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幼児期からの心の教育の在り方について (中央教育審議会に諮問)

平成9年8月4日
生涯学習政策局政策課

 8月4日、中央教育審議会の総会が開催され、小杉文部大臣が「幼児期からの心の教育の在り方について」諮問を行った。
 同審議会は、諮問を受けて直ちに審議を開始した。

○ 諮問文
○ 文部大臣諮問理由説明

諮問文

 次の事項について、別紙理由を添えて諮問します。

幼児期からの心の教育の在り方について

平成9年8月4日
文部大臣 小杉 隆

(理由)

 今後の我が国においては、[ゆとり]の中で子どもたちに[生きる力]をはぐくむことを目指し、個性尊重を基本的な考え方として教育を展開していくことが求められている。こうした理念の実現を図る上で、子どもたち一人一人が、人間として調和のとれた成長を遂げることができる環境を創造していくこと、とりわけ、[生きる力]の礎とも言うべき、生命を尊重する心、他者への思いやりや社会性、倫理観や正義感、美しいものや自然に感動する心等の豊かな人間性の育成を目指し、心の教育の充実を図っていくことが極めて重要な課題となっている。

 今日の子どもたちに眼を向けると、健康で活発に育ち、学校内外での学習や文化・スポーツ活動に友人たちとともに積極的に取り組んでいる子どもたちを多く見ることができる。また、柔軟で豊かな感性や国際性を備えていたり、ボランティア活動への参加など社会貢献に対する意欲を秘めた子どもたち、あるいは、正義感や優しさを持ち、いじめに立ち向かおうとする子どもたちも決して少なくない。子どもたちが、幼児期から様々な体験を通して均衡のとれた心の成長を遂げ、こうしたよさを一層伸ばし、スポーツや芸術に親しみ、将来に明るい希望を持った個性豊かな人間として健やかに育っていくことができるよう、そして、国や郷土を愛し、民主的で文化的な社会の発展に努めるとともに、進んで平和的な国際社会に貢献していく心を持った人間となるよう、我々は最大限の努力を傾ける必要がある。

 しかしながら、子どもたちの幼児期からの心の成長ということを考える場合、多くの憂慮すべき問題が存している。家庭をめぐっては、少子化や核家族化等を背景に、兄弟姉妹同士が切磋琢磨したり、祖父母から学ぶなどといった生活体験の機会が減少してきている。親の子どもたちへの接し方については、無責任な放任や過保護・過干渉といった傾向がかねてより指摘されている。また、地域社会においては、地縁的な連帯が弱まり、人間関係の希薄化が進むとともに、子どもたちの心の成長の糧となる生活体験や自然体験などが失われてきている。さらに、学校に関しても、過度の受験競争などを背景として、学校生活が[ゆとり]のないものとなり、友人たちとの交流を深めたり、自己実現の喜びを実感しにくくなっているなどの課題が生じている。このような環境の中で育ってきている今日の子どもたちについては、とかく社会性や自己責任の観念が十分にはぐくまれず、社会で許されない行為は子どもでも許されないという認識が身に付いていないとの指摘がある。また、他者を思いやる温かい気持ちを持つことや、望ましい人間関係を築くことが難しくなっているとも言われている。加えて、子どもたちの生活に情報機器が普及・浸透すること等により、子どもたちが多種多様な情報に接したり、発信することが容易になってきているが、それに伴って、間接体験・疑似体験の著しい増加などといった情報化の「影」の部分についての懸念が生じている。このように、社会環境の急激な変化に伴い、子どもたちの生活の在り方は大きく変容を遂げており、幼児期からの心の成長に様々な影響が現れるようになっている。

 子どもたちの心の問題は、反面、大人たちの心の問題でもある。大人社会にしばしば見られる自己中心的で刹那的な行動や、暴力や性的な情報が氾濫するような風潮が、幼児期から子どもたちの心に色濃く影を落としている。そして、大人社会において規範意識が揺らいでいく中、多くの親をはじめとする大人たちは、確固とした信念を持って子どもたちの心の育成に当たる姿勢を喪失しつつあるという指摘もある。

 こうした様々な憂慮すべき問題を直視し、幅広い観点から心の教育の在り方を見直し、社会全体が一体となって必要かつ適切な取組を進めていくことが、今日、喫緊の課題となっている。大人たちの間では、子どもの心の成長に影響する環境について幼児期の段階から改めて考え直し、豊かな人間性をはぐくむ方途を真剣に模索しようとする機運が生じてきており、そうした動きにこたえていくことが重要である。

 このような状況を踏まえ、幼児期からの心の教育の在り方について、次のような事項を中心に検討を行う必要がある。
(1)子どもの心の成長をめぐる状況と今後重視すべき心の教育の視点
(2)幼児期からの発達段階を踏まえた心の教育の在り方
(3)家庭、地域社会、学校、関係機関が連携・協力して取り組む心の教育の在り方

文部大臣諮問理由説明

平成9年8月4日

 本日は、御多忙中のところ、御出席をいただきましてありがとうございます。

 申すまでもなく、中央教育審議会は、我が国の教育、学術、文化に関する基本的な重要施策について御審議をいただく最も重要な審議会であり、昭和28年に発足して以来、これまで31回にわたって貴重な答申を行ってきました。特に、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の二次にわたる答申においては、[ゆとり]の中で子どもたちに[生きる力]をはぐくむことを目指し、個性を尊重した教育を展開していくという基本的な考え方に立って、様々な御提言をいただいたところであり、現在、文部省においては、同答申の趣旨を最大限尊重して、施策の推進に努めているところであります。

 さて、今日、子どもたちに[生きる力]をはぐくもうとするとき、我々が取り組まなければならない最も重要な課題の一つは、[生きる力]の礎とも言うべき、生命を尊重する心、他者への思いやりや社会性、倫理観や正義感、美しいものや自然に感動する心等の豊かな人間性の育成を目指し、心の教育の充実を図っていくことであります。

 今日の子どもたちに眼を向けると、健康で活発に育ち、学校内外での学習や文化・スポーツ活動に友人たちとともに積極的に取り組んでいる子どもたちを多く見ることができるなど、様々な積極面や長所を認めることができます。子どもたちが、幼児期から様々な体験を通して均衡のとれた心の成長を遂げ、自らのよさを一層伸ばし、スポーツや芸術に親しみ、将来に明るい希望を持った個性豊かな人間として健やかに育っていくことができるよう、そして、国や郷土を愛し、民主的で文化的な社会の発展に努めるとともに、進んで平和的な国際社会に貢献していく心を持った人間となるよう、我々は最大限の努力を傾ける必要があります。

 しかしながら、子どもたちの幼児期からの心の成長ということを考える場合、多くの憂慮すべき問題が存しております。家庭をめぐっては、少子化や核家族化等を背景とする様々な生活体験の機会の減少、親の無責任な放任や、逆に過保護・過干渉といった傾向が指摘されております。また、地域社会においては、地縁的な連帯が弱まり、人間関係の希薄化が進むとともに、生活体験や自然体験などが失われてきております。さらに、学校に関しても、過度の受験競争などを背景として、学校生活が[ゆとり]のないものとなり、友人たちとの交流を深めたり、自己実現の喜びを実感しにくくなっているなどの課題が生じております。このような環境の中で育ってきている今日の子どもたちについては、社会性や自己責任の観念、他者を思いやる温かい気持ち、望ましい人間関係を築く力などが十分養われていないとも言われております。加えて、子どもたちの生活に情報機器が普及・浸透すること等により、間接体験・疑似体験の著しい増加など情報化の「影」の部分に関する懸念が生じております。このように、社会環境の急激な変化に伴い、子どもたちの生活の在り方は大きく変容を遂げており、幼児期からの心の成長に様々な影響が現れるようになっております。また、子どもたちを取り巻く環境について考えるとき、大人社会において自己中心的な行動がしばしば見られたり、暴力や性的な情報が氾濫する風潮が、幼児期から子どもたちの心に色濃く影を落としているということにも我々は眼を背けるわけにはまいりません。

 子どもたちの間に見られるいじめ、薬物乱用、性の逸脱行為、さらには青少年非行の凶悪化などといった憂慮すべき状況も、子どもたちの心の在り方と深いかかわりがある問題であり、また、我々大人自身が真摯に自らの在り方を省みるべき問題であります。こうした問題の解決に資する上でも、心の教育の在り方を考えていくことが必要と考えます。折しも、神戸市須磨区の児童殺害事件においては、中学生が容疑者として逮捕され、私も教育行政をあずかる立場にある者として大変衝撃を受けるとともに、心の教育の重要性を改めて痛感したところであります。

 このような状況を踏まえ、また、子どもたちの豊かな人間性をはぐくむ方途を真剣に模索しようとする社会の機運にこたえるべく、このたび、幼児期からの心の教育の在り方について諮問することといたした次第であります。ここでは、諮問に関し、特に検討していただきたい点について御説明申し上げます。

 まず第一は、子どもの心の成長をめぐる状況と今後重視すべき心の教育の視点についてであります。現代の子どもたちの積極面や長所を適切に評価しつつ、先に述べたような、家庭や地域社会における教育力の低下、「ゆとり」のない学校生活、情報機器の普及・浸透に伴う間接体験の増加、大人社会におけるモラルの低下などといった問題が、子どもたちの心にどのような影響を及ぼしているか、そして、創造的で活力があり、国民一人一人が豊かさを実感できる21世紀の我が国社会をつくっていくため、どのような視点を重んじて心の教育を進めていくべきかについて、幅広く御検討いただきたいと存じます。

 第二は、幼児期からの発達段階を踏まえた心の教育の在り方についてであります。申すまでもなく、子どもたちは、誕生以来、それぞれの発達段階にふさわしい体験や学習を経ることによって、豊かな人間性を培い、心の成長を遂げていくものであります。子どもたちの発達段階に応じた課題をどのようにとらえて、心の教育を具体的に展開していくべきかについて、御検討いただきたいと思います。

 第三は、家庭、地域社会、学校、関係機関が連携・協力して取り組む心の教育の在り方についてであります。既に第一次答申においても御提言いただいたとおり、今後、家庭、地域社会、学校、関係機関が連携を深めていくことはもとより重要でありますが、とりわけ心の教育については、様々な子どもの成長に影響する環境やその生活実態の変化を踏まえつつ、社会全体が一致協力して取り組んでいくことが必要であります。心の教育の充実を図るという観点から、家庭における育児やしつけ、地域社会における様々な活動、学校における道徳教育等の取組、関係機関の取組などを改めて見直し、それらがいかに協力していくべきかについて御検討いただきたいと思います。

 以上、御検討をお願いしたい点について申し上げましたが、検討に際しては、できるだけ幅広く国民各界の意見を徴され、様々な観点から審議を深めていただきたいと思います。また、これらに関連する事項についても、忌憚のない御意見を頂戴したいと存じております。さらに、審議の取り進めに当たっては、心の教育の問題が国民一人一人の心の在り方に密接にかかわる問題であることから、単に行政や教育関係者における取組を求めるのみならず、家庭や地域社会の取組等を含め、広く国民に直接お願いすべき内容にまで踏み込んだ御審議を期待いたしたいと存じます。

 会長、副会長をはじめ、委員の皆様におかれましては、以上のような趣旨をおくみ取りいただき、十分御審議くださるようお願い申し上げまして、私のごあいさつといたします。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

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