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 §2 基本計画の実施概要及び評価 


 (1)関係省庁の取組みの概要 

  関係省庁においては、基本計画を踏まえ、それぞれの行政目的に関連した指針等を定めて地球科学技術に関する研究開発を進めてきている。 

  研究開発の推進体制については、国の試験研究機関、大学等において地球環境研究等に対応するための組織新設等の体制強化が図られている他、関係省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等に係る研究開発や地球環境の保全・改善に係わる研究開発等を実施するとともに、科学技術庁の科学技術振興調整費(以下、調整費)や海洋開発及地球科学技術調査研究促進費(以下、促進費)、環境庁の地球環境研究総合推進費(以下、推進費)等により、国の試験研究機関等、さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し、国際的な研究開発を積極的に実施してきている。  

  また、産学官の特色を踏まえた地球科学技術の研究開発の積極的な推進にあたっては、科学技術庁の戦略的基礎研究事業等の公募型研究制度、流動研究員制度の導入による地球フロンティア研究システム、建設省の総合技術開発プロジェクト、通商産業省のニューサンシャイン計画等、関係省庁において行政目的に応じた取組みが実施されている。  

  地球科学技術に関する研究開発については、これまで関係省庁、国の試験研究機関、大学等においてそれぞれ着実に実施されてきており、個別的にはその成果が評価できると言えるが、関係機関が相互に連携・協力して一体となって課題に取組むという点では必ずしも十分とは言えない面がある。今後、関係機関の連携・協力による、より一層効率的な研究開発の推進が望まれる。  

 (2)基本計画全般の進捗及び評価 

  基本計画が策定された1990年(平成2年)以降には、地球科学技術に係わる多くの研究分野において、それぞれの研究目標の達成に向けて組織、体制が整備され、各研究が本格化してきた。  

  関係予算も着実に増加しており、関係省庁における地球科学技術関係予算(原子力の開発利用を除く)は、平成2年度1,066億円、平成6年度1,488億円、平成10年度1,951億円と、平成10年度には平成2年度の約1.8倍になっている。  

  なお、基本計画が示す取組むべき重要研究開発課題の個別の進捗については、大きく進展したものもある一方、必ずしも適切な進展が見られなかったものもあるが、この節では、特に顕著な研究開発の成果が得られた部分に言及しつつ、全般的な評価を記述する。  

  また、基本計画の実施状況に関する具体的内容は本文の最後に別記とする。 

1)地球規模の諸現象に関する研究開発(科学的知見の増大、予測・予知)
  基本計画においては、地球を一つのシステムとして捉え、地球の歴史的変化の研究、気圏・水圏・地圏・生物圏・人間活動圏ごとの研究、さらに各圏域間の相互作用についての研究を行い、それら科学的知見に基づく予測・予知の研究の必要性を指摘した。  
  地球の歴史的変化の研究では、地質学的手法による地球環境変動の復元研究が行われ、古気候研究分野について多くの知見が得られた。 
  気圏・水圏・地圏の相互作用に関する研究では、コンピュータ・シミュレーションによる全球的な気候モデル研究と過去の気候変動のデータ等によるモデルの検証が進み、エルニーニョ等の中長期の気候変動予測が試みられるまでに進歩した。海洋大循環モデル等の分野でも観測技術等の進歩により研究が進み、10年規模の気候変動と地球温暖化との関係の研究について、雲やエアロゾルの影響評価など解決すべき課題はあるものの、1990年当初から順調に進展した。  
  中長期のエルニーニョ予測研究や地球温暖化予測研究等は実社会への貢献という観点から、着実に成果を挙げてきた。地球温暖化分野については、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)等に対して、地球温暖化予測モデル等の科学的知見を提供し、一部では高い評価を受けている部分もあるが、我が国からの参加者数が少ない等、全体的な貢献は十分とは言えない。今後、国際協力や社会・政策的取組みの観点からも、この分野への一層積極的な取組みが望まれる。  
  生物圏と他の圏域の相互作用に関する研究では、熱帯林変動とその影響、生態系での物質循環、気候変化の生態系への影響等に関する調査研究等が行われており、陸上、海洋、沿岸域、河川域についてそれぞれ研究が進められている。一方、炭素循環等に関する研究等では、陸域、生物圏での研究が相対的に不十分であり、地球を一つのシステムとして捉えた統合的な観点からの研究の推進が望まれる。  
  地圏に関する研究については、主に地震や火山の現象解明や地球の全ダイナミクス構造の研究等について着実に進められており、地球内部の構造については、地震波の伝播(トモグラフィー)の解析により、地球内部と地表活動の関係が理解できるようになるなど順調に進展している。地球内部の対流などの全地球的ダイナミクスに関するモデリングについては知見の集積により大きな進展を見たが、地殻内部での現象を十分再現できる数値シミュレーションモデルの開発等が今後の重要課題となっている。  
  地球規模での水循環に関する研究では、アジア地域におけるデータセット作成の研究が遅れている等、地球規模のモデルの妥当性評価や信頼性の向上を図る上で、現地での観測データに空白域があるといった問題も顕在化してきている。  
  人間活動圏に関する研究については、推進費等で土地利用・被覆変化、産業社会転換等が研究されているが、今後地球環境保全の主体となるべき分野であるにもかかわらず、十分な研究体制確立と資源投下がなされている状況にはない。  

2)持続的発展のための科学技術
  基本計画では、人間社会の持続的発展のため、環境に適応した生活文化の研究、資源調査及び資源変動に関する研究、自然エネルギー有効利用の評価手法の開発、環境影響評価手法開発の必要性を指摘した。  
  持続的発展のための科学技術については、環境庁の推進費においては平成7年に「人間社会的側面からみた地球環境問題」分野が設定され、持続的な国際社会に向けた環境経済統合分析手法の開発に関する研究等が行われている。また、自然エネルギーの利用の推進では、太陽エネルギー、地熱エネルギー、風力エネルギー、波力エネルギー等の有効利用に関する研究開発等が行われている。  
  一方、この分野の研究開発は、関係省庁においてそれぞれの行政目的に応じて個別的に進められいる部分が多く、科学技術の展開にあたって人文・社会科学の側面から統合的な検討を加えるという点については十分には行われていない。  
  地球科学技術の推進においては、地球環境問題への対応を踏まえた、科学技術のあり方、社会システムのあり方について、総合的な認識を深めることが極めて重要となってきている。  

3)地球環境を保全・改善するための科学技術
  基本計画では、地球環境を保全・改善するための科学技術として、温暖化対策技術、砂漠化対策技術、熱帯林減少対策技術、酸性雨対策技術、オゾン層破壊対策技術、海洋汚染対策技術、環境調和型技術への取組みの必要性を指摘した。  
  この分野は、多様な科学技術の分野が関わっており、関係省庁においてそれぞれの行政目的に応じた研究開発が進められてきた。具体的な進捗については分野毎に異なるものの、全体的に見れば着実に進展してきている。  
  一方で、温暖化対策技術に係わる省エネルギー、リサイクル技術等多くの環境技術開発は、民間で促進されたものが実際に有効であったことから、研究開発の進展に伴い、実用化あるいはそれに近い段階に至った技術については、その成果の民間への円滑な移転を図り、政策的な導入・普及を促進することが重要となってきている。  
  また、巨大技術開発の成果については、費用対効果について厳正な評価を行うとともに、例えば、技術の導入に伴うライフサイクル・アセスメント(LCA)など、対策の効果を総合的に評価する手法について検討を進めることが重要となってきている。  

4)共通・基盤技術
  基本計画では、共通・基盤技術として、人工衛星、航空機、船舶等による観測技術及び情報処理技術やネットワーク技術等についての研究開発の必要性を指摘した。  
  1990年代には地球観測衛星や海洋観測船をはじめとした大規模な地球観測システム等の技術開発やGPS連続観測網の展開等が積極的かつ着実に推進されてきており、地球規模の観測体制の整備が急速に進んだ。  
  一方、地球科学技術分野の観測データについては、その情報量が膨大になってきており、社会的・政策的ニーズに適切に対応していくためには、世界規模のデータ流通を図っていくための国際的なネットワークの確立に係わる一層効果的な取組みが重要となってきている。  

5)国際活動の推進
  基本計画では、研究開発の推進方策の一つとして、我が国の国際的な地位に応じた役割を果たすため、積極的な国際活動推進の必要性を指摘した。 
  我が国はこれまで、地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)、気候変動国際協同研究計画(WCRP)等の国際機関等の提唱による共同研究への参加や、米国、フランス、ドイツ、カナダ等との間の科学技術協力協定等の下での二国間協力による活動、アジア太平洋地域での地球環境研究事業の支援、開発途上国との研究交流・協力に関する取組み等を積極的に推進してきている。  
  地球科学技術に関連する研究分野の進展に伴い、今後ますます、計画的・長期的に行われるグローバルな観測研究の必要性が増大している。このため、観測網の展開等には、各国の協力が不可欠であり、国際的な組織による国際共同研究が一層重要になっている。このような観点から、関係省庁、大学等が連携協力を図りつつ適切な分担を踏まえ、より一層の積極的な取組みが必要となってきている。  
  なお、環境分野の政府開発援助(ODA)に関しては、当初の目標を上回る協力実績(予算等)となっているが、地球環境に関する調査研究との繋がりが不十分と考えられ、途上国の研究能力構築や我が国との共同研究促進への寄与が必ずしも十分ではない。  

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