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当面する大学教育の課題に対応するための方策について(答申) (第21回答申(昭和44年4月30日))

昭和44年4月30日
生涯学習政策局政策課

21 当面する大学教育の課題に対応するための方策について(答申)

(諮問)

昭和43年11月18日

中央教育審議会

文部大臣 灘尾 弘吉

 つぎの事項について、別紙理由を添えて諮問します。

当面する大学教育の課題に対応するための方策について

(理由)

 最近における大学の内外にわたる学生運動の激化と相当数の大学における異常な事態の発生は、現代社会における諸般の問題と深い関連があると思われるが、その重要な要因として、わが国の大学教育にも幾多の改善すべき問題点のあることが指摘される。とくに、大学当局に対する学生の激しい反抗的行動が、長期にわたって終息せず、しかもそれが相当多数の学生にまで拡大して収拾困難に陥る傾向の見られることは、大学自身にも運営その他に多くの問題があり、その教育的な指導性もじゅうぶんに発揮できない状態にあるためと思われる。
 よってこの際、このような事態の発生する要因を探究し、大学教育の正常な実施を保障するために当面とるべき制度上または運営上の方策につき、なるべくすみやかに結論を得る必要があると考える。

(検討すべき問題点)
  1. 教育課程の充実とその効果的な実施について
  2. 大学における意思決定とその執行について
  3. 学園における学生の地位について
  4. 収拾困難な学園紛争の終結に関する措置について

(答申)

昭和44年4月30日

文部大臣 坂田 道太 殿

中央教育審議会会長
森戸 辰男

当面する大学教育の課題に対応するための方策について

 本審議会は、当面する大学教育の課題に対応するための方策について、第24特別委員会を設けて慎重な審議を行なって得た結果について、総会においてさらに審議し、ここに結論を得ましたので、別紙のとおり答申いたします。

目次

第1 大学紛争の要因とこの答申の課題
 1 大学紛争の根底にあるさまざまな要因
 2 大学の特異な構造に由来する混乱の原因
 3 新しい大学のあり方と大学制度の基本的課題
 4 この答申の課題

第2 大学問題の解決について関係者に期待するもの
 1 大学教員のあり方
 2 大学管理者の役割と責任
 3 政府の任務

第3 大学における意思決定とその執行
 1 大学の中枢的な管理機関における指導性の確立
 2 大学管理機関の機能的な役割分担の徹底
 3 意思決定手続きの合理化
 4 全学的な協調の確保
 5 その他の必要な改善方策

第4 大学における学生の地位と役割
 1 大学における学生の地位についての考え方
 2 学内学生団体と学生自治会
 3 学生の政治的活動と大学の秩序維持
 4 学生に対する処分制度
 5 いわゆる「学生参加」の意義と限界

第5 当面する大学紛争の終結に関する大学と政府の責任
 1 大学においてとるべき措置
 2 政府においてとるべき措置

第1 大学紛争の要因とこの答申の課題

 本審議会は、昭和42年7月以来、「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」の諮問に応じ、大学教育についても多面的に検討を進めてきたが、昨年11月、大学における異常な事態が激化する傾向にかんがみ、標記の課題について重ねて諮問を受けた。
 いまこの答申を行なうにあたって、本審議会として、今日の大学紛争の由来するところをどう考え、この答申の課題を大学教育の基本問題との関連においてどうとらえたかについて述べたい。
 もとより、今日の事態は、その背後に個々の大学を越えて既存の社会秩序の変革をめざす運動があり、単に大学問題としてとらえるだけではふじゅうぶんであるが、この答申はもっぱら大学および政府の文教政策の範囲内の問題を取り扱うこととした。

1 大学紛争の根底にあるさまざまな要因

 今日、わが国の多くの大学で見られる紛争は、その発端の事情や事態の推移はそれぞれ異なっているが、その根底には多くの共通する要因があるように思われる。また、大学紛争が学内の問題にとどまらず、政治的、社会的な問題と密接に関連していることは、わが国はもとより欧米諸国でも共通に見られる現象である。しかもそのことが、経済的には高い水準であり高等教育についても長い伝統と高い普及率をもつ国々で顕著になってきたことは、注目に値する。
 このことは、今日の世界における大学紛争が現代という時代の特有な性格に基因していることを示している。たとえば、既成のいろいろな政治的・社会的体制への不信、経済的には豊かな社会における精神的な空白、高度に技術化された社会における人間疎外など、さまざまな要因が多くの論者によって指摘されている。
 さらに、それらの要因と関連して、今日の青年層とくに学生の意識や行動様式の中に、次のような大きな変化が起こったといわれている。
(1) その一つは、世代による価値観の相違、さらには世代間の対立の意識である。世代間の闘争と呼ばれる現象は、社会の転換期にしばしば見られるが、今日の社会の急激な変化とマス・メディアの発達が刺激と暗示を受けやすい青年に強く作用して、その現象をいっそう激化させている。また、かれらの中には新しい独自の文化へのあこがれがある。それは、享楽的、虚無的な行動として現われることもあるが、さらに大学改革や社会改革をめざす反抗となることもある。そして、大学生が量的に膨張したことや、都市生活における孤独感からのがれて集団に帰属感と充実感を求める傾向がかれらの中に増大したことが、いわゆるスチューデント・パワーの結集を容易にした一つの要因とされている。
(2) さらに、わが国では戦後社会の特質に関連のある特徴もみられる。伝統的な権威の崩壊と民主化の過程における権利意識の高揚と責任感の軽視、イデオロギーの対立による社会生活各般にわたる過度の政治意識、青少年の訓育に対する成人の自信喪失と過保護の傾向などによって、青少年の中に自己主張の態度と行動力が育ってきた反面、責任転嫁の傾向と自己統御力の不足などが目だつようになった。
(3) とくに戦後の学校教育においては、教育界における思想的な混乱、大学入学者選抜方法の欠陥による高等学校以下の教育のひずみなどが、青少年の正常で豊かな人間形成を妨げてきた。また、高等教育の急速な普及の効果は認められるが、それに応じた制度の改革、教育内容・方法の改善および教育条件の整備が立ちおくれたため、学生の中にいろいろな不満が蓄積されてきたことも否定できない。
 上に述べたことは、広く現代社会の特質に関連するものであり、今後の文教政策の重要な課題を含んでいる。

2 大学の特異な構造に由来する混乱の原因

 大学紛争は、上述のようなさまざまな要因により具体的な事件をきっかけとして発生するのであるが、それは収拾困難に陥る原因の一つは、大学関係者の中に伝統的な大学のあり方が維持できないと感じながらも新しいあり方の見通しがはっきりしないという苦悩があることであろう。そのような問題が生ずるおもな原因は、大学のもつ特異な構造に由来すると思われる。
 大学は、管理者、教員、職員および学生という異質な構成員からなる多元的な社会である。しかも大学の性格、機能は多面的であり、公共的な管理のもとにある社会的機関という面、学術研究者の自由な活動の場という面、知識・技術や資格を付与する機関という面、師弟と学友の教育的な人間関係の場という面など、さまざまな側面をもっている。そして、それぞれの側面において、各構成員の役割と相互関係は異なるべきものである。
 このような大学の多元性と多面性が時代の進展とともにしだいに顕在化してきたのが今日の状況である。そして、この多面性を無視してそれを一面的にとらえ、その側面だけから構成員の役割を規定し、たとえば大衆化した大学を教育的な人間関係だけで律したり、あるいは大学を単なる契約的な社会とみたりするところに大学像の混乱の原因がある。大学紛争の中で学生が、一方では強い権利の主張を行ないながら、他方では教師の学生に対する無関心に不満を表明するのもこのことと関連がある。

3 新しい大学のあり方と大学制度の基本的課題

 本審議会は、すでに昭和38年1月の「大学教育の改善について」の答申において、新しい大学はかつての「象牙(げ)の塔」ではなく、社会的な機関としての性格をもつべきことを指摘した。それは個人と社会の教育に対する要請に即応できる大学であり、社会からの批判とその建設的な協力に道を開いた大学であり、公費の大幅な支援を受けるとともに学問研究を通じて社会に奉仕する大学であるという点において、いわば「開かれた大学」とも称すべきものであろう。
 同時に、新しい大学は今後さまざまな類別化を必要とするであろうが、知識の伝達以上に新しい価値の創造を期待する大学においては、そこにおける教育的な人間関係の重要性を見落とすことはできないであろう。この関係は、多元的な大学という社会をまとめる中心であり、そこに人間的な統合を回復する場がある。このことは、ともすれば人間疎外に陥りやすい現代社会において、今後ますます重要な意味をもつと考えるべきである。
 また、本審議会は、一昨年以来、学校教育を総合的に再検討するため現状の問題点を明らかにする作業を進めてきた。その審議の過程において、現在の大学制度には次のような基本的な課題のあることが指摘されている。

(1) 高等教育の普及に伴い、一方では多数の学生の多様な能力と要請に即して効果的な教育を行なうとともに、他方では学術研究の体制をいっそう高度化するため、高等教育機関の類別化、教育内容の多様化、大学の組織、編成および規模の適正化をはかること。

(2) 国立、公立および私立の大学という制度上の区別の意義を再検討し、公費負担による教育費の拡充と高等教育機関の計画的整備に関する公的な調整機能の充実とにより、高等教育全体の質的水準の向上をはかるとともに、その全体規模、専門分野別の割合、地域的配置などの適正化をはかること。

(3) 研究の自由を確保しながら時代の変化に応ずる社会的要請を進んで取り入れ、自治に伴う責任を自ら負担して教育・研究活動の効率化を自律的に行なうことができるような大学の新しい形態を検討すること。

(4) 人事の閉鎖性による社会からの遊離と沈滞を防ぐため、教員の人事交流を活発にするとともに、その教育・研究活動に不断の刺激を与えるような教員の選考方法、任用期間、身分保障などの制度と大学教員にふさわしい待遇とについて、検討すること。
 本審議会は、この答申に引き続いてこれらの大学制度に関する基本的課題の検討を行ないその大綱についてなるべくすみやかに結論を得たいと考える。

4 この答申の課題

 この答申では、大学紛争の根底にあるさまざまな要因と大学制度の基本的課題について上述のような認識に立ち、当面の事態に関する次のような問題点を中心として、これに対応するための方策を検討した。これは、当面の対策であるとともに、今後の根本的な改革の基礎づくりであると考える。

(1) 大学の組織の複雑化と巨大化に対して管理運営の機能の改善が著しく遅れているため、大学紛争が生じたとき収拾困難に陥りやすいこと。

(2) 学生の地位と役割について大学側の検討がこれまでふじゅうぶんであったため、学生自治会や学生の政治的活動に対する指導方針が確立されず大学の秩序維持が困難になったり、学生参加の要求に対処する考え方が定まらなかったりすること。

(3) 紛争がいつまでも継続して収拾困難に陥った場合にも、大学や政府の責任においてとるべき特別な措置について明確な方針が定まっていないこと。

なお、今日の大学問題の根本には教育の内容・方法の改善という重要な課題があるが、これは、上述の大学制度の基本的課題と切り離すことができないので今後の検討にゆだねることとした。

第2 大学問題の解決について関係者に期待するもの

 次章以下で具体的な方策を取り上げるまえに、今日の大学問題に直接関係のある大学教員、大学管理者および政府に対して本審議会が期待するところを述べたい。それは、たとえどのような方策を講ずる場合にも、大学問題の解決については、当事者の自覚と反省に基づく積極的な態度がなければその目的を達することはできないと考えるからである。

1 大学教員のあり方

今日の大学紛争の根底には、教員に対する学生の不満の蓄積があることは見のがせない。大学の現状においては、教員の処遇その他にも不満足な点の多いことはいうまでもないが、少なくとも次のような点についてはまず、教員自身の自覚を強く期待したい。

(1) 今日の学生は多様な興味と関心をもち、社会の現実についても希望と不安をいだいている。かれらの意識と態度に留意しながら学問的刺激を与えてその勉学の意欲を引き出すことは、今日の大学教員に要求される重要な任務である。

(2) 今日の学生は、他律的な制約を強く拒む態度を示しながら、他面では、教師との接触によって自己啓発の手がかりを得ることを渇望している。謙虚で誠実な一個の先達として、教師が学生に接することが要請される。

(3) 教員は、本来、研究者としては自由で独立した立場にあるが、教育者としては大学の教育計画に従ってその実施にあたることが要求され、組織の中で一定の地位を占める者としては自ら大学の規律を守るとともに、大学管理上の責任を分担することが求められる。さらに、国・公立大学の教員は、公務員としての地位と責務を有していることに留意しなければならない。

(4) 学問の自由を守るためには、学外からの不当な圧迫を排除するばかりでなく、学内においては、あらゆる思想に対して寛容であると同時に、個人の思想と良心の自由を侵す行為に対して勇気と信念をもって立ち向かう責任がある。

(5) 大学教員は、その社会的な地位と影響力にかんがみ、個人的な立場からの言動についても、一般社会の信頼にこたえるよう慎重な配慮が望ましい。

2 大学管理者の役割と責任

 大学問題の解決のため他に先んじて改善の努力を払うことは、大学管理者に課せられた社会的責任であり、そのすぐれた指導性が発揮されなければ多数の大学関係者の善意と努力も正しく結実するものではない。次章以下に述べる方策は、多年にわたる大学の慣行を改めなければならないものを含んでおり、その実施に多くの困難が予想されるが、大学管理者が確信と勇気をもってそれにとり組まないかぎり問題の解決は期しがたいと考える。
 大学紛争が激化した場合における力の抗争が生み出す荒廃は、大学にとって深刻な事態であるとともに国家社会にとっても重大な損失である。大学管理者は、学内の総力をあげてその解決に努めるとともに必要な場合には、閉鎖的な自治の考えにとらわれることなく学外からの協力を求めるべきである。また、大学管理者は、紛争の収拾を急ぐあまり、不当な圧力や要求に妥協的な態度を示すことは、かえって全学の信頼と協力を失う原因となることに留意する必要がある。
 とくに公費に依存する国・公立大学は、その存立の基盤を国民または住民におくものだけに、その管理者は責務のいっそう重大なことを強く自覚すべきである。また、国立大学は、その設置者が国であることを考え、政府との間に緊密な協力関係を維持すべきである。

3 政府の任務

 大学の自治と自主性は尊重されなければならない。しかし、そのために政府の大学政策が消極的に過ぎたり、また、大学がその自治と自主性を閉鎖的に考えて政府に対して不必要な反発を示したりする傾向が見られた。今後、政府は、その施策を進めるにあたって、まず、大学との間の協調関係に立って大学改革への自覚と努力を促すとともに、ともすれば社会に対して閉鎖的になりがちな大学に対し、一般国民の期待するところにこたえながら積極的に行政上の責任を果たすべきである。
 さらに政府は、今日の世界のすう勢にかんがみ、その重要な施策の一として、高等教育に対する財政支出を拡充して、高等教育の計画的な整備充実をはかるべき時期に際会している。とくに私立大学においては、その経営が学生の経費負担に大きく依存していることが、紛争の大きな要因であるとともに、今後の発展に対する障害となっていることに留意しなければならない。本審議会は、目下、学校教育の総合的な拡充整備計画を検討しているが、このような教育の長期計画は、総合的、国家的な観点から強力に実施されることが期待される。

第3 大学における意思決定とその執行

 本審議会は、さきに昭和38年1月の答申において大学の管理運営の改善に必要な提案を行なった。そこで述べた考え方は今日も基本的には変わらないが、ここでは、大学紛争を契機としてとくに顕著となった大学の自治能力の欠陥を是正し、積極的な大学の改革を進めるために必要な当面の改善方策をあらためて取り上げる。
 なお、大学の管理運営に一般社会の声を反映させる具体的な方策や私立大学の経理について適切な監査と合理化の方法を取り入れることなど、重要な課題については、さらに今後検討を進める必要がある。
 大学の管理運営については、現行の法令で具体的に規定したものは少なく、各大学の慣行に任されているので、もっぱらその機能の改善のために必要な方策を提案する。その具体的な適用については、国・公立大学と私立大学の管理方式の相違、各大学の性格、規模などによる差異をじゅうぶん考慮する必要がある。

1 大学の中枢的な管理機関における指導性の確立

 学部自治を重視するこれまでの大学の管理体制では、大学紛争のような全学的な問題を処理することはきわめて困難であり、まして、全学の意思を結集して大学の改革を進めることは期待できない。
 これを改めるには、学長を中心とする全学的な管理機関が、大学の現状の問題点を的確にとらえ、その解決のための具体策を提案し、その実施について適切な指示を与えるとともに、全学的な意思の統合をはかることについて指導的な役割を果たす必要がある。そのような中枢機能を充実する方法として次のことが考えられる。

(1) 学長の職務の執行や全学的な基本問題の企画調査について、学長を補佐するため、副学長またはその他の機関を設ける。これらは大学の規模その他の事情に応じて複数とし、たとえば教務、学生、広報その他の分野を分担する。その選考は、教職員または学外の適任者の中から学長が行なうこととする。

(2) 前項の企画調査のため、学内から広く適任者を集めて合議制の機関を設ける。そのうち、次章で述べる学生参加の領域の問題を取り扱うものについては、学生の参加を認めることも考えられる。

2 大学管理機関の機能的な役割分担の徹底

 大学内の各種の機関の役割分担とその相互関係が明らかでないため、管理運営が非能率になったり、混乱したりすることが少なくない。たとえば、多人数からなる合議制の機関で執行上の細目まで審議するため時宜を得た処置がとれなくなったり、執行機関の責任の範囲が明らかでないため独断に過ぎるとして学内の支持を失ったりすることがある。また、大学全体として責任の所在が不明確になることがある。このような欠陥は、各機関がその取り扱う問題に関し、基本方針の決定から執行までの過程のうちどの部分について権限と責任をもつかが明らかでないことに起因する場合が多い。
 そこで、各機関の特質に応じて、次のような機能的な役割分担を徹底させる必要がある。

(1) 学長、学部長などの執行機関は、合議制の審議機関の承認した基本方針の範囲内で、個別的な事案の処理については大幅な自由裁量と専決が認められるべきである。これらの機関には行政上の識見のある者が選ばれ、相当な期間その仕事に専念できるようにする必要がある。また、それらの機関に必要な補佐機関や事務組織も整備されるべきである。

(2) 評議会、教授会などの合議制の審議機関は、もっぱら基本方針を定めて執行機関に方向づけを与える役割を担当し、執行上の細目の判断には関与すべきでない。その代わりに、執行の結果に重大な問題が生じたときには執行機関の責任をただすこととする。
 なお、有効な協議を行なうためには、構成員数に限度があることを考え、代議制、委員会制などを活用すべきである。

3 意思決定手続きの合理化

 多くの大学では、事の軽重や種類を問わず教授会の議を経るため、時間と労力が浪費されたり学部教授会の拒否などにより、大学の総意がまとまらなかったりすることがある。また、取り扱う問題の性格に関係なく、意思決定に参加する者の範囲を広げることにより、妥当な結論が得られなくなる場合もある。
 このような不合理を改めるには、各大学の実情に応じ、意思決定に関する事案をその性格に応じて区分し、それぞれにふさわしい異なった意思決定の手続きをとることが望ましい。その区分の例としては、各部局の意見を徴したうえで全学的な統一方針として決定すべきもの、全学的な方針に基づいて各部局で決定すべきもの、各部局ごとの判断だけで決定すべきもの、執行機関の判断により決定すべきものなどが考えられる。

4 全学的な協調の確保

 大学の組織の複雑化と規模の膨張に伴い、次のような方法により、全学的な協調の確保に努める必要がある。

(1) 学内広報活動の充実
 大学の方針や現状について適時正確な情報を広く学内に提供するため、学長に直属する学内広報機関を設ける。この場合、大学の財政状況に関する適切な情報についてもあわせて考慮する。

(2) 学内の希望や意見の反映
 前述の企画調査機関などが、随時組織的に意見調査を行なったり、公聴会を開いたりして、教職員や学生一般の希望、意見、不満などを大学の意思決定に反映させる道を開く。

5 その他の必要な改善方策

 上述のほか、次のような点に改善を加える必要がある。

(1) 学生生活指導の充実
 学生の生活指導を充実するため、さきに述べた企画調査機関において具体的な実施方策を立て、全学的な統一方針を確立すべきである。その実施については、全学的な協力のもとに、次章に述べる学生に対する措置を含めて広く学生生活全般にわたり、学生部がその役割と責任を果たすことができるようにする。

(2) 秩序違反に関する学生処分の審査機関の一元化
 次章に述べるように、客観的に公示された大学の規律に違反した学生の処分については、全学的な立場から公平に審査するため学長に直属する機関を設ける。

(3) 学内監査機能の充実
 学内関係者の批判をくみとり、それを大学の管理運営の改善に反映させるため、必要に応じて大学管理者に勧告する学内監査機関を設ける。この機関には学外者を参加させることも検討する必要がある。

(4) 教職員に対する部局長の指導の徹底
 教職員は組織の中で一定の地位を占めるものとして、大学の方針に基づく職務上の命令を守る義務があり、部局長は、これに必要な指導を与えるとともに、その義務に違反した者については的確にその責任を問うべきである。

(5) 大学管理者の資質の向上
 大学の執行機関の地位を占める者に要求される資質は、教育・研究に従事する者のそれとは異なるものである。そのような資質の向上をはかるため、相互研修その他の方法について検討すべきである。

(6) 事務機構の整備と職員の資質の向上
 大学の管理運営を能率化するためには、大学の事務機構の近代化、合理化と事務系その他の職員の資質の向上とが重要である。今後は、大学行政に識見を有する行政職員および専門職員の計画的な養成をはかるとともに、その地位と待遇の改善についても検討すべきである。

第4 大学における学生の地位と役割

 今日の大学紛争においては、その多くの場合、大学管理者と学生との間にきびしい対立が生じ、師弟関係や大学の秩序が従来のままでは維持できないような事態がみられる。その背景には、先に述べたとおり、現代社会の政治的・社会的条件が複雑にからみあっているが、同時に、大学自体において、現代の学生に対して適切に対応する用意に欠けるところがあったことも否定できない。
 これらの紛争をとおして学生からさまざまな要求が出され、それを大学がどのように受け止めるかが問われている。また、大学は、ときに逸脱する学生の集団行動に対処して大学の秩序をどのように維持するか、さらには、大衆化した今日の大学において、大学管理者・教職員・学生の間の意思疎通をよくするためにはどうするかなどの問題に直面している。これらの問題を考えるためには、大学において学生は、本来どのような地位を占めるものであるかを明らかにする必要がある。
 この場合、学生の地位からみてその活動に一定の制約があることを明らかにするばかりでなく、大学紛争の底にある学生の大学改革に対する期待に適切にこたえる方法を考えることが、今日の事態に対処する正しい態度といえよう。わが国の将来をになう者は学生であり、それだけに、その過誤はきびしく正すと同時に、その問題提起の中から正しい発展の可能性を見いだす態度をもって、学生に期待すべき積極的な役割をあわせて検討する必要がある。

1 大学における学生の地位についての考え方

 学生の地位については、学生を大学という公共の施設の単なる利用者にすぎないとしたり、共同体としての大学において管理者および教職員と対等な構成員とするなど、学生の地位を一面的にとらえる見方が多く、そのために、学生に正当な要求があることを軽視したり、逆に学生に過大な権利を認めようとするなどのかたよった考え方が生じやすい。さらには、今日の社会における世代間の対立意識を利用して、特定の政治的な意図のもとに大学に要求したり、その秩序に反抗したりする動きもみられる。これらが、学生の地位についての考え方を混乱させている。
 本来、大学における学生の地位は、次のような諸側面から総合的に考えられるべきである。

(1) 学生の地位は、大学という社会的機関へ学生が自らの選択によって志望し、これに対して大学が入学を許可することによって生ずるものであり、学生はその在学期間、大学において教育を受け、その施設・設備を利用する権利が認められると同時に、大学がその機能を営むうえに必要な規律に従う義務を負うものである。

(2) 学問の教授と学習という面からみれば、学生は、本来学ぶ者として教師の学識を信頼し、大学の定める教育上の計画と指導に従うことが求められる。同時に、とくに大学においては自主的に学ぼうとする学生の態度が尊重され、教育の内容・方法や教育環境の改善について学生の意見が取り入れられるよう配慮されるべきである。

(3) 学生の学園生活という面についてみれば、学園は、自律性のかん養や学生相互の啓発のために学生にとって豊かな体験の場であり、また多数の青年が学園生活を健康的に営むための場でなければならない。したがって学生は、自己の責任において規律のある諸活動を行なうことが期待される。同時に大学は、それに必要な環境を整備し、必要に応じて指導と助言を与えるように努めなければならない。
 なお、大学院学生の地位については、わが国の学術研究体制のあり方に関連する面もあり、今後さらに検討する必要がある。

2 学内学生団体と学生自治会

 今日の大学にはさまざまな学生団体があり、学生の自主的な運営によって、文化・体育・レクリエーション・福利厚生などの諸活動が行なわれている。これらは、学園生活を内容豊かなものとし、学生の人間形成にとっても貴重な体験の場を提供する点において重要な意味をもっている。そのために、ほとんどすべての大学は、これらの活動に対して積極的な指導と援助を与えている。
 また、多くの大学には、一般に学生自治会と呼ばれるものがある。それは、上述のような各種の学生団体を包括した組織であったり、独立の団体であったりする場合もあるが、通常、次のような点で一般の学生団体とは異なった性格をもっている。すなわち、それは、大学に入学した学生全員を自動的に会員として会費を徴収し、学生大会という形式で全学生の意思を代表する決議を行ない、大学当局と交渉する特別な地位をもっていることである。
 ところが、わが国の大学の学生自治会の中には、戦後の社会情勢を反映して、さらに別の特異な性格をもつようになったものが少なくない。すなわち、それらの自治会は大学外の組織に加盟し、その統一的な指令のもとに全学生を特定の学生運動に動員するための学内組織として、少数の学生活動家により利用されるようになった。しかもこの場合、その運動が全学生の総意の名のもとに、学生一般に有形無形の拘束を与える結果となっている。
 本来、学生団体の運営は、その構成員の総意によって自治的に行なわれるべきものであるが、同時に、構成員各個人の自主性はあくまで尊重されるべきで、集団の名において不当な支配が行なわれてはならないものである。とくに全学生を自動的に会員とし、個人の脱退を予定しないような団体においては、個人の基本的な自由を侵すことのないようその活動の領域に厳密な制限がなければならない。このような原則を守ることは、まず学生一般の自覚と努力にまつべきであるが、諸大学の現状ではそれだけに期待することはむずかしく、大学は教育指導上の責任からみても、次のような措置をとる必要がある。

(1) 学生団体一般については、任意加入制を前提として、その目的・組織・経理その他の基本的な事項について、大学が公認するために必要な条件を定め、構成員の意思が正しく反映されるよう必要な指導を行なうとともに、大学の施設の利用その他について援助を与える。このような公認の条件に適合しないものに対しては、大学の施設の利用等について公認団体に与えられる特典は認められないものとする。

(2) 全学生の自動加入制をとる学生自治会を認めようとする場合には、たとえば会議の際の定足数、議事手続きなどをいっそう具体的に明記させるとともに、その活動の領域については大学の存立の目的に反したり、学生個人の基本的な自由を拘束したりすることのないよう明らかな条件をつけるものとする。全員加入制をとりながらこのような条件を満たさなくなった学生自治会は、公認が取り消され、その地位と特典を失うことはいうまでもない。学生自治会が任意加入制をとる場合は、前項の学生団体一般の取り扱いによるものとする。

(3) 学生一般とくに新入生に対しては、大学の公認する団体についての実状を周知させる方法を講じ、正しい認識をもってそれらへ加入できるようにすることが望ましい。

3 学生の政治的活動と大学の秩序維持

 個人としての学生は、一般市民と同じような政治活動の自由をもっている。また、今日の社会において、学生が政治問題に強い関心を示すことは、むしろ当然であろう。
 しかしながら、現在の大学紛争の中心には、大学の現状の改革よりは既存の秩序の破壊をめざす政治的な学生の集団のあることに留意し、それに対して一切の暴力を排除し、大学の秩序を守る方策が考えられなければならない。大学の現状にどれほど改革を必要とするものがあるとしても、単なる破壊からは解決の道は開かれず、あくまで理性的な判断に基づいて大学の新しいあり方を探究すべきである。そのような建設的な努力を可能にし、必要な改革を実施するためにも、秩序の確立が当面の重要な課題である。
 したがって、本来、学生の政治的活動には、学生の地位および教育基本法の精神にかんがみ、次のような制約のあることがあらためて確認されなければならない。

(1) 学園は本来政治的な宣伝の場として利用されてはならないのであって、学問の教授と研究に必要な自由で寛容な知的ふんい気を乱し、個人の思想および良心の自由に有形無形の圧迫を与えるような活動は許されない。

(2) 大学の施設を政治的活動の拠点として乱用したり、大学の教育と研究の正常な実施を妨害したりする活動は許されない。

(3) 学園外においても、大学の公認する団体の名において不法な手段で行なう活動は許されない。
 これまで多くの大学では、学生の政治的活動について明確な方針が定まらず、秩序が破壊されたり、暴力的な行動が発生したりして、教育的な指導の限界をこえたと認められる事態においても、警察などの協力を求めることに消極的な態度をとってきた。これは、かつて、教員の人事などについて政府と大学との間に紛争のあったことなどから生じた閉鎖的な大学自治の考え方に由来しているが、今日の大学においては、そのためにかえって、学園が暴力的な政治活動に利用されるという弊害が生じている。よってこの際、大学は、次のような措置を講ずる必要がある。

(1) 学内施設の利用の方法、学生団体の公認の基準、大学管理者との交渉の手続きなどについて明確な規程を設けて、上記のような学生および学生団体に認められない活動が生じないよう適切に運用するとともに、これらの規程に違反した行為に対しては、学生団体の公認を取り消すなど、その責任を問うこと。

(2) どのような学生団体もその決議を理由に学生の授業への出席を妨害したり、授業の実施を妨げたりすることは許されず、そのような行為は、学生の授業を受ける権利を侵し、大学の秩序を乱すものとしてその責任が問われなければならないこと。とくに全員加入制の学生自治会については、授業放棄の決議をすること自体、その活動として許されるべき範囲を逸脱するものであること。

(3) 上記のような大学の措置が効果を発揮せず、大学だけの力では秩序の回復が困難となり、かつ、明らかに不法な行為が認められるときは、大学は、公的な性格をもつ社会的な機関としての責任を果たすため、警察力による規制を求めること。

4 学生に対する処分制度

 従来、大学においては、教育手段としての懲戒処分の一環として、大学の秩序を乱す行為に対する処分が行なわれてきた。また、多くの大学においては、授業料の滞納者や長期の留年者に対して除籍という処分も行なわれてきた。
 ところが、大学における懲戒またはその他の処分についてこれまでの事例を見ると、とくに学生の政治的活動に伴う秩序違反の行為をめぐって、次のような問題が生じている。

(1) 処分の対象となる行為の範囲が明らかでなかったり、それに対する警告や指導がじゅうぶんに行なわれないままに処分されたりしたため、処分の意図するところが何であるかについて学生のがわに疑問の生ずる場合がある。

(2) 日ごろ見過ごされている行為が、ある時だけ処分されたり、同じ行為が同一の大学内で別々の基準で処分されたり、処分の審査が公正を欠いていると思われたりして、大学の処分を学生一般が公正なものと信じなくなる場合がある。

(3) 懲戒処分の教育的な意味を誤解して寛大にすぎたり、処分に伴う学生の反発を考えて不問に付したりする場合がある。

 このような問題を解決するためには、各大学において、全学的な立場から学生処分が公平かつ的確に行なわれるとともに、当事者の主張が公正に処分に反映されるような手続きと慣行を確立する必要がある。この場合において、問題の生ずる大きな原因としては、学生の政治的活動に伴う秩序違反の行為を一般的非行と同様に取り扱うのに疑問が生じやすいこと、また、そのような行為に対する処分が運動の不当な抑圧と誤解されるのをおそれることなどが考えられるので、次のような点について考慮すべきである。
 すなわち、まず、従来の懲戒については、それが真に学生に対する教育指導の手段として効果を発揮するように適切に運用される必要がある。さらに大学の秩序を保ち大学の機能を守ることを目的とし、学生としての基礎条件を欠いたものを大学から排除する処分の方式を考える必要がある。このような処分の事由に該当する行為については、その目的や動機ではなく、それが大学の秩序を乱し機能を妨げることを問題とする観点に立ち、その範囲をできるだけ客観化されたかたちであらかじめ明確に公示することが望ましい。処分の事由に該当する行為をした者に対しては、的確に警告または指導を与えるとともに、なお一定の限度を越えて違反をくりかえす者は、学生としては基本的な義務に違反し、その資格を欠いた者として、大学を去るのが当然であるという考え方が学内に徹底される必要がある。

5 いわゆる「学生参加」の意義と限界

 今日の大学紛争の根底にある問題の一つは、大学の規模が急速に膨張し、組織が複雑化し、学生の社会的な意識が大きく変化したにもかかわらず、学生・教職員・管理者の間の意思疎通をはかる努力が払われず、学生の正当な要請を適切に受け止める道が開かれていなかったため、しばしば不満が蓄積したり、誤解が広がったりして、大学全体に相互不信の気持ちが流れる場合があるということである。このような状態では、秩序の維持や教育と研究のいきいきとした活動も期待されないであろう。
 今日いわゆる「学生参加」が新しく大学の問題として大きく取り上げられているのも、この状態に対処するための一つの試みである。しかしながら、学生参加が所期の効果をあげるためには、学生一般がこれに対して積極的、建設的な意欲をもつことが期待され、大学自体においても、提起された問題に適切に対応できる態勢が整備されなければならない。
 学生参加については、諸外国においてもいろいろな事例がみられるが、各国における大学の成り立ちや学生の気風その他の歴史的・社会的背景が異なるので、これらの事例がかならずしもそのままわが国の大学にあてはまるものではないことに留意する必要がある。
 以下、わが国の大学において学生参加を実行に移す場合に考えなければならない諸点を掲げることとする。

(1) 学生参加の意義
 学生参加とは、大学における学生の地位とその役割にかんがみ、その正当な要請を大学が適切に受け止めるための恒常的な体制を整え、全学的な意思疎通の道を開くとともに、学生の希望や意見を大学の意思形成の過程に取り入れて、大学の運営と教育・研究の活動を積極的に改善する契機とすることであり、あわせて、学生参加の体験を通じて学生の社会的成熟が助長されることを期待するものである。

(2) 学生参加の領域と限界
 学生の希望や意見を積極的に取り入れることが適当な領域を考える場合には、上記のような学生参加の意義からみて、それぞれの分野の問題について学生がどの程度の知識・経験・責任能力をもつものと期待できるかを判断の基準とすべきである。学生の課外活動や福利厚生事業と修学環境の整備ならびに教育計画と授業の内容・方法の改善などの分野については、取り上げる問題が適切であれば学生参加の効果が期待できるものと考えられる。しかしながら、教職員の人事、学業成績の評価、学校財政などの分野は、学生参加の領域に含めることは不適当である。なお、学長、学部長等の候補者の選考について学生の信任投票を行なうことなどを大学の正規の手続きとすることも、不適当である。
 ただし、学生参加の問題とは別に、すべての領域のことについて常時学生一般の中に生じうるさまざまな希望・不満・苦情などが適切に処理され、また、大学内の諸問題に関する正確な情報が的確に学生に伝達されるような方法を検討する必要がある。

(3) 学生参加の形態と条件
 上記の学生参加の領域に含まれる問題について学生を参加させる形態としては、大別して次のようなものが考えられるが、それぞれの特質を生かすためにはそれにふさわしい条件が整っていなければならない。また、それらの領域のうちどの問題についてどの形態を適用するかについても、各大学の事情に応ずるよう適切な配慮が必要である。

ア 意見聴取
 これは、組織的に全学生の意向を調査したり、公聴会を開いたりする方法などである。この場合には、問題の取り上げ方について学生の希望をあらかじめじゅうぶんに取り入れるべきであり、結果の処理についても、学生に周知させることが望ましい。

イ 代表参加
 これは、前述の学生参加が適当と思われる領域に含まれる問題を取り扱う大学の公式の機関に、正式の構成員として学生の代表を加える方法である。この場合の学生代表は、代表となるための所定の条件を具備した者の中から、問題の性格に応じたいろいろな学生の選出単位ごとに、投票権をもつ者の大多数の意思表示によって公正自由に選出された者とする。この代表は、特定の学生団体の利益だけを代弁する者であってはならないし、また、その参加した機関の構成員としての規律に服する義務を負うものとする。この方法は、学生の意見を取り入れることを制度的に保障することであるが、学生代表と学生一般との間の意思疎通が途絶しないよう配慮すべきである。
 学生代表を参加させる機関としては、意思決定機関の諮問を受けてそれに答申する機関や特定の事案の事前審議により意思決定に参与する機関などが考えられる。しかし、学生の地位からみて、大学の実質的に最終的な意思決定機関に学生が参加し、またはその機関の決定に対して学生が拒否できる制度を認めることは、適当でない。
 また、協議会等の名において、学生団体の利益を代表する者と大学管理者が相対立する立場においていわゆる「交渉関係」をもつことは、機関の構成員が一定の役割とそれに伴う責任を分担する「代表参加」とは異なるものである。この場合の交渉は、いうまでもなく労使関係の交渉とは本質を異にしており、その協議が整わないかぎり大学の意思決定が行なえないものとすることは、許されない。

第5 当面する大学紛争の終結に関する大学と政府の責任

 前述のとおり、大学紛争の要因は複雑であり、大学に内在する問題もきわめて深刻であってその根本的解決を得なければ、当面する紛争の解決も完全を期しがたいであろう。しかし、今日の事態の収拾は焦眉の課題であり、このことについて大学当事者の自覚と努力に期待するところはきわめて大きく、まさに大学自治の試練の時であると考えられる。
 このような大学の努力にもかかわらず、紛争が激化して長期にわたり、大学の入学・卒業が正規の時期に行なわれなくなったときは、大学当事者ばかりでなく、紛争に直接責任のない一般社会にまできわめて重大な被害を及ぼすこととなる。そのような事態は、もはや大学自治の範囲内の問題としてその責任だけに任せておくことはできない。これを未然に防止するとともに、一定の限度を越えて長期化することを阻止するため、紛争終結に関する特別措置を検討する必要がある。このことは、とくに制度的保障のうえに安住しやすい国・公立大学について強く要請される。
 本審議会は、そのような特別措置として、次のことを提案する。

1 大学においてとるべき措置

 本来、教育と研究を目的とする大学は、組織的・計画的な秩序破壊の運動にじゅうぶんに対抗できる体制を備えていない。したがって、紛争の終結を促進するため大学が自主的にとるべき措置は、そのような事態に対処する機能を臨時的に強化することである。
 たとえば、大学の教育・研究の機能が相当の期間停止したり、また入学・卒業が正規の時期に行なわれないおそれが生じたときは、事態収拾を的確迅速に行なうのに必要な範囲内で、大学の意思決定とその執行の権限を適当な大学管理者に集中する必要がある。この場合、その管理者は、全学一体となって事態の収拾にあたるため、学内の協力体制を乱すことをやめようとしない教職員があるときはこれを一時的に職場から遠ざける措置をとる必要がある。

2 政府においてとるべき措置

 政府は、大学の自治能力の回復とその自力による紛争の終結を助けることを主眼として、状況に応じて次のような措置をとる必要がある。

(1) 上記のような大学のとるべき措置について大学管理者に勧告すること。

(2) 大学管理者が、その施設を保全しながら、妨害を排除して教育・研究の再開の準備に専念するため、大学の設置者が6か月以内の期間休校または一時閉鎖をすることができるようにすること。

 この場合、政府のとるべき措置に関し、公正な世論を反映させるための権威ある第三者的機関を設ける必要がある。なお、必要な場合にはこの機関が紛争の解決についてあっせんを行なうことも考えられる。
 もし、大学紛争が極端に悪化した場合には、大学自身が崩壊の危機に立ちいたるであろう。したがって大学は、そのような事態をあくまで回避するため、上記の措置によって紛争解決に全力を尽くすとともに、政府としても、大学の自治能力を回復するために、大学に対してあらゆる指導と援助を与える責任がある。しかもなお、不幸にして大学が実質的に崩壊状態となり大学としての存在理由が失われるにいたると認められる場合には、政府は、第三者的機関の意見を聞いて、その最終的な処理のため必要な、適切な措置を講ずべきである。

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