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教科書の在り方について(答申) (第27回答申(昭和58年6月30日))

昭和58年6月30日
生涯学習政策局政策課

27 教科書の在り方について(答申)

(諮問)

昭和56年11月24日

中央教育審議会

文部大臣 田中 龍夫

 次の事項について、別紙理由を添えて諮問します。

時代の変化に対応する初等中等教育の教育内容などの基本的な在り方について

(理由)

 我が国においては、産業構造の変化、情報化社会・高齢化社会の進展、国際関係の緊密化など社会の更に一層の変化が予想されるが、このような時代の変化に対応して、21世紀に向かって、家庭、学校、社会を通じあらゆる場において、心身ともに健全な次代の国民の育成を図ることは極めて重要である。
 学校教育においては、これまでも時代の進展に応じてその教育の内容の改善が図られてきたところであり、現在も、教育内容の基礎的・基本的な事項の精選や能力・適性等に応じた指導の充実を通じて、自主的・創造的な人間の育成を図ることを目指した学習指導要領が実施に移されつつある。さしあたって、この新しい教育課程が改訂の趣旨に沿って実施され、着実に定着するよう努力することが必要である。
 今後は、予想される時代の変化や児童生徒の能力・適性等が多様化している実態に対応するため、国民の教育の基礎をなす初等中等教育の教育内容及び方法の在り方や人間形成上重要な意義を持つ就学前の幼児の教育の在り方の基本について、長期的展望に立った検討を進める必要がある。その際、教育内容・方法と密接な関係にある教科書の在り方についてもあわせて検討を行う必要がある。

(検討すべき問題点)
  1. 小学校、中学校及び高等学校における教育内容、方法及び教科書の在り方について
  2. 中等教育における教育の多様化・弾力化について
  3. 就学前の幼児の教育の在り方その他関連する諸事項について

(答申)

昭和58年6月30日

文部大臣 瀬戸山 三男 殿

中央教育審議会会長
高村 象平

教科書の在り方について(答申)

 本審議会は、昭和56年11月、文部大臣から「時代の変化に対応する初等中等教育の教育内容などの基本的な在り方について」の諮問を受け、その際、検討すべき問題点の一つとして挙げられた教科書の在り方については、教科書小委員会を設け、学識経験者や関係諸団体の代表から意見を聴取するなどして審議を重ねてきましたが、今回、次の結論を得ましたので答申します。

 教科書は、教育課程の構成に応じて系統的に組織配列された各教科の主たる教材であり、児童生徒に国民として必要な基礎的・基本的な教育内容の履修を保障するものとして、学校教育において重要な役割を果たしている。
 教科書制度の沿革をたどってみても、近代教育制度の確立期以来、このような教科書の役割の重要性を踏まえた制度の整備・充実が図られてきている。戦後、昭和22年に学校教育法が制定され、小学校、中学校及び高等学校の各段階を通じて教科書の検定制度が採用された。この制度は、著作者の創意工夫を生かしつつ適切な教科書を確保することを目的とするものであり、我が国の国情に適した制度として、適切な教育内容の維持や教育の中立性の確保等に重要な役割を果たしている。
 今後の社会においては、児童生徒をとりまく情報がますます増加し、学習に関する教材も多様なものとなり、児童生徒は各種の媒体を通じて知識、技能等を習得できるようになると考えられる。しかし、その中にあっても教科書は、これまで多くの学問的研究や学校教育の実践を通じて工夫され、充実されてきた主たる教材であり、児童生徒に国民として不可欠な教育内容を確実に身に付けさせる基本的な教材として、一層重要な役割を果たすことと考える。
 このような基本的な教材として重要な機能を果たす教科書の在り方に照らして現在の教科書をみるとき、それは必ずしも満足すべきものであるとは言えない。教科書の内容は児童生徒の教育にふさわしい基礎的・基本的な内容を的確に押さえているか、そこに盛られている教材は真に教育的に優れたものとなっているか、その記述の内容は中正なものとなっているか、また、その記述の方法は児童生徒の理解を得るのに適切なものとなっているかなどの見地から、今後とも更にその改善を要するところが少なくない。
 そこで、これからの教科書の在り方を考え、その一層の改善を図るため、教科書の著作・編集、検定、採択、給与等について、それぞれ以下に述べるような配慮・改善を施し、より適切な教科書を確保することが必要であると考える。

1 教科書の著作・編集

 優れた教科書の著作・編集は、各教科の内容に関する多角的研究の蓄積や児童生徒の発達段階に対する深い理解等にかかっている。このことにかんがみ、教科書の著作・編集については、次のような配慮が望まれる。

(1) 教科書の発行が学校教育活動に寄与するという公共的性格を持つことにかんがみ、教科書の発行者は、その社会的使命を自覚し、優れた教科書の提供に努めなければならないこと。このため、教科書の発行者は、創意工夫を生かした特色ある教科書を作成することができるように優れた著作者を確保するとともに、編集の実務担当者の一層の資質向上等編集部門の充実に努めること。
 なお、教科書発行者の公共的性格にかんがみ、高等学校の教科書の発行者の指定制度についても検討すること。
(2) 教科書の著作・編集に当たっては、児童生徒の発達段階を考慮しながら、内容を基礎的・基本的なものに精選し、かつ、理解しやすいものとするように努めること。
(3) 教科書の著作・編集に当たる者は、その責任を十分自覚し、一面的な見解だけに偏らない公正な立場に立って、児童生徒の理解力、批判力等に即した適切な教科書を作成すること。また、教科書における著作者名等の表示については、教科書の著作・編集等の実際の責任に応ずるものでなければならないこと。

2 教科書の検定

 教科書検定制度は、著作・編集者の創意工夫を生かした多様な教科書の提供を図りながら、教育水準の維持向上、教育の機会均等の保障、適正な教育内容の維持、教育の中立性の確保等を実現することを目的とするものであり、その重要性にかんがみ、教科書検定制度の趣旨が効果的に達成されるよう、次の諸点について改善を図り、今後一層適切な検定を実施する必要がある。

(1) 教科書の検定が一層適切に行われるようにするため、教科書の検定審査の在り方について必要な検定を行い、教科用図書検定調査審議会の機能の一層の充実を図ること。
(2) 教科書の検定基準は、従来同様、教育基本法、学校教育法及び学習指導要領をその主要な内容として定めるべきものであるが、検定基準は、検定の尺度であると同時に、教科書の著作・編集の指針となる機能を果たしていることにかんがみ、より明瞭(りよう)な指針として機能するように、次の措置を講ずることが適当であること。
ア 国民として必要な基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせるのにふさわしい教科書の在り方や次代の国民としての自覚を育てるのに適切な教科書の在り方という観点等を検定基準において更に明確にすること。
イ 学習指導要領に定める「目標」や「内容」等の趣旨が教科書に具体的に実現されるよう検定基準について細目を整備するなど改善を図ること。
(3) 教科書の著作・編集に十分な期間を確保し、特に学校等における教材や指導法の研究成果を十分に取り入れた著作・編集が行われ、かつ、教科書の検定が一層慎重・綿密に行われるようにするため、検定周期を延長すること。
(4) 教科書調査官については、今後とも優れた人材を確保し、より適切な検定調査を実施し得るような諸条件の整備を行うこと。
(5) 教科書の検定は、教科用図書検定調査審議会の議に基づき行われており、その内容については、検定審査の過程において著作者・発行者に十分な説明が行われ、これに対する意見の申立て等も認められている。教科書の検定は、このような適正な手続の下に行われているのであって、これらの検定審査の過程を一般に明らかにすることは適当でないと考える。しかし、教科書の検定について広く理解を求めるとの観点から、検定の結果について、必要に応じ、主要な論点等を明らかにするようなことを検討すること。

3 教科書の採択

 教科書の採択は、採択に当たる者がその責務を自覚し、教科書についての十分な調査研究に基づき、細心の教育的配慮の下に、厳正に行われなければならない。このため、義務教育諸学校の教科書の採択については、次のような措置を講ずる必要がある。

(1) 教科書の採択は、都道府県の教育委員会の指導、助言、援助により、市町村の教育委員会が行うこととされており、現在においても都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会との連携の下に行われている。しかし、現在の地方教育行政制度の下においては、都道府県内の教育水準の維持・向上は都道府県の果たすべき重要な役割とされており、このため教育課程については都道府県の教育委員会が基準の設定を行うこととされていること、また、指導行政や教員の研修が都道府県の教育委員会を中心として実施されている事情などを考慮すると、教科書の採択については、両者の一層緊密な連携の下により適切に行われるよう、次の措置を講ずることが適当であると考えられること。
ア 上記の趣旨及び都道府県の教育委員会の有する教科書についての調査研究能力を考慮しつつ、都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会のそれぞれの権限と責任を更に明確にすること。
 このため、例えば、都道府県の教育委員会が教科書を選定し、市町村の教育委員会はその選定に係る教科書のうちから採択することなどを検討すること。
イ 都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会との連携が更に円滑に行われるようにすることや、都道府県内の各地域の文化的・社会的諸条件の均質化が進んでいることなどを考慮し、教科書の採択地区の規模の適正化を図ること。
 この場合、採択地区は、おおむね都道府県の教育委員会の教育事務所の所管する地域又はこれらを合わせた地域とすることが適当であると考えられること。
(2) 教科書の採択に当たっては、都道府県の教科用図書選定審議会や市町村の採択地区協議会における調査研究機能がより一層的確に発揮されるよう配慮すること。その際、教員の意見が適切に反映されるよう十分配慮することが望まれること。
(3) 教科書の検定周期の延長にあわせて、教科書の採択周期を延長すること。

4 教科書の研究・評価

 児童生徒にとって基本的な教材として適切な教科書を確保するためには、教科書の改善について不断の研究が行われ、また、教科書の内容の比較検討や公正な評価が行われるとともに、これらの成果が教科書の著作・編集等に適切に反映される必要がある。このため、次のようなことについて配慮が望まれる。

(1) 公正な立場から継続的、組織的に教科書の研究・評価が行われるような方途について検討すること。
(2) モニター制度を活用すること。
(3) 研究指定校制度の積極的な活用など、教科書の使用経験に基づく実践的な研究を更に奨励すること。

5 義務教育教科書の無償給与

 義務教育教科書の無償給与は、憲法第26条に定める義務教育無償の理念をより広く実現するとともに、次代を担う児童生徒の国民的自覚を深めることに資するため実施されてきたものであるが、今日以後の教育においても、以下に述べるように学校教育上大きな意義を持ち、重要な役割を果たすべきものと考えられるところから、引き続き現行の制度を継続することが妥当である。
 公教育制度の下においては、教育は、単に個々の児童生徒の利益のみではなく、次代の国家・社会の形成者の育成という社会全体の基本的な共同の利益にかかわるものであり、とりわけ義務教育については、国民としての基礎的・基本的資質を培い、その成果が広く国家・社会に還元されるものであるところから、就学を義務づけるなどの措置が講じられ、同時に、義務教育無償の原理が認められるに至っている。
 この場合、教科書は教育内容を組織的、系統的に配列し、児童生徒に国民として不可欠な教育内容を確実に身に付けさせる基本的な教材として、学校教育に欠くことのできないものとなっており、また、使用を義務づけるなど、その重要性に着目した取扱いがなされているところから、授業料無償と並んで教科書無償が実現されているのである。
 なお、教科書の無償については、国により種々の方法がとられており、大別すれば給与制及び貸与制があるが、我が国においては、教科書を自分のものとして大切に取り扱い、教科書を主たる教材として授業を展開するという、伝統的な教科書観や教育活動の実態があり、これを受けて無償給与という方式がとられている。
 また、現行の教科書無償給与制度は、採択制度や発行制度の整備を通じて教科書制度の基本を形成するという実際上の役割を果たしつつ実施されているものである。
 教科書無償給与制度については、第二次臨時行政調査会において、我が国の財政状況が極めて厳しいことや、自立自助の精神に基づきできる限り公財政への依存をやめるべきことなどから、「廃止等を含め検討する」ことが答申されている。しかしながら、以上に述べたようなこの制度の持つ意義や教科書制度の基本を維持する必要性にかんがみ、引き続きこれを維持すべきものと考える。
 なお、この制度の趣旨が、児童生徒や保護者等において必ずしも十分理解されていないという指摘や物を大切にしない風潮を助長しているとの指摘等があることにも留意し、この制度の趣旨が十分理解されるよう配慮する必要がある。

6 その他

(1) 教科書発行者が教科書の学習指導の手引として発行しているいわゆる教師用指導書の中には適当でないものもあるので、その内容について、公正な立場から適切な編集に努めるとともに、教員の自発的な創意・工夫を助長するように十分配慮すべきである。なお、このため行政上の適切な指導を行うことを検討する必要がある。
(2) 学校教育の成果は、これを担当する教員に負うところが極めて大きいことに留意し、教員一人一人がその職責を深く自覚し、真摯(し)な教育実践と不断の自己啓発に努めることにより、教科書を十分に活用する能力を高めていくことが望まれる。

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