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 科学技術基本計画に関する論点整理 

平成12年3月24日
科学技術会議政策委員会


  1. はじめに 

      現行科学技術基本計画(平成8年度〜12年度)について、科学技術会議において平成10年秋からフォローアップを実施しており、その中間取りまとめを平成11年6月の科学技術会議本会議に報告した。 
      そのポイントは、大きく次の2点である。 

    • 現行計画については、科学技術に対する国の研究開発投資の増加や様々な制度改革の実施の結果、研究開発の現場が大いに活性化したことが大きな成果である 
    • しかし、今後は更に世界水準の成果をいかに多く生み出していくか、そのための仕組みはどうあるべきか、また、科学技術創造立国に向けてどのような分かり易い目標を掲げて資源の重点配分を進めていくかが大きな課題である 

      平成11年6月の科学技術会議本会議において、新たな政策展開を見据えて、具体的な取組について政策委員会を中心として引き続き検討を行うようにとの総理指示を受けた。そこで、昨年秋以来、科学技術目標WG、知的基盤WG、研究システムWG、産業技術WGの4つのWGを設け検討を深め、その結果を以下の通り整理した。(各WGの論点整理を別添1〜3に添付する。)なお、この検討は現行計画のフォローアップ作業として、現状の分析・評価とその上に立った今後の政策の課題について論点整理を行ったものであり、今後の次期基本計画の本格的な検討に当たっての基礎とすべきである。 

  2. 論点整理(4つのWGでの検討をもとに整理したもの) 

      これまでの議論の中では、以下のような指摘がなされている。 

    (1) 科学技術をとりまく主な現状認識 

    • 情報通信革命、生命科学の目覚しい進展は、これまでとは質の異なった新しい科学技術文明の時代の幕開け 
    • 21世紀の少子高齢化社会で、安定経済成長を達成するには、「頭脳」や「知恵」を中核に据えた技術革新がますます重要 
    • 20世紀の科学技術の進歩がもたらした影の部分の影響を最小化することを目指し、地球規模の問題の解決を図り持続的に発展できる社会の構築が急務 
    • 社会と科学技術の関係の深化を踏まえ、「社会のための科学技術」を実践し、また、科学的・合理的な議論ができる知識基盤社会作りが重要。 
    • 産業の国際競争力の低下や、最近のものづくりの現場で発生している事故・トラブルを深刻に受け止め、技術立国日本の立て直しが急務 
    • 青少年の科学的知識への関心の薄れなど将来を担う人材についての不安が指摘されており、長期的な視点から科学技術教育の改善に取り組むことが急務 
    • 平成13年1月からスタートする新たな行政体制を見据え、それに相応しい科学技術政策の推進体制構築が必要 

      その上で、現行計画は、脆弱な基盤に立っていた我が国の科学技術に対し、全体的活性化を図る第一歩を踏み出したものであるが、今後目指すべき方向性は、世界水準の研究成果を生み出すための環境整備を更に進めるとともに、新世紀に相応しい新たな戦略の確立とそれに沿ったシステムの改革といえるのではないか。その眼目は、以下の2点であると考えられる。 

    • 戦略の構築  …  国の「目指すべき姿」を明らかにし、そのために、10年程度を見通して5年間に科学技術として、何を基本理念とし、何を達成するかの目標を明確にすること 
    • 戦略に沿った実行プログラムの提示  …  選択と集中、スピードをもって研究開発を推進し、その成果の活用が行われるよう民間をも含む我が国の科学技術システムをトータルにとらえ、柔軟かつ自由で競争的なものとなるよう更に改善していくことが必要。このため、資源配分の重点化及び効率的活用、組織のマネージメントの改革、プロセスの見直しを通じて動かしていく実行プログラムを明確にすること 

    (2)科学技術創造立国の「目指すべき姿」 

    「科学技術創造立国」の実現とは、科学技術を活かし 

    • 「知識の創造と活用により世界から尊敬される国」 
    • 「安心・安全で快適な生活ができる国」 
    • 「国際競争力があり持続的な発展ができる国」 

    を目指すことで、各々に対応した極力具体的な目標を掲げて、それに向けて努力することが必要と考えられる。もちろん科学技術政策だけでその実現が図れないものも多く、他の政策との連携・協調が重要であるとともに、人文・社会科学と自然科学の十分なバランスをとることも必要である。 

    (3)これらの姿を目指す上での基本戦略 

    • 「知」の源泉としての基礎研究を強化し、世界最高水準の成果を生み出すことを目指した研究に重点をおく。このような研究は、研究者の自由な発想を尊重し、それにふさわしいマネージメントの下で行われるべきものである。 
    • さらに、最近は、基礎研究の成果と産業化の距離が短縮していることを踏まえ、産業化への萌芽としての特許等知的財産権としての成果の有効な活用を図ることが必要である。 
    • 国家的・社会的課題の解決に向けた研究開発については、知的資産の拡大、社会的効果、経済的効果の3つの観点での貢献度、我が国の研究開発の水準・基盤の状況等を総合的に評価し、重点化していくべきである。これまでの検討によると、現時点では、今後の重点化の方向としては、ライフサイエンス、情報通信、環境、基盤としての材料分野を中心とした重要科学技術に対し資源配分の重点化を図ることが必要である。ただし、エネルギー、製造技術、社会基盤といった我が国にとって基盤的な分野についても、留意すべきである。 
    • さらに、基礎研究はもとより、研究開発全般について後追いだけにならないよう、先進的な分野を一層のばし、また一つの分野として確立する前の萌芽的で潜在的な可能性をもった技術に対しても、先見性と機動性をもって取り組んでいくことが必要である。 
    • 研究開発の推進はもとより、その成果の産業化等社会への展開、活用に至るまでの科学技術の活動の上流から下流までを一貫したかつ一体的なものとして、科学技術の動向を的確に把握し、機動的かつ総合的に政策を推進していくことが特に重要である。 
    • 総合科学技術会議は、その設置の趣旨・目的に沿って、省庁の枠を越えて、科学技術に関する予算・人材等の資源の配分の方針等についての調査審議を通じて戦略の推進を図っていくことが期待される。 

    (4)上記戦略を、科学技術政策の実行の場で具体化していく上で貫かれるべき基本的な姿勢は、以下の通りである。 

    • 世界水準の高い質の重視 
    • 自律性、個性の尊重と責任の明確化 
    • 機動性、スピードの重視 
    • 長期的な視点に立ったストックの充実強化 
    • グローバル化とネットワーク化への対応 
    • 縦割り的な閉鎖性の打破 

    (5)具体的に今後検討すべき課題 

      以上を踏まえ、具体的に今後検討すべき課題としてWGで指摘のあった主なものを現状の問題点と対応して整理すると、以下のとおりである。これらWGの論点整理を踏まえつつ、これまでとられた措置とその効果の検証を継続し、その上に立って今後の重点的な取組を検討していく必要がある。 

    1)基礎研究の推進と国家的・社会的課題に向けた目標設定

    (現状の問題点)現行の計画は、国家として重点的に取り組むべき科学技術目標について明確に示しておらず、戦略的・重点的な取組が不十分である。 

    (主な課題)

    ○基礎研究の強化とその戦略的推進

    ○国家的・社会的課題に向けた分かりやすい目標設定とこれに対応した資源の重点配分

    ○戦略的・重点的な推進にあたっての総合科学技術会議の役割と省庁連携 

    2)競争的・流動的環境の実現を目指した柔軟で革新的な研究システムへの改革

    (現状の問題点)現行の計画は、研究者が創造性を発揮できるように、より競争的で流動性のある環境を目指してきたが、その進展は未だに不十分である。また、若手研究者が独立して活躍する機会が十分でないとの指摘もある。さらに、施設・設備の老朽化・狭隘化対策や世界水準の成果をあげるための研究人材の養成は引き続き重要な課題であると同時に、最近の現場のトラブルに見られるように技術立国日本の基盤も揺らいでおり、その見直しが急務である。 

    (主な課題)

    ○競争的研究環境と人材の流動性の一層の促進
    ・ 個人も機関も一層の競争的環境におくことが重要と考えられる。具体的には、優れた研究者、研究提案を積極的に取り上げる競争的資金の比率を高めつつ、国の研究開発資源の配分がより効率的な資源の活用に繋がるようにしていくことが必要である。更なる競争環境をうみだすための改善策をも検討すべきである。
    ・ 流動的環境を実現するため、若手研究者を中心に任期制の普及拡大等を図るべきであると考えられる。これについては、国のみならず産業界も含めた取組が重要であり、産業界においても流動化の促進と外部研究者の受け入れ促進が必要である。
    ・ 若手研究者が独立した研究者として研究に専念し、独創的で優れた成果をあげうる環境が重要である。
    ・ 外国人研究者の積極的登用、国際水準による研究開発評価等により機関を国際的に開放し、国際的な競争環境を実現していくことが必要である。

    ○科学技術人材(研究者、研究支援者、技術者等)の育成・確保
    ・ 幅広い視野と豊かな創造性を有し、リスクを恐れず挑戦する人材の育成と、大学院学生への支援の強化が必要である。
    ・ 世界に通用する先端的研究者や高度技術者を育成する大学、大学院教育を充実すべきである。
    ・ 学位取得者等の高度な科学技術人材に対する研究、企画、評価等の多様な職種の開拓が必要である。

    ○施設・設備の老朽化・狭隘化問題の解決に向けた戦略的アプローチ(重点化を図りつつ、世界水準のものを整備すること)

    ○地域における大学等研究機関・地元企業の連携強化とこれらへの効果的な資金の配分等による地域の研究開発システムの再構築

    ○研究開発評価の改善
    ・ 研究開発評価の重要な目的の一つは、分野、機関、課題等の様々な視点から、効果的かつ重点的な資源配分に活用していくことにある。
    ・ 質の重視、評価基準と評価結果の資源配分への反映プロセスの明確化、負担の軽減などにより、競争環境の実現と効果的な資源配分に向けて研究開発評価の改善を図るべきである。 

    ○研究システムの基盤をなす社会と科学技術のコミュニケーション
    ・ 小・中・高等学校等の学校教育における科学技術の基本原理の体得や科学的な観察・思考・創造の力の育成が重要である。同時に、科学技術が国民一般に理解されるよう努力しなければならない。他方、科学技術に携わる者も、人間や社会について十分な理解を得られるようにすることが必要である。 

    3)産業技術の強化

    (現状の問題点)国際競争が激化する中、我が国の技術革新システムの一層の機能強化が求められている。産学官連携施策により産学官の壁が徐々に改善されつつあるが、研究の成果が実用化にまで十分つながっておらず、産業競争力の強化に必ずしも結びついていない。 

    (主な課題)

    ○技術革新システムの再構築
    ・ 産業競争力強化の観点からも創造性豊かな研究・技術人材を育成していくべきである。
    ・ 大学・国研の活性化を通じた産業技術力の向上を図るべきである。
    ・ 産学官のニーズとシーズのマッチング、人材交流等により産学官の有機的連携を促進していくべきである。
    ・ 大学・国研等の研究成果を活用した事業化の促進、地域における技術革新の展開等を通じ、新産業創出に向けた環境整備を図るべきである。
    ・ 知的財産権の活用、知的基盤整備、国際標準等への対応について戦略的取組を図るべきである。 

    ○豊かな経済社会の実現に向けた産業技術力の向上と研究開発の促進
    ・ 産業技術の観点からは、「フロンティアを切り拓く革新性・基盤性を有する萌芽的技術に関する研究開発」「市場の創出等につながる国家的・社会的ニーズをにらんだ研究開発」に重点的対応をした政府研究開発の推進をはかるべきであり、国として取組むべき重要技術分野の明確化を進めるべきである。
    ・ 総合科学技術会議は、科学技術創造立国に向けて我が国が目指すべき方向を決め、その達成に向けてリーダーシップを取っていく必要がある。このため、どのような技術分野に重点的に取り組むべきかについて、基本的な取組の戦略を定めるとともに、産学官・省庁連携のため、「司令塔」としての役割を果たすことが期待されている。複数省庁にまたがる研究開発を効率的・効果的に遂行するためには、省庁間連携プロジェクトについて、総合的・整合的マネージメント体制が構築されるようにすることが必要である。