げ前段階における技術評価について
(報告)(平成12年12月20日)
   
5. 出席者
宇宙開発委員会委員長   井口  雅一
宇宙開発委員会委員   川崎  雅弘
  栗木  恭一
  五代  富文
  澤田  茂生
文部科学省研究開発局宇宙政策課長   芝田  政之
   
6. 議事内容

【井口委員長】  定刻になりましたので、第38回宇宙開発委員会を始めさせていただきます。
  今回は二部構成になっております。前半が有識者の先生方に御参加いただいての拡大委員会、後半が宇宙開発委員だけで専門家の方から将来ビジョンについて伺うことにしております。
  本日は、有識者として、前宇宙開発委員会委員の秋葉先生、工学院大学学長の大橋先生、東大生産技術研究所所長の坂内先生、東京都立科学技術大学学長の原島先生に御出席いただいております。ありがとうございます。
  振り返ってみますと、6月19日に、きょうと同じ拡大委員会を開かせていただきました。宇宙開発事業団からH−2Aロケット試験機1号機の打上げ準備状況と、それまで例のなかったことですけれども、打上げ責任者を務められる山之内理事長さんから打上げに向けての決意のほどを伺い、有識者の先生方の御意見を踏まえて、宇宙開発委員会として打上げを了承いたしました。
  その後、御存じのように山之内理事長さんはじめ関係者の御努力が実り、8月29日に打上げに成功され、全国民に喜ばれたばかりでなくて、多くの海外の宇宙機関からも祝意が寄せられました。
  今回のロケットは試験機ですので、膨大なデータが得られております。その整理がこのほどまとまり、本日御報告いただく運びになりました。
  10日前の10月12日に東大の河野教授を座長とするワークショップが開かれまして、H−2Aロケットの評価専門家会合の主査を務められた東大の棚次教授ほか多くの専門家の評価を受けました。本日は、その評価結果を中心に御報告いただきます。また、数カ月後に迫っております2号機への反映事項についても伺いたいと考えております。
  それでは、御報告をお願いいたします。よろしくお願いします。

【山之内(宇宙開発事業団)】  それでは、冒頭、私の方から諸先生方へお礼を申し上げたいと思いますが、過日8月29日のH−2Aロケットの打上げが成功して本当によかったと思っております。このロケットは、私が関与した時間は短いんですけれども、平成8年ごろから歴代の当時の科学技術庁の方々、あるいは宇宙開発事業団の幹部、なかんずくきょうお見えの五代さんが御中心になってまとめられた、私どもの新参から見ても、少なくとも技術レベルとしては世界のトップレベルに到達したと思いますし、それがゆえに2回失敗が続いたというだけではなくて、ハイレベルなロケットの初号機の打上げという意味で大変緊張いたしましたし、エンジニアとしては、私のいた世界を含めて、トラブルということはあり得るのであって、トラブルを乗り越えて技術は育つと思っていますけれども、率直に申し上げて、今回、私どもが置かれた条件は、そんなことを言えないような理屈を越えたような状況になりました。そういうことはままあると思いますけれども、そういった意味で全力を挙げてまいりましたし、特に関係のメーカーの方々は甚大な御努力を賜ったと思います。
  結果がこうなったからではなくて、正直言って、打ち上げるときに今度はうまくいくのじゃないかというような感じを持っていましたけれども、こればかりはやってみなければわからないところです。やってみたら「エッ」ということが起きたことは過去いくらかありますので、そういう不安がなかったと言えばうそになると思いますが、非常によかったと思います。ただ単にロケットがクリティカルな状態だというだけではなくて、折から、予想もしなかったんですが、この種の特殊法人改革という時期にもぶつかってしまいましたし、日本の経済がこれほど産業競争力を含めて難しい状態になるとも思っていなかったものですから、すべてを含めて今回の打上げの成功はよかったなと。ただ、これを一回のラッキーにとどめてはいけないと思っております。これをある程度続けていきたい。そのためには、既にこれまでもいろいろな問題を御指摘いただきましたし、私ども自体、根本的な理論的解明と抜本的な手を打ったとは言い切れない部分が残っていると思います。それから、今回の打上げの過程においても、大変貴重な教訓なり改良点が残っておりますと同時に、やはりこのロケットをもう少しロバストといいますか、頑丈というか、鈍感というか、そういうものに仕上げていかないと、本当の意味の技術に到達したことにならないと思いますので、そういった意味ではこれは第一歩かなというふうにも思っていますので、今後とも是非よろしく御指導、御鞭撻を賜りたいと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございます。

【三戸(宇宙開発事業団)】  それでは、打上げ結果ということで、最初に打上げのビデオを御覧になっていただきます。

(ビデオ上映)

【三戸(宇宙開発事業団)】  それでは、1号機の打上げ結果を簡単に御報告いたしたいと思います。
  1号機の試験の目的及び結果ですが、目的といたしましては、標準型H−2Aロケットの静止トラスファへの飛行を行い、その機能・性能を実証するためのデータを取得することということで、結果の概要ですけど、2番目ですけど、一部、ごく一部ですけれども、データの欠落等がありましたが、ほとんどのデータが取得されまして、それを評価し、結果として2号機以降への課題を抽出いたしました。
  それから、ロケットの総合的性能であります軌道投入精度につきましても、ほぼ十分に満足できる結果を得ております。これは後ほど表でお見せしたいと思います。
  打上げシーケンスですけれども、打上げの大体の傾向といたしまして、まず1段の性能が若干、比較値内でしたけれども、低い性能でした。それによって1段の速度が100メートルほど足りなかったということで、2段の第1回燃焼で約17秒予定より長く燃えまして、それをキャッチバックしたということでございます。最終的には、LRE分離時においては7秒ほど時間がかかったということでございます。
  軌道投入精度ですが、ここに御覧になりますように遠地点、近地点、軌道傾斜角ともに目標値に近い値となっております。これは、例えば遠地点高度につきましては、最大の予測誤差はプラマイ180キロ程度を予測していましたけれども、実際には4キロぐらいだったということで、相当にいい精度だったと思っております。若干、近地点とか昇交点につきましては1σを超えていますけど、これにつきましては、もともとガイダンスの目標パラメータになっておりませんで、結局、時間が延びたということで近地点の位置がずれたということでございます。これにつきましては、衛星が乗っていますれば衛星がアポジ点で、そのときにアポジエンジンを噴けばいいわけで、特に衛星にとって、この手の誤差であれば困ることは一切ありません。
  ということで、データの取得はできたということで、軌道投入精度もよかったということで、我々としては満足いく結果だったと思っています。
  なお、そうは言っても、いろいろと2号機以降に反映する事項がありますので、それにつきましては以降で説明したいと思います。
  以上です。

【井口委員長】  それでは、次に河野先生からワークショップの開催結果について報告をお願いします。

【河野】  お手元の資料の1−2−1を御覧になっていただきたいと思います。「第2回H−2Aロケットワークショップの開催結果について」ということで御報告させていただきます。
  冒頭ではございますが、私、このたびの試験機1号機の打上げには心からお祝い申し上げたいというふうに思います。と申しますのは、我々関連分野に携わっている人間といたしましては、打ち上がるか打ち上がらないかということが我々の分野の浮沈にかかわっているものでありますから、これは是非次回も打上げに成功していただきたいと思いますと同時に、できるだけのことはお手伝いいたしたいというふうに思っているものであります。非常に厳しい応援団であるというふうに思っていただければと思います。
  このワークショップにつきましては、趣旨といたしまして、宇宙開発事業団から宇宙輸送関連の研究者や技術者に対し、試験機1号機打上げ結果、主要不具合及び試験機2号機ミッションについて報告していただきまして、技術的評価、助言を得るというのが趣旨でございます。
  座長といたしまして、私と久保田先生で分担いたしまして、本日報告にあるようなものをまとめさせていただきました。
  開催状況、平成13年10月12日、10時から16時。場所は芝パークホテル。出席者は、大学関係12名、関係機関30名、プレス関係9名、企業等32名、事業団から25名、合計108名の参加がございました。
  議論のまとめといたしまして、H−2Aロケット試験機1号機の打上げ結果及び準備段階で発生した主要不具合対策の状況についてのNASDAからの説明に基づき、技術的な質疑応答がなされました。また、メーカーから製造・品質に関する報告がありました。これによりまして、試験機1号機の打上げの成功として技術成果がまとめられ、課題の抽出及び試験機2号機への対応について整理がなされたものと評価いたしております。
  試験機2号機以降に反映すべき主な事項につきましては、そこにございますような11項目がございます。これは、これらのうち重要なものにつきましては、後ほど事業団の今野さんから細かい説明をされることになっております。
  まず1番目といたしまして、固体ロケットブースタ/コア機体の結合機構の応力緩和、それから第1段液体水素タンク加圧系統に発生した圧力脈動の抑制、3番目といたしまして、第1段エンジンの燃焼室圧力計測用センサポートの氷結対策、フェアリング内の音響環境への対応、フェアリング分離時に発生したコンタミネーションの低減、第2段液体水素タンク内に発生した液面貫入の抑制、第2段エンジンを発生源とした機体振動への対応、8番目といたしまして、第2段搭載機器の温度環境への対応、コンタミネーション混入防止に関する品質確保の徹底、射場作業におけるISOの徹底、飛行安全計算機の信頼性向上でございます。
  なお、試験機2号機については、ミッションとその準備状況についてNASDAからの説明が行われまして、飛行実証技術すべき事項及びミッションにつき十分理解を深めたということでございます。
  所感といたしましては、今後予定されている新型インデューサとSSB搭載の試験機2号機打上げに向け、試験機1号機の経験を踏まえ、さらに一層慎重に取り組むとともに、試験機1号機の成果から抽出されたさまざまな課題に関するメカニズム究明を継続し、H−2Aロケットの信頼性及び品質の向上に一層努められるように希望いたします。
  以上でございます。

【井口委員長】  引き続いて、今野さんが説明してくださいますか。お願いします。

【今野(宇宙開発事業団)】  H−2Aロケットの試験機2号機以降の反映事項について御説明いたします。
  まず、我々、2号機以降の反映事項を抽出するに当たりまして、試験機1号機のデータを評価したわけですが、そのときに我々が非常に重きを置いたのは、仕様なり規格にデータが入っているということだけではなくて、我々がフライト前に、今回のフライトはこういう予測になるだろうと、いろいろなところを予測しました。それで、それらの予測に対して、今回のフライトデータが一致しているかどうかという観点で見まして、それで一致していない場合にはなぜなのか、それでどうすべきかということを検討いたしまして、反映事項を抽出いたしました。
  次、お願いします。
  件数が11件ございますので、各件で1件ずつぐらい、その特記事項を御説明したいと思います。
  これは固体ロケットブースタのシステムでの特記事項、問題点でございまして、固体ロケットブースタの分離機構にございます、下段の後方ヨーブレス、そこに加わる荷重が予測よりも非常に大きかったということです。それで、結果的には強度余裕でカバーしたわけですが、実際にこういう歪みを計測したところ、リフトオフ後45秒付近において圧縮歪みが約800ミクロンと、当初予定を大きく上回っております。それで、この歪みを発生する荷重があるわけですが、予想外に大きかったのが、後方ヨーブレス、機体の近傍にあるブレスに直接空力的な動圧がかかって、それによる曲げモーメントが発生するという部分の歪みが予想をかなり大きく上回っていました。それで、その成分はこの半分以上を占めるということでございまして、これについては、対策といたしまして、荷重条件を再設定して強度余裕を拡大するということでございまして、実際には分離部分のところが荷重的に一番きついわけですが、そこを機体のコア側に寄せまして、曲げモーメントに対する荷重を低減するという設計変更を実施いたします。
  次、お願いします。
  これは1段推進系でございまして、1段推進系の液体水素のタンクを加圧する系統で、このタンクの加圧の制御は、バルブを全開と中間の開度にオン・オフ的に開閉いたして、水素タンクの圧力をコントロールしております。その流量制御電磁弁の、こちらが中間開の状態で、こちらが全開の状態です。それで、大流量、小流量というぐあいに流量を切りかえて圧力を制御しているわけですが、小流量の時点で、この辺に大きな脈動が見られるということです。圧力変動が見られるということで、実はこの圧力変動は、地上で推進系の試験を実施しております。CFTとか、BFTとか、そういうときにも時々あらわれたり、ほとんどなかったりという現象が既に出ております。そのときには、この脈動の絶対量がかなり小さいということと、あらわれたりあらわれなかったりするという現象がございまして、このままでいいだろうという評価をしておりました。ところが、実際にフライトしてみますと、エンジン燃焼作動中にずっとあらわれるということと、地上で経験して予測していたよりもかなり大きい変動になっているということで、これについては対策を打つことにしました。
  それで、実際に原因をいろいろ検討して、フライトデータの原因、それから、10月初めごろ、試験機2号機用の改良インデューサを取り付けました水素タンクポンプを使った燃焼実験をやっておりまして、それらのときにも実際にデータをとりまして、原因を突きとめました。原因は、このバブルの上流、流量制御弁の上流にチェックバルブがございますが、このチェックバルブと流量制御弁間の機中の振動が共振してチェックバルブが振動している。それで開閉しているために、こういう圧力脈動が出るということでございまして、実際にチェックバルブの位置をかえて、配管の長さを変化させることによって振動数をずらすということで対策をとりまして、実際にさきの18日に燃焼試験を実証しましたところ、この脈動がきっちりおさまっているということを確認しております。そういう対策を2号機にとる予定です。
  次は、フェアリングの分離時に発生したコンタミネーションでございまして、これについては、1つは、ここにOリング状のシールが出てきたということと、もう1つは、いわゆる白い粉が出てきたということでございます。これについては、実際にフェアリング内部のコアの中の水分と接着剤の一部が出てきたものと推定されまして、これについては実際にコアについては空気が出ないように密封のパッティングをするということで、それから、シールについても接着を強化するということです。
  次に、2段推進系。2段推進系については、エンジンの燃焼圧力の変動が実際に、これは地上で計測されたものと同じぐらいありました。それで、これの問題にしているのは、ペイロードに対する軸方向の加速度が地上でステージ燃焼試験、推進系とあわせて試験をやった時点よりも、予想よりも大きなものになっているということで、これについても、まずは何らかの対策をとらなきゃいけないのではないかということでございまして、一次検討といたしましては、まずペイロードを載せて、機体自身とカップリング解析をして、いわゆる35ヘルツ帯の周波数の加速度振動になっているわけですが、それの影響を評価するということを計画しております。
  次には地上システムの問題点といたしまして、地上システムで飛行安全システムというものがございますが、それが安全上重要だということでございまして、2系統の系統を使用しております。その1系統のものが、いわゆるコンピュータがダウンしたということでございます。この飛行安全システムは、ロケットとは別に地上系でロケットの経路を追尾いたしまして、それで所定の軌道からずれて他に危害を及ぼすようなおそれのある場合には、実際にエンジンを停止するとか、ロケットを破壊する指令を出すとかいうものでございます。
  それで、実際の不具合現象は、前に戻っていただけますか。いわゆるリフトオフ後450秒で飛行安全用の計算機が処理を停止しました。それで、その後いろいろ調査をやった結果、原因といたしましては、飛行安全計算機No.2の系統で、メモリスワップか、またはタイマーの管理タスクの異常動作によるタイムアウト信号が発生しております。それで、このタイムアウトの発生による復帰処理の完了直後にメモリの不正参照という事態が発生いたしまして、そういう現象で処理が停止いたしました。
  それで、対応でございますが、計算機メモリの増設と、このロジックのソフトウェアの修正を行った上で、最終的に総合動作の確認を行うこととしております。それから、ソースリストの上で、同じようなソフトウェアに関して総点検を実施して、類似する不具合要因を根絶する予定でございます。
  それから、飛行安全システムは非常に重要なシステムでございまして、安全にかかわるものということでございまして、一応、二重系をとっているんですが、両システムは、どちらかというと同じシステムであるということでございまして、さらに万全を期すために、ハードウェア、ソフトウェアとも可能な限り現行の計算機と異なった別系統のシステムを整備する計画です。
  以上です。

【井口委員長】  ありがとうございました。
  少々長引きますけれども、報告を先に済まさせていただきます。
  次に、H−2Aプロジェクトマネージャの渡辺さんからH−2Aロケット試験機2号機の準備状況について5〜6分で御説明いただきます。

【渡辺(宇宙開発事業団)】  2号機の準備状況の説明をいたします。
  2号機の目的ですが、1号機同様、標準型ロケットを打ち上げまして、その機能・性能を実証するためのデータを取得するということが1点。それから、今回は民生部品・コンポーネント実証衛星と高速再突入実験機を所定の軌道に投入するというのが目的です。
  標準型ロケットについては、違いは次のページで説明いたしますが、打ち上げる軌道、MDS−1を分離したときの軌道予想を書いておりますが、標準的なトランスファ軌道よりはちょっと遠地点が低いというもの、また、近地点が少し高めという特徴がございます。
  次のページ。1号機、2号機、並べて書いてありますが、違いは、重要な点は3点です。右にありますように、第1番目は衛星フェアリング、これが人工衛星を2機搭載できるコンフィギュレーションのものです。また、詳細が別紙にそれぞれございますので、御覧いただきたいと思います。
  2番目の違いは、固体補助ロケットブースタ。これは、標準型ロケットには2本ずつ2セット、最大で4本搭載できることになっておりますが、2号機では、その4本、フル装備で打ち上げる計画にしております。
  それから、3番目が改良型インデューサ。これは宇宙開発委員会の専門家会議等でいろいろ御検討いただいた結果ですが、インデューサの改良を進めておりまして、それが開発が完了いたしましたので、2号機から採用するということでございます。
  飛行実証する技術、これも1号機のときと同じように区分分けし、横軸には技術ということで区分されておりますが、分けて書いてございます。このブルーのところは、1号機でもデータを取得し、評価をした部分ですが、2号機で新しい部分は、この白いところ、フェアリング関係、フェアリングが2機同時打上げ用のシステムになっているというところ、それからSSB、小型のロケットを搭載すると申し上げましたが、これは2本ずつペアにして燃焼させます。あそこに書いてあるようなシーケンスで燃焼させて分離をいたします。
  次、これは画像取得計画ですが、1号機と比べまして、カメラの数を1つ増やして5台搭載しております。数が増えたのは、衛星を2個搭載できるようになっておりまして、それぞれ部屋が区切られておりますので、カメラの数を増やさないと、それぞれの動作状況が撮影できませんので。
  それからもう1つ違いは、1号機ではこのカメラ、2段の上に搭載してありまして、1号機では水素タンクの中を撮影しておりましたが、外側を撮影できるように位置を変えて、ここについておりますSSBの分離状況を撮影する計画にしております。そのほかは1号機と同じ考え方です。
  性能確認用ペイロードですが、性能確認用ペイロードは上のセグメントの上部フェアリング用搭載アダプタの上につけております。質量は33キログラムで、1号機のときと同の環境計測センサを積んでおります。測距装置は今回積んでおりませんが、それは衛星の軌道決定データから得られるということで、VEPそのものには測距装置は搭載しておりません。
  次、お願いします。
  これは高速再突入実験機、DASHという略語で呼んでおりますが、宇宙科学研究所が開発を進めているものでございます。NASDAとは共同研究契約が結ばれておりますが、質量が90キログラム、いわゆるピギーバックペイロードですが、約7周、3日間、静止トランスファ軌道を周回した後、軌道離脱用の固体モータに点火して軌道を離れ、再突入いたします。再突入の後、パラシュートの開傘によってカプセルは地上へ緩降下しますが、その緩効降下の際にテレメータデータ、データを再生して地上に受信します。また、回収地点はアフリカの中部の砂漠地帯を予定しております。
  こういう非常に高速で突入するということで、惑星などからのサンプルリターン等のミッションで必要になる技術の実証を行うという目的でございます。
  次、お願いします。
  これはMDS−1の諸元ですが、今では小さな数値ですが、質量が480キログラムになっております。約1年間のミッションがございまして、静止トランスファ軌道で実験をいたします。
  次のページをお願いします。
  このMDS−1は、ミッション実証衛星というシリーズの、「−1」がついているのは1号機ということですが、小さな衛星でさまざまな実験をして、今後の衛星開発等に当てようという目的ですが、その1号機は、民生部品・コンポーネント実証衛星という名前になっております。名前のとおり、目的は民生部品、主として電子部品ですが、耐放射線データ等を取得し、宇宙適用のための地上評価技術を検証する。この打ち上げた部品そのものの認定というような趣旨ではなくて、それを地上で評価するための技術の検証ということでございます。そのほかにデータレコーダ、並列計算機システム等のコンポーネントの小型軽量化のための実装技術等を軌道実証するというような目的もございます。3番目はお読みいただけたらと思います。
  次、お願いします。
  これが搭載されている機器の概要ですが、御覧いただきたいと思います。
  次、お願いします。
  ロケット側の予備的な実験ですが、この打上げ機会を利用して、再々着火の予備的な実験を実施いたします。1号機では、再々着火までは実施しませんで、着火の直前のエンジンのコンディショニング等まで実施いたしましたが、もう一歩進めて今回は点火することにしたいという計画でございます。着火時刻は、発射後6,000秒、残っている推進薬を全部機外に排出するという目的も兼ねて実施いたしますので、すべてが公称値であれば51秒間の燃焼という予測になっております。
  こういった実験結果を総合して、MTSAT−1Rのときに行います実験に資することとしております。
  次、お願いします。
  これは機体の準備状況ですが、フェアリングは、現在、工場にて最終組み立て整備作業を実施中です。1段機体、2段機体は飛島工場で、これも最終的な機能点検を実施しております。搭載機器、エンジンなどは既に機体に装着されております。固体モータは、来週からはすべて種子島にそろうことになっておりますが、現在は富岡のIA社の工場と種子島に分散した状態になっておりますが、ステータスとしては、最終段階の整備作業、機能点検という状況でございます。
  次をお願いします。
  ここからは別紙ですので、簡単に御覧いただきたいと思いますが、二次打上げ用のフェアリングですが、H−2のときにもこういう二次打上げフェアリングというのはあるわけですが、新しいのは、この下側の部分もフェアリングが割れる形状になっている。これが新しいわけですが、ここに使われている技術は、上の切断機構等と同じものですので、技術としては新しいわけではないと考えておりますが、システムとしては新しい形態になります。
  次、お願いします。
  これは固体補助ロケットブースタの概要を示したものです。これはアトラスなどで使われているものですが、それの推進薬量を増やした開発が行われました。それを日本のH−2Aに適合するように改修いたしまして採用したというものです。主な変更は、指令破壊系を新たに追加したり、あるいは機体との取り付け位置を変更したりということ、それから、スロート材を3D C/Cに変更している。こんなところが大きな変更点でございます。
  次、お願いします。
  これはインデューサの改良ですが、非常に大事な点だけ1〜2点申し上げますと、入り口の径を小さくして、推進薬量は同じですので、入ってくる流速を速くしたということです。それから、入り口の羽根の角度も変更いたしました。
  この結果が次のページにございますが、いくつかの改良点があります。わかりやすいところを1つだけ説明させていただきますと、これは縦軸が揚程係数、横軸がNPSHですから、入り口の圧力などと考えていただいていいと思いますが、従来型ですと、実際使われる範囲より下ではありますけれども、急激に揚程が低下するという特性がありましたが、改良型は、そこが非常になめらかな特性になっているというものでございます。揚程としてはちょっと下がっておりますが、これはインデューサ単体でのことで、ポンプ全体としますと、この低下は全く問題にならない。ネグリジブルなものでございます。
  説明は以上です。

【井口委員長】  続きまして、三菱重工エンジン機器技術部長の松井さんに、企業における品質保証に対する取り組みについて御報告をお願いいたします。

【松井】  本日は、「H−2Aロケット連続成功への取り組み」という題で御説明をさせていただきたいと思います。
  一番最初に、皆様のおかげさまをもちまして、初号機成功できたことを非常に感謝しております。ただ、我々にとりましては2号機、3号機といった連続打上げが今後とも必要だということで、これは日本の宇宙にとって非常に重要な課題であるというふうに認識しております。
  今回の打上げに対しまして、我々、コンタミの問題等、いろいろな戦訓を残す不具合を経験いたしました。これにつきまして、いま一度再点検を実施しまして、H−2Aの品質安定化のために万全を尽くそうと思っております。きょうは、その一端を御説明させていただきたいと思います。
  次をお願いします。
  ここに示しますのが、我々が経験いたしました主要不具合でございます。まず最初がノズルスカートの浸食ということです。これは記憶に新しいかと思いますが、ノズルスカートのロー材の厚塗りをしたために腐食が発生したという点でございます。
  次、お願いします。
  2番目がLOXタンク加圧配管のベローズの破断ということでして、これまでも燃焼試験中に流体の励起振動によりましてベローズが破断したということで、このときは励起振動の強さの計算の精度が十分でなかったという点と、もう1つはベンダーの中で行われておりました軸関係、製造の軸関係の変更管理がうまくいっていなかったという点が反省事項でございました。
  次、お願いします。
  3番目が、これは今回の打上げのさなかに起こったことで記憶に新しいかと思いますが、流量制御弁コンタミ浸入によります作動不良というのが起こっております。
  次、お願いします。
  これは流量制御弁でございまして、流量制御弁に入っていますフィルターの部分でコンタミが発生しまして、最終的にバブルの作動不良に至ったという問題でございました。
  次、お願いします。
  最後が、配管の洗浄不良ということで、これも横浜ゴムの方で製造いたしました配管関係がうまく洗浄ができていなかったという点で、これについても非常に大きな反省事項であろうと思っています。
  対策としましては、今申し上げました4つにつきましては完璧な対策が持てるかというふうに考えておりますが、共通する問題という観点で、我々はもっとやらなくちゃいけないことがいっぱいあるというふうに考えております。
  次、お願いします。
  現在、その対策のための一環としまして、まず社内でやること、社外でやること、2つに分けました。社内の製造の確実化という点につきましては、昨年来、1号機でもやりましたが、2号機、3号機につきましても特別体制で臨みたいと思っております。その1つが製造工程への設計者の張り付けということで、これは現在、工場の中で製造しておりますものすべてにつきまして設計者がべったり張り付いて製造を見るということをやっています。これによりまして、製造が意図したものができているかどうかということをモニターしていきたいというふうに考えております。2番目が現品の確認ということで、やはり物だということで、これは設計、研究、工作、品証といった主要メンバーが集まりまして、現物で確認するという作業を要所要所でやっております。それから、それらをすべて網羅した形でトップマネージメントとのミーティングということで、うちの場合には所長ないしは所長室員とのミーティングを朝7時45分から毎日やるというようなことをやっておりまして、昨日やったもののこういったものの確認であるとか、不具合が起こっている場合には、それに対してどう対応するのかといったものを逐次決めるという作業を去年の12月から始めまして、現在もずっと続けております。
  次、お願いします。
  それから、もう1つは特別重点施策ということで、我々が現在、最大に注意を払っているものがございます。1つがコンタミの防止、1つが購入品の品質改善と品質安定化といったこの2項目でございます。
  次、お願いします。
  まず、コンタミの防止。先ほどのバルブの作動不良等も、こういったような問題から発生していますが、作業内容としますと、大きく2つございます。その1つが、コンタミの影響度とそのポテンシャルといったものを再評価しようということで、どこの部分がどれだけコンタミに弱いか、そこに対して徹底的にちゃんと防御策が打たれているかどうかといったようなものを社内及びベンダーの工程を総ざらいすることによって洗い出し、手を打とうという作業をやっております。それからもう1つが、清浄度の要求を見直ししようということで、清浄度の要求そのもの、例えば10ミクロン以下のものがあってはいけないといったような清浄度の要求と、実際にその下流にあるものの能力等が合っているかどうかといった問題、それから、そういったものを保証するするような設備になっているかどうかというような点、さらには人間的な問題としましてモチベーション、それだけクリティカルなものを扱っているという認識を皆さんがやっていただいているかどうかという点を総ざらいをしております。
  次、お願いします。
  もう1つは購入品の品質改善と安定化ということでございます。「Make or Buy」と申しますのは社内の用語でございますが、何を買って、何を社内で作るかという点でございます。これは、往々にして重要なものが社外に出ていって、そこの部分で管理がうまくいっていないというように見受けられますので、もう一度、機能上重要なものを内製化するといった観点で、だれが作って、社内で何をやらなくちゃいけないかということを再検討しよう。さらには、ベンダーの中での孫請、ベンダーからさらに下におりていったときの、そういったような工程がちゃんと確立しているかどうかといったような点ももう一度再精査しようというようなことを現在行っています。言うに及ばずベンダー自身の管理という意味では工程を確認すること、これも先ほどの設計、工作、品証といった人間が全部立ち会って、初回検査並みのことをもう一回全部やり直そうといったような作業をやっております。さらに、そういったものをベンダーに要求した後に、我々自身も受け入れるときにちゃんとした検査をやって受け入れるといった、最後の歯止めということなんですが、これについても受入れ検査のあるべき姿ということをもう一回見直ししようということを現在やっております。
  次、お願いします。
  以上申し上げましたものが、こういったようなスケジュールでやっておりまして、2号機、3号機にこういったようなものが有効になるような形で作業をしております。
  次、お願いします。
  最後でございます。今後の課題ということで、現在、NASDAさんの方にもこういったような御指示をいただいていることもありまして、2つ検討を進めております。まず1番目が、コンポーネントに対しまして定期的に再審査、いわゆるQTの一部やり直しみたいなことをやっていかなくちゃいけないのじゃないか。だんだん品質が落ちていくのをこういったもので歯止めをかけなくちゃいけないということでございます。設計、研究グループ、工作、品証といったもので再審査を再実施するような機会を設けたいというふうに考えております。さらにエンジン全体のレベルにつきましては、商業化に移行するということで、量産に向けまして信頼性がちゃんと持続していかなくちゃいけないということでございまして、領収燃焼試験をするといったことだけではなくて、エンジンレベルでの再認定試験を一部なりともやらせていただきたいという御提案をさせていただいております。
  一応、以上でございます。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  報告の最後になりますが、H−2Aロケット評価専門家会合の主査を務められました棚次教授に、H−2Aロケット試験機1号機等のレビューの結果を御報告いただきます。

【棚次】  それでは、専門家会合としまして、1号機等のレビューについて報告いたします。
  趣旨はそこにありますようなものでございまして、打上げ前段階において我々が指摘しました事項の検証の観点から、打上げの結果及び2号機への変更点等をレビューいたしました。ワークショップに参加しまして、その後、2〜3時間、ワークショップの補足説明を受けた。これをもとにしましてレビューを行いました。ワークショップを開催された後、1週間程度ですので、打上げ前段階における技術評価のような詳細な評価は行えませんでしたが、一応、打上げ前段階に挙げられた各評価項目について、打上げ結果及びその対策及び試験機2号機の打上げに向けた変更点等を考慮して評価表は作製しました。
  評価表は後ろについておりますので、ここでは御説明しませんが、要約だけを行いたいと思います。
  その後、ワークショップ等で新たに気づきました項目についてもコメントを行いました。
  「なお、」のところにも書いてありますように、詳細な事後評価につきましては「宇宙開発に関するプロジェクトの評価指針」(平成13年7月制定)に基づきまして、別途評価が行われることを期待いたします。
  評価のレビューに参加していただいた専門家会合のメンバーは、そこに挙げられた方々であります。
  レビューの項目でありますが、ワークショップ、あるいはその補足説明に基づきまして、専門家会合各自が気づいた結果をまとめたものであります。
  レビューは、主に次のような観点から行いました。
  打上げ前段階において助言しました事項に対しまして、試験機1号機の打上げで得られたデータの解析結果、1号機から2号機の変更点、特にインデューサ変更点と、打上げ後に行った試験解析、シミュレーションと試験機1号機打上げの結果との比較ということであります。
  まず最初に、打上げ前段階において助言しました主な事項に対するレビューです。
  4項目ありまして、ロケットシステム全般、誘導制御系、機体構造系、そしてエンジン推進系でありますが、順次、時間がありませんのではしょって行いますが、ロケットエンジンシステム全般については表1−1にまとめてあります。全般的には、飛翔1号機が正常に飛行したことは致命的な問題がなかったことを示しており、作業手順は適切に実施されたと推測され、評価できると思います。それから、受け入れ検査等についての改善の姿勢も評価できると思います。それから、当分の間はコスト削減よりも信頼性向上に重点が置かれるものと思われますが、打上げが順調に進むとコスト削減とのバランスが問題になると思われますので、今後も両者のバランスには慎重に検討が行われることを希望いたします。
  制御系につきましては、試験機1号機において正常に機能が発揮されたことは致命的な要因がなかったことを示しており、評価できる。特に推進性能の分散を補った点は、飛翔外の検討範囲が適切であったことを示していると思います。長期的にはポストフライト解析の繰り返し、積み重ねが問題点の排除につながると考えられますので、飛翔データで十分な検討が行われることを希望します。故障診断、自己診断機能は特殊な条件下で作動するものでありまして、その発現の様態は多様であります。かつ正常時には機能しないため、その機能の健全性を飛翔によって確認することはかなり難しいと思いますので、これについても十分な検討がなされることを要望します。
  それから、機体構造系につきましては、評価表1−3に示してあります。特に我々、飛翔前段階で指摘しましたのは3点でありまして、SRB−A点火時の機構の挙動、SRB−A分離システム、SRB−A及び第2段の電動アクチュエータ、この3点について我々は指摘しましたが、SRB−A点火時に行った地上機器による部材歪み計測の結果より、すべての機構部品は正常に機能したことが示されていると思います。SRB−A点火時の機構挙動は部分試験を積み重ねた評価を行ってきましたが、結合分離を装着した地上燃焼試験はできなかったため総合確認ができなかったということがあります。今回の飛翔において初めて全体挙動が測定できたものであります。その結果、同様の計測を今後も継続実施されることを強く進言いたします。SRB−A分離システムでありますが、分離システムは正常に機能いたしました。結合部材歪みデータから飛翔時の挙動が明らかにできたことは特に高く評価できると思います。後継機においても同様のデータを蓄積することを進言いたします。また、長期的にはロバストなシステムを採用する検討を続けることを希望いたします。それから、SRB−A分離時に発生する機体の擾乱の影響に関しては、今回は特段の問題はなかったと思いますが、引き続き飛翔データへの注意を払うことを希望いたします。それから、SRB−A及び第2段の電動アクチュエータにつきましては、リフトオフ直前の揺動確認並びに飛翔中の挙動は正常であったと理解しております。それから、SRB−A及び第2段の電動アクチュエータの電力供給は、SRB−Aにおいて問題はなかったと思います。
  それから、エンジン推進系でありますが、評価表は1−4に示してありますが、ここではLE−7AエンジンのFTPインデューサ、これが今回極めて大きな問題でありますから、試験機1号機の飛行においてLE−7Aエンジンの作動点をFTPインデューサがより余裕をもって運転できるよう配慮したことで、危惧された問題を回避できたものと考えております。2号機では改良された新インデューサが用いられることから、当初に計画したLE−7Aエンジンの定格設計点で運転できるものと考えておりますが、最終PQRの結果を踏まえて慎重に対応されることを助言いたします。それから、SRB−Aノズルのスロートインサート、これが脱落したという問題がありましたが、この脱落の対策は妥当なものだったと評価できます。今後も定量的評価手法を用いてさらに信頼性を向上されることを助言いたします。それから、LE−7Aエンジンの短ノズル、これについて多少横推力の発生が見られたんですが、この発生の原因究明が進みまして、これを回避するような運転方法が見出されております。そして、その効果は試験によって確認されているということでありまして、2号機に対してはこれで評価できると思います。それから、LE−5Bエンジンの着火・再着火の問題ですが、これは地上模擬試験結果と実飛行試験結果との比較検討が行われ、有為な成果が得られたと評価できます。これまでLE−5Aで不可解であった、不可解というか、まだ解明できずに対策ができなかったという、この再着火フライトシフトというこれも、今回は認められなかったということで、より信頼感が高められたのではないかというふうに考えています。
  今後の課題についてでありますが、LE−7AエンジンのOTPインデューサについても、できるだけ早期にOPTインデューサの改良試験を終えて実機に適用されるように助言いたします。それから、FTPの保持器の強度を改善する計画が進められておりまして、実機の適用が検討されておりますことは高く評価できると思います。保持器は回転機械にとって極めて重要な部品でありますので、実機に適用する場合には慎重に行われることを助言いたします。それから、LE−7Aエンジンで計画された長ノズルにおける過大な横推力の発生問題、これを解決して、できるだけ早く実機に適用して、当初に計画したエンジン性能に改善されることを助言いたします。それから、5Bエンジンでありますが、このFTP、OPTともに正常に作動したことは評価できると思いますが、OTPの旋回キャピテーションの問題についてはもう少し信頼性改善の観点から低減を図ることを助言いたします。
  それから、5の「試験機2号機の打上げに向けて新たに気づいた主な事項に対する技術的レビュー」ですが、3点ございまして、ワークショップでもNASDAさんの方から報告されましたが、1つはLE−5Bの燃焼圧振動、メイン噴射器LOXエレメントの破損、Pc計測孔の氷結と思われる計測、この3つでありますが、LE−5B燃焼圧振動につきましては、前回のLE−5Aエンジンと比較しまして2倍程度大きくなっています。さらに、振動は定常的で持続時間も長いものですから、この状態で使用する場合には、ペイロード等への影響を強化されることが望ましい。また、エンジンの信頼性向上の観点からも原因究明と対策が必要であると思われますので、早い機会に改善することが望ましいと思われます。LOXメインエレメントの破損ですが、認定試験範囲外の条件で燃焼試験を行った際に発生した振動によるものと考えられていますが、やはりこれは原因究明と対策を図ることが必要ではないかと考えます。それから、計測ポートの詰まりですが、あらかじめ氷結の可能性が非常に高いとわかっているのでありましたら、重要な計測項目の1つでありますから、試験機2号機から何らかの対策をとることが望ましいと私は思いますが、認定試験を終えているものですからハードの変更には十分注意が必要ではないかと思います。これら3点につきましては、1週間程度の短時間の専門家会合の検討では十分に判断できておりませんので、慎重に取り扱われることを助言いたします。
  最後に総合的な所見ですが、H−2Aロケット試験機1号機が苦難を乗り越えて成功したことは、日本の宇宙開発における快挙でありまして、心から祝福したいと思います。関係者の御苦労とお喜びに対して、同じ分野に身を置く者として喝采を送りたいと思っております。
  1番目の問題ですが、総合的な所見としましては、H−2Aロケット試験機1号機がほぼ計画どおりに飛行し、その性能と機能が確認されたことは高く評価できると思われます。それから、7Aエンジンの液水、液酸のターボポンプインデューサの設計見直しが図られておりまして、その他の項目につきましても具体的な対策が進んでおりますので、これは高く評価できると思います。それから、今後も引き続き対策が必要であると思われるものについては適切な対策が示されておりますので、打上げ前段階の評価で指摘した評価表の助言等への対策はおおむね妥当であると考えております。
  次の問題は、この機体がロバストかどうか、言いかえると素性がいいかどうかでありまして、初号機については最良の部品、万全の体制で臨んでおりますので、多少の傷があっても隠れてしまって、何機か打ち上げるうちに必ずしも万全の体制がとれないような打上げ機体が出てくる可能性があります。このときに機体のロバスト性があらわれるのであります。一たん運用段階に入りますと、工場では製造組立のローチンに任されてしまい、設計や開発上の弱点を熟知している技術者は関与しなくなるおそれがあります。ロバスト性は、少なくとも10機は打ち上げてみないと客観的には判断できないかもしれませんが、実際に作業をしている人たちは、多分2〜3機でこれがわかるはずであると思いますので、特にコストダウン要求が厳しいときに問題が起こりやすくなりますので、管理上の問題として十分な対策を立てておかれることを希望します。
  4番目としまして、もし不具合が出て打上げ失敗という事態になっても、根気よく対策をとっていくことが大切であります。これまで我が国は機種の交代が早くて、10機以上打った機体がないわけでありまして、機体の信頼性は根気よく対策をとって、20機、30機と打ち上げていくうちに向上するものでありますので、H−2Aでは長期的な対処法が望まれると思います。
  それから、試験機2号機の打上げが成功した後も継続して適時に認定試験を実施して、性能及び信頼性向上のための改良を行うことを助言いたします。普通、ロケットエンジン開発における常識では、開発を終えた後の変更は容認されないものでありますが、7A、5Bエンジンにはいまだ改良すべき点が多いと思われますので、より高い性能と信頼性を達成するために、あえてこのような助言を行いたいと思います。
  それから、打上げ前段階において指摘しましたことですが、故障モードとその影響分析を実施して、これに基づいた定量的な信頼性の評価、要するにパラメトリックな手法に基づく評価手法を是非導入していただきたいと思いますが、これを一挙に導入することは非常に難しいと思いますので、できる部分から導入を試みられることを重ねて助言したいと思います。
  それから最後に、これはここで申し上げることかどうか疑問に思いましたが、委員の方から是非これは報告してほしいという強い要望がありましたので申し上げますが、将来の基本的な問題提起ということでありまして、7Aの試験機1号機では、ノズルの過大な横推力発生のためにやむなく短ノズルが用いられておりまして、比推力性能が429秒と当初計画したよりも低くなっています。これに関しては、現在、エンジンを長ノズル化する開発が進められておりまして、これが完成した場合には、当初計画した比推力440秒が達成されると期待しています。しかし、それでもヨーロッパのアリアンのエンジンに対して6秒、全体性能からいいますと1.5%程度の有意差でありまして、この有意差を得るための代償として、2段燃焼サイクルのLE−7Aエンジンではポンプ吐出圧力が100気圧高くなってしまっています。これによって、信頼性、コストの維持が難しくなっているのではないかと推測されますので、今後これがどうなるか、今後の運用状況を見守りたいと思っています。
  エンジンの性能、信頼性、コスト、このどれに力点を置いて開発するかということは、そのロケットの開発目的に大きく依存しておりまして、国のロケット開発の政策にも立ち返る問題であります。将来の新エンジン開発に資すべく我が国のロケット開発全体を現時点で再評価することが望ましいのではないかと思います。
  以上です。

【井口委員長】  ありがとうございました。
  以上で報告を終わらせていただきまして、御質問、御意見をいただきたいと思います。

【大橋】  時間の関係で、先に失礼しなきゃならないので、コメントだけ述べさせていただきます。
  H−2の8号機の失敗を受けて、H−2Aに切りかえるという決断、これは大変な決断であったと思います。どうせH−2Aに切りかえなきゃならないわけですけれども、急遽切りかえるに当たりましては、いろいろと予知しない問題点が入ってくるかもしれない。そういうことを十分議論した上で、最終的には急遽H−2の開発を中止してH−2Aに切りかえることになったわけでございまして、その初号機が成功したというのは、皆さん方の大変な努力で、そういう意味でH−2Aは大変幸せな出発をしたというふうに思っております。
  そういう中で、私自身はエンジン、特にターボポンプシステムの専門家として問題のポンプなどを見てまいりますと、1号機は、運転条件の設定その他で万全を期したということはございますけれども、2号機の改良インデューサ付きのターボポンプシステムにつきましては、既に試験段階を終えて実機に装着されておりますけれども、試験結果を見る限り、従来のものについて格段と設計マージンが向上していて、ロバストネスが増えているということが認められると思いますので、そういう意味で言いますと、今までエンジンが最大のウィークポイントであるというふうにH−2Aについてはみなされていた、その疑念が大体晴らされるのではないかと私自身は評価しております。
  ということで、そういたしますと、H−2を切りかえてH−2Aに急遽移った、隣の芝生はいつでも青く見えるわけでありまして、ひょっとすると、さっきも御指摘ありましたけれども、何か虫がいるかもしれないということで、これから十分いろいろな虫に気をつけながら、全体のバランスを見て開発を進められればいいのじゃないかと思います。
  以上です。

【井口委員長】  済みません、一言、質問なんですが、さっきの棚次教授の最後のところ、つまりアリアンのエンジンに対して1.5%いいけれども、そのためにポンプ吐出圧力を100気圧高くして、このマイナス、その辺はどうお感じですか。

【大橋】  これは宇宙開発事業団のエンジン担当者の意地のようなものだと私は思っています。どちらかといえばアメリカに20〜30年遅れてスタートしたのに、遅れてやるものは世界に冠たるものを作らなければ士気が上がらないということで、難しいシステムに挑戦させたわけでありますけど、それがうまくいっても1.5%というのは、確かに批判の出るところではないかと思います。ですから、私自身の開発者の気持ちもあわせて考えれば、これだけ難しいものに挑戦した、遅れて出たものだから難しいのに挑戦したわけですけれども、そうしたら1.5%なんて言わないで、もっと胸を張れるような成果が出るぐらいに、もっと開発を進めるべきだという感じがしております。
  以上です。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。もしあれだったら、原島先生から、有識者の先生方に御意見、御感想を伺いたいと思います。

【原島】  先ほどからお話があって、最大の今回のポイントはロバストネスの追求。これは大規模なシステムを設計するエンジニアリングでは当たり前の話でございますけど、今回特にロバストネスの向上が最大のメインテーマだったと思います。
  先ほどそれで反映する7つの事項、あるいはメーカー設計段階のいろいろな話がございましたが、協調がとれているのかなと。1個1個の原因に対して、どのくらいロバストネスに影響するか、定性的に、全部完全につぶせればそれでよろしいわけですが、そういうことは通常あり得ませんので、私は電気屋なのでありますが、電気のシステムを設計するのに、必ず協調、システムの間のロバストネスの原因に対するいろいろな信頼性、その他、性能でもいいんですけど、ロバストネスの協調、コーディネーションの協調でございますけど、とるということが、その辺、特定の機器で作るのは難しいかと思うんですけど、先ほどちょっとございましたロバストネスの評価方法の確立であるとか、それに基づいてロバスト設計の、理論までできるとは思いませんけど、指針みたいなもの、そうしたものが設計、あるいは打上げの段階まで浸透していくということはかなり重要ではないかと思われます。
  ただ、1回のやつで7つ項目が出てきた。全部出てきたと思えませんので、あるいは、1回でそれぞれの生起確率がつかまるとは、デタミスティックなものは別として、生起確率がつかまるとは思いませんが、今後御経験を繰り返されて、ロバストネスの定量的な把握が重要ではないか。最終的にはコストの関係になりますと、必ずコーディネーションをとらざるを得ないと思いますので、そういった方向をお考えいただければと思います。
  先ほどございましたように、何といっても1回ではとてもデータは足りないんで、1本打ち上げるのに100億円ぐらいですから、もう少したくさん上げないと、ロバスト設計の基本的なデータがとれないのではないかという気がしますね。
  以上でございます。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  ロバスト設計というのは信頼性設計とかなり近いのですか。

【原島】  かなり近いのでございますが、ある原因が、例えばコンタミネーションであるとか、あるいはあるパラメータがどこかずれている。それに対する感度解析も含みますので、単にこれをやったらこのパーセントだということではなくて、感度解析を含みますので、全体の感度解析の調和をとることによって、全体の確率をさらに上げる。そこがロバスト設計の問題に入るあれになります。
  以上でございます。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  三戸さん、何かコメントありますか。

【原島】  多分やっておられると思うんですが。

【三戸(宇宙開発事業団)】  いや、済みません、やっていません。やっていませんという意味は、特にエンジンの燃焼につきましては、いわゆる数学モデル、全体のシステムの入出力のやつは簡単なんですけど、ローカルのそれぞれのポイントポイントにおける数学モデルができてないんですよ。ですから、そのシミュレーションができないと、全体のそういう感度解析ができてない状況で、これを我々はまずいということで、筑波の技術研究本部を中心に、何しろエンジンのより正確なシミュレーションができるように今励んでいるんですけど、シミュレーションモデルというのは実際の燃焼とあわせていかなきゃいかんということで、どこかの本の書いてある式でというわけにいかない。実験式によるパラメータとかいろいろ入ってきますので。
  今、ポンプのいわゆるキャビテーションなんかがやっと何とかある程度まとまるかなという感じで、エンジン全体についてはなかなかまだ。松井さん、どうですか。

【松井】  確かに数学モデルの話もあるかと思います。それ自身はこれから、非定量解析がかなり厳しいものですから、その辺を含めてやっていかなくちゃいけないと思っています。
  ただ、今、先生のおっしゃった中で、我々、非常に苦慮しているというか、我々が現在考えています方法は、3つの問題点をつぶそうということでロバストネスを持とうと思っています。その1つが、設計的に現在許容されている範囲がすべて本当に許容されるのかという範囲ですね。これは正直なところ、永遠のテーマみたいなところがあるんですけれども、本当に設計であるトレランス、較差を持っていたものがすべて許容されるかどうかという話は、かなり詳細な解析をやらないとできないと思っています。もう1つは、同じカテゴリーなんですけど、工作サイドがそれの較差を持ったときに、必ずしも真ん中で作ろうと思っていない。これはやはり削りの方からすると、どっちが簡単かというところにだんだん近寄ってきますので、較差がすべて許されているかどうかという観点。それからもう1つは、較差は一応あるというか、設計的な指針はあるんだけれども、それが検査という意味ですべて確認をされる工程になっているかどうか。これは、逆に言うと全部工程でその品質を押さえているというところが多々ありますので、そういう意味で何らかの形で我々、検査できないかという観点を押さえようとしています。あとは、一番最後が我々にとって一番身近な不具合ということなんですけれども、図面等に記載されているものをちゃんと作れる体制になっているかどうか、逆に言うと、だれかがチョンボしないかとか、だれかが見過ごさないかとかいったような観点、ややもすると最後の1つだけが議論されるかという懸念があるかと思うんですけれども、最初の2つを含めて、我々、蹴飛ばしてもちゃんと動くエンジンを作り上げたいと思っています。
  正直、かなり難問ですので、回答があって申し上げているわけじゃないんですが。

【原島】  専門家の話はそのとおりだと思うんですが、最後の方なんか、必ずしも数学モデルの問題よりも記号論理、ファジーの問題で解決いたしますね。それから、数学モデルがないと本当に困るんですけど、何らかのことで最近、数学モデルなしのいろいろな方法がいっぱい開発されていますね。参考になるかどうかわかりませんが、御検討になられたらいいかもしれません。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  坂内先生。

【坂内】  成功した状況で申し上げることは、これからのことなんですが、2つほど申し上げたいと思います。
  1つは、今、原島先生が言われたこととかなりダブるんですけれども、これは1号機の打上げのときから感じていたことですけれども、打上げの関係者が非常に努力をされて、精神的にも、システムとしても非常に重装備で、これは100%失敗できないという状況で作られたシステムであって、そういう意味で2号機、3号機も、さっき松井さん等からもあったように、これは失敗できない状況についてはそう変わりはないということなんですけれども、試験のあり方とか、製造システム、もう少し平常化するということも視野に入れながら考えていかないと、関係者の根性でカバーできる部分がそう長くは続かないということとか、H−2Aが目指したコスト低減という意味では、明らかにかなり大幅にコストアップになっている局面があるので、2号機、3号機をこれから平常化していくということで、1つは原島先生が言われたように、何がどのぐらいコントリビュートしているかということもにらみながらやっていく。それからもう1つは、こういったものは欧米の例に見るまでもなく、社会的許容性というもので進めていくところがあって、1号機は、これを失敗したらもうおしまいというようなことですけれども、我が国における宇宙開発の意味を国民一般にも理解いただいて、ある程度のトレランスを設定する中で平常なシステムをしていくという、まず平準化というのが1つのターゲットかなと思います。
  2点目は、未来に向けるという意味では、このレビューの中にもあるんですけど、H−2Aも未来永劫続くわけではないので、ロケット開発の市場性、単に商用化という意味ではなくて、宇宙に関する未知を解明していくとか、そういった多様な宇宙開発のターゲットを明確にして、そういう中で、でもどういうロケットが必要になっていくのかという見通しをある程度つけていかないと、例えば通信衛星がこれからもっと大型の多機能なものを打ち上げていかなきゃいけない。そうすると、もっともっと重い、このぐらいのものを打上げられるロケットが要る。先ほど何%とかというのはありましたけど、それは今のレベルの競争ですけれども、未来の市場開拓という意味では、ニーズ側からのターゲット設定も時間軸に入れていかなきゃいけない。
  そういうような形で、この成功をバネに、そういう平準化をにらみながら、これが重要な大きなステップですから、進めていっていただきたいと思います。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  何か事業団の方からコメントございますか。
  それでは、秋葉先生、いかがでしょうか。

【秋葉】  全般的なことは皆さんがおっしゃいましたから、私は、きょうの話は、1号機の首尾よく飛翔した後を次ぎまして、これを2号機にどうつなげていくかというのが極めて重要であろうかと思います。多少各論的な話として補足させていただきたいと思います。
  まず最初に、1−2−1の資料で、ワークショップの開催結果でまとめられております。私もワークショップに出ておって幾つか疑問に思った点があったんですが、それを1つ1つここで申し上げる気はございませんが、ここにあります「2号機以降に反映すべき主な事項は下記の通りである」と書いて並べてあります。その「主な」というところがしっかり評価されているのかどうかという点が1点でございまして、要するに異常というのは、せっかく異常が起きてくれたわけですから、これをしっかり重要度に応じて分類して、どのような対策をとっていくかということをシステマティックに決めていかなきゃいけないものであろうかと思うが、どうもこの「主な」というところがエンジニアの直感に任せ切りでやっているようなところはなかろうかというのは、ちょっと気にしておるわけでございます。
  例えばベローズが割れたような話、これが主な方に入っていない。にもかかわらず、企業側の努力としてはかなり重点を置いている。そういうところも、一体これはどういう話として位置づけられているのかということがあるわけです。
  それから、今のベローズを特に申し上げましたのは、実は全般について水平展開の努力が足りないのではないかという気がいたしております。つまりベローズを使っているのは、変になった1カ所ではないわけですね。方々にあるわけです。しかも、これは非常に変形が大きいところへ使うわけですから、いろいろな意味で使い方として気をつけなきゃいけないものだろうと思うんですが、果たしてそういう細かい部分にまでしっかり規格を作ってやっているのかどうかというところが、1つ気になる点でございます。これは一般工業部品として使っているものであるから、ややもしますと、その使い方が、どこでも使っているんだからという安易なことになっているのではないかという気がするわけであります。実際、拡大写真なんか見ますと、正常なものであってもいろんな変形をして使っているわけですね。どこまで許されるものかという話、もう少し故障物理的に掘り下げていかなきゃ危ない部品じゃないかと、そんな気がするわけでありまして、ここから落ちていることに関して若干の懸念をしておるわけでございます。
  それから、いろいろ対策を講じていくことで、それこそロバストのシステムができ上がっていくわけでございますが、その対策は、下手にしますと命取りになることもあります。是非その吟味評価ということに関して、非常に厚い層でそれを実施していただきたいと思います。
  それから、次号機における主な変更点、これは大橋先生が太鼓判を押してくださっておりましたけれども、今度のターボポンプは大丈夫だろうとおっしゃっているわけで、専門家会合もいろいろ資料を出してくれたものも含めまして、二次試験では確認したとおっしゃいますが、どうも流体力学的にこれは確認に至っていないのじゃないか。これは専門家会合のときから何回も言っておったところですが、確認であると言い切って安心していいものではないと私は思っております。私はそのときから申し上げているんですが、今でもそう思っておりますので、この辺は、専門家の方としてもう一度お考え直しいただく方がいいのではないか。
  以上が、私の具体的なことに関するコメントでございます。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  河野先生に伺うのはどうかと思うんですが、主な事項というのは……。

【三戸(宇宙開発事業団)】  済みません、私の方からよろしいですか。弁のベローズと解釈してよろしいんですか。

【秋葉】  いえ、そういうふうに特定することではなくて、水平的な観点から重要度を気にしなくちゃいけないのではないかということを申し上げている。

【三戸(宇宙開発事業団)】  ここに載っている、製造設計じゃなくていわゆる設計的なことにつきましては、これが全部です。あと、製造上の件で、例えばフィルターとか、たしかワークショップで出た弁の中のベローズのクラック等につきましては、確かに入っていませんが、それらについては製造中のことということで、一応対策はとるということで今回は抜いておりますけど、決して手を抜いているわけではないと思います。

【秋葉】  私は故障が起きたところを言っているのじゃないんです。それを水平展開して、全システムにおいて、あらゆるところにいろいろ使っているわけですね。それにしかるべき注意をしっかりしているかどうかという点をもう一度見直した上で、この重要度を決めるべきじゃないかと、そういうことを言っているわけです。

【三戸(宇宙開発事業団)】  わかりました。それについては、どうですか、渡辺さん。

【秋葉】  というか、重要度という観点から、今度起きたいろいろな問題点、これをしっかり評価して取り上げるべきじゃないかということを一番最初に申し上げたわけです。これはABCランクぐらい、幾つかあるわけですね。それをしっかりやっておかなきゃいけないと思うんですね。聞いていますと、いろいろやってみると、この振動は規格内におさまっているといったようなものまで主な事項に入っちゃっているとか、そういうことをやっていていいのかということなんですね。

【三戸(宇宙開発事業団)】  考え方として、規格に入っていれば何もしないという考えは一切持っておりませんで、現に1号機のポンプにつきましては、振動につきまして規格内に入っていても、それは認定試験のレベルをちょっと超えているのでそれは使わないということで、再製作いたしたりしていますので、そういう意味で宇宙の技術はまだ未成熟という考え方を我々は持っていまして、地上で確認された範囲内でできたものを使うと、一応考え方はそういうふうに徹底していますけど。

【秋葉】  未成熟だということを言いますと、あらゆるものを取り上げなきゃいけなくなるわけです。であるから、ここに取り上げるという理由をしっかりした上でランク付けをしなくちゃいけないんじゃないかということを言っております。

【三戸(宇宙開発事業団)】  はい、わかりました。

【井口委員長】  さて、ほかにいかがでしょうか。

【栗田委員】  ただいまの秋葉先生のコメントと似たようなことを私も感じております。それは、管制系が1系故障したということで、これが副系に移った。これはエンジニアリングの勝利だと私は思っておりますが、その中身がやや心細いのが、同じコンピュータシステムで、同じソフトを使っていたということで、これが完全な2系であったかどうかということで、これを3系、インディペンデントなシステムにかえられる。これは当然立派な処置ではないかと思っております。
  ただ、もう1つ、秋葉先生の今のコメントに関連しますというのは、これがいわゆる極めて大きなハザードに結びついているんだとすると、バックアップシステムの冗長性がすべて同じレベルでそろっているだろうか。ここだけ三重にしても、ほかが同じポイントがあって、そこも同じ三重にするのか、それとも今言ったように別系の二重になっているのか、これを水平展開して確認しておく必要があるではないか。これは安全部会で申し上げた点で、是非事業団の方でやっていただきたいと思っております。

【井口委員長】  何かありませんか。

【三戸(宇宙開発事業団)】  いろいろありまして、例えば弁みたいに同じものを2つというのもあります。それから、地上系では、例えばレーダとテレメータであわせて見るとかいうことで別系のものもあります。それらについて、すべて同じレベルであわせるということが、現実いろいろできない事情がありまして、可能な限り、今、先生のおっしゃった方向でもう一度見直して、できる範囲内の手は打っていきたいと思います。

【井口委員長】  ほかにいかがでしょうか。
  先ほど、一番最初に原島先生からの御質問で、ロバスト設計のモデル、それは新体制設計だって同じようにあるシステムモデルが要るわけですね。そういうシステムモデルは、3機関一緒に信頼性の研究をしていますね。あそこではそういう仕事をしているんでしょうか。

【三戸(宇宙開発事業団)】  一部ですけど、全システムとはいきませんけど、そういうことで研究しているというふうに聞いております。

【井口委員長】  なるだけ早く成果を出してもらって、信頼性システム、ロバスト性システムのモデル化をやるべきではないでしょうかね。そうでないと、合理的な判断が難しい気がしますね。

【原島】  最終的にはロバスト設計できるところまで論理を詰めなきゃ。

【井口委員長】  だけど、最終的にはデータがないんだろうと思うんですよ、個々のデータが。それはある程度の数をやらないとデータが出てこないという難しさがあるにしても、だけど、先見的に、直感的にある種のデータを置くこともできるんですね。ひとつ今後の研究にお願いいたします。
  それから、坂内先生がおっしゃっていた平準化といいますか、確かに今、山之内理事長がおられるけれども、理事長が全責任を持ってみんな引っ張っているという状態なんですよ。2号機もそういうシステムでおやりになるということになっているけれども、それがずっと続けられるかということ。それはいろいろなシステムの中に落とし込んでいかなければいけない問題があると思いますけれども、まあ、これからの課題だろうと思います。
  それからもう1つ、これは私の全く個人的な、これまでも感じていた1つの意見なんですけれども、いろいろな分類の仕方がありますけれども、例えば設計と製造、ロケットにしろ何にしろ、そういう2つに分けますと、今まで設計問題は非常に丹念にといいましょうか、議論してきたんだと思います。ところが、設計と製造というのは車の両輪で、両方が同じくらいでなきゃいけないのが、製造過程についてはほとんどここで議論、つまり宇宙の場で議論されたことがないんだと思います。今までのいろいろなトラブルのかなりの部分が製造、あるいは品質管理に起因するものだと私自身は思っているんですけれども、それが、きょうは三菱重工さんがちゃんと出てきてくださって、これからの対策をなされると。ようやく少しはもう1つの車輪の方が大きく……。まだまだ小さいんですけれども、ちゃんと話題として取り上げられるようになったということでは、一つの進歩ではないかと思っております。
  理事長、何かありますか。

【山之内(宇宙開発事業団)】  まだ締めくくりはないと思いますけど、本当に貴重な御意見を、お礼を申し上げたいと思います。よくこういう会議の場にある締めくくりのお礼ではなくて、細かいことは抜きにして、私が考えていることとほぼ共振点が合うという感じがいたしますけれども、こういうふうに考えていますので、是非これから御助言を賜りたいのは、私の立場からしますと、1つは、ともかく来年度のうちには、既にADEOS2とか、情報収集衛星とか、MTSATとかが控えていますから、少なくともそれまでに、この中の案というようなものは直しておきたい。ただ、長期戦になるやつと、この1年ぐらいの間に直すものを峻別してやっていかないと、そこが非常に大事な話で、何かごちゃごちゃになっているような気がします。したがって、緊急に直さないと心配だということは私自身幾つかあります。きょうのLE−5の振動の件もそうですし、軸振動の件もそうでありますけれども、だから、ここをきちんと峻別してうまくやっていかないで、ごちゃごちゃにしちゃうとまずいということですね。
  それから、当面は価格よりもロバスト性を言っているんだというふうにいかざるを得ないだろうという状況認識、また、戦略としてもその方がいいのじゃないか。これから宇宙を見ても、価格競争より信頼性の方がお客を引きつける。それから、今の日本の経済状況、全くの暴論ですけど、1ドル=200円だってあり得ないことはないというふうに思っています。
  それから、長期戦略の重点をいつどういう格好でやるか。ただ、きょう、一番最後に、棚次先生が御指摘になったGG方式にするかどうかという、これは抜本論でありまして、これは根本的な設計変更みたいなことになっちゃいますから。
  ちょっと頭をよぎりましたのは、日本が新幹線を作ったときには、当時の島さんが多分考えたのは、日本の実力からしてほとんど実証済みの技術、ロバストで優先でやったと思うんですね。ところが、フランスのTGV、私が見ている限り、ここまでやるのかいというぐらいロバストよりも、これが技術的に一番先端的だということをやっちゃったわけですね。結果、どう違うかというと、両方とも時速300キロですね。エンジニアとしてどっちがいいかといったら、これは非常に根本論なので、1.5%しか違わないからやめた方がいいと簡単に片づけていいか。
  あと2つは、きょう御指摘のあった理論解析、評価手法、ここらはできる範囲内でもう少しやっていかなきゃいけませんけれども、井口先生の御指摘にあったように、これは経験と理論と結果の突き合わせとデータがないと、こんなものは出てこないんですから、そこが限界がある中でどうするか。
  最後は、言いにくいんですけど、私が来てから1年間に起きたトラブルのほとんどは製造過程の問題だと思います。品質管理の問題が大半だと思いますし、5号機、8号機の原因も製造過程の問題と思うものはかなりあると思います。ここは、最後に御指摘ありましたように、言いにくいんですが、非常に大きな問題かというふうな感じを持っているということを申し上げたいと思います。

【井口委員長】  どうもありがとうございます。
  ほかにいかがでしょうか。
  大橋先生はもう退室されちゃったんですけれども、例のバルカンエンジンの問題とポンプ吐出圧力100気圧の問題で、ポンプ圧力100気圧になるぐらいどうということないじゃないかと、そういう答えなのか、そうでないのか、それを伺いたかったんですけど、また改めて伺ってみたいと思いますけれども、例えばほかの機器で数百気圧なんて、今、何でもない技術で使うものですよね。ポンプだけは別かということかもしれませんけれども。ですから、確かに1.5%かもしれませんけれども、大橋先生の言うようにもうちょっと性能を上げて、同時に吐出圧力100気圧高くするぐらいはどうということない、日本の技術であれば、そういう方向に持っていくのも一つの手なんだろうとは思いますけど。
  それから、秋葉先生がポンプのことを言われたんですか、水による試験だけでは予測も合わないし不十分である。では、実際に使う状態、つまり液体水素、液体酸素で、実際に使う条件に近い形で試験できれば一番いいんでしょうね。

【秋葉】  実物ですればいいでしょう、ということを申し上げているんです。

【井口委員長】  今それはできるんですね。

【秋葉】  胃袋の中でも見ますから、そんなことができないわけはない。

【井口委員長】  わかりました。ありがとうございます。
  ほかにはいかがでしょうか。

【五代委員】  私、H−2のときに、皆さんでロケットをまとめました。そのときに比べますと、H−2Aというのはバージョンアップでありまして、特にエンジン部分は、2段目等は2段階ぐらいのバージョンアップしたものであります。H−2の終わりのころに、既にH−2Aという計画を、すべての関係者、これはNASDAだけじゃございません、会社、企業、下請、それこそ孫請、設計者、製造者、組立者、すべての方からの提案を受けて、何千点あったか忘れましたけど、それを精査して、その中で取り入れるものを取り入れて、できるだけロバストで、簡素な要素にした。それがH−2Aであります。同時に、それまでの純国際から、いわゆる国際主義に切りかえました。これは切りかえられたから切りかえたわけであります。その結果、今、実際に皆さんのおかげで初号機が上がりました。もちろん多々問題があったのも事実ですけれども、それが試験機の仕事と言えると思います。
  ただ、はっきり言えるのは、システムとしては正当であった。システムとしては正しいものであった。世の中でシステムとしてそんな安く、そんなふうなものができるはずないとおっしゃった方もおられますが、私は、それはいつか間違いであることがわかると思ったんですが、ただ、それじゃいつも全部できるか。これはこれからの問題です。製造の問題もありますし、要するにばらつき、マージン、ロバスト性、そういう問題であります。これをいかに上げていくかということで、さらに皆様方からいろいろ努力をしていただく。
  今までは、例えば燃焼実験一つとりましても、数多く燃すというのは重要です。数多く飛ばすというのも重要ですけれども、そのバックのどこに重要なところがあって、どこに問題があって、どのくらいマージンがあって、そこをどう進めればいいかというような検討、あるいはその検討のためのデータの取得、そのデータは正しいか悪いか、取り方はどうか、そういうところは残念ながらまだ足りないと私は思っております。そういう意味で基本データを、材料にしても何でもそうですが、十分とっていただく。これは時間がかかります。それと同時に、そういうふうな新しい手法といいますか、考え方、ロケットから見ると新しいけど、世の中から見たらもう古いかもしれませんが、そういうふうに総合的にしていただければ、このロケットはますますいいロケットになっていく可能性が十分あると思います。できるだけこれをまず成熟していただきたい。
  私は、今回の打上げで皆様方が大変に努力されて、その点についてはお礼を申し上げるわけですが、まず成熟させて、これが日本の宇宙開発のバックボーンでありますから、それを狂わさないようにしていただきたいと思っています。残念ながら今まで日本のロケットの場合は、常に一本線、AというロケットができたらすぐB、BができたらCというふうに、余裕のなさというのか、そういう意味のロケットの冗長性というのもなかった。基本的な戦略の問題だと思うんですが、その辺もこれから宇宙開発委員会でもいろいろと議論いたしますけれども、それにしても基本的なロケットがきちんとできることが大変重要でございまして、それを作っていただいた方にお礼を申し上げたいと思います。これは、H−2のときも私はそう思いましたけど、非常に大勢の方、多分、万というような数の方がかかわっておられると思うんです。お会いしたことない方が大半でしょうけれども、そういう方々の努力でここまで来ました。
  私、締めの言葉を申し上げるつもりは毛頭ございませんで、ただただそういう意味で感謝を申し上げ、これからに期待しているわけでございます。どうもありがとうございました。

【井口委員長】  ほかに御意見、御意見ございますでしょうか。
  なければ、これで拡大委員会における報告会を終わらせていただきます。
  きょう、山之内理事長をはじめ事業団の方々のお話でも、一回成功したから後は気楽にできるとは決して思っておられないことは、皆さんよく御理解いただいたと思います。これから2号機、3号機の方がもっと大変ではないかと思います。
  また、きょうは先生方に大変貴重な御助言をいただきましてありがとうございます。これから2号機、3号機にいろいろきょういただいたご助言の反映をいたしたいと思いますので、これからどうか御支援をお願いいたします。きょうはどうもありがとうございました。
  それでは、5分休憩にさせていただいて、その後、いつもの宇宙開発委員会を続けさせていただきます。

(  休      憩  )

【井口委員長】  それでは、4時になりましたので、宇宙開発委員会を再開させていただきます。
  最初に、栗木委員からH−2Aロケット試験機2号機の打上げ及び高速再突入実験(DASH)に係る安全の確保に関する調査審議についてお話をいただきます。

【栗木委員】  それでは、委38−2の資料で御説明申し上げます。
  H−2Aロケット試験機2号機の打上げが迫ってまいりまして、これに伴い高速再突入実験(DASH)に係る安全の確保に関する調査審議について提案申し上げたいと思います。
  趣旨は、その下に書きましたように、来る13年度冬期には、高速再突入実験(DASH)及び先ほどの前半で説明ございましたもう1件、ミッション実証衛星1号(MDS−1)を軌道投入するため、H−2Aロケット試験期2号機の打上げが予定されております。この打上げに係る安全性を確保することから調査を行いたい。それから、従来衛星は安全性の対象になっておりませんでしたが、今回投入されるペイロードのDASHは、地球周回軌道に投入されるカプセルの高速再突入実験として予定されておりまして、この再突入時の安全の確保が必要とされております。このため、ロケットによる人口衛星等の打上げに係る安全評価基準に基づきまして、打上げ並びに再突入について安全部会において次のとおり調査審議を行いたいと思います。
  調査審議を行う事項としましては、H−2Aロケット2号機の打上げに関して、以下の観点から安全対策の妥当性について調査を行う。1つが地上安全、2つ目が飛行安全、3番目が安全管理体制ということですが、従来、衛星について行われなかった再突入実験につきましても、その上の飛行安全に基づきまして、再突入時の地上等に対する安全性の観点から調査審議を行いたいと思います。
  調査審議の日程としましては、来月上旬に進めまして、11月中旬までに委員会に報告するものといたしたいと思います。
  なお、構成委員は別紙のとおりでございます。
  よろしく御審議をお願いいたします。

【井口委員長】  ただいま御説明がありましたように、H−2Aロケット試験機2号機の打上げ及び高速再突入実験に係る安全性の確保に関しまして、安全部会に調査審議を依頼したいと思いますが、いかがでございましょうか。よろしゅうございますか。
(「異議なし」の声あり)

【井口委員長】  それでは、このように決定させていただきます。ありがとうございました。
  それでは、次に、本日は拓殖大学日本文化研究所長の井尻先生においでいただきまして、我が国の宇宙開発事業のあり方につきましていろいろ御意見を承りたいと存じます。よろしくお願いいたします。

【井尻】  井尻でございます。15分程度ということでございますので、思うところを率直に述べさせていただきたいと思います。
  私は、現在、拓殖大学の日本文化研究所長でありますが、実は35年間、日本経済新聞の記者をやっておりました。4年半前から大学に御縁があって、そちらにいるわけでございます。ジャーナリストの時代も文化部の編集委員が長うございましたので、私がお話しできることは、専門的なことというよりも、一国民として思うところを述べさせていただくことになろうかと思います。
  まず最初に、このたびのH−2Aロケットの成功、関係の皆さん、おめでとうございますと申し上げたいと思います。時あたかも特殊法人の問題、いわゆる行政改革の問題で、特殊法人の整理統合、聖域なき改革と小泉総理はおっしゃっておるわけでございますが、どう考えてもこの問題は、どういう国づくりをこれからするのであるかという国づくりのビジョンを必要としている。ビジョンができますと、おのずとどういうふうに整理統合すべきかということが見えてくるはずでありまして、その将来ビジョンを語らずして改革というのは、難しいというよりも改革の意味が半減すると思います。したがいまして、ナショナルプロジェクトとでも言うべきものをどのように考えるのか、もうそういうものは一切要らないと本当に考えられるのかということからまず始めたいと思います。
  私は、人間の情熱の効用とか能力の開発とかいうことも含めまして、パブリックとプライベート、つまり、自分のやっていることがどういう公につながっているのか、その公と私の平衡といいますか、均衡といいますか、そういう中でしか人間の活力は生まれてこないのだろうと思っておりまして、したがいまして、現在、非常に単純化して言えば民活、民が活力の源泉だというのも、人間論としてはちょっと承服しかねる。むしろ民と官、あるいは私と公、そういうアントニム、つまり反意語の平衡というのが現実でありまして、私は今の言論状況は、何かにつけてあれかこれかといってアントニムを2つ出して、どっちを選択するんだという単純な議論の仕方は、歴史と現実に反しているというふうに思う次第であります。
  そういうことを日ごろ思っておりましたものですから、このたびの成功について、早速、参考などというのは本当にお恥ずかしい話ですが、週刊誌で私は「世間漫録」という、これは「週刊新潮」でございますが、ここで、政治であれ、経済であれ、文化であれ、思うところを率直に述べておるわけでございますが、こういう国産技術の結集、その成果としての成功に政治家たちがどういう姿勢をとるのか、これは非常に重大な問題だと思っております。もしある政治家が、そういうことは承知しておるという程度のことではなくて、自信喪失している今この国民、あるいは経済の閉塞感に苦しんでいるこういうときに、H−2Aロケットが成功したんだということは、非常な勇気と希望を国民に与えるんです。その仲立ちをする、技術者集団と国民の仲立ちをするのが実は政治でなければならない。したがいまして、私は、こんなふうに表現するのですが、打上げの時刻は決まっておるわけですが、たしか1時間ぐらい遅れたんでしょうか。しかし、総理大臣並びに関係大臣が、内外の記者を呼んで、そこでH−2Aロケットの成功をどのように位置づけるか、立派なステートメントを発表すべきだというふうに、週刊誌にそういう調子で書き出しまして、それはどういうことかといいますと、現状の政治状況あるいは経済状況を含めまして申し上げると、そういうナショナルプロジェクト的なもの、あるいは古めかしい言い方をすれば国策というようなことを非常に語りにくい状況にあるのですが、私は、その語りにくい状況を作ってしまった原因そのものが、政治家の言論状況、マスコミの言論状況、これは似ています。そういう状況があるにもかかわらず、あるいはそれゆえにこそ、一国の総理大臣たるもの、立派なステートメントを発表していただきたかった。そういうことを申し上げているわけであります。
  今申し上げましたように、ナショナルプロジェクト的なもの、そのことが将来の日本にとって極めて重要な問題、その1つが、広い意味の宇宙開発にあろうかと思っております。当然、古めかしい言い方ですけれども、地球の中のフロンティアがなくなった。ある一時期は南極大陸の調査が大きなプロジェクトになり得たと思いますが、今や宇宙に向けて関心が広がっていることは、大きな時代の流れであります。しかも、IT革命、情報革命ということが言われているときに、宇宙開発の1つが、そのコアになる、核になるというふうに私は思うわけで、そういう問題を単なる商業ベースというところで、いやいや国産でやるよりもアメリカさんから借りた方がいいんだというような言い方、それはそろばんとしてはあり得ると思いますが、日本は、何といっても、私は実は日本は島国だという言い方をいつも冷やかしながら、地理的には島国だが、1億2,000万の国民を持っているということは、人口的には大大陸国家なんだと。単純な人口比較をして6番目か7番目に位置するわけでございますし、その国民の教育程度から経済のレベルからすべてを含めますと、アメリカ大陸に次ぐ日本大陸なんだよと。そういう自覚を持ち直さなきゃいけないだろう。だとすれば、それにもう1つ、やや政治的な話にはなりますが、中国の隣国である、あるいは北朝鮮の隣国である、つまりミサイル開発、核武装している国が近くにある。
  私は、直ちに核武装せよとか、大陸弾道弾を作れというようなことを今ここで申し上げるつもりはございませんが、ある技術の蓄積の中からおのずとそういうことに転用できるという、そのポテンシャルといいますか、可能性が、実は安全保障にもつながってくるわけでありまして、今、日米間で議論されている迎撃ミサイルシステムのこういうものに対する協力ということも視野に入れて構わないし、むしろ政治家がそのことをちゃんと言うべきなんだ。そういうことを言わずに、これまた憲法の制約上というようなことだけで宇宙開発を進めることは、非常に手足を縛られることになろうかと思います。
  そういうことを「週刊新潮」に書いたわけでございますが、もう1つ、資料に「発言者」の5月号で「危機突破の日本的可能性を探る」、これも短いエッセイでございますので、軽く読み飛ばしていただければいいことですが、アメリカが1960年代に直面したスプートニクショックというんでしょうか、ソ連との宇宙開発で遅れをとった。このことがアメリカ人にどういう心理的影響を与えたのか。アメリカ政府並びに技術者集団が、このショックから立ち直るためにどういう努力を払ったのか。やがて月面に人間を送り込んで勝利宣言をしたということになろうかと思います、要約すれば。
  私は、別に超大国アメリカのまねをしろという意味ではございません。1つの国家がピンチに陥ったときに、どういう形でそれを巻き返していくか。これは、もはや民に任せよとか、プライベートカンパニーに任せよというようなレベルの問題ではなくなります。国家が乗り出す、国民の英知を結集する、財力もそこに投入する、そういうことが国民の活力の源泉になるはずでありまして、最初の問題に戻りますが、人間の活力、あるいは英知というものがどういう局面で表現されていくのか、その必要条件は何かといいますと、宇宙開発のようなスケール、大きなスケールの問題では、何といっても国家的なプロジェクト、つまりナショナルプロジェクトという形をとらざるを得ないはずなんです。
  そのように考えます私からしますと、今日の政治状況はまことに残念ながら私の、私のといいますか、そういうプロジェクトにとっては芳しくない状況にあると思います。ですから、私は一言論人、言論人のはしくれとして、こういう問題にも積極的に発言をしてみたいと思って2つのエッセイを書いておるわけでございますが、きょう、こうして場所をいただきまして、私が申し上げたいことは、何人かの心ある政治家たちに、宇宙開発に関するビジョン、もっと積極的に参加いただくということを是非、これは役人の方たちの努力も大いに必要だろうと思いますが、行うべきだろうと思います。
  そしてもう1つは、政治のドラマツルギーとでもいうのでしょうか、H−2Aロケットの成功ということを国民や国際社会に対してどういう修辞学、どういう言葉で説明し、国民の英知のさらなる結集に資するかというふうなことを考えるのは、政治家の大事な仕事だろうと思っております。
  それともう1つ、これは多くの科学者も多分もう既に方々で発言されているとは想像いたしますけれども、仮に宇宙開発という国家的プロジェクトが、政治家たちによって上手に位置づけられる、そのことが次代を背負う子供たちの教育に与える影響はものすごく甚大だと思います。現在、少年たちの学力比較で、かつて数学の上位だった日本が、かなり成績が落ちているとか、いろいろの比較論があるわけです。こういう問題も、実は教育現場でどうこうしろというような積み上げ方式もそれは大事ではありますけれども、一番効果があるのは、宇宙開発をどう位置づけるか、つまりナショナルプロジェクトと位置づけるか、そのことをどう語るかによって、少年たちの心は非常に燃えるはずなんです。ここにいらっしゃる皆さんも、多分、少年時代にそういうシチュエーションと出会ったり、見聞したりして、今日あるような形を志したんだろうと私は推察いたします。そういう意味で、H−2Aロケットの成功とこれからのビジョンをどうぞ大きめに描いていただきたいというのが私の1つの願いでございます。
  もう時間が過ぎたようですけれども、私は、ナショナルプロジェクトに関して2つのことをかねてから発言しております。天においては宇宙開発、これは先ほど言いましたような情報産業、あるいは安全保障に関するさまざまな情報も含めます。やがてはミサイル、武器にも転用可能、そのポテンシャルは十分あるはずで、それをどう自覚するか。天においては宇宙開発としましょう。そして、地においては都市再生。その最初は、最初といいますか、小渕内閣が生活空間倍増戦略プランというものを施政方針で出して以来、これによって、よく言われているように1,400兆円の個人資産を日本人は持っているわけですから、それが国際金融のカジノキャピタリズムに仲間入りするよりも、それは若干しても構いませんが、国内循環にどうやって入れるか。あるいは郵政3事業、その他の目的税を、地においての都市開発と天における宇宙開発、この2つのナショナルプロジェクトを構想して配分せよ。そういうことを考えれば、行革も極めてクリアなイメージになってくるはずだ。
  それに、もう1つ申し上げますと、今の政治議論で足りないのは、あるシステム、歴史的なシステムは財産だということですね。そのシステムをどうシフトする、宇宙開発にシフトする、ある意味では都市再開発にシフトする、そういうことを考えるのが実は政治家の役割でありまして、少々たるんだシステムだからといって、システム全体をなくすというのは最後の選択であっていいはずでございまして、まあ、そのようなことを考えながら、私も今後とも宇宙開発に私なりの関心の示し方を続けてみたい、そんなふうに思っている次第であります。
  雑駁な感想にすぎませんが、これで終わらせていただきます。ありがとうございます。

【井口委員長】  どうもありがとうございます。
  少し時間をいただいて、質疑討論をさせていただきたいと思います。大変強力な御支援をいただきまして、ありがとうございます。いかがでしょうか。
  例えば8月29日にH−2Aの打上げに成功しました。これは、マスコミというと、中にはああいうときに反対というんでしょうか、あまり喜んでくれないところもあるんですけれども、あのときだけはほとんどすべてのマスコミの方、もちろんこれは全国民だと思うんですけれども、大変喜んでくださった。ということは、結局、ロケットの打上げに成功したということは、日本の威信をちゃんと示せた、そういうことに対して喜んでくださったのじゃないかと我々は理解しているんですけれども、その後、不幸にしてテロなどが起こったものですから、だんだん関心がそっちに移ってしまったというのはあるんですけれども、何とか先生のおっしゃった方向に国会の先生方の意識も向いていってくださればありがたいと思っております。
  いかがでしょうか。

【川崎委員】  我々も、なかなかこういうふうにはすっぱり、はっきりは言えないわけなので、非常に歯切れよく言いたいことを言っていただいているという感じで、大変心強く思いました。ただ、残念ながら宇宙のロケットの成功は、今、委員長がおっしゃったように、その一断片として取り上げていただけるんですが、じゃ、国としてといったときには、現在の宇宙の関係する3機関がございますけれども、統合であるとか、一律に特殊法人は金遣いというか、赤字で大変だとかということで、宇宙開発事業団の名前を入れて、ちょっと褒めておいては、やたらにたたかれちゃう。そうすると、私どもの方の心配なのは、一生懸命士気を高めて、一生懸命営々と努力していると、その次に予算という場とか、組織という場で「金にもならんようなこと、だめだ」と言ってやられると、こういうのが2回、3回と続くと、どんな優秀な粘りのある人でもいいかげんにしてくれということになってしまいはせんかというので、あまり激しく先生のおっしゃるようにビジョンで高い志をうたい上げて、それをだれが応援してくれるかという不安が、その後で必ずついてきちゃうんですね。今、先生がおっしゃったように心ある政治家の方と組んで、何かやるかどうかというようなことを考えざるを得ないのかもしれない。そのような気もいたしております。どうもありがとうございました。

【井尻】  感想を申し上げますと、私どものような技術に関心のない人間でも、二度の失敗というのは何か痛いんですよ。痛むんですね。だから、今度こそ本当に成功してほしいなというね。これは人間の感受性として極めて普遍的で、特にロケットとか宇宙開発に関心のない方でも、とにかくこれが日本の技術力の結集しているものであり、これが成功するかしないかの、何か大きさのようなものは必ず直感しているんですね。ですから、成功したときに、本当に国民は率直に喜んでいると思うんですね。もちろん報道もそれぞれ工夫してやっているとは思います。しかし、不満を言うとすると政府なんですね。総理大臣以下。政府の人間は、そういうときに、どういうビジョンをどういう言葉で語って次につなげるか、それを政治家はやるべきだと思いますね。

【井口委員長】  宇宙開発に対する重要性の認識の度合いなんだろうと思います。日本の宇宙開発は、平和目的ということにたがをはめられているわけです。そうであるにしても、アメリカは平和利用でやっているのはNASA。NASAの予算の10分の1ですからね。そのほかに、防衛産業がNASAと同じよりちょっと多いマーケットを準備してあるわけです。だから、それを全部入れれば、日本は予算的に見れば二十何分の1なんです。GDPでいえばそんな差はあるはずないんですね。だから、それだけ宇宙開発に対する認識というか、重要性の感覚が違うんだろうと思いますね。

【井尻】  実はここに来る前にも、ちょっと講演してきましたけど、つまりアメリカは確かに自由主義経済で、日本に対しては、かつては通産省バッシングをやり、あるいは自動車問題などのときに通産省バッシングをやり、次は大蔵省バッシングで金融問題だと。いろいろアメリカは対日戦略があるわけですけれども、そういうアメリカを一言で言ってしまうと国家資本主義みたいなものだと。国家社会主義というのは昔からあるわけですけれども、国家資本主義、つまり今おっしゃいましたような宇宙開発や軍需産業、ああいうものすごい大きいスケールの、言ってみればナショナルプロジェクトを抱えて、その上で民需産業、その他を大いに自由競争でやろう。これもまた複雑な構造になっているわけでございますので、今いろいろのところで、何でも公から民、あるいは官から民とか、そういう言い方で総理大臣まで言っちゃうものですから、私はきょうのあれでも、あなたたち政治家は公なんだよ。あなたたちの存在そのものが民じゃなくて公なんだという自覚を持ってほしいんだというようなきつい言葉を随分重ねて申し上げましたけれども、まあ、こういうことは今ここにいらっしゃる科学者や技術者じゃなくて、私どものような言論に携わる人間の責任だろうと思いながら、それを自覚して申し上げる次第であります。

【栗木委員】  事前にこの「新潮」の記事を読ませていただきまして、大変快哉を叫んだ雰囲気でございまして、今お話を伺って、H−2Aが事前になかなか、H−2の終わりの方の号機が2機ともうまくいかなかった。それを乗り越えて初号機がうまくいった。まさにここにドラマがあって、世間はそれにジャーナリズムも含めて反応してくれたんだと思います。
  そのときも私、非常に活気を感じたんですが、これが終わった後どうかといいますと、実はこの会議の前にあった会合で、技術系の先生方からいろいろ意見が出まして、これを淡々として続ける、そのときには総力を挙げてかかってこれを乗り越えたではないか、しかし、これは長続きするものではない、淡々と信頼性をかち取るということで商業化に貫いていかなければいけないという助言をいただいた。そうすると、淡々というのは国民にとって極めて日常化してくるわけでございまして、今、先生がおっしゃったようなドラマ性は失われてくるわけです。一方、宇宙が持っているドラマ性というのもございまして、これを叫びたいというのは、この世界にいる者の共通した心理でありまして、星へ行きたい、星に足跡を印したい、もっと深く見たい、これはあるのであります。今ここの段階でこれを叫びますと、まだ商業化に一歩に踏み出した段階で何を言うか。しかも、財政状態が悪いと、それが抑えられてしまうという、非常に苦渋の中に置かれているわけでございます。こういう環境にあってどう動いたものかというのは悩ましいところでございますが、何か御助言いただけますでしょうか。

【井尻】  それは本当に政治家や財界人まで含めた、言ってみれば言語空間の中に宇宙並びにロケットがどういうふうに位置づけられているかというのは、各個人それぞれ微妙に違うと思いますけど、特に妙案があるわけじゃございませんけれども、私の予感をちょっと申し上げますと、雑駁な言い方でごめんなさい。官から民とか、公から私とか、今申し上げましたアントニムのどっちかになれという言い方が、もう十数年やってきてにっちもさっちも行かないんだ。あるいは、公と私という二元論、あるいは官と民の協力以外にないんだというところに、実は今振れ始めているというのが私の予感なんですね。何でそんなことが言えるんだというのは、テロ危機というようなものも実はその一つだろうと思っております。こういう危機管理は、どうしても公が前面に出なければならない局面になるわけで、ですから、商業ベースというような枠の中で何ができるかということはもちろん大事なことですけれども、もっと長期的なビジョンとしては、その可能性を今度は皆さんが、専門的な立場からこういう可能性も出てくるんだよということを、もちろんおっしゃっているとは思いますが、できるだけラウドスピーカーにかけて国民に提出していただきたいし、私のような全くの素人でも、何とか日本語にしてくだされば追っていけますので、そういうことの積み重ねだろうと思いますね。
  それから、また繰り返しますが、政治家。官僚はもちろん心得ているとは思いますけれども、心ある政治家をどれだけ育てられるか、皆さんや私どもの協力も必要だろうと思いますけれども、そんなふうに思います。

【栗木委員】  私どもも内々でよく議論するんですが、押さえられる方の力は、きょう、あしたの財政の苦しさ、そちらがあるわけです。したがって、今おっしゃっておられたような可能性は、もっと長い目で発言すべきだ。是非それを地道にでもやっていきたいなと思っております。技術畑の人間ですので発言の仕方が下手でございます。是非これからも御支援いただければと思います。

【井尻】  どういう局面で皆さんが、つまり技術専門家たちがどういう局面で、どういう協力が必要なのかということも、実は率直に心あるジャーナリストや、私も機会があればそういうことを承知しておくと、不思議なもので、ある現象とふっとつながってくるんですね。発言の機会もそれだけ増えると思いますので、どうぞ組織としての発言というよりも、個人個人が宇宙に関してどんなことをしたいんだというようなことまで含めて、皆さんの発言を私がもし聞くことができれば大変幸いだと思います。

【川崎委員】  先生のお話の中にあったことの繰り返しになるのかもしれませんが、アメリカの場合には、宇宙はアポロ計画から始まるわけですが、その後、軍事が先行しながら行って、現在の段階は軍と、それから民とはいいながらも、いわゆるパブリックのツールとして民に開放しているという格好になってきているわけですね。まさに官民融合の状態で、ですから、いわゆるアンカーテナントと言われるのは常に官需なんですね。ところが、日本の場合には、軍はやらないんですが、平和利用でやってくると、官がやっているといけないからすぐ民へと、こう言うんですが、社会的な一つのインフラストラクチャーとして、軍にかわる、シビルエンジニアリングというのは別の言葉であるんですが、あれは建設・土木ですが、もともとあれはミリタリーの工兵隊から来た技術が展開されてああなったんですが、歴史的に。だから、我々の方は平和利用でやるんですが、そういう意味でいうとミリタリーでない、平和目的でパブリックなテクノロジー、それはパブリックなインフラストラクチャを作る、そういうもので、それは道路であり、橋であるのに対して、新しい宇宙という世界へパブリックロードを作るんだというような、公共技術とでもいうような概念を宇宙に当てはめていただくようなことで何かやってみたいなという気はあるんですけれども、そういう議論は少しはわかるものでしょうか。

【井尻】  私が今、地においては都市再開発だと。これもお話しする時間はありませんけれども、まさにパブリックと民との協力なんですね。決して民だけで美しい都市の再開発はちょっと難しい。ですから、官と民とか、そういうアントニムが本当に実は協力関係、平衡を保つ、そのときが今わずかながらそちらに振れてやしないかなと期待をしています。
  大体言論状況を非常に下世話に申し上げますと、10年間同じことを言っていると、だんだんみんなわかってきて、14〜15年たつとまた戻るということをずっと見続けましたものですから、もう皆さん、単純なあれかこれかという議論が行き詰まっていることには気づき始めているだろう。そのことがまた宇宙開発にいい影響を、状況が少しでもよくなりはしないかという予感を私は一応抱いております。

【今村(文部科学省)】  きょうは、非常にそういったお話を伺って大変参考になりました。
  その上で、一つ御意見を承ればと思いますのは、現在、こういう全体が右肩上がりでない中で、決められた資源をどのように配分するかというのは非常に大きな問題ですね。科学技術分野も同じでして、国の研究投資をどうする、どこに重点を置くかということについて、相当率直かつ真剣な議論が行われております。現在は、御承知のとおり重点4分野といいまして、ライフサイエンス、情報・通信、環境、ナノテクを含む材料開発、この4つの分野を重点4分野として、ここを重視するという方向をまず明確にしまして、これはかなり国の方針として議論があるわけでして、それとの関係でいいますと、宇宙開発とか海洋のようなもの、あるいは防災科学技術といったもの、これは国の存続にとって極めて重要な分野という位置づけにはなっているんですけれども、現在投資するという面では、ややメリハリのメリの方に置かれている。そういう意味で宇宙開発も、実は今、非常に厳しい状況にあるわけでして、相当議論は闘わせておりますし、まだ決着がついているというわけでもなくて、どんどん議論が進みますので、そういうプライオリティの置き方、その中で宇宙開発をどういうふうに打ち出すべきか、そういうことについて、あるいは今お話で申し上げたような科学技術政策の中の重点化についての井尻先生のお考えとか、その中で宇宙開発をどう重視していくかというようなことについて、何かありましたら。

【井尻】  私は、宇宙開発は予算の都合、その他もろもろあって一時中止だと、もしそういう事態になったときには、国民精神と一言で言うのは大ざっぱすぎますが、影響は大きいですよ。これはものすごく大きい。成功したときの喜びよりも、このプロジェクトが予算の都合でだめなんだよ、少なくともそろばん上のことでだめだというのは、国民にとってのショックが大き過ぎます。だったらODA、世界中にばらまいているのを半分にしてこっちに持ってこい、必ず人は内心そう思うんですよ。それが国民感情でして、国民というのは、確かに自分の知らないところの道路が、あまり必要でない道路ができているという極めて散文的なことには、ああ、そうだろうと思うんですけれども、宇宙とか先端技術というのはそれ以上のロマン。わかりやすく言うとロマンを託す、そういうポジションなんですね。ですから、予算が取れないとかというのはほとんど理由にならないのがこれで、道路だったら予算がないから作らない、ああ、そうかいでみんな終わっちゃうんです。だけど、宇宙開発はそうじゃない。この国の未来を予告するというか、そういう位置づけを是非していただきたいんで、私は国民の一人として、「予算がない?  そんなことはないだろう。予算なんてどこからでも分捕ってこい」というぐらいの、言葉としては乱暴ですが。
  ですから、安全保障の議論でよくありますね。防衛費はGDPの1%だと。そのかわりODA、その他の安全保障で経済援助をやっているんだ。それを20年近くやって、その効果のほどはどうだったんだ。教科書問題一つ何も解決しておらんじゃないかということになって、国民感情としては、そういうものをどうするか。政治家だって永遠にこれを続けるわけにいかないでしょう。どこかで何かの理由を作ってODAを引き揚げたいという問題だってあるわけですよ。だから、これは皆さんというか、むしろ今村局長のような立場の方に申し上げたいのは、国民をそういう議論の中に是非巻き込んでいただきたいんです。これだけ大きな経済大国でありまして、予算がないなどということは、もちろん役人には役人なりの判断があろうと思いますが、仮に政治家という立場から率直に言えば、そのぐらい大事な位置づけだということを私は強調したいと思いますね。

【五代委員】  H−2Aロケットを打ち上げて、その後で、もう7年前ですけど、講演というか、お話をする。必ずそのときの答えは、「日本人はいつ飛べるのですか」「私はいつ行けるのですか」。それだけ国民の皆さんの期待というんですか、自分がという、自分が参加する。すごく強いわけです。残念ながら今の日本のロケットは有人型ではありません。これはもちろんお金がない、はっきり言えばそういうことがあります。その前にすべきことがあるだろう。それから、信頼性がそこまで高くない。あるいはシャトルを使えばいいじゃないか。そういうふうなことになっているんですが、専門家の多数も、そういう制約、お金の云々、今ある二千何百億の中ではとても無理だよ。したがって、それは無人でやるべきだ、こういう意見はもちろんあります。しかし、もうちょっとそれを緩めれば、当然その先はと思っているわけで、そういう議論と、それから、一般の人も「何だ、結局はシャトルに乗ってただ行っているだけなんだ」、こういうような若干さめたところもないわけではない。
  そこで、中国も多分1〜2年内に自分ので上げるでしょう。何のための有人かとか、あるいはそれを経済的な議論でいきますと、いろいろなところで難しいことはありますけれども、1つのシンボルといいますか、これがナショナルプロジェクトだと。何で宇宙に人が行っちゃいけないんだ、行くのが当然、いつか行くのは当然です。当然、最後は宇宙観光、皆さんが行くということになると思います。
  そういう意味で有人宇宙飛行の研究をせめてちゃんと始めようよというのを今言い出しているわけです。さあ、ここですぐドンとやるぞとか、そういうことを言い出すだけの、とてもそれだけの環境でもありませんし、それだけの技術力、人の力も足りません。だけど、少なくともそういうのをまじめに議論をしていく必要はあるのではないかということで始めたところですが、それでも、実はおっかなびっくりというとおかしいんですが、そういう感じで始めておりますが、その辺のところをどのようにお考えでしょうか。

【井尻】  僕はむしろ皆さんにお尋ねしたいような気分もあるんですが、戦後日米関係、つまり占領下にあった6年8カ月を含めて、技術改革において禁じられた領域というのがありましたね。要するに次期戦闘機を国産するんだといったら、とんでもないという話になるような、戦後の日米関係の極めて政治的な物語が底流にあるんですね。それをはらうというか、物語の屈折をはらうのは、政治家が大いに頑張って、日米関係どうしていくかというね。
  技術者の皆さんの中に、例えば次期戦闘機を国産じゃなくてアメリカのを買えと言われて、「はい、そうですか」と言った、あるいは航空機産業、空は禁じられた領域だとか、いろいろありましたね。これは今の宇宙開発にも当然つながっているだろうと。だからこそ政治家の決意のほども必要だし、単に平和利用、平和利用とか何とか言っても、それはある意味では聞こえはいいけれども、全部枠をはめられてはしないかというような問題すら感ずるんですね。それを役割分担で、技術者は技術者なりにさりげなく、どういう現実にあるんだということを出していただきたい。我々のような人間は、それで日米関係の戦後の屈折ですね、日本人から見ると、それをちゃんと正す。本当に対等のパートナーとなり得るのかならないのか、そのためには相当の努力と覚悟も必要かもしれませんが、技術をめぐる技術開発、特に宇宙における、空における日米の戦後物語というものを時々点検して、一つずつはらうという努力をしたいと思う。私自身、ささやかな言論を含めましてね。ですから、そういうことが技術者のプレッシャーになっているのか、いや、もうそれは過去のことだというぐらいに吹っ切れるのか、そんなことも機会がありましたら伺ってみたいことだなと思いますね。

【井口委員長】  ほかにいかがでしょうか。

【川崎委員】  今の点では、アメリカが200個、同じロケットで打っているときに、日本では5つぐらい打つと息が切れちゃうわけですね。それで経験がなかなか積まれない。経験が十分積まれないと、エンジニアリングの世界では、規格化なり、いわゆる定式化というんでしょうか、あるいは定着化というところまではなかなか行かないわけですね。常に試験的にという形になってしまう。その一つの理由としては、おっしゃった日米関係のしがらみがあって、要するに民間としてマーケットがあるような通信とか、そういったようなものについては国産でやるという、バイ・ジャパニーズというポリシーはやめてほしい。バイ・インターナショナル・コンペティション、こういうことになっているわけですね。ですから、勝てる勝てない、コストが高いというのもやや問題はあるかもしれませんけれども、若干機会を減らされている。だから、本当は10年である蓄積があるはずだったのが、20年たたないとその蓄積がいかないというような、そういうことが結果として出てくる可能性はなきにしもあらずだとは思っています。

【井尻】  そういう意味では、こういう先端的な技術開発、大規模なプロジェクトは、経済原理と闘わざるを得ない、これはもう宿命かもしれませんね。でも、世の中の人間たちというのは、何もすべてが経済原理で世の中は成立しているんじゃないよというぐらいの常識はかなりあると思います。

【井口委員長】  例えば1980年に入ったころ、日本の自動車が世界へあまりにも急に出ていったから貿易摩擦を起こしたわけですけれども、それだけ国際競争力を持ったんですけれども、その当時のアメリカの自動車会社の量産規模は、最低でも年間1車種40万台です。それだけの量産でなければ量産とは言わなかった。ところが、日本では1車種でそんなに売れる車はないんですよ。カローラだって年間数万台じゃないですか。大体10分の1です。それでも信頼性、コスト、性能、これは世界一流にできたんです。
  だから、確かに規模の違いはあるけれども、考えようによっては技術のレベルでも、少ないもので世界に太刀打ちできるものができないとは言えないだろうと思います。それが我々技術者の仕事だと思います。NASAのあの大きな規模で進めている技術開発、そのまままねしようといっても、これはだめだと思います。だから、日本の道はどこにあるか、日本特有なものに特化するとか、そういうことは技術の分野でも必要だろうと思います。ただ、一方、あまりにも差があっては、これは非常に大きなハンデですから、今、先生がおっしゃったような形で政治家とか、我々も努力しますけれども、説得をしてくだされば、大変大きな助けになると思いますので、よろしくお願いします。

【井尻】  私も、実はきょうのこの前の会で、日本の自動車産業は排ガス規制をまずクリアした。戦後史を考えましても、戦後復興は別として、例えば70年代の公害。公害先進国だといって、ppmで公害が問題になったとき、これもある種の広い、緩やかなナショナルプロジェクトのような形で公害防除作業をバーッとやりましたね。あれよあれよという間に公害防除技術の非常にすぐれた技術集団、体系ができたと思いますね。それから次は石油ショックですね。これで日本沈没かと言われて、事実、小松左京さんの「日本沈没」という小説が大ベストセラーになったんですね。しかし、これも省エネ技術というものでね。その省エネ技術の開発が、実は今日の産業構造にまでつながってくるわけですね。それで排ガス規制でしょう。
  私はこういうことを言ったんですよ。京都議定書、CO2、日本がヨーロッパとアメリカの中間ぐらいとってやっていますけれども、率直に言いますと、一番高いハードルを引き受けていった方が日本が勝つ可能性がある。一番きついハードルを設けて、それに結集すると、排ガス規制のクリアや省エネ技術のブレークスルーと同じように起こるのではないかと。
  つまり、私がそういうイメージで戦後の技術的なエポックを見ているというのは、相当思い入れが深いんですね。日本の技術者集団は必ずやってくれるだろうというね。これは意外に国民感情としてあるんです。最近の番組でいうと「プロジェクトX」というNHKの番組がものすごくヒットしていますね。あれの本になったやつもベストセラーになっていますね。あれなんか私も時間が許す限り見るんですけどね。
  まあ、そんなことで、それぞれの国にいろいろのすぐれた集団があることはもちろんあれで、日本だけがすぐれているという意味じゃないんですけれども、そうやって歴史を振り返ってみますと、それぞれの記念碑的な出来事が起こっている。その連続の中で宇宙がどうなるのか、あるいはアメリカが今までやってきたこととちょっと違う分野、あるいは技術体系が一体あり得るのかあり得ないのか存じませんが、そんなふうないろいろの期待が流れの中でイメージできますので、そういう可能性も含めた情報をわかりやすく国民に知らせる手はないものか。私などは全く専門知識はありませんけど、ラウドスピーカーぐらいの役割はするつもりでおりますので。

【井口委員長】  ありがとうございます。
  大体5時になりましたので、大変長い時間いろいろお教えいただきましてありがとうございます。また、今、先生がおっしゃったように、我々も技術の立場からいろいろな論理といいましょうか、政治家にこういうことを説得してほしいというようなお願いに上がるかもしれませんので、その際はひとつよろしくお願いいたします。

【井尻】  そうですね。是非機会を設けていろいろレクチャーしていただきたいと思います。

【井口委員長】  本日はどうもありがとうございました。
  あと、その他は前回議事要旨の確認でございますが、これは例によって後ほどよろしくお願いいたします。
  以上で第38回宇宙開発委員会を閉会にいたします。どうもありがとうございました。

──  了  ──


(研究開発局宇宙政策課)

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