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学習の成果を幅広く生かす -生涯学習の成果を生かすための方策について-(中間まとめ案)

平成11年4月
生涯学習審議会

目次

第1章 新しい社会の創造と生涯学習・その成果の活用

1.個人のキャリア開発に生かす

2.ボランティア活動に生かす

3.地域社会の発展に生かす

第2章 生涯学習の成果を「個人のキャリア開発」に生かす

1.なぜ、今、学習成果を個人のキャリア開発に生かすのか
(1)個人のキャリア開発意欲の増大
(2)企業における人材養成の仕組みの変化

2.学習成果を生かすにあたっての課題と対応方策
(1)個人のキャリア開発に関する学習機会の拡充
 a.高等教育機関による社会人のための学習機会の拡充
 b.新たな情報通信手段を活用した高等教育機関等による学習機会の拡充
 c.放送大学の拡充
 d.大学・高等学校における学校外での学修成果の認定の拡大
(2)学習に対する支援の充実
 a.職業に関する学習機会の情報収集・提供
 b.勤労者に対する学習支援の拡充
 c.女性のキャリア開発のための条件整備
(3)各種資格・検定等に係る学習支援
 a.各種資格等の学歴要件等の見直し
 b.技能審査等の学校外での学修に係る単位認定の拡大
(4)学習成果の多元的な評価
 a.ビジネス・キャリア制度等の活用促進
 b.年齢制限の緩和
 c.学習の成果に対する企業等の評価の改善
(5)学習した者と学習成果を求める者を結びつけるシステムを作る

第3章 学習成果を「ボランティア活動」に生かす

1.なぜ、今、学習の成果を「ボランティア活動」に生かすのか
(1)ボランティアを志向する社会の進展
(2)生涯学習によるボランティア活動の深化と発展
(3)社会教育関係団体や民間非営利公益活動の進展

2.学習成果をボランティア活動に生かすにあたっての課題と対応方策 -ボランティア活動の充実・発展のために-
(1)多様な活動の発見・創造
(2)ボランティア活動のもつ社会的責任
(3)ボランティア活動についての自己評価の促進
(4)ボランティア活動に対する共感の輪の拡大
(5)生涯学習ボランティア・センターの設置促進
(6)ボランティア・バンクの構築
(7)ボランティア・コーディネーターの養成、研修

第4章 学習の成果を「地域社会の発展」に生かす

1.なぜ、今、学習成果を「地域社会の発展」に生かすのか
(1)学習者の学習成果活用へのニーズの増大
(2)生涯学習による地域社会の活性化の必要
(3)ボランティア・グループ等と行政とのパートナーシップの必要

2.学習成果を地域の発展に生かすにあたっての課題と対応方策
(1)生涯学習による地域社会の活性化の推進
(2)活動の場づくり
 a.学校での活動参加
 b.地域での活動参加
(3)学習成果についての様々な評価システムの促進

第1章 新しい社会の創造と生涯学習・その成果の活用

(いつでもチャレンジ可能な社会の創造に向けて)

 21世紀の我が国社会は、誰もが自らの能力と努力によって自分の未来を切り開いていくこと、夢や志を実現することが可能であると信じられるような、柔軟で活力ある社会にしていくことが大切である。
 誰もが、社会の中で生き生きと自分を生かすことができるようにするためには、いつでもどこでも学ぶことができ、その成果を生かすことができるような社会でなければならない。そして、ただ自分の責任だけを担保に、自分の本当に望むところを選択できるようになっていなければならない。一度の選択でその後のすべてが決まってしまうのではなく、回り道や道草などいつでもやり直しのきく、ゆとりのある社会のシステムでありたい。
 学校でうまく勉強できなかった学生も、別の仕事で自分を試したいと思っている勤労者も、再び社会で働きたいと思っている主婦も、定年後の新しい人生を模索する高齢者も、決して遅くない。やる気で学んで、力をつけて、そしてチャレンジできる。明るく楽しく学んで、元気に社会の中で自己実現を図っていくこと、それが生涯学習である。そうしたことが可能となるように、学校や社会の学習・教育に係るシステムを変えていこうとするのが生涯学習の理念なのである。
 一方で、今日、高度で複雑に発展を遂げた日本の社会が、引き続きこれまでの繁栄を維持・発展させてゆくためには、これまでと同じやり方ではうまくいかなくなってきている。
 肩書きや学歴で、一生安定的に過ごしてこられたかのように思われてきた職業生活も、産業構造の変化や企業の雇用形態の急速な流動化により、勤労者自らが、より高い職業上の知識・技能を獲得し、サバイバルを図っていかなければならない状況に至っている。また、少子・高齢化の一層の進展に伴い、女性や高齢者が就労する機会も増大することが予想される。
 地域社会での様々な課題を解決するためには、国や地方の行政に依存するばかりでは効果的できめ細かな対応は難しい。住民の一人一人が、それぞれのニーズに応じて、問題解決を目指して学習し、積極的に地域社会に関わっていく姿勢を持つことが必要になっている。住民が個人として、また、非営利での公益的なグループ・団体の一員として、行政や企業等とも良好な連携・協力の関係を作りながら活動を進めることが必要になっている。そのことにより、結果として、行政に効率的で質の高い施策の推進をもたらすこととなるし、企業にも、地域住民の信頼を得て、円滑な経済活動や社会的な貢献活動を行う上での貴重な契機をもたらすことにもなろう。
 生涯学習の成果を活用して社会の諸活動に参加することは、個人の喜びであると同時に、社会の発展にとっても必要なこととなってきている。

(学歴偏重社会イメージの是正を)

 しかし、有名大学に入り大企業に就職することこそ、誰にとっても一番の幸福だとする気分が依然として残っている。幼児からの早期教育や受験競争の低年齢化、興味、意欲、関心にかかわらずとにかく高校に進学しようとする風潮なども、このような単一の価値観にとらわれ社会的に急かされてのものであり、学歴偏重社会のイメージが残っていることの一つのあらわれであると考えられる。
 近年の子どもたちの暴力行為、いじめ、不登校など様々な問題行動等も、こうした時代的な空気がストレスとなって子どもたちを圧迫していることに背景があるとも言われる。
 かつて、日本社会は、「18歳のある日に、どのような成績を取るかによって、彼の残りの人生は決まってしまう」ような学歴偏重の社会であるとOECD教育調査団によって分析されたことがあった。しかし、実際には、競争社会である実社会が、人生の比較的早い段階での学歴・学校歴のみでその人の将来の社会的な処遇が決定されることはあり得ないし、現にそのようなことのないことは明らかになっている。しかし、依然として人々の意識の上では、企業社会に働く社会人でさえ、特に自分の子どものことになると、そうしたイメージを拭いさることができないでいる。
 こうした人々の思いを改めていくためには、自分にあった多様な生き方が可能であり、個人の特性を生かしながら、職業を得、日常生活において自分を生かす多様な生き方があること、それを見つけてチャレンジすることこそ、幸福につながるものだということを、目に見える形で示す必要がある。
 このためには、生涯学習が振興されること、特に、生涯学習によって得た学習成果を活用して社会に積極的に参画することが可能になる社会的なシステムが形成されることがどうしても必要である。

(生涯学習成果の活用の促進を)

 我が国は、生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が社会で適切に評価されるような生涯学習社会の実現を目指しているが、これからはさらにその学習成果が様々な形で活用でき、生涯学習による生きがい追求が創造性豊かな社会の実現に結びつくようにしていかなければならない。
 そのような社会は、人々が画一的な組織の中でのナンバーワンを目指して競うのではなく、青少年から高齢者までの一人一人が、社会にその人ならではの貢献ができるような、お互いの良さを認めあう社会である。

(学習成果を社会で通用させるシステムの必要性)

 行政がこれまで行ってきた施策の中心は学習機会の提供にあったが、これからは、生涯学習の成果の活用促進にも力を入れる必要がある。そのためには、活用の機会や場の開発ばかりでなく、そのための社会的な仕組みの構築などが重要な課題になる。
 その仕組みのひとつとして、学習の成果を一定の資格に結びつけていくことが重要である。近年、企業においては、これまでのように学歴・学校歴に偏らず、個人の顕在化した能力を求めてきているし、従業員の資格取得が企業の人的資源開発上意味をもつものとして、資格取得を奨励してきている。また、個人が学習した成果を活用して社会参加しやすい環境を整備するためには、社会の誰もが共通して学習の成果を一定の資格取得として確認できることは意義のあることであり、このことにより、学習した個人もその成果を社会に積極的に提供しやすくなるとともに社会も様々な機会に個人の学習成果を活用しやすくなるというメリットがある。
 一方、個人にとっては、学習すること自体が本来楽しいものであるが、学習の成果が社会的に通用する資格という形で認められることは、学習者にとって自己の成長や向上が広く社会的に確認できることから大きな意味をもつ。さらに、個人が資格を活用して社会に関わり、様々な活動に参加することが進めば、自己実現のみならず、新たな学習課題の発見をもたらし、さらなる学習を行うインセンティブにもなるのである。
 行政が、学習成果の活用のための仕組みを構築するにあたっては、資格がこのようなメリットやインセンティブを持つことを十分に考慮する必要がある。
 また、行政が行うべき学習機会の提供にあたっても、従来の文化・教養タイプのものから、社会参加型や問題解決型の学習あるいは学習成果の活用を見込んだ内容のものなど、学習者に活動のために必要な力を養う学習へと重点を移行させるべきであろう。
 本中間まとめでは、個人が学習成果を活用して社会で自己実現を図る場として最も緊要な課題となっている、キャリア(職業、職歴ばかりでなく社会的な活動歴をも含む。)開発、ボランティア活動、地域社会での活動をテーマにその振興方策を考察し、できる限り具体的に提言することとした。

1.個人のキャリア開発に生かす

 第一は学習成果を個人のキャリア開発に生かすという課題についてである。
 産業構造の変化等を背景に、新規学卒者の一括採用、年功序列、終身雇用といった従来の企業等における日本型雇用形態が変化しつつあることなどにより、学歴の持つ意味合いが大幅に減少し、個人の学習成果としての知識・技術・能力が問われるようになってきている。どこで学んだかということ以上に、何を学び何ができるのかということが決定的に問われるようになってきている。
 勤労者にも、職務の円滑な遂行と将来のキャリア・アップを目的に、自己啓発の意欲は一層高くなってきている。人生80年時代を迎え、生涯にわたり自己の職業生活をどう設計し、どう送っていくかについて、将来のキャリア展望を踏まえて、自分自身で職業生活に関しての生涯設計計画を立てたいとする人も多くなってきている。
 職業といっても、企業など組織の中で雇用されて働くことのほかに、自ら事業を起こして働くことへの意欲も高まってきているし、それを支援する社会的なシステムもでき始めている。また、ボランティア活動の延長から非営利での公益的な活動としてではあるが活動継続に必要な最低限の収入が得られるように事業化して、キャリアに結びつける人も出てきている。
 女性については、経済的な自立意欲が一層増大するとともに、近年は、職業を通じて社会的な自己実現を図ることに意義を認める人が増えてきている。また、未婚女性の生涯設計をみると、継続就業や子育て後に再就職することを希望する者が増えている。実際の就業パターンとしては、家事と仕事の両立の負担が重いため、出産、育児等でいったん退職し、家事や育児で忙しい期間は就業を控え、子育てが一段落した後に再就職するケースが多いとみられる。また、豊かな生活体験や人脈を生かして、リサイクル・ショップ、手作りパン屋、情報誌の発行など起業や、在宅ワーク、仲間との共同出資による経営などを進める人々も決して少なくない。
 高齢社会の到来という状況の下で、高齢者のキャリア開発も大きな課題となっている。日本の高齢者には、どの先進国よりも高い就業意欲があり、定年後の第2、第3の就職など、仕事による生きがいを求める傾向が強いばかりでなく、ボランティア活動など各種の社会活動への参加意欲も高い。社会的にも将来、少子化等による労働力人口の減少に対応して、高齢者が就労して社会に寄与する機会が増大することが予想される。
 こうしたことから、学習成果を生かすにあたっては、まず、個人のキャリアを開き、発展させていく上で、どのような方策が必要かを明らかにする必要がある。

2.ボランティア活動に生かす

 次に、学習成果をボランティア活動に生かすことについて検討する必要がある。
 阪神・淡路大震災やタンカー海難による石油流出事故、さらには長野冬季オリンピック・パラリンピックなどを契機に、ボランティア活動は国民の間に大きな広がりをもって行われるようになってきている。日本人にボランティア・マインドは定着しつつあると考えられる。
 ボランティアを志向する社会は、個人が共同体社会への共感基づいて、自主的にその営みに参加し貢献することに価値を置く社会であり、こうした方向を促進することは、社会をより望ましいものへと変革していくことにつながる。今後の我が国社会にとって極めて重大な課題であるということができる。
 今の若者や子どもたちに、社会規範や道徳性の欠如、無気力感や閉塞感などが蔓延しているとの指摘もあるが、それは大人や社会全体が、ひたすら、自分や家族だけの物質的な利益や欲求を追求・充足させてきたためではないか。人が、現在の自分自身に存在意義を感じ、将来の自分に希望をもつためには、自分のためにではなく、人のために、みんなのために、社会のために自分が役に立っているという意識、あるべき自分に向かって努力しているという確信が必要なのではないか。
 学校歴を求めての受験競争のように、他人と比べて自分を確認するというやり方ではなく、かけがえのない一人の個人として自己を認めることができるようになるために、ボランティア活動は今日の日本の社会にとって極めて重要な活動となろうとしている。
 ボランティア活動は、生涯学習の成果を生かし、深めるのに相応しい場の一つであり、学習成果を活用するためには、ボランティア活動を推進していくための方策を検討することが重要な課題である。

3.地域社会の発展に生かす

 もう一つの課題は、学習成果を地域社会の発展に生かすということである。
 生涯学習の機運の高まりに伴い、行政によるばかりでなく民間の教育事業の興隆もあって、地域社会での学習の機会は相当拡大してきている。それに伴い、近年、人々には、学習するだけでなく、学習して得られた成果を生かして、身近な地域社会において何か活動したい、地域での活動を通して積極的に社会に関わりたいとする人が増えてきている。
 一方、地域社会においては、都市化や過疎化の進行などにより、地縁的なコミュニティとしての機能が著しく衰退してきており、地域の人々に一体感がなくなり、地域教育力の低下が憂慮されるなど、地域社会のコミュニティとしての再生が大きな課題となっている。
 特に現在、非行や薬物乱用など様々な子どもの問題行動も見受けられる。子どもを心豊かにたくましく育てていくことは、地域の人々皆の願いであるばかりでなく、我が国社会の将来に関わる重大な問題でもある。このため、地域ぐるみで子どもを健やかに育てるための地域活動が極めて重要な課題になってきている。
 また、地域における切実な課題としては、ごみ処理、自然・環境保護、介護・福祉など様々な現代的課題がある。これらは、行政だけの対処方策では解決が難しく、住民自らが学習し、理解し、主体的に参加しようとするときに初めて効果的な対処が可能となる問題である。それだけ住民の意識的な問題解決型の学習が重要となるのである。こうした学習により、地域に対する住民のマネジメント能力が向上し、それに基づいて住民の社会参加が現実に可能となる。このように、住民の力によって地域社会の課題を解決し、地域を再生させる上でも、住民の学習や、学習成果を生かしての地域活動参加が欠かせない。
 また、地域社会の再生にとっては、生涯学習によって活力ある住民が育成されること、そしてその人や人々のネットワークが地域に張り巡らされることが必要である。これらが、他のすべての領域での活動の力強い基盤になるからである。こうしたことから、生涯学習の成果を地域社会の発展に生かすことを第3の課題としなければならない。

●社団法人国民健康保険中央会「市町村における医療費の背景要因に関する研究会」報告書(平成9年5月)
  長野県は基本健康診査受診率がそれ程高くないにもかかわらず、位置づけ以上に老人医療費が低くなっており、その要因について県内市町村ヒアリングの結果に基づいて、特に保健活動のあり方や公民館活動のあり方等といった観点から分析している。
  そこでは、「その他公民館活動等については、分館活動も含めて盛んであり各種の事業を軌道に乗せやすいこと、また、住民の間に社会教育に対する関心が高いこと、などが指摘できる」とされている。

第2章 生涯学習の成果を「個人のキャリア開発」に生かす

1.なぜ、今、学習成果を個人のキャリア開発に生かすのか

(1)個人のキャリア開発意欲の増大

 人生80年時代を迎え、将来のキャリアを展望しながら、生涯にわたる自己の職業生活を自分自身で設計しようとする人々が多くなっている。また、職業を通じて社会的に自己実現を図ろうとする傾向が強まっている。
 個人のキャリア開発に対する意欲増大の社会的背景として、年俸制の導入など企業において個人の能力・実績を重視した処遇を講じようとする傾向や、通年採用の広まり、転職・出向など企業間の勤労者の流動性の増大があげられる。新規採用においても、学歴や学校歴を問わないとする企業が増えるなど、全般に学歴以外の個人の様々な資質・能力を多様に評価しようとする傾向が拡大しつつある。
 こうした傾向は今後とも進んでいくものと予想され、このことに伴い、個人のキャリア開発の意欲もさらに拡大していくものと思われる。
 女性も、経済的自立と職業を通じての自己実現を図ろうとする意欲が増大しており、特に、職業能力を身に付けることや、それを活用して自ら事業を起こすための学習プログラムについてのニーズが高まっている。また、未婚女性の生涯設計をみると、継続就業や子育て後に再就職することを希望する者が増えている。実際の就業パターンとしては、家事と仕事の両立の負担が重いため、出産、育児等でいったん退職し、家事や育児で忙しい期間は就業を控え、子育てが一段落した後に再就職するケースが多いとみられる。
 超高齢社会を間近に控えた現在、平均余命が長期化することに伴って高齢者の社会参加意欲には強いものがある。各種のボランティア活動の他に、特に、定年後の第2、第3の就職など仕事による生きがいを求める傾向も他の国の高齢者と比べて顕著に高くなっている。また、近い将来、労働力人口の減少に対応して、高齢者の雇用・活用が現実の社会・経済的な課題となることも予想されている。
 また、最近、地域でのボランティア活動などが民間非営利団体の公益的事業につながる例も見られるようになっている。学習の成果が社会的に意義のある事業に生かすことができて、しかも活動継続に最低限必要な収入が得られる事業として成り立つようになっている。今後、こうした形でキャリア形成が行われることも多くなるものと考えられる。

(2)企業における人材養成の仕組みの変化

 近年の科学技術の進歩、情報化・国際化の進展などを背景に、産業の高付加価値化、新しい分野の産業の創造が企業の大きな課題となっている。このため、企業では、技術水準の向上、創造的技術の創出、新分野への進出などを果たすため、勤労者の能力のより一層の向上が喫緊の課題と認識されるに至っている。
 従来、ジョブ・ローテーションと結びついたオン・ザ・ジョブ・トレーニングなどの企業内訓練が行われてきた。このやり方は、多くの職を経験し、社内に蓄積された知識・技術、ノウハウを継承し、社内の人間関係を円滑にし、全体に均質で高い能力のゼネラリストを育成するという面での大きな効果があったが、新たな戦略を立て、新事業を生みだし、それを展開させる能力が必要となっているときには、それだけでは十分な対応ができないという状況になる。また、ローテーションによる人材育成では時間がかかり、変化のスピードに対応しにくいという状況もある。さらに、勤労者の創造性を培ったり、自律的な向上心を育む観点からは、企業が主体となって行う人材育成事業だけでは必ずしも十分な効果をあげられないという側面もある。
 こうしたことから、企業としては多様なOffーJTの実施、外部の教育機関等への教育研修の委託を進めるとともに、勤労者個人の自己啓発活動を積極的に支援するようになってきている。

2.学習成果を生かすにあたっての課題と対応方策

(1)個人のキャリア開発に関する学習機会の拡充

 公民館等の社会教育施設で開設される講座・学級のうち、職業的な知識や技術の向上に関するものの比率は数%程度で、あまり多くない。その内容も、総じて職業の入門的なもの、就職に対する心構えのようなものばかりが多く、技術やノウハウの取得など実践的なものはごく少ない。
 これは住民の職業に係る学習ニーズが低いということより、従来からこうした学習が社会教育施設では行われてこなかったために、学習ニーズが潜在化したままになっているためと考えられる。こうした現状のままでは、たとえニーズ調査をやっても結果としてニーズが顕在化して現れてこないことが多い。
 むしろ、実際に事業を実施してみて、社会教育施設でもやれることを示してみてからニーズの調査をする方が有効である。まず、地域住民の学習ニーズを先取りして講座等を開設することにより、職業に資するものとすることが考えられる。また、職業に関係する学習の情報を収集して、提供できるようにすることも考えられる。こうした際には、社会教育主事のコーディネイト機能の発揮が重要な要素となろう。
 起業についての学習機会の提供は、最近、地方公共団体や大学などでも少しずつ行われるようになってきているが、その内容については、資金の調達方法、マーケティング、会社設立のノウハウなどの実務的な知識はもちろん、夢や志を実現するため、冷静に事業計画をたてる手法なども必要であろう。
 また、生涯学習センター等が関係行政部局による様々な学習・教育事業に関する情報を収集し、総合的な情報提供を行うことやキャリアに係る学習の相談事業を行うことができるようにする必要がある。
 その際、退職した企業人などキャリア経験が豊かな人を活用して、女性、青少年、高齢者等を対象とした生き方指向のキャリア相談事業などを多様に企画・実施することが望まれる。

●佐賀県生涯学習センターの「県民カレッジ 夢パレットさが」
  教育委員会関係ばかりでなく、首長部局や市町村及びその関係の施設等の協力を得て、総合的な情報提供システムを運営するとともに、各領域の学習機会を体系化し提供している。これにより、学習者は県内のたくさんの学習メニューから自由に選択でき、簡単な手続きで履修することが可能になっている。
(女性を対象に)

 我が国の社会での意志決定や政策決定の場への女性の参画の度合いは、国連の調査によると世界38位とされ、女性のエンパワーメント(女性自らが意識と能力を高め、政治的・経済的・社会的・文化的に力を持った存在となること)が大きな課題になっている。このため、ボランティア活動や地域ビジネスなどの活動で女性がリーダーになり得るためのリーダーシップの開発などを行い、女性が地域、ボランティア活動、産業など様々な分野で政策や方針の決定に参画できるようにしていく必要がある。
 社会教育施設で開設される講座は、伝統的に趣味、教養、文化関係のものが多く、エンパワーメントに係る講座などは多くない。これらの講座の受講者には女性が多いことを考えれば、今後社会教育施設等においては、エンパワーメントに係る講座を積極的に開設することが必要であり、このような学習機会がより多く提供されることで、女性がその学習成果を生かして社会の場で活躍する機会が開けていくことになろう。
 また、女性の就業環境を整備することは、男女共同参画社会の実現を目指す観点からも大切なことである。近年は、就業機会の多様化により、自分の適性や志向に適した事業を自ら起こすことを希望する女性も増えつつある。近年の新たな産業創造者の性別構成では、男性が96.5%と大多数を占めているが、最近は女性を対象とした起業への支援も実施されている。

●東京都足立区の女性総合センター「あだち女性起業家支援塾」
  3日間の「入門コース」では事業構想の確認、事業計画づくり等、また、6日間の「実践コース」では財務分析、資金管理、税金、経営上の法務などを学ぶこととしている。

●埼玉県北本市まちづくり観光協会の「女性起業家育成きたもと塾」
  全体を前期・中期・後期の3コースに区分し、前期は5日にわたり生涯学習への理解、女性起業家の現状、経験談などを、中期は10日間にわたり経営計画書作成、会計、労務管理など実務に必要な知識ノウハウを学習、後期は、卒業に向けて具体的に会社経営をシミュレーションで実施するなどしている。
(高齢者を対象に)

 日本では、高齢者自身に働く意欲が極めて高い。現に、他の国に比べても高齢者の就業率は高くなっている。近年多くの市町村で、企業等を定年退職した高齢者や働く意欲のある高齢者に臨時的・短期的な仕事を委託する「シルバー人材センター」が設立され、活発な活動を展開している。さらに、高齢者がそれまでの職業経験や職業に伴う学習の成果を生かして、地域活動を事業化したり、起業を行うケースも出てきている。
 また、少子・高齢社会が急速に進展する我が国においては、今後、高齢者が職業に就き生産活動に従事し、または、地域活動に参加するなど積極的に社会に貢献することが、社会にとっても欠かせないものになると見られる。
 このため、公民館等の身近な社会教育施設においても、高齢者の職務経験や人生経験を生かせるような就業のための実践的で専門的な学習機会の提供が必要である。

●株式会社C.W.E
  CはChildren、WはWomen、EはExpert(高齢者のこと)を表す。
札幌市の60歳以上の企業退職者などシニア世代の人々から構成され、女性と連携しながら地域の青少年育成のための事業を企画・実践しようとする団体。法人格を取ることと組織の活性化を失わないために株式会社方式を採っているが、業務は地方公共団体からの委託を得るなどして、「少年少女冒険学校」や子ども文化祭などの公益的事業を行っている。

●「ニュー・アクティブシニア研究会」
  中高年齢層の企業・官公庁退職者を中心に組織された団体で、会員各自が持つ実務経験、実践的な各種ノウハウ・技術及びネットワークを活用し、増大するシニア層の新しい活力の開発、そのための条件整備の在り方について、企業や官公庁の委託を受け調査研究し、社会への提言を行っている。
(青少年を対象に)

 青少年の職業意識を高め、その能力、適性、希望に応じた適切な職業選択やキャリア開発を支援するため、青少年が職業や勤労についてその意義を理解する学習機会を設けることが必要である。
 この場合、学校では、進学・就職活動への指導に止まることなく、勤労の意味や仕事の責任と楽しさ、様々な職業の種類やそうした職業に就くために必要とされる資質・適性などとともに、自分の個性など自己への理解を深めさせることも大切である。
 また、様々な職業現場を見学したり体験したりすることや、社会の各分野で活躍する人々を学校に招いて話を聞いたりする機会を設けたりすることが大切である。特に、中学校や高等学校においては、働くことによって得られる達成感を味わわせるため、勤労体験学習や就業体験の機会を一層充実することが求められる。
 さらに、大学生・専修学校生等については、主体的な職業選択や高い職業意識を育成するため、学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うインターンシップの導入を一層進めることが求められる。

a.高等教育機関による社会人のための学習機会の拡充

 社会の情報化、国際化の進展や科学技術の進展などに伴い、職業を持つ社会人の再学習の需要は高い。このため、高等教育機関においても、社会人特別選抜の実施、科目等履修生、編入学、聴講生・研究生の受入れなど社会人のための学習機会が広げられてきている。今後、職業を持つ社会人の再学習の需要は一層高まると考えられることから、高等教育機関においては、これまで以上に社会人の受入れを積極的に進めることが望まれる。
 高度な専門職業人養成を目的とする大学院の専攻・コースが活発な活動を展開するようになった。しかも、従来の学部の新規卒業者ばかりでなく、広く職業を持つ社会人などを対象とするリカレント型の教育コースも珍しいものではなくなった。こうしたキャリア開発に資する大学院の一層の拡充が望まれる。
 また、同時に、社会人には勤務上の様々な制約があることから、こうした大学院については履修形態や修業年限に係る制度的な一層の弾力化が求められる。夜間の課程や昼夜開講制の課程の大学院は既に設けられ、高い教育効果を上げているが、さらに、大学審議会答申において、各大学の選択により修士課程で1年以上2年未満の修業年限でも修了することが可能なコースや、あらかじめ標準修業年限を超える期間を在学予定期間として在学できる長期在学コースを設けることができるようにすることが提言されており、これを受けた速やかな制度改正が望まれる。

b.新たな情報通信手段を活用した高等教育機関等による学習機会の拡充
【通信衛星等を活用した公開講座の拡充】

 現在、情報技術の進展とともに、光ファイバーや通信衛星等の高度情報通信基盤の整備が急速に進みつつある。このようなマルチメディアは、時間的・地理的な制約を克服し、多数の人々に、多様かつ質の高い学習資源の利用を可能にするとともに、学習者の主体的な学習活動を支援する手段として、今後高等教育機関が広く国民に学習機会を提供していく際に、その活用の検討が不可欠となろう。既に、早稲田大学をはじめ7大学で「教育情報衛星通信ネットワーク」を活用して全国の公民館で大学の公開講座をリアルタイムで受講できるようにする試みがなされているが、大学、大学院、専門学校においては、通信衛星を活用した公開講座の提供に積極的に取り組み、国民に広く学習機会を拡充する方法について検討する必要がある。このため、行政においても、「教育情報衛星通信ネットワーク」事業が日常的に行われるように充実するとともに、全国の公民館・図書館・教育センター・学校等における送受信環境の整備を進めることが望まれる。また、今後は、大学や専門学校等においてもこのネットワークと連携することにより、全国の公民館・学校等に直接公開講座を送信することが望まれる。
 さらに、現在各大学にSCS(スペース・コラボレーション・システム)が整備されてきているが、今後は、「教育情報衛星通信ネットワーク」とSCSが相互に乗り入れることができるようにすることも検討すべき課題となっている。
 なお、大学等の公開講座を通信衛星を活用して公民館等において受講できるようにしていくにあたって、公民館等においてこのような取り組みが積極的に行われていくよう、例えば、受講者から一定の実費を徴収して、その経費を公開講座の運営や公民館活動の充実に寄与するようなシステムづくりの検討に着手することが望まれる。
 また、高齢者や子育て中の女性などに、在宅のまま公開講座の受講機会を提供する手段として、地域の生活に密着した情報の提供を行っている。CATVの活用も検討することが重要である。さらに、今後は、一斉送信型のシステムに加え、インターネットを活用したインタラクティブ型の送信も積極的に行い、例えば、多くの大学の参加により共同で公開講座を実施しそれをインターネットで流すなど、全国どこでも高度な教育をいつでも受けることができるような取り組みも期待したい。
 これらに加え、大学の公開講座に限らず、単独の公民館では招聘することができないような著名な講師を、複数の公民館が協力して招聘し、魅力ある講座を衛星通信を活用して関係の公民館に配信するようなシステムについても検討することが必要である。

【情報通信を活用した大学院レベルの遠隔教育の実施】

 大学審議会答申にもとづき、情報通信技術などを活用した遠隔教育による大学院修士課程の設置が平成10年3月から制度化されている。時間・場所からの制約を大幅に緩和し、学習の自由を拡げるものであり、大変望ましいことであり、今後こうした新しい大学院の拡充が求められる。さらに、情報通信技術による遠隔教育の大学院博士課程の設置についても修士課程における開設・運営状況、実績等を十分に踏まえつつ今後の課題として検討されることが望まれる。また、そのための試験的な取組を進めることも重要である。
 また、既に、米国などでは、衛星通信ネットワークやインターネット(ホームページ、チャット※1、掲示板、メールの活用)等多様な情報通信技術を用いて、授業を行ったり、質問を受けたりして、通学しなくても卒業できるような大学院レベルの教育システム(バーチャル・ユニバーシティー)が行われており、このような状況を踏まえた検討が望まれる。
 さらに、今後マルチメディアを高度に利用した大学院教育の実施も期待されるところであり、そのための取組みを進めることが望まれる。
 注)※1 ネットワーク上で同時に複数の人がメッセージを交換すること。

c.放送大学の拡充

 放送大学は、広く社会人等を対象として、幅広い分野で多くの授業科目を開設し、高等教育レベルの教育を提供しており、生涯学習の中核的機関としての役割を担っている。また、平成10年1月から衛星放送を利用した全国放送を開始したことにより、全国津々浦々の自宅で放送大学の授業が視聴できるようになり、一層身近な大学となってきている。今後は、全国放送の運営状況や業績等を踏まえつつ、キャリア開発のための学習機会として、例えば、看護関係職員の資質向上に役立つ授業科目を開設するなど、社会人の再教育のための機会提供の拡充や通信制大学院が制度化されたことから、大学院の実現への取組みが期待される。その場合、高度な職業人養成や社会人再教育を主たる目的とするなど、社会的要請に対応した魅力ある大学院を目指すことが望まれる。

d.大学・高等学校における学校外での学修成果の認定の拡大
【大学における認定の拡大】
(専門学校における学修)

 現在、大学においては専修学校専門課程(以下「専門学校」という。)など大学以外の教育施設での学修等を当該大学の単位として認定できることとされており、平成8年度で国公私立あわせて100大学が制度を設けているものの、認定実績は延べ17大学とごく少ない。
 このような背景としては、専門学校等での学修成果を単位認定することで大学の格が下がって見られるのではないかといった誤った序列意識があることや、認定する仕組みとして専門学校等と予め単位認定協定を締結するなど煩雑な形式を採らなければならないと思われていることがあると考えられる。
 現在、大学生が資格取得の目的などで専門学校にも通うケースが見られる。また、大学の中には資格取得のための講座を課外で開講して多くの受講者を集めたり、そうした講座自体を専門学校と連携して実施したりするところも出てきている。こうしたことから、今の大学生の中には、大学教育以外の資格取得を目的とした専門的実学教育へのニーズもあることが見てとれる。大学においては、学生のニーズを踏まえ多様な大学教育を実現するとともに、学生の主体的な学習意欲を重視するためにも、専門学校での学修の単位認定を進めることが必要である。
 学外での学修成果を卒業要件単位として認定することを促進するためには、一部大学関係者の誤った序列意識の改革を行うことが必要であるとともに、学外での自主的な学習活動の成果と代替できるような授業科目を予めカリキュラム上明記するなどの工夫をする必要がある。また、単位認定にあたっては、個々の学生の学習実績に応じて迅速に単位認定する仕組みについて、個々の学校で多様に工夫することも必要である。

(ボランティア活動、インターンシップ等)

 大学生については、主体的な職業選択のできる高い職業意識を育成する観点からインターンシップの導入が進められている。また、大学生によるボランティア活動も盛んになってきている。このような学習活動は、学生の主体的な学習意欲の現れであり、意義のあることである。
 大学設置基準等については、これまで学外の学修の成果を単位として認定するよう弾力化を図ってきているが、例えば、ボランティア活動やインターンシップ等の学外の様々な学習成果を授業科目の中に位置づけるなど単位認定が促進されるよう、各大学における工夫が望まれる。
 さらに、平成10年10月の大学審議会答申においては、大学に対する外部の第三者による評価の義務づけが提言されており、多元的な評価システムの構築が進められている。今後、各大学は一層開かれた大学として様々な改善を図っていくことが求められることから、例えば、専門学校等大学以外の教育施設での学修成果、ボランティア活動やインターンシップ等の学校外での活動の単位認定の状況についても、評価の項目に加えていくことについても検討が望まれる。

【高等学校における認定の拡大】

 平成10年度から、ボランティア活動や就業体験等について高等学校で広く単位として認定できるようになったことに伴い、高等学校は、今後、地域での生徒のボランティア活動、文化活動、自然体験や就業体験に関する情報を親や生徒に提供したり、これらの体験の評価を積極的に行うべきである。現在、生徒の学校外における体験的な活動のうち単位認定できるものについて、全国高等学校長協会からガイドラインが示されているが、今後は、各都道府県等において、地域の実情や生徒の実態などに応じて、ガイドラインを作成し、実社会での就業体験など生徒の学校外における活動の成果を単位として認めるようにしていくべきである。また、このように学校外の体験活動を広く正規の教育として認めるという柔軟で弾力的な高等学校教育を実現するのに、しばしば地域の人々の意見や働きかけが実際の力になることが多いことから、例えば平成10年9月に中央教育審議会で設置を提言された「学校評議員」を活用して、積極的に地域から地元の高等学校に対して要望、注文など具体的な意見表明を行ってもらいたい。

●鳥取県米子市立福生中学校PTA
  中学校側と連携しながら、中学生の職場体験学習の実施について保育所、福祉施設、銀行、弁当屋など、地元の施設、企業や商店等へ依頼し、連絡調整、子どもの配置計画を立てるなど、企画・運営等の全般を行っている。子どもたちは、夏休みに派遣先で実際に職業の一部を体験する。

●産能大学経営情報学部の「企業実習」
  2年次学生を対象に、4単位の選択科目として実施。ガイダンスやオリエンテーション、実習企業に関する事前学習や業界研究などの授業を行い、夏休みに2週間程度民間企業や非営利団体に派遣。実習終了後も実習レポートの提出や企業・団体からの評価票などを使っての授業を行うほか、実習体験発表会なども行う。

(2)学習に対する支援の充実

a.職業に関する学習機会の情報収集・提供

 職業に関する学習機会について幅広く情報が収集・提供されることが必要である。そのため、リカレント教育を実施する高等教育機関をはじめとして、国、地方公共団体、民間による学習機会の提供について、履修の形態・内容・時間等の必要な情報を詳しくしかも一元的に集約し、公表することが求められる。
 さらに、後述の第2章2(5)のインターネット学習情報提供システムにおいて、個人のキャリア形成に必要な学習機会の情報や個人の職業能力開発に関する学習機会の情報等を盛り込み、インターネットを通じて公民館や生涯学習センター等の社会教育施設において即座に検索できるようにすることが望まれる。また、職業に関する学習機会の情報を収集して全国に配信するナショナル・センター機能の整備も望まれる。

b.勤労者に対する学習支援の拡充

 勤労者個人が行う学習活動に対する企業による支援の現状については、平成6年現在で80.0%の事業所が何らかの形で支援を行っているものの、そのうち受講料等への援助を行っている事業所は70.2%で全体の約半数(約56%)にすぎず、就業時間への配慮や教育訓練に関する情報提供については、全体の約42%にとどまっており、具体的な支援内容からみると、企業における学習活動への支援は必ずしも十分な水準にはなっていない。
 また、有給教育訓練休暇制度を有している事業所は平成6年現在で20.3%にすぎず、制度それ自体が必ずしも十分普及しておらず、その活用についても不十分な状況がうかがわれる。休暇取得状況を見ると、勤労者のうち休暇を取得した者は19.4%にすぎず、休暇日数も1日未満が16.6%、一日以上3日未満が62.3%と年間で3日に満たないものがほぼ8割となっている。しかも、取得した休暇のほとんど(68.5%)が一般の有給休暇の消化であり、有給教育訓練休暇によるものは、わずかに13.7%にすぎない。
 このため、国も、こうした有給教育訓練休暇の付与や受講費用の援助を行う企業に対し、その援助費や賃金の一定割合を助成する「自己啓発助成給付金制度」を運用してきているが、勤労者がより学習しやすい環境を整備していくためには、今後一層、有給教育訓練休暇制度の導入の促進、休暇を取得しやすい職場環境づくり、資格取得のための情報提供サービスの充実、受験準備への勤務時間上の配慮、受験費用・受講費用の援助、取得した資格についての奨励金の支給、資格を活かしやすい部署への配置など企業からの支援内容を拡充していくことが求められる。
 一方、産業界が必要とする知識や技能の変化、労働力の流動化等に伴い、企業による支援とともに、勤労者の主体的な自己啓発への取り組みが重視されるようになってきている。このため、国では、平成10年12月から、一定の条件を満たす雇用保険の一般被保険者(在職者)または一般被保険者であった者(離職者)が労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合、教育訓練施設に支払った経費の80%に相当する額を支給する「教育訓練給付制度」を開始したところである。この制度は、勤労者が幅広い教育訓練対象の中から講座を選択することができ、主体的な学習を通じて職業能力の開発を行うことができる意義のある制度であり、今後その活用が望まれる。
 なお、企業等においては、勤労者の持っている能力等のリソースを大切にしつつ長期にわたって能力開発を行っていくことが重要であることにも留意してほしい。

c.女性のキャリア開発のための条件整備

 結婚・出産により、職業を中断して家庭で主婦業に専念する女性については、一定期間後職場に復帰できるような制度的な整備や、託児施設の拡充などが必要であるとともに、中断の期間中、職業能力を維持できるような、何らかの研修・能力維持プログラムの実施(例えば、所属企業による、一定期間ごとの業務内容の変化や新たな課題などについての研修会の開催、業務に係る技能のリフレッシュ研修など)もあわせて望まれる。
 また、後述の第2章2(5)のインターネット学習情報提供システムにおいては、職業中断期間中の職業能力を維持するための学習機会に関する情報についても提供されるようにすることが必要である。
 乳幼児を持つ女性に対しては、必要とされる学習機会を提供するとともに、その機会を実際に活用できるようにするため、保育施設の整備などの社会的な条件の整備もあわせて措置される必要がある。このため、生涯学習センターや公民館等の学習機会を提供する施設において託児室、子どもスペース等の整備を進めるとともに、これらの施設でボランティアによる預かりサービスを受けられるようにすることが必要である。また、最近、幼稚園において、通常の教育時間終了後の預かり保育、専門家による子育て相談、子育て情報の提供、子育てシンポジウムの開催、3歳未満児の受入れなどの取り組みが行われるようになってきているが、これらの推進のため、今後とも一層の、行政支援も必要である。

●兵庫県伊丹市の女性グループ
  乳幼児の一時預かりをする保育所を運営するとともに、そこから発展して、さらに3歳児交友サークル「わわわくらぶ」を発足させ、保育所付きカルチャー教室講座を実施するまでに至っている。

(3)各種資格・検定等に係る学習支援

a.各種資格等の学歴要件等の見直し

 各種資格を国民にさらに開かれたものにするため、高度で専門的な知識・技術や経験を要するために特別の教育・訓練を必要とするものを除き、一定の学歴がないことのみによって、資格取得の道を閉ざすことは妥当ではない。学習成果を適切に評価し、個人のキャリア開発に生かしていくという観点からは、できるだけ学歴要件を除去することが求められる。
 大学入学資格検定の合格者は、高等学校卒業者と同じように大学入学資格が認められているが、各種の資格取得にあっては、その受験資格等が高等学校卒業者と同等には認められていないものもあることから、高等学校卒業者と同じように扱うことが望まれる。特に、公的な資格については、関係する省庁において、早急に実態把握の上、改善を図ることが望まれる。
 また、各種資格の受験要件に関しては、専門学校卒業者は短大卒業者に相当する取扱いを受ける例が増えているが、なお短大卒業者相当と評価されていない資格が見られることから、その見直しについて検討を行うことが求められる。

(専門学校卒業者の大学への編入学受入れの推進)

 専門学校の卒業者については、平成6年度に専門士制度が創設され、専門士の称号が付与されることとなった。また、平成10年6月に学校教育法等の一部が改正され、平成11年4月から一定の要件を満たした専門学校を卒業した者は大学に編入学することができることとされた。専門学校卒業者の大学教育への継続という要求に適切に応えることになること、専門学校が制度的に袋小路に到ることによる閉塞感を解消することになることなど有意義な改革と評価できる。
 このことに対応して、平成11年4月からの編入学に向けて編入学試験の中で専門学校卒業者も対象として実施された大学も若干あるものの、専門学校卒業者でさらに学習することを希望する者の要求に広く応えていくためには、今後この制度の定着が望まれるところである。
 大学関係者が、a.当該制度の趣旨・内容を十分に熟知し、学内の規則等の整備を進めること、b.専門学校教育についての理解を深め専門学校教育の成果を適切に評価すること、c.欠員が出た場合にのみ編入学を認めるのではなく、予め編入学定員枠を明確に設定することなどの方策が考えられる。このような点を考慮した各大学における対応を望みたい。

b.技能審査等の学校外での学修に係る単位認定の拡大

 青少年・成人が習得した知識・技能について、民間団体がその水準を審査・証明する事業のうち、教育上奨励すべきものを文部大臣が認定する制度として「文部省認定技能審査」がある。現在、実用英語技能検定、日本漢字能力検定など25種目の技能審査が認定されている。
 生涯学習の成果の評価に関する方策の一つとして、この文部省認定技能審査の合格に係る学修を大学、短期大学、高等専門学校、高等学校において単位認定することが制度化されている。また、平成11年3月に制度改正がなされ、高等学校に加え、大学等においても文部省認定技能審査の合格に係る学修だけでなく、各省庁、民間団体が行っている審査のうち一定の要件を備えたものについても単位認定できることとされたところであり、今後この制度の活用が望まれる。

(専修学校設置基準の改正)

 専修学校については、生徒に対する教育内容の充実に資するため、現在、他の専修学校において授業科目を履修した場合、一定の範囲内で当該専修学校での授業科目の履修とみなすことができることとなっている。また、同様の考え方から、専門課程については、生徒が行う大学・短期大学、高等専門学校における学修を当該専修学校における授業科目の履修とみなすことができることとなっている。
 今後、生徒の多様な学習ニーズに対応し、教育内容の一層の充実を図るためには、専修学校以外の学修のうち専修学校教育に相当する一定水準以上のものについても、専修学校の授業科目の履修とみなすことができるようにすることが必要である。
 また、大学については、平成10年4月から、多様なメディアを高度に利用して教室等以外の場で授業を履修させることができることとされている。
 このため、専修学校において、情報化の進展に対応し、多様な専修学校教育を幅広く展開することができるよう、多様なメディアを高度に利用して教室等以外の場で授業を履修させることができるようにするとともに、入学前における大学・短期大学、高等専門学校、高等学校における授業科目の履修に加え、公開講座、公民館等の社会教育施設における学修、認定社会通信教育、技能審査、ボランティア、インターンシップ、外国の学校等における学修の成果など専修学校以外の学修成果もできるだけ幅広く認められるよう、専修学校設置基準の改正を早急に検討していくことが必要である。

(4)学習成果の多元的な評価

a.ビジネス・キャリア制度等の活用促進

 ホワイトカラーの段階的・体系的な専門知識の習得を支援する「ビジネス・キャリア制度」※1は、個人のキャリア開発に有意義な制度であり、勤労者の企業間異動の際にも活用できるものと考えられ、その活用促進が期待される。
 また、国ばかりでなく、民間の業種別の団体などが、それぞれの業種に関わって、資格や技能審査の制度を開発、運営することが求められる。多様な評価システムが多元的に展開されることによって、人材の活用を促進することにつながるからである。それらについて、行政も国民に情報提供を行うなどして、その運用が活発になるよう積極的な支援が望まれる。

注)※1 担当する職務を適切に遂行するために必要となる専門的知識・能力の基準が体系的に定められ、これに沿って認定された講座を学習し、試験による学習成果を確認することで、ホワイトカラーの段階的なキャリア・アップを支援するシステム  

b.年齢制限の緩和

 新規学卒者の一括採用にあたり、ストレートでの進学を標準に、一定年限以上の浪人・留年を認めないような年齢についての制限的な扱いについては、緩和を望みたい。
 日本企業の新人採用にあたっては、学歴以上に年齢による制限の強いことが大きな弊害になっていると言われている。年齢へのこだわりは、採用する人材に多様な経験のあることを好まないことにつながり、学歴・学校歴志向と相まって一層ゆとりのない学歴競争を強いる要因ともなっている。年齢による制限をできるだけ緩和・撤廃し、試行錯誤ややり直しのきく、より自由なキャリア形成が行えるようにしていく必要がある。企業、官公庁などでのこうした面での採用システムの具体的な見直しが求められる。特に、教員については、各都道府県で採用する際、一定の年齢までとの制限があるところが多いが、社会での多様な経験を持った人材を広い範囲から選択することが大切であると考えられることからも、年齢制限を緩和したり撤廃することが望ましい。また、中途採用において、中高年齢者を排除する扱いもあることについて、職務経歴や職務を通して身につけた諸能力を重視する観点から再検討を願いたい。

c.学習の成果に対する企業等の評価の改善
1)評価の改善を図る

 生涯学習社会の実現のためには、いつでも、どこでも自由に行われる学習の成果が、企業や社会において適正に評価されることが必要である。このことによって、学歴・学校歴が個人の唯一絶対の評価軸と見なされるという従来の社会的な風潮を打ち破ることができる。また、多様な学習の成果が適切に評価されるようになれば、社会人の学習意欲も一層高まり、結果として学習の質が高まり、社会が学習成果に対して期待する度合いも増大することになる。そのためには、学習成果を評価するための社会的なシステムが必要になる。現在、そのためのシステムとしては、職業の内容や技術・技能の分野に応じて、各種の公的資格又は民間資格、技能審査、個々の企業における職務能力評価制度など様々ある。企業においては、これらの仕組みを活用することなどにより、資格取得をはじめとする自己啓発の成果に対し適切な評価を促進することが望まれる。
 現在、各企業においても、従業員の資格などの取得が企業の人的資源開発上意味をもつものとして、資格などの取得を奨励してきている。従業員が業務に関連するもののみならず、業務に関連しない場合でも、一定の学習を経て資格などを取得した場合(公認会計士、実用英語検定、情報処理技術者など)に、奨励金(合格祝金)を支給する企業は63.2%あり、人事上の対応で考慮する(人事記録に記入されるものから、配置転換や昇進・昇格に考慮されるものまでを含む。)企業は52.3%となっている(1998年度産業労働調査所調査による。)。このような企業による処遇は、社会人の学習意欲を高めるとともに、企業の人材育成や能力開発に大きな意味を持つと考えられることから、今後、様々な資格の実態等を踏まえた上で、企業による評価が一層高められるよう取組を進めることが期待される。
 また、企業等の人事管理において、これまでのように学歴・学校歴に偏らないで、個人の多様な学習の成果、知識・経験等がより的確に評価されるようになることが望まれる。そのためには、多様な能力を評価する仕組みとそれを積極的に運用しようとする態度を確立することが望まれる。それぞれの企業等が、学校歴などを偏重せず、企業等として独自で多様な学習成果を積極的に評価するようにすることが望まれる。既に一部企業においては、採用の際に、学歴・学校歴の書類を取らないとするところも現れてきているが、今後こうした傾向はさらに強まっていくものと見られる。

2)学習成果に互換性を持たせるシステムを作る
(個々人の学習成果の記録づくりをしよう)

 学習成果を様々な分野で活用する際の資料とするために、学習成果の評価サービスを行うことは、国による違いがあるとはいえ、最近の欧米では非常に発達してきている。
 例えばアメリカでは、大学の社会人対応が活発で様々な学習成果の評価が行われているが、それ以外にも継続教育単位が普及してきている。これは、成人学習者の継続教育や学習活動の成果を証明するための公的生涯学習単位である。また、近年はポートフォーリオ(書類などをまとめて挟む紙ばさみの意味)が注目されている。ポートフォーリオは、学校歴も含めた様々な学習成果の評価、社会的活動、職歴、表彰歴などを蓄積した個人の情報ファイルで、州によってはキャリア・パスポートという名称をつけているところもあり、州法で高等学校卒業者に支給を義務づけているところもある。
 ポートフォーリオはイギリスでも使われ始めたが、イギリスの場合には全国共通の学習達成記録(NRA:National Record of Achievement)が注目される。これは学校教育も含めた個人の学習成果の評価記録の全国統一様式で、我が国にはまだこのような仕組みはない。この記録には、資格取得には至らないような中間段階の学習成果の評価や取得単位も記載でき、記載内容は公的に認証されたもの、及び自己評価となっている。

(「生涯学習パスポート」-生涯学習記録票-について)

 我が国においても、自らのキャリアを開発し、学習成果を社会的活動、進学、就職、転職、再就職などに広く活用していくために、自らの学習成果を積極的にアピールし、社会的評価を求めることができるようにする必要が生じている。社会や企業の側にしても、その人の学習成果を確認する資料があれば、採用や登用の際にそれを活用することができる。そのようなことを考えると、これからは、個々人がそれぞれの学習成果の記録として、例えば外国のポートフォーリオのような「生涯学習パスポート」(生涯学習記録票)を作り、活用できるようにすべきであろう。
 これは個人の記録であるから、客観的な記録だけではなく、自己評価や自分自身についての記述を盛り込むことができるようにしておかなければならない。従って、それを例えば学校歴、学校外の学習活動歴、資格リスト、技能リスト、職歴、ボランティア歴、地域活動歴、自分の進歩についての自己評価、今後の抱負等を記載するファイルとすることが考えられる。その形式はまちまちでもよいが、標準的な様式を作り、各方面でそれを利用してもよいであろう。
 今後、我が国でも、青少年の頃からこのような「生涯学習パスポート」(生涯学習記録票)を持ち、学習成果の記録を積み重ねて、一人一人がその人ならではのキャリアを開発していくようにすべきであろう。また、社会の側も、学校の入学試験、官公庁・企業などの採用の際には、それを資料として活用したり、地域活動での人材登用、ボランティア活動などを行う際に積極的に活用するなど、生涯学習社会にふさわしい新たな仕組みを作ることが望まれる。

3)学習成果の認証システムを構築する

 「生涯学習パスポート」は、自己評価を基本とするため主観的な記載にならざるを得ない。それを評価する側からは、記載のうち学習活動そのものに係る部分について、第三者機関が事実確認をし、それを証明すれば、一層評価がしやすくなるとともに、生涯学習パスポート自体の活用も促進されることから、今後、生涯学習成果の認証システムについて具体的な調査研究を進めることが望まれる。(学習活動の事実確認とその証明、公示の機能を、ここでは認証と呼ぶこととする。)

(認証の必要性)

 生涯学習成果の認証システムが必要となる理由には、次のようなことが考えられる。

a)様々な地域での学習成果を全国どこででも活用できるようにするため

最近は都道府県、市町村の総合的な生涯学習支援システム(例えば、県民カレッジ)などで、単位や修了証によって生涯学習の成果を評価、認定するところが増えている。しかし、それが他の都道府県、市町村では通用しないため、広域的に学習成果の活用をしようとしても学習成果が他で認めてもらえないことから、それをどこででも活用できるようにすることが必要となる。

b)特定地域内での各種資格を広く全国どこででも通用するようにするため

特定地域内での各種資格(例えば、都道府県認定、商工会議所認定の資格など)も他の地域では通用しないものが多いので、それらを広くどこででも活用できるようにすることが必要となる。

c)社内資格を広く社会で活用できるようにするため

 企業の社内資格はその企業内でしか通用していないところであるが、今後その汎用性について分析し、社会での活用方策について検討することが必要である。また、例えばある社内資格を持っている人が、地域の地場産業へ転職して活躍しようとしたり、定年後にそれを生かして社会に貢献しようとして、その社内資格に付加価値をつける学習を行った場合には、その社内資格と合わせた学習成果として示すことができるようにすることも考えられる。

(認証を行うための仕組み)

 生涯学習成果を認証する仕組みとしては、次のようなことが考えられる。

a)学習成果の認証互換ネットワークとその拠点

 例えば、都道府県、市町村などが参加する学習成果の認証ネットワークを作り、その拠点として、次のようなナショナル・センター機能を整備することが考えられる。

  • 生涯学習成果の認証のための評価の互換・転換、累積加算の仕組みや基準の作成生涯学習成果の認証に関する情報の収集・提供
  • 生涯学習成果の認証に関する相談
  • 生涯学習成果の認証に関する調査研究
b)学習成果の認証互換のための換算基準

 生涯学習成果の評価の中には、学習時間数だけによるものや技能審査・技能検定のように試験だけによるもの、学校の単位のように学習時間と知識・技術等の習得の確認を合わせ行うものなど、様々なものがある。また、単位にしても、例えば県民カレッジをはじめとする生涯学習機関の出す単位は、1時間1単位、5時間1単位など様々である。それを互換できるようにするためには、換算基準(例えば生涯学習単位)を作り、ナショナル・センターやネットワークの連絡会議等で換算基準や互換についての調整を行っていくことが必要である。

c)生涯学習成果の認証

 学習成果の認証は、ナショナル・センターの作成した換算基準を使って、都道府県の生涯学習推進センター、市町村教育委員会等で行う。

(5)学習した者と学習成果を求める者を結びつけるシステムを作る

(インターネットによる学習情報提供システム)

 学習者が学習によって得た何らかの成果を地域社会の中の様々な活動に効果的に生かすためには、学習成果を提供しようとする学習者と活用の場・機会が適切にマッチングされることが必要である。これまでも、人材バンクが設けられ、学習成果の活用を図ることが試みられてきているが、必ずしも満足な結果が得られていない。
 このため、活用を促進する新たなシステム作りが求められる。このようなシステムとしては、学習者の生かしたい学習の成果や参加を希望する活動の内容・形態等を登録する「学習成果提供バンク」と、行政機関・企業・民間団体・グループ・個人などが学習者の学習成果を受け入れて実施しようとする事業内容・構想等を登録する「学習成果募集バンク」が整備され、これらがインターネットを通じて全国どこでも検索・活用できることが望まれる。
 現在、全国津々浦々で地域の子どもの体験活動機会や家庭教育支援活動に関する情報収集や提供、相談紹介を行う「子どもセンター」の設置が進められているが、将来的には、この情報収集・提供システムを全国どこでもインターネットを活用してアクセスできるようにすることが考えられる。そのようなインターネット情報提供システムにおいて、それぞれの地域において地域の「学習成果提供バンク」と「学習成果募集バンク」が整備され、学習者の生かしたい学習の成果と学習成果の受入内容に関する情報がインターネットを通して全国津々浦々で即座に手に入れられるようにすることが望まれる。

第3章 学習成果を「ボランティア活動」に生かす

1.なぜ、今、学習の成果を「ボランティア活動」に生かすのか

(1)ボランティアを志向する社会の進展

 我が国の近年におけるボランティア志向の高まりは、国民の間に、個人の経済的・物質的な利益を求める生き方ばかりでなく、他者のため、社会・公共のために積極的に自分を役立てたいとする意識が高まってきていることの証左である。
 ボランティアを志向する社会は、個人が、共同体社会への共感に立って、自主的にその営みに参加し、貢献することに価値を置く社会であり、こうした方向を促進することは、社会をより望ましいものへと変革していくことにつながることである。そのような意味で、人々のボランティア活動を促進していくことは、今後の我々にとって極めて重大な課題であるということができる。
 現代の社会は、少子・高齢化、国際化、情報化など社会状況の急激な変化の中で、多くの課題が複雑に広がっている。しかし、これら複雑・多岐にわたる様々な課題解決をすべて行政に頼ることには自ずと限界がある。山積する喫緊の課題に迅速かつ柔軟に対応するためには、国民一人一人が自己責任と信頼を基調とする自覚・自立した意識に基づいてボランティアの活動に積極的に関わっていくことが求められるところとなっている。
 また、国連は、21世紀にはボランティア活動が今世紀以上に活発化することを期待し、21世紀の最初の年である西暦2001年を「ボランティア国際年」とするとの決議を採択した。これを契機に、国際交流や国際的な場でのボランティア活動の展開が予想され、我が国のボランティア活動の一層の進展が期待される。
 ボランティア活動は、本来、志さえあれば誰にでもできるものであるが、実際に活動しようとすれば、活動にかかわる分野の知識や技術の習得のための学習が必要なものもあり、また、ボランティア活動に参加することによって、必然的にさらなる学習が発展することになるなど、生涯学習と密接な関係にある。ボランティア活動の促進と生涯学習の推進とは実質的に切り離すことができない関係にあると言って過言ではない。ボランティア活動は学習の成果を生かし、体験的にその成果を深める実践の場そのものである。
 したがって、ボランティアを志向する社会をさらに進めていくためには、人々のあらゆる場における学習活動を振興することが必要であり、それとともに、学習によって得た知識や技術などの成果を積極的にボランティア活動に生かすことができるような社会的なシステムを構築するなど、様々な施策を講じることが求められている。

(2)生涯学習によるボランティア活動の深化と発展

 本審議会の平成4年7月の「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」(答申)において、ボランティア活動と生涯学習の関係が明確にされたことにより、生涯学習の理念に支えられて、ボランティア活動に参加する人々が増えるとともに、その活動範囲も、例えば、学習活動やスポーツでの指導、公共施設での活動支援、自然環境保護や地域美化、国際交流・貢献など、極めて広範な領域に広がった。
 生涯学習の考え方においては学習を通じて自己を成長させ、社会に参加し自己実現を図ることが強く意識されるところから、ボランティア活動においても、他者のためであると同時に、自己のための活動でもあるという、意識の上での自然な融合が図られつつある。生涯学習によるボランティア理念の深化が見られる。
 今後、ボランティア活動を、それぞれの人々の志に沿う実りあるものに深め発展させるためには、ボランティア活動とこれに伴う学習活動を一体のものと捉え、誰でもが参加できるものとする雰囲気を醸成するとともに、積極的に生涯学習の成果を生かすようにすることが大切になっている。

(3)社会教育関係団体や民間非営利公益活動の進展

 社会的な要請に応えて、問題解決能力を持つ専門性や継続性のある活動を進めるためには、個人やグループによるボランティア活動が、専任の職員や必要な施設、設備、ノウハウなどを備えた民間の非営利の組織体(いわゆるNPO)による公益的な活動へと進展していくことが求められる。
 学習成果の活用を考える場合、個人としてのボランティア活動ばかりでなく、非営利の組織的な公益的活動に生かすことにも配慮することが大切である。
 今後、生涯学習社会の活性化のためには、社会教育関係団体はもとより、民間非営利の公益的組織が行政とのパートナーシップのもとに、自主的・自発的な活動を多様に展開していくことが大いに期待される。

2.学習成果をボランティア活動に生かすにあたっての課題と対応方策 -ボランティア活動の充実・発展のために-

(1)多様な活動の発見・創造

 ボランティア活動は、何かきまった活動が、どこかきまったところで、与えられるというものではない。ボランティア自身が、現実社会の中でその必要性に気づき、共感を持って創り出すものである。それぞれの個人の気持ちや都合に合った、多様でユニークな内容・形態の活動が豊かに発見され、創造されていくことが期待される。

●青森県平内高等学校「みちくさボランティア」
  高校生が学校からの帰宅途中、一人暮らしの高齢者の家に立ち寄って話をしたり世話をしたりする活動

●新潟県小千谷市立小千谷小学校PTA
  保護者が、PTA活動の一環として、担任の教員と協力して全学年全教科で授業の指導補助をする活動

●山形県YYボランティア
  高校生が近所の子どもたちと一緒に遊んだり、スポーツやラジオ体操をしたりするサークル活動など全国各地で今までにない新しい活動が芽生えてきている。

 図書館、博物館等の社会教育施設等においては、住民のボランティア受入れを社会的な責務として捉え、積極的に受け入れることが望まれる。ボランティア活動はある意味で生涯学習そのものであって、ボランティア受入れは、施設にとっては、学習者に学習活動の機会を提供するという施設の本来の目的ともいうべきものであり、施設の運営の活性化にも役立つと期待される。学習者にとっても、活動の場が広がるとともに、学習の場において学習成果の活用が図られることになり、学習を進める上で極めて効果的であるなどメリットが大きい。
 ボランティアを施設に円滑に受け入れるため、施設側の担当者の指名、ボランティア及び職員双方への研修の実施などが必要となってくるが、施設の設置者においては、規則などの整備のほか、受入れに必要な予算措置についても配慮することが必要である。
 そのほか、地方公共団体においても、新たな活動の場として、庁舎、郵便局、病院、駅などの公的施設やスポーツ競技大会等イベントの組織運営など、一層幅広いボランティア活動の場の開発が待たれる。
 また、ボランティア活動に対する多様なニーズに伴い、国内外で、比較的長期間にわたり、特定のボランティア活動に専従することを希望する者も増えており、その分野や内容も様々な形態になってきている。今後一層こうした活動に対する企業や関係団体による理解やそれに基づく支援等の広がりが望まれる。

●国際協力事業団の「青年海外協力隊」、●財団法人日本シルバーボランティアズの海外途上地域派遣、●社団法人日本青年奉仕協会(JYVA)の「ボランティア365」などがある。

 なお、ボランティアの無償性の原則の内容については、それぞれのボランティアが判断すべきことであるが、交通費、材料費、光熱費等の実費や食事代等の支給を受けるものも、その範囲内と考えることが一般的になってきている。そうした支援を受けても、ボランティア精神にもとるものとはいえない。むしろ、より多くの人達にボランティア活動を可能にするという意味で、ボランティアを励ましその活動を促すことになるものと考えられる。

(2)ボランティア活動のもつ社会的責任

 ボランティア活動は、志さえあれば、本来、いつでも、どこでも、誰にでもできるものである。しかし、ボランティア活動が無償の、他人や社会に貢献しようとする行為であるとはいえ、それが社会的な活動である限りは、ボランティア活動に対する責任や義務が問われるのは当然のことである。一人一人がボランティアの責任・義務について自覚を持って参加するという意識を醸成していくことが大切になってきている。
 そのために重要なのは、志や熱意ばかりでなく、受け手の気持ちへの配慮、活動を支える知識・技術の獲得や仲間との協調性ということであり、そうした学習も大切になる。
 ボランティアとしての責任を全うするためには、活動における安全管理の確保、危機回避のための手だての習得が特に大切であり、そのための学習機会が整備、提供されることが必要である。
 また、万一の事故に備えて、近年、多様な保険制度が創設されるようになってきている。個人が加入するものばかりでなく、市町村などの事業者が一括して加入するものなど、活動の形態に即応して、適切な保険を活用することが必要になっている。

(3)ボランティア活動についての自己評価の促進

 充実したボランティア活動を行うためには、第一義的に活動についての自己評価が重要である。ボランティア活動が誰のためでもなく、自分のために行うものである以上、当初の目的に比して結果はどうであったか、何が身についたのか、何が足りなかったのかなど自分で評価するのが基本である。受け手の評価も自己評価する上では次の活動の改善につなげることができるという意味で重要である。
 そして、しばしば、自分で自分の活動を評価してみることによって、それまで気がつかなかった自分の良さを発見するなど自分の成長を確認できることがある。そうした場合には、それを自分の中にとどめ置かないで、積極的に社会にアピールすることも大切である。自分に対する肯定感が新たな行動を切り開く自信をもたらすことにつながるからである。

(入学試験等における評価の促進)

 入学試験や就職試験においても、自己をアピールする一つの方法としてボランティア活動における学習成果を積極的に活用することが適当である。学校や企業としても、それらを多様な評価項目の一つとして、取り入れるようにすることが望まれる。
 平成9年10月現在で、大学入学者選抜(推薦入学を含む。)においてボランティア活動の経験を評価している大学は、国公私立併せて587校中188校(32.0%)となっている。
 また、平成11年度の公立高等学校入学者選抜では、ボランティア活動の評価について、全都道府県において、調査書の何らかの欄に記載することができる状況にあり、特にボランティア活動の名称を冠した記載欄があるのは13県となっている。
 入学試験が、当該学校の教育を施すに足る資質と能力を判定するためのものであることからすれば、ボランティア活動を通して得た学習の成果を、多様な評価の一つとして問うことは、ボランティア活動を重視する学校にあっては、当然のことといえよう。
 今後、大学、高等学校の入学者選抜においては、例えば推薦入学におけるボランティア活動の積極的な評価など広くボランティア活動の経験を評価するよう求めたい。
 また、企業においても、例えばボランティア活動の経験を評価して採用する枠を設けるなど採用における積極的なボランティア活動の評価が望まれる。

(4)ボランティア活動に対する共感の輪の拡大

 ボランティア活動を一層盛んにするためには、社会の様々な場において、ボランティア活動を互いに認め合い、それを社会的に表すことが大切である。
 ボランティア活動をすばらしいこととして賞賛したりすることはボランティア活動の本質になじまないとの意見もあるが、むしろ、ボランティア活動を奨励し、促進するために、社会の様々な場所において積極的に賞賛し、顕彰し、社会全体にボランティア活動への共感の輪を広げることが重要と考える。現に、多くの団体などで顕彰事業等が行われている。具体的な賞賛、顕彰の方法は、それを行う個人、団体、企業等がボランティアに対するそれぞれの基本的な姿勢を明確にする中で、検討、実施すべきものと考えられる。

●北九州ボランティア顕彰会
  北九州において、ボランティアとして社会に積極的に貢献し他の模範となるような個人・団体を顕彰し、また、日本病院ボランティア協会では、長くボランティア活動を続けた人に、協会として感謝の意を表することとし、協会加盟の病院ボランティア・グループの活動に対して、活動が100條ヤに達したときに、グループ代表からの申請をもとに選考し、「1000時間活動感謝状」を交付するなどしている。
(社会的な支援システムの整備ー行政による支援拡充)
)ライフサイクルに応じたボランティア活動のプログラム開発

 人生の各期の特性等に応じ、かつ、個人の興味や関心に応じた多様な活動の実践的なプログラム(活動内容、形態、活動先との連絡方法など)を早急に研究、開発する必要がある。教育委員会、社会教育施設などが中心になり、ボランティア団体や関係行政機関等とも連携をとって、プログラム及びその活動の場の開発を進めることが望まれる。

【学校において】

 小・中学校にあっては、将来のボランティアのための準備教育としてのボランティア教育を一層推進すべきである。道徳、特別活動等において活動体験を通して、ボランティア活動の意義、特質、喜びなどについて基本的な理解を得させる必要がある。
 高等学校については、学校外で行われたボランティア活動を、校長の判断により、当該高等学校の教科・科目の履修と見なして単位を与えることができるよう、平成10年4月に制度改正が図られたところである。平成10年度においては、ボランティア活動等に係る学修成果の単位認定を行った高等学校は、9府県20校で、平成11年度には、さらに多くの学校で実施される予定となっている。
 また、大学については、ボランティア活動を取り入れた授業科目を開設している大学は、平成9年度では全国で104校(全体の17.7%)で、学生の自主的なボランティア活動を正規の授業科目の中に位置づけて単位認定したことがある大学は、阪神・淡路大震災の際のボランティア活動の場合を除いて、全体の1.7%とわずかなものとなっている。
 高等学校・大学において、ボランティア活動を単位認定する場合の課題の一つとしては、単位認定の方式があげられる。学生・生徒のボランティア活動に対する単位認定については大学においては正規の授業科目の中に位置づける必要があるものの、教員が学生のボランティア活動の現場に居合わせておらず、活動そのものに対する評価が難しい場合が多い。このため、学生・生徒の活動後のレポート提出に加え、今後は、受入れ団体の協力を得ながら学生の活動そのものについて評価する方式なども研究される必要がある。
 さらに、大学が休学制度を活用して学生にボランティア活動に参加する機会を与えたり、正課外のものとして行われるボランティア養成講座を開設することも望まれる。

【成人において】

 成人にあっては、勤務の実態に即して無理なく行える多様な活動形態、職業上の経験や能力が生かせる活動の開発、地域での子育て支援など地域社会からのニーズに的確に応えられる活動の開発など、教育委員会が中心になって、企業や関係機関とも連携を図りながら、具体的なプログラムを多様に研究・開発していく必要がある。

【高齢者において】

 高齢者にあっては、子どもとの交流を通じて子どもを育成指導する活動、地域の伝統文化を次世代へ継承する活動、あるいは高齢者相互の介護活動など、高齢者の興味や関心に応じた活動の具体的なプログラムの開発が望まれる。高齢者が学校に関わる事業として、市町村が行う事業には、例えば、北海道東神楽町立東神楽町小学校での、地域の高齢者と学校教職員から成る「GTA」(祖父母と教職員の会)がある。児童と高齢者の異世代間交流の推進を目指して、運動会や学芸会などの学校行事に積極的に参加、学校農園での農作業指導をするなどしている。また、福岡県糸島地区ボランティア人材派遣事業では、糸島地区1市2町(前原市・志摩町・二丈町)教育委員会の共同事業で、地域で特技を持つ高齢者などを人材バンクに登録し、小・中学校や地域のグループに要請に基づき派遣して、様々な学習活動を支援している。ボランティアは学校の部活動において手話、編み物、英会話、リサイクル花器作りなどの指導を行うほか、授業においても、習字、読み聞かせ、絵画等の指導を行う。また、夏休みには親子手作り教室(手芸)を公民館で開催するなどしている。

)民間非営利の公益活動への支援促進

 特定非営利活動促進法の成立により、都道府県知事の認証により、社会教育、文化、芸術、スポーツ等教育・学習を推進する活動を行っている民間非営利の団体も、法人格の取得が可能になった。このことは、活力ある社会を創っていく上で大きな役割を果たす民間非営利団体の活動の発展に大きく寄与するものと期待される。今後、行政では、法人格取得のための必要な手続き等について、積極的に周知を図ることが必要である。
 民間非営利団体が充実した事業を円滑に実施していくためには、組織や事業の運営についての適切なマネージメントが必要になり、このための研修や養成プログラムの開発が望まれる。
 ボランティア・グループや民間非営利団体がそれぞれの活動目的を実現するためには、行政とのパートナーシップの確立が求められる。団体・行政とも相互の役割を理解し、信頼感の醸成を図り、お互いの立場を尊重しつつ、必要に応じ事業の協力や協同事業の実施を進めたりするなどして、パートナーシップを創り、深めることが大切になる。このため、よりよいパートナーシップの定着に関して必要な方策を検討することもこれからの課題である。
 その際、例えば福祉・教育・文化などの各分野を横割りにしたまちづくり、地域づくりのための連絡組織を作り、これを民間非営利団体として登録するなど、民間非営利団体の活動の拠点として公民館を活用したり、公民館が連携の要の役割を果たすなどの積極的な工夫も考えられる。

(5)生涯学習ボランティア・センターの設置促進

 ボランティア・センターは、ボランティア活動についての情報の収集・提供、相談、活動プログラム開発、調査・研究、研修・訓練、啓発、団体間の連絡調整、団体の組織化支援、団体への助成などの機能を持っており、ボランティア活動の推進に欠かすことのできない機関である。
 福祉の分野では、社会福祉協議会によるセンターが全国各地に整備されているが、生涯学習ボランティア・センターについては、整備箇所も少なく、また設置場所も教育事務所や社会教育施設などに開設され、非常勤の学習相談員などが配置されるに止まっているところも多いことから、必ずしもボランティア希望者のニーズに十分応え切れていない状況にある。
 今後、身近なところでの支援サービスが受けられるようにするため、各市町村ごとに、例えば公民館等の住民に身近な施設においてボランティア活動に関する情報の収集・提供や相談等を行う窓口としてのセンターが設けられる必要がある。また、都道府県レベルにおいても生涯学習推進センター等にその機能を担わせ、都道府県・市町村の間のみならず、国のセンターからのアクセスも可能となるよう、相互の連携について十分検討することが望まれる。
 運営に当たって、多様で流動的、非定型的なボランティア活動への円滑、かつ、適切な支援が行われやすくするためには、全面的に行政が行うのではなく、例えば、一部の事業を委託して実施するなどボランティア団体と行政との協議を通じた連携が有効と考えられる。
 市町村域のセンターは、社会福祉協議会のセンターや全国的なボランティア推進団体・センターなどと連携を保ち、人々の多様なニーズにも対応できるようにすることが大切である。
 なお、こうした生涯学習ボランティア・センターにあっては、近年様々な領域でのボランティア活動が盛んになってきていることから、それぞれの領域に共通する学習機会の提供という観点から、総合的な情報提供、連絡調整等を行い、全体としてのボランティア活動に貢献することも十分検討すべきと考えられる。

(6)ボランティア・バンクの構築

(全国ボランティア・バンクのネットワーク化)

 ボランティア活動へのきっかけづくりのためには、人々のボランティア活動に参加する動機づけを促進し、希望に沿った活動に結びつける機会を提供することが重要である。実際、各種の調査においても、ボランティア活動に参加しない理由として、「参加するきっかけがない」とか「活動の情報がない」といったものを挙げる人が多い。
 このため、ボランティア活動について適切な情報提供を行うという観点から、ボランティア活動を希望する人、特にこれからボランティア活動を始めようとする人に対しては、どこに問い合わせれば、希望するボランティア活動の情報が得られるか等の情報を提供することが必要である。
 そこで、ボランティア活動に関する情報提供・相談窓口を開設し、電話やインターネット等による情報提供および相談事業を実施することを検討すべきである。特に、これからボランティア活動を始めようとする人にとっては、どこに問い合わせればよいかわからないという声を多く聞くことから、まずボランティア活動に触れるきっかけとなる窓口を設け、その窓口から具体の活動に結びつく情報を提供するシステムを考えるべきである。そのため、全国的なシステムを整備する方策を検討することが望まれる。
 文部省が策定し、推進している「全国子どもプラン(緊急3ヶ年戦略)」においては、子どもセンターを全国津々浦々に整備し、地域の子どもの体験活動機会や家庭教育支援活動に関する情報収集、情報提供、相談紹介を行うこととしており、子どもセンターを通して地域のボランティア情報を提供することが可能となる。
 このことにより、先に述べたように、近年様々な領域でのボランティア活動が盛んになってきているという状況も踏まえ、関係する機関とも連携を図りながら、ボランティアの派遣や受入れ等の情報を提供している様々な分野のボランティア活動推進機関を紹介し、その機関ではどのような情報が得られるかについての情報提供を行ったり、相談に応じることにより、人々を希望するボランティア活動に結びつけることが可能になるであろう。
 今後ボランティア活動を一層広げていくためには、前述のインターネット情報提供システムにおいてこのようなボランティア活動も盛り込み、全国津々浦々で誰もが情報を手に入れることができるようにすることが必要である。
 また、国立婦人教育会館では、すでにWINNET(Women's Information NETwork system)と称して、女性や家庭教育に関するデータベースを構築し、ホームページ上で情報検索が可能となっていることから、今後、ボランティアに関する情報についてもこのシステムを活用した窓口を整備することが考えられる。
 さらにインターネットを活用して、ボランティア・センターに勤務するコーディネーター等の職員が互いに情報を提供し、交換する場としてこうした窓口を活用することも、今後大いに期待することができよう。

(7)ボランティア・コーディネーターの養成、研修

 適切で円滑なボランティア活動を実現させるためには、ボランティア活動を希望する人とボランティアを必要とする人の双方のニーズを総合的に調整し、マッチングする役割を持つボランティア・コーディネーターが重要である。希望者・受入れ先双方のニーズの把握、活動の場の募集・紹介・開拓、活動の調整、相談・助言等を行うボランティア・コーディネーターの役割を果たす職員は、生涯学習ボランティア・センターだけではなく、社会教育施設・公共施設など受け入れを行う施設、送り出す側である学校、企業などにも必要となる。
 コーディネーターの養成については、社会福祉分野では取組みが行われてきたところであるが、なお今後とも充実すべき課題であり、養成にあたる適格者が地域レベルではまだ十分人材が得られないという現状を考えれば、社会教育の関係機関・団体において、まず養成プログラムの内容・方法を確立し、養成プログラムの体系化を図る必要がある。その場合、考慮されるべき点としては、おおむね、a.ボランティア活動の今日的意義や生涯学習との関係の理解、コーディネーターの役割と倫理についての理解など  b.マッチングやその後の活動支援についての技術の獲得 c.グループ・団体の組織化、指導助言についての能力の獲得  d.関係団体、行政機関等との連携調整の能力の獲得 などがあげられる。
 なお、適切で円滑なボランティア活動を実現させるためには、ボランティアを受け入れる社会教育施設・公共施設などの職員に対するボランティア活動に関する研修等を充実することも重要である。

(企業による支援拡充)
)企業自身の社会貢献事業の推進

 企業においても、社会を構成する一員として、その人材や資金を活用して、積極的に社会に貢献することが責務であると考えられるようになってきた。また、このような社会貢献は、企業自身にとっても、人々に企業の設立の理念を理解してもらい、社会的なイメージを高める上でも価値のある活動であるとの認識が進み、芸術文化活動への支援を含め、企業の大小にかかわらず、全国各地で、ボランティア団体や民間非営利組織への様々な支援活動が展開されている。今後ともこのような支援活動の推進が望まれる。

)企業の社員に対する支援の促進

 ボランティア活動は個人の自発性と責任において行うものであるが、雇用主たる企業が、社員のボランティア活動への参加のために、ボランティア休暇を導入したり、ボランティア活動に関する情報を提供したり、活動体験の機会を用意したり、表彰制度を導入することなどは、職員のボランティア活動を促進する上で極めて有効なことであり、望ましいことである。

●財団法人勤労者リフレッシュ事業振興財団「勤労者のボランティア活動に関する調査研究」(平成7年3月)
  従業員が個人的ボランティア活動を行っている企業831社のうち、特別有給休暇(時間的支援)を与えているものが11.9%であった。

 また、この時間的支援については、大企業では休職・休暇等を認めるところが多いのに対し、中小企業では勤務時間内の活動を認める程度にとどまっている傾向がある。

●トヨタ自動車「ボランティアセンター」
  社員・家族・OBを対象に、ボランティア希望者の登録制度を運営し外部からの要請を登録人材に紹介し、地元小中学校の部活動への支援など活動の斡旋を行っている。

●ソニー「マッチング・ギフトプログラム」
  社員が、環境・文化・教育などの分野で公共活動をする公益法人に寄付した場合、一定の限度内において、企業もそれと同額の寄付を行うなどしている。

 国家公務員については、平成9年1月に、ボランティア休暇制度が法制化され、5日以内での休暇が認められることとなり、地方公務員についても、ほとんどすべての都道府県、約3分の1の市町村で同様の制度化が行われている。

 企業においては、全国の企業全体の約2%にあたる2000社でボランティア休暇制度を持つに至っている。今後とも休暇が取りやすくなるよう配慮するとともに、有給のボランティア休暇・休職制度の導入を図ることが望まれる。

●富士ゼロックス社「ソーシャル・サービス休暇制度」
  勤続3年以上の者を対象に、公募により毎年5名程度を、半年から最大2年の期間で賃金等の相当額を援助金として支給する。

●東京ガス「ボランティア休暇・休職制度」
  有給による5日間のボランティア休暇制度や勤続3年以上の者を対象に1月から2年のボランティア休職制度を運営している。

第4章 学習の成果を「地域社会の発展」に生かす

1.なぜ、今、学習成果を「地域社会の発展に」生かすのか

(1)学習者の学習成果活用へのニーズの増大

 地域において生涯学習が盛んになるにつれて、単に学ぶばかりではなく、学んで得た知識や技術などを地域社会の発展や地域の人々のために活用したいとする人たちが増えてきている。最近の福祉施設や社会教育施設などでの盛んなボランティア活動の実践、まちおこし事業やイベントなどへの広範な参加にそれが現れている。
 学習で技術・能力を高めてキャリア・アップを目指したり、新たな職業を求めたりする人々も少なくない。また、文学や音楽・美術、スポーツなどの文化・教養的、趣味的なものを学習する人も多いが、こうした人々の間にも、しかるべき学習の後、多くの人々の前でその学習の成果を披露し、また、他の人のために指導やアドバイスをしたりする機会を持とうとする傾向が強くなっている。そのことによってより深い喜びや充足感が得られるからである。さらに、学習活動を通して、同好の士としての仲間づくりが進められ、好ましい人間関係のネットワークが作られたりもしている。
 このように学習を通じて何らかの形で社会につながり、社会的な事業に参画したい、できれば社会のために貢献したいとする人々の意欲が高まってきている。生涯学習の行政も、学習機会の提供のみならず学習成果活用の促進を重視するようになりつつある。社会教育主事等の専門職員の役割も、自ら学習機会を提供することから、地域住民やその学習グループなどが行う社会教育活動に対する側面からの支援、コーディネートに大きな関心が向かいつつある。学習者が学習によって得られた成果を身近な地域社会でどのように生かしていけるようにするのかが社会的な重要課題となっている。

(2)生涯学習による地域社会の活性化の必要

 地域社会にとっても、住民の地域活動・事業への参加を促進して、地域社会の課題解決や活性化を図ることが今日的な課題になっている。
 今日、地域社会は都市化と過疎化の進行、住民の著しい流入・流出、地域行事の減少、地域意識の希薄化などにより地縁的なコミュニティとしての機能を衰退させてきた。このため、地方公共団体にあっては、地域住民の活性化や、特色・活力のあるいきいきした地域社会づくりが大きな課題となっている。この場合、次のような理由により、生涯学習の振興、特に学習の成果を地域社会に生かすことを促進することが、地域社会に活力を取り戻す上で、大きな役割を果たすものと期待できる。
 第一に、生涯学習が盛んであること自体が地域が活性化しているか否かを示す重要な指標であるとともに、生涯学習によって活力ある住民が育成されることにより、そうした人々のネットワークが他のすべての指標での活動の力強い基盤になり得る。
 第二に、現在、各都道府県・市町村が抱える、ごみ処理、自然・環境保護、介護・福祉など様々な現代的課題は、住民自らが学習し、理解し、主体的に関わろうとするときに初めて最も効果的な対処が可能となる問題であり、それだけに生涯学習の役割が大きい。行政部局のみでの対応は限界にあり、住民や民間の非営利公益活動団体等とのパートナーシップの必要が言われるようになってきており、その場合、生涯学習とそれによる社会参加は不可欠の要素になっている。
 第三に、地域づくりにおいては、施設などのハードよりも事業などのソフトの方が問題であるという認識が大勢になってきている。様々な領域での住民の活動の蓄積、人間関係の広がり、まちづくりのためのリーダー・支援者の養成が課題となってきており、生涯学習の役割が一層大きく認識されている。
 第四に、近年、地域社会はこれまでもっていた地縁的な共同体としての機能を大幅に弱体化させていることに伴って、地域の教育力の低下が危惧され、地域社会における教育の活性化の必要性が増大している。地域の教育力を高めるためには、地域ぐるみでの生涯学習の推進が極めて有効であることから、地域社会が生涯学習の推進を前提にした地域づくりを進めることが必要である。

(3)ボランティア・グループ等と行政とのパートナーシップの必要

 ボランティア・グループ、民間の非営利公益活動団体などが、行政との連携協調関係を保ちながら、地域の諸課題に応じて地域社会のために、自主的・自立的に様々な活動事業を展開しつつあり、相互のパートナーシップの大切さが認識されつつある。
 地域での学習機会の提供にあたっては、行政は、民間教育事業者の事業展開を踏まえ、行政でなければできない事業や特に社会的に要請の高い事業などを中心に計画することがますます必要になってきている。
 こうしたことから、地域の人々が学習し、その成果を生活の中で活用できるようにするために、地域社会が生涯学習の推進を前提にした地域づくりを進めることが必要であるし、地域社会づくり、地域の活性化のためには、生涯学習の振興と学習成果の活用の推進は欠かすことができないとの認識が広がっている。

2.学習成果を地域の発展に生かすにあたっての課題と対応方策

(1)生涯学習による地域社会の活性化の推進

 生涯学習による地域社会の活性化については、これまでも市町村において、臨時教育審議会第3次答申での提言に沿って、「生涯学習のまちづくり」を目指して様々な取組みが行われてきた。しかし、この提言の趣旨は、行政の各部局が連携しながら、まち全体で生涯学習に取り組む体制を整備していこうという「生涯学習のためのまちづくり」というものであった。このため、実際には、多様な生涯学習活動の実践に終わっているところが少なくなく、全体としては、必ずしもまちづくりという面で十分な成果を挙げてきたとはいえない。多様な生涯学習の展開にもかかわらず、学習成果を活用した地域づくりの活動につながっていないことにその原因がある。生涯学習がまちづくりと結びつくためには、学習の成果を身につけた人々がまちづくりの活動に参加していく必要がある。
 「生涯学習のまちづくり」にあたっては、「生涯学習のためのまちづくり」から「生涯学習によるまちづくり」への意識の転換が必要であるとともに、学習成果がまちづくりに生かされる仕組みが必要となる。地域の再生、地域社会の活性化そのものが問題となっている状況からして、また、生涯学習によってこそ最もよく地域社会の活性化が実現されるとすれば、一歩踏み込んで生涯学習の振興によって、とりわけ人々が生涯学習の成果を生かすことによって、地域社会の活性化、まちづくりを進めることに積極的に取り組む必要がある。

(行政、企業、民間団体等による全体的な取組を)

 このため、「生涯学習によるまちづくり」を行おうとする市町村の行政にあっては、それぞれのまちの事情に応じて、生涯学習の推進を基軸に特色あるまちづくりを構想し、それをもとにまち全体の基本計画を策定し、計画に基づく施策を各部局が総合的な観点から調整しながら連携して展開していくことが必要となる。この場合、地域づくりの構想、施策の企画・立案・実施の各段階において、学習者が学習成果を活用して、自発的に参加する機会を持つことができるようにする必要がある。また、地域社会づくりへの住民参加を呼びかけたり、持続的な活動を続けられるように学習グループの育成を図るなどするほか、部局間の連絡調整を行って全体的な取組みが行えるようにしなければならない。
 また、まちづくりには、行政ばかりでなく、その地域社会の構成員でもある企業や民間の各種の団体などの活力を生かすことも考える必要がある。バブル期以降、やや停滞しているとの感もあるが、イベントの実施、団体活動の支援など企業の社会貢献、文化事業も引き続き盛んに行われている。また、個人やグループの社会的な活動もますます活発になっており、行政においてはこれらのエネルギーを十分活用するようにする必要がある。
 住民の自主的な活動への意欲をどう引き出して、適切な活動の場をどう設けるか、参加を希望する人と求める人のマッチングが円滑・効果的に進められるよう、行政の枠を越えた総合的なシステムの構築が必要となる。

(学習成果の活用とまちづくりの推進)

 近年、地域学のなかでも、特に地域の住民がその地域の史跡を巡ったり、それを通して郷土の歴史について学習したりすることの要求が高まっている。学習者が学習の成果を史跡を訪れる観光客に対する歴史や由来の説明を行うという形で社会的な活動に活かす取り組みも多く見られるようになってきている。このような取り組みは、自らの学習活動の成果を身近な地域に還元する機会であるとともに、自らのまちへの地域意識を高め、愛着の念を高める上からも有意義な活動であり、ひいては今後の地域振興に大きな役割を果たすものと考えられる。さらに、後世にわたって遺産としての地域文化を次代へ伝承するためにも、子どもを連れて地域を巡ったり、子どもと一緒に学習したり、また子どもに語り聞かせるなどの交流をしたりすることも期待したい。

(「全国生涯学習市町村協議会」(仮称)の設置を)

 生涯学習によるまちづくりを着実に推進していくためには、それぞれの市町村による地道な取り組みが基本になるが、自治体間相互の連携推進、情報・人材交流が欠かせない。このため、それぞれで培ったノウハウや人脈を相互に交換して共有化したり、共同の啓発活動で住民の意識を盛り上げることをねらいとして、関係の自治体による「全国生涯学習市町村協議会」のような連絡、情報交流の場が設置されるよう提言したい。

(2)活動の場づくり

a.学校での活動参加
1)学校支援ボランティアの推進

 地域社会の重要な核である学校を、地域に支えられ、また地域に貢献するという「地域に根ざした学校」にするためには、学校をより開かれた存在にするとともに、地域住民による多様な学校支援ボランティア活動の充実が重要である。
 また、ボランティアによる学校支援は、学校の持つ閉鎖性を排除し、地域住民の学校への理解・共感を深めるためにも必要なこととなっている。さらに、平成14年度から施行される新学習指導要領の趣旨を生かして、学校においては、特色ある活動を推進し学校を活性化していくうえで、地域の人々にボランティアなどとして学校の場に参加していただく取り組みが重要となってくる。
 なお、こうした地域社会からの支援の受入れにあたり、学校の教員の意識改革はもとより、学校施設等のあり方の見直しも必要となる。学校開放事業の実質的な促進のための施設整備、余裕教室の活用によるPTAや地域の人々のためのスペースの整備、さらには、社会教育施設や社会福祉施設等との複合化なども前向きに検討されるべきである。
 学校支援ボランティアの例としては、次のようなものがあげられる。

(授業)
 郷土学習、環境学習、勤労生産学習などの学習において、地域の伝統芸能、自然環境などを教材化するとともに、地域の人々を指導補助者として授業に参加させることが行われるようになってきている。

●長野県阿南高等学校
  3年生の選択科目「理科Ⅱ」を「環境講座」と位置づけ、県教育委員会の社会人講師活用制度を生かし、地元の有識者、企業人、博物館の学芸員等から話を聞くなどして、野外観察から環境問題へと発展させる教育を行っている。

●新潟県小千谷市小千谷小学校PTA
  月1回程度の保護者の学習参加日(保護者が子どもとともに授業に参加、教員の指導補助を行う)や学級担任からの学習参加要請があったとき、教員のアシスタントとして、教材を作ったり、子どもたちと一緒に活動したりする。1年生の国語では読み聞かせ、音読チェックなど、2年生の算数では九九のチェック、5年生の家庭科ではミシン縫いの指導など、全学年、全教科において実施している。

(部活動)
 個々の学校ごとに、地域の指導者がクラブ活動・部活動の指導補助を行う例は少なくないが、最近は、学校の枠を越えて複数校でまとめて活動を実施する場合も出てきている。その際、多くの住民ボランティアが組織的に指導を担当するケースも出ている。

●新潟県長岡市
  小中学校の課外に、学年・学区の枠を越え、体育・芸術・言語の3分野で、教育委員会派遣の市民ボランティアにより指導が行われる。

●秋田県秋田市
  小中学校の正課のクラブ活動を学校の枠を越えて複数校で共同で実施する。学校のほか体育館・公民館等でも実施されており、市民ボランティアの多数の参加がある。

(特別活動)
 様々な学校行事等が地域の人々や団体の協力で実施されるようになってきている。

●千葉県習志野市立秋津小学校
  秋津まちづくり会議、連合町会と共催して「秋津小学校と地域の運動会」を実施している。学校では、余裕教室を改造して、地域の大人の学習団体「秋津コミュニティー」に学習の場「コミュニティールーム」を提供するが、この「工作クラブ」の父親達が、運動会で使う小道具を作成、提供している。

(学校図書館運営)
 学校図書館の管理・運営については、特に、ボランティアによる支援が求められており、地域住民や保護者により、児童生徒の読書活動の支援と併せて地域への貸出事業なども行われるようになってきている。

●栃木県鹿沼市「鹿沼図書館ボランティア」
  市教育委員会、市立図書館の支援を受けて、司書資格を持つ市民あるいは研修により必要な知識・能力を身につけた市民のボランティアが、学校図書館や公立図書館の要請に応じ、それらの図書館に派遣され、図書館の運営を支援している。

●愛知県西尾市立東部中学校PTA「図書館ボランティア」
  本好きのPTAの母親が、月曜から土曜の午後一定時間(夏休み中も30日間)、数名のグループで、学校の生徒や地域の人々への図書の貸出し、新着本や寄贈本の登録、図書の修理や整理、図書館環境の整備(ペンキ塗り、楽しむコーナー作りなど)、アンケートの実施、本の寄贈の呼びかけ、図書館ボランティア便りの発行、司書業務についての研修、学級活動の時間でのティーム・ティーチングによるブック・トークの実施などの活動を行っている。
2)特別非常勤講師制度の活用

 特定の領域において優れた知識・能力を持つ社会人については、教員免許を持たなくとも、特別非常勤講師として、教科の領域の一部やクラブ活動を担当することができるようになっている。
 平成10年6月の教育職員免許法の改正により、対象教科が一部に限定されていた小学校について、全教科を対象にするとともに、採用の要件も都道府県教育委員会の許可制から届出制に手続きが簡素化された。また、国は、この制度の活用を促進するため、都道府県に対し補助を行っており、これらの措置を通じてこの制度の一層の活用が望まれる。

3)PTA活動の新たな展開

 PTA活動を一層活発にしていくためには、保護者等が会員としての活動はもとより、関心のある分野の事業などを通して、保護者等の主体的な活動の場としてPTAに積極的に参加することが求められる。

●大阪市立平野南小学校PTA「親子ふれあい校内キャンプ」
  町会青少年指導員、PTAのOB・OGの協力を得て、1泊2日で、プール開放・水遊び、夕食の調理、キャンプファイアー、花火、ゲーム父親による工作教室などを実施し、講堂で宿泊するという事業。

●長野県伊那市立美篤小学校PTA
  4年生が授業で行った市内の用水路調査を契機に、親子での学習等を経て、PTAとして、昔あった桜並木を復活させようとの植樹運動を進めるようになった。地元の諸団体との協力により、並木の一部を実現させ、さらに、地域の住民、行政関係者の理解を得て大きな広がりを持つ活動に発展しつつある。

 このような、親子の触れあい、子どもたちの健全な育成、町の環境保護などPTA自らの問題、関心に応じて、ユニークな活動を生き生きと続けるところも決して少なくない。地域社会でのボランティア活動を進める基盤的な場として、積極的なPTA活動が展開されることが望まれる。

b.地域での活動参加
1)公民館等の講座・学級の住民参加型の自主的な企画・運営

 従来は、社会教育施設の専門職員が講座を企画し、また、自ら指導者として講義するものも少なくないなど、学習者が受け身で学習することが通例であった。しかし、最近では、学習者が自らが委員会を作って、学習プログラムの全体を企画したり、講師などを選定したりするなど、住民による参加・企画型の市民講座等がでてきている。また、公民館等での学級・講座を住民の個々の小さな学習グループごとの希望によって編成する個別運営型の講座などもある。
 今後、行政は、行政課題に応じて自ら企画・計画する事業のほか、事業の企画・広報を行う委員会の委員や運営スタッフ等に住民の参加を求めるなど、参加者が学習成果を生かして実際に活動を行うような事業の実施にも積極的に取り組む必要がある。

●墨田区の「すみだ生涯学習センター」
  区民からなる学習推進委員会がセンターの学習事業「下町コミュニティーカレッジ」の100以上の講座をすべて企画し、講師を選び調整し実施している。

●福岡県宗像市の「市民学習ネットワーク」事業
  他薦により認定講習を受けて登録された市民ボランティアを講師に、市民が少人数で身近な場所で行う学習を行政が支援するもの。学級の開設は、事務局が予め広報誌で講師・場所・時間を定めて学生を募集するもののほかに、5人以上の学習グループが事務局に申込み、紹介された講師と相談して場所・日時が決まったら学級として成立するというものもある。

●富山県「県民カレッジ自遊塾 県民教授制度」
  県民が自己推薦により教授となり、自分の学習の成果を生かした内容での講座を企画し、自ら講座を運営する。主として職業人を対象に、共同学習と異文化交流の場を提供することをねらいとする。県内の文化会館、公民館、レストランや喫茶店などで自由に行われる。
2)地域ぐるみの組織的活動

 PTA、自治会など地域の様々な団体が集まり、地域ぐるみで、子どもの健全な育成のために、学習し、その成果を生かした活動が求められている。

●川崎市「地域教育会議」
  中学校区ごとに、PTA・子供会・町内会等の代表者、住民委員(教育に関心を持ち、地域の人々の推薦で参加する)、教職員、子ども文化センターや市民館の職員などから成る会議体で、市民の教育に対する意見を、行政や学校、青少年団体等に反映させるとともに、地域の学習・教育についての人々のネットワークを作ることに努めている。「教育を語る会」の開催、学校での行事への参加、広報誌の発行、地域の教育への住民のニーズの調査なども行う。
3)地域の子育て支援ネットワーク

  核家族化の進展や地縁的つながりの希薄化などを背景に、地域の親たち相互の子育てのための支援活動が行われるようになっている。その際、地域の子育ての経験者やお年寄りなどが、子育てについての悩みやストレスを解決するため、大きな役割を果たすことが期待されている。

●東京都杉並区「地域子育てネットワーク事業」
  学校をはじめ児童館、保健所、出張所、青少年育成委員会、民生児童委員、町会・自治会、商店会、PTA、母親クラブ、自主グループ、ボランティア等多くの機関・団体とネットワークを組み、a.子育てを通じた人と人とのつながり作り、b.子育て情報の交換・提供、c.子ども自身のネットワーク参加、d.行政機関を開かれたものへ、e.個別ケースでの連携対応、f.行政部門間の連携を進めることを行っている。

●岐阜県「地域子育て支援システム」
  子育てを終わった女性を「コミュニティーママ」として位置づけ(登録制)、a.保護者の病気に伴う子供の世話、b.保育所の保育時間前後の子供の世話、c.保育所への送迎、d.妊産婦家庭の家事、e.学校放課後の児童の世話、f.育児相談などの子育て支援を行う。
4)青少年の健全育成のための社会教育事業

 特に最近、青少年の非行問題等が憂慮される状況となっている。これに対しては、様々な対策を講じる必要があるが、中長期的には、子どもたちに自然の中での遊び、体験活動、サバイバル体験などを重ねさせることの教育上の有効性も指摘されるところとなっている。
 従来、これらの活動は、いつも特定の同じ大人が指導者となって行われてきたが、今後は、これまで子どもたちの活動にかかわりがなかった地域の様々な大人や学生たちが、それぞれの学習活動の成果を生かして、活動の指導者やリーダーとして気軽に参加することができる環境づくりが必要である。このことにより、新たな子どもたちの体験活動プログラムが展開されることとなる。

(3)学習成果についての様々な評価システムの促進

 学習成果としての知識・技術について客観的評価や証明のシステムがあれば、人材を登用したり、活用したりする際のてがかりになり、学習者として自らの成果の活用につなげられることは確かである。また、学習成果が広く社会的にも適切に評価され、活用されるようになれば、結果として、学歴偏重といわれてきた社会的な弊害も緩和されることが期待される。
 現在でも、公益的な団体・協会等において、関係する学習分野の領域に応じて、何らかの評価の仕組みが運営され、それによって学習者が地域社会での活動に参加しやすくなっている例がある。学習者にとって資格取得が地域での活動を促進し、その活動が新たな学習への意欲を生み出し、さらに高度な学習へと発展していく好ましいサイクルが展開している例もある。

●全国生涯学習まちづくり研究会「地域アニメーター制度」・「まちづくりコーディネーター制度」
  地域でのまちづくり・生涯学習での中心的な活動をする人や指導者に対しての認定評価制度。全国で開催される認定講座(教育委員会などの既存の講座・学級が認定されることもある)を受講し、所定の課程を履修し、実践活動のレポートを作成し、審査に合格することが必要な要件。
  認定後は、本研究会や地方公共団体等で行う各種研究大会、研修会、イベント等で運営者、司会、助言者、発表者として活動することとなる。

●財団法人社会通信教育協会「生涯学習インストラクター」認定制度
  当協会に加盟する団体が行う文部大臣認定の社会通信教育講座を受講・修了した者でその団体の長の推薦を得られた者に、協会の資格認定審査会が審査の上、資格を付与し、人材バンクに登録される。登録名簿は、都道府県教育委員会などへ配布され、教育委員会等で行われる学級・講座などの指導者として活躍できる。

●社団法人全日本ピアノ指導者協会「ピティナ・ピアノステップ」
  ピアノ演奏能力を導入から発展へと全23ステップに段階構成し、発表会での演奏を専門家のアドバイスや成績評価をもとに、段階的な能力の向上に励むシステム。各ステップの成績評価や合否判定は希望者のみに行われることから、自己評価の側面も持つシステムとなっている。

 いずれにしても、行政自身が直ちに学習者の学習成果や能力を一般的に評価することは実際上難しいところから、行政としては、それぞれの分野において行われる団体等の独自の能力評価のシステムを支援し、それぞれのさらなる向上を期待するとともに、希望する学習者に対し、そうしたシステムのあることを情報提供したり、学習成果のある人を受け入れる意向のあるところに能力評価の一つとして活用しうることを紹介したりすることが適当であると考えられる。

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生涯学習局生涯学習振興課

-- 登録:平成21年以前 --