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大学等におけるクローン研究について(中間報告) (学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会)

平成10年1月20日
学術審議会特定研究領域

1.背景

1 クローン研究をめぐる最近の動向

 平成9年(1997年)2月28日付の英国の科学雑誌に、英国ロスリン研究所の研究グループが、成体の乳腺細胞からの核移植によるクローン羊の作製に成功したとの成果が発表された。この羊はドリーと名付けられ、世界的な注目を浴びることとなった。また、その後も、ヒト遺伝子の導入を行ったクローン羊の作製や、胎児の幹細胞を用いたクローン牛の生産など、哺乳類におけるクローン個体作製の新たな手法が相次いで報告され、大きな反響を呼んでいる。
 成体や胎児の体細胞を元にしたクローン個体の作製に関する研究は、すでに40年以上の歴史を有しており、昭和45年(1970年)には、英国のJ.B.ガードンらがアフリカツメガエルのおたまじゃくしの腸上皮細胞を使った核移植によるクローン個体の作製に成功している。今回報告されたクローン羊やクローン牛の作製手法も、これら両生類等におけるクローン研究の成果に基づくものである。
 哺乳類においては、従来、この手法によるクローン個体の作製は困難とされ、一般には初期胚細胞核を元にした作製手法が用いられてきた。成体の体細胞核を元にしたクローン個体作製手法は、既知の遺伝的形質を有する複数の個体の作製を可能にするという点で、初期胚細胞核を元にした作製手法とは一線を画するものである。特に、成体の体細胞を元にしたクローン羊であるドリーは、遺伝的には片親の羊から遅れて誕生した一卵性双子に当たるものであり、片方の親の遺伝的素材のみを持った複製個体という性格をも有する点に大きな特色がある。

2 クローン研究の意義と新たな問題点

 クローン研究は、これまで主に畜産分野において、育種理論に基づいて生産性のより高い品種を作り出すという課題の下で発展してきた。それはすぐれた経済形質を持つ動物の効率的生産等のための画期的な技術として評価されており、その成果は実用化されているのみならず、学術面、応用面においても大きな意義を持っている。
 一方、哺乳類におけるクローン個体作製手法の進展は、ヒトへの応用を容易に想起させるものとして、新たな問題を提起している。とりわけ、ドリーの作製の成功は、家畜の育種・改良上画期的な貢献をもたらす反面、その手法がヒトへと応用されれば、現存するヒトと同一の遺伝子を持つ新しいヒト個体の創造さえ可能であることを示唆している。クローン研究に係る最近の報告が、大きな社会的関心を呼び起こしたのもこのためである。

3 各国等の検討状況

 今般のクローン羊の誕生を契機として、欧米を始めとした各国及び国際機関においては、クローン技術のヒトへの適用を規制するため、種々の検討が行われている。
 米国においては、まず、平成9年(1997年)2月24日、クリントン大統領から国家生命倫理諮問委員会に対し、90日以内の検討が要請されるとともに、3月4日には、ヒトのクローン作製に関する連邦資金の支給を当面禁止する大統領令が発せられた。また、6月7日には国家生命倫理委員会の答申が出され、これに基づき、6月9日には、クリントン大統領から議会に対し、体細胞由来核移植によるヒト・クローン個体の作製を、5年間の時限付きで禁止するための立法化の要請が行われ、現在、議会において審議が行われている。
 一方、西欧諸国の多くは、従来より生殖医療・医学関連の国内法において、ヒト胚の取扱に関する規制を行っており、ヒトのクローン個体の作製についても禁止の措置が採られている。
 フランスにおいては、2月27日にシラク大統領がヒト・クローンの法的規制について検討を指示。4月24日には、生命倫理委員会から回答を得、ヒト・クローン個体の作製の禁止については法的に問題がないこと、現行法においてもすでに禁止済みであることが確認された。
 イギリスにおいては、2月27日に、ヒト遺伝学諮問委員会が、核移植によるヒト胚のクローンの作製が「ヒトの受精と胚研究に関する法律」(1990年)における禁止対象に含まれることを確認、次いで、3月20日には下院科学技術特別委員会が報告をまとめ、同法律について、成体体細胞由来核移植によるヒト・クローン個体作製の位置づけを明確化するため、所要の改正を行うよう指摘した。
 また、欧州会議においては、4月4日に署名公開された生命倫理条約において、研究を目的とするヒト胚の作製を禁止、つづいて翌年1月12日にはヒト・クローン個体の作製の禁止に関する追加議定書が署名公開された。
 更に、8カ国デンバーサミットでは、6月22日にそのコミュニケにおいて体細胞由来核移植によるヒトのクローン個体の作製の禁止を宣言している。
 このほか、ユネスコにおいては11月11日に「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」を採択し、人間の尊厳に反する許されざる行為として、ヒトのクローン個体作製を例示している。

4 我が国におけるこれまでの対応

 クローン研究に関連した我が国のこれまでの対応としては、まず、平成9年(1997年)3月7日に、文部省の学術審議会が、大学等の研究者・研究グループを対象とした研究助成費である科学研究費補助金について、ヒトのクローンに関する課題の採択を当面差し控えることを決定している。続いて、3月21日、科学技術会議政策委員会が「ヒトのクローン研究に関する考え方について」決定を行い、ヒトのクローンに関する研究については、当面、政府資金の配分を差し控えることが適当であるとするとともに、国以外においても、当面、そのような研究を差し控えることを期待する旨表明した。
 文部省では、これら措置の大学等への周知を図るため、3月26日に「ヒトのクローンに関する研究について」学術国際局長名により通知している。
 さらに、科学技術会議においては、平成8年(1996年)6月24日付け内閣総理大臣諮問第24号を受け、「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画について」審議が進められていたが、折からの社会的関心の高まりを受け、この審議においてクローン技術に関わる問題を採り上げることとし、平成9年(1997年)7月28日にはそれら検討結果を答申としてとりまとめた。
 この答申においては、クローン技術を用いた動物のクローン個体の作製や個体を産み出さないヒト細胞の培養等については、「畜産、科学研究、希少種の保護、医薬品の製造等において大きな意義を有する一方で、人間の倫理の問題等に直接触れるものでないことから適宜推進することとすべき」としている。
 一方、「同技術を用いたヒト個体の作製」については、「現在、我が国を含む多くの国において」「社会的に容認されていないと考えられ、さらには、人為的な手段により特定の遺伝的性質を持つヒト個体を選択的に産み出し、人間としての人格を作り出そうとする点等で人間の尊厳にかかわる種々の倫理的問題を内包していると考えられること、また、作製される生物個体にかかわる科学面、安全面等の基本的な知見も十分に蓄積されていないことから、これを実施しないこととすべきである」としており、政府資金の配分を差し控える等の「現行の決定を当面継続すると共に、法的規制の必要性等具体的方策については、生殖技術等の観点から議論を尽くしていくべきである」とした。
 この答申の内容は、そのまま「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」として、同年8月13日に内閣総理大臣決定されているほか、文部省においても、8月12日に学術審議会のワーキンググループにおいて、同答申を受けた「大学等におけるクローン研究に関する考え方」を公表している。

5 検討課題

 以上のように、体細胞由来の核移植によるクローン羊の誕生を契機として、ヒト・クローン個体の作製については、少なくとも当面は、これを禁止することが世界的な趨勢となっている。我が国においても、現在、これを目的とする研究に対する政府資金の配分は、当面差し控えるなどの措置がとられている。
 しかしながら、ヒト・クローン個体の作製については、安全性、倫理の問題や、人権等の法律上新たに生ずる可能性のある問題についての議論が未だ十分に尽くされてはおらず、政府資金の配分の当面の停止は、一面において、これらの議論を行う時間的猶予を与えるための措置という性格をも有している。
 科学技術会議においても「諮問第24号『ライフサイエンスに関する研究開発基本計画について』に対する答申」において、ヒト・クローン個体の作製の法的規制の必要性等具体的方策については、さらに議論を尽くしていくべきこととするとともに、これらの「倫理的、社会的問題について、国としての姿勢を内外に示すべき場合もあり得ることに備え、情報の収集・分析・検討を積み重ねていくための適切な組織の在り方について、積極的に検討すべき」こととしている。同会議においては、これを踏まえ、平成9年(1997年)9月25日、生命倫理に関わる課題について幅広く受け止め検討する常設の審議機関として、新たに生命倫理委員会を設置した。この委員会においては、広範な価値観を集約し、社会的な合意が得られる結論を目指すため、人文・社会的な観点からの検討を十分に行うこととしている。
 一方、ヒト・クローン個体の作製という行為には、個人あるいはその子孫の身体の安全に直接関わる医療行為という側面や、未知の可能性を追求する基礎研究としての側面があり、それぞれの観点からの科学的・専門的な検討も必要である。
 厚生省においては、厚生科学審議会に先端医療技術評価部会を置き、生殖医療技術の在り方に関する審議に着手している。
 また、文部省の学術審議会では、ヒト・クローンに係る研究課題について、科学研究費補助金の採択を、当面、差し控えることを決定すると同時に、大学等のクローン研究について指針の在り方を含めた検討を行うことを確認し、平成9年(1997年)年4月18日には特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会に「クローン研究における新たな倫理的問題等に関するワーキンググループ」が設置された。
 大学等の基礎研究の成果は、研究者本人の意図を超えて、様々な分野へと展開していくこととなる。研究の内容と目的との関係は必ずしも明確でなく、当面禁止すべきとされるヒトのクローン個体の作製を目的とした研究の範囲についても、各研究者の間で、十分な合意はなされていない。
 このため、大学等における実際の研究については、想定され得る様々なケースについて、それぞれの問題点を公開し、多様な価値観に照らして幅広い議論を行った上で、これを進める必要がある。
 本報告においては、このような認識の下、クローン研究に係る倫理・社会面及び科学面からの考察をさらに進めるとともに、大学等におけるクローン研究の今後の在り方について、その規制の方策をも含めた検討を行うこととする。

2.倫理・社会面からの考察

1 ヒト・クローン個体の作製がもたらす社会的影響への懸念

 クローン羊の作製の報告以来、関連情報は新聞、テレビ等で大きく報じられるようになり、ヒトのクローン個体の作製がすぐにでも可能となるのではないかとの社会的不安が生じることとなった。ヒト・クローン個体の誕生は作為による遺伝的操作に該当するため、産まれてくる子供の遺伝的形質に、あるいは個人、家族、社会の在り方に望まざる影響を及ぼすのではないかと懸念されている。また、子供の遺伝情報を予め親が決定できるようになることは、子供に対する親の決定権の範囲や個人の自立性について、新たな議論を提起するとともに、優生学上の思想の悪用をも招きかねないという指摘もなされている。
 クローン研究の進展に関する種々の情報は、国民にとっては、今回、突然に、身近な話題として登場したものであり、その内容が十分に理解されることとなっていない。そのため、これを巡る議論や国民の不安の中には、一部、誤解に基づくものが含まれていることも事実である。
 しかしながら、これら研究の当面の在り方を考えるに当たっては、このような社会的な不安や誤解が存在し、社会的合意が形成されていないこと自体が重視されなければならない。現段階において、ヒト・クローン個体の作製については、倫理上の課題としてその是非を検討していくことはもちろんのこと、これらの不安や誤解の存在を考慮しつつ、適切な対応を図る必要がある。

2 遺伝子の複製と人格の複製

 今回のクローン羊は片親の羊から遅れて誕生した遺伝的双生児と呼ぶことができ、親と同一の遺伝情報が受け継がれたものと言うことができる。したがって、姿かたちや様々な機能は極めて似ていることが予想される。ところで、人類においては、これまでの遺伝学、脳科学、心理学などの研究から、必ずしも遺伝子型のみが、人格の全てを決定するものではないことが明らかにされている。人格という複雑な形質については、同一の遺伝子組成をもつ一卵性双生児の研究から、特にその発達過程について、遺伝要因と環境要因及びその交互作用が働いていること、すなわち遺伝子型以外の環境の影響もまた大きいことが示唆されている。したがって、遺伝子型のみが人格の大部分を決定するのではないかという一般の誤解に基づく、ヒトのクローン個体に対する過度の社会的懸念については、正確な情報の開示により対処する必要がある。

3 研究の自由と責任

 大学等における研究は、研究の自由を原則としつつも、社会における文化的活動の一部である。これら研究と社会との接点において生じる種々の問題に関しては、社会の理解を得る努力が必要であり、何よりも、研究者自身が倫理的・社会的責任を十全に自覚しつつ、厳しい自主規制の下に研究を行うことが重要である。

3.科学面からの考察

1 用語の定義

 本章で用いる生物学用語の定義並びに適用範囲は以下の通りである(五十音順)

  • 核移植:
    ある細胞の核を別の細胞に挿入する技術。細いガラス毛細管に核を吸い取り、別の細胞に注入する方法と細胞融合による方法がある。
  • 核の初期化(reprogramming):
    発現可能な核遺伝子の種類が受精卵と同じになるように、核の状態を戻すこと。核を卵細胞に移植することにより起こるが、核のドナーとなる細胞によっては核移植以前に前処理が必要である。
  • 幹細胞:
    動物組織の中に存在する、細胞分裂能を保持し、寿命が限定されておらず、その所属する組織の細胞にのみ分化する能力を持つ細胞。ただし、生殖幹細胞と胚性幹細胞(ES細胞)は全ての細胞に分化する能力(全能性)を持つ。
  • クローン:
    「栄養生殖によって生じた個体の集合」に対して、ギリシャ語の小枝を意味するクローンという語が与えられたのが最初である。最近では「一個の体細胞が有糸分裂を繰り返して増殖した結果として生じた細胞の集合」「均一のDNA配列の集合」の意味にも用いられる。「クローン動物」は、この3つの定義が合わさったもので、一般に「核遺伝子が同一である個体(の集合」と理解されている。「クローン動物」という語は人為的に作られたものについて使用されることが多い。
  • 生殖細胞:
    有性生殖を行う際に形成される細胞で、卵と精子とがある。次世代の個体にその生物種のDNAを伝える役割を持つ。
  • 体細胞:
    身体を構成する細胞のうち、精子、卵及び両者の元となる生殖幹細胞を除く全ての細胞。体細胞は個体の死とともに全て消滅する。したがって体細胞の持つ遺伝子は子に伝えられることはない。特殊な無性生殖を行う動植物及び人為的に作製したクローン個体は例外で、体細胞の遺伝子が他の個体に伝えられる。
  • 胚:
    多細胞生物の個体発生の初期であり、生物の種類により様々に定義される。
    哺乳類では一般に、受精完了から器官原基の分化が完了するまでの時期を胚と呼び、それ以後を胎児とよんで区別する。ここでは哺乳類における定義に従う。なお、卵割期から胚盤胞までを初期胚と呼ぶことがある。
  • 胚盤胞:
    哺乳類の胚で卵割を終わった時期のもの。表面の栄養芽層と中央部の内部細胞塊とからなる。マウスではこの時期にはまだ全能性を持つES細胞となり得る細胞を含むことが知られている。
  • 分化転換:
    特定の分化を完了している細胞が、別の細胞種に分化し直す現象。その際、発現するよう設定されている遺伝子の種類が変更される。眼の虹彩の色素細胞がレンズ細胞に分化転換することによりレンズを再生する例が有名である。

2 クローン関連手法の分類

(1)細胞・組織クローンの培養(細胞学的クローン手法)

 幹細胞を体外で培養し、あるいは体内の特定部域で増殖を促進することにより、特定細胞のクローンを作製することができる。この手法は、身体の損傷部位の修復に応用可能で、再生工学の名を冠されて、実用化が有望視されている。さらに、すでに分化している細胞に増殖因子を与えて分裂能を復活させたり、分化転換を起こさせるなどの技術と組み合わせることにより、肝臓、神経系なども含む広範囲の組織への応用が研究されている。

(2)クローン個体等の作製(発生学的クローン手法)

1)胚の分割によるもの

 卵割期の胚を人工的手段により分割して得た細胞(割球)は全能性を保持することを利用する手法。各細胞を個別に発生させることにより、1個の胚から複数のクローン個体を作製することができることから、畜産分野で優良品種の増殖に応用される。原理的には自然の一卵性双生児の出生機構と同一である。

2)核移植によるもの

 個体(又は胚)の細胞の核を一個ずつ、除核した卵に移植し、その卵を発生させて生じた個体は、核を得た元の個体(又は元の胚から生じた個体)のクローンである。同一の個体(又は胚)から複数の細胞の核を得て複数の個体を生じた時には得られた個体どうしもクローンとなる。これらの個体は、染色体組換えや減数分裂が起こる過程を経ずに発生するために、全て完全に同一の遺伝子組成を持つ。このようなクローン個体作製には(1)移植される核の初期化(reprogramming)が必要であること、(2)移植される核と、核を受け入れる卵細胞の間の細胞周期の調整が必要であることの2つの技術的問題がある。核のソースとしては様々な細胞が用いられるが、用いる細胞の種類により、この技術的問題の処理が異なる。

a)核の初期化前処理が不要な場合
 発生初期の卵割期にある胚の核は、機能的には卵細胞の核と同一と考えて良く、これを除核卵に移植する場合は予め初期化の前処置を行う必要がない。
 実際上は、移植後卵細胞の中で多少の初期化が起こると考えられている。
 卵割期の細胞数が少ないために、この技術で得られるクローンの個体数に限界がある。
 一方、ES細胞は、胚盤胞に移植してキメラ個体を作出する研究に用いられる。
 羊におけるTNT(totipotent for nuclear transfer)細胞のように分化した細胞でありながら増殖可能で、その核を卵細胞に移植すれば初期化が行われて全能性を発揮するものも作れられている。

b)核の初期化前処理を必要とする場合
 ES細胞やTNT細胞の場合を除き、初期胚段階を過ぎた分化した体細胞の核を移植する場合には、核のドナーとなる細胞に初期化前処理を行う必要がある。
 これにより得られる個体の遺伝情報は体細胞を提供した個体のそれとほぼ同一のものである。この手法の哺乳類における最初の成功例として報告されたのがクローン羊ドリーであり、ドリーは片親のみから遅れて誕生した一卵性双生児に当たる。

 a)、b)いずれの場合にあっても、移植される核と移植を受け入れる卵細胞は、細胞分裂周期を考慮することが必要である。この周期が一致しない場合には、移植された核の染色体異常がおこることが多い。
 なお、核移植によるクローン個体作製手法の応用として、移植に先立って核の遺伝子に一定の改変を加えることにより、個体への発生能を失わせ、臓器等の特定のクローン組織のみを作製することも可能であると予測される。

3 クローン研究の現状

(1)基礎生物学における研究

 クローン動物作製のための研究は、生命現象の理解のための基礎的研究にも寄与するところが大きい。

1)細胞学的研究

 クローン個体を作出するために、移植する核と、移植を受ける卵細胞との細胞周期の調整が必要であるが、この研究は、細胞周期監視の分子機構、胚・組織の細胞間の分裂同調機構、染色体構築の分子機構などの基礎研究にも貢献する。

2)発生生物学的研究

 クローン動物の作製は、体細胞の核にはその動物の持つ全ての遺伝子が含まれているかという発生生物学上重要な問題の解決に貢献しつつある。さらに生殖細胞をも作るに充分な遺伝子が含まれているかという問題の解決への貢献が期待される。
 クローン動物の作製に必要な、初期化の分子機構はまだ明らかにされていない。この研究により、特定遺伝子のみを発現するよう設定された状態である決定が、細胞分裂を経ても変化しないように保たれる機構も明らかにされることが期待される。
 体細胞は一定回数の分裂を経れば必ず死ぬようにプログラムされている。
 この設定は生殖細胞においてリセットされるのであるが、クローン動物においては如何にしてリセットされるのであろうか。老化の研究における重要課題であり、クローン研究の中で解明されることが期待される。

(2)畜産分野における応用

 哺乳類におけるクローン個体の作製は、初期胚の分割により人為的に一卵性双生児を発生させる手法に始まり、核移植技術の導入によりその効率を高めてきた。
 最初の核移植の成功例は、初期胚の割球をドナー核として用い、昭和60年(1985年)にマウスで報告され(米国)、ついで昭和61年(1986年)に羊(英国)、昭和62年(1987年)に牛(米国)で報告された。
 昭和61年(1996年)に羊胚盤胞胚盤の培養細胞の核移植で子羊が得られて以来、胎児繊維芽細胞(平成9年「1997年」、英国)や胎児幹細胞(平成9年(1997年)、米国)のみならず、成熟した羊の乳腺培養細胞(平成9年(1997年)、英国)の核移植で産児が得られている。
 我が国では、これまで300頭を超える子牛が核移植によって生産されているが、初期胚由来の培養細胞を用いた1例(平成9年(1997年))以外はすべて初期胚の割球をそのまま用いた成功例である。これまでに1個の胚から最高6子のクローン子牛が生産されているが、これらのクローン牛の経済形質がどの程度類似しているかは明らかになっていない。また、核移植卵の体外における発生率や受精卵移植後の受胎率も低く、さらに産児が過大児になる場合があることも指摘されている。
 また、親畜の形質の継承の面から見れば、ドリー方式による以外のクローン畜の遺伝子型は、いずれも雌雄の親畜の配偶子の融合、交叉を経て決定されたものであり、その経済形質は必ずしも親畜と同様に優れているという保障はない。
 一方、雌羊の乳腺細胞の核移植により得られたとされるクローン羊ドリーの作製例は、長い時間と経費をかけ選抜した優れた経済形質を持つ雌畜あるいは雄畜のコピーを生産できる可能性を示唆しており、家畜の育種・改良上画期的な貢献をするものと期待される。

(3)医療分野における応用

 クローン技術により得られる遺伝情報の均一な動物には、医療分野等における実験動物として高い有用性が期待されている。
 また、ES細胞やTNT細胞を用いた核移植の手法は、その核に遺伝子操作を施すことによりトランスジェニック動物の効率的生産を可能とするものとして重視されている。
 さらに、近年では、動物個体の特定の遺伝子を操作することにより、その動物の臓器をヒトへの移植用に用ることができるようにしたり、母乳等の中に創薬用の有用物質を分泌させたりする技術が研究されている。海外の企業等においては、これらの動物の効率的生産を視野に入れた、クローン研究が進展しつつあり、クローン羊ドリーの作製も、これらの研究の一環として行われたものとされている。
 一方、一部のクローン研究先進国においては、今後、個人が自らの臓器移植を自らの細胞に由来する臓器によって補うために、核移植によるクローン臓器の発生を行う企業が出現するのではないかと憂慮されている。

(4)ポスト・ドリーの研究とさらに検証されるべき事項

 以上見てきたように、クローン羊ドリー誕生の報告は、基礎生物学、畜産、医療それぞれの分野に、新たな興味深い課題を数多く提供することとなっており、ロスリン研究所の研究はこれら分野における突破口を開くものとして高く評価されてよい。
 しかしながら、ドリーを始めとする成体体細胞由来核移植による哺乳類のクローン個体の作製の手法については、世界的に見ても未だ十分な数の成功例が報告されてはおらず、その再現性の有無や成功率の低さの原因、さらには得られた個体が真に分化した乳腺の核由来であるのかどうかについても、追試による詳細な検討が必要である。
 また、この手法により得られた個体及びその子孫の生理的特性についても、今後の報告が待たれる。
 これらの検証の結果は、体細胞核の分化の非可逆性、細胞周期の適合条件、寿命に関する遺伝子上のプログラム、ゲノムインプリンティングの問題、体細胞におけるプログラムされた変異の可能性や突然変異の自然発生頻度等、生物学固有の学術的にも重要な課題に関し、数多くの知見を与えるものとして期待される。
 さらに、本手法のヒトへの応用の可否を考える上でも、これら検証によりもたらされる技術的安全性に関する知見は不可欠である。

4 ヒト個体への応用の可能性と問題点

 以上が、これまでに主として哺乳類において用いられてきたクローン関連の手法及びその応用についての概観である。
 これらの中でも個体作製の手法については、ヒトへの応用を前提としたものではなく、同じ哺乳類でも種による生理的特性の違いは非常に大きいことから、社会的に憂慮されているヒト・クローン個体の誕生は、現在のところ、あくまで理論上の可能性に過ぎない。
 また、仮に、ヒト・クローン個体の作製という行為自体が倫理的に許容されたとしても、なお克服すべき種々の安全性の問題が存在している。
 一方、胚の分割や細胞核の初期化、細胞周期の同調、核移植等、クローン個体作製の一過程として用いられる各技法のそれぞれを見た場合、個体作製とは別の目的からこれをヒトに適用することにより、新たな学術的発見や有用性を引き出すことも可能と考え得るものも一部に存在する。このため、こうした個別技法の応用の可能性と問題点についても検討が必要である。
 ヒト・クローン個体作製において必要となる個別技法を、クローン個体作製以外の目的へと応用する可能性については、その必要性・実現性の極めて低いものを含め、多くの応用例が語られているが、その中でも特に代表的なものとしては次の応用例がある。

(1)胚の分割の技法を用いて、1つだけ得られた胚から複数の胚を得、胚移植による妊娠の成功率の低さを補う応用例
 生殖医療の分野においては、今日、体外受精・胚移植による不妊治療が多く行われるようになってきており、関連技術の向上に向けた研究が数多く行われている。
 体外受精による妊娠・出産を成功させる上での障害は受精、胚の初期発生から着床段階以降に至るまで、様々な段階に存在しており、出産に至るまで幾度かの治療を繰り返すため、複数の胚が必要となることが多い。
 一方、不妊治療の症例の中には、性腺刺激ホルモン低反応性などにより、母体から得られる卵細胞が極めて少ないケースが存在する。このような症例の場合、妊娠の確率を増大するために体外受精後、胚を分割して移植する手法が理論上想定され得る。

(2)受精卵から他の除核卵細胞への核移植の技法を用いて、母親がミトコンドリア異常を持つ場合の子供への疾患の遺伝を予防する応用例ミトコンドリアは、細胞の細胞質に存在する細胞小器官で、エネルギー生産等の生化学的に多様な機能を果たしており、その中には核内遺伝子とは別にミトコンドリア固有の遺伝子を有している。ヒトの個体を形成し、機能させる遺伝子の殆どは核内にあり、ミトコンドリア遺伝子が担うのは細胞小器官の蛋白質合成など、ごく一部の遺伝情報に過ぎないが、ミトコンドリア遺伝子の変質により遺伝的な疾患が引き起こされるケースもいくつか存在する。
 これらのミトコンドリア疾患は、筋肉、神経、新陳代謝、血液の各系統に不調を来たし極めて重くなることがあり、母系遺伝により、子孫全てに潜在的に伝えられる。
 これらの疾患が子供に遺伝することを予防するために、核移植によってミトコンドリアの交換を行うことが医療行為となる可能性がある。
 この場合も、ミトコンドリア遺伝子の機能が十分に検討され、染色体との適合性や発生を初めとする個体全体へのミトコンドリア遺伝子の寄与の程度等不明の点が多く、現時点においては、実験動物レベルにおける研究の蓄積が待たれるところである。

(3)体細胞由来核の除核卵細胞への核移植の技法を用いつつ、発生させる核の遺伝子を操作することにより、個体ではなく臓器等の特定の組織のみを得る応用例
 遺伝子の改変により、体細胞由来核移植によるクローン胚から特定の組織のみを(特定の組織を欠損させて)発生させるものであり、自らの体細胞を元にすることで、免疫適合性の極めて高い組織を得ることができる。
 最近においては、頭部を欠損させたカエルの作製に成功した事例が報告されたことから、これを体細胞由来核移植によるクローン作製手法と組み合わせることにより、移植用臓器の作製が可能になるのではないかと話題になった。
 移植用臓器の作製手法としては、各臓器の幹細胞の培養に関する研究も進んでいる。
 両者を比較した場合、現時点においては、幹細胞を用いた培養の手法の方がはるかに現実性が高いものと考えられ、移植用臓器を得るのであれば、潜在的に個体発生をも可能とする本技法を用いてこれを作製しなければならない必要性は想定し難い。

4.大学等におけるクローン研究の今後の在り方

1 大学等におけるクローン研究の進め方

(1)ヒト・クローン個体の作製

1)倫理・社会面からの問題点

 ヒト・クローン個体の作製は、倫理・社会面においても検討すべき種々の問題を内包しているが、現時点において、これらの個別の問題について、必ずしも十分な検討が尽くされているわけではない。これらの倫理・社会的問題については、今後も、科学的及び技術的現状を踏まえ幅広く議論を喚起し、研究成果の公開を行いつつ、社会的な合意を形成していくことが必要である。
 しかしながら、大学等におけるクローン研究の当面の在り方を考える際には、このような社会的合意の不在自体が、大きな意味を持つと考えられる。
 ヒト・クローン個体の作製については、現在、一部、誤解に基づくものも含まれるとはいえ、それが産み出す恐れのある種々の社会的影響に対し、多くの人々が不安を抱いており、その実施は社会的にも容認されていない状況にある。
 大学等の研究者にあっては、このような状況を踏まえ、ヒトのクローン個体の作製に関する研究については、当面、これを行わないこととすべきである。

2)安全面からの問題点

 クローン個体作製関連技法のヒトへの適用に関しては、人権の主体となる個人の誕生にもつながることから、倫理・社会面からの検討に加えて、その安全性について充分な検討がなければならない。
 特に、核移植によるクローン個体の作製については、クローン羊の誕生以来、この手法により、ヒト・クローン個体の作製があたかも自在に行われるかの如く論じられているが、実際には、実験動物や家畜においてさえ、生物学的には不明の点が多く、ヒトへの適用の可能性及びその安全性に至っては、殆ど何も知られていないというのが現状である。
 安全性を検討すべき範囲は、核移植から個体発生までに限定されるものでなく、核操作によって誕生する個人が、成長、発達し、子孫を残し、その子孫に伝わる遺伝的影響までも完全に評価しておかなければならない。これらのことは、少なくとも実験動物を用いて、何代にもわたる検定を必要とするものであり、その評価の結果の公開の下で、遺伝学的及び生理・生化学的に研究し、結論を出す必要がある。
 このような観点から、具体的に検証されなければならない事項としては、以下の例が考えられる。

a)未受精卵に体細胞核を移植する場合の問題
  • 子孫の生殖能力の検定(見かけ上、正常でも、後代は不妊のことがある)
  • ゲノムインプリンティング(生殖細胞を経由していないため、ゲノムインプリンティングに破綻を来す可能性がある)
  • ミトコンドリアの適合性(染色体との不和合性については未知である)
  • テロメア問題(テロメラーゼ欠損マウスは一見正常であるが、代を重ねると不妊となる可能性がある)
  • 体細胞突然変異(体細胞分裂の間に蓄積する突然変異及びプログラムされた変異)
b)技術的問題
  • 移植胚と母体との生理的適合性(過大児等)
  • 凍結胚の遺伝子発現の正常度(実験動物でさえ不明)
c)遺伝的多様性の喪失
  • 生殖医療との擦り合わせ(凍結保存卵の使用によっては、遺伝的近親婚が起こり得る)
  • 急速な遺伝的多様性の喪失の可能性(人類遺伝学的検討が必要)

 これらの例は、核移植による哺乳類のクローンについての未知の問題のいくつかに過ぎない。今後、実験動物を用いた検討が進むにしたがって、安全性の観点から行われなければならない研究が続々と挙げられると推測される。
 以上を踏まえ、安全性の観点からも、ヒト・クローン個体の作製は行わないこととすべきである。もし、将来、全ての安全性に問題がなくなり、倫理的にも合意が得られたならば、その時点で、確実な方法の開発を開始しても決して遅くはないと思われる。
 このため、ヒト・クローン個体作製の前提となる技法である、ヒト体細胞
 (受精卵、胚をも含む)由来核の除核卵細胞への核移植については、これを伴う研究を当面、全面的に禁止することが適当である。この技法は、将来的には、ヒト・クローン個体作製のためではなく、医療分野の様々な場面での有用性を認められる可能性を秘めているものの、現時点においてはその安全性に関する知見は極めて少なく、たとえ、ヒト・クローン個体の作製につながらない研究であっても、動物実験レベルでの研究の蓄積が優先される段階にあると考えられる。
 また、研究用のヒト胚については、もとよりこれを子宮内に移植することは許されないが、これを分割することにより潜在的にはクローン個体を作製し得る能力をも有することに留意し、厳正な管理に努めることが必要である。

(参考)ヒト胚の取扱に関する留意事項

 我が国では現時点で、ヒト生殖細胞ないし胚の取扱について、日本産科婦人科学会で自主規制を行って、研究、医療共にその取扱の登録と報告を義務付けている。ここでは、非配偶者間人工授精を除く生殖医療は、婚姻した夫婦間のみに限定し、またはヒト胚は受精後2週間以内に限って研究に用いることができるとしている。この期間についてはなお議論の余地を残しているが、今のところ諸外国でも概ねコンセンサスが得られている。
 ここでは、ヒト・クローン研究に関連した指針及びその指摘事項を列挙する。

体外受精;
「『体外受精・胚移植』に関する見解(昭和58年10月 日本産科婦人科学会会告)」によって自主規制している。その中で、婚姻した夫婦に限ること及び遺伝子操作を行わないことを決めている。「『体外受精・胚移植の臨床実施』の『登録報告制』について(昭和61年3月 日本産科婦人科学会会告)」によって、登録報告を義務付けている。

顕微受精;
「顕微受精法の臨床実施に関する見解(平成4年1月 日本産科婦人科学会会告)」の中で、実施に際して登録報告を義務付けている。

胚の凍結保存;
「ヒト胚及び卵の凍結保存と移植に関する見解(昭和63年4月 日本産科婦人科学会会告)」胚の凍結保存期間は被実施者夫婦の婚姻の継続期間であって且つ卵を採取した母体の生殖年齢を越えないこととする、卵の凍結保存期間も当該婦人の生殖年齢を越えないものとする、との規定が設けられている。登録報告が義務付けられる。

ヒト胚を用いた研究;
「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解(昭和60年3月 日本産科婦人科学会会告)」において受精後2週間以内に限って認めている。研究者の登録が義務付けられる。

核移植;
「『体外受精・胚移植』に関する見解(昭和58年10月 日本産科婦人科学会会告)」において遺伝子操作を禁止している。この時点では核移植をクローニングと見做して遺伝子操作の中に含ませている。しかし現在では技術面でも概念的にも相当なずれがあるので、今後の検討課題である。

生殖細胞の遺伝的改変;
「大学等における遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン(平成6年6月9日 文部省告示第79号)」並びに「『体外受精・胚移植』に関する見解(昭和58年10月 日本産科婦人科学会会告)」において禁止されている。

(2)ヒト・クローン胚からの細胞・組織の発生及びヒト細胞・組織クローンの培養

 今回問題になったヒト・クローン個体の作製に関して、最も重要な点は、人権を持つヒトの個体を、あらかじめ遺伝的な背景が固定された核を用いて作製することの倫理的、科学的観点からの討議である。現在の段階では、単に細胞を培養しているだけでは個体が発生する可能性はなく、ヒト個体を核移植によって作るには、移植に供する細胞を選択し、細胞周期を合わせ、さらに未受精卵等で移植される核を初期化しなければならない。
 したがって、ヒトの組織・細胞のクローンの作製手法のうち、

1)潜在的にヒトの個体発生が可能な受精卵や胚(初期化前の核移植卵を含む)を人為的に特定の組織のみへと分化させる手法については、これを行わないこととすべきである。
また
2)細胞・組織クローンの培養については、その核を初期化しない限り個体が産まれないと判断されるので、規制する必要はない。

(3)動物のクローン個体及びクローン細胞・組織の作製

 核移植によるクローン家畜の作製手法は、古くから実施されてきた家畜の育種・改良並びに増殖法に加えられた1つの手段であり、世界人口の増加を考えると、この分野における研究は今後一層推進する必要がある。実験用小動物におけるクローン研究は、家畜へ応用するために必要であるのみでなく、発生・分化、老化、がん化機構などの解明のための新しい手法となる可能性がある。
 家畜と比べて実験動物における核移植はより困難であるが、多くの疾患モデルが作出されているマウスで確立し、得られる個体の遺伝的、生理的調査などを通じてこれら手法の安全性を検討していく必要がある。その実施に当たっては、「動物の保護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号)、「実験動物の飼育及び保管に関する基準」(昭和55年総理府告示第6号)及び「大学等における動物実験について(通知)」(昭和62年5月25日文部省学術国際局長通知文学情第141号)等、従来からの関連諸規定を遵守することのほか、新たな規制を設ける必要はない。
 動物のクローン組織・細胞の作製に関する研究ついても、移植用臓器の作製に関する実験動物レベルの研究等において必要であり、実施に当たり新たな規制を設ける必要はない。

2 大学等における研究の特色とこれを踏まえたヒト・クローン研究の規制の在り方

 ヒトのクローン個体の作製自体については、「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」においても指摘されているように、今後、人権に関わる問題をも含め、ヒト・クローン個体作製がもたらす個人的・社会的問題の態様によっては、法的規制をも視野に入れた検討が必要と考えられる。
 一方、ヒト・クローン個体の作製を禁ずるため研究に対する規制を行う場合には、関連する研究手法の多様さやその進展の急速さから、柔軟かつ迅速な対応が可能な規制手段が求められる。
 特に、大学等における基礎研究は、その成果が研究者本人の意図を超えて様々な分野へと展開していくこととなり、クローン関連技法を用いるすべての研究の中から、ヒトのクローン個体の作製を目的とした研究のみを特定することは容易でない。このため、ヒト・クローン個体の作製を禁ずるため、関連する研究を規制することについては、明確な基準に基づきこれを行うのでなければ、周辺領域の研究を必要以上に自粛させる恐れがある。反面、特定の研究技法を用いる全ての研究に対し、その技法を用いることのみをもって一律的な規制を加えれば、当該技法を用いて行われるヒト・クローン個体の作製を目的としない一部の研究にまで規制の波及を招くことが避け難くなる。
 以上を踏まえ、大学等におけるクローン研究においては、基礎研究としてのこのような特色に鑑み、当面、柔軟かつきめ細かな対応が可能な指針による規制の形態を採ることが適当である。
 これら指針の策定に当たっては、想定され得る様々なケースについて、きめ細かな検討を行うとともに、指針の策定後においても、ヒト・クローン個体の作製に関する法的規制をも視野に入れた検討の動向や、その他関連法令との整合性を踏まえつつ、新たな社会的合意の形成や研究の進展に対応し、不断の見直しを行うことが必要である。

学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会名簿

[バイオサイエンス部会運営会議]

(委員)
  井村 裕夫 京都大学名誉教授
  宇井 理生 東京都臨床医学総合研究所長
  原田(太田) 朋子 国立遺伝学研究所名誉教授
  志村 令郎 生物分子工学研究所長
  高久 史麿 自治医科大学長
  豊島 久真男 大阪府立成人病センター総長
  鳥井 弘之 日本経済新聞社論説委員
  中村 桂子 JT生命誌研究館副館長
  水野 繁 株式会社整理回収銀行社長
(専門委員)
  青木 清 上智大学教授(生命科学研究所長)
  飯野 徹雄 早稲田大学教授(人間科学部)
  内田 久雄 東京大学名誉教授
  江口 吾朗 熊本大学長
  勝木 元也 東京大学教授(医科学研究所)
  軽部 征夫 東京大学教授(先端科学技術研究センター)
  斎藤 洋 東京大学前教授
  新名 惇彦 奈良先端科学技術大学院大学教授(舗乙参丸・
  中西 重忠 京都大学教授(大学院医学研究科)
  原田 宏 筑波大学前副学長
  藤巻 宏 農林水産省農業研究センター所長
  御子柴 克彦 東京大学教授(医科学研究所)
  翠川 修 京都大学名誉教授

[バイオサイエンス部会クローン研究における新たな倫理的問題等に関するワーキンググループ]

(委員)
  豊島 久真男 大阪府立成人病センター総長
  鳥井 弘之 日本経済新聞社論説委員
(専門委員)
  青木 清 上智大学(生命科学研究所長)
  浅香 昭雄 山梨医科大学教授(医学部)
  阿部 美哉 國學院大學教授(文学部)
  岡田 益吉 筑波大学名誉教授
  甲斐 知惠子 東京大学助教授(大学院農学生命科学研究科)
  加地 伸行 大阪大学教授(文学部)
  加藤 尚武 京都大学教授(文学部)
  榊 佳之 東京大学教授(医科学研究所)
  角田 幸雄 近畿大学教授(農学部)
  豊田 裕 帯広畜産大学教授(原虫病分子免疫研究センター)
  野田 愛子 弁護士
  藤木 典生 福井医科大学名誉教授
  森 崇英 京都大学名誉教授

お問合せ先

学術国際局研究助成課

-- 登録:平成21年以前 --