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 クローン技術による人個体の産生等について


平成11年12月21日 
科学技術会議生命倫理委員会 
   
  成体の羊の体細胞核を他の羊の除核未受精卵に移植して得られた子羊の誕生以来、世界各国で動物を用いたクローン個体産生に関する研究が進んでいる。本技術の人への適用については、各国や国際機関で生命倫理の観点から議論が行われており、本生命倫理委員会としても、クローン小委員会を設置し検討を進めてきた。クローン小委員会は、去る11月17日に報告「クローン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方」を取りまとめたが、本委員会としては同報告を了承するとともに、同報告を踏まえて審議した結果、以下の対応が必要と認識する。  
   
1.クローン技術による人個体の産生について 
(1)基本認識 
      クローン技術の人個体産生への適用については、人間の育種や手段化・道具化に道を開くものであり、また、生まれてきた子どもは体細胞の提供者とは別人格を有するにもかかわらず常に提供者との関係が意識されるという人権の侵害が現実化する。このため、個人の尊重という憲法上の理念に著しく反することとなる。さらに無性生殖であることから、人間の命の創造に関する我々の基本認識から逸脱するものであり、家族秩序の混乱等の社会的弊害も予想される。  
      また、クローン技術による人個体の産生については、安全性に関する問題が生じる可能性を否定できない。  
      このように、クローン技術による人個体の産生には人間の尊厳の侵害等から重大な問題があり、その弊害の大きさから、法律により罰則を伴う禁止がなされるべきである。  
(2)対象  
      核移植技術を用いて人クローン個体を産生する場合には、移植される核の由来として初期胚から成体までバリエーションが存在し、人間の尊厳の侵害、安全性の面での問題点も各々の場合によって異なる。この中で、上記(1)に示した問題点が全て顕在化するのは、成体の体細胞を核移植することにより人個体を産生する場合であり、これについては法律により罰則を伴う禁止のための措置を取るべきである。  
      なお、初期胚からの核移植による個体の産生や、初期胚の分割によるクローン個体の産生に関しては、成体からの核移植とは異なる側面があること、生殖補助技術としての将来の可能性があることを考慮しつつも、同一の遺伝子を有するものを人為的に複数産生可能となる点などの問題があることから、これらの技術により個体産生が行われないよう具体的な措置を講ずる必要がある。  
   
2.キメラ、ハイブリッド個体の産生について 
    人と動物のキメラ胚を用いて産生されるキメラ個体や、人と動物の配偶子を交雑させて得られるハイブリッド胚を用いて産生されるハイブリッド個体については、ヒトという種のアイデンティティを曖昧にする生物を作り出すものであり、クローン技術による人個体の産生を上回る弊害を有するため、罰則を伴う法律等によりその産生を禁止するための措置を講ずるべきである。  
   
3.個体の産生を目的としない研究の扱い  
    人クローン胚の研究は、拒絶反応のない移植医療の研究や基礎研究において有用となる可能性があり、また、個体を産生しない限り、人間の尊厳の侵害や安全性の面での重大な弊害を伴うものでもない。しかしながら、人の生命の萌芽たるヒト胚の操作につながるものであることから、人クローン胚の研究には慎重な検討が必要である。このため、クローン技術の人への適用については、人クローン個体の産生のみならず、クローン胚の研究についても併せて規制の枠組みを整備することが必要である。この点は、キメラ胚及びハイブリッド胚についても同様である。  
    現在、ヒト胚性幹細胞を扱う研究等ヒト胚に関連する研究のあり方についての議論がヒト胚研究小委員会において行われているが、同委員会の検討結果を踏まえ、人クローン胚の扱い等も含めた規制の枠組みを整備していくことが必要である。  
   
4.規制の見直し等  
    クローン技術等に対する規制については、今後の科学的知見の蓄積や人間の尊厳との関係について更なる議論が進展することや、規制のあり方を巡る国民の意識や状況が変化する可能性があるため、3〜5年程度後に見直しを行うことが適切である。  
    また、本問題については、国際的な議論を深め国際協調を図るとともに、生命倫理に関する国民の理解と議論を深めるべく情報公開を進めつつ対応していくことが重要である。  





  (参考)   
成体の体細胞の核移植によるクローン固体の生産

初期胚の核移植によるクローン固体の生産

卵分割によるクローン固体の生産

キメラ

キメラ固体(ヒツジとヤギの例)

ミトコンドリア異常症について