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 第6回科学技術会議生命倫理委員会議事録 

  1. 日時    平成11年12月21日(火)    10:00〜12:00 
       
  2. 場所    科学技術庁第1,2会議室(科学技術庁2階) 
                                             
  3. 出席者 
          (委  員) 井村委員長、石塚委員、岡田委員、熊谷委員 
                       島薗委員、曽野委員、田中委員、永井委員、森岡委員 
          (説明者)上智大学教授  町野  朔氏 
                       京都大学法学部教授  位田  隆一氏   
          (事務局)科学技術庁研究開発局長ほか 
  4. 議題 
          (1)クローン問題について 
          (2)その他 
       
  5. 配付資料 
       
        資料6ー1    第5回科学技術会議生命倫理委員会議事録 
        資料6−2    クローン技術によるヒト個体の産生等に関する基本的考え方(概要) 
        資料6−3    クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方 
        資料6−4    クローン小委員会の検討経緯 
        資料6−5    クローン技術による人個体の産生等について(案) 
        資料6−6    クローン技術等に関する説明 
        資料6−7    ユネスコにおける生命倫理の議論動向 
        資料6−8    ヒトゲノム及び人権に関する世界宣言 
        資料6−9    ヒトゲノム研究小委員会の設置について(案) 
        資料6−10  個人の遺伝子情報の取り扱いに関する問題点 
        資料6−11  ミレニアム・プロジェクト(新しい千年期プロジェクト)について 
       
  6. 議事 
       
    (井村委員長) 
      それでは、ただいまから第6回の生命倫理委員会を開催させていただきます。 
      本日は、年末で大変お忙しい中をご出席いただきまして、ありがとうございました。あとは座って進行を務めさせていただきます。 
      前回の議論を踏まえて、今後は四半期に1回、年4回ぐらい開催をしようということになりました。また、前回から議事録を公開するときに、委員の名前が公開されることになりましたので、よろしくお願いいたします。なお、委員の先生方には、前もって議事録をごらんいただくということにいたします。これは現在もそうしておりますが、今後ともそういう方針で進めたいと思います。 
      それから、委員の異動がありますので、ご紹介をいたします。ご本人の都合によりまして、中村委員、六本委員がおやめになり、また加賀美委員もご事情がありまして、辞職のための手続中であります。また、本日は、前回に引き続き、クローン小委員会・ヒト胚研究小委員会の委員であります、上智大学法学部の町野教授、それから両小委員会の委員であり、またユネスコの国際生命倫理委員会の委員長であります京都大学法学部の位田教授にご出席をいただいております。ご両人には、今後、生命倫理委員会の委員にご就任をいただく予定になっております。よろしくお願いをいたします。 
      議事に入ります前に、事務局から配付資料の確認をお願いしたいと思います。 
    (企画官) 
      それでは、確認をさせていただきます。まず「議事次第」の1枚紙がございまして、資料6−1として前回の議事録、6−2が1枚紙でございます。6−3、小委員会の報告書。6−4、検討経緯。6−5、(案)というのがついております生命倫理委員会のもの。6−6、クローン技術等に関する説明。6−7、ユネスコにおける生命倫理の議論動向。6−8、「ヒトゲノム及び人権に関する世界宣言」。6−9、「ヒトゲノム研究小委員会の設置について(案)」でございます。6−10が個人の遺伝子情報の取り扱いでございます。6−11といたしまして、「ミレニアム・プロジェクトについて」という総理大臣決定の抜粋が用意してございます。以上でございます。 
    (井村委員長) 
      それでは、早速、議題の1に入らせていただきます。 
      これは、クローン小委員会の報告書の件であります。前回、クローン小委員会とヒト胚研究小委員会の状況について、この生命倫理委員会で報告を受けました。人のクローン個体の産生等につきましては、個体をつくるというところは法律により禁止すべきであるという基本方針をご議論いただきまして、この生命倫理委員会として、それを了承いたしました。その後、クローン小委員会におきまして、それを受けて、報告書を取りまとめていただきました。そこで、本日は、小委員会の委員長を務めていただいております岡田委員から、まずご報告をいただきたいと思います。では、岡田先生。 
    (岡田委員) 
      それでは、報告をいたします。 
      クローン小委員会は、生命倫理委員会からの付託を受けまして、平成9年2月の英国におけるクローン・ドリーの誕生の報告を契機とするクローン問題に関する専門的事項につきまして、生命倫理の側面から議論を行ってまいりました。お手元にお配りしてあります資料6−4にありますように、平成10年1月以来、12回にわたりまして、約2年間の議論を重ねてまいったところであります。 
      昨年6月には、中間報告を公表いたしまして、広く関係団体、有識者、一般国民に意見を求めました。寄せられた意見を踏まえまして、さらに議論を重ねた結果、前回にこの生命倫理委員会でご報告をいたしましたとおり、人のクローン個体の産生については、法律により禁止されるべきであるとの結論を得て、11月17日に最終報告を取りまとめたところであります。 
      それでは、この詳細につきましては、事務局のほうから説明をしてもらいたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 
    (井村委員長) 
      それでは、事務局から。 
    (企画官) 
      ご説明を申し上げます。 
      資料6−2に概要がございまして、6−3に本体がございます。資料6−3を用いてご説明をさせていただきたいと思います。 
      1枚めくっていただきますと目次がございます。この報告書の構成でございますが、第1章で、クローン技術をめぐる最近の動向について、事実関係を中心に取りまとめを行い、第2章では、それぞれの技術の有用性に関する評価を行ってございます。第3章に、その有用性に関する評3を踏まえた規制のあり方について検討を行いまして、第4章で、留意事項的に情報公開を行うべきだということについてまとめてございます。 
      中身をご説明申し上げます。 
      1ページ目、「はじめに」でございますが、こちらのページにございまして、2ページ目から動向についてまとめてございます。技術的動向、それに対応しての各国の対応、それから4ページからは、我が国におけるこれまでの対応について時系列的に書いてございますが、この部分につきましては、事実関係を取りまとめておりますので、時間の関係もございますので、説明は割愛させていただきますが、6ページの第2章から小委員会の議論の中心がございます。 
      まず有用性に関する評価でございますが、人以外の細胞を用いる場合について、このクローン技術がどのような意味を持つかということを議論してございまして、1つは、動物個体の産生、これにつきましては、すぐれた能力を持つ畜産動物の増産や、試験・研究用に有用である遺伝的に均質な医学実験用動物の増産が可能になるということ。遺伝子組み換え技術の組み合わせなどによりまして、タンパク成分を含む乳汁を多量につくり出す動物、こういった特殊な動物も効率的に産生することが可能となります。これらの点から、産業・研究の両面において、クローン技術は非常に高い有用性を持つと評価されます。 
      加えまして、体細胞が核移植の過程を経て、受精卵と同様な全能性、いろいろな組織に分化できるという能力を回復すると、こういう現象自体の解明を進めることによりまして、生命現象の理解が進み、生物学の基礎的研究の推進にとっても寄与するところは大であると評価されてございます。 
      この一環といたしまして、2)にございますが、拒絶反応を起こしにくい臓器を持つ動物の産生ということについて検討を行っておりまして、人体に移植しても拒絶反応を起こしにくい臓器を持つ動物を作成する研究、こちらが世界的に進められておりますが、これらにつきましては、近い将来、技術的に可能となると考えられるという評価をしてございます。ただ、人体の移植の段階については、未知のウイルス、あるいは病原体が人体に悪影響を及ぼす可能性が否定できず、拒絶反応についても十分な知見がないことなどから、慎重な考慮が必要であるということを言ってございます。それを踏まえた上で、将来の可能性について引き続き十分検討していくということが必要であると指摘してございます。 
      続きまして、人の細胞を用いる場合でございますが、クローン技術によるヒト胚の作成及び人個体の産生。まず、人の体細胞の核を人または動物の除核卵−−核を除いた卵に移植したヒト胚を悪性すること、及び人クローン個体を生み出すことについては、理論的には人の発生過程における、さまざまな生物学的な現象、ゲノムの修飾ですとか、寿命あるいは形がどのように決定されていくかと、こういったもの、生殖細胞の分化の仕組み、これに関する研究、あるいは応用面で移植医療、生殖医療への応用といったことが考えられます。 
      しかし、人クローン個体、人間をつくり出すということにつきましては、次の章に示してございますが、人間の尊厳の侵害の観点から重大な問題がある。それに加えまして、現時点では、体細胞核移植を伴うクローン個体の産生は、動物においても研究段階にとどまっております。人に適用した場合、正常な発生が行われるか、細胞の寿命に関連すると言われているテロメアが短いということによりどのような影響があるかなどについて十分な知見がございません。また、仮に核が移植される体細胞の遺伝子の損傷がある場合には、未知の影響がある可能性も否定できません。これらのことから、生まれてくる子どもの正常な成長が保証されるだけの十分な知見が現在存在しておりません。したがって、この人クローン個体の産生は、実用的な技術とは考えられず、あえて実施するだけの有用性はないという評価をしてございます。 
      一方、人クローン個体を産生しないヒトクローン胚の研究、胚の研究につきましては、体細胞の提供者と遺伝子が同一であるという特性から、拒絶反応のない移植医療などに利用される可能性があり、有用性が認められる余地があるとしてございます。ただ、これにつきましては、ヒト胚の操作につながるという問題があることに加えて、現時点では、人以外の動物細胞を用いることにより研究というものがかなり行われる段階でありますので、人の細胞を用いて行うことについては慎重な検討が必要であるという評価をしてございます。 
      2)でございますが、人の細胞を用いまして、単純な細胞培養を行うことにつきましては、これは生命の誕生に関する倫理的問題は生じません。一方、細胞培養技術を用いた移植用細胞や移植用組織の作成などの医学的可能性が認められることから有用性があると評価されてございます。 
      3)でございますが、細胞培養の1種としての胚性幹細胞の取り扱いを特に記してございます。この胚性幹細胞は、いずれの種類の細胞にもなり得るという意味で、全能性を有するものであり、昨年11月に、アメリカにおいて初めて細胞系として確立されたと報告がございました。このヒト胚性幹細胞を適切に培養して、適度に分化させれば、均質な研究用材料の確保、移植治療用の細胞や組織の作成に活用できることから、有用性があると評価されております。また、この胚性幹細胞から、核移植や胚移植を行わない限り、ヒト胚や人の個体が生み出されることはないので、そういった面での問題はございませんが、この作成の過程で、ヒト胚、あるいは死亡胎児組織を使用するため、ヒト胚を研究のために利用するという観点からの倫理上の問題が生じる。そのため、作成・使用に関しては、ヒト胚研究小委員会等で十分な技術的、倫理的検討を行うことが必要であるとしてございます。 
      こちらのヒト胚性幹細胞を他の発生途上の動物の胚に導入するなどして、人と動物のキメラ胚、これをつくりまして、そのような胚を移植して、人と動物のキメラ、入り混じった個体というものを生み出すことも理論的には考えられます。これにつきましては、人間の尊厳や安全性の面で種々の問題が生じるものであり、有用性はないという評価をしてございます。 
      8ページでございますが、4)といたしまして、人の細胞を用いたクローン技術の1つの応用例として、胚移植、個体への移植を伴う移植用クローン臓器の作成というものがございます。これは、人個体を産み出すこと、人の特定の臓器のみを発生するように、細胞の核の遺伝物質を改変し、これを胚に変えまして、母体への移植を通じて、特定の移植用クローン臓器を作成することも理論的には考えられます。しかし、これにつきましては、現時点では、母体への胚移植により、人の個体を生み出さずに特定の臓器のみを産生することは技術的に可能性がないため、あえて実施するだけの有用性はないという評価をしてございます。 
      このような技術的な評価を踏まえまして、9ページ、第3章以降に規制に関する検討を加えてございます。 
      まず、クローン技術を人個体産生に用いる場合でございますが、その科学的意味について整理をし、問題点を挙げてございます。 
      1つ目の○でございますが、受精という男女両性の関与がなくても子孫を産み出せる無性生殖の道を開くものである。その場合、配偶子の形成過程、精子・卵子の形成過程で起こる染色体の組み換えや、精子と卵の遺伝子の混合が起こらず、遺伝子が体細胞の提供者と同一となると。この結果、成長過程での環境要因の作用による違いはございますが、産み出される人の表現形質が相当程度予見可能であると。どのような人になるかが、相当程度予見可能ということでございます。この、あらかじめ表現形質が相当程度予見可能であることから、特定の能力・表現形質を持つ人を意図的に複数産み出すことが可能であるという意味がございます。 
      このように、人クローン個体の産生は、従来の人の生殖が、先端医療技術を用いる場合を含めて、すべて有性生殖の過程を経て行われてきたのに対し、意図的に遺伝的に同じ個体を産み出せるものであるという点で、これまでと全く異なる人の生命誕生のあり方を開くものでございます。その特徴を踏まえた対処が必要であるということでございます。 
      また、前の技術評価のところで述べましたとおり、安全性の面からも、この技術については、個体産生に適用する場合、非常に問題があり得るということを示してございます。 
      その上で、人間の尊厳の侵害について分析を加えてございます。 
      まず、動植物の育種と同様、クローン技術の特色である予見可能性を用いまして、特定の目的の達成のために、特定の性質を持った人を意図的につくり出そうとすること。一種の人間の育種でございます。また、人間を特定の目的の達成のための手段、道具を見なしてしまう。人間の手段化・道具化と、こういったものに道を開くものであると考えられます。 
      また、人クローン個体に固有の問題といたしましては、既に存在する特定の個人の遺伝子が複製された人を産み出すことになりますので、本来生まれてきた子どもは、体細胞の提供者とは別の人格を有するにもかかわらず、常に提供者との関係が意識され、実際に生まれてきた子どもや、場合によっては体細胞の提供者に対する人権の侵害が現実化・明白化します。 
      社会的な観点からは、これらの問題を容認することは、人間の個人としての自由な意思や生存が尊重されている状態とはいえず、すべての国民は個人として尊重されるという憲法上の理念に著しく反することになるだろうということでございます。 
      また、もう1つの問題といたしましては、遺伝子があらかじめ決定されている無性生殖であり、受精という男女両性のかかわり合いの中、遺伝子を偶然的に定められるという、人間の命の創造に関する基本認識から著しく逸脱するものであり、親子関係などの家族秩序の混乱というものが予想されます。 
      これらのことから、クローン技術は、たとえ生殖医療に使用し得る技術ととらえた場合であっても、人間の育種、手段化・道具化との側面を否定し得ない上、個人の尊重及び人間の生殖に関する基本認識を大きく侵すものであるという問題がございます。 
      2)といたしまして、安全性に関しても、重大な問題があるということを指摘してございます。 
      では、その人個体の産生への適用、クローン技術の適用について規制をどう考えるかということでございますが、クローン技術は、巨額な資金を要する巨大技術と異なり、国内の研究機関や病院などで、一般的に使用されている顕微鏡下での細胞の取り扱い技術、あるいはヒト胚の培養技術などを用いて、一定水準以上の技術を持つ医師や研究者が、比較的容易に実施し得る可能性がございます。また、アメリカでの民間不妊症治療計画ですとか、外国人による日本でのクローン技術を利用した不妊治療成果が発表されるなど、今のところ実態は存在しませんが、近い将来、問題が現実化する可能性があります。これらのことから、我が国としても早急な対応が必要ということを指摘してございます。特に、既に述べましたような人間の尊厳や安全性の観点から問題があることを総合的に判断しまると、クローン個体の産生への適用というのは、禁止することが妥当であるという評価でございます。 
      それから、「なお」と書いてございますが、禁止すべきことは、人クローン個体を意図的に産生しようとする行為であり、万一禁止に反して人クローン個体が産生された場合には、生まれてきた子どもは個人として尊重されることは当然であるという指摘もしてございます。 
      人クローン胚でございますが、人クローン胚を取り扱う研究は、個体の産生をしなければ、このような重大な弊害をもたらすことはなく、また医療等の向上に貢献する可能性がございます。 
      しかし、一方では、人の命の萌芽としての意味を持ち得るものでございますので、その取り扱いは、可能な限り慎重に行われるべきである。また、人クローン個体の産生につながる恐れがあるという面からの配慮も必要であろうということから、正当な理由がある場合には、人クローン個体を扱う研究は、一定の限度で許容しうるという余地がございます。ただし、その研究の是非につきましては、ヒト胚等を取り扱う研究について検討が行われているヒト胚研究小委員会でのさらなる検討に委ねられるべきであるとしてございます。 
      11ページでございますが、研究の自由との関係がございます。研究につきましては、内面的な活動にとどまらない場合については、無制限に自由があるものではございませんで、必要な範囲で、適切な規制を設けることは、研究の自由の不当な制限につながるとはいえないという評価をしてございます。 
      5点目といたしまして、国際的な協調として、技術や研究者の国際交流・移転が進む中、規制につきましても、国際的に協調したものであるということが必要であるという議論でございます。 
      規制の対象でございますが、現在の科学的知見では、ヒト胚は、母体への胚移植の過程、子宮に戻さなければ、出生、成長する可能性がないことから、この規制というものは、人クローン胚を、人または動物の母体への胚移植を禁止するということで規制すべきだとしてございます。なお、その場合、人の細胞の核を人以外の動物の除核未受精卵に核移植して新たに胚を作成し、それを胚移植することにつきましても、同様の結果でございますので、禁止のための規制を行うことが妥当であるとしてございます。 
      また、母体への移植を伴う移植用臓器の作成は、人個体を産み出すことと同等の実態を含み、人クローン個体の産生の同様のこととして、禁止のための規制を行うことが妥当であるとしてございます。 
      続きまして、規制の形態について議論をしてございまして、規制の形態としまして、法令に基づく規制から個別の研究機関による自主的規制まで幅広く考えられます。しかし、クローン技術につきましては、統一的な規制が行われるべきであること、あるいは実効性といった観点を考慮しますと、少なくとも国の示すガイドライン以上の公的な規制を行うことが適切であるということで、これは中間報告でもこういう指摘をしてございます。 
      その後、総理府が9月にまとめました「有識者アンケート調査」において、7割の人が、「クローン個体の産生を法律に基づき禁止すべきである」と回答していることなどを踏まえ、さらに検討が行われました。 
      その結果、人クローン個体の産生は、人間の尊厳や安全性の問題が現実化・明白化し、その弊害の大きさから全面的に禁止されるべきであるが、ガイドラインによる規制では、アウトサイダーに対しての効力が十分ではなく、これらを含むあらゆる者に対して有効な法律により、強制力を伴った形で網羅的に規制を行うことが妥当であるとの意見が大勢を占めました。 
      これに対しまして、法律による規制を行わなくても十分防止できるとの意見や、医師法などにより対応すれば十分であるというご意見もございました。また、他の生殖補助技術等の規制とのバランスを考えた規制やヒト胚などの操作全般についての規制の中で検討すべきであるとの意見もございました。これらについて、さらに検討しましたところ、人クローン個体の産生は法律により禁止することが妥当との結論を得てございます。 
      なお、人クローン個体の産生の禁止以外の部分、研究の部分でございますが、あわせて規制の枠組みを整備することが必要であると指摘をしてございまして、この点につきましては、ヒト胚研究小委員会のさらなる検討に委ねられるべきであるとしてございます。その中で、研究の段階であれば、弊害も大きく、重大な弊害ではございませんので、医師や研究者の自主的な遵守に期待し、柔軟な規制を考えていくと。適時の対応が可能な、より柔軟な規制のほうが適しているというような考え方というものを指摘してございます。 
      この規制の見直しでございますが、クローン技術に関する知見が蓄積するとともに、人間の尊厳との関係について、さらなる議論が行われるということ。これらによりまして、国民の意識やその規制のあり方をめぐる状況が変化する可能性があります。これらを踏まえた上で、3年〜5年程度後に見直しを行うということ、その間に規制のあり方についてさらに検討することが適切であるという指摘をしてございます。 
      人の細胞培養技術につきましては、特段の規制をする理由は見当たらないとしてございます。 
      3といたしまして、人以外の動物の個体、こちらにつきましては、高い有用性が認められるとした上で、特に適切な情報公開を進めることにより、社会の理解を得ていく必要があるという指摘をしてございます。 
      4点目といたしまして、クローン技術以外の生命関係技術でございますが、まずクローン個体の産生ということにつきましては、有性生殖の過程が行われてきた今までのものに対しまして、遺伝的に同じ個体を意図的に産み出せるという点で、これまでと全く異なる人の生命の誕生のあり方を開くものということでございますので、他の技術とは異なる強い規制が必要であると考えられるというご指摘でございます。 
      また、先ほどご説明いたしました人と動物のキメラ個体、あるいは人と動物の交雑した胚に由来するハイブリッド個体につきましては、人間の尊厳及び安全性の問題において、人クローン個体の産生を越える問題を有する行為であり、その弊害の大きさから全面的に禁止することが妥当であるとしてございます。個体に至らないキメラ胚やハイブリッド胚につきましては、有用性がある場合も考えられますので、その是非を含めてさらなる検討が行われるべきであるとしてございます。 
      その上で、生命誕生に関わる技術に関しましては、今後の進展によりまして、予想を超えた技術が出現する可能性があること。また、他の生殖医療技術の取り扱いの問題などにつきましては、新たに得られる知見などを踏まえつつ、今後の対処の方法についてのさらなる検討が不可欠であるということを指摘した上で、それぞれの固有の技術上、倫理上等の議論が存在しますことから、一概にクローン技術に関する議論を適用できるものではなく、改めて詳細に議論を行う必要があるかということを指摘してございます。 
      最後に、第4章でございますが、情報公開の件について指摘してございまして、生命に関する科学技術は、その成果が人の身体や精神に直接かかわる可能性を秘めていることから、特に国民の関心が高いということ。クローン技術につきましては、人クローン個体の産生のへの適用が懸念されるという意味から国民の関心が高く、透明性を確保することにより、その懸念に答えていく必要があるとした上で、インターネットの活用などにより、情報公開を行いつつ進めることが重要であるとしてございます。 
      以上、簡単ではございますが、クローン小委員会の報告の説明をいたしました。 
    (井村委員長) 
      どうもありがとうございました。クローン小委員会では、短期間で大変立派な最終報告書をおまとめいただきまして、ありがとうございました。前回のこの生命倫理委員会の議論を踏まえて、このような最終報告書をまとめていただいたわけでありますが、同時に、法律をつくるということになりますと、法的な枠組みについて、いろいろと検討をする必要があります。現在の検討状況につきまして、まず事務局から報告をしていただいて、その上でこの最終報告に関するご意見、あるいはご質問をお受けしたいと、そのように思っております。では、事務局から報告をしてください。 
    (企画官) 
      申しわけございませんが、法律のほうにつきましては、まだ政府内でも未成熟な段階でございますので、資料としてお配りしてございませんので、OHPでご説明を申し上げます。 
      大きく分けて2つの仕組みを考えてございまして、1つには、人クローン胚等の体内の移植の禁止を直接罰するような仕組みでございます。違反した者に刑罰をかける。この点につきましては、まさに報告書でご議論をいただきました成体間の体細胞のクローン胚、キメラ胚、ハイブリッド胚、これにつきまして、体内の移植を禁止していくというものでございます。 
      もう1つの仕組みといたしましては、これらの刑罰をもって禁止すべき行為が行われる前の、胚の段階での適正な取り扱いの確保でございまして、こちらにつきましては、これら禁止されるべきものについての届け出、あるいはその取り扱いに関する国の指針、ガイドラインといったもの。この指針に違反した者に対しては、是正措置を講じていくというような仕組みができないかということで、今議論を進めてございます。 
      なお、このクローン胚等の届け出につきましては、必ずしも直接禁止される行為のものに限らずに、もう少し広めに、周辺のものまで含めて届け出をいただいて、関連の技術も含めて、まさに行われるべきではないことが実施されてしまうことを未然に防いでいくというようなこと。指針と合わせまして、うまくこの届け出の仕組みを活用していくというような考え方がございます。 
      一連の流れを申し上げますと、まずクローン胚をつくる段階でもちまして、クローン胚をつくっていいという場合には、その指針にのっとった形でやっていただいた上で、その届け出をいただくと。当然これは成体からの体細胞クローン胚は体内の移植は禁止される行為でございますが、これについて、もし行ってしまった人ができました場合には、こちらの移植の禁止をする部分でもって厳しい刑罰をかけていくというような仕組みでございます。 
      こちらが、現在検討中の法律のイメージでございますが、あわせまして、この関連の技術の状況について、ちょっと簡単にご説明をさせていただきたいと思います。資料6−6でございます。 
      クローン技術は非常に幅が広い技術でございまして、クローン小委員会で議論になりましたのは、まさにドリーの問題、成体からの体細胞の核移植ということが議論になりまして、そこのところにつきましては、ここに書いてございますように、既に存在する人の体細胞を未受精卵にこちらの核を除きまして移植し、クローン胚といたしまして、それを体内に移植すると。既に存在する人と同じ遺伝子の子どもを多数つくり出すことができます。成長すると、その体細胞の提供者とほとんど変わらない。環境要因によって多少の違いは出てまいりますが、ほとんど変わらない人が成長してまいります。 
      次のページでございますが、初期胚の核移植によるクローン個体の産生。これは核移植という技術では、この成体からの場合と同様の技術的内容を含みます。ただし、複製の行為が異なっておりまして、もともと受精する。精子と卵子が受精したもの、これが分裂していった段階で、その核を移してやるというものでございまして、既にある人のコピーをつくり出すというような技術ではございません。こちらにつきましては、現在の技術では、32細胞期まで可能と言われておりまして、32つ子といいますか、32の同じ遺伝子を持つ赤ちゃんをつくり出すことというのが可能になります。 
      さらに関連の技術といたしましては、「卵分割によるクローン個体の産生」というのが下にございまして、こちらは核移植という技術を用いません。自然にはない核移植という技術は用いませんが、受精をして、それが分割していった段階。現在のところ、4つの細胞、あるいは8つの細胞の時期に可能だと言われておりますが、その時期でもって胚をばらばらにしてやると。そうすると、またばらばらにした細胞が分裂を始めまして、複数の子どもになると。これは自然に起こった現象としては一卵性双生児がこれに該当する技術でございますが、これを人為的に生み出すということも技術的には可能でございます。 
      これらの技術のうち、クローン小委員会におきましては、特に成体からの体細胞の部分につきまして、非常にほかの生殖技術との違いが大きいということ。さまざまな人権の侵害といったものも極めて大きい、社会的な秩序といった観点からも問題は大きいということは、その部分につきまして法律で禁止すべきと結論づけてございますが、1つの考え方といたしましては、この初期胚の核移植、あるいは初期胚の分割やクローン個体の産生といったものを、この個体、直接的な胚移植の禁止行為というよりも、この指針ないしはクローン胚の届け出の中で規制をしていくというようなことも可能かと思われますので、そういった状況にございます。 
      以上、今の法律のスキームの検討状況と、クローン技術につきまして、若干、補足説明をさせていただきました。 
    (井村委員長) 
      どうもありがとうございました。 
      ただいまの説明にありましたように、小委員会では、非常に多様な意見があったと聞いております。その1つは、法律は一切使わないで、すべてガイドラインで行くべきだという意見。それから、一方では、ヒト胚も含めて、非常に幅広い法律をつくるべきだという意見。その真ん中の一部だけを法律で禁止すべきだという意見というのがあったということを聞いております。それぞれ理由があるわけでありますけれども、小委員会では、非常に繰り返し議論をしていただきまして、前回報告したように、個体をつくるというところだけはきっちりと法律で禁止しようと。これには罰則も設けよう。しかし、それ以外のところは、届け出制か、そういう形で制約を設けて、違反した場合には処罰できるようにしようと。そういうふうなところに落ち着いたわけであります。それで、現在、事務局のほうで、法律をつくる段階でいろいろ検討をしていただいているわけであります。 
      今説明にありましたように、この資料6−6をごらんいただきますと、6−6の第1ページは禁止するわけです。それから、2ページ目は、これは法律では禁止いたしません。これは、ガイドラインで今後いろいろ検討をしていただくことになると思います。それから、3ページ目のキメラをつくるハイブリッドをつくる、ここは法律で禁止する。そういう形で考えたいということでございますが、今の小委員会からの報告につきまして、何かご質問やご意見はございますでしょうか。大変内容が複雑になるんですが、どうぞ、曽野委員。 
    (曽野委員) 
      私は、このこと自体もわかりません。法律もわからない人間なので、かえってこういうご質問をするのですが、この問題が将来起きますと、国内ではないだろうと思うんですね。こういう実験をしたり、あるいは実際に、ある自分のコピーをつくりたいと思うようなのは。日本ではない、どこか別の国で必ず行われると思います。国際法というのは、もともと罰則が適用されないようですから、一番恐ろしいのは、その点だろうと考えております。 
    取り締まれないもの、罰則のないものはどうなさるのですか。 
    (井村委員長) 
      これにつきましては、国際的にどういう立場をとるべきかということで、先進諸国の間では既に議論をしまして、基本的にどの国も、いろいろな形がありますけれども、現在禁止しております。ただ、世界じゅうのすべての国というところまでは、それは及んでいないわけですけれども、これについては、むしろ町野先生か位田先生のほうが答えていただくのはいいんじゃないかと思うんですが、どちらかの先生方、いかがでしょうか。 
    (町野教授) 
      1つは、いろいろな先進国では処罰されているけれども、処罰されてない国に、例えば日本人が出かけていってやったときはどうするかというような問題があって、これを処罰しようとするなら、日本人の国外犯を処罰するという規定をつくるということになると思います。その日本人じゃない人がやったときにどうするかと。例えば、どこか某国において、しかも規制の及んでない国の人が行ってやるといったようなとき、そのときにどうするかということについて、まさにこれは国際法上の調整の問題でございまして、これをハイジャックと同じように、みんな処罰すると。どの国も法律も適用して処罰すると。例えば、日本法でもやっちゃって構わないと。そこまで広げられるかどうかということは、まだ合意がないだろうというぐあいに思います。 
      そして、さらに、日本人の国外犯を処罰することについても、このような法律というのは、あまり実はないんですね。今のところ。これをつくるということになりますと、いろいろなこととの横並びといいますか、これまでの経緯、そこらの調整が必要になろうかと思いますけれども、私自身は、国際法のほうはあまり知りませんので、位田先生のほうがご存じだろうと思います。 
    (位田教授) 
      京都大学の位田でございます。 
      先ほど国際法が罰則がないということでしたけれども、確かに国際法では、いわゆる国内の刑罰的な規制はほとんどありません。ほとんどと申しますのは、例えば、一般的に禁止されている武力行使をした国家に対しては、集団安全保障で経済制裁ないし武力制裁はあるという意味です。そこの部分は若干の例外かもしれませんが、基本的には、国際法の違反をした場合には、損害賠償とか陳謝とか、そういう形にしかならない。 
      ただ、この問題を仮に国際法で考えるとしますと、例えば、クローンの禁止に関する条約をつくるといたします。条約をつくる中で、例えばその条約の中で実際に体細胞からクローン個体をつくった場合に、その個人を禁止するという条約をつくることは可能でございますし、最近は、国際刑事裁判所をつくる、現在、旧ユーゴスラビア及びルワンダに関して、非人道的な行為を行った者に対して刑罰を課するということも現実にやっておりますし、それから近い将来、多分5年後ぐらいだと思いますが、一般的な国際刑事裁判所というのができまして、そこで個人を処罰するということも可能になっておりますので、もし仮にクローンの禁止、クローン個体産生の禁止ということで条約をつくって、個人を刑罰でもって処罰するということを条約で決めれば、基本的にはそれは可能だと思っています。ただ、現在のところで国際協調という観点からしますと、曽野先生は、先ほど、こういうことがもしやられるのであれば日本ではないとおっしゃいましたが、日本人が仮にやらないとしても、日本が仮に法律で禁止しないと、刑罰でもって禁止をすることはないということを明らかにした途端に、外国から日本にやってきて、それをやろうとする、先ほどの報告では「アウトサイダー」という言葉で表現されていたと思いますが、そういう可能性が全く否定できない。それを禁止するためにはどうするかというと、やはり法律によるしかないということだろうと思い、そういう方法を各国でとっていけば、それが国際協調という形になり、仮にそうした条約ができなくても、各国でそれを規制することは可能になるわけです。 
    (井村委員長) 
      よろしいでしょうか。要するに、日本の立場をはっきりするという意味が、1つございますね。現に、アメリカの医者が日本に来て会社をつくって、クローン人間をつくるというようなことを記者会見で表明して非常に問題になったこともありますけれども、それはこれで禁止することができる。 
      ほかに何かございますでしょうか。 
    (石塚委員) 
      小委員会の報告書は非常に幅広く網羅的にご検討いただいて、敬意を表したいと思いますが、この10ページの中ごろにございますが、2)でございます。規制のところの最後の3行。「なお、禁止すべきことは人クローン個体を意図的に産生しようとする行為であり、万一禁止に反して人クローン個体が産生された場合には、生まれてきた子どもは個人として尊重されることは当然である」という、ここは禁止はするけれども、ひょっとしてできるかもしれない。できた場合には、きちっと保護しましょうという、規制というよりは、むしろ保護という面が打ち出されておりますが、ここの部分は、法的に、あるいはガイドラインとか、どういう形で担保しようというふうに今お考えでしょうか。そこをちょっとお伺いしたいと思います。 
    (井村委員長) 
      何か事務局はありますか。 
    (企画官) 
      この点につきましては、実は非常に民法上の権利等がかなりあいまいというか、扱いが難しいことが考えられると思いまして、現在、私どもの法律を議論する過程で、もっぱら法務省の刑事局と話をしてございますが、あわせて民事局のほうにも、こういうケースがあり得るというお話を近々してさしあげる予定でございまして、その中でいろいろご検討をいただくことになると思います。 
    (石塚委員) 
      もう1回よろしゅうございますか。今のお答えはそれで結構と思いますが、感じとして、こういうことは大事なんですけれども、あまりこの考え方を打ち出しますと、せっかく禁止しておきながら、禁止に抜け道があることをあらかじめ予想するという、何かおかしなインパクトが出てくるんじゃないかという感じがいたしますが、そこはいかがですか。 
    (井村委員長) 
      これは何か、あるいは岡田先生から答えていただいたほうがいいかもしれない。 
    (岡田委員) 
      ユネスコの宣言の中にあったかなと思うんですが、こういうふうな形の事実が出てきたときには、やはり「尊重すべきである」という言葉がどこかに書いてあったと思うんですけれども、原則的には、そういうことはちゃんとやるべきだと思いますが、罰則があるという格好のことで、そのルールを破って出てきた個人に対しての偏見というものをとにかく取っておかなければいけないんじゃないかという非常に倫理的な問題ということを宣言してあると思いますけれども、石塚委員のおっしゃったように、確かにここのところは書かなくてもそうなんだということで、多分、日本国憲法では理解されているということでもあろうかと思うので、ここら辺のところは、実際のところ、どちらにウエートを億かということというのを少し考えておく必要があるんでしょうね。 
    (井村委員長) 
      町野先生から何かございますか。この問題で。だから、本当にさらりとは書いてあるんですね。2行ほどで。 
    (町野教授) 
      私の記憶が誤りでなければ、スタートしたときから、小委員会ではこの問題がありまして、とにかく最初には、できてしまった子どもについては権利を認めるようにしなければいけないということのスタートがありましたから、これは置いておいたほうがいいだろうというぐあいに思います。 
      それと、もう1つは、今の考え方では、例えば、これは当然のことといえば当然ですが、よく例に引かれるのが、レイプされて、レイプは禁止されているけれども、それによって子どもが生まれたとき、その人の権利を否定するということは、これはないと。やはり尊重されなければいけないと。これは当然のことなんですけれども、割合、このクローンとして生まれた子どもは基本的に被害者なんですよね。だから、その人のことを考えなければいけないというのは、今の法律の流れでございまして、ちょっと例としてはぴったりこないかもしれませんけれども、割合最近成立いたしました児童ポルノ・児童買春処罰法というのは、その被害となった子どものアフターケアについても非常に丁寧な何条かの条文を置いているぐらいでございます。ですから、そういうことを考えますと、やはり置いておいたほうがいいように私は思います。 
    (井村委員長) 
      ほかに何かございますか。どうぞ。 
    (田中委員) 
      少し細かな議論で恐縮なんですけれども、小委員会の議事録を拝見したり、事務局の説明を伺ってよくわからないところがあって、非常に技術的な問題かもしれないし、あるいは原理的な問題かもしれないんですが、9ページのところで、人間の尊厳に関する説明をしていらっしゃるところで、○が2つあって、1つ目が、人間の手段化・道具化、2つ目が、人権の侵害が現実化・明白化するというふうに、まず人権があって、最後のくくられるところで個人の尊重の侵害という説明がされているのですが、小委員会で、人間の尊厳と、個人の尊重と、人権という概念をどういうふうに整理して説明されているのでしょう。これは非常に議論のあるところだということは承知しているんですけれども、小委員会としてはどういうふうに整理されたのかだけ、ちょっと確認をさせていただきたいと思います。説明としては、○の先のほうに、個人の尊重が侵害されるとして、大きなくくりとして人権の侵害があり、全体として人間の尊厳の侵害というほうが、何となく座りがよくて、先に人権の侵害と書いておいて、後で個人の尊重というのは、ちょっと普通の理解とはずれているんじゃないかという印象がいたします。そのあたりは、町野教授や位田教授はどういうふうにご理解されたのか、ちょっと確認したいんです。 
    (位田教授) 
      それでは、今度は私からご説明したいと思います。人間の尊厳という概念そのものが日本では必ずしも明らかではないのではないかというのが、委員会の中では非常に大きな議論になりました。例えば、西洋では、人間の尊厳といえば、ある意味では全部通るようなところが傾向がありますが、日本で人間の尊厳を基準にしてクローンを禁止したらどうかという議論が出ましたときに、日本では、人間の尊厳というのはもう少しきちっと説明していただかないと中身がよくわからないという意見がございました。それでこういうふうに幾つかの要素を取り上げて、これを全部ひっくるめて「クローン個体の産生に関する人間の尊厳に反する」という、こういう基本的には大きな枠組みになっていると思うんですね。したがって、1)が人間の尊厳の侵害という大きな枠組みにしまして、具体的には、人間の育種とか、人間の道具化というのがまずある。それから、先ほど田中委員がおっしゃったように、人権の侵害。それから、生まれてきた子ども、もしくは生命を生み出すということについて関連して、憲法上の理念にも衝突するという形の並び方になっていると思いますし、それから最後の○の「無性生殖であり」というのは、基本的に社会秩序という観点から、それにも反するという並べ方になっているかと思います。確かにこれらをどういうふうに並べるかというのは非常に難しい問題だと思いますし、今おっしゃったように、人権を先に並べるほうがいいのかどうかというのは、なかなか議論が煮詰まりにくい問題であると思います。私個人の理解として、全体として人間の尊厳でくくってあると考えています。具体的には、人権のほうが、より具体的な概念だろうと思いますので、人間の尊厳の中に人権がコアとして入っているという理解をしております。 
    (町野教授) 
      いろいろな考え方が実はあっただろうと思うんですよね。だから、それぞれの理解があって、若干玉虫色的なところがあることは私は否定できないかなという感じはいたしますが、それは岡田先生は、「いや、そんなことはない」とおっしゃるかもしれませんけれども、そういうところはありますけれども、基本的には二段だろうと思うんですよね。田中先生が言われましたとおり、人間の尊厳という非常に抽象的な、いわば価値ですね。文明社会の価値。それの侵害ということが問題でございまして、その実質を成すのは、今、位田先生がおっしゃられましたとおり、個々人の権利の侵害というところにそれがあらわれてくると、そういうような考え方でできているだろうというぐあいに思います。 
    (井村委員長) 
      ほかにございませんか。これは、小委員会の報告でありますので、もしあまり大きな問題がなければ、生命倫理委員会としては、この小委員会の報告をご承認いただいて、これから生命倫理委員会として、どのような意思表示をするかということをお諮りしたいと、そのように考えております。 
      それでは、もしこれ以上ございませんでしたら、次に、小委員会の報告を受けまして、生命倫理委員会としての意思表示を考えたいと思いますので、まずそのたたき台を事務局につくってもらっていますから、それから説明をしていただきます。 
    (企画官) 
      ご説明申し上げます。資料6−5でございます。「クローン技術による人個体の産生等について(案)」としてございますが、成体の羊の体細胞核を他の羊の除核未受精卵に移植して得られた子ども羊の誕生以来−−これがドリーでございますが−−世界各国で動物を用いたクローン個体産生に関する研究が進んでいる。本技術の人への適用については、各国や国際機関で生命倫理の観点から議論が行われており、本生命倫理委員会としても、クローン小委員会を設置し、検討を進めてきた。クローン小委員会は、去る11月17日に報告を取りまとめたが、本委員会としては同報告を了承するとともに、同報告を踏まえて審議をした結果、以下の対応が必要と認識する。 
      1点目が、「クローン技術による人個体の産生について」でございます。まず基本認識でございますが、クローン技術の人個体産生の適用については、人間の育種や手段化・道具化に道を開くものであり、また生まれてきた子どもは体細胞の提供者とは別人格を有するにもかかわらず、常に提供者との関係が意識されるという人権の侵害が現実化する。このため、すべての国民が個人として尊重されるという憲法上の理念に著しく反することとなる。さらに、無性生殖であることから、人間の命の創造に関する我々の基本認識から逸脱するものであり、家族秩序の混乱も予想される。 
      また、クローン技術による人個体の産生については、安全性に関する問題が生じる可能性を否定できない。このように、クローン技術による人個体の産生には、人間の尊厳の侵害及び安全性の観点から重大な問題があり、その弊害の大きさから、強制力を伴った法律により禁止されるべきであるとしてございます。 
      2)といたしまして、対象について整理してございます。先ほどの幾つかの技術も含めて議論してございまして、核移植技術を用いて人クローン個体を産生する場合には、移植される核の由来として初期胚から成体までバリエーションが存在し、人間の尊厳の侵害、安全性の面での問題点もおのおのの場合によって異なる。この中で、上記1)に示した問題点がすべて顕在化するのは、成体の体細胞を核移植することにより人個体産生する場合であり、これについては、強制力を伴った法律により禁止のための措置をとるべきである。 
      一方、人の発生における初期胚からの核移植については、核移植が自然には起こり得ない現象であり、現時点では人に適用した場合には安全性の面で重大な懸念があるとともに、同一の遺伝子を有する多数の個体の産生が可能になるという問題も有している。しかし、成体からの核移植の場合に具体化する既に存在する核の提供者と生まれる子どもとの関係が問題になることはない。 
      また、核移植を伴わない、初期胚の分割による個体産生については、同一の遺伝子を有するものを人為的に複数産生可能となる点で問題がある。しかし、初期胚からの核移植の場合と同様、成体からの核移植のような核の提供者が存在せず、有性生殖による初期胚を分割するにとどまる行為であるという点においても、成体からの核移植による個体産生と性格を異にする問題である。 
      以上のことから、初期胚からの核移植による個体の産生や、初期胚の分割によるクローン個体の産生に関しては、成体からの核移植とは異なる側面があること、生殖補助技術としての将来の可能性があることを考慮しつつ、これらの技術により個体産生が行われないよう具体的な措置を講ずる必要があると。この点につきましては、法律という形ではないにせよ、個体産生が行われないような措置というものが必要であるという指摘でございます。 
      2点目といたしましては、「キメラ、ハイブリッド個体の産生について」でございます。 
      人と動物のキメラ胚を用いて産生されるキメラ個体や、人と動物の配偶子を交雑させて得られるハイブリッド胚を用いて産生されるハイブリッド個体については、ヒトという種のアイデンティティをあいまいにする生物をつくり出すものであり、安全性の面も含め、クローン技術による人個体の産生を上回る弊害を有するため、強制力を持つ法律等により、その産生を禁止するための措置を講ずるべきであるとしてございます。 
      3点目といたしまして、「個体の産生を目的としない研究の扱い」でございます。人クローン胚の研究は、拒絶反応のない移植医療の研究や基礎研究において有用となる可能性があり、また個体を産生しない限り、人間の尊厳の侵害や安全性の面での重大な弊害を伴うものではない。しかしながら、人の生命の萌芽たるヒト胚の操作につながる可能性があることから、人クローン胚の研究には慎重な検討が必要である。このため、クローン技術の人への適用については、人クローン個体の産生のみならず、クローン胚の研究についてもあわせて規制の枠組みを整備することが必要である。この点は、キメラ胚及びハイブリッド胚についても同様である。 
      現在、ヒト胚性幹細胞研究等ヒト胚に関連する研究のあり方についての議論がヒト胚研究小委員会において行われているが、同委員会の検討結果を踏まえ、人クローン胚の扱い等も含めた規制の枠組みを整理することが必要であるとしてございます。 
      4点目といたしまして、「規制の見直し等」でございますが、クローン技術等に対する規制については、今後の科学的知見の蓄積や人間野尊厳との関係について、さらなる議論が進展することや、規制のあり方をめぐる国民の意識や状況が変化する可能性があるため、3年〜5年程度の後に見直しを行うことが適切である。また、本問題については、国際協調を図るとともに、情報公開を進めつつ対応していくことが重要であるというたたき台でございます。 
    (井村委員長) 
      ありがとうございました。 
      それでは、この現在提案がありましたたたき台についてご意見を伺って、この委員会としての意見をまとめたいというふうに考えております。 
      基本的な姿勢は、クローン技術をつくって個体をつくることは法律で禁止いたしましょうと。それから、キメラ、ハイブリッド個体の産生も法律で規制いたしましょうと。しかし、個体の産生を伴わない研究ですね。それは将来非常に有用性がある可能性が高いので、これについては、法律では禁止しないで、届け出制にして、これから、そういった一種のガイドラインをつくっていくと、そういう基本的姿勢でありますが、基本的姿勢だけでなくて、文章の点でも、これはこの生命倫理委員会の結論ということになりますので、ご議論をいただきたいと思います。先ほど、田中委員が提起されたような問題は、若干ここにも含まれているわけですけれども、いかがでしょうか。 
      それで、お手元の資料の6−6の2ページ目をごらんいただきたいと思いますが、2ページ目の上に書いているのは、受精卵が発生する初期胚の核を使って、これを除核した未受精卵に入れて個体をつくるという方法です。これは、今回禁止しておりません。その理由は、ミトコンドリア病という病気がありまして、これはミトコンドリアの遺伝子に異常がある病気です。この病気の治療に将来使える可能性があるわけですね。だから、そういう意味で、ここは禁止しないほうがいいであろうということになっているかと思います。それから、卵分割によるクローン個体の産生。これは、受精卵を分けておいて、そして人工的に双生児や、あるいはいわゆる四つ子をつくっていくという方法でありますが、これも決して望ましいことではないわけですけれども、今の時点では、法律で禁止するという対象にはしないほうがいいであろうと、そういうことになっていますが、そういうところも少しご意見があれば伺いたいというふうに思っております。 
    (島薗委員) 
      大変、内容の詰まった小委員会の報告書に基づいて、短く生命倫理委員会の方針をまとめられるということで、たたき台をつくられるのに苦労なさったと思います。難しい科学的な知識が前提になりますので、国民に理解できるものになるということが難しいなということを感じております。短くまとめる場合には、特に、おそらく基本線というものをしっかりと出して、文章としての説得力がある必要があるんじゃないかなと思います。おそらく大変ご苦労なさったのは、内容、重要な指摘は全部ここに込められるということに、短いスペースになさったので、ちょっとわかりにくい文章になっているかなという気がするのが1つでございます。 
      それから、強調すべき点と、付随的といっていいか、大事な点ではあるんだけれども、2番目、3番目に重要であることとの割合をどういうふうに込めるかということがなかなか大きな問題になるんじゃないかと思います。 
      それから、科学的な可能性を尊ぶということが重要だということはわかりますけれども、国民の常識、あるいは価値観に近いところで、こういう生命倫理委員会としての考えはまとめていったほうがいいのかなというふうにも考えております。 
      抽象的なことを幾つか申しましたけれども、幾つか気がついたことなんですが、まず、基本認識のところでもそうなんですけれども、人個体の産生については、価値観上の問題が非常に大きいというふうに私は理解しております。したがって、そこに安全性の問題というのは、あるかもしれないけれども、どのぐらい盛り込んでいく必要があるのかと。もしかしたら基本線を示すという点では、必要でないかもしれないなと。最後の3行なんですが、「人間の尊厳の侵害及び安全性の観点から」というふうに2つ並びますと、安全性の観点というのは大変重要なように見えるわけですけれども、圧倒的にここは人間の尊厳の侵害のほうが大きな問題だろうと思います。 
      それから、対象の部分の1番目のところなんですが、最後のほうですけれども、初期胚からの核移植。ここのところも、「成体からの核移植とは異なる側面があるが、問題点も大きいことから、生殖補助技術としての将来の可能性を考慮しつつも云々」となっておりまして、ここは、やや将来の可能性というほうへの傾きが少し重い。重大な問題があるというほうをもう少し強調したほうがよいのではないかなという気がいたしました。 
      それから、キメラ、ハイブリッドのところでも、安全性の面も含めということが、ここでそれほど重大な問題であるかと。もっとキメラということ自体の持っている問題のほうが大きいのではないか。この部分に安全性というものを含める必要があるのだろうかという気がいたしました。 
      それから、3番目のところなんですが、3行目から4行目にまいりまして、ここが一番重要な問題であるわけなんですが、どのくらい個体の産生を目的としない研究について慎重な対応が必要かということなんですが、これはぜひ強調してほしいと感じております。その場合に、例えば、「人の生命の萌芽たるヒト胚の操作につながる可能性があることから」というふうな、大変婉曲な表現になっておりますが、それでいいのかどうか、ちょっと伺いたいなという気がいたしました。ヒト胚の操作というのは、どの程度のことまで入るのかなということをちょっと教えていただきたいと思います。 
      それから、4番目のところなんですが、最後のところですが、日本の政策決定にかかわってくるこの生命倫理委員会の結論だと思いますので、その点では、最後の2行に要約されている点は大変重要な問題ですので、もう少し強調して具体的な内容を盛っていただけないかなと、そんなことを感じました。何とか科学的な理解しにくい問題をわかりやすくして、基本線を力強く出すような方向のまとめがつくれればいいなと、そういうふうに感じました。 
    (井村委員長) 
      これについては、事務局から何か意見があったら。 
      まず、1のクローン個体の作成の安全性の問題については、確かに安全性よりもクローン個体をつくるということ自体のほうに禁止の重きが置かれておりますから、安全性をあまり並べて書く必要はないかもしれません。さらりと触れておいたほうがいいかもしれません。ただ、現在、アメリカのほうは、どちらかというと、安全性が証明できていないから禁止するという立場をとっておりますので、そういうことから少し安全性に触れてるんじゃないかと思うんですが、日本の場合には、それよりも、やはり人間の尊厳の侵害からクローン個体はつくらないほうがいいというのが基本的な姿勢ですので、そこはとったほうがいいかもしれない気がしますね。 
      それから、人の発生における初期胚からの核移植とか、核移植を伴わない初期胚の分割による個体発生のところが、少し細かく書き過ぎているんじゃないかというご指摘ですが、これはいかがでしょうか。これは、もう少しさらりと流してもいいかもしれない。簡単にしてもいいかもしれない。その初期胚からの核移植については、これはミトコンドリア病の治療に使える可能性が相当大きいわけですね。だから、そういう意味で、これを全面的に反対するという立場はとらないほうがいいんじゃないかと。それから、初期胚を分割してたくさんの子どもをつくるということは、これは人為的にすることは非常に望ましくないわけですが、実は初期胚の一部の細胞を取って遺伝子診断をするということが、既に産婦人科学会では容認されております。ただし、これは非常に重篤な遺伝病だけであって、非常に広くやるということは認められておりませんが、非常に重篤な遺伝病の場合には認められているというところがあって、若干ここは微妙なところがあるわけです。 
      それから、ヒト胚の取り扱いを今後どうしたらいいのかというのは、非常に微妙な問題で、これは各国とも非常に悩んでいるというか揺れているところであります。それは、一方では、臓器移植にかわる新しい移植治療法の開発に非常につながるという期待が持てるわけです。ただ、そういうこともあって、臓器移植がもう限界に今来ているわけですから、それにかわる新しい治療法の開発ということで、例えば、フランスは最近、体外受精で使わなかった受精卵は使ってよろしいという方針を打ち出しているわけですね。アメリカは、もうつくってしまったものは使っていいという考え方でいっているということで、ここはそういう非常に大きなベネフィットがありますので、どこから人間と認めるのかということが1つの大きな問題になると思うんですが、その辺が非常に難しいところですので、法律では禁止しないでおこうと。 
      何か今提起された問題で、どうぞ曽野委員。 
    (曽野委員) 
      私は今、資料6−3の15ページにおつけいただきました「用語の定義」というのを拝見しながらこれを読みましたが、それでもあんまりよく頭に入らない。それで、「クローン」というのは、つまりまだ訳してないわけで、よくファッションのほうでは、「フリル」とか「リボン」とか「ドレープ」とかというのを残したほうがしゃれたように見えるというおかしな技術のままに一種の変な翻訳が定着したわけです。それと同じで訳しているようでいて訳になっていない。何とかなりませんでしょうか。いちいち和語に翻訳をしていただきたい。これから先、長く国民がおつき合いをする分野なんでございますので、ちょっとお力添えをいただけたらと思いますけれども。 
    (井村委員長) 
      何かいい訳はございますか。なかなかこれは難しくて、いろいろ検討はされたんだろうという気はしますけれども、あまり検討していないかな。もともと非常に難しいので、もうそのまま「クローン」を使ったということになると思いますね。確かに、一般の方にわかりやすいまとめにはなっていないかもしれませんが、科学的な正確さを期すると、どうしてもそうなってしまうというところが−−どうぞ。 
    (島薗委員) 
      前回のときもちょっと申し上げたんですが、小委員会の役割と生命倫理委員会の役割がもう1度考慮されていいんじゃないかと思うんですね。小委員会は、細かく可能性のある諸問題について検討し、法律的な深い知識に基づく検討が必要であると。そういうことを徹底的に討議なさって、こんな立派なものをつくられたわけなんですから、それをそのまま要約するという形で生命倫理委員会の結論が出てくるということにはならないであろうと思うんですね。生命倫理委員会の役割は、そういう技術的、専門的な検討を踏まえて、現在の政策決定にかかわるような形で国民の意見を集約していくというふうなことになると思います。ですから、何かそこにプロセスが必要で、小委員会からの結論をそのまま吸い上げるというふうにはなかなかいかないんじゃないかと。 
    (井村委員長) 
      おっしゃるとおりであります。ただ、前回この問題を少し議論をして、ここの議論の結果をもう1度小委員会に戻して、小委員会で検討していただいたというプロセスは踏んでおります。それを受けて小委員会が最終報告をまとめていただいたわけですが、しかし、非常に大きな問題があれば、それはそれでまた、もう1度小委員会に戻すということも可能なんですけれども、いろいろな諸般の状況を考えますと、できれば基本的なところはここでご承認をいただけたら、まとめとしたいというふうに私は考えております。 
    (企画官) 
      今の島薗先生からのご指摘を踏まえて、例えば、こういうふうにしてはいかがかという1つの事務局サイドの提案でございますが、1つに、1)の「基本認識」のところでございますが、安全性及び人間の尊厳の侵害というのを出すという意味で、1)の最後の「このように」というところを、「人間の尊厳の侵害など」ぐらいで、そこを強弱をつけるということ。 
      それから、2)の「対象」のところでございますが、確かにここは非常に細かく書いてございますので、こういった背景があるということを念頭に置いた上で、この初期胚の部分の説明部分は割愛して、1つ目の段落の「これについては強制力を伴った法律により禁止のための措置を取るべきある」というところの次の2つの段落を落とした上で、「初期胚からの核移植による個体の産生や、初期胚の分割によるクローン個体の産生に関しては、成体からの核移植とは異なる側面があること、生殖補助技術として将来の可能性があることを考慮しつつも、問題があることから、これらの技術による個体産生が行われないよう具体的な措置を講ずる必要がある」というようなことで、あまり技術的に細かいことを書くというよりも、大きな理念を示すというような形が1つあるかなと思いましたが、いかがでしょうか。 
    (永井委員) 
      今の処理の問題ですが、ここを読んでみると、一見、サイエンティフィックには筋が通っているんですが、どれを法律的に禁止し、どれをガイドラインでするのかということが、専門家でない普通の方たちにとっては非常な関心になってくると思うので、そういう観点から、もう一工夫あってもよいのではないでしょうか。それから情報公開ということが最後のところに出ていますが、今回のまとめの記事を出すと同時に、これをわかりやすく、何を言っているのかがきちんとわかるようにしておかないとまずい。日本の場合は、アメリカや欧米と比べると、サイエンスの内容を一般の市民に知らせる媒体とでも言ってよいものが、ジャーナリズムを含めて、まだまだ未成熟なんですね。そこら辺が非常に今の問題にもかかわってきます。このことは今後、ライフサイエンスが発展して行くのに応じて、ますますその重要性を帯びてきます。内容をきちんとわかりやすく伝えるような情報公開のテクノロジーといいますか、そういうものを構築して行くという方向に対しても、きちんとしたサポートをしていくというようにしていかないと、一般の方々とサイエンティストの間が開く一方になってくるでしょう。その意味でヒトクローンという問題は、1つの試金石だと思うんですね。 
    (井村委員長) 
      6−6の、こういう絵を出すのは割とわかりやすいかもしれないですね。絵を見ると、こういうのはいけないんだというのが、科学的な正確さを期すると、例えば6−6の2枚目なんかが出てくるわけですから、これは今回は必要ないのかもしれない。一般的にはね。これは禁止しようとしていないわけですから。3枚目のキメラとハイブリッドは、これは禁止しようとしているわけで、ある意味では、1枚目と3枚目の絵をつけて、わかりやすい文章をつくるというのも1つ必要なことではないかという気がします。 
    (石塚委員) 
      1つ、ご提案ですが、本文のほうは正確を期して、簡潔なものでいいと思いますが、やはり解説的なものを付録としてつけるほうが、あるいは処理しやすい。あるいは、より理解しやすくなるかもしれないと思いますが、いかがでしょうか。もし、そういうものをつくるタイミングがもうないんだとすると難しいかもしれないが。これは、きょう決定すると、きょう公表というようなことを考えておられるんですか。 
    (企画官) 
      ええ、当初はそういうことを考えてございましたが。 
    (石塚委員) 
      そうすると、あまり解説をつくる間はないですね。 
    (企画官) 
      ただ、決定分につきましては、インターネット等で公開しますので、その際に解説、あるいは、このような絵をつけてわかりやすくするということは可能だと思います。 
    (石塚委員) 
      本文から切り離して、何か解説のようなものを……。 
    (井村委員長) 
      そうですね。非常に細かく言いますと、例えば、「体細胞というのは何だ」と、「胚細胞とは何ぞや」と言われると、それからの説明がやっぱり必要になってくるわけで、非常になかなか難しいところがあるんですね。「核」も、何かすぐ核爆発の核じゃないかと思われるかもしれませんし、非常に難しいところがありますけれども、きょうの生命倫理委員会の見解ですね。これは、できるだけやっぱり科学的に正しいといえるものにしたいと。ただ、ご指摘いただいたところは、若干修正いたしまして、禁止するところを明確にして、禁止しないところはさらりといくと。そういうことにしたいと思います。それから、インターネットか何かで、わかりやすいものを流すと。そこには、こういう図を使ってやると。そういうことでいかがでしょうかね。 
      永井委員が言われた点は非常に重要な問題で、今、科学技術会議でもやっぱり、そのことを問題にして、いろいろやっておりますし、これは世界じゅう、その問題に悩んでいるわけですね。科学の進歩があまりにも速いので、サイエンティストと一般のパブリックの人たちの間の差がどんどん大きくなっていくと。それがかえってサイエンスへの反発を生みだしてしまうと、そういう事態が起こっているわけで、これはこの問題だけでなくて、別途に大きな問題としてあるわけですが、しかし、この問題の場合にも、その点は十分配慮して考えないといけないというふうには思います。 
      いかがでしょうか。はい、どうぞ。 
    (田中委員) 
      科学のほうの観点からじゃなくて、法律の観点から見て、ちょっと意見があります。これは小委員会でも議論されていたんですけれども、「強制力を伴った法律」ということが頻繁に出てくるんですけれども、何かどうも生命倫理を議論されるときに、法律のイメージが少し偏っているんじゃないか、その規制的な法律ばっかり考えていらっしゃるんですけれども、こういった生命科学を円滑に進めるための促進的な法律もあり得るので、「法律により罰則を伴う禁止をすべきである」とか、何かそういうふうな形でちょっと表現を工夫していただかないと、法律は強制力を伴っているのに対して、ほかの規制の枠組みの場合には、強制力を伴わないという見方は、これから実際にこういう問題の規制の仕組みを考えていくときに困るんじゃないかと思うのです。どうも何か生命科学をやっていらっしゃる人は法律に対する嫌悪感が強いようなんですけれども、法律というのは、もっといろいろな使い方があるので、あまりこういう形だけの法律のイメージが先行するというのも、さっきの科学的な知見の場合と同じように、法的な観点からもご配慮をいただきたいという感じがいたします。 
    (井村委員長) 
      「強制力を伴った」なんて形容詞はいりませんか。 
    (田中委員) 
      「法律により罰則を伴う禁止」とか、何かそういうふうな形にでもしてもらったほうが、普通の規制の枠組みでも、いろいろな形で間接的には強制につながっていく規制の仕方は考えられるわけでして、そのあたり、法律かガイドラインかという区別そのものにもちょっと問題があるので、そのあたり、法をもう少し柔軟に考えて、ガイドラインにも、場合によっては、強制する可能性があるんだというふうな仕組みをこれから考えていく必要があるんじゃないかというような感じがしますので、あまり法律は強制力を伴うというイメージだけが先行しないほうがいいと思います。 
    (井村委員長) 
      わかりました。ほかに何か。それでは、永井先生から。 
    (永井委員) 
      先ほど島薗委員が最初に指摘されましたが、なぜ禁止といったことを考えなければいけないかの理由、あるいは、根拠として、人間の尊厳の問題と安全性の問題が重視され、さらに、安全性の問題と人間の尊厳とのお互いの相互関係はどうなのかというようなことが問題になりました。私は、もう1つの点を指摘しておきたい。この資料6−5では、「家族秩序の混乱」というのが出ていますけれども、フランスの場合は、家族秩序の乱れから派生する重要な出来事として、社会の混乱という問題が取り上げられたと思うんですね。今回の文章でこの社会に生じる問題についての言及がどうして落ちているのか。何か法的に、社会というのを対象にした場合、非常に困る、処理の仕方が非常に難しいことになるのかどうなのか。そこら辺について、いまひとつご意見を法律分野の方から聞いておきたいと思います。特に必要でないというふうにお考えですか。 
    (町野教授) 
      いえ、そういうことではなかったと思いますけれども、小委員会のほうの議論では、社会秩序の混乱はもちろん入っていたと思いますけれども。ですから、これはたまたま入れなかったというだけではないかと思うんですけれども、どうですか。 
    (位田教授) 
      社会秩序という点を家族秩序ということで代表させて書いてございます。1つ考慮したのは、「社会秩序」という言い方は非常に表現が広いものでございますから、そこをあまり理由として強く出しますと、国家統制というか、そういったイメージが強くなります。そこで、少し表現を抑えて書いて、家族秩序ということに代表して書いてございます。 
    (井村委員長) 
      それは入れてもいいんです。それは、小委員会報告に入っているんですね。「家族秩序」ということで。「社会秩序」というと、あまりにも広すぎるかもしれない。だから、「家族秩序」のほうがいいんじゃないかということなんですが。 
      それでは、ちょっと待ってくださいね。島薗委員が手を挙げておられると思うので。 
    (井村委員長) 
      その問題。じゃあ、どうぞ。 
    (曽野委員) 
      私は、人生何でも楽に生きるほうがいいと思っておりますので、何でも手近な秩序に従って生きようと思っていますが、今、社会秩序だの家庭秩序だの、何言ってるのよ」って言う人はたくさんおりますので、そういう人たちのこともやはりお考えになったほうがよろしいと思います。 
    (井村委員長) 
      それでは、島薗委員、どうぞ。 
    (島薗委員) 
      少し別の話……。この分量なんですが、これは非常にコンパクトにしておりますが、少し量を増やされるということを考えられてもいいんじゃないかなと。例えば、1ページ目の最後の文なんですけれども、「しかし、成体からの核移植の場合に具体化する既に存在する核の提供者と産まれる子どもとの関係が問題になることはない」。これは、報告書を読んだ後ですとよくわかるんですが、この文だけではとてもわからないですね。これをもう少し長くご説明くださればわかると思うんですけれども、そういうところがほかにもちょっと……。 
    (井村委員長) 
      ここはもう、さらりと流して、もうちょっと短く詰めてやるというのも1つの方法。あるいは、もうちょっと全体に長くするかですけれども、あまり長いと読んでもらえないんですね。これでも読んでもらえないと思うので、それもあって、できるだけ短くまとめたわけですが、何でしたら、ここのところは、今回は禁止しないわけですから、先ほど事務局が説明したように、もうちょっと短縮をして、そしてこれについては、望ましいことではないけれども、今後検討をしていくということにしたほうがいいのかもしれないというふうに思いますが。 
      では、石塚委員。 
    (石塚委員) 
      私は規制の仕組みだけちょっとお聞きしたかったんですが、法律でなくてガイドライン、指針で処理するところがありますが、この場合、指針の場合は、それを守らなかった場合に改善措置命令が出て、さらにそれが守られなかった場合に罰則がくるという、そういう二重構造になっていると思いますけれども、指針が守られなかった場合、次は法律による手段に訴えようという、そこのつなぎというのは、どういうふうになるんですか。やはり法律の中でそれはうたうわけですか。 
    (企画官) 
      先ほどご説明を申し上げたところは、あくまで一応法律の枠組みの中の部分でございまして、単純なガイドラインでは、そのような罰則をかけたりということは不可能でございます。今回のものは、重大な弊害があります個体の、上のこの部分ですが、この部分の一種の予備的な行為としてのクローン胚の作成といったものについての届け出をいただくようなことが可能ではないかと。それについては、国としての扱いについての指針を定めて、例えばクローン胚はおなかの中には戻さない、子宮の中には戻さないというようなことを定めると。そういうことができれば、その指針に従ってやってくださいということはできると。ただ、そのときに罰則がかけられるかどうかは非常に微妙なところでございまして、そこは国として、指針を守ってくださいということは間違いなくできると思うんですが、その上で、それを破った人に対して、さらに罰をかけるかどうか、今非常に微妙で、政府内でできるかどうかという議論をしているところでございます。 
    (井村委員長) 
      これは、現実の法律になりますと、なかなかまた難しい問題があって、私どもにはわからないところがあるんですが、事務局のほうで今、法制局等と話をしながら、いろいろ検討をしてもらっているところですけれども。何かほかにございますでしょうか。 
    (森岡委員) 
      一番最後のところですが、こういう問題について、やはり国民の理解とか議論をもうちょっと深めるとか、そういう項目を入れておいたほうがいいんじゃないかと思うんですね。前からの持論なんですけれども、ヒトクローンだけを規制していくというんじゃなくて、生殖医学全体について、もうちょっといろいろの場で議論をするなり、ガイドラインをつくっていくということが非常に必要なんじゃないかということです。せっかく最後に、国際協力を何とかと書いてありますから、その前にそういう表現が入ればと思っていますが。 
    (井村委員長) 
      国民の理解を得るというのは、なかなかこれはまた難しい問題でありまして、クローンについてはかなり広くいろいろな意見を求めました。これは圧倒的に国民の皆さんは反対であるということについては、一定程度の理解は得ているというふうに思います。ただ、生殖医学については、これは非常に難しい問題でありまして、国民の方の意見は、実は全く聞いておりません。生殖医学の難しさは、既にもう、昭和20年代から人工受精という形で始まってしまって、相当いろいろなことが積み重ねられているわけですね。だから、今回も、多分そこまでさかのぼることは非常に難しいということがあって、そこまではさかのぼってないと思うんですが、岡田先生、何かございますでしょうか。 
    (岡田委員) 
      クローンの話は、これは受精という形からはずれたものということでのある反対というのがはっきりしますので、これは安心して議論を進めていくということだったわけですけれども、やはり、そこの中でも、例えばクローンということになると、双生児の問題とか、もう現に、そこでちゃんと生活されている方々への影響というのを与えないような形というのが非常にウエートが高いと思っていました。そのクローン問題の委員会をやるときに。ですから、多分、あれだけ簡単な土俵のところでも、やはり問題は随分あるわけで、今度のヒト胚という形の生殖医学とのかかわり方に関しては、これはやはり、これは私自身ということになると思いますので、委員会の中では、これは議論が今のところ非常にばらばらです。私は、形としては、やはり現行のものと、それとは土俵の違うものというのがあるんですね。ですから、生殖医学と、生殖医学ではない受精卵とか卵とかというのを研究に使うという場というのは、少し分けて考えて、まず見る必要があろうかと思っています。ただ、途中でオーバーラップすることはまず間違いのないことでして、そこら辺でどのような形でまとめができるかというのは、これはなかなか難しいところだと思いますけれども。 
    (井村委員長) 
      今、森岡委員のおっしゃったような立場の方は、ほかにも小委員会の中にもおられまして、そういうことを私のところに書いてこられた方もあります。理屈からいえば、できるだけ広く網をかけたほうがいいという考え方も成り立つんですけれども、ただ、あまり広くかけ過ぎてしまうと、これから新しいことが出てきたときへの対応が難しくなってしまうと。これは、ドイツが実はそうで、今困っているんですね。胚性幹細胞を扱えないということになってしまって、非常に困っているので、やはりあまり広くかけてしまうのも問題だろうということが1つあるのと、もう1つは、今、岡田委員がお話しになったように、生殖医学に関しては、かなり長い歴史もありますし、委員の中でもいろいろな意見があって、なかなかそこまでまとめられなかったと。だから、これをやろうとすると、相当な時間がかかると思いますし、現在行われているいろいろな生殖医療をどうするかという問題も出てまいりますので、大変、今の生殖医療にもいろいろな問題があるわけですけれども。 
    (島薗委員) 
      森岡委員のご意見に近い立場なんですけれども、最後がいかにもあっさりしておりますので、今後のこの問題から派生してくる諸問題への取り組みの方向性を、もう少し生命倫理委員会として示せないかなと。例えば、情報公開を進めつつ、どういうふうに対応するかというと、生命倫理に関する広い国民の議論を集約し、深めながらというようなことがあると思いますので、そういうことの例が若干今後の方針というところに、森岡委員が言われたようなニュアンスが込められないでしょうか。 
    (企画官) 
      今いただきましたコメントをもとに、ちょっと事務局で再整理をして、10分ほどお時間をいただいて、その間に次の案をお示ししたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。 
    (井村委員長) 
      一応、これについて、今のご意見を伺って、ご意見をまとめて、もう1度各委員にお送りをして、ご意見があればさらに追加をしていけばと、そういう形ですね。 
    (ライフサイエンス課長) 
      いや、今の件を踏まえて、修正の案文をつくっていますので、できれば、もしこれの議論が収束した段階で、10分ぐらいいただければ、さらにその案文をもとにもう1回ご議論をいただければと思っています。 
    (井村委員長) 
      それでは、そのほうがいいです。 
      では、ここで一たん、この議論を打ち切りまして、その間に少し修正案をつくってもらう。それでもう1度議論をいただくことにしましょう。 
      その間に、3番目の議題に進みたいと思います。これは、前回の委員会で議論いたしましたように、ヒトゲノムの問題が非常に大きな問題になっております。実は今回、小渕総理の主唱で、ミレニアム・プロジェクトというのが決められたわけですが、その中にも、ゲノムの多型の問題が入っておりますし、それからまた、胚性幹細胞の問題も入っております。したがって、生命倫理委員会は非常に忙しくなってくるわけですけれども、胚性幹細胞の問題は今、ヒト胚小委員会で議論をしていただいておりますので、そこでできるだけ早く結論を出していただくということになると思いますが、一方、ゲノムのほうにつきましては、新たにゲノム研究小委員会というものを発足させて、そして早急に議論をしないといけないのではないかというふうに考えております。ご承知のように、ヒト遺伝子の取り扱いについては、既にユネスコでも声明が出されておりまして、それに準拠して行えばいいということなんですけれども、ただ、今度のゲノムの多型というのは、予期しない遺伝子まで全部わかってしまう可能性がある。そういう意味で、従来の1つ1つの個々の遺伝子をつかまえて研究するのとは少し違った側面があるのではないかというふうに考えます。 
      そこで、まず現在、ユネスコの生命倫理委員長をしておられる位田教授から、現在の検討状況というのをご報告をいただいて、その上でご意見を伺いたいというふうに考えます。 
      では、位田先生。 
    (位田教授) 
      ユネスコの国際生命倫理委員会で、昨年の12月から委員長を授かっております。きょうは何分ぐらいいただけるのかがよくわからなかったものですから、一応資料として、3枚ものと、それからユネスコの宣言、「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」の日本語訳、これは私の訳ですが、これをつけさせていただきました。全部ご説明していると、とても時間がございませんので、かいつまんでお話をしたいと思います。 
      ユネスコは、ご承知のように、教育、科学、文化の分野での国際機関でございますので、ヒトゲノムに関連する部分については、特に科学研究という観点から、1980年代の後半あたりから何度か、これはどちらかというとサイエンティフィックなほうですが、シンポジウム等をやってきております。 
      90年に、アメリカでヒトゲノム計画が提唱されましてから、特に前の事務局長でありましたフェデリコ・マイヨール、この人はもともと生化学者ですけれども、その人が倫理的側面に非常に懸念を持ちまして、93年に国際生命倫理委員会というのを設置いたしました。初代の委員長は、フランスの、現在、憲法裁判所の判事ですが、ノエル・ルノワールという女性でございます。93年に委員会を設置しましたときに、2つの役割を想定いたしました。1つは、生命倫理全般に関する世界的な意見交換のフォーラムであると。それから、もう1つは、これが非常に大きな仕事でしたが、ヒトゲノムの科学研究・応用に関する国際的なガイドラインをつくるということでございました。 
      レジュメのBのところに活動の経過が書いてございますが、真ん中辺になりますけれども、97年11月の第29回ユネスコ総会で、お配りしております「ヒトゲノム及び人権に関する世界宣言」というのを採択いたしました。これは、宣言でございまして、先ほど少し申し上げた条約ではございません。ある意味では、生命倫理に関する一般原則をユネスコの立場から表明したということでございます。一般原則ということでございますので、それほど細かな規定は入っておりません。先ほど委員会がご紹介になったようなゲノムの多型等に関して、具体的にどうするかということについては触れられてはおりません。議論にならないわけではありませんでしたけれども、一般的な文章としてはそういう形でございます。むしろ、その後に、宣言を出しましてから、この宣言の中に書かれていることをどういうふうに現実に実施していくかということがやはり問題になりまして、昨年の3月に、国際生命倫理委員会の規程を新たに作りました。ここで国際生命倫理委員会をそのまま存続させること−−構成を少し変えましたが−−と、それからもう1つ、IGCと書いてございました政府間委員会というのを併設いたしまして、政府の立場をIBCに伝えて、IBCとの間のダイアログをやるという形をとりました。申しおくれましたが、IBCそのものは個人資格の委員でございまして、出発時点では五十数名、世界の各国から出てきておりました。 
      98年12月に国際生命倫理委員会は新しくいたしまして、委員会としては第5会期になりますが、会合を開きました。新委員会委員は、今度は36名になりました。各加盟国政府が1名ずつ推薦し、地域割りも考えて、ユネスコの事務局長が任命するという形をとっております。それで、合計36名ということでございます。構成は非常に学際的でございまして、自然科学系が半数少しおりますが、それ以外にも、法律家とか哲学者とか、そういった方たちがおられます。法律家の中にも、学者だけではなくて、憲法裁判所とか最高裁判所の裁判官が数名入っておられます。 
      委員会でこれまで審議してきた事項のリストをCのところに書いておきました。第1会期は、これから何を作業していくかということを議論いたしました。ただ、第2会期以降は、特に遺伝子の研究、ゲノムの研究を中心にして、そのほかに生命倫理一般についての問題も議論をしてきております。今年、第6会期で、今年の10月にモロッコのラバトで開かれましたが、ゲノムに関連しては、遺伝情報の機密保持と、ヒトゲノム宣言の実施とを議論しました。それから、生命科学の現状、これは、先ほどの胚性幹細胞でありますとか、異種移植とか、人クローンの産生、アイスランドのケース、こういったものについてヒアリングをやりました。 
      次回は、2000年の多分9月ごろになると思いますが、ここには書きませんでしたけれども、まだ完全に確定しているわけではありませんが、ヒトゲノムの経済的側面、いわゆる特許の問題でありますとか、ゲノム情報の公開でありますとか、こういったことをまず議論をしようと。それから、ヒト胚性幹細胞の問題。それから、弱者グループ、vulnerablegroupというのがこの宣言の中に入っておりますが、例えば、遺伝子異常を持っている方とか、遺伝性の疾患を持っている方など、正常・異常というのは、あまり言い方がよくないと思いますが、こうした人達、つまり弱者グループに関しての問題を議論をする。それから、南北間の協力、いわゆる先進国と発展途上国間の協力です。これはゲノムの情報の問題、それから、ゲノムの科学研究の技術的な問題、そして、特許の移転という問題、そういったものも含めて議論をします。それから、もう1つ大きな点として、生命倫理と教育があります。生命倫理をどういうふうに教育していくかということを議論をしようという予定になっております。 
      それから、レジュメの2枚目は宣言の構成でございまして、タイトルだけ書いておりますので、ごらんいただければと思います。 
      3番目に「ヒトゲノム宣言の特徴」というところを見ていただきますと、先ほど田中先生のほうからもいろいろご意見を伺いましたが、この宣言そのもの、もしくはヒトゲノムの研究における生命倫理的な観点というのは、人間の尊厳と人権の保護とを基礎としていることを示しております。ある意味では、その2つを柱にして成り立っているということがいえます。つまり、この宣言は、人間の尊厳ということを大枠にしながら、より具体的なことを考えて、人権を保護するという観点が非常に強く出ております。この宣言は、いわゆる国際人権文書としての位置づけがなされているということがいえます。 
      少し飛ばしますが、Bのところで、「対峙する人権」と書きましたけれども、ここで保護するべき人権は、一方は科学研究の自由です。科学研究をすることによって人類が進歩してきたという歴史がございますので、研究の自由を尊重する。これは科学者の人権である。他方で、被験者もしくは患者さんの人権。これも確保しなければいけない。それをどううまく組み合わせるか。バランスをとる、というのは少し言い方が違うと思いますが、そういう意味で、研究の自由の保障、研究者の人権の保障と患者・被験者の尊厳・人権の保障の対峙ということで、自由の限界というのがあるんだとしております。それについて、幾つかの限界を記載しておりまして、まず人の尊厳に反するような行為。これは、第11条と24条で例が出てきますが、人クローン個体の産生を禁止する、それから、生殖細胞系列の操作が禁止される可能性がある、という形で、まず禁止の部分を出しております。それから、実際にヒトゲノムを研究する場合には、かなり厳しい条件をつけておりまして、5条、10条、12条を見ていただくと、こういうふうな形で、こういう条件をクリアするような形でゲノムの研究をやれということが書いてあります。もちろん、ゲノム研究の成果はできるだけ情報公開をするんだということでございます。 
      ただ、特許は禁止しておりません。特許の問題は非常に難しい問題がございまして、というのは、必ずしもユネスコだけではなくて、WIPO(世界知的所有権機関)でありますとか、最近ではWTO(世界貿易機関)が絡む部分がございますので、ユネスコだけが出してもあまり意味がないということと、それから特許の問題に関しては、なかなか委員会の意見が一致しなかったということもございます。しかし、少なくとも特許は禁止はされておりません。 
      それから、特に重要なのは、第5条に書かれているインフォームド・コンセントでございまして、科学研究をするについては、事前の自由意思による十分な説明を受けた上での同意ということを非常に強く強調しております。とりわけ、意思無能力者、同意能力のない人からのコンセントをどう得るかという問題が議論をされました。 
      それから、もう1つの人権保護の問題として、遺伝情報に関連するものがございます。1つは、遺伝的な特徴がわかるということによって、つまり遺伝情報が広まってしまうということによって、さまざまな差別があるので、それを禁止するということがございます。先ほど、生まれてきた子どもの取り扱いについて少しご議論がございましたけれども、まさにそれがこの点で、生まれてきた子どもについては、仮にクローンにこの宣言を適用するとしますと、産まれてきた子どもについては差別をしてはいけないということが重要な点になってまいります。 
      それから、もう1点は、遺伝情報の機密保持ということでございまして、特に遺伝情報が一体だれのものであるかという問題があります。本人だけなのか、家族・血縁者に関連するのかということが問題になります。この宣言では、だれのものだという結論は出しておりませんけれども、これはさまざまな具体的な状況によって、非常に難しい問題を提起するであろうと考えております。この宣言の中では、知る権利と知らない権利という形でも出しています。 
      はしょり過ぎておわかりになりにくいかもしれませんが、大体以上がこの宣言の全体の特徴でございまして、先ほど申し上げたように、来年の9月あたりに開かれるところでは、ゲノムの経済的な側面とES細胞という、この生命倫理委員会、もしくは下の小委員会で議論になった、もしくはこれから議論をしている問題も取り扱うことになっております。ただ、具体的に遺伝子の多型に関して扱うか扱わないかと言われますと、まだそこは決まっておりません。といいますのは、生命倫理の問題そのものが非常に多様でございますので、1つずつやっていこうという形になっております。 
      ちょっと早口で申しましたので、おわかりにくかったかと思いますが、以上でございます。 
    (井村委員長) 
      ありがとうございました。 
      もう時間がないですから、ちょっとミレニアム・プロジェクトの説明はやめます。お手元の資料の6−11をごらんいただきたいんですが、先ほどちょっと申し上げましたように、内閣総理大臣の決定に従って、ミレニアム・プロジェクトというのが始まります。その2ページ目をごらんいただきますと、個人の特徴に応じた革新的な医療を実現しようというのが入っておりまして、ここでどうしても遺伝子の多型の問題を扱わざるを得ないわけですね。そういたしますと、やはり今、位田委員が説明になりましたように、インフォームド・コンセントをどうするのか。知る権利、知らない権利。それから、個人の人権の保護。そういったことをかなり議論をしておかないといけないのではないだろうかということを考えまして、きょうお諮りしたいことは、この生命倫理委員会の下にゲノム研究小委員会を設置して、今のような問題点を議論をしていただくと。この多型の研究は、実はもう既にスタートしてしまっているところが、研究者の中には、もう既にやっているところが随分あるわけですが、かなり国家的プロジェクトとしてやるからには、きちっと倫理の問題も押さえてやっていかなければいけないだろうということで、このようなヒトゲノム研究の小委員会を発足させてよろしいかどうかということをお諮りしたいわけです。 
      では、事務局から簡単に説明をしてください。 
    (企画官) 
      では、資料6−9でご説明申し上げます。 
      「ヒトゲノム研究小委員会の設置について」の案でございます。1といたしまして、小委員会の設置でございまして、「科学技術会議生命倫理委員会の審議に資するため、科学技術会議議事規則第20条に基づき、生命倫理委員会にヒトゲノム研究小委員会を設置する」。 
      「2.審議事項」でございますが、「小委員会においては、ヒトゲノム情報を対象とする研究に関し、生命倫理の側面から審議を行う」。 
      「3.構成」です。「1)小委員会には、委員長を置き、生命倫理委員会委員長の指名する者がこれに当たる。2)小委員会の委員は、10名程度とする。3)小委員会は、必要な場合にはワーキング・グループを設置できるものとする」。 
      「4.生命倫理委員会への報告」でございます。「小委員会は、審議状況について、生命倫理委員会の求めに応じ、又は、適宜、生命倫理委員会に報告する」。 
      5といたしまして、「意見聴取」でございます。「小委員会は、必要に応じ、関係省庁、関係機関及び学識経験者の意見を求めることができる」。 
      以上でございます。 
    (井村委員長) 
      この小委員会の委員長といたしましては、自治医科大学学長の高久史麿先生にお願いしてはどうかということを考えております。そのことも含めまして、こういった小委員会を設置することの可否について、ご意見を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。 
    (森岡委員) 
      この委員会は、性格として、ゲノムの研究と応用に関するそういう問題をやる、応用のほうがかなり出てくるんでしょうか。もしそうだとすれば、やっぱり研究とその応用に関する委員会とか、そうしたほうがわかりやすいような気がしますが。 
    (井村委員長) 
      すぐに応用というところまではまだ行かないと思いますが、とりあえず今研究をどのように進めていったらいいかという問題ですね。 
    (森岡委員) 
      結局、ゲノムをいろいろ研究し、それをどういうふうに使うかということになりますね。 
    (井村委員長) 
      それは当然、その次に……。 
    (森岡委員) 
      応用というと大きな問題になるんじゃないかという気がしますけど。まず、研究をどういうふうに進めていくかということを論議するというんですね。 
    (井村委員長) 
      そうです。それ以前に、材料を得る段階で、どういうふうなインフォームド・コンセントが必要なのか。それから、どのようにしてプライバシー、あるいは人権を守るのか。そういうことを今回は研究していくわけです。その次の段階として、先生がおっしゃるように応用の問題が出てくると思いますが、とりあえずは、その次の段階になるというふうに考えております。 
    (森岡委員) 
      わかりました。 
    (井村委員長) 
      何か、ほかにございますか。 
      それでは、こういう形で、ゲノム小委員会を、「研究」を一応つけておきます。ただ、おっしゃるように、将来的には、もう少し幅を広げなければいけない事態になれば、また変更したいと思いますが、そういう形で、小委員会を発足させる。それから、高久学長には、この生命倫理委員会の委員にもなっていただこうというふうに考えています。それでご承認をいただきたいと思います。 
      それでは、最後にもう1度、2番目の議題に戻りまして、事務局の案を説明しいただきます。 
    (企画官) 
      では、ただいまお配りしました資料につきまして、先ほどの点等の修文のところを中心にご説明を申し上げます。 
      1点目といたしましては、1の1)の「このように」のところでございますが、「人間の尊厳の侵害及び安全性」と書いてありますが、「侵害等」ということにしまして、この「等」の中で、安全性の問題、あるいは社会秩序の問題も読み込めるようにすると。それから、「強制力を伴った法律により」という表現を、「法律により罰則を伴う禁止がなされるべきである」という表現に変えてございます。 
      同様の修文は、2)の「対象」の段落の一番最後。「これについては」以下の、「法律により罰則の伴う禁止のための措置」という形で書いてございます。当初案では、ここでかなり細かく初期胚の核移植、あるいは初期胚の分割についても書いてございましたが、ここを簡略化いたしまして、「初期胚からの核移植、個体の産生や初期胚の分割によるクローン個体の産生に関しては、成体からの核移植と異なる側面があること、生殖補助技術としての将来の可能性があることを考慮しつつも、同一の遺伝子を有するものを人為的に複数産生可能となる点などの問題があることから、これらの技術による個体産生が行われないよう具体的な措置を講ずる必要がある」としてございます。ここで、ご指摘のあった法律との違いということも、「なお」ということを入れることによって、より明確になるのではないかと思っております。 
      キメラとハイブリッドのところにつきましても、3行目でございますが、「安全性の面も含め」と書いてあったのを、そこは特出しせずに、「クローン技術による人個体の産生を上回る弊害を有するため」とした上で、法律のところは同じように、ちょっと「強制力を持つ」というのが残っておりますが、ここをちょっと変えさせていただきまして、「罰則を伴う法律等により」という表現にかえさせていただければと思っております。 
      それから、「個体の産生を目的としない研究の扱い」ということにつきましては、特に「人の生命の萌芽たるヒト胚の操作につながる可能性があることから」という表現だったものを、もう少しダイレクトな表現といたしまして、「人の生命の萌芽たるヒト胚の操作につながるものであることから」という論旨を明確にしてございます。特に、4のところにつきましては、ご意見を踏まえ、特に国際的な面を強調する観点から、「国際的な議論を深め、国際強調を図るとともに」という修文をした上で、「生命倫理に関する国民の理解と議論を深めるべく情報公開を進めつつ対応していくことが重要である」という形で全般に関する指摘もしながら、より中身について追加的に記述をしてございます。 
      以上でございます。 
    (井村委員長) 
      それでは、この修文案につきまして、少しご意見を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。 
    (田中委員) 
      細かいことばっかりで恐縮なんですけれども、省略されるんでしたら、「基本認識」の4行目の「このため、全ての国民が個人として尊重されるという憲法上の理念に著しく反する」というのは、これは国民だけが個人として尊重される云々という問題があるので、「このため、個人の尊重という憲法上の理念」というふうに簡略化されたほうが余計な誤解を招かないと思います。 
    (井村委員長) 
      個人の尊重が……。 
    (田中委員) 
      「個人の尊重という憲法上の理念に著しく反することになる」と。 
    (井村委員長) 
      「個人の尊重という憲法上の理念に著しく反することになる」と。 
    (田中委員) 
      それのほうが無難だと思います。 
    (井村委員長) 
      何かほかにございませんでしょうか。 
    (島薗委員) 
      先ほど家族秩序についてもいろいろなご意見がございましたけれども、例えば、「社会的価値観の混乱」というような表現は可能でしょうかと。 
    (井村委員長) 
      「家族秩序の混乱」が入ったわけですが、その後にですか。 
    (島薗委員) 
      その辺は、私としては、個人としては、「社会的価値観の混乱」ぐらいのほうが無難なような気がいたしますが。 
    (井村委員長) 
      これはいかがでしょうか。何かご意見はございますか。どちらでもいいでしょうかね。社会的価値観。「秩序」というと、非常に広くなっちゃうんですけどもね。「価値観」というと、少し……。何か法律の先生……。 
    (町野教授) 
      法律ということではありませんで、私はまだこの委員会のメンバーではないので、そういうあれで参考ということですけれども、「家族秩序の混乱」というのが入っているのは、非常に具体的な考え方であったわけですね。例えば、だれと親子関係にあるのか、戸籍はどうなるのかとか、そういうことは非常にわけがわからなくなると、こういう非常に具体的なことを考えていたわけで、それが社会的価値観の混乱ということですと、非常に価値観が何かばらばらになってくるということで、ちょっと一歩踏み出したあれになると思いますけれども、そこらのご認識のもとでやられるということは、それで結構だろうと思いますけれども。 
    (井村委員長) 
      熊谷委員、どうですか。 
    (熊谷委員) 
      今の社会的秩序ということですけれども、秩序だけにとどまらず、社会的弊害が生ずる恐れがあるというのは、禁止すべき非常に大きい理由にならないんですか。非常に狂信的な教祖が、そのコピーを大量につくるというような、わかりやすい例をいえば、そういうことも含めて、必ずしも家族の秩序ということだけにとどまらず、なぜ禁止するかという根拠としては、社会的に弊害が生ずるという問題が大きいと。あるいは、社会的に納得しやすいという面がありませんか。それは、無性生殖であることからということにはつながらないんですけどね。そこに入れるとおかしいかもわかりませんけれども、「また」のところには安全性がありますけれども、「クローン技術による人個体の産生については、安全性に関する問題」とか、「社会的な弊害が発生する可能性」ですか、要するに、社会に弊害をもたらすというのが、禁止する必要性の非常に大きい理由にならないかと、かねがね思っているんですが、素人考えですけどね。そういう意味で、島薗委員がおっしゃるように、社会的なというのは、必要なんじゃないかなと思うんですが、いかがですかね。 
    (井村委員長) 
      価値観というのは非常に個人によって違うわけですね。だから、非常に難しいところがあるなと私は思っていたんですが……。 
    (熊谷委員) 
      そうですね。だから、「価値観」とか「尊厳」とかいうと、非常にわかりにくいんですけれども、「安全性で問題がある」とか、「社会に弊害をもたらす可能性がある」というのは、非常に具体的にわかりやすい理由、大きい理由の1つなんですね。 
    (井村委員長) 
      そうですね。どういうふうに、ここは……。 
    (田中委員) 
      例えば、「逸脱するものであり、各種の社会的な混乱や弊害も予想される」というふうな文章にでもしておけば、あいまいですけれども、今おっしゃった趣旨が全部入る可能性はあると思います。 
    (熊谷委員) 
      一般の人も、非常にそういうことだとわかりやすいと思うんですね。「人間の尊厳」というのは非常に理解しにくいですけど。 
    (井村委員長) 
      「いろいろな社会的弊害を生ずる可能性もある」というふうな文章ですか。何かほかに適当な文章はありますか。特に法律の専門の方に伺っておかないと。 
    (位田教授) 
      委員ではありませんので、ご参考だけですが、ここの「基本認識」もしくは「対象」のところで書かれているいろいろな基準というのは、具体的な基準を置いているんですね。したがって、例えば、先ほど出てきた個人の尊重という憲法上の理念、これはある程度はっきりしていますが、それに反するからだめだと。だから法律で禁止するという話につながっているんですが、それを例えば「社会的価値観の混乱」と言ってしまいますと、じゃあ価値観の多様性とどう折り合いをつけるかということが1つ出てきますし、それから、何が日本の社会的価値観かというところで、多分人間の尊厳以上にはっきりしない部分が出てくるんだろうと思います。 
      それから、もう1つ、「社会的弊害」という言葉が出てきますけれども、じゃあ具体的にどういう社会的弊害があるからクローンを禁止する、もしくは法律で禁止しないといけないのか。しかも罰則でもって禁止しないといけないというところが、社会的弊害と言ってしまうと、あまりにもはっきりしなくて、一般的に禁止するのだったら、私はそれでいいと思いますが、法律でもって禁止するには少し根拠が弱いかなと思います。 
      それから、もう1つ、安全性なんですが、これは生まれてくる子どもの安全性−−子どもというか、人間として生まれてくる場合の安全性ですので、ここの部分は、もし仮に生まれてきたとして、もしくは生まれてくる途上にあるとして、人間になる可能性があるものを、クローン技術を使うことによって殺す可能性がある、という点が非常に大きな問題なんだろうと思うんですね。それ以外の、「また」よりも上の部分は、産み出すことについてですが、安全性のほうは、産み出す過程、もしくは産んでから殺してしまう可能性があるので、それとは少し別に置いてあるということだと思うんです。 
    (井村委員長) 
      事務局から。 
    (企画官) 
      今のご意見を踏まえまして、こういう表現ではいかがかと思いますが、今の「家族秩序」のところを、「家族秩序の混乱等の社会的弊害も予想される」と。社会的弊害という問題があると。ただ、その中の例えば具体的な1つとして、「家族秩序の混乱」を入れることによって、具体的な中身も明確になると。その上で、「社会的弊害」という表現を使うということでいかがでしょうか。 
    (井村委員長) 
      いかがでしょうか。では、特に問題がなければそういうふうにいたしましょうかね。 
      ほかにご指摘はございませんか。大変短い文章で、舌足らずになっている点はお許しいただきたいと思います。しかし、長い文章を出すのも、またいろいろ問題があると思って、できるだけ短くしたわけですが、それでは、こういうことで、生命倫理委員会としての見解を発表するということにさせていただきますので、どうぞよろしくお願いをいたします。 
      なお、次回は、2月か3月をめどに開催をする予定をしております。何か事務局のほうから特に今はありませんね。では、また日程調整を事務局からさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。 
      予定よりちょっと時間が超過いたしました。どうも本日はありがとうございました。 
       
    −−了−−