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生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について (保健体育審議会 答申)

平成9年
保健体育審議会

目次

はじめに

1.生涯にわたる心身の健康に関する教育・学習の充実
 1ヘルスプロモーションの理念に基づく健康の保持増進
 2健康に関する教育・学習
 3健康に関する現代的課題への対応

2.スポーツと生涯にわたるスポーツライフの実現
 1スポーツの意義
 2健康とスポーツ
 3生涯にわたるスポーツライフの在り方
 4女性とスポーツ
 5障害のある人とスポーツ
 6スポーツライフの実現方策

3.学校における体育・スポーツ及び健康に関する教育・管理の充実
 1体育
 2運動部活動
 3学校健康教育(学校保健・学校安全・学校給食)
 4教職員の役割と資質
 5施設設備
 6大学における体育・スポーツ等

4.家庭におけるスポーツ及び健康学習の推奨
 1家庭に望まれること
 2家庭におけるスポーツの実践と健康学習

5.地域社会におけるスポーツ及び健康学習の充実
 1地域社会に望まれること
 2地域のスポーツ環境づくり
 [1]市町村における指導者、施設、機会の充実等
 [2]国、都道府県、民間の支援
 3地域社会における健康学習

6.「スポーツ・健康推進会議(仮称)」の設置
 1「スポーツ・健康推進会議(仮称)」モデル事業
 2活動分野と活動内容
 [1]日常生活圏の活動
 [2]日常生活圏外の活動
 3国、都道府県の支援

7.競技スポーツの振興
 1競技スポーツの現状と課題
 2競技力向上トータルシステムの構築
 [1]トータルシステムの構成と理念
 [2]一貫指導の実現
 [3]育成拠点の整備
 [4]指導者の充実
 [5]中央競技団体等の在り方
 3国、地方の役割と企業からの支援の促進

8.スポーツ医・科学及び健康科学の研究・活用の推進

9.スポーツへの多様なかかわりの促進

注)文中の別表、別図、参考案は省略。

はじめに

 保健体育審議会は、平成8年12月10日、文部大臣から「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」諮問を受けた。

 顧みれば、本審議会は、昭和47年12月20日、「児童生徒等の健康の保持増進に関する施策について」及び「体育・スポーツの普及振興に関する基本方策について」の答申を行い、また、スポーツの振興については、平成元年11月21日、「21世紀に向けたスポーツの振興方策について」の答申を行った。これらの答申を踏まえて、健康の保持増進及び体育・スポーツに関する各般にわたる施策が進められてきたが、今回の諮問理由にあるように、我が国は、現在、高齢者人口の増加と少子化等があいまって、世界にも類のない勢いで急速に高齢化が進展するなど、21世紀を目前に迎えて大きな社会変化のさなかにある。

 このような状況を踏まえ、今回の諮問理由においては、主な検討の視点として、次の三つの事項が示された。
 1)社会変化に対応した児童生徒等の心身の健康の基礎づくりに関する施策の基本的在り方
 2)生涯の各時期に応じてスポーツに親しむことができる条件整備の方策
 3)今後の我が国の国際競技力の向上方策

 本審議会では、これらの検討の視点に対応した三つの特別委員会、すなわち、「児童生徒等の健康・体力に関する特別委員会」、「生涯スポーツに関する特別委員会」、「競技スポーツに関する特別委員会」を設け、三つの検討の視点に関する論点の整理等について審議を行った上で、総会を中心に精力的に審議を行い、平成9年6月24日に「中間まとめ」を取りまとめ公表した。

 本審議会においては、その後、「中間まとめ」について関係団体の意見を聞くなどして更に審議を重ね、このたび結論を得たので、ここに答申を行うものである。

 この答申では、生涯にわたる心身の健康の保持増進のため幅広い範囲について多様な提言を行っている。本審議会としては、国、都道府県、市町村といった行政機関をはじめ、スポーツ関係団体、健康教育関係団体、学校、家庭、企業などがこの答申を踏まえて積極的に対応策を講じ、これにより、今後とも、国民が生涯にわたって健康で充実した生活を送り、明るく活力のある社会が形成されることを切に願うものである。なお、そのためには、適切な行財政措置が必要であることを特に強調しておきたい。

1.生涯にわたる心身の健康に関する教育・学習の充実

1 ヘルスプロモーションの理念に基づく健康の保持増進

(国民の健康を取り巻く社会状況)

 我が国は、平均寿命の伸長とともに少子化傾向が諸外国に例を見ないスピードで進展し、急速に「高齢社会」に移行している。この傾向は今後も進み、2015(平成27)年には、世界一の「超高齢社会」を迎え、人類がかつて経験したことのない時代が到来することになると予想されている。
 また、社会の様々な分野において、技術の高度化、情報化等の進展が著しく、これらは、国民に恩恵をもたらしている反面、人間関係の希薄化、精神的なストレスの増大や運動不足、新たな職業病の増加など、心身両面にわたり健康上の問題を生み出してきている。
 さらに、学校においては、児童生徒の体位は向上しているものの、体力・運動能力については逆に低下する傾向が続いており、誠に憂慮すべき状況にあると言わざるを得ない。また、薬物乱用や援助交際、生活習慣病の兆候、感染症、いじめ、登校拒否等、児童生徒の心身の健康問題が、極めて大きな間題となっている。
 家庭においても、核家族化や少子化の進行、父親の単身赴任や仕事中心のライフスタイルに伴う家庭での存在感の希薄化、子どもの生活習慣の育成に対する親の自覚の不足や自らの生活習慣を顧みない親の増加など、家庭の教育力が低下する傾向にあり、食生活をはじめとする基本的な生活習慣が身に付いていない子どもが増えている。
 地域社会においても、都市化の進行等による地域連帯感の希薄化や地域の教育力の低下が見られるとともに、子どもたちの遊びの形態が著しく変化し、地域において日常生活の中で体を動かす機会や場も減少している。
 こうした一方、学校週5日制や、年間労働時間の短縮などにより自由時間が増大するとともに、国民の意識も仕事中心から生活重視に変化してきており、人生をいかに充実して過ごすか、「人生80年時代」にふさわしい新たなライフスタイルの構築が求められている。

(21世紀に向けた健康の在り方)

 国民の健康をめぐって今日指摘されている様々な問題は、経済や科学技術等の発展に伴う社会の変化によって生じたものであり、これらの変化は今後も基本的には変わらないと予想される以上、その克服のためには、国民一人一人が、これらの心身の健康問題を意識し、生涯にわたって主体的に健康の保持増進を図っていくことが不可欠である。
 健康とは、世界保健機関(WHO)の憲章(1946年)では、病気がなく、身体的・精神的に良好な状態であるだけでなく、さらに、社会的にも環境的にも良好な状態であることが必要であるとされている。
 すなわち、健康とは、国民一人一人の心身の健康を基礎にしながら、楽しみや生きがいを持てることや、社会が明るく活力のある状態であることなど生活の質をも含む概念としてとらえられている。したがって、国民の生涯にわたる心身の健康の保持増進を図るということは、すなわち、このような活力ある健康的な社会を築いていくことでもあると言えよう。
 また、健康を実現し、更に活力ある社会を築いていくためには、人々が自らの健康をレベルアップしていくという不断の努力が欠かせない。WHOのオタワ憲章(1986年)においても、「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」として表現されたヘルスプロモーションの考え方が提言され、急速に変化する社会の中で、国民一人一人が自らの健康問題を主体的に解決していく必要性が指摘されている。ヘルスプロモーションは、健康の実現のための環境づくり等も含む包括的な概念であるが、今後とも時代の変化に対応し健康の保持増進を図っていくため、このヘルスプロモーションの理念に基づき、適切な行動をとる実践力を身に付けることがますます重要になっている。

2 健康に関する教育・学習

(1)健康の保持増進のために必要な能力・態度の習得と健康的なライフスタイルの実現

(健康の保持増進のために必要な能力・態度の習得)

 健康を取り巻く社会状況の中で、国民一人一人が生涯にわたる心身の健康の保持増進を図るためには、疾病の発症そのものを予防するのみならず、ストレス解消やストレスへの抵抗力を増す観点からも、運動、栄養及び休養を柱とする調和のとれた生活習慣の確立が不可欠である。また、健康の価値を自らのこととして認識し、自分自身を大切にする態度の確立や、ストレスの増大を背景に心の健康問題が社会全体で増加する傾向にある中、ストレスが生じた場合の対処法などの生活技術の習得も重要である。さらに、健康問題を意識し、日常の行動に知識を生かして健康問題に対処できる能力や態度、とりわけ、健康の保持増進のために必要なことを実行し、よくないことをやめるという行動変容を実践できる能力を身に付ける必要がある。

(健康と教育・学習)

 一方、一定の社会的あるいは文化的な条件の下に生まれた個人は、教育・学習によって、その生きていく社会において、既存の知識・技術を吸収し、自分自身を変容・形成しながら、人間として成長・発達しつつ、新しい文化を創造していく。
 したがって、健康問題によりよく対処できる能力・態度を身に付け、人間として成長・発達していくためには、人間の持つ潜在的な可能性に働き掛け、より高い価値を備えた人間形成を目指した教育・学習が不可欠である。
 このような健康教育・学習により、生涯にわたる心身の健康の保持増進に必要な知識、能力、態度及び習慣を身に付けることを通じ、たくましく生きる意志と意欲、価値観を形成するなど、[生きる力]をはぐくむとともに、長期化する人生の全生涯にわたって、活力ある健康的なライフスタイルを築くことができるものと考える。

(2)生涯にわたる心身の健康に関する教育・学習

(乳幼児期における健康教育)

 国民一人一人の生涯にわたる健康を実現するためには、ヘルスプロモーションの理念に基づく適切な生活行動の基礎を子どものころから身に付けさせることが重要である。
 特に、バランスのとれた食生活、適度な運動、十分な休養や睡眠という健康のために最も重要な柱から成る基本的な生活習慣については、子どものころに適切に身に付けることが大切である。これらの健康で安全な生活のために必要な生活習慣の育成は、乳幼児期の親子のきずなの形成に始まる家族との触れ合いを通じて実現することが基本であり、乳幼児期における健康教育には、子どもの発育・発達の基盤となる家庭の役割が極めて大きい。

(児童生徒期における健康教育)

 児童生徒に対する健康教育は、児童生徒期が、発育・発達の著しい時期であることなどから、他のライフステージにおける健康に関する教育・学習では代替できない重要な意義と役割を持っている。このため、児童生徒期については、生涯を通じて心身ともに健康で安全な生活を送るための基礎を培うという観点から、学校において組織的・体系的な教育活動を行うことは極めて重要である。
 一方、家庭においては、児童生徒の基本的な生活習慣の確立を促すとともに、学校で学習した内容を更に深め、習慣付けることが期待される。また、地域社会においては、学校で得た知識・能力や態度などを深めたり、高めたりすることが期待される。
 以上のことから、学校における指導の充実を図りつつ、家庭及び地域社会の生活を通じて、健康に関する基本的な知識の習得や理解を図るとともに、行動変容を実践できる能力・技術の育成が、一層、総合的・効果的に行われる必要がある。

(成人以降における健康学習)

 生涯にわたって豊かに生活を送るためには、成人以降も継続して、健康に関する最新の正確な情報を踏まえて、健康の価値や生活習慣の重要性を再認識するとともに、実際の行動に結び付けられるよう、健康に関する生涯学習に取り組むことが重要になっている。
 生活習慣が基本的に個人が自らの責任で選択する問題であることを踏まえると、成人以降においては、自らが主体的に健康に関する最新の知識を吸収し、行動変容により生活習慣を改善していくことが重要である。成人以降のライフステージに応じた健康に関する学習機会の提供は、民間教育事業者による健康講座の実施など様々な取組が行われているが、地方公共団体が関係機関を通じて施策を一層進めることも重要であり、健康に関するきめの細かい学習機会の充実を図ることが望まれる。

3 健康に関する現代的課題への対応

(1)健康に関する現代的課題の背景と要因

(健康に関する現代的課題と心の健康問題)

 社会の変化に対応して、新たに健康の保持増進の観点から早急に取り組むべき課題が指摘され、とりわけ児童生徒については、薬物乱用、性の逸脱行動、肥満や生活習慣病の兆候、いじめや登校拒否、感染症の新たな課題等の健康に関する現代的課題が近年深刻化している。これらの課題の多くは、自分の存在に価値や自信を持てないなど、心の健康問題と大きくかかわっていると考えられる。これらの心の健康問題の要因は一様ではないが、複雑化した現代社会において、職場や学校における人間関係や家庭環境が複雑に絡み合い、ストレスや不安感が高まっていること、都市化や核家族化・少子化の進行、あるいは遊び環境など子どもたちを取り巻く状況の変化等を背景に、子どもたちの心の成長の糧となる生活体験や自然体験等が失われてきており、自己実現の喜びを実感しにくく、他者を思いやる温かい気持ちを持つことや、望ましい人間関係を築くことが難しくなっていることなどが大きな要因となっていると考えられる。

(薬物乱用及び性の逸脱行動の背景)

 健康に関する現代的課題のうち、学校種別や地域によって非常に深刻化している薬物乱用や性の逸脱行動の背景については種々の議論があり、特定すること自体が難しい面があるが、児童生徒が薬物乱用や性の逸脱行動等の行為を行うのは、一般的に、健康の価値への無知や社会規範に対する意識の欠如等から、何らかの要因によって発生したストレスや不安感を解消しようとしたり、満足感や快楽を得ようとしたりすることにあると考えられる。児童生徒がそれらの行為を選択することの要因としては、一般的に、家庭・学校・社会のそれぞれの要因が考えられる。

○ 家庭における要因として、まず、家庭の中には、子どもにとって精神的な支えの場であるという本来の家庭の在り方をなしていないものがあることが挙げられる。例えば、知育偏重等の社会的風潮に流されて、親の自己満足のために子どもに過度の学習を強要したり、問題が生じた時に子どもを心から支えることをせず、まず叱ってしまうというようなことなど種々の原因が重なって、親子の信頼関係が希薄化しつつあると考えられる。また、自他の心身を害する行為をしないという態度が十分に教育されていないことや、学校に対して知育を過度に期待し、健康面での指導についての関心に乏しいことなども挙げられる。

○ 学校における要因としては、その背景に、児童生徒が学校生活や集団になじめない、授業が分からずつまらないなどの理由で、学校に満足感や充実感が得られず、自己実現が十分果たされていないことが考えられる。また、学校において、薬物乱用や性の逸脱行動に関する指導が十分行われていないことも挙げられる。

○ 社会における要因としては、覚せい剤等が容易に入手できる状況や、性に関する情報や産業が氾濫して性の商品化を誘発している状況などの有害環境が指摘できる。また、薬物を販売したり、性の逸脱行動の相手となる大人の無責任、自己中心的な行動も極めて大きな問題である。
 さらに、学校・家庭・地域社全体を通じて人間関係が希薄化し、社会規範に関する教育力が低下していることから、子どもの規範意識や社会性が育ちにくい状況にある。

(生活習慣病の要因)

 また、生活習慣病は、生活習慣が疾病の発症に深く関係していることが明らかになったことに伴い、一次予防を重視して生活習慣の改善を図る観点から、新たに導入された概念であり、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義される。例えば、肥満症という生活習慣病は、食生活及び運動習慣という生活習慣との関連が明らかになっている。生活習慣病に含まれる疾患は、その発症に複数の要因が関与しているが、とりわけ、生活習慣の積み重ねにより発症・進行する慢性疾患であると考えられており、その発症を予防するためには、適切な生活習慣の形成が重要である。

(2)健康に関する現代的課題に対する施策

(薬物乱用防止に関する施策)

 薬物乱用防止に関する指導は、健康の保持増進の観点から、薬物乱用と健康のかかわりについて認識し、覚せい剤等の薬物を使用しないという態度を身に付けるようにすることが重要である。その際、健康の価値を効果的に認識させる観点から、具体的な薬物の身体への影響等を分かりやすく指導することが重要であり、例えば、外部の専門家を活用することにより、薬物の恐ろしさや身体への影響等を実際に即して分かりやすく理解させることもできるであろう。
 また、このような指導を可能にするような適切な教師用の指導資料や指導マニュアル、ビデオや映画等の教材を開発することも重要である。さらに、そもそも児童生徒の薬物に対する意識が必ずしも明らかでないことから、児童生徒の薬物に対する意識調査も踏まえて、指導を行うに当たって重点を置くべき項目を明らかにすることも求められる。

(性の逸脱行動に関する施策)

 援助交際など最近社会問題化している性の逸脱行動は、自らの性を商品化することであり、社会的に認められないものであるとともに、人格を直接傷つけ心と体の健康を損なう行為と言える。したがって、体育・保健体育、道徳、特別活動等学校教育活動全体を通じて、それぞれの特質に応じ、性に関する指導の充実を図る必要がある。このため、教科等における性に関する指導に当たっては、自他の心身を大切にするという心の健康について児童生徒が主体的に考える態度を育成していくことを基本とし、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を具体的な生活場面で生かせるよう、発達段階に応じ、人間としての在り方生き方に関する教育を充実していくことが必要である。その際、男女が相互に尊重し、健全な異性観を持つようにするとともに、思春期における心身の発達や健康問題について、特に性的成熟に伴う心理面、行動・生活面の変化について適切な自己判断・自己決定ができるよう支援することが重要である。また、性の逸脱行動が社会的に認められないものであるという基本的認識の下、各教科等における指導を有機的に関連付け、児童生徒が人間の性に対する理解や認識を深めるとともに、健全な態度や行動を身に付けさせるよう取り組む必要がある。
 一方、性に関する情報は、情報化の進展の中で社会的には氾濫しているものの、家庭や学校など身近な人間関係から与えられることは少ない。したがって、学校・家庭・地域社会が、性に関する適切な情報を有効な方法で子どもに発信することが求められ、とりわけ、家庭においては、話し合ったり相談したりできる関係を築くとともに、学校においては、それぞれの児童生徒の発達段階を踏まえた指導の充実を図ることが求められる。また、性に関する児童生徒の意識や行動、判断力には、それぞれの生活環境や社会からの情報などの影響も関連し、著しい個人差がある。このため、そのような個人差にも配慮しつつ、現代の社会状況に対応した性に関する指導を効果的に行えるような、適切な指導資料や教材を開発することなどの関連施策を更に充実する必要がある。

(生活習慣病に関する施策)

 生活習慣一般の指導については、生活習慣の形成の取組は個々人の状況に応じて児童生徒が選択するという基本姿勢の下、例えば、食習慣、運動習慣と肥満や糖尿病との関連など、生活習慣と個々の疾患等との関係についての知識はもとより、知識から適切な生活習慣の形成に結び付くような態度を育成するよう努めるべきである。とりわけ、喫煙・飲酒などの未成年者に関し法律で禁止されている生活習慣については、健康の保持増進の観点から、喫煙・飲酒と健康のかかわりについて認識し、これらの行為を行わないという態度を身に付けさせることが重要である。また、これらの指導を児童生徒に分かりやすく行えるような適切な指導資料や教材を開発することも重要である。

(3)健康に関する現代的課題への対応のための取組体制の整備等

(地方公共団体レベルの取組体制)

 地方公共団体においては、地域一体となった薬物乱用防止活動等の充実を図るための取組が求められており、これらの課題へ対応する観点から、都道府県の教育センターにおける薬物乱用防止等の指導体制の整備・充実を図る必要がある。
 教育センターにおいては、担当指導主事が中心となって、覚せい剤等の有害性や危険性を熟知している麻薬取締官OBや警察職員などの外部の専門家の協力も得ながら、指導チームを編成することが求められる。そして、この指導チームにおいて、地域の実情を踏まえた指導資料や教材を開発するなど、学校での教育指導を支援する効果的な方策を講ずる必要がある。また、学校の求めに応じて指導チームのメンバーが校内研修の講師等として訪問指導を行うなど、恒常的な指導・助言に当たるとともに、深刻な問題を抱える学校に対しては、計画的な巡回指導を行い、一定期間、継続的に支援することも必要である。
 なお、国においては、健康に関する現代的諸課題に対する施策を通じて、地方公共団体の取組を支援するとともに、関係省庁で構成される「薬物乱用対策推進本部」で講じられる取組について、きめ細かい情報を提供することが求められる。

(学校の役割)

 薬物乱用や性の逸脱行動、また、喫煙・飲酒などの未成年者では法律で禁止されている生活習慣に関する学校の役割としては、健康の価値を分かりやすく効果的に認識させ、このような行為をとらないように指導することが基本である。その際、薬物乱用等の問題を自らの学校の課題として受け止めてその予防に取り組むことが必要である。
 とりわけ、薬物乱用行為については、学校は、例えば、警察関係者や麻薬取締官OBなどによる薬物乱用防止教室等の積極的活用など、関係機関との密接な連携の下に対応することが必要であるし、場合によっては、適切な医療措置が講じられるよう配慮する場合もある。また、性の逸脱行動についても、売春を行っている場合や校外の非行グループや暴力団とのかかわりがある場合などは、警察や青少年補導センター等との連携を図る必要がある。
 なお、学校の取組を効果的に進めていくためには、関係者が一体となった薬物乱用防止活動等の促進体制の充実を図ることが必要であり、関係機関による犯罪行為としての取締りはもとより、人間としての在り方生き方など教育全体の問題として幅広く取り組む必要がある。さらに、子どものしつけに第一義的責任を有する家庭における教育を充実することや、これらの問題行動が発生する学校外において地域を挙げた取組を推進することが重要である。また、このような観点から学校保健委員会を活性化し、家庭や地域社会との連携を強化することが求められる。

(学校における専門家の活用の促進)

 薬物乱用や性の逸脱行動については、心の健康問題にも関係するものと考えられ、学校におけるカウンセリング等の機能の充実という観点から、現在、臨床心理に関し、高度に専門的な知識、経験を有する専門家として、学校に派遣され、その効果や活用等に関して実践的な調査研究が行われているスクールカウンセラーや、医師など専門家を活用することが望まれる。このため、これらの健康に関する現代的課題に係る共通の施策として、スクールカウンセラーの一層の充実や精神科医、婦人科医などの学校医の増員が必要である。

(学校保健センター的な機能の充実)

 健康に関する現代的課題等への対応という観点から、昭和47年の本審議会答申でも触れた学校保健センター的な機関の果たす役割は大きくなっている。その意味からも、我が国の学校保健推進を目的とした財団法人日本学校保健会が、その機能を十分に発揮し、関係資料の作成や効果的指導方法の調査研究はもとより、関連情報の充実を図って、健康教育の情報センターとしての役割を担うことが期待される。

2.スポーツと生涯にわたるスポーツライフの実現

1 スポーツの意義

 スポーツは、人間の体を動かすという本源的な欲求にこたえるとともに、爽快感、達成感、他者との連帯感等の精神的充足や楽しさ、喜びを与え、また、健康の保持増進、体力の向上のみならず、とりわけ青少年にとっては、スポーツが人間形成に多大な影響を与えるなど、心身の両面にわたる健全な発達に資するものである。
 近年、都市化や生活の利便化等により、日常生活における身体活動の機会や場が減少するとともに、社会の複雑・高度化、高齢化の急激な進展、生活水準の向上や自由時間の増大等の社会環境の変化、仕事中心から生活重視へという国民の意識や価値観の変化の中で、スポーツが心身ともに健康な生活を営む上で不可欠なものと認識され、今後とも社会の変化が更に進展すると予想される21世紀に向けて、ますますその重要性が高まるものと考えられる。
 他面、スポーツは、人間の可能性の極限を追求する営みという意義を有しており、このような競技スポーツは、人々のスポーツへの関心を高め、生涯スポーツの振興に寄与するとともに、青少年をはじめ国民に夢や感動を与えるなど、活力ある健全な社会の形成にも貢献するものである。
 なお、スポーツの振興は、スポーツ産業の広がりとそれに伴う雇用創出等の経済的効果や健康の保持増進による医療費の節減の効果等の側面もあると考えられる。
 また、グローバル化している現代社会において、スポーツの振興は、世界共通の文化として、我が国はもとより世界のスポーツの発展に寄与するとともに、スポーツを通じた交流により、世界の人々との相互の理解や認識を一層深めるなど国際的な友好と親善のためにも有意義である。

2 健康とスポーツ

 国民一人一人が生涯にわたり心身の健康を保持増進していくためには、健康に関する正しい知識・理解を持つとともに、ヘルスプロモーションの考え方に基づき、健康にとって必要なことを実践していくことを習慣付けることが大切である。
 国民一人一人の心身の健康には、運動、栄養、休養、睡眠、さらには、ストレスの少ない良好な環境など心身の健康に直接関係のあるものから、豊かな自然や芸術文化の鑑賞など生活の質を高める観点から関係のあるものまで、様々な活動や社会における諸々の条件を整えることが必要である。
 このうち運動、栄養、休養、睡眠は、基本的な生活習慣の一部であり、個人のライフスタイルとかかわるだけに、個人の主体的取組が不可欠である。
 中でも21世紀に向けて、科学技術の発展や生活の利便化によって、日常生活における身体活動が減少していくことを考えると、個人が主体的にスポーツに取り組むことが極めて重要になる。すなわち今後、増大するゆとりや自由時間を主体的に活用して、豊かなスポーツライフを実現していくことが、心身の健康に大いに寄与すると考えられる。
 また、スポーツが本来持つ多様な意義を考えると、スポーツを生活に欠かせない文化として国民生活の中に根付かせることが、活力ある健康的な社会を実現することにもつながる。
 このためには、まず、国民が身近な地域においてスポーツに気軽に親しむことができる環境を整備し、国民の一人一人が日常生活の中にスポーツを豊かに取り入れることができる生涯スポーツ社会を実現していくことが重要である。とりわけ、生涯にわたり主体的にスポーツに親しんでいくためには、児童生徒等の時期に、生涯にわたって健康や体力を保持増進していくための基礎的な能力や態度を培い、健康的な生活習慣やスポーツ習慣を身に付け、そして、これに続く各ライフステージにおいて、これを基礎として、各人の興味・関心等に基づき、継続してスポーツに親しんでいくことがますます重要となってくる。

3 生涯にわたるスポーツライフの在り方

 今後の激しい社会変化を踏まえると、国民一人一人が、生涯の各時期の全体像を把握し、自らの健康は自らの力で保持増進していくという自覚の下に主体的にスポーツに親しむ態度や習慣(文化としてのスポーツ)を形成していくことが必要となる。
 その場合、一生のうちに見られる重要な出来事や加齢に伴う生活行動上の相対的な特徴の段階を「ライフステージ」として捉え、各ライフステージを医学的・社会学的な発達課題や社会的役割などを考慮し、乳幼児から老年までの時期を下表のとおり8段階に区分した。その上で、各ライフステージにどのような加齢に伴う特徴があるのかなどを踏まえて、望ましいスポーツライフを示すこととした。

(人とスポーツとの一生のかかわり)

 生涯にわたる豊かなスポーツライフを実現していくためには、生涯を通じて主体的にスポーツに親しむ態度や習慣をどのように定着・発展させるかという観点から、各ライフステージとスポーツとの望ましい関係をスポーツライフスタイルの萌芽期(乳幼児期・児童期)、形成期(青年期前期・後期)、充実期(壮年期・中年期)、享受期(老年期前期・後期)としてとらえた。
 萌芽期は、生涯にわたって健康や体力を保持増進していくための基礎を培い、健康的な生活習慣を身に付けるとともに、文化としてのスポーツとの出会いを大切にし、その担い手としての芽を育成していく時期である。
 形成期は、多様なスポーツを体験し、生涯にわたってスポーツに親しんでいくスポーツ習慣を形成し、その定着を図る時期である。
 充実期は、社会人として時間的制約も多くなり、スポーツ活動から遠ざかる傾向が強まるが、日常生活の中で個人の興味・関心・年齢・体力等に応じて主体的に規則的に運動・スポーツ活動を実施することが求められる時期である。また、親として、子どもとの実践・体験を通じて、キャンプ等の野外活動やレクリエーション活動を含む運動・スポーツ活動の楽しさなどを子どもに伝えていくとともに、健康的な生活習慣の基礎を培っていく時期でもある。
 享受期は、老化による身体機能の低下はあるものの、人間としての精神的な活動が引き続き行われる時期であり、このような肉体的な制約条件を受け入れつつ、増大する自由時間を有効に活用しスポーツを主体的に楽しむことができる時期である。

[1] 乳幼児期

(1)加齢に伴う特徴

 乳児期は、泣く、吸う、握るなどといった生存に必要な反射から、立つ、歩くなどという発達課題があり、大脳皮質特に前頭葉が発達する時期でもある。
 幼児期は、走る、跳ぶ、投げる、捕るなどといった動きを学習し、運動の仕方を身に付けていく時期でもある。
 また、乳幼児期には、親や兄弟など家族との触れ合いや仲間との交流を通して、生涯にわたる基本的な生活習慣や人間形成の基礎が培われる。

(2)望ましいスポーツライフ

 身近な遊び空間等の減少に伴い、屋外遊びが減り、室内遊びへの比重が高まっている。屋外での遊びの減少は、幼児の運動欲求を充たさなくなり、年齢に応じた対人関係を学習することを難しくしてきている。
 乳幼児期における成長・発育にとっては、遊びを通して、様々な動きを学習することが期待される。特に、屋外の遊び場、身近な公園や自然の豊かな環境において、親子の触れ合いや仲間との交流を深めながら、歩く、走る、跳ぶ、投げるなど多様な遊びを頻度多く楽しむことが生涯発達の原点として大切である。

[2]児童期

(1)加齢に伴う特徴

 小学校低学年においては、走る、跳ぶ、投げる、捕るなどという基本的な運動を習熟するという発達課題があり、大脳の発達も活発となる時期である。体力面でも向上が見られ、学校や地域において、スポーツ活動とのかかわりが始まる。
 小学校高学年においては、調整力(目的とする動作を正確・円滑に効率よく行える能力)の発達が顕著となり、筋パワー(瞬発力と同じ意味で、集中的な筋力の発揮)の発揮能力は小さいが適切な負荷での持久的な運動・スポーツが可能になってくる。
 また、二次性徴が始まり、精神的にも身体的にも大人に近づき、基本的な生活習慣が確立するようになる。

(2)望ましいスポーツライフ

 生活環境の変化に伴い、屋内でのひとり遊びの比重が高まり、仲間や異年齢集団との身体活動を伴う運動遊びが減少し、体力の低下が危惧されるとともに、スポーツに親しむ機会も不足してきている。なお、児童期のスポーツ活動の中には、練習のし過ぎや特定種目への早期専門化の問題も指摘されている。
 この期においては、学校における体育や、家庭や地域における様々な運動遊びを通して、基礎的な体力や運動能力を身に付け、仲間や異年齢集団との交流等を幅広く行うことが[生きる力]を高めることにつながる。特に、この期においては、学校内外を通じて、子どもたちが運動嫌いや体育嫌いにならないように配慮するとともに、男子向き女子向きといった固定的な考え方にとらわれず、運動・スポーツとの「良い出会い」、「楽しい出会い」ができる機会を持つことが必要とされる。他方、子どもたちの健康を増進し、成長発達を促していくためには、バランスのとれた基礎的な体力を身に付けることが大切である。なお、健康や体力の根幹となる持久力を高めるためには、自らの興味・関心を生かして、自主的・自発的に「きつい」ないしは「かなりきつい」と感じる程度の運動・スポーツを1日5~15分、週3日以上行うことが望ましい。
 また、身近な自然の中で、様々な活動を体験することにより、[生きる力]を実際に試したり、養ったりすることが大切である。
 地域においては、子どもたちが運動・スポーツのクラブに加入するなどして、様々な行事に参加し、異年齢集団や異文化との接触を通して、豊かな社会性や人間性を涵養させることが期待される。

[3]青年期前期

(1)加齢に伴う特徴

 青年期前期は、身体の形態や機能の発育・発達には個人差と性差が見られるが、子どもから大人へと移り変わる境界期でもあり、身体的な成熟だけでなく、人間形成から見ても大切な人生の節目である。身体的にはほぼ大人と変わらなくなり、性機能も成熟するとともに、精神的な発達も著しいが、自立したいという気持ちと子どものままでいたいという気持ちが共存し、不安と葛藤が生じることもある。また、感受性が強く、不安や焦り、熱中、感動などを経験しながら成長していく。

(2)望ましいスポーツライフ

 この時期に、豊富なスポーツ経験を持つことが、その後のライフステージにおけるスポーツ習慣の形成に大きく影響を及ぼすものであるが、運動部活動をめぐる問題のほか、スポーツをする生徒としない生徒の二極化が進むとともに、体力・運動能力が低下傾向にあることなどの問題がある。
 この期は、親しい友人や仲間を積極的に求め、種々の活動を共に行う中で楽しさを十分経験する時期であることから、学校内外を通じて、興味・関心等に合った様々なスポーツを体験したり、見て楽しんだり、スポーツの意義や特性などに関する理解を一層深め、スポーツ習慣を形成することが期待される。また、日常生活の様々な場面において主体的に運動・スポーツを実践し、体力の向上や健康の増進を図ることが併せて求められている。この時期の発育・発達上の課題を解決していくためには、多面的な体力や運動能力の向上を図っていくことが必要であるが、このうち、例えば、持久力を高めるためには、自覚的に「ややきつい」ないしは「かなりきつい」と感じる程度の走動作を含む運動・スポーツを1日10~30分程度、週3日以上、また、筋力を高めるためには、「ややきつい」負荷を伴う筋力トレーニングを1日10~30分程度、週2日程度行うことが望ましい。

[4]青年期後期

(1)加齢に伴う特徴

 青年期後期は、筋力や持久力、瞬発力などの身体機能が最高に充実し、技能の進歩が著しい時期である。
 また、学生時代から社会人へと移行する時期であり、生涯にわたる健康的なライフスタイルの定着を一層確実にしていく時期である。

(2)望ましいスポーツライフ

 適切な身体活動量を確保するだけのスポーツ習慣が未形成となっている。また、高等教育段階においては、体育の選択化が進むとともに、運動部やサークルで活動する学生としない学生との二極化が進んでいる。
 この期においては、様々なスポーツを経験し、自らに適した運動・スポーツを主体的に実践できる能力を身に付けることが求められる。健康や体力を増進していくためには、例えば、持久性の能力については、青年前期と同程度の質と量の運動・スポーツの実践が望まれるとともに、筋力を高めるためには「ややきつい」程度以上の筋力トレーニングを1日10~30分、週2日程度行うことが必要とされる。
 また、一部、青年期前期から始まる種目も含め、競技力や技術レベルの向上を目指したり、トップレベルのスポーツ大会を観戦するなどの「みるスポーツ」の楽しさをより多く経験し、スポーツに関する総合的な教養を高めることが求められる。

[5]壮年期

(1)加齢に伴う特徴

 壮年期は、加齢に伴い、身体面では体力や運動能力が緩やかに低下し始めるが、社会人又は家庭人として新たなライフステージを迎える時期であり、職場や新たな生活を通して、人間的なバランスのとれた発達が期待される時期でもある。

(2)望ましいスポーツライフ

 仕事中心の生活となり、時間的制約も多くなることから、主体的に運動・スポーツの機会を求めない限り、スポーツ活動から遠ざかる傾向が顕著となる。また、身体活動量の低下等により肥満傾向も増加している。
 この期においては、自由時間を有効に活用し、主体的に運動・スポーツ活動を実践していくことが求められる。そのためには、健康的なライフスタイルの基礎となる運動・スポーツや栄養、休養などについてよく理解するとともに、地域や職場、あるいは民間のスポーツクラブに所属するなど、スポーツ・レクリエーション活動を通して仲間や友人との社交が持てる機会づくりが大切である。
 また、健康的な家庭生活を過ごす上でも、家族の触れ合いを高めるような親子でのスポーツの実践や、家族での自然体験やボランティア体験の機会の充実が求められる。
 特に、こうした親子のスポーツ・レクリエーション活動等を通じて、親から子どもへ文化としてのスポーツの伝承が期待されている。
 なお、この期での体力の維持を図るためには、例えば、持久力を保持し肥満を防止するには1日15分以上、週3日以上、ウォーキング、ジョギング、水泳等有酸素的な運動・スポーツを自覚的に「普通」か「ややきつい」と感じる程度に行ったり、筋力を保持するには、「ややきつい」程度の筋力トレーニングやストレッチング等を1日10~30分、週1~2日程度行うことが望まれる。

[6]中年期

(1)加齢に伴う特徴

 中年期においては、40歳頃から視力が低下したり、体脂肪率も徐々に高くなる傾向が見られるとともに、女性にあっては、特に骨量の急速な減少が進み始めるなど、加齢による生理的変化が顕著になる。体力レベルの低下も著しく、息切れや柔軟性の低下といった自覚現象も現れるようになる。一方、職場や家庭においては、同僚や家族・子どもに対する対人的関係において、社会人として円満な人間性の確立が期待される。

(2)望ましいスポーツライフ

 この時期は、健康との関わりからも規則的な運動・スポーツの実施が必要とされるが、スポーツ活動に親しんでいる者も一部に見受けられるものの、消極的な余暇活動が中心で、運動不足型のライフスタイルとなっている。
 したがって、運動不足の解消はもとより、積極的なリラクセーションを図る上からも、自由時間を有効に活用し、個人の興味、関心、年齢、体力等に応じた運動・スポーツの規則的な実施が求められる。
 また、定年退職後の豊かな生活を築いていくためにも、退職準備学習として、継続して実施できる運動・スポーツを学習することや、配偶者や仲間との交流を楽しむことができるような運動・スポーツを始めることも大切である。
 運動不足を解消して、体力を保持し、体脂肪を適正に保つためには、例えば、持久力については、ウォーキング、ジョギング、水泳等の有酸素的な運動・スポーツを自覚的に普通か「ややきつい」と感じる程度に、1日15分以上、週3日以上行ったり、筋力の衰えを防ぐためには、「ややきつい」程度の筋力トレーニングを1日10~30分、週1~2日行うことが望ましい。

[7]老年期前期

(1)加齢に伴う特徴

 老年前期は、ライフスタイルの違いにより個人差が見られるが、加齢に伴い、身体的な老化現象が顕著になるとともに、体力・運動能力が低下し、疲労回復に時間が掛かったり、体温調節機能も弱くなってくる。
 しかし、老化による身体機能の低下はあるものの、人間としての精神的な発達が完成される時期であり、人生のライフステージにおいて、経験したことのない、多くの自由時間を持てる時期でもある。

(2)望ましいスポーツライフ

 この時期は、健康、社交(触れ合い)等への関心が高いが、運動・スポーツを含め社交的な活動に親しめる機会が不足し、地域での社会参加の活動からも遠ざかる傾向が見られる。
 この期においては、主体的で、活動的なライフスタイルが求められており、このためには日常生活において、栄養のバランスのとれた食事を心掛け、疲労が残らない程度に適度な運動・スポーツを主体的に実施することが大切である。例えば、日常生活において体力に衰えを感じたら、ウォーキング、健康や体力を高めるための体操等を1日15分以上、週3日以上を目安として行ったり、筋力の衰えを感じたら、体操・ストレッチング等を1日10分以上、週1~2日程度を目安として行うことが望まれる。
 特に、孤独な心理状態に陥らないためにも、地域においてはスポーツや趣味の活動を通じて、仲間との交流を深めることが大切であり、スポーツ活動はもとより、ボランティア活動など、積極的な社会参加が求められている。

[8]老年期後期

(1)加齢に伴う特徴

 老年期後期は、ライフスタイルの違いにより個人差が見られるが、身体面では前期以上に老化が進み、病気に対する抵抗力や回復力も衰えてくる。しかし、日常生活の中で精神的に充実した活動を行う人もいる。

(2)望ましいスポーツライフ

 平均寿命は著しく伸長しているが、健康に対する不安や、一人暮らしなどによる孤独感から情緒不安になりやすく、心身の異常を訴える人が多くなっている。
 この期においては、家族や社会からの暖かい支援が望まれるが、自ら健康づくりを心掛け、主体的に行動し、自立したライフスタイルが求められる。このためには、日常生活において軽度の身体的な活動の機会をできるだけ増やすことが必要であり、例えば、運動・スポーツとしてはウォーキングなどの負荷の軽いものを、疲労が残らない程度1日15分以上、週3日以上を目安に実践することが大切である。また、筋力の衰えには、体操・ストレッチングなどを同程度に1回10~30分、週1~2日行うことが望ましい。
 また、仲間や世代間を超えた人々との交流を持つことが求められており、地域におけるスポーツ・レクリエーションの場に参加したり、ボランティア活動や趣味のサークルに積極的に出掛けていく機会を持つことが大切である。

4 女性とスポーツ

 女性においては、乳幼児期から老年期に至るまでの各ライフステージにおける発育・発達上の特徴に加え、月経、妊娠、出産、閉経等の生理的特性を有しており、更に近年の女性を取り巻く社会環境の変化や女性の果たす多面的な役割、特に、母親のスポーツ参加が子どもなど家族のスポーツ参加意欲の喚起に効果的であることにも配慮しつつ、女性のスポーツ参加を促進することが大切である。
 児童期から青年期にかけては、骨密度が増大し20~30代で最大となるため、定期的に運動・スポーツに親しむスポーツ習慣の形成が重要となる。特に、この時期には、過剰な「やせ願望」に陥らないよう、栄養や発育・発達に関する正しい知識を持ち、個人で自己管理できる能力を養う必要がある。
 また、妊娠、出産を契機として肥満者の増加も見られるため、この間においても、医師との十分な相談の下に、適度に運動・スポーツに親しむことが望まれる。
 更年期においては、骨量の急速な減少が進み始めるとともに、更年期障害の症状が見られる時期となるため、十分な栄養摂取への配慮はもとより、様々なスポーツを通じて積極的に家族や仲間との交流を図ることが必要である。
 老年期においては、健康な生活を営むため、より積極的に運動・スポーツに親しむことが必要であるとともに、単独世帯になった場合にも、できるだけ身近な地域において、仲間や世代間を超えた交流が望まれる。

5 障害のある人とスポーツ

 障害のある人も障害のない人と同様に、誰もが生涯にわたり、それぞれの興味・関心・年齢・体力等に応じてスポーツに親しむことが望まれるが、これまでの我が国における障害のある人とスポーツとのかかわりは、一般的には、福祉の観点からの機能回復等の手段としての役割が主であったと考えられる。
 しかしながら、各種の障害者施策や障害のある人に対する社会の理解の進展等に伴い、障害のある人とスポーツとのかかわりは、福祉の観点にとどまらず、各自の障害の種類・程度や体力等に合わせてスポーツに親しんだり、競技力及び記録の向上を目指した取組など多様化しつつあり、これらのスポーツニーズにも適切に対応していくことが必要である。

6 スポーツライフの実現方策

 豊かなスポーツライフを生涯にわたり実現していくためには、国民一人一人が文化としてのスポーツに対して関心と理解を高めていくことがまずもって必要であり、その上で、各ライフステージで提案された望ましいスポーツライフを自分の生活の一部として主体的に、かつ継続して実践していくことが必要である。
 そのためには、国民一人一人の取組が継続して実施されるよう、各般にわたるスポーツ環境を整備していくことが大切であり、国、地方公共団体、スポーツ団体、民間等はそれぞれの役割を踏まえつつ相互の連携・協力を図りながら、望ましいスポーツライフの実現のための支援をしていくことが望まれる。この場合、特に国や地方公共団体においては、それぞれのスポーツライフを実践しようとする多様な国民の立場に立って、全体的なスポーツ振興施策が展開できるよう、その推進体制の在り方などについて幅広く検討し、その整備を図っていく努力が求められるところである。
 こうした国民の立場に立つという観点からすると、とりわけ、地域住民の最も身近にある市町村には、住民の主体的なスポーツに対する取組を促進し、豊かなスポーツライフの実現を図っていくために、生涯にわたり文化としてのスポーツとどのようなかかわりを持ち、各ライフステージでどのような運動・スポーツに親しむべきかについて参考となる指針づくりが求められる。
 このことから、本審議会は、市町村の指針づくりの参考となるよう、別表1の「豊かなスポーツライフの指針(参考案)」及び別表2の「体力つくりのための運動指針(参考案)」を示した。なお、この指針は、あくまでも体力的に平均的な国民を仮定し、参考とすべき基本的な方向性や指標を示したものであり、具体的に国民がスポーツ実践活動を行うに当たっては、その一人一人の体力・運動能力が異なることから、必要に応じてスポーツプログラマーやスポーツドクター等の助言を得つつ、行うことが望まれるものであることに留意する必要がある。

3.学校における体育・スポーツ及び健康に関する教育・管理の充実

1 体育

(1)体育の基本的目標と位置付け

 平成8年7月の中央教育審議会第一次答申においては、これからの学校教育の在り方について、[生きる力]の育成を基本として、子どもたちが自ら学び、自ら考える教育への転換を目指し、知・徳・体のバランスのとれた教育を展開し、豊かな人間性とたくましい体をはぐくむ等としている。[生きる力]とは、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性である。そして、たくましく生きるための健康や体力は、こうした資質や能力などを支える基盤として不可欠なものである。
 このため、学校における体育に関する指導の中核である教科「体育・保健体育」の基本的在り方については、知・徳・体のバランスのとれた教育活動により[生きる力]をはぐくむとの考えに立って改善を図る必要がある。
 その際、近年の児童生徒の体力・運動能力の低下傾向や日常生活における身体活動の機会の減少、あるいは、個別に見ると、運動に興味を持ち、活発に運動する者とそうでない者との二極化している現状を踏まえ、すべての児童生徒が運動が好きになり、さらに運動が得意になることを目指して、活力のある生活を支える基礎的な体力・運動能力を培うことに特に配慮し、生涯にわたって運動に親しむ態度を身に付けていくことができるようにすることが重要である。
 また、完全学校週5日制の下で児童生徒にゆとりを確保するために、教育内容の厳選が求められていることを踏まえ、学校・家庭・地域社会の果たす役割と意義を検討した上で、学校の教科「体育・保健体育」において、小学校・中学校・高等学校(盲・聾・養護学校においては小・中・高等部)の発達段階に応じ、すべての児童生徒が身に付けるべき基礎・基本を考えていく必要がある。
 こうした観点からは、小学校・中学校・高等学校(盲・聾・養護学校においては小・中・高等部)の12年間を見通して、体力の向上や運動に親しむ態度の育成が図られ、さらには豊かな人間性がはぐくまれるようにすることが重要である。そして、各学校段階ごとに漸進的・重点的に実現を目指すべき課題を示せば、おおよそ次のようになる。
 もっとも、この内容については、児童生徒の実態などに応じて行うことは言うまでもない。

○体力の向上について
 小学校・・・主として巧みに動ける体つくり
 中学校・・・主として動きを持続することができる体つくり
 高等学校・・主として力強さとスピードのある動きのできる体つくり

○運動に親しむ態度について
 (幼稚園)~小学校中学年・・・・運動が好きになる
 小学校高学年~中学校1年生・・・運動の楽しさや喜びが味わえる
 中学校2年生~高等学校3年生・・運動が得意になる

 したがって、発達段階に応じて基礎的な体力・運動能力を高めたり、多様な運動に触れてその楽しさや喜びを味わったり、自分に合った運動を選択するなどして、一人一人の能力・適性を伸ばすことに重点を置くことが必要である。その際、学校・家庭・地域社会全体を通じて、主体的に様々な運動やスポーツ活動に参加していく能力や態度を育成することに配慮して行うことが必要である。このことは、生涯にわたる豊かなスポーツライフの形成に結び付くものでもある。これらのことを前提として、教科「体育・保健体育」の基礎・基本などについて検討し、内容の改善を図ることが求められる。

(指導上の留意点)

 指導に当たっては、自発的・自主的な学習態度を伸長していくことが大切であり、このため一斉指導の仕方に工夫を加えるとともに、自らの運動の課題の解決を目指す課題解決型の指導を発達段階や学習段階に応じて適切に取り入れることが必要である。ただし、その際、運動の学習活動が、単に一過性の楽しさの追求だけに終わらないよう、各種の運動のよさに触れ、自らの運動の課題を自らの力量で解決することによって喜びや楽しさを味わえるよう、計画的な学習活動の実践に配慮する必要がある。
 なお、障害のある児童生徒については、その障害の状態及び発達段階や特性等を十分考慮し、例えばルールを工夫したり用具を開発・改善したりするなどにより、適切な指導を行う必要がある。

(2)たくましく生きるための体力と豊かな人間性の育成

 いつの時代においても、各種の運動を適切に行うことによって体力の向上を目指し、強い意志や公正、協力、責任などの態度を育てることは、教科体育の重要な課題である。とりわけ、たくましく生きるための体力や、互いに協調し相手を尊重するなど、豊かな人間性をはぐくむことは教科体育が果たさなければならない今日的な課題である。

(基礎的な体力・運動能力の向上のための改善方策)

 基礎的な体力・運動能力の向上についても、一人一人の実態に応じた体力が自発的・自主的に高められるようにする必要があり、このため体育においては、多様な運動を計画的に経験させるとともに、基礎的な体力を高める上で適切な運動の量と質が求められる。
 小学校低・中学年においては、運動が好きになることを目指す中で、走る、跳ぶ、投げるなどの基礎的な動きを身に付けるようにすることや、基礎的な体力・運動能力の向上の観点を重視して、学習の適時性を考慮しつつ、運動の内容を改善することが必要である。
 また、小学校中・高学年においては、運動の楽しさや喜びを味わうことができずに運動嫌いになることのないように、器械運動の内容を精選したり、重点的に取り扱う学年を示すなど、運動の取り上げ方の改善が必要である。
 中・高等学校における体育については、生徒の興味・関心、能力・適性等に応じて、運動を選び、得意な運動をつくることを目指し、一層、基礎的な体力・運動能力が高められるよう、改善を図る必要がある。
 また、各学校段階を通じて、直接的に体力を高める運動領域である「体操」の在り方については、そのねらいや内容が適切に理解されるように、近年のスポーツ科学の成果を踏まえ、内容等の検討を行う必要がある。
 なお、内容等の改善に加えて、体育の指導全体を通して、運動の楽しさや喜びを味わうために必要な技能を身に付け、高めることが適切に行われるよう配慮することが必要である。
 これらの取組を通じて、すべての児童生徒が、活力ある生活を支える基礎的な体力・運動能力の向上に必要な活動の機会が与えられるように努めるとともに、さらに、適切な運動習慣を培い、学校内外において一人一人の選択により様々な運動やスポーツ活動に取り組んでいくようにすることが大切である。

(体育と豊かな人間性の育成)

 また、[生きる力]の一つである豊かな人間性の育成や心の教育に果たす体育の役割も、引き続き重視すべきである。この点に関しては、従来、体育の各運動領域において、仲間や相手を尊重したり、協力したり、励まし合い、共通したルールの下で競い合うことを通じて公正な態度を養うなどの人間形成面の指導を行ってきたことを強調していくべきである。

(武道の取扱い)

 武道の取扱いについては、前回の教育課程の改訂で、我が国の文化と伝統を尊重する態度を養う観点から、名称を格技から武道に改め、中学校、高等学校で男女とも選択して履修できるように改めている。武道は、自己を制御しつつ相手を尊重するなど心身の健全な育成に生涯にわたって大きな影響力を持つとともに、国際化の進展がますます予想されるなかで、スポーツを通じたコミュニケーションの促進や、我が国固有の運動文化の理解を深める上でも有意義であることを踏まえると、学校教育の中で引き続き適切に取り扱うような配慮が必要である。

(体育と自然体験的活動)

 さらに、体育では戸外で身体活動を行う機会が多いという特性があるので、児童生徒の自然体験の現状や今後の社会変化を踏まえると、地域や学校の実態に応じて、体育に自然体験的活動を一層取り入れていくことが考慮されてよい。
 なお、自然体験的活動を行うに当たっては、各教科等の関連を図った指導について配慮する必要がある。

2 運動部活動

(運動部活動の基本的意義)

 運動部活動は、学校教育活動の一環として行われており、スポーツに興味と関心を持つ同好の生徒によって自主的に組織され、より高い水準の技能や記録に挑戦する中で、スポーツの楽しさや喜びを味わい、豊かな学校生活を経験する活動である。
 この運動部活動は、生涯にわたってスポーツに親しむ能力や態度を育て、体力の向上や健康の増進を図るだけでなく、学級や学年を離れて生徒が自発的・自主的に活動を組織し展開することにより、生徒の自主性、協調性、責任感、連帯感などを育成するとともに、仲間や教師(顧問)との密接な触れ合いの場として大きな意義を有するものである。
 これを学校教育活動に位置付け、顧問をはじめとして学校が関与することにより、生徒のスポーツ活動と人間形成を適切に支援するとともに、生徒の明るい学校生活を一層保障し、生徒や保護者の学校への信頼感をより高めることにつながっている。さらには、運動部の取組がその学校の一体感や愛校心を醸成するということも現に認められる。

(運動部活動と体力・運動能力の向上)

 このように、運動部活動は様々な教育的意義を有するが、自発性・自主性に基づいて行われるという運動部活動の特性にかんがみ、体力・運動能力の向上の面でも、個人の主体的取組が期待でき、その成果も大きいと考えられる。また、教科体育だけでは確保できない活動の量と頻度を確保できるので、望ましい運動・スポーツ習慣を定着できる場としても極めて有意義と考えられる。今後ともこのような運動部活動の特質を生かしつつ、発育・発達段階を踏まえ、児童生徒の体力・運動能力の向上のための取組が一層適切に行われるようにしていくことが重要である。

(運動部活動をめぐる基本的課題)

 この運動部活動については、地域や学校段階等の多様な実情により状況や抱えている課題等が異なるが、基本的な課題として()教科体育や地域スポーツとの関係の整理、2)今後の部員数や教員(顧問)数の減少、顧問の高齢化、実技の指導力不足等への対応、3)勝利至上主義的な考え方に基づく一部の行き過ぎた活動や指導の改善、学校体育大会の在り方など望ましい活動内容の展開策、4)運動部活動と国際競技力の向上の関係が挙げられる。

(運動部活動と教科体育)

 教科体育との関係については、参加している生徒にとって運動部活動が、教科体育で身に付けた技能などを発展・充実させ、逆にその成果を体育の授業で生かし他の生徒にも広めていくことができる点はもとより、生徒同士や生徒と顧問との緊密な人間関係や豊かな学校生活の実現に大きく寄与している点を踏まえて考える必要がある。一方、部活動が本来、自発的・自主的活動として展開されることにより、その効果が発揮されることに留意し、部活動への参加が強制にわたることのないよう運営すべきである。

(運動部活動と地域スポーツ)

 また、地域スポーツとの関係については、地域や学校段階等において多様な実情があることにも配慮し、全体としては、学校における運動部活動の適切な展開と地域スポーツの一層の振興を図り、両者の連携を図りながら、多様な児童生徒のニーズにこたえる環境を整備するという考え方が必要である。その際、外部指導者や地域のスポーツクラブ、民間スポーツクラブの活用などにより、運動部活動と地域社会との連携を深めていくことが望まれる。また、地域において活発なスポーツ活動が行われており、しかも学校に指導者がいない場合など、地域社会にゆだねることが適切かつ可能な場合にはゆだねていくことも必要であると考える。
 特に、学校の運動部活動に外部指導者の活用を促進することは、顧問の高齢化や実技の指導力不足を補うためにも有効であるし、また、指導力のある教員の異動とともに学校の運動部活動が衰退してしまうという現状を改善する方策の一つと考えられる。さらに、後に述べるように、今後、生徒の志向などに応じた多様な運動部活動を展開しようとすれば、外部指導者の活用が一層重要になると考えられる。
 このため外部指導者の養成・確保策などについて検討を進めるとともに、採用する際には、広く都道府県スポーツ・リーダーバンクやスポーツ・レクリエーション団体に登録されている有資格指導者を積極的に活用していくことが望まれ、地方公共団体においては、外部指導者の活用のための措置を講ずることが必要である。
 外部指導者の活用方法についても、例えば、各学校の判断により、顧問との連携・協力の下に、外部指導者のみで実技指導を行ったり、顧問が引率できない場合に外部指導者が学校体育大会へ引率できるようにすることを認めていくことも考えられる。

(活動形態及び内容の改善事項)

 一方、生徒数の減少に伴い運動部活動が1校で維持できないような状況も一部に生じてきていることについては、既に複数校による合同の活動を認めている例もあることを踏まえて、今後、指導者の雇用形態や事故発生時の責任の内容も含めて指導の在り方、学校体育大会への参加資格の見直しなど、このような取組が一層可能となるような種々の条件整備策について検討を進める必要がある。
 活動内容については、大部分の学校では健全に運営されている状況がうかがえるものの、一部にみられる勝利至上主義的な在り方については、生徒の豊かな学校生活を保障し全人格的な成長を図るという運動部活動の基本的意義を踏まえ、指導者が生徒の主体性を尊重した運営を心掛けるとともに、生徒の発育・発達段階に深い理解を持ち、特にスポーツ障害が生じないよう十分留意することが必要である。このため、教師(顧問)に対して研修を行うなどにより、その指導力の向上を図っていくことが求められる。また、運動部活動の指導が理由で、部員以外の生徒との触れ合いを不足させるなど他の教育活動等の学校運営に支障を生じさせるようなことがないよう配慮する必要がある。さらに、スポーツ医・科学の知識を身に付けた外部の指導者や諸機関の活用を図ることも重要であり、そのための条件整備策について検討する必要がある。なお、児童生徒期に多様なスポーツ活動の機会を確保する見地から、健康・交流志向や競技志向など志向の違いに対する配慮や、シーズン制、複数種目制など、児童生徒の志向に対応した活動内容の多様化を図ることも考えられる。

(学校体育大会と部活動)

 学校体育大会の開催が、日頃の運動部活動において技能や勝敗を過度に重視する姿勢をもたらしているとの指摘もあるものの、従来「文武両道」とも言われてきたように、知・徳・体のバランスのとれた国民を育成する上で、運動部活動は大きな意義を有しており、その成果の発表の場である学校体育大会にも大きな貢献が認められるところである。
 運動部において継続的にスポーツをする上で、個々の生徒が今以上の技能や記録に挑戦することは自然なことであり、それを学校が支援すること自体が問題とされるものではない。問題とされるのは、大会で勝つことのみを重視し過重な練習を強いたり、その生徒のバランスのとれた生活や成長に支障を来している場合である。
 このように運動部活動には、より高い技能や記録に挑戦するというスポーツ本来の活動を行う過程で、ともすれば過重な練習を強い、調和のとれた人間形成を図るという本来の目的と矛盾する場合も見られる。このことを常に念頭に置いて、顧問、校長などその指導者、管理者や、運動部活動の大会の主催者である中体連や高体連などの学校体育団体は、より健全な活動を促進することに努める必要がある。
 とりわけ、いわゆる勝利至上主義に基づく過重な練習による弊害を是正するため、中体連、高体連、各競技団体が互いに連携を図りながら、運動部活動における練習の在り方、全国大会の在り方、各年齢期の適時性に基づいた特別ルールなどを検討する必要がある。特に、全国大会については、学校教育活動の一環であることを認識し、華美にわたることのないよう大会規模など節度あるものとするとともに、日程や時期、種目、開催地負担の軽減方策などについても絶えざる検討を行う必要がある。あわせて学校体育団体についても、学校教育の動向を踏まえた合理的な組織運営の工夫や組織の改善充実に努めることが望まれる。なお、小学生を対象とした学校体育大会については、近年の交通事情の改善などを踏まえ、児童の心身の発達や学校運営などにも配慮しつつ、都道府県大会の開催について検討する必要がある。

(国際競技力向上のための一貫指導における運動部活動との連携)

 運動部活動は先に述べたように、学校教育活動の一環として行われ、様々な教育的意義を有している。一方、競技スポーツの面から見ても、多くの競技において選手は、高校生までのジュニア期を学校における運動部活動で過ごしている。国際競技力の向上を図るためには運動部活動への過度の依存を見直すことが必要であるが、以上のような現状においては、運動部活動と国際競技力向上のための各競技団体が取り組む一貫指導との適切な連携が重要である。
 将来性のある選手が運動部活動を日常的な活動の場にしている場合には、指導者と競技団体との間で、指導カリキュラムの作成及び指導結果のフィードバックなどの連携を適切に図ったり、競技団体の指導者が運動部活動の現場に定期的に指導に出向くようにすることなども考えられる。その際、その選手に対する指導が優先され、他の生徒の活動に支障が生じないよう留意する必要がある。さらに、競技団体により地域の育成の拠点が別に設けられ、そこで育成することが特に望まれるような場合には、運動部活動に所属せずに育成拠点で活動することについて、学校側が配慮することも必要である。
 なお、一貫指導のカリキュラムは、必ずしも優れた資質を有した者だけに適しているのではなく、中学校や高等学校の部活動などにおいて、一般的に活用できる部分も多いと考えられるので、運動部活動などでの指導において、一貫指導カリキュラムを積極的に活用することも検討されてよい。

3 学校健康教育(学校保健・学校安全・学校給食)

(1)学校健康教育と学校保健、学校安全及び学校給食

(学校保健・学校安全・学校給食)

 学校においては、心身の健康の保持増進のための保健教育と保健管理を内容とする学校保健、自他の生命尊重を基盤とした安全能力の育成等を図るための安全教育と安全管理を内容とする学校安全、望ましい食習慣の育成等を図るための給食指導と衛生管理等を内容とする学校給食のそれぞれが、独自の機能を担いつつ、相互に連携しながら、児童生徒の健康の保持増進を図っている。

(一体的取組の必要性)

 しかしながら、近年における生活習慣病や心の健康問題、感染症の新たな課題などの健康に関する現代的課題に適切に対応するためには、早期発見、早期治療という二次予防も重要であるが、健康的な生活行動を実践するという一次予防を重視する必要があり、今後、一次予防を促す教育指導面の充実を一層図っていく必要がある。
 このためにも、学校保健、学校安全及び学校給食のそれぞれの果たす機能を尊重しつつも、それらを総合的にとらえるとともに、とりわけ教育指導面においては、保健教育、安全教育及び給食指導などを統合した概念を健康教育として整理し、児童生徒の健康課題に学校が組織として一体的に取り組む必要がある。

(2)健康教育が目指すこと

 健康教育の目標は、時代を超えて変わらない健康課題や日々生起する健康課題に対して、一人一人がよりよく解決していく能力や資質を身に付け、生涯を通して健康で安全な生活を送ることができるようにすることである。
 このためにも、健康教育においては、単に知識を習得するためだけに行われるものではなく、自分自身の心と体を大切にし、高めることが大切であるという内面に根ざした人としての価値観を身に付け、知識を実践に生かす態度の育成を重視する必要がある。
 こうした健康教育の目標を達成するため、1)興味・関心(健康課題に気付くとともに、興味・関心を持つ。)、2)知識・理解(健康についての知識を身に付け、理解する。)(2)思考力・判断力(健康課題をよりよく解決するために考え、判断できる。)、4)意志決定・行動(健康課題を解決するため、意志決定をし、行動できる。)、5)認識(健康の価値を認識する。)、6)評価(1)~5)について自分自身で評価できる。)を児童生徒の発達段階に応じて身に付けることを重視して進める必要があり、また、このような「健康の価値を認識し、自ら課題を見付け、健康に関する知識を理解し、主体的に考え、判断し、行動し、よりよく課題を解決する」という過程そのものが[生きる力]を身に付けることにもつながるものと考える。
 なお、健康管理では、1)健康診断や健康観察など健康状態の把握と保健管理、2)学校環境衛生の維持管理、3)学校における安全の確保と安全管理、4)学校給食における栄養管理及び食品衛生管理、などについて健康教育との関連性を十分に図りつつ、その充実に努める必要があろう。

(3)健康教育で取り扱うべき内容と進め方

(健康教育で取り扱う内容)

 時代を超えて変わらない健康課題はもとより、健康に関する現代的課題に適切に対応するための健康教育の内容としては、次のようなものが考えられる。
 1)心身の健康の意義に関すること
 2)心身の構造・機能及び発育・発達にすること
 3)心身の健康を高める生活(運動、食事(栄養)、休養・睡眠)や健康を守る制度、仕組みに関すること
 4)環境と健康のかかわり及び環境の維持改善に関すること
 5)傷害や疾病の発生要因と安全確保や予防・対処・回復に関すること
 6)心の健康問題の生じ方や対処の方法と心身の調和に関すること

(健康教育の位置付け)

 このような内容をもつ健康教育は、学校において、生涯を通じて健康で安全な生活を送るための基礎を培うという観点から、児童生徒の発達段階に応じ、体育・保健体育等の各教科、道徳、特別活動など教育活動全体を通じて実施されている。平成元年の学習指導要領の改訂においても、健康教育の充実が図られたところであるが、更に改善を図っていく必要があると考える。その際、自分自身の生活習慣や心身の状態などに気付き、健康課題を自ら解決していく態度や安全に行動できる態度を児童期の早い段階から育成することに留意する必要がある。

(教科における指導)

 まず、学校における健康教育の中核となる教科の「体育・保健体育」のうち保健の分野については、生涯を通じて健康で安全な生活を送るための基礎を培うことを目標に、心の健康に関する内容など新たな社会的要請に重点を置きつつ、厳選した基礎的・基本的な内容の理解を通して、自他の生命尊重の心を涵養しつつ、健康に関する認識を深めるとともに、判断力・行動力などを育成することが必要である。また、「体育・保健体育」のうち体育の分野においても、健康・安全に留意して運動することができる態度の育成に努める必要がある。
 教科指導に当たっては、家庭科や理科など関連教科や道徳、特別活動の指導との関連を図りながら、効果的な指導が行われるようにする必要がある。また、単に知識を教え込むだけでなく、発達段階に応じて問題解決的な学習を一層推進することにも留意する必要がある。

(特別活動等における指導)

 次に、特別活動においては、健康に関する内容について、教科での学習や日常生活等で得た知識・理解等を実践する場として、児童生徒の自発的活動の促進にも留意しつつ、具体的な指導を行うことが望まれる。例えば、安全指導については、教科等における知的理解の上に立って、児童生徒等が危険を予測しつつ的確な行動をとることをねらいとして、生徒や学校の実態に応じて指導が行われている。また、保健指導についても、例えば、歯科保健に関し日常生活で具体的に実践できるような指導が行われている。
 さらに、学校や地域の実態等に応じ、中央教育審議会第一次答申で提言された「総合的な学習の時間」などを活用して、特色ある取組を進めることも考えられる。
 特別活動の指導に当たっては、家庭や地域社会と密接に連携しつつ、それぞれの役割を分担、協力しながら効果的に進める必要がある。

(4)健康教育の実施体制

(組織としての一体的取組)

 以上のように、健康教育は広範かつ専門的な内容を学校の教育活動の様々な場で指導していくことが必要であるので、学校の中にいる専門性を有する教職員や学校外の専門家を十分活用していくことが、効果的かつ実践的な指導を行う上でも、極めて重要である。
 健康教育を担当する教職員としては、教諭のみならず、保健関係では養護教諭はもとより学校医、学校歯科医、学校薬剤師等の職員、栄養関係では学校栄養職員など、専門性を有する教職員まで幅広く考える必要がある。さらに、教職員以外にも、例えば、カウンセリングについては、スクールカウンセラーなど、それぞれの分野における専門家の協力を得ることが重要である。このように多様な教職員等が健康教育に関係することから、専門性を有する教職員で構成される学校が組織として一体的に健康教育に取り組むことを、実施体制の基本とすべきである。換言すれば、健康教育は、学校が組織体としての教育機能を発揮すべき典型的な実践の場ととらえることが必要である。
 このように学校における組織的な指導体制を整備するためには、まず校長が健康に関する深い認識を持ち、健康教育を学校運営の基盤に据えることが重要である。その上で、校長のリーダーシップの下、教頭、体育・保健体育担当教員、保健主事、学級担任、養護教諭、学校栄養職員等はもちろん、学校医、学校歯科医、学校薬剤師等がそれぞれの役割を果たし、日ごろから全教職員で児童生徒の健康課題等を把握するとともに、情報交換や研修に努めるなど、組織的な機能を発揮できるよう、指導体制を整えることが必要不可欠である。

(教科指導等における指導体制)

 学校の組織的な指導体制の一環として、教科指導及び特別活動等においては、内容に応じて、養護教諭や学校栄養職員などの専門性を有する教職員とティームを組んで、多様な教育活動を進めることはもとより、学校医、学校歯科医、学校薬剤師等の専門性を生かした指導を一層推進することにも留意する必要がある。とりわけ、教科「体育・保健体育」における健康教育を一層推進するため、「保健体育」や「保健」の免許を有する養護教諭について、教諭に兼務発令の上、保健学習の一部を担当させるなど、養護教諭等の健康教育への一層の参画を図るべきである。ただし、その際には、養護教諭は1校に1名配置が大部分なので、救急処置の対応等にも配慮する必要がある。

(特別非常勤講師制度の活用)

 また、指導の充実を図るため、特別非常勤講師制度などを活用して、医療関係者など健康教育に関係する社会人を幅広く学校に受け入れることは、教育内容を多様なものとするとともに、教員の意識改革を図る上でも有意義であるので、積極的に推進する必要がある。

(学校保健委員会・地域学校保健委員会の活性化)

 学校における健康の問題を研究協議・推進する組織である学校保健委員会について、学校における健康教育の推進の観点から、運営の強化を図ることが必要である。その際、校内の協力体制の整備はもとより、外部の専門家の協力を得るとともに、家庭・地域社会の教育力を充実する観点から、学校と家庭・地域社会を結ぶ組織として学校保健委員会を機能させる必要がある。
 さらに、地域にある幼稚園や小・中・高等学校の学校保健委員会が連携して、地域の子どもたちの健康問題の協議等を行うため、地域学校保健委員会の設置の促進に努めることが必要である。

(5)健康管理の意義と進め方

(健康管理の意義)

 健康管理は、児童生徒の心身の健康を支えるものであり、学校運営の重要な機能として大きな意義を持つので、全体的な学校教育計画及び具体的な実施計画である学校保健安全計画や学校給食に関する基本計画に位置付けて推進することが重要である。また、保健管理、安全管理及び給食管理のそれぞれが相互に連携を図るとともに、教育活動にも結び付くよう配慮されてきたところであり、このような健康管理を健康教育に生かすという方向は、今後一層重視する必要がある。

(保健管理)

 心身の健康管理については、例えば、平成6年度に健康診断の項目等を改正したところであるが、今後、学校における健康診断はスクリーニングであるという観点を重視し、その結果を健康教育に生かすために、マルチメディア等も活用しながら、健康に関する情報を的確に把握できる環境を整備する必要がある。また、プライバシーに配慮しつつ、日々の健康観察をきめ細かく実施し、それらの結果を基に児童生徒一人一人が自らの健康状態を評価・活用できるようにする必要がある。
 加えて、発育・発達途上にある児童生徒の健康的な生活環境を保障するため、学校環境衛生の基準に基づき、適切できめ細かい学校環境衛生の管理に努めていくことが必要であり、さらに、環境衛生への取組を児童生徒に対する指導にも生かすことも望まれる。

(安全管理)

 学校安全については、学校管理下の事故や交通事故が年々増加するとともに、阪神・淡路大震災等の自然災害が各地で発生していること、また、児童生徒が犯罪に巻き込まれる事件が発生していることなどにかんがみ、児童生徒の安全を確保し学校教育の円滑な運営を図るための安全管理を充実することが必要である。
 その際、通学路の点検を行うなど、事故の要因となる学校環境や児童生徒の生活行動の危険を早期に発見・除去するとともに、事故発生の場合に適切な応急手当や安全対策ができるような体制を整備することが大切である。

(給食管理)

 学校給食の栄養管理については、食事内容の適正を期すため、学校給食実施基準等に基づいて、エネルギーや栄養素のバランスに配慮しつつ、きめ細かい栄養管理に努める必要がある。
 また、学校給食の衛生管理については、概念的には保健管理にも含まれるが、近年多発している、腸管出血性大腸菌O157のような感染症型の食中毒が発生しないようにするためにも、食中毒防止の原則を十分認識した上で、平成9年度に新たに作成された学校給食衛生管理の基準に基づいて適切な管理の徹底に努める必要がある。また、その一環として、調理過程等の衛生管理について具体的に指導や助言を行えるよう、専門家による巡回指導のできる体制を整備することが求められる。

(6)学校給食の今日的意義

(食に関する現代的課題と食に関する指導)

 個々人のライフスタイルの多様化や外食産業の拡大など、食生活を取り巻く社会環境等の変化に伴い、外食・加工食品の利用者の増加や朝食欠食率の増加など、個々人の食行動の多様化が進んでいる。このような食行動の多様化を背景に、カルシウム不足や脂肪の過剰摂取などの偏った栄養摂取、肥満症等の生活習慣病の増加及び若年化など、食に起因する新たな健康課題が増加している。
 学校における食に関する指導は、従来から関連教科などにおいて、食生活と心身の発育・発達、食生活と心身の健康の増進、食生活と疾病などに関して指導を行ってきているところであるが、こうした食に関する現代的課題に照らすと、生涯を通じた健康づくりの観点から、食生活の果たす重要な役割の理解の上に、栄養バランスのとれた食生活や適切な衛生管理が実践されるよう指導することが求められる。

(学校給食の今日的意義)

 学校給食は、栄養バランスのとれた食事内容、食についての衛生管理などをじかに体験しつつ学ぶなど、食に関する指導の「生きた教材」として活用することが可能である。こうした学校給食の活用により、栄養管理や望ましい食生活の形成に関する家庭の教育力の活性化を図る必要がある。さらに、学校給食は、社会全体として欠乏しているカルシウムなどの栄養摂取を確保する機会を、学齢期の児童生徒に対して用意しているという機能を果たしている。
 このような学校給食の今日的意義と機能を考えると、現在、完全給食の実施率が約6割である中学校については、未実施市町村において積極的な取組が望まれる。

(食に関する指導体制)

 食に関する指導体制については、学校における食に関する指導の充実を図るためにも、教育活動全体を通して行う健康教育の一環として、食に関する専門家である学校栄養職員の積極的な協力を得て、関連教科において発達段階に沿った指導を行うとともに、学校給食の今日的意義を踏まえて、適切な指導に取り組む必要がある。このため、教科等の特性に応じて、学校栄養職員とティームを組んだ教育活動を推進するとともに、学校栄養職員が学級担任等の行う給食指導に計画的に協力するなど、学校栄養職員の健康教育への一層の参画を図ることが必要である。

(学校給食の調理体制等)

 学校給食を活用した食に関する指導を一層充実する観点から、学校栄養職員が個々の給食実施校に配置され、これにより、児童生徒の実態や地域の実情に応じて、豊かできめ細かな食事の提供や食に関する指導が行われることが望ましい。したがって、このような食に関する指導等が可能となるような単独校調理場方式への移行について、運営の合理化に配慮しつつ、児童生徒の減少等に伴う共同調理場方式の経済性や合理性と比較考量しながら、検討していくことが望ましい。
 また、献立内容についても、児童生徒が食事内容を主体的に選択して食べることを通して、食事に関する自己管理能力を育むため、カフェテリア方式等を取り入れることが期待される。
 さらに、複数の調理場において同じ献立で学校給食を提供する統一献立については、児童生徒の実態や学校の実情に応じた食事の提供を行うとともに、食材の共同購入について衛生管理を徹底させるため、学校栄養職員が配置されていないなど特別の事情のある場合を除き、縮小の方向で検討すべきである。

4 教職員の役割と資質

 学校における体育及び健康教育の充実を図るためには、既に述べた組織的な指導体制の整備とともに、関係教職員一人一人の指導力の向上が求められる。

(求められる指導力の内容)

 教員の指導力に関して特に向上が求められる内容としては、体育面では、一人一人の興味・関心、能力・適性に応じた適切な指導の在り方、科学的な体育理論、児童生徒が目的意識を持って運動を行うような指導法などであり、また、健康教育面では、健康に関する現代的課題についての理解、社会とのつながりへの視野の拡大など、心身の健康に関する幅広い理解が考えられる。これら事項について、養成・採用・研修の各段階を通して関係教職員の指導力の向上を図ることが必要である。

(1)体育・保健体育担当教員

 体育・保健体育担当教員は、体育・保健体育の教科指導を担当するにとどまらず、学校における体育や保健に関する指導の有する意義を十分に認識した上で、これらの指導が学校の教育活動全体を通じて適切に行われるよう積極的にその役割を果たす必要がある。このような指導の展開のためには、教員が児童生徒と共に生き生きとした活動を行うことが大切である。
 このため、特に指導内容が高度化する小学校高学年段階においては、体育専任教員の充実について検討する必要がある。中・高等学校においては、生徒の選択履修の幅の拡大に応じられるような工夫が求められる。また、保健分野の指導内容が専門化する中・高等学校段階においては、保健分野の深い専門性を備えた「保健」の免許を有する教員の充実について検討する必要がある。

(2)保健主事

 近年、児童生徒の心身の健康課題が複雑多様化しており、このような課題に取り組んでいくためには、学校における健康に関する指導体制の一層の充実を図る必要がある。
 保健主事は、健康に関する指導体制の要として学校教育活動全体の調整役を果たすことのみならず、心の健康問題や学校環境の衛生管理など健康に関する現代的課題に対応し、学校が家庭・地域社会と一体となった取組を推進するための中心的存在としての新たな役割を果たすことが必要である。
 このため、保健主事の資質の一層の向上が不可欠であり、保健主事に対する研修の実施を推進するとともに、職務の重要性、複雑・困難性にかんがみ、保健主事について主任手当を制度的に支給できるようにする必要がある。

(3)養護教諭

(養護教諭の新たな役割)

 近年の心の健康問題等の深刻化に伴い、学校におけるカウンセリング等の機能の充実が求められるようになってきている。この中で、養護教諭は、児童生徒の身体的不調の背景に、いじめなどの心の健康問題がかかわっていること等のサインにいち早く気付くことのできる立場にあり、養護教諭のヘルスカウンセリング(健康相談活動)が一層重要な役割を持ってきている。養護教諭の行うヘルスカウンセリングは、養護教諭の職務の特質や保健室の機能を十分に生かし、児童生徒の様々な訴えに対して、常に心的な要因や背景を念頭に置いて、心身の観察、問題の背景の分析、解決のための支援、関係者との連携など、心や体の両面への対応を行う健康相談活動である。
 これらの心の健康問題等への対応については、「心身の健康に問題を持つ児童生徒の個別の指導」及び「健康な児童生徒の健康増進」という観点からの対応が必要であるが、過去においては必ずしもこれらの問題が顕在化していなかったことから、これらの職務を実施できる資質を十分に念頭に置いた養成及び研修は行われていなかった。
 もとより心の健康問題等への対応は、養護教諭のみではなく、生徒指導の観点から教諭も担当するものであるが、養護教諭については、健康に関する現代的課題など近年の問題状況の変化に伴い、健康診断、保健指導、救急処置などの従来の職務に加えて、専門性と保健室の機能を最大限に生かして、心の健康問題にも対応した健康の保持増進を実践できる資質の向上を図る必要がある。

(求められる資質)

 このような養護教諭の資質としては、保健室を訪れた児童生徒に接した時に必要な「心の健康問題と身体症状」に関する知識理解、これらの観察の仕方や受け止め方等についての確かな判断力と対応力(カウンセリング能力)、健康に関する現代的課題の解決のために個人又は集団の児童生徒の情報を収集し、健康課題をとらえる力量や解決のための指導力が必要である。その際、これらの養護教諭の資質については、いじめなどの心の健康問題等への対応の観点から、かなりの専門的な知識・技能が等しく求められることに留意すべきである。さらに、平成7年度に保健主事登用の途を開く制度改正が行われたこと等に伴い、企画力、実行力、調整能力などを身に付けることが望まれる。

(資質の向上方策等)

 このような養護教諭の資質の向上を図るため、養成課程及び現職研修を含めた一貫した資質の向上方策を検討していく必要があるが、養成課程については、養護教諭の役割の拡大に伴う資質を担保するため、養護教諭の専門性を生かしたカウンセリング能力の向上を図る内容などについて、質・量ともに抜本的に充実することを検討する必要がある。
 現職研修のうち、採用時の研修については、既に平成9年度より日数を大幅に拡充し、また、経験者研修についても新たに実施されたところであるが、今後は、情報処理能力の育成も含め研修内容の充実に努めるとともに、とりわけ経験者研修について、担当教諭とティームを組んだ教科指導や保健指導に関する実践的な指導力の向上、企画力・カウンセリング能力の向上などに関する内容を取り入れることを含め、格段の充実を図る必要がある。
 同時に、養護教諭が新たな役割を担うことに伴い、従来の職務はもとより、新たな心身の健康問題にも適切に対応できるよう、養護教諭の複数配置について一層の促進を図ることが必要である。

(4)学校栄養職員

(学校栄養職員の新たな役割)

 食の問題は、本来それぞれの家庭の価値観やライフスタイルに基づいて行われるものであり、基本的には個人や家庭にゆだねられるべき問題である。ただし、学校給食の今日的意義、さらには家庭の教育力の低下を勘案すると、学校においても、食の自己管理能力や食生活における衛生管理にも配慮した食に関する基本的な生活習慣の習得などに十分配慮する必要がある。その際、健康教育の一環として、教科等や学校給食における取組とともに、食の問題の悩みを抱えた児童生徒にきめ細かい個別指導を行うことも必要である。さらに、保護者からの児童生徒の食に関する相談のアドバイスや、児童生徒を介した家庭への情報提供も重要である。この中で、学校栄養職員は、食に関する専門家として、このような学校における食に関する指導に専門性を発揮することが期待されている。
 近年における食の問題とそれに伴う児童生徒の健康問題の深刻化に伴い、これら健康教育の一環としての食に関する指導の場面が従来以上に増加し、学校栄養職員には本来職務に付加してその対応が求められている。
 このため、学校栄養職員について、栄養管理や衛生管理などの職務はもとより、担任教諭等の行う教科指導や給食指導に専門的立場から協力して、児童生徒に対して集団又は個別の指導を行うことのできるよう、これらの職務を実践できる資質の向上を図る必要がある。

(求められる資質)

 学校栄養職員は、食に関する専門家として栄養士の免許を有し、栄養学等の専門に関する知識や技術は確保されてはいるものの、近年充実が求められている食に関する指導を児童生徒に行うために必要な専門性は、制度的に担保されていない。したがって、今後求められる学校栄養職員の資質としては、児童生徒の成長発達、特に日常生活の行動についての理解、教育の意義や今日的な課題に関する理解、児童生徒の心理を理解しつつ教育的配慮を持った接し方、などである。

(資質の向上方策等)

 このような学校栄養職員の役割の拡大に伴い、食に関する指導等を行うのに必要な資質を担保するため、新たな免許制度の導入を含め、学校栄養職員の資質向上策を検討する必要がある。なお、各学校において、学校栄養職員が、健康教育の一環として、専門的立場から担任教諭等の行う教科指導や給食指導に協力して、児童生徒に対して集団又は個別の指導を効果的に行うことができるようにするため、最終的には、各学校で効果的な指導が可能となるような学校栄養職員の配置の改善が必要である。
 また、現職研修のうち、採用時の研修については、既に平成9年度より日数が大幅に拡充され、経験者研修についても新たに実施されたところであるが、今後は、担当教諭とティームを組んだ教科指導や給食指導に関する実践的な指導力の向上も含め、研修内容の充実に努めるとともに、とりわけ経験者研修について格段の充実を図る必要がある。

(5)学校医、学校歯科医、学校薬剤師等

 学校医、学校歯科医、学校薬剤師等については、各学校の実態を踏まえ、学校の教育活動に積極的に参画し、必要に応じて、特別非常勤講師制度を活用するなどして学習指導等への協力を行ったり、教職員の研修に積極的に取り組むなど、その専門性を一層発揮できるよう配慮すべきである。また、臨床心理の専門家であるスクールカウンセラーは、児童生徒に対する相談のみならず、教員に対する助言を行うなど、学校における健康教育を進める上で重要な役割を果たしているので、心身両面から児童生徒にかかわる養護教諭や学校医等と適切に連携を図っていくことが重要である。スクールカウンセラーについては、現在、校内における適切な位置付けを工夫しつつ、養護教諭を含む教職員との間の役割分担の在り方も含めて調査研究が行われているところであり、今後一層の研究を進めていく必要がある。
 これらの職員と連携や協力を深めるためには、校長の理解が求められることは言うまでもない。

5 施設設備

(1)学校体育施設

 学校体育施設については、「トレーニングルーム」や心拍数を手軽に測定できる設備などを設置して、運動の場の確保と健康・体力つくりに自ら積極的に取り組むようにするなど、現代の体育におけるニーズの変化を踏まえて整備を図るとともに、特に利用面については社会体育施設との連携も深めながら、総合的な活用システムを構築することが求められる。
 また、学校の平日の就業時間後や週末の利用を促進するためには、照明や水泳プールの温水化など施設面の整備とともに、管理運営を民間に委託することも考慮すべきである。

(2)保健室

 いじめ、保健室登校等心身の健康問題で悩む児童生徒へのカウンセリングの実施など、保健室の役割の変化に対応する観点から、保健室の機能を見直す必要がある。まず、心の健康問題を抱える児童生徒に対して、プライバシーを保持しつつ健康相談活動ができる相談室を、保健室に整備することが重要である。また、健康教育に関する資料や教材を集積し、健康情報センターとしての機能を担っていく観点から、例えば、保健室にパソコンを設置して、外部の関係諸機関から先進的な医学的知識、健康問題の現況、適切な処置対応及び指導法などをタイムリーに収集し、活用できるようにすることも必要である。

(3)学校給食施設設備

 腸管出血性大腸菌O157のような感染症型の食中毒の防止にも万全を期する必要があり、衛生管理に配慮した施設設備の整備が求められる。このため、二次汚染の防止と適切な温度管理が重要である。二次汚染の防止については、床を乾いた状態で使用するドライシステム方式の調理施設の普及を図るとともに、汚染作業区域と非汚染作業区域が明確に区分されるなどの必要がある。適切な温度管理については、加熱調理等が確実に行われるよう必要な機器の整備、共同調理場にあっては適切な時間に適切な温度で配送できるようにする必要がある。
 また、食事の楽しい雰囲気の醸成、異学年や複数学級による会食を通じての人間関係の育成の観点から、食堂・ランチルームの整備など食事環境の改善を学校の実情に応じて推進する必要がある。

6 大学における体育・スポーツ等

 大学における体育・スポーツは、生涯にわたるスポーツ習慣を形成・定着させる視点に立ってスポーツの意義や価値を体感する経験を豊かに積ませることのみならず、スポーツの科学的な研究や理論の構築と普及にも多大の成果をあげてきている。また生涯スポーツ・競技スポーツにおいて指導的役割を果たす専門的人材を育成するなど、広く国民スポーツの質的充実に貢献している。また、国際競技力やプロスポーツへの貢献も見逃すことができないなど、大学における体育・スポーツは、我が国の体育・スポーツの振興に重要な役割を果たしてきている。
 このように多大の貢献をみせている大学体育・スポーツは、高等教育の「大衆化」やスポーツに対する国民のニーズの高まり、生涯学習社会の進展、スポーツ科学・健康科学の発展等の社会変化に対応する上からも、21世紀においても一層充実される必要度の高いものである。各大学においては、自らの教育理念・目的を明らかにし、より魅力ある大学とはどのようなものかという視点で、大学体育・スポーツの取組について多様な創意工夫を行うことが一層重要になっていくものと思われる。
 なお、大学においては、近年の学生の多様化や学生を取り巻く環境の変化に対応し、学生相談体制の充実等、学生の健康管理の一層の充実が望まれる。

(1)大学における体育

(大学体育の基本的方向)

 大学設置基準の改正など一連の大学改革の流れの中で、各大学においては、真の大学教育の目指す人間教育、人間発達、人間形成とは何か、大学教育を受けた人間の教養ある姿とはいかなるものかを深く、かつ広く考え、それに対応する体育授業の創意工夫を積み重ねる必要が、従前以上に生じてきている。

(大学体育の基本的目標)

 その際、学生の心身の調和的発達を促し、心身の不調に対応できる体力の養成を図ること、健康やスポーツに関する科学的理論に裏付けられた運動実践を行えるようにすること、さらにスポーツの文化的価値(教養としてのスポーツ、文化としてのスポーツ)についての理解を図ることを通じて、スポーツがその学生にとって生涯にわたって心身ともに豊かな生活を送るための糧となるよう、学生の体系的認識や実践力を育てることが大切である。

(2)大学におけるスポーツ

(大学スポーツの活性化)

 大学スポーツは、体育授業のほか、課外活動の一環として展開されている運動部活動や同好会・サークル活動という学生スポーツクラブによって担われている。これらは、学生のスポーツニーズにこたえるとともに、自律心の涵養、仲間との交流の促進、クラブの運営能力の向上等の教育効果をもたらすものである。また、生涯スポーツの一実践者から初等中等教育の教員や社会体育・スポーツの指導者になる者に至るまで、将来の我が国の体育・スポーツを様々な形で支え、発展させる人材や能力を育てることが期待されている。
 各大学においては、魅力ある大学を実現する観点に立って、これらの大学スポーツの活性化を図る必要がある。
 このため今後、大学スポーツとしての組織的な振興を図るとともに、各大学内においても、競技横断的なスポーツ支援組織を設けるなど、大学スポーツの活性化のために積極的に取り組む必要がある。また、我が国のスポーツ医・科学の成果を、競技水準の相当高い選手が比較的集まる大学スポーツにおいて反映させていくことも重要である。さらに、スポーツ部門における寄付講座を設けたり、企業との共同研究などスポーツにおける産学協同を積極的に推進する必要がある。
 なお、大学におけるスポーツ活動、特に運動部活動について、一部に、その活動が経験主義や精神主義に陥りがちであったり、部の運営が旧態依然としているとの指摘がある。このような実態については、科学的・合理的なトレーニングや部の運営の現代化に向けた改善が必要である。
 また、同好会・サークル活動については、各大学において、スポーツの多様化現象の一つとしてとらえ、指導者、施設、運営に関して情報提供や相談に応じて一層の活性化を図ることが望まれる。

(3)スポーツ振興における大学の貢献

(基本的認識)

 大学体育・スポーツは、本来的には、当該大学に属する学生を対象としての教育であるが、魅力ある大学として評価されるためには、スポーツの分野における多様な社会貢献が、大きく期待される。とりわけ、体育系大学等については、このような期待が大きい。

(生涯スポーツ分野での貢献)

 生涯スポーツの分野においては、「開かれた大学」の理念に立って、公開講座や講習会の開催等地域のスポーツクラブや一般住民への貢献が大きく期待されている。とりわけ、理論的、実践的な力量を有している体育科教員の貢献、スポーツクラブ員によるスポーツボランティア活動等が、このような面で望まれるところである。さらには、各大学の状況によっては、大学施設を基盤とする学生と住民とからなる新しいタイプの「総合型スポーツクラブ」などの構想も考えられる。
 また、大学等のスポーツ指導者養成を行う機関においては、今後、学校体育の教員のみならず、生涯スポーツの指導者の養成面でも貢献していくことが期待されている。このため生涯スポーツ指導者養成に、より重点を置く教育研究体制の整備が望まれており、その養成に当たっては、十分な人間性の涵養、各ライフステージの特性の理解と適切な対応能力、施設の管理運営能力等を養うための教育内容の充実が望まれる。

(競技スポーツ分野での貢献)

 体育系の大学等には、トップレベルの競技者が多く所属しているだけでなく、指導者や施設も充実しており、我が国の国際競技力向上を図る上で大きな役割を果たしている。しかしながら、ナショナルレベルの選手や指導者について、大学スポーツレベルでの活躍が重視される余りナショナルチームとしての活動が必ずしも十分に行えないという指摘や、大学の教員の評価に当たって、優秀な選手を育成したことの評価が指導業績として適切に理解されていないとの指摘がある。
 体育系の大学等においては、スポーツ界全体の中での責任も十分に認識し、トップレベルの選手や指導者が社会活動をしやすい環境を整えていくよう努めるとともに、ナショナルレベルの社会活動について、適切に評価していくことが望まれる。
 また、トップレベルの重要な育成拠点の一つであることを認識し、国際競技力の向上について、学部、大学院を通じてより積極的に取り組んでいく必要がある。
 具体的には、例えば、大学ごとにある程度競技種目を重点化し、優秀な指導者と選手の集中化を図ることや、優秀な選手を推薦入学で受け入れる場合、高校時代における競技成績だけを重視するのではなく、将来性などについても重視して選考を行うといったことなどが考えられる。

(4)大学における健康管理

 生涯にわたって自らの健康問題を主体的に解決していくためには、大学においても、健康に関する教育を充実するとともに、学生の健康管理の充実を図っていくことが必要である。とりわけ、健康管理面では、学生の心身の健康の保持増進を図ることを目的とする保健管理センター等の整備・充実を更に促進するとともに、教職員に対して心の健康問題などに関する意識を啓発することなど、大学の健康管理体制の充実を図ることが重要である。

4.家庭におけるスポーツ及び健康学習の推奨

1 家庭に望まれること

(家庭の役割)

 家庭は、家族の憩いの場であるとともに、子どもの発達にとって基盤となる場である。
 特に、心身の健康に関しては、子どもに運動や健康の価値を認識させ、運動や健康に関する基本的な生活習慣や人間形成の基礎を培うなど、体育・健康教育を含め生涯発達の出発点である。さらに、児童生徒等が学校や地域で学習した知識・理解を基に、親子の触れ合いや生活体験、スポーツ活動等を通して、思考力・判断力を更に深め、基本的な生活習慣や運動・スポーツに親しむ習慣を身に付けさせる役割を担っている。
 とりわけ食事、睡眠あるいは手洗いなどの保健・衛生などについての生活習慣の形成、家族の触れ合いを高めるような親子、家族でのスポーツの実践、自然体験、ボランティア体験の活動を通じて、心身の健康と運動・スポーツや環境との関係について学び、生涯にわたる望ましい運動・スポーツ習慣の基礎を作ることについて、家庭が果たす役割は極めて大きい。さらに、偏った栄養摂取によるカルシウム不足、肥満等、食に関する健康問題の増加を踏まえると、バランスのとれた食生活を送ることなど心身の健康の保持増進について、家庭での積極的取組が期待される。

(家庭に望まれること)

 しかしながら、少子化、核家族化、共働き家庭の増加などにより、家庭において、子どもたちの健やかな成長に必要な様々な触れ合いや活動、あるいは体験や学習などの機会や時間を設けていくことは、保護者の意図的な努力なくしては、次第に困難になっている。子どもの心身の発達に対する責任を自覚するとともに、家庭が果たすべきスポーツ・健康教育での役割を改めて認識し、子どもたちの視点に立って親としてその責任を十分発揮することが望まれる。
 同時に、親自身が自らのライフステージに応じて、運動・スポーツや健康に関する理解を深めるとともに、規則的に運動・スポーツに親しむことが重要であり、そのことが、親から子どもに対し運動・スポーツの楽しさを伝承するとともに、親として子どもに対するスポーツ・健康教育に積極的に取り組むことにつながるものと考える。

2 家庭におけるスポーツの実践と健康学習

(家庭への学習機会の提供)

 子どもたちの望ましい運動・スポーツ習慣や食習慣の形成、喫煙、飲酒、性の逸脱行動、薬物乱用の防止などは、家庭の在り方に大いにかかわる課題であり、また、家庭の積極的な取組なしには、決して解決できない課題である。したがって、子どもたちの成長のそれぞれの段階に応じたスポーツ活動や健康課題について、保護者に配慮を一層促すことが必要である。また、子どもの健康に関する学習をはじめとした親自身の生涯学習への取組を支援することにより、家庭の構成員全員の健康に対する認識が高まり、明るく活力ある健康的な家庭の実現につながるものと考えられる。
 家庭における教育は本来すべて家庭の責任にゆだねられているので、行政としては、家庭における取組を支援していく観点から、子どもたちの心身の健康の保持増進や運動・スポーツの必要性に関して家庭への普及啓発、学習機会提供の充実に努めることが重要である。例えば、教育委員会において、保健所や地域保健の中核となる市町村保健センターなどの関係機関と連携をとりながら、子どものいる家庭に対して健康に関する情報を提供することが考えられる。また、子どもたちの体力の低下や自然体験・社会体験の不足が特に指摘されており、家族や仲間と触れ合える親しみやすいスポーツ教室や自然体験教室など、スポーツの動機付けになる機会の充実を図ることも大切である。
 なお、薬物乱用については、青少年の薬物乱用事犯の急激な増加や低年齢化が大きな問題となっており、早急な取組が求められているが、薬物乱用の防止に果たす家庭の役割・責任は大きいものと考える。また、性の逸脱行動についても、援助交際という性の商品化の問題が深刻化しており、家庭において、健全な異性観や人間の性の正しい理解について日ごろの親子関係の中で培っていくことが、性の逸脱行動の防止につながるものと考えられる。このため、行政においては、薬物乱用の防止や性に関する指導に関して、保護者に普及啓発を図るなど、家庭に対して効果的に情報発信する方策や、家庭も含めて地域一体となった薬物乱用防止活動等の充実を図るための取組を検討する必要がある。

(市町村教育委員会の連絡調整機能の充実)

 運動・スポーツ実践や健康学習の機会提供に当たっては、家庭に最も身近な位置にあり、地域に関する教育行政に直接の責任を負う市町村教育委員会の役割が重要になる。
 この場合、家庭への地域スポーツ活動や健康学習に関する情報提供やアドバイスを適切に行えるよう、子どもの発育・発達についての知識を有する地域の指導者を配置したり、地域保健の中核となる市町村保健センターなど市町村長部局との密接な連携体制の整備など、家庭において運動・スポーツや健康学習に関する幅広い連絡・調整・企画機能を一層充実するよう配慮する必要がある。
 一方、市町村教育委員会が地域の実情を踏まえた施策を展開するに当たっては、国、都道府県の支援が重要であるので、国、都道府県においては、地域の特色を生かすことのできる支援方策について検討すべきである。

5.地域社会におけるスポーツ及び健康学習の充実

1 地域社会に望まれること

(地域社会の役割)

 地域社会は、行政区画や経済活動圏、通勤通学圏とは必ずしも一致するものではなく、住民にとって身近な日常生活の場を基礎としつつ、多様なスポーツ活動や学習活動を展開する具体的な活動の場ととらえることができる。この地域社会は、住民が温かい心の触れ合いを通じて、豊かな人間性を回復し、生きがいのある生活を営んでいくことができる場であり、このような場は、住民一人一人の相互扶助と協力の下につくり上げられてきたものである。
 地域社会における住民の活動は、自発的、主体的に展開されることに特徴があり、こうした活動を通じ、住民は様々な人と出会い、交流し、生活体験、社会体験、自然体験を重ねて、豊かな人間として成長していく。また、相互の連帯感を高め、地域社会の形成者の一人となっていく。子どもたちにあっても地域社会における体験が、学校や家庭における教育や学習の成果を深め、根付かせることになるとともに、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動できる資質や能力を身に付けていくための基礎ともなる。
 このように地域社会は、様々な活動を通じて、[生きる力]を深めたり、高めたりする役割を担っているとともに、学校及び家庭と連携することにより、その活動を一層効果的に推進するという関係にある。
 また、地域社会においてライフステージに応じたスポーツ活動や健康学習のための環境づくりが推進されることで、生涯にわたってスポーツに親しみ、健康の保持増進活動が実践されるようにする役割の一端を担っている。

(地域社会に望まれること)

 地域社会では、住民が自らの興味や関心、考えに基づき、できるだけ活発にスポーツや健康の保持増進活動を展開していくことが期待される。また今日、地域連帯感の希薄化などにより地域社会の教育力が低下していると言われることや、地域社会の日常生活の中で体を動かす機会や場が減少していることを踏まえると、様々なスポーツ活動や健康の保持増進活動に取り組むことで、地域の教育力を高めるとともに地域住民の新たな連帯感を醸成することが期待される。
 そのために、地域住民の発意を生かし、多様な活動を展開できる組織づくりが求められるとともに、行政も、住民の自主的、主体的取組が促がされるよう、指導者の養成・確保、施設の整備、活動の機会や場の提供、情報の提供、相談活動など地域住民の主体的取組では限界のあるサービスの提供を中心に支援していくべきである。

2 地域のスポーツ環境づくり

[1]市町村における指導者、施設、機会の充実等

 地域住民が主体的にスポーツに親しめる地域のスポーツ環境づくりの今後の方向としては、学校体育施設や公共スポーツ施設等を中心に、身近にスポーツ活動に親しめる「活動の場」の整備・充実を図るとともに、適切な指導者を確保しつつ、継続的にスポーツ活動に親しめる受け皿としてのスポーツクラブづくりを進めていく必要がある。
 このためには、市町村(区を含む。以下同じ。)が、それぞれの地域の実情を踏まえながら、別表1・2で示した「豊かなスポーツライフの指針(参考案)」及び「体力つくりのための運動指針(参考案)」を参考に、地域住民一人一人が生涯の各ライフステージにおいて、日常的にスポーツ活動に取り組むことのできるスポーツ環境を計画的・体系的に整備していくことが必要である。

(スポーツ施設の質的充実と住民の視点に立った運営)

 地域住民の日常スポーツ活動の場であるスポーツ施設は、地域スポーツ振興を図る上で基礎的な条件となるものであり、今後、住民のスポーツニーズの多様化や高度化への対応はもとより、子どもや高齢者、障害のある人などの特性に配慮し、地域住民の視点に立った魅力的な施設づくりが一層望まれる。

〇 体育館等のスポーツ施設においては、クラブハウス、健康チェック、スポーツ相談などの多目的な機能を有するとともに、親子が触れ合うことのできる幼児体育室、託児施設(ベビーシッターを含む)等の整備を図る。また、幼児から高齢者、障害のある人の利用や学校での利用を含め、年間を通じて計画的・効率的に利用できる室内プール(幼児用プールの併設)の整備を促進する。

〇 高齢者・障害のある人に対しては、スポーツ参加を促進するため、バリアフリー化を推進するとともに、仲間と様々な交流の持てる最も身近なスポーツ・レクリエーションの場を整備・充実する。

〇 気軽にスポーツや各種活動に親しめるよう、スポーツ施設と文化施設等との複合化などの利便性を図る。

○ 市町村の実情に応じて、各市町村ごとに設置することが困難であったり、その必要性の小さい施設については、複数の市町村が広域的に連携して整備・運営することが望まれる。

〇 地域の有する自然や地形などを利用し、自然環境や安全面などに配慮しつつ、アウトドアスポーツ、マリンスポーツ等の野外活動の場を整備する必要がある。特に子どもたちの自然体験ができるように配慮する。
 また、スポーツ施設の管理・運営においては、適宜、利用者の声が適切に反映されるよう運営委員会への参画などシステム化を図っていくとともに、利用者の立場に立って、利用しやすい、親しみやすい施設となるよう、早朝夜間の利用も含めた利用時間の拡大、利用手続きの簡素化、適正な利用料金の設定や減免などに配慮する必要がある。

(学校体育施設の共同利用化)

 今日、生涯学習社会が進展する中で、学校・家庭・地域の一層の連携・協力が求められており、地域に根ざした「開かれた学校」づくりを推進することが重要である。また、学校体育施設は、地域住民にとって最も身近に利用できるスポーツ施設であり、地域住民共通のコミュニティスポーツの拠点となることが期待されている。
 学校体育施設については、逐次、地域住民への開放の促進が図られているが、利用実態を見ると、まだまだ定期的な利用に供する割合は少なく、また、開放はされているものの、利用に際しての手続きの煩雑さや、利用できる施設・時間帯の情報不足等がうかがえ、地域住民のニーズに十分対応し切れていない点が多い。
 このため、今後、学校体育施設については、これまでの単に地域住民へ場を提供するという「開放型」から、学校と地域社会の「共同利用型」へと移行し、地域住民の立場に立った積極的な利用の促進を図ることが必要である。このため、ハード面とソフト面を一体的・有機的に整備充実することにより、地域住民のスポーツ・学習の拠点のみならず、いわゆる社交の場としての機能を発揮できるようにする事業として、新たに、「地域スポーツ交流事業(仮称)」を推進していくことが必要である。この事業においては、教育委員会の管理責任の下に、地域住民が主体となって学校体育施設の管理・運営を行っていく組織が置かれるとともに、この組織を中心に、学校教育活動との十分な調整を図りながら、子どもたちの自由な遊び場として、また、個人、団体を問わず利用できるほか、専門的指導者による初心者のためのスポーツ教室や各種開放講座等の開催、スポーツ相談、各種情報提供等の住民サービスに向けた取組が行われる。
 このためには、年間を通じて定期的、計画的な利用(長期休業中の期間や土・日及び平日の放課後から夜間)ができ、かつ、スポーツ指導者資格を有する指導者等による指導体制や地域住民の利用に配慮した施設設備を備えていく必要がある。

〇 施設整備については、クラブハウス、夜間照明、屋内プールなどを整備したり、高齢者や障害のある人などの特性にも配慮すること等が望まれる。また、児童生徒数の減少により利用されていない教室をトレーニング室、クラブハウス、スポーツ情報室、スポーツ相談室等として利用することも考えられる。

〇 更に、利用促進のためには、利用できる施設や時間帯、手続方法などについて地域住民への情報提供サービスを進めるとともに、利用手続き等についても簡素化を図ることが求められる。

〇 また、上記取組を進めるためには、地域住民と市町村、学校、地域関係者が連携協力したボランティア組織(例えば、地域運営委員会、学校管理運営センター等)を設置し、貸出手続きから情報提供までの総合的な利用業務を行うことが大きな意義を有するものと考えられる。
 なお、現行の学校体育施設開放においても、地域の実情を踏まえ、上記のような施設整備・利用促進の手続き等の取組が望まれる。

(スポーツ指導者の確保と効果的な活用)

 地域のスポーツ施設における指導者の配置が不十分であり、地域住民がスポーツ施設を有効に利用する上で支障になっていることにかんがみ、市町村の主要公共スポーツ施設に、スポーツ・レクリエーション活動の指導者資格を有する人間性豊かな指導者の配置を促進する必要がある。
 また、地域住民が豊かなスポーツライフを実現していく上では、各ライフステージの特性を踏まえた指導のできる指導者の確保が必要となる。
 このため、各市町村において、スポーツ指導者養成を行う体育系の大学等の卒業生や、スポーツ指導者の資格を有する者など指導力のある人材を、地方公共団体又は各地方公共団体の公益法人の職員(非常勤職員又は委託等を含む)として確保し、「地域スポーツ交流事業(仮称)」の指導者、運動部活動の外部指導者や地域のスポーツクラブの指導者等として、住民のニーズに応じて派遣したり巡回することのできる指導者の活用システムを新たに設ける必要がある。
 また、生涯スポーツ行政を推進する観点からは、行政担当者には、地域スポーツ振興の企画・立案を行える専門的な知識や経験を有する者が望まれるとともに、自主的に社会教育主事(スポーツ担当)の配置を促進することが必要である。
 更に、各市町村に配置され、地域スポーツ振興の推進者、コーディネーターとして欠かすことのできない重要な役割を果たしている体育指導委員については、一層の資質の向上を図る観点からスポーツ指導者資格を有する者を優先的に任命するとともに、女性のスポーツ参加を促進する観点から女性の登用の促進を図ることが望まれる。

(スポーツ参加の促進)

 地域住民のスポーツ参加を促進していくためには、各ライフステージの特性を踏まえた各種事業の展開が必要となる。とりわけ、児童生徒にあっては、家族や親しい仲間、世代間を超えた異年齢集団や異文化との交流を幅広く行うことが[生きる力]を高めることにつながることから、様々なスポーツ体験や自然体験の機会の提供が望まれる。
 また、乳幼児を持つ保護者やスポーツ未経験者、体力に不安を有する高齢者に対しては、運動・スポーツに親しむための適切なアドバイスの提供が求められており、スポーツプログラマー、スポーツドクター、レクリエーションに関する指導者等を中心とした各種スポーツ相談指導体制の整備を図る必要がある。
 更に、各種大会等の開催に当たって、障害のある人も参加できるよう大会の企画・運営について、種目の設定、競技方法等の工夫、配慮が望まれる。その際、例えば、スポーツ種目については、各スポーツ団体の定める規則を踏まえつつ、障害のある人と障害のない人が共に身近にスポーツに親しめるよう、参加者の障害の種類、程度等に合わせて様々な工夫を行うことが必要である。また、障害のある人の日常のスポーツ活動やスポーツ大会の運営に当たっては、ボランティアの協力が不可欠であり、今後、関係団体等との十分な連携・協力を図っていく必要がある。
 なお、地域のスポーツに関する施設、大会、行事、指導者に関する情報を地域住民が容易に入手できるよう、コンピュータやインターネット、広報誌等の媒体を活用した情報提供に努めるとともに、利用できる施設や時間帯、手続など公共スポーツ施設(学校体育施設等を含む)の利用サービスの向上充実を図る必要がある。とりわけ、施設利用手続等の簡素・利便化を図るため、各家庭やスポーツ団体等からパソコンを利用したオンライン予約システムの導入などを積極的に推進する必要がある。

(スポーツクラブ育成への支援)

 スポーツクラブは、スポーツを愛好する人々の自発的・自主的な団体であり、規約など一定の規範の下にスポーツ活動を行うとともに、会員相互の親睦を深める社交団体であって、仲間、施設、活動プログラム、指導者などが結合して定期的・継続的に活動し、自分たちの責任と負担において運営されるものである。地域住民がこのようなスポーツクラブに気軽に入会し、継続的に日常生活の中で様々なスポーツ活動に親しみ、真に豊かなスポーツライフを実現していくことが重要であり、今後、特に総合型地域スポーツクラブの育成・定着に向けた一層の支援を図る必要がある。
 そのためには、今後、公共スポーツ施設等をスポーツクラブの活動拠点として継続的、安定的に使用できるよう、その管理・運営を包括的に委託する公設民営方式等も含め、管理・運営の方途を検討する必要がある。
 また、スポーツクラブの運営に関しては、例えば、児童生徒から高齢者・障害のある人はもとより、地域住民だれもが入会することができ、スポーツ・レクリエーション活動を楽しむことができるようにし、高齢者や障害のある人等を含む多様な地域の人々の参加の促進・交流が図られ、クラブ員一人一人が自己のスポーツライフを楽しむとともに、クラブ仲間との友好的な関係が促進されることが望まれる。

[2]国、都道府県、民間の支援

(1)国(文部省)

 国は、全国的な観点に立って、スポーツ施設の整備、指導者の養成・確保、スポーツ団体の育成、先導的な事業の実施等の基盤整備を行いつつ、地方や民間の活動を支援・促進し、生涯スポーツの一層の推進を図る必要がある。

〇 スポーツ施設の整備については、利用者の利用促進の観点を重視し、スポーツ施設の質的充実とその活用促進に配慮した管理運営がなされるよう地方公共団体を指導するとともに、市町村の施設整備や学校施設の利用促進を図るためのクラブハウス、夜間照明等への助成も含め必要な支援措置を講ずる。とりわけ、学校体育施設は地域住民の最も身近に利用できるスポーツ施設として、スポーツクラブや地域住民共通のコミュニティの拠点となることが求められており、先に述べた地域スポーツ交流事業(仮称)の促進に向け、積極的に支援していく必要がある。
 また、企業、個人所有の遊休地等の利用促進を図るため、税制上の優遇措置等について検討する必要がある。

〇 現行の社会体育指導者の知識・技能審査事業の認定制度については、講習内容の改善充実や、新たに野外活動に関する指導者、スポーツ科学の見地から心身のコンディショニング等を専門に行うアスレチックトレーナー等の養成及びスポーツ施設の管理運営やスポーツクラブ組織の管理運営に関する分野についても検討が求められていることから、既存の指導者との役割も踏まえ見直す必要がある。
 また、地方公共団体やスポーツ団体等の行う各種指導者の養成や研修に対する支援の充実を図るべきである。

〇 総合型地域スポーツクラブの育成を支援するとともに、事例集の作成等により、クラブづくりの普及・定着を図る必要がある。また、野外活動プログラムの研究・開発や高齢者、女性、障害のある人等の各ライフステージに応じたスポーツ参加の推進のための調査研究を推進するとともに、生涯スポーツの重要性を広くアピールし、国民の生涯スポーツ参加への動機付けとなるよう政府広報の活用、生涯スポーツ関係リーフレットの作成・頒布等各種のキャンペーンを展開する。

〇 生涯スポーツ団体の育成・支援や団体相互の連携協力を促進するとともに、民間スポーツ施設に対しては、関係省庁との連携・協力を図りつつ、税制上の優遇措置や施設の整備・改善時における公的資金の低利融資などについて検討する必要がある。

(2)都道府県

 都道府県は、広く都道府県民の自主的・自発的な取組を奨励するとともに、市町村では対応し得ないスポーツ環境の整備を補完・補充する立場から、市町村を指導・助言・援助していく必要がある。

〇 スポーツ施設の整備に当たっては、市町村の施設整備の項で指摘した事項にも配慮しつつ、質的充実と活用に努めるとともに、指導者資格を有する者や適切な管理運営能力を有する者を配置すべきである。都道府県域におけるスポーツ施設の整備についても、スポーツ振興という観点から全体計画の企画立案をする必要がある。また、都道府県立の学校体育施設を地域住民のために開放し、利用を促進すべきである。

〇 市町村における社会教育主事(スポーツ担当)の配置を促進するため、都道府県においては、地方交付税を十分に活用し、派遣社会教育主事に関する所要の財源措置を図り、市町村の生涯スポーツ行政の体制整備を支援していくことが望まれる。
 また、住民のニーズに対応できるようスポーツ指導者やスポーツドクター等の連携・協力を図る組織づくりを行うとともに、研修の機会の充実を図る必要がある。

〇 ニュースポーツを含め、各種スポーツ団体の育成や団体相互の連携・協力を促進するとともに、自主的・組織的な活動が継続的にできるよう支援の充実を図る必要がある。

(3)スポーツ団体

 スポーツ団体は、社会体育指導者の知識・技能審査事業の認定制度を活用し、人間性豊かな指導者の養成や、指導者の研修及び地方公共団体の行うスポーツ教室や研修等の各種事業への協力、スポーツ関係情報の提供サービスを充実することが期待される。
 また、関係機関との連携を図り、各ライフステージの特性に応じてスポーツに親しめるスポーツ・レクリエーションプログラム、野外活動プログラムの研究・開発やルール等の工夫を図る必要がある。
 特に、児童を対象としたスポーツ団体にあっては、シーズンに応じて複数のスポーツに親しむことができるよう活動内容の工夫や、ルールやゲームの形式をケース・バイ・ケースで工夫(ローカル・ルールの採用など)することも必要である。

(4)民間企業

 民間企業においては、従業員の福利厚生の観点から、従業員相互の交流が図れるクラブづくりや、各種スポーツに親しむ機会の充実を図る必要がある。一方、企業が福利厚生施設として所有するスポーツ施設については、地域のスポーツクラブや地域住民の身近なスポーツ施設としてその利用に積極的に供せられることが望まれる。
 その際の問題としては、施設設備の破損や事故等が生じた時の管理責任等が指摘されているが、例えば、地方公共団体がその責任の下において、地域住民の利用する期間又は時間帯に当該企業から施設を借り上げ、仮に問題が生じた場合にも責任等の一切を負うシステムを導入することが考えられるとともに、当該借上げ施設については、固定資産税等税制上の優遇措置を講ずる等により、地域内において企業等が施設を貸し出しやすい環境を整備することが望まれる。

(5)民間スポーツ施設

 民間スポーツ施設においては、それぞれの役割や特徴を生かした管理運営が望まれており、利用料金にも配慮しつつ、スポーツプログラマー等の有資格者を配置することにより利用者に対する良質なサービスの提供を図るとともに、民間スポーツ施設の有する特徴を生かして、大会等の実施に当たっては、地方公共団体との積極的な連携が望まれる。
 なお、国や地方公共団体においては、民間スポーツ施設の果たす意義にかんがみ、各種支援や税制上の優遇措置を積極的に検討していくことが望まれる。

3 地域社会における健康学習

(健康学習に関する地域社会)

 健康学習に関係する地域社会とは、具体的には、公民館などの社会教育施設、保健所・市町村保健センター、医療機関、福祉機関、警察などの関係機関や青少年団体、ボランティア団体、医師会、歯科医師会、薬剤師会などの地域関係団体、地域社会における人材等から成っている。
 健康に関する生涯学習は個人個人が自らの問題として主体的に取り組むことが基本であるので、地域社会における健康学習の推奨も、住民の主体性や自主性を尊重しながら進める必要がある。

(健康に関する学習機会の提供)

 健康に関する学習については、地域社会における生涯学習の中心的な場として活発な活動が展開されている公民館や生涯学習センターなどの社会教育施設における学級・講座はもとより、関係省庁や首長部局等においても、様々な学習機会の提供が行われている。教育委員会においては、教育委員会や他の行政部局で行われる各種の事業の実施について、学習者の立場にも立って、連携・調整を図ることが必要である。
 また、とりわけ市町村教育委員会においては、住民の求める健康に関する多様なニーズを常に的確に把握して、これに即応した学習機会の提供を企画するとともに、図書・メディアを活用した個人の自主的な学習活動に対しても、学習相談や情報提供の充実などの方策を通じて、積極的に支援することが望まれる。

(健康に関する情報提供の充実)

 これらの健康に関する学習の機会については、どのような活動がいつ、どこで行われているか等の情報が住民に提供されることが重要である。住民が様々な健康学習に参加しようとしても、そうした情報がなければ参加できない。また、住民の自主的な学習活動の支援のためには、住民の価値観、ライフスタイル及びニーズに応じて、多様な健康に関する情報の提供が望まれる。このため、市町村教育委員会が中心となって、地域社会における健康に関する各種の情報をデータベース化するとともに、関係機関や関係団体などとの情報通信ネットワークを形成し、住民に対して健康に関する情報を提供するサービス体制を整備することが求められる。
 その際、とりわけ、健康に関して専門的な情報を豊富に有している市町村の保健部局との緊密な連携が必要である。また、関係機関や関係団体の実施する個々の学習機会の場所や内容、プログラムなどに関する情報や専門的な健康情報にとどまらず、指導者など、地域社会における健康学習を支援する人材に関する情報を積極的に提供することが重要である。
 さらに、健康に関する情報を随時家庭に配布するほか、時間帯や場所等に関して住民による選択を可能にするよう配慮しつつ、健康に関する情報コーナーを開設することなど、きめ細かな情報提供サービスも望まれる。

(健康に関する学習プログラムの工夫)

 また、住民が、健康の保持増進に関する学習をライフステージに応じて進めることを可能にするためには、健康に関する学習プログラムを工夫していくことが必要であり、特に、市町村教育委員会においてノウハウを蓄え、自ら公民館などの関係機関を通じて実施することが望まれる。
 健康に関する学習プログラムの工夫に当たっては、例えば、子どもを持つ親、成人一般、高齢者、女性など、対象者に応じて学習内容を設定することが考えられる。また、その学習内容は、例えば、子どもを持つ親の場合は、子どものかかりやすい病気と予防、子どもの食生活、子どもの健康と親の役割などの学習内容が考えられる。また、老年期にある者の場合は、健康で生きがいのある暮らしを目標にした健康な心と体づくりに関する学習機会を、学習者同士の交流を通じて親睦を深めることにも配慮しながら提供することが考えられる。さらに、女性の場合は、安全な妊娠・出産について自己管理を行うことなどに関する学習機会を提供することも考えられる。

(市町村教育委員会による健康推進環境の整備と国等の支援)

 国民が、自ら健康の保持増進に必要な知識・技術や理解を深めるなどの学習の機会や場が、常に身近に得られることがますます必要となっており、このため、市町村教育委員会が中心となって、以上のように健康に関するきめの細かい学習機会の充実を図ることが必要である。同時に、国・都道府県教育委員会においては、健康学習機会の提供のモデル事業の実施や健康に関する学習プログラムの研究・開発など、市町村教育委員会に対する効果的な支援策を検討すべきである。

6 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」の設置

1 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」モデル事業

(地域社会・住民の自発的・主体的活動の推奨)

 生涯を通じたスポーツライフや心身の健康づくりは、本来、個人の自発性、主体性に基づき実施されるべきものであるが、住民の取組は、今日までのところ積極的とは言い難い。また、教育委員会などの行政機関も、自ら事業を主催したり、指導者を配置したりして、行政主導でスポーツ・健康づくりの活動を促しているが、これも住民のニーズに十分対応できていないことなどから、地域におけるスポーツ活動や健康づくりは、必ずしも活発とは言えない状況にある。
 このような状況を改善し、将来において、親子が地域で一緒にスポーツ活動をしたり、楽しんだりするなど、心身ともに健康的な社会を実現していくためには、地域住民の自発性や主体性に基づいて地域におけるスポーツ活動や健康づくりが推進され、定着するとともに、行政も、指導者の養成、施設の整備、情報の提供、相談活動の充実など住民やスポーツ団体等の取組では限界がある事業を中心に取り組み、住民の主体的活動を促すことが重要である。
 このために当面必要なことの一つは、学校・家庭・地域社会・企業が相互に連携して、地域主導で総合的な企画や運営を行い、スポーツ活動や健康教育の推進など心身の健康づくりを行う組織づくりを促すことであると考えた。

(「スポーツ・健康推進会議(仮称)」のモデル事業)

 この組織は、おおむね中学校区程度の範囲において、地域一体となってスポーツや健康教育に関する活動に取り組む包括的な組織として設置することを提言したい。ここでは、この組織を仮に「スポーツ・健康推進会議」と呼ぶこととする。
 その組織は、地域住民主導により作られ、主体的に活動が展開されることが望ましい。
 もっとも、住民が自らこのような組織を立ち上げ、円滑に運営されるようになるまで、当面は市町村教育委員会が積極的に提唱し、地方体育協会や地方レクリエーション協会など関係団体の支援も受けながら住民が組織を立ち上げ、展開する必要があるだろう。
 そのために全国的にモデル事業を展開し、広く組織が定着していくようにする必要がある。

(「スポーツ・健康推進会議(仮称)」と各種組織との連携)

 もちろん「スポーツ・健康推進会議(仮称)」による様々な活動を円滑に進めるためには、これまで地域スポーツなどの主体となっていた地方公共団体、各種関係団体、保健・医療・福祉機関等の機能、実績やノウハウを生かせるよう、こうした各種組織の代表者を加えるなど、これらとの連携協力体制を整えることが大切である。

(「スポーツ・健康推進会議(仮称)」の組織)

 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」は、企画や意志決定を行う会議体であるとともに、事業を運営する機能も担うことから、責任の明確化を図りつつ、各種団体の協力や行政や企業からの支援を得たり、ボランティアを活用して様々な事業に取り組めるようにする必要があり、現在国会において審議が行われている、市民活動を行う団体に法人格を付与すること等を内容とする法案の状況も勘案すれば、法人組織として考えることが望ましい。
 任意団体として活動を行う場合には、契約や財務にかかわる責任主体を明確にする必要がある。
 また、日常業務に対応するため、指導員を配置したり、様々なボランティアを活用することにも配慮する必要がある。

(「スポーツ・健康推進会議(仮称)」の活動の活用)

 また、「スポーツ・健康推進会議(仮称)」の活動内容の改善充実を図るためにも、子どもたちがこの組織の活動に参加して個性や能力を伸長していると認められる場合には、例えば、学校においても、奨励する意味でその活動の成果を認知・活用する方法などが検討されてよいと考える。なお、この場合、子どもたちの積極的な意欲や態度を励ますという視点を忘れてはならない。

(第4の領域の育成)

 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」による様々な活動を、大人と子どもが一緒になって積極的に展開していくことによって、中央教育審議会第一次答申が指摘する「第4の領域」、すなわち、従来の学校・家庭・地縁的な地域社会とは違い、「同じ目的や興味・関心に応じて、大人たちを結びつけ、そうした活動の中で子どもたちを育てていく」領域を育成していくことが望まれる。

2 活動分野と活動内容

(「スポーツ・健康推進会議(仮称)」の活動内容)

 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」が取り組む活動の分野としては、児童生徒を対象とする心身の健康の保持増進にかかわる活動と地域のスポーツの振興にかかわる活動が考えられる。
 これらの分野は、生涯にわたる心身の健康の基盤をつくる上で極めて重要であり、また大人と子どもが一緒になって取り組むことで効果をあげられる分野であることから、現在求められている家庭や地域の教育力を高めていくためにも、有意義である。とりわけ学校週5日制や企業の週休2日制の実施に伴い、新たに生まれる自由時間を、住民の主体的選択によって活用し、健康的な社会を実現していくためにも、地域住民主導型の組織として構想される「スポーツ・健康推進会議(仮称)」が、このような分野の活動を中心に推進していくことが期待される。

 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」は、以上のような分野に関して、住民のニーズや発意を踏まえて、おおむね

  1. スポーツ活動や健康学習・健康増進活動の機会や場の設定
  2. 地域のスポーツ・健康学習施設の運営
  3. ボランティアの指導者、専門家の登録と紹介
  4. 各種のスポーツ・レクリエーション、自然体験、健康学習・健康増進の活動プログラムやイベント、これらを通じた国際交流などの企画・運営
  5. 教育委員会、地方体育協会、地方レクリエーション協会、地方学校保健会、地域学校保健委員会、体力・健康つくり組織、地域企業などの各種団体・組織との連携などの事業を中心に取り組むがことが適当であると考える。

 その場合、これらの事業を日常生活圏における活動と日常生活圏を離れた活動に分けて具体的に述べれば次のように整理できる。

[1]日常生活圏の活動

 日常生活圏における活動としては、まず様々なスポーツ活動の機会や場の設定に関する活動が考えられる。具体的には、身近な学校体育施設や社会体育施設、公園や緑地、場合によっては地域企業の体育施設を地域で利用する計画の策定と利用時の管理運営、平日の放課後、土・日曜日の児童等のスポーツ活動の推進、地元企業従業員と住民とのスポーツ交流などが考えられる。このような活動が円滑に展開されるよう地域スポーツの活動計画を策定することも重要であろう。
 また、健康の保持増進活動に関しても同様であり、スポーツ活動の展開に合わせ、住民の健康に配慮するとともに、各種の健康教室を開催することが考えられる。
 また、地域ぐるみで児童生徒の健康増進活動を行ったり、スポーツ・レクリエーション大会などのイベントを展開するに当たっては、地域学校保健委員会、地方学校保健会などの保健関係組織や、地方体育協会、競技団体、地方レクリエーション協会、スポーツ少年団などスポーツ・レクリエーション団体の協力を得ることが必要である。
 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」は、これらの組織等との連携を図り、円滑かつ効果的な活動の展開に努めることが大切である。

[2]日常生活圏外の活動

 日常生活圏を離れては、子どもの共同生活体験、自然体験の機会を積極的に生み出すために、夏季休業等の休業期間中に、豊かな自然の中で青少年教育施設などを利用して、宿泊を伴いつつ、短期、長期で行う野外活動の企画、運営などが考えられる。
 例えば、地域のボランティアやスポーツ・レクリエーション団体などと連携して、数日程度の短期間から1か月程度の長期間まで、家庭を離れ宿泊をし、スポーツや野外活動、時季に応じたレクリエーション活動の実施、様々な生活体験活動や自然体験活動などを実施することが考えられよう。
 また、望ましい食習慣や運動習慣などの在り方について集中的に学び、家庭を離れた場で実践することでその理解を深め、定着を図る活動も考えられる。

(活動拠点及び指導者)

 以上のような活動を推進するに当たって、市町村は、その拠点施設として「スポーツ・健康学習プラザ」ともいうべきスポーツ・健康学習施設を整備し、「スポーツ・健康推進会議(仮称)」は、その施設に事務室を設け、施設の管理運営を行うことが考えられる。この「スポーツ・健康学習プラザ(仮称)」は、新たに整備する場合のほか、学校施設や公共のスポーツ・体育施設を活用する場合もある。そこにクラブハウスやラウンジなどを整え、情報交換や学習を行うとともに、グラウンドについては芝生化を図り、大人と子どもが一緒になって活動できるような場とすることが考えられる。
 また、活動を支える指導者や専門家については、できるかぎりボランティアによって確保され、住民の必要に応じて活動するシステムが求められる。このため行政の支援を得て、医師やスポーツ・レクリエーション指導者などの人材バンクをあらかじめ作成し、健康教室や初心者向けのスポーツ教室に派遣し、指導を行うことなどが考えられる。この事業の中で、学校の運動部活動への外部指導者の紹介を行うことで、運動部活動と地域スポーツとの連携を深めることもできるであろう。

3 国、都道府県の支援

(国、都道府県の支援の必要性)

 「スポーツ・健康推進会議(仮称)」は、家庭や地域の教育力を高めるためにも、住民により主体的に運営されることが基本であり、行政は、その取組を支援するという役割を担っている。ただし市町村は、当面、モデル事業の実施等により組織を立ち上げ、住民による運営が定着するよう配慮する必要があるが、基本的には住民の主体的取組に対して、指導者の養成、施設の整備、情報提供等を通じて支援を行うことが重要である。
 このような住民及び市町村の取組に対して、国は、適切なガイドラインを示し、助言を行うなど全国的観点から組織の普及・定着を支援する必要がある。また、都道府県は、組織の設立や活動が円滑に行われるよう、指導者や専門家による適切なアドバイスが行われるようなシステムを整えるなど地域の取組を支援していくことが必要である。
 さらに国・都道府県は、このような「スポーツ・健康推進会議(仮称)」による事業の展開や、「スポーツ・健康学習プラザ(仮称)」などの拠点施設の整備について財政的な支援方策を十分検討する必要がある。
 あわせて、これらの活動に伴う事故や災害などに対応するため、保険への加入などについても十分配慮することが必要である。

7.競技スポーツの振興

1 競技スポーツの現状と課題

(1)競技スポーツの意義と我が国における現状

(競技スポーツの意義)

 競技スポーツは、競技水準の向上を主たる目的として行われるものであり、たゆまぬ努力と日々の研さん鑽によって人間の能力とスポーツ技術の限界に挑む活動である。このような競技スポーツを通じて、スポーツのフロンティアが切り開かれ、新たなスポーツ文化の創造・発展がもたらされるものである。
 また、競技スポーツの優れた成果は、人々に夢や感動を与えるものであり、特に子どもたちは、スポーツ選手の素晴らしい活躍に胸を躍らせ、スポーツへの強いあこがれの念を抱く。これにより、子どもたちがスポーツに親しみ、主体的に取り組むようになる場合が多く、子どもたちの豊かな人間性とたくましく生きるための健康・体力をはぐくむ上で大きな意義を有している。さらに、競技スポーツが広く国民一般に及ぼす好影響は、我が国におけるスポーツの普及・振興、ひいては、活力ある健全な社会の形成にも寄与するものと言えよう。
 以上のような意義から、競技スポーツは、学術研究や芸術活動などと同様に、人類の創造的な文化的活動の一つであるといっても過言ではない。

(我が国の競技力向上の考え方)

 我が国では、競技スポーツ選手の多くが、ジュニア期は学校における運動部活動を中心にその他民間のスポーツクラブなどで活動し、トップレベルの選手になると大学や企業などで活動している。そして、こうした日常の拠点における活動を基礎にしながら、財団法人日本体育協会、財団法人日本オリンピック委員会、各競技団体が各種の事業を展開するという形で競技力の向上を図ってきた。
 従来、我が国の競技力向上については、競技スポーツ全体をピラミッドの形に見立て、ピラミッドのすそ裾野部分の競技人口が多ければ多いほど、ピラミッドの頂点部分に残るトップレベルの選手層も厚くなり、結果として競技力が向上するという、いわゆる「ピラミッドモデル」に近い考え方が往々にして見られた。

(国際競技力の低下)

 世界各国の競技水準が向上する中、我が国の国際競技力は、冬季競技の一部については向上してきているものの、全体的に見れば長期的・相対的に低下傾向をたどっている。
 例えば、夏季オリンピックにおけるメダルの獲得数で比較すると、1964年の東京オリンピックの際には、金メダル16個を含む29個のメダルを獲得したが、昨年開催されたアトランタオリンピックでは、実施競技数及び日本選手の出場人数とも過去最多であったにもかかわらず、獲得したメダルの数は14個という成績に終わっている。複数のメダルを獲得した競技は柔道のみで、これを除くとメダルの数は6個という状況であり、また、かつては日本のお家芸とまで言われた体操ではメダルが獲得できなかった。

(2)我が国の競技スポーツの振興をめぐる課題

(競技スポーツのシステム化の遅れ)

 このように我が国の国際競技力が低下した要因としては、競技スポーツの振興体制が必ずしも十分に整備されておらず、国際競技力の向上に向けた組織的・計画的な取組が行われてこなかったという点が挙げられる。現在では、ピラミッドモデルのように競技スポーツのすそ裾野をいかに広くしても、国際競技力の向上はもはや図れなくなってきており、新たな競技力向上システムを構築していく必要がある。
 国際競技力の向上に向けた組織的・計画的な取組の必要性は、以前から言われてきたことであり、諸外国においては既にこうした取組を国レベルで行っているところが多数見られる。我が国は、競技スポーツのシステム化について、言わば取り残された形になりつつある。

(国際競技力向上をめぐる具体的問題点)

 我が国の国際競技力向上をめぐる具体的な問題点としては、まず、選手に対するジュニア期からの一貫指導体制が欠如していることが挙げられる。今日、世界レベルの選手を育成するためには、ジュニア期から一貫した指導ができる総合的な競技力向上システムが不可欠と言われているが、我が国においては、こうしたシステムが不備であり、以下のような問題が生じている。

○ 指導者や活動拠点が変わると、継続した指導が行われにくい。

○ 育成対象となる選手の選考が、ジュニアの全国大会の成績などを重視して行われており、選手の素質・将来性という最も重要な要素が必ずしも適切に考慮されていない。

○ 各年齢期の競技会で好成績をあげることを重視した指導が行われることの弊害として、伸び悩みや精神的燃え尽き(バーンアウト)、肉体的使い過ぎ(オーバーユーズ)の状況が生じている。
 また、このほか、スポーツ医・科学の成果を取り入れた育成カリキュラムの開発が遅れていること、選手に対するスポーツ医・科学面からのサポートができる高度なトレーニング拠点が不足していること、世界レベルの経験を有して世界を目指した指導ができる優れた指導者や専任コーチ、スタッフが不足していること、スポーツ医・科学や諸外国の情勢など各種の基礎知識・情報を指導者間で共有できる仕組みが欠如していること、さらには、選手の進学や引退後の進路問題などへの対応を含め、選手が競技活動に安心して打ち込めるようにするための側面的な支援体制が不備であることなどが挙げられる。

(障害のある人の競技スポーツ)

 今日、社会の意識の変化や用具の発達等に伴い、障害のある人とスポーツのかかわりも、従来の機能回復や社会参加等の福祉の手段としてのみならず、スポーツをスポーツとして楽しみ、さらにはパラリンピック競技大会での活躍に見られるように競技力や記録の向上を目指す競技スポーツとしての取組も活発化するなど、スポーツニーズの多様化が目覚ましい。
 このような多様なニーズ、特に競技スポーツへのニーズに対しては、これまで必ずしも十分な対応がなされてきたとは言えない点もあり、今後、障害のある人の競技スポーツの推進体制の在り方などについても、関係機関と連携を図りつつ検討していく必要がある。

2 競技力向上トータルシステムの構築

[1]トータルシステムの構成と理念

(1)トータルシステムの構成

 今後、我が国が国際競技力の向上を図っていくためには、まず、
 1)ジュニア期からトップレベルまで、一貫した指導を実現するための仕組み(ソフト)を確立すること
 2)これを実施するための施設や設備(ハード)を整備すること
 3)実際に指導に当たるコーチやスタッフなどの人材(マンパワー)を養成することが必要であることは言うまでもない。
 しかし、これだけでは十分ではなく、このような直接的な競技力向上施策を実効性のあるものにするためにも、スポーツ医・科学研究の充実や資金面をはじめとする各種の支援体制の確立など、側面的な条件整備を図ることも併せて必要である。
 このように、今後、我が国が国際競技力の向上を図っていくためには、直接的な競技力向上施策と側面的な条件整備策が一体となった、競技力向上のための総合システムを構築していくことが重要である。(別図1参照)

(2)基本的理念

 今後、具体的にこのシステムを構築していくに当たって、基本的な理念として踏まえる必要があるのは次の三つである。

(生涯スポーツの振興との融合)

 まず、国際競技力の向上のみに力点を置くのではなく、生涯スポーツを含むスポーツ全体を振興する中でとらえていくことが必要である。このため、国民がスポーツに親しみやすい環境と、世界に通じる競技力向上システムが両立し、互いに好ましい影響を与えながら、我が国の実態に即した特色あるスポーツ振興システムが構築されていく中で、国際競技力の向上を実現していくことが重要である。(別図2参照)

(真の競技者の育成)

 また、国際競技力の向上を図る以上、我が国の選手がオリンピック競技大会などにおいて活躍し、好成績を収めることが期待されるのは当然のことであるが、単に強い選手を育成することを目標とするのではなく、フェアプレーの精神に満ちた、人格的にも優れた「真の意味での競技者」の育成を目指していくことが重要である。

(競技生活以外への配慮)

 さらに、例えば、選手の学業・進学問題や引退後の進路の問題への対応などを含め、競技生活以外の部分についても配慮していく必要がある。このことは、真の意味での競技者を育成するとともに、選手が自分の将来について心配することなく競技活動に打ち込めるようにするためにも重要である。
 なお、今後の国際競技力向上のための施策を着実に推進するため、本審議会は別表3のようにアクションプログラム(参考案)を示した。これは、おおむね2000年までに取り組むべき施策を短期的な課題として、またおおむね21世紀初頭までに整備する必要のある総合的な競技力向上システムの構築のための施策を中・長期的な課題として整理したものであり、関係者においては、このアクションプログラム(参考案)を参考にしながら、各種の施策に取り組むことが期待される。

[2]一貫指導の実現

(一貫指導)

 今日、世界レベルで活躍する選手を輩出するためには、我が国においても、ジュニア期に素質のある選手を見いだし、スポーツ医・科学を取り入れたトレーニングを施しながら、組織的・計画的に育成していく、一貫指導を早期に実現していくことが必要になっている。
 ここで言う「一貫」とは、指導の理念や内容が継続的に一貫して行われるということを意味するものであり、指導者や活動拠点が変わっても「一貫した継続的な指導」が行われるという点が重要である。
 すなわち、一貫指導の実現は、従来行われてきたような「選手強化」という名の下に、自然にとう淘た汰されて選び出された選手を、各年齢期において、その時々で強化するということから、ジュニア期から組織的・計画的に適切な指導を行い、「競技者を育成する」という考え方への転換を意味するものである。

(1)一貫指導カリキュラムの構築
(一貫指導カリキュラムの策定)

 一貫指導を行うためには、まず、指導の理念や内容・方法(カリキュラム)について適切に定める必要があり、その具体的な内容については、競技ごとに異なる点が多いため、各中央競技団体が作成する必要がある。この際、トレーニングの内容・量等が各年齢期における発育・発達の特徴に応じた無理のない適度なものとなるよう十分に配慮することが重要である。また、トップレベルの選手については、精神面の強化や、外国語やマナー等の指導を行っていくことも重要である。
 なお、特にジュニアの早い時期においては、数多くのスポーツを経験しながら、基礎的・全身的な体力・運動能力を身に付けていくことが重要であり、この時期の指導カリキュラムや、それ以降の各時期における指導カリキュラムの基本的内容については、財団法人日本オリンピック委員会が財団法人日本体育協会の協力を得ながらひな雛形を作成して各中央競技団体に示すとともに、指導カリキュラムの策定上必要となる基礎的データ等を競技団体を含め共有化していく必要がある。
 本審議会では、一貫指導カリキュラムの策定の参考に資するため、各年齢期における発育・発達の特徴を踏まえ、ジュニア期からトップレベルまで四つの時期に分け、それぞれの時期における指導の目標や観点について、その主な内容をまとめた(別表4参照)。
 なお、これは、一般的な目安として示したものであり、各競技の特性及び個人の発育・発達状況などによって異なるものである。

(個々人に応じた指導)

 同じ年齢期にあっても、選手個々人の成長や体力の発達には個人差がある。また、世界のトップレベルを目指すには、個性を伸ばすとともに、自ら考え状況判断していく力を養っていくことが重要であるが、これらは教え込むことで養われるものではない。
 こうした点を踏まえ、一貫指導カリキュラムに基づく実際の指導に当たっては、指導カリキュラムに示された目標を念頭に置きながら、個々人に応じた内容・方法による指導を行うとともに、個性や自主性を伸ばしていくことが重要である。

(2)優れた適性・能力を有する選手の発見
(スポーツ適性・能力の発見の仕組みの確立)

 一貫指導を行うためには、素質のある選手を適切に発掘することが極めて重要である。
 これまで、素質に恵まれた優秀な選手の発見は、全国大会等の成績に基づいて選手をピックアップするという方法が主であったが、将来につながる素質を見極めるためには、大会成績だけでなく、個々の選手の心理的な面を含むスポーツ適性、体力・運動能力、成長予測等の要素を総合的に勘案して判断する新たな仕組みが必要である。
 現在、ほぼ全国の学校において、定期的に児童生徒等の体力・運動能力調査が実施されているが、当面は、こうした調査を参考にしながら、顕著な能力を示した者を発見していくことも一つの方法であると考えられる。
 このため、財団法人日本オリンピック委員会、各中央競技団体においては、財団法人日本体育協会と連携しつつ、そのような調査に基づいてスポーツ適性を判断する基準を策定し、学校や教育委員会の協力の下、地方体育協会、競技団体などの判断により、素質のある選手を発見していく仕組みを構築していく必要がある。判断結果については、個人別にカルテ化し、その後の選手の指導や成長、成績等についても記録に残していくことが重要である。なお、各種の調査等の活用については、事前に本人・保護者の了解を得た場合に限るなど、個人情報保護の観点について十分配慮するとともに、学校に新たに過重な負担が掛からないように留意する必要がある。
 また、この仕組みを有効に機能させていくためには、個人カルテ情報の競技団体間での相互利用、スポーツ適性に応じた競技団体間での選手の移動の円滑化が必要である。
 なお、判断結果については本人に伝え、適切なアドバイス等を行うことは必要であるが、どの競技種目を行うかについては、最終的に本人の意思によるべきものであることには十分に留意する必要がある。

(選手の素質を見抜く能力の開発)

 スポーツ医・科学研究の成果を取り入れた新たなスポーツ適性テストの研究開発や、現場レベルの指導者が選手の素質を見抜く能力を高めたり、選手の素質を見極める専門家(スカウト)を養成することも重要である。このような点については、国立スポーツ科学センターが中心となり、財団法人日本オリンピック委員会や財団法人日本体育協会、各中央競技団体、大学などが連携しながら取り組んでいくことが必要である。

(スポーツ適性・能力の判断時期)

 スポーツ適性・能力について競技団体等が判断する時期については、競技ごとの特性によって若干異なると考えられるが、おおむね、第1回目は、体力・運動能力の個人差が明らかになる小学校高学年を目途に行い、スポーツ全般に対して素質のある者を見いだし、第2回目は、中学生段階を目途に行い、個々人のスポーツ適性を見極めながらある程度種目のアドバイスをし、第3回目は高校生段階を目途に行い、将来のトップレベルの選手としての資質を有しているかどうかについて判断していく、というような形で複数の時期をとらえて行うことが適当であると考えられる。

(3)一貫指導の理念の徹底

 一貫指導の理念として最も重要なことは、それぞれの選手の資質を最大限に引き出し、特に優れた素質を有する選手については最終的に世界レベルに達することを目指して育成するという点であり、各年齢期において最高の競技成績をあげさせることが目的ではないということである。すなわち、目先の勝敗にとらわれずに、長期的・計画的に指導を行うという点が最も重要である。
 こうした一貫指導の理念を浸透させるため、国から地方の現場のレベルまで、競技力向上に関係するそれぞれの立場の者が、その普及・啓発に努める必要がある。
 特に、ジュニア期における関係者の正しい理解が重要であることから、国、財団法人日本体育協会及び財団法人日本オリンピック委員会においては、都道府県等の教育委員会、地方体育協会、地方競技団体等を通じて、運動部活動や民間スポーツクラブ等を含めた現場の指導者、さらには選手本人や保護者にも、一貫指導の理念の理解を図ることが必要である。

[3]育成拠点の整備

(1)ナショナルレベルのトレーニング拠点の設置

 今日、国際的に競技水準が高い国の多くは、トップレベルの選手が、専門的なスタッフの指導の下、科学的方法を取り入れながらトレーニングを行うことができる、ナショナルトレーニングセンターを設置している。例えば、オーストラリアやフランスなどでは、オリンピックでの成績不振を契機に、総合的なトレーニング施設や、スポーツ医・科学センターなどから成る広大な国立のナショナルトレーニングセンターを設置した。
 その後、このナショナルトレーニングセンターを中心として、競技水準の向上が図られ、最近のオリンピックでの好成績が示すように、大きな成果をあげている。
 国際競技力の向上を目指すためには、ハード・ソフト両面において充実した機能を有するナショナルレベルの本格的なトレーニング拠点が不可欠な状況になっており、我が国においても、こうした施設を早期に設置することが必要である。

(2)地域における育成拠点の整備
(ジュニア期における複線的な形態の育成拠点)

 ジュニアの育成のためには、選手が生活する地域において日常的にトレーニングを行うことができる環境を整備していく必要がある。地域の育成拠点については、ジュニア期における活動拠点の現状を踏まえながら、運動部活動や民間スポーツクラブなどとの連携による競技力向上の方法や、これとは別に、おおむね広域市町村圏域を単位として新たに地域の拠点を設けて育成を図る方法を含め、競技種目や地域の実態に応じて、複線的な形態で考えていくことが適当である。こうした中から、今後のスポーツ界をめぐる変化にも対応しつつ、最も効果的な形の育成拠点を設けていく必要がある。
 また、一定の体育系高校や民間クラブなどを地域の育成拠点として積極的に活用することも重要である。なお、寄宿制の新たな育成拠点を設けるような場合には、近隣学校との連携を十分に図ることなどにも配慮する必要がある。

(公共スポーツ施設の活用)

 近年、各地域に充実した公共スポーツ施設が整備されてきているが、競技スポーツの育成拠点として利用することに配慮されていない施設が多く見られる。競技スポーツの振興は、スポーツへの関心を高めるなど一般市民のスポーツ活動の振興に資する面も大きいものがある。公共スポーツ施設においても、競技団体や一定の強化指定選手に対する優先利用や、早朝や夜間を含む施設利用時間の弾力化等について積極的に検討する必要がある。
 また、特定の競技団体と連携し、ナショナルチームなどが活動する拠点施設として、競技団体指定のトレーニングセンターとして活用することも考えられる。これにより、その施設が我が国における当該スポーツの一大拠点となり、スポーツの普及・振興が図られるとともに、特色ある地域振興を図る面からも有意義であると考えられる。

[4]指導者の充実

(1)指導者の質の向上
(世界に目を向けた指導者、専門スタッフ等の養成)

 一貫指導を担当する指導者は、実際に指導を担当する選手の年齢層は異なっていても、常に世界レベルの選手育成という最終目標に目を向けて指導を行うことが重要である。
 特に、トップのナショナルレベルの指導者にあっては、諸外国の情報等を活用しながら競技力向上の全体計画を立案できる能力が必要であり、また、ジュニア期を担当する指導者については、一貫指導の内容と指導の対象となる選手の現在のレベルを的確に把握し、個々人に応じた適切な指導を行うことができる能力が必要である。
 また、コーチなど直接競技指導に当たる者だけでなく、アスレチックトレーナー、スポーツカウンセラーなどの専門スタッフを養成・配置したり、審判のレベルを国際レベルに高めていくことも重要である。

(研修・資格制度の改善・充実)

 財団法人日本体育協会、財団法人日本オリンピック委員会及び各中央競技団体においては、世界レベルのコーチ、ジュニア専門コーチ、その他の専門スタッフの養成、有資格指導者の再教育など、目的を明確にしながら指導者養成の充実を図ることが必要である。
 また、現在の社会体育指導者の知識・技能審査事業の認定制度やその他の指導者研修等の内容の充実・見直しを図るとともに、アスレチックトレーナー、スポーツカウンセラー、スポーツ栄養士等新たな分野の専門スタッフに関する資格制度について整備する必要がある。さらに、世界に目を向けた指導者の養成のためには、海外における研修が不可欠であり、国の補助事業で行われているスポーツ指導者在外研修事業を一層拡充する必要がある。
 また、体育系大学等においては、コーチや専門スタッフなどの指導者養成について、更に積極的に役割を果たしていくことが期待される。

(2)指導者の専任化
(専任化のための支援の充実)

 優秀な指導者がその力を十分に発揮するには、指導に専念できる環境を整える必要があり、指導者の専任化を図ることが不可欠となっている。このため、各中央競技団体においては、専任化のための所要の財源確保に努めるとともに、国においても現在行っている専任指導者の配置に関する財政支援を充実していくことが必要である。

(資格取得の反映・育成指導者の評価)

 財団法人日本オリンピック委員会や各中央競技団体は、ナショナルコーチや専門スタッフなどの指導者の任命・待遇面において、所要の資格取得を要件とするなど、資格取得について適切に評価する必要がある。また、一貫指導はジュニア期をはじめとする各年齢期における適切な育成の上に成り立つものであり、指導者に対する評価としては、最終的に選手の指導に当たった者だけではなく、各年齢期における指導を担当した者に対しても適切になされるようにすることが重要である。

(指導者の所属元の配慮)

 現在、優秀なナショナルレベルの指導者については、大学や企業に所属している場合が多いが、このためにナショナルレベルの指導者としての活動が制約される場合もある。
 こうした大学や企業にあっては、スポーツ界全体の利益を十分に考慮し、ナショナルレベルの指導者としての活動が円滑に実施できるよう、適切に配慮することが期待される。

[5]中央競技団体等の在り方

(中央競技団体等の現状)

 各競技ごとの国際競技力の向上の中心となり最も重要な役割を担うのは各中央競技団体である。現在、競技ごとの統轄組織として中央競技団体が存在するが、充実した組織体制で運営されている団体は少数である。大半の団体は、会長をはじめ役員の多くが非常勤であり、また、事務局体制についても事業部門ごとに担当職員を置いている団体は極めて少ない。さらに、競技力向上に関する確固たるビジョン、計画を策定している団体も必ずしも多くなく、事業実施の前提となる財源もほとんどが不十分な状況であり、このままでは、国際競技力の向上のための事業を充実していくことは困難である。
 また、これらの中央競技団体を加盟団体とし、体系的・計画的な競技力向上策の策定及び推進に当たる財団法人日本オリンピック委員会や、これと連携・協力し、我が国の競技スポーツの向上に寄与することが期待される財団法人日本体育協会等においても、トータルなマネジメントができる組織体制や財源確保などの面で必ずしも十分とは言えない状況にある。

(マネジメント機能の充実)

 このような現状を改善するためには、中央競技団体等のマネジメント機能の充実を図ることが喫緊の課題であり、具体的には、

○ 中央競技団体においては、組織体制の強化を図ることが重要であり、組織運営を担当する主要な役員及びそのスタッフとなる事務局職員の専任化を図る必要がある。
 その際、役員等を当該競技の経験者の中から任命するという従来の慣例にとらわれずに、組織を運営するという観点から、企業等からの人材登用を含め、組織運営のマネジメント能力、財源確保のためのマーケティング能力の高い人材を登用することが重要である。この点は、競技力向上の責任者に関しても同様であり、競技力向上事業の企画立案、コーチングスタッフ、評価などの機能について、トータルでマネジメントする能力を有した人材を登用していく必要がある。
 このような専任体制をとり責任の所在を明確にしながら、事業の目的、計画、内容、方法及び成果に対する評価を適切に行い、経営感覚を取り入れた組織運営を行っていくことが重要である。

○ 財団法人日本オリンピック委員会については、競技力向上の戦略の企画やマーケティングに関する専門家を登用するなど組織の強化を図り、中央競技団体に対するリーダーシップを発揮していくことが重要である。

○ 財団法人日本体育協会及び地方体育協会は、地域における生涯スポーツの振興に関して大きな役割を担っており、国際競技力の向上に関しても、とりわけジュニア期の育成についてこれまで果たしてきた役割には大きいものがある。
 一方、地方体育協会については、中央競技団体の場合と同様に、組織体制が必ずしも十分でない場合が多く、新たな事業の展開や事業規模の拡大など、協会の積極的な運営に取り組むだけの余裕がない状況が見られる。このため、マネジメント能力を有した優秀な人材を役員に任命するなど、組織の充実・強化を図ることが期待される。
 このような中央競技団体等によるマネジメント機能の充実に資するため、国においては、幾つかの競技団体等において、競技力向上を中心とした組織機能の充実を図るためのモデル事業を実施することなどについて検討する必要がある。

(市民的基盤・国際的基盤の充実)

 国際競技力の向上は、スポーツ全体の振興を図る中で行っていく必要があるが、このためには、競技団体として競技スポーツに対する市民の支援基盤の充実を図っていくことも重要である。現在、各中央競技団体にはそれぞれ会員制度があるが、競技者を登録することが主目的になっており、広く市民の愛好者や支援者も会員とする観点が欠けている面がある。こうした点についても、より開かれた会員制度に改善するなどの工夫が必要である。
 また、我が国のスポーツ界は、国際競技団体における活動が必ずしも活発でないなど、国際面における弱さが指摘されている。今後、国際スポーツ界において適切に役割を果たしていくため、国際競技団体に役職員を派遣することなどについても積極的に対応していくことが重要である。

(国民体育大会の改善・充実)

 財団法人日本体育協会を中心として国及び開催地都道府県と共催で行われる国民体育大会は、我が国唯一の総合競技大会であり、長年にわたり、国民スポーツの祭典として、広く国民にスポーツを普及し競技力の向上を図るとともに、地域振興などの面でも大きな役割を果たしてきた。また、多くのボランティアによる大会運営や地域における高いレベルの競技の観戦など、スポーツへの多様なかかわりの促進の観点からも大きな意義を有している。一方、大会運営に関して、より簡素化を図るべきであるとの指摘もなされている。
 このため、財団法人日本体育協会が中心となり、国及び開催地都道府県と連携しつつ、社会の要請にも適切に対応するよう大会運営の改善を図りながら、国民体育大会の意義が一層発揮されるようにしていく必要がある。

3 国、地方の役割と企業からの支援の促進

(1)国際競技力向上に関する国及び地方公共団体の役割

 我が国の国際競技力の向上を図ることは、スポーツの振興に資するとともに、優れたスポーツ文化を創造し、世界各国の人々との相互理解・友好親善の増進に寄与し、バランスのとれた真に豊かで活力ある国づくりの観点からも重要であり、国全体として積極的に取り組む必要がある。
 特に、近年のように、国際競技力の向上のために国レベルの組織的・計画的な取組が必要となっている状況にあっては、国が果たすべき役割はますます大きくなっており、国は所要の施策の充実に努める必要がある。特に、ナショナルレベルのトレーニングセンターの設置や競技力向上システムの構築のための施策などについては、国として積極的に取り組む必要がある。
 他方、一貫指導においては、ジュニア期の育成がより重要であり、実際にその場となるのは各地域である。都道府県等の地方公共団体においては、それぞれ、国民体育大会等に関連して競技力向上の事業を展開しているが、さらに国際競技力の向上の観点からも、財団法人日本体育協会、財団法人日本オリンピック委員会等の関係団体と連携・協力しつつ、公共スポーツ施設の積極的活用、ジュニア期の育成に関する事業の実施など、より積極的な役割を果たしていく必要がある。

(2)スポーツに対する企業支援の活性化等

1)企業からの支援の促進策
(スポーツと企業の関係)

 国際競技力の向上のためには、企業等の民間活力を積極的に導入していくことも重要である。
 現在、我が国においては、スポーツと企業は多様な形で関係を有している。例えば、トップレベルにおいて、実業団など企業スポーツの果たしている役割は非常に大きいものがあり、また、各種の競技会において、企業による協賛は半ば必要不可欠なものとなっている。

(スポーツ支援に対する意識の変化)

 これまで、企業のスポーツへのかかわり方は、企業PR面が強いととらえられてきたが、最近では、企業側においては、芸術文化に対するメセナ活動と同様に、広い意味での社会貢献であるという考え方も徐々に定着しつつある。
 そもそも、企業による芸術文化の支援とスポーツの支援について基本的な性格に違いはないが、社会認識の面では、スポーツへの支援よりも芸術文化への支援の方が高く評価されている面があり、こうした点についても改善を図る必要がある。
 なお、企業側においても、例えば、社団法人企業メセナ協議会において支援対象として文化だけでなくスポーツも含めるなど、スポーツ支援による社会貢献の姿勢をより明確にしていく必要がある。

(企業支援の積極的導入)

 芸術文化界において、企業支援を積極的に導入しているのと同様に、スポーツ界においても、企業からの各種の支援を積極的に評価し、導入を図るための方策を講じる必要がある。
 我が国のスポーツ界が企業からの支援について制度的に取り組んだものとして、財団法人日本オリンピック委員会の「がんばれニッポンキャンペーン」がある。これは、スポーツ界にマーケティング感覚が乏しかった1977年から開始されたものであり、我が国における競技力向上事業の充実に大きな役割を果たしてきた。しかし、その後、テレビ放映権、公式スポンサーをはじめとして、スポーツマーケティングの形態は多様化し、その規模も拡大している状況にある。
 このような中で、「がんばれニッポンキャンペーン」は、必ずしも十分なマーケティング効果をあげられない状況に陥っており、財団法人日本オリンピック委員会においては、新たな方策について早急に検討していく必要がある。その際、財団法人日本オリンピック委員会だけでなく各競技団体を含めたスポーツ界全体に対して、企業から最も効果的に多くの支援が得られるようにする観点から、例えば、選手の肖像利用の在り方を多様化することを含め幅広く検討することが適当である。なお、あわせて、一部の競技団体に支援が偏り過ぎることがないようにしていく配慮も必要である。

(企業支援への動機付け)

 企業によるスポーツ支援を格段に拡大するためには、企業に対して支援への動機付けを与えていくことが必要であり、アマチュアリズムとの関係を踏まえつつ、過度に商業主義に陥らないような範囲において、企業のPR面への利用を積極的に認めていくことも必要である。
 また、企業間の競争原理を導入する観点から、各企業による支援の独自性が明らかになるように工夫していく必要がある。例えば、漠然と企業からの寄付を求めるというのではなく、何に対する支援なのか、どのような支援が必要なのかなど支援の内容を明確にすることによって、企業側としても支援の目的や成果等がより明確になり、スポーツ支援に一層取り組みやすい状況が作られると思われる。また、このような多様な支援の内容を、財団法人日本オリンピック委員会等においてメニュー化し、企業側に積極的に働き掛けていくことも必要である。
 さらに、地方公共団体が設置する大規模スポーツ施設の運営費相当部分を企業からの支援で賄うこととし、これに対して施設名に企業名を冠するようなことも考えられ、こうしたことについて、地方公共団体などにおいても柔軟に検討していくことが必要である。

(制度面における促進策)

 制度的にも、税制などにおいて促進策を講じることが適当である。例えば、寄付金税制において、芸術関係の法人については、特定公益増進法人の認定対象として規定されているが、スポーツ分野については、財団法人日本体育協会と財団法人日本オリンピック委員会が個別指定されている以外には認定対象とされていない。このような面でも、芸術とスポーツを対等のレベルにしていくことは、企業のスポーツ支援を促進し、スポーツに対する企業支援についての社会認識を高めていく上で重要である。
 また、スポーツを積極的に支援する企業については、国として顕彰するなど、これを積極的に評価していくことも重要である。

2)選手個人の競技以外の活動等
(選手個人の競技以外の活動等の在り方の見直し)

 現在、選手個人が、テレビへの出演など競技以外の活動によって報酬を得ることについては、各競技団体等が定めるいわゆるアマチュア規定との関係から、制約されている面がある。一方、公式に賞金大会が開催されたり、大会の出場にプロとアマの区別がなくなるなど、いわゆるアマチュア規制について、国際的には緩和の方向に向かっている状況にある。
 このような国際的な動向を踏まえ、選手個人の競技以外の活動及びそれに伴う報酬等の在り方について、財団法人日本オリンピック委員会や各中央競技団体において、次のような点を踏まえながら検討していく必要がある。
 まず、選手の目覚ましい活躍は、選手本人の並々ならぬ努力の成果である。一方、選手の活躍は、選手個人の努力だけではなく、競技団体をはじめとする関係者による指導・援助がなければなし得ないものでもある。したがって、選手の活躍に対する評価は選手本人のみが受けるべきものではなく、選手及び競技団体等の関係者それぞれが、経済的な面も含めて、適切に評価されるべきものである。
 選手に対する経済的な面の評価については、諸外国の場合、例えば、オリンピック競技大会のメダリストに対して年金や多額の報奨金が支給されているほか、企業のスポンサー契約を実質的に自由にするなどの取組が行われているが、我が国の場合は、オリンピック競技大会のメダリストに対する報奨金制度はあるものの、全体として必ずしも十分な取組がなされているとは言い難い面もある。
 したがって、選手個人の競技以外の活動は、本人の能力の一つであるととらえ、基本的に認めていく方向で規制を緩和するが、その適否については財団法人日本オリンピック委員会や中央競技団体が判断することとする。そして、これに伴って競技力向上事業に対して、企業からの積極的な支援が得られるような仕組みを整備していくことが適当である。なお、選手の肖像利用に関しては、財団法人日本オリンピック委員会において「がんばれニッポンキャンペーン」の見直しの中で検討していく必要がある。また、選手が受ける報酬に関しては、個々の選手に応じて適切な評価がなされるようにしていくことが適当である。

(テレビ放映権)

 最近における国際競技大会のテレビ放映権の高騰や、テレビの多チャンネル化などに伴い、スポーツ界において、放映権収入が占める割合はますます大きくなっている。一方、放映の形態によっては、特別の契約をしていない一般の視聴者は見ることができなくなるなど、スポーツの普及の観点からの支障が出ることも考えられる。したがって、放映権の契約に当たっては、マーケティングの観点だけではなく、スポーツの普及の観点も併せて考慮する必要がある。
 なお、今後、我が国における有料テレビ放送の普及状況や諸外国における動向を見守りつつ、必要な場合には、契約に際しての具体的な基準の設定などについても研究していく必要がある。

8.スポーツ医・科学及び健康科学の研究・活用の推進

(スポーツ医・科学推進体制の整備)

 世界レベルの選手を育成することはもとより、生涯にわたる各ライフステージにおいて安心してスポーツに親しめるようにするためには、スポーツ医・科学の研究成果を適切に活用していく必要がある。我が国では、近年、国際競技力が長期的・相対的に低下傾向にあるものの、冬季の競技部門においては世界的にもトップレベルで活躍する選手も多数輩出しているが、この要因の一つとしては、いち早くスポーツ医・科学を実践的に取り入れ競技力の向上を図ってきたことが挙げられている。
 こうした中、現在建設中の国立スポーツ科学センターを中核として、大学、地方公共団体やスポーツ団体を含むネットワークを構成し、総合的なスポーツ医・科学研究体制を確立するとともに、国立スポーツ科学センターの研究者をはじめ、我が国のスポーツ医・科学の中核となる研究者については、拠点的施設や組織において専任化を図ることが必要である。
 また、都道府県においても、拠点となるスポーツ施設等には、スポーツ医・科学に関する相談部門を設け、住民への相談事業の充実を図ることが必要である。
 さらには、今後、地域のスポーツクラブにおいても、クラブ員の健康・スポーツ相談やスポーツ障害の予防等も含め、スポーツドクター及びスポーツ医・科学関係者との連携協力を促進することが必要である。

(実践的研究の推進)

 今後、国立スポーツ科学センターにおいては、競技力の向上面で研究の成果が、実際の現場に十分に生かされるよう、財団法人日本オリンピック委員会、財団法人日本体育協会、各競技団体、体育系及び医療系大学、民間のスポーツ医・科学研究等機関との連携を図りながら、新たな競技技術の開発など、より実践的な研究を行っていく必要がある。当面は、財団法人日本オリンピック委員会等において、実際の指導の現場で生かせるような研究にするため、各種の研究活動のコーディネ―トを行っていく必要がある。
 生涯スポーツ面においては、運動不足や生活習慣病の増加、精神的なストレスの増大など、心身両面にわたり様々な健康問題が生じてきているため、健康とスポーツに関する総合的な基礎研究の成果を踏まえ、各ライフステージに応じた運動・スポーツプログラムの研究・開発が求められている。
 こうしたことから、体育系及び医療系学部・学科を持つ大学等を中心に、スポーツ医・科学に関する教育の充実と研究体制の整備を図るとともに、地方公共団体やスポーツ団体等と連携協力し、地域住民に対する公開講座やスポーツ相談の機会を提供することが望まれる。
 さらに、各ライフステージにおける望ましいスポーツとのかかわりや、健康・体力を保持増進するための運動・スポーツプログラム等については、特に、中高年齢者や女性及び障害のある人に配慮し、研究・開発を推進する必要がある。

(研究成果の共有・普及)

 スポーツ医・科学に関する研究成果や基礎的な知識やデータなどについては、指導者間で共有することが重要であり、そのための情報提供システムを構築するとともに、指導者研修や資格制度において、スポーツ医・科学に関する知識を普及していく必要がある。
 また、競技力向上に活用できる実践的なスポーツ医・科学研究を効果的に行うためには、トップレベルの競技者が引退後にスポーツ医・科学に関する研究者になれるような道を大学等において積極的に開いていくことも重要である。

(スポーツ障害への対応の充実)

 児童・生徒のスポーツの在り方は、その後のスポーツ活動にも大きく影響するとともに、競技水準の向上を目指す一貫指導の視点からも重要な時期であり、スポーツ障害の防止の面から適切な指導がなされる必要がある。
 また、中高年に特に多く見られる急性心不全や心筋梗塞といった心臓疾患に起因すると考えられるスポーツ活動中の突然死などに対しても、早期に対策を講ずることが望まれている。
 こうした中で、財団法人日本体育協会、社団法人日本医師会等が養成しているスポーツドクターによるスポーツ障害に関する基礎的ノウハウの普及を推進するとともに、高度な技術を要する分野においては、医師だけでなくリハビリテーションのためのトレーナーなどとの適切な連携を図り、メディカルチェックも含めたスポーツ医・科学の総合的な対応システムを確立していく必要がある。

(アンチ・ドーピング対応の充実)

 アンチ・ドーピングは、言わば世界のスポーツ界全体のルールの一つになっており、スポーツを行うものとして当然に取り組まなければならない問題である。
 また、たとえ意図的でなく不注意によるものであっても、ドーピングの陽性反応が出れば、選手がこれまで積み上げてきた努力が無になり選手生命が絶たれることにもつながるものであり、アンチ・ドーピングは選手自身にとっても重大な問題である。
 したがって、我が国においても選手をドーピングによる犠牲から守っていく観点も踏まえ、薬に関する一般的な知識を含めアンチ・ドーピングに関し、学校教育を含む啓発活動を充実するとともに、国内調整機関・上訴機関の設置、検査機関の充実などアンチ・ドーピング体制を早急に整備する必要がある。
 特に、国内調整機関については、アンチ・ドーピングに関する統括的機能を有するものであることから、公的な機関として設置する方向で検討する必要がある。

(健康科学の推進)

 健康の保持増進のためには、一人一人が生命尊重の精神を基盤とし、健康科学に基づく知識・理解を生かし、生涯の各時期に応じた適切な健康行動を実践する必要がある。
 今日の健康科学は、発達科学、生理学、医学、薬学、環境学、栄養学、衛生学、疫学、社会学、教育学、心理学、福祉学、倫理学など心身の健康にかかわる非常に広い領域で構成される学際的な学問分野と言うことができる。今後、健康科学という学問分野の発展のためには、個々の学問分野の発展を基盤としつつ、人の健康の増進という観点から、それぞれの分野における研究成果を統合していく作業が必要であろう。
 そして、特にその成果に立った健康教育を展開するために、児童生徒期や生涯を通じた健康に関する学習の内容や手法についても研究を深めていくことが望まれる。

9.スポーツへの多様なかかわりの促進

(1)「みるスポーツ」の振興

(「みるスポーツ」の質的向上)

 スポーツをみて楽しむ「みるスポーツ」は、Jリーグに見られるような新たなプロスポーツの誕生、外国のスポーツ試合のテレビ放映の増加、多チャンネル放送におけるスポーツ専門チャンネルの開設など、今後もますます拡大することが予想される。
 スポーツの観戦は、スポーツの競技会や試合をみることであるため、一般的にみる側の関心は、競技や試合の結果(勝敗)に向けられがちになっているが、芸術活動における演奏会や展覧会においては、芸術家のパフォーマンスそのものを楽しむことに関心が向けられている。スポーツは一定のルールに基づき技を競い合うものであるから、芸術活動と性格を異にする面もあるが、「みるスポーツ」としての質をより向上させていくためには、競技や試合の結果だけでなく、競技者のプレー、パフォーマンス、フェアプレーといった内容そのものを楽しみ、評価していくようになることが望まれる。
 なお、この点は、スポーツをする側も同様であり、競技会や試合の場は、単に勝敗を争う場ではなく、自らの練習の成果として、プレーやパフォーマンス、フェアプレーを発表する場であるととらえていくことが大切である。
 このような考え方の転換は、勝利至上主義の考え方を是正していくことにもつながるものである。

(「みるスポーツ」の機会の拡大)

 スポーツをみて楽しむことは、スポーツの振興ばかりでなく、国民生活の質的向上やゆとりある生活の観点からも重要である。その際、音楽の演奏会や美術館でじかに鑑賞することと同様に、スポーツにおいても、競技場や体育館などで実際に試合をみて体験することは極めて有意義である。こうした体験については、子どものころから豊富にすることが重要であり、各地方公共団体においては、芸術文化の鑑賞の機会の拡大に積極的に取り組むのと同様に、「みるスポーツ」についてもその機会を積極的に提供していくことが重要である。
 なお、その対象としては、国際競技大会やプロスポーツはもちろんであるが、こうしたものだけでなく、各競技別の全日本選手権や日本リーグの試合なども含めるなど、数多くの機会を提供するよう努めることが重要である。

(観客に対する配慮)

 スポーツを快適にみて楽しめるようにするためには、大規模なスタジアムやアリーナをはじめとするスポーツ施設の整備に当たって、交通アクセス、観客の動線、座席、表示設備、その他の施設・設備などについて、スポーツをみる側の立場に立って配慮していくことが重要である。
 また、各競技団体や競技大会等の主催者においても、選手の紹介のリストやパンフレットを配布したり、競技の進行状況を観客に分かりやすくするなど、運営面で配慮することも必要である。

(2)スポーツへの多様なかかわりの促進

(スポーツにおけるボランティア活動の振興)

 スポーツにおけるボランティア活動については、大規模な国際競技大会やマラソン大会などにおいて実践されている例があるが、個々の大会限りになり、ボランティア活動の継続性がない、スポーツにおけるボランティアの活用のノウハウが確立されていないなどの問題点が指摘されている。
 したがって、今後、スポーツ界としてボランティア活動の機会を積極的に提供しながら、ボランティアを適切に活用するとともに、スポーツへの多様なかかわり方の一環としてスポーツを支援するボランティア活動の振興を図っていく必要がある。このため、スポーツにおけるボランティア活動に関する実態を明らかにしつつ、ボランティアの養成、組織化などについて調査研究していく必要がある。
 また、スポーツ選手のボランティア活動など、スポーツ界側のボランティア活動についても、スポーツ界として積極的に取り組んでいくことが重要である。

(アフター・マッチ・ファンクションの普及)

 ラグビー競技においては、試合終了後に対戦したチーム同士が集まって簡単な懇談を行う機会(アフター・マッチ・ファンクション)を設けている。これは正に勝敗を超えたスポーツを通した交流の場となっており、選手の人格形成、教育面で大きな意義を有しているものである。このようなアフター・マッチ・ファンクションを他の競技にも導入していくことが望ましく、特に、人格形成、教育面で大きな意義を有していることから、ジュニアの全国大会などの主催者は、これを積極的に導入するよう努めることが重要である。
 また、アフター・マッチ・ファンクションの新たな形態として、競技者だけでなく、みる立場としての観客の一部や支える者としての運営ボランティアなどがこれに加わることにより、様々な形でスポーツにかかわる者の交流の場とすることが考えられる。このようなアフター・マッチ・ファンクションは、バランスのとれたスポーツ振興にも大いに寄与するものと考えられる。

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-- 登録:平成21年以前 --