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大学教育の改善について(答申) (第19回答申(昭和38年1月28日))

昭和38年1月28日
生涯学習政策局政策課

19 大学教育の改善について(答申)

(諮問)

昭和35年5月2日

中央教育審議会

文部大臣 松田 竹千代

 次の事項について、別紙理由を添えて諮問します。

大学教育の改善について

(理由)

 終戦後行なわれた教育制度の改革によつて、わが国の高等教育機関は等しく新しい性格、内容を有する大学になつたが、その実施の状況をみるに、わが国の実情にてらし、なお種々検討を要する問題がある。また最近の産業経済ならびに科学技術の発展にかんがみその改善を要望する向きが少なくない。よつてこの際その目的・性格、設置、組織編成、管理運営等について根本的に検討を加え、その改善を図りたいと考える。

検討すべき問題点

1.大学の目的・性格について

 大学の目的・性格を再検討し、高等教育機関の種別およびその修業年限あるいは教育内容等について改善を図る要はないか。

2.大学の設置および組織編成について

 大学の数、配置、組織編成ならびに専攻分野別による学生の数等について検討し、その改善を図る要はないか。

3.大学の管理運営について

 大学管理機関のあり方、教員の待遇および身分取扱い等大学の管理運営について検討し、その改善を図る要はないか。

4.学生の厚生補導について

 学生の厚生補導について検討し、その改善を図る要はないか。

5.大学の入学試験について

 大学の入学試験の方法および競争緩和について検討し、その改善を図る要はないか。

6.大学の財政について

 大学の財政について検討し、その改善を図る要はないか。

(答申)

昭和38年1月28日

文部大臣 荒木 萬壽夫 殿

中央教育審議会会長
天野会長

大学教育の改善について(答申)

 本審議会は、大学教育の改善について、特別委員会を設けて審議を行なつて得た結果に基づき、総会においてさらに慎重に審議し、下記の結論に到達しましたので、答申いたします。

  1. 大学の目的・性格について
  2. 大学の設置および組織編成について
  3. 大学の管理運営について
  4. 学生の厚生補導について
  5. 大学の入学試験について
  6. 大学の財政について

1.大学の目的・性格について

 高等教育機関に対する要請は、科学技術の進歩、産業経済の発展、社会生活の高度化、国民大衆における教育の水準の向上などに伴い、広範かつ多様になつている。
 このような事態を背景として、大学の性格・機能も大きな変化をとげ、いわゆる象げの塔よりも社会制度としての大学が強く表面に現われてきた。このことは、また、大学の目的・使命と国家・社会の要請との関連がいよいよ密接になりつつある事実を表わすものである。すなわち、大学は、一方では、激しい国際競争に対処し、絶えざる社会の進歩の要求にこたえて、高度の学術研究を行ない、わが国の文化の維持向上に寄与するという、その伝統的使命を保持するとともに、他面では、民主社会の発展に伴う教育民主化の要望にこたえて、広い階層の人々に高い職業教育と市民的教養を与えるという新たな重要な任務を果たさなければならない。それと並行して、高等教育の対象が、選ばれた少数者から、能力、特性等において幅のある広い階層へと変わつてきたことをも注意しなければならない。
 新制大学の制度は、戦後における教育改革の一還として、学術研究、職業教育とともに、市民的教養と人間形成を行なうという理念に基づいて発足した。しかるに、実施後十数年の実績をみると、所期の目的が必ずしもじゆうぶんに達成されていない。そのよつてきたる重要な原因の一つは、わが国の複雑な社会構造とこれを反映するさまざまな実情にじゆうぶんな考慮を払うことなく、歴史と伝統を持つ各種の高等教育機関を急速かつ一律に、同じ目的・性格を付与された新制大学に切り換えたことのために、多様な高等教育機関の使命と目的に対応しえないという点に求められる。
 高等教育機関ないし大学の目的・性格を検討するにあたつては、まず、これらの諸点をじゆうぶん考慮することがたいせつである。
 以上の観点から、わが国の高等教育機関の目的・性格について、これらに応じた種別について、またその種類に応じた修業年限、教育内容、教育方法等について検討を加えた結果、次のような対策が必要であると考える。

1.種別および修業年限

 高等教育機関には、学問研究と職業教育に即して、おおよそ三つの水準が考えられる。
すなわち
(ア) 高度の学問研究と研究者の養成を主とするもの
(イ) 上級の職業人の養成を主とするもの
(ウ) 職業人の養成および実際生活に必要な高等教育を主とするもの
の三つである。

 わが国においては、現在、大学院、大学学部および短期大学がおおむねこれらの水準に対応する。
 これら各水準における高等教育機関は、その独自の機能を果たすうえにおいて、それぞれ次のような問題点をもち、これに対して以下の改善が必要とされる。

(1) 大学院には、修士課程と博士課程があり、その一つまたは両者が置かれている。修士課程は、現在、博士課程と並んで、研究能力の育成を目的としているが、研究能力の高い職業人の養成も行なうようにすべきだという意見も強く、また現実にはこのような役割も果たしており、とくに最近ではこの種の教育に対する要望がますます高まりつつある。このような事情にかんがみ、博士課程においては、研究者の養成を主とし、修士課程においては、研究能力の高い職業人の養成を主とするものとすべきである。
 修士課程と博士課程の性格がこのようなものであれば、両者はこれを学部の上に並列させて置くのが適当であろう。しかし修士課程を修了して博士課程に進学する積み上げ式も、大学院における専攻の性質、大学院の運営および学生指導のうえからみて、実情に即した面をもつている。よつて、並列式と積み上げ式の両者を認めてよいであろう。
 博士課程は、高度の、しかも独創的な学問研究を行ない、わが国の学問水準の維持向上に寄与することを使命とするものであるから、教員組織や施設設備の充実したきわめて高い水準のものでなければならない。したがつて、博士課程の設置条件は、高くかつきびしいものとし、重点的充実を期する必要がある。
 また、博士課程の上述のような使命とあり方を考慮すれば、その学生を確保するために、これを他の大学の卒業生にも広く開放し、その他有効適切な措置を講ずべきである。
 大学院は、現在学部を基礎としており、両者は、緊密な関連をもつものであるが、大学院の内容を充実し、運営を効果的にするためには、ある程度の専任の教員と専用の施設設備をもつべきである。これとならんで、大学院として自主的運営を図るための管理機構についても考慮すべきであろう。

(2) 学部水準の高等教育機関は、高等教育機関の中心的な地位を占めており、研究者の教育、高い専門職業教育、高い教養教育、教員養成、芸術専門家の育成などきわめて多様な使命をもつている。しかるに、現在の制度のもとでは、これら各種の教育を、同じ目的・性格を持つ大学学部において行なつており、教育内容についても、一つの設置基準によつて一律の規制を受けている。このため、学部水準の教育においては、それぞれの目的に応じた特殊性が教育内容その他の面に必ずしも反映されていないうらみがある。そこで、学部水準の教育がじゆうぶんその使命を果たすためには、それぞれの特殊性に応じ、教育内容に特色をもたせうるように設置基準を定めるべきである。また、芸術専門家の育成のように特殊な教育内容を持つものについては、種別を分けることが望ましい。
 学部の修業年限に関しては、特定の専攻分野について、現在の修業年限の延長を希望する意見がある。しかし、現行制度のもとで教育内容、教育方法の改善等の措置を講ずれば、しいて修業年限を変えなくてもよいと思う。ただし、上記の措置を考慮したうえでもなお必要な専門能力を育成しえない専攻分野においては、修業年限の延長もやむをえない。

(3) 短期大学については、さきに答申した「短期大学制度の改善について」の趣旨のように、その目的・性格を明らかにするとともに、これを恒久的な制度とする必要がある。
 なお、同答申では、高等学校の課程を包含し、一貫した専門教育を行なうものについて述べているが、「高等専門学校」はこの趣旨にそうものと考える。

(4) 以上のような観点から、高等教育機関に次のような種別を設け、それぞれの修業年限を定めるべきである。
ア 大学院大学
 高等の学術研究を行なうとともに、高い専門職業教育を行なうもの。
 (注)「高い専門職業教育」には、高い教養教育および教員養成を含む。

(ア) 総合大学を原則とし、すべての学部の上に博士課程を置く。また、修士課程を置くことができる。ただし、医・歯学部の上には修士課程を置かない。
 学部を置かない大学院大学も考慮する必要がある。
(イ) 学部の修業年限は、4年とする。ただし、専攻分野によつては5年とすることができる。
 医・歯学部は6年とする。
(ウ) 修士課程は、研究能力の高い職業人の養成をおもな目的とし、修業年限は2年とするが、5年の学部の卒業者は1年で修了するものとする。
 博士課程は、修士課程と並列にまたはその上に置く。修業年限は、修士課程の上に置く場合は3年とする。並列に置く場合は5年とするが、5年の学部の卒業者は4年で修了するものとする。
 医・歯学の博士課程の修業年限は4年とする。
(エ) 博士課程修了後研究を継続する者のために必要な措置について検討すべきである。

(注)

  1. 学部自身は、博士課程の有無によつてその性格が異なるものと考えるべきではないが、博士課程と学部とは、緊密な関連をもつて運営されるものであるから、博士課程の有無によつて学部の運営等に差異の生ずる結果となることも認められなければならない。
  2. 高度の学術研究の発展を目的とする大学院の重要な使命にかんがみ、大学院大学は、大学院に重点をおくようにすべきである。

イ 大学
 主として高い専門職業教育を行なうもの。
(注)「高い専門職業教育」については、大学院大学の(注)と同じ。

(ア) 博士課程は置かない。必要な場合は修士課程を置くことができる。
 ただし医・歯学部の上には置かない。
(イ) 学部および修士課程の修業年限については、大学院大学の場合と同じ。

ウ 短期大学
 専門職業教育を行なうものまたは実際生活に必要な知識、技能を与えもしくは教養教育を行なうもの。
 修業年限は、2年または3年とする。

エ 高等専門学校
 義務教育修了者に対して専門職業教育を行なうもの。
 修業年限は5年とする。

オ 芸術大学
 音楽、美術等に関する専門家の養成を行なうもの。
 修業年限は4年とする。また、中学校卒業を入学資格とし7年とすることができる。
 なお、音楽、美術に関し、さらに高度の技術の修得および研究を行なうための特別の課程を置くことができる。

(注)一般教育は、上述の高等教育機関のすべてにおいて行なわれるべきである。

(備考)

  1. 大学院大学の専門課程に進学するための、義務教育修了を入学資格とする教育機関の設置について検討すべきである。この場合、この教育機関の卒業生を専門課程に吸収しうるよう措置する必要がある。
  2. イの大学のうち、主として単科のものについては、他の高等教育機関において一般教育等を履修した者を入学させる専門課程だけの大学も例外的に考えられる。

2.教育内容および教育方法

(1) 教育内容および教育方法については、高等教育機関の種別に応じ、それぞれの目的を達成しうるよう、これに特色をもたせる必要がある。また人間形成は、高等教育の重要な使命の一つであるから、教育内容および教育方法を改善するにあたつては、特にこの点に留意しなければならない。なお、課外活動の指導にあたつても、同様の関心が必要であることはいうまでもない。

(2) 教育内容は、現在、いわゆる教養課程に属するものと、専門教育課程に属するものとに大別され、前者には一般教育科目、外国語科目、保健体育科目、基礎教育科目があり、後者には専門教育科目がある。これらの科目の履修基準については、現在のようにこれを一律に定めることなく、高等教育機関の種別に応じ、また同種別のうちにあつてもその教育目的に応じて、特色を生かしうるように定めるべきである。

(3) 一般教育は、広い教養を与え、学問の専門化によつて起こりうる欠陥を除き、知識の調和を保ち、総合的かつ自主的な判断力を養う目的をもつものである。一般教育のこのような趣旨を生かすとともに、教養課程における教育の合理化を図るため、一般教育の内容方法について、次の諸点を改善する必要がある。

ア しばしば一般教育と基礎教育とが観念的にも実践の上でも混同されているために、本来の一般教育も専門の基礎または準備のための教育も、ともにその効果がじゆうぶんあがつていない場合が少なくない。したがつて、一般教育と基礎教育との分界の関連を明らかにすることが望ましい。
イ 現制度のもとでは、人文科学、社会科学、自然科学の三系列にわたり、均等の科目数、単位数が要求されており、専攻分野の種類に応じた特色が考慮されていない。そこで、三系列間の科目数、単位数の配分は、専攻分野の特色を考慮して定めうるようにすべきである。
ウ 一般教育科目の系列および科目の調整、たとえば総合コース等の新たな方法についての検討が必要である。
エ 一般教育は、高等学校における教育のくり返しにすぎないという批判もあるので、一般教育については、高等学校の教育内容との関連を考慮し、高等教育機関の学生の理解力にふさわしい高度のものとすべきである。
オ 現在の一般教育は、以上の諸点を考慮した上で、その内容方法を改善すれば、一段と効果的に行なうことができると考えるので、一般教育にあてる期間は、専門教育との関連を考慮し、各高等教育機関の教育目的に応じて定めるべきである。

(4) 外国語科目は、教養課程において主要な地位を占めているにもかかわらず、その教育の成果は必ずしもじゆうぶんにあがつていない。外国語科目は、専門教育の基礎として重要であり、国際理解を深め、教養を高めるためにも大きな意義をもつものであるから、この教育を効果的に行なうためにじゆうぶんな方途を講ずる必要がある。

(5) 保健体育科目は必要であるが、そのあり方については、検討すべきである。

(6) 大学の卒業には、一定の単位数の修得が要件とされており、単位は、教室内の授業に教室外の学習を含めて定められている。けれども現状のもとで単位制度をその本来の趣旨どおり実施するには幾多の困難があり、これが学力向上の妨げの一つとなつていることも争えない。このように、単位制度の現状は、わが国の実情に即しないものがあるので、一方でその障害をとり除くことに努めるとともに、単位制度そのものに対して幾多の改善を加えることが要請される。これと関連して、学年制、科目制、授業時間制等についても検討すべきであろう。

(7) 教育の効果をあげるためには、大教室における講義のみに終始することなく、小規模の学級において学生が教員と接触する機会をもつことが必要である。特に、一般教育科目、外国語科目、実験実習を伴う専門教育科目等についてはこのことが重視されなければならない。また、専門教育では、実験実習を伴わないものについては、講義と演習を併用すべきである。

(8) 現行の学年暦では、学期の途中に長期の休暇がはいつているために授業が分断されており、それが教育効果の向上を妨げる一因ともなつている。これが対策としては、学年の開始期を9月とすること、学期の分け方および休暇の度数と長さなどについて検討されなければならない。

(9) 高等教育機関における教育課程および教授方法の研究は、学校管理、学生補導等の研究と同様にじゆうぶん行なわれていない。この欠陥を改めるため、たとえば、これらについての研究教育を担当する講座を大学に設けるなど、適切な方途を講じる必要がある。

(10) 新制大学が所期の成果をじゆうぶんに収めえない理由の一つは、それが終戦後の急迫した事情のもとに発足したため、財政的裏づけがじゆうぶんでなかつたことに存すると認められるので、このたび、以上もろもろの措置を実行するに際しては、上記の経験にかえりみ、施設設備の整備、教員組織の強化充実等に対し格段の考慮を払うべきである。

(11) 高等教育機関における工業、農業等産業に関連する専門分野の教育研究においては、関係諸機関および諸団体と協力を深めて、これら産業の振興に資する方途を検討する必要があろう。

3.その他

(1) 附置研究所

 学術の進展とともに、附置研究所の重要性は大きくなつており、その現状については多くの問題点があるが、将来の方向としては共同利用研究所のようなあり方が望ましい。
 また、大学院との関連については、その目的からみて、次のようにする必要がある。

ア 附置研究所は、大学院大学のみに置く。
イ 附置研究所は、大学院の授業に協力することができる。
ウ 附置研究所専任教授以外の教授等にも、一定期間、附置研究所でもつぱら研究する機会を与えることができる。

(2) 学位

 博士課程については、現行の大学院制度の趣旨を尊重し、所定の年限を目標として学位を与えるようにすべきである。
 なお、いわゆる論文博士については、その審査方法を改善する必要がある。
 また、外国人に対し名誉博士の称号を与えることができるようにすることが望ましい。

学位

2.大学の設置および組織編成について

 高等教育機関の全体的な規模(学校数、学生数)、配置および設置については、個人的希望、社会的要請および学術研究上の必要を基礎として計画的に考慮されなければならない。
 また、個々の高等教育機関の学部、学科等の構成内容とその組織および編成についても、上に述べた諸要因が考慮されなければならない。同時に、それらにおいては教育研究の目的にじゆうぶん即応した合理的、能率的な管理運営が行なわれるように改善される必要がある。

1.規模、配置および設置

(1) 規模について留意すべき点

ア 規模の拡大と水準の維持
 わが国の高等教育は、科学技術の進歩、教育の民主化、人口の増加および国民所得の伸張に伴つて、今日著しく拡大普及している。最近、高等教育機関への進学志望者は、しだいに増加し、昭和37年の高等学校卒業者の約28%が高等教育機関への進学を志望し、その約67%が高等教育機関に進学している。また、高等教育機関への進学者の該当年齢人口に対する比率は約13%で、この普及率は、世界の主要国の水準に比べて劣つていない。今後とも、この傾向が強まり、それに伴つて高等教育の規模のいつそうの拡大が考えられる。
 しかしながら、高等教育を受ける者はそれにふさわしい資質能力を備えた者であるべきこと、その専門分野別の構成については人材需要の社会的要請をも考慮して定めるべきこと、および高等教育の水準を維持するためには一定の基準を確保すべきことなどの条件を勘案する必要がある。よつて、高等教育の規模の拡大にはおのずから限度があることを考え、慎重な配慮が必要である。

イ 大学院、学部、短期大学、高等専門学校の規模
 大学院については、さきに検討した目的・性格に従い、その専門分野および学生数は、じゆうぶんに学術研究の発展を期しうる適正な規模であることが必要である。大学院は研究者の育成のため、他の大学の卒業者に門戸を開放し、また、各方面の現職者の再教育を行なう必要があるので、その学生数の増加を考えるべきである。特に修士課程については、その目的・性格にかんがみ、ある程度の規模の拡大が要請される。
 学部の規模については、現在すでに相当の程度に達していることを考慮して、また、短期大学の規模については、高等専門学校との関連を考慮して検討することが必要である。高等専門学校については、必要に応じて工業に関する学科以外の学科をも置くようにするとともに、社会的要請に沿つてその規模を拡大すべきである。

ウ 学生の専門分野別構成
 社会制度としての高等教育機関における専門分野別の構成および学生数は、人材需要の社会的要請に対応しなければならない。特に、技術革新を基軸とする産業、経済、社会の高度の発展に伴う各方面の人材要請に対応することは、きわめて緊要である。
 わが国の現状では、自然科学系の高等教育機関と学生の数は、人文科学系、社会科学系のそれらに比べてきわめて少ない。したがつて、自然科学系の高等教育機関の拡充と学生の数の増加が必要である。

(注)

  1. 高等教育機関における科学技術系の教員を確保するため、奨学金その他の面で適当な措置を検討すべきである。
  2. 昭和41年以降、一時的に高等学校卒業者が急増する。これに応ずる高等教育機関の受け入れ体制については、以上に述べた諸点を考慮して検討すべきである。

(2) 配置について留意すべき点

ア 地域的配置
 わが国の高等教育機関の半数および学生の過半数は、大都市に集中している。大都市は、交通、住居、保健、防災等の点から、高等教育を行なう環境としては、必ずしもふさわしくなくなつている。また、このような地域では、高等教育機関が将来必要に応じて施設を拡充することも、ほとんど不可能である。
 高等教育機関は、その属する地域社会の教育文化の中心となり、産業振興の基盤として広く諸地域社会の発展に寄与すべきものである。この意味からも、高等教育機関の過度の大都市集中は、是正される必要がある。
 なお、できるだけ多様な高等教育を受ける機会を地域的にかたよらないように広げるためにも、同種の専門分野の高等教育機関が地域的に集中しないよう、その配置について考慮すべきである。

イ 設置者別の配置
 高等教育機関は、国立、公立、私立の設置者の別によつてそれぞれ設置の趣旨を異にし特色をもつものであるから、それらの配置は、総合的な立場から考慮されなければならない。

(注) いわゆる公立大学の国立移管については、公立大学の存在意義についてあらためてじゆうぶん確認するとともに、移管を必要とする理由、移管した場合の効果等について、国立の高等教育機関の全体的な整備方針とあわせて総合的に検討し、すみやかにその可否を決定すべきである。

(3) 規模および配置を検討するための措置
 高等教育の規模および高等教育機関の配置については、以上のように留意すべき点が多くある。したがつて、これらの問題を解明し、具体化を図るためには、いつそう精密に実体を調査し、専門的に研究する必要がある。一方、目下政府において検討している国土総合開発、首都圏整備あるいは人的能力開発等の諸計画との関連においても、じゆうぶん検討されなければならない。
 よつて、高等教育の規模および高等教育機関の配置について適正な総合的なあり方を確立するために、一定期間集中的に調査研究する調査機関を設けることを検討すべきである。

(4) 設置の計画および設置基準とその確保

ア 設置計画
 従来、高等教育機関の設置および設置後の重要事項の変更は、「大学設置基準」の定める条件を具備していさえすれば、これを認可するたてまえがとられてきた。その結果、高等教育の規模と高等教育機関の配置について計画性に欠けるところがあつた。
 今後は、以上に述べた調査研究の結果を基礎として、高等教育の規模、学生数の専門分野別構成および高等教育機関の配置の適正化を図るべきである。このため高等教育機関の計画的設置について審議するための機関を設けることを検討すべきであろう。

イ 設置基準
 高等教育機関の設置基準は、その種別、目的・性格に即して定め、特に、画一的になることを避けるべきである。また、大学院大学の博士課程は、「大学の目的・性格について」において述べたように、高度の学問研究と研究者の養成を目的とするものであるから、その設置基準は、きわめて高いものとする必要がある。
 高等教育の充実と向上を期するためには、高等教育機関は、設置基準に厳正に即して設置されることは当然であるが、設置後も不断にその水準の維持向上につとめなければならない。しかるに、従来、設置基準の適用にあたつて適正を欠いていることもあり、さらに、設置後の水準の維持向上に努力の足りない点も見うけられた。よつて、今後、設置基準の適用を適正にするとともに、高等教育機関の設置および設置後の重要事項の変更に関し認可すべき事項について再検討を加える必要がある。
 文部大臣が、高等教育機関の設置計画および設置基準を維持する責任者として、必要な措置をとりうるようにすべきである。

2.組織編成

(1) 学部の分離統合

ア 新制の国立大学は、いわゆる一県一大学の方針のもとに、旧制の大学、高等学校、専門学校、師範学校等を合併して設置された経緯がある。したがつて、これらの学校のもつていたそれぞれの目的、性格、歴史、伝統、地理的位置等についてじゆうぶん顧慮することなく、一律に合併したため、一つの大学として管理運営の円滑を欠いているものがある。このような大学のうちには、今後、いつそうの改善を図ることによつて、一つの大学としてじゆうぶん成果をあげることを期待できるものがあるが、他面、これを分離したほうが管理運営が円滑になり、それぞれ教育研究上の実があがると思われるものもある。よつてこのようなものについては、その適正なあり方を検討する必要があろう。

イ 学部は、学術、職業の専門による分化に従つて専門的な教育研究を行なう組織と考えられる。
 しかるに、学部のうちには、学術、職業の発展に対応して従来の種類と異なつて新たに設置されたものと、もつぱら成立過程における特殊事情から特殊な種類の学部となるにいたつたものとがある。前者についてはその必要は認められるが、後者については、教育研究上また運営上、学部としての機能をじゆうぶん果たしがたいと思われる。したがつて、後者のような学部は、実情に即し、これを専攻分野別に再編成し、それぞれ充実した学部とするなど、その改善を図ることが望ましく、また、今後は、このような学部の新設を認めないようにすべきである。

ウ 文理学部は、人文科学、社会科学、自然科学にわたる教育研究の組織によつて専門教育を行なうとともに、全学の一般教育を担当することを目的として発足した。しかるに、その目的が多様であるため、さらに教員組織および施設設備もじゆうぶんでないことなども加わつて、文理学部は、所期の教育効果をあげることが困難な実情にある。このような現状にかんがみ、文理学部は、それぞれの実情をしんしやくして改組されることが必要である。すなわち、教員養成を目的とする学部、または人文科学系、社会科学系もしくは自然科学系の学部等に再編成すべきである。この場合、他の学部あるいは他の大学との分合を行なうことによつてその目的を果たすことができることを考慮する必要がある。

エ 現在の学部の多くは、その学科の編成において旧制大学以来の分科概念を継承しているので、現代の学術の進展に即して教育研究の成果をあげえない場合がある。よつて、異なる学部のうちにありながら相互に関連をもつ専攻分野については、学部編成の上で検討すべきである。

オ 多くの学問分野にわたる総合的な教育研究またはいわゆる境界領域に属する分野の教育研究を行なうことは、特に、総合大学の重要な使命であるから、そのための連絡協力の組織を設けることについて考慮すべきである。

カ 教員養成を目的とする大学および学部については、さきに答申した「教員養成制度の改善について」を参考にして検討すべきである。

(注)短期大学については、学科制によることが適当である。

(2) 教養課程の教育を行なう組織
 いわゆる教養課程における教育を行なうにあたつては、そのための組織が制度上確立していないため、現在、さまざまな困難が生じている。教養課程における教育を行なう組織は、必ずしも各大学において一様でなく、将来も、画一的な組織とすることは適当でない。ただし、多くの学部を有する大学においては、教養課程における教育を効果的に行なうため、必要に応じて責任者を置き、担当教員の間の連絡協力を密にするための機関を設けるなど、自主性と責任をもつ組織を置くことが望ましい。このような組織を教養部として制度的に認めうるようにする必要があろう。
 教養部の組織については、たとえば

(ア) 教養課程を主として担当する教員は、教養部の専任とするとともに、教養部に教授会を置くことができるようにすること、
(イ) 教養部の長の責任と権限を明確にすること、
(ウ) 教養部と各学部との連絡を緊密にするための組織を作ること、

などを考慮する必要があろう。
 なお、教養部については、必要に応じ教員の充実その他の措置を講ずべきである。

(3) 講座制、学科目制
 教育研究上の基礎的な組織としての講座制、学科目制の問題については、大学院が高度の学術研究を行なう組織であるが、一面、教員組織、施設設備等の面において学部との間に緊密な関連をもつ実態にかんがみ、大学院大学の学部は講座制に、大学の学部は学科目制によるのが適当である。なお、教育研究上の基礎的な組織については、講座制、学科目制ともにさらに検討すべきである。

(4) 博士課程を置いている大学
 「大学の目的・性格について」において述べたように、大学院大学は、総合大学を原則とし、すべての学部の上に博士課程を置くものとなつているが、現在、総合大学に近い構成をもち、博士課程の基礎となつている学部とそうでない学部とで構成されている大学のうち、教育研究の水準の高いものについては、実態に即して適切な措置をとることを検討すべきである。

3.大学の管理運営について

 大学の管理運営は、大学の自治をぬきにして取扱うことはできないし、大学の自治は、また学問研究の自由を離れては考えられない。学問研究の自由と進歩を基軸とする大学の自治は、これを固定したものと考えるべきではなく、その本質と伝統を保ちながら、急激に変化していく大学の内外の事情に即して、有効な弾力性のある生きた制度として現実的に発展させていくべきものである。

1.大学の管理運営と大学の自治

(1) 最近、わが国の大学は、多数の教職員と学生、各種の施設設備およびこれを裏づける多額の経費をもち、その規模は拡大している。また、学問の発展、国家社会の要請に伴い、大学の目的は多様化し、その構造は複雑化している。したがつて、大学の管理運営は、大学本来の使命に即し、総合的、合理的かつ効果的に行なわれなければならない。他面、大学には、社会制度として課せられた国家社会の要請と期待に応じる責任ある管理運営が必要である。

(2) このさい、大学の自治すなわち大学の管理運営上の自主性とその慣行について特に留意することが必要である。大学の自治は、抽象的、観念的なものではなく、具体的、実質的にこれを考えなければならない。それは、教員人事、学内施設の管理および学生の指導、財政の面において実質的に現われる。

ア 教員人事における自主性は、大学の自治の基本的な要素であるとともに、大学の管理運営の主要部分と裏表の関係にある。大学の自治のこの面は、戦前においても大学で慣行されてきたものであるが、戦後になつて制度的に明らかにされるとともに、すべての国立の大学に及ぼされるにいたつた。

イ 学内施設の管理および学生の指導における自主性も、大学の自治の重要な具体的な一面である。
 なお、民主的人間形成の方法の一環として、学生の身分に即して認められる学生の自治活動は、大学の自治と混同されてはならないものである。このことについては、「学生の厚生補導について」において述べる。

ウ 財政については、教育研究の自主性を保ちじゆうぶんその使命を果たしうるような弾力性のある特別のあり方が望ましい。このことについては、「大学財政について」において述べる。

(3) 大学が社会制度としての性格をもつことにかんがみ、大学は国家・社会との連けいを深めることによつて、ややもすれば陥りやすいその閉鎖性を排除することが望ましい。また、このことによつて大学は地域社会をはじめ関連する社会の発展に寄与すべきであろう。この目的を果たすために適当な機関を学内に設けるなどの措置が必要であるが、そのさいにも大学の自治が尊重されなければならない。

(4) すでに述べたように大学の規模は拡大し、組織は複雑化していく情勢において、もしその管理運営が適切に行なわれなければ教育研究機関としての本来の使命の達成に支障を生じるばかりでなく、大学の自治の実体を保持することすら困難となろう。したがつて、大学としての性格に最もふさわしい管理運営に関する諸制度を整備することが緊要である。さらに学内関係者は、こぞつてこのことについて認識を新たにし、その目的実現につとめ、特に、学内管理機関の立場にある者が、それぞれ制度上の責任者として自覚を深め、全学の指導的機能を果たすことがきわめて重要である。
 以上の趣旨によつて、大学における学内管理機関、教員の任命、待遇等身分取扱いについては、以下の方途が講ぜられるべきであると考える。
 なお、大学の管理運営については、国立、公立、私立の大学を通じた制度を定めることは困難であるので、この報告は国立大学について検討したものである。

2.学内管理機関

 大学の管理運営が円滑に行なわれ、その実をあげるためには、まず大学の学内管理機関のおのおのの職務権限を明確にし、学内管理体制を確立する必要がある。
 現在の学内管理体制は、必ずしも分明でない。よつて、大学の学内管理機関の基本体系としては、全学の総括的な責任者を学長、学部の責任者を学部長とし、評議会は全学の、教授会は学部の重要事項をそれぞれ審議する機関とし、それらの職務権限について学長、学部長との関係を明らかにすべきである。さらに必要に応じて学長の補佐機関を設けうることとすべきである。
 次に大学の学内管理機関のおのおのについてそのあり方を述べる。

(1) 学長

ア 職務権限
 学長は、大学の管理運営の総括的な責任者である。したがつて、大学全体の管理運営に関しては、責任をもつて処理すべきものである。この場合、評議会その他の学内諸機関と連けいを保ちつつ全学の総合調整を図り、かつ、その指導的機能を果たすべきものである。

イ 選考、任命
 大学がその使命を達成するには、学長の選考、任命が適正に行なわれなければならない。それには、適任者を得るための方途を確立する必要がある。
 学長の選考にあたつて、現在は投票の方法が用いられている。投票の方法によつて望ましい結果のえられるためには、投票者の範囲や投票の手続き等について適正を期する必要がある。よつて、学長の選考は、次のようにするのが適当である。
 評議会(評議会については後に述べる。)で複数の学長適格者を学の内外から選び、それについて学内で投票を行ない、その結果に基づいて評議会が学長候補者を決め、学長がこれを文部大臣に申し出ることとする。文部大臣は、それによつて任命するものとする。
 投票者は、大学における教育研究の主たる責任者である教授とする。ただし、特に必要がある場合にかぎり、助教授または常勤講師を加えることができるものとする。
 学長適格者の選出、投票等に関する手続は、制度化することとする。

ウ 任期
 学長が大学行政に習熟するには相当の期間を要するので、その任期は、ある程度長期であることを必要とする。よつて、学長の任期は4年を基準とし、再任を妨げないことと定めるのが適当である。

エ 学長補佐機関
 大学の規模の拡大と構成の複雑化に伴い、全学的な教育研究計画の樹立推進など管理運営上の重要な分野において学長を補佐するため、必要な大学には、たとえば副学長のような補佐機関を設けるべきである。
 なお、副学長は、学長が教授のうちから選考するものとする。
(注) 大学院大学の学長を認証官とすることを検討する必要がある。

(2) 評議会

ア 職務権限
 評議会は、学則、学部規則等の制定改廃、学内予算の方針、学生の厚生補導等大学運営に関する重要事項を審議する機関とすべきである。
 なお、教員の不利益処分に関する事前審査を行なうほか、従来協議会の職務権限とされていた学長の選考、学長の不利益処分に関する事前審査をあわせ行なうものとすべきである。

(注) 現在、協議会は、その構成員が評議会とほとんど同様であるので、評議会のほかに、別に協議会を設ける意義に乏しい。よつて、これを廃止し、従来協議会の職務権限とされていた事項は、原則として評議会の職務権限に移すべきである。

イ 構成
 評議会は、原則として、学長、各学部長、各学部の教授若干名およびその他の重要な部局の長をもつて構成するものとする。

(3) 学部長

ア 職務権限
 学部は、教育研究の上からも、組織の上からも、大学の基本的な構成要素であるから、その管理機関の機能と責任を明確にする必要がある。
 学部長は、学部の責任者であり、教授会の主宰者となり、かつ、学部の管理運営に関する事項については執行の責に任ずる。また、評議員として大学の重要事項の審議に参与し、大学全体の管理運営について学長を補佐するものである。

イ 選考、任期
 学部長については、教授会において適格者を選び、学部長がこれを学長に推薦する。学長は、それについて慎重に選考し、その結果を文部大臣に申し出る。文部大臣は、それによつて任命する。
 学部長の任期は、その職責にかんがみ、ある程度の期間を必要とするが、他方、学部長は教授併任の職であることを考慮し、その任期は、おおむね2年以上とし、かつ、再任を妨げないことと定めるのが適当である。

(4) 教授会
 教授会は、学部における教育研究について管理運営上の重要な機関である。現行の制度においては、その職務権限、構成、設置、学部長との関係等が明確でない。よつて、そのあり方を次のようにすべきである。

ア 職務権限
 現在、教授会の審議事項に関する規定は、必ずしも明らかでなく、大学によつては、本来教授会の審議事項とは考えられないような事項をも審議している場合もある。教授会は、教育研究の計画、学生の教育指導および学業評価、学部長・教員の候補者の選出、学位・称号に関する事項等について審議にあたるものとすべきである。

イ 構成
 教授会の構成員は、学部における教育研究の管理運営について直接責任を負うものでなければならない。現在、教授会の構成員の範囲は、各大学によつて区々であるが、教授会は教授のみをもつて構成されるべきものとし、特に必要がある場合にかぎり、評議会にはかつて助教授または常勤講師を加えることができるものとする。

ウ 設置
 教授会は、学部に設置するものとする。ただし、学部の規模が大きく構成が複雑なため、または学部が地域的に分散しているため教授会がじゆうぶんな機能を発揮できない場合、あるいは会議をもつことが困難な場合には、代議員会を置くことができるようにする等教授会の組織運営に関する特例を設ける必要がある。

(5) 学内管理に関するその他の機関
 以上述べた学内管理機関のほかに、大学が、たとえば教養課程、分校等の運営のために管理組織を設ける場合には、文部大臣の事前の承認または認可を必要とするよう適切な措置を講ずべきである。

3.教員の身分取扱いおよび待遇

(1) 教員の身分取扱い

ア 選考、任命
 大学が教育研究の成果をあげるには、なによりも教員が適任者であることが必要である。
 しかるに、現在一部の大学にあつては、教員の選考の範囲はややもすれば閉鎖的になりがちであり、その昇任も安易に行なわれているなど適切を欠く場合もある。よつて、適任者を得るための方途を確立するため、教員の選考は次のようにするのが適当である。
 教員の選考については、学部長は、教授会の議により、教員の資格基準に従い、教員選考委員を設けるなどの方法によつて教員適格者を選び、その候補者を学長に推薦する。学長は、それについて慎重に選考し、その結果を文部大臣に申し出る。文部大臣は、それによつて任命するものとする。教授会が教員の候補者の選出について審議するにあたつては、原則として、教授のみが審議するものとすべきである。
 教員適格者を選ぶにあたつては、たとえば公募によるなど、広く人材を求めるとともに、学内外の専門家の意見を聞くなどの方法を用いて慎重を期するものとする。
 なお、大学の教員は、その専門の分野においてすぐれた能力を有する者でなければならない。このような適格者を常に大学に確保するために、教員について任期制度または再審査制度を設けることを検討する必要があろう。

イ 不利益処分の事前審査
 現在の事前審査制度においては、発議者が不明確であり、また同様な不利益処分の問題に対し大学によつて不均衡な結果が生じうる。よつて、評議会における事前審査の発議者は学長であることを明確にするとともに、学長は、広い視野にたつてじゆうぶんその責任を果たすべきである。文部大臣は、学長の措置が当を失する場合には、指導助言を通じてその適正を図るべきである。なお、火災、盗難等の責任に係る事案は、事前審査の対象から除外し、統一的な基準によつて処理すべきである。
 また、学長、学部長の不利益処分についても、同じような趣旨によつて取扱うべきである。

(2) 教員の待遇
 大学の教員に対し、教育研究に専念してその成果をあげることを期待し、また、他の職域における人材需要に対して教員に適格者を確保するためには、その待遇をじゆうぶん厚くしなければならない。大学の教員の給与については、同程度の資格能力を必要とする他の職種の給与の実態、諸外国における大学の教員の処遇、戦前のわが国の状況等を考慮して、相当の水準にひき上げるとともに、給与体系をその職務に即するよういつそう整備することが必要である。
 以上のほか、大学のすぐれた教員を優遇する方途について検討すべきであろう。
(注) 大学院を担当する教員あるいは大学院大学の教員については、さらに特別の措置を講ずべきである。

4.大学と国家・社会

(1) 学外者を加えた機関
 さきに述べた学内管理機関は、すべて学内者によつて構成されている。しかしながら、民主社会における大学は、社会に対して閉鎖的であるべきでなく、積極的にその関連する社会との連けいを深め、特に地域社会のために寄与することが望ましい。よつて、必要に応じて大学に学外者を加えた機関を設けるべきである。この機関は、公開講座等の大学の拡張、産業経済界と大学との連けい、教育の向上および文化の発展等に関し、大学と地域社会とがその協力関係を進めるため相互に意見を交換する機関とする。

(2) 文部大臣の職責
 文部大臣は、国立大学の設置および文教行政の総括的責任者として、大学の管理運営に関しその権限の行使にあたつては、国民に対する責任を考え、大学自治の尊重を基本として、じゆうぶん慎重を期さなければならない。


(注)

  1. 単科大学ならびに教員養成を目的とする大学および学部に関する特例的事項については、以上に述べた趣旨に従つて、適切な措置を講ずべきである。
  2. 大学院大学の管理運営については、大学院が相当の程度の専任の教員と専用の施設をもち、その自主性を確立することとあいまつて改めて検討する必要があろう。
  3. 附置研究所、共同利用研究所、図書館、附属病院等の管理運営については、それらの設置組織等に関する問題とあわせて検討すべきである。
  4. 教養部の管理運営については、学部の管理運営に準じて考慮すべきである。
  5. 短期大学の管理運営については、別に検討すべきである。
  6. 芸術大学の管理運営については、その目的・性格に即して適当な措置を検討すべきである。

4.学生の厚生補導について

 新制大学の任務は、学術研究、職業教育とともに、市民的教養を与え、人間形成を行なうことにある。したがつて、大学教育には、学問的、職業的能力の展開とならんで、民主的、平和的な国家および社会のよき形成者をつくるという重要な使命の達成が期待されている。
 大学における人間形成が専門教育を含む正課教育を通して行なわれることはいうまでもない。けれども、最近における学生数の急速な増大に伴い、正課教育における教師と学生との人間的な接触の機会はますます減少しつつある。その結果として、伝統的な教育方法のみによつては、学生の人間形成の課題にじゆうぶん対処しえない事態となつている。
 大学において、正課教育の領域で、一般教育の充実、教育課程の再編成、教授方法の改善等が検討されるべきことは、「大学の目的・性格について」において述べた。これとならんで、ここに、課程外諸活動において学生の人間形成上の効果を期待し、これを推進するための学生の厚生補導の充実の必要が強調されるのは、上に述べた理由によるのである。
 以上の観点から、次に述べる趣旨に基づいて、大学における学生の厚生補導の意義が明らかにされ、学生の自治活動に対する基本的方針が確立され、学生の厚生補導の組織運営について適切な方途が講ぜられるべきであると考える。

1.大学における厚生補導の意義およびあり方について

 学生の厚生補導は、時間的にも、場所的にも、また、内容的にも、さまざまな形で展開されている。
 そのため、厚生補導の活動は全体として理解されず、その一面をとらえて正課教育の補充的機能にすぎないものと考えられ、あるいは、学生生活向上のために物的諸条件の確保整備を図る大学教育の付帯的活動としかみなされない傾きがある。いずれにしても、厚生補導の意義およびあり方について、理解は必ずしもじゆうぶんとはいえない。
 学生の厚生補導の中心的機能は、人間形成を目的として行なわれる課程外の教育活動および大学教育に対する適応を図り修学効果を高めるための活動にある。したがつて、学生の厚生補導は、大学教育のうちに独自な分野を有するものとして理解されなければならない。
 また、厚生補導の機能を生かし、その効果をあげるためには、大学の教育計画の一環として組織的計画的にこれが行なわれる必要がある。学生の厚生補導は、直接には、これを担当する教職員の相互の協力によつて遂行されるものであるが、その基盤となるのは、全学の教職員の厚生補導についての認識と責任の自覚である。さらに、学生に対して課程外教育の意義に関しじゆうぶん理解させることは、厚生補導の目的の効果的達成のために不可欠である。しかるに、現状では、いかんながら、厚生補導についての教職員の認識と責任の自覚も、また、課程外教育の意義に対する学生の理解もすこぶる不徹底であつて、これが厚生補導活動の大きなあい路となつている。

2.学生の自治活動および政治活動その他の社会的活動に対する教育指導および管理のあり方について

 学生の行なう自主的な活動には、自治会活動、文化、体育等のサークル活動、学生生活のための福利厚生活動、政治活動その他の社会的活動等さまざまなものがあるが、学生の自治活動は、本来、大学の課程外の教育活動として認められたものである。したがつて、それは大学教育の目的達成に必要な範囲においてこれにふさわしく展開されなければならない。しかるに、現実の自治活動の中には、しばしば、自治活動本来の目的に従つた活動として行なわれていないものがあり、時には、特定の少数指導者の支配のもとに、政治的ないし社会的な志向をもつ学生運動の形態をとつて展開されている場合がある。本来あるべき学生の自治活動と政治活動その他の社会的活動とが混乱しつつあるこのような情況に対し、教職員も、学生も、はつきりした認識と評価を欠くことがあり、大学としても、これに対する確固たる教育指導および管理の方針をたてていないものがある。社会もまた学生の自治活動についての正しい理解を欠いている。このような事態に適正に対処することは、大学教育の当面する重要な課題の一つである。よつて、学生の自治活動について、また学生の政治活動その他の社会的活動に対する大学の教育指導および管理のあり方について、次のように考えるべきである。

(1) 学生の自治活動について
 学生の地位にある者の自主的活動が特に自治活動として大学教育上認められるゆえんは、学生生活における自律性のかん養、社会性の陶やあるいは学生相互の啓発等の教育的意義にかんがみて、大学が課程外の教育方法として積極的にこれをとり上げ、これに承認と信頼を与えるところにある。
 学生の自治活動を考えるにあたつて、しばしば、これと混同される二つのものがあるが、それらについて学生の自治活動との関係を明らかにしておく必要がある。
 その一つは、学生の政治的社会的運動の性格をもつものである。しかし、それは学生が市民として有する諸権利に基づく自主的活動であつて、ここにいう自治活動とは異なる次元に属する。
 他の一つは、大学の自治であつて、学生自治は、しばしば、その一環であるようにいわれている。しかし、大学の自治は、わが国においては、学問の自由を確保するために認められた大学の管理運営上の自主性をさすものであつて、これを確保することは、大学の管理機関の責任である。学生は、大学において教育をうけるものであるから、学生の自治活動は、わが国における大学の自治とは異なるものである。
 大学は、学生の自治活動がその本来の目的に適合して展開されるように積極的に指導の原則と方法を確立し、それによつて、期待される教育効果がじゆうぶんに達成されるようにすべきである。

(2) 学生の政治活動その他の社会的活動について
 すでに述べたように、学生の自治活動がその本来の目的の範囲をこえ、現にみられるように、政治活動その他の社会的活動の性格をおび、そのために大学教育の正常な運営を阻害し、あるいは、社会問題をひきおこす事例も決して少なくない。
 学生の政治活動その他の社会的活動については、もとより、個人としての憲法上の自由が考慮されなければならず、また、学生の政治的、社会的教養のかん養については、大学教育上じゆうぶんな関心と配慮が払われなければならない。しかしながら、学生は、大学において教育を受けるものである以上、大学がその教育の目的を達成するためおよびその教育に必要な秩序を形成するため定める教育計画、諸規則、命令に従うべきものである。この限りにおいて、学生の個人としての自由には、必要な制限が加えられるものである。
 したがつて、大学は、学生の政治活動その他の社会的活動のあり方について適切な助言と指導を行ない、学生の政治的、社会的教養のかん養を図ることを主眼とするが、修学に専念すべき学生の本分と政治的に中立であるべき大学教育の理念にかんがみ、必要な範囲においてこれらの活動を規制する責任と権限とを有するものである。

(3) 学外における学生の自治活動および政治活動その他の社会的活動に対する大学の責任について
 学生の自治活動および政治活動その他の社会的活動は、学外にわたることがあるが、これらに対する上に述べた教育指導あるいは管理の機能のおよぶところは、学の内外を問わない。したがつて、大学の責任の範囲を一概に学内に限定されるものとすることは適切でない。もとより、これらの機能は、学内と学外とでは、その発動の態様、程度を異にする点が多い。それにしても、学生の違法行為等については、それが学外において行なわれたとしても、大学が責任を回避することは適当でない。

(注) 大学新聞あるいは大学生活協同組合の活動は、学生の自治活動にも関連するもので、そのあり方について大学はじゆうぶんに検討し、配慮する必要がある。

3.学生の厚生補導に関する組織およびその運営について

 学生の厚生補導の機能がじゆうぶんに発揮されるには、それが大学の教育計画の一環として組織的計画的に編成される必要のあることはすでに述べた。
 そのためには、次の諸点についてじゆうぶんな検討が行なわれ、全学の具体的方針に即して学内諸機関の分担する役割と責任が明確にされるとともに、組織全体としての総合調整が円滑に行なわれるようにする必要がある。
 なお、学生の厚生補導に関する組織およびその運営についての細部の検討にあたつては、学徒厚生審議会の答申(「大学における学生の厚生補導に関する組織およびその運営の改善について」昭和33年5月)がじゆうぶん尊重されなければならない。

(1) 全学的な方針の確立について
 多くの大学においては、厚生補導に関する基本方針が確立されていない。そのため、大学が個々の問題の処理に追われ、全学の意見調整に苦慮し、時宜に適する措置を逸したり、問題の処理に全学的な調和と一貫性を欠いたりする場合も少なくない。
 厚生補導は、個々の専門分野における教育とは異なり、学生全般に共通する問題を取扱うものである。したがつて、大学は、評議会、専門委員会等全学的機関において審議をつくし、そのさい、学部教授会の意見をじゆうぶん尊重して、これに関する大学の基本方針あるいは処理方針を決定しておくべきである。
 この場合、たとえば、新入生の大学教育への適応の促進、教養課程と専門課程との間の厚生補導の連けい、自治会その他の学生団体に対する指導と管理の原則、学生のための施設の管理方針等が、その対象となるであろう。

(2) 学生部の任務および組織等について
 学生部は、学長の監督のもとに、たえず厚生補導に関し専門的技術的調査研究を行ない、それに基づいて全学的な厚生補導に関し企画立案し、この面における大学の計画の推進機関としての機能を果たすとともに、所定の方針に基づいて厚生補導の業務の執行にあたり、また学部、分校等におけるこれらの業務について総括、調整する任務を行なうものである。
 上に述べたような任務を担当する学生部の職員に対しては、職務の遂行上、教育的な判断を要することが多いので、これにふさわしい教養を身につけていることが望まれる。また、専門的技術的事項の処理にあたつては、それぞれの分野の専門教養を必要とする。
 したがつて、このような適格者を確保しうるよう、その採用、処遇および養成・研修の方法についてじゆうぶん検討すべきである。
 また、現在学生部の長は学部の教授が兼務する場合が多い。しかるに、学生部長の仕事は、複雑となり、また、増大してきているので、その職務に専念しうる体制を確立することが要請されてきた。このための措置として、学生部の長を教員の身分をもつ専任職員とすることについても検討の必要があろう。
 特に、学生相談や健康管理のように特定の専門技術を要する部面については、専門的職員を置く特別な施設を設けることを考慮すべきである。

(3) 教員の組織について
 厚生補導に関する教員の組織は、学生の成長段階、教育課程の進度等に即応して検討されなければならない。通常、専門課程においては、学部、学科の組織別に、担当の教員が所属の学生に対し課程内外にわたつて教育指導を行なうことによつて、厚生補導の効果を期待することができる。
 しかしながら、教養課程の段階においては、大学に入学して日が浅く、大学教育への適応もじゆうぶんでない多数の若い学生が対象となつているので、このための厚生補導については、特別の配慮が必要である。たとえば、比較的少数の学生を単位に指導教員をおき、課程外の教育指導にあたらせ、あるいは、厚生補導担当の専任の教員を配置するなど、特別の配慮がなされなければならない。
 教養部の教員組織については、正課教育と厚生補導とをよく関連させて効果的に教育指導を行ないうるよう配慮する必要がある。
 なお、学生のグループ活動については、適任者を顧問教員として配置し、学寮については、その教育指導の組織を設けるなど、学生生活の各部面に即して有効な厚生補導に関する教員組織の整備が図られなければならない。

(4) 関係施設の整備充実等について
 以上述べてきたような厚生補導の効果がじゆうぶんに発揮されるためには、その場となる学寮、学生会館、体育施設、健康管理施設等、物的環境的諸条件の整備充実が不可欠な要件である。
 したがつて、これらについての整備、運営に関する経費の充実については、じゆうぶんな配慮がなされなければならない。
 なお、厚生補導を担当する教職員の研修、養成に関連して、「大学の目的・性格について」において述べたように、大学に厚生補導の講座を設けることが望ましい。それとは別に学生問題研究センターを設けることも考慮すべきである。


(注) 学生の厚生補導に関連する問題として、育英奨学制度については、さきの本審議会の「育英奨学および援護に関する事業の振興方策について」の答申の趣旨が尊重されなければならない。

5.大学の入学試験について

 大学入学制度の目的は、経済的な条件その他に妨げられることなく、広く国民各層の間から真に大学教育を受けるにふさわしい適格者を選び、個人の志望、国家ミ会の要請等を勘案し、大学においてその資質能力を発展させることにある。
 したがつて、大学入学者選抜制度の問題は、適格者を選ぶための科学的な方法を研究し実施するとともに、選ばれる適格者がその志望、適性に応じた大学に進学するよう公正な方途を確立することがその核心であると考える。
 またこのことは、民主国家においては、単に国家の統制によることなく、広く社会の協力、特に関係教育機関の自主的、かつ積極的な協力にまたなければならない。

1.大学入学者選抜制度の現状と問題点

 大学入学についてわが国の現状をみると、人口の増加、教育の普及、産業の発達、民主化の進展に伴つて進学志望者の数が著しく増大しているのに対して、大学においては、規模の拡大にもかかわらず、その収容力が不足しており、両者の間に不均衡が存在している。それに加えて志望者が有名校と大都市へ殺到するため、また、大学の専門分野別構成が社会の人材需要に即応していないため、深刻な大学入学問題が生じている。この事態に対する現在の方法が、各大学の行なう入学者選抜のための学力競争試験であるが、この方法制度の欠陥は、おおむね次のように考えられる。

(ア) 高等学校の調査書、進学適性検査あるいは面接を利用して選抜を行なうことが困難または不可能であるため、入学者の選抜は、事実上ただ1回の学力筆答試験によつて行なわれ、主として集団的選考基準によつて合否を決するという結果になつている。
(イ) 高等学校における進路指導は、必ずしもじゆうぶんでなく、また、大学においても、高等学校や志望者に対して入学に関する情報を提供するなどの方法によつて、競争を緩和するような努力はほとんどなされていない。
(ウ) 大学は、独自の入学試験を行なつていて、相互の連絡協力はまれであり、また、入学に関して高等学校との協力もほとんど行なわれていない。
(エ) 現在の制度では、進学志望者は、どの大学をも何度でも、また、何年続けてでも受験することができる。

 このような学力競争試験を通して行なわれる大学間、志望者間における激しい自由競争は、志望者とその父兄にとつて、大学および高等学校とその関係者にとつて、さらに、国家・社会にとつても、ばくだいな費用と精力の浪費を伴うだけでなく、全体的にみても、また、根本的に考えても、適格者の選抜と配分において必ずしも効果的であるとはいえない。また、このような制度が、高等学校以下の学校教育および学校体系に及ぼす影響の憂うべきもののあることは、しばしば指摘されているとおりである。さらに、いわゆる浪人が多数存在しているため、入学競争試験に重圧が加わつているばかりでなく、受験準備費用の増大が教育の民主化に逆行する結果をもたらしつつあることも、見落してはならない事実である。

2.大学入学者選抜制度についての考察

以上の見地から、大学入学者選抜制度の問題の取扱いは、次の三つに分けて考えることが適当であろう。

(ア) 入学者選抜に関する技術的、制度的な問題
(イ) 入学者選抜の背景にある教育政策およびそれに影響する諸要因の問題
(ウ) いわゆる浪人の問題

 これらのうち、教育政策に影響のある政治的、経済的、社会的要因の問題は広範多岐にわたつているが、教育政策については、社会および経済の発展に伴う高等教育への個人的、社会的需要の増大に即する高等教育機関の規模の拡大と多様化および奨学制度の拡充が要望される。
 浪人の問題に関しては、現行学校教育制度上では、大学、高等学校のいずれの側からもらち外にあり、また、大学側からも高等学校側からもなんら積極的な配慮と関心が示されていない。意志と能力ある多くの青少年が、教育の課程において教育的配慮と制度のわく外に放置されていることは、きわめて憂慮すべき問題であり、すみやかに適切な対策が講じられなければならない。このことは、直接入学者選抜の問題ではないので、ここでは問題の緊要性を指摘するにとどめるが、大学入学者選抜に関する技術的、制度的な改善によつて志望者が浪人として多数とどまることのないよう配慮すべきである。
 したがつて、ここでは、大学入学者選抜制度に関する当面の課題として、技術的、制度的な改善方策のみを取扱うこととした。
 大学入学者選抜制度の改善については、統一的入学試験制度、入学資格試験制度、無試験入学後のような方法等について、欧米各国の制度、実情をもあわせて審議検討したが、わが国の教育制度、社会事情から、ただちにそのような方途をとることは適当とは考えられない。
 よつて、さきの「大学入学者選考およびこれに関連する事項について」の答申をもしんしやくし、次の改善方策をとることとした。

3.大学入学者選抜制度の改善方策

(1) 学習到達度と進学適性を活用する制度の確立
 高等教育をうけるにふさわしい適格者の選抜にあたつては、進学志望者の学力、資質については、高等学校における学習到達度と高等教育への進学適性の判定が基本的な条件である。したがつて、志望者の学習到達度および進学適性について、信頼度の高い結果をうる方法を検討、確立し、この方法により、共通的、客観的なテストを適切に実施することとする。
 この制度の実施にあたつては、後に述べる経過措置を必要とする。

(2) テストの研究、実施のための機関の設置
 テストのための問題の研究、作成およびテストの実施のために、新たに専門の機関を設ける必要がある。この機関は、さしあたり財団法人とし、高等学校教育と大学教育との要請がじゆうぶん調整されるため、高等学校関係者と大学関係者を中心とし、その他学識経験者、文部省関係者を加えて組織運営されるものとする。また、この機関は、上述の目的を達成するため、テストの問題の研究作成および実施に必要な専門家を擁する実施部門をもつものとする。

(3) テストの結果の利用
 入学者選抜については、各大学には独自の立場と見解があるので、大学がテストの結果を利用することを強制するものではなく、また、大学が筆記や面接その他による独自の試験を併用することを妨げるものでもない。

(4) 大学相互間および高等学校と大学との連けい協力
 この制度が円滑かつ効果的に実施されるためには、大学相互間および高等学校と大学との緊密な連けい協力が必要である。

(5) 進路指導と進学志望者の負担の軽減
 テストの結果を利用して、高等学校において適切な進路指導を行なうものとする。
 テストの問題の内容、テストの実施等については、志望者の負担が過重にならないよう、関係者は、深い配慮をするものとする。

(6) テストの実施についての経過措置
 この制度を確立するまで少なくとも3年間の準備期間を置くこととし、その間、主として国立大学の入学試験に並行して次の措置を講ずるものとする。

ア この機関は、毎年国立大学入学志望者に対し、高等学校の協力を得て一せいにテストを行ない、その結果をテストを受けた者の志望する大学および出身高等学校に送付する。

イ 大学は、従来どおり独自の入学試験を行なう。この期間中は、大学は、テストの結果を原則として入学者選抜に利用しないこととする。

ウ この機関は、若干の大学に委託して、それらの大学に設けられる委員会により、入学者についてテストの結果と大学の行なつた入学試験の結果および大学入学後の成績とを比較研究する。

エ この機関は、学習到達度、進学適性の的確な判定を目的とするテストの問題について研究する。

オ 高等学校は、テストの結果と進路指導および調査書との関連について研究する。

カ 国は、この機関、大学、高等学校等の協力を得て、高等学校における進路指導の制度と機能および大学における入学指導の制度と機能、ならびに両者の関連について研究する。

キ この期間中、国はこの機関に対し、必要な財政的援助を行なう必要がある。

(注)以上の機関は、求めに応じて、大学の行なう入学試験の問題の作成等にあたることができるものとする。

6.大学の財政について

 今日、学術の進歩、教育の民主化等に伴い、大学の規模の拡大と教育研究の充実向上が強く要請されている。これにこたえるためには、大学の財政についてのじゆうぶんな配慮と適正なあり方が必要である。
 近時、世界の主要国においては、高等教育の拡充がきわめて重視され、これに伴つて、教育段階別の教育費の構成においては、その重点が初等中等教育から高等教育に移行しつつある現象がみられる。わが国における高等教育の拡充については、その必要と傾向は同一であるにもかかわらず、教育費の裏づけは、必ずしもこれに伴つていない。わが国の場合は、初等中等教育の経費の上昇に比して、高等教育のそれは、その規模の拡大に伴わず、学生1人当たりの教育費についても、教育段階別の教育費の構成においても、戦前の水準にすら達していない。このような状態では、わが国の大学が大学として保持すべき水準を確保することは困難である。
 大学の財政については、上に述べたような観点から、現在の制度のもとでも、経費の増額を考慮すべきであるが、さらに、学問の進歩と国家・社会の要請にこたえ、大学がその目的・使命の達成を期するため、大学財政の制度上における適正なあり方と合理的な運営について改めて検討する必要がある。
 大学の財政の組織、運営は、国立、公立、私立によつてその態様は同一でない。ことに、私立大学にあつては、全体としても、個々についても、国立、公立大学のそれとは著しく異なり、いまただちにそのあり方を規定することは困難である。また、公立大学にあつては、多くの点で国立大学に準じているので、ここでは、国の財政に直接に関連している国立大学の財政を主として取扱うこととした。
 国立大学の財政は、「大学の管理運営について」において述べたように、大学の自治の実質的な面のあらわれである。したがつて、そのあり方は、教育研究上の必要に即して、自主性、弾力性を備え、かつ、長期的観点からの計画的運用を可能とするものでなければならない。
 国立大学の財政のこのようなあり方の実現を特別会計制度の採用に求める意見がある。過去の大学特別会計制度は、上に述べたような趣旨も含んで設けられたものであるが、その後の経済事情の変化や大学の発展に伴つて必ずしも所期の目的をじゆうぶん達成し得なかつたことを省み、かつ、現在の国立大学が内容、規模において急速な発展、拡充の過程にあることを考えると、国立大学の特別会計制度については、なお、慎重に検討する必要がある。
 よつて、国立大学の財政については、一般会計制度における現段階においては、少なくとも、大学特別会計制度にみられた財政上の自主的、弾力的、かつ、計画的な運用のみちをひらくため適切な措置を講ずべきであると考える。
 他面、国立大学の経費は、国費によつてまかなわれ、したがつて、国家財政の一環としての制約をうけることはまぬかれない。そこで、国立大学がその目的・使命を達成するためには、財政の上で、一般官庁と異なり、可能な限り、自主性を確保する必要がある。そのための方途は、特に、のちに述べる「教育研究の長期計画に即応する予算措置」、「予算執行上の弾力的運営」および「寄付金の受入れ使用」と関連して考察されなければならない。
 私立大学の財政は、自主自立を基本とするものであるが、国家・社会の要請による高等教育の拡充の一環をになう面については、国は、必要な条件のもとに積極的な財政的援助を行なうべきである。この援助のなかに経常費を含むか否かについては、検討すべきであろう。なお、さきの本審議会の「私立学校教育の振興について」の答申の趣旨が尊重されなければならない。
 公立大学の財政については、多くの点では国立大学のそれに準じて、また国の援助については、上に述べた私立大学への援助の趣旨に沿つて考えるべきである。

1.教育研究の長期計画に即応する予算措置

 大学における教育研究は、最近の学術の急速な進歩と社会的要請とに伴い、しだいに複雑化し、その規模は拡大し、かつ、計画的に推進される傾向が顕著になつている。このため、個々の教員の創意を尊重することはもちろんであるが、教育研究は、全体としては、長期の見通しに立つて、組織的、計画的に遂行することを必要とするものが多くなつてきた。
 組織的、長期的な教育研究計画は、個々の大学においても、また、大学間の共同計画においても、大学の使命を果たすためには、きわめて重要なことである。そのためには、これを裏付け、具体化するための適切な財政措置が講ぜられなければならない。
 特に、現行の単年度方式の予算は、長期計画に即応しない点があるので、たとえば、予算編成上長期計画の年次計画に基づいて毎年度の予算が確保されるよう措置し、特に必要がある経費については、継続費として取扱うなど、予算措置について改善を検討する必要がある。

(注)

  1. 長期計画は、国立大学全体の計画として考慮する必要があるので、その推進および総合調整のために文部省に審議機関を設けることが必要である。
  2. 長期計画には、研究費のみでなく、必要な学部、学科、施設、設備、人員に要する経費を含むものである。
2.予算執行上の弾力的運営

 国立大学における教育研究は、一般行政官庁における行政事務の処理とは著しく異なつている。したがつて、その会計制度においても、当然、その実態に即した運営がなされるべきである。しかるに、現在、国立大学には多少の特例が認められているが、原則的には一般行政官庁と共通の会計制度のもとに置かれている。このことは、国立大学における教育研究を行なうにあたつて、一つのあい路ともなつているので、これに対応する会計制度および手続きの特例について検討されるべきである。
 よつて、直接研究の用に供する経費については、研究により千差万別のあること、研究の進展により予測できない変動のあることなどにかんがみ、予算の弾力的執行を図るため、たとえば、(ア)若干の目について、流用制限を緩和すること、また、目を統合してその支弁範囲を拡大すること。(イ)教育研究のための特殊な設備を購入する経費については、繰越明許費とすること。(ウ)国立大学における行政財産の取得にあたり、これが交換方式を検討すること。物品の交換制度の拡大を図ることなどについて検討する必要がある。

(注)

  1. 国立大学の経理手続きは、大学の特別な目的にかんがみ、必ずしも適当でない点も見うけられる。特に、大学における行政財産、債権および物品の管理手続きの簡素化を検討すべきである。
  2. 受託研究、演習林における立木の処分、または附属病院における診療等の収入の裏付けのある経費については、それらの事業の目的がじゆうぶん遂げられるよう歳出予算の弾力的措置を講ずる必要がある。
  3. 現在、大学における科学研究費は、大学の研究を推進するため緊要不可欠であり、その拡充がのぞまれている。特に、その経理については、研究推進上の要請に即し、かつ、その適正な使用を確保するための適切な方法を検討すべきである。
3.教育研究費等の拡充

 国立大学の予算の構成は、管理的経費、研究講義に必要な経費、学生の厚生補導に必要な経費、設備施設更新拡充に必要な経費、農場および演習林等に必要な経費、病院の診療経費、その他の特別研究事業に必要な経費から成立つている。
 このうち、管理的経費は主として人件費であつて、大学総予算に対する人件費の比率は、近年、ほぼ60%を占め、人件費以外の管理的経費、教育研究に要する諸経費等は、約40%になつている。この割合は、戦前(昭和10年度~15年度)のそれと逆の現象であつて、このことは、教育研究に要する諸経費が相対的な低下をきたしていることを示している。
 特に、研究講義に必要な経費の中心をなす教官研究費についてこれをみれば、講座研究費の非実験系で戦前の1/3、実験系で戦前の2/3であり、学生経費のごときは、戦前の1/9という状態である(昭和10年度~20年度と昭和37年度との比較)。
 学術の進歩、発展と人材の育成について大学の果たすべき使命が、世界の主要国において最も重視されている今日、わが国においても、この使命を遂行すべき大学の発展拡充のためのこの種の経費の増額こそ、考慮されるべき最も緊要なことがらである。
 なお、教育研究費と関連して、教員の給与のあり方が適正でなければならない。これについては、「大学の管理運営について」において述べたように、大学の教員の職務に即した給与体系が整備されるべきである。
(注)学内の一体的管理運営を図るために必要な管理運営費のあり方と計上について検討する必要がある。

4.寄付金の受け入れ、使用

 大学における教育研究に対する社会一般の期待は大きく、国立大学に対しても、研究の委託、促進、協力あるいは人材育成について寄付金が少なくない。特に、最近における産学協同の進展によつて、産業界からの寄付金が増加する傾向にある。しかるに、国立大学におけるこれらの寄付金の受け入れと使用については、諸種の制約があつて、大学がこれらの要請にこたえ自主的に研究を推進していく上に困難な場合が多い。したがつて、寄付金の受け入れと使用に関し次のような措置をとることが必要である。

(1) 用途指定寄付金
 現在、国立大学に対する用途指定寄付金の取り扱い範囲は、きわめて限られているが、上に述べたような目的をもつ用途指定寄付金は、その受け入れと使用について、目的に即した最も適切な方法により取扱うことができるよう改善すべきである。

(2) 教育研究援助団体
 国立大学における教育研究を推進させ、あるいはその研究を活用するため、民間と大学側とが協力する体制について考慮する必要がある。このため、民間と国あるいは大学との協力による団体を設けることを検討すべきである。
 この団体は、大学の教育研究の経費を確保するため民間からの募金等を行なうものとする。

(注)

  1. この団体に対する寄付金は、大学の教育研究の経費に充当されるものであるから、所要の免税の措置をとるべきである。
  2. 日本学術振興会にこの団体の行なうべき事業を行なわせることも検討すべきである。

(3) 寄付金についての免税措置
 現在、国立、公立大学に対する法人の寄付については、全額を損金に算入することができるが、個人の寄付については、所定の計算方式による少額の減税をうけるにすぎない。個人の寄付についても、法人と同様に寄付金額を課税対象額から控除する方式に改める必要がある。
 私立大学に対する法人の寄付についての損金算入および個人の寄付についての免税に関しても、私立大学が高等教育に占める地位の重要性にかんがみ、その財政需要を考慮して、必要な措置を講ずべきである。


(注)国立大学の経理手続き、管理運営費のあり方等について技術的専門的に調査するために必要な調査会を設けることを検討すべきである。

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