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(5)いじめ・登校拒否の問題

21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(中央教育審議会 第一次答申)

第1部 今後における教育の在り方

[1] いじめ・登校拒否の問題の背景

 今日、最も解決に向けた取組が求められている教育上の課題として、過度の受験競争の問題と並んで、いじめ・登校拒否の問題がある。
 現在、憂慮すべき状況にあるいじめや登校拒否の問題の背景については、家庭・学校・地域社会のそれぞれの要因が複雑に絡み合っていると考えられるが、深く現代社会の在り方そのものともかかわっており、この問題は、我々の社会全体に投げかけられた大きな課題と言っても、過言ではない。
 現代の日本社会は、物質的には豊かになったものの、人間関係が希薄化する傾向にあるという問題、家庭や地域社会における教育力が低下しているという問題、学校が子供たちの多様な実態に十分対応できていないという問題など、様々な問題を抱えている。そうした中で、子供たちについては、生活体験・社会体験・自然体験、異年齢の者との交流、社会性が不足しているのではないか、他人への思いやり、生命や人権の尊重、正義感や遵法精神等の基本的な倫理観が十分養われていないのではないか、自己抑制力、自立心等の生活態度にかかわるしつけが十分なされていないのではないか、ストレスを抱えているのではないか、など様々な問題が懸念されており、これらがいじめ・登校拒否の問題の背景として浮かび上がってくる。
 いじめ・登校拒否の問題の背景には、このような様々な要因が考えられ、また個々のケースによりまちまちであるが、一つの見方として、我々の社会が「同質にとらわれる社会」という問題点を持っていることから来ているという指摘もなされている。個性を尊重し、お互いの差異を認め合うことの大切さは、これまでの我々の社会では十分に顧みられてこなかった。
 我々も、この「同質にとらわれる社会」の影響は広く各方面に及んでおり、いじめ・登校拒否の問題ともかかわっていると考えるのである。
 例えば、子供たちの間に、仲間と群れていないと不安になる心情や、仲間と同じであることが、いじめを受けないための防御行動だという考えが見られる。進んで仲間になっているのではなく、いじめを受けないためという消極的な動機から行動を共にしている事例も報告されている。こうしたことは自分の個性を大切にし、自我を確立する上でも、子供たちの豊かな情操を培う上でも影を落としていると言わなければならない。また、登校拒否の子供への指導に当たって、元の仲間や生活に戻ることのみにこだわるのでなく、子供が登校拒否を克服する過程でどのように個性を伸ばし、成長していくかという視点を大切にして、ゆっくり時間をかけて取り組むことも大切なことである。
 このような意味から、我々は、いじめ・登校拒否の問題の解決のためには、同質志向を排除して、個を大切にし、個性を尊重する態度やその基礎となる新しい価値観を、社会全体が一体となって育てることも重要であると考える。

[2] いじめ・登校拒否の問題の解決のための家庭・学校・地域社会の役割と連携

 我々は、いじめ・登校拒否の問題の背景について、[1] で述べたような認識に立つものであり、基本的には、[ゆとり]を確保する中で、子供たちに[生きる力]を育成し、家庭・学校・地域社会における教育をバランスよく行っていくことがこれらの問題の解決につながると考える。こうした観点に立った教育の在り方について、様々な角度から第2部において述べていくこととしているが、特に重要と考えていることを以下に述べたい。そして、これらの取組に当たっては、家庭・学校・地域社会が緊密に連携するとともに、大人一人一人が責任を自覚し、それぞれの立場から積極的に参加・協力を行うことが不可欠であるということを強調しておきたい。
 第一に、家庭・地域社会における取組の大切さについてである。
 家庭については、親子の温かい人間関係を通じて善悪の判断などの基本的な倫理観を養い、生活態度のしつけを行うなどの役割を一義的に担っているのは家庭であるとの自覚を新たにし、家庭の教育力を高めるため、意識の向上を求める手だてが考えられなければならない。いじめ・登校拒否の問題にかかわって、家庭の在り方が子供の生活態度や情緒面に影響を及ぼしているとの指摘があることにも耳を傾ける必要がある。
 地域社会における取組については、全ての大人たちが、いじめなどの問題行動を見かけたときには、見て見ぬ振りをするのではなく、よその子供でも注意するなど、地域で子供を育てるという意識を強めることが望まれる。学校とともに、PTAや地域の青少年団体、スポーツ団体などの関係団体、児童福祉や人権擁護、警察などの関係機関が幅広く協力しながら、地域ぐるみの取組を展開する必要がある。
 また、マスメディアにあっては、その影響力の大きさを十分自覚して、いじめの問題の解決に向けて、啓発を行うなどできる限りの協力をお願いしたい。
 第二に、いじめや登校拒否の問題は、学校にとっては、その在り方そのものが問われている問題でもあることを指摘しておきたい。いじめ・登校拒否の問題の背景には複雑な要因があるが、第2部第1章でも述べるように、学校が、子供たち一人一人を大切にし、子供たちが自分のよさを見いだし、それを伸ばし、存在感や自己実現の喜びを実感できるような学校であることが重要である。例えば、教員は、深い児童生徒理解に立った全人格的な接し方を心がけるとともに、一人一人の個性を生かした分かりやすく楽しい授業を展開するよう努める必要がある。教師の言葉一つで、子供たちが元気になったり、元気を失ったりすることを重く受け止めて、子供たちに受容的な態度で接していくことも大切である。また、教育活動全体を通して、生命や人権を尊重する心をはぐくむとともに、お互いの個性を尊重し、差異を認め合う態度を育成することや、円滑な人間関係の形成、個々人の個性や価値を尊重する態度、社会性の涵養などには特に心を砕いてほしい。また、子供の心身の問題に関する相談や、心身の健康に関する指導を行うことも極めて重要である。教員は、こうした要請にこたえていくためにも、研修に努め、資質・能力の向上を図っていくことが一層強く求められる。
 第三に、現在、各学校、各教育委員会が、いじめ・登校拒否の問題を最重要課題として積極的に取り組んでいることは認めつつ、改めてその取組の一層の充実を求めたい。どの学校にもいじめはあり得る、登校拒否はどの子供にも起こり得るとの認識の下、子供の発する危険信号を鋭敏にとらえたり、どんなささいなことでも必ず親身に相談に応じるなどして、その発見に努めなければならない。いじめ・登校拒否の問題が起こった場合には、学級担任一人が思い悩み、抱え込むのではなく、校長をはじめとして全教職員が手を携え、校長のリーダーシップの下、学校を挙げて一丸となってその解決に至るまで全力で取り組む必要がある。特に、いじめについては、弱い者をいじめることは絶対に許されない、社会で許されない行為は子供でも許されない、また、いじめを傍観する行為も同様に許されないという毅然とした姿勢を学校のすみずみまで行きわたらせることが重要である。さらに、いじめをその時の指導によって解決したと即断することなく、その子供が卒業するまで継続して注意を払い、指導することも必要である。養護教諭は、いじめの兆候に気づいたり、いわゆる保健室登校の子供の指導に当たるなど、その役割は大きい。他の教職員との連携を一層緊密にして、積極的に取り組んでほしい。また、これらの問題の解決のためには、家庭との協力が不可欠である。特にいじめについては、いじめている子供、いじめられている子供双方の家庭に協力を求めることはもとより、PTAとの緊密な連携を図ることが重要である。こうした取組に当たって、学校は適切な体制を整えるなど連携の効果をあげていくことも必要である。
 なお、学校の中には、いじめや登校拒否の問題を外部に隠そうとしたり、他の教職員、家庭、さらには専門家や関係機関との連携に躊躇するような傾向もいまだに見られる。改めて、開かれた姿勢での学校運営の重要性を確認しておきたい。
 第四に、教育相談体制を充実する上で、教員以外の専門家の協力を求めることは不可欠と考える。現在拡充が図られているスクールカウンセラーや都道府県・市町村の教育相談員をはじめ、児童相談所など各種の専門機関との連携を図り、開かれた姿勢で協力を求めるという学校運営が大切である。特に、スクールカウンセラーについては、子供に対する相談はもとより、保護者の相談や、教員への助言、学校の教育相談体制に対する助言などにおいて、これまでおおむね高い評価を得ており、そのさらなる拡充を図っていくべきである。また、学校外の相談機関については、相談窓口の開設時間の工夫など、学校や子供たちが相談しやすい体制の整備を図っていくことが望まれる。
 第五に、いじめ・登校拒否の問題の解決に当たっては、学校が全力を挙げて取り組むことはもとより重要であるが、学校のみで解決することに固執しない開かれた学校運営も大切だということである。いじめに関しては、現行の義務教育制度を前提としながら、一定の要件の下で、子供の「転学」を一層弾力的に行うとともに、緊急避難として学校を欠席している子供に関しては、学校は、家庭と十分連携を図り、子供への指導の機会を確保するなど万全の措置を講じる必要がある。また、いじめている子供に対しては、根気強い指導にもかかわらず、なお、いじめが一定の限度を超える場合などには、出席停止の措置を講じたり、警察の協力を求めるなどの対応も必要である。
 登校拒否については、学校外での指導の場として、既に一定の要件の下に適応指導教室や民間の相談・指導施設において指導・援助を受けた場合、指導要録上出席扱いできる措置も講じられている。適応指導教室等における指導は、学校生活への復帰に向けての助走期間であると同時に、子供の個性を[ゆとり]をもってさらに開花させる期間でもある。そうした視点に立って、適応指導教室の一層積極的な活用を図るとともに、民間の相談・指導施設と学校や教育委員会との連携を図っていくことが重要である。また、青少年教育施設などにおけるプログラムを活用したり、登校拒否の子供のためのバイパスとして、就学義務猶予免除者を対象とした「中学校卒業程度認定試験」などを有効に活用したりすることも検討されてよいと考える。
 第六に、子供の生活において、学校が時間的にも精神的にも、家庭や地域社会に比して極めて大きな存在となっている現状を見直すことが、この問題に取り組む上でも重要であると考える。すなわち、子供たちの生活時間に学校が占めるウエイトが高い状況においては、いじめを受ける子供や登校拒否の子供にとっては、そのことが心にさらに重圧を加える要因となっている。こうした意味からも、後述するように、学校をスリム化し、家庭・学校・地域社会の間のバランスを改善するとともに、学校外で多彩な生活や体験の場を持つことが求められよう。
 第七に、いじめや登校拒否の問題の背景やその解決に向けた取組に関する研究を推進する必要性を指摘しておきたい。これまで述べてきたように、この問題の背景は複雑であり、取組の方途も多岐にわたっているが、これらをより実り多いものにするためにも、幅広い研究が行われることが必要である。その際、いじめや登校拒否の問題については、欧米諸国等においても様々な研究を行い、その成果を踏まえた取組を進めており、これらの国々との情報の交換を含め、多様な研究を進めていくことも必要と考える。

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大臣官房政策課

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