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科学研究費補助金の在り方について (報告)

平成11年2月9日
学術審議会科学研究費分科会

1.科学研究費補助金をめぐる状況

(1) 科学研究費補助金は我が国を代表する研究費

 科学研究費補助金は、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的・先駆的な研究を格段に発展させることを目的とする研究助成費で、大学等の研究者又は研究者グループが自由な発想に基づき計画する基礎的な研究のうち、学術上特に重要なものを取り上げ助成する我が国の代表的な競争的研究費である。
 この制度は、大学等の学術研究を推進し、我が国の研究基盤を形成するための基幹的な経費として定着しており、我が国から世界に発信している多くの優れた学術研究成果を支えている。

(2)科学研究費補助金をめぐる昨今の状況

 大学等における研究活動において、基本的に必要な研究環境を維持するための経常的研究費(国立大学の校費等)と競争的研究費の二本立ての形態は、これまで有効に機能してきていたと言える。近年、厳しい財政状況の中、経常的研究費は、厳しく抑制されているものの、競争的研究費である科学研究費補助金は着実に整備・充実されてきている。
 現在、この補助金の予算規模は1千100億円を超えるとともに、新規の申請課題については、平成10年度約8万件が申請され、そのうち約2万件が採択されている。これに継続課題を含めた全体の申請件数は10万件を超えており、新規と継続を含む総採択件数は約4万件にも達している。
 平成9年8月には科学技術基本計画を受けた「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」や、同年12月には学術審議会から「学術研究における評価の在り方について」の建議がとりまとめられるなど、研究課題・成果等の評価の充実が強く求められている。
 また、各省庁においても多種多様な研究費が創設され、それらが大学等にも投入されていることを踏まえ、大学等における基礎と応用の調和のとれた研究の推進、政府予算の効率的な執行の観点から、各省庁横断的な連携・調整を進めるべきであるとの議論もある。
 本分科会においては、これまでも科学研究費補助金制度の改善や評価の充実等について鋭意検討してきており、昨年6月にも企画・評価部会において、前述の大綱的指針や学術審議会建議を踏まえた中間・事後評価の充実について報告をとりまとめたところである。
 今回は、科学研究費補助金と日本学術振興会の出資金事業をはじめとする各省庁所管の各種の研究費、外部資金との関係について目的・性格等の観点から整理するとともに、より効率的・効果的な科学研究費補助金の運営の在り方と今後の改善・充実方策について審議したのでここに報告する。

2.科学研究費補助金と他省庁等の研究費

(1)科学研究費補助金の特徴

 科学技術創造立国を目指して、それぞれの省庁の政策目的を達成するため、各省庁の特殊法人等への政府出資金を活用した研究推進制度が創設され、各々の研究費の目的・性格に応じて大学等の研究者に配分される状況が生じてきている。この制度は、主に、社会的要請をより強く意識しつつ、それを踏まえて行われる新分野の開拓、技術開発や応用を中心とした研究を重点的に推進するものと位置づけられる。
 一方、科学研究費補助金は、社会的な要請をもかんがみつつ、基本的には研究者の知的欲求に基づくあらゆる研究分野における研究活動を対象とし、かつ独創性のある基礎的な研究について先端的な研究まで幅広くその助成対象としている。
 このように、科学研究費補助金制度は、他省庁等の研究推進制度とは本質的にその発展の歴史と目的・性格を異にするものである。特に、研究者の自主性に基づいた研究計画の立案から研究の実施がなされているところに特徴がある。

(2)科学研究費補助金の役割とその意義

 一般的に他省庁の大型研究費による研究推進の実態を見ると、科学研究費補助金の奨励研究(A)や基盤研究等の研究種目によって行われる研究により実績を積み重ね、研究のさらなる展開期に達した大学等の研究者の協力に依存している場合が多い。
 このような状況をかんがみるに、社会的要請に応じた大型研究の推進にとっても、幅広く研究の基盤を支えるような研究者の育成、活性化の機能を果たしている科学研究費補助金の役割が重要である。
 つまり、競争的な環境のもとでの研究費の投入、獲得を通じて、独創性のある研究者の育成が必要であり、この意味においても奨励研究(A)や基盤研究などの研究種目は重要である。
 また、研究の大きな特徴として、独創性があり、新しい分野を開拓し得るような研究は往々にして目的志向ではない自主性に基づく基礎研究から発展するものである。
 このような独創性のある研究者の育成や創成期の基礎研究の推進は、他省庁の特定の政策目的を達成することを目指すためのトップダウン方式の研究費では実現が極めて難しいものであり、科学研究費補助金の果たす役割に対する期待は大きいものと考える。
 一方、目的・性格の異なる多種多様な研究費の併存が必要であることと、ひとつの研究を複数の研究費で行うこととは別なことであり、研究費の効率的な配分による調和のとれた研究推進が必要である。
 このためには、研究者が各省庁の研究費の目的・性格をよく理解することとともに、研究者自身のモラルの問題として自己規制を促していく必要があると考えられる。そのためにも、例えば、研究者を対象とした科学研究費補助金制度についての説明会において、各研究種目の目的・性格等について明確な説明を行うなど説明会の充実を図るとともに、その際、併せて各省庁の研究費の目的・性格等を説明することにより、その理解促進に努めることが望まれる。
 なお、他省庁における各種研究費の制度、運用状況の調査、科学研究費補助金の配分状況、民間等との共同研究制度等外部資金制度の運用状況等、大学等に入る研究費を総体として把握し、情報公開を行うことによって、より効率的・効果的な研究助成施策の実施を図ることも重要である。

(3)今後の他省庁等研究費との関わり

 各省庁の特殊法人等への政府出資金を活用した研究推進制度の創設等に伴う他省庁との連携・協力、調整の方途の検討に加え、例えば、科学研究費補助金のうち大型の研究を助成する研究種目の採択情報を関係省庁に提供するとともに、他省庁等研究費による新たな政策課題への大学等の研究者の協力などによる研究費配分に関し、省庁間での調整も重要である。さらに、省庁間での調整を図るばかりでなく、一方では、このような他省庁等の研究費による研究と科学研究費補助金による研究との連携体制についても検討していくことが望ましい。
 科学研究費補助金の審査(事前評価)の段階における、他省庁等の研究費との調整については、既に研究計画調書においてそのような研究費の受入れ状況について記述させ、それを踏まえ審査するなど、可能な範囲で対処してきているところであるが、単に複数の省庁等から研究費を受けていることだけをもって、機械的に研究費を打ち切るのは必ずしも適切ではないので、より実質的な情報交換と調整が望まれるところである。
 また、科学研究費補助金を中心とした大学等における様々な研究費の投入が大学等の研究の充実化・活性化にどのように貢献しているかについて中期的にその傾向を調査・分析し、その結果を公表することは、科学研究費補助金をはじめ、各省庁の研究助成施策へ反映し、それらの制度の改善に寄与することが期待される。
 ただし、他省庁等の研究費を過度に意識し、これまで公正かつ透明性の高い審査制度として既に確立された科学研究費補助金制度に矛盾が生じないよう十分に留意することが重要である。

3.審査・評価の充実

(1)近年の科学研究費補助金の改善・充実の努力

 科学研究費補助金の審査・評価については、公正さ、透明性及び効率性の確保について更なる向上を図るため、随時制度の改善を行ってきている。前述のとおり、昨年6月にも企画・評価部会として「科学研究費補助金の評価の充実について」報告をとりまとめたところであるが、その中で、科学研究費補助金の審査・評価の現状について概観したところ、「種々検討の余地はあるものの、現在の事務体制等を考慮すれば、これまでの申請件数や配分件数を前提とした研究費の配分システムとしては、大綱的に見てよく機能していると言いうる水準にある」とされている。

(2)今後の具体的充実方策と検討課題

 このように現在の体制については、一定水準以上の評価があるとはいえ、他面一層きめ細かな審査の実施、研究者へのサービスの充実が求められていることも事実である。したがって今後、事務体制を見直すとともに、審査員の増員による審査員一人当たりの評点の比重の是正、審査員の負担の軽減及び十分な審査時間の確保や、それぞれの研究種目の性格に応じた適切な審査体制の整備などにより、より慎重な審査の実施を図ることが求められているが、それには、次のような具体的な改善方策が考えられる。

1.基盤研究等の第1段審査の充実

 基盤研究(A)、(B)は、他の研究種目に比して研究の規模、申請額が大きく、厳正な審査の観点から、審査員の増員について要望が強い。審査員の増員により、公正さ・客観性が増すばかりでなく、申請者・申請課題と特定の審査員との間に特別の関係がある場合にその審査員を除いて審査することが容易になるという利点もある。
 また、審査員の負担の軽減を図るためには、例えば、現在、同一人が行っている基盤研究(C)と奨励研究(A)の第1段審査員を分割することが考えられ、これにより、より質の高い審査が確保されるものと考える。

2.第2段(合議)審査の充実

 現在の第2段審査の状況をみると、必ずしも十分な時間を費やしているとは言えない状況にあり、一部には第2段審査の形骸化ではないかとの意見もある。このため、審査会に必要な日程・時間を確保し得るような措置が必要である。
 また、審査体制を比較的高額な研究費を配分する基盤研究(A)、(B)の審査を行うものと基盤研究(C)、奨励研究(A)、萌芽的研究の審査を行うものに分割するとともに、審査員の増員を図ることにより、第1段審査において評点が分かれた課題の審査や境界領域の課題の審査などの体制整備等、第2段審査の充実が図られるべきである。

3.第1段審査と第2段審査の連携の強化

 現在、基盤研究等の審査においては、二段審査制をとっているが、これをさらに充実するためには、第1段審査と第2段審査の連携の強化を図ることが必要である。ひとつの方策として、第1段審査員が審査する際には、個々の課題について所見を付すことの徹底を図ることが考えられる。これにより、第2段審査において、第1段審査の評価結果を適切に反映することが可能となり、よりきめ細かな審査が期待される。
 また、審査終了後に第2段審査の結果を第1段審査員にきめ細かく伝達することで、第1段審査員にとって、自らの評価が第2段審査員によってどのように反映されたのかを知ることができ、第1段審査の質の向上に資することになる。

4.萌芽的な研究の審査の充実

 萌芽的研究は独創的な発想、特に意外性のある着想に基づく芽生え期の研究を対象としており、他の研究種目の対象とは観点を変え、独創的な発想に主眼をおいた審査を行うことが重要なものであるが、現状は基盤研究等と萌芽的研究とを同一の審査員が審査している。この制度の特色を一層活かしていくためには、萌芽的研究を専門に審査する小委員会を設置するなど体制の整備が必要であると考える。
 また、萌芽的な研究を推進していくためには、場合によっては、研究費の増額とともに、研究期間の長期化を図ることにより、研究の芽が出るのかどうか判断できる規模、研究期間での助成が望ましいものもあるのではないかと考えられるので、将来的には2つのカテゴリーに分類することも検討すべき課題である。
 なお、審査の充実といった観点から、審査に当たり申請者からヒアリングを実施したり、あるいは、特に若手研究者の場合には所属機関(部局長など)の推薦書を添付するといったことも考えられる。

5.過去の研究実績があまり知られていない研究者に対するきめ細かい審査及び再審査制度の導入

 例えば、長期間外国で研究を行って帰国した研究者の研究や民間から大学に異動した研究者の研究、研究分野を大幅に変更した研究者の研究など、これまでの研究活動、業績が審査を希望した研究分野の審査員にあまり知られていない場合がある。このような研究計画の評価に慎重を期する必要がある課題については、その旨明記することとし、審査員にも慎重な審査を求めるとともに、不採択となった場合でも必要に応じ例えば海外での研究の経験を持つ研究者、民間の研究者などによる審査など、異なった視点から、再審査を行うような制度の導入について検討することも必要と考える。
 また、第1段審査の評点が例えば非常にユニークな発想に基づいているため、その時点での判定が極端に分かれる場合が想定される。このような場合、第2段審査において再度慎重な審査が必要であるとの判断が下された課題については、不採択となった場合も、同様に再審査を行う道を設けることについて検討することが必要であろう。

6.外国人研究者の申請への配慮

 大学等の国際化に伴い、外国人教員が増加している現状にかんがみ、これらの研究者が行う学術研究を助成する必要性が高まってきている。このため、科学研究費補助金についても英語での記述による申請を受け付けるなどの配慮が必要であると考える。例えば、外国人特別研究員が特別研究員奨励費の申請を行う場合、現在は、受入教官が研究代表者となって申請しているところであるが、英語での記述を可能とすることで、直接本人が研究代表者として申請できるようになる。
 なお、将来的には、大型研究費について、外国人にもレビューを依頼することが望まれ、このことは、我が国の学術研究の国際競争力を強めることにもつながると考えられるが、研究計画の全面的英文化、審査作業の長期化の回避、コスト・パフォーマンス等の問題もあり、引き続き検討が必要であると思われる

7.適正さを欠いた審査を行った者の取扱い

 故意に適正さを欠いた審査を行うことは、審査員としてあってはならないことであるが、万が一にも、そのことが明らかになった場合の審査員の取扱いについて検討していくことも、今後の検討課題であろう。

(3)その他の改善方策

1.日本学術会議との連携について

 科学研究費補助金制度の適切な運用のため審査を行う審査員に適任者を得ることが極めて重要であることは、言うまでもない。従来より、科学研究費補助金の審査員の候補者について日本学術会議から推薦を受けることとなっていることにかんがみれば、適切な審査員の選考について、今後とも、日本学術会議との連携を深めることが望ましい。

2.学術研究の動向に即した対応

 現在の「系・部・分科・細目」の在り方については、学術研究の動向や申請件数の増減などに配慮しつつ、定期的に見直しを行ってきているところであるが、境界領域の研究をどのように推進していくか、あるいは既存の枠組みを超えた諸科学の連携を必要とする地球環境科学の例に見るように、知識体系の再編成なども視野に入れた不断の見直しに努めていくことが必要であろう。

3.科学研究費補助金制度、評価の改善・充実のための方途の工夫

 この他、科学研究費補助金の制度、評価の改善について検討していく上で、科学研究費補助金に対する研究者の意見等を調査することなどは非常に重要なことである。例えば、学術審議会の委員が全国各地の大学等を訪問して意見聴取を行い、そこで得た情報を本分科会企画・評価部会での審議に活用する、あるいは、アンケートや電子メールにより意見を受け付ける方法について検討するなど、研究者の生の声に触れる機会を設けることで、制度、評価の更なる改善に役立てていくことが重要である。
 さらには、サンプル課題を抽出し、過去の審査(例えば5年前)に遡り、申請、審査、研究活動、研究成果、成果の発表等一連の流れをたどり、妥当な審査が行われていたかを評価し、問題点があれば現在の審査システムの改善に役立てることが必要である。どのような形で評価を行うのか、評価基準をどう定めるのかといったことは今後の検討課題と考える。
 なお、科学研究費補助金制度の充実のためには、審査・評価制度の充実とともにその内容を広く研究者等に周知し、理解を深めてもらうことが不可欠である。このため、審査についての情報の提供を中心とした各種サービスの充実を図ることも重要である。

4.制度上の改善点等

(1)基盤研究等と国際学術研究の統合

 現在、基盤研究等については、原則として国内で行われる研究計画を対象としていることから、外国旅費の使用に関して、研究種目ごとに一定の制限を設けている。一方、国際学術研究については、国外の特定地域や研究機関における調査研究、あるいは国外の研究者との共同研究を対象としていることから、外国旅費に重点をおき、設備備品の購入は原則として認めていない。
 しかしながら、学術研究は、課題・分野の進め方等極めて多様であり、それぞれ当該課題の目的達成のため、最も効果的な方法で推進する必要がある。したがって、国際学術研究と基盤研究等との区分は、基本的には必要がなく、これまでの制度を見直し、国際学術研究と基盤研究等とを統合することにより、より一層の学術研究の振興並びに学術国際交流の推進が可能になると期待されるものである。

(2)地域連携推進研究費の創設

 昨今の国、地方公共団体や民間企業等が行う地域における研究開発プロジェクトに対する大学等の協力への要望が高まっている中、そのようなプロジェクトと大学等との連携を一層促進することが重要である。
 このため、基礎となるこれまでの研究成果の累積を踏まえて、更に研究を発展させることにより、大学等における研究の成果が実用に繋がる可能性を有する研究を、国、地方公共団体や民間企業等が行う地域における研究開発プロジェクト等と有機的な連携の下に推進し、学術研究の更なる発展や地域経済・社会の基盤整備に資することを目指し、新たに地域連携推進研究費を創設することが必要である。

(3)特別推進研究の充実

 特別推進研究は、国際的に高い評価を得ている研究を一層推進するために研究費を助成し、格段に優れた研究成果を期待するものであり、科学研究費補助金の中でも最高位の研究費である。言い換えれば、我が国が世界に誇る優れた独創的・先駆的な研究を、万全の体制で推進することを可能とするための研究種目である。
 この特別推進研究の趣旨を明確にするために、その一層の充実・改善が必要であり、研究の規模や研究分野の特徴、特殊性等について配慮し、複数のカテゴリーに分類することも考慮しつつ、具体的には、申請額の上限を引き上げたり、いわゆるポストドクトラル・フェローの確保についての要望に応えるなどの検討が必要であろう。
 また、研究計画の終了後、更なる飛躍的な研究の進展、成果が期待されるものもあることから、そのような課題には研究期間の延長を認めることも必要になろう。
 このほか、特別推進研究の研究分担者についても、独自の研究を行う道を拓くことが重要であり、現在制限している基盤研究等への研究代表者としての申請を可能とすることについての検討が必要である。なお、そのような方途を可能とする場合、特別推進研究と基盤研究等で推進する研究テーマ等については明確な仕分けが必要である。

(4) 政策的対応を要する課題への対応方策

 学術研究に対する助成は、大学等の研究者の自由な発想に基づくものであることからボトムアップの形態が基本と考えられるところであるが、政策的・国際的な対応を要する課題や緊急な課題については対応が難しい場合もある。このため、例外的にトップダウンの形態も必要な場合があると考えるが、この場合、提案するテーマについて適切なレビューを受けることが必要であろう。また、そのテーマの性格にもよるが、具体的な人材を全国から発掘することが可能であれば、テーマを設定した後、公募で競わせることも望まれる。
 なお、現行制度において、このような方策を講じる場合、新プログラム方式による大規模なグループ研究が実施されており、この制度の活用もひとつの方策であるが、比較的小規模な研究費で効果が得られるものについては、例えば、トップダウンの形態の研究種目を設ける、あるいは時限付き分科細目を活用するといったことも検討していく必要があると考える。

(5) 時限付き分科細目の改善

 時限付き分科細目とは、「系・部・分科・細目」を毎年度見直すことが困難であることから、学術研究の急速な進展に適切に対応するため、設定期間を限って柔軟に設定しているものである。この時限付き分科細目が領域として定着し、分科細目として成り立つものについては、分科細目として積極的に組み替えるといったことも考慮すべきである。また、近年の多様な学術研究に対応するために、現在の申請額の上限を引き上げることについても検討する必要があると考える。
 また、萌芽的な研究分野についても時限付き分科細目を設定することが可能であるが、この場合、研究分野を発展させる観点からも、他の研究種目との申請に当たっての重複制限を緩和することについても検討が必要であろう。

5.運用上の改善点等

 科学研究費補助金は、研究に直接必要な経費であれば基本的に支出でき、また、設備費や旅費などの各費目間での流用についても、一定の割合で行うことができるなど柔軟な経費執行が可能となっている。このほか、新規採択の時点で複数年度の継続が内約されている課題については、次年度以降、年度当初から研究を行えるよう弾力的な運用が図られているところである。
 しかしながら、大学等における学術研究をさらに一層円滑に推進していくには、当面、次のような点について改善が望まれる。

(1)人件費問題

 科学研究費補助金は、大学等の研究機関を対象としたものではなく研究者個人に対する補助金であることから、この研究費で研究者や研究補助者を雇用すると、研究代表者は使用者として雇用保険や被雇用者の健康管理などの雑多な義務を負うことになる。このため、様々な困難が予想され、慎重な対応が必要なことから、従来より雇用関係が生じるような経費は申請できないこととされている。
 しかしながら、平成8年12月に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令」の改正が行われ、それまで可能となっていた翻訳業務等に加え、労働者派遣業者との契約により研究者等を受け入れることも可能となったことに伴い、当該制度の活用促進が望まれるところである。ただし、対象者の位置付け、将来の研究者としての経歴・実績評価の不安定性等から必ずしも十分な普及に至っていないと考えられるため、特に、労働者派遣業者との契約により受け入れた研究者のうち、博士の学位を取得し、かつ研究者としての資質において特に優れている者については、研究代表者が科学研究費補助金による研究活動において必要と認めた場合は、「科研費・リサーチ・アソシエイト(又はリサーチフェロー)(仮称)」と称することができるようにするなどの改善方策が考えられる。

(2) 光熱水料等維持費問題

 科学研究費補助金では、当該研究活動に使用した光熱水料を特定することで、その実費分の支出は可能とされている。しかし、大学等の施設・設備を使用する研究活動において、光熱水料を伴うことは明らかであるにも関わらずその特定が難しく、何らかの対応策が必要となっている。
 諸外国における一般的なオーバーヘッドとしては、設備・備品の減価償却費、建物の管理運営・保守関係費、研究設備の維持・運営費、研究室の事務費、所属大学の事務経費等が挙げられる。
 現行の科学研究費補助金制度においては、申請する研究者の所属する機関について基盤的な研究条件が確保されていることが前提となっているため、諸外国のオーバーヘッド制度を直ちにそのまま導入することは適切でないと考える。このことについては、近年、経常的研究費が抑制されているため、必ずしも科学研究費補助金を受け入れる前提となる研究条件が整備されていない状況が指摘されていることなども踏まえて、今後検討していくことが必要である。
 これらのことから、当面は、光熱水料に限り、支払方法を工夫した上で、科学研究費補助金から支出できるよう早急に検討することが必要である。

(3)外国旅費

 学術研究の国際化が急速に進展する中、国際学術研究と基盤研究を統合し、基盤研究における外国旅費の使用についての制限を撤廃することにより、学術研究の国際化・高度化を一層推進することが可能になると期待される。
 なお、基盤研究における制限の撤廃とあわせて、他の研究種目についても同様の措置を検討する必要がある。

(4)科学研究費補助金の効率的配分と設備の有効利用について

 今後、科学研究費補助金の効率的配分の観点から、科学研究費補助金をはじめ、他省庁等の研究費により購入された大学等の設備がどのように利用されているか調査・分析する必要があると考える。
 また、科学研究費補助金の研究期間のみに特化して使用するような設備については、レンタルを活用することが望まれるが、例えば一定額以上の設備を購入して使用する場合は、研究機器の有効活用の観点からも研究期間終了後の有効な取扱い方策について、研究計画調書への記載を求めることも一方法と思われる。

6.科学研究費補助金の審査・配分事務の一部を日本学術振興会へ移管することについて

(1)学術研究に対する期待と研究費政策の必要性

 学術研究は、科学技術創造立国を目指す我が国の将来を支える基盤として極めて重要な役割を担うものとして、社会の各方面から大きな期待が寄せられており、その成果は、それ自体優れた文化的価値を形成し人類文化の発展に貢献するものである。
 「科学技術基本計画」(平成8年7月)や、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月)、学術審議会の「学術研究における評価の在り方について」(建議)(平成9年12月)によれば、平成12年度までに科学技術関係経費を倍増する、また、競争的資金による研究開発課題の評価について、事前評価に当たる審査の充実とともに、短期間又は少額なものを除き、審査の充実に加え事後評価の徹底を図ることが求められている。
 また、研究活動については厳正な評価を実施し、その適切さを判断するとともに、評価の結果を適切に研究費の配分に反映して研究活動の活性化、効率化を図る必要があるとしている。
 一方、各省庁からも多種多様な研究費が大学等の研究者に投入されている状況を踏まえると、大学等における研究費の効率的・効果的配分の観点から、実効的な研究費政策を展開していくことが極めて重要となってきている。そのためにも、科学研究費補助金の効果等も含めて、恒常的に科学研究費補助金を捉えることができるデータを蓄積していく必要がある。
 さらに、研究者からは、欧米においては、米国のNSFや英国のリサーチ・カウンシルのような学術振興機関が研究費配分によく機能していることが指摘されている。我が国においても、政府による学術振興方策の推進とともに学術振興を担う中核的機関の育成が急務であるとの要望が強い。

(2)科学研究費補助金をめぐる日本学術振興会の今後の役割について

 文部省では、従来より研究情報を収集し、研究者のニーズを把握しつつ科学研究費補助金を中心に研究費の助成を行ってきていたが、上記のような状況にかんがみ、今後は体制の抜本的改革が必要と考える。
 一方、日本学術振興会は、これまで研究者養成、国際交流、産学協力、出資金を活用した未来開拓学術研究推進事業等、研究者にとって非常に身近な事業を、研究者との深い信頼関係のもとで行ってきた。
 このため、科学研究費補助金のうち、制度としてある程度整えられた、運用上の混乱を生じさせない研究種目については、日本学術振興会に移管し、よりきめ細かな審査・評価や研究者へのサービスの向上を目指すことが期待されるとともに、強く望まれるところでもある。なお、科学研究費補助金の効率的・効果的な執行のためには、審査・評価のさらなる改善充実が求められるところであり、そのために必要な経費の充実と日本学術振興会の事務体制の強化が望まれる。
 このように、日本学術振興会に科学研究費補助金の一部を移管することで、同振興会を学術振興のための中核的機関、いわば日本版NSFあるいは日本版リサーチ・カウンシルに育成し、これまで以上に諸外国の対応機関との連携・強化を推進していくことが期待される。
 なお、科学研究費補助金の中でも多額の研究費を重点的に配分する研究種目など、今後とも中間・事後評価などの審査・評価体制の充実や制度改善などを要するとともに、政策的に重要な研究領域の推進、各省連携を要するもの、あるいは緊急な課題への取り組みを必要とするもの等、政策的要素の強い研究種目については、引き続き文部省において取り扱う必要があると考えられる。また、科学研究費補助金の整合性ある運用のためにも、科学研究費補助金全体や各研究種目の在り方についての基本的な方針についても学術審議会が審議すべきである。これにより、他省庁等の研究費を視野に入れ、大学等にかかる研究費全般を把握し、効率的・効果的な研究助成の企画・施策を展開していくことが期待される。

学術審議会科学研究費分科会運営会議(第16期)委員名簿

  阿部 謹也 一橋大学名誉教授
  奥島 孝康 早稲田大学長
(分科会長) 鈴木 昭憲 東京大学名誉教授
  豊島 久真男 大阪府立成人病センター総長
  野依 良治 名古屋大学教授(大学院理学研究科長)
  増本 健 財団法人電気磁気材料研究所長

学術審議会 科学研究費分科会 企画・評価部会(第16期)委員名簿

委員 阿部 謹也 一橋大学名誉教授
  阿部 博之 東北大学長
  池端 雪浦 東京外国語大学教授(アジア・アフリカ言語文化研究所)
  奥島 孝康 早稲田大学長
(部会長) 鈴木 昭憲 東京大学名誉教授
  谷口 維紹 東京大学教授(大学院医学系研究科)
  豊島 久真男 大阪府立成人病センター総長
  野依 良治 名古屋大学教授(大学院理学研究科長)
  蓮實 重彦 東京大学長
  増本 健 財団法人電気磁気材料研究所長
  山本 明夫 早稲田大学教授(大学院理工学研究科)
専門委員 石井 紫郎 国際日本文化研究センター教授
  志村 令郎 生物分子工学研究所長

(平成11年2月9日現在)

お問合せ先

学術国際局研究助成課 (2581)

(学術国際局研究助成課 (2581))

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