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宇宙科学関係機関等における今後の連携・協力の在り方について(報告) (学術審議会特定研究領域推進分科会宇宙科学部会 平成11年4月9日)

平成11月4月9日
学術審議会特定研究領域推進分科会
宇宙科学部会

1.はじめに

 本部会は、平成10年1月の文部大臣からの諮問「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」のうち、特定分野の推進及びこれに関連する研究機関等の在り方として、今後の宇宙科学分野の研究の展望を踏まえつつ関係機関(宇宙科学研究所、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所)等間の連携・協力の在り方について検討を行った。
 検討に当たっては、これまでの本部会報告を踏まえるとともに、大学における研究を主眼としつつも、学術研究と科学技術研究の総合的で調和のとれた振興を図るとの観点から、関連特殊法人機関等との関係についても視野に入れた検討を行った。

2.宇宙科学研究の現状

 この報告が対象とする宇宙科学は、人工の宇宙飛翔体(ロケット・人工衛星等)を不可欠な手段とする理学・工学研究及び飛翔体そのものを研究対象とした工学研究の総体である。したがって、ロケット推進工学、電気通信工学、構造・材料工学、制御工学などに基礎を置く宇宙工学や、その基礎の上に立った宇宙理学がその対象となっている。
 より具体的には、研究対象のその場観測が今や可能となった太陽地球系プラズマ科学、惑星科学や宇宙軌道からの観測による天文学、地球観測・地球科学に加え、宇宙空間環境を利用する微小重力科学や宇宙医学、さらには、広く物理学、化学、生物学、医学、工学を包括する総合科学領域である。
 我が国の宇宙科学研究は、1955年の東京大学生産技術研究所による初のペンシルロケット開発を端緒に、その後1981年に大学共同利用機関として創設された宇宙科学研究所を中心に進められてきた。そして、工学研究の成果であるロケット技術、衛星技術、通信技術などの宇宙工学基盤技術の確立に支えられて、今日では、太陽地球系プラズマ科学、太陽物理学、電波・赤外線からX線にわたる天文学の分野で大きな成果を上げ、国際的に高い評価を得るまでに成長した。
 また、1969年に国の施策としての宇宙開発を推進する宇宙開発事業団が設立され、これまで気象観測、通信、放送等の技術開発衛星やH系ロケットの開発をはじめ衛星の打上げに関する技術開発に力を注ぎ、その結果、国民生活や情報通信のインフラストラクチャーの開発において世界の三極の一角となるまでに成長した。近年、折しも全人類的課題となってきた地球環境問題や宇宙空間への人類の活動の拡大に対応して、地球観測衛星の打上げ、国際宇宙ステーション計画への参画、さらに宇宙環境利用による微小重力実験など宇宙科学関連の活動が増大し、地球観測事業のデータも地球科学の研究に有効に使われはじめている。
 宇宙科学研究所を中心とした今日における宇宙科学の発展の要因として、第一に、宇宙科学研究所が、全国の大学の研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として、様々な研究課題の提案を研究所内外の研究者により、厳正・適切に選定し共同研究として取りまとめ、実施する仕組みを採ってきたこと、第二に、プロジェクトの計画の策定から実施に至るまで、研究所内の宇宙理学と宇宙工学の研究者が緊密な協力体制を採ってきたこと、第三に、1970年の我が国初の人工衛星「おおすみ」以来、適切な間隔で中・小規模衛星を打ち上げることにより宇宙科学の効率的・継続的な発展を図ってきたこと、第四に、宇宙科学研究所及び関連する全国の大学において、宇宙科学研究所の共同研究への参加を通じて大学院生への教育を実施し、その結果として着実な人材養成を行ってきたこと、第五に、常に主体的に我が国独自の宇宙理学や宇宙工学の確立に努めつつも、宇宙科学研究の性格上、科学衛星等のプロジェクトのほとんどを国際協力により進めてきたことなどが上げられる。
 我が国の宇宙科学研究の今後の在り方を考える上で、これらの要因は十分に考慮され、維持されることが重要である。

3.今後の宇宙科学研究とその体制

 宇宙理学分野の研究は、人類の知的フロンティアの拡大を目指すもので、宇宙科学研究所では、科学衛星を用いた宇宙理学において、地球周辺科学、X線天文観測、太陽観測などの分野で世界をリードする数多くの研究成果を上げ、またハレー彗星の探査を契機としてこれらの活動での国際協力において主導的な役割を果たすなど、比較的短期間で急速な発展を遂げ、今後は惑星科学にも踏み出そうとしている。近年では、地球環境問題の視点から地球を宇宙から観測する地球科学研究への期待も増大している。
 また、このような宇宙理学の研究の基盤を支える宇宙工学では、宇宙科学研究所(及びその前身の研究機関)における1955年からの我が国独自の観測ロケットの開発や1970年の我が国初の人工衛星「おおすみ」の打上げ成功などの成果を上げ、近年では、中型衛星打上げ用のM-Vロケットの開発により、長らく実施することができなかった本格的惑星探査が現実のものとなりつつある。宇宙工学分野の研究対象は、先進性と科学プロジェクトでの実証をキーワードとして、高機能デバイス、超遠距離通信などの先進的衛星技術や宇宙開発の根幹を担うであろう将来型輸送システム等への発展などへと広がりを見せている。
 宇宙開発事業団の研究開発においても、H-Ⅱロケットの開発により大型の地球観測プロジェクトが成功し、そのデータに基づく地球科学研究が、大学や国立研究機関の研究者により進められるようになってきている。
 このような状況から、現在の我が国の宇宙開発は、宇宙科学分野における活動の中核機関である宇宙科学研究所と国の施策である観測事業やそれを支える技術開発など宇宙開発活動の中核機関である宇宙開発事業団が中心となり、国立天文台をはじめとする関連研究機関及び大学との協力のもとで推進されてきたが、宇宙工学はもとより新しい展開を見せてきた地球科学等の分野のように、学術的意義を有する宇宙科学の研究と国や社会の役に立つための宇宙科学技術の研究開発がより近接してきた分野も見られるようになってきた。
 宇宙科学においては、今後、宇宙からの観測による地球科学や宇宙工学等の新たな展開に即した研究開発を推進することが必要であり、そのためには高い民間技術の活用も図りつつ、学術研究及び科学技術研究の水準を高く保つことが必要である。
 「科学」と「技術」とは相互に牽引者としての役割を担うが、宇宙科学と宇宙科学技術の分野においてもこのことを踏まえながら、双方の健全な発展の重要性を認識するとともに、これまでの両者の関係の変遷から、今後の研究の推進体制として、特に、(1)宇宙からの観測による地球科学研究、(2)ロケット開発及び将来型輸送システムの開発、(3)衛星・探査機工学及び関連技術開発について、関係機関の間の連携・協力を推進することが重要である。

(1) 今後の宇宙からの観測による地球科学研究

 地球環境問題への認識の高まりともあいまって、地球科学研究における宇宙からの観測の重要性が強く認識され、地球科学の広い分野に宇宙からの観測が利用されるようになり、地球表層部の自然的・人為的変化に関する総合的科学研究分野が開かれつつある。
 同時に、宇宙からの地球観測は、気象予報・気候変動予測をはじめ、海洋現象の監視・予測、資源の探査、植生、農作物及び海洋生態系等の状況の把握等に幅広く貢献するものであり、また、地球温暖化、オゾン層破壊等地球規模の環境問題や洪水、大規模山林火災、火山噴火等自然災害等への対応の基礎を与えるものである。すなわち、宇宙からの地球観測は、科学研究の側面と社会的な問題解決の手段を与えるという側面とを併せ持つものである。
 宇宙開発事業団では、1977年の静止気象衛星1号「ひまわり」以来、気象庁に協力して気象衛星の開発・運用に参加し、その後の1987年海洋観測衛星1号「もも1号」から海洋観測衛星1号-b「もも1号-b」(1990年)、地球資源衛星1号「ふよう1号」(1992年)から地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(1996年)、熱帯降雨観測衛星(TRMM)(1997年)の開発を通じて、地球観測システムの基盤技術の獲得や衛星による地球観測データの有効性の確認を行い、データを全世界の研究者に提供している。
 宇宙科学研究所では、1984年の科学衛星「おおぞら」によるオゾン観測を含む高層大気の観測を行ったほか、早くから観測ロケットや大型バルーンによるオゾンその他の大気組成の観測に着手し、長期にわたってその変動の監視や研究を行ってきた。
 今後は、我が国のみならず世界的にも宇宙からの観測に基づく地球科学研究に対する必要性は増すことが予想される。このため、それに応えるためには、長期的な展望に立った地球観測を今後とも継続するとともに、両機関で行ってきている地球科学関連の研究について、一層の連携・協力を進めながら、研究体制の充実を図る必要がある。
 その場合、地球観測衛星のプロジェクトについて、現在の大学の研究者の参画をさらに充実させ、プロジェクトの立案や企画の段階から実施、評価に至るまで、両機関の研究者のみならず広く大学及び関連研究機関の研究者が主体的に参加することが重要である。なお、その際、地球観測データを業務に利用する機関等やその機関等の研究者の活動と調和した体制となるよう留意する必要がある。

(2) 今後のロケット開発及び将来型輸送システムの開発

1.ロケットの研究開発

 宇宙科学研究所においては、中型の科学衛星の打上げの要請に応えるため、1990年から全段に固体燃料を用いた3段式のM-Vロケットの開発を行い、これまで1997年及び1998年の二度の打上げに成功している。
 M-Vロケットの開発は、ペンシルロケット以来の我が国の伝統的な固体燃料によるロケットであり、簡単な構造、容易な管理などの利点を有する上に、精密な惑星間飛行を実現した固体燃料ロケットとしては世界最大級のロケットであり、大型プロジェクトへのH-Ⅱロケットの利用を見込みつつも、我が国の宇宙科学の発展に中心的な役割を果たすことが期待されている。
 ロケットの開発は、科学衛星の輸送手段という必要性からだけでなく、それ自体が宇宙工学研究の対象であり、今後は、製作費の低減のための技術的要素の開発を含め更にその工学的改良研究を進める必要がある。
 なお、ロケットの打上げ及びその後の衛星の追跡・管制体制については、それぞれの目的に応じて宇宙科学研究所と宇宙開発事業団で行われているが、今後、できるだけ集約した実施体制を検討する必要がある。その場合、長期的に安定的な科学衛星の打上げが確保されるとともに、科学衛星打上げ後の研究者と技術者との協力体制や遠距離通信・精密な軌道決定などについてはそれ自体に研究的要素のあること等に十分配慮する必要がある。

2.将来型輸送システムの研究開発

 将来型輸送システムは、輸送費の低減をはじめ輸送システムとしての信頼性や安全性の向上、さらには運用の自在性の実現等を目標とするものであり、現在のロケットが「使い切り型」であるのに対し、「再使用型」であることが鍵と考えられる。また運用における環境問題や有人飛翔環境も考慮すべき要素である。
 現在、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所及び宇宙開発事業団においては、技術発展の異なる段階の技術開発ではあるが、必要に応じた連携・協力のもとで、基礎的研究を行っており、特に推進系(エンジン)、構造材料及びシステム検討等の研究を中心に進められている。
 将来型輸送システムの研究開発は、我が国独自の宇宙理学や宇宙工学を確立するとともに主体的な宇宙活動を推進するためにも不可欠であり、より効率的な宇宙活動の推進のためには現状の一桁以上の低廉な輸送費を実現する必要がある。
 これらを実現するには、幅広い技術分野と先端的かつ創造的技術が必要なことから、研究の早期から宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所及び宇宙開発事業団のみならず大学を含む研究協力が不可欠である。
 従って、現在の基礎研究を研究者自らが厳格に評価しつつ、その進捗を見ながら、我が国全体としてその後どのように研究開発を進めるべきかについて専門的な検討を進めていくことが必要である。

(3) 今後の衛星・探査機工学及び関連技術開発

 衛星・探査機工学は、科学衛星や惑星探査機のエレクトロニクス、通信、制御、構造、推進等の工学技術に加え、放送、通信、測地、気象、宇宙環境利用、資源開発、エネルギー等の分野における総合工学である。
 宇宙理学の研究ニーズの高まりに伴い、より高機能で多様な科学衛星や惑星探査機の開発が必要とされるが、そのためには、様々な分野について先行的な技術開発研究が不可欠であり、このことは、技術開発衛星においても同様の状況にある。
 工学技術の研究開発は目的によって開発内容が異なるため、科学目的の達成を最優先課題とする科学衛星と特定の技術開発を優先する技術開発衛星とでは必ずしも同じではないが、要素技術では共通する開発項目も多岐にわたって存在することに加え、宇宙利用、エネルギー、宇宙資源開発など将来の新しい大型宇宙開発のシステム概念の研究は、基礎研究としても重要である。このため、今後は、大学における基礎研究を活用しながら、宇宙科学研究所と宇宙開発事業団が共通的な技術の研究開発を連携・協力して行う体制の構築が必要である。

4.宇宙科学関係機関及び大学等の間の連携・協力の在り方

(1) 連携・協力の促進

 宇宙科学関係機関である宇宙科学研究所、宇宙開発事業団及び航空宇宙技術研究所は、それぞれ固有の研究開発の目的を有しており、その特徴を生かしつつ、これらの機関が、幅広く意見交換を行い研究開発の在り方を協議することが必要である。
 また、天文学の分野においても、地上観測と宇宙からの観測のより密接な連携が必要であり、今後、地上装置の一層の充実と飛翔体の観測能力のさらなる向上が重要である。
 研究分野によっては、宇宙からの観測の重要性が一層増大するなどの研究動向を踏まえつつ、宇宙科学関係機関と国立天文台との連携・協力をさらに深める必要がある。
 さらに、今後、宇宙科学研究所、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所及び国立天文台等の間の人事交流の促進を図るとともに、施設設備の共同利用については、現在行われている大型試験設備等の利用をより円滑にするための方策について検討する必要がある。
 なお、宇宙科学分野の学術研究及び科学技術研究においては、宇宙科学関係機関等のほか、国立試験研究機関の果たしている役割も大きいことから、これらの機関との協力体制の充実も重要である。

(2) 大学の役割

 幅広い人材の活用と将来の人材養成を充実する観点から、大学における宇宙科学・宇宙科学技術の研究及び教育の充実を図るとともに、大学と宇宙科学関係機関との共同研究の一層の活性化を図る必要がある。
 特に、大学共同利用機関である宇宙科学研究所の科学衛星のプロジェクトへの大学の研究者の参画について、より活発な共同利用・共同研究の推進方策を検討する必要がある。

5.連携・協力のための方策

 宇宙科学は、人類社会の発展の基礎となるもので、先進的学術研究及び科学技術開発の一環として国が推進すべきである。
 また、宇宙からの観測による地球科学の新たな展開、宇宙科学関係機関で行われてきた技術開発の共通要素の増加等を考慮すると、広く宇宙科学全般にわたり学術研究及び科学技術研究を行う宇宙科学関係機関が、それぞれの長所を生かしつつ、密接かつ効果的な連携・協力の体制を構築する必要がある。
 国の個々の宇宙プロジェクトについては、そのプロジェクトが含む科学研究が真に有効な研究計画となるようにするための研究者による企画・評価の体制として、例えば、現在の宇宙科学研究所の宇宙理学委員会及び宇宙工学委員会と宇宙開発事業団の地球観測衛星計画に関連して地球科学の研究を行っている研究者のグループを統合した新たな委員会組織を設置することが適当である。そのため、まずこれらの委員会等の連携を図る協議の場を早急に設ける必要がある。
 さらに、共通の要素を持つ衛星や飛翔体の研究開発を可能な限り共同で実施するために、宇宙科学研究所、宇宙開発事業団及び航空宇宙技術研究所を中心とした協議の場を設けることが適当である。
 なお、今後、宇宙科学関係機関の組織の検討を行うに当たっては、宇宙科学の研究を行う研究者の自主性が最大限尊重される体制が確保されること、大学との密接な関係が維持されること及び研究の機能と不可分であり後世の研究のさらなる発展につながる教育(人材養成)の機能が総合的に推進される体制が確保されることが極めて重要である。

学術審議会特定研究領域推進分科会宇宙科学部会(第16期)委員名簿

委員 青木 利晴 日本電信電話株式会社代表取締役副社長
(部会長) 末松 安晴 高知工科大学長
  蓮實 重彦 東京大学長
  増本 健 財団法人電気磁気材料研究所長
  山本 明夫 早稲田大学教授(大学院理工学研究科)
専門委員 海老原 正夫 航空宇宙技術研究所長
  小平 桂一 国立天文台長
  五代 富文 宇宙開発事業団副理事長
  佐藤 勝彦 東京大学教授(理学系研究科)
  澤岡 昭 大同工業大学長
  戸田 勧 航空宇宙技術研究所研究総務官
  西田 篤弘 宇宙科学研究所長
  樋口 清司 宇宙開発事業団参事
  松尾 弘毅 宇宙科学研究所企画調整主幹
  松野 太郎 海洋科学センター
地球フロンティア研究システム システム長
  松本 紘 京都大学教授(超高層電波研究センター)
  觀山 正見 国立天文台企画調整主幹
  八坂 哲雄 九州大学教授(工学部)

お問合せ先

学術国際局研究機関課

-- 登録:平成21年以前 --