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 目  次 


 第1章  情報及び情報科学技術に関する基本認識 
  1.  物質資源依存型社会から情報資源依存型社会へ 

  2.  情報科学技術による社会の変革 
    (1)情報科学技術がもたらす多様な可能性 
    (2)情報科学技術による社会の変革に伴って生ずる新たな課題 

  3.  社会の知的・創造的基盤としての情報科学技術 

  4.  情報科学技術の研究開発を巡る情勢と課題 
    (1)情報科学技術の研究開発を巡る情勢 
    (2)情報科学技術の研究開発に関する課題 

  5.  科学技術情報の流通を巡る情勢と課題 
    (1)科学技術情報の流通を巡る情勢 
    (2)科学技術情報の流通に関する課題 

 第2章  情報科学技術の戦略的な推進の考え方 
  1.  情報科学技術の研究開発の推進 
    「社会のニーズを明確に指向した、基礎・基盤の強化」 

    (1)基礎的・基盤的な情報科学技術の強化 
    (2)社会のニーズに対応するための情報科学技術の推進 
      1)社会の重要課題を解決するための情報科学技術の推進 
      (a) 創造的な科学技術の創出 
      (b) 個人の能力の向上・発揮 
      (c) 質が高く安心できる国民生活の実現 
      (d) 活力ある経済の実現 
      (e) 経済社会の持続可能な発展 
      2)高度情報通信社会の環境整備のための情報科学技術の推進 
      (a) 高度な情報インフラが広く利用できる環境 
      (b) 全ての国民が情報インフラを使いこなせる環境 
      (c) 信頼できる情報インフラを安心して使える環境 
    (3)情報科学技術の活用を進めるための取組み 

  2.  科学技術情報の流通の推進 
    「ネットワーク時代に対応した円滑な流通の実現」 

    (1)世界に向けた科学技術情報の発信 
    (2)情報資源の蓄積と流通環境の整備 
    (3)科学技術情報の利用しやすい環境の整備 

 第3章  情報科学技術の戦略的な推進のための共通的な方策 
  1.  専門的な人材の育成 
    (1)情報科学技術の研究開発を担う人材 
    (2)情報科学技術の活用を担う人材 

  2.  実施体制の強化 
    (1)情報科学技術の研究開発体制 
    (2)科学技術情報の流通体制 

  3.  研究開発基盤の整備 
    (1)研究情報ネットワーク 
    (2)高速計算機 
    (3)データベース 

  4.  国際的展開 

  5.  国の投資 

 第4章  情報科学技術の戦略的な推進のための先導的取組み 
    「ネットワーク時代の研究システムの構築」 
  1.  先導プログラムの創設 

  2.  先導プログラムの進め方 
    (1)社会のニーズを指向して、基礎・基盤の研究を重点化するプロセス 
    (2)研究と利用が融合した、人本位のネットワーク型研究体制 
    (3)本プログラムの成果の幅広い活用を促進するプロセス 
    (4)本プログラムの推進体制の整備 





 第1章  情報及び情報科学技術に関する基本認識 


  1.  物質資源依存型社会から情報資源依存型社会へ 

      一般に、事物は、物質の要素と情報の要素から成ると考えられる。人類の歴史は、物質及び情報との係わりの歴史であると言うことができる。近代に入って、物質の利用に関する科学技術が急速に進歩し、産業革命等を通して、人類社会は大きな変革を遂げた。他方、情報の利用については、それに比肩するような急速な進展は見られなかった。近代文明は、人類の物質を利用する能力の急速な進歩により、地球規模の資源・環境の制約を顕在化させつつ、かつてない物質的な豊かさを実現した。 
      近年に至り、情報の生成、処理、伝達、蓄積、保存、利用等に関する科学技術、即ち情報科学技術の急速な発展により、情報をコンピュータにより処理し、ネットワークにより伝達するなど、人類の情報を利用する能力が飛躍的に高まった。このことは、情報が物質とともに、ある面では物質に代わって、文明を形作る主要な要素となりうる状況が到来したことを意味している。 
      このような情報を巡る新たな情勢に積極的に対応し、情報が有効適切に利用される望ましい社会の構築、特に、これまでの物質を大量生産、大量消費する物質資源依存型社会の、持続可能な発展を可能とする情報資源依存型社会への転換に取り組むことが必要である。ここで、情報資源依存型社会においても、物質の重要性がなくなるのではなく、情報を活用することによって、物質がより効果的・効率的に使われるものであることに留意することが必要である。 
      情報は、情報一般に共通する性質を有すると同時に、それが由来する事物又は分野によって異なる、固有の性質を有している。現在、多様な分野において膨大な情報が生成されているが、それらを総合的に理解することが困難になっている。また、コンピュータ等の情報を扱う手段は、自然科学のうちの理工系の分野から発展してきたが、自然科学のうちの生命科学系及び人文社会科学において、それらの手段を大いに活用していくことによって、新たな展開が期待される。情報に関するこのような状況において、多分野に亘る情報を体系的に理解し、活用するための情報学という学問分野を確立することが学術の課題となっている。 


  2.  情報科学技術による社会の変革 

      上述のような課題を内包しつつも、人類の知的・創造的な所産である情報科学技術の発展は、既に、社会のあらゆる分野を急速に変革しつつある。コンピュータとネットワークを中心とする近年の情報科学技術の発展と社会への浸透は、情報を、より多くの人が、より大量に、より高速に、より高度な方法で、より容易に、より低コストで、より長い距離を越えて活用することを可能にしつつある。これは、社会における情報の活用のされ方や情報が果たす役割について、単に量的ではなく、質的な変化を引き起こすものであり、21世紀には、社会システムから、個人の生活、科学の在り方に至るまで、社会全体が情報科学技術に依存することになる。その際、情報科学技術の発展が社会にもたらす多様な可能性を広く認識し、その実現を目指していくという視点がまず必要であり、同時に、情報化による社会の変革に伴って生ずる新たな課題について十分に認識し、それに適切に対処していくという視点が必要である。 

    (1)情報科学技術がもたらす多様な可能性 

      情報科学技術の進展は、まず、個人の選択と行動の自由度を著しく拡大し、生活の豊かさの実現を可能にする。コンピュータと結びついたネットワークの発達による時間と距離を越えたコミュニケーションの拡大は、人と人の結びつきを深め、個人が多様な情報の中から必要なものを入手すると同時に自ら情報を発信することを可能にし、個人が地理的、身体的等の制約を越えて活動することを支援する。情報化の進展は、仕事を効率化し、人がより創造的な仕事に携わることや生活を楽しむ余裕を持つことを可能にする。情報科学技術を活用した新しいサービスの創出や利便性の向上は、個人の生活における様々な面において、それぞれの価値観に応じた多様な選択を可能にする。 
      また、情報科学技術は、経済社会の在り方を望ましい方向に転換する大きな可能性を有している。すなわち、情報科学技術の活用は、既存の産業の生産性を大きく向上させるとともに、新しい技術の実用化や異分野の融合により新産業を創出することが期待される。これは、より付加価値の高い、物質資源を大量に消費しない、持続可能な方向への経済構造の転換にも繋がることが期待される。 
      さらに、情報科学技術は、研究開発の手法に大きな変革をもたらし、科学技術の進歩を加速すると期待される。 

    (2)情報科学技術による社会の変革に伴って生ずる新たな課題  

      情報科学技術による社会の変革に伴い、まず、情報を使いこなす能力(情報リテラシー)が不可欠な社会になるので、そのような能力を多くの人が身に付けられるように配慮するとともに、情報リテラシーが不十分な人を取り残したりすることがないように配慮することが必要である。 
      また、ネットワーク上をあらゆる種類の膨大な情報が流通するようになるため、その中から有用な情報を選択できるようにするとともに、有害・不適当な情報の氾濫に対応することや、個人情報の流通に関してプライバシーを保護することが課題となっている。個人の生活、行政や経済の重要な活動がネットワークを介して行われるようになるため、不正な行為等に対するセキュリティの確保や、災害に強く信頼性の高いシステムの構築が必要である。 
      さらに、金融を初め経済の諸システムが急速に情報化されることにより、これまで予期しなかった現象が見られるようになっており、それに対する十分な理解が必要である。いわゆる2000年問題は、社会のあらゆる活動が情報化されることに伴って発生する思いがけない重大な現象の一例と考えられる。 
      これらの社会に関する課題を含めて情報科学技術を捉えるためには、倫理学、法学等を含む人文社会科学の視点が不可欠となっている。 


  3.  社会の知的・創造的基盤としての情報科学技術 

      これまで述べてきたように、これからの社会にあっては、研究開発により生み出される知的・創造的な所産である情報科学技術なくしては、高度化する社会のあらゆる活動を支えることは不可能であり、情報科学技術は、社会の知的・創造的な基盤と位置づけられる。 
      また、情報科学技術が、社会の知的・創造的な基盤として、実際に社会のために役立つためには、情報を活用して21世紀に向けて社会のどのようなニーズに重点的に対応すべきか、それを実現するための手段として情報科学技術をいかに活用すべきか、そのためには情報科学技術の研究開発はどうなければならないか、という広い視野に立って情報科学技術を推進することが必要である。 
      情報科学技術の推進に当たっては、以下のような情報科学技術の特徴を十分認識する必要がある。 
      まず、情報科学技術については、新しい手法等が、長期間をかけて確立され、定着するという現象がある一方で、ソフトウェアに見られるように、基礎的な研究の成果が直ちに実利用に結びつく傾向があり、従来の、基礎から応用、利用へといった、研究開発のプロセスを一方向の段階的なものと見なす認識がそのまま当てはまらない。 
      また、ソフトウェアやコンテンツに見られるように、成果が個人の独創性に依存する傾向が著しい。言い換えれば、研究開発において個々の人材が大きい要素となる。したがって、優れた人材が能力を発揮できる環境を整えることが重要となる。 
      さらに、情報科学技術自体についても、それに対するニーズについても、多様性と変化の速さが著しいので、柔軟な対応が必要である。 


  4.  情報科学技術の研究開発を巡る情勢と課題 

    (1)情報科学技術の研究開発を巡る情勢 

      海外においては、社会の情報化の重要性の認識が高まり、その基盤としての情報科学技術に対する国家的な取組みが活発化している。例えば、米国においては、雇用の創出、国民が等しくサービスを享受する機会の提供及び産業の国際競争力の向上を目的として、ハードウェア、ソフトウェア、人材等を含む情報基盤の整備を進めようというNII(National Information Infrastructure)構想を進めており、それに基づき、計算、ネットワーク等の広範な分野を対象とする、産学官連携による研究開発計画としてHPCC(High Performance Computing and Com-munications)計画、その後継のCIC(Computing, Information and Communica-tions Research and Development)研究開発計画を実施している。欧州においては、欧州各国の計画に加え、EUが実施している産学官連携の研究開発計画である第4次フレームワーク・プログラムの中で、ESPRIT(European Strategic   Programme for Research and Development in Information Technologies)等の情報科学技術の研究開発計画を実施している。 
      また、G7諸国間の協力として、広帯域ネットワークの相互運用性、電子図書館、ヘルスケアのアプリケーション、電子政府等に関する11のテーマから成るG7情報社会パイロット・プロジェクトが実施されている。 
      我が国においては、「我が国の高度情報通信社会の構築に向けた施策を総合的に推進するとともに、情報通信の高度化に関する国際的な取組みに積極的に協力するため」、平成6年8月に内閣に高度情報通信社会推進本部が設置され、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(平成10年11月改定)が決定されるなど、情報科学技術の研究開発を含む、高度情報通信社会の構築に向けた施策について、政府としての取組みが強化された。 

    (2)情報科学技術の研究開発に関する課題 

      情報科学技術の研究開発について、民間における活発な活動に加え、国による取組みが活発化しているが、以下に示すように、克服すべき課題が顕在化していると認識される。 
      まず、諸外国における情報科学技術への取組みが強化される中、我が国は情報科学技術において総体的に遅れを取りつつあるのではないかと懸念される。特に、ソフトウェアの分野における立ち後れが顕著である。また、新しい発想が、速やかに、ソフトウェア等として具体化し、社会で使われるようになるという活力が不足していると考えられる。 
      また、我が国は、情報科学技術の中で国際的に見て進んでいる分野もあるが、情報科学技術の基礎的・基盤的な領域において、特に米国と比べ、弱さがあると認識される。基礎的・基盤的な情報科学技術の研究開発については、国の研究開発機関が主要な役割を果たすことが期待されるが、国の各機関の情報科学技術部門の規模が小さいなど、体制が十分には整備されていないと考えられる。 
      また、情報科学技術の研究開発及び活用においては、優れた人材(研究者、研究支援者等)の確保が特に重要であるが、我が国は、人材の層が薄いと認識される。 
      さらに、研究者や研究開発機関の活性化、成果の展開・活用のためには、産学官の組織間の連携、特に、研究開発と利用との間の連携が重要であるが、現状では十分ではないと考えられる。 


  5.  科学技術情報の流通を巡る情勢と課題 

    (1)科学技術情報の流通を巡る情勢 

      上述したように、社会における情報の役割が増大しているが、このことは、自然科学から人文社会科学に亘る広範な科学技術に関する情報を含む科学技術情報について特に顕著である。科学技術が一般社会に深く浸透している現在では、科学技術情報は、社会・経済活動になくてはならないものになってきており、科学技術情報の利用に対する需要はますます増大している。科学技術情報は、人類が直面する種々の問題の解決や創造的な研究開発活動の展開のために必要不可欠なものであると同時に、それ自体が人類共通の知的資産であり、人類全体の重要な資源である。 
      ネットワーク時代を迎え、科学技術情報の形態及びその流通の在り方が大きく変化している。 
      まず、科学技術情報の形態は多様化しており、従来では、実験、観測、計算等から得られる各種データ及び事実(以下「ファクトデータ」という)、文献、記事等、各種の情報が個別のものとして存在していたが、今や、複数の種類の情報が一体化、複合化した形で存在する割合が、著しく増大している。また、静動画像、音声など新たな形態のものがますます増大している。 
      また、科学技術情報の流通については、従来、紙の媒体が主体で電子媒体が補完的なものであったが、現在は、電子媒体が主流となり、ネットワークを通じて流通する時代に変わっていく過渡期にあると考えられる。インターネットなどのネットワークとワールドワイドウェブ(WWW)の普及に伴い、情報の流れが一方向から双方向になり、発信源がその数を著しく増加しつつ広く分散し、発信から利用までの時間が短縮され、専門家以外の一般の利用者のニーズが高まるなど、科学技術情報の流通が大きく変貌している。 
      さらに、ネットワーク時代の到来は、研究開発活動の進め方自体を様変わりさせつつある。例えば、研究者と研究者がネットワークを通じ、電子メールや電子会議によって討論したり、ソフトウェアや実験データを共有するなど、離れた場所に居ながら一つの研究チームとして研究を行うことが可能になりつつある。 
      このような状況において、科学技術情報を円滑に流通させ、研究開発の情報化を進めるための基盤整備は、重要な公共財を提供するものであるとともに、新産業を創出する源となるものである。 
      海外の先進国における科学技術情報の流通に係わる取組みの状況を見ると、学協会、出版業界等が中心となって、活発に電子的な情報発信を進めてきているだけでなく、電子出版された雑誌や既存のデータベースをリンクした情報の収集、提供も積極的に行われている。特に、米国では、前述のCIC研究開発計画の中で革新的アプリケーション開発の一環として地球観測データを初めとした各種データベースの整備及び流通を推進している。ディジタルライブラリ・イニシアティブとして、マルチメディアデータ等のデータベースの整備、ユーザインタフェース技術の開発など産学官の連携による研究開発プログラムが活発に推進されている。また、ドイツでは、ディジタルライブラリ及び電子出版を柱とする情報流通政策を展開している。さらに、他のEU諸国でも遠隔医療、遠隔教育等といったネットワークを活用した情報流通の研究開発や、電子商取引の利用に関する研究開発が進みつつある。 

    (2)科学技術情報の流通に関する課題 

      我が国としても、ネットワーク時代に対応した科学技術情報の円滑な流通の実現に向けて取り組むことが急務であるが、そのためには、以下に示す諸課題の解決が必要となる。 
      まず、我が国の研究開発活動は、その研究成果を世界に向けて広く発信することにより、初めて、世界に認められ、また、アジア地域の中でも我が国が中心的な役割を果たすことができると考えられる。しかし、我が国では、国際的に通用する学協会誌の発行や研究者自身の発信能力に十分ではない面がある。また、所在情報の不足、言語や制度の壁等により、研究コミュニティが発信した情報が海外から十分に利用される状況になっていない。 
      また、研究開発活動が、データベース等の科学技術情報にますます依存するようになっているにもかかわらず、国内におけるデータベースの整備が十分でなく、一般に公開される情報が少ない。特に、ファクトデータベースについては、研究開発基盤の充実に対する全体的な認識の不足、研究開発機関等におけるデータベース整備に対する業績評価の低さ、研究開発機関と情報流通関係機関との協力関係の弱さなどから、国際的に通用するものが国内には少なく、海外への依存度が高い。 
      一方、文献情報については、電子媒体の長所を生かすための電子化、電子図書館化等、電子的な流通環境の整備が不十分であるほか、情報を有効に活用する上で重要な抄録、所在等の総合的なデータベースの整備についても、国全体としては必要であるにもかかわらず、十分なものとなっていない。また、情報流通の多様化、国際化に対応するために、情報や関連するソフトウェアの仕様の標準化が必要であるが、部分的な取組みに留まっている。 
      また、国の研究開発活動についての情報の整備と公開は、国が研究開発に関して国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たす上で重要であるが、十分には進んでいない。 
      科学技術情報の収集と蓄積については、科学技術に関する資料の数の増加と価格の高騰により、国内の情報流通関係機関等における収集が限定的なものとなりつつあり、国として網羅的に情報を蓄積することができない状況になっている。また、科学技術情報のマルチメディア化が進む中、これに対応した電子的な蓄積・保存の状況は十分ではない。 
      科学技術情報の利用のしやすさという面では、まず、ネットワーク上に多種多様な情報が氾濫、分散する中、必要な、信頼できる情報を入手することが困難になっている。また、専門家でない利用者が科学技術情報のデータベースを簡便に利用できる環境になっていない。 
      科学技術情報の流通については、関係機関の連携が重要であるが、ネットワーク時代の課題の解決に向けた連携関係が構築されるに至っていない。科学技術情報の流通に係わる人材については、情報流通関係機関や研究開発機関における情報流通を担う専門家の育成・確保が十分でなく、科学技術の各分野の研究者等についても情報を発信・活用する能力が十分でないと考えられる。 
      さらに、電子化された科学技術情報の流通に関しては、料金及び決済について、柔軟な料金体系や電子商取引を導入することが課題であり、また、著作権について、簡便な権利処理ができるよう、権利情報の提供を始め、権利処理体制を整備することが課題となっている。 



 第2章  情報科学技術の戦略的な推進の考え方 


  21世紀に向けて情報科学技術を戦略的に推進するに当たっては、情報科学技術の研究開発及び科学技術情報の流通に関して、以下の考え方により進めることが適当である。 

  1.  情報科学技術の研究開発の推進 
      「社会のニーズを明確に指向した、基礎・基盤の強化」 

      情報科学技術は、社会の知的・創造的基盤として、21世紀に向けて社会の将来を左右するものであり、我が国として、情報科学技術における世界のフロントランナーを目指して、情報科学技術の強力な研究開発力を確立するとともに、その成果が社会で広く利用される環境を整備することが必要である。 
      情報科学技術の研究開発を効果的に推進するためには、以下に述べるように、情報科学技術の特徴に即して行うことが重要である。 
    まず、情報科学技術は、社会の基盤であり、様々な分野において重要な手段として利用されるものであるので、社会のニーズに対応して研究開発が行われ、その成果が速やかに利用に供されること、また、幅広い分野で共通的に利用できる、波及性のあるものに重点的に取り組むことが重要である。ここで、ニーズに対応することを強調する趣旨は、情報科学技術の研究開発において、方向性あるいは目的意識を明確にすることにより、有用な成果を生み出そうということであるので、ここでいうニーズは、目先の、個別具体的なニーズに限定するものではなく、長期的な視点に立った、社会や科学技術を広く捉えた方向性を主としたものである。ニーズとしてどのようなものを重視すべきかということについては、後述する。 
      このように、情報科学技術は実際に社会で活用されることが重要であることから、研究開発を進めるに当たっては、単に科学技術として高度なものを取り上げるだけでは十分でなく、技術標準、市場動向等も広く視野に入れて、実際に使われる情報科学技術を生み出すことを目指すという視点が必要である。 
      また、情報科学技術は、ソフトウェアに見られるように、基礎的な研究の成果が直ちに実利用に結びつく傾向があるので、基礎的な研究から利用に至る取組みが相互に密接に連携できる環境が必要である。 
      さらに、情報科学技術においては、ソフトウェアに見られるように、一人又は少数の専門家により、革新的な成果が生み出されることが少なくないので、競争的資金の活用や柔軟な研究管理により、そのような可能性を有する個人やグループに、必要な研究資源や研究環境が提供される仕組みが必要である。 
    情報科学技術の研究開発においては、急速な技術革新や社会のニーズの多様化に柔軟に対応していくことが重要であり、自由な競争の中で民間の能力が十分発揮されることが期待される。特に、社会の具体的なニーズに即した応用的な研究及び開発については、民間が主要な役割を果たすことが期待される。 
      国の役割は、国全体として重要であるが民間に委ねることにより十分に行われることが期待できない情報科学技術の研究開発を推進することと、人材育成、産学官の連携、ベンチャー・ビジネスの育成等、研究開発のための環境整備を行うことである。特に、ベンチャー・ビジネスの育成については、情報科学技術の分野における民間の活動を活性化するために重要であり、既に、種々の施策が講じられつつあるが、それらを実効あるものとするための一層の取組みが必要である。 

    (1)基礎的・基盤的な情報科学技術の強化 

      我が国が情報科学技術における世界のフロントランナーとなるためには、革新的なシーズを自ら生み出す能力を涵養することが不可欠であり、そのためには、長期的観点に立った、基礎的な情報科学技術の強化が必要である。基礎的な情報科学技術としては、新しい機能や格段に高い機能を有する素子等の画期的なハードウェアの探求、新しい概念や手法によりこれまでにない機能を実現する画期的なソフトウェアの探求、認知・学習・言語等の人の知的機能や脳・ゲノム等の生命の情報機能の解明とその知見を活用した画期的な情報処理手法の探求といった、情報科学技術の新たな展開を切り開く可能性を有するものに取り組むことが重要である。 
      また、情報科学技術は社会全体の基盤として、社会のあらゆる活動のための手段を提供するものであることから、様々な分野で共通的に利用される基盤的な情報科学技術の強化が必要である。基盤的な情報科学技術としては、高度化する多様な用途を可能にするネットワークを構築・運用するための科学技術、言語や音声・画像を含む幅広い情報に高度で多様な処理を行うための科学技術、情報システムをより使いやすくするための人と情報システムのインタフェースに関する科学技術、研究開発等の幅広い分野の重要な課題を解決するための計算科学技術、安心して情報システムを使えるようセキュリティを確保するための科学技術といった、社会の情報化を支える柱となるものが重要である。 
      情報科学技術の研究開発において我が国の民間の活動は活発であるが、基礎的・基盤的な情報科学技術については、市場原理を基本とする民間のみに期待することはできず、国の積極的な取組みが必要である。 
      基礎的・基盤的な情報科学技術の研究開発は、その成果が円滑に社会の利用に結びつくことが必要であり、そのため、自らニーズを有する利用機関や、研究成果を利用へと展開していく民間と連携しつつ進めることが必要である。 

    (2)社会のニーズに対応するための情報科学技術の推進 

      情報科学技術を社会の知的・創造的基盤として実際に社会のために活用するためには、社会のニーズに対応するための情報科学技術の推進が必要である。 
      上述の基礎的・基盤的な情報科学技術の強化と社会のニーズに対応するための情報科学技術の推進は、密接に関連している。すなわち、基礎的・基盤的な情報科学技術の研究開発の優れた成果が活用されることが、社会のニーズに十分対応するために必要であり、同時に、社会の重要なニーズに対応するために高い目標を掲げた研究開発を行うことを通して、基礎的・基盤的な情報科学技術も高度化される。 
      社会のニーズへの対応については、情報科学技術により社会の諸分野における重要課題を解決することと、その前提条件として、情報科学技術が使いこなされる高度情報通信社会の環境を整備することの2つに分けて考えることが適当である。以下の社会のニーズは国全体として重要と考えられるものであり、国の情報科学技術の取組みにおいて、それらのニーズへの対応に重点を置くことが必要である。なお、以下、個々のニーズについて、より具体的な内容及び主な研究開発課題の例を挙げているが、それらは、各ニーズについての理解を容易にするために主要なものを例示したものである。 

    1)社会の重要課題を解決するための情報科学技術の推進 

      (a) 創造的な科学技術の創出 

      科学技術創造立国の実現に向け、情報科学技術を活用して、より高度な研究開発手法を実現し、より生産的な研究環境を整備することにより、我が国の研究開発を強化していくことが必要である。その際、研究開発の分野で生まれたネットワークがインターネットに発展したことに見られるように、研究開発のための先端的な取組みの成果が研究開発以外の諸分野に幅広く波及することの重要性について留意することが必要である。 
      具体的には、まず、あらゆる分野の研究開発にとって科学技術情報は不可欠なものであり、ネットワーク時代に対応した、高度で利用しやすい科学技術情報流通を実現することが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、ネットワーク上に散在するデータベースを統合検索する技術、科学技術情報のマルチメディア化に対応するための画像検索技術・可視化技術、あいまい検索等知識処理、検索用類義語辞書(シソーラス)等がある。 
      また、分散した研究開発機関等がネットワークを介して共同して研究開発を行える環境の実現や、ライフサイエンス、地球環境等の科学技術の各分野への計算科学技術の活用等、情報科学技術の手法を積極的に活用して、研究環境を高度化していくことが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、ネットワーク上に分散した情報システムを構築・運用する技術、幅広い分野の重要課題を扱う計算科学技術等がある。 

      (b) 個人の能力の向上・発揮 

      21世紀に向けて、個人が能力を十分に向上し、発揮できる社会を構築することは、個人の自己実現のために必要であるとともに、少子・高齢化が進行する中で、我が国が活力ある社会を実現していくために必要である。 
      具体的なニーズを挙げれば、まず、学校、家庭、職場等において、場所、時間等の制約を超えて、良質の教育を受けることを実現することがある。そのための主要な研究開発課題の例として、学校教育においてコンピュータ等を活用して質の高い授業を行うためのアプリケーション、ネットワークを活用して地理的な制約を超えて教育を受けられるようにするための学習システム等がある。 
      また、高齢者、障害者等が身体的な制約を超えて能力を発揮し、活動範囲を広げられるように支援するシステムを実現することが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、音声認識等を活用したインタフェースにより情報システムを障害者等にも使いやすくする技術、身体の損なわれた機能を情報科学技術の手段により支援・代行する技術等がある。 

      (c) 質が高く安心できる国民生活の実現 

      社会の情報化が国民生活全体のために真に役立っていくためには、個々の国民が質の高い生活を実感しながら、日々安心して生活できる環境を実現することが必要である。 
      具体的なニーズとしては、まず、質の高い国民生活を実現するために、労働、行政サービス、余暇等の多様な場面において、国民にとって利便性が高く、個々の国民のニーズに応じた多様な情報サービスが提供されることがある。そのための主要な研究開発課題の例として、ネットワークを活用して自宅や職住接近のサテライトオフィス等で仕事をすることを可能とするためのテレワーク関連技術、情報システムの活用により行政事務を効率化するとともに国民に対する情報提供等のサービスを向上させるための行政情報システム等がある。 
      また、国民が安心できる社会を構築するには、全ての国民が質の高い医療を受けられるようにすること、地震等の災害に強い社会をつくること等が必要となる。そのための主要な研究開発課題の例として、ネットワークを活用して自宅、遠隔地等においても優れた診断等を受けられるようにするための遠隔医療システム、地理情報システムも活用した防災情報のデータベースや災害に強いネットワークを実現する防災情報通信システム等がある。 

      (d) 活力ある経済の実現 

      我が国が活力と国際競争力のある経済を維持していくためには、情報科学技術を活用して、第1次産業から第3次産業に至る既存の各産業の生産性を高めると同時に、新しい技術の実用化や異分野の融合により、新産業とそれによる雇用を創出していくことが必要である。その際、情報科学技術の研究開発とその成果の活用を担う情報通信関連産業が高い活力を有していることが重要である。 
      より具体的には、幅広い経済活動のための商取引、物流等に関するインフラあるいは環境を情報化することにより高度化していくことが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、電子認証、電子決済、電子マネー等を始めとする電子商取引を推進するための諸課題に関連する技術、情報科学技術を活用して道路と車両を一体のシステムとして構築し、渋滞、交通事故等の道路交通問題の解決、物流の効率化等を実現するための高度道路交通システム関連技術等がある。 

      (e) 経済社会の持続可能な発展 

      今後の経済社会の持続可能な発展を図るためには、顕在化しつつある地球規模の資源・環境の制約を踏まえて、現在の大量生産・大量消費文明からの転換のための取組みを具体化することが急務となっている。 
      具体的には、まず、物質資源依存型社会から情報資源依存型社会への転換のため、情報を積極的に活用することにより、製造、物流、個人消費等のあらゆる分野において、物質利用の高効率化、省資源化を進めるとともに、人・物の移動をネットワーク上のコミュニケーションにより部分的に代替したり、実験・試作等の研究開発のプロセスを計算により部分的に代替するなど、物質の利用を情報により代替していくことが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、遠隔地とのやりとりを要する用件をネットワークを利用して処理するための技術、研究開発等の幅広い課題を計算の手法で解決するための科学技術等がある。 
      また、そのような取組みを進める上で、地球環境問題についての理解を深めることが重要であるため、地球環境の観測や地球温暖化等の地球変動の予測を推進することが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、情報科学技術を活用して地球環境に関する観測、データの伝送等を高度化するための科学技術、計算科学技術の手法を用いて地球変動の予測を行うためのシミュレーション等がある。 

    2)高度情報通信社会の環境整備のための情報科学技術の推進 

      (a) 高度な情報インフラが広く利用できる環境 

      高度情報通信社会においては、高度な情報インフラが社会全体において広く利用できるようにならなければならない。 
      具体的には、コンピュータとネットワークを中心とする高度な情報インフラが、家庭や教育部門を始めとする公共部門を含め広く社会活動の全体を対象として、相互運用・相互接続性と一定の品質を確保しつつ、妥当な価格で、安定的に利用できるように整備されることが必要である。そのための主要な研究開発課題の例としては、インターネットを始めとする多様なネットワークを高速化、高機能化するとともに相互に円滑に接続し安定的に運用するための技術、計算機のシステムの違い等を意識せずに利用するためのシームレス・コンピューティング関連技術等がある。 

      (b) 全ての国民が情報インフラを使いこなせる環境 

      高度な情報インフラが実際に活用されるためには、国民が情報を使いこなす能力、即ち、情報リテラシーの向上が必要である。 
      具体的には、情報教育の機会が学校や社会で十分に提供されることが必要となる。そのための主要な研究開発課題の例として、初等中等教育等においてコンピュータやネットワークの利用を進めるためのアプリケーション、社会人を含めて幅広い人々が情報システムを活用した学習を体験できる電子図書館等がある。 
      また、同時に、情報インフラの側がより使いやすいものとなることが必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、コンピュータ等をより使いやすくするためのミドルウェアやインタフェースに関する技術、必要な情報を選択し、不要な情報を取り除くための技術等がある。 

      (c) 信頼できる情報インフラを安心して使える環境 

      情報インフラが社会全体を支えるものとして機能するためには、高い信頼性を有し、安心して使えるものであることが必要である。 
      具体的には、まず、情報インフラが、システム自身の故障・誤作動、地震等の災害等に対し、頑健で、信頼性が高いことが必要である。そのための主要な研究開発課題の例としては、高信頼性のシステムを構築するための技術、システムの信頼性を評価するための技術、障害発生時に瞬時に原因を特定しバックアップ等に切り替えるシステムの技術等がある。 
      また、情報インフラ上を流通する個人情報についてのプライバシーの保護や、情報に対する不正アクセス、コンピュータウィルス等に対するセキュリティの確保が必要である。そのための主要な研究開発課題の例として、暗号技術等のセキュリティ技術、それらの有効性等を評価するための技術等がある。 

    (3)情報科学技術の活用を進めるための取組み 

      情報科学技術の研究開発が社会に真に有用なものとなるためには、研究開発の計画策定の段階で、人文社会科学の観点から、当該研究開発の成果が社会に及ぼすであろう影響について検討・評価が行われ、適切な目標と内容を持つものとして研究開発計画が策定されることが必要である。人文社会科学がそのような役割を果たすためには、情報科学技術の社会的諸側面に関する倫理学、法学等の人文社会科学の観点からの研究を活発化し、知見を積み重ねていくことが重要である。 
      また、情報科学技術が社会で活用されるには、研究開発により優れた成果を生み出すだけでは十分でなく、それを受け入れる側の社会の制度的な条件を整えることが必要である。特に、情報科学技術の研究開発にインセンティブを与えると同時に、その成果の利用を促進する上で、著作権等の知的財産権の扱いは重要な問題である。既存の諸制度の中には、情報科学技術の発展と利用の現状にそぐわないものもあり、情報科学技術の活用を進めるためには、既存の規制の見直し等、制度面の取組みが重要である。 
      さらに、情報科学技術の活用を進める上での行政の役割としては、上述の制度面の取組みに加え、行政自らが情報科学技術を積極的に活用し、行政の情報化を進めることが重要であり、政府としては、行政情報化推進基本計画(平成9年12月改定)に基づき推進しているところである。同計画に基づいて行政の情報化をさらに進めることにより、行政サービスを向上し、国民の利便を高めるとともに、行政情報の提供の推進により国民に対する説明責任を果たしていくことに加え、情報通信需要の大口の利用者として、ニーズを高度化し、高度な情報科学技術の創出と活用を牽引することが期待される。さらに、社会全体が情報化され、ネットワーク化されていく上では、一部門の遅れが他部門に制約を与えることがあるので、行政の情報化が着実に進められることは、民間分門の情報化のためにも不可欠である。 


  2.  科学技術情報の流通の推進 
    「ネットワーク時代に対応した円滑な流通の実現」 

      科学技術情報が円滑に流通し、価値が生み出されるためには、利用者が、必要十分な情報を、必要な時に、必要な場所で、容易かつ速やかに、できる限り安い適正な価格で利用できる環境が必要である。その際、個々の機関による個別の取組みに加え、海外も含めた産学官の連携・協力が不可欠である。 
      また、国全体として必要であるが、民間に委ねることによって十分な取組みが期待できないものについては、国の資金を投入して実施するなど国の関与が必要である。特に、国としては、海外資料の収集を始めとする情報の網羅性の維持、基盤的データベースの整備、情報資源の信頼性を保った案内、科学技術情報の流通に関係する基礎的・基盤的な研究開発等を推進する必要がある。なお、その際、関係する市場形成が十分成熟するまでは、国が何らかの関与をしつつ、育成することが必要である。 
      さらに、国費を投じて科学技術情報の流通を推進するにあたっては、国民に対する説明責任を果たすため、国がより広く科学技術情報を公開することを念頭において施策を進めることが必要である。 
      当面の具体的な進め方についての考え方を以下に示す。 

    (1)世界に向けた科学技術情報の発信 

      研究成果等に関する科学技術情報については、学協会、研究者等の研究コミュニティが活発に発信できるよう支援する必要がある。特に、研究者がネットワークを介して、研究速報、会議の予稿、研究論文等多様な研究成果を電子的に発信することを支えるための環境を整備することが必要である。また、研究コミュニティが研究論文集等を電子的に編集、出版するための環境整備及びこのためのソフトウェア開発等の支援を強化することが重要である。 
      また、国内外の研究コミュニティと情報流通関係機関の間、あるいは情報流通関係機関相互の協力体制を強化するとともに、国内で発生する論文、研究報告等について、国際的な流通が円滑に行われるよう、総合的なデータベースとして整備し、英文化した上で海外に発信する必要がある。 
      さらに、研究開発機関等に蓄積されている研究データ等を、高品質な形で集積し、データベースとして整備、更新し、広く内外への公開を促進するための支援を充実することが必要である。 

    (2)情報資源の蓄積と流通環境の整備 

      科学技術情報の収集・蓄積・保存については、国立国会図書館を始め、情報流通関係機関等が連携を図りつつ、内外のより多くの科学技術情報の収集を図るとともに、情報の蓄積・保存に当たっては、電子化を図りつつ継続的な蓄積・保存を推進する必要がある。特に、一般には入手しにくい政府関係報告書、企業の技報等の流通促進のため、国立国会図書館の納本制度等を活用し、その収集を強力に推進する必要がある。 
      また、広く科学技術振興を図る上で重要な情報基盤である科学技術文献、記事等の情報については、信頼性の高い、網羅性のある、所在、抄録等の情報から成る総合データベースの構築の支援を強化する必要がある。特に、国内での利用を推進するためには、日本語による情報提供を図る必要がある。 
      一方、基盤的なファクトデータベースについては、我が国の研究開発の推進に寄与するものであるとともに、国際社会における我が国の役割を果たす上で重要なものと考えられる。特に、人類共通の地球的規模の問題の解決にも役立つような基盤的なファクトデータベースについて、整備のための支援を強化する必要がある。この際、その整備に係わる研究者等の業績に対する評価について配慮が必要である。 
      これらに加え、国費を投じた研究開発活動全般について、研究者、研究課題、研究資源等に関する総合的なディレクトリデータベースの整備を充実する必要がある。 
      ネットワーク時代の流通環境の整備については、まず、マルチメディアに対応した科学技術情報について、電子化、データベース整備とそれに対応するソフトウェア開発等への支援を強化し、電子図書館化を促進する必要がある。また、流通する科学技術情報が有用なものとなるためには、情報を表現する用語について、一定の共通的な理解があることが前提となるので、ネットワーク時代に即した類義語の整理等の継続的な取組みが重要である。さらに、広く分散する科学技術情報の流通を促進するため、個々の情報について発信時におけるフォーマットの標準化を促進するとともに、情報流通に関するソフトウェアの仕様の標準化を促進する必要がある。 
      また、ネットワークを介した円滑な情報流通のため、多様な利用者、複雑な利用形態に対応して、より簡便な著作権処理ができるよう、各種情報に関する権利情報の提供と集中的な権利処理体制の整備が望まれる。さらに、研究者等に加え一般の者も含めた、より多くの利用がなされるよう、柔軟な料金体系にも配慮する必要がある。 

    (3)科学技術情報の利用しやすい環境の整備 

      ネットワーク上に広く分散して存在するデータベース等の科学技術情報を、あたかも一つのデータベースのように、統合的、横断的に各データベース中の個別のデータまで自動的に検索できるシステムの構築を図るとともに、そのような環境を構築するのに必要な情報流通関係機関とデータベース提供機関の間の連携を促進することが必要である。 
      また、電子図書館の実現を念頭におき、一般の利用者にとっても、簡便で利用しやすい案内機能、検索機能等のユーザインタフェースに関する環境を整備する必要がある。その際、国内での利用に対応するため、海外の情報も含めて日本語での情報提供の環境を実現する必要がある。 



 第3章  情報科学技術の戦略的な推進のための共通的な方策 


  第2章において述べた考え方に沿って情報科学技術を戦略的に推進するに当たって、情報科学技術の各分野における研究開発や科学技術情報の流通について共通的に必要となる方策は以下のとおりである。 

  1.  専門的な人材の育成 

      科学技術一般について人材は重要であるが、特に、情報科学技術の分野では、ソフトウェアやコンテンツに代表されるように、独創的な個人に負うところが大きく、人材育成は重要な課題である。また、情報科学技術の活用があらゆる分野に広がりつつある現在、それを担う人材の確保が各分野共通の課題となっている。 
      育成すべき専門的な人材については、情報科学技術の研究開発を担う人材と情報科学技術の活用を担う人材に大別して考えることができる。後者の人材は、科学技術情報の流通に加え、情報科学技術が重要な役割を果たす様々な分野で必要とされている。これらの人材全体について、我が国は層が薄いという認識がある。 
      このため、人材育成のための取組みを早急に強化することが必要であり、特に、大学における教育の質的かつ量的な充実が重要な課題である。 

    (1)情報科学技術の研究開発を担う人材 

      情報科学技術の研究開発を担う人材の育成については、まず、その供給を拡大するため、大学における情報科学技術分野の学生数を増やすことが課題である。特に、高い専門能力を有する人材の確保の観点から、大学院の拡充は緊急の課題である。また、進歩の速い情報科学技術について、より充実した内容の教育を行うために、ソフトウェア工学等の最近重要性を増している分野のカリキュラムの充実、産業界から大学への人材の流動による産業界の動向を反映した教育の充実等の取組みが重要になっている。 
      情報科学技術の研究開発には、大学等における教育の充実とともに、実際に研究開発を行うことを通しての資質向上が重要である。そのためには、研究開発機関やプロジェクトにおいて若手研究者等が主体的に活躍できる場を充実したり、機関間、分野間の流動、交流を促進することが重要である。社会の基盤として有用な情報科学技術の成果を挙げられる研究者等を育成するためには、研究論文だけでなくソフトウェア等の成果物により評価することが重要である。また、社会の具体的なニーズに対応して実際にものを作ることを通して、独創的な成果を生み出していくような、活力ある人材の輩出が望まれており、ベンチャー・ビジネスの育成等、そのような環境を醸成するための取組みが重要である。 

    (2)情報科学技術の活用を担う人材 

      情報科学技術の活用は既に幅広い分野において不可欠になっていることから、情報科学技術以外の分野を専門とする学生についても、それぞれの分野において必要となる情報科学技術の知識を習得させることが必要である。特に、研究者等となる者については、情報発信と情報利用を円滑に行えるよう、科学技術情報の利用に関する教育を充実することが必要である。また、大学において全ての学生を対象として情報に関する教育を行えるよう、施設の整備等を進める必要がある。 
      また、各分野における情報科学技術の活用の高度化に対処するためには、当該分野における情報科学技術の利用者一般の能力向上だけでは十分でなく、情報科学技術の専門的な能力を有する人材が利用の現場に入っていって、その能力を発揮することが必要である。 
      まず、科学技術情報の流通と、それと密接に関連する研究開発機関等の情報化のための人材の問題について考える必要がある。我が国の情報科学技術の研究開発や利用を行う機関においては、情報化を担う人材の不足が顕著である。例えば、高度な情報化を進めるために必要なデータベース開発、ソフトウェア開発等についての高度な能力を有した技術者等が不足している。また、研究者が情報システムの管理を担当するといった現状があり、そのような支援業務を行う人材の不足が顕著である。情報化を担う人材を育成し、確保するためには、組織内で十分な処遇を行うことを含めた組織的な対応が必要である。情報流通関係機関においても、情報流通の専門家を各機関独自に育成、確保することが困難な場合があり、機関間で人材交流を行うことにより人材の能力を向上することが望まれる。 
      さらに、情報科学技術の専門的な能力を有する人材は、ますます多くの分野で必要とされている。言うまでもなく、高い成長が期待される情報通信関連産業においては、情報関連の製品の製造、サービスの提供等を担う専門的人材の需要には大きなものがある。さらに、情報通信関連産業以外でも、金融を始めとするあらゆる分野で情報科学技術の専門的な能力が必要になっている。 

  2.  実施体制の強化 

    (1)情報科学技術の研究開発体制 

      情報科学技術の研究開発体制の強化には、情報科学技術の高度化と様々な分野のニーズへの情報科学技術の活用という2つの視点があり、この2つの視点に立った取組みは、高度な情報科学技術を活用することによって重要なニーズが達成され、重要なニーズに取り組むことを通して情報科学技術の高度化が図られるという、相互に密接な関係にあり、一体的に進めることが必要である。 
      基礎的・基盤的な情報科学技術の研究開発において国が主要な役割を果たせるよう、国の情報科学技術の研究開発体制を強化するための方法としては、個々の研究開発組織(研究開発機関またはその内部部門)を整備・充実するとともに、同時に、各組織と国及び国以外の研究開発機関等との連携を強化することが必要である。 
      個々の組織の整備・充実については、情報科学技術及びそれを活用する幅広い分野の多数の研究開発機関において情報科学技術の研究部門及び支援部門を着実に整備・充実することが必要である。その際、小規模な組織が多数育成されるのみでは不十分であり、ある程度の規模を有し、組織間の連携において主要な役割を果たせる組織の育成が重要である。 
      特に、大学においては、情報分野の学術研究及び人材育成の強化等のため、各大学の情報関係の学科・専攻等を拡充するとともに、大学共同利用機関として情報分野の中核的な研究機関を設置することが適当である。その機関は、大学間の連携に留まらず、大学以外の機関とも密に連携するものとして体制整備を進めることが必要である。 

    (2)科学技術情報の流通体制 

      近年、ネットワークを介した科学技術情報の流通が主流になりつつある中で、ネットワークの活用を前提とした、立法、行政、大学、民間企業等の枠を越えた、情報の流通に係わる新たな形の協力が必要となっている。既に、一部の情報流通関係機関、図書館等において協力しているが、さらに強化する必要がある。 
      そのためには、産学官の関係機関が、機動的かつ効果的な連携協力を行えるような連絡調整の場を課題別に設け、産学官各々の機関のイニシアティブを相互に尊重する形で継続的に課題の解決を図ることが必要である。なお、具体的な構成としては、国立国会図書館、科学技術振興事業団、学術情報センター、日本特許情報機構、学協会のほか、情報流通サービスに係わる民間企業、団体等が挙げられる。その連絡調整の場で扱う課題としては、例えば、ネットワーク上に分散するデータベースの総合案内や総合検索の実現、文献・記事等全文の情報の蓄積・保存のための継続的な収集等が挙げられる。 
      また、主な研究開発機関等において、情報流通を始めとする情報化を進めるため、欧米諸国で一般的になっているCIO(Chief Information Officer:情報統括担当役員)等を置くなど、情報化の中核的機能を置くことが望ましい。 

  3.  研究開発基盤の整備 

    (1)研究情報ネットワーク 

      異なる組織や分野の間の連携により情報科学技術の研究開発を活発に進めていく上で、省際研究情報ネットワーク、学術情報ネットワーク等の研究情報ネットワークは不可欠な役割を果たしており、また、研究情報ネットワークにおける先端的な取組みは高度なネットワーク需要を牽引することが期待されるものであるので、産学官連携を円滑に促進することに留意しつつ、研究情報ネットワークの高速大容量化、研究情報ネットワーク相互及び内外の各ネットワークとの接続の推進等、その一層の充実を図ることが必要である。また、これらの研究情報ネットワークが、情報流通の基盤として、科学技術情報のマルチメディア化や情報流通量の著しい増大に対応するためには、基幹回線について、利用状況及びニーズに迅速に対応しつつ、より高速化、広域化を図るとともに、日米間など国際回線を高速化することが必要である。 
      また、ネットワークの高速大容量化のためのハードウェア、運用技術等、ネットワークの高度化のために必要な技術の研究開発と、高速なネットワークを活用するアプリケーションの研究開発には、高速大容量のテストベッドが必要である。そのため、省際研究情報ネットワーク、学術情報ネットワーク等の既存の研究情報ネットワークとともに、新たに整備される研究開発用ギガビットネットワークが、上述のような幅広い研究開発に活用できるよう運用されることが重要である。 

    (2)高速計算機 

      計算科学技術の手法は、研究開発の共通的手法として、今後、一層重要となると考えられる。その研究手段である高速計算機については、テラフロップスからペタフロップスへの更なる高速化を目指し、ハードウェア、基本ソフトウェア、応用ソフトウェア等の研究を行うことが重要である。また、ネットワークを介した分散環境に適したシステムの研究等、計算科学技術を、幅広い分野において、多様な環境の下で活用できるようにするための取組みが重要である。 

    (3)データベース 

      データベースは、情報科学技術を含め、あらゆる分野の研究開発に不可欠のものであるので、幅広い利用に供することに留意しつつ、その整備を推進する必要がある。 
      特に、ファクトデータベースは、研究開発の基盤としての重要性を増しつつあり、その整備を強化するとともに、継続的な取組みを行うことが重要である。例えば、ライフサイエンスの分野において、近年、急速に発展しているゲノム科学及び脳科学については、実験等によって得られたファクトデータを整理し、それを解析することが、主要な課題の一つになっている。 
      また、高度な利用ニーズに応えるため、高次に構造化され、個別のデータに比べてより多くの情報を引き出せる基盤的なデータベースの整備に関する研究開発を強化する必要がある。例えば、ゲノム科学の分野においては、DNA情報、タンパク質情報、個体情報等のデータベースを整備していくとともに、それら相互に関連したデータを統合したデータベースに関する研究開発を強化する必要がある。 
      さらに、情報科学技術の分野においても、例えば、自然言語処理のための音声・言語等の大量の文例のデータベースのように、ファクトデータベースの整備の強化と継続的な取組みが重要である。 

  4.  国際的展開 

      国境を越えたネットワークの発達等による情報科学技術における国際的な交流・協力の拡大と同時に、各国の情報科学技術への取組みの強化に伴う国際競争の活発化が進展する中、我が国として情報科学技術を推進するに当たっては、戦略的な取組みにより国際的な競争力を確保した上で、積極的に国際協力、国際貢献を行うという視点が重要である。例えば、国際電気通信連合(ITU)、国際標準化機構(ISO)等の国際的な標準化機関における標準化活動への積極的な参画や我が国発のデファクト・スタンダード実現への取組みは、国際競争と国際協力という視点から重要な課題である。 
      科学技術情報の流通に係わる国際協力については、従来、我が国は先進国から活発に情報を入手することが中心であったが、今後は、先進国との間では受信と発信がつりあうよう相互交流を行い、発展途上国に対してはこちらから積極的に提供していくという考え方に立って、前述したように、世界に向けた科学技術情報の発信を強化していく必要がある。 
      また、前述したように、情報科学技術の研究開発においては、優れた人材の確保が基本であるので、研究開発活動の国際的展開が進む中、我が国としては、広く世界に人材を求め、我が国の研究開発を強化・活性化するという考え方が重要である。そのため、有能な人材を引きつけうる優れた研究環境の整備と開かれた研究開発体制の構築が必要である。それと同時に、我が国が国際社会に貢献していくためには、国際的な場で活躍できる人材を我が国から輩出できるよう、そのような人材の育成に努めることが重要である。 
      さらに、情報科学技術の国際協力の基盤としては、研究情報ネットワークの国際的な整備・接続を進めるとともに、それをテストベッドとして活用し、国際協力によるアプリケーションの開発・実証を行うことが重要である。 

  5.  国の投資 

      我が国として、今後、社会の知的・創造的基盤として情報科学技術を戦略的に推進し、国際的な競争の中、情報科学技術における世界のフロントランナーとなるためには、第2章に述べた戦略的な推進の考え方及び上述した共通的な方策に沿って、所要の施策を強力に実施していく必要がある。そのためには、国として、所要の投資を行っていくことが必要である。 



 第4章  情報科学技術の戦略的な推進のための先導的取組み 


  「ネットワーク時代の研究システムの構築」 

  第2章及び第3章において述べた情報科学技術の戦略的な推進の考え方及び共通的な方策に沿って、各界、各機関により精力的な幅広い取組みが行われ、我が国全体として情報科学技術への取組みが変革され、強化されていくことが期待される。他方、情報科学技術に対する取組みの強化の重要性に鑑みれば、各界、各機関の自主的な取組みを待つのみでは十分ではなく、情報科学技術への取組みの変革・強化を加速するための先導的な取組みに産学官連携により着手する必要がある。 

  1.  先導プログラムの創設 

      先導プログラムは、情報科学技術の特徴に即した、ネットワーク時代に相応しい研究システムの実現に向けて、前述した戦略的な推進の考え方及び共通的な方策を具体化するための革新的な試みを積極的に実施する、いわば、情報科学技術の研究開発を革新するための実験場と位置づけることが適当である。 
      このプログラムの目指すべき研究システムの方向は、異なる組織や分野の間で、特に情報科学技術の研究開発と利用の間で個人と個人が結びつきを強めながら、個人の能力が最大限に発揮される、人本位のネットワーク型のシステムであり、そのためには、優れた人材を確保し、その能力が発揮される環境を整備すること、情報科学技術の研究者と利用者が一体的に取り組むこと、異なる組織の間で連携を強めた研究体制をネットワークにより実現することが重要な要素になる。 
      このプログラムを通して得られる経験は、産学官の関係機関で共有することにより、情報科学技術への取組みの変革・強化のために広く活用していくことが重要である。また、その経験は、情報科学技術以外の科学技術の分野における研究開発を改善していく上でも有用なものになると期待される。 
      先導プログラムの基本的な枠組みは、社会のニーズを明確に指向して基礎的・基盤的な情報科学技術の重点領域を設定し、重点領域毎に研究プロジェクトを設定し、各プロジェクトについて、利用と研究が融合した人本位の研究チームを設置し、それを中心としてネットワークにより異なる組織の間で連携を強めた研究体制によりプロジェクトを実施するものとすることが適当である。 

  2.  先導プログラムの進め方 

      本プログラムは、基礎的・基盤的な情報科学技術の研究の戦略と計画の策定、研究体制の構築と研究の実施、成果の活用の三段階のプロセスに大別して考えることができる。それぞれの段階のプロセスについて重視すべき点及び本プログラムの推進に当たって留意すべき点は以下の通りである。 

    (1)社会のニーズを指向して、基礎・基盤の研究を重点化するプロセス 

      基礎的・基盤的な情報科学技術の研究の戦略と計画の策定の段階については、社会のニーズを指向して、基礎的・基盤的な情報科学技術の研究を重点化するプロセス、即ち、重点領域を設定し、その領域毎に研究プロジェクトを設定するプロセスを設けることが課題である。 
      重点領域の設定については、まず、社会のニーズの側から、基礎的・基盤的な情報科学技術の研究開発によるブレーク・スルーを必要とする、重要なニーズを汲み上げることが必要である。具体的には、利用者や利用機関からの提言を募る、情報科学技術の研究者が調査を行うといった方法が考えられる。利用者や利用機関からニーズに関する有用な提言が出されるためには、利用者や利用機関自身に情報科学技術の活用についての知見が必要である。そのためには、上述したように、利用機関において、情報科学技術を活用する専門的な能力のある人材を確保し、情報科学技術の活用を組織的に進める体制を構築することが重要となる。他方、情報科学技術の研究者の側も、利用の現場に飛び込んでいき、各分野の潜在的なニーズを把握するとともに、情報科学技術のもたらす可能性について利用者に伝えていくことが必要である。そのような研究者と利用者の相互の触発を促進することが必要である。 
      利用分野からのニーズを十分に汲み上げた後、それらからの基礎的・基盤的な情報科学技術に対する要請について、優れた研究成果、即ち、先端的で波及性の大きい研究成果が得られるかどうかという観点から評価を行い、重点的に取り組むべき研究領域を設定することが必要である。その評価においては、産学官から専門家の参加を得て、研究と利用に亘る広い視点から行うことが重要である。 
      重点領域の設定に続き、領域毎に研究プロジェクトを設定するに当たっては、優れた人材の発想と判断を活かして、有効なプロジェクトを設定することが重要である。具体的には、優れた個人に大きな裁量を与えて、プロジェクトを設計させる、あるいは、競争原理により、優れた提案を選定するといった手法を採用することが考えられる。 
      その際、当該プロジェクトにおいて、社会のニーズに対応するために、どのような具体的成果を実現するのかという点について、明確な目標設定をする必要がある。また、計画策定プロセスにおいて、計画の目標と内容の妥当性に対する人文社会科学の視点が反映されるようにすることが必要である。 

    (2)研究と利用が融合した、人本位のネットワーク型研究体制 

      研究体制については、情報科学技術のうちの多様な分野の専門的な能力と情報科学技術を活用する専門的な能力が相互に触発し、融合する体制とすることが必要である。そのような融合を実現するためには、いかに情報科学技術の研究者と利用者を結びつけるかが重要であり、物理的に結集する方法とネットワークにより結ぶ方法を適切に活用する必要がある。具体的な研究体制としては、少数の有能な人材が優れた研究環境の整った場所に集まって集中的にプロジェクトに取り組むための研究チームと、そのチーム以外の物理的に離れている有能な人材をもネットワークにより結んだ研究体制の二重の仕組みを考えることが適当である。まず、中心となる研究チームには、研究者と利用者が参加して、一体的に取り組むことが必要である。また、高度なネットワークによって研究開発機関と利用機関の両方を含む産学官の参加機関を結び、必要に応じ海外の機関とも連携させ、異なる組織の間で結びつきを強めて一つの研究所のように研究を行える研究体制を構築することが必要である。ネットワークを介した研究は、一部の研究分野では既に行われつつあるが、本プロジェクトは情報科学技術の専門家が行うものであり、ネットワークを研究の基盤として使いこなした上で、高度な情報科学技術を適用して、これまでにない進んだネットワーク環境の実現を図っていくことが重要である。そのように取り組むことにより、本プログラムを通して、研究情報ネットワーク等の研究開発基盤の高度化を進め、ひいては、社会の情報化を牽引するという認識が重要である。 
      研究の実施については、まず、研究に携わる研究者や研究責任者の専門的な知見や発想を活かして柔軟に研究を進めるとともに、事務的な負担を過度にかけないため、最大限の裁量を与えることが重要である。 
      人材の面では、研究プロジェクトにおいて、優秀な人材が能力を発揮して成果を挙げることと、若手の研究者等が存分に研究を行い、能力を向上させることが必要である。そのため、まず、中心となる研究チームについて、世界的な水準の研究者等が集まって来るような処遇と研究環境を実現するよう、思い切った措置を講ずることが重要である。また、若手の研究者等が、適切な処遇を得て、雑務から解放されて、研究に専念できる環境を作ることが重要である。 

    (3)本プログラムの成果の幅広い活用を促進するプロセス 

      本プログラムから期待される成果としては、各研究プロジェクトの研究成果とプログラムの実施を通して得られる経験がある。研究プロジェクトは、上述のように、計画の策定から研究の実施を通して、利用機関からの参加を得て、ニーズと密接に関連付けながら進めることに加え、研究により得られた成果を、積極的に幅広い利用につなげていく必要がある。その際、新しい情報科学技術を実用に供する上で、既存の規制等の諸制度が制約になることがあるので、制度面を担当する関係機関に対して問題提起したり、関係機関の参加を得て対応方策を検討することが重要である。 
      研究プロジェクトの評価については、プロジェクト設定のプロセスとしての事前評価に加え、中間及び事後の評価を行う必要があるが、特に、本プログラムにおいて新規に採用した研究開発の手法等について十分に評価し、その結果を公開し、得られた経験を広く産学官で活用し、情報科学技術への取組みの強化に資することが重要である。 

    (4)本プログラムの推進体制の整備 

      以上述べた考え方により本プログラムを実施するに当たっては、情報科学技術を巡る情勢の変化を踏まえつつ、情報科学技術の戦略的な推進を図るという広い視点から本プログラムを進められるよう、科学技術会議が適切に関与して、具体的な仕組みの検討を含めた推進体制の整備を行い、情勢の変化に対応した柔軟な運用を図ることにより、本プログラムが所期の成果を挙げ、我が国の情報科学技術への取組みの変革・強化を先導していくことが期待される。 

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