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生涯教育について(答申) (第26回答申(昭和56年6月11日))

昭和56年6月11日
生涯学習政策局政策課

26 生涯教育について(答申)

(答申)

昭和56年6月11日

文部大臣 田中 龍夫 殿

中央教育審議会会長
高村 象平

生涯教育について(答申)

 本審議会は、昭和52年6月、文部大臣から「当面する文教の課題に対応するための施策について」の諮問を受け、広く我が国文教の諸問題について検討した上で、我が国における生涯教育の在り方について審議を進めてまいりました。
 今回、このことについて次の結論を得ましたので答申します。

目次

前文

第1章 我が国における生涯教育の意義
1 生涯教育の意義
2 生涯教育と現代社会

第2章 我が国の生涯教育に関する状況と今後の課題
1 生涯教育に関する状況
2 今後の課題
 (1)教育機能の領域別の課題
 (2)学習のための条件整備の課題

第3章 成人するまでの教育
1 人間形成の基礎を培う教育の重要性
2 家庭教育の充実
 (1)家庭教育をとりまく状況
 (2)幼少年期の成長過程の重視
 (3)青年期の特質と家庭
 (4)家庭と社会
 (5)家庭教育への援助
3 学校教育における生涯教育の観点の重視
 (1)学習のための意欲、能力の涵養
 (2)生徒の個性に応じた教育内容・方法の多様化
 (3)進路指導の充実
 (4)学校教育と社会教育との連携・協力等
4 社会教育の推進
 (1)地域社会における学習活動の促進
 (2)活動のための機会及び指導者の充実
 (3)社会参加の促進

第4章 成人期の教育
1 成人期の教育の重要性
2 成人への学校教育の開放
 (1)成人への高等教育の開放
 (2)大学教育の開放
 (3)短期大学教育の活用
 (4)高等専門学校教育の活用
 (5)高等学校教育の活用
 (6)専修学校・各種学校教育の振興
3 社会教育の振興
 (1)社会教育事業の拡充
 (2)社会教育施設の整備・充実
 (3)指導者の養成と処遇の改善
 (4)個人学習の奨励・援助等
4 勤労者のための教育・訓練等の充実
 (1)現職教育の充実
 (2)勤労者の教育・学習に対する協力・援助

第5章 高齢期の教育
1 高齢化社会の進行とそれへの対応
2 学習活動の奨励・援助等
 (1)学習機会の充実
 (2)学習内容・方法の工夫・改善
 (3)スポーツ活動の奨励
3 社会参加の促進
4 高齢期の生き方と生涯教育

前文

 中央教育審議会は、昭和52年6月、文部大臣から「当面する文教の課題に対応するための施策について」の諮問を受け、広く我が国文教の諸問題について検討した結果、生涯(がい)教育の観点から今後の教育の在り方を総合的に考察することとし、審議を進めてきた。
 このことは、今日、複雑に変化する社会環境の中で、国民の一人一人が各人の様々な生活課題に応じて必要な学習を行い、それぞれの個性・能力を伸ばし、生きがいのある充実した生活を享受できるようにすることが緊要な課題であり、また、社会の活力の維持・発展のためにも重要であると考えたからである。
 本審議会は、その審議の過程において、小委員会を設けるなどして調査検討を重ね、昭和54年6月、生涯教育に関する小委員会報告として、我が国における生涯教育の意義・状況を明らかにするとともに、当面検討すべき課題を指摘した。
 その後、この報告を基に、引き続き小委員会において専門委員等の意見を聴くなど調査検討を進め、本年3月、その結果をとりまとめて本審議会に報告し、これを公表した。本審議会は、この報告について広く社会の各方面から意見を求め、これらを基に更に慎重に審議を重ね、ここに答申としてとりまとめた。
 これをとりまとめるに当たっては、基本的な方針として、一つには、人間の乳幼児期から高齢期に至る生涯のすべての発達段階に即して、人々の各時期における望ましい自己形成を可能にする方途を考察し、また、一つには、教育機能の領域・形態の面から、家庭のもつ教育機能をはじめ、学校教育、社会教育、企業内教育、さらには民間の行う各種の教育・文化事業等にわたって、社会に幅広く存在する諸教育機能を生涯教育の推進の観点から総合的に考察したものである。
 本審議会は、現在我が国が極めて困難な財政状況に直面していることを認識しているが、行政当局においては、我が国における生涯教育の意義を深く認識し、広い将来的展望の下に所要の行財政措置を講じ、この答申に盛られた諸提言を実現されるよう切望する。

第1章 我が国における生涯教育の意義

1 生涯教育の意義

 人間は、その自然的、社会的、文化的環境とのかかわり合いの中で自己を形成していくものであるが、教育は、人間がその生涯を通じて資質・能力を伸ばし、主体的な成長・発達を続けていく上で重要な役割を担っている。
 現代の社会では、我々は、あらゆる年齢層にわたり、学校はもとより、家庭、職場や地域社会における種々の教育機能を通じ、また、各種の情報や文化的事象の影響の下に、知識・技術を習得し、情操を培い、心身の健康を保持・増進するなど、自己の形成と生活の向上とに必要な事柄を学ぶのである。
 したがって、今後の教育の在り方を検討するに当たっては、人々の生涯の各時期における人間形成上及び生活上の課題と、社会の各分野における多様な教育機能とを考慮に入れることが必要である。
 本審議会が、昭和46年6月の答申において、社会環境の急速な変化の下で、今後における人間形成上の重要な問題として、生涯教育の観点から全教育体系を総合的に整備することを検討課題として提起し、また、その後、昭和52年6月、文部大臣の諮問を受けて、あらためてこの課題を取り上げたのも、このような考え方に基づくものである。
 今日、変化の激しい社会にあって、人々は、自己の充実・啓発や生活の向上のため、適切かつ豊かな学習の機会を求めている。これらの学習は、各人が自発的意思に基づいて行うことを基本とするものであり、必要に応じ、自己に適した手段・方法は、これを自ら選んで、生涯を通じて行うものである。その意味では、これを生涯学習と呼ぶのがふさわしい。
 この生涯学習のために、自ら学習する意欲と能力を養い、社会の様々な教育機能を相互の関連性を考慮しつつ総合的に整備・充実しようとするのが生涯教育の考え方である。言い換えれば、生涯教育とは、国民の一人一人が充実した人生を送ることを目指して生涯にわたって行う学習を助けるために、教育制度全体がその上に打ち立てられるべき基本的な理念である。
 このような生涯教育の考え方は、ユネスコが提唱し、近年、国際的な大きな流れとして、多数の国々において広く合意を得つつある。また、OECDが、義務教育終了後における就学の時期や方法を弾力的なものとし、生涯にわたって、教育を受けることと労働などの諸活動とを交互に行えるようにする、いわゆる“リカレント教育”を提唱したのも、この生涯教育の考え方によるものである。
 我が国にあっては、人々の教育・学習のための機会は、公的あるいは民間諸部門の努力や活力によって豊富に存在するが、生涯教育の観点からみれば、なお吟味・改善を要する部分や、相互の連携・協力をより適切に進めるべき点が少なくない。
 また、我が国には、個人が人生の比較的早い時期に得た学歴を社会がややもすれば過大に評価する、いわゆる学歴偏重の社会的風潮があり、そのため過度の受験競争をもたらすなど、教育はもとより社会の諸分野に種々のひずみを生じている。今後、このような傾向を改め、広く社会全体が生涯教育の考え方に立って、人々の生涯を通ずる自己向上の努力を尊び、それを正当に評価する、いわゆる学習社会の方向を目指すことが望まれる。

2 生涯教育と現代社会

 このような認識の下に、近年なぜ我が国においても生涯教育が重視されるようになってきたかを、我が国の社会・経済的な状況に即して考えてみたい。
 第1に、社会・経済の急速な変化そのものが、人々に様々な知識・技術等の習得を迫っている。すなわち、目覚ましい科学技術の進歩や経済の発展は、技術革新と産業構造の変化をもたらすとともに、社会の都市化や情報化を進めており、このような状況の下で、多くの人々が新たな知識・技術の習得や主体的な情報選択能力の涵(かん)養、都市生活への適応など種々の対応を迫られている。また、特に、国際関係が一層深まりつつある今日、我が国が将来にわたって各国との協調の下に発展していくために人々が豊かな国際性を身につけることが求められている。
 第2に、人々の教育的、文化的な要求そのものが増大しつつある。我が国においては、従来から教育に対する関心は強く、また、学問をはじめ教養や趣味、技芸等を身につけることも盛んである。これに加えて、近年、物質的生活の豊かさが増し、また、国民の教育水準が向上するにつれて精神的な豊かさに対する要求は一層高まりつつあり、これに伴い個人あるいはグループによる種々の学習活動がとみに活発になってきている。
 また、これらの活動の内容は、職業的技術・知識の習得や資格の取得、芸術・趣味・スポーツ等に関するものから、信仰・修養など深く人間の内面にかかわるものなど多種多様である。このことは、種々の変化に対応し、あるいは不変の価値を求める人々の学習意欲の現れである。
 第3に、人々の多様な学習活動を可能ならしめる経済的、社会的な条件が整いつつある。すなわち、我が国においては、近年における経済成長の結果、国民の所得水準は逐年向上し、家計にゆとりをもたらし、それによって種々の教育的、文化的な要求が増大する一方、その充足を可能ならしめるに至ったのである。
 また、家庭における子供の数の減少や家事労働の軽減、職場における労働時間の短縮あるいは寿命の延長などに伴い、自由時間が増大しているが、このことも多様な学習活動を可能にしてきた理由の一つである。
 第4に、以上述べたような人々の個人的な学習上の必要性ないし可能性と並んで、今後、我が国が自由な生き生きとした社会を維持し、その一層の発展を図る上からも、適切な社会的な対応が求められている。
 今日、青少年の生活意識に見られる著しい個人生活への志向は、しばしば社会に対する無関心に連なり、また、人々の公共心、地域社会における連帯意識の希薄化が指摘されるに至っている。加えて、急速な高齢化社会への進行に伴う種々の課題が生じている。このような状況に対処し、今後、人々が自由に自立しつつ、しかも広い社会性を身につけ、相互の思いやりと生きがいに満ちた、活力ある社会を築いていく上において、適切な教育的対応が要請されているのである。

第2章 我が国の生涯教育に関する状況と今後の課題

1 生涯教育に関する状況

 我が国においては、国民の多様な学習意欲の高まりや教育に対する強い関心・要求に対応して、それを充足する様々な学習機会が提供されている。
 まず、社会における最も組織的、計画的な教育機能として、幼稚園から大学に至るまでの学校があり、さらに、職業や実際生活あるいは教養向上のための専修学校や各種学校がある。
 次に社会教育として、各地域において住民の学習要求や地域の特性に応じた各種の学級・講座、芸術文化活動、体育・スポーツ活動あるいは奉仕活動など多種多様な事業が推進されているほか、各種の社会通信教育も行われている。
 また、勤労者のための職業教育・訓練の場としては、公共職業訓練のほか、企業内教育・訓練をはじめとする職場の内外における現職教育が盛んである。
 さらに、新聞、放送、出版などの各種の情報媒体を通じての教育・文化活動や、近時都市を中心に発展しつつある民間の教育・文化事業があり、また教養、趣味、スポーツなどにかかる個人教授所も多く見られる。
 最近では、各地で、それぞれ地域の特性を生かした生涯教育への意欲的な取り組みが進められている。例えば、教育・文化施設の面では、特色のある公民館、図書館、博物館、文化会館などを新設したり、あるいは一部の都道府県で広域的な学習事業、研修、情報提供など各種の機能を備えた生涯教育センターなどの総合的な社会教育施設を設置するなど、積極的な姿勢も見られる。
 また、既存の施設を活用するための工夫・努力も払われており、小学校、中学校、高等学校などの施設が、住民の体育・スポーツ活動や文化活動のための場として提供されつつあるのもその現れである。

2 今後の課題

 我が国には、上述のように、従来から様々な学習機会が幅広く存在しており、人々の学習意欲も盛んである。
 しかし、生涯教育の考え方に立って我が国の教育の状況を見ると、今後の望ましい方向として、なお種々の改善を要する点が指摘される。
 本答申では、人の生涯をおおよそ、1)成人するまでの時期 2)成人期 及び 3)高齢期に分けてこれを考察するが、まず、ここでは教育機能の領域別の課題及び学習のための条件整備の課題について述べ、次に、第3章以下において各時期に固有の課題について述べることとする。

(1)教育機能の領域別の課題
ア 家庭の教育機能の充実
 今日我が国の家庭については、一般に社会とのつながりの弱さや、子供に対する過保護、しつけの不足などが指摘されている。
 このため、今後生涯教育の基盤としての子供の性格と態度の形成にかかわる親をはじめとした家族の努力が期待されるとともに、行政施策の面でも家庭教育への適切な援助が求められている。
 また、家庭が各人の人間形成や精神的充足の上に持つ影響は、成人や高齢者にとっても大きい。このため、家族相互の温かい心の触れ合いや、信頼と尊敬あるいは人格の陶冶(や)など家庭の教育機能の充実が望まれる。

イ 学校教育の弾力化と成人に対する開放
 近年、前述のように成人が学習する必要性や要求が高まりつつあるが、これらの人々のために容易に選択することの可能な効果的な学習機会ができるだけ広く用意されることが望ましい。とりわけ、成人において学校での修学を容易にするために、学校教育の開放を促進することの意義は大きい。
 このため、学校教育、特に大学教育をはじめとする高等教育の制度や運用方法の一層の弾力化、柔軟化を図る必要がある。

ウ 社会教育の振興
 地域社会における人々の多様な学習活動を助ける上で、社会教育は重要な役割を果たしているが、その施設や教育内容・方法においてなお不十分な面が多い。
 このため、施設や事業、指導者など社会教育全般について一層の充実を図るとともに、個人学習の援助など新しい分野や方法についても開発を進めるべきである。
 さらに、学校教育との連携・協力についても工夫・改善を図る必要がある。

(2)学習のための条件整備の課題
ア 学習情報提供・相談体制の充実
 生涯教育を進めるに当たっては、あくまでも個人の自主性が尊重されなければならないが、同時に人々の学習意欲を育て、かつ、その学習を容易ならしめる配慮がなくてはならない。
 このため、学習機会やその内容、活用方法についての情報を人々に提供する事業、及び学習の内容や方法について助言・援助する学習相談体制の拡充を図るべきである。

イ 生涯教育関係機関の連携・協力の促進
 人々の年齢、性別、能力等の違いや、学習の目的・動機の多様性からみれば、提供される教育機会は多種多様であって、かつ、これらが効果的に機能することが必要である。このため、民間を含めて、教育諸機関相互のより緊密な連絡・情報交換が行われることが望まれる。
 また、国や地方公共団体においても、教育関係者や教育機関のための情報提供活動の充実や関連行政機関相互の連携・協力の促進を図る必要がある。その際、特に地域社会において教育行政を担当する教育委員会は、生涯教育推進のための調整機能を十分発揮するなど積極的な役割を果たすことが期待される。

ウ 生涯教育に対する国民の理解
 生涯教育は、各人の自発的な学習意欲を基本とするものであるから、国民一人一人が自ら積極的に学び、自己の啓発・向上を図ろうとする意欲と能力を身につけることが大切であり、これらは学校、家庭、地域社会などのあらゆる場を通じて、しかもできる限り早い時期から養われなければならない。
 また、生涯教育の必要性は、各人が自己の体験を通じて自ら認識していくべきものであるが、行政施策の面からも、国民の理解を深めていく努力が必要である。

第3章 成人するまでの教育

1 人間形成の基礎を培う教育の重要性

 乳幼児期から青年期にかけては、人間の生涯において最も著しく心身が発達・変化するとともに、豊かな可能性を秘めている時期である。
 この時期に、子供の人間形成に及ぼす家庭の影響は極めて大きい。
 また、我が国では、義務教育への就学率はほぼ100%に達し、義務教育後の上級学校への進学率も94%を超えるなど、初等中等教育段階における学校教育は著しく普及しており、この時期の子供の教育において重要な役割を担っている。
 さらに、家庭教育及び学校教育と相まって、子供の多様な能力や可能性を自由に伸ばし、発揮させる教育の場として、社会教育が重要な役割を果たしている。
 これらの教育は、それぞれの立場で子供の人間形成の基礎を培う役割を担っているが、同時にこれら相互間において緊密な連携・協力が図られなければならない。
 このように、子供の成長過程に応じ、心身ともに豊かな発達を促し、生涯にわたり自己の形成を進めるための意欲と能力を育て、一人一人の子供が社会人として自立していくことを目指すことが、この時期の教育の眼目である。
 今日、子供の教育にとって好ましくない一部の社会環境や過度の受験競争の影響もあり、あるいは家庭や学校における教育的配慮が十分でない場合も見られる。このため、ともすれば心身の調和のとれた子供の成長・発達が損なわれがちであり、また、いわゆる登校拒否や暴力行為などの不適応ないし反社会的な行為が一部に現れていることも看過することはできない。これらの状況に対し、家庭や学校の努力はもとより社会全体が、生涯教育の観点に立って子供の健全な育成のために望ましい教育的環境の形成に努めることが緊要な課題となっている。

2 家庭教育の充実

(1)家庭教育をとりまく状況
 子供は、家族の愛情の下に教育され、自らも家族の一員としての種々の役割を果たしながら成長を遂げていく。そして、親たちも複雑・困難な社会的環境条件の下で子供の教育に取り組み、努力している。
 しかし、最近の傾向を見ると、社会の都市化、核家族化や家庭における子供の数の減少などの状況の下で、兄弟姉妹あるいは世代相互間の接触による家庭内での陶冶の機会は少なく、子供にとって家族とのかかわりは狭いものとなり、親も子供に対し、ややもすると過保護や過度の干渉に陥りがちである。
 また、一般に親の子供に対する関心は、知的な教育、殊に進学の問題が中心となり、基本的な生活習慣のしつけ、社会性や自制心の涵養などの面での家庭の本来的な役割が必ずしも十分果たされているとは言い難い。
 さらに、今日、テレビの普及に代表されるようにマスコミが著しく発達しているが、家庭においても、テレビ等による大量の情報を正しく選択し、これらを活用する能力を養うことが新たな課題となっている。

(2)幼少年期の成長過程の重視
 乳児期から幼少年期にかけての家庭教育は、子供の基本的な性格を形成する上で重要な意義を持つ。特にこの時期には、子供の知・徳・体の調和のとれた全人的な発達を促すことが大切である。このためには、子供の成長・発達の過程、殊にその依存と自立の過程における親のかかわり方が重要であり、子供がそれぞれの時期において獲得していかなければならない発達課題を確実に身につけていくことができるように、親が子供に働きかけ、これを助けていくことが重要である。殊に、子供に逞(たくま)しさや物事にいどむ積極的な気概が不足しがちであり、子供の気力や粘り強さ、自発性を培うことは、家庭教育における一つの課題である。
 また、子供は、家族との全面的な触れ合いを通じて成長していくものであるから、家庭の教育機能としては、意図的な教育ばかりでなく、意図しない家庭内での成人の生活態度そのものも重要な意味を持っている。したがって、子供の人間形成に及ぼす家族の生活態度や行動に十分留意しなければならない。

(3)青年期の特質と家庭
 義務教育終了後から成人として自立するまでの青年期にある者は、家庭ばかりでなく、教師、友人、マスコミその他社会全般の影響を強く受けつつ、また、数々の成功や失敗、幸福や不幸の体験を積み重ねながら、次第に自己を確立し、その能力や個性に基づいて自立して行動するようになる。
 この時期においては、幾多の試練を経て、青年が自己を確立していく過程を周囲が愛情をもって見守り、これを励ますように配慮することが大切である。
 また、青年は、その成長の過程で相談相手や心のよりどころを求めているのであり、親の適切な指導・助言は大きな指針となり、また、心の支えとなるものである。

(4)家庭と社会
 我が国では、一般的に家族相互の内面的な絆(きずな)が強く、このことは、社会の変化など外部の状況への対応を含めて、家庭に安定性を保ちやすい特質を与えていると言われている。しかし、反面、家庭が社会性に乏しく、閉鎖的になりがちであるという指摘も少なくない。このため、子供の社会性・公共性の涵養の面で、地域社会への奉仕や勤労体験など親の配慮すべき事柄は多い。
 家庭教育は、親の子供に対する私的な教育であり、親の自由に委ねられているものではあるが、同時に家庭それ自体は社会の基礎単位であり、また、社会的存在としての子供の社会性を伸ばしていくべき役割を担っている。その意味で、親は、家庭教育の持つ社会的責任について認識をより深めることが望まれる。

(5)家庭教育への援助
 家庭の教育機能の低下が指摘されているが、その機能の充実を図っていくのは、窮極のところ、個々の家庭の教育に対する熱意と自主的な努力である。
 家庭基盤の充実は、今日国民的な課題であり、従来から行政の各分野において種々の努力が払われてきているが、今後も家庭の教育機能を充実するための施策が求められる。
 家庭教育にかかる行政の任務としては、現に各地で行われている家庭教育学級・講座などの親に対する学習機会の拡充や学習内容の充実を一層図るとともに、家庭教育に関する学習情報の提供や子供の教育問題について身近に利用できる相談体制の整備など種々の施策を通じて家庭の子供に対する教育を援助し、これを励ましていくことが大切である。

3 学校教育における生涯教育の観点の重視

(1)学習のための意欲、能力の涵養
 我が国の初等中等教育は、従来ややもすれば既成の知識を与えることに主眼を置く傾向が強かった。このような傾向に対して、現在、子供が自ら考え、積極的に学び、伸び伸びと活動することができるように、ゆとりのある、しかも充実した学校生活の実現を目指した新しい教育課程が実施に移されつつある。
 幼少年期においては、健康・体力つくりを科学的研究の成果を基に推進するとともに、学ぶ意欲を育て、物事を自ら進んで考え、そこに楽しみを見いだすことができるような生き生きとした人間を育てることが大切である。このことは、生涯教育にとって欠くことのできない基礎であり、この時期における学校教育に課せられた重要な課題である。
 幼稚園教育においては、幼児の情操や創造性を育むとともに、集団生活を通じて社会性を養うことが必要である。
 小学校教育においては、まず児童の学習意欲の芽を育むことに教育の主眼を置き、具体的な活動を通じて学習指導を展開し、基礎的な知識・技能を修得させることを重視すべきである。また、児童の発達に応じて、一人一人が自主的に学び、活動する力を養うため、児童の多様な能力・関心に積極的に働きかけるように努めるとともに、学年を超えた異年齢層の児童の接触・交流がもたらす教育的効果にも配慮し、その一層の推進を図ることが望まれる。

(2)生徒の個性に応じた教育内容・方法の多様化
 今日、学校教育とりわけ中学校及び高等学校教育は、受験競争等の影響の下で知識の詰め込みに偏りがちで、人間性の陶冶の面が不足していることなどの弊害も見られる。この面の改善については、既に新しい教育課程が実施に移されつつあり、その着実な成果が期待されるが、なお一層、教員が生徒の個性・能力の伸長やその心情の理解に努めることが望まれる。
 また、中学校、高等学校段階の生徒にあっては、自己形成の責任は基本的に自らにあることを自覚させ、自己を適切に表現し、他者に正しく理解されるよう努める態度を養うことが必要である。
 中学校教育においては、義務教育の最終段階として必須(す)の基礎的知識・技能を確実に修得させるとともに、各人の個性の分化に十分配慮すべきである。
 高等学校教育においては、高等学校への進学者の増加に伴う在学者の多様化、中途退学者などの実態を十分考慮し、生徒がその能力・適性や希望に応じて選択できる多様なコースを設け、かつ、生徒の学習意欲や将来の進路に応じて各コース間の移動を容易なものとする必要がある。
 また、高等学校の全日制、定時制、通信制のいずれの課程を問わず、自主的、創造的な学習を促すため、生徒が自由に選択できる教科・科目の拡大や、単位の累積加算など履修上の弾力化を進める必要がある。

(3)進路指導の充実
 進路指導については、各学校段階において種々の努力がなされている。しかし、近年、受験競争が激しくなり、その指導はややもすると進学指導に重きが置かれがちである。
 中学校や高等学校においては、生徒が正しい勤労観や職業観を身につけ、将来社会人としてあるいは職業人として、よりよい生き方を見いだし、自らその進路を選択することができるようにすることが重要である。そのためには、生徒に対して、将来の進路設計や職業に関する適切かつ具体的な情報を提供したり、職業についての理解を深めるための体験の機会を与えることが大切であり、また、個別の進路相談に応じられるような工夫が必要である。特に、中学校卒業後直ちに社会に出る者に対する十分な配慮が望まれる。
 さらに、学校や父母に対しても、子供の進路の選択に関し適切な指導・助言ができるよう進学上、職業上の広い知識・情報が与えられるようにするとともに、進路指導に関し、学校、家庭、社会の間の連携・協力を一層強化することが大切である。
 また、このような進路指導の充実と並んで、学校、家庭はもとより社会全体が人間の能力をより多面的にとらえ、これを正しく評価するようになることが望まれる。

(4)学校教育と社会教育との連携・協力等
 成人になるまでの子供の教育については、学校教育が重要な役割を果たすべきであることは言うまでもないが、従来ともすれば学校教育に過大な期待が寄せられてきた。この点を考慮し、学校教育関係者は、社会教育の機能について理解を深め、社会教育の各種の施設や機会を子供の発達段階や地域、学校の実情に即しつつ、より積極的に活用すべきである。また、社会教育関係者も、学校に対して積極的に情報を提供するとともに、学校の側からのこうした動きに対して進んで協力することが望まれる。
 さらに、生涯教育の考え方に立って学校教育を進めるためには、各学校段階において、教員自身が生涯教育の意義をより一層理解することが重要であり、その理解を助け、深めるための研修の機会等を充実すべきである。

4 社会教育の推進

(1)地域社会における学習活動の促進
 青少年の興味や関心に即してその学習意欲を喚起し、自由で個性的な学習活動や生活体験の場を提供する上で、社会教育の果たす役割は大きい。
 この時期の青少年に対する社会教育にあっては、自由な学習や各種のスポーツ活動、芸術文化活動あるいは団体活動などのために多様な教育機会がより豊富に準備されなければならない。
 なお、これらの青少年の学習活動等を進めていく上で、社会教育関係団体の一層の充実・振興を図ることはもとより、家庭や学校の積極的な理解・協力が必要である。

(2)活動のための機会及び指導者の充実
 地域社会における青少年の自由で個性的な学習、スポーツ活動、芸術文化活動あるいは団体活動を促進するため、公民館、図書館、博物館、少年自然の家、青年の家、身近な運動広場、体育館、野外活動施設など、青少年の活動圏に即した社会教育施設や体育・スポーツ施設を一層整備・充実すべきである。
 また、民間企業・団体の施設の開放や空地の利用促進なども図る必要があろう。
 さらに、青少年の学習活動のための指導者として、主婦、高齢者を含む成人一般の有志指導者はもとより、高校生、大学生などのこの面での活躍が期待される。

(3)社会参加の促進
 青少年が地域社会に関心や愛着を持ち、社会的に寄与しようとする気持ちを持つようにすることは大切なことである。
 このため、青少年に奉仕活動などの場を与え、社会的な役割を果たすことの意義を体験的に理解させ、それを通じて地域社会に対する関心、愛着を高めるべきである。
 青少年の社会参加に関しては、特に家庭の理解・協力が必要であり、また、親自らが進んで子供とともに社会的活動に参加する姿勢が望まれる。
 さらに、学校等において、青少年の社会参加を積極的に評価するような取り組みが必要である。

第4章 成人期の教育

1 成人期の教育の重要性

 成人期における教育・学習は、自己の啓発・向上を図ろうとする一人一人の意欲と自主性にまたなければならない。
 また、今日、生活上あるいは職業上の多様な課題を抱える多くの人々が、人間の教育・学習は青年期までのもののみでは不十分であり、生涯にわたってその必要性が継続していくものであることを認識しつつある。
 我が国には、成人のための学習の場として、大学等の諸学校をはじめ、各種の社会教育施設や職業訓練機関、企業内教育や民間の教育・文化事業など様々なものがある。しかし、これらの教育機能には、成人の学習要求の多様化、高度化あるいはその学習上の時間的・経済的制約に対応して、なお吟味・改善の余地があり、今後、生涯教育の推進の観点から、これらの教育機能相互の連携・協力や地域社会との関連性も重視しつつ、その整備・充実を図ることが肝要である。

2 成人への学校教育の開放

(1)成人への高等教育の開放
 1)我が国においては、従来から大学、短期大学等の高等教育機関は、主として高等学校から直接進学する者を受け入れており、成人に対する開放は必ずしも十分ではなかった。
 制度の面では、既に聴講生・研究生制度や別科・専攻科、夜間制・通信制・昼夜開講制、大学公開講座など、かなりの方途が講じられており、また、最近では、成人を受け入れる努力が一部の大学の学部や大学院でなされつつある。しかし、高等教育機関全体としては、これらに対する取り組みは少なく、また、社会的にも十分利用されるには至っていない。
 今後は、生涯教育の観点から高等教育の機能をより積極的に成人に対して開放し、実生活を経験した者が必要に応じて大学等に入学できるようにすることが望まれる。
 また、大学等と社会とのつながりをより深め、社会の優れた人材を教員や研究員等として迎え入れることを大学等は検討すべきであろう。
 2)高等教育の機会の成人への開放を進めていく場合、当面、高等教育制度に漸次弾力性を加えていく形で、まずその運用の改善を図るべきである。その場合、成人の年齢、能力、学習目的などの多様性に応じて、各高等教育機関がそれぞれの特質・構造を柔軟に生かすように配慮すべきである。
 あわせて、高等教育機関が成人に対する開放を進めていくための施策が検討されなければならない。
 3)高等教育の機会を成人に開放していくためには、高等教育関係者の生涯教育に対する理解を深めることが肝要である。
 大学等の開放に関して、学校内部の理解や支持が得にくく、また教員が社会的需要を配慮した柔軟な教育課程を編成することに消極的である場合が少なくない。
 大学等の開放の成否は、窮極のところ、学校関係者の意識と姿勢にかかっているのであり、教員や学校の経営責任者が大学等をより積極的に社会の中に位置づけるよう努力を払うことが期待される。
 なお、大学等の教員が、学外において研究成果を発表したり、社会教育の諸事業や民間の教育・文化事業などに協力することも、生涯教育の観点から大切なことであると考えられる。

(2)大学教育の開放
 1)大学の正規の課程を成人に開放するための具体的方策としては、学士入学などの編入学を含め、昼間学部への正規の学生としての受入れの拡大のほか、昼夜開講制、大学通信教育、放送大学など開放型の制度の拡充や、成人の学習も考慮した多様な教育課程の編成などが必要である。
 また、成人の大学での修学を容易にするため、他の教育機関において修得した単位の認定や単位の累積加算、あるいは成人の学力を考慮した入学者選抜方法及び入学後の学習評価の多様化を図ることや、社会経験を評価に加えることなども検討の余地がある。
 2)一方、正規の課程以外の開放の形態としては、聴講生・研究生の制度や大学公開講座があるが、これらは大学に余裕があり、正規の教育に支障がない場合に実施されるのが現状である。したがって、これらを大学が教育活動の一環として取り入れ得るように諸条件の整備を進めなくてはならない。このうち、聴講生・研究生の制度は、学習条件に制約の多い成人の教育のための機会として、これに対する期待は大きい。
 また、大学の公開講座は、地域社会での生涯教育を進める上で効果的な企てであり、逐次その推進が図られている。加えて、一部の国立大学では公開講座等の事業を推進するため、「大学教育開放センター」を設置するなどの試みも行われている。今後、更に地域住民の学習要求を把(は)握しつつ、意欲的に公開講座の拡充を図り、大学の開放性を高めることが期待される。
 3)現在その実現が図られつつある放送大学は、広く大学関係者の協力の下に、ラジオ・テレビ放送を効果的に利用し、新しい形の大学教育の機会を広く人々に提供しようとするものである。この大学は、入学者選抜試験を行わず、柔軟かつ流動的に大学進学の機会を保障し、高等学校新規卒業者のみならず、広く成人に大学教育の機会を提供するものである。放送大学は、特定の科目や科目群を選択的に履修しようとする者も科目履修生又は選科履修生として積極的に受け入れようとしている。
 このように、放送大学は、今後における我が国の高等教育の在り方に関して新しい役割を果たすものであるとともに、生涯教育の観点からも人々に広く高等教育の機会を提供するものとして重要であり、その早期実現を図るべきである。
 4)近時、科学技術の進歩や国民の教育水準の向上に伴い、成人の学習要求は高度化しつつある。これらの要求を適切に満たすためには、学部段階の大学教育のみならず、大学院の教育・研究機能についても生涯教育の観点から見直す必要がある。すなわち、既に一応の学業を終えて社会に出た人々の継続教育や再学習をより可能とするため、新しい形の大学院の在り方も含め、大学院段階における教育・研究機能の社会への開放の促進を図るよう検討する必要がある。
 また、大学院を含め、大学教育を成人に開放していくに当たっては、国際的視野の下に、学習形態や学習内容について工夫することも大切である。

(3)短期大学教育の活用
 短期大学は、高等教育の機会の拡充に寄与しており、その地域的な分布状況から見ても、4年制の大学に比べ、より一層地域社会において効果的な役割を果たしやすいと言える。
 したがって、短期大学の教育内容については、4年制の大学の専門分野構成の型にとらわれずに、地域の要請に応ずるものとしたり、あるいは専門的職業教育や一般教養的なもので短期大学としての特色を生かした内容のものを取り入れるなどして、成人がより広く活用し得るような方向を目指すことが望まれる。
 また、地域の社会教育機関等と協力して公開講座を行うなど、地域住民のために短期大学を積極的に役立てることが望まれる。
 特に、短期大学の専攻科・別科を、職業に就いている者が新しい専門的・職業的技術や知識を学ぶための場として活用することも考慮すべきである。

(4)高等専門学校教育の活用
 高等専門学校は、ほぼ各都道府県にわたって設置されており、その専門技術教育は社会的に高い評価を得ている。また、それらは、地域の企業等に対して指導的な役割を果たすことができる立場にある。
 したがって、今後、高等専門学校が、地域の企業からの委託研究生の受入れや高等専門学校、工業高等学校等の卒業者に対する教育に積極的に対応することが期待される。また、地域の要望に応じた公開講座を開設し、専門的職業技術や知識を地域社会に提供していくことにも十分配慮すべきである。

(5)高等学校教育の活用
 中学校卒業後直ちに社会に出た者や高等学校の中途退学者などが、適時必要に応じて高等学校を身近な生涯教育の場として活用できるようにすることが望まれる。
 このため、高等学校における単位の累積加算、専修学校・各種学校での学習成果の単位認定など、修学条件の弾力化を図り、高等学校教育の構造を一層柔軟化することについて検討する必要がある。その際、高等学校の定時制・通信制課程については、上記のことに特に配慮するとともに、専攻科についてもその活用を図るべきである。
 また、公開講座や学校施設の開放など、高等学校の機能・施設の地域社会への開放を一層進めることが大切である。

(6)専修学校・各種学校教育の振興
 専修学校及び各種学校は、時代や地域社会の要請に応え、職業や実際生活に必要な能力の育成あるいは教養の向上を図るという目的の下に、多様かつ実践的な教育を行っている。これらの学校は、職業人の育成の面で社会的に重要な役割を果たしているが、経済・社会の変化や学習者の志望、適性等に柔軟に対応できる教育の場として、生涯教育の面からも一層重要な役割を果たすことが期待される。
 このため、教員の資質・能力の向上、教育内容、指導方法の改善・充実及び施設設備の整備・充実等、その特色を生かした振興を図る必要がある。
 また、専修学校が果たしつつある社会的役割に照らし、能力がありながら経済的理由で修学が困難な者に対する修学援助について、昭和55年度から適用されている日本育英会の奨学制度の一層の拡充を図るべきである。

3 社会教育の振興

(1)社会教育事業の拡充
 1)社会教育は、人々の多様な学習要求に対して、各種の学習や体育・スポーツ活動、芸術文化活動など広範多岐な学習機会を提供しており、生涯教育の観点からその果たす役割は極めて大きい。
 また、近年、人々の学習要求が多様化し、かつ高度化していることに対応して、地方公共団体において、住民の学習に関する希望等を基に学習内容・方法の改善が進められつつあるが、今後もなお一層この面での施策の充実が望まれる。
 特に、成人は、生活上あるいは職業上多くの課題を抱え、かつ学習上種々の制約を持っており、これらの諸条件を満たす学習の機会、内容・方法を求めている。この点を考慮して、できるだけ多くの者が学習活動に参加できるように、学習に関する情報提供や相談体制の工夫を含めて、それぞれの地域の実情に即し、社会教育事業の整備・拡充を図る必要がある。
 2)社会の都市化が進む中で、人々の生活はややもすれば自己中心的なものとなりがちである。今後、一人一人の学習活動が単に個人生活の充実のためのみにとどまらず、各人がその成果や能力・経験を生かして、地域社会に寄与し、そこに愛着を持ち、生きがいを見いだせるような社会参加の機会の拡充を図ることが望まれる。
 3)今日、自らの健康・体力を保持・増進するため、日常生活において積極的にスポーツに親しむ人々が増加している。このため、スポーツに関する科学的研究体制を確立し、その成果に基づき各年齢層に適したスポーツ活動の内容・方法等に関する施策の充実を図ることが特に緊急な課題である。
 4)国際関係が深まる中で、異文化民族についての理解は、国民にとって欠くことのできない素養である。このため、社会教育においても、各種の国際交流事業を活発にするとともに、国際理解を深める上に役立つ知識や実践的な外国語の習得などを含め、国際的に開かれた心の涵養を重視した事業の充実を図るべきである。
 5)なお、地方公共団体が行う社会教育事業と並んで、近時、都市を中心に企業や団体による各種の文化教室やスポーツ教室などが急速に普及しつつある。これらは、民間の活力や特色を生かした新しい学習機会として重要な役割を果たしており、その健全な発展が期待される。

(2)社会教育施設の整備・充実
 各地には、公民館、図書館、博物館、文化会館、体育館、運動広場など住民の学習や芸術文化活動、体育・スポーツ活動のための種々の公共施設がある。これら各種の施設は、国の助成や地方公共団体の努力によって逐年整備されてきているが、その数は利用者の要望に照らし、なお十分とは言えない。
 このため、今後、地域の特性や住民の文化活動圏など学習活動の実態を考慮しつつ、これらの施設の整備を計画的、体系的に進める必要がある。
 また、各施設がより効果的に利用されるように、夜間の開放も含め利用時間や運営方法の弾力化に一層努めるなど、施設の活用方法の改善を図るとともに、事業活動に関する情報提供の充実に努め、あるいは関連施設相互の有機的連携を強化する必要がある。
 なお、最近、一部の都道府県で設置又は構想・計画中の生涯教育センターなど、教育・文化面についての各種の機能をもつ総合的な社会教育施設を一層整備していく必要がある。
 さらに、学校施設やその他の公共的施設の開放の促進を図るほか、各種の団体や企業等が有する民間施設も地域住民のために開放されることが望まれる。なお、学校施設の開放を推進するため、今後、住民にとって利用しやすい施設設計上の配慮や教職員の積極的な協力が期待される。

(3)指導者の養成と処遇の改善
 人々の学習やスポーツ活動、芸術文化活動を盛んにしていく上で、このためのカリキュラム開発や実践上の指導に当たる人材の確保もまた緊要な課題である。
 社会教育やスポーツの専門的職員としての社会教育主事や、スポーツの指導者の育成・活用が特に必要であり、また、学校の教職員やその退職者、あるいは企業の専門職員や地域住民などの有志指導者の活躍が望まれる。
 また、大学など高等教育機関や、国立社会教育研修所、国立総合体育研究・研修センター(設置準備調査中)を含む社会教育、体育・スポーツ研修施設において、社会教育指導者、スポーツ指導者の養成や現職研修を進めるとともに、これらの職にふさわしい地位や処遇の改善を図ることが大切である。

(4)個人学習の奨励・援助等
 人々の学習要求が、その内容・方法において一層多様化・高度化し、また、集団的な学習形態よりも個人学習を望む人々も数多く存在することから、個人学習に対する配慮がますます重要になるであろう。
 このため、社会通信教育の充実や、近年、各方面で試みられつつある地域の各家庭に情報を送る新たな情報媒体の開発とその活用を図ることが望まれる。
 また、電話等を利用した情報提供・相談事業や、図書館や博物館におけるこの種の機能の強化を図り、あるいは公民館における身近な情報提供・相談機能を拡充すべきである。都道府県段階においては、例えば、生涯教育センターなどの総合的な社会教育施設で、広域的に学習に関する情報を収集・提供したり、学習相談に応じ得るような学習情報センター的機能を充実する必要がある。
 さらに、個人の各種のスポーツ活動を奨励・援助するため、年齢段階に応じたスポーツ・プログラムの充実や、手軽な指導書の提供が望まれる。
 また、各人の学習活動の成果に対して適当な資格を認定・付与するような方策は、人々の学習への動機や意欲を高める上でも考慮に値しよう。

4 勤労者のための教育・訓練等の充実

(1)現職教育の充実
 変化の激しい社会・経済環境の下で、今日、勤労者は職業生活上、新たな知識・技術の習得を必要としている。
 我が国では、企業、官公庁、学校等を通じて勤労者の現職教育が余暇活動に対する援助を含めて盛んであり、その職業能力の開発・向上などに大きく寄与している。これらの教育・訓練の内容は、職務に必要な知識・技術や職場における士気、連帯感の高揚など職務能力向上のためのものから、語学や一般教養のためのものまで多種多様であり、広く職業人として、あるいは人間としての資質・能力の向上に役立っている。
 しかし、現職教育の機会・内容等の実情から見て、今後、これらの教育の一層の充実を図るためには、各企業・事業所が大学など広く社会にある各種の教育機関を活用していくことも効果的であろう。
 また、教員などの公共性の高い専門職にある者については、その職責に対する国民の要請と職務の専門性にかんがみ、絶えずその資質・能力を開発・向上させることが特に期待されており、それらの人々のための現職教育を更に充実する必要がある。

(2)勤労者の教育・学習に対する協力・援助
 労働力の高齢化や産業構造の変化が進む中で、自己の職業能力の向上、転職のための能力の再開発あるいは自己の啓発・向上などのために、大学などの高等教育機関や各種の教育・訓練機関を利用しようとする者が増加していくと見込まれている。
 このような勤労者の多様な自発的学習を、生涯教育の観点からできるだけ奨励し、援助していく姿勢が期待される。このため、学習時間の面では、当面企業等において、勤労者の夜間の教育機関への通学や通信教育のスクーリングへの参加などを容易にするための配慮が望まれる。
 また、勤労者の教育のための休暇については、我が国における休暇や労働時間、労働慣行等の実態や、諸外国における教育休暇制度の実情なども勘案しつつ検討を進める必要がある。

第5章 高齢期の教育

1 高齢化社会の進行とそれへの対応

 我が国の人口構造は、近年、急速に高齢化しており、今日、老年人口の総人口に対する割合は9%に及んでいる。この割合は、21世紀初頭には現在の欧米諸国の水準に達し、その後、それを上回る水準の高齢化社会を迎えるものと予測されている。
 このような状況の下で、今日、高齢者の問題は、高齢者自身にかかわる事柄であると同時に、国民すべての将来にかかわる重要な課題の一つとなっている。
 我が国の高齢者対策は、これまで主として福祉、医療などの面が中心であった。しかし、今後は、家庭や社会が、単に高齢者の庇(ひ)護に努めるだけでなく、敬愛の念をもって接するとともに、その経験や能力を社会的に正しく評価し、その積極的な社会参加を期待し、これを支援することが必要である。
 高齢者も、寿命の延長に伴う自由時間の増大などにより、多くの文化的な要求を持ち、また、様々な生活課題に直面しており、これに応ずる学習活動のための場の整備など各種の施策が求められている。この場合において、特に高齢者の個人差の大きいことや、今後における高齢者の生活意識や価値観の変化などを十分考慮に入れる必要があろう。
 また、高齢化社会を迎えて、単に高齢者ばかりでなく、一般国民も種々の機会を通じて高齢期についての理解を深めることが必要であり、学校教育においても、従来にもまして、人間の生命や老化に関する正しい知識と、生と死の尊厳に対する認識を深めるなどの配慮が望まれる。

2 学習活動の奨励・援助等

(1)学習機会の充実
 精神的に豊かな生活を営む上において、各人の自助努力が基本であることは言うまでもないが、国や地方公共団体も高齢者の教育あるいはそのための諸施設、指導者の確保などを更に充実する必要がある。その際、高齢者の学習要求を画一的な枠(わく)組みの中でとらえず、各人の能力や健康・体力、社会経験の違いなども十分考慮し、選択可能な多様な学習機会を用意することが大切である。
 最近、各地において公民館を中心に高齢者教室や高齢者大学などの事業が活発であり、それぞれ大きな成果を上げているが、今後は、公民館のみならず、身近な学校施設やその他の公共的施設においても、この種の学習機会を設けることが望まれる。
 また、高齢者の個人学習を奨励・援助するため、図書館、博物館など専門的な教育施設が積極的な役割を果たすことや、電話などによる学習相談事業の充実を図ることが極めて重要である。
 さらに、種々の制約を持つ高齢者にとって、放送大学や通信教育は、学習の機会を広く、効果的に提供するものとして、今後、ますます重視されなければならない。

(2)学習内容・方法の工夫・改善
 高齢者の希望や地域の状況等に即し、学習内容・方法の面でも適切、多様な対応が望まれる。その際、実践的、活動的な方法を採用したり、異なる世代との接触・交流や各人の生活課題を重視するなどして、自主的な参加意欲を満たし、学習効果を高めるような工夫が大切である。
 また、自己の学習成果を活用して、自ら指導者としての役割を果たすことは、高齢者の学習の動機づけや学習効果を高めるものであると考えられる。
 急速な高齢化社会を迎えて、我が国の高齢者のための教育的対応は、まだ緒についたばかりである。このため、人間の老化に関する研究を含め、高齢期の特質を配慮した学習内容・方法の研究・開発を積極的に進める必要がある。

(3)スポーツ活動の奨励
 健康・体力や精神力を維持し、豊かな老後を築くためには、高齢者自らが適切な健康管理を行うとともに、スポーツが社会的な交流を深める機会として役立つことも考慮し、各人に合った多様なスポーツ活動に参加するよう奨励することが大切である。
 また、高齢者に対するスポーツ活動を推進するに当たっては、高齢者に適した運動の量や強さ、またその方法等の面で成人期のスポーツとは異なる工夫が必要である。

3 社会参加の促進

 多くの高齢者にとって、自己の経験や知識・能力を生かして社会的に活動することは、大きな生きがいの一つとなろう。
 したがって、高齢期の人々が、今よりも容易に社会参加ができるように様々な場を広く用意することが大切である。この場合、各人がその希望する形で社会参加を果たし、他の世代とのかかわりや周囲の人々との積極的な交流が図られるように配慮することが必要である。
 最近、各地で行われている人材活用事業は、高齢者がその能力を積極的に生かす場を提供するものとして効果的である。なお、高齢者がこのように指導者としての役割を担い、あるいは奉仕活動などの地域活動に参加することに対し、社会がそれらの努力に正しく報いようとする配慮が肝要である。

4 高齢期の生き方と生涯教育

 流動する現代社会の中にあって、高齢者が充実した生活を送るために、自ら進んで学習活動や社会的活動を続け、あるいは瞑(めい)想や思索に意義を見いだすなど、主体的に生きる姿勢が大切である。
 また、国民一人一人が、高齢化社会の急速な進展を迎え、高齢期をひかえてその生き方を自ら考え、それに対して備えることの必要性を自ら認識することが重要である。
 人間がその生涯を通じて、科学、芸術、宗教など人生とかかわる根源的な諸問題を学習・探究し、自己自身を深めることによって価値ある生涯を送ることにこそ生涯学習の意義があり、このような学習を可能にすることが生涯教育の理想とするところである。

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