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第1章 検討の視点

 近年、初等中等教育及び高等教育それぞれの改革が進む中で、今後我が国の教育はいかにあるべきか、特に初等中等教育と高等教育の役割と接続の在り方はいかにあるべきかを検討することが、本中間報告の課題である。本章では、まず本中間報告における検討の視点を示すこととしたい。

第1節 戦後半世紀の教育の発展とその課題

 戦前においては、尋常小学校で6年間の義務教育の終了後、旧制中学校、高等女学校、実業学校、高等小学校に分かれて進学する「複線型」の学校制度を採用していた。

 戦後の学制改革は、中等教育段階の諸学校を3年制の中学校と3年制の高等学校とに統合・整備し、幼稚園、小学校6年、中学校3年、高等学校3年、大学4年という学校制度、いわゆる「6・3・3・4制」を採用した。これと併せ、義務教育期間が、小学校6年間と中学校3年間とを併せた9年間に延長されて、前期中等教育が義務化されるとともに、基本的に全員に単一の学校系統を用意するいわゆる「単線型」の学校制度が採用された。

 これにより、すべての児童・生徒が前期中等教育を受けることとなった。また、後期中等教育段階の諸学校が高等学校に一本化され、制度上も、高等教育への進学の機会が広く開かれた。さらに、高等教育機関についても、旧制高等学校、大学予科、旧制専門学校、師範学校等が旧制大学と併せて四年制大学に統合された。なお、旧制専門学校のうち四年制大学に転換しなかったものは、暫定措置として修業年限2年又は3年の大学を設け、短期大学と称することとなった。

 この新しい教育制度の下に、我が国の教育は、人格の完成を目指すことを基本として、機会均等の理念を実現しつつ著しい普及発展を遂げ、科学技術の進歩や経済の高度成長の原動力となって、我が国社会の発展に大きく寄与してきた。

 この間、我が国の高度経済成長を担う人材を育成するという観点から、昭和37年に実践的技術者を養成するための高等専門学校制度を創設し、単線型の学校制度に部分的な変更を加えた。また、昭和39年には短期大学が恒久的な制度として学校体系の中に位置付けられた。

 昭和40年代に入ると、教育の大衆化の促進、技術革新の急速な進展と社会の複雑化等を背景に、教育の多様化が求められるなど、教育改革に対する要請が高まり、中央教育審議会は46年に学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について答申し、初等中等教育から高等教育に至る多岐にわたった改革に関する提言を行った。

 さらに、昭和50年代の後半に入り、校内暴力、青少年の非行等の増加、学歴偏重の社会的状況等の問題から、教育の在り方全般について、見直しの必要性が指摘されるようになり、こうしたことも背景に59年に臨時教育審議会が設置され、広く教育に関連する社会の諸分野に係る諸施策を含めて、総合的な検討が行われた。

 臨時教育審議会は、昭和59年から62年にかけて、教育改革について4次にわたる答申を提出し、教育全般にわたる改革を提案した。答申では、改革の視点として個性重視の原則、生涯学習体系への移行及び国際化、情報化等変化への対応を掲げた。学校制度に関しては、6年制中等学校の設置など、特に中等教育段階の多様化を提言している。

 現在進められている教育改革は、これら臨時教育審議会答申及びその趣旨を踏まえた中央教育審議会をはじめとする各種審議会の答申に沿ったものであり、児童・生徒一人一人の個性や能力を生かす教育システムや、生涯にわたって能力・適性、意欲・関心等に応じて学ぶことができる生涯学習社会の実現などに向けて、様々な改革を進めてきたところである。

 学校制度に関しても、臨時教育審議会の6年制中等学校制度についての提言及び中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第2次答申における中高一貫教育の選択的導入の提言を受けて、平成11年に中等教育学校制度が創設され、児童・生徒の多様化に即した学校制度の多様化が進められている。

 戦後の教育改革は、後期中等教育の大規模な量的拡大をもたらした。昭和15年における旧制中学校への進学率は約7%で、高等女学校等を含めても約25%にすぎなかったが、新制高等学校に対する進学需要は高く、昭和25年には進学率が40%に達した。昭和29年に50%を超え、高度成長期には更に上昇して40年に70%、49年には90%を超え、平成11年には97%に達している。今日では、高等学校は実質的に国民皆教育機関とも言うべきものとなっており、多様な能力・適性、意欲・関心を有する生徒を中学校から受け入れている。

 他方、後期中等教育の量的拡大と歩調を合わせ、高等教育の量的拡大も進展した。ただ、高等教育の量的拡大は、後期中等教育のそれとは異なり、直線的な増加ではなかった。

 まず、昭和20年から35年前後の時期は、四年制大学・短期大学への進学率は10%前後、四年制大学のみの進学率は8%前後にとどまっており、この段階の高等教育は、戦前と同様、一部の者が受けるにとどまっていた。

 このような状況が大きく変化するのは、昭和35年前後から50年前後の高度成長期である。昭和35年には約10%であった四年制大学・短期大学への進学率は、45年に24%となり、さらに50年には約38%に達した。四年制大学のみの進学率も、昭和35年の約8%から45年の約17%、50年の約27%にまで達している。

 しかし、昭和50年頃から平成2年頃まで、四年制大学・短期大学への進学率は伸び悩み、58年には、四年制大学・短期大学への進学率は約35%に下降している。四年制大学のみについても、約24%に下降している。

 一方、昭和51年には、専修学校専門課程(専門学校)が新たに高等教育機関として位置付けられることとなった。

 四年制大学・短期大学の進学率は、平成2年頃から再び上昇を始めた。平成2年には、四年制大学・短期大学への進学率は約36%であったが、11年には約49%にまで上昇している。さらに、四年制大学のみの進学率も平成2年には約25%であったものが、11年には約38%にまで上昇した。高等専門学校、専門学校も含めた高等教育機関全体で見ると進学率は平成2年には53%であったものが、11年には69%にまで上昇し、今日では、同世代の3人に2人以上が高等教育を受けているという状況が出現している。

 また、大学院については、戦後徐々に規模が拡大されてきたところであるが、特に、平成3年の大学審議会「大学院の量的整備について」の答申において、12年の大学院の規模について「全体としては、少なくとも現在(平成3年)の規模の2倍程度に拡大することが必要である」と提言されたことを受け、大学院の目的にこれまでの研究者の後継者養成に加えて、高度専門職業人の養成を加えて、大学院の規模の大幅な拡大が図られてきたところである。大学院の在学者は、平成11年5月現在で、191,125人(修士課程132,118人、博士課程59,007人)であり、3年の98,650人(修士課程68,739人、博士課程29,911人)に比べ、1.9倍の規模へと急速に拡大している。

 このような教育の量的拡大は、教育の機会均等に寄与するとともに、国民の教育水準を高め、我が国経済社会の成長と発展に大きく寄与した。一般に経済水準と教育の普及度との間には相関関係があり、就学率が高い国ほど一人当たりの国民総生産も高いと言われている。我が国経済社会の成長と発展には、文教政策も大きく寄与したと評価することができる。また、高等教育についても、これほど多くの国民が高等教育を受ける機会を持っている国は、アメリカなど少数である。

 しかし、一方では、進学率の上昇等に伴い、多くの国民が好むと好まざるとにかかわらず「受験競争」に参加せざるを得ない状況となった。特に、高度成長期における大学等への進学率の上昇の際には、進学需要の高い伸びを背景に、「過度の受験競争」に多くの子供や親がかかわるという事態が出現し、以後、このような事態が続いている。戦前においては、一部の者がかかわるにすぎなかった「受験競争」が、戦後、進学率の上昇等に伴い多くの国民の問題となったのである。

 しかも、周りの大多数の者が高等学校あるいは大学に進学するような状況になった結果、後期中等教育や高等教育を受けることが特別のことではないとの意識が広まっている。この結果、個々人にとって、後期中等教育、高等教育への進学が主体的な目的意識に従ったものというよりも、本人の意志とかかわりなく、取りあえず進学しなければならないものと映る面もあるように思われる。

 現在では、進学率が上昇する一方で、「少子化」による18歳人口の減少も進んでいる。このため、短期大学では、平成11年に入学定員の総数が入学者の総数を上回るという事態となっており、近い将来には、四年制大学でも同様の事態が生じることが予想される。大学入学志願者全員がいずれかの大学に入学できる事態が生じれば、入学者選抜の意味が大きく変化し、高校生の勉学意欲が減退するのではないかといった指摘や、いわゆる「学力低下」のおそれがあるのではないかといった指摘もなされている。また、「学(校)歴偏重社会」が形成され、我が国の教育や社会に様々な問題を生じさせたことも指摘されている。

 臨時教育審議会の第1次答申(昭和60年)では、「学歴社会の弊害」、あるいは「学歴偏重社会」の問題点として、個人に対する評価が、「何をどれだけ学んだか(学習歴)」よりも「いつどこで学んだか(学校歴)」が重視され、しかもそれが個人の価値、能力や個性の評価にまで影響を及ぼしていることが問題であると指摘されている。

 中央教育審議会でも、同様の認識から、「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」の答申(平成3年)において、我が国特有の問題として「学校歴」意識を取り上げ、我が国において人間評価が形式的な学歴に偏っている状況があると指摘している。また、同答申では、我が国では、他人と同じ存在であろうとする「人並み意識」を背景に、同一路線上で、わずかの差が過度に重視されることとなる「学校歴」獲得競争が行われてきた、と分析してきた。

 しかし「学(校)歴偏重社会」は、企業活動のグローバル化、国際競争の激化等の社会、経済の変化の中で変わろうとしている。

 企業が採用の際に重視する項目に関する調査を見てみると、文科系・理科系共に「出身学校」と答える企業は少数であり、「熱意・意欲」、「協調性・バランス感覚」、「創造性」を重視するといった回答が多く、理科系の学生の採用の際には、これらに加え、「専門的知識・研究内容」との回答が多い。

 学歴間賃金格差についても、平成4年時点で、高卒者の賃金を100とした場合の大卒者の賃金は125となっており、賃金面での格差は、他の先進諸国のそれと比較して小さい。

 これらの調査から、我が国の企業等の採用・処遇の実際において「学(校)歴偏重」の度合いは、これまで考えられてきたほど大きな意味を持つとは必ずしも言えない。さらに、上に述べたような環境の変化の中で、企業等においては、形式的な「学(校)歴」がもはや形骸化し、実質的な意味が失われつつあるにもかかわらず、一部の社会的威信の高い大学(いわゆる「よい大学」)への進学を目指して幼少期から受験勉強をさせる例もまだ少なくない。

 また、国民の「横並び意識」が強い我が国では、同世代の大多数が何らかの形で高等教育機関に進学するようになったとき、自発的・主体的な選択に基づかない進学が多くなるおそれがある。「みんなが(大学に)行くから、自分も行く」という人々の意識が変わっていかなければ、個人の多様な能力・適性、意欲・関心等に基づく主体的な進路選択が十分に行われないおそれがある。

 このため、「いつどこで学んだか」が重視される「学(校)歴偏重」の社会から、「何をどれだけ学んだか」を評価する社会にならなければならないとの指摘が従来からなされている。生涯学習審議会の「学習の成果を幅広く生かす-生涯学習の成果を生かすための方策について-」の答申(平成11年6月)でも指摘されているように、だれもが、社会の中で生き生きと自分を生かすことができるようにするためには、いつでもどこでも学ぶことができ、その成果を生かすことができるような社会でなければならない。そして、自分の本当に望むところを明確な目的意識に基づき主体的に選択できるようになっていなければならないのである。

 もちろん、近年、国民の価値観は次第に変化してきており、必ずしも高学歴志向ではなくなっているのではないかとの意見もあるが、この問題については、更なる国民の意識改革が必要であると考える。

第2節  検討課題

 以上見たように、昭和50年以来、約35%で安定的に推移してきた大学・短大への進学率は平成3年ごろから上昇局面を迎え、11年には49%にまで達している。このような四年制大学・短期大学への進学率上昇の傾向は、国民の幅広い大学への進学希望と少子化の進行等により、当分の間、進んでいくものと考えられる。一方、臨時教育審議会の答申を踏まえて進められてきた教育改革により、高等学校の多様化が進んでいる。今後も、新学習指導要領の実施による選択幅の拡大に伴い、高校教育の多様化が一層進行し、これまで以上に多様な能力、履修歴等を有する学生が大学に進学してくることが予想される。このような状況を踏まえると、「接続」の課題として、次のようなものが考えられる。

(1)「自ら学び、自ら考える力」と「課題探求能力」の育成を軸にした教育

 今後は、生涯の各時期にわたって、いつでも学習できるような環境や条件を整備するとともに、初等中等教育段階にあっては、知識の一方的な教え込みではなく「自ら学び、自ら考える力」の育成、高等教育段階にあっては、初等中等教育段階で身に付けられた「自ら学び、自ら考える力」を基礎として「課題探求能力」の育成を図ることが重要である。

 具体的には、初等中等教育については、平成14年度から(高等学校については15年度から)新学習指導要領が実施されることを踏まえ、個人として国家・社会の一員として社会生活を営む上で必要な基礎・基本の習得を一層徹底するとともに、新たに創設される「総合的な学習の時間」を生かすなど、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、より良く問題を解決する資質や能力を育てることが肝要である。

 また、高等教育については、学部段階では、初等中等教育段階において身に付けられた「自ら学び、自ら考える力」を基礎に、主体的に変化に対応し、自ら将来の課題を探求し、その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力である「課題探求能力」の育成を重視するとともに、専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力等を培うことを基本とする。これと併せ、幅広く深い教養や高い倫理観、特に職業倫理の基礎となるべき部分を育成することも求められる。大学院段階においては、専門性の向上を行うことを基本とし、研究者養成とともに、高度専門職業人の養成をも重視した教育を行うことが重要である。また、研究者、高度専門職業人としての職業倫理を併せて育成することが求められる。

 生徒、学生の多様化、高校教育、大学教育の多様化の進展の中で、高等教育段階において高度専門職業人としての職業倫理をどのように育成していくのかについての検討が必要であり、第2章及び第3章においてこの課題を扱うこととする。

(2)後期中等教育段階における多様性と高等教育段階における多様性との「接続」

 進学率の上昇により、多様な能力・適性、意欲・関心を有する生徒が進学してくることとなった高等学校においては、これに対応して、選択幅の拡大等その教育の多様化、個性化が進められてきたところである。平成15年度から実施される新しい学習指導要領においても、履修教科・科目の多様化が更に進展することから、今後、生徒の能力・適性等の多様化はより一層進むものと考えられる。

 一方、大学側においても、大学進学率の上昇により、これまで以上に多様な能力・適性等を有する学生が大学に入学してくることが予想される。

 このような多様な能力・適性、意欲・関心、履修歴を有する学生が大学に進学していることを踏まえ、高等学校における進路指導や学習指導、大学の教育内容、教育方法等もこれまで以上に生徒・学生個人に応じたものとなるとともに、両者の連携を図りながら個人の能力の伸長を図ることが求められる。こうした観点から、後期中等教育と高等教育との連携の在り方について検討する必要がある。このことは、結局、後期中等教育の多様性と高等教育の多様性との間の円滑な「接続」をいかに図るかという問題である。第4章においてこの課題を取り扱う。

(3)大学と学生とのより良い相互選択を目指して

 平成9年の中央教育審議会の「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の第2次答申においても指摘されているように、大学入学をめぐる競争については、少子化に伴い、入学定員の総数と志願者の総数との関係からは、全体として緩和されるものと考えられる。大学審議会の試算によれば、臨時的定員の半数を解消した場合、収容力(入学者数を全志願者数で除したもの)は平成21年度には100%に達し、理論上、大学進学を希望する者はいずれかの大学に入学できるようになると見込まれている。もちろん、希望者の多い特定の大学への入学をめぐる厳しい競争は依然として残るものの、「受験競争」は全体として緩和される方向に進むと考えられる。その際、多様な能力・適性、意欲・関心等を有する学生が自らの進路希望等に応じて大学を選択するという側面がより強くなることが予想されるところである。

 このような動向を踏まえ、これからの大学入学者選抜の在り方としては、大学側のそれぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った学生(求める学生)を見いだそうとする取組と、学生側の自らの能力・適性等に基づく主体的な大学選択との相互の選択を、いかにマッチングさせるかという観点が重要となる。また、「課題探求能力」の育成等、大学入学後の教育で育成すべき力との関連性を十分に意識した改善を行う必要がある。これからの選抜の在り方や接続を重視した具体的な改善方策等、大学入学者選抜の改善について検討を行う際には、このような状況を踏まえる必要がある。第5章においてこの課題を取り扱う。

(4)主体的な進路選択

 中等教育終了後の進路の選択肢は今後一層多様なものとなる。進学する場合にも専門学校から大学まで幅広い選択肢が用意され、大学も一層多様化していくものと考えられる。このため、中等教育段階を通して、生徒が自己の能力・適性を自覚できるような進路指導を行い、将来への目的意識を明確にした上で、主体的に進路選択を行っていくようにすることがますます重要となる。特に、大学に進学する場合は、単に、偏差値を指標として「入れる大学」に入学するという姿勢ではなく、自分の将来の進路・職業を長期的に展望した上で、自己の能力・適性、関心等を最大限生かすことのできる「入りたい大学」を選択することが求められる。こうした選択こそが、70年から80年に及ぶ生涯を有意義なものとするために、有益かつ有効であることを認識する必要がある。

 また、学校教育と職業生活の円滑な接続を図るため、望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育(キャリア教育)を発達段階に応じて実施する必要がある。また、今後の高度化、複雑化する経済社会、専門化する職業に対応して、社会人の再教育の場として大学が機能を発揮することが求められる。第6章においてこうした学校教育と職業生活との接続の課題を取り上げる。

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