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三.国際化に伴うその他の日本語の問題

 近年、社会的に問題となっている、外来語・外国語(いわゆる片仮名言葉など)の増加の問題、及び、姓名のローマ字表記の問題について、以下に見解を述べることとする。これは、日本語による社会的なコミュニケーションが一層適切に行われるようにしていくこと、日本語を一層魅力的で価値あるものにしていくこと、さらには、日本語に関する働き掛けを通して人類の有する文化の多様性が世界の中で生かされるようにしていくことが大切であるという認識に基づくものである。そして、これらのことは、言葉の使用に大きな社会的責任を有する官公庁や報道機関等をはじめ、日本語を用いるすべての人の参画と努力とによって達成されるものであると考える。

1 外来語・外国語増加の問題

(1)外来語・外国語増加の現状と問題点

 外来語・外国語は以下のような機能を担って日本語の中で使用されており、既に日本語として定着している外来語も多く存在する。

  1. それまで日本になかった事物や新概念を表す
     例:ラジオ、キムチ、アンコール
  2. 専門用語として取り入れる
     例:オゾン、インフレーション
  3. その語に伴うイメージを活用する
     例:「職業婦人」を「キャリアウーマン」と言い換えて新しいイメージを出す

 しかし、近年では、外国との間の人・物・情報の交流の増大や、諸分野における国際化の進展等に伴い、日本語の中での外来語・外国語の使用が目立って増大しており、一般の人々にとって覚え切れないほどに新しい語が次々に出現する、専門領域で使われていた語がそのまま一般社会に流出する、白書・広報紙等の公的な文書や多くの人を対象とする新聞・放送等にも目新しい外来語・外国語が出現する等のことが問題となっている。また、外来語・外国語の安易な使用は和語・漢語の軽視につながり、歴史の中で築かれ磨かれてきた日本語の機能や美しさが損なわれ、伝統的な日本語の良さが見失われるおそれもあると言える。社会的なコミュニケーションや国際化時代の日本語の在り方から見た外来語・外国語増加に伴う問題点としては、以下のようなものが挙げられる。

  1. 日本語によるコミュニケーションを阻害し、社会的な情報の共有を妨げるおそれがある…外来語・外国語が理解できないため、情報を受け取れない人が生じる。
  2. 世代間コミュニケーションの障害となる…特に高齢者にとって、外来語・外国語の意味が分からなくて困ることが多い。
  3. 日本語の表現をあいまいにする…表意文字の漢字で書かれた漢語と違って概念がつかみにくい。また、意味のあいまいな語の使用により、全体が明快で論理的な表現にならなくなる。
  4. 外国人の日本語理解の障害となる…外国人にとって片仮名語は分かりにくい。
  5. 日本人の外国語習得の障害となる…原語の意味から外れた外来語や和製語は、外国語としては通用しない。以上を考え合わせると、外来語・外国語は固有の機能や魅力を持ち、各分野で使われているが、その急速な増加及び一般の社会生活における過度の使用は、社会的なコミュニケーションを阻害し、ひいては日本語が有する伝達機能そのものを弱め、日本語の価値を損なう危険性をも有していると言えよう。

(2)外来語・外国語増加の問題についての考え方

 国語審議会は、日本語による社会的なコミュニケーションが今後一層適切に実現されるとともに、これからの日本語が国際化時代にふさわしい平明・的確な伝達の機能を一層十分に備えていくべきであるという認識に立つ。その意味で、読み手や聞き手の理解に対する配慮を欠いた外来語・外国語の使用や、不必要に表現をあいまいにするような外来語・外国語の使用は望ましくないと考える。更に言えば、高度で豊かな学術や文化を創造し得る、日本人にとっても世界の人々にとっても魅力的で価値ある日本語を作り出していくという観点からも、意味をあいまいにしたままの言葉が多用されることは望ましくないと考える。
 外来語・外国語を使用するか否かは、一般的には個々人の判断に属する事柄であり、外来語のイメージを活用することも一概に否定する必要はないが、官公庁や新聞・放送等においては、発信する情報の広範な伝達の必要性及び人々の言語生活に与える影響の大きさを踏まえ、一般に定着していない外来語・外国語を安易に用いることなく、個々の語の使用の是非について慎重に判断し、必要に応じて注釈を付す等の配慮を行う必要がある。
 また、受け手である一般の人々も、送り手である各機関、あるいは各分野の専門家等に対し、一般向けの発行物等における外来語・外国語の取扱いに関する配慮を積極的に求める姿勢を持つことが望ましい。日本語は、これを用いるすべての人のために存在するものであり、使用するすべての人が日本語の在り方に対して積極的にかかわっていこうとする態度を持つことが、より望ましい日本語の創造につながるものと考える。

(3)官公庁・報道機関等における外来語・外国語の取扱いについて

 広く国民一般を対象とする官公庁や報道機関等における外来語・外国語の取扱いに際しては、個々の語の周知度や難度等によって、後の表に示すような取扱いの区分を設けることが考えられよう。
 この表は、現時点で各欄に典型的に該当すると考えられる語例を挙げ、関係各方面の参考に供しようとするものである。各機関等が扱う語や対象とする人は異なっていると考えられ、また、将来新たに問題となる語も生じると予想されることから、各機関等においてはその発行物等に使用する外来語・外国語の取扱いについて、それぞれの立場で判断していくことが必要である。さらに、個々の語の一般社会への定着度は年々変化するため、この表に掲げた語例も各欄に固定して考えられるべきではなく、各時点においてその扱いを判断する必要がある。
 また、施策の名称や、公共の施設や催しの命名に際しては、一般の人々にとっての意味の分かりやすさに十分配慮すべきである。外来語を用いる場合、特に、幾つかの単語を組み合わせた造語は意味の分かりにくいものになりやすいため、注意が必要である。

表:広く国民一般を対象とする官公庁や報道機関等における外来語・外国語の取扱いについての考え方

分 類 取扱い 語例
(一) 広く一般的に使われ、国民の間に定着しているとみなせる語
そのまま使用する


ストレス
スポーツ
ボランティア
リサイクル
PTA
(二) 一般への定着が十分でなく、日本語に言い換えた方が分かりやすくなる語
言い換える アカウンタビリティー
 →説明責任 など
イノベーション→革新 など
インセンティブ
 →誘因、刺激、報奨金 など
スキーム →計画、図式 など
プレゼンス →存在、出席 など
ポテンシャル →潜在的な力 など
(三) 一般への定着が十分でなく、分かりやすい言い換え語がない語
必要に応じて、注釈を付すなど、分かりやすくなるよう工夫する
アイデンティティー
アプリケーション
デリバティブ
ノーマライゼーション
ハードウェア
バリアフリー
上記(一)、(二)、(三)に属する語のうち、ローマ字の頭文字を使った略語については以下のように扱う
ローマ字の頭文字を使った略語 少なくとも初めて出現する時には,日本語訳(必要に応じて注釈や省略しない形)を付す
ASEAN(東南アジア諸国連合)
GDP(国内総生産)
NPO(民間非営利組織)
PL法(製造物責任法)
WTO(世界貿易機関)

2 姓名のローマ字表記の問題

(1)姓名のローマ字表記の現状

 日本人の姓名をローマ字で表記するときに、本来の形式を逆転して「名-姓」の順とする慣習は、明治の欧化主義の時代に定着したものであり、欧米の人名の形式に合わせたものである。現在でもこの慣習は広く行われており、国内の英字新聞や英語の教科書も、日本人名を「名-姓」順に表記しているものが多い。ただし、「姓-名」順を採用しているものも見られ、また、一般的には「名-姓」順とし、歴史上の人物や文学者などに限って「姓-名」順で表記している場合もある。欧米の報道機関等では、日本人自身の慣習を反映して「名-姓」順で表記することが一般的である。
 しかし、近年では、本来の形で表記すべきだとする意見も多く聞かれ、名刺等の表記を「姓-名」順にしている人なども見られる。文化庁の「国語に関する世論調査」(平成11年)では、中国人や韓国人の名前は英文の新聞や雑誌の中でも自国での呼び名と同じ「姓-名」の順に書かれることが多いことを述べた上で、英文における日本人の姓名表記について尋ねたところ、「「姓-名」の順で通すべきだ」(34.9%)とした人がやや多く、「「名-姓」の順に直すのがよい」(30.6%)、「どちらとも言えない」(29.6%)もこれに拮抗する結果となった。

(2)姓名のローマ字表記についての考え方

 世界の人々の名前の形式は、「名-姓」のもの、「姓-名」のもの、「名」のみのもの、自分の「名」と親の「名」を並べて個人の名称とするものなど多様であり、それぞれが使われる社会の文化や歴史を背景として成立したものである。世界の中で、日本のほか、中国、韓国、ベトナムなどアジアの数か国と、欧米ではハンガリーで「姓-名」の形式が用いられている。
 国際交流の機会の拡大に伴い、異なる国の人同士が姓名を紹介し合う機会は増大しつつあると考えられる。また、先に記したように、現在では英語が世界の共通語として情報交流を担う機能を果たしつつあり、それに伴って各国の人名を英文の中にローマ字で書き表すことが増えていくと考えられる。国語審議会としては、人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し、生かしていくべきであるという立場から、そのような際に、一定の書式に従って書かれる名簿や書類などは別として、一般的には各々の人名固有の形式が生きる形で紹介・記述されることが望ましいと考える。
 したがって、日本人の姓名については、ローマ字表記においても「姓-名」の順(例えばYamada Haruo)とすることが望ましい。なお、従来の慣習に基づく誤解を防ぐために、姓をすべて大文字とする(YAMADA Haruo)、姓と名の間にコンマを打つ(Yamada,Haruo)などの方法で、「姓-名」の構造を示すことも考えられよう。今後、官公庁や報道機関等において、日本人の姓名をローマ字で表記する場合、並びに学校教育における英語等の指導においても、以上の趣旨が生かされることを希望する。

-- 登録:平成21年以前 --