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(3)今後における教育の在り方の基本的な方向

21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(中央教育審議会 第一次答申)

第1部 今後における教育の在り方

 我々は、以上のような認識の下に、今後の教育の在り方について種々検討を行った。
 教育においては、どんなに社会が変化しようとも、「時代を超えて変わらない価値のあるもの」(不易)がある。
 豊かな人間性、正義感や公正さを重んじる心、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心、人権を尊重する心、自然を愛する心など、こうしたものを子供たちに培うことは、いつの時代、どこの国の教育においても大切にされなければならないことである。
 また、それぞれの国の教育において、子供たちにその国の言語、その国の歴史や伝統、文化などを学ばせ、これらを大切にする心をはぐくむことも、また時代を超えて大切にされなければならない。我が国においては、次代を担う子供たちに、美しい日本語をしっかりと身に付けさせること、我が国が形成されてきた歴史、我が国の先達が残してくれた芸術、文学、民話、伝承などを学ぶこと、そして、これらを大切にする心を培うとともに、現代に生かしていくことができるようにすることも、我々に課された重要な課題である。
 我々はこれからの教育において、子供たち一人一人が、伸び伸びと自らの個性を存分に発揮しながら、こうした「時代を超えて変わらない価値のあるもの」をしっかりと身に付けていってほしいと考える。
 しかし、また、教育は、同時に社会の変化に無関心であってはならない。「時代の変化とともに変えていく必要があるもの」(流行)に柔軟に対応していくこともまた、教育に課せられた課題である。
 特に、(2)で述べたように、21世紀に向けて、急激に変化していくと考えられる社会の中にあって、これからの社会の変化を展望しつつ、教育について絶えずその在り方を見直し、改めるべきは勇気を持って速やかに改めていくこと、とりわけ、人々の生活全般に大きな影響を与えるとともに、今後も一層進展すると予測される国際化や情報化などの社会の変化に教育が的確かつ迅速に対応していくことは、極めて重要な課題と言わなければならない。
 このように、我々は、教育における「不易」と「流行」を十分に見極めつつ、子供たちの教育を進めていく必要があると考えるが、このことは、これからの時代を拓いていく人材の育成という視点から重要だというだけでなく、子供たちが、それぞれ将来、自己実現を図りながら、変化の激しいこれからの社会を生きていくために必要な資質や能力を身に付けていくという視点からも重要だと考える。
 また、今日の変化の激しい社会にあって、いわゆる知識の陳腐化が早まり、学校時代に獲得した知識を大事に保持していれば済むということはもはや許されず、不断にリフレッシュすることが求められるようになっている。生涯学習時代の到来が叫ばれるようになったゆえんである。加えて、将来予測がなかなか明確につかない、先行き不透明な社会にあって、その時々の状況を踏まえつつ、考えたり、判断する力が一層重要となっている。さらに、マルチメディアなど情報化が進展する中で、知識・情報にアクセスすることが容易となり、入手した知識・情報を使ってもっと価値ある新しいものを生み出す創造性が強く求められるようになっている。
 このように考えるとき、我々はこれからの子供たちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた。
 [生きる力]は、全人的な力であり、幅広く様々な観点から敷衍することができる。
 まず、[生きる力]は、これからの変化の激しい社会において、いかなる場面でも他人と協調しつつ自律的に社会生活を送っていくために必要となる、人間としての実践的な力である。それは、紙の上だけの知識でなく、生きていくための「知恵」とも言うべきものであり、我々の文化や社会についての知識を基礎にしつつ、社会生活において実際に生かされるものでなければならない。
 [生きる力]は、単に過去の知識を記憶しているということではなく、初めて遭遇するような場面でも、自分で課題を見つけ、自ら考え、自ら問題を解決していく資質や能力である。これからの情報化の進展に伴ってますます必要になる、あふれる情報の中から、自分に本当に必要な情報を選択し、主体的に自らの考えを築き上げていく力などは、この[生きる力]の重要な要素である。
 また、[生きる力]は、理性的な判断力や合理的な精神だけでなく、美しいものや自然に感動する心といった柔らかな感性を含むものである。さらに、よい行いに感銘し、間違った行いを憎むといった正義感や公正さを重んじる心、生命を大切にし、人権を尊重する心などの基本的な倫理観や、他人を思いやる心や優しさ、相手の立場になって考えたり、共感することのできる温かい心、ボランティアなど社会貢献の精神も、[生きる力]を形作る大切な柱である。
 そして、健康や体力は、こうした資質や能力などを支える基盤として不可欠である。
 このような[生きる力]を育てていくことが、これからの教育の在り方の基本的な方向とならなければならない。[生きる力]をはぐくむということは、社会の変化に適切に対応することが求められるとともに、自己実現のための学習ニーズが増大していく、いわゆる生涯学習社会において、特に重要な課題であるということができよう。
 また、教育は、子供たちの「自分さがしの旅」を扶ける営みとも言える。教育において一人一人の個性をかけがえのないものとして尊重し、その伸長を図ることの重要性はこれまでも強調されてきたことであるが、今後、[生きる力]をはぐくんでいくためにも、こうした個性尊重の考え方は、一層推し進めていかなければならない。そして、その子ならではの個性的な資質を見いだし、創造性等を積極的に伸ばしていく必要がある。こうした個性尊重の考え方に内在する自立心、自己抑制力、自己責任や自助の精神、さらには、他者との共生、異質なものへの寛容、社会との調和といった理念は、一層重視されなければならない。
 今後、国際化がますます進展し、国際的な相互依存関係が一層深まっていく中で、子供たちにしっかりと[生きる力]をはぐくむためには、世界から信頼される、「国際社会に生きる日本人」を育てるということや、過去から連綿として受け継がれてきた我が国の文化や伝統を尊重する態度を育成していくことが、これまでにも増して重要になってくると考えられる。
 我々は、[生きる力]をこのようなものとして考えたところである。そして、[生きる力]をはぐくむに当たっては、特に次のような視点が重要と考える。

(a)学校・家庭・地域社会の連携と家庭や地域社会における教育の充実

 まず第一は、学校・家庭・地域社会での教育が十分に連携し、相互補完しつつ、一体となって営まれることが重要だということである。教育は、言うまでもなく、単に学校だけで行われるものではない。家庭や地域社会が、教育の場として十分な機能を発揮することなしに、子供の健やかな成長はあり得ない。[生きる力]は、学校において組織的、計画的に学習しつつ、家庭や地域社会において、親子の触れ合い、友達との遊び、地域の人々との交流などの様々な活動を通じて根づいていくものであり、学校・家庭・地域社会の連携とこれらにおける教育がバランスよく行われる中で豊かに育っていくものである。特に、[生きる力]の重要な柱が豊かな人間性をはぐくむことであることを考えると、現在、ややもすると学校教育に偏りがちと言われ、家庭や地域社会の教育力の低下が指摘されている我が国において、家庭や地域社会での教育の充実を図るとともに、社会の幅広い教育機能を活性化していくことは、喫緊の課題となっていると言わなければならない。
 人々が物の豊かさから心の豊かさへと大きく志向を移し、日本型雇用システムが揺らいでいる中で、今、人々は家庭や地域社会へと目を向け始めている。その意味で、今こそ家庭や地域社会での教育の在り方を見直し、その充実を図っていく必要があると考える。
 また、このように、子供たちは社会全体ではぐくまれていくものであることを再確認し、子供たちの健やかな成長は、大人一人一人の責任であり、大人一人一人が考え、社会のあらゆる場で取り組んでいく必要がある問題であること、また、大人の社会の在り方そのものが強く問われる問題であることを改めて強調しておきたい。

(b)子供たちの生活体験・自然体験等の機会の増加

 次に、子供たちに[生きる力]をはぐくむためには、自然や社会の現実に触れる実際の体験が必要であるということである。子供たちは、具体的な体験や事物とのかかわりをよりどころとして、感動したり、驚いたりしながら、「なぜ、どうして」と考えを深める中で、実際の生活や社会、自然の在り方を学んでいく。そして、そこで得た知識や考え方を基に、実生活の様々な課題に取り組むことを通じて、自らを高め、よりよい生活を創り出していくことができるのである。このように、体験は、子供たちの成長の糧であり、[生きる力]をはぐくむ基盤となっているのである。
 しかしながら、(1)で見たように、今日、子供たちは、直接体験が不足しているのが現状であり、子供たちに生活体験や自然体験などの体験活動の機会を豊かにすることは極めて重要な課題となっていると言わなければならない。こうした体験活動は、学校教育においても重視していくことはもちろんであるが、家庭や地域社会での活動を通じてなされることが本来自然の姿であり、かつ効果的であることから、これらの場での体験活動の機会を拡充していくことが切に望まれる。

(c)生きる力の育成を重視した学校教育の展開

 さらに、これからの学校教育においては、[生きる力]の育成を重視した教育を展開していく必要があるということである。組織的・計画的に教育を行う学校がどのような視点を重視して教育を行うかは極めて重要であり、このことなしに一人一人の子供たちにしっかりと[生きる力]をはぐくむということの実現は期し得ない。このような視点に立ったこれからの学校教育の在り方については、第2部第1章で詳しく述べることとしたい。

(d)子供と社会全体の[ゆとり]の確保

 今後の教育の在り方について、これまで述べてきたように、子供たち一人一人に[生きる力]をはぐくんでいくことが大切であるとした場合、学校・家庭・地域社会は、具体的にどうあるべきであり、どう変わらなければならないのか。それぞれについての具体的な提言は、第2部以下に述べるが、我々は、[生きる力]をはぐくんでいくために、これらに共通のものとして、子供たちにも、学校にも、家庭や地域社会を含めた社会全体にも[ゆとり]が重要であると考える。今、子供たちは多忙な生活を送っている。そうした中で[生きる力]を培うことは困難である。子供たちに[ゆとり]を持たせることによって、はじめて子供たちは、自分を見つめ、自分で考え、また、家庭や地域社会で様々な生活体験や社会体験を豊富に積み重ねることが可能となるのである。そのためには、子供たちに家庭や地域社会で過ごす時間、すなわち、子供たちが主体的、自発的に使える時間をできるだけ多く確保することが必要である。そうした[ゆとり]の中で子供たちは、心の[ゆとり]を持つことができるようになるのである。
 また、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくためには、子供たちに[ゆとり]を持たせるだけでなく、社会全体が時間的にも精神的にも[ゆとり]を持つことが必要である。社会全体が[ゆとり]を持つことにより、はじめて、学校でも家庭や地域社会でも、教員や親や地域の大人たちが[ゆとり]を持って子供たちと過ごし、子供たちの成長を見守り、子供たち一人一人と接することが可能となる。こうした社会全体の[ゆとり]の中で、子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくことができるのである。
 ここで[ゆとり]と言うとき、もちろん時間的な[ゆとり]を確保することも重要であるが、心の[ゆとり]や考える[ゆとり]を確保することがさらに重要である。こうした心の[ゆとり]を社会全体が持つためには、実は我が国社会全体の意識を改革していくということが必要となってくる。なぜなら、我々が心の[ゆとり]を持つことを妨げているものとして、例えば、他人がしているから自分もするといった横並び的な意識があったり、高等学校や大学で学ぶのは、ある一定の年齢層でなければならないというような過度に年齢を意識した「年齢主義」的な価値観があるのではなかろうか。こうした意味で、我々は、自分の生き方を自ら主体的に決めていくという価値観に立って、真の意味で個を確立していくことが必要だと考えるのである。

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