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前記2項でも述べたが,先端技術開発と事業化推進が同時に進行している現状は,好ましい姿ではない.しかし現時点では,事業者側の要望を尊重すべきである.
一方で事業者側は,採算性や(1段目エンジンの供給確保などの外的な要因を含めた)事業の成立性に多くの疑問がある中で,本事業を自身の責任と資金で進めていく覚悟を明確にし,これ以上の国からの支援獲得には慎重に対処すべきである.
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1、2で述べたことの繰り返しになる。部分的に追加コメントする。
前に述べた理由で、LNGの目標設定は22年度という引渡し時期にとらわれることなく、将来に向けて最適なスケジュールを引いて、その中で行うべきであると考える。ただし、ビジネス的に22年度引渡しが極めて重要な用件であると国が納得した場合は再考を要する。以下に検討の道筋を述べる。
ビジネス的に見た場合、GXロケット側が提示された2段のスペックでビジネスモデルが成り立つということが正しいのであれば、技術移転に関しては意義があると考えるが、今の段階ではその根拠が薄弱である。今回のプロジェクトは、ビジネスのために特定企業が行う開発に対し、国が金銭的支援をするという始めての試みであり、今後の先例となるので、注意深い対応が必要である。「売れないロケット」に国が投資したとなると、アセスメントをちゃんとしたのかということを問われ、大きな問題になることが予想される。
ビジネスとしての成立性を、会社が「成立性あり」と主張するのを信じるだけでなく詳細情報を精査して国が独自の判断をすべきか、そこは内政干渉のようで難しいところであるが、個人的な意見としては、技術の専門家だけでなく、ビジネスや経済の専門家なども入れて、どこまで会社がリスク分析、市場予測、ラーニングカーブのモデル化などを正確にかつ公平に行っているかの評価を非公開で実施すべきだと考える。また、LNG系とは直接関連はないが、1段ロケットをLM社に任せていること、ロシアのエンジンを使っていることに関し、どのようなリスクが生じ、それに対しての対策は万全であるか、G-Gの契約が必要であれば、それも国がちゃんと担保できるか、などのプログラムリスクの評価も必要であると考える。22年度の引き渡し要求も、きっちりとした理由があるかどうかを評価すべきであろう。その結果、ビジネスにおける十分な勝算が見込まれ、22年度引渡しがその重要な前提になる、ということであれば、LNG系の将来計画をそれにあわせて一部カスタマイズすることはアクセプタブルであると考える。
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平成15年の評価小委員会で検討したLNG推進系システムは「複合材タンク、ガス押し式エンジンの採用」によって 開発期間の短縮、 高信頼性システムの実現、 低コスト打ち上げを目指すことが主眼であつた。従って、システムは「複合材タンクからガス押し式エンジンから低燃焼圧力から低比推力」となるが、「総合的にメリットが有る」と評価するものであった。
今回の小委員会で「複合材タンクの不適合とエンジンに問題を抱えていること」が明らかになったが、民間事業者からの開発成果引渡し時期(平成22年度)に関する強い要望に応えるためには エンジンの問題を1-(2)に沿って、早急に目処を付けるべきであり(注1)、 エンジン問題に解を見出せない場合に対応する抜本的対策(注2)を立てておく必要がある。
(注1) |
対策を施した噴射器(お金や時間がかかるのであれば、サブスケールでも可)の燃焼試験を早急に実施すべきである。この際、期限と費用に上限を設け、その範囲内で解が得られない場合には直ちに抜本的対策(注2)へ移るべきと考える。 |
(注2) |
ターボポンプ、再生冷却燃焼器方式とするロードマップ第二段階へ切り替えるべく具体的計画を立てておく必要がある(この場合、開発成果引渡し時期の遅れも考慮されるべきである)。燃焼の最大の問題は「LNGを液体のままで燃焼させること」に起因している。LNG再生冷却とすればLE-5エンジンと同様に気液同軸型噴射器が適用でき、安定・高性能な燃焼が可能である。
付記: |
LNG再生冷却燃焼器の冷却特性、燃焼特性について、小型燃焼器による燃焼実験を旧NALが実施している。LNG冷却性能については液水の設計手法が適用できること、カーボンのコーキングは無視できること、燃焼性能についても、液酸/液水の設計手法が適用出来て、安定・高効率燃焼が得られることなどが示されている。またLE-5のLNG化について旧NASDA(ナスダ)、MHIで検討されていると記憶している。 |
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前述の様に最重要課題である「燃焼圧変動」の解決への見通しが不確かな状況で、引渡し時期優先で、他の開発項目を確定する事は矛盾している。
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現状のLNG推進系の能力は、当初の計画値から大きな隔たりがある。日本ではこの30年間にLE−5系、LE−7系の液水・液酸エンジンを開発した経験があり、関連する技術のデーターやノウハウが官民に蓄積されている。従って、第一段階を経て、第二段階に進める開発手法が不可欠であるとは思われない。
韓国では、官民の共同でLNG推進系の開発が進められており、今年3月にはBBMレベルのエンジン試験に成功し、近い将来にフライトモデルまで到達する可能性がある。このエンジン(CHASE-10)は、推力10トン級で、燃焼室圧力70気圧のターボポンプ供給方式のガスジェネレーターサイクルを採用しており、1999〜2004年に基礎研究、主要な要素研究を経て、2004〜2006年にBBMレベルのエンジンシステムを製作し、燃焼試験によって性能を確認している。
このような韓国でのLNG推進系の研究開発の状況や先に述べたように日本では液水・液酸エンジンに関する豊富な経験とデーターがあることおよびLNG推進系についてのこれまでの成果を踏まえれば、民間事業者が要望する開発成果引渡し時期(平成22年度)まで、あるいは更に1年程度の時期には計画されている第二段階の推進系を完成できるものと考える。従って、第一段階を経ることによる経費と時間を節約でき、GXロケットが当初に掲げた打上能力に近いものが早期に達成できるものと思われる。
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時間の制約が言われているが、スケジュール最優先で技術開発を進めることは、これまで国際的にも、またわが国の宇宙開発でもタブーとされてきた方法論の筈である。時間に縛られて中途半端な開発を進めることは、将来に対するリスクを高め、また先送りするだけであると考える。
国が資金を投じて開発を行う場合、その目的は何かを明確にする必要があるが、今回のプロジェクトの場合は、会議の場でも議論されているように、主要な目的は次の2項目である。即ち、将来に備えた国際的に競争力を持てる技術開発と、当面の日本企業の事業開拓支援である。
前者に関しては、液々式のインジェクタを持った低圧燃焼エンジンは,技術的なリスクが高く、逆に将来性の無い孤立技術である。LOX/LNG推進系は取扱う温度範囲および推進薬取扱い上の危険性等からもLOX/LH2推進系の範囲内に留まるものである。またそのほかの点を考えてみても、韓国で研究されているようなLNGに求められる純度の問題のようなLNG推進系に固有な基盤技術を除いては、LOX/LH2推進系が完成されている現状からして、新たに習得すべき重要な推進系関連技術があるとは思われない。一般論としても2段階開発は時間と膨大な費用を必要とする開発方式であるが、液々衝突式インジェクタを持ったエンジンとLOX/LNGエンジンに通常採用されている液―ガス式インジェクタを持ったエンジンとは異質のエンジンであるので、LNG推進系の2段階開発はわが国の技術開発として正しい方法論とは言えない。個人的にはLOX/LNG推進系の適合するミッションに関しては、もう少し見極めを要すると考えるが、何れにしろ、国として研究開発を進めるべきは将来性のあるターボポンプ式の高圧燃焼エンジンの1段階開発であるべきである。
後者の観点は宇宙開発委員会の評価範囲外との由であるので、此処では参考意見として述べるが、この点に関しても、国としては場合によっては第3者機関に委託する等で、合理性確認の義務がある。よく知られているように、太陽同期軌道のコマーシャルミッションの将来需要予測は精々年2〜3機と言われており、需要の殆どは所謂ガバメントミッションである。また、低軌道ミッションに付いても、大学の研究教育用も含んで、事実上全てガバメントミッションである。コマーシャル分野では、Globalstarは会社破産前に製造済みの地上予備衛星をSoyuzで打上げる計画があるが、その他Iridium等の低軌道ミッションは現実の動きとしては明確ではなく、また最近では大型アンテナを搭載し、且つスポットビームを持ったモバイル通信静止衛星が数多く打上げられる動きから、実現はかなり厳しいのではないかと思われる。逆にこの分野の打上げロケットとしては、Delta- ,Soyuzの外に、打上げ費用30ミリオンUSドル程度以下の低プライスで、800キロメートルの太陽同期軌道への打上げ能力1〜1.5トン程度の打上げ能力を持ったロケットであるインドのPSLV,ロシアのRockot、ヨーロッパのVega等目白押しであり、競争は厳しい。一方米国では、極最近Lockheed-MartinとBoeing合弁のUnited Launch Allianceが正式に認可される運びとなり、この会社はAtlas- ,Delta- ,Delta- の、3種類の衛星の販売、打上げを行うことになる。GXロケットもこの販売網に加えられる由であるが、GXの1段はAtlas- の1段でありAtlas- の1段とほぼ同価格或いはそれ以上、2段は量産ベースに乗っているCentaurに較べてGXの2段の方が安くなるとは考えにくいことから、常識的に考えて、GXに競争力があるかは極めて疑問である。
このところ宇宙開発の動向は大きく動きつつあり、わが国としても世界に遅れを取らないためには、今の時点で何をなすべきかが極めて重要である。このような環境下で、わが国として多くの労力と資金を投入して現設計仕様のGXロケットを打上げることにどのような意義があり、また国際的にどのような評価を受けるかを、冷静に判断する必要がある。
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魅力ある開発シナリオとわかり易い打ち上げ舞台
これまで4年間の開発遅れをもって、複合材タンク ガス押し方式から、メタルタンク ブーストポンプ方式に計画が変更されたわけで、初期設計の目玉はすべて消失している。唯一、変わらぬ仕様は、LNGエンジンである点だけで、それも再生冷却という高度な技術に進むとなれば、怪しくなるように思える。複合材タンクの復活をはじめ、将来の開発シナリオに魅力を与える目標がないと、現在の第一ステップで打ち上げを目指していることは何かそして成功する鍵を手にしているのかが曖昧となる。それを具体的に明示すること、そしてGXが提示している平成22年までの期限に適い、かつ、世界に通用するLNG推進系技術実証に絞ったエンジン供給に全力を尽くすことがJAXA(ジャクサ)に求められていると思う。総じて、燃焼器不安定変動メカニズムなどの現象解明のための基礎知見は共通するところも多く、応用力を設計に多様に活かすことが肝心であり、打ち上げ成功という舞台を着実に踏んでゆくことからJAXA(ジャクサ)全体の実力アップが認められるようになる点は言うまでもない。 |
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技術力と事業力を備えた国産グローバル企業:
企業側にとって、ボーイングやエアバスのようなグローバル企業がいない現状は、国産の特徴あるエンジンを工夫し、海外と交渉能力をもつようなレベルを目指して、国内コンソーシアムを組むなど活動努力に励めば、報われる可能性が生まれる隙間があるということであろう。従って、大事な点は、現時点でのビジネスの成立性の証明でなくて、世界に誇る技術力の素晴らしさと貢献度をアピールして国(国民)の支援を得ることにあると考える。JAXA(ジャクサ)から技術移転を受けるのでなく、技術高揚を迫る役割に立つ発想転換が必要であり、また、積極的に海外と交渉し、その制約・経験などノウハウを今度はJAXA(ジャクサ)を介して国に伝え、技術立国としての支援を堂々と要請することが大切と考える。国民の支援なくて開発費の目処はつかぬことを覚悟するべきであり、そのためならば、GXの仕様を含めての大胆な計画見直しも率先して提案するほどの若く柔軟な体質を期待したい。 |
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LNG推進系は世界的にも注目されており、民間の商用性のGXロケット開発を国が支援するという官民協働の基本方針のもと、基盤技術の修得の観点からも、プロジェクトは民間の引き渡し時期についての要望を満たすべく推進されるべきと考える。
今回の変更では技術的な確実性を高めたことにより、性能と経済性の面で原計画より厳しくなっており、この点でより一層の努力が必要である。 |