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科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について-「知的存在感のある国」を目指して- (答申)

平成11年6月
学術審議会

(目次)

第1章 学術研究の意義と目指すべき方向

1 学術研究の意義
(1)文化・文明の基盤となる学術研究
(2)21世紀の新しい文明の構築に貢献する学術研究
 1.20世紀の文明を支えた学術・科学技術
 2.21世紀の新しい文明構築のための学術研究
 3.先導的・独創的な学術研究推進による「知的存在感のある国」の構築

2 学術研究の目指すべき方向
(1)世界最高水準の研究の推進
(2)21世紀の新しい学問の創造と研究遂行体制の刷新
(3)社会への貢献

3 学術研究の特性
(1)研究者の自主性の尊重
(2)学問の全分野にわたる知的資産の形成・承継
(3)大学等のシステム全体の機能としての教育と研究の総合的推進

第2章 学術研究の振興に当たっての具体的施策

1 優れた研究者の養成・確保
(1)大学院における教育・研究指導の改善・充実
(2)博士課程在学者に対する施策
(3)博士課程修了者に対する施策
(4)若手研究者のプロジェクト研究への参加の促進
(5)若手研究者の適切な経歴形成と研究者全般の流動化の促進
(6)研究者の養成・確保における国際的連携
(7)経験豊かな研究者の活躍の機会の確保
(8)女性研究者の活躍の機会の拡大

2 研究組織・体制の機動的な整備
(1)我が国の研究体制の現状と目指すべき方向
(2)大学等の研究機関の今後の役割
 1.研究組織の多様性の確保
 2.大学の研究組織の役割と使命
 3.附置研究所等と学部・大学院との関係
 4.大学共同利用機関の役割と在り方
(3)研究組織の活性化のための方策
 1.研究組織の柔軟な編成
 2.研究機関間の連携・協力の強化
 3.研究者の流動化の促進
(4)重点分野の特定や研究体制の在り方に関する検討の場の設置

3 競争的研究環境の整備
(1)研究資金の配分システムの整備
 1.デュアルサポートシステムの意義
 2.基盤的研究資金の確保と競争的研究資金の拡充
 3.オーバーヘッド制度の確立
 4.研究費の弾力化
(2)競争的研究資金の拡充・制度改善
 1.科学研究費補助金の拡充・制度改善
 2.日本学術振興会の「未来開拓学術研究推進事業」の拡充・制度改善
(3)研究評価の充実
 1.学術審議会における研究評価に関する審議状況
 2.研究面の機関評価の現状
 3.自己点検・評価の充実の必要性
 4.第三者評価の必要性
 5.第三者評価の方法・基準
 6.第三者評価システムを構築する際の留意点

4 世界水準の研究基盤の整備
(1)政府支出の学術研究関係経費の拡充
(2)研究施設・設備の整備
 1.研究施設
 2.研究設備
(3)研究支援体制の整備
 1.研究支援職員の量的充実と支援体制の強化
 2.研究支援職員の養成・資質向上等
 3.研究支援職員の処遇の改善
(4)学術情報基盤・学術資料の整備
 1.学術情報基盤の整備
 2.学術資料の整備

5 人文・社会科学研究の振興と統合的研究の推進
(1)人文・社会科学研究の重要性
(2)人文・社会科学研究の特性を踏まえた振興方策
(3)人文・社会科学研究の現状を踏まえた振興方策
(4)統合的研究の推進

6 学術国際交流の推進
(1)大学等の国際化の推進
 1.外国人研究者雇用の推進
 2.外国人研究者招へいの拡充
 3.研究者の海外派遣機会の拡充
 4.外国人研究者受入れ体制・環境の整備充実
(2)学術国際交流・協力の戦略的推進
 1.学術国際交流の戦略的推進方策の検討
 2.戦略的学術国際交流を支える研究費の措置
 3.国際共同研究の円滑な実施のための枠組み整備
 4.海外研究拠点の設置
(3)アジアを中心とした学術国際協力・交流の推進

7 社会的連携・協力の推進
(1)学術研究における産学連携等の推進
 1.産学連携の現状と目指すべき方向
 2.産学連携の推進のための体制等の整備
 3.大学等と企業との望ましい関係の構築
 4.産学連携に係る諸制度の改善
 5.研究成果の社会における有効活用
 6.地域との連携・協力の推進
(2)学術研究に関する国民理解の増進
 1.学術研究に関する国民理解の現状
 2.学術研究に関する国民理解増進のための方策

8 学術・科学技術の調和
(1)大学等と試験研究機関等の連携・協力
(2)学術・科学技術の調和

第1章 学術研究の意義と目指すべき方向

1 学術研究の意義

(1)文化・文明の基盤となる学術研究

(ア)大学等(大学及び大学共同利用機関をいう。以下同じ。)を中心に行われる学術研究(以下、単に「学術研究」という。)は、人文・社会科学から自然科学にまで及ぶ知的創造活動であり、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として真理の探究を目指すものである。その成果は、人類共通の知的資産を形成するとともに、産業、経済、教育、社会などの諸活動及び制度の基盤となるものであり、また、人間の精神生活の重要な構成要素を形成し、広い意味での文化の発展や文明の構築に大きく貢献するものである。

(イ)このように学術研究は、社会・国家の存続・発展の基盤となるものであり、その振興は国の重要な責務である。また、未知なるものの探究、すなわち知のフロンティアの開拓は、一国の枠を越えて人類全体への貢献が期待されるものでもあり、国際社会でしかるべき役割を果たす観点からも、国が中心になってその振興に努めるべきものである。

(2)21世紀の新しい文明の構築に貢献する学術研究

1.20世紀の文明を支えた学術・科学技術

(ア)学術研究は、基礎研究から産業・経済の発展につながる実用志向の研究まで幅広く包含しており、科学技術の中核をも成している。また、学術研究は、新しい法則や原理の発見、分析や総合の方法論の確立、新しい技術や知識の体系化、先端的な学問領域の開拓などを目指して行われ、その成果は、科学技術の発展の基盤となっている。

(イ)先進諸国を中心に20世紀の人類の福祉の飛躍的な向上を可能にした点において、科学技術は今世紀の文明を支えてきたものとして、高く評価されるべきものである。他方、効率性追求、大量生産、大量消費、大量廃棄などの言葉とともに想起される「20世紀型科学技術」からもたらされた負の面も目立つようになっており、様々な問題が生じている。これらを背景に、20世紀は、人類の歴史において功罪両面から特異な世紀となっている。温暖化現象、酸性雨、オゾン・ホール、砂漠化などの地球環境問題やエネルギー・資源問題などの顕在化、深刻化とともに、「20世紀型科学技術」を基盤とする文明は、環境も含め地球上の資源が有限で、場合によっては回復不可能なものであること、また、従来型の発展は限界に近づいていることを人類に認識させるに至っている。

(ウ)また、このような「20世紀型科学技術」からもたらされる負の側面が、人々の学術・科学技術への不信感を誘発する状況も生じている。また、学術・科学技術の高度化・専門分化等により、一般の人々の無関心が助長されている。このため、学術・科学技術に対する人々の信頼と関心を確保するための新たな取組が必要になっている。

2.21世紀の新しい文明構築のための学術研究

(ア)21世紀の学術研究及びそれを中核・基盤とする科学技術は、「20世紀型科学技術」のもたらした文明の行き詰まりを克服し、新しい価値観の下に我が国の発展、更には世界・人類の発展を期して、新たな文明の構築に貢献することを目指すものでなければならない。

(イ)平成7年11月に制定された科学技術基本法においても、「科学技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、我が国における科学技術の水準の向上を図り、もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的とする。」としており、我が国が、今後、科学技術を国の発展そして世界・人類の発展への貢献の基盤に据えていこうとする姿勢を打ち出している。

(ウ)21世紀の学術・科学技術が新たな文明の構築への貢献を目指すに当たっては、次のような観点が重要である。

  • 21世紀においても、我が国が20世紀に到達した経済面、生活面等の水準を維持し、更に適正な範囲内で一定の発展を図ることは重要である。しかし、経済のグローバル化に伴うメガコンペティション(大競争)の拡大、産業の空洞化、人口構成の高齢化など、我が国が直面している課題を踏まえると、この到達水準を維持することも楽観視できる状況ではなく、新たな発展のためのフロンティアを拡大する学術・科学技術の役割が一層重要になる。
  • 科学技術の発展とその応用が地球環境問題等を引き起こしたことは事実であるが、他方で自然等と調和した、いわゆる持続的発展を支えるのも科学技術である。今後重要なことは、自然等との調和を内包する持続的発展に適した、言わば「21世紀型科学技術」及びその中核・基盤となる学術研究を推進することである。
  • 人間の物質的欲望を充足させ続けるには限界があり、人間と自然等が共存する中で、精神的充足感により重点を置いた価値体系である「新しい豊かさ」を目指すことが必要になっている。このような新たな価値体系の構築には、人文・社会科学から自然科学に至る英知を結集することが必要であり、この観点からも学術研究の貢献が期待される。なお、健康の増進や新しい感染症を含む疾病の予防・克服、自然災害の防止や被害の軽減、国や社会の安定など、広い意味での健康と安全の確保も、この「新しい豊かさ」の重要な要素であることに留意しなければならない。
3.先導的・独創的な学術研究推進による「知的存在感のある国」の構築

(ア)「21世紀型科学技術」を発展させ、「新しい豊かさ」を目指す価値体系を構築するためには、人文・社会科学と自然科学を統合した研究も含め、先導的・独創的な学術研究を推進しなければならない。

(イ)我が国は、明治以降主として欧米の学術研究の成果を吸収し、経済社会の発展に応用するという傾向にあった。戦後の我が国は、独自の学術研究の成果も多く生みだしてきたが、全体としては、欧米から数多くの基礎的あるいは独創的な研究成果を導入し、その応用化や製品化等により産業を発展させ、世界有数の経済発展を遂げてきた。一定の経済的豊かさを達成した我が国は、21世紀において学術研究の先端を切り開き、人類の知的体系の発展に貢献するという姿勢を示すべきであり、世界の我が国に対する期待も政治・経済面以上に学術・文化面での貢献に向けられると考えられる。

(ウ)我が国は、今こそ先導的・独創的な学術研究を推進させることにより、新たな文明の構築に貢献し、優れた学術や文化が日本から生み出されていると世界の人々に受け止められる状態、言わば「知的存在感のある国」を目指すべきである。

(エ)また、我が国が「知的存在感のある国」となるためには、優れた学術研究を推進することを基本としつつ、その研究成果、研究者・研究機関に関する情報を積極的に海外へ発信することが重要である。そのためには、研究者、研究機関・学会等が海外の各種情報媒体を活用することも含め、このような情報を組織的かつ戦略的に発信することが大切であり、国等も積極的な支援を行う必要がある。

2 学術研究の目指すべき方向

(1)世界最高水準の研究の推進

(ア)世界最高水準の研究とは、必然的に新しい分野・学問を創造するような先導的かつ独創的な研究である。

(イ)我が国の学術研究の諸分野の中には、とらえ方により必ずしも一概には言えないが、世界水準を上回る研究が展開されている分野も少なくない。しかし、一方で全体としては、大きなインパクトを与えるような研究成果・論文が少ないことなども指摘されている。多くの分野で世界の最先端をいくアメリカにおいては、その研究水準の高さや優れた研究環境が世界の研究者を引き付ける魅力となっており、世界各国から集まってくる研究者が最先端の研究を担い、高い研究水準を支えるという好循環を生んでいる。今後は、我が国においても、研究環境の抜本的改善を図りつつ、世界最高水準の分野をできるだけ拡大していくことにより、このような好循環を創出していくことが重要である。また、これに関連して、我が国の優れた研究者・研究機関に関する情報を積極的に世界に発信し、我が国の「知的存在感」を高めることも重要である。

(ウ)今後、我が国は、できるだけ多くの分野で、世界最高水準の学術研究を活発に展開していくことを目指して、内外に開かれた魅力ある研究環境を整備するための重点的投資に努める必要がある。具体的には、中心となる研究拠点の形成・拡充はもとより、研究組織・体制の整備、研究者の養成及び確保、研究費の拡充、研究施設・設備や研究支援体制の整備を進める必要がある。

(2)21世紀の新しい学問の創造と研究遂行体制の刷新

(ア)学術研究の現状を見ると、過度の専門分化、研究テーマの狭小化、論文数を過度に競う風潮、研究者の多忙化及びそれによる研究者コミュニティーの活力の低下など種々の問題も顕在化しつつある。

(イ)今日、細分化され、専門分化した従来の個々の学問体系では充分に説明できない研究対象が生じてきている。また、人類社会が直面している課題の中には、幅広い英知の結集により初めて解決されるものも多い。「21世紀型科学技術」の中核・基盤になると考えられる地球環境科学、情報学、生命科学はその一例であり、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問の統合や融合が必要となってきている。このような学問の統合等は、単に諸学問の寄せ集めではなく、研究対象を従来の学問体系にこだわらずにとらえ直していこうとするものであり、新しい学問、ひいては文明の創造の営みにもつながるものである。

(ウ)さらに、21世紀型の「新しい豊かさ」を目指す価値体系の重要な要素を形成するものとして、人間の在り方、人間と自然の関係などについて探究するため、人文・社会科学を中心に幅広い英知を結集した取組が必要である。このような新しい学問の創造を目指す研究を含め、先導的・独創的学術研究を推進するとともに、その成果や研究者・研究機関に関する情報を世界に積極的に発信することにより、初めて我が国の「知的存在感」が高まるはずである。

(エ)今後、このような観点から、従来の研究遂行体制の刷新と適切な学術振興施策により、先端的分野でのブレークスルーと更なる知のフロンティアの拡大、人間の精神生活の充実と新たな文明の構築への寄与、社会の構造変革への貢献など、学術研究に期待されている役割を果たしていく必要がある。

(オ)なお、以上のような新しい取組を推進していくためには、大学等が既存の組織にとらわれず、学問の動向に対応したダイナミックな組織変革を行う必要があり、現在進行中の大学改革もそれを促進する方向で進められることが望まれる。

(3)社会への貢献

(ア)「21世紀型科学技術」を発展させ、「新しい豊かさ」を構築していくためには、学術研究を担う研究者や学術政策に携わる者が、その果たすべき役割をどのように受け止めて社会的期待に対応するかが重要なかぎとなる。

(イ)学術研究の特性である研究者の自主性を尊重することの重要性にかんがみれば、第一義的には、研究者自身が常日ごろ社会的期待に積極的にこたえていく必要がある。その際、特に災害対策、健康・医療、環境保全等の人々が強い関心を持っている分野について留意するなど能動的に社会的貢献を果たしていこうとする姿勢を持つことが大切である。なお、研究者が社会の各方面から寄せられる個別的・具体的な諸問題について大学等の持つ研究成果の蓄積や研究能力を活用して協力していくことは、その本来の学術研究に対して刺激を与えるという観点からも有意義である。

(ウ)また、学術研究の側で社会的期待を受け止める際には、その内容を批判的な見地から検証することも期待されており、単に受け身の姿勢で臨むのではなく、人々への啓発や社会の構造変革に関する発言なども含め、研究者自身が自律的、かつ積極的に貢献していく必要がある。

(エ)さらに、学術研究が社会的期待に効果的にこたえていくためには、学術研究と、それを中核・基盤とする科学技術の調和を図る必要がある。このため、大学等と他の関係機関との連携・協力が重要である。大学等と、特定の明確な使命(ミッション)を有している試験研究機関等(国公立試験研究機関及び特殊法人等の研究機関をいう。以下同じ。)や経済的価値の創造を目指す企業等は、研究開発の分野・領域については重なる部分もあるが、研究の課題・手法の決定過程や最終的な目的などの面では、それぞれの特性を有している。今後、これらの機関が、お互いの立場を踏まえつつ、有機的かつ密接な連携・協力関係を築くための仕組みを一層整備する必要がある。

3 学術研究の特性

 以上のような考え方で学術研究を推進するに当たっては、次のような学術研究の特性に十分配慮する必要がある。

(1)研究者の自主性の尊重

(ア)研究遂行支援の方法論としては、典型的には、一定の政策課題の解決のため政策決定者により研究計画が企画・決定されるトップダウン型と、個々の研究者の自主的な発意による研究を公募しピアレビュー等により選定するボトムアップ型のものがあるが、真理の探究、知のフロンティアの開拓のためには、ボトムアップ型の研究が決定的に大切であり、そのため、研究者の自由な発想に基づく創造的な研究の遂行と研究意欲の喚起が重要である。このような学術研究は、研究者の試行錯誤の過程を経て知的体系を発展させ、更には新しい学問を創成していく可能性を持っている。また、学術研究の成果は、時を経て格段の進展を見せる場合もあり、研究者の自主性に基づく研究が経済社会の発展につながるような大きな発見・発明を生むこともある。このため、研究者の自主性を尊重することが学術研究推進上の極めて重要な原則として重視される必要がある。

(イ)ただし、自主性の尊重が、研究者の独善を助長するような方向に作用するものであってはならないことは当然である。そのためには、大学等の職域全体として、個々人の適性や資質等に応じて、教育、研究、運営等の役割分担が適切になされ、活力を維持、発展させる仕組みが機能していることが求められる。また、研究者が、自分が行っている学術研究が人類・社会のためにどのような意味を持っているかなどについて自覚できるよう、社会人・教養人として幅広い視野と豊かな人間性を身に付けていることが期待される。

(ウ)なお、研究者の自主性を尊重する学術研究においても新分野の開拓など学問上の要請や社会的期待を反映した課題等でトップダウン型の手法を取り入れた組織的研究が有効かつ適切なものが少なくないが、その場合でも、研究分野・領域や研究課題の設定、研究者の組織化等については、研究者主体の運用が行われることが望ましい。

(エ)また、試験研究機関等を中心に行われる研究は、所管省庁の行政目的の実現等を目指している点で学術研究とは性格を異にしている。このような試験研究機関等における研究においては、研究内容に関する一定の管理が必要となるため、個々の研究の実施体制においてもより管理的な手法が採られることが多い。学術研究と試験研究機関等における研究の総合的推進を図る際には、このような両者の特性の違いに十分配慮しつつ、適切な連携・協力体制により研究活力が生み出されるようにすることが大切である。

(2)学問の全分野にわたる知的資産の形成・承継

 国家・社会の発展、文化・文明の展開のためには、豊かな人類共通の知的資産の基盤が不可欠である。知的資産の形成・承継という重要な役割を果たしている学術研究については、人文・社会科学から自然科学まで含めた各学問分野の総合的でバランスのとれた推進を図る必要がある。

(3)大学等のシステム全体の機能としての教育と研究の総合的推進

大学等は、そのシステム全体の機能として、学術研究の成果を上げるだけでなく研究と教育を総合的に推進することにより、優れた人材を養成することを使命としている。したがって、研究活動の遂行という側面、それを通じた研究者養成という側面、研究成果を踏まえて行われる大学教育という側面の各機能が、相互に密接な関連の下に十分な発展を見るように配慮されなければならない。そのためには、例えば大学院博士後期課程などにおいて、各側面について不断の見直しによる改善・充実が必要である。また、教育、研究、運営等の業務についての適切な役割分担、特に研究については、個々の研究推進、調整、人材の発掘、支援など、研究遂行に必要な種々の側面についての役割分担とそれぞれの役割を担う人材の確保に留意することが大切である。

第2章 学術研究の振興に当たっての具体的施策

 我が国の学術研究の振興は、本審議会答申「21世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」(平成4年7月)において示した方向に沿って推進されてきたが、近年の学術研究を取り巻く環境変化には著しいものがある。このたびの諮問は、こうした変化を踏まえて行われたものであり、諮問理由においても言及されているとおり、ア.科学技術基本計画に基づき学術研究の振興のための施策が実施されてきていること、イ.総合科学技術会議や文部科学省の設置などを含む行政改革が進められていること、ウ.大学審議会の答申を契機に大学改革の機運が高まっていることなどの環境変化に留意して、新たな施策を講じていく必要がある。

1 優れた研究者の養成・確保

 学術研究の推進の基本は、優秀な研究者が育ち、その研究者が十分に能力を発揮し、優れた研究成果を生むことである。我が国の大学等は、これまでも世界的研究者を数多く輩出し、これら研究者が学術研究の発展を牽引してきた。しかしながら、他方、研究者一般の傾向として、専門分野の狭い領域に閉じこもりがちであるといった批判も少なからず聞かれる。
 今後の学術研究には、新しい文明の構築への貢献が期待されており、その担い手である研究者には、困難な課題に挑戦していく精神はもとより、俯瞰的な視野を持って研究に取り組む能力、更には自立性、主体性、創造力、構想力が求められている。また、学術研究における国際交流の意義や、我が国が国際社会において学術研究を通じて、その立場にふさわしい貢献をしていくことの重要性を踏まえると、研究者が外国語能力を含む言語能力を身に付けていることが極めて大切である。大学院や若手研究者の養成においては、これら求められる資質・能力の涵養に配慮する必要がある。
 さらに、今後、世界最高水準の研究を推進していくためには、国内外の優秀な研究者を引き付ける魅力的なリーダーや優秀な若手研究者を育成する伯楽役、研究者を組織し効果的な研究遂行に尽力する調整役などの育成・確保も重要である。
 また、研究者全般の任用、昇進等に当たり、流動性を高める方向で配慮することなどを通じて、研究者が視野を広げながら資質・能力を高めていくことができる環境を形成していく必要がある。
 さらに、研究者が幅広い視野を持って研究を進めていくためには、ゆとりある研究環境を用意することも大切である。また、研究者が文化的素養を身に付けていることも重要であり、今後は、研究者の生涯学習とでも言うべき面への配慮が重要となってくる。このため、大学等の意思決定システムの合理化・効率化や責任の明確化などを通じて研究者が教育研究に専念できる体制を確保するとともに、日常の研究活動を一時的に離れて、自らの資質能力の向上を図ることができるような環境整備も必要である。

(1)大学院における教育・研究指導の改善・充実

(ア)最近の若手研究者は、細分化された専門分野の個別課題のみに関心が集中する傾向があり、各自の専門分野を越えた広い視野を持つことの必要性が指摘されている。

(イ)研究者に求められる資質や能力の中には、学部卒業までの教育によってその基礎的な部分が培われるものもあるが、研究者養成の中心的機関である大学院における教育・研究指導の改善・充実も重要な課題である。

(ウ)博士課程においては、各大学において、専門分野を越えた幅広い分野について教育を行うことができるように、関係教員が協力してカリキュラムを含む教育体制の一層の整備を図る必要がある。その際、関連領域や関連分野の基礎知識の修得も視野に入れることが大切である。

(エ)また、若手研究者の養成過程において、評価に当たり論文数を重視し過ぎる傾向があるため、独創的な課題に挑戦する意欲を削ぐことになっているとの指摘もある。今後は、特に博士論文の審査において、独創性やチャレンジ精神など質的な側面の評価も考慮するなどして、このような傾向を改めていく必要がある。

(オ)近年、大学院は急速に量的拡大を遂げているが、教員組織と施設・設備を充実しつつ、体制整備をしていくことが必要である。

(2)博士課程在学者に対する施策

(ア)研究者の養成及び若手研究者の確保のための施策の中心的課題である大学院学生及び博士課程修了者に対する施策については、日本学術振興会の特別研究員制度などを柱とする「ポストドクター等1万人支援計画」(以下「1万人支援計画」という。)などにより、近年格段の推進が図られてきている。

(イ)日本学術振興会の特別研究員制度は、自由な発想の下で研究課題、研究の場を自ら選んで研究に専念できる機会を優れた若手研究者に与えることを趣旨とするフェローシップであり、昭和60年度の創設以来、研究者の養成・確保の中核的施策として高く評価されている。例えば、平成元年4月から平成3年3月までに採用された特別研究員の5年後の就職状況を見ると、9割以上の者が常勤の研究職に就き、各研究機関で活躍している。このように、本制度は、研究者養成において大きな役割を果たしており、今後とも以下に述べるような点に留意しつつ、拡充していく必要がある。

※(注)日本学術振興会の特別研究員制度には、博士課程在学者を対象とする特別研究員(以下「DC特別研究員」という。)と博士課程修了者を対象とする特別研究員(以下「PD特別研究員」という。)がある。

(ウ)DC特別研究員は、専門の研究者による厳正な審査を経た者に対して研究奨励金及び科学研究費補助金を支給するものであり、特に優秀な学生が研究者として一人立ちしていくことを支援する制度として高く評価されている。このため、博士課程に研究者志向の優秀な人材を引き付ける上で、多大の効果を発揮している。現在、総採用者数は2,860人(平成11年度予算)であり、博士課程在学者の5%弱となっているが、今後、博士課程修了者の需給予測、採用者の質に留意しつつ、博士課程在学者数に応じて拡充していく必要がある。

(エ)リサーチ・アシスタント(RA)は、研究に関連する補助的業務の提供に対して手当を支給することで、将来研究者になることを希望する大学院学生に対する支援及び教育の推進を図るものであり、研究推進と研究者養成の両面において効果的な制度である。しかし、その手当の額や対象者の規模(平成11年度予算においては2、761人)は、現実に大学院学生が提供している補助的業務の質・量に比べて不十分であるとの指摘が多く、一層の拡充を図る必要がある。

(オ)博士課程の在学者は、通常は経済的に自立する年齢段階にあるが、学費と生活費を親などに負担させることが多い我が国の状況は、欧米先進諸国に比べて異例のものとなっている。このような経済的負担が、優秀な人材の博士課程への進学を断念させる事例が多いことも指摘されている。博士課程進学者の「質」が全体として高いことが優秀な研究者を養成・確保するための前提条件であり、日本育英会の育英奨学事業、ティーチング・アシスタント(TA)等の経済的支援を拡充していく必要がある。

(3)博士課程修了者に対する施策

(ア)PD特別研究員は、博士課程修了者が自立した研究に専念できるようにする制度であり、DC特別研究員と並んで優れた若手研究者を養成する中核的な施策である。同制度も、1万人支援計画の中心に位置付けられ、総採用者数は1,550人(平成11年度予算)となっている。

(イ)博士課程修了者に関する需給については、企業の採用動向が大幅に増加するなどの環境変化がない場合には、平成22年ごろには供給過剰になるとの予測もある。このため、PD特別研究員についても、各分野の博士課程修了者の需給予測を踏まえつつ、真に優秀な人材を確保し、またそれらの人材が研究者としての適切な経歴を形成できるよう、拡充していく必要がある。

(ウ)平成9年の博士課程修了者9,860人のうち、直ちに大学・短期大学の教員の常勤職を得た者は1,828人となっている。これらの研究者についても(後に述べるように)プロジェクト研究に参加する場合を含め、適切な支援を受けつつ3年程度研究に従事した後に、常勤の職に就くことが定着するよう段階的に環境を整備することが望ましい。

(エ)なお、PD特別研究員の研究奨励金等の待遇については、他の類似制度との不均衡を解消する方向で計画的に改善していく必要がある。また、特に必要がある場合には、その採用期間に関して特別な配慮を行うことについても検討する必要がある。

(参考1参照)

(4)若手研究者のプロジェクト研究への参加の促進

(ア)日本学術振興会の特別研究員制度以外では、各省庁所管の特殊法人等が政府出資金を活用して実施している基礎研究推進制度などにおける、プロジェクト研究の推進にかかわって多くの博士課程修了者が活躍している。

(イ)今後、大学等の教員の新規採用数については必ずしも増加が見込めないため、研究者の高齢化が進行すると考えられる。研究の活力を維持・向上するためにも、博士課程修了後の若手研究者を学術研究推進のために確保することが必要になる。

(ウ)アメリカなどにおいては、研究助成金によりこのような博士課程修了者を多数確保して、研究を機動的かつ迅速に進めることができる体制になっている。我が国においても、これらの博士課程修了者は、研究推進において大きな役割を果たすようになっており、プロジェクト研究のリーダー的な立場にある研究者は、このような博士課程修了者をより多く、機動的に活用できる体制を整備することを強く求めている。

(エ)これらを踏まえ、若手研究者のプロジェクト研究への参加を推進するため、研究費により、労働者派遣事業者との契約による受入れを促進するなど、環境を整備していく必要がある。

※(注)科学研究費補助金については、従来より雇用関係が生じるような経費は申請できないこととされているが、平成8年12月の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令」の改正により、労働者派遣事業者との契約により研究者等を受け入れることが可能になっている。

(オ)また、プロジェクト研究への若手研究者の参加を促進するためには、プロジェクト研究を推進する立場の研究者が公募して、博士課程修了者を確保できるようにすることについても、可能なものから積極的に対応すべきである。

(カ)なお、1万人支援計画には、こうしたプロジェクト研究へ参加する若手研究者も含まれている。しかし、このような形態の施策は、研究者養成というよりは、研究推進が主たる目的の場合もあり得ることから、プロジェクト研究に参加しようとする者は、参加することの意義や自らの研究上の適性等を見極めて、自己の責任において判断する必要がある。また、受入側もプロジェクト研究の内容や、参加者の役割分担等について十分な説明を行う必要がある。

(5)若手研究者の適切な経歴形成と研究者全般の流動化の促進

(ア)終身雇用がなお一般的な我が国においては、できるだけ早く助手等の常勤の職に就こうとする安定志向が強い。このため、研究能力が急速に高まり、柔軟な考え方や新しい発想の能力を発揮しやすい時期に、自ら研究課題や研究の場を選び、緊張感を持って自立した研究活動を行うという、言わば「修行」する機会が十分確保されているとは言えない。今後の方向としては、博士課程修了後の数年間、ポストドクトラル研究者(以下、「ポスドク」という。)として多様な研究に従事し、研究能力を高めることが通常となり、就職に際し、こうした経歴が研究歴として積極的に評価されるように、分野ごとの状況にも配慮しつつ様々な措置を講じることが必要である。

(イ)若手研究者の適切な経歴の形成のために、支援制度に支えられた博士課程修了後の数年の期間を経て、常勤の職に就くことが一般的な研究者の経歴となるように、上記のPD特別研究員や国立大学等に配置している非常勤研究員などの施策を拡充する必要がある。併せて、助手の在り方についても見直しを検討する必要がある。

(ウ)また、研究活動の活性化を図るためには、研究者の国内外での流動化が求められるが、特に若手研究者が異なる環境の下で刺激を受けることは、研究者養成の上で有益である。このため、若手研究者が常勤の職に就く前に、出身大学にとらわれることなく、自らの研究の発展に最も適した研究機関においてポスドクとして研究を発展させることができるように、制度等環境を整備する必要がある。

(エ)産学官の交流によって、研究者が視野を広げ、社会の諸問題への関心を高めることが期待される。特に若手研究者が交流にかかわることは、企業等にとってより魅力的な人材の育成にもつながるものであり、今後適切な方策を講じて、その推進に努める必要がある。なお、研究者が、産学官の間を移動して様々な経験を積みながら経歴を形成できるよう、給与、退職手当、年金などの仕組みについて検討する必要がある。

(オ)日本学術振興会では、PD特別研究員採用時には出身研究室以外の研究室を選定することを奨励しており、PD特別研究員で実際に研究室を移動した者は約5割となっているが、今後も流動化を促進する必要がある。また、国際的な流動化を促進する観点から、海外特別研究員などの海外派遣事業を拡充することも必要である。

(カ)若手研究者の流動化を促進するためには、PD特別研究員の移動が全国的な規模で行われやすいように、博士課程修了者の関心分野等に関する情報や博士課程修了者の受入れを希望する大学等・研究者に関する情報を適切、円滑・機動的に収集・提供する仕組みを創設する必要がある。

(キ)最近では、流動化と称して若手研究者が一部の有名大学に集まる傾向が見られるようになっているとの指摘がある。我が国の学術研究の発展のためには、若手研究者が各分野における大学等のCOE性などに着目し、真に自らの研究の発展に適した研究場所へ移動しやすいようにする必要がある。

(ク)なお、現在大学等の研究者ポストの公募情報は、学術情報センターのホームページを通じて得られるようになっているが、研究者の流動性を高めるためには、広く研究者ポストに関する情報を利用しやすい形で提供するシステムを整備することも重要である。

(6)研究者の養成・確保における国際的連携

(ア)若手研究者の海外派遣や外国人若手研究者の受入れは、世界水準の研究に触れる機会や異なる発想法を持つ者との交流による知的刺激の授受の機会を拡大することを通じて学術研究の進展に大きく寄与するものであり、必要な施策を推進していくことが大切である。アメリカでは、外国人若手研究者を多く受け入れることにより、これら研究者の養成と研究の活性化に成功していることが指摘されている。今後、我が国においても、諸外国の研究者養成に寄与しつつ、研究を格段に推進していくことができるように、外国人若手研究者の受入れを積極的に進めていく必要がある。

(イ)若手研究者の国際交流を推進するため、今後も日本学術振興会の海外特別研究員や外国人特別研究員の採用数を計画的に拡充していく必要がある。

(ウ)また、外国人若手研究者の受入れについては、研究者養成及び研究の推進の観点から積極的に対応する必要がある。このため、外国人特別研究員だけでなく、各種プロジェクト研究においても受入れが進むよう環境を整備していく必要がある。

(エ)さらに、各国の研究者と我が国の研究者が共同して実施する研究やセミナーに、我が国の大学院博士課程在学者や博士課程修了者を含めた若手研究者の参加を積極的に進めることが求められる。

(7)経験豊かな研究者の活躍の機会の確保

 今後、我が国の学術研究を振興するためには、経験豊かな研究者で特に優れた者の活躍の機会を拡充していく必要がある。このため、海外で活躍している者や、定年制度により研究の継続を断念せざるを得ない者を含め、世界水準の研究者が、国内で研究や若手研究者の指導等に従事できる機会を確保するために、期間を限ったフェローシップの創設などについて検討する必要がある。

(8)女性研究者の活躍の機会の拡大

(ア)学術研究の健全な発展のためには、女性が研究者としてのびやかに活躍できることが重要であり、女性研究者の積極的な育成・採用とともに、女性であることが研究者としての経歴形成の障害になることのないようにする必要がある。このため、大学等においては、女性の学術研究への参画を促すとともに、研究者の意識改革を図り、男女共同参画社会の実現に寄与する必要がある。

(イ)特に、大学等の教員等の選考や昇進の際、あるいは研究テーマや役割分担を決める際には、性別による固定的な役割分担意識に左右されないよう留意し、研究者としての能力に着目して判断していく必要がある。

(ウ)学会等の研究者コミュニティーにおいても、女性が能力に応じて重要な役割を果たす必要がある。また、研究活動や業績が継続して評価されるよう、学会等の研究活動においては、旧姓等の使用について配慮することも大切である。

(エ)さらに、大学等における施設面での配慮や、出産・育児期等における勤務形態の多様化や支援など、女性研究者活躍のための条件整備に努める必要がある。

2 研究組織・体制の機動的な整備

(1)我が国の研究体制の現状と目指すべき方向

(ア)我が国の大学等における学術研究は、国、公、私立大学の学部・大学院研究科のほか、これらの大学に附置されている研究所、学内の共同利用あるいは特定の学部に附属する研究施設など大学内の各種の研究組織に加え、大学等の研究者の共同利用に供するために設置された特定の大学に属さない大学共同利用機関を中心に進められてきた。

(イ)国立大学、大学共同利用機関の研究組織については、従来、
 (a)共同研究体制の拡充(大学共同利用機関の整備、附置研究所の全国共同利用化等)
 (b)研究組織の弾力化(大部門化等)
 (c)研究者の流動性の促進(流動研究部門、客員研究部門の整備等)

 等の観点から、その組織や体制の見直しを行いつつ、研究活動が推進されてきた。また、私立大学では、独自の建学精神に基づき、多様で特色ある研究活動が実施されるとともに、公立大学では、地域に根ざした個性豊かな研究活動も進められてきた。

(ウ)今後、新しい研究領域や分野を開拓し新しい学問を創造していくためには、COEの形成に留意しつつ、多様な学問の動向に応じて、最も効果的な研究組織・体制を柔軟に編成するとともに、流動化を促進する必要がある。特に、学問の統合を進めていくためには、次代の牽引力となり得るよう、研究組織もそれにふさわしいものに再編していく必要がある。

(エ)第一に、学術研究の進展やこれに対応する研究活動の多様な展開の中で、個々の研究組織が、それぞれ、その役割と使命を吟味し、今後の組織や運営の在り方を改めて検討することが必要となっている。大学に置かれる研究組織においては、大学院段階での教育に研究者が組織的に参加することが一般的になってきている。このため、教育研究組織である大学院研究科や、研究所等の各研究組織が、それぞれにその役割や在り方を検討するとともに、大学全体の中での位置付けを明確にしていくことが必要となっている。

(オ)第二に、我が国は、世界最高水準の研究を推進するとともに、学問の統合による新しい学問の創造にも積極的に貢献していくことが必要となっている。このため、各研究組織の役割と使命に即した多様な研究組織を確保しつつ、学術研究の進展に即応して、より柔軟に個々の研究組織の再編成が行われる必要がある。また、研究組織の活性化を図る上で、大学や大学共同利用機関の研究者の流動化を一層促進することも課題となっている。

(カ)さらに、今日、国の関与する活動全般にわたって、国民に対する説明責任の重要性が強調されるようになっている。このような要請に対応するために、各研究組織についても、外部の研究者や有識者の参加等による自己点検・評価の一層の充実や、より中立性・透明性の高い第三者評価システムの導入が課題となっている。また、近年、大学や大学以外の研究機関における多様な研究活動が拡大してきており、それぞれの研究活動をより活性化するだけでなく、限られた資源を十分に活用するためにも、研究機関間の連携協力を積極的に進めていくことが求められている。特に、今後の行政改革の進展や厳しい財政事情をも考慮すれば、大学や大学共同利用機関と大学以外の研究機関との組織的連携を一層積極的に進めていくことが重要な課題となっている。

(キ)他方、我が国全体としてバランスのとれた研究体制の整備を進める観点から、その重点的な整備を進める必要がある。このため、重点的に整備すべき研究領域を適切に設定したり、個々の大学の枠を超えて各分野の研究体制を評価する仕組みを整えることが必要となっている。また、教育研究を推進するための先導的かつ独創的な組織・体制や新たな制度を導入する機関については、国が重点的に支援する必要がある。

(2)大学等の研究機関の今後の役割

1.研究組織の多様性の確保

(ア)我が国の大学等の研究組織には、学部・大学院等の教育研究組織のほか、附置研究所、研究施設、更には、特定の大学に属さない大学共同利用機関や教育組織から独立した研究組織である学系など様々な形態がある。

(イ)これらの中には、全国又は学内共同利用のもの、個別の学部や研究科に附属し、その研究機能を補完するもの、学術情報基盤の整備に関するもの、研究支援機能を有するものなど、様々な機能を有する組織がある。また、同じ形態の研究組織でも、その設置目的や沿革、研究分野の特性等により、その役割や学内における位置付けは多様なものとなっている。さらに、研究機関の中には、特定の領域に関する研究に専念するものや、幅広い分野設定をした上で新たな研究領域を開拓するものがある一方、ポスドクの育成や大学院学生の教育への貢献を重視するものがあるなど、教育研究へのかかわり方においても様々なタイプがある。

(ウ)我が国が世界の最先端に立って学術研究を推進していくためには、今後とも、我が国全体としてこのような研究組織の多様性を確保しつつ、各研究組織がそれぞれの役割と使命を吟味し、その特色を生かしていく上で最もふさわしい組織編成や運営の在り方を考えていくことが重要である。

2.大学の研究組織の役割と使命

(ア)大学の研究組織については、学術研究の動向や社会の変化に対応しながら、その機能を十分に発揮し、高い研究水準を維持することが求められている。特に附置研究所等(大学に附置された研究所、研究施設等で教育組織から独立した研究組織をいう。以下同じ。)は、大学に置かれた機関ではあるが、基本的には、その分野におけるCOEであることが期待されており、言わば当該分野をリードする中核拠点として望ましい組織を考える必要がある。このような観点から、例えば、国内外から優れた大学院学生やポスドクを集めることが考えられる。このためには、まず優秀な研究リーダーを集める必要がある。

(イ)附置研究所等は、研究者の教育分担を軽減し、特定の研究領域に特化して、あるいは新たな研究領域の開拓を目指して、集中的に研究を深める機関として意義がある。また、教育上の組織に比べ、極めて複合的である場合が多いことも特徴の一つである。さらに、それぞれが孤立して研究を進めるのではなく、学内の他の組織における教育研究との密接な連携を前提として、初めてCOE性が発揮されるものである。学部・大学院では、その教育機能の強化に伴う研究者の教育負担が増大しており、また研究も大学院学生に相当程度依存している現状がある。附置研究所等については、学部・大学院より研究者の教育の負担が少ないという特性を生かして、研究の実績を上げていくことが期待される。

(ウ)このような観点からは、他の教育研究組織との有機的な関係の強化により研究上の発展が見込まれる場合は、一層のCOE性の発揮に向けた組織の再編成を検討する必要がある。逆に、COE性を失っている場合には、転換・廃止等を含めて、その在り方を検討する必要がある。

(エ)附置研究所等の在り方を検討する際、どのような形であれば研究の個性が出せるのかを考え、研究者相互の気心が知れて批判も自由にできるような組織独自の文化を大切にすることが重要であるとの指摘もある。

(オ)附置研究所等は、研究組織であるから、基本的には研究面で評価されるべきである。しかし、所管官庁の行政目的の達成等のために設置された試験研究機関等と比較すると、附置研究所等は学部・大学院教育にも関与しているという点に大きな相違点がある。附置研究所等において大学院教育が行われることは、大学院学生に、最先端の研究の場で学ぶ機会や、複合的な組織での研究を経験する機会を与えるという意味で重要である。さらに、教育を通じて新たな学問が構築されるという側面を重視する必要がある。

3.附置研究所等と学部・大学院との関係

(ア)学部・大学院は教育という使命を持っており、体系的で、比較的安定した組織編成をとっているが、人材需要や教育内容の在り方を踏まえつつ、学問の進展に即して柔軟にその編成を見直していく必要がある。その際、各学部・大学院の役割と使命に即して、研究と教育のバランスの在り方を検討する必要がある。

(イ)附置研究所等は、その研究活動の編成上、学部・大学院以上の自由度を持つところから、時代や学問の変化に応じて新領域を開拓しやすいという特徴を有することが望ましい。附置研究所等がその人的・物的資源を活用して、大学院教育に積極的に参加することは有意義であるが、一方、大学院教育に直接かかわらない研究特化の附置研究所等もあってよい。

(ウ)附置研究所等については、なぜ研究所として大学に附置されるのかという議論だけでなく、大学がなぜ附置研究所等を必要とするのかという観点からの積極的な意義付けが必要である。附置研究所等は、その個性を通じて、当該研究所等が置かれている大学に個性を持たせる役割をも果たしている。特に、高度の研究機能を特色とする大学においては、大学として研究所等を積極的に活用するという観点が重要である。また、総合大学においては、幾つかの学部・大学院の教育研究領域にまたがる学際的な領域を対象とする研究を推進するという観点も重要である。附置研究所等の在り方を検討するに当たっては、研究所本来の目的や個性を明確にするとともに、大学の中での役割を踏まえて、大学全体の在り方の中で検討する必要がある。

(エ)附置研究所等が大学院学生を受け入れる場合、特に修士課程の学生が含まれる場合には、大学院としての教育課程を適切に実施する必要がある。この場合、附置研究所等の研究者が、それだけの教育活動を担うことが適当であるのかどうかという問題がある。また、研究科と附置研究所等との再編成の可能性などについての検討も必要である。少なくとも修士課程段階では、研究そのものよりも、将来研究活動に従事するために必要な教育を授けることが重要である。学生が研究活動に従事することを主体とするような人材養成の在り方は、一般的には博士後期課程からとするべきである。

(オ)附置研究所等において大学院学生を受け入れることは、大学院の教育研究の幅を広げることにより大学院教育を豊かなものにするという側面だけでなく、研究所の研究の活性化、研究所の研究分野における後継者の確保、研究協力者や支援者の確保など、多様な意味合いが考えられる。しかし、附置研究所等の研究組織の研究機能を強化するためには、ポスドクの活用など、大学院学生の活用とは別の形で別途優秀な人材の確保を考える必要がある。

(カ)附置研究所等と学内の学部・大学院との研究面や人事面での交流は重要なことであるが、さらに、学外を含めた広い視点からその在り方を考える必要がある。

4.大学共同利用機関の役割と在り方

(ア)特定分野における研究に特化するにせよ、総合的な研究体制を構築するにせよ、今日の多くの研究領域において、多数の研究者の協力による研究体制の確保が不可欠となっている。このため、全国的に各方面から第一線の研究者を受け入れることができ、かつ、研究の進展に柔軟に対応できる共同利用型の研究所が特に重要な意味を持っている。

(イ)研究者の自由な発想を源泉とし、研究者の自主的・自律的な管理運営の下、大規模な施設設備やデータ・資料を全国の大学等の多数の研究者が共同で利用することによって、大学共同利用機関は効果的で効率的な研究活動を行っており、大学の研究の重要な一部となっている。また、大学教育の一環として大学院学生の受入れを行うなど、研究と教育を一体的に実施している。このため、大学共同利用機関は制度上も国立大学と同様の位置付けがなされており、試験研究機関等とは性格を異にしている。

(ウ)大学共同利用機関は、当該学問分野における諸大学のネットワークの中心であり、存立基盤自体COE性を有している。我が国が、今後、「21世紀型科学技術」を発展させ、「新しい豊かさ」を構築していくためには、大学共同利用機関が、研究と教育を一体的に推進しつつ、学術研究の最先端に立って、当該学問分野の牽引者的な役割を担っていくことが期待されている。同時に、例えば、研究者のニーズを先取りして研究開発を行い、積極的に情報発信を行うなど、当該学問分野における拠点性を一層高めていく必要がある。さらに、大学共同利用機関は、そのCOE性を基盤としつつ、研究者や当該機関の情報を世界に発信していく拠点としても大きな役割を担っていく必要がある。

(3)研究組織の活性化のための方策

各研究組織の活性化を推進していくために必要な方策は、
 (a)研究組織の柔軟な編成
 (b)研究機関間の連携・協力の強化
 (c)研究者の流動性の促進
の三点に整理することができる。これらについては、従来から様々な施策や取組が行われてきたが、これらの一層の充実・促進を図るだけでなく、制度やその運用の弾力化を含め、従来の枠組みを越えた新たな仕組みを積極的に採り入れていく必要がある。

1.研究組織の柔軟な編成

(ア)学術研究の最先端に立って、その新たな展開を図っていくためには、研究の進展に対応して、研究組織の再編成が柔軟に行われていくことが不可欠である。このためには、各大学等が、自らの判断と責任により、各研究組織やその内部組織である研究部門などの編成を、学術研究の動向に応じて一層柔軟に設計できるようにする必要がある。

(イ)また、研究者の所属する研究組織やその内部組織そのものは変えずに、研究分野を新たな考え方でくくって研究プロジェクトを進めることも考えられる。

(ウ)積極的な研究活動の展開のためには、更に機能強化に向けた組織の再編成や、廃止・転換を含めた思い切った見直しが必要である場合も考えられる。例えば、学部等に附属する研究施設の中には、当初はCOEとしての役割を担っていたものでも、研究成果の蓄積により、学部や大学院研究科の一部として転換することが適当である場合も考えられる。当該分野の研究内容の展開によっては、これらの組織を統合再編して、新たに総合的な研究組織を設置したり、一部を関連の大学院研究科等で吸収したりした上で、小規模な研究組織に再編することも考えられる。さらに、現在附置研究所等として位置付けられている研究組織を、特定の大学に附置するのではなく、独立した大学共同利用機関に発展的に転換することが適当となる場合も考えられる。

(エ)また、地球環境科学、情報学、生命科学等の新しい学問分野に対応していくためには、既存の組織の枠を越え、広く関連分野の知見を統合・融合していくことが非常に重要である。このため、大学等の組織自体もダイナミックに変容していくことが求められており、講座・研究部門等はもとより、学部・大学院や附置研究所、研究施設などにおいても、新しい学問分野に積極的に対応するという観点から、その在り方を見直す必要がある。また、既存の組織の再編成では対応が困難な場合には、中核的機関の創設など新たな組織づくりを検討する必要がある。

(オ)学術研究推進のためには、後の「研究支援体制の整備」においても述べるように、事務組織を含めた研究支援体制の強化が必要となるが、その際、研究者と研究支援者とがパートナーとして適切に協力し合えるように、機能分担の明確化及びより効果的な連携体制の確立を図ることが重要である。このため、各研究組織における研究支援組織の確立を進めるとともに、数少ない高度な技術を有する研究支援職員が幅広く活躍できるように、各研究組織の枠を越えた共通の研究支援のための組織を整備する必要がある。また、国際協力や産学連携、更には積極的な情報発信への要請を踏まえ、各研究組織においては、必要に応じてその事務組織の在り方を見直し、職員の専門性の向上など事務機能の一層の高度化を図る必要がある。

2.研究機関間の連携・協力の強化

(ア)研究機関間の連携を進める方策としては、フランスの国立科学研究センター(CNRS)において行われているように、大学や研究機関が、他の大学等に研究ユニットを柔軟に設置できるような仕組みを設けることも考えられる。これは、大学の研究の中から生まれたものを更に発展させる手段として、有効に機能するものと考えられる。また、試験研究機関等との連携・協力を円滑に進めるための仕組みとしても、このような方式を検討する必要がある。

(イ)環境、海洋等の新しい複合的・学際的な研究領域の開拓のためには、複数の研究組織の間で、プロジェクト研究等に必要な予算や人員を一元的に運営できる仕組みを設けることも考えられる。このような仕組みができれば、試験研究機関等との連携・協力を円滑に進めるために活用することも考えられる。

(ウ)大学に置かれる研究組織に関しては、大学全体として研究組織の在り方を考えるという観点が必要である。このような観点から検討を進める上では、組織間の連携の問題に限らず、行政機関における教育研究の推進体制を整備する必要があるが、行政側で研究機関と学部・大学院とを異なる部局が担当していることもあり、全体を見渡した判断が行われにくいという指摘がある。このため、大学に関する行政を担当する部局間でより緊密な連携が図られるよう努める必要がある。また、本審議会においても、大学の研究組織の在り方に関する審議に当たっては、研究組織の在り方と学部・大学院の在り方との双方の視点を併せ持った審議が行われる必要がある。

3.研究者の流動化の促進

(ア)研究者の流動化については、既に「優れた研究者の養成・確保」においても取り上げているが、研究組織の活性化を図るためにもその促進が大切である。研究者の流動性を高めるための制度的な措置として、いわゆる選択的任期制が導入されている。任期制は、研究活性化の観点からも積極的に活用されることが望まれる。特に、新しい研究課題に柔軟に対応していくためには、多様な人材を確保することが極めて重要であり、任期制の活用が効果的である。

(イ)研究者の流動化の促進のための組織面での工夫としては、例えば、期間を限った研究になじむものについては、研究課題や研究者が一定期間ごとに入れ替わるタイプの研究組織(いわゆる「流動的研究施設」)の設置を促進することが望まれる。

(ウ)また、国立大学において、非常勤研究員や流動研究部門の拡充を図ることも重要である。流動研究部門を普及させるには、派遣元における教育研究に支障が生じないよう適切な措置を講ずる必要がある。

(エ)研究者が学内または学外の組織において、別の職を兼務することは、本人の視野を広げる上で有意義であり、また、個人の能力を幅広く活用できるメリットがある。職務の内容によっては、兼務が難しい場合もあるが、兼務が可能な場合には、これを適切に活用することも、組織間での研究者の交流を進めるための一つの有効な方策であると考えられる。

(オ)大学や研究組織の方針によっては、研究に集中したいときには一定期間研究組織に所属し、その研究が終了すれば再び学部・大学院に戻るというように、学内における流動性を高めることも考えられる。そのためには、例えば併任などの運用を可能とするために必要な定員上・人事上の取扱いが、より柔軟にできるようにすることも重要である。

(カ)また、研究者が一定期間学生の教育や管理的業務から離れ、場合によっては所属大学等を離れて研究に専念することは、新しい発想を育むために非常に有益である。そのためには、海外の大学等に研究者を派遣する制度や長期研修出張、客員制度等の計画的な活用、あるいは、学部、大学院と研究組織との連携や研究組織内での役割分担の工夫などを検討する必要がある。

(キ)研究者の流動性を確保することは、研究組織の活性化のために重要である。しかし、その具体的な在り方については、研究組織の理念や対象とする研究分野、あるいは研究手法などにより、多様な考え方があり得る。また、研究機関の特色や、大学の個性が研究活動の形で出てくれば、より流動性が高められると考えられる。

(4)重点分野の特定や研究体制の在り方に関する検討の場の設置

(ア)今日の社会的な要請にかんがみれば、例えば、地球環境科学、情報学、生命科学等の新しい分野を担う研究組織を整備充実することが重要であることは、おおむね異論のないところであろう。しかし、学問分野全体をより広く視野に入れた上で、今後重点的に整備すべき研究領域を特定しつつ、全体としてバランスのとれた研究体制の整備を進めていくためには、本審議会にこれらの課題について専門的な観点から審議する仕組みを設けることが望ましい。

(イ)また、我が国の大学等における学術研究体制の在り方を考えるためには、各学問分野ごとに、全国的な観点から、それぞれの領域における研究組織の在り方について、個々の大学の枠を越えてレビューし、提言する仕組みを充実する必要がある。

(ウ)例えば、現在の研究組織の区分(大学共同利用機関、附置研究所、附属施設等)の適切性など、学部・大学院との関係を含め、各研究組織が研究を行う上で適切な体制が採られているか等について継続的に審議し、提言を行うことが考えられる。

(エ)このような仕組みとしては、現在、本審議会に、一部の研究領域について審議する分科会が設けられているが、これにとどまらず、学問領域全体を対象に審議することができる組織を本審議会に設けることが適切である。

(オ)その際、大学や大学共同利用機関だけでなく、試験研究機関等や私立の研究所の状況をも視野に入れる必要がある。また、今後は、総合科学技術会議等の場での大所高所からの政策的な議論も必要である。

(カ)なお、このような審議を行うに当たっては、その基礎となる各種の統計資料の収集・蓄積が必要である。その際、毎年配分される研究費の額の統計のようなものだけでなく、施設や人員の蓄積の状況などの指標についても考慮する必要がある。そのため、文部省の学術政策に関する調査機能の整備を図ることが喫緊の課題である。

3 競争的研究環境の整備

 学術研究の振興においては、優れた研究者の研究活動を積極的に支援することはもとより、知のフロンティアの開拓に挑戦する意欲的な研究や萌芽的な研究にも十分配慮することが極めて重要である。また、競争と評価を通じて適切な資源配分が行われることが肝要であり、それに必要なシステムや環境を整備する必要がある。
 近年の学術研究は、高額の研究施設・設備等を必要とするものが増加している。他方、財政状況は極めて厳しく、今後とも、資源の重点的・効率的配分がより一層強く求められるものと考えられる。このような観点からも適切な競争的研究環境の整備が必要である。
 ただし、学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として行われるため、研究の目的・性格・規模・方法などは極めて多様であり、その中には、長い年月を経て大きな発展を見せるものも多い。したがって、短期的な視野で画一的に目に見える成果のみを性急に期待するような姿勢では、優れた学術研究を育むことはできないことに留意する必要がある。

(1)研究資金の配分システムの整備

1.デュアルサポートシステムの意義

(ア)広範多岐にわたる学術研究の分野・領域の中には、その成果の見通しを当初から立てることが難しいものも多い。このため、研究者が自由な発想に基づいて行う萌芽的な研究や継続的な研究を支えるための基礎的な研究費を含む研究環境が保障されることが望ましい。明治以来、我が国の大学ではこのような認識の下、国立大学においては校費が研究費を含むものとして積算され、公立大学や私立大学においても研究費の確保がなされてきた。このような環境の中で、多種多様な研究が今日まで展開され、その多様性が独創的な研究の源となっている。また、基礎的な研究活動を基盤として、その中から発展の可能性のある優れた研究計画を選定し、優先的・重点的に研究費を投入することができるよう、科学研究費補助金などが用意されている。
 また、これらの研究計画の成果を踏まえ、我が国の未来の開拓につながる創造的な学術研究を指導的研究者によるトップダウン方式で推進する「未来開拓学術研究推進事業」による研究費が日本学術振興会によって提供されている。さらに、これらに加え、文部省以外の各省庁所管の特殊法人等が政府出資金を活用して実施している基礎研究推進制度に係る経費や企業等からの受託研究費・共同研究費・奨学寄附金(以下「外部資金」という。)も充実してきている。

(イ)校費など研究者の基礎的な活動にかかわる基盤的研究資金と、科学研究費補助金、「未来開拓学術研究推進制度」による研究費及び受託研究費・共同研究費等から成る競争的研究資金で構成される研究費の在り方(以下「デュアルサポートシステム」という。)は、これまで学術研究の推進において有効に機能してきたと評価されている。

(ウ)学術研究の推進のためには、今後更に研究者間及び大学間において切磋琢磨していく環境を醸成していくことが必要である。また、厳しい財政状況は、今後も続くことが予想されるため、研究費についても効率的な使用を求める声がますます強くなっていくものと考えられる。これらを踏まえ、競争的研究資金を拡充し、競争的研究環境を整備することにより、研究費の効果的・効率的使用を進めるとともに、重点的な配分を通じたCOEの形成を促進する必要がある。

(エ)その際、近年、経常的研究費は厳しく抑制されており、例えば、国立大学において日常的な教育研究活動を維持するための基盤的な経費として措置されている教官当積算校費の単価は、消費者物価指数の上昇を考慮すると過去10年間に約5%の減となっている。これ以上基盤的研究資金の抑制が続くと基礎的研究環境を維持することができなくなるとの声が高まっており、基盤的研究資金と競争的研究資金によるデュアルサポートシステムの趣旨が十分活かされない状況が生じつつあることに留意しておく必要がある。

2.基盤的研究資金の確保と競争的研究資金の拡充

(ア)上記のような事情から、これまでも機能してきている基盤的研究資金と競争的研究資金によるデュアルサポートシステムを維持することを基本としつつ、経常的研究費を始めとする基盤的研究資金の確保と競争的研究資金の拡充を図ることにより、相対的に競争的研究資金の比率を高めていく必要がある。

(イ)その際、競争的研究資金のうち科学研究費補助金、「未来開拓学術研究推進事業」による研究費は、広範な分野における基礎から応用に至る研究者主体の学術研究を支えるものであるのに対し、外部資金の中でも特に受託研究費、共同研究費は社会的課題に対応しつつ、応用研究を中心に特定の研究領域・課題の発展を促すものであることを踏まえ、研究費全体の構造に留意する必要がある。

(ウ)また、欧米先進諸国においては、研究費を人件費の一部に充当することが一般的である。これに倣って我が国も競争的研究資金の拡充が研究者の流動性を高め、大学間の競争的研究環境の醸成に寄与するよう、欧米と同様の方向で施策を講じていく必要がある。

(エ)なお、経常的研究費のうち、国立大学の教官当積算校費については、自然科学的研究手法の充実などを背景に、特に人文・社会科学の諸分野において、日常的な研究の継続に支障が生じるようなケースも生じており、今後対応策を検討する必要がある。また、近年の大学院の重点的な整備に伴い、多くの大学院研究科で活発に研究指導等が行われていることから、研究指導に係る経費について留意する必要がある。

3.オーバーヘッド制度の確立

(ア)我が国においては、基盤的研究資金によって用意される基礎的研究環境を前提として、その上で競争的研究資金を活用するという考え方がとられているため、これまでのところオーバーヘッドを徴収する制度は確立されていない。

(イ)しかし、オーバーヘッドを徴収する制度は、競争的研究環境を創出する上で、有効な方策である。アメリカにおいては、必要なオーバーヘッドを徴収し、当該大学の研究基盤の整備にこれが活用できるようになっており、競争的研究資金を獲得できる研究者をより多く確保しようとする動機が働く仕組みになっている。我が国も、デュアルサポートシステムを維持しつつも、将来的にはアメリカの制度の長所を取り入れる方向を目指しつつ、当面実施可能な具体策を検討する必要がある。

※(注)アメリカにおける一般的なオーバーヘッドの概念は、設備・備品の減価償却費、建物の管理運営費・保守関係費、研究設備の維持・運営費、図書経費、研究室の事務費、当該大学の事務費等である。

(ウ)また、競争的研究資金の拡充の結果、大学によってはそれへの依存度が高くなっているところもある。競争的研究資金による研究は、それに伴う諸経費の負担が大きいにもかかわらず、競争的研究資金からこれらを徴収することが困難なため、それを経常的研究費によって賄うという状況が生じている。その結果、競争的研究資金を獲得できる研究者をより多く有する大学ほど、経常的研究費が圧迫されるという問題も生じている。本来、競争的研究資金は、基盤的研究資金により用意される基礎的研究環境を前提として活用されるものと考えられているが、近年の競争的研究資金の比率の増大、基盤的研究資金の抑制などの事情を背景に、このような考え方は実態に合わなくなっている。デュアルサポートシステムを前提として、基盤的研究資金を維持する観点からも、競争的研究資金から必要なオーバーヘッドを徴収する制度の導入は喫緊の課題であろう。また、徴収したオーバーヘッドを、当該大学が研究基盤の整備に使いやすいよう、弾力的に取り扱うための方途についての検討が必要である。

4.研究費の弾力化

(ア)研究費の拡充とともに、研究者にとって使い勝手のよい研究費になるよう、例えば、研究費の使途や繰越し等、会計上の弾力化を図っていくことも、その効果的・効率的活用の観点から重要である。さらに、研究に携わる人材不足が研究進展の障害になっているなどの場合には、研究費により大学院博士課程修了者や研究支援者、外国人研究者などを雇用できるように、制度・環境を整備することも大切である。
 なお、その際、国立大学等における財務の透明化を確保することの社会的な要請にも配慮すべきである。

(イ)国立大学等においては、現在奨学寄附金に委任経理金制度が適用されている。
 後の「産学連携等の推進」において述べるように、受託研究費や共同研究費についても、これまで以上に弾力的な使用を可能にする方途を検討する必要がある。

(ウ)さらに、公立大学への外部資金に係る弾力的な取扱いや私立大学に対する寄附金に関する税制上の優遇措置が講じられることが望まれる。

(2)競争的研究資金の拡充・制度改善

1.科学研究費補助金の拡充・制度改善

(ア)科学研究費補助金の拡充
 (a)科学研究費補助金は、人文・社会科学から自然科学までのあらゆる分野における独創的・先駆的な優れた研究を格段に発展させることを目的とする研究助成費で、大学等の研究者又は研究者グループが自由な発想に基づき計画する基礎的な研究のうち、学術上特に重要なものを取り上げ助成する我が国の代表的な競争的研究資金である。この補助金は、大学等の学術研究を推進し、我が国の研究基盤を形成するための基幹的な経費として定着しており、また、我が国から世界に発信している多くの優れた学術研究成果を支えてきている。
 (b)こうした科学研究費補助金については、大学等の研究者はもとより、広く各界からもその拡充に対して大きな期待が寄せられている。学術研究の推進に果たす科学研究費補助金の重要な役割等にかんがみ、加えて、学術研究の高度化・大型化・多様化・国際化及び急速な研究の進展に対応していくため、欧米、特に世界をリードするアメリカの研究費の動向を踏まえつつ、科学研究費補助金の一層の拡充に努める必要がある。
 なお、新規採択率は約25%、申請額に対する交付額の比率(充足率)は約72%という状況であり、拡充に当たっては、採択率及び充足率の向上に配慮する必要がある。

(イ)科学研究費補助金の審査・評価の改善充実
 (a)科学研究費補助金の審査・評価については、公正さ、透明性及び効率性の確保について、更なる向上を図るため、随時その改善が行われてきているが、科学研究費の研究種目のうち、基盤研究等の審査・配分業務が日本学術振興会へ移管されたことを契機として、今後、日本学術振興会との連携を図りつつ、更に改善・充実に努めていく必要がある。
 (b)「系・部・分科・細目」の在り方については、学術研究の動向や申請件数の増減などに配慮しつつ定期的に見直しを行ってきているが、今後とも、不断の見直しに努めていく必要がある。
 (c)また、科学研究費補助金研究成果公開促進費により刊行される学術定期刊行物については、研究成果のより普遍的かつ効果的な普及のため、複数年度にわたる助成及びその上での審査・評価を行うなどの方法を検討することも必要である。
 (d)この他、サンプル抽出で過去の審査が妥当であったかどうかを検討し、審査システムの改善に役立てることも必要である。

(ウ)科学研究費補助金の効率的・効果的な配分と他省庁との連携
 (a)各省庁においても基礎研究推進制度に係る研究費が創設され、それらが大学等にも投入されていることを踏まえ、大学等における基礎と応用の調和のとれた研究の推進、政府予算の効率的な執行の観点から、各省庁横断的な連携・調整を進める方途について、検討を進める必要がある。
 (b)また、科学研究費補助金制度の改善に役立てるとともに、各省庁の研究助成制度の改善に役立てるよう、科学研究費補助金を中心とした大学等における様々な研究費の投入が大学等の研究の充実・活性化にどのように貢献しているかについて、中期的にその傾向を調査・分析し、その結果を公表する必要がある。

(エ)科学研究費補助金の事務処理体制の整備・充実
 今後における科学研究費補助金の拡充と審査制度等の充実を展望しつつ、予想される事務量の増大に対応し得るよう、文部省及び日本学術振興会の事務処理体制の整備・充実を図る必要がある。

2.日本学術振興会の「未来開拓学術研究推進事業」の拡充・制度改善

 日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業については、指導的研究者によるトップダウン的手法を取り入れていること、中間と事後の厳正な評価等先導的な試みを行っていることなど、学術振興の新しい方式として注目すべき展開を示しており、今後もその充実を図る必要がある。その際、個々の研究の必要に応じた柔軟な研究期間の設定、研究分野の設定・研究プロジェクトチームの組織化を行う前にあらかじめその研究の発展の可能性を検証する方式(フィージビリティスタディー)を導入する等の改善を図る必要がある。

(3)研究評価の充実

1.学術審議会における研究評価に関する審議状況

(ア)学術研究における評価については、平成9年12月に本審議会が建議「学術研究における評価の在り方について」(以下「建議」という。)を取りまとめた。この建議には、研究課題の評価、研究機関の評価のいずれにも共通する事柄として、学術研究の特性に配慮した「評価の視点」、「評価者」、「評価支援体制の整備」、「評価結果の社会への発信」が掲げられている。

(イ)研究課題の評価については、「経常的な研究資金による研究の評価」、「一般的な公募型研究の評価」、「学術政策上の見地から推進される研究の評価」に分類してその在り方を取りまとめた。また、研究面における大学等の機関評価については、「外部の研究者や有識者の参加の促進、評価基準や方法の改善・充実などの取組の一層の推進等に努めて、当該研究分野等の特性を踏まえた、定期的な自己点検・評価の一層の定着を図る必要がある。」とした。

(ウ)この度の審議においては、この建議の内容を前提に、更に議論を深めることが必要な分野として、研究面における大学等の機関評価を取り上げることとした。

2.研究面の機関評価の現状

(ア)大学等の自己点検・評価については、平成9年10月現在、国公私立大学全587校のうち、88%の大学で実施している。また、大学等の研究機関においては、自主的に大学外の研究者や有識者の参加を得て評価を行っているところも多い。例えば、国立大学の附置研究所、全国共同利用施設及び大学共同利用機関の全95機関のうち、平成7~9年度に外部評価を実施した機関は、77機関(81%)となっている。このように、大学等の研究機関が自ら研究活動・組織を見直し、活性化を図る動きが広がってきている。

(イ)しかし、一方で自己点検・評価については、研究活動を幅広い視点から点検・評価し、当該機関の欠点や他機関との比較も含めた厳しい評価を行うには限界があるとの指摘もある。

(ウ)大学共同利用機関や共同利用の研究所については、他の大学等の研究者が共同で利用するという性格を有しているため、外部の研究者や有識者によって組織される評議員会や同一分野の研究者の参加を得て組織される運営協議員会などが設立当初より設置されており、外部の研究者等の率直な意見を集約していくための仕組みが確立されている。このため、これらの機関においては、より第三者評価に近い評価が常時実施されている。

(エ)本審議会では、従前より、特定研究領域推進分科会などを中心に特定領域の研究活動全般のレビューや大学共同利用機関等の機関評価を実質的に行ってきている。また、その成果は研究機関の整備など研究体制の整備に活用されており、第三者による機関評価を有効に活用する先例となっている。

3.自己点検・評価の充実の必要性

(ア)一定の限界はあるものの、自己点検・評価は、研究機関としての大学等の組織が自律的に改善・変革を進めていくために極めて重要であることに変わりはない。

(イ)このため、できるだけ効果的・効率的な自己点検・評価が行われ、その成果が活用されるように、自己点検・評価の共通的な基準や手法の研究・開発、成果の公開・流通などを推進していく必要がある。

4.第三者評価の必要性

(ア)大学等における自己点検・評価の取組が広がるにつれて、その限界が浮き彫りになりつつある。このため、それを補い、更には評価の結果をより広い目的に活用することができるよう、第三者による研究評価(被評価機関以外の者が自律的に行う評価であり、以下「第三者評価」という。)についての考え方を整理することが必要になっている。

(イ)研究機関の活動を正確に評価し、研究の一層の活性化を促すためには、第三者独自の観点や広い視野から、当事者からは得られない点検や評価を得ることによって、他機関との比較も踏まえた短所・長所を明らかにしつつ、当該機関の改善につなげていくことが大切である。

(ウ)学術研究の振興のためには基盤的研究資金を確保しつつ、競争的研究資金を拡充する必要がある。他方、近年の厳しい財政状況を踏まえると、今後、学術研究についてもより一層効果的な資源配分を求める声が強まると考えられる。このため、研究機関を正確に評価し、優れた学術研究を行う研究機関を重点的に支援する方向で資源配分を行うことが今後一層重要になってくる。このような観点から評価結果を効果的な資源配分(研究費・定員の配分、機関の改組等)の参考資料の一部として活用することも有効である。

(エ)また、公財政の支援を受ける機関である大学等、特に国立大学・大学共同利用機関は、その研究活動について納税者に対する説明責任を負っている。このような説明責任を納税者の信頼に足る形で果たすためには、公正かつ中立的な立場から行う第三者評価が必要である。なお、このような説明責任を果たすことは、厳しい財政事情の下、国民の理解を得て必要な予算を確保するためにも有意義である。

5.第三者評価の方法・基準

 第三者評価においては、建議において取りまとめられている評価の視点等関連部分のほか、特に次の点に留意する必要がある。
 (a)自己点検・評価を充実しつつ、これを第三者評価の基盤とすること。
 (b)公正な仕組みを構築するとともに評価システムの透明性を確保すること。また、評価結果を資源配分の際の参考資料の一部として活用することが有効であること。
 (c)当該専門分野の研究者による評価(ピアレビュー)を中心としつつ、各種データも活用した総合的な評価を行うこと。その際、評価者及び被評価者の負担が過重にならないように留意すること。
 (d)画一的・短期的な視点から目に見える成果のみを性急に期待するのではなく、長期的に優れた学術研究を育むという観点を重視すること。
 (e)独創的研究・萌芽的研究の芽を育てるように留意すること。また、創造性豊かな研究の推進という観点を重視すること。さらに、研究成果のみでなく、そのプロセスも評価すること。
 (f)過去の研究業績・成果はもとより、現在の研究内容や今後の研究動向にも留意すること。
 (g)研究分野によっては、長期の研究を必要とするものもあることに留意すること。
 (h)大学等においては、教育と研究を一体的に推進しているため、研究評価においても教育や人材養成への貢献の面まで配慮すること。
 (i)相対的に劣悪な研究環境にあっても比較的大きな成果を上げる場合もあるので、研究者数や研究環境にも留意すること。
 (j)単に論文数などによらず、研究活動・研究成果の質的評価を中心に行うとともに、他機関との比較も可能な方式とすること。
 (k)次のような視点を含む多元的な質的評価を行うこと。

  • 国際的な視点を踏まえた研究水準、独創性、当該研究の今後の発展性、他の研究分野・学問分野への貢献・新技術の創出、特許等の知的財産の形成、新産業基盤の構築、生活基盤の強化、政策形成への寄与、地球規模の課題の解決を含む社会・経済への貢献
  • 研究機関の設置目的・使命や目指す方向に照らした達成状況

 (l)研究評価の結果について、被評価機関による意見表明の機会を確保すること。

6.第三者評価システムを構築する際の留意点

(ア)第三者評価の実施に当たっては、まず、その実施方法、有効性などについて十分な調査研究が行われる必要がある。

(イ)第三者評価を行う評価者としては、高い見識を持ち、学問の動向をも踏まえて評価ができ、その評価が十分尊重されるような優れた人材を育てる必要がある。

(ウ)充実した第三者評価を行うためには、優れた評価者を育てることや評価に必要なデータを収集することも含めて、必要な経費を確保する必要がある。特に、ピアレビューに適切な人材を得るためにも、評価に参加する研究者への報酬について業務にふさわしいものとなるように配慮する必要がある。

(エ)第三者評価を行う際には、研究に関する情報収集の中核的機関である学術情報センターとの連携・協力を図る必要がある。

(オ)学術研究推進のためには、研究機関の在り方など研究体制についても、研究者の専門的な見地からの意向が反映されることが大切である。このため、本審議会は、これまで実質的に行ってきた第三者的な立場からの機関評価的な機能を含め、これまでの役割を引き続き担っていく必要がある。

4 世界水準の研究基盤の整備

 科学技術基本計画によって、資金面での研究環境の整備は競争的研究資金の拡充を中心に進みつつあるが、まだ十分とは言えないことが指摘されている。他方、研究施設・設備、研究支援体制、学術情報基盤・学術資料等の整備は、アメリカなどに比べて立ち後れている。このような研究基盤整備の立ち後れが隘路となって、研究費の拡充に見合った研究成果が上がらなくなるという可能性も指摘されている。
 すなわち、21世紀における新しい学問の創造や世界最高水準の研究を推進するためには、その基礎的条件である研究基盤を、アメリカなどを念頭において世界水準にまで改善・充実することが今後の重要な課題である。

(1)政府支出の学術研究関係経費の拡充

(ア)科学技術基本計画の趣旨に沿って政府研究開発投資が行われてきた結果、平成11年度予算における国全体の政府支出の科学技術関係経費は約3.2兆円となっており、8年度から11年度までの累積額(補正予算分を含む。)は13.3兆円である。

(イ)近年の政府支出の科学技術関係経費を見てみると、当初予算は、例えば平成7年度の2.5兆円から平成11年度の3.2兆円に28%増加してきている。また、大学等の科学技術関係経費(文部省が支出した学術研究関係の経費で、政府支出の科学技術関係経費の内数。以下「学術研究関係経費」という。)は、同期間に1.2兆円から1.3兆円に8%増加している。このように、この間の学術研究関係経費は、国全体の政府支出の科学技術関係経費に比べると比較的穏やかな伸びにとどまっている。その結果、国全体の政府支出の科学技術関係経費に占める学術研究関係経費の比率は、平成7年度の46.3%から平成11年度の42.7%に低下している。なお、参考までに大学等における教育研究費のうち公財政支出分の対国民所得比について国際比較すると、日本(0.9%)、アメリカ(1.4%)、イギリス(1.1%、うち大学のみ1.8%)、ドイツ(2.0%)となっており、我が国の教育研究費に関する公財政支出水準は低い(アメリカは1993年、他は1994年の数値)。

(ウ)大学等に対する現状の投資水準では、長期的には、我が国における学術研究の基盤の弱体化を招くおそれがあり、今後一層の配慮が必要である。大学等においては、特に経常的研究費などの基盤的研究資金、施設・設備、研究支援体制等の拡充・整備が立ち後れており、これらが研究の進展を妨げる可能性も指摘されるようになっている。冒頭で述べたように、科学技術の中核・基盤であり、21世紀の新たな文明の構築に貢献することが期待されている学術研究については、国が責任を持って振興に努める必要がある。競争的研究資金の更なる充実も含め、国としての努力が求められる。

(エ)なお、総務庁の「科学技術研究調査報告」により平成8年度の研究本務者一人当たりの研究費(自然科学分野のみで人件費を除く。)を比較すると、大学等483万円、「国営研究機関」2、824万円、会社等1、419万円となっている。研究者一人当たりの研究費については、研究の形態・内容等が多様なために適切な規模を想定することは極めて困難であり、単純な比較はできないが、大学等の研究者一人当たり研究費については大幅な改善の余地があると考えられる。

(2)研究施設・設備の整備

1.研究施設

(ア)我が国における大学等の研究施設の老朽化、狭隘化には著しいものがある。また、各国の制度の相違から厳密な比較は困難であるが、美観も含めたキャンパス全体の環境水準は、近年に整備されたものを除き、欧米先進諸国の主要大学の施設と比べて劣っていると指摘されている。
 また、世界最高水準の研究を行うためには、国内外の優秀な研究者を引き付けるような研究環境を備えることが必要であり、この観点からも研究施設の改善・充実が望まれる。

(イ)近年、大学院学生、研究員、留学生等の増加や多様な実験機器等を必要とする研究が増加しているにもかかわらず、研究用スペースの拡充が追い付かないため、狭隘化が進んでいる。このような、研究用スペースの老朽化、狭隘化は、研究の効率を低下させるとともに、場合によっては、研究者の安全確保上の問題を引き起こすような状況をも生じている。
 多数の大学院学生、研究員、留学生等を抱える研究室や実験室については、それに見合った十分な研究用スペースを確保する必要がある。特に、大学院学生のためのスペースの確保については、大学院の拡充や留学生の増加に併せて速やかに整備されることが望まれる。

(ウ)平成8年に策定された科学技術基本計画においては、国立大学等について、「新たな基準による狭隘化の解消及び老朽施設の改築・改修に約1200万が見込まれている。」とされているにもかかわらず、目立った改善がなされていないため、今後一層の計画的整備を図っていく必要がある。
 私立大学等についても、社会的要請の強い研究プロジェクトの推進を図るという観点から、中核的な研究組織に対する支援を推進するなど研究機能の高度化を図る必要がある。

(エ)しかしながら、限られた予算の下、短期間に必要な施設整備を行うことは極めて困難であり、学問の動向、研究活動の状況、COEの形成などの観点から、ある程度対象を絞り込んだ重点的な整備や、施設の利用形態の見直し等既存施設の有効活用を進めていかざるを得ない状況にあり、その具体的な方策等について検討していく必要がある。

(オ)研究施設の重点的整備については、競争的研究資金の獲得状況等に応じて、その研究用スペースをより重点的に配分する仕組みを整備することが考えられる。
 また、今後とも可能な限り研究施設の共同利用化を推進していく必要がある。
 さらに、多額の研究費を得ても、十分な研究用スペースがなく、効果的な研究を展開しにくいという声にも対応して、(a)学内に共用の研究施設を設置し、獲得した研究費に応じて一定期間優先的に使用できるようにする、(b)地方自治体と連携して、共同の研究施設を確保する、更には、(c)研究施設を外部に設置することも検討する必要がある。例えば、外部資金を受け入れた場合には、その研究費の一部をレンタル方式による施設の借上げに充てるなどして研究用スペースの確保を図ることなどが考えられる。この場合の研究施設は、特別な設備の据付けが必要でなく、かつ、一定の期間に限って研究を推進するプロジェクト研究において、特に有効と考えられる。フランスのCNRSの研究所については、保有施設はわずかであり、多くは時限付きで共同研究に便利な場所に研究施設を作るなどして研究を実施している。

(カ)なお、私立大学等については、日本私立学校振興・共済事業団が行う長期・低利の貸付事業により研究施設整備に対する支援がなされている。また、学術フロンティア推進事業等の補助が行われているところであり、今後もこれらの事業の推進を図ることにより、私立大学等の研究施設の整備を図る必要がある。また、公立大学についても、研究施設整備のための経費が確保されることが望まれる。

2.研究設備

(ア)近年、学術研究の進展とともに、研究設備は大型化、高性能化の傾向にある。先導的・独創的な学術研究の推進を図るためには、研究者が常に最先端の研究設備の下で研究を実施し得る研究環境の整備が不可欠である。しかし、現状では、研究設備の整備が十分でなく、また、全体的に老朽化・旧式化し、必須の研究設備も不足する傾向にあることが指摘されている。

(イ)今後も研究設備の老朽化・旧式化の状況に配慮しながら、(a)いかなる分野の研究の遂行においても必要不可欠な基盤的設備の計画的な整備、(b)新しい研究分野の開拓に資するような先導的設備の重点的整備を図っていく必要がある。

(ウ)なお、研究設備の開発速度は年々速くなっており、旧式化がますます速く進む傾向がある。効率的な整備のためには、可能なものについては、レンタル方式を推進することも必要である。また、設備の有効利用及び整備の効率化等の観点から、できる限り共同利用の促進を図ることが重要である。

(エ)さらに、設備の性能を最大限生かして、有効利用していくためには、設備の運転・維持管理等に係る維持費の充実に努めるべきことは当然の前提である。
 なお、科学研究費補助金や外部資金等で購入した設備の研究期間終了後における運転費及び維持管理費の確保についても検討する必要がある。

(3)研究支援体制の整備

1.研究支援職員の量的充実と支援体制の強化

(ア)学術研究推進のためには、研究を支援する側の人材の養成や確保もまた必要不可欠である。科学技術基本計画では、「国立大学等において研究者一人当たりの研究支援者数がイギリス・ドイツ・フランス並みの約一人となることを目標として、研究者二人当たりの研究支援者数が早期に約一人となるよう、大学院学生のリサーチ・アシスタント(RA)制度や高度な技能を有する外部人材の活用を図る研究支援推進事業の拡充等により、研究補助者及び技能者を新たに確保する。」とされている。
 平成10年度においては、研究者一人当たりの研究支援者数は、0.13人(総務庁調べ)となっており、今後一層の改善が望まれる。

(イ)研究支援職員の不足と研究支援業務の高度化を背景に、大学院学生がリサーチ・アシスタントとして活躍するという状況が生じている。同制度は、大学院学生が研究の補助的業務を通じて自らの研究能力の向上を図ることを期待するものであり、今後も拡充する必要がある。さらに、研究支援体制の強化のためには、研究支援推進事業の拡充や労働者派遣事業の活用などを総合的に推進する必要がある。

(ウ)研究支援者の確保に当たっては、研究費により労働者派遣事業を活用することが現実的な対応であり、労働者派遣事業者との契約による受入れを促進するなどの環境を整備していく必要がある。

(エ)研究支援業務のうち、外部委託等により対応が可能なものについては、外部委託を促進することが考えられるが、特に実験系研究の一部では、当該研究機関において装置を手作りすることや技術を継承することの意義が大きい。大学等における装置の製作については、研究者と技術者が一緒に自分達で考えながら物を作っていくという姿勢が、独創的な研究をする上で不可欠であることが多い。また、研究者と技術者との密接なかかわり合いによって、研究者が触発されること、また、技術者に大きな教育効果をもたらすということに留意し、研究支援体制の在り方を考えるべきである。

(オ)また、数少ない高度な技術を有する研究支援職員が、技術を継承しつつ幅広く活躍できるように附置研究所、学部・大学院等の枠を越えて研究支援を行う体制の整備が必要である。このため、これらの枠を越えて、機器・装置の要員、オペレーターなどを集めた共通の研究支援のための組織を整備する必要がある。
 大学等においては、組織的な技術の継承が望まれており、そのためには、研究支援のための独立した組織(技術部・室)が確立される方向で組織の整備を図る必要がある。

(カ)技術的支援以外では、例えば、図書、情報、国際、特許等の業務について適切な支援体制が必要である。このような専門的支援については、既存の関係事務部門を統合・改組・充実するとともに、職員の専門性の向上を図る必要がある。また、場合によっては労働者派遣事業を活用することも考えられる。

(キ)学術研究推進のためには、技術組織・事務組織といった研究支援体制の強化が不可欠であり、その際、研究者と研究支援者とが相互に協力し合えるように、機能分担の明確化、信頼関係の確保、連携協力関係の確立を図る必要がある。

(ク)特殊な分野で高い技術を持った人材が大学外にいるが、そのような人材に関する情報が不足している。したがって、かつて技術職であった者など、研究支援者の人材に関する情報やそうした人材を求めている大学等に関する情報を集中的に収集・提供する方向で具体策を検討する必要がある。

2.研究支援職員の養成・資質向上等

(ア)限られた研究支援に係る人材が、十分に活躍できるように、また、相互の交流を通じて技術の向上を図ることができるように、大学等の間の連携・協力を推進する必要がある。

(イ)さらに、研究支援者に能力の高い人材を確保するため、研究支援者の養成に努めることが重要であり、修士課程修了者や学部卒業者が、例えば、一定の期間、研究支援組織がある大学等において、奨励金の支給を受けながら技術者としての実務研修を受ける仕組みについて検討する必要がある。

3.研究支援職員の処遇の改善

(ア)研究支援機能の充実を図るためには、研究支援業務の社会的評価を高める必要がある。研究支援職員の処遇面を改善するには、技術系職員が経歴を形成していくことができるように、研究支援のための組織を確立する必要がある。大学共同利用機関や一部の国立大学附置研究所で組織の整備が進んでいるが、今後更に、その推進を図る必要がある。

(イ)研究支援者の処遇が能力の向上に応じて上がっていくことが重要である。また、研究支援者がその経歴を形成していく過程においては、研究の第一線で研究者と共同作業をしているという誇りや生き甲斐を持てることが大切である。研究支援業務については、それによって支えられた研究の進展を踏まえた評価がなされ、その評価に基づいて研究支援者の適切な処遇と昇進が確保される必要がある。

(4)学術情報基盤・学術資料の整備

(ア)図書館を含む学術情報基盤、学術資料は、それ自身研究開発的側面があるだけでなく、(a)研究者間における研究資源及び研究成果の共有、(b)研究成果の一般社会への発信、啓蒙及び次世代への継承、(c)研究活動の効率化・安全の確保等に資するため、これらを整備することは、学術研究全体の進展を支える上で極めて重要である。

(イ)学術情報基盤、学術資料は、それがまさに学術研究のインフラ(基盤)であるがゆえに、整備の効果が見えにくく、効果を量的に評価することが困難であるため、ともすれば各種施策の中で優先順位が低くなる傾向にある。しかし、これらは競争原理や市場原理にゆだねることができない分野であり、学術研究全体の衰弱を招くことのないよう、一定規模の資本投下を継続して行っていく必要がある。

(ウ)また、学術情報基盤の構築及び管理・運用を担当する研究者については、論文や特許と同様に、データベース、ソフトウェア、情報システム等も業績として積極的に評価する必要がある。

1.学術情報基盤の整備

(ア)情報ネットワーク
 (a)学術情報センターを中心とした学術情報ネットワーク(SINET)は、年々整備が進められ全国の国公私立大学等764機関(平成11年3月現在)がこれに接続するとともに、国際的な情報交流を促進するため海外(アメリカ、イギリス、タイ)とも接続し、高速化、高度化を図ってきている。
 また、産学官の研究情報の流通を促進するため、省庁の枠を越えて試験研究機関等を結ぶ省際研究情報ネットワーク(IMnet)及び民間ネットワークとの相互接続を行っている。
 (b)学術情報の量は近年増大し、形態も多様化してきている。それらに対応したネットワーク、コンテンツ(文書、画像、データベース等のネットワークを流通する情報資源)、アプリケーション(個々の応用目的をもったコンピュータソフトウェア)等、学術情報の基盤整備は大学等における教育研究活動にとって必要不可欠なものとなっている。
 (c)情報ネットワークの整備については、情報通信技術が数年で急速に変化することを考慮しつつ、当面は学術情報ネットワーク(SINET)を充実することが現実的である。
 (d)また、情報ネットワークの整備に当たり、学内LANの高機能化にも計画的に取り組むとともに、地域的あるいはグローバルなインターネット利用等も考慮したシステム構築が必要である。

(イ)コンテンツ及びアプリケーション
 (a)今後の情報流通を考えた場合、あらゆる情報(コンテンツ)は、全体的に見れば紙媒体のものから電子媒体のものへ移行する方向にある。
 (b)デジタルコンテンツ作成に当たっては、予算の制約から、保存の必要がある貴重図書や速報性が求められる情報等から順次行うことが現実的である。
 (c)コンテンツやアプリケーションソフトの大学等間の効率的な相互利用を図るため、中核的な組織で各種データベースのナビゲーション機能の充実を図る必要がある。

(ウ)大学図書館
 (a)図書館資料の収集に必要な予算は、対象となる文献等資料の価格の高騰や予算の実質的漸減傾向によってひっ迫している。資料購入予算の確保を図るとともに大学図書館間の分担収集、現物貸借や文献複写サービス等の機動的な相互利用を更に促進する必要がある。
 (b)相互利用の前提として図書の目録情報、所在情報のデータベースが必要であり、目録所在情報の遡及入力は緊急に対応すべき課題である。
 (c)大学図書館における電子図書館的機能の整備・充実を推進するとともに、図書や雑誌等の紙媒体資料に加え、画像資料や音声資料等の収集・充実を図る必要がある。
 (d)図書館資料の保存スペースの不足が深刻であり、迅速なドキュメントデリバリー機能を備えた保存図書館(集中文献管理センター)を設置し、利用頻度が極端に少なくなった重複図書の廃棄について具体的な検討を行う必要がある。

(エ)情報関連組織
 図書館、大型計算機センター、総合情報処理センター等は、それぞれの目的に応じて設置されたものであるが、学内において教育研究を支援するための情報関連組織という共通の側面もある。各大学や組織の状況に応じて学内における人材や機器等の有効な活用の観点から、有機的な連携を強化することや、組織を再編成して一体化することなどの工夫を進める必要がある。

2.学術資料の整備

 (a)生命科学研究の推進において必要な実験動物を含む生物遺伝資源、種々の分野の研究推進上必要な放射性同位元素、学内における学術標本等の学術資料については、広範な研究者等が必要とするものを利用しやすい形で提供できるようなシステム整備が必要となっている。

 (b)生命科学等の進展に対応して、生物遺伝資源の収集、維持、保存、供給を円滑に行う事業、動物実験や系統保存のための実施体制を充実・整備することが必要不可欠となっている。研究者間でその重要性を常に認識し、人材確保を含め、これらの事業を積極的に推進する必要がある。

 (c)放射性同位元素(RI)は生命科学や物質科学等、広範な分野で研究資材として利用されており、今後もその利用を推進する必要がある。利用に当たっては特に人体や環境への安全に十分配慮し、安全確保のための体制整備を引き続き行っていく必要がある。

 (d)学内の貴重な学術標本については、研究者の利用に供するとともに、一般市民にも公開するなど学術への理解を深めるという観点からも活用の道を探るべきである。多くの大学では、資料が各部局や研究室に分散して保存されているが、その所在を明らかにしつつ保存活用に適した状態に整備していく必要がある。また、大学の規模や状況により、資料を一か所に集中する大学博物館方式を採る大学が増えつつある。
 これら学術資料については、近年の学際的研究領域の拡大とあいまって広範な分野の研究者等による利用頻度が高まってきており、大学博物館は学術標本の分析・解析法の開発による情報の創出や学術標本・画像データの提供等を通じて教育研究に資することが大切である。また、大学博物館は、社会に対し大学を開放する上で大きな意義を有し、今後、相当規模の大学には引き続きその設置を図っていく必要がある。

5 人文・社会科学研究の振興と統合的研究の推進

 学術研究が新しい文明の構築に貢献するためには、人文・社会科学から自然科学までの幅広い分野の研究が統合的に推進される必要がある。人文・社会科学は、今後ますますその重要性が増していく分野であるが、その特性などから、学術研究全般の振興の中で論じるだけでは十分でない面があり、特段の配慮が必要である。

(1)人文・社会科学研究の重要性

(ア)人文・社会科学は、個人や集団の本性及び行動等を対象とし、その研究成果は、文化的諸問題あるいは社会的・経済的・政治的諸問題への対処や解決のための基礎や、個人の精神生活の基盤を築くものである。このような人文・社会科学は、自然の法則を探究する自然科学とともに重要な文化的価値を有し、長期的な社会経済、文化の発展に貢献するものであり、これを積極的に推進する必要がある。

(イ)さらに、21世紀が間近に迫った今日、改めて人文・社会科学研究の推進を課題として取り上げる背景としては次の点が考えられる。
 (a)自然科学及び技術の成果は、社会の発展や生活の向上に貢献する一方で、人類の生存や基本的な倫理観さえ脅かすことがある。地球環境問題や生命倫理に関する問題がその例であり、これらの問題は今後一層深刻化すると予想されるが、自然科学や技術そのものだけではそれを解決できないと考えられる。
 (b)情報化の進展等に伴う生活の複雑化、人口構成の高齢化等に伴う社会構造の変化、既存の経済理論では予測・対処できないような経済変動など、現代社会が抱える問題で人文・社会科学が取り組むべき課題も増加している。

(2)人文・社会科学研究の特性を踏まえた振興方策

(ア)人文・社会科学は、その多くが個人研究中心の学問であり、その進展は、研究者個人の意識に負うところが大きく、各種推進施策の効果にもおのずと限界がある。したがって、人文・社会科学の発展のためには、個々の研究者が人文・社会科学に期待されている諸課題に積極的に取り組んでいく姿勢を持つことが何よりも重要であり、施策面では、そのような研究者の意識を喚起し、研究遂行に必要な環境を整備することが必要であろう。

(イ)人文・社会科学研究においては、図書・資料、データベースを始め、これらの情報を検索するためのシステムや情報通信システムの整備が極めて重要であり、これらを総合的に整備し、研究のための情報基盤を充実する必要がある。特にデータベースについては、それが効果的に活用されるよう、全国的あるいは国際的に共用される大規模なものを構築することについても検討する必要がある。

(ウ)人文・社会科学研究においては、歴史的発展段階や地域的な広がりの中から研究対象が特定されるため、その学問領域で主要な言語の習得が重要である。また、優れた業績は、研究者の母語で発表される場合が多いため、人文・社会科学の研究者は、複数の外国語を習得することが必要となる場合が多い。このため、若手研究者が外国語の習得など研究者としての基礎を身に付けることができるよう必要な支援を行う必要がある。

(エ)人文・社会科学研究においては、一般に長期間にわたり地道な研究を続けることが必要な場合が多い。特に、国外におけるフィールドワークの実施や資料収集が困難な場合には、資料の収集・分類と解読・分析に多大な時間と労力を要するため、博士論文を含め、研究の完成までに長期間を必要とする傾向がある。

(オ)これらを踏まえ、例えば、研究費の措置について、より長い期間を可能にするなどの配慮を行う必要性の検討が望まれる。また、研究対象に関係する地域に出向いて調査等を行うことが必須の研究領域については、長期間にわたり旅費等を含む経常的な研究費を支援できる仕組みを検討する必要がある。

(カ)国立大学の教官当積算校費は、長期間にわたり地道な研究を続ける場合が多い人文・社会科学研究にとって重要な経常的研究費である。しかし、この分野においてもフィールドワークや自然科学的研究手法等が一般化しているにもかかわらず、積算単価が研究内容にふさわしいものとなっていないとの指摘もあり、大学内での執行の在り方なども含め見直しが必要である。

(3)人文・社会科学研究の現状を踏まえた振興方策

(ア)人文・社会科学、特に人文学においては、分野・領域によって研究者の層が極端に薄いものがある。古典など文化の継承の観点から大切にしていくべきものや、特定地域の言語のように学問の総合的発展の観点から大切にしていくべきものもあるので、大学院や研究機関の整備の際にはこれらの分野や領域について配慮する必要がある。

(イ)研究者が世界最高水準の研究に取り組み、国際交流も積極的に行っていくような環境を醸成するためには、その業績等について人文・社会科学研究の特性に配慮した厳しい評価が必要である。その際、学問の細分化を進めることになる論文だけに依存した評価でなく、専門研究者間相互の連携の下に、国際的な視点も含む評価を行うことが必要であり、その一環として例えば、本審議会に人文・社会科学の学問の動向や研究状況などを分析・評価する組織を設けることも考えられる。また、新しい学問の芽ばえを評価することなども含め、評価の在り方についての研究を進める必要がある。

(ウ)人文・社会科学、特に社会科学は、個人や集団としての社会を対象とするものであるにもかかわらず、実際には現実の社会的課題に取り組む姿勢が弱いとの指摘もある。このため、人文・社会科学研究の成果から実社会の問題解決の手掛かりになるような知見が余り出ていない。今後、社会的要請も踏まえ、より現実的な社会的課題に取り組む研究を推進していく必要がある。

(エ)人文・社会科学の分野で社会的課題への取組を強化するためには、大学等の研究者が比較的若いうちに一定期間、行政機関や企業等で企画・立案業務等に携わる機会を持つことが有効な場合もあり、そのための方策を検討する必要がある。

(オ)さらに、学会誌以外の出版物等に発表される現代的な社会問題に関する研究が適正に評価されるよう、例えば自己点検・評価の際に留意することなども必要である。また、我が国の研究者の優れた業績を翻訳・出版し、積極的に発信していくための仕組みが必要である。

(カ)人文・社会科学においては、従来国際交流が低調で外国の研究方法や成果、文化を国内に向かって紹介するにとどまり、我が国の研究成果を世界に発信することが少なかったとの指摘がある。この背景には、人文・社会科学は自然科学と異なり、それぞれの国・地域の歴史・社会構造と密接にかかわっていることから、国際的な交流・協力、あるいは競争になじまない分野があるという事情もある。今後、国際化の中でこれらの分野の一層の発展を期するためには、国際的な交流・協力を推進しつつ国際的評価の下で研究を進める必要がある。特に、地球環境問題、人口問題、エネルギー問題などの地球規模の課題の解決のためには、人文・社会科学から自然科学までの幅広い分野にわたり、国内外の研究者の協力が必要であり、人文・社会科学分野の研究者も積極的に国際交流に取り組むことが大切である。このため、外国人学生・研究者の受入れ、我が国の研究者の海外派遣、外国語による論文発表、国際的な共同研究・シンポジウムなどを積極的に実施する必要がある。

(4)統合的研究の推進

(ア)自然科学の発展とともに、研究活動から価値判断を排除するような傾向が一般に見られるが、近年の最先端の研究分野においては人間の価値観の根底に触れるような研究が増えてきている。このような問題については、人文・社会科学の研究者が自然科学の研究者とともに取り組み、幅広い観点から対応を考えていく必要がある。したがって、今後は、研究組織・体制の整備や研究費の配分においても、自然科学と人文・社会科学が統合的研究を推進できるよう配慮する必要がある。なお、自然科学の研究者自身も、自分の研究活動を律していくための倫理的な視点を持つように努める必要がある。

(イ)人文・社会科学においても、自然科学と同様に学問の進展とともに細分化が進んでおり、全体的展望や体系性が失われてきている。他方で、人文・社会科学が取り組むべき課題は、様々な学問分野の統合的研究でなければ解決できないものが多く、複合領域研究、更には従来の複数領域の統合が必要である。しかしながら、現状においては複合領域研究に取り組む手法を学生に教える体制が極めて不十分であり、そのための研究組織もほとんど準備されていない。このため、今後、大学等の教育研究の組織・体制について、複合領域研究の推進も視野に入れて整備を図る必要がある。

(ウ)地域研究は、世界の諸地域についての人類の営みにかかわる諸事象を総合的に把握して地域の全体像を理解することを目的とする複合領域研究であり、人文・社会科学研究の理論・方法・体系に新しい刺激を与え、学問の統合や再編成を促す可能性を持っている。また、地域研究に係るデータ・資料は、個々の研究者が保有していることが多いが、その継続的な拡充のためには、中核的な研究機関においてそれらを集中的に蓄積・整備していくことが望ましい。このため、地域研究におけるCOE構築を目指し、中核的研究機関あるいはネットワークの整備について検討する必要がある。さらに、地域研究は、諸外国の研究者との交流を通じて、人文・社会科学の各学問分野の研究交流を促進することにつながる。このため、例えば、日本学術振興会の海外研究連絡センターを活用するなどして、海外における地域研究の拠点を整備するとともに、我が国の研究者の存在感を高めていく必要がある。

6 学術国際交流の推進

 学術研究の発展は、経験や発想の異なる研究者からの触発によって格段に促進されることも多く、国境を越えた研究者の交流や活動が必要不可欠である。また、世界最高水準の学術研究や新しい学問の創造を推進するためには、世界のトップレベルの外国人研究者や優秀な若手研究者の受入れも重要であり、これら研究者を引き付けることができるような研究環境の整備に努めつつ、学術国際交流を推進する必要がある。そのためには、我が国の優れた研究者・研究機関の活動が国際的に広く認識されるよう情報発信機能の充実にも努める必要がある。このような情報発信機能の充実を通じて、我が国の「知的存在感」が高まり、その結果、優れた外国人研究者の受入れが進むことなどにより、研究が活性化されるという好循環が生まれるであろう。これに関連して、情報発信機能の充実方策について今後検討することも重要である。
 学術国際交流の推進については、すでに、「21世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」(平成4年答申)、「学術国際交流の推進について」(平成6年建議)、「科学技術基本計画」(平成8年閣議決定)等において示された基本的考え方や学術国際交流全般にわたる提言に基づいて、様々な施策が実行されつつあり、これらにより、学術の国際交流が、今後一層推進されることを改めて期待するものである。このことを前提としつつ、今次審議においては、上記のような観点から、とりわけ重点的に取り組むべき課題として大学等の国際化の推進、学術国際交流の戦略的推進、アジアを中心とした学術協力・交流の推進の三つについて、基本的方向と具体的施策を検討した。

(1)大学等の国際化の推進

 学術研究は本質的に国際的性格を有するものであり、学術研究の振興とその水準の向上にとって、国際的接触・交流は不可欠なものとして一層推進されるべきである。学術国際交流を推進するための前提は、我が国において高度な研究水準が確保されるとともに、外国人研究者にとっても魅力のある充実した研究環境を整えることである。
 このような条件の整備を進める一方で、大学等において研究者交流等が活発に行われ、国際交流がこれを特別に意識することなく行われる段階にまで達することが期待されるが、現段階では一部を除き、大学等の国際化が十分に達成されているとは言い難い。
 大学等において世界最高水準の学術研究を展開・発展させていくためには、相当数の優れた外国人研究者が常時活動する状況を作り出すことが不可欠であり、このような観点から大学等の国際化を一層積極的に推進する必要がある。
 なお、大学等の国際化は、それぞれの機関や組織の特性に応じて進められるべきものであり、特に大学共同利用機関や研究志向の大学においては国際化を積極的に進める努力を自ら行うとともに、そのような努力を国として支援する必要がある。

1.外国人研究者雇用の推進

(ア)研究組織の活性を高め、世界最高水準の研究を推進していく上で、我が国の大学等の研究体制を国際的に開かれたものとすることは重要な課題である。このような観点から、優れた外国人研究者受入れの取組を一層積極的に進める必要がある。特に、自ら目標を設定した上で、外国人研究者の雇用・受入れを積極的に推進する研究組織については、様々な外国人研究者招へいの制度等を通じ、重点的支援を行うべきである。

(イ)研究組織が高い研究水準を達成し活力ある研究活動を展開していくかぎは優れた研究者の確保にある。特に、指導的立場に立つ人材を得ることは極めて重要な意味を持つものであり、これらの研究者の確保に当たって欧米先進諸国の研究組織においては、内外を問わず優れた研究者を集める体制を備えている事例が知られている。今後、我が国においても、このような観点から、外国人研究者をプロジェクトリーダー等として迎えるなど、外国人研究者雇用の方策を検討する必要がある。

(ウ)大学等の正規職員として外国人研究者雇用を進めるとともに、客員その他の契約雇用による外国人研究者の拡充を進めることも重要である。
 また、契約による雇用のための財源の確保について、多様な資金の活用の方策を検討する必要がある。

(エ)国際的に優れた研究者を確保するためには、競争的、魅力的な雇用条件を整え、臨機応変に雇用の交渉が行えることが重要である。このため、当該研究者の研究業績に対する国際的な水準に見合った処遇や、特別な研究費等によるインセンティブなどの措置について検討するとともに、年金や税制等については、国際的移動が研究者の不利にならないよう流動化を推進する一環として改善を検討する必要がある。

2.外国人研究者招へいの拡充

(ア)大学等の国際化にとって、外国人研究者の雇用とともに、一定期間外国人研究者を受け入れる招へい事業の拡充も重要である。日本学術振興会の招へい事業においては、世界的に著名な研究者を招へいする制度の検討を進めるとともに、特に若手研究者の招へい事業について、招へい期間の弾力化、適切な採否決定のタイミングの設定、帰国後の再招へいなど、制度の改善を行いつつ一層の拡充を進めるべきである。

(イ)研究者の予備軍的段階にある大学院博士課程の学生についても研究交流の機会を増やし、その内容を充実させることが重要である。現在、我が国への外国人大学院学生の招へいは、国費留学生制度により進められているところであるが、同制度との関係に留意しつつ、大学院レベルでの研究交流機会の増大を図るべきである。

(ウ)日本人若手研究者の資質向上と国際感覚を高めるため、大学院学生や博士課程修了者等若手研究者を対象に、著名な海外の研究者を我が国に招き、外国語による合宿制のサマースクールを開講するなど、国内での国際研究交流の充実を図る必要がある。

3.研究者の海外派遣機会の拡充

 研究者が海外で活動の機会を得ることは、研究の進展のために極めて有効であることが多い。特に将来を担う我が国の若手研究者の海外派遣機会を一層増やし、その内容を充実させる必要がある。このため、日本学術振興会における海外特別研究員の拡充とともに、海外での大学院学生の研究経験の充実を図る必要がある。

4.外国人研究者受入れ体制・環境の整備充実

(ア)外国人研究者の受入れを十全に行うには、宿泊施設や研究スペースの確保など、物的条件整備とともに、大学等の国際交流担当部局の組織整備、担当職員の能力及び資質向上の推進が極めて重要な課題である。特に担当職員については専門職化や選考採用、外部人材の活用などの工夫のほか、海外研修を含む集中的な研修機会の提供などにより能力向上を図るシステムを整備することも重要である。

(イ)学術国際交流を実際に進める上で、言語の問題は不可避の課題であり、関係する研究者のみならず、研究者受入れに関する担当職員を含め、組織全体としてこれに取り組む必要がある。例えば一つの取組として、研究遂行・管理運営面で日本語と英語によるバイリンガル化を進めている研究機関の事例もある。このような取組を有効な実践例として紹介し、奨励するとともに、それに対する支援を行う必要がある。

(ウ)また、外国人研究者の負担を軽減し、受入れの一層の円滑化を図る観点から、雇用契約等の諸手続の合理化と迅速化、大学等における支援体制づくりなどを進める必要がある。

(エ)さらに、外国人研究者の同伴家族についても、住居の確保、子供の教育問題や日本語学習などにおいて様々な配慮が重要であり、大学等と地方自治体等との連携協力により受入施策を充実させる必要がある。

(2)学術国際交流・協力の戦略的推進

 学術国際交流の基本は研究者個々のつながりであり、研究者の主体的取組が重視されなければならない。同時に、我が国として国際的に対応しなければならない課題、積極的に国際貢献すべき課題、地球規模での共同観測や、大型装置を用いる研究で国際的に役割分担をすることが必要な課題、研究の性格上国際協力が不可欠な課題等については、研究者の自主性を尊重して、我が国の学術研究の振興、ひいては国益も意識しつつ、我が国として推進すべき分野の選定、活用すべき財源の確保、中心となるべき研究者(グループ)の選定、研究者の組織化などを当該課題のねらいに応じて検討し、効果的計画を立案する戦略的視点が重要である。特に、大型装置を用いて行う、いわゆるビッグサイエンスで、経費を国際的に分担することが必要なものについては、上記のような視点から我が国の対応を検討することが不可欠である。
 なお、学術国際交流を上記のように戦略的に推進するに当たっては、トップダウン的要素を過度に持ちこむことによって、学術研究の方向を誤らせることのないように十分留意する必要がある。学術国際交流の戦略的推進が優れた成果を生むためには、戦略上の必要性と研究者の自主性との適切な調和を図るメカニズムを形成する必要がある。

1.学術国際交流の戦略的推進方策の検討

 学術国際交流・協力を推進させるためには、学術研究の特性を踏まえつつ、重点的に推進すべき学術研究分野や交流・協力を進めるべき相手国・地域を選定し、さらにこれらの協力を進めるための戦略的な方策を検討する必要がある。このため、本審議会等において国際戦略を検討するシステムを確立すべきである。また、同時に大学共同利用機関等における国際戦略の立案機能を充実・強化する必要がある。

2.戦略的学術国際交流を支える研究費の措置

(ア)国際共同研究への参加あるいは国際共同研究への参加を提唱することについて、政府レベルでの方針決定を行うまでには時間を要するが、それまでの間の研究者側における準備調査は、政府の方針決定の判断材料ともなる。このための調査研究経費の確保を図る必要がある。

(イ)また、国際共同研究を議論する国際学術会議等において、研究者としてのイニシアティブを発揮できることが重要である。このため、国際共同研究の経費については多様な使途に対応できる柔軟性を確保するなど、機動的な国際対応を可能にすることが重要である。

(ウ)国際共同研究遂行のための経費の措置としては、学術研究を戦略的に推進するトップダウン型と研究者の自由な発想に基づくボトムアップ型の両者の調和を図る観点から、二通りが考えられる。すなわち、1)戦略的に研究領域を設定し、研究者から具体的提案を公募する方式と、2)大学共同利用機関のような、それぞれの分野の中核となる研究機関に長期的に研究費を措置し、主体的・機動的かつ戦略的に国際共同研究をリードできるようにする方式との経費措置がバランスよく行われる必要がある。

3.国際共同研究の円滑な実施のための枠組み整備

 国際共同研究に関する政府間協定等に基づく実施の取決め及び研究機関間の実施の取決めを策定するに当たり、研究成果としての知的所有権の帰属・配分や当事者間の権利義務に関する関係各国における諸制度とその取扱いの整合性確保のための調整等が必要となる。これらにかかわる大学等における制度的枠組みや対応体制については、未だ十分に整っているとは言えない状況にあり、円滑な国際共同研究の実施に支障をきたすおそれがある。このため、国際共同研究の円滑な推進に必要な法的・制度的枠組みや対応体制について整備を進める必要がある。

4.海外研究拠点の設置

 国立天文台のハワイにおける研究施設は、我が国が海外に研究拠点を設けた最初の事例であるが、今後とも、海外における研究施設等の設置については、国内外の当該分野の研究遂行上の必要性や我が国の研究体制の検討を踏まえて対応すべきである。

(3)アジアを中心とした学術国際協力・交流の推進

(ア)学術国際交流を推進するにあたっては、欧米先進諸国との協力・交流を強化するとともに、近隣諸国との協力・交流を一層推進することが重要である。このため、我が国と最も身近なアジア諸国とのパートナーシップを強化し、アジアを将来ヨーロッパ、アメリカと並ぶ知の拠点(センター・オブ・ラーニング)に形成できるよう、アジア諸国との協力・交流を推進する必要がある。

(イ)このような観点から、日本学術振興会がアジア諸国において展開している拠点大学方式による交流事業、論文博士号取得希望者への支援事業及びアジア学術セミナー等の充実・強化が必要である。また、これらの事業により形成された研究拠点との協力関係を基盤として、アジア域内の優れた研究拠点や研究者グループによるネットワークを選択的に形成し、同地域の研究能力の飛躍的な向上を図る必要がある。
 同時に、日本学術振興会の海外研究連絡センターの整備・充実を進め、アジア地域における学術情報収集と我が国の学術情報提供機能を強化することも重要である。

(ウ)アジア地域において、分子生物学や理論物理学などの分野で国際共同研究所を形成する動きが見られるが、我が国の研究者コミュニティーがこれらに積極的に関与し、発展に貢献するよう支援することが重要である。また、アジアを中心とした学会活動や学術国際交流事業への協力方策も検討すべきである。

(エ)人文・社会科学分野では、アジア諸国と密接に協力・連携すべき分野が多いにもかかわらず、我が国の研究者の取組は必ずしも十分な状態にあるとは言えない。地域研究に関しては、アジア各国の研究者と協力しつつアジアに関する研究を一層推進する必要がある。その際、研究者がアジアに出掛けて研究するインセンティブを用意するとともに、これらの分野を含め、フィールドワークが必要となる分野において、特に若手研究者がより積極的に現地において研究できるようなシステムを整備することが重要である。

(オ)学術国際協力・交流を推進する場合、相手国の状況によっては研究基盤整備への協力が重要な意味を有する場合がある。これについては、学術国際協力事業だけでは対応に限界があり、技術協力などのODA事業との有機的な連携の強化を図る必要がある。また、学術面での支援・協力を必要とする国々については、当該国の研究者の国際共同研究への参加機会を確保し、また、我が国の大規模・先端的研究施設へのアクセスを可能にする等の配慮が必要である。

7 社会的連携・協力の推進

(1)学術研究における産学連携等の推進

 近年、独創的な基礎研究から製品化等のための技術開発に至るプロセスが短縮されたり、その間のフィードバックが重要になっており、大学等と産業界との距離が縮まりつつある。このため、産学連携・協力が可能で、また、大きな成果が期待できる分野・領域が増加しており、その積極的な推進を図ることが重要である。

1.産学連携の現状と目指すべき方向

(ア)今日、大学等と企業等産業界との間の研究面等での連携・協力(以下「産学連携」という。)は、大学等の責務としての社会貢献を進める上でも、学術研究の進展の上でも、ますます重要なものとなってきている。

(イ)従来、大学等の基本的使命は、人材養成と学術研究であり、それを通じて社会、更には世界・人類に貢献すると考えられてきた。
 しかし、「学問の府」としての大学等といえども、社会から遊離した存在ではあり得ず、社会の発展や文化の創造に対して積極的に貢献することがより強く求められている。同時に、実用化の研究や「実用化の後に来る研究」、社会の中での萌芽的な研究から新たな知見や発明、新しい学問分野が生まれるなど、教育研究活動そのものと社会との関係がますます緊密になっており、それが学術研究の活性化にもつながっている。

(ウ)真理の探究を目的とし、人類共有の財産とするため研究成果の公表を原則とする大学等と、利益追求を目的とし、営業上の秘密を競争の源泉とする企業とは、もとよりその基本的な性格や役割を異にしている。
 また、これまで、我が国では、産学連携を主として産業政策上の必要性から論じることが多く、その活動も、個々の研究者と特定の企業との間で進められる傾向が強かった。

(エ)しかし、産学連携は、大学等がその研究成果を社会全体に還元する有効なシステムであり、その活動を通じて、大学等がその存在理由を明らかにし、大学等に対する国民の理解と支援を得るという観点からも重要である。
 特に、今日、新技術・新産業の創出を通じた我が国経済の活性化等が重要な課題となっており、大学等の学術研究に対して寄せられる期待は大きい。

(オ)したがって、今後は、大学等がその社会的使命を果たす上で不可欠な大学等自身の問題として、また、学術研究の進展の重要なプロセスとして、より積極的に、かつ、組織的に産学連携に取り組む姿勢が強く期待される。

2.産学連携の推進のための体制等の整備

(ア)産学連携の推進のためには、それぞれの大学等において組織的にこれに取り組む体制やその拠点となる施設の整備が重要である。

(イ)国立大学では、理工系学部を置く大学を中心に、地域共同研究センター等の整備が進んでおり、産業界等との研究協力の推進の場として、一定の成果をあげている。
 しかし、大学の社会に対する「窓口」に加え、産と学とのリエゾン(仲介・連絡)の役割を積極的に果たしていくためには、専任教官が原則として助教授一人という現在の体制は、十分とは言い難い。
 また、学内での迅速な意思決定と機動的な対応が可能となるよう、リエゾン機能を中心とした役割・権限の明確化とともに、企業のニーズと大学等のシーズをつなぐ「産学のコーディネーター」の配置等による組織体制の強化、施設・設備の拡充など、地域共同研究センター等の更なる整備・拡充を進める必要がある。
 さらに、地域のニーズや大学等のポテンシャル(潜在的能力)に対応し、例えば、社会科学系の学部等を基盤とする共同研究センターや商業地区等へのサテライト・センターを設置するなど、多様な発展を推進していくべきである。
 このほか、国立大学等の敷地内に、企業等の共同研究施設の整備を支援するための仕組みが設けられたところであり、これを活用した産学官の共同研究が一層促進されることが望まれる。

(ウ)大学等が産学連携に組織的に取り組むためには、例えば産学連携の推進機構や兼務教員制度のような人文・社会科学系を含む全学的な協力・支援体制の整備と研究協力部・課等の事務組織の強化、担当職員の資質向上が重要である。

(エ)大学等における産学連携の先進的な取組を支援するため、国が、内外の事例を収集したり、大学等と共同してモデル開発を行い、それらを広く関係者に紹介することが期待される。

3.大学等と企業との望ましい関係の構築

(ア)産学連携の推進においては、それが大学等の教育研究上有意義なものであり、大学等の自主性・主体性が尊重されることが当然の前提であるが、同時に、大学等と企業とがお互いに理解し合い、ギブ・アンド・テイクの精神に基づき開放的で合理的に推進する必要がある。
 近年、経済活動のグローバル化が一層進展する中で、内外の企業は連携相手となる大学等や研究者を国の枠を越えて選択する傾向にある。大学等としてもこのような国際的な状況についても留意する必要がある。

(イ)大学等は企業、特に中小企業との間の意識や情報伝達の上の溝を埋めるよう努める必要がある。また、企業が大学等に求めているものは、企業自体の規模だけでなく、研究力や研究進度等によって異なることから、大学等にはそれぞれの企業の要望に応じた対応が望まれる。
 従来、大学等からの情報発信は、論文や学会発表が基本であるが、社会や企業が実際に必要としている情報を提供するには、その伝達の仕方や内容について工夫する必要がある。例えば、「研究者名鑑」なども、氏名や分野だけでなく、具体的なシーズを分かりやすく紹介することが重要であるとともに、印刷媒体だけでなく、インターネットなどの活用も望まれる。
 また、一つの大学等で対応可能な研究領域には限界があることを考えると、公私立大学を含む複数大学等の連携による広域的な情報提供、更には全国的な情報提供システムの構築が効果的である。

(ウ)個々の研究者が企業と連携する際には、社会的な疑惑や不信を招くことのないよう、研究内容の妥当性と手続きの透明性を確保するため、各大学等が主体的にルールを明確化するとともに、モラルの確立に努めることが重要である。
 例えば、アメリカでは、産学連携に伴う利害関係の衝突(コンフリクト・オブ・インタレスト)に対する管理の在り方が明確にされている大学が多い。
 我が国でも、現在の大学等ごとに定められている倫理規程に加え、産学連携に係るルールをより明確にする必要があり、今後、国等がそのモデルを示すことなどにより、各大学等における取組が推進されることが期待される。
 また、大学等におけるチェック機能を強化するため、大学等内に産学連携の在り方と倫理に関する委員会組織を設置することも検討すべきである。
 併せて、産学連携の諸活動について、大学等からの積極的な情報公開に努めるとともに、社会や企業に対しても、制度やルールの共通理解が図られるよう、パンフレット等により、できるだけ分かりやすく具体的に示す必要がある。

4.産学連携に係る諸制度の改善

(ア)産学連携については、既に種々の制度の改善がなされてきたところであるが、今後、大学等の研究者が産学連携をより円滑に実施できるよう、任期制の活用、兼業規制の一層の緩和等、学外との人事交流の円滑化や、会計上の一層の弾力化を進めていく必要がある。
 その際、諸外国の例は一つの参考となるが、公務員制度や大学等の財政基盤など、背景となる事情がそれぞれ異なることにも留意する必要がある。

(イ)大学等への外部資金の導入を促進するため、受入れ手続きの一層の迅速化等に努める必要がある。
 また、大学等の研究者が主体的に産学連携に向かうインセンティブを与えるため、それぞれの大学等及び研究者が、できるだけ自由かつ迅速に外部資金を使用できるよう、一層の弾力化に努めるべきである。
 国立大学等においては、現在奨学寄附金に年度を越えた使用が可能な委任経理金制度が適用されている。
 共同研究費や受託研究費についてもこれまで以上に弾力的な使用を可能にする方途を検討する必要がある。

(ウ)国立大学等における外部との共同研究制度が、企業等から寄せられる多様な期待に十分にこたえ得るものとなっているかどうかについて更に検討し、手続き等の簡素化や、有料による技術相談制度の導入など、引き続き改善・充実に努める必要がある。
 また、共同研究に係る国の経費の確保など、国による財政的な支援の拡大が望まれる。

(エ)産学連携を一層推進する上で、個々の研究者の共同研究や受託研究の実施、地域共同研究センター等の活動への参加、特許の取得などの取組が、研究業績として適正に評価されることが極めて重要である。
 また、学術研究を通じた社会貢献により研究者個人に経済面での還元がなされることについて、透明性を確保しつつ、これを一層認める方向で、今後、具体的な取扱いを検討していく必要がある。

(オ)大学等に関する制度の改善や規制緩和措置が、大学等の各学部・研究所等の現場まで必ずしも十分には徹底されていないという指摘がある。このため、マニュアル等の形で、より明確に示すとともに、関係教職員に対する研修の充実に努める必要がある。
 また、公立大学関係者からは、その会計制度が国立大学等と比べて柔軟性に欠ける面もあることを指摘する声や、委任経理金制度のように外部からの資金を研究費として弾力的に使用できる仕組みを導入することなどを望む声が高まっている。このため、国は、国立大学等に関する制度改善等が公立大学においても、それぞれの実情に即しつつ、可能な範囲で実施に移されるよう、各設置者に対して周知に努める必要がある。

(カ)長引く景気の低迷などから、企業は寄附金を出しにくい状況にある。
 奨学寄附金等大学等に対する寄附は、教育研究を充実させる上で極めて重要なものとなっており、今後とも、大学等の寄附者への対応の改善も含め、寄附をしやすい環境づくりに努める必要がある。
 特に、寄附金税制に関し、個人に係る寄附金控除や法人に係る損金算入限度額の拡大等について検討する必要がある。

(キ)私立大学における産学連携を支援するため、情報提供、各種助成制度の充実とともに、税制上の優遇措置の拡大が必要である。特に、私立大学では受託研究による収入が法人税法上の収益事業として課税されているが、国公立大学等の場合にはそれが非課税である。したがって、私立大学においてもこれを税法上の収益事業として取り扱わないこととするとともに、寄附金税制を見直し、企業から私立大学への寄附を行う際の損金算入限度額を引き上げることが、外部資金の導入促進のために必要である。

5.研究成果の社会における有効活用

(ア)経済活動がグローバル化する中で、特許等の取得・管理はますます重要なものとなっている。
 このため、原理特許のような基本的な特許を中心に、特許等の取得は社会での実用化等を通じた公益の増進につながるものであるということが大学等の研究者の間で共通理解となるよう、大学等の研究者の間における啓発活動の一層の活発化が望まれる。また、研究者の評価に当たっての特許の位置付けの明確化が求められる。
 さらに、特許料収入の大学等の研究費への還元、研究者への発明補償金の上限の撤廃など、インセンティブを高めるための各種の措置が求められる。

(イ)特許等の研究成果の移転・活用に関する支援機能を強化するため、学内の相談及び外部との窓口を整備・充実するとともに、弁理士等専門家の積極的活用、教職員の研修等を通じ、技術移転等の専門知識を有する者の養成・確保に努める必要がある。
 また、特許申請の迅速化を図る観点から、各国立大学等に設置されている発明委員会の運営改善を進める必要がある。

(ウ)現在、国立大学等における研究者の発明に係る特許等については、研究者へのインセンティブを重視する観点から、原則として発明者個人に帰属させている。
 しかし、特許取得が研究業績として評価されにくい実態があることや、大学等の支援体制が十分でなく、出願等の際の個人の金銭的・時間的負担が大きいことなどもあり、必ずしも社会での実用化が進んでいない状況にある。
 このような状況の下、特許等を国有にする場合と個人有にする場合との基準についても見直しの余地がないわけではなく、これらを含め、特許化・実施化に向けた研究者や大学等の取組を一層促進する観点から、今後、特許等の取扱いについて必要な改善策を積極的かつ適切に講じていく必要がある。

(エ)当面、国有特許等の社会での有効活用を促進するため、科学技術振興事業団の諸制度の活用も含め、現行の制度の周知と積極的な利用を推進する必要がある。
 また、大学等における研究成果の企業への効率的な移転を促進することにより、学術研究の活性化や新規産業の創出等を図るため、平成10年に「大学等技術移転促進法」が制定され、技術移転機関(TLO)の設置が進みつつある。今後その設置促進や円滑な定着に資するよう、国の支援措置の拡充、大学等の積極的な対応の促進、関係する諸制度の改善等に努めることが望まれる。

(オ)国立大学等からの研究成果の移転がより円滑に進むよう、国立大学教官等の技術移転機関の役員への兼業を可能とするために必要な措置を講ずるべきである。また、その他の営利企業の役員への兼業の問題についても、大学等の社会貢献の実現や大学等における教育研究活動の活性化、及び公務員の全体の奉仕者性との整合性といった観点から、国民の理解の状況を踏まえ、引き続き検討を進める必要がある。

6.地域との連携・協力の推進

(ア)大学等が、戦略的な拠点となって地域づくりや地域の発展に貢献するという視点が、今後、一層重要になるものと考えられる。このため、大学等と地域、地方公共団体や諸団体等との適切な協調・協力関係の構築に更に努力する必要がある。

(イ)例えば、大学等と地方公共団体との間で、共同研究や受託研究の実施、イベントの共催、職員の派遣・受入れや地域と一体となったリエゾン・システムの構築、研究施設の共同設置・運営、大学等の後援法人や第三セクター等を通じた支援などの多様な取組が考えられる。特に、地方公共団体には、大学等と地域企業とをつなぐコーディネート機能の発揮が期待される。

(ウ)さらに、現在、地方財政再建促進特別措置法により、国立大学等に対する地方公共団体からの寄附等は禁止されているが、地域産業経済の発展を含む国立大学等の地域社会への貢献など国立大学等と地域社会との一層緊密な協力関係の在り方に照らし、この規定については、今後、見直すことが望まれる。

(2)学術研究に関する国民理解の増進

 学術研究は人類の知的資産を形成するものであり、その成果はより多くの人々に共有されることが大切である。また、学術研究がもたらす負の部分も含め、研究活動の価値や意義が広く人々に理解され、学術研究に対する信頼と支持を確保することも、その推進のために重要なことである。このような観点から、学術研究に関する国民理解の増進を進め、学術研究を社会に開かれたものとする必要がある。

1.学術研究に関する国民理解の現状

(ア)近年、学術研究、特に自然科学分野に関する国民理解の必要性が強調されているため、以下では同分野を念頭においている。

(イ)次のような観点から学術研究に関する国民の関心を高めることが必要であるが、近年の学術研究の急速な進展や専門分化により、研究成果やその効果が専門外の人々にとって分かりにくいものとなっており、それが若者を含む国民の無関心を助長することになっている。
 (a)学術研究は、社会・経済・文化の基盤を形成・継承するものであり、その成果はできる限り多くの人々に享受されることが大切である。
 (b)高額の経費を要する研究が増加していることもあり、学術研究の発展のためには、広く国民の理解と支持を得る必要がある。
 (c)学術研究が健全に発展していくためには、その方向についてできるだけ多くの国民の注意が払われていることが重要である。

(ウ)また、クローン研究が生命倫理についての議論を引き起こしているように、最先端分野の学術研究が社会問題をもたらす現象も生じてきている。このため、学術研究に関する無関心が広がっているばかりでなく、時には学術研究が害悪をもたらすのではないかという不安が広がっており、学術研究への信頼を確保することが重要な課題になりつつある。

2.学術研究に関する国民理解増進のための方策

(ア)学術研究に関する国民の理解と支持を得るためには、初等中等教育の教育課程全体を通じて、自ら学び自ら考える能力や創造性の基礎となる能力の育成を目指した教育の充実に努めて、「知」に対する興味・関心を育て、「知」を大切にする態度を養っていく必要がある。特に自然科学についても、観察や実験、体験学習を通して理解を深め、科学に関する素養を培っていくことが望まれる。大学の研究者もこれに積極的に協力しつつ、各自の大学の入学者選抜の在り方を改善することが望まれる。

(イ)また、大学等は、その研究活動・研究成果について、できる限り多くの機会をとらえて一般の人々の理解増進を図っていく必要がある。さらに、教養教育を通じて自然科学に関する基礎的な教育を行うとともに、公開講座の開催や各種生涯学習事業への協力などにより、より多くの国民を対象に理解増進の機会を提供していく必要がある。

(ウ)現在、大学等の学術研究の成果を社会に還元し、国民に身近なものとしていくため、科学研究費補助金の研究成果公開促進費により「大学と科学」公開シンポジウムなどが開催されているが、今後、大学等が日常的に研究活動・研究成果に関する情報提供を積極的に行うことができるように、必要な方途を検討する必要がある。

(エ)例えば、インターネットの効果的な活用方法などについて検討していくことが必要である。また、広報活動充実の一方策として、大学等において学術研究の広報に関する機能を充実するなどの措置について検討する必要がある。

(オ)研究者個人においても、学生のためのテキストのみならず一般向けの啓発書を書くことや、研究成果等を踏まえテレビなどのメディアにおいて学術研究にかかわる社会問題などについて分かりやすく解説することなどを行う必要がある。特に社会的に影響の大きい研究や社会問題となっている研究については積極的に取り組む必要がある。大学等も研究者のこのような活動を積極的に奨励・支援・評価することが大切であり、例えば、自己点検・評価の際の項目に加えることも考えられる。また、学会等においても、研究者の当該分野に関する理解増進活動を評価する必要がある。

(カ)国民が学術研究を身近なものとしてとらえる上で、社会の情報発信源としてのマスメディアの影響力は偉大であり、役割は大きく、例えば、テレビなどのメディアを活用した効果的な広報活動が望まれる。また、特に、自然科学分野の研究の有能な解説者である科学ジャーナリストの果たすべき役割は大きく、その活躍が望まれる。これに関連して、優れた科学記事やその執筆者が顕彰されることも有意義であろう。

(キ)大学等と国民の間にあって研究成果を発信していく博物館等の機能を強化することも必要である。

8 学術・科学技術の調和

(1)大学等と試験研究機関等の連携・協力

 学術と科学技術の調和のとれた総合的な発展のためには、大学等学術研究機関と試験研究機関等がそれぞれの特性を踏まえながら、関連分野において適切な競争的環境を維持促進しつつ効果的に連携・協力を図る必要がある。
 現在の試験研究機関等においては、(a)公共の福祉など市場原理になじまない分野や食料、エネルギー、資源確保等の政策遂行に必要な研究開発、(b)高リスク、高コストで民間では対応し難い分野の研究開発、(c)新たな技術のシーズの創出を目指した研究開発や技術的課題の解決のために基礎に立ち返った研究開発、(d)国際的な標準・規格等への対応など、多様なものが実施されている。
 他方、大学等においては、研究者の自由な発想に基づいて広範な分野の研究が推進されており、大学等と試験研究機関等の連携・協力については、それぞれの特性を踏まえてこれを進める必要がある。
 大学等と試験研究機関等とが一層連携・協力を推進し、また各機関の目的をより効果的、効率的に達成するためには、関連機関間において研究者等関係者による協議の場を設けることが大切である。このような協議自体が双方の研究への刺激となる可能性を有するが、協議を通じて相互の十分な理解の下に各研究分野の特性等を踏まえつつ、情報交換、施設設備の利用、研究者交流、更には共同研究の実施等を図っていく必要がある。
 とりわけ、加速器科学、宇宙科学、核融合研究、海洋科学、バイオサイエンス等、今日、国際的にも我が国の役割が一層注目されている分野については、関係機関間における連携・協力を効果的に推進することにより、当該分野における学術研究、科学技術研究の格段の発展を図る必要がある。

(参考2参照)

(2)学術・科学技術の調和

 学術研究については、その特性への配慮、中でも研究者の自主性を尊重することが極めて重要である。したがって学術政策の立案においても研究者の意見を反映させることが大切である。また、学術と科学技術の調和を図るためには、総合科学技術会議の活動に大学等の研究者の意見を適切に反映させていくことも重要である。さらに、文部科学省が、同会議が策定することとなっている総合戦略に即した具体的な計画を策定・推進する場合にも、学術研究に関しては、研究者の意見を踏まえることが大切である。これらの観点から、文部科学省に、現行の学術審議会の機能を引き継ぐ審議会を設置し、研究者の意見を集約するとともに、学術研究の特性を踏まえつつ審議を行う仕組みを用意しておく必要がある。
 同様の趣旨により、総合科学技術会議の活動に、人文・社会科学から自然科学までの広範な分野からの研究者が参画する体制を確保することが望まれる。これに加えて、総合科学技術会議と文部科学省との緊密な連携を図るため、継続的に意思疎通を図ることができる仕組みも用意しておくことが望まれる。

(参考1)

 博士課程修了者に対する施策については、その需給見通しを踏まえた対応が求められていることから、平成22年(2010年)の推計を予測した。
 大学院博士後期課程在学者は、昭和62年(1987年)から平成9年(1997年)の10年間に24,562人から52,141人へと約2.1倍の大幅な拡大を見せている。学部学生数に対する大学院学生数の比率の国際比較や社会状況の変化などを踏まえると、我が国の大学院学生数の規模は今後も拡大していくことが予想される。このため、過去の動向に基づく将来推計によれば、博士課程修了者は、平成9年の9,860人が平成22年には18,000人弱にまで拡大することが見込まれ、博士課程在学者数は、約82,000人になると推計される。
 一方、大学・短期大学の教員の規模は、平成7年の約15万8,000人が平成22年には約15万3,000人に減少すると推計されている。このため、退職者に対する補充のための需要が中心になり、その規模は、毎年9,000人から10,000人程度と推計されている。このうち、新規卒業者に対する需要は4分の1程度と見込まれている。
 企業等への就職者については、過去においては、理学系、工学系、農学系の博士課程修了者を中心に比較的大きな伸びを見せてきたが、今後の動向は景気動向などをも踏まえた企業の採用意欲や産業構造の変化によって大きく変化することも考えられることから、信頼度の高い推計を行うことは困難である。これについても、一応のめやすとして過去の動向を基に推計を行うと、平成9年から平成22年の間に、製造業における需要が922人から1,400人~1,700人程度に増加し、また、サービス業における需要が822人から1,600人~2,000人程度に増加すると見込まれる。これらの需要に医師等の需要を加えた合計は、12,000人~13,000人程度になると見込まれる。
 このため、平成22年における博士課程修了者の需給は、供給側が18,000人弱、需要側が12,000人~13,000人となる。これらの差のうちの相当数は、いわゆる社会人学生等で就職の必要性がない者や特別研究員などの諸制度による支援を受けて研究に従事する者であると考えられる。

(注)この推計結果は、現行の大学院制度を前提としたものであり、修士課程1年制コースや修士課程長期在学コースなど制度の改革に係るもの及び通信制の大学院は要素として含まれていない。

(参考2)

 以下の各分野については、本審議会特定研究領域推進分科会の関係部会において、おおむね次のような方向で各分野における連携・協力の在り方が示されており、今後関係者が、これを踏まえて積極的に取り組むことが期待される。

1.加速器科学

 加速器科学の発展経過の中で、世界最先端の研究を行うための加速器等の大型研究施設は、高度化・大型化の傾向をたどり、その結果、建設コストや運転経費の増大を招き、世界的にも大型の加速器の数は限られざるを得ない状況にある。
 このため、高エネルギー加速器研究機構、大学、理化学研究所及び日本原子力研究所等の機関は、それぞれの役割を十分踏まえつつ、より一層密接かつ効果的な連携・協力体制を構築する必要があり、これらの関係機関による常設の協議の場を設けることが大切である。
 とりわけ、今後の共同利用を前提とする大型研究施設の建設に当たっては、建設後の利用のみならず、計画段階、建設段階から関係機関の研究者の参画を積極的に図り、効果的な計画の実施に努める必要がある。

2.宇宙科学

 宇宙からの観測による地球科学の新たな展開、宇宙科学関係機関で行われてきた技術開発の共通要素の増加等にかんがみ、学術研究、科学技術研究を推進する宇宙科学関係機関は、それぞれの長所を生かしつつ、密接かつ効果的な連携・協力を進めていく必要がある。
 このため、国の個々の宇宙プロジェクトについては、当該プロジェクトに含まれる科学研究が真に有効な研究計画となるよう関係機関の研究者による企画・評価の体制を構築していくことが望ましい。
 また、関係機関間において共通の要素を持つ衛星や飛翔体の研究開発を可能な限り共同で実施するため、宇宙科学研究所、宇宙開発事業団及び航空宇宙技術研究所を中心とした協議の場を設ける必要がある。

3.原子力研究

 原子力分野の研究が多様化し、拡大している現状においては、様々な分野に多くの研究者を有する大学等における広範な基礎的・基盤的研究は一層重要性を増しており、大学と日本原子力研究所等の関係機関は、それぞれの役割を十分踏まえつつ、原子力研究全般を通じて、より一層密接かつ効果的な連携・協力体制を構築することが大切である。
 このため、関係機関間においては、大型研究施設の共同利用や共同研究等を一層積極的に推進する必要がある。
 とりわけ、核融合研究の推進に当たっては、これまでの仕組みに加えて、大学、核融合科学研究所及び日本原子力研究所等の研究者を中心とした直接的で密接な協議の場を設け、当該分野における研究の総合的推進を図ることが望ましい。

4.バイオサイエンス

 バイオサイエンスは、大学、大学共同利用機関、大学附置研究所等において専門性を生かした研究が行われているほか、試験研究機関等において各所管省庁の行政目的に応じた研究が行われている。
 この分野は、医療、食糧、環境等の分野で豊かな応用成果をもたらすものとして期待され、研究成果が特許に結び付きやすいことから、欧米先進諸国においては国家的・戦略的に取り組み、激しい研究開発競争が展開されている。
 こうした欧米との競争に遅れないためにも、また、国際協調で進められるプロジェクトの中で我が国が一定の貢献を行うためにも、各研究機関における役割分担を明確にしつつ、必要な連携協力を進めながら重点的かつ一体的に研究を推進していく必要がある。

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学術国際局学術課

-- 登録:平成21年以前 --