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日本測地系の世界測地系への移行について(取りまとめ) (平成12年3月 測地学審議会測地部会)

平成12年3月
測地学審議会

 現代の測地学は、計測技術の飛躍的な進歩や人工衛星の利用等により、惑星の形と大きさと重力場を定義し、それらの変動を探る学問へと発展してきている。また、測地学は、地球に関する物理量を定義することと、計測装置や計測手段の開発研究とそれらを他分野に応用することも研究目的としている。
 このような観点から、測地部会は、「地球物理科学の展望と課題」 (昭和56年7月、測地学審議会取りまとめ)において、国内の測地系に関し「新しい測地測量体系を志向すべき段階にあると考えられる。」と指摘されていることも踏まえて、日本測地系の世界測地系への移行について検討し、その結果を取りまとめるものである。

1.日本測地系と世界測地系

 地球上の位置を正確に知ることは、社会生活を支える基本的なインフラストラクチャーである測地網や衛星測位システム等によって実現されているものであるが、地殻変動やプレート運動などによる地球の変動を把握するために必要不可欠なものである。また、位置決定の精度も、近年、測地技術の急速な進展によって飛躍的に向上してきている。
 地球上の位置は、一般に、経度、緯度、高さで表すが、その際の基準となるものが測地系である。経緯度は、地球にできるだけ近い形をした回転楕円体上で定義され、高さは平均海水面(ジオイド)を基準としている。このため、歴史的に、経緯度原点と呼ばれる原点の経度、緯度、高さを天文観測等で決定し、これを出発点とし、測地網として展開していくことによって各地点の基準点の位置が決定されてきた。
 我が国における測地系は、日本測地系と呼ばれ、明治政府が近代的地図の全国整備を行うために構築したものを基本としている。経度、緯度については日本経緯度原点からの三角測量により、高さについては日本水準原点からの水準測量により全国に測地網が展開され、国内の経緯度、高さはこれに準拠して決定されてきた。日本測地系は、これら基準点の位置によって実現されているということができる。
 20 世紀後半に急速に発展した人工衛星技術等を用いて地球全体を対象とする測地系が現れてきた。世界測地系と呼ばれるこの汎地球的な測地系は、地球重心と人工衛星の軌道、地上の観測点の位置を高精度に結合することによって実現されており、現在では、より高い精度が必要とされる学術的な研究だけでなく、人工衛星による航法などを通じて地球上の位置を表す標準となりつつある。世界測地系によって実現された位置の精度は飛躍的に進歩し、地上位置をcmオーダーで決定・追跡することができるレベルまで達している。我が国も超長基線電波干渉計(VLBI)、人工衛星レーザー測距(SLR)、汎地球測位システム(GPS)等による国際観測を通じて世界測地系の構築に貢献してきている。
 日本測地系は、長い歴史を持つため、準拠する楕円体も古く、その楕円体の大きさや形は、現在、科学的にもっとも確からしいと考えられている値から相当量ずれている。また、日本経緯度原点(東京麻布)の原点数値を決定するのに用いられた天文測量は、周囲の地形等による重力の影響を受けていたため、日本の経緯度は世界的な測地系から大きくずれたものになっている。日本以外の各国においても、それぞれの測地系は各国の国内の経緯度を与えるために地域的に定義され、上述したような方法で構築されてきた場合が多い。

2.日本測地系の現状と問題点

 日本測地系は、我が国において位置の基礎となっている。地図や測量にその基準を与えている他、土地の境界や各種法令・告示等の位置の基準としても広く用いられている。
 しかし、現行の日本測地系は、基礎が築かれた明治時代の科学的知識や技術上の制約を受けており、現代の科学的知見から見れば、以下のような問題点がある。

 1)準拠楕円体として採用されているベッセル楕円体は19世紀に決定されたものであり、大きさ、形とも地球の真の姿から大きくずれている。

 2)日本測地系の経緯度原点の経緯度数値は、世界測地系と比較すると10秒以上異なっている。
 さらに、近年、GPSをはじめとする人工衛星を用いた測位技術が発展し、世界測地系を用いた精度の良い位置決定や測量が普及してきた。世界測地系で決定された経緯度を日本測地系に整合させるためには、煩雑な変換計算が必要であるため、技術的な障害となっている。また、現行の国家基準点の位置精度を上回る高精度測量の普及により、測量作業にも矛盾が生じている。
 世界に目を向ければ、GPS等を用いた航法システムや測量手法の急速な普及等を背景に、国際水路機関(IHO)、国際民間航空機構(ICAO)、国連アジア太平洋地域地図会議は、それぞれ、海図、航空図、地図の測地系に世界測地系を採用すべきことを勧告している。ICAOの勧告を受け、国内の航空分野は1998年1月から世界測地系へと移行したが、現状では、海図及び地図と測地系の乖離を生じている。
 また、国際海事機関(IMO)によって、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約、1974年IMO総会決議)が2002年に部分的に改訂されることが決定しているが、その中で航海用電子海図(ENC)を用いた航海が紙海図と同様に認められ、船の位置などを外部に通知する船舶自動識別システム(AIS)が導入される予定である。これらにも世界測地系が用いられている。
 現在、アメリカ、カナダ、オーストラリア、シンガポール、インドネシアなど我が国の主要な貿易相手国では世界測地系が用いられており、外航船舶の多くは日本の港に近づく前に受信機内部で測地系の切り換えを行わなくてはならないという不都合がある。

3.世界測地系への移行の緊急性

 以上のような現状と問題点を踏まえると、現行の日本測地系から世界測地系への移行が必要と考えられ、次のような理由から移行はなるべく早期に行うことが望ましい。

1)科学的研究活動や輸送、漁業、測量など様々な分野で、GPSが広く用いられるようになってきている。現在用いられている日本測地系は、世界測地系との乖離が大きく、GPSの利用者には不都合な場合がある。世界測地系は、多くの国で地図・海図に採用され、今後もさらに採用されていくことが見込まれる。

2)地殻変動、プレート運動、地球回転の監視など科学的な地球観測を行うためには、最新の精度をもつ測地網を利用することが必要不可欠である。

3)現状においてもGPSと海図の測地系が違うことにより、航海者が自船の位置を見誤る潜在的な危険性があるが、2002年にSOLAS条約が改正された後も日本測地系を引き続き採用した場合、測地系の乖離による操船上の過誤が発生する可能性が増大する。
 また、航空分野では既に世界測地系に移行しており、国内では分野によって測地系が一致していない。

4)測量の分野ではGPSが広く利用されているが、GPSによる測量の精度は現行の日本測地系の精度を凌駕しており、また日本測地系で成果を作成する際に無用な精度劣化を生じている。

5)近年、急速に普及し始めている地理情報システム(GIS)のデータに記載されている経緯度は、一度日本測地系で入力されてしまうと、世界測地系に変更する際に余分なコストが必要となる。

6)現在では、世界測地系で得られた経緯度をGPS受信機内部で日本測地系へ変換しているが、受信機などの操作によっては無用の混乱が発生する可能性がある。世界測地系へ移行すれば、この変換機能が不要となり、利用者の利便性が増すものと考えられる。

4.世界測地系への移行と効果

 国際的な座標系の統一が達成されれば、航法のような技術に多大なメリットがあることは明白であるが、基本的な情報である位置情報を汎地球的に共有できることにより、科学技術ばかりでなくGISなど産業の分野においても大きな飛躍が期待できる。また、GPS等による測量の効率化が図られることはいうまでもない。
 しかし、世界測地系に基づく日本の新しい測地系(以下「新体系」という。)へ移行(測量の基準及び地図・海図表記の変更を含む。)する場合、日本測地系に基づく膨大な成果の取扱いにも注意しなくてはならない。さらに、土地及び水域の境界線を経緯度数値で規定している場合は、これを書き換える必要がある。なお、土地の面積は測量誤差に比べ無視しうる程度しか変化しない。
 新体系への移行が円滑に行われるよう、関係各機関は配慮する必要がある。
 なお、我が国の現行の時刻系(「東経135度の時」を「世界時+9時間」として運用中)は、世界測地系と軌を一にする時刻系に準拠するものであって、日本測地系の世界測地系への移行によって影響を受けるものではない。

5.世界測地系への移行と測地系の維持

 世界測地系へ移行し、維持するためには、以下のような手順が適当であると考えられる。

1)新体系の確立、維持に当たっては、VLBI、SLRなどの宇宙測地技術を用いることとし、これらの観測を定常的に実施している国内の複数の観測地点を有効に活用する。

2)国内の三角点、電子基準点(建設省国土地理院)、測点標石(海上保安庁水路部)等の国内の既存の基準点について、世界測地系に基づき全国的に統一された高精度な経緯度を提供する。

3)今後、地震や火山噴火に伴う地殻変動、プレート運動などによって、上記の基準点が必要精度を超えて動いたと思われる場合は、早急に座標値の更新を行う。
 新体系への移行に当たり、関係各機関は、経緯度数値を基準に行われている社会的諸活動への影響を最小にするよう努め、必要に応じて移行期間を設けるとともに、国民の理解を得てすみやかな普及を図るため、移行期間に公開された成果がいずれの測地系に基づく表示であるのかを明記するなど、周知・広報には特に配慮すべきである。新しい基準点成果の公開に際しても、事前に移行準備を十分に行い、公開後に混乱が起こらないよう配慮する必要がある。
 また、日本の地殻変動の速度を考慮すると、早晩、位置変化が新体系の目標精度を超えることは確実であることから、必要に応じて座標値の改訂や変更が行えるよう配慮する必要がある。

測地学審議会 委員名簿(第26期)

学識経験者 (任期:平成12年2月1日~平成14年1月31日)

  池淵 周一 京都大学防災研究所長
  井田 喜明 東京大学教授(地震研究所)
  伊藤 厚子 お茶の水女子大学名誉教授
会長 古在 由秀 国立天文台名誉教授
  小平 桂一 国立天文台長
  平 啓介 東京大学海洋研究所長
  武田 喬男 名古屋大学大気水圏科学研究所長
副会長 田中 正之 東北工業大学教授(工学部)
  千葉 とき子 国立科学博物館主任研究官
  永原 裕子 東京大学助教授(理学系研究科)
  長谷 見晶子 山形大学教授(理学部)
  平澤 威男 国立極地研究所長
  平澤 朋郎 東北大学教授(理学研究科)
  深尾 良夫 東京大学教授(地震研究所)
  藤井 敏嗣 東京大学地震研究所長
  松尾 弘毅 宇宙科学研究所長

関係行政機関の職員 (任期:在任中)

小中 元秀 [科学技術庁]長官官房審議官
片山 恒雄 [科学技術庁]防災科学技術研究所長
大井 玄 [環境庁]国立環境研究所長
田村 政志 [国土庁]長官官房審議官
今井 秀孝 [通商産業省]工業技術院計量研究所長
小玉 喜三郎 [通商産業省]工業技術院地質調査所長
久保 良雄 [運輸省]海上保安庁水路部長
瀧川 雄壮 [運輸省]気象庁長官
飯田 尚志 [郵政省]通信総合研究所長
城処 求行 [建設省]国土地理院長

測地学審議会測地部会(第25期) 委員名簿

委員

  伊藤厚子 お茶の水女子大学名誉教授
  太田陽子 専修大学教授
  古在由秀 国立天文台名誉教授
部会長 小平桂一 国立天文台長
  千葉とき子 国立科学博物館主任研究官
  平澤朋郎 東北大学教授(大学院理学研究科)
  藤井敏嗣 東京大学地震研究所長
  今井秀孝 (通商産業省)工業技術院計量研究所長
  久保良雄 (運輸省)海上保安庁水路部長
  飯田尚志 (郵政省)通信総合研究所長
  城処求行 (建設省)国土地理院長

測地学審議会測地部会(第25期) 測地部会ワーキング・グループ 委員名簿

委員

主査 小平桂一 国立天文台長
  今井秀孝 (通商産業省)工業技術院計量研究所長
  【中段和宏】 (量子部付)
  久保良雄 (運輸省)海上保安庁水路部長
  【仙石 新】 (水路部航法測地課補佐官)
  飯田尚志 (郵政省)通信総合研究所長
  【今江 理人】 (周波数標準課長)
  城処 求行 (建設省)国土地理院長
  【松坂 茂】 (地理地殻活動研究センター宇宙測地研究室長)

臨時委員

竹本修三 京都大学大学院理学研究科教授
加藤照之 東京大学地震研究所助教授
藤本眞克 国立天文台教授

学術調査官

福島登志夫 国立天文台教授

【 】は、委員代理として指名された者。

お問合せ先

学術国際局学術課

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