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第9回科学技術会議生命倫理委員会議事録
   
1.日時    平成12年4月19日(水)    14:01〜16:14 

2.場所    科学技術庁第7会議室(通商産業省別館9階) 

3.出席者 

    (委  員) 井村委員長、石塚委員、位田委員、岡田委員、島薗委員、曾野委員、 
                 森岡委員、町野委員、藤澤委員、永井委員、高久委員 
    (説明者)日本産科婦人科学会  藤本課会長、山田幹事     
    (事務局)池田研究開発局長、小中審議官、崎谷審議官、小田ライフサイエンス課長、ほか 

4.課題 

    (1)ヒトゲノム研究小委員会「ヒトゲノム研究に関する基本原則(案)」について 
    (2)日本産科婦人科学会会告の実施状況について 
    (3)その他 

5.配付資料 

    資料9−1  ヒトゲノム研究小委員会の検討経緯 
    資料9−2  ヒトゲノム研究に関する基本原則(案) 
    資料9−3  ヒトゲノムと遺伝子 
    資料9−4  「遺伝子解析研究に付随する倫理問題に対するための指針」の概要 
                    (厚生省) 
    資料9−5  遺伝子解析研究に係る倫理問題について(意見のまとめ・案)
                    (学術審議会  バイオサイエンス部会) 
    資料9−6  日本産科婦人科学会のヒト胚および胎児組織の使用への対応 
    資料9−7  ヒトに関するクローン技術の規則等に関する法律案要綱等 
    資料9−8  第7回科学技術会議生命倫理委員会議事録(案) 
    資料9−9  第8回科学技術会議生命倫理委員会議事録(案) 
   
6.議事 

(井村委員長) 
  それでは、定刻になりましたので、ただいまから、第9回生命倫理委員会を開催いたします。本日は、お忙しいところをご出席をいただきまして、大変ありがとうございました。  
  本日は、まず最初に、ヒトゲノム研究小委員会のまとめた基本原則(案)でございますが、それにつきましてご議論をいただきたいと思います。続きまして、前回の生命倫理委員会で、今後、ヒト胚全般につきまして議論をしていくということを決定しておりますので、本日は、その議論の参考にするために、日本産婦人科学会倫理委員長の藤本先生にご出席をいただいておりますので、後に学会の会告等現状について、お話をいただく予定であります。藤本先生、北海道からおいでいただきました。どうも遠いところをありがとうございました。  
  それでは、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。 
(事務局) 
  それでは、第9回の、まず最初、1枚紙の議事次第がございますが、ちょっと資料が大部で申しわけありません。最初、資料9−1ヒトゲノム研究小委員会の検討経緯、資料9−2ヒトゲノム研究小委員会がまとめていただきましたヒトゲノム研究に関する基本原則の(案)でございます。資料9−3、これは、パブリックコメントに出しているものの、その参考として出したヒトゲノムと遺伝子というその参考の資料でございます。資料9−4「遺伝子解析研究に付随する倫理問題に対応するための指針」の概要ということで、厚生省のほうで2月4日付でパブリックコメントに出している中間報告書でございます。それから、9−5遺伝子解析研究に係る倫理問題について(意見のまとめ・案)でございます。これは、学術審議会のバイオサイエンス部会、井村部会長が取りまとめいただきました資料でございます。  
  資料9−6、これは枝番がついてございますが、藤本先生のほうからお持ちいただきました資料でございます。まず、最初の資料9−6−1が、日本産科婦人科学会のヒト胚および胎児組織の使用への対応、9−6−2が、倫理的に注意すべき事項に関する見解、資料9−6−3が、平成10年度の診療・研究に関する倫理委員会報告、資料9−6−4が生殖・内分泌委員会報告、資料9−6−5がちょっと表題がございませんが、昭和60年度からの研究の一覧表でございます。それからあと、資料9−6−6ということで、きょう、後ほどお配りさせていただきたいと、もう一つございまして、平成11年度の倫理委員会の登録・調査小委員会の報告ということです。  
  資料9−7ということで、ヒトに関するクローン技術の規制等に関する法律案要綱等ということで、先週の14日の金曜日に内閣の閣議決定をさせていただいたもので、国会に提出されたものでございます。  
  最後に、資料9−8が前々回の第7回の生命倫理委員会の議事録の(案)でございます。資料9−9が前回、第8回の生命倫理委員会の議事録(案)でございます。  
  以上でございます。 
(井村委員長) 
  それでは、早速議事に入らせていただきます。 
  本日の議題の1は、ヒトゲノム研究小委員会からの「ヒトゲノム研究に関する基本原則(案)」についてでございます。昨年の12月の生命倫理委員会で、ヒトゲノム研究に関する倫理的な問題を検討するために、この委員会にヒトゲノム研究小委員会を設置いたしました。小委員会におきましては、ヒトゲノム研究に関する基本的な原則を作成し、現在、意見公募を行っているところであります。本日は、基本原則につきまして、まず、小委員会からご報告をいただき、その上で委員の皆様の自由なご意見をいただきたいと思っております。それを踏まえて、今後、小委員会で最終報告をまとめていただくと、そういう手順にしたいと思います。  
  それでは、まず、事務局からヒトゲノム小委員会の検討経緯について簡単に説明をしてください。 
(事務局) 
  それでは、資料9−1でございますが、検討の経緯ということで、先ほど委員長のほうからお話がございましたように、昨年の12月21日に、このヒトゲノム研究小委員会が設置されたわけでございますが、1月から3回にかけまして、その小委員会で議論してきたわけでございます。その小委員会の実は議論に資する基礎研究のための調査資料ということで、科学技術会議の政策委員会のほうで決定いたしました、このヒトゲノム、生命科学と社会とのかかわりに関する調査ということで、ヒトゲノム研究に関するこういった倫理的な諸問題に対応するため、ソフト調査を実は昨年度実施してございます。その中で、三井情報というシンクタンクで受けたわけでございますが、そこで、位田先生を中心に委員会を設けまして、この小委員会に資する基礎資料、基礎データ、あるいはその種々のデータなどをまとめていただいたものでございます。それを踏まえまして、3回ヒトゲノム研究小委員会で検討してきまして、4月10日付でこの基本原則の(案)といったものをまとめたものでございます。  
  ちなみに、2ページ目がその小委員会の構成員でございまして、前回の生命倫理委員会でご決定いただきました。高久先生が委員長ということで、そのメンバーが載ってございます。  
  それから、3ページ目に、先ほど申しました位田先生を中心とした委員会といったようなものを設けまして、基礎資料をつくった、その検討状況が3ページ目に書いてございます。特にこの中の委員によりまして、メーリングリストで、わずか4カ月の間に約550通のメールで非常に議論を重ねてきております。そのメンバーが4ページにございます構成メンバーでございます。  
  最後の5ページ目に、4月10日付で基本原則の小委員会の案につきまして、意見公募を行っているものの内容でございますが、5月9日までを予定しております。それから、そのいただいたご意見の取り扱いにつきましては、基本的には、この小委員会の場で公表させていただくということで、現在意見公募中でございます。  
(井村委員長) 
  それでは、ヒトゲノム研究小委員会の委員長を務めていただいております高久委員から、最初に、概要のご報告をいただきまして、その後、基本原則(案)の起草者であります位田委員から、詳細なご説明をいただくということにしたいと思います。それでは、高久委員、よろしくお願いいたします。  
(高久委員) 
  今、事務局のほうから説明がありましたように、第1回目のヒトゲノム研究小委員会を1月の終わりに開きまして、その後、3月6日、3月31日に2回、合計3回検討をいたしております。3月31日の時点で、大体の基本原則が皆さん方のご賛同を得まして、一部訂正したものを4月11日から公表して、意見を募集中というのが現状であると思います。  
  このヒトゲノム研究小委員会では、まず、強調されたことは、ヒトゲノム研究に関する基本的な原則を決めようではないか。ある意味では、憲法のようなものを決めるということが申し合わされました。これは、基本原則でありまして、それの実施に際しては、やはりいろいろ指針をつくる必要があるということも確認されまして、例えば資料の9−4にあります、「遺伝子解析研究に付随する倫理問題に対するための指針」、これは、今年の2月に厚生省のほうから報告が出まして、公開をいたしまして、バプリックオピニオンを求め、それに基づいてかなり直されたものが、おそらく今月以内に最終的に認められるんだろうと考えておりますが、これは指針でありまして、おそらくほかのところでも指針がつくられる可能性があるので、その上に立つといいますか、きょう、ご議論いただきます基本原則は、そのいろんな指針をカバーする基本的な原則ということで小委員会の皆さんの合意を得ましたし、それから、きょう、これからご議論いただきます基本的原則の中にいろいろ説明がありますけれども、その説明の内容に関しても、既に今までに出ている指針と根本的に違わないように、すなわちダブルスタンダードにはならないようにということを小委員会で申し合わせまして、その線に沿いまして、基本的な原則を位田委員が中心になりまして、先ほど紹介されたメンバーの方々がつくっていただいたというのがきょう出されました基本原則の原則であります。  
(井村委員長) 
  それでは、引き続き、位田委員から説明をしていただきたいと思います。 
(位田委員) 
  それでは、ヒトゲノム研究に関する基本原則(案)につきまして、説明をさせていただきます。 
  先ほどヒトゲノム研究小委員会の高久委員長からご紹介がありましたように、資料9−1にあるような形でこれまで検討を続けてまいりました。3回の小委員会の議論はもちろんのことながら、科学技術庁の委託で行われておりました、その資料9−1の3ページ目にあります「ヒトゲノム研究開発動向及び取り扱いに関する調査」検討委員会というものが、三井情報開発のほうの事務局ということでつくらせていただきました。ここでの議論がベースになりまして、今回のご紹介するヒトゲノム研究に関する基本原則(案)というものを私が一応ドラフトをさせていただきます。検討そのものは、この調査検討委員会のほうで行っておりますけれども、この原則(案)につきましての責任は、一応私が負うということでございます。  
  そこで、まず、そのヒトゲノム研究に関する基本原則の全体の構成をご紹介申し上げますと、この文章全体は、基本原則として4章27カ条、それに附則がついております。資料の1ページから7ページまでがヒトゲノム研究に関する基本原則の、いわば、本文でございます。表紙をあけていただいたところに目次が書いてございますけれども、基本的考え方から附則までの7ページ分、これが原則(案)でありまして、その後に、基本原則は何分それぞれの文が比較的簡潔で、かつ一般的にしているものですから、少しわかりやすいように解説をつけました。ただし、この解説は、ヒトゲノム研究基本原則のよりよい理解と適用を促進するための資料としておつけしているものでございまして、先ほど高久委員のほうからご紹介のありました、実際に研究が行われる際の指針になるものではございません。その点ご留意いただきたいと思います。  
  それから、かつこの基本原則は、第1のターゲットは研究者及び研究機関でございますが、資料を提供する提供者にもヒトゲノム研究に関してご理解いただきたいということと、またあわせて、社会一般につきましても、ヒトゲノム研究の意義、それから、あり得る、生じ得る問題点というものを理解いただいて研究を進めていくと。ヒトゲノム研究そのものが社会の中の研究であるということを社会全般にも理解していただきやすいように、この解説をつけております。  
  内容でございますが、最初に、基本的な考え方というものを、いわば、前文のような形でつけております。1.2.3.4.5と番号が振ってございます。資料では1ページ目になります。ここでは、まず、科学一般の位置づけ、それから、その科学の中の生命科学研究の位置づけ、さらに、その中のヒトゲノム研究の位置づけという形で述べてまいりまして、こういう形で社会と科学の関係をまず認識していただいて、そして、この基本原則がその中でどういう役割を果たすかということを書いております。とりわけ、第2パラグラフのところなんかでは、歴史的な反省も踏まえて書いておりまして、一方でその反省をしながら、ヒトゲノム研究の重要性というものを強調するという書き方になってございます。一言で言えば、基本的考え方は、この原則を作成する背景とその位置づけということでおわかりいただけるかと思います。  
  第一章、第二章、第三章、第四章と4つの章に分けておりますが、第一章は、ヒトゲノムとその研究のあり方ということで、一般的にヒトゲノムの意味とその研究に関する理念、そして、その際に配慮するべきことを述べております。第二章、第三章が、実際に研究をする際に当事者となる人の立場を述べております。第二章のほうが研究試料提供者の権利、第三章がヒトゲノム研究の基本的実施要件、第三章、6ページから始まりますが、こういうふうに分けております。最後に、社会との関係ということで、先ほど基本的考え方のところでも申し上げましたように、ヒトゲノム研究そのものが社会の中で行われるということで、社会との関係を最後につけ加えております。  
  第一章に戻りますが、第一章では4つの原則を述べております。原則の第一は、ヒトゲノムの意義ということで、第一の1で、ヒトゲノムは、人類の遺産であるという位置づけをいたしております。ただ、遺産というのは、これは、人類が持っている財産という意味ではなくて、むしろ、人類がこれまで進化の過程で受け継いできた人を人たらしめるものであるということを象徴的にあらわす言葉として遺産という言葉を使っております。原則一の2、3、4につきましては、ヒトゲノムがどういう意味を持っているか。それから、遺伝子のみによって存在が決定されるものではないという遺伝子決定論の排除等々の説明をし、そして、原則の第二では、ゲノムが多様なものであって、そのことが個人の多様性と独自性、唯一性を示しているということを述べながら、それゆえにそれぞれの人が尊厳を尊重され、また、人権が保護されなければいけない。差別の対象になってはいけないという一般的な個人の尊厳と人権の尊重という原則を述べております。  
  第三及び第四につきましては、ヒトゲノム研究を行う際に配慮するべき重要な事柄として、研究を行う上で、もしくはその成果の応用の上で生じ得る倫理的法的社会的問題に対する配慮と、それから、現実にヒトゲノム研究というのは、あるそれぞれの人から研究試料の提供を受けるということが不可欠でありますので、その研究試料を提供する人及び家族、血縁者の尊厳と人権ということへの配慮を欠かせてはいけないということを書いております。  
  それから、第二章は、研究試料提供者の権利という形で、第一章の原則第四に一般的に述べました提供者への配慮ということをより具体的に述べております。この研究試料提供者の権利というのを、研究の基本的実施要件よりも先に置きましたのは、この基本原則が倫理的原則であるということと同時に、問題が生じるとすると、研究試料の提供者の側に何らかの不利益もしくは損害が発生する可能性があるという考慮から、まずもって配慮するべきは提供者の地位、もしくは権利であるということから、先に提供者の権利というのを置いております。提供者の権利について、大きく3つに分けておりまして、第一節にインフォームド・コンセント、第二節に、4ページになりますが、提供者の遺伝子情報の保護、もしくは知る権利、知らない権利、第三節にその他の関連する権利等について書いております。  
  まず、第一節のインフォームド・コンセントでございますが、インフォームド・コンセントにつきましては、ここで詳しくご説明する必要はないと思いますけれども、原則の第五で、インフォームド・コンセントの原則的な立場、すなわち提供者に対して事前に十分な説明を行った上での、自由意思に基づく同意を文書で表明するということを挙げております。これが最も基本的な原則であります。  
  それ以下、すなわち第六、七、八、九につきましては、この基本原則に対して何らかの例外、もしくは特別な状況がある場合に、基本原則を何らかの形で調整するということをそれぞれ原則に挙げております。  
  第六は、同意能力を欠く者については、代諾者が同意を行うということを述べております。同意能力がないので、同意を得ないで試料を提供していただくということは許されないという立場でございます。  
  第七は、ゲノム研究の方法、対応等が非常に多様でありますので、それぞれの研究の内容に応じて適切なインフォームド・コンセントの手続を定める必要があると。原則の第五は基本的な立場ですけれども、これを何らかの形で、例えば説明の簡素化ということもあり得るであろうし、もしくは一人一人に確実に同意をとっていくということもあり得るであろうということを考えながら第七を、かなり一般的な文言でありますが、第七の原則を定めました。  
  第八は、これは、いわゆる包括的合意と言われるものを念頭に置いておりまして、ある特定の研究計画の中で遺伝子解析研究のために試料を提供していただくとして、その試料提供の際に、他の遺伝子解析研究、または医学研究一般に使用するということも念頭に置きながら、インフォームド・コンセントの手続はどのようにされなければならないかということを第八に定めておきました。基本的には包括的合意というのは、できるだけ説明の中で十分に提供者に理解していただいて、包括的な同意をいただくことは可能であるという立場に立っております。  
  第九は、いわゆる既提供試料、もしくは言い方を変えれば、既採取試料と言われることもありますが、既にこの基本原則が実際に行われる以前に提供された試料について、新たにインフォームド・コンセントが必要であるかどうかということについて述べております。基本は、第九原則の1に書いてありますように、既に提供されている試料は、提供されたときの同意の範囲に限って使用することができるというのが基本原則ですけれども、しかし、ヒトゲノム研究の重要性、そして、その研究の中から得られる成果の重要性と既に提供されている試料が非常に貴重な研究試料であるということ、その試料を新たにインフォームド・コンセントを取り直すということの、かなり研究者の側の負担、そして、もし、同意を簡素化する、もしくは同意を要らないとする場合に、同意をとらない場合に与えられるであろう提供者の側への不利益、もくしは人権の保護等のさまざまな要素を考慮して、一定の場合には既に提供された試料については、同意を必要でないというケースもあり得るし、もう一度新たに同意をとらないといけないというケースもあり得ると、そういうさまざまなケースがあり得るということを中にうたっております。  
  第十原則は、試料提供の同意の撤回でありまして、これは、試料がその提供者本人と連結できる場合には同意は撤回することができると。もちろん同意を撤回することによって、何らの不利益をこうむってはならないということを第十に挙げております。  
  第二節は、提供者の遺伝子情報に関する諸原則でございまして、ヒトゲノム研究におきましては、研究試料提供者のインフォームド・コンセントと並んで、得られた遺伝子情報の保護、管理というのが極めて重要な問題になってくるだろうと思われます。そこで、提供者の遺伝子情報に関する原則を第十一から第十六まで述べております。第十一は、遺伝子情報の保護管理及びそのための体制の整備というものについて述べておりまして、十一の1にありますように、提供者の遺伝子情報は厳重に保管され、十分に保護されなければならない。もし、その遺伝子情報が漏洩をした場合にはどうするかというのが第十二、個人情報の漏洩でございます。当然その漏洩を防止するための必要な方策を設定しなければならないと同時に、漏洩した場合には、その漏洩した者、研究者、研究機関等に対して、身分上の不利益処分も含めて厳格な処置が講じられなければならないし、被害をこうむった場合には、正当な補償または賠償を受けることができるという立場をとっております。ここで、漏洩によって損害をこうむったという場合の中に、実害がなくとも漏洩そのものが損害であると、人権の侵害であるということを念頭に置きまして、原則そのものには損害をこうむった者はと書いてありますが、解説のほうでは、実害がなくとも漏洩そのものだけで、漏洩があったという事実だけで正当な補償、または賠償を受ける可能性があるということもつけ加えております。  
  第十三は知る権利でございまして、これは、遺伝子情報は、提供者本人が持っている、いわば、所有物であるという考え方から、研究の結果、明らかになった自己の遺伝子情報は知る権利があるということをまず第1に定めております。ただし、提供者が知りたくないという、いわゆる知らない権利について第十四条に定めておりまして、提供者が結果を知りたくないという場合には勝手に知らせてはいけない。しかし、場合によって、提供者は知りたくないと言っているんだけれども、遺伝性疾患の原因である可能性があって、かつ当該疾患が予防可能、もしくは治療可能なものであるということが明らかなときは、倫理会の審査を経て、その判断を提供者に、その判断というのは、いわゆる診断ということでございますが、診断は提供者に伝えられることができるという立場をとっております。原則第十四の1は、基本は知らせてはいけないんだけれども、2では、3つの条件が整えば知らせることができるという立場でございます。  
  第十五は、同じように血縁者に対して遺伝情報、もくしはそれに関する診断を知らせるかどうかということでございます。十五の1は、基本的には提供者本人が承諾する場合に限って血縁者に知らせてもよい、もしくは家族に知らせてもよいということが原則でございます。しかし、提供者本人が知らせるなと言っている、もしくは知らせてほしくないと言っている場合に、血縁者はいかなる場合にも知らせてはならない、血縁者に対していかなる場合にも知らせてはならないかというと、必ずしもそうではなくて、先ほどの十四の2と同じように、その研究の結果明らかになった遺伝子情報が遺伝性疾患の原因であるか、またはその可能性があるという診断に結びつく場合で、かつ、その疾患が予防または治療可能であり、さらに倫理委員会の審査を経るという3つの条件が整った場合には、血縁者に伝達されることができる。伝達されることができるという可能性を書いておりますが、できる伝達されることが望ましいというのがこの立場でございます。もちろん現時点で治療できないものについては、当然に知らせてはならないというのがその裏側の解釈でございます。  
  第十六は、提供者について差別を禁止するという、より個別の差別禁止の原則を念のために定めております。 
  第三節はその他の権利でございまして、第十七は、研究試料の提供は無償であり、それから、成果が知的所有権の対象となる場合、いわゆる特許の対象となる場合には、その権利は提供者には帰属しないという原則を定めました。  
  それから、十八は損害の補償でございまして、提供者は、ヒトゲノム研究の過程において存在をこうむった場合には正当な補償を受ける。これは、現実には提供した後、外で、いわば、人間の体の外で研究が行われるわけですから、人間の体に直接の損害がこうむるということは考えられませんけれども、特に情報の漏洩等によって人権侵害が発生する、もしくは情報が漏洩しなくても、差別が発生するというケース等も考えながら、損害の補償についての原則を置きました。  
  第十九は、社会的心理的支援というタイトルをつけておりますが、いわゆる遺伝カウンセリングの体制を含めて、適切な社会的心理的支援を受けることができる。とりわけ、試料を提供した後、結果がある程度わかったときに、それが何らの診断に結びつき得る可能性があるとすると、研究試料の提供の時点、もしくは結果がわかった時点でやはり遺伝カウンセリングを提供することが原則であるという立場をとっております。ただし、遺伝カウンセリングに関しましては、現状では必ずしも遺伝カウンセリングの体制が我が国では十分ではございませんので、遺伝カウンセリングにこだわることなく、適切な社会的心理的支援を設けてほしいという、いわば、これからの希望的な方向も含めて、この原則を書きました。  
  第三章は、ヒトゲノム研究の基本的実施要件でございまして、これは、第二章とは、いわば、対峙する形で、研究者の側に関する基本的な原則でございます。第二十で、まず第1に、科学研究の自由は尊重されるという大原則を置きました。それから、第二十一以下では、科学研究の自由は尊重されながらも、その研究そのものが社会の中で行われ、かつ人の提供する試料を用いるということから、一言で言えば、人を対象として研究をするということから、一定の配慮が必要であるということを二十一、二十二、二十三で書いております。二十一は、研究の際には人の尊厳と人権の尊重というものをまず掲げ、そして、人の尊厳に反する研究は行ってはならない。例えばクローン個体の産生等のようなものが、あれは必ずしもゲノム研究そのものではございませんけれども、そういったものが例示的には人の尊厳に反する研究ということになります。そのほかにもあり得ると思いますので、一般的に人の尊厳に反する研究を行ってはいけない。それから、研究は当然生物学上、遺伝学上及び医学上の有意義な成果が見込まれるものでなければならない。ただ単にちょっと研究をしてみようという興味でやってはならないということでございます。研究をする場合には、明確で詳細な研究計画を立てていただく。  
  それから、二十二では、研究実施の手続を設定し、遵守するということが書かれておりまして、先ほどヒトゲノム研究の方法、対応は非常にさまざまだと申し上げましたが、それに応じて、それぞれの研究計画に適切な形で研究実施手続をきちっと設定して書き込んで、その手続は研究者及び関係者、研究機関は遵守していただくということでございます。  
  二十三は、倫理委員会を定めておりまして、ヒトゲノム研究に当たっては、その研究計画について、倫理委員会の審査を経なければ研究が行えないという体制をとっております。倫理委員会そのものの構成が二十三の1に書いてあります。二十三の2は、倫理委員会の役割、3は、倫理委員会での議論の透明性ということを挙げております。  
  第四章は社会との関係でございまして、これは、先ほど最初のほうで申し上げましたが、ヒトゲノム研究を遂行する上においては、社会にその研究の重要性を理解していただかなければ適切な形で研究が行えないということから、この第四章を置きました。  
  原則第二十四では、ヒトゲノム研究の意義として、生命と健康並びに福祉に大きく貢献するということをまず認識をする。その認識のもとに、ここに掲げられた基本原則を十分に理解して、研究の進展を社会が支援する体制をとるべきである。他方で、ヒトゲノム研究にかかわる者は、社会に対してその研究についての説明を行う責任がある。いわゆるアカウンタビリティーをここに挙げております。  
  二十五では、研究成果の公開と社会への還元ということでございまして、二十五の1は、研究によって得られた成果は社会に還元をする、公開を原則とすると挙げておりますし、成果の利用は科学の進歩、健康の改善、苦痛の除去、並びに疾病の予防及び治療のために用いられる、こういう原則を挙げております。  
  二十六は、ヒトゲノム研究はこの基本原則に従って行われるわけでありますけれども、それぞれ研究を行っている途上で、さまざまな倫理的法的社会的問題が起こり得ますので、それに対しては、全般的で適切かつ迅速な判断と対応を研究者、研究機関、そして、国が行うべきであるということを原則に掲げております。  
  第二十七、最後の原則でございますが、これは、ヒトゲノム研究の重要性を念頭に置きながら、特にヒトゲノム及びヒトゲノム研究、並びに生命倫理、そういったものについてきちっと、例えば中等教育あたりから教育をしていただかなければ、実はヒトゲノム研究、もしくはヒトゲノムということの重要性が理解できない。十分に社会が理解できないところでヒトゲノム研究が行われるということは、かえって不適切な研究、もしくは不適切な研究の理解という形になってしまいますので、それを、いわば、避けると、適切な形で研究を進めるという意味で、教育の普及、そして、情報の提供、開示というものを第二十七の原則として挙げております。  
  最後に、附則でございますが、これは、まだこの基本原則に基づいてヒトゲノム研究が行われているわけではございませんし、実際にヒトゲノム研究を、とりあえずはこの基本原則に従って進めていただいて、研究の実際の進展状況及び社会の理解と動向に照らしながら、適切な時期にこの基本原則の見直しというものも予定に組み込んでおくという趣旨でこの附則をつけました。  
  8ページ以下につけております解説は、今、申し上げたようなことをもう少し詳しくそれぞれの原則、もしくはパラグラフについて説明をしております。ここで、もう解説の中身をお話しする必要はないと思いますので、一応、原則についてはそういうふうな、今、申し上げたような形でご理解をいただければと思います。  
  最後に、先ほど高久委員長のほうからも少しお話がございましたが、厚生省のほうでつくられている遺伝子解析に関する倫理原則との関係について若干申し上げておきますと、まず第1に、厚生省がつくれらている指針につきましては、この原則との関係でいいますと、先ほどお話がありましたように、この基本原則は、いわば、我が国におけるヒトゲノム研究に関する憲法的な文書ということでございますので、ある意味では、一番上にまいります。そして、それを具体的に実施する場合に、研究を実施する場合には、当然その現場で守られるべき詳細な指針が必要でございまして、例えば厚生省がつくられているような指針がその実際の現場でのガイドラインになる、こういう形、言いかえればこの基本原則が上にきて指針が下にくる。ただし、もちろん原則と指針がそごを来すと困るわけですから、この原則をつくる上でも、厚生省の指針については十分に注意をしながらつくってきております。基本原則はここに書かれているような形で採択されれば幸せでございますが、原則は原則として、実際の現場では指針に従っていれば、ある意味ではこの原則に従っていることが確保されているという形になろうかと思います。もちろん原則に合わないような指針、もしくは状況が出てくれば、それはそちらのほうを変えていただくことになるかと思いますが、現在ではそういうことはないと考えております。  
  以上で大体の概要をお話しいたしました。 
(井村委員長) 
  ありがとうございました。 
  大変詳しくこの基本原則についてお話をいただきましたので、かなりよくおわかりいただいたんじゃないかと思いますが、これから、その討論をしていただきたいと思います。  
  なお、位田委員は、ユネスコの生命倫理委員会の委員長を務めておいでになりますので、ユネスコのヒトゲノムに関する基本的な宣言とも整合していると思います。それから、今少し議論が出ました厚生省の指針を決める委員会の委員でもありますので、そういう意味で、そちらとの整合性も保たれていると考えていただいていいと思います。いかがでしょうか、どんな問題でも結構ですが。  
  それから、文部省の学術審議会には、バイオサイエンス部会というのがございまして、実際、研究者はこの文部省の傘下の人が非常に多いわけですね、大学等の研究者が。そういうこともあって、4月10日に議論をいたしまして、その結果が資料の9−5についております。基本的にただいまご説明のあった基本原則と変わるところは特にございません。  
(藤澤委員) 
  最初に基本的な考え方というのがございますね。基本原則というのは2ページから始まるものを指しているんですか。それとも両者一体なんですか。 
(位田委員) 
  全体として基本的原則だとお考えいただければいいかと思いますが、基本的考え方の中には、ヒトゲノム研究はこうであらなければならないというような形では、そういう書き方はしておりませんので、いわば、原則、ある意味では狭い意味の原則は第一から始まる中身でございますけれども、全体としては、基本原則的な考え方も含めてご理解いただければと思います。  
(藤澤委員) 
  具体的に文書として公表されるというような場合に、基本的考え方というのも一緒になるわけですか。 
(位田委員) 
  はい。言いかえれば、憲法の前文のような対がこの基本的な考え方だと考えていただければと思うんですが。 
(藤澤委員) 
  その基本的考え方が一番大前提として、その「科学研究の自由は基本的人権の中核である」と書いてあるんですけど、後に出てくる「科学研究の自由は尊重されなければならない」というのはわかるんですけれども、ほんとうに基本的人権の中核なんですか。ほかにもいろいろあると思いますけれども。  
(位田委員) 
  もちろん中核がたった一つだと言うつもりは全くありませんで。 
(藤澤委員) 
  中核の一つと。 
(位田委員) 
  ええ。まあ、中核の一つと言えば、確かにもう少し詳しくはなるかもしれませんが、そこの文章では、その基礎となる科学研究の自由は、思想の自由の一つとして基本的原則の中核であるということを書いておりまして、思想の自由そのものが基本的人権の中核だという位置づけです。  
(藤澤委員) 
  そういうことでしょうよね。思想の自由そのものが中核だというのはわかるんですけれども。 
(位田委員) 
  はい。それは確かにそうです。 
(藤澤委員) 
  それに便乗して科学研究の自由が基本的人権の中核であると言われると、どうしても、ぎょっとしたんですけどね、さっき。つまり、科学って、これ、日本語で書いているのは、19世紀半ばごろからのサイエンスのあり方を踏襲して、日本でこの「科」の「学」と訳したわけですよね。だから、初めから倫理とか精神的な価値に関することは全部セパレートされているわけです。そういうものが基本的人権の中核であるという言い方がちょっとあれだったんですけれども、それと、具体的にはこの基本的考え方の4番で、基本的人権の中核であると言いながら、しかし、その科学研究の自由の結果、成果として出てきたヒトゲノム研究が生命を操作することにつながって、尊厳や人権が著しく損なわれる危険性を生むとございます。基本的人権の中核であるものの成果がどうして人権が著しく損なわれる危険性があるような事態が生じてくるのかという、揚げ足取りじゃなくて、何か考え方の筋道として納得できないという感じもさせるんです。  
(位田委員) 
  いかなる人権も社会の中で絶対的な存在であるとは考えておりません。ある意味で、科学研究の自由は科学者が持っておられる自由、基本的人権だと思いますが、その基本的人権と衝突する別の人権というものがあり得る。それが生命を操作することにつながる、もしくは尊厳、人権が著しく損なわれる危険性があるというのは、この原則の言葉を使うとすれば、提供者の側に何らかの人権の侵害が発生する。すると、提供者の人権と、それから研究をする科学者の側の人権がそこで対峙するので、どちらをそれぞれの時点で優先するかということになろうかと思います。しかし、その対峙するという状態は、必ずしも基本的人権の中核であるという位置づけを排除するものではないと考えます。  
(藤澤委員) 
  それから、ある意味で小さいことですけど、どうしても言葉の使い方で神経質になるので、この中に人間という意味をあらわす言葉として、「ヒト」という片仮名で書いているのと、それから、「人」という一字と「人間」という3種類あって、整合的に使い分けられているようには見えないんですけれども、どうなんでしょうか。  
(位田委員) 
  まず第1に、「ヒト」と片仮名で書く場合には、生物学上の考え方というか、概念として「ヒト」と片仮名で書くというふうに考えております。「人間」か「人」かという、その使い分けについては、人間というのは、より一般的に人間という存在はということを念頭に置きながら、私は使っているつもりなんですが、若干使い方が悪いところがあるかもしれません。それから、それに対して「人」はやはり個人であるというケースもあれば、集団としての「人」というケースもあり得るという、ある意味では、人間というよりはより具体的にその状況を設定する場合に、漢字の「人」という言葉を使うように心がけたつもりでございます。  
(藤澤委員) 
  基本的考え方の、その1ページの3のところには、真ん中ごろに「人間の生命のしくみを解明し」とありますね。この後のほうで、同じ生命の仕組みというか、「人の」と書いてあったので、それで、どうかね。  
(位田委員) 
  前の「人間の生命のしくみ」というのは、生物的な存在としての人間というものの生命しくみを解明するという、一般的な言い方をしておりまして、後ろの「人の生命や健康の保持」というのは、それぞれの個人の生命とか、健康の保持にヒトゲノム研究が役に立つんだという、そういう少しニュアンスを変えて書いているつもりでございます。  
(井村委員長) 
  それでは、島薗委員、どうぞ。 
(島薗委員) 
  きょう、ちょっと中座をしなくてはいけないので大変失礼をいたします。そういうこともありまして、早目に手を挙げさせていただきました。 
  ヒトゲノム研究が人の尊厳や人権を侵す可能性があるということが大変重要な問題ということで、では、どうしてそうなるのかということができるだけ明晰に表現されるといいなと思っておりまして、そこら辺のところでちょっと伺いたいなと思うんですが、解説のほうで見たほうがよりわかるかと思うんですが、9ページの、第一章の第二の説明のところなんですが、これを通読してみまして、この第一章第二が一つのキーポイントになるところかなというふうに読ませていただきました。  
  ここで、まず題なんですが、(ゲノムの多様性と個人の尊厳と人権)となっておりまして、本文中には集団もかなり重要だということが書いてありまして、また、下の解説もそういうぐあいになっておりますので、ここが個人となっているのはどういう意味なのかなということが一つ伺いたいということです。  
  それと関係しまして、下の解説のところから伺いたいんですが、「第一から」というところで、「各個人の遺伝的特徴は生物学上の差異に過ぎず」とありまして、その下に「その間には何ら価値の優劣はない」となっているんですけれども、その間というのは何の間を差すのかということを、ちょっと細かなことですが、これは、その下の「互いに平等であり」というのが何が平等であるかということにも関係すると思いますので、ちょっと細かいことにわたりますのが、そのあたりからちょっと教えていただきたいと思います。  
(位田委員) 
  ありがとうございました。解説9ページの原則第二の解説につきまして、確かにタイトルは「ゲノムの多様性と個人の尊厳と人権」と書いてあるんですが、中には「いずれの集団も」ということで、集団も対象になっているように読めるとは思います。ただ、基本はやはりそれぞれの個人がそれぞれのゲノムを持っているということでございまして、「集団も」と書いてございますのは、集団全体で一つの尊厳とか、ゲノムという考え方ではなくて、その集団に属している基本は、その集団に属している個人それぞれがゲノムの多様性を持っており、尊厳を持っていると。しかし、歴史的にはしばしば個人の集まった一つの集団がその集団として取り扱われるということもございましたので、個人がと書きますと、それぞれの個人だけに限ってしまう可能性が残ると思いましたので、集団についても配慮をしないといけないんぞという、ある意味では、念のための表現を「いずれの集団も」ということで入れました。解説にそのことをあまりきちっと書かなかったのは若干私の手落ちであるかもしれません。  
  それから、解説の中の2行目に、「その間には何ら価値の優劣はない」ということでございますが、それはその前の文章の遺伝的特徴が生物学上の差異にすぎない、その特徴がそれぞれの個人の個性を示しているということを受けて続いている文章でございまして、したがって、遺伝的特徴には何ら価値の優劣はない、もしくは個人の個性については何ら価値の優劣はない。だから、それぞれの個人間が互いに平等である。それを仮に集団のレベルに上げても、その集団と集団は互いに平等であるということを言うつもりで書いた文章でございます。そのぐらいでよろしいでしょうか。  
(島薗委員) 
  人が平等である根拠ということにかかわってくると思うんですけれども、例えばある種の遺伝的特徴については治療するほうが望ましいということが前提とされておりますね。そうしますと、それはそれについての価値判断が入っているんじゃないかと思います。ということは、遺伝的特徴の間に価値判断をするということを前提にして、このヒトゲノム研究というのを行われているんではないかなと。したがって、価値の優劣はないというのはちょっとひっかかるような気がするんですが、いかがでございましょうか。  
(位田委員) 
  その辺は、例えば医療で何を治し、もしくは治さないか、もしくは治せないかというのは、非常に基準としては難しい問題かと思いますので、私ごときが、私は医者ではございませんから答えられるかどうかわかりませんが、基本はやはり価値の平等ということだと思いますけれども、しかし、人間が社会で通常に生活していく上で、何らかの身体的な不利益ないし負担があるとすれば、その負担を軽減するということが私は医療の基本だと思っておりますので、その限りにおいてゲノムを研究し、もしくはそれを治療に役立てるというのは妥当なことだと思います。  
  ただし、それは、いわゆる優性主義を標榜するということではなくて、それぞれの特徴を生かしながら、当然社会の中で人間は生きていくわけでございますので、どちらがより優秀な人間であるかどうかという判断は、ここでは当然してはいけない。大体そういうふうなのが私の大まかな頭の中にあって、この原則を書きました。  
(島薗委員) 
  ほんとうに細かい重箱の隅をつつくようなことを言っているようなんですが、ややこの文章も、遺伝的特徴というところで人間を見るという見方に引っ張られていないかなといいますか、人が平等である根拠というのは、遺伝的特徴とは別のところにあるのかもしれないので、そういうふうな文章になったほうがいいかなという気がちょっと、下の文章のほうは、「遺伝的特徴がいかなるものであろうとも」となっておりますので、こちらのほうがわかりやすいかなという気がいたしました。  
  それから、下の「尊厳には」ということなんですけれども、尊厳というのは、言葉は日本語になかなか据わりが悪いということもありますが、欠くべからざる大変重要な意味をこの文章の中で持っていると思うんですけれども、ここの尊厳には「各個人を主体とする場合と、人類全体を主体とする場合の双方がある」という、ちょっと難しい表現に思うんですが、どのようなことを意味しておられるんでしょうか。  
(位田委員) 
  各個人を主体にする場合というのは、それぞれの人の尊厳を尊重する、これは、少しケースは違いますが、例えば指紋押捺事件なんかを例にとりますと、犯罪人でもないのに指紋押捺を強制するというのは、個人の尊厳に反するという考え方がございます。そういう場合には、個人を主体にした尊厳だと思いますし、それから、それに対して人間の尊厳という場合には、人間は動物と違うのだぞという意味で、人間の尊厳というのを使うケースもございますので、その点を念頭に置きまして、今度は人間、もしくは人類、人全体を動物との比較で主体にする、人間の尊厳というふうに使うケースがあり得ると。その両方について尊厳ということが考えられるということを言おうとしたんですが、確かに私は法律家ですので、しばしば言葉遣いが難しいと言われます、申しわけございません。  
(島薗委員) 
  おそらくそういうみずからの尊厳を傷つけられたというふうな感じを、そういう意識を個人が持つ場合というのは、おそらく自分個人が人類につながるような存在として傷つけられたといいますか、そういうようなことではないかなと、これはよく考えてみないと、人の尊厳ということのいろんなニュアンスがわかりませんけれども、ここは大変哲学的な問題なので、そういうわかりやすく、しかし、深い意味がこもるようなというのはなかなか、それは自分にやれと言われたらどうしようもないところなんですけれども、そういうふうな方向で検討が進めばいいなと思っております。  
  これと、それから、この差別に関することで、第三章のところで、あるいは第二章でも、差別の禁止の問題がありまして、これとの対応もちょっと教えていただきたいこともあるんですが、第一章の第一の2のところには、「人が人として存在することの基礎であって、また、人が独自性と多様性をもっていることの根拠」となっておりまして、ここは、人としての多様性ということで、独自性というのが書いていないわけなんですが、その理由と、それから、それから先なんですけれども、それであるがゆえにということで、差別されてはならないと、そのつながりがどういうふうに、人が多様であるということをもって差別されてはならないと、こういうつながりがもう一つはっきりしないかなという気がするんですけど。  
(位田委員) 
  その点は、先ほどの先生のご質問にもありましたように、遺伝的特徴というのが、ある意味ではそれぞれの個人の個性をつくっておりますので、その独自性と言ったり、多様性と言ったり、唯一性と言ったり、少し3つの言葉をばらばらに使っているようなところもございますけれども、基本は、遺伝的特徴というのはそれぞれの人のゲノムにあらわれているものであって、その遺伝的特徴によって示される個性というのはそれぞれが、先ほど申し上げましたような価値の優劣はないので当然平等である。平等であることの、いわば、裏返しとして差別をしてはいけないというのが一般の原則であると私は考えております。  
  もちろん遺伝的特徴以外にも差別の根拠といいますか、差別禁止の根拠、もしくは平等原則の根拠というのはあり得ると思いますが、ここでは、特にヒトゲノム研究に関連して述べておりますので、遺伝的特徴以外のことについては触れないでおいております。他方で、第二章の一番最後のほうですが、原則の第十六の差別禁止は、提供者について差別をしてはいけないという、これは具体的な差別の禁止でございまして、第一章の第二で書いている差別の禁止は、一般的に遺伝的特徴に基づいて差別をしてはいけないということを述べているわけで、必ずしも提供者じゃなくても、ゲノムの特徴がわかることによって差別される可能性があると。つまり、研究と離れても、遺伝的特徴によって差別される可能性があるということも念頭に置きながら、一般原則として第二を述べまして、特に提供者に関しては、遺伝子情報がわかる可能性がありますので、危険性が非常に高いという意味で、特に提供者についても差別は絶対にしてはいけないという、より具体的な、もしくはもう一歩踏み込んだ原則の書き方をしてございます。  
(井村委員長) 
  ちょっとほかの方からもご意見を伺いたいと思いますので、それでは、曾野委員。 
(曾野委員) 
  9ページの、今、先生方が問題にしていらっしゃる括弧の中の第二のところで、このことを中の一つ一つは、私は法律的、あるいは哲学的に読む力はありません。小説家として情緒的に読むほかないのですが、一つ一つは間違いはないんですけれども、問題は「互いに平等であって」ということだと思います。平等という言葉が非常に難しい概念です。  
  私、今、くだらないことを連想いたしました。私は、幼いときに受けた精神的な傷なのか、それともゲノムなのか、何だかわかりませんけれども、非常にひどい閉所恐怖というのがあります。それを何とかして治すために土木の勉強して、主にトンネルに入るようにして、ごまかしておりますけれども、なかなか治らないんです。あるとき、昔のことですが、今の引田天功さんという方の先代の男の方で引田天功という方がいらっしゃいました。その方と対談をいたしました。  
  それで、その方は何かそういう心を治すということを売りものにしておられた。それで、私が対談のときに引田先生に私の閉所恐怖を治していただきたいと言ったんです。そうしたら、引田さんはきっと私の顔を見て、曾野さんから閉所恐怖をとったらどういういいことがありますか。あなたは閉所恐怖でもって生きているんでしょう。だから、それを取ったらあなたでなくなるから、それはうんと意地悪で考えると、引田天功は治すことができないという考え方が一つです。しかし、私はそう思いませんでした。この方はやっぱり一種の人生の達人であって、私が私であるということは、そういう一見マイナスのように思われるものを放置するというか、そのままにしておくということだと思ったんです。  
  ですから、この文章の中に「互いに平等であって」というのを今は入れなきゃいけないのかもしれないんですけど、それは一つの特性であってという感じだと何にもぶつからないように思うんですね。その特性はいかなる差別の対象にもなり得ない。そういう感じがいいんじゃないか。「平等」という言葉が今のはやりなもので、ぱっとここに入りますと、何だか違和感を覚えるように思うのです。  
(井村委員長) 
  ありがとうございました。何かお答えありますか。まあ、確かにちょっと違和感があるのは、そうですね、急に入ってくるのが。 
(位田委員) 
  特性があって、特性からあるから差別が禁止されないというのは論理的にはちょっとつながらないというふうに思いますので、その特性に優劣がないという趣旨で私は「平等」という言葉を使ったのですが、その平等ということを使ってはいけないと言われると、ちょっと論理的にどういうふうに説明しようかなという、つまり、遺伝的特徴があると。その遺伝的特徴があるから、それぞれは遺伝的特徴であって、その個性だから差別をしてはいけないというのは、少しワンクッション飛んでしまっているんではないかというのが私の感覚でして、遺伝的特徴には価値の優劣はない。したがって、平等、対等と言ってもいいかもしれませんが、平等であって、だから、お互いは差別をしていけないんだという考え方が、細かく言えば、より論理的な言い方だなと思いまして、平等であるということを書きました。  
  それと、平等であるということを書くほうが、単に差別をしてはいけないというよりも、より差別禁止を強調できるという考え方ですので、平等でありというふうに書きました。ちょっと違和感があるとおっしゃっると、少し考える必要があるかもしれませんが。  
(井村委員長) 
  要するに、人間としては平等であると。遺伝子がどう違おうと人間として平等であるという意味なんですね。じゃ、森岡委員、どうぞ。 
(森岡委員) 
  もう少し単純なことなんですけど、例えば第二章の一節の「同意は、原則として文書で表明する」という、この原則というのは何か要るのかというのが一つですね。  
  あと、全体的に文章を読みますと、位田先生、さっき言ったように、やっぱり難しくなっちゃうんですかね。例えば同意能力を欠く者のところで、「代諾者」というんですか、こういう言葉とか、最もわかりにくいのは、「提供者との連結不可能性が確保される」というのね、こういうの、何かほかの表現があるんだろうと思うんですけど、それとあとは細かいことですけど、この倫理委員会というのは、何の倫理委員会というのは、これを読むとよくわからないんですね。これは、学会の倫理委員会もあるし、私設の倫理委員会も、いろいろあるんですね。どういう倫理委員会を確保するか。  
  あと、細かいことで、例えば二十五の「科学進歩、人々の健康の改善、苦痛の除去」って、これ、みんな点々で打ってあるんですけど、実際には正確な表現でないとか、さらに二十七になると、例えば「個人の生命、生活および未来」、未来、これは何の未来かとか、それから、「教育の普及」というのもだれに対する教育なのか、そういう点、細かいことを言いますと幾つかありますけど、ちょっとそういうところをもうちょっとわかりやすく正確に書いていただきたいと思います。以上です。  
(井村委員長) 
  何かございますか。 
(位田委員) 
  ちょっと時間的にかなり短い期間でこの原則及び解説を書きましたので、どうしても法律家として非常にさまざまな状況を一つの文章であらわそうとしますと、どうしても非常に決まり切ったといいますか、一定の表現になってしまうようなところがございまして、最終的にパブリックコメント等も受けながらもう少し平易な文章にできるところはしたいと思いますし、それから、もう少しはっきりさせなければいけないというところははっきりさせたいと思います。  
  1点だけ、倫理委員会については、これは、ヒトゲノム研究を審査する委員会ということでございますので、体制としてそれぞれの研究機関に倫理委員会が置かれるということになると思います。  
(森岡委員) 
  それ、明記しておいたほうがいいんじゃないですかね。ただ、これを読みますと、何の倫理委員会なのかわからない、学会のもあるし、いろんなのがあるんですね。だから、各研究機関の倫理委員会とか、明記されたほうがいいと思いますね。まあ、それは細かいことですけれども、述べておきます。  
(高久委員) 
  倫理委員会の件は、小委員会でも検討されたんですけれども、必ずしも研究機関内に置けない場合もある。だけど、小さな研究機関ですと倫理委員会を置けない。そういうときにはよそに委託をしなきゃならないので、どこどこのということを必ずしも言えないんではないかという意見でしたので、一応広く倫理委員会というふうに置いたと思います。  
(井村委員長) 
  これは、ガイドラインもまたいずれつくらないけませんから、そのときにもうちょっとそこは明記するということでいかがでしょうかね。 
  今日は、後にももう一つ重要な議題がございますので、基本的にこういった原則、きょう、ご説明いただいた原則にどうしても反対であるというご意見があればいただきたいと思います。そうでなければ、細かい点については、まだ皆さんも読んでいただいていないと思いますので、きょう、お持ち帰りいただいて、読んでいただいて、そして、事務局まで問題点をご指摘いただく。これは、またパブリックコメントを求めている最中ですので、いろんな意見が出てくると思いますし、きょういただいたご意見も参考しながら、これから文章の修正等はしていかないといけないと思いますが、どうぞ。  
(曾野委員) 
  1つだけ申してよろしゅうございますか。素人が読んでおりますとよくわからない。遺伝子によって痛みがなくなって、生活がよくなって、長生きして、病気がなくなって、それで、後どうなるのという、人が長生きして、みんな病気で、いつまでも退職せずに地球上あふれかえったらどうなる、この先生たち、一体何を考えているんだ。この点だけ、一つ我々無知なおばさん達を少し納得させるようなお答えをいただきたいと思います。  
(井村委員長) 
  人間はいずれ死ぬものですから、幾ら遺伝子が研究が進んでも必ず死ぬと思います。ただ、生きているうちはできるだけ元気でいたいと、おれるようにしたいというのが理想であるというふうに考えていただいたらいかがでしょうか。だから、そのためには、遺伝子がわかれば病気を早期に発見するとか、あるいは予防をすることができるとか、非常に多くのメリットが出てくるわけですね。  
(曾野委員) 
  そういうふうに一つお書きいただくといいな、安心するんです。 
(井村委員長) 
  そうですか。それでは、大変ありがとうございました。 
(河村研究助成課長) 
  済みません。一言だけ先生のご説明を補足させていただきます。 
  文部省の学術国際局の研究助成課の河村と申します。 
  先ほど井村先生のほうのから学術審議会の状況についてご紹介をいただきました。きょうの資料の9−5というところに入れてただいているものでございまして、先日4月10日に会合する予定だったんですけど、会合が実は3月30日でございまして、4月10日から文書でいろいろメールも含めて、今、民間とやりとりをしているところでございます。基本的には、先生のおっしゃったとおり、全体の考え方としては学術会議の検討のものと、あるいは厚生省のもの等に基本的には賛同するという考え方で、できるだけそれぞれが汎用性があるものとして、いろいろの機関で使えれば、というのが研究者の方々のご意見でございました。  
  それともう一つ、いわば、特徴点として申し上げれば、やっぱり何が問題かというと、個人情報が流れてしまうということに対するおそれが最も強いのではないかというのが、その学術審議会での今の委員のお方の方々の考え方でございまして、そこをどうとめるかということをきっちり原則でお示しいただき、指針をそれぞれつくっていくということが大事なのではないかということがございましたので、ちょっとそのことを補足させていただきたいと存じます。  
(井村委員長) 
  それでは、先ほど申し上げましたように、基本的にお認めいただくとして、これからよくお読みいただきまして、いろいろ問題点があればこ指摘いただく。それで、パブリックコメントも含めて、最終案をもう一度ご議論をいただく、そういうことにしたいと思っております。  
  どうもありがとうございました。 
  それでは、次の議題に移ります。 
  前回、ヒト胚性幹細胞研究等についての検討を行いました際に、この委員会においても、ヒト胚研究全般についての議論を早急に行っていくべきであるという結論をまとめましたた。しかし、ヒトの胚というのは、その位置づけの問題、それからまた、現在、ヒト胚に対してどのような医学的な処置が行われているかという問題、そういったことをかなり議論をいたしませんと、なかなかヒト胚全般の問題についてまとまった考え方を提示することは難しいであろうと考えられましたので、本日は、日本産科婦人科学会、先ほど倫理委員長と私ご紹介しましたが、会長に現在ご就任になっておられますので、訂正をさせていただきます。藤本先生、それから、産科婦人科学会の幹事で、北海道大学の講師の山田先生も本日おいでいただいておりますので、学会の会告の現状等をご説明いただきまして、後、いろいろ質問にお答えいただければありがたいと思います。  
  じゃ、藤本先生、よろしくお願いいたします。 
(藤本会長) 
  きょうは、陪席をお認めくださいまして、ありがとうございます。 
  資料は、お手元に既に配付されておりますが、きょう新たに一つだけ追加をさせていただいております。それは資料9−6−6でございます。ご確認をいただきます。  
  日本産科婦人科学会は、発足いたしまして、ほぼ53年を今、迎えようとしております。学会は当然社団法人でございまして、我が国における産婦人科医療を担当する職能集団ととしての組織でございます。現在、1万6,000人をやや超える会員で構成されております。学会は社団法人ではありますが、特に我が国の各種の医学系の学会がそのとおりであると同じように、別に法的規制を課せられている組織でもございませんし、また、学会自体の運営は会員の相互の自己規制、あるいは学会としての組織としての自律性、自浄作用等の発揮の中で運営されております。  
  しかし、そうは申しましても、やはり会告等の約束事を幾つか持っていませんと、組織は円滑に運営されませんので、会告を持っております。これは、もうご賢察のように、いわば、学会の一つのルールというふうにお認めいただきます。ただし、会告に違反した人に対しても特別の罰則規定はございません。唯一定款に定められている除名という項目があるだけの現状でございます。このことは、各臨床系の学会が現在あると同じような状況で我々の学会もございます。  
  学会は、昨年の4月に特にこの生殖医療に関連しては、倫理委員会を改組いたしまして、外部の委員も入れるとかいろいろな対応をとって、生殖医療に関する倫理問題に真剣に取り組んでおります。ご存じかと思いますが、倫理審議会を学会の組織の外に置きまして、これは近畿大の、例えば平木教授が今その委員長でございますが、外部委員をまじえた審議会の制度も持っております。あとは、広報活動といいますか、広く社会に開かれた学会を目指しておりまして、理事会の後の定例の記者会見、ホームページ、または学会誌等を介しての広報活動にも、特にこの生殖医療に関連にしては積極的に行っております。  
  そこで、今日は6−1の資料をちょっとごらんいただきますが、これは、この会告の中の主なものがここに抜粋されております。会告は、9−6−2のほうをごらんいただいたほうがわかりやすいかと思いますけど、最初に、会告の要点だけの説明をさせていただきます。また、9−6−1の2枚目にありますように、これは、このライフサイエンス課から、ヒトクローン及びキメラ、ハイブリッド等に関する産婦人科学会の意見を、見解を聞かれまして、まとめたものがそこへ出ております。ただし、同じようなことは、平成10年9月20日付でも当時の会長名で見解を出しておると思いますが、さらに、それを昨年の11月に再確認させていただきまして、ここにまとめてあるような点をライフサイエンス課のほうへ提出しております。  
  ごらんいただければおわかりのとおりでございますが、1番のところには、個体・臓器産生の研究には法的規制が必要である。それから、ヒト胚性幹細胞(ES)の作成及び使用には、ガイドラインによる規制が必要である。ESの作成自体を目的とした体外受精を禁止する。ESの使用は、研究目的に、これは臨床的研究ももちろん入ります。研究目的に限定し、一般臨床応用はしない。3番目のところは、受精卵とそれ以外の材料とを区別して審議を進めてほしい。これはEG細胞をジャームセル等も関連いたしますが、それをはっきり区別していただきたい。そのほかの臓器にも関連いたします。それから、研究のための受精卵は2週間以内に限って使用できるという、我々の学会の見解があるわけですが、これをお守りいただきたい。こういう要望書を出しております。  
  そこで、もう少し詳しく、9−6−2に基づきまして、主な関連の会告の重要点だけの説明をさせていただきます。 
  9−6−2をごらんいただきます。それのページの上のほうに、肩のほうにページ数を打ってありますので、ページ数で追っていますが、2枚目の紙ですが、16ページをごらんいただきたいと思います。  
  この「体外受精・胚移植」に関する見解は、これは、古い昭和58年の10月の会告でございますが、その3番目のところに、「被実施者は婚姻しており」ということで、結婚をしている人たちを対象に体外受精・胚移植を行うように規制してはおります。  
  それから、もう少し進みまして、20ページをごらんいただきます。これは、ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する会告でございます。昭和60年のものでございますが、これの左下のほうに、大きい2番の中の2)のところです。「受精卵は2週間以内に限ってこれを研究に用いることができる」という会告を持っております。  
  時間の関係で細かい説明は省略させていただきます。 
  次に、24ページをごらんいただきたいと思います。死亡した胎児・新生児の臓器等を研究に用いることの是非や許容範囲についての見解。基本的には、死体解剖保存法が既に定めているところに従うことでございますが、その2番目、3番目のところをごらんいただければと思います。特に3番目のところでは、「原則として医師でなければならない」という規制も設けております。  
  次に、27ページをごらんいただきます。ヒト胚および卵の凍結保存と移植に関する見解。これは、昭和63年の会告でございます。そのページの中ほどに3番目の記載がございますが、3のところをごらんいただきます。「胚の凍結保存期間は、被実施者夫婦の婚姻の継続期間であって、かつ卵を採取した母体の生殖年齢を超えないこととする。」、こういう規制を設けて受精卵、あるいは卵子の凍結保存につきまして、レギュレーションを与えております。  
  それから、次、30ページをごらんいただきます。 
  これは、平成4年の会告でございますが、顕微授精法の臨床実施に関する見解でございます。顕微授精は、多分内容をおわかりいただけると思いますが、1個の精子を未受精の卵子の中へ到達させて授精を成立させるという顕微鏡下での授精方法でございます。そこの1番のところをごらんいただきます。「本法は、難治性の受精障害で、これ以外の治療によっては妊娠の見込みがないか極めて少ないと判断される夫婦のみを対象とする。」、こういうことでございます。受精に用いる卵子と精子というのは、ここまではすべて夫婦間であるということが大きな規制になっております。  
  それから、33ページをごらんいただきます。これは、この生殖医療の発展の過程の中で、体外受精のときに受精卵を子宮内へ戻す−−移植するわけですが、その移植の数が多いと多胎妊娠、三つ子、四つ子等の多胎妊娠がたくさん生まれるという事実がわかりまして、そこで、子宮内へ戻す受精卵の数を規制いたしまして、いわゆる多胎率を下げるということでございます。ご存じのように、四つ子、五つ子は確かにおめでたいんですが、母体へ対する影響、また胎児同士、あるいは新生児同士に与える影響が医学的にも非常に大きいものがございますので、移植数を原則として3個以内というふうに、平成8年の会告で規制いたしました。また、排卵誘発は、体外受精での自然妊娠も当然起こり得るわけですけれども、排卵誘発を強力に行いますと、多胎妊娠の率が非常に高くなるということで、ゴナドトロピン等のお薬の使用料のことをいろいろ検討しまして、使用料を可能な限り減らすということを強く求めております。  
  それから、35ページをごらんいただきます。 
  これは、非配偶者間人工授精と精子提供でございます。これは平成9年の会告でございます。非配偶者間人工授精というのは、夫以外の方から精子をいただいてきて、子宮の中へその精子を注入し、卵管の中で自然性授精を起こし、子供を持つと、こういうことでございます。ここにも幾つかの規制が出てきております。この会告は、既にたくさんの数のこの方法による子供が生まれておりまして、現在、もう1万人をはるかに超える出生数があります。そういう事実関係を重視し、また、この方法が広く先進国等でも行われていることにも配慮いたしまして、そしてまた、もう一つは精子提供者のいろいろな条件を整えるということ、例えば感染症のこと、あるいは商業、営利目的で行われること等のいろんな問題がありましたので、そういうものをむしろ規制するという意味で、ここに会告を平成9年に出しております。  
  大体この委員会と関連する会告は以上のとおりでございます。 
  次に、こういう会告の中で学会としてはいろいろ対応をし、また、登録制度も取り入れ、臨床成績も集計しております。この体外受精を中心にいたしました生殖医療の実施の内容をこれからごく簡潔にご説明いたします。  
  資料の6−3をごらんいただければと思います。 
  これは平成10年度分としてまとめたものでございます。平成9年の1月からその年の12月末日までに行われました生殖医療の技術別の出生数等について、1年分まとめたものでございます。細かいことはこの冊子の364ページをごらんいただきます。  
  新鮮胚を用いた治療成績は、この1年間で5,060名の子供が生まれております。また、凍結胚−−新鮮胚を凍結しておいて、別の周期のときに、後の周期のときに子宮に戻すということで生まれた子供が、表の9にありますように902名。それから、先ほどちょっと説明いたしました顕微授精を用いた治療成績では3,262名の子供が、この平成9年の1年間に生まれております。合わせて9,000人を超える子供の数になろうかと思います。表の11は、この顕微授精には、精子を入れる方法がいろいろございます。卵子の卵の自質の中に入れるこのICSIという方法、これが今、一般的でございますが、そのほか囲卵腔トウに入れる方法があります。細かいことは省略しますが、その術式別の顕微授精の成績が表11でございます。  
  もっとも重要なのは、この表12でございまして、治療法別の出生児数及び累積の、これまでの我が国における生殖医療技術による累積の子供の数は、そこに示されているとおりでございます。出生児の数は、この年度は9,211名でしたが、累積は3万6,000人を超えております。凍結胚を用いた治療によってできた子供がこれまでに1,926人ございます。それから、顕微授精を用いた治療によってできた子供が8,300人、こういう数になっておりまして、近年の傾向としては、凍結胚によるもの、あるいは顕微授精によるものの出生数が非常に増えている現状でございます。これが平成9年分でございます。  
  それから、この9−6−4は、平成9年分につきまして、我が国の体外受精の成績を国際的に提供するという立場で、平成9年分の今、お話ししました例数の中から、限られた施設で特別にアンケートをとってやったものでございます。国際対応用のアンケートでございます。141施設が答えてくれております。ここでは、調べる項目が非常にたくさん多岐にわたっております。項目がずうっと羅列されております。結果として重要な点は、大筋はあまり大きな変化の、特筆すべきことはないんでございますが、結果としては、1,110ページをごらんいただきたいと思います。  
  このTable14をごらんいただきます。これは、どのくらいの奇形の赤ちゃん等が生まれたかということの成績でございます。これは一般集団といいますか、自然妊娠と比べて、特に奇形率等に上昇はなかったという成績でございます。それから、Table15のほうは母体のほうの成績ですが、特に問題はなかったということで、体外受精等による出生時、あるいはその受精卵を移植された母体において、自然妊娠との間に医学的に差はないということをまとめた成績でございます。  
  それから、9−6−5は、ちょっと後で触れさせていただくことにしまして、きょう配付させていただきました追加の資料をちょっとごらんいただきます。9−6−6とナンバーリングしてあるものでございます。  
  これは、平成10年1月から12月末までの体外受精で生まれてくる子供の数等をまとめたものです。ですから、先ほどご説明したのは平成9年分でございますので、その翌年の分でございます。これは、学会誌、機関紙の6月号に掲載する予定の原稿でございまして、ほとんど完成度の高いものでございますので、いずれ6月号に出て公表されますが、せっかくのチャンスですのできょう持参いたしました。この年度からは、一つだけ違うことは、表13で、このつづってあるものの一番最後のページですが、非配偶者間人工授精の治療成績も、この年度から、平成10年度から新たに集計するようになってきました。これが従来のものになかった治療成績です。  
  それで、本文はちょっと複雑ですので、割愛させていただきまして、先ほどご説明いたしました、生殖医療の技術別の治療実績がどうであったかということをお話しいたします。重要な点は、回収率というと変ですが、現在442施設が、後で新しい施設のことをまた、前の資料に基づいて説明させていただきますが、442医療施設がございます。442医療施設のうちから414施設の回答を得ました。その結果がこのとじてあるものの中の表でございます。ごらんいただきたい表は、表9をまずごらんいただきます。  
  新鮮胚による治療成績、出生児数は5,751児でございます。それから、凍結胚がこの前年度は900ほどでございましたが、10年度になりまして、1,568出生児数と増えてきております。それから、次のページの表11をごらんいただきますが、顕微授精の後の成績でございます。これが急速に増えました。1年間で倍以上になっております。出生児数は3,671になっております。そのほとんどはICSIによりまして、精子を細いガラス管の中に1個入れて、卵の自質内に注入するという、このICSIという方法でございます。それが12の表でございます。  
  そこで、表14をごらんいただきます。これは、この年度の出生児数とこれまでの累積出生児数です。この年度は1万986人、平成10年は生まれてきました。新鮮胚、凍結胚、顕微授精胚による妊娠、それぞれの数値でございます。シャドウにしてあるところは、これまでの累積でございます。10年分を含めた累積でございますが、既に4万7,000人を超える子供が出生しております。表13はこの年度から初めて集計をいたしましたAID−−非配偶者間人工授精の成績でございます。  
  そこで、現在、どのぐらいの施設がこのような医療を行っているかということを、先ほどの資料の9−6−3に戻ってご説明いたします。9−6−3をごらんいただきます。  
  これは、各医療施設名が医療技術ごとに、また、都道府県別に出ております。これは、医療従事者間の便宜を図るということと、こういう医療を希望する患者層へのサービスということも含めて、連絡先等も書いてあります。まず、体外受精・胚移植、いわゆる普通の体外受精に関連した登録施設は448施設ございます。368ページからずうっとめくっていただきたいと思います。  
  それから、次のカテゴリーでは381ページをごらんいただきます。 
  これは、凍結保存をしている施設でございます。これは234施設国内にございます。その次は、顕微授精、これは388ページをごらんいただきます。顕微授精を実施している施設は、182施設登録されております。それから、一番最後の394ページでございます。これは、非配偶者間人工授精、第三者の精子を用いての妊娠をしているところでございます。これは、この昨年の3月末現在で10施設ございます。こういうふうに登録している施設も年々少しずつ増えてきておりまして、また、施設名を含めて公表されている現状をご紹介させていただきます。  
  それから、もう1点、この委員会とまた非常に関連のある資料であるかと思いますが、精子・卵子を用いての臨床研究、これは先ほどの会告の説明でもさせていただきましたが、この臨床研究を行っている施設が9−6−5に示されておりますとおりございます。  
  これは、きょうの資料には施設名、また、担当研究者、研究担当者の氏名等をあえて記載しておりませんが、107項目について研究は進められている現状でございます。これはすべて会告に基づく登録制度をとっております。そういう現状でございますが、この3月の末までに各医療技術別に普通の体外受精、凍結保存の体外受精、あるいは顕微授精、人工授精、非配偶者間人工授精、それからまた、本委員会で最も関係のある精子・卵子を用いての研究に関する登録制度の現状、これを3月末日を締め切りにして、今、アンケート調査をして、ほぼ終了したところでございます。まだ、集計は具体的に出ておりません。  
  いずれその集計結果を公表したいと思いますが、まず、研究のほうに関連しては、115の施設から、先ほど平成11年の3月31日現在で107題目があると申しましたが、その後も追加がございまして、現在115の題目が進行をしております。この進行している題目につきまして、各施設へアンケートを3月末を締め切りにさせていただきました。その結果、115の研究題目がございます。これは、研究者名、研究題目、研究目的、研究機関、それから、公表、論文発表等を含めた公表の有無等についてのアンケートをしております。集計はまだ集めている最中でもありまして、完全ではございませんが、集計結果をこれから出そうと思っておりますけれども、多くの施設がほぼ100%に近くアンケートに回答を寄せていただいております。そういうことで、受精卵、あるいは卵子・精子を使った研究が我が国で今どのようになっているかということの現状を把握できるものと、かように思っております。  
  なお、また、学会といたしましては、現在、日本臨床遺伝学会、あるいは日本人類遺伝学会と協議をいたしまして、この生殖医療に関連するカウンセリング制度を導入することを今、目標にしております。今、申しました両学会とも話し合いを終えまして、ほぼ同意を得ましたので、年内には生殖遺伝カウンセリング制度が導入され、このような医療が患者と医師と1対1の関係で行われるのではなくて、第三者が、すなわちカウンセラーを介在させた状況で行われるように今、進めております。  
  それから、もう1点は、法的な整備のことでございますが、特にこのような生殖医療、例えば精子提供による子供が生まれた場合のその子供の権利、福祉、あるいは出自を知るいろいろな状況等についての決まりが民法の親子法の中にも、残念ながらまだ十分整備されていないようでございます。特に772条の少しの改善を学会といたしましても、関係方面に働きかけて、今後推進していきたいと、こういう実情でございます。  
  非常にはしょりまして、ご理解いただけなかった点もあろうかと思いますが、社団法人日本産科婦人科学会としても、この方面の医療を責任を持って、また、いい形で国民に提供するという立場上から、鋭意倫理委員会等を中心に今後努力を重ねていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。  
(井村委員長) 
  どうも大変ありがとうございました。 
  それでは、せっかくの機会ですので、少し質問をお受けいただけたらと思います。どうぞ。岡田委員。 
(岡田委員) 
  私、ヒト胚の小委員会の委員長をしておる岡田なんですが、委員会のところで、ES細胞を採取して、ES細胞の研究ができるようにしたいという流れをつくりましたけれども、そのときに余剰卵ということで、産婦人科学会の体外受精をやられるところとの対応をしなければいけないというあたりのところになっているんですが、その余剰卵を使ってES細胞をとるところ、ここは相当きついコントロールの条件をつけたました。これは、非常に危なっかしいと思って、一つの秩序立った形でやってほしいということで、非常に難しい条件を出しました。それでね、この条件が今まで産婦人科学会でおやりになっている受精卵をも培養して研究に使うというあたりのところとバランスがとれないんですよ、非常に難しい条件をつけましたので。それで、私たちのところでの議論というのは、生殖医療の土俵の問題ではなかったわけです。生殖医療以外の土俵という格好で新しい医療というあたりへ向かってということではあったんですけど。  
  ただし、受精卵を試験管の中で培養して、研究するというような意味合いのことでは一緒なものです、ここのところをどうやって整合性を持たせるかというのがこれからちょっと問題になるところだと、実は思っておりまして、これ、6−6を見せていただきますと、あれでしょうか。倫理委員会というのを常設しておられる、常設するということになったわけですね、産婦人科学会で。  
(藤本先生) 
  倫理委員会は昔から、形態はちょっと違いますけれども、常設しておりました。 
(岡田委員) 
  それで、下部組織として登録、小委員会が設置されているというのは、例えばこの9−6−5にあるような研究に関係するところの資料というのも全部ここに入ってくるというふうなことでございますか。  
(藤本先生) 
  はい。 
(岡田委員) 
  そういう意味でES側との対応、非常に受精卵を培養するという同じ土俵のところでの制限状況の問題で、相当差がありますのでね、ここを何とかこれからお話し合いをさせていただきながら、ある形づくりをやっぱりしなければならないのではないかと思っておりますので、その辺よろしくお願いしたいということです。  
(藤本先生) 
  それは昨年の12月の小委員会に私どもも陪席させていただきまして、そのときに我々の考えていることも十分申し上げたと思うんですが、要するに、ちょっと時間をいただければ、言葉のことからいいますが、余剰胚というこの「余剰」という言葉に、我々臨床家のほうは非常にこだわったんでございます。といいますのは、あくまでも子供を持つという一つの目的のために体外受精を、受精卵をつくるわけですね。そして、子宮へ戻すんですが、全部は子宮へ戻しませんで、当然健康な受精卵が残るわけです。健康な受精卵は、体外受精の成功率というのは20%内外ですので、凍結しておいて、次の周期、あるいはまた後の周期にその正常と思われる凍結受精卵を戻していく。あくまでも体外受精というのは、子供を持つということが第一前提であるわけですね。しかし、幸いにして希望する子供の数だけ持つことができた患者さんであれば、凍結しておいた受精卵についてはいずれに不要になることがある。それ以上子供を持ちたくないという、そういう患者の希望もありますので、そうすると、その受精卵を、多くは凍結されているわけですが、どう使うかということになるわけです。そのときに私どもとしては、未利用卵、利用しなかった卵子とか、受精卵と、そういう言葉でしていただきたかっんですが、決して余ったものではないということなんですけど、そういうディスカッションもあったと思いますし、ライフサイエンス課の方とも、私、やったんですが、しかし、何となく余剰卵、余剰胚といったほうが一般的にご理解いただけやすいということであれば、これは、その意味さえしっかり皆さんが理解していればいいだろうということで、余剰胚という言葉を利用されることについても、少しずつ抵抗感がなくなってきたというのが実情でございます。これがまず第1点でございます。  
  それから、もう1点は、患者並びにその家族等からのインフォームド・コンセント、了解を十分得たしても、ES細胞をつくるために、いわば、余剰胚を提供するということにおいてはその施設も非常に限定すべきだ。そんなに何十カ所も施設は要らないと思います。何カ所かで済む話でございますので、厳格な基準を設けて、そして、施設もむしろ指定して、もちろん学会のほうではいろんな情報を提供いたしますので、学会のほうでも場合によってはその施設を選ぶときに採取施設ですね、ES細胞の採取施設を選ぶときにご協力はしますが、そういう施設限定ということを非常に強調したつもりでございます。  
  それからあとは、その提供された細胞を使う研究実施機関、これについては、学会としてはまた別の範囲になりますので、そこまでは申し上げるつもりはございません。ただ、ES細胞を採取する機関、これについては、多くの場合産婦人科施設が対象になると思いますので、これについてはやはりしっかりした基準をぜひ設けていただきたいと思います。これはぜひ、むしろ我々のほうからお願いしたいと思います。  
(岡田委員) 
  これからの問題なんですけれども、ちゃんと整理しなければいけないところが大分あると思いますので、ひとつよろしく……。 
(藤本先生) 
  それからあと、もう当然のことですが、余剰胚を提供する家族についてもプライバシーの保護とか、お金が絡むような行為がないということが、これはもう当たり前のこととして学会も見解をまとめておりますので、ただ、施設の選定だけをぜひ厳格にむしろしていただきたいと、こういうふうに思います。  
(井村委員長) 
  ほかに何か、はい、どうぞ。 
(高久委員) 
  今度統計をとられるときに、できれば、余剰胚はどれぐらいの、割合たくさんもうデータはあるんでしょうか。 
(藤本先生) 
  これはもう正確なデータとしてまだ把握しておりませんが、印象では、先ほど資料でもちょっとお示ししましたように、年間何万周期という周期が、例えば10年度ですと、治療周期数は6万周期も行われておりますものですから、そうすると、1回、全部が全部、卵子を全部とれるとは限りませんけれども、平均して4つから6つぐらいは卵子がとれていきます。これ、少な目の数ですけれども、そして、今度は受精をさせるわけですけれども、多くの場合、そのデータにも出ていますけれども、大体半分ぐらいは受精が可能です、少な目に見て。そうすると、何万、最低3万とか、5万とかという受精卵は、いわゆる凍結されるか、あるいは凍結施設のないところでは破棄されるかとか、子宮へ戻されないような状況で捨てられる、こんな現状でございます。ですから、そういう受精卵の胚の提供ということについては、そんな問題ないんじゃないかと思います。ただ、提供の仕方とか、管理とか、そういうところでむしろう問題が出てくるんじゃないかと我々は思います。  
(井村委員長) 
  ほかにございますでしょうか。これは、社団法人の産婦人科学会でありますから、許可制とか、そういうことは難しくて、登録制にしておいでになるということはよくわかるわけですが、実際行われているものの大部分がまず登録しているというふうに考えてよろしゅうございますでしょうか。  
(藤本先生) 
  例外はもちろんないとはいいませんけれども、登録は9割以上は登録してきちっとやっていると思います。登録しないで、こういう医療をやるという施設はないとは言えませんけれども、9割と言わずもっと100%に近い数が登録していると思います。  
  それから、最近は登録施設の中でも、実際にその医療をやっているかやっていないかということを3月末でアンケート調査したことも、それなりに皆さんの意識を喚起したんでしょうか。実績の報告ももう九十何%というふうに、非常に上がってきてはおります。  
(井村委員長) 
  大体、現在の技術ですと、3個の受精卵を戻しますと、双生児ぐらいまではできる可能性があるわけですか。1人ないし2人ぐらい……。 
(藤本先生) 
  約3胎といいますかね、三つ子が……。 
(井村委員長) 
  3胎のこともありますか。 
(藤本先生) 
  大体今、母体当たりといいますか、3個戻すことを原則にやりまして、妊娠する率が大体20%、数値が細かいのでデータが出ていますが、大体20%ぐらいなんですね。施設によっては30%超えるところもありますが、日本全体では20%、そういう状況であります。3胎が今は百七十何組みぐらいですか、昨年の報告でも生まれておりますけれども、一時のように、4胎、5胎が生まれる率はもう極端に今、少なくなってきていると思います。  
(井村委員長) 
  減数手術に関しては、まだ特に学会としての規定は設けておられない? 
(藤本先生) 
  会員は重複しておりますが、日本母性保護産婦人科医会がございますので、そちらのほうの法制委員会で検討している状況で、もちろん我々産婦人科学会のほうも情報も、資料も得ております。ただ、学会としては減数手術についての見解はまだ特に出しておりません。むしろ、学会は学問的な立場から減数手術をした後のフォローアップといいますか、ほかの残った子供がどういう状況になっているか、これを少し学問的に追跡調査したいという、今、準備をしております。  
(井村委員長) 
  ほかに何かございますでしょうか。はい、どうぞ。 
(永井委員) 
  さっきの名称の問題ですけれども、つまないことかもしれませんけれども、後で名前は意外に尾を引く部分で、調整が可能なんですか、未利用と余剰胚というのを。  
  余剰胚と未利用、産婦人科学会では、余剰胚というのは非常に抵抗を覚える名前で、そういう形で出ていたんで、産婦人科学会では未利用胚としてほしいんだということが。  
(井村委員長) 
  名前の問題、岡田先生、いかがですか。 
(岡田委員) 
  委員会でも2つの言葉を使いながら、どっちがいいかという話になって、産婦人科学会からの話も含めて、余剰胚のほうがいいということであったんじゃないかという、実はちょっと思っていたんですが……。  
(永井委員) 
  武田先生がそうおっしゃったんですね。 
(岡田委員) 
  いや、もう言葉じりの問題をね、もとの問題点がもっと深いことがありますよ。 
(井村委員長) 
  はい、どうぞ。 
(森岡委員) 
  一言だけ。先生のご意見として、生殖医学全体に対して、ヨーロッパのように規制を、法律をつくったほうがいいのか、それとも学会の規制でやるのがいいのか、その点だけちょっとご意見を……。  
(藤本先生) 
  確かに世間をお騒がせしまして、いろんなことが産婦人科学会の中からありますけれども、ただ、我々の見解としては、日本のほかの臨床学会と同じように、やはり学会の自律性と自浄作用をより多く発揮して、はやり会告レベルで、もちろん会告の改定とか、そういうことは今後あると思いますけれども、やはり会告中心の運営のほうがよろしいのではなかろうかという見解は持っています。ただ、保健医療を生殖医療にどのくらい導入するとか、健康保険の点ですけれども、そういうことと関連しては少し規制が出てくることもやむを得ないのかなとは思っています。  
  少なくとも学会もこういう医療を行う施設が備うべき基準とか、こういう医療に携わる医師がどういう研修を受けてなきゃならないとか、そういうことを自己規制の中で会員にも知らせるようなことを学会誌に載せてありますので、そういうことが少しずつ徹底していきますと、特別に法律で規制を医療の隅々まで受けるということよりは、自主的な運営のほうが今の現状を考えて、受け入れやすいのではなかろうかと思います。  
(井村委員長) 
  よろしいですか。ヨーロッパの場合には、特にフランス、ドイツあたりかなり厳しいわけですが、胚だけでなくて、当然胎児も全部含んでいるわけですね。日本の場合にはかなり人工妊娠中絶がもう古くから行われているわけで、その辺少し状況が違うと思うんですが。  
(藤本先生) 
  人工妊娠中絶との整合性といいますか、その違いも、もう現実に動いていることですので、これを原点に返って考えるということも、基本的な問題を解決するにはもう難しいことがいっぱいあろうかと思います。  
  それから、もう1点、ヨーロッパ、イギリスでもそうですが、実施施設の数が非常に限定されております。例えばイギリスでは体外受精ができるような施設は七十数カ所、そういう施設しかないわけですね。我が国は、先ほどご紹介しましたように、400施設を超えているということでございます。そこから、今、この走り出してしまっている現状を考えますときに、医療を担当している医師の生活権とか、そういうところへまで場合によっては話が進みかねませんものですから、やっぱり自主規制をしっかりやっていくのがよろしいかなと思います。  
  これだけ生殖医療というのは、倫理的な問題がありますけれども、安全性とか、技術面ではもうほぼ完成しているわけですね。臓器移植のようなああいう法的な整備の中でやる医療と、ちょっとまたニュアンスが変わってくるんじゃないかというふうな受けとめ方を我々はしております。  
(井村委員長) 
  それでは、どうも大変ありがとうございました。 
  今のいろいろご説明をいただきまして、現在の体外受精の我が国における現状、大変よくわかったというふうに思いますので、そういった結果を踏まえまして、これからヒト胚全体について議論を進めていきたい、そのように考えております。  
  最後に法律案についてごく簡単に。 
(事務局) 
  それでは、最後の資料の9−7にお配りしましたヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律案につきまして、現状につきましてご説明いたしますが、先週の金曜日に内閣として閣議決定いたしまして、国会に提出されてございます。現在、まだ審議といったものはされていないわけでございますが、簡単にこの法律案要綱の内容、昨年の12月のクローン小委員会の結論、それから、この生命倫理委員会での決定分といったものをできるだけ忠実に法律化、法律の条文化するといったことで、こういった形をまとめてさせていただいたものでございます。  
  最初に、法律案要綱でございますが、簡単にご説明させていただきまして、第一のところで、目的ということで、その特定、いわゆるクローンの特定の人と同一の遺伝子構造を有する人、あるいは人と動物のいずれであるかが明らかでない個体をつくり出すといったことに対する規制を確保するということでございます。それから、次の2ページ目の第二の定義ということで、非常に生物学的な用語は定義しにくいわけでございますが、かなり最初のもとから、根っこから胚といったようなものから定義させていただきまして、約20号ぐらいにわたって定義させていただいております。  
  それから、一番のポイントは、5ページの第三の禁止行為でございます。何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚、いわゆる人クローン胚とキメラ胚、ハイブリッド胚、これを人又は動物の胎内に移植してはならないものとすると、これが一番のまず一つのポイントでございます。  
  それから、2番目がその第四の指針及びその遵守義務ということで、この指針を策定すると、この特定胚と、こういったようなものをいろいろ特定胚と称しましたが、このクローン胚などの特定胚の取り扱いに関する指針を定めると。この指針は、総合科学技術会議の意見を聞いて定めると。年内はこの科学技術会議ということになると思いますが、意見を聞いて定めるということになっております。当然その特定胚の取り扱いは指針に従って行われなければならないということです。  
  それから、第五の特定胚に関する届出以降、届出、あるいはその届け出する60日間の間は実施の制限が、それが第六。あるいは第七のその取り扱いの計画の変更命令とか、あるいは実施の変更命令とか、あるいはそれを記録させる、それから、個人情報の保護を求めること、あるいはその報告の聴取、さらには立入検査ができるようなものを考えてございます。それと、そのクローン胚などの規制につきましては、指針に基づく厳格な規制をするということで、原則指針で、この間の報告書にございますように、原則は、このクローン胚等の取り扱いにつきましては禁止すると。ただ、一部ほんとうに有用な研究については、厳格な審査のもとに一部認めていく方向で考えるといったことでございます。  
  それから、最後に9ページ目にございますような、罰則についてでございますが、先ほどの何人も移植をしてはならないという禁止に違反した者は、5年以下の懲役、もしくは500万円以下に罰金に処すと、あるいはその併科をするといったことが規定してございます。一応、11ページ以降、今回の要綱につきましては、非常にわかりにくいものですから、いわゆる模式図等でこういった生物学的なものにつきまして説明している次第でございます。  
  以上でございます。 
(井村委員長) 
  法律に図が入ったのは初めてだという話を聞いておりますが、大変わかりにくいので、図を入れていただいたわけです。罰則5年が短過ぎるんじゃないかという意見も新聞に載ったりしておりますけれども、これは法律の専門家が考えられて、その辺が妥当であろうということになったわけで、私は十分な抑止力があると思っております。というのは、5年ですと実刑になりますし、当然、医師免許等も剥奪されるということになるだろうと思いますから、実際的な効果はないという意見もあるようですけれども、私はあるというふうに考えております。そういうことで法律がいよいよ審議に入る段階になっておりますので、どうぞまたよろしくお願いをいたします。  
(池田局長) 
  この法律につきまして、この内容をごらんいただきますと、クローン胚というのをクローン小委員会でご議論いただいて、これは、明確に体細胞に用いた胚であるということを明確に定義してあるわけですけれども、なれない胚ですとか、移植ですとか、そういう言葉があるものですから、今、藤本先生のほうからご紹介あったような、受精した後の胚の扱いですとか、そういったこととあわせて議論される向きがございます。私ども、そういうこととは、またそういう意味では一線を画して、これは人の受精ですとか、生殖医療とは全く違う問題であるといったことについてはっきり世の中の方の理解を得て進めさせていただく必要があると思っております。この辺りは、科学技術会議で今までいろいろ議論されたことなんですけれども、法案の形にいたしますと、やっぱりこういうことについて法律を提案するのは初めてなものですから、AIDと一緒にして使用すべきだと、そういう議論がございます。私ども、そういうことにつきましては、むしろ今、藤本先生のほうから、医療についてはいろんな取り組みもされていますから、それと、まだこういう研究としてもやってはいけないといったような部分の人クローンですとか、そういったものについてははっきりと区別して、これははっきり禁止しなきゃいけないといったことについても理解いただくことも、我々のほうもしっかりとさせていかないと、この法律の成立は難しいんじゃないかなと思っております。  
(井村委員長) 
  それでは、本日の生命倫理委員会、これで閉会とさせていただきます。どうも予定より少しおくれてしまいました。大変長い間ありがとうございました。 

──  了  ──