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 第8回科学技術会議生命倫理委員会議事録 

  1. 日時    平成12年3月13日(月)    15:00〜17:30 

  2. 場所    科学技術庁第8会議室(通商産業省別館9階) 

  3. 出席者 
         (委  員) 井村委員長、石塚委員、佐野委員、島薗委員、高久委員、田中委員、 
                      藤澤委員、町野委員、森岡委員、吉川委員 
         (事務局)科学技術庁  池田研究開発局長、小中審議官、佐伯企画官 
                      小田ライフサイエンス課長  他 

  4. 課題 
          (1)ヒト胚研究小委員会報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」について 
          (2)ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究について 
          (3)その他 

  5. 配付資料 

        資料8−1  パブリック・コメントの結果について 
        資料8−2  パブリック・コメントに寄せられた意見の概要 
        資料8−3  パブリック・コメントの類型と対応についての基本的な考え方 
        資料8−4  シンポジウムの結果について 
        資料8−5  生命倫理に関するアンケート結果概要 
        資料8−6  ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方 
        資料8−7  ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究について(案) 
        資料8−8  ヒトに関するクローン技術の規制等に関する法律案(仮称)の概要について 

  6. 議事 

    (井村委員長) 
      それでは、まだ少しお見えにならない方もおいでになりますが、定刻を過ぎましたので、ただいまから第8回生命倫理委員会を開催させていただきます。 
      本日は、大変お忙しい中、この会にご出席をいただきましてありがとうございました。 
      前回お諮りいたしましたように、この生命倫理委員会、今回から公開とさせていただきまして、本日はその公開第1回でありますので、非常にたくさんの傍聴の方がおいでになっております。 
      早速、それでは、議事に入らせていただきます。 
      まず、事務局から資料の確認をお願いします。 

    (事務局) 
      それでは、確認申し上げます。 
      まず、一番上に第8回の議事次第の紙がございます。 
      次に、資料8−1といたしまして「パブリック・コメントとりまとめの結果」、資料の8−2といたしまして「意見の概要」、資料8−3といたしまして「パブリック・コメントの類型と対応についての基本的な考え方」、資料8−4といたしまして「シンポジウムの結果について」、資料8−5といたしまして「生命倫理に関するアンケート調査の概要」、8−6といたしまして「小委員会の報告、基本的な考え方」でございます。 
      8−7といたしまして、生命倫理委員会のクレジットでございます案でございます。資料8−8といたしまして、「クローン技術の規制等に関する法律案(仮称)」につきましてでございます。そのほかに、先ほど島薗委員からいただいたご意見についてお手元にお配りしてございます。 
      以上でございます。 

    (井村委員長) 
      ありがとうございました。 
      それでは、早速、議事に入りたいと思います。 
      前回、意見公募中のヒト胚研究小委員会の報告書(案)ですね、これについて、この委員会でフリーディスカッションをしていただきました。そして、基本的な方向についてはご承認をいただきました。 
      本日は、その後、一般の意見公募の結果が出ておりますので、まず、それを踏まえまして、先週、ヒト胚研究小委員会がまとめた報告書について報告をしていただきます。その上で、この委員会としても議論をしていただきたい、そのように思います。 
      それでは、事務局から説明をしてください。 

    (事務局) 
      それでは、まず、パブリック・コメントによりましていただきました意見等についてご説明申し上げます。 
      まず、資料の8−1でございますが、2月にほぼ1カ月間にわたりまして意見募集をいたしました。その間、学術団体、社会団体、地方公共団体等、約400団体に対しまして、事務局より報告の案をお送りいたしましてご意見を求めたほか、一般の方々からホームページ等を通じまして資料の公開、あるいは電子メール、電話等について問い合わせた方々に対しまして資料をお送りいたしまして、意見を求めたものでございます。 
      その結果といたしまして、募集期間中に計88件の意見が寄せられてございます。内訳は3.に示してあるとおりでございます。 
      そのいただきましたパブリック・コメントの意見の概要につきまして、資料8−2にまとめてございます。これは事務局が整理の関係で取りまとめましたもので、大体に取りまとめてございますが、その内容がどのような傾向にあったかということをここでご説明いたしますためにご用意させていただきました。 
      まず、学会、研究会等でございますが、関係の学会からはかなりこの報告案の方針を支持するご意見が多うございます。獣医学会、心身医学会、人類遺伝学会、また泌尿器科学会等も報告案の方針を支持するようなご意見がございまして、学際会議からも総論は賛成いただいてございます。ただし、「ヒトの初期胚に対する基本的な考え方を再度慎重に整理していく必要があるだろう」というご意見でございます。 
      また、仏教思想学会からは、「ヒト胚研究の可否についての議論が必要であり、生殖医療そのものの見直し、生命倫理とは何かについての見直しが必要」というご意見をいただいてございます。 
      日本哲学会からは、聞き取り意見の取りまとめといたしまして、「基本的考えを支持する会員が多い」とのご意見をいただきました。「ただし、拡大を懸念する声がある」ということでございます。また、プライバシー保護、インフォームド・コンセントにつきまして具体的なコメントをいただいております。また、「現段階では樹立機関のガイドラインが適切との意見だが、個体の産生部分については罰則を検討すべき」という意見も見られたとのことでございます。 
      日本癌治療学会からは、「原案に賛成同意する」とのご意見でございまして、「研究の進歩と社会の変化に対応するため修正条項の追加」というご意見をいただいてございます。そのほか少数意見についても併記されております。 
      日本繁殖生物学会からは、「報告案を基本的に支持する」とした上で、体細胞の研究の考え方、あるいは機関におかれます審査委員会の構成などについてのコメントがございます。 
      日本民族学会の理事会意見の取りまとめといたしまして、かなり詳細な検討をいただいておりまして、まず、「議論のたたき台として評価する」とのことでございますが、「医療人類学上の検討が必要である。諸外国の検討の経緯、社会的背景を論ずるべき」とのご意見でございます。また、「ヒト胚の研究利用に関する考え方が抽象的で不明確であり、人や生命とは何かについて大きく踏み込んだ議論が必要」とのご意見でございます。「基本的な理念があいまいなままで具体的基準を議論していくことについては問題ではないか」ということ。「研究の妥当性を審査する権威をもった第三者機関を恒久的に設置すべき」というようなご意見をいただいております。また、法規制の必要性、インフォームド・コンセントの改善点、スケジュールの問題等をご指摘していただいた上で、「報告は議論の端著と位置づけるべきである」とのご意見をいただいてございます。 
      日本医学哲学・倫理学会からは担当理事のご意見として、「全体としておおむね賛同できる」とのことでございますが、「これで問題がすべて解決するかについては危惧がある」ということでございまして、「研究に限定したため大きな問題を含むこととなる」というご意見をいただいてございます。包括的な議論を行う場の設定と開放的な「生命倫理研究センター」の設立を提案いただいてございます。また、研究機関におかれます審査委員会の審議の公開といったことについてもご指摘をいただいてございます。 
      日本化学会からは代表意見の集約といたしまして、「全体的によく考えられている案である」ということ。「厳密に実行されるような措置が必要である」というご意見をいただいてございます。「違反者に対する罰則も必要ではないか」というご意見でございました。「ヒト胚を使うことに、より明確な倫理的な規制をかけるべき」ということ。また、「ヒト胚研究推進を前提とした案であるように思える点もありますので、慎重な対応が必要である」というようなご注意をいただいてございます。 
      日本薬学会からは、実施にあたっての必要な事項を網羅し、倫理面における問題点にもかなりの配慮がされている点で評価をいただいております。「ES細胞の樹立、保管等に倫理的な配慮が必要であり、むだがないような配慮が必要だ」ということでございました。倫理委員会の構成にも配慮をいただいてございます。「ES細胞の使用は重要なものであるが、十分に社会的コンセンサスを得ること。規制上の環境を整備することは国策としての財政支援」、こういった点についての指摘をいただいてございます。 
      日本家禽学会からは、「特に異議はない」とのご意見。 
      動物学会からは、「実際の運用や、違反した場合への対処につき十分な配慮が必要であり、早急に結論を求めるよりは、十分な検討が必要」とのご意見をいただいております。 
      日本胚移植研究会、日本畜産学会、特に代表者のこ意見といたしまして、ES細胞の応用例として遺伝子治療に関する記述がない点にご指摘がございます。「ミトコンドリア異常症について核移植への過度の期待は危険」とのご意見。それから「余剰胚の提供は治療終了後とすべきではないか」というご意見をいただいてございます。 
      日本組織培養学会倫理問題検討委員会からは、報告をよりよくする趣旨のコメントといたしまして、「ヒト胚の研究の結果起こり得る利益及び倫理面でのリスクを徹底的に分析し、その境界を指摘すべき」とのご意見。「規律を守る仕組みについては、別途の検討が必要」とのご意見をいただいてございます。規制内容につきましては、「現時点では妥当であるが、規律を守る仕組みが充実した際には、創造的な研究が総括的な禁止規定によって妨げられるおそれがある。一律な禁止規定を置かないほうがよいのではないか」というようなご意見でございます。また、樹立機関の当初から絞ることにつきましては、「研究の妨げとなるおそれがある」とのご指摘もいただいています。「情報公開の具体的進め方の明示が必要」との意見もございした。 
      日本整形外科学会からは、「報告案に賛成する意見が多数」とのご意見がございまして、そのほかに少数意見の併記もございます。 
      解剖学会からは、「正鵠を射た内容」とのコメントをいただいております。 
      血液学会から数人意見の取りまとめといたしまして、「十分慎重に練られたものであり、基本的考え方に大きな問題なし」とのご意見でございます。「民間も視野に入れてまとめるべき」とのご意見がございました。 
      法律系の学会からは、「コメントの差し控え」というところが一つございました。医学系の学会から「特に問題なく、支持」ということでございましたが、意見の公表は差し控えたいということでございます。 
      各種団体でございます。まず、日本医師会でございますが、報告書案を支持いただいてございます。ヒト胚性幹細胞等の研究の重要性を指摘した上で、自主的・自立的制御の枠組みを評価してございます。 
      日本バイオインダストリー協会からは、「ヒト胚研究について明確な基本方針を国が示すことが重要であり、今後も議論が継続され、全般的な報告がなされることを期待する」とのことでございました。また、「目的によっては研究材料としての受精が認められるべきではないか」という各論。また、「ES制帽樹立機関の数を絞るより、管理システムの厳格さを追求すべき」とのご意見。「審査委員会への両性の参加が必要」といったようなご意見がございました。 
      日本製薬工業協会からは、「報告書を支持する」とのご意見をいただいてございます。 
      次のページでございますが、製薬会社からのご意見といたしまして、「ES細胞樹立機関の限定は、有用な細胞樹立にマイナスであり、不公平ではないか」というご指摘をいただいてございます。「発明を独占する権利は保障されるべきであり、公共の利益のため独占を排除するなら国が積極的に資金を提供し、成果を国に帰属させるべき」とのご意見でございます。 
      広島大学の医学部の倫理委員会からは、「ES細胞の応用は、一組織、一臓器の域を超えない範囲で進めるべきであり、積極的に取り組みたい」とのご意見でございました。クローン胚研究につきまして、「個体産生に問題があるが、細胞、組織の範囲内の研究は進めるべきだ」というご意見でございます。 
      鹿児島大学の医学部倫理委員会からは「特に意見なし」とのことでございます。 
      社会団体からでございます。まず、市民団体等の合同のアピールといたしまして、「審議を白紙に戻し、生殖医療を含めて人の生殖細胞の取り扱いをどうするか、市民を交えて議論すべき」との意見をいただいてございます。 
      DNA問題研究会からは、「人の胚の作成、利用の是非を国民に問わずに報告をまとめることは問題である。産科婦人科学会の会告、遺伝子治療に関するガイドラインと今回のものと3つの基準ができることは問題ではないか。あるいは審議が拙速」とのご意見でございまして、「産科婦人科学会に公式見解を問うべき」とのご意見がございました。「ES細胞の性質について個体産生につながる等の説明が必要だ」ということ。「国際的に突出した方針ではないか」ということをご指摘いただいた上で、「審議をやり直すべき」とのご意見でございます。 
      「SOSHIREN女(わたし)のからだから」という団体からは、「ES細胞研究の指針を作ることに反対」。理由といたしましては、人体の商品化のおそれがあるというようなご指摘をいただいてございます。 
      優生思想を問うネットワークからは、「ヒト胚の利用についての倫理的検討が必要である。ES細胞を用いた研究等遺伝子操作につながるものであり、容易に認めるべきではない」とのご意見。「不妊治療の実態の検証が必要」であるということ。「人の生殖細胞の使用について全般的な検討を十分行うことが必要である」ということ。「時間をかけて社会的論議の機会を提供することが必要である」とのご指摘をいただいてございます。 
      DPI女性障害者ネットワークからは「大筋の点で反論するところはない」とのご意見をいただいてございます。ただ、「特定疾患の扱いについて、障害を有する胎児の否定や生命の尊厳の軽視につながる危惧がある」ということ。「遵守事項の実効性を確保すべき」とのご意見いただいてございます。 
      フィンレージの会の有志の方々からは、「不妊治療の現場における実態を委員会は把握しておらず、報告案には反対する」とのご意見をいただいてございます。 
      地方公共団体からは「特に意見なし」として4団体でいただいてございます。そのほかに幾つか個別の研究機関等の意見としていただいているところがございます。それはそれぞれの専門家等の部分に分類して挙げてございます。 
      専門家、まず、医科系・理学系の方の意見でございますが、金沢大学の産婦人科の医師の方からは、「研究者の倫理に期待しても実効性が疑問であり、『命』とは何かを考えると、ヒト胚研究を進める意義が見出せず、ヒト胚研究に反対」とのご意見をいただいてございます。同じく産婦人科医の方から、「決定権は胚にある」という考え方で、「胚に代わってドナーがインフォームド・コンセントを与えるととらえるべきではないか」というご意見をいただいてございます。 
      東北大学の教授の方からは、「全体として評価する」とのご意見でございますが、「社会的コンセンサスを得るのに性急との印象がある。EG細胞の樹立を認めるべき。あるいは米国のES細胞の利用に明確な判断を出すべき」とのご意見でございます。 
      久留米大学の先生からは、「医療に今後重要な方法となるため、研究の可能性を残しておくことは重要だが、個人のプライバシーの保護、人間と動物の細胞の融合禁止等が必要である」等のご指摘をいただいてございます。 
      兵庫医科大学の研究者の方からは、「現状では妥当な案である」と。ただ、「本案を議論した背景を明示すべき。基本的に禁止されるべき研究と、倫理観の変化により解禁される事項と、こういったことを整理すべきではないか」というご意見でございます。 
      鹿児島大学の助教授の方からは「受精の瞬間から生命として扱われるべきであり、どこから生命として扱われるべきかあいまいにしたまま有用と認められる研究なら認めるという立場は問題ではないか」というご指摘でございます。「明確な見解を打ち出すべき」とのことでございます。 
      姫路工業大学の教授からは、「ヒトES細胞ではなく、組織幹細胞の研究を進めるべき」とのご意見をいただいてございます。 
      昭和大学の医学部の医の倫理委員会からは「内容を支持する」とのご意見。東北大学の教授からは「報告案に賛成する」とのご意見をいただいてございます。 
      帝京大学の医学部長の方からは、「報告案には必要なことはほぼ検討されているが、今後の具体的ケースへの対応が課題である」とご指摘をいただいてございます。「医療従事者への教育、余剰胚入手の妥当性の確保、違反者への対応策等が必要である」とのことでございました。 
      岩手生物工学研究センターの研究者の方からは、「考え方に賛成」とのご意見でございます。ただ、「特許防衛は特許の取得よりも公表により行うへきである」ということ。「ES細胞の管理は国が特定の機関で集中管理すべき」とのご意見でございます。 
      市民病院の院長の方から、「ヒト胚の研究は原則禁止すべきであるが、目的を限定した範囲の中でのみ許されることがあるとの考えもある」といただいてございます。「今後も慎重な検討が必要であり」とのことでございますが、「社会の意見のくみ上げにつきまして、一般国民には十分な理解がないまま情緒的な意見が多いとも思われるので、あまり賛成できない」とのコメント。ただし、「研究者の意見により安易なものとならない配慮も必要」とのご意見をいただいてございます。 
      子ども病院の院長の方からは、「ヒト胚研究は重要であるが、着床前のヒト胚、胎児への生命倫理観が希薄にならないことを強く希望する」とのコメントをいただいてございます。 
      都立大学の教員の方から、「大筋には賛成する。ただ、受精をもって生命として扱われ、保護されるべき対象として法律化すべき」とのご意見でございます。「ES細胞の有用性を強調し過ぎていること。着床前の動物胚へのES細胞導入自体を禁止すべき」とのコメントもいただいてございます。「ヒト胚は立派な生命体であり、発生段階に応じて生命の特徴を明らかにし、対処の仕方を変えていく考え方をとるべきはないか」とのご指摘でございます。 
      製薬会社の社員の方から、研究者でございますが、「ES細胞に関する記載は十分であるが、組織幹細胞から他の組織への分化の可能性もあり、万能性の幹細胞研究すべてに一般化された規制や手続きを検討する必要がある」とのご意見をいただいてございます。 
      人文系の専門家の方々のご意見でございますが、「国家はヒト胚を尊重するのみならず保護すべき」とのご意見。「生殖補助医療と切り離したため、生殖医療及びその研究の双方と人間の胚の扱いに差をもたらし問題ではないか。生殖補助医療に対する規制の検討を先送りしており、人間の尊厳が侵される懸念がある」とのご指摘をいただいてございます。また、当面の措置として、「関係学会に届け出された研究計画を生命倫理委員会に届けさせ、先端的研究については生命倫理委員会が確認すべき」とのご意見をいただいてございます。民間の研究所の室長、弁護士2名の方の連名でございます。 
      久留米大学の法学部の教授の方からは、「妥当な方向である。提供者からの承諾に際しての不当な説得の自粛等実施段階での検討が必要」とのご意見をいただいてございます。 
      富山医科薬科大学の哲学の先生からは、「社会とは何か、人間とは何かの議論が必要であり、まず、ヒト胚の身分について真剣な議論が必要」とのご指摘をいただいてございます。 
      法政大学の教授の方から「ヒト胚研究全般に関する指針案の作成を早急に検討すべき」とのご意見。「確認」を行う組織の構成への提案がございます。「当面の措置として生命倫理委員会の届け出」というものもご提案をいただいてございます。 
      同志社大学の方から「ヒト胚研究がもたらす正負両側面についての説明が必要である。ルールを逸脱する者への歯どめが重要。『人の尊厳』や『倫理』についての思想史的分析、影響の明示が必要」とのご意見でございます。 
      熊本大学の哲学の教授の方からは、「不死性、全能性といったES細胞の特徴について、特に将来の影響に関し、一層慎重な対処とより突っ込んだ検討が必要である」ということ。「人間の尊厳にはかなり慎重に対応しているが、生態系の保持への配慮、こういった視点も強調すべき」とのご意見でございます。 
      岐阜大学の名誉教授の方から「クローン胚等は移植医療に寄与すると考えられるが、個人の唯一にして独自の個性をあいまいにする、次世代への影響はないか等の危惧がある」とのご指摘をいただいてございます。クローン個体の禁止が絶対に守られるのか不安視するご意見でございました。「ヒト胚提供者のインフォームド・コンセント、プライバシー保護等を慎重に配慮し、丁寧に行うべき。生命倫理の議論は今後とも一層周到に行ってほしい」とのご意見でございます。 
      心理学の研究者の方から「科学技術の悪用を防ぐ社会の成熟度の低い現段階の我が国においては、ヒト胚を用いた研究、実験等を行うべきではない」とのご指摘をいただいてございます。 
      一般の方からのご意見でございますが、「研究者の責任を明確にすべき」というコメントを新聞論説委員の方からいただいてございます。 
      また、家事手伝いの方から、「情報公開、ドナーの自由な意思決定、審査機関の公平性担保の実効性についてきちんとできるかどうか」という疑問が呈じられております。「将来を見通した合理的かつ柔軟な対応に向けた議論を練り上げられるべき」とのご意見。「遺伝情報の操作や障害者の排除といった問題の防止策が必要である」とのコメントがございました。ただ、「移植医療等の早期実用化は重要である」とのコメントをいただいてございます。 
      主婦の方から「ES細胞について、国費による研究を日本が世界で最初に実施することを懸念する」とのコメント。「受精時から生命の萌芽とする考え方については賛同したい」ということでございます。「ヒト胚には手をつけないという欧州諸国と協調を目指すべきだ」というご意見。「動物を使った研究には懸念」が表明されてございます。 
      また、主婦の方から「胚性幹細胞を使って特定組織の移植の研究を進めてほしい」とのご意見がございました。また、主婦の方から「移植用材料のためにヒト胚を提供することは危険であり、ヒト胚は法律により保護されるべき。ヒト胚性幹細胞の扱いについて、ヒト胚の重要性を再認識した上で再検討すべき」とのご意見をいただいてございます。同じく主婦の方から、「不妊治療の現状について、まず議論すべきであり、有効利用の名のもとにヒト胚を利用することに反対」とのご意見。 
      研究所の職員の方から「受精の瞬間から一つの生命として扱われるべきであり、人の胚の研究には反対する」とのご意見をいただきました。会社員の方から「治療の実現に向けて、胚性幹細胞の研究、再生医学の推進を期待したい」とのご意見をいただいてございます。 
      続きまして、後ほどご説明申し上げますシンポジウムにおきまして、参加者からもコメントをいただいておりますので、それについてご紹介いたします。 
      「余剰胚という表現は問題であり、研究施設にカウンセリング・システムの設置が必須である」とのご意見を医師の方からいただいてございます。ノンフィクション・ライターの方から「シンポジウムの告知が不十分だった。特許問題の検討が必要である。『胚とは何か』の早急な検討が現実問題への対応から不可欠であるということ。意見募集の告知、期間が不十分」とのご意見がございました。 
      個人名で2人の方から「罰則が必要」とのご意見をいただいてございます。 
      東京農工大学の生命工学科の方から「ヒト胚を特別視し慎重に扱う姿勢には同意するが、具体的な遵守事項に無理があり、ヒト胚の有用性を認識している者によるボランティアを募集したほうが自然な流れではないか」というご意見でございます。 
      九州大学の医療技術短期大学の方から「ヒト胚研究のあらゆる可能性を具体的に提示すべき。不妊夫婦等当事者にどう受けとめられるのか調査結果が欲しい。プライバシー保護の方向性を具体的に位置づけるべき」とのご意見をいただいてございます。 
      国学院大学の先生から「ヒト胚研究の周辺領域を含めて全体的な規制の枠組みを明確にすべき。パブリック・コメントが短期間」とのご意見をいただいてございます。 
      東京都の研究所の方からは「米国からES細胞等を入手し、研究をする手続きを明確化してほしい。最小限のヒト胚や他のヒト胚由来株を我が国として積極的に作成・保有していくべき」とのコメントをいただいてございます。自営業の方から「医療側にウエートを置かない情報公開を希望する」とのご意見でございます。 
      また、個人名で「ヒト胚を研究に用いることに対する議論を深めるべき。報告案が成立する前提となるヒト胚提供について具体性を欠き、人為的な余剰胚の作成防止等不可能に近いのではないか。審査機関の審査の具体性が必要だ」というコメントをいただいてございます。 
      研究者、教員の方から「不妊治療の現状を分析し、患者の人権から問題点を整理し、医療の改善を提言すべき。研究者、医師、企業、官庁の役割を明確にすべき」とのご意見をいただいてございます。そのほか、個人名で「不妊治療の現場見てほしい」というのが2つございます。 
      また、フリーライターの方から「報告案を棚上げするというのを明確にしてほしい」ということ。公務員の方から「配慮すべき事項は支持するが、認められる具体的な研究が不明確である」というようなご指摘をいただいてございます。「インフォームド・コンセントに関する記述の明確化」等についてのコメント。自営業の方から「基本的にこのような研究と試みを支持する」というご意見をいただいてございます。 
      以上のパブリック・コメントを踏まえまして、小委員会でどういう方向で対応するかということをまとめたものが資料8−3でございます。 
      まず、パブリック・コメントに寄せられたものにつきまして、報告書に示された基本的な考え方を支持するとの意見がかなり多うございます。これにつきましては、報告案の大筋を維持するという対応でございます。 
      続きまして、ヒト胚研究全般の検討が必要であるとの意見がございました。これについては、報告案を肯定しつつ今後の検討を必要とする意見と、全体の枠組みができるまで各論を議論すべきではないとの意見の双方がございました。 
      これについて、小委員会の基本的な考え方といたしましては、これまでの審議の結果、廃棄されることが決定したヒト胚を有意義な研究のために適切な手続き、方法により研究に使用することは認められるとの判断でございます。個別の事例について研究利用の妥当性、必要な手続きを検討することは可能であり、本報告は、特に重要な課題であるヒトES細胞に関して議論をまとめることとしたものである。ただし、ヒト胚研究全般についての検討が必要であることは明示し、生命倫理委員会や関連学会における検討を促しているという考え方でございます。 
      生殖補助医療そのものの検討が必要であるとのご意見もいただいてございます。こちらにつきましては、生殖補助医療につきましては、人の出生をめざすという点で研究とは別のはるかに深淵な問題を含むものであり、これまでの小委員会の議論を踏まえて本報告において取り上げることは無理である。現在、厚生省厚生科学審議会において生殖補助医療技術に関して検討が行われており、今後生命倫理委員会でヒト胚研究全般を検討する際には、これらの検討も踏まえつつ議論をすべき旨指摘してあるとの考え方でございます。 
      ヒト胚の位置づけに関し、宗教、哲学等広範な議論が必要との意見もいただいてございます。こちらにつきましては、社会においてそれぞれの立場から自主的な取り組みが求められる問題であり、今回の報告を契機に議論が高まることを期待するとともに、今後生命倫理委員会においてヒト胚研究全般を検討する際にかかる議論をくみ上げるよう配慮すべきとの考え方でございます。 
      当面の措置として、生殖補助技術等に関するヒト胚研究は、学会から生命倫理委員会に届け出させ、研究内容を確認すべきとの意見をいただいてございますが、こちらにつきまして、生殖補助技術に関するヒト胚研究をどう扱うべきかについては、今後議論すべきものであり、現時点で具体的な仕組みを提案することはできないとの考え方でございます。生命倫理委員会において今後検討し、また、本報告を踏まえ、学会等における検討が進められるべきものととらえてございます。 
      また、報告案に示された遵守事項等の実効性を確保すべきとの意見。これはサポートする意見、ここは問題であるとの意見、両方ございます。まず、ヒト胚の提供のインフォームド・コンセント、研究の制限等の実効性につきましては、指針の策定及びその運用の際に実効性を高める努力を払うとともに、ヒト胚研究全般を検討する中で運用面も含めフォローアップしていくことが必要との考え方でございます。 
      違反行為に罰則を付すべきとの意見がございましたが、これにつきましては、小委員会での議論から、ヒト胚の扱いそのものを法律による規制の対象とするとの結論は得られていない。ただし、ES細胞を用いて人個体を産み出すには核移植またはキメラの技術が必要であり、これらについては、クローン個体等の産生を規制する法律に位置づけられる指針に従うこととなり、実効性を担保する措置がとられるとの考え方でございます。ES細胞の樹立、使用に関する指針の策定、運用において実効性を担保する努力を促すとともに、生命倫理委員会としてそのフォローアップを行っていくことが適当ではないかという考えでございます。 
      ヒト胚研究そのものが認められないとの意見がございまして、まず、一つ目といたしまして、受精から命は始まり、研究は認めるべきではないとの意見がございました。これにつきましては、ヒト胚は生命の萌芽として慎重に扱うべきであるが、これまでの審議の結果、廃棄されることが決定したヒト胚を有意義な研究のために適切な手続き、方法により研究に使用することは認められるとの判断をしているというのが考え方でございます。 
      2番目といたしましては、不妊治療の現状への認識が不足しており、今の段階ではヒト胚研究を認められないというご意見がございますが、これに対しましては、実情に応じて実行可能な案を検討することは大切であるが、この小委員会の報告では、本来あるべき姿を議論し取りまとめたものであり、これを維持したいとのことでございます。ただ、指針の策定及びその運用の際に実効性を高める努力を払うとともに、引き続き現状の把握に努めていくということが必要であるとの考え方でございます。 
      ヒト胚の売買等の商業利用につながることを懸念する意見がございました。これにつきましては、ES細胞の樹立に必要なヒト胚の数はある程度限られたものであり、ヒト胚の商業利用につながらないよう基準・手続きを定めているところ、実際の運用においてこの基準・手続きを遵守させるよう努めるという考え方でございます。 
      また、本分野の研究の重要性を指摘する意見もございました。この点につきましては、研究の重要性にかんがみ、厳しい条件のもとES細胞の樹立、使用を可能とする報告をまとめたものであり、これを維持したいということでございます。 
      さらに、この研究につきまして厳し過ぎるというような影響を懸念する意見もございました。具体的には、ES細胞樹立機関数の制限の悪影響、あるいは禁止事項の設定、知的独占権への制限を懸念する意見がございます。こちらにつきましては、小委員会といたしましては、まず、倫理面を重視した枠組みを提案しており、この考え方を維持したいということでございます。実際に運用された段階で必要に応じ見直しをすることはあり得るのではないかという考え方でございます。 
      最後に、社会的論議・合意形成の必要性を指摘する意見が見られました。まず、今後の議論の必要性を指摘する意見、あるいは意見公募の期間の短さなどを指摘する意見もございます。これにつきましては、社会においてそれぞれの立場から自主的な取り組みが求められる問題であり、今回の報告を契機に議論が高まることを期待するということ。また、生命倫理委員会においてヒト胚研究全般を検討する際にかかる議論をくみ上げるよう配慮すべきであり、引き続き意見を受け付け、検討していく枠組みを整備する。指針の策定にあたっては、再度意見公募の機会を確保するということが重要だろうという考え方でございます。 
      以上がパブリック・コメントを踏まえたヒト胚小委員会での整理でございます。 
      続きまして、関連のものを少しご紹介いたします。 
      資料8−4、「シンポジウムの結果」、これは公開シンポジウムを先月の29日に行ってございまして、プログラムといたしましては、3ページをお開きいただきたいんですが、井村委員長に基調講演をいただいた後、事務局から報告案の紹介、それからパネルディスカッションを小委員会から位田委員、相澤委員、迫田委員、武田委員、町野委員にご出席いただきまして、外部のパネラーとして、白井先生、中辻先生にご参加いただいて意見交換を行っています。当日は、マスコミの関係の方を除いて116名の参加がございました。 
      また、資料8−5は「生命倫理に関するアンケート調査の概要」でございまして、将来より正確な意識調査の設計のための基礎資料とする目的から、民間の調査に相乗りする形で回答をいただいております。非常にラフな質問でございますので直観的な回答になっていると思いますが、3ページ、まず「ヒト胚に対する考え方」、どこから人の存在が始まるかということについて、「受精の瞬間から」という意見が3割。それ以降、「人間の形がつくられ始める時点」「母体外に出しても生存が可能な時点」「出産の瞬間から」と、それぞれ数字がございまして、この「受精の瞬間から」に対して、それ以降の時点を示しているものは合計で39.6%、4割ぐらいの割合でございます。「わからない」という意見が3割程度。 
      「ヒト胚研究に対する考え方」が4ページにございまして、「自由に利用して構わない」という意見は2.5%、非常に少のうございます。「厳しい条件の下なら良い」という意見が40%、「研究のために用いることは認められない」という意見が21%、「利用してよいかどうかわからない」という意見が30%というようなご意見でございました。 
      その他、以前総理府により行われました有識者調査との対比をするため、クローン関係に関しても幾つか質問を設定し、ご意見をいただいておりますが、時間の関係もありますので紹介は割愛させていただきます。 
      以上、パブリック・コメントを踏まえまして、お手元の8−6というヒト胚研究小委員会の報告はまとめられてございます。 
      パブリック・コメントで指摘された点等修正を加えてございまして、例えば、3ページの「ヒト胚性幹細胞の応用」につきましては、最後のところで、「しかしながら」以下で、ヒト胚性幹細胞に関するデメリットにつきまして記述を追加してございます。そういった指摘を踏まえた修正を加えてございまして、また、8ページ、「ヒト胚の研究利用に関する基本的考え方」のところでございますが、基本認識の部分、ここの6行目でございますが、「ヒト胚を研究利用することが許されるのか、許される場合にはどのような目的と条件においてどこまで許されるのか」といった、そもそも利用ありきで検討を進めてきたことではないことを明示してございます。というようなことが10ページの「ヒト胚性幹細胞の基本的考え方」の部分でございますが、「小委員会では、ヒトES細胞についてその恩恵とヒト胚を滅失するとの問題点を考慮し、樹立の是非について検討を行った」、そういったこれまでの経緯等も含めた、要するに正確にしてございます。 
      その上で、31ページでございますが、最後に「おわりに」という部分を設けてございます。「90件近い多岐にわたる意見が寄せられ、それらを踏まえてさらに修正を加え、本報告を取りまとめた」というのが最初の段落に示してございます。「ただし、前章でも指摘したヒト胚研究全体の包括的な枠組みが必要との意見が見られたことに留意が必要であり、生命倫理委員会として今後この問題に取り組む必要がある」との指摘をしてございます。 
      また、「提出された意見においては、ヒト胚を用いた研究を一切行うべきではない、あるいはヒト胚研究に関する包括的な枠組みができない限り、各論たるES細胞に関する議論を行うべきではないとの意見が見られた」とした上で、「本小委員会では、母胎外にある状態のヒト胚について、人の生命の萌芽として位置づけ、慎重に取り扱うべきではあるが、胎児や出生後の人とは異なる段階にあるとした。その上で、廃棄されることが決定したヒト胚について、科学的、倫理的に妥当と認められる研究には用いることができる」との見解をとっているという立場を一度説明してございます。 
      「特に、再生医療等への期待が大きく、我が国として早急な取り組みが必要と考えられるヒトES細胞の樹立については、慎重な検討を加えた結果、ヒト胚を用いることは認められるものと判断する」との結論を示してございます。 
      その上で社会的コンセンサスの点について触れてございまして、「生命倫理のように各人の受けとめ方が大きく異なるものについて、合意点を見出すことには困難があり、社会的コンセンサスがあるか否かを判断することは難しい。当小委員会は、ヒトES細胞の樹立を認めることとしたが、社会的コンセンサスの観点からは、この問題について継続的に社会の意見を取り入れていく仕組みを維持していくことが必要であると考える。具体的には、今後生命倫理委員会においてヒト胚研究全般について検討を進める中で、ヒト胚性幹細胞をめぐる問題についても、常に社会の意見をくみ上げる努力を払いながら検証していくことが必要である」としてございます。「また、政府において、本報告で示された基本的な考え方を踏まえて、指針を策定する際にもパブリック・コメントを求めることが重要である」と示してございます。 
      また、「政府において指針を定める際には、本報告書で示されたヒト胚の厳格な取り扱い、インフォームド・コンセントの適切な取得、審査体制等の実効性につき懸念が寄せられたことにも留意が必要であり、実効性が確保されるよう具体的措置を検討していくべきである」との指摘をしてございます。また、運用面での実効性のことについて、マニュアル作成などの努力を指摘してございます。その上で、「これらの点につきましては、生命倫理委員会としても、運用段階での問題点を含め、引き続き検証していき、ヒト胚研究全般を検討する際のケーススタディとしていくことが重要と考える」としてございます。「その上で、ヒト胚研究全般について、生命倫理委員会において幅広い観点からの議論を早急に開始するべきである」ということを最後に結んでございます。 
      以上、簡単でございますが、パブリック・コメントの状況、またそれを踏まえたヒト胚小委員会での議論、さらにヒト胚小委員会で取りまとめられた報告における修正点等についてご説明を申し上げました。 

    (井村委員長) 
      どうもありがとうございました。 
      パブリック・コメントを求めたその結果、それからそれを受けて行われた小委員会の報告について、今報告をしていただいたわけです。本日は、これについてご議論をいただいて、できれば最終的な結論を出したいというふうに考えておりますが、どなたからでも結構ですが、それでは、島薗委員どうぞ。 

    (島薗委員) 
      前回、欠席いたしましたので、十分に理解できていないところがあると思いますが、若干、私は議論の進みが早過ぎるなというふうに感じておりまして、そういう考えをまとめてまいりましたので、メモ(ヒト胚性幹細胞研究容認決定の再考のために)を説明するというか、ほとんど読み上げる形で私の考えを述べたいと思います。 
      非常に緊急性を要するということで審議が誠に急いで行われていると。これは小委員会もそうですし、この生命倫理委員会もそうだという印象を持っております。 
      今回の案は原則禁止と一部容認がセットになっていると思いますが、本当に緊急を要するのは原則禁止のほうではなかろうかと私は思います。一部容認、今回はES細胞研究が容認されるということをはっきり打ち出されたわけですが、そのことについては、どのくらいそのことが緊急に必要であるか、大変私は疑問を感じる。じっくり考えることと比べた場合に、どれだけ急がなければならないことか。国民の共通の理解がほとんど得られていない段階で何だか重要な決定を生命倫理委員会でやっていいものかどうかということを疑問に思います。 
      そのことの私の印象、そういう強い印象を持った一つのエピソードですが、小委員会の議事録なども、これは全部読もうと思うと大変なのでございますが、一部を読んだにすぎませんが、大変濃密な議論をなさった。したがって、相当に精度の濃い報告書ができていると思われます。しかし、それは国民の理解との間に相当にギャップがあるのではないか、そう感じざるを得なかったのです。この間の29日のシンポジウムでも、大変深い造詣を持っておられる、であるがゆえに招かれたパネラーの方も2週間前に初めてこのことについて本格的に勉強を始めたと言っておられました。専門家でさえそうなのでありますから、一般国民の間に理解がなくても当然であろうと思います。小委員会の議論の進みを拝見しておりましても、まだ議事録が途中までしか出ておりませんけれども、たくさんの問題が残されて、しかし、時間がないから先へ進むと。そういう形で結論へ向かってどんどんと進められたと、そういう印象を持っております。 
      こちらの親委員会のほうでもどのぐらい議論がなされたか。前回と今回ということですが、とても十分な審議の時間とは思われないということでございます。したがって、私はまず、国民が参加して十分な議論をしなければならない。そのための時間を確保したいと、こういうふうに思います。大変重要な問題であります。人間の生命の萌芽としての人の胚をどう考えるのか。それをつくり出したり、滅失したりするということが許されるのか。許されるとすれば、どういう条件なのか。相当に根本的な問題でありまして、ゆっくり考えたいということです。 
      死についても、脳死臓器移植をめぐりまして大変活発な議論が国民の間で行われ、そのことが行われたことの意味は大変深いものであった。それには時間がかかり過ぎたという評価もございましょうけれども、その議論をしたことによるメリットがたくさんあると思います。今回の場合は、それに比べるとあまりに議論の時間が短い。人間が物を考えるには時間が必要だということをどうしても考えます。これこれこういう条件のもとでこういう答えを出さなきゃならない。こういうふうにして物を考えるということと、生活の中でじっくり何が大切かということを過去に問い、文化に問い、お互いに話し合うということとはまた別のことであろうかと思います。 
      生命とは何か。人の命が新たに生まれるというのはどういうことなのか。生命の萌芽とはどういうことなのか。それを科学的に利用するというのはどういうことなのか。ES細胞の利用という一つのことに関しても、そういうことをじっくり国民的な議論を通して考えていくべきであろう。熟成する時間が必要だというふうに考えます。 
      それは私は非常に違和感を持ったわけですが、なぜこのように議論が早く進められるんだろうか。その容認決定をしなければならない理由がどこかにあるに違いない。まずは大変これはごく限られた研究でございますけれども、そこを一つの手がかりにして、今後の研究のための足場をつくりたいという、そういう考えがあるのではないかと推測いたします。 
      これは国際間の協調ということが言われておりますが、幾つかの国が既にそちらの方向へ進んでいると。その場合に、これを躊躇しているといろいろ損をすると、そういうことの配慮があるかと思われる。それは世界の経済競争、科学の競争の中にあって、国家としての決定をしていくという、そういう配慮はもちろん必要なことかと思いますが、それが優先され過ぎてはいないだろうか。そういう科学の国際競争の問題というようなことをもっと根本から考えていく必要はないか、そういうふうに思います。 
      それが次に述べたいことなんですが、科学の発展が倫理にかかわる重要な問題を含んでいるにもかかわらず、どこまでそれが倫理的に許容できるのかということをじっくり論じる前に科学が先へ進んでしまうという状況があるように思います。倫理的配慮によって科学に歯どめをかけるべきかもしれないときに、そのことを考えるための十分な時間を与えてもらえない状況があるとすれば、それは人類社会にとってゆゆしき問題であると思います。極端な言い方をすれば、真理と言われますが、同時に大変有用性のほうへ傾いた科学が、その有用性を追求する中でそれに引きずられていくのではないか、そういうふうに見える場合がある。その動機が人間の熟慮や反省を無力にしている。そういう事態に陥っていないかということを考えるべきではないかと思います。これは、ぜひじっくりゆっくり根本的に考えていくべき問題であろうと思います。 
      これは、今、人の胚をどうするかという生命倫理の直接的な問題からはちょっとずれて、むしろ科学と文明というようなことにもかかわってくるわけですけれども、生命倫理がまさに非常にクリティカルな問題を提起しているということですので、この問題を抜きにして生命倫理の問題を論じることもできないのではないかと思います。とりあえず私としては、したがって、2つのことを申し上げたい。1つは、原則禁止をまず決定すべきである。そして、今回はES細胞研究の容認ということが提起されているわけですが、それについてはもう少し議論を深めてから決定しても遅くはないと。その間に世論の熟成を促し、もし容認を決定するとすれば、どういう意味があるのかということについて、国民がよく理解し納得できると、そのための時間を設けてほしいということが一つです。 
      それから、もう一つ、今のことと関係がないといいますか、直接結びつかないのですが、このように急いで物事を決定しなければならない。非常に国民の文化、生活の根本にかかわることに十分な熟慮を及ぼすことができない、科学がそういう状況を強いる状態になっていると。そのことを正面に据えて、科学に対する倫理的な規制の問題を生命倫理委員会としても本格的に取り組んでいくべきではないか。個々の個別問題を小さなところから論じていくということには大変プラグマティックな利点はあると思いますが、そればかりやっていきますと根本的な問題がおろそかになってしまうのではないか。そういう懸念を持っておりますので、2つのことを提案したいということです。付録のほうはちょっと省略させていただきました。 
      以上です。 

    (井村委員長) 
      それでは、少しご意見をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。 
      きょうは小委員会の先生があまりご出席でないので、詳しい小委員会の経緯ですね、今提起された問題に小委員会としてどのように議論されたかということはちょっとよくわからないところがありますが、どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。 
      それでは、あまりご意見が出ませんので、私から少し、私は臨床の医師でありまして、その立場から、この間、実は公開のシンポジウムでもう少し臨床医の立場を強く打ち出すとよかったと後で少し思っていたわけです。それはやはり非常に多くの患者さんに日常医師は接していて、少しでもその患者さんを助けたいという気持ちが強いわけですね。だから、臓器移植も実はそういう動機から、ぜひ日本でやりたいという意向が出たわけです。しかし、臓器移植につきましては、いろいろな日本で意見があった。特に脳死の受容ということで意見が分かれまして、非常に開始は遅れました。それだけでなくて、現実的には年に二、三例しか実施できないという状況が続いているわけです。最初は2年間ぐらいはほとんど1例もなかったわけです。アメリカでは年間心臓移植がたしか3,000例ぐらい実施されていると思います。日本でも移植を待っている患者さんは非常に多いんですが、現実には日本でドナーから臓器をいただくということは、その機会はほとんど恵まれないという状況になっております。 
      そういう中で臓器移植に代わる医療がないか、あるいは臓器移植を超える医療がないかということでいろいろな研究がなされているわけですが、その一つとして最も期待されているのがES細胞ではないかと思います。じゃ、ES細胞の有用性はどこまであるかと言われると、それは現時点ではまだわかりません。これはこれから研究していかないといけない課題であろうと思います。マウスについてはES細胞は相当研究されていて、このES細胞からいろいろな組織がつくり得るということがわかっているわけですが、マウスと人間とは恐らく違いがあるでありましょうから、これから研究しないとわからないわけですけれども、この細胞が例えば心臓の心筋細胞にも、あるいは肝臓の細胞にも、あるいは骨髄の造血細胞にも、あるいは骨をつくる骨芽細胞にも、それから神経細胞にも、いろいろな細胞に分化し得ることがわかっておりますので、そういう意味で日本では実際非常に難しい臓器移植を超える新しい医療になるのではないかという期待が非常に集まっているわけです。そういうところから生命科学、あるいは医学の研究者としては、少しでも早くES細胞を含む、広い意味では細胞治療といいますか、そういう方向への研究を発展させたいという希望があります。 
      そういう医学からの要請、あるいは現場の臨床からの要請を受けて、この小委員会は非常に熱心に議論をしていただきました。ちょっと予想できないくらい頻繁に開いていただいて相当激しい議論をしていただきました。その中で、この報告書が生まれてきたわけであります。この問題については、かなりいろいろの意見があるということは十分我々も熟知しているわけですが、そういう結果であるということを受けとめていただきたい。それからバックにそういう背景があるということを受けとめていただきたいと思います。 
      クローンに関しては一応モラトリアムを決めました。だから、クローンは現在は実施してはいけないということになっているわけですね。しかし、ES細胞についてはモラトリアムは決定しておりません。それで何らかの結論を出していきたいと我々は考えていたことが一つと、それから研究を抑制するようなモラトリアムを頻発するのはあまりよくないだろうということもあって、ES細胞についてはモラトリアムは決めないで、むしろできるだけ早く結論を出していくという方向をとったわけであります。そういう背景をちょっと説明をさせていただきたいと思います。 
      どんな問題でも結構ですが、あまり委員長がしゃべりますといけないので。 

    (藤澤委員) 
      今、委員長からご説明があった臨床といいますか、臨床の現場からの期待ということ、非常に重要なことだと思いますし、科学の研究を阻害するようなことはなるべく控えるべきだというご意見も非常に重要なことだとは思うんですけれども、やはり私は基本的には、島薗委員がおっしゃったような、そもそも生命を操作する、いじくるということがどういうことであるのかということを何らかの考えを出さないと、ES細胞ならES細胞という個別のことだけを考えていたら、まず、臨床的期待と科学者のあれが勝つと思いますね。倫理的な配慮よりもそっちのほうが先に進んでしまうと思います。面倒ですけれども、やっぱり原則禁止という、さっき表現された全般的な考え方、私個人としては、いろいろな報告書に慎重に扱うべきであるとか、倫理にも慎重な配慮が必要であるとか書いてありますけれども、何となくそれが口先だけのことのように聞こえまして、本当はやっていいかやっていけないかという2つのオールタナティブしかないような問題だと思うんですね。それを、しかし、井村先生がおっしゃったようないろいろな圧力があるものですから、何とかしてやろうとしているというのが現状じゃないかというような感じを持っております。 
      大体物質についても、生命についても一番基本単位の核になるもの、物質の場合だったら原子核、生命の場合だったら細胞の核というものをいじることが、果たして我々にそういう権利があるのかどうかということを、こう申しますと素人の意見に聞こえるかもしれませんけれども、ご承知のワトソン・クリックなどの二重らせん模型、もう一つ前の塩素の配基を関数基本的に発見したアーウィン・シャルガフというすばらしい分子生物学者がそういうことを言っております。物質のほうの原子核をいじった結果として、核からの非常に強烈な報復が人類に対してなされた。それと同じようなことが果たして生命の細胞の核をいじったり操作したりすることによって起こらないとだれが保証するであろうか。しかも、これ、人間にとってと言いますけれども、未来の世代に対して非常に負荷を負わせるような可能性を持っているというふうに考えているんですけれども。 
      さっき島薗委員がなぜこんなに急ぐかと言いましたけれども、この委員会は全然急いでいないんですね。さっきもちょっと言及されたみたいに小委員会が非常に熱心に討議を進めていただいて、それを受け取ってから後はまだ二、三回しかやっていなくて、「急いでいる、急いでいる」と言われると非常に心外ですし、非公開で何をやっているのかわからないというようなマスコミの一部で不透明であるというようなことを言われますけれども、そう言われると、私は心外だと思うんですね。ぜひご面倒でも全般的なことを、やっぱり手続きとしては、段取りはしてやるべきじゃないかというふうに考えます。そのことだけ、現段階では。 

    (井村委員長) 
      ほかにご意見ございますでしょうか。 

    (佐野委員) 
      私は、産業とか経営とか経済の分野の者なんですが、本日このパブリック・コメントを拝見して、大変認識を新たにしたというか、がっかりしたというか、非常に残念に思った次第なんです。というのは、慎重にするとか、非常に規制を厳しくするということは、一口で言うと、国民が損をするというのではないかと思うんですね。損得の問題ではないし、倫理の問題はその上にあろうかとも思うんですが、例えば、今の移植医療にいたしましても、非常にニーズがあって求めている人が多い。そして、なおかつ値段も、値段というと変なことですが、犠牲も少なくして、そういう利用ができればいいというニーズも非常にあるわけなんですが、これまでの、この話とは別に、一般論として、日本の規制を含めていろいろな行動を思い起こしますと、大変国際的な見地から言うと、ちょっと別扱いに今までされていたわけですね。日本の考え方というのはちょっと特異であるというような、そういうように見られてきたのは、日本が大変保護主義的といいますか、時代の変化をあまり見ないということです。それはそれで我が道を行くでいいんですけれども、例えばどういうことかといいますと、日本の物価は海外に比べて、今だんだん安くなっているとはいえ、まだ高いわけです。 
      なぜ高いのかというと、日本の商売の上であまり値段のことを言わないんですね。つまり、商売というのは長い間の信義の上に成り立っているから、長い間のお取引だから、だからそんなに細々値段のことは言わないというような、そういう取引の仕方というのがあったわけですが、それが今や国際競争の世界では非常に異様であるという、そういうことで、ところが、それをまた利用しようとする、例えば、貿易をしている海外の日本に何か売り込もうという人は、日本人は値段が少々高くても買うものだと。そういうように認識して、そして日本もあまり値段のことを言わないので、高いものを平気で買ってきたし、まだ買っていると思うんですね。ということは何かというと、やっぱり日本の国民みんなが高いものを買って損している。そういうような一般のものについて、あるいはサービスについてそういうことが起こっているのに対しまして、何か非常に同じような基盤があるように感じるわけでございます。 
      しかし、この決定というのは、やはり国民の決定に従うのが当然でありますので、それはこれからどのようにご決定になるかというのはお任せをいたしたいと思いますけれども、しかし、何か物事を、例えば法律なり規制なり決めるときは、今現在これでいいというのではなくて、この先これでいいかという先見的なところを見て決めないと、一回決めたものというのは、またずっとあと続くわけですから、今現在がよければいいのではなくて、例えば、2、3年後、あるいは5年後を見返して、あのときの決定は非常によかったと。満足すべきものであったという、そういうようなところに決めていきたいという、感想でございます。 

    (事務局) 
      ちょっと事務局から、僣越ではございますが、きょうヒト胚研究小委員会の委員の方が少ないものですから経緯について若干ご説明を申し上げますと、小委員会の議論、かなりの部分はそもそもES細胞をつくるためにヒト胚を使っていいのかどうかというところに議論が行われておりまして、ES細胞の枠組み自体を議論したのは本当に後半の部分、11月ぐらいからでございます。その間どういう議論が行われたかと言いますと、そもそもヒト胚がどういうものなのか。ヒト胚を研究利用に使えるのかどうかというものが行ったり来たりしながら、ただ、今回はES細胞の議論に限ってしていきましょうというような過程でいろいろ議論が出て積み重ねたわけでございます。 
      その中で特に、もう既にES細胞がアメリカに存在しているものですから、それを輸入してきて使う研究はどうかと。そういうあるものを使うのはどうかという議論が始まりまして、でもそれはおかしいのではないかと。あるからいいということではなくて、そもそもそれをつくられた過程というものも議論する必要がある。そうすると、我が国において樹立が認められるかどうかということを議論しなければならないだろうというところに議論が戻りまして、それでは、果たして樹立を認められるようなもの、そういうケースがあるかどうかということをまずケーススタディをしていきながらやっていきましょうということで委員からご提案がありまして、確かに現状をすべて把握したわけではないんですが、理想論としてこういう形であれば、ヒト胚の乱用につながらないようなスキームができるのではないかということが提案されまして、それについて議論して、日本でもこういう形で樹立をするのであれば認めてもいいだろう。したがって、ヒト胚をその部分について使うことは認められるのでないかという形で議論が展開されてきたわけでございます。 
      ただ、その過程におきまして、ヒト胚そのものについてどう考えるかということ、結局そこを中心に議論したわけではありませんで、包括的な提案には至ってはおりませんが、この報告書の中でも第2章の基本認識、あるいはその中での遵守事項というものが提案されておりまして、少なくともヒト胚小委員会での議論、14回を重ねた議論の中では、我が国における現状をもちろん踏まえてのことにはなりますが、ヒト胚を研究に全く使ってはいけないということではなくて、現状を言えば、今、産科婦人科学会の登録だけでできますので、第三者的なチェックが入っていない、何もない状態でございます。そこは問題ではあるけれども、きちんとヒト胚の倫理的に尊重されるべきという観点と、本当にその研究をすべきかどうかという必要性、研究が認められる妥当性、それをしかるべき手続きでもって判断することができれば、人の胚を研究に使うということが許容され得るのではないかというところを議論した上で、ただし、そこは今回の小委員会の議論の主たる目的ではなかったものですからこういう提案という形にとどめてつくったわけでございます。あくまで小委員会の議論では、ヒト胚を研究利用できるかできないかといったところにつきましてもかなりの議論をして、その上で研究に使うことを認められるだろうと。その場合にはこういう枠組みは最低限必要だろうと。ただ、それは具体的な提案というものは、あくまでES細胞の樹立に使う場合にはこういう手続きを踏みなさいという形で、特定の事象について具体的な提案をしたわけでございますが、かなりの部分はヒト胚のところについての議論をした上でヒト胚を研究に用いる場合、枠組みの提案といったものまではいたしてございます。 
      特に、実は最後の14回のときに、岡田小委員長もまとめていらっしゃいましたが、この報告書は推進とどうしてもとらえられてしまいますが、岡田小委員長自体は、この議論を進めてきた過程で、今の我が国においては規制が何もない、学会の自主規制、ガイドラインの規制しかないと。そういう状態で非常に注目はES細胞について高まってきた中で、何もないままにしておくのではなく、きちんとした枠組みつくっていくことが必要ではないかということで議論を重ねてきたという説明をされておりまして、まさに何もない状態から少し枠組みをきちんとしたものを整備し、その上で有用な研究なり何なりができるような形にしたいということで議論を詰めてきたというお話をしてございます。とりあえずこれまでの。 

    (井村委員長) 
      ほかにどなたか。 
      それでは、吉川先生、それから藤澤先生にお願いしましょう。 

    (吉川委員) 
      私は、この問題は、素人なんですけれども、もうちょっとやはり視点が違います。私の結論は、この問題は今結論が出せないということなんですね。それは結論を出す方法を人類は持っていない、大げさに言えばそういうことだと思うんです。それはなぜかというと、ちょっと話が長くなりますが、これは一つの科学ですね。科学の流れというのは、今一つ変わっていて、恐らく我々は、子供のときから教わった科学者の純粋な真理探究という知的好奇心に導かれて得られた知識はすべて正しい、こういうのがあって、これは現在でも物理学の世界には十分残っているんですね。 
      しかし、気がついてみると、私、最近ICSUというのに出ているんですが、驚くべきことが起こっているわけで、それは実は環境問題というのをどうやるかというと、これは物理学でもなく、化学でもなく、生物学でもない。まさにインターディシプリナリーな構造をつくらなきゃいけないんですね。その知識好奇心のまま開拓してきたという、その伝統的な近代以降の科学のつくり方というのは、そこでは壊れていて、要するに地球環境をどうすればいいか。結局、水は人間にとって何になるのか。土地は何か。気候変動はどうか。海洋はどうか。温暖化はどうかということを議論するためには何々学じゃないわけですね。そこでは何をやっているかというと、それぞれの研究者は自分の知的好奇心を作動させるだけでは不十分だと。隣にいる別の研究者の好奇心とまさにぶつかり合ってすり合わせをしなければ結論が出ない構造が既にあるわけですね。ですから、私は、まさに科学の流れは2つになったと。 
      さて、こういうヒト胚幹細胞というような問題に入ってくる。これはどうもこのいずれの2つにも属すことはなくて、やはり第三のカテゴリーの人間が知識を獲得していく分野というのが生まれつつあるんじゃないかという気がするんですね。それはまさに井村先生がおっしゃった、これは臨床医の善意ということからしてこれは認めざるを得ない。目の前にいる患者をどうしても治したいという動機をどうして殺すことができるのか。それを否定するとしたら、非倫理的行為になるかもしれないですね。したがって、それはごく簡単に結論を出せば、臨床医の善意の範囲でしか得られた知見を使ってはいけないという制限が当然論理的についているはずなんですね。そんな科学は今までなかったわけであります。得られた知見というのはみんな正しかったわけですね。そういうある意味では極めて妙な新しい種類の科学というのが起こってきた。 
      事実、これはこの問題だけじゃなくて、例えば、現在起こっている遺伝子組み換え食品とか、あるいは熱帯雨林を開拓して食料をつくりたいとか、これもみんな善意で飢餓の状態にいる人たちを救うためには熱帯雨林を開拓して畑にしなければいけない。しかし、これは生命多様性からすれば非常に悪い行為なんですね。もちろん、飢餓を救済しようとする農学研究者が今盛んに主張しているのは、GMOでしか人口増加に対応できることはないと言っているんですが、しかし、これはまた、ある意味での生物多様性学者からすれば、とんでもないことをやっていると。そういう問題が幾つも起こってきている。これは新しい問題で、そこで私は提案なんですよね。やはりこれは現在の研究体制では遂行できない。 
      結局、何が研究のよさを決めるかというと、これは研究者じゃないと思うんですね。カテゴリーAの物理学者は真理を知ることはいいことですから、全く一人の研究者が自分の好奇心で苦労されてやっている方、カテゴリーBというのは、隣にいる研究者と一緒に研究しなきゃいかんですね。多分、今度のカテゴリーCというのは、私は非研究者、すなわちコモンセンスが主導権を持つべき分野なんだと思うんですね。結局これは、国民に対してアンケートを出して多数決で決めるという問題ではなくて、人々の考えているコモンセンス、これも揺れ動くものなんだけど、それをどうやって研究の世界に入れるかということを配慮しなければ、私はこの問題は確実にディザスターが起こると思うんですね。そういった意味では、島薗先生のご提案のように、現在は原則禁止なんだけれども、しかし、その禁止をどうやってとっていくかという形の研究体制というものをつくっていく。ごく簡単に言えば、それは専門の研究者と非専門の研究者が一緒になって研究するようなプロジェクトということに私はなっていくと思うんですね。そういう具体的な提案ができない限りは、従来の研究方法では、これは非常に危険を伴います。むしろ全然別の、倫理じゃなくて、科学の進展、転換点から言っても大変変わった新しい問題だと、こう思っているんですね。 

    (井村委員長) 
      ありがとうございました。 
      この問題は非常に難しい問題にやはり国際的にもなりつつあるわけです。それはパブリック・アクセプタンスというのをどのようにしてとるのか。そのこと自体がないわけですね。だから、みんなが投票して決めたら正しいのかというと、必ずしもそうじゃないだろう。そうすると、専門家が決めるのがいいかというと、それにも問題がある。では、どうして決めるのかというのが非常に今難しい課題になりつつあるわけです。だから、おっしゃるとおり、これは非常に難しい問題ですが、ただ、今、原則禁止ということが非常に難しいのは、既に走っているわけですね、ヒト胚の研究は。それは産婦人科の領域で走っているわけです。現在のところは体外受精で受精率を高めるための研究にはやってよろしいということを婦人科が認めているわけで、今、全面禁止というわけには、すぐにはできない状況が既に起こっているわけです。それをどうするかという問題ももちろんあるわけですけれども、そのことも含めて、さらにコンセンサスを得たいと考えているわけですが、それは少し時間のかかる問題になるのではないかという気がいたします。既に体外受精は極めて広い範囲で行われておりますから。 
      それでは、藤澤先生、どうぞ。 

    (藤澤委員) 
      企画官に、小委員会のご説明があったけれども、ちょっと簡単なことを伺いたいんですけれども、ドイツの場合は胚保護法という法律があって完全に明確にされていますね。あれに対する小委員会の先生方の反応というか、ご意見というか、ご見解というのはどんな、ご報告でも伺ったんですけれども、はっきりしたことをまだ聞いていないので。 

    (事務局) 
      ドイツの胚保護法についてどう考えるかという観点からの議論はあまり行われておりません。個別の意見の中では、実はドイツの中でも非常に厳し過ぎるのではないかということがあって困っているという話を聞くというようなご意見の紹介はありましたけれども、具体的に小委員会としてどう考えるかという議論は出ておりません。ただ、小委員会として議論がありましたのは、ドイツとまではいかないにしても、フランス、イギリスというような生殖医療全般を規制する法律の中、体系の中で、こういった研究も規制していくようなやり方がいいのではないかというようなご意見も出されました。 
      ただ、一方では、我が国ではそういったそもそも論からの規制が行われておりませんので、各論を見ていくというアプローチをとらざるを得ないだろうと。小委員会の多数といいますか、最終的なアプローチとしては、今の段階では各論を片づけるというアプローチをとりましょうと。少なくとも今一番手当てが必要とされております、特に人のES細胞の部分につきましては、既に余剰胚があって廃棄されるものがあるということを前提に、それを使うという限りにおいて、これを認めてもいいだろうと。ただし、包括的な議論を今後続けていく必要があって、それはそれでやりましょうと。まず、各論をやり、その次また、少し前後しますが、総論的なところをもう少し時間をかけてじっくり議論していきましょうということが結論になっております。 

    (藤澤委員) 
      ありがとう。ちょっとついでですからお願いですけど、我々は自主的に考えていかなきゃいけないんだけれども、参考のために各国の状況というものを知りたいわけだけれども、ドイツ、イギリス、アメリカ、フランスだけじゃなくて、特にオランダとか、スイスとか、カナダとか、そういうところもどう考えているのかというのがちょっと知りたい好奇心があるんですけれども。 
      それから井村先生がおっしゃった全面禁止というんじゃなくて、原則禁止というふうに理解しているんですけど。全面禁止は、確かにおっしゃるように、もう既に走っているんだから、それをやめてしまえというわけにはいかない。ただ、走っているけれども、原則としてどうかという議論はまだできるということ。失礼いたしました。 

    (井村委員長) 
      今の問題を、だからこれからヒト胚の小委員会で議論していこうとしているわけです。既に走っているものがありますので、そういうものも含めてどうするかということですね。 
      それからドイツにつきましては、実は私、去年の4月にドイツで開かれた生命倫理のシンポジウムに呼ばれまして、出席して議論をいたしました。そのときにはイギリスからと私と日本から呼ばれて、あとはドイツの人ばかりで、集まったのは医学関係の研究者が多かったと思います。若干、哲学の方もおられたように思います。その中での議論として、医学関係の人は、やはりドイツは法律で網をかけ過ぎてしまった。ドイツの場合には、一たん法律をつくると、例外をつくるということは極めて難しい。だから、自分たちはイギリスのようにプラグマティックにいかないんだということでイギリスとドイツの間で少し議論があったわけです。ヨーロッパ諸国は、ご承知のように、ヒト胚について法律で規制をしたわけですが、それに対して今回は例外をつくっていこうという動きがイギリス、フランスで出ていると。ドイツはそれが自分たちはできないということで、一部の人たちは非常に不満を持っていると、そういうことがありました。 
      日本は、今までは全面的な法律を全然つくってこなかったわけですね。だから、個々のケースについて議論をして、アクセプタブルかどうかということでやってきたんじゃないかと思います。今回もそういう形になってしまっているわけですが、全面的な規制をかけても、また生命倫理の問題は何が飛び出してくるかわからないというところがありまして、非常に難しい問題が含まれているわけです。だからこれは、さっき吉川先生が言われたように、新しい研究を始めないといけない課題なんですけれども、それを待っていることができない状況じゃないかというふうに我々は考えているわけですが。 

    (事務局) 
      ただいま藤澤委員の見解、一言だけご説明させていただきたいと思いますけれども、我々、基本的にドイツ、フランス、イギリスなどに関しましては、研究という範囲ではなくて、生殖、まさに研究もある意味で人の胚を科学的研究によって滅失するという方向ですが、生殖、むしろ人を産み出す技術、産み出すことに関する体系を彼らは考えています。したがいまして、彼らの考え方は、基本的には長い社会の経験に基づく、いわゆる宗教観、きちっとした宗教観に基づく人の生殖の、あるいは胚の保護といった視点で法体系を結んでいる。必ずしも研究とか、そういった視点ではなくて、逆にクローンの問題が出ると、後でここはこういう意味だという解釈でやっていると我々は理解しています。 

    (町野委員) 
      数少ないヒト胚研究小委員会からの出席者でございますけれども、若干、これは私だけの受けとめ方かもしれませんけれども、補足させていただきたいと思います。一番最初に島薗先生が言われましたとおり、この議論は少し早過ぎるんじゃないかというのは、はたから見ていると、確かに私はそのように見える面があるだろうと思います。そして、確かに多くのいわば国民との間のといいますか、一般の人たちとの間のいろいろな意見の交換については、もしかしたらはたから見ると、これは性急過ぎると思われる点もあったかなということは思います。 
      しかし、内部におきましては、そのようなことはなかったというぐあいに思っております。それでもさらに議論する必要があるかというのは、もう一回ここでお考えいただくのは、それは結構だろうと思いますけれども。どういうことかと申しますと、早過ぎるということの一つ、島薗先生が言われたことの理由というのは、ES細胞の研究というのは、本当にそんなに緊急であろうかということが一つあると思うんですね。しかし、これは、井村先生が言われましたように、多くの方が言われたように、恐らくこれは緊急性があるという判断で議論されただろうと思います。 
      そして第2に、ヒト胚のモラルステータスの問題なんですけれども、これについては確かに全般的な議論がされたとは思いません。しかし、やはり人の命というのは受精の瞬間から始まるという見解をとったとしても、モラルステータスの問題としては、だからそれは人と同じように受精の瞬間から保護されるべきだという考え方の人はいなかったと私は理解しています。もしそういう人がいたら、断固これは実験などで使うべきではないと、すべて反対されたはずですから、私自身も生命は受精の瞬間から始まると考えるべきだろうと思いますけれども、だからといってこの倫理を一般の人たちに強行して主張すべきだとまでは主張するわけではないわけです。そういうことで、この点について、やはり受精の瞬間から生命が始まるとしても、それはモラルステータスとしては一個の出生した後の人間と同じだという考え方ではなかったと、この点は私は意見の一致があるだろうというぐあいに思います。 
      第3に、だからといってヒト胚の研究というのは無制限であって構わないかというと、それはそうでないという点についても意見の一致がありました。では、主に議論とされましたのは、ES細胞の樹立についてヒト胚を使って、これを滅失させるということはどうだろうかということについてでした。そして、この範囲内では、先ほど事務局からご説明がありましたとおり、とにかく凍結して、余剰胚については、これをやはり廃棄される運命にある余剰胚を礼節を尽くした上できちんと必要に応じて使うということは認められるのではないだろうかということで一応意見の一致があっただろうと思います。だから、内部におきまして、それは私の受け取り方で、いや、そんなことは議論していないという人もいるかもしれませんけれども、私はそのように理解いたしまして、これで結構だろうと思いました。ただ、冒頭に申しましたとおり、さらに国民との間で議論をする必要があるかということであるなら、私は、それはもう一つ別の考え方があり得るだろうということでございます。 

    (井村委員長) 
      ほかに何かございますか。 
      どうぞ、森岡委員。 

    (森岡委員) 
      こういう倫理的な問題というのは、藤澤先生が言われるように、原理的な考えでいくか、実用的、合理的な考えでいくのか、いつも問題になってくるわけですね。どちらかというと、アメリカなんかの場合、実用的な考えで、ヨーロッパではどちらかというと、いつから人の命が始まるのかとか、原理的なことを考えるといったところがあって、対照的だと思われます。 
      日本では、恐らく両方の考えがあるんだろうと思いますが、いずれにしても、臨床の場を見ていますと、実際にもう人工受精なんかで胚に対してのある程度の操作が行われているわけですね。ですから、ヒト胚というものの全面的操作を禁止するというわけにはいかないような時世になっていると思います。ただ、核を入れ代えるとか何かということは、問題になります。結局、何かしらの規制なりを早急に考えて、放置しておくわけにはいかないんじゃないか。また、私は前から言っているのですが、生殖医学全般に関しての論議というものが、日本では確かに足りないと思います。科学技術庁として、何かそういうものを検討する会をつくるとかいろいろの努力が必要なんじゃないかと思います。 

    (井村委員長) 
      どうぞ。 

    (研究開発局長) 
      ちょっと遅れてまいりまして申しわけございませんけれども、今議論を伺っていまして、私どもこういう新しい問題について大変難しい議論をしていただいていると思っております。ヒト胚の小委員会につきましては、特に公開の場で衆目関心、皆さん見ていらっしゃるところで、かなりお立場の違いもあって、そういう意味では、私どももあまり事務局が設計どおりに動かすということもできませんで、そういう意味では、いろいろ厳しいご議論、交換をしていただいたと思っております。そういう意味では、出席された方に大変ご負担をおかけしたと思っているんですけれども。 
      先ほども企画官から申しましたけれども、現在、こういう研究について重要性が指摘される一方で、それに対しての枠組みというのはないような事情でございまして、一部、産婦人科学会等ではいろいろ自主的に決めていらっしゃるんですけれども、これも学会で今までやっていらっしゃることについても検討の場でご議論いただきました。そういう意味では、こうして新たに皆さん見ていらっしゃるところで議論していただくことによって、その流れにゆだねようと。それに従って学会のほうでも考えていただくということも言っていただいていますし、我々そういうことでイニシアチブをとることが、今政府として必要なんじゃないかなと思っております。そういう意味で、さっき吉川先生からも新しい考え方が必要だということ、これは私どもそういうことを十分わきまえながら、新しい分野についてどういう考え方で取り組んでいったらいいかということは慎重に進めさせていただきたいと思っておりますし、それからヒト胚小委員会では、研究のどういう条件なら許すのかとか、そういった枠組みについても具体的な議論をいただきました。これをつくる過程でも、これも我々役所の都合だけでつくるつもりはございませんし、そういう枠組みについても公に提案させていただいて、内容についてもご議論いただきながらつくっていきたいと思っております。そういう意味でも、研究、進展については気になるところでございますけれども、そういう点は着実に進めさせていただいて、しかるべく皆さんの意見を反映させながら取り組むようなことで進めさせていただきたいと思っております。 

    (井村委員長) 
      ほかに、どうぞ。 

    (島薗委員) 
      私が一種提案みたいなことで申しましたのは、枠組みをつくるにあたって、原則禁止ということをまず先行させて、ES細胞の研究容認については、もう少し世論の熟成を待つ。こういうことなんですが、その考え方に対して、今、先生方のお話を伺って、そうでないほうがいいという論拠が非常に乏しいといいますか、聞こえなかったという印象を持っております。 
      小委員会の審議については大変すばらしい審議をされたというふうに私も評価しております。大事な問題をほとんど出し尽くしてくださったし、何が論じられなければならないかということを非常に詳しく明らかにしてくださったと思うんですね。ただ、それを、先ほど吉川先生のおっしゃった言葉で言うと、コモンセンスのレベルで細かいことにわたって、私、付の1に上げましたけれども、例えばインフォームド・コンセントの具体的な内容についてどうなのかと。それはごく小さな部分のことのように思いますが、それが根本的な決定にかかわってくるんだと思うんですね。そういうことをプロセスの問題として、人がじっくり考えるということが必要だと。こういうことですので、そのための時間を少し設けるという決定を生命倫理委員会としてすることができないかなというふうに思います。これは小委員会の報告が立派なものであると、納得のいくものであるというふうに承認されたということとは次元が違うことで、それを受けて、生命倫理委員会として何を議論すべきかと、そういう問題だと思います。 

    (井村委員長) 
      生命倫理委員会の小委員会の上にある委員会ですから、いろいろ変更を要求することもできると思います。ただ、小委員会の立場、私が聞いている立場は、やはりまず原則を決めて、その上で実際の手続きをやろうと。だから、インフォームド・コンセント等もその上でやっていこうという姿勢なんですよね。それは最近では、かなりの程度にそういうもののインフォームド・コンセントのあり方は決まっておりますから、あまり大きな問題にならないのではないだろうかというふうに思います。 

    (田中委員) 
      島薗先生がおっしゃっていること、趣旨としてはよくわかるのですけれども、アジェンダをどうして設定するかが問題です。例えば人とは何かとか、人の胚をどう扱うかとかいう形で、人間とは何かという問題のある部分について、一定の仕方で一定のことを行うという問題を議論する場合に、アジェンダというか、争点をどうして決めて、どういう仕方で合意ができるかできないかを見定めるという問題があると思います。議論をして、どの程度のコンセンサスが必要だとお考えになっていらっしゃるのか、そのあたり少しお伺いしたい。概してこういう問題について議論をしていると、何となくいつまでも議論し続けなければならない争点が多いのですけれども、法学と哲学のボーダーラインにいる者としては、そればかりも言えないところがあり、もう少しピースミルといいますか、プラグマティックな対応の仕方を考える必要もあり、コンセンサスの形成の仕方について、何か一定のめどとか方向を持っていらっしゃるんだったら教えていただければありがたいのですけれども。 

    (島薗委員) 
      さしあたりES細胞の研究ということが非常に具体的な課題として最も濃密に議論されたことですね。それに関係して、ほかのクローン胚の研究の問題とかも部分的に取り上げられているけれども、基本的にはES細胞研究の問題と、それを一つの手がかりにして、ヒト胚研究全般にも話を及ぼしていくと。これは国民に比較的理解できやすい問題提起じゃないかなと思いますが。 

    (井村委員長) 
      ちょっと今のを訂正いたしますと、実はクローン胚も相当議論しているんです。それは別個にクローン胚の小委員会を設けて議論をして結論を一応出して、これは一般のパブリックの調査もいたしました。これは非常にわかりやすいので圧倒的に反対と。クローン胚で人、個体をつくることは反対ということで、これは、後でちょっと出てくると思いますが、法律にしていこうということを考えているわけですね。だから、それはES細胞の一部としてやったのではなくて、むしろクローン胚を先に先行させてやってきたわけで、その途中でES細胞というのが出てきたので、別途にまたその小委員会をつくって議論をしたという経緯です。 

    (島薗委員) 
      ただ、個体の産生に至らないクローン胚の研究の可能性についても報告書で触れておられると思いますので、この報告書にはES細胞研究と関連してクローン作成とは別の意味のクローン胚研究ということも議論されたんだと言いましたんですが。 

    (井村委員長) 
      こちらでもしましたけれども、クローンの小委員会でもやっていますね。 

    (島薗委員) 
      個体をつくるということに対する禁止ということに焦点を合わせたクローン胚の議論と、そのことを考慮に入れ、その禁止を踏まえた上でのクローン胚の研究というのは、また少し趣が違うところがあるのではないかなと思いますが。 

    (井村委員長) 
      だから、そちらのほうは差し当たって原則禁止ということでありますが、条件によっては許されるんじゃないだろうかという考え方があります。それは、一つはミトコンドリア異常症という病気がありまして、これはお母さんから子供へだけ遺伝する病気で、現在のところ治療法が全くありません。それは核に異常があるんじゃなくて、ミトコンドリアに異常があるわけです。そういたしますと、将来、核移植という手段が使える。クローンとはちょっと違いますけれども、核移植という手段が使えるので、そこを全面的に禁止するということはよくないのではないかということがありまして、原則は禁止ですけれども、可能性として少しあけているというところがあるんじゃないかと思います。 

    (森岡委員) 
      島薗先生のおっしゃることも何かわかるんですけれども、それじゃ、時期尚早だとして、じゃ、どうするんだということですが、どういう方策を先生としてはお考えですか。 

    (島薗委員) 
      私の一番感じておりますのは時間が必要だということで、ここで決定となりますと、考える前に決まっちゃったということですので、例えば3カ月でもいいかもしれないし、6カ月でもいいかもしれない。その期間、世論で公共的に議論を重ねましょう。その議論を踏まえて生命倫理委員会としての決定をし、そこからまた、法律作成のほうへ動いていただくというようなことが国民の感性に納得のいきやすい進み方じゃないかなと。 

    (吉川委員) 
      何をすればいいかという話なんですけれども、島薗さんに賛成するわけじゃないんですけどね、一つ例を知っているわけですね。これは環境問題なんですけどね。環境問題で、今みんな常識で、今や環境問題をみんな考えているんだけど、実はここにはものすごい時間がかかっているんですね。実際に、ご存じのレーチェルカーソンのサイレント・スプリングがあった1960年代で、その次に1972年にローマクラブがああいうことを言うわけでしょう。そのころ何もなかったんだけれども、実は1972年に国連が人間環境会議というのを開くんですね。そのときに環境問題という言葉がものすごく出てくるんですけれども、世の中何にも認識がないわけですね。開発主義、開発主義でどんどんやっていた。そして10年間を経て1980何年に、今度は、これもご存じのブルントラント委員会というのが出てくるんですね。このブルントラント委員会というのは何をやったかというと、サステイナブル・デベロップメントというコンセプトにようやく到達するわけなんですね。つまり、開発と、それから地球の維持というのは矛盾しているんだと。サステイナブルでありながら、同時に最貧国を豊かにするという大きな課題を人類が負っている。これは大問題だという、そういうコンセプトが十数年かかってようやく世界的に出てくるわけですね。 
      そこからあとは一直線で、地球サミットまで来て、COP3のCO2 の配分という現実的な問題まで出てくるわけですね。要するにCO2 が温暖化をもたらすなんていう話は、実は全く考えもしなかったんだけど、しかし、そういう1980年の初頭に問題提起されたために、ここでまた国際科学会議というところが世界じゅうの研究者に呼びかけて地球研究をしようと。地球研究というのはIGBPというんですけどね、International Geosphere-Biosphere Programme と、こういうんですけど、これは何だったかというと、要するに地球の物理的・化学的・生物学的性質が人間活動によってどう変わるか。こういうテーマを15年前に出して、それを研究した結果、とうとう温暖化問題というのを発見して、それで一種の政策課題にまで上がってくるわけでしょう。 
      ですから、島薗先生がおっしゃるように、これはものすごい時間がかかるし、従来の科学研究の常識では考えられなかったことが、研究のやり方とか、政府の関与とか、あらゆることが動いてここへ来るわけですね。恐らく生命倫理問題というのは、それに非常に近いというか、それよりもっと難しいものを含んでいるわけですから、実はICSUとかIGBPがやったのは自然科学者だけだったんだけど、そうじゃなくて、本当は人文科学者、社会科学者も全部巻き込んだようなプロジェクトを提案することはすぐにでもやる必要があると思うんですね。それをどこへ出していいか、これは問題です。国連かもしれません。そういうようなアクティビティーを日本が提案したっていいと思うんですけどね。そういう中で、もちろんきょう決めなきゃならないことは決めていくということは別に考えていいと思うんですけどね。そういう2つのラインを持たざるを得ないんじゃないかというのが私の今の直観なんですね。 

    (井村委員長) 
      環境問題と生命倫理と似てるところももちろんあります。しかし、違うところもあると思うんですね。それは、生命倫理の場合には、まず目の前の患者さんをどうして救うかというテーマがあるわけです。だから、これは経済の問題ではなくて命の問題になってしまうということがあるわけです。だから、生命倫理というのは、やはりそれによってもたらされるメリットと、それが生むデメリット、これは特に人間の尊厳を傷つけるかどうかとか、そういうことが大きなデメリットになると思うんですが、その両方のバランスで従来選択をしてきたわけですね。だから、そういう意味では哲学の先生には極めて不満な原則なしの選択をずっと続けてきたという気はいたします。 
      しかし、現実の課題としては、今のところそれではすべての人が納得できるような大原則がつくれるかというと、これはなかなかつくれないということがあって、要するに人間の尊厳を侵すということをどこまで引用できるのかというあたりが一番の問題になってくるんじゃないだろうかという気がするんですね。 

    (吉川委員) 
      環境問題もやっぱりそれは飢餓でたくさんの人間が死んでいくという、そういう問題があったわけですね。ですから、サステイナブル・デベロップメントは人間の生命、尊厳にかかわることだというふうに提起されてきたわけで、もちろん、それは医学ほど我々にとってはリアリティーの問題ではなかったんですけれども、やはり概念的には同じことだという気がするんですよね。 

    (藤澤委員) 
      私は、人間が学問をするということは、どういうふうにして始まって、どういうふうに変化してきたかという、そのことをやっているものですから、環境問題も生命倫理の問題も全く通底していると思います。やっぱり科学技術というもののネイチャーというものをよっぽど見極めてかからないと、どんどん、どんどん流されていってしまうという、そういう共通点があって、その共通点こそが非常に大きな問題をはらんでいるんじゃないかということです。今それで人間の尊厳について何回か議論を仮にしたとしても、恐らくそれは統一した意見を出すことは非常に困難というか、ほとんど不可能に近いと思いますけれども、しかし、その問題についてこれだけの議論をしましたということだけは提示したいという気がするわけですね。 

    (井村委員長) 
      通底していないと私は言ったわけではなくて、非常によく似ている問題だということは申し上げたつもりですが。 

    (藤澤委員) 
      いや、似てるんじゃなくて、やっぱり通底しているという。 

    (井村委員長) 
      もう少しご意見があれば伺いたいと思います。 
      高久先生、遅れておいでになりましたが、皆さん一応意見が出ましたので。 

    (高久委員) 
      私、今来たばかりで皆さん方のご意見をよく聞いていないから何とも言えないんですけれども、このヒト胚に関する研究の小委員会は随分何回も、何回ぐらい。 

    (事務局) 
      14回です。 

    (高久委員) 
      14回開催されまして、その議事は全部インターネットで公開をされていたと思います。その中で、受精の瞬間から生命と考えるのか、2週間までは考えないとか、いろいろな意見が随分出ました。委員の中でも少し考えが違ったと思います。このパブリック・コメントを見ましても、いろんなお考えがあるということはよくわかります。このパブリック・コメントをみて欧米と非常に違うのは、欧米の場合には患者さんの団体から研究を促進せよという声が非常に強く出てくるのですが、日本の患者団体は研究の促進ということはあまり言われなくて、医療費の補助などの面が強調される。その点が非常に違うという印象を持ちました。 
      例えば、アメリカですと、パーキンソン病の患者団体は、パーキンソン病の治療のために胎児の細胞を利用するというようなことを主張される。この事は生命倫理の問題がいろいろあって難しいですが。少なくとも動物、動物と人間とは違うと思いますが、動物のレベルでは、ES細胞から分化させた神経細胞を移植して脳の疾患がよくなった、あるいは糖尿病にも分化した細胞が有効だったことを考えますと、ES細胞を使った患者さんに直接役に立つ治療法がそれほど遠くない将来に開発される事が期待されます。日本の場合でも患者さんの期待はかなり大きいのではないか。この委員会の報告の中では、研究の内容については非常にストリクトな審査をするということがはっきり書かれていますので、そういう条件下で研究を始めるということが、患者の立場から考えて必要だと思っています。 

    (井村委員長) 
      ありがとうございました。 
      ほかに何かご意見ございますか。パブリックの意見をどのように求めていくかというのは非常に難しい問題で、ちょっと私どもも方法がありませんし、これは外国で聞いても、みんなないと。だから非常に難しい問題だと思っているんですね。これについては、しかし、ジャーナリズムのほうのコメントは相当ありましたね、この問題に関して。それについてちょっと。 

    (事務局) 
      手元にお配りしてございませんが、総じて論調としては、ヒト胚小委員会が相当議論を重ねてきた結果、こういった結論を出したことについては評価するというコメントが多かったと思います。ただ、欠けている部分については、今後していく必要があるということはございましたが、ヒト胚小委員会の報告自体については、かなり公開のもとで相当の議論を積み重ねた上で、先ほど高久先生からもご紹介がありましたが、かなり厳しい枠組みを提案しておりますが、それ自体は評価する意見が多かったと思います。 

    (吉川委員) 
      これは日本学術会議でやっている話なんですけれども、俯瞰型研究という、これは科学技術庁にお世話になって少し試行的にやっているんですけれども、これは、その成果のユーザーを一緒に研究プロジェクトに入れてしまおうという、もちろん素人ですから議論できないんですけれども、しかし、その研究のプロジェクトというのは大体目的を持っているわけですから、その目的ということにおいて、その素人の人も動機を共有するような議論がまずあって、そしてその研究の枠組みを決めるという、まず前段階の研究の目的を設定するような深い議論をしよう。それから研究に入ろうと、こういう俯瞰型研究プロジェクトがあるんですね。たまたま今やっているのはバーチャル・リアリティーみたいなもので、これは大変心理学的に、あるいは初等教育の影響があるということで非常に社会問題になっているんだけれども、バーチャル・リアリティーのシステムをつくる人は、いかにしてリアリティーに近づけるかというのが目標ですから、どんどん技術が進歩しちゃうわけですね。進歩すればするほど、いわゆるサイバースペースの中に入り込む若者が多くなるということ。これ、どうなんだという話があって、それは変えようがない。要するに皆さんに聞いているうちに先に技術が進んじゃうんです。ですから、皆さんに聞いている暇はないので一緒にやるしかない。こういうのを俯瞰型研究プロジェクトというんですけどね。 
      しかも、これは国際的に、この話は何回もしているんですけれども、諸外国でもこの考え方はまだなくて、これを今度話題にして、多分、この秋ぐらいにどこでやるのかな、どこかでそのテーマを少し議論しようじゃないかというのがあるんですけどね。ですから、パブリック・アクセプタンスというのも、もっとメソドロジーをどんどん提案して考えていくようなことも必要になってきて、これは科学の進歩とパラにやらなければ、どうしようもないんじゃないかという気がするんですね。ですから、俯瞰型研究というのはその一つの例にすぎないんですけれども、今までのようなパブリック・アクセプタンスのやり方だけでは、やり方としてもう既に不足しているという気がするんですけどね。 

    (井村委員長) 
      特に生命倫理については、非常に一般のパブリックの関係が深いわけですから、これについては科学技術会議でも何らかのこれから研究の推進をしていかないといけないだろうというふうに思っております。ただ、先生、おっしゃるように、現実が先へ先へ行っちゃうわけですね。だから、この倫理委員会も後を追いかけざるを得ないという、そういう形になってしまっているわけですけれども。 
      何かほかにご意見ありますでしょうか。 

    (石塚委員) 
      私、ちょっと中座をいたしまして、その間の議論を踏まえないで申し上げるのでは大変失礼かと思いますけれども、非常にこの倫理、あるいは社会のアクセプタンスをどう得るか。これは大変難しい問題で、先ほど藤澤委員がおっしゃいましたとおり、なかなか解が出ない、早急には解が出ない。しかしといって国際的なこの動きを見ておりますと、ここでこのES細胞の研究を立ちどまってしまうわけにもいかない状況ではないか。小委員会で非常に長い間、それは長いか短いか、短いとおっしゃる方ももちろんいらっしゃいますが、相当精力的にご審議をいただいた一つの現時点での結論として、しかも、このヒト胚の研究そのものの全般のあり方というのは、今後も検討を続けるということになっておるわけでございますし、国際的な動きを見ましても、今回のこの報告の内容が何か非常に外れているというようなこともないような気がいたしますので、私は、現時点ではこの報告書の内容というものは了とすべきではないかという感じがいたします。 

    (島薗委員) 
      小委員会の先生方は本当に精力的に会議をされて、本当にもうやりたくないというぐらいなさったんじゃないかという印象を持っているんですが、こちらの親委員会はまだそれほど議論をしたとは感じていないと、私自身は少なくともそう思っております。 
      ここで、例えば、付1というところに、私のノートなんですが、そういう大変知識の乏しい者が幾つか、これは小委員会の議論を見ていてちょっとひっかかってるところだな、もしかすると、小委員会の委員の中にはもっとこういうところを議論したいと思っておられる、あるいは調査をしたいと、そういうことを感じておられる委員がいらっしゃるんじゃないかなと、そういうことについて挙げております。例えば、有用性ということについてもいろいろなレベルがある。患者さんが目の前にいるというのと、非常に長期的な展望で将来何か役に立つということは非常に違うと思われますし、そういうことがES細胞研究については具体的にどういう展望なのかというようなこととか、それから3番目に挙げましたけれども、余剰胚の廃棄とか利用ということに関して、当事者がどういう意識を持っているか。当事者ということには、そのことをもって何か直接の利益や感情的なインパクトを受けると思われる方ということで不妊治療を受けておられる方以外にも関与者がいらっしゃるというふうに理解していますが、そういう方の持っている感情について、どういう調査がなされたのかということですね。あるいは、最後に出ましたけれども、商業利用ということについて、特許の問題などを通して、いろいろと疑問が出ている。防衛的特許というようなことも論じられていたようですけれども、そういうことについて、これで議論十分というところまでいったのか。あるいはもう少し世のいろんな意見、立場におられる方の意見を聞いてもいいという、そういう感触を持っておられる。少なくともそういう委員がおられるんじゃないかなというふうに私は感じているんですが、委員長、それからほかの先生方、どういうふうにお感じになったか。 

    (井村委員長) 
      委員長はきょうはおいでになっていないんですが。 

    (町野委員) 
      私も全部出ていたわけではございませんけれども、それで私の承知している範囲、あるいは理解できた範囲についてだけなんですけれども、まず、パブリック・アクセプタンスの問題ですが、これを認めることについてパブリック・アクセプタンスが必要であるという議論は成り立つと思いますけれども、同時に、やってはいけないとすることについても、それはあるだろうという前提だと思うんですね。そして、やはり何といいましても、研究の自由、あるいは先ほどから出ておりますとおり、医学的な活動の自由ということも重大な価値がありますから、それを規制することについては、それなりの理由がなければいけないだろうと思います。そして、その点についても、パブリック・アクセプタンスがなきゃいけないだろうと思います。ですから、ここのところでもし仮に、パブリック・アクセプタンスがないからこれを認めないということだと、先ほどおっしゃられましたとおり、それは禁止ということなんですね。ですから、それもパブリック・アクセプタンスの範囲内であるかという議論をしなければいけないだろうと思います。 
      そして、有用性ということについてですけれども、私は、実のところどれだけ理解できたかは、それは非常に疑問ですが、私は法律が専門でございまして、さらに哲学より、さらに田中委員よりはるかに遠いところにいる人間ですから、どこまで理解できたかわかりません。ご説明を一応伺いますと、やはり可能性は非常に秘めたものでございまして、今の医学の発達といいますか、そのスピードからしますと、かなり早い時期にかなりの多くの利益をもたらすものではないかなという、印象を持ちました。 
      それからインフォームド・コンセントの問題なんですけれども、インフォームド・コンセントは非常に問題が現在拡散しておりまして、従来のように、例えば腕を切るとか、そういう範囲内のものではありませんで、もうちょっと広い範囲での、いわば知る権利一般の保障の問題になっています。これは極めて難しい問題だろうというぐあいに思います。しかし、そのことを前提とした上で、議論の上でドラフトがつくられて、ある程度の議論がされたと思っております。そして、私が見た限りでは、今のところ、気がつかないところがあるのかもしれませんけれども、それほど足りないところがあるというぐあいには思いません。 
      それから3番目の余剰胚の問題につきましては、やはり委員の中でもご発言がありましたように、不妊治療を受けていらっしゃる方々の意思、感情というものは配慮すべきだということについては皆さんの合意があり、報告書の中にも記載されています。しかし、同時に、この問題というのは、障害をもっている人たちについて、いつも問題にされる遺伝子操作において、あるいは出生前診断とかそういうスクリーニングにおいては出てくるわけですけれども、今回はむしろこの治療がES細胞の研究に基づいて、いわば医学の発達がどれだけのプラスになるか、メリットをこれらの人々に与えるかということを皆さん考慮されたと思っております。 
      4番目のことは、私は完全によくわかりませんで、恐らくこれが大きな問題かもしれないというぐあいに思います。つまり、医学、あるいは科学の、特に医学の商業化という問題について、どれだけのことを認めるべきか、あるいは認めるべきでないのかということです。これにつきましては、やはりアメリカのようには行うべきではないだろうという議論があったと私は記憶しております。高久先生から、もしかして何か補足されることがあるとかもしれない思いますが。 

    (高久委員) 
      商業利用については、確かにいろいろなご意見がありまして、これは絶対に認めるべきじゃないというご意見も一部あったと思います。ただ、これはなかなかベンチャーの企業が、商業利用というのは一つのモチベーションに、研究開発の大きなモチベーションになることは事実でありますから、これを禁止するということもなかなか難しいのではないかという意見もあったと思いました。ご存じのように、現実にもう外国では商業利用にされかかっているという現実もあるんですけれども、そういう国際的なことなども配慮して議論がされたことも間違いないと思います。 

    (井村委員長) 
      実用性については現段階ではあくまでもポテンシャルですね。ただ、非常に大きなポテンシャルがあるのではないかということをみんなが感じております。例えば、一例挙げますと、最近交通事故で脊髄損傷が非常に増えています。その脊髄損傷は今のところ治す方法がないんですね。ところが、マウスではES細胞を使って、完全ではないけれども、かなりの程度に脊髄損傷を治すことができるという報告が出ている。これは恐らく人間にも適用できるのではないかということを多くの人が考えているわけです。そういった非常に大きなポテンシャルがあるので、ぜひ早く研究をさせてほしいという要望が一方にはあるわけですね。 
      しかし、私どもとしては、やはり倫理委員会がきちんとした結論を出すまでは待ってほしいということを言っております。だから、そういう意味もあって、あまりこれを長くペインディングにすることはできない、そういうふうな状況にあるのではないかと思います。 
      商業利用については、将来のところはわかりませんが、今の時点では、かなりそれをきちっと押さえていると思うんですね。ただ、実際問題とすると、商業化しないと実用化しないということはあります。例えば、今皮膚の移植はやられているわけですが、それは会社ができて、そこで皮膚を試験管の中で大きいものにして、それをやけどの跡へやるというふうなことをやっているわけでありまして、研究段階の次の段階としての実用段階では、恐らく商業化ということが必要になると思うんですが、ともかく現時点では、このES細胞は第三者に渡してはいけないわけですから、それは今のところできないというふうに思っております。 
      さて、予定の時間に参りましたが、どうしましょうか。もう少し議論をしたほうがよろしいですか。 

    (島薗委員) 
      今の最後の点は、町野先生、高久先生、委員長いずれも非常にはぎれのいいお答えとは言えなかったと思うんですが、このことに関して世論に懸念があるということは、どういうふうに理解していらっしゃいますか。 

    (井村委員長) 
      これは私個人の意見で、小委員会の議論はまた後でちょっとお伺いしたいと思います。私は、現時点では商業化を念頭に置いておりません。 

    (高久委員) 
      小委員会でもすぐに商業化ということはあり得ないと考えていました。しかし、今、委員長がおっしゃったように、臨床に応用しようとするならば、どこかの会社が関係しませんと、研究者だけではできません。その段階では、当然商業利用ということが起こってくると思いますし、国際的な競争が行われるようになると思っています。しかしいつになるかは予測できません。 

    (事務局) 
      事務局から補足されていただきますと、まず、ヒト胚については絶対に商業化しないということで、無償を徹底的に貫くというのがございます。 
      次、ES細胞、そこから樹立されるES細胞についても無償の原則を貫くと。これは絶対に商売にしちゃならないというところまで来ております。問題は、その次のES細胞を使った研究の成果についてどう考えるかということでございまして、その点につきましては、まさに研究が進んで成果が出てきた段階で、個別に見て妥当性を判断していくというやり方が望ましいだろうということが小委員会での議論の結果でございます。したがって、ヒト胚、それからヒトES細胞については絶対に商業化しない。さらに研究で得られる成果についてどう扱うかということを個別に検討していく。ただし、それは今の話ではなくて、研究の成果が出てきて、それを見てみないと、これが本当に商業化したほうが医療のために望ましいのかどうかといった点など考慮が必要になるので、個別に見ていくというのが小委員会の考え方だったと思います。 

    (井村委員長) 
      何か今後の進め方についてご意見ございますでしょうか。 

    (事務局) 
      事務局から小委員会での議論をもう一度確認も含めてご紹介させていただきますと、小委員会ではES細胞の樹立に関する基本的な考え方を提示したということでございます。今、ご議論がありましたヒト胚の位置づけなどについては少し時間もかかるだろうし、そこを議論していく必要は多々あるだろう。それは、先ほど吉川先生のお話もあった2つのパラレルなアプローチで、具体化の検討を進めるとともに、包括的な議論は別途進めていこうということ。その過程でそれについていろいろなパブリック・コメント等、例えば、実際のガイドラインをつくるときにパブリック・コメントをいただく。あるいはヒト胚研究全般を議論していくところにいろいろな方の意見を聞いていくようなスキームを設けるということで世の中の議論等を組み入れながら、そこで社会的なコンセンサスを得るための対話というか、積み重ねていく。ただ、それをES細胞をとめておいて全部やるということではなくて、まず、ES細胞の部分については、極めて限定的な仕組みというものを認めておき、ヒト胚全体については引き続いて議論していきましょう。さらにES細胞の部分についても、具体的にはゴーがすぐに出るわけではなくて、実際の枠組みというものを考えてみないとわからない。特に実効性についての議論もありましたので、そういったことも含めて、果たして指針がどういう形になるかということをもう一度その段階で議論し、その段階でのパブリック・コメントをするという、まず道を2つに分けて、ES細胞については、まず基本的考え方はここで議論し、さらにその具体化のところでもう一度パブリック・コメントをするような手続きをとっていくと、ここに時間があるということ。 
      もう一つは、ヒト胚全体の位置づけについては、ES細胞とはまた別途な形で引き続き議論を、広範な立場から議論していくべきだろうというのは小委員会の報告の趣旨でございます。 

    (井村委員長) 
      小委員会では非常に、先ほどからお話があったように14回議論を重ねていただいて、その結果としてこの結論を出していただきました。これに関しては、小委員会の委員のすべての人が100%賛成であったわけではなくて、意見の若干の相違はあったと聞いております。これはこういう問題ですから当然のことであって、すべての人が100%賛成するわけではないわけですけれども、しかし、基本的にこういったES細胞の研究の枠組みをつくっていくということが今の時点では必要ではないかというふうに皆さんが感じられまして、こういう報告書が出てきたわけであります。 
      そこで、条件は、今後ヒト胚に関する議論を続けていって、ヒト胚に共通する倫理をつくり上げていくということ。それからさらに時間をかけて慎重に、実際どのようにして行っていくか。インフォームド・コンセントも含めて枠組みを考えていくということ。それから特に産科領域との関係を密接にして、今のようなボランタリーな提供者というのにあくまでも限って受けていくと。そういうあたりの条件はつくと思いますが、いかがでしょうか。そういうことでご承認いただけるか。それとももっと議論をしろということであれば、またそれは考えざるを得ないと思いますが。 

    (島薗委員) 
      私、最初に申し上げたことですね、それほど有力な反対にあったという気がいたしませんで、世論で熟成することが好ましいと。こういう意見はある程度支持すべきだということがきょうの議論を通じても得られたというふうに考えるんですが。 

    (井村委員長) 
      私はそうはちょっと考えておりませんで、それはいつまでかかるかということが一つの問題である。だから、今ここで原則禁止をするということは、逆の方向への決定をすることになると思います。それは時間が限られていれば別だと思いますが、世論が熟成するのが何年もかかるかということであれば、それはやはり逆の決定をしたということになると思いますね。 

    (高久委員) 
      私は別な会合で5時半から司会をしなければならないので失礼しますが、恐らく今まで議論があったと思うのですが、ES細胞の臨床的な応用がかなり近いうちに現実化するだろう。その前に研究が必要ですから、それに対する対応を緊急に考えなければならないということで、ヒト胚研究小委員会ができたと思います。その中で、人の胚についての討論を十分に行うべきである、あるいは生殖医療全体について議論すべきであるという意見、当然の意見なのですが随分出ました。しかし、それらの問題を全部討論をする時間的な余裕があまりないのではないか。そういうことで、あえてES細胞に議論を絞って14回にわたって議論をしてきたと思います。ですから、私はこれまで十分議論をしてきましたし、緊急性ということを考えますと、この報告をペンディングにするということには反対です。 

    (森岡委員) 
      小委員会で議論された疑問点を事務局のほうで整理して、どういうところを委員の方が問題にされているのか。この委員会でそれを一回論議するというのがやっぱり必要だろうと思います。私は小委員会の原案にほぼ賛成のほうなんですけど、何かしらの疑問が委員から出されているなら、それについて一応は論議したほうがいいと思います。 

    (井村委員長) 
      ほかにもう少しご意見がありましたらお伺いしたいと思います。 

    (藤澤委員) 
      意見じゃないんですけれども、私、この問題について危惧を抱いた理由の大きな一つは、やっぱり商業化という売買、何でもお金がついて回るというのが、アメリカなんかの実情を漏れ伺っていますと、ちょっとおぞましいという感じ、まさに倫理に反するんじゃないかというようなことですが、今、先生のお話ですと、ある段階まで来たら、それも避けられないというようなことですけれども、アメリカ以外の国ではどうなっているのかというのをやっぱりちょっと知りたいですね、商業化、胚を売買したり。遺伝子だと、企業がすぐ特許をとりますね。それで企業のお金の動く対象になるわけだけれども、アメリカが一番目立っているけれども、そこはどうなのかということを、私には個人的には調査の能力がないので、調べられる点があったら調べてほしいということを事務局にお願いしたい。無理ならいいですけど。 

    (井村委員長) 
      多分、胚の売買はアメリカ以外ではされていないと思います。それから遺伝子の特許に関しては、アメリカの中でも非常に強い反対がありまして、政府、それから国立衛生研究所等は反対をしております。だから、私どものところへも呼びかけがあって、人の遺伝子の情報が解明されたらすぐにコンピューターに出してくれと。そして公表してほしい。それによって企業がパテントをかけるのを抑制したいということをアメリカの政府筋から言ってきております。 
      だから、人をはじめ、そういう生物の遺伝子にパテントをかけるというのは非常に大きな問題であって、これは国際的にも問題になっているんですが、アメリカの議会の動きが非常にそれに対して擁護的であるということからなかなか改善できない状況であると聞いています。 

    (事務局) 
      今までの議論の中で、商業、あるいは売買といったことに関して少し、我々、ES細胞の樹立と、例えば臓器移植の臓器の売買と基本的に異なる面があると、こういう認識をしておりまして、一つは、現在の臓器移植の場合は、10万人の臓器が必要だとすると、10万人分の臓器がそのまま1対1対応で必要だと。そういうこうとで非常に臓器移植の売買といったような、通常の商業利用とは違いますが、売買といったものについては厳しく禁じられております。なお、このES細胞につきましては、基本的にはまさにこれは万能細胞と言われているゆえんはヒト胚から樹立するわけでございますが、基本的にその樹立したある種の株というのは、あとは人工的な培養によって無限に増殖することができると。したがって、その増殖したものを使って、それをいろいろ研究者に配付することによって非常に多くの人が研究できると。したがって、もとのES細胞の樹立のところは、極めてそこのところはたくさんのヒト胚を必要とすることが全くなくて、基本的には、原理的には1つの株ができれば、それが全研究者になるということで、極めて限定した形の利用のヒト胚というのがあるということで、したがって、今回のこの樹立に際しましては極めて限定した、一つの議論として、1つの樹立機関でいいんじゃないかという議論がありましたが、必ずしも1つというのは、やはり研究の開発という点では1つでは必ずしも好ましくないというようなことで、複数ということでございますが、極めて限定した、しかも、公的な体制で、配付とか、そういった利用につきましても極めて公的な形で、したがって、ヒト胚に直接かかわるところは商業利用、産業利用、そういった点は現に排除される形でできるだろうと。その理由は、先ほど言ったようにES細胞という特性があるということでございます。 

    (井村委員長) 
      ほかに何かございますか。 
      もう一度議論をしてもいいと私は思っております。ただ、これを今、小委員会の報告をここで抑えるということはちょっとできないと私は思いますので、ただ、この生命倫理委員会における議論がまだ足りないようであれば、できるだけ早い機会にもう一度議論をして、特に島薗先生が提起された問題について議論をするということにはやぶさかではありません。 
      いかがでしょうか。何か今後のスケジュールとの関係でどうですか。ヒト胚小委員会の問題もあるね。 

    (研究開発局長) 
      ヒト胚小委員会自身は今までも議論をまとめていただいていますから、そういう意味では、またもう一回議論しなさいという一般論だけではなかなか、私も事務局としても、これはなかなかおろしにくい。今、島薗先生からご意見をいただいたようなところを、我々、そういう意味では、ヒト胚小委員会の研究報告も踏まえながら、実際にそれをどう受けとめていくかということで、私どもこれから、まだヒト胚小委員会自身も今回のES細胞についてのある程度の方向を打ち出していただいたわけですけれども、全体についてまだこれから議論しましょうということについても、これはまた、皆さんの総意があるものですから、これは並行してやらざるを得ないと思っていますし、そうしたこととあわせて、むしろ受けとめながら議論させていただくということが、これについては実際的な答えかなというふうに思っております。島薗先生からもご指摘がございましたけれども、今、4つほど挙げられたことにつきましても、町野委員、それから高久委員、それぞれお答えがございましたし、私ども委員会の今までの議論を伺っていましても、それで大体、岡田先生からコメントがあったところで私どもは間違いないと伺っておりますし、そういう意味では、島薗先生のご指摘に対してどうこたえていくかといったことについては、今回のこの小委員会の報告書自身よりも、むしろ実施面でこたえさせていただいたほうがいかがかと思っておりますけれども、いかがでございましょうか。 

    (井村委員長) 
      いかがでしょうか。何かご意見ございますか。 

    (藤澤委員) 
      小委員会のご報告はサスペンズするということでご懸念でしょうけれども、あの報告は一応了承したということでも構わないと思うんですね。ただ、あの報告書自身がもっと、我々はこれだけのことをやったけれども、さらにこれだけのことが必要だということをうたっているわけですから、それに沿って先生が必要と思われるだけ回数をやられたらいいと思います。 

    (井村委員長) 
      ヒト胚小委員会につきましては少し改組をして、一部の先生がもう疲れたという意見があるので、少し改組をいたしまして、それでヒト胚全体の問題、きょう議論になったようなヒト胚を研究に使うことをどう考えるかという全体の問題について議論をしたいと思っております。その場合には、恐らく産科領域からももうちょっと入っていただいて、現にもう使っておられるわけですから、そういう立場の人の意見も聞かねばなりませんので、ヒト胚小委員会はそういう形で少し改組をして、そしてここで提起された問題をこれから引き続き議論をしていくというふうに考えておりますが、実は前回の倫理委員会で一応小委員会の意見はアクセプトいたしましたので、その点で大きな変更はなかったと思いますから、さっき説明があった程度の変更ですね。あと私としては、生命倫理委員会でこれをアクセプトしていただいて、そして、さらに問題点として提起されたヒト胚をどう考えるのかという問題について、引き続き小委員会で議論をしていただくと同時に、この生命倫理委員会でもさらに議論を続けていただくということでよろしゅうございますでしょうか。 
      もしよろしければ、そういう形でお認めいただければというふうに思いますが。 
      それでは、あとはこの生命倫理委員会としてのきょうの議論のまとめの案が出ております。それを少し説明してください。 

    (事務局) 
      それでは、ご説明申し上げます。 
      今、お手元にお配りいたしました資料8−7でございますが、生命倫理委員会のヒト胚小委員会を設置し、ヒト胚性幹細胞を中心とするヒト胚研究について検討を進めてきた。同小委員会が3月6日に取りまとめた報告を審議した結果、本委員会としてこれを了承するとともに、以下の取り組みが必要と考えるとしてございます。 
      まず、規制の枠組みの整備については、クローン胚等について、人クローン胚等に関する規制の枠組みについて、人クローン個体等の産生を禁止する法律に位置づけて早急に整備すること。 
      2)といたしまして、ヒト胚性幹細胞について、ヒト胚性幹細胞に関する規制の枠組みについて、その実効性を考慮しつつ、指針として早急に整備すること。この2点を挙げてございます。 
      2点目といたしまして、ヒト胚の研究利用について議論してございまして、まず、ヒト胚の位置づけでございます。ヒト胚は人の生命の萌芽として倫理的に尊重されるべきである。生命の萌芽としてのヒト胚にどの程度の保護を与えるかについては、個々人の生命観によりさまざまな考え方があり得る。しかしながら、ヒト胚を生命の誕生ではなく研究に利用し、滅失する行為は、倫理的な面から極めて慎重に行うべきことについては論を待たない。重要な成果を生み出す研究であっても、人の生命の萌芽として尊重すべき点を考慮した上で妥当と認められる場合のみ、その実施が許容され得ると考える。 
      こうした上で、2)の今後の検討でございますが、生命の萌芽であるヒト胚の研究利用については、基本的な考え方を明確にする必要があり、当委員会としても、これまでの検討結果を踏まえて、ヒト胚研究全般について早急に議論を深めていくこととするとしてございます。 
      3.国民の理解でございます。ヒト胚研究等人の生命に関わる科学技術については、国民の理解が必要であり、広く情報を提供することより社会における認識を高めるとともに、当委員会としてもその意見をくみ上げながら検討を行う必要があると、進め方について注意を促しております。 
      4といたしまして、国際協調でございます。科学技術には国境がなく、国際的に協調した対応が必要である。しかしながら、ヒト胚の位置づけも含めた生命倫理の問題については、国によって対応が異なる側面がある。このため、我が国としても積極的に国際的な対話を深め、研究活動のあり方が国際的に協調したものになるよう努めていくことが必要である。 
      以上、4点を挙げさせていただいております。 

    (井村委員長) 
      何かご意見がございますでしょうか。 
      最後の点については、外国と同じようにするという意味ではなくて、日本の考え方を国際的な立場で表明していくということであります。既にOECDの中には生命倫理委員会がありまして、そういうところで議論がなされていますし、また、世界の30カ国ぐらいが参加したバイオエシックス・サミットというものが恐らくつくられるであろうと考えていただいておりますので、そういった場でいろいろ議論をしながら、国際的に協調できる点は協調していくということになろうかと思います。 
      今後、ヒト胚のあり方について、これは新しいヒト胚小委員会を発足させて、ぜひ精力的に検討していきたいと思っておりますし、それも含めて、できるだけパブリック・コメントをまた求めていくということをしていきたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。 
      もしご異論がなければ、お認めいただきたいと思います。 
      最後に、法律の問題です。法律案ですね。 

    (事務局) 
      それでは、時間もございませんので簡単にご説明申し上げます。 
      先ほど委員長からご説明がありましたクローン小委員会の報告を踏まえまして、私ども事務局におきまして、どのような法規制が望ましいか検討を進めてまいりました。特にヒト胚の研究の部分につきましては、小委員会での議論も踏まえまして盛り込んでございますが、それについてご説明申し上げます。 
      背景は飛ばさせていただきまして、法律案のスキームでございますが、まず、人クローン胚、ハイブリッド胚、キメラ胚が取り扱いのいかんによっては、既に存在している特定の人と同一の遺伝子構造を有する個体が出現してしまう。あるいは人と動物のいずれであるかが明かでない個体が出現してしまう。こういう問題点を考慮いたしまして、また、人クローン等に類似の胚の取り扱い後、上に掲げましたような個体に類する個体が出現するおそれがあると。これらのことが人の尊厳の保持や人の生命及び身体の安全の確保等に重大な影響を与える可能性があるということにかんがみまして、具体的な措置として、この四角に書いてあるところでございます。まずは人クローン胚等の人又は動物の個体の胎内に移植することを禁止し、違反には刑罰をかけるというものでございます。いま一つは、人クローン胚、さらには人クローン胚類似の胚の適正な取り扱いの確保のための措置ということでございまして、胚の取り扱いに関する指針を作成し、これらの胚の取り扱い前の届け出をいただき、指針に適合していない場合には措置命令をかけると。さらに違反には刑罰をかけるというようなことを考えてございます。 
      では、具体的にはどのようなものが規制されるかというのが次のページに書いてございます。まず、法律でもって母胎へ移植を禁止するもの、人クローン胚、ハイブリッド胚、キメラ胚。人の個体、既に生まれた人の個体、あるいは胎児の体細胞の核を人の除核卵に移植するもの。あるいはハイブリッド胚としては、人の生殖細胞と動物の生殖細胞の受精、あるいは人の細胞の核を動物の除核卵へ移植するもの。キメラ胚としては、人の胚と動物の胚、あるいは細胞との結合。こういったものについては母胎への移植を法律で禁止いたします。 
      さらにそれと類似したものといたしまして、クローン胚の類似胚といたしましては、人の胚の細胞の核、初期の胚の細胞の核でございますが、これを除核卵に移植すると。こういったクローン胚に類似のものにつきましては、法律に基づく指針で母胎への移植を禁止していくという考え方でございます。 
      同時に、4.でございますが、研究の取り扱いでございますが、クローン胚の取り扱いに関する指針に示す厳格な要件が認められる場合のみクローン胚等を用いる研究を認められる。原則禁止の考え方でございます。その中で、特に例外的なものについては、具体的に検討の結果、認められるものがあり得るということでございまして、事前に国へ届け出をいただきまして、それについて必要に応じ報告徴収、立ち入り検査、さらにそもそもこの届け出をいただいたものが指針に適合していない場合には必要な措置をとることを命令し、その研究等を事前に禁止するようなこともできるような形にしてございます。 
      罰則につきましては、移植の禁止に違反した者、あるいは適正な取り扱いに違反し、届け出を違反したり、あるいは命令に違反した者に対する罰則を設けることにいたしまして、その量刑について現在調整中でございます。 
      簡単でございますが、以上でございます。 

    (井村委員長) 
      法律の概要はそういうことでありまして、クローン、ハイブリッド、キメラによって個体をつくることは法律で禁止して罰則を設けるということになります。それ以外のことにつきましては、ヒト胚全体にかかわることでもありますので、今後さらに検討を続けないといけないわけですが、一応ガイドラインを詳しくつくって、そして規制をしていく。ガイドライン規制という形でありまして、ヨーロッパとは少し違った形で日本のほうは対応していくことになると思います。 
      ただ、ヨーロッパでも例外規定をつくろうという動きに今あるわけですから、最終的に同じような方向へ行くかもしれませんけれども、ヒト胚の問題は、先ほどから申し上げましたように、かなり時間をかけないとなかなか結論が得にくい問題であろうというふうに思いまして、今回のヒト胚小委員会ではとりあえず緊急を要するES細胞についての結論を出していただいて、全体のヒト胚については、これから議論を重ねていくことになると思います。とりあえずのターゲットは、ヒト胚の研究にどのような倫理的規制を求めるかということがまず第一であります。生殖医学は少しその先の問題になってくるのではないだろうかというふうに思っております。 

    (島薗委員) 
      この法律案と生命倫理委員会の関係、最後にこれを出されてまいりましたので、これは生命倫理委員会はどういうふうにこの案を取り扱うというお考えか、ちょっと伺いたいと思います。 

    (研究開発局長) 
      これは、法律案を用意しますのは行政府の責任でございますから、きょうはそういう意味ではご報告を申し上げているということでございまして、特段これについてご意見があれば、もちろんこれを承るわけですけれども、責任は行政府の責任でやらせていただきたいと思っています。ただ、今まで、私ども科学技術庁自身、科学技術会議の事務局という役割と、もう一つは、行政府の行政庁は一員でございまして、そういう意味では科学技術会議のご意思をできるだけ忠実に実施するという意味で責任を負っていると思っていますから、そういう意味ではこれまでの議論を踏まえて、行政庁の中で、科学技術庁一人ではできませんから、関係省庁と相談しながら検討させていただいているわけですけれども、今こういう方向で議論させていただいているということをご報告させていただきました。 
      以上でございます。 

    (井村委員長) 
      もしご意見があれば、おっしゃっていただきましたら、また反映できるところはできるだけ反映していきたいと思いますが、クローン委員会の小委員会の結論、それからそれを受けて開かれたこの生命倫理委員会の結論、それからヒト胚小委員会の結論等を踏まえて、これは現在作成されているものであります。よろしゅうございますか。 
      それでは、予定よりも大分遅れまして、きょうはどうも大変失礼をいたしました。 
      先ほどからいろいろ貴重なご意見をいただきましたので、それにつきましては、今後この生命倫理委員会、あるいはまた小委員会におきまして、さらに検討を重ねていただくということにしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 

    −−了−−