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第1回科学技術会議ヒト胚研究小委員会議事録

1.日 時    平成11年2月9日(火)16:30〜18:30

2.場 所    科学技術庁第7会議室(通商産業省別館9階)

3.出席者

(委 員) 
岡田委員長、石井委員、勝木委員、迫田委員、高久委員、武田委員、 豊島委員、西川委員、木勝(ぬで)島委員、町野委員、村上委員 
(事務局) 
科学技術庁研究開発局長 他 

4.議 題

(1)小委員会の運営について
(2)生命倫理委員会、クローン小委員会の検討紹介
(3)ES細胞に関する研究状況について
(4)今後の審議の方向性について
(5)その他 

5.配付資料

    資料1−1 ヒト胚研究小委員会の設置について(ヒト胚研究小委員会構成員)
    資料1−2 生命倫理委員会及びクローン小委員会の検討紹介
    資料1−3 ヒト胚性幹細胞研究及びヒト胚研究と生命倫理に関する各国の議論について
    資料1−4 ヒト胚性幹細胞研究及びそれに関連した一連の研究の説明資料
    資料1−5 ヒト胚研究小委員会 生命倫理の観点から検討すべき事項について(案)
    資料1−6 ヒトの胚性幹細胞に関する研究について(通知)(文部省)
    資料1−7 科学技術会議生命倫理委員会構成員
    資料1−8 科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会構成員
    資料1−9 生命倫理委員会議事録(第4回)
    資料1−10 クローン小委員会議事録(第7回)
    資料1−11 ライフサイエンスに関する研究開発基本計画(内閣総理大臣決定)
    資料1−12 科学技術会議の概要
    参考資料1    新聞記事 

6.議事

 (岡田委員長)

時間が参りましたので、まだ高久委員、豊島委員、相沢委員がお見えではありませんけれども、第1回科学技術会議ヒト胚研究小委員会を開催させていただきます。本日は、お忙しい中、ご参会いただきましてありがとうございます。 
初めに、科学技術庁の池田研究開発局長からごあいさつをお願いします。 
(研究開発局長)
岡田委員長ありがとうございます。研究開発局長をしております池田でございます。きょう、このような時間にお集まりいただいたこと自体、皆様大変お忙しい中をご都合をつけていただいてお集まりいただいているという証左でございまして、大変申し訳なく思っております。ただ、このヒト胚研究小委員会の設置の経緯につきましては、後ほどまた事務的にご報告申し上げますけれども、科学技術会議生命倫理委員会、その中にクローンの小委員会が設けられまして、クローンによるヒトの個体の産生についての問題を検討いただいているわけでございますけれども、これもおかげさまで議論が相当煮詰められてきたというふうに承知してございます。これは、別途の小委員会での検討ですが、その結論というものを私ども、できるだけ早くいただきたいと、これも岡田委員長以下、皆様方にお願いしているところでございます。きょうお集まりいただいた趣旨は、昨年11月にヒト胚性幹細胞をとり出す技術が確立されたといったことが一つの大きなきっかけになっているわけでございまして、この問題につきまして、これも生命倫理あるいはクローンといった問題とあわせて、是非ともきちんとご議論いただく必要があるということで、これも岡田委員長にもいろいろご指導いただきながら、こうしてお集まりいただいた次第でございます。 
先生方の中には、クローンの研究とあわせて参加いただいている方もおいででございますし、大変心苦しくございますけれども、この問題につきましては、私ども、世の中の関心にこたえるためにも、きちんと、それもしかるべきタイミングでご議論いただくことが必要だと思っておりまして、是非ともお願い申し上げたい次第でございます。今し方も私、行ってまいりました衆議院の科学技術委員会でも、この問題がほかの予算関連の議案と一緒に議論されまして、これもきちんと議論する必要があることとして、有馬大臣から取組状況についてのご報告をする機会があったところでございます。私ども事務方としましても、懸命の努力させていただきます所存でございますので、何とぞよろしくご審議をいただきますようにお願い申し上げます。 
よろしくお願いいたします。 
(岡田委員長)
池田局長ありがとうございました。 
第1回ということで、少しごあいさつ申し上げたいと思いますけれども、昨年暮れにヒトの全能性の胚細胞がとれたという報告があって、ある意味でいいような悪いような、とにかくこれに対応しなければいけないというふうなことになってまいりました。もともとは、1985年前後からマウスの全能性の細胞がとれて、この細胞を使って、いわゆるヒトの疾患モデル、マウスを使いますけれども、マウスで特定の遺伝子を欠損したマウス個体をつくって、それでヒトの病態をつくり上げて研究しようという流れがそのころからずっと起こってまいりまして、これは非常に盛んに進んでまいりました。 
マウスのESのときには、我々は安心してやっておったわけですけれども、ヒトのESということになってくると、これはいろいろな問題がありまして、きょうは後で勝木委員の方から詳細にそのことの説明をしていただくことになっていると思いますけれども、やはりヒトのESということになりますと、今後その細胞を非常に有効に使える方向性が見えているということもあり、一方では非常に気になる問題もそこには存在するということがありまして、これをとにかく有効なところをうまく伸ばしていって、危ないところは抑えるという非常にきめの細かいガイドラインづくりをしておかないと、有効性の方の仕事がなかなか動きがとれないということがあると思いますので、この委員会をつくっていただいたわけであります。相当ややこしい討論があると思いますが、皆さん方、委員を承諾していただきまして本当にありがとうございます。 
この問題は、いわゆるSF的な話と、それから現実の世界というものの境が下手をするとこんがらがってしまう分野ということになります。ですから、そこのところをちゃんと一つの共通の場をこの委員会でつくり上げて、そこで倫理的な形でどこをどうするかという討論に持っていってもらいたいというのが私の希望でありまして、うまく私がお世話できるかどうかというのは余り自信がありませんけれども、皆様方のサポートを得て進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 
それでは、すみませんが、プレスの方、一度退場していただけますか。ここで、公開をどうするかという話をしまして、またご連絡いたします。 
それでは、資料が配付されていると思いますが、事務局の方からチェックしてください。 
(事務局)
お手元に資料をお配りさせていただいております。資料は1−1から1−12、それから参考資料1としまして新聞記事、それから一番最後に木勝(ぬで)島委員から「ヒトの胚の研究に関する基本論点(案)」、合計14の資料がお手元にあるかと思います。抜けている資料等がございましたら、お知らせいただけたら幸いと思います。 
(岡田委員長)
ございますでしょうか。不足しているようでしたら、ちょっとお申し出ください。 
それでは、本日は第1回の会合でもありますので、委員の方々から自己紹介をしていただくのが順序かと思いますので、ひとつよろしくお願いいたします。 
(町野委員)
上智大学法学部の町野でございます。 
(木勝(ぬで)島委員)
三菱化学生命科学研究所の研究員をしております木勝(ぬで)島次郎と申します。よろしくお願いいたします。 
(西川委員)
京都大学の医学部の分子遺伝学の西川です。 
(豊島委員)
大阪府立成人病センターの豊島でございます。 
(武田委員)
女子医大を昨年退職いたしました武田でございます。専攻は産婦人科でございます。 
(村上委員)
国際基督教大学の村上と申します。よろしくお願いします。 
(高久委員)
自治医科大学の高久です。よろしくお願いします。 
(迫田委員)
NHKの迫田朋子と申します。よろしくお願いします。 
(勝木委員)
東大医科研の勝木です。よろしくお願いします。 
(石井委員)
東京都立大学法学部の石井でございます。 

議題:小委員会の運営について

 (岡田委員長)

最後に私は、阪大をリタイアして8年になりまして、今は千里ライフサイエンス振興財団の理事長をやってる岡田です。どうぞよろしくお願いいたします。 
それでは、議題1といたしまして、この委員会の運営についてでございますけれども、この委員会の議事の公開についてご議論いただきたいと思います。これと並行して、大分前から走っておりますヒトクローン問題小委員会というのは公開ということで、発言される委員の方々のお名前が全部入って、全部がオープンで公開されるという形をとっているんですけれども、これは少しメリットがあるところもありまして、意外と好評なんですけれども、それでよろしゅうございますかということなんですけれども、石井委員どうですか、発言しにくいですか。 
(石井委員)
議事録の公開ではなくて、議事の公開ですか。 
(事務局)
クローン小委員会の公開方法ですが、原則として会議自体を公開としまして、仮に公開に支障がある場合は、あらかじめ本委員会で決定して非公開とすると。あと、議事録につきましては、現在クローン小委員会では、すべて委員のお名前も付して全記録を公開しているということでございます。この議事録自体も、基本的に何か問題点があるという場合は、委員会で決定した上で公開から除くということですが、原則としてすべて公開すると、こういう内容でございます。 
(岡田委員長)
いかがでしょうか。今、事務局から説明がありましたとおりに、クローン小委員会の場合には、原則として会議自体を公開として、公開に支障がある場合には、あらかじめ本委員会の決定によって非公開とすると。また、各回の議事概要についても、会議全体を公開しないと決定した場合を除いて公開するというふうな形で進めてまいりました。そういう形でこの委員会もやっていいかどうかということなんですが、いかがでございますか。発言が非常にしにくいとおっしゃると困るんですけれども、よろしいですか。 
それでは、とにかく非公開にした方がいいというときには、あらかじめそれを本委員会で決めるということで、非公開ということもあり得るということにさせていただいて、原則的には公開ということでやらせていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。−−ありがとうございました。 
それでは、入っていただきますか。 
次の議題に入らせていただきます。生命倫理委員会及びクローン小委員会の検討紹介というのが議題の2になっておりまして、配付資料1−1と1−2につきまして、事務局から簡単に内容の説明をお願いしたいと思います。 

議題:生命倫理委員会、クローン小委員会の検討紹介

 (事務局)

資料1−1と1−2でございます。 
資料1−1でございますが、ヒト胚研究小委員会の設置ということで、昨年12月16日に開催されました科学技術会議の生命倫理委員会で設置が決定されております。 
1番としまして、ヒト胚研究小委員会の設置ということで、科学技術会議生命倫理委員会の審議に資するため、科学技術会議議事規則第20条に基づき、生命倫理委員会にヒト胚研究小委員会(以下、「小委員会」と言う。)を設置する。 
2.審議事項 
小委員会においては、ヒト胚性幹細胞の研究を始めとするヒト胚を対象とする研究に関し、生命倫理の局面から審議を行う。 
3.構成 
1  小委員会には、委員長を置き、生命倫理委員会委員長の指名する者がこれに当たる。
2  小委員会の委員は、10名程度とする。
3  小委員会は、必要な場合には、ワーキング・グループを設置できるものとする。 
4.生命倫理委員会への報告 
小委員会は、審議状況について、生命倫理委員会の求めに応じ、又は、適宜、生命倫理委員会に報告する。 
5.意見聴取 
小委員会は、必要に応じ、関係省庁、関係機関及び学識経験者の意見を求めることができる。 
以上の決定内容でございます。 
次のページは、今回の小委員会の構成員の皆様のリストでございます。 
資料1−2でございます。これは生命倫理委員会、クローン小委員会の審議経過を1枚にまとめたものでございます。生命倫理委員会の方は、平成9年9月25日に設置が決定されまして、今までに4回開催されております。生命倫理の論点の整理、それからクローン問題、そして前回はヒト胚研究小委員会の設置が議論されました。クローン小委員会は、平成10年1月13日に設置されまして、現在までに8回の議論を重ねて論点を詰めてまいっております。その他、関連事項としましては、主としてクローン問題に関するアンケートでありますとか、衆議院の科学技術委員会での状況等が記載されております。 
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。事務局からのご説明に対して、何かご質問ございましたらどうぞ。よろしゅうございますか。 
それでは、次に移らせていただきます。 
議題3は、ES細胞に関する研究状況についてということでございまして、ESというのはEmbroyonic Stem Cellであります。勝木委員から、ES細胞に関する研究状況について説明をお願いできることになっていると思います。どうぞよろしくお願いいたします。 

議題:ES細胞に関する研究状況について

 (勝木委員)

それでは、資料1−4をご説明させていただきます。実は、この資料1−4は、12月に行われました生命倫理委員会でクローンとES細胞について説明を求められましたので、クローンとES細胞、両方についてとじてございます。ここではES細胞についてお話をいたしますので、4枚目をお開き願います。 
4枚目の左上に胚幹細胞(ES細胞:Embryonic Stem Cell)と書いてございます。このES細胞というのは、先ほど岡田委員長からご説明ありましたように、1984〜5年の時期にイギリスの発生学のグループがマウスで樹立したのが最初です。エンブリオとは胚のことです。胚の幹細胞は、いろいろな神経や筋肉や内臓などの、様々な細胞に分化できるけれども、そういう潜在能力は持っているけれども、まだそういうものに分化していない細胞として分離されました。この性質は、あとでまたご説明いたします。その前に、この1年ぐらい議論されてきた一つの側面は、ヒトが動物であるということを強く認識させる状況であります。したがって、ヒトの発生を簡単にご説明いたします。 
まず、卵子と精子から受精が起こります。このときに二つのゲノムから新しい組合せができまして、その遺伝子の組合せについてはあらかじめ我々が知らないという不確定性と、それから唯一性というものがこの受精の瞬間に起こるわけであります。発生は、現在の生物学からみれば、あとはプログラムに従ってどんどん分裂を続けていきまして、2倍、4倍、8倍というふうに分裂を続けていきまして、やがて胚盤胞という時期を迎えます。この胚盤胞という時期は、最初の大きな分化と言える時期でありまして、底の方に何か細胞の塊のようなものが沈殿したように書いてございますけれども、この部分がやがて胚そのもの、つまりエンブリオそのものから胎児、そしてやがて個体にまで発生するものになります。一部が胚として発生するものになります。そのさらに一部と、その外側にある丸い部分は栄養芽細胞層といいますが、胎盤など母子関係をつくるような細胞が分化増殖してまいります。そして、やがてヒトですからほ乳動物ですが、子宮に着床いたしまして、胎児へと発生していくわけであります。そして、それぞれの細胞が、やがて心臓や筋肉細胞、腸管の上皮細胞というように、それぞれの非常に特殊な性質を持つ細胞に分化していき、やがて個体として調和のとれた一人の個体が生まれるのであります。 
しかしながら、確実にこれは1個の受精卵から出発しているものでありますから、異なる性質の細胞はどこかでその性質の決定が行われるわけであります。そういうものを細胞が分化すると申します。細胞の数が少ないときには、いろいろな細胞に分化できるようなもとになるような細胞があります。それを例えば血液でいいますと、西川委員から後でご説明になると思いますが、血液の幹細胞というものができまして、それからさらに血液の中で非常に特殊な性質を持つ細胞へと分化する、そういう性質のものを幹細胞というわけであります。例えば、膵臓にも幹細胞がありますし、肝臓にも幹細胞がありますし、ごく最近ではトピックスになっておりますが、神経の幹細胞も存在するということが報告されております。したがって、それぞれ独自の組織にはそれぞれの幹細胞が存在するものだと考えているわけです。ですから、時間をずっとたどっていきますと、その幹細胞がやがて受精卵まで逆にたどり着きますので、受精卵はすべての細胞に分化する能力を持つという意味で、全能性を持つというふうに言うわけであります。これは、皆さんの常識の範囲ですが、復習いたしました。 
ところで、ES細胞というのはどういうものかと申しますと、今お話ししましたのは、すべて着床した後、子供にまで発生する能力を持つ細胞、エンブリオの話でありました。ところが、1984年にマウスで開発されたのと全く同じ方法によって、昨年の11月にヒトでもES細胞がつくられました。それは胚盤胞の時期の細胞で、先ほど胚自身になる、エンブリオ自身が発生していると申しました細胞を、ここの絵で見れば底の方に沈殿しているような細胞、その内部細胞塊というところをシャーレの中で培養していきますと、これが実はその細胞を子宮に植えましても、いろいろな方法を講じましても、正常な細胞と組み合わせない限りは、決してそれ自身が個体が発生することはない。しかしながら、いろいろな条件を変えてやりますと、右の下にありますが、心筋の細胞になりますし、肝臓の細胞にもなりますし、血液の細胞にもなりますし、皮膚の細胞にもなりますし、膵臓の細胞にもなる。ありとあらゆる細胞になることができる。しかし、これらを幾ら培養いたしましても、一つの形をなす個体には発生しない。という意味で、あくまでこれは胚ではなくて細胞なのであります。ですから、エンブリオニックなのでありまして、エンブリオ自身ではないわけであります。その点、この細胞というのは、完全にそれ自身で個体が発生することはありませんので、細胞としての取扱いということになります。 
ただし、これを一度胚盤胞のところにガラスピペットを利用しまして、うまく注入してやりますと、注入された方の発生を母体にいたしまして、注入した方の細胞、つまり外から加えた方の細胞が個体の一部にまでなることができます。 
したがって、それを説明するために、もう一つ前のページにマウスで説明したのがございますので、その右側をごらんください。ES細胞がマウスで分離されまして、どういう実験が行われるかと申しますと、培養系の細胞ですから、何百万、何千万というふうにどんどん体外で増やすことができるわけです。受精卵は、せいぜいとりましても10個とかしかとれないんですが、細胞ですと何百万、何千万、何億という数をとることができます。そうしますと、遺伝子操作が非常に簡単にできるようになりまして、右側の欄のように赤い細胞が遺伝子操作されたES細胞を正常の白い胚盤胞の中にガラスピペットで注入してやりますと、ES細胞はそれだけでは個体には発生できなかったんですが、個体に発生する胚盤胞と混ぜてやりますと、このようなキメラマウスというのができてまいります。このキメラマウスといいますのは、先ほどのES細胞がいろいろなものに分化した結果、しかも調和のとれた個体の中で分化した結果、いろいろな部分の細胞になり得るわけであります。 
生殖細胞にも分化できますので、次の世代に遺伝子操作したES細胞の遺伝子を伝えることができる。したがって、現在ではほんとに自由自在に遺伝子をいろいろな状態に変えた動物、突然変異を個体として試験管の中で計画してつくることができる、そういう事実があります。ES細胞はそういう性質を持っておりますので、マウスでできますことは、基本的にはヒトにも使えますので、ヒトのES細胞もそのような性質を持っているということは変わりありません。 
もとに戻っていただきますと、Embryonic Stem Cellを一言で11月6日号の「サイエンス」で万能の細胞というふうに述べてありますけれども、今ご説明したようなことがまさにそういう意味に含められていると思います。 
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。勝木委員のご説明に何かご質問ございましたら、ご遠慮なくしていただけますか。これから、ここの問題が随分出てきますので、そのうちまたいろいろな説明があって、理解していただけるようになるかと思いますが。 
それでは、資料の順番が前後いたしましたけれども、事務局から一つ手前の資料1−3ヒト胚性幹細胞及びヒト胚研究と生命倫理に関する各国の議論につきまして、簡単に説明をお願いいたします。 
(事務局)
資料1−3でございます。人の胚の取扱いに関する各国の規制の状況でございます。主要国につきまして、そのスキームについて簡単に書いてございます。 
まず、イギリスでございますが、1990年の人の受精と胚研究に関する法律によりまして、体外受精ですとか人の胚の取扱いについて法律化しております。無許可での胚の創出・保存・使用は禁止されております。一定の治療又は研究に対しては許可が与えられております。ただし、受精から14日を越えた胚の保存又は使用に対しては許可を与えることはできない。 
ドイツにつきましては、同じく1990年に胚保護法というのが成立いたしまして、これは体外受精や人の胚の取扱いを定めた一般法でございます。内容としましては、人の胚の人為的作成の禁止、人の胚を用いた研究の禁止、胚の売買、譲渡の禁止を規定しております。 
フランスでは、生命倫理法が94年に成立いたしまして、体外受精や人の胚の取扱いに関する法律でございます。内容としましては、人の胚の人為的作成の禁止、それから人の胚を用いた実験の原則禁止(胚を傷つけずに検査を行う場合を除く)。それから、胚の売買の禁止。 
アメリカにつきましては、研究目的の人の胚の作成ですとか、人の胚を破壊し、廃棄し、故意に傷つけ又は死に至らしめるような研究、こういう二つにつきまして、連邦資金の配分は、予算支出に伴います法律−−連邦法でございますが、により規定されております。 
この問題につきましては、昨年11月以降、アメリカでも議論がございまして、今年1月の検討の場でNIH(米国国立衛生研究所)から、ES細胞の研究は上記の法律の対象には該当せず、連邦政府の資金が提供可能である旨の見解が発表されております。これは、この資料の2枚目に「日経バイオテク」さんから資料提供していただいたんですが、その内容についての概要を記載しております。 
それから、欧州協議会では、人権と生物医学に関する条約が1997年に調印されましたが、これにおきましては、体外受精や人の胚の取扱いを定めた一般条約ということで、研究目的での人の胚の産生は禁止ということになっております。 
日本の現状でございますが、日本産科婦人科学会の会告が昭和60年に定めました見解に基づいております。ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解というタイトルでございまして、これでは人の胚の研究は、生殖医学発展のための基礎的研究及び不妊症の診断治療の進歩に貢献する目的のための研究に限定すると。14日を越えた人の胚の研究は禁止という規定がなされております。 
これが主要国及び日本の状況についての資料でございます。 
(岡田委員長)
そういうことでいきますと、ヒトのESに関係する問題のところでは、まだそれほど各国とも大きな動きというのは、アメリカ以外はないということでいいんでしょうね。今の事務局からの説明に質問ありましたら、どうぞ。 
(木勝(ぬで)島委員)
ドイツとフランスの法律は、「人の胚の人為的作成を禁止している」とされていますが、そうすると体外受精もしてはいけないことになります。これは正しくはドイツとフランスともに「研究目的で人の胚をつくることを禁止している」でしょう。 
それから、フランスでは「実験の原則禁止(胚を傷つけずに検査)」とありますが、着床前診断のことであれば、これはまた別に認められています。それとは別にフランスの法律では胚を傷つけない研究を認めるという微妙な言い方をしていまして、それは実験という言葉ではなく、わざわざ研究(エチュード)という言葉を使っていまして、これは国が1件1件審査して可否を認めることになっていて、幾つかの研究が既に認められる方向と聞いております。 
それから、欧州協議会ですけれども、この条約自体は体外受精のことは何も規定しておりません。この条約は、人体実験全般についての一般的ルールを定めた部分が根幹で、あとはゲノムの扱いなどについて定めてあります。その中の一つとして、下の項目があるということです。 
それから、最後に日本についてですが、これは武田先生がご指摘になると思います。 
(武田委員)
今、木勝(ぬで)島委員がおっしゃられましたように、日本の会告は60年3月ではございませんで、昨年、受精卵の着床前診断に伴って改定されたものでございまして、60年の時点では不妊症の診断治療の進歩に貢献するということだけに限られていると思います。現在は、こういう形になっています。 
(迫田委員)
質問というか、確認なんですが、受精卵というのと胚というのはイコールだと思って理解してよろしいのでしょうか。胚と受精卵の関係をどういうふうに理解していけばよいのかということを教えていただきたいんです。 
(勝木委員)
確かにごっちゃに議論しておりますけれども、分裂して2細胞以降で、しかも着床したすぐまでぐらいのところを胚と……。武田委員にお答え願った方がいいかもしれません。普通、実験動物なんかでは言っております。それ以後、形ができてきますと胎児というふうに。 
(迫田委員)
受精卵というのは。 
(勝木委員)
受精卵というのは、いわゆる受精の瞬間の1細胞期の卵のことです。基本的にはそういうこと。 
(迫田委員)
二つに分かれたときには、もう胚になる。 
(勝木委員)
そういうふうに我々は普通は使います。なぜかといいますと、我々研究している人間の頭の中には、受精の瞬間に境界があり、始まるところです。あとはプログラムに従ってずっと進む。そしてまた、細胞が死んだり分割するという流れの中で、その境界のところが最も重要ですので、受精という瞬間を受精卵というふうに普通は言います。あとは、プログラムに従って発生します。幹細胞から分化するというところにもう一つの境界がありまして、相転移があり、そこで言葉を分けているというのが普通だと思います。 
(武田委員)
今、勝木先生のおっしゃったこと、人の場合も同じように使っておりますが、胚盤胞からさらに分化しまして、胎児の形になる前にまだいろいろな尻尾があったり、そういう状態のときを胎芽と呼んでます。胎児になりますと、人の形が完成された時期から、大体12週前後でございましょうか。11週の終わりと申しますか、までを大体胎芽と言います。 
(西川委員)
ただ、発生学的なものを議論しても仕方がないと思います。今お尋ねになっている事から考えると、社会的な通念として言えば、個体創出可能なものをすべて胚と呼んでいいんじゃないかと思います。ですから、受精卵も胚。個体創出可能なんだから、胚と呼べばいいわけですね。例えば、どこで差を見つける、今まで発生学者が使ってきたいろいろな概念をそのまま適応して、これがどうだということは全然ナンセンスで。今の一番大事なことは、個体創出可能かどうか。 
(勝木委員)
西川先生のおっしゃるとおりで、Embryonic Stem Cellのエンブリオニックとエンブリオの違いはそこにありますので、今からの議論は、むしろ胚と胚ではない細胞というふうに分けて議論した方がいいと思います。時々、受精卵というのは出てくると思いますけれども。 
(事務局)
事務局から、僣越でございますけれども、恐縮です。迫田委員からのご質問なんですが、私どもも実は受精卵といったときに、もう少し分割の進んだものまで含んで受精卵と言われるようなケースがあるやによく受け取っておりますので、一般的にはもう少し幅が広いような気がいたしますので、その辺、この委員会ではこういうふうに使おうというようなことをここで整理していただければ、後で私ども、用語の混乱が起こらないので助かると思います。もしその辺ご配慮いただければ有り難いと思います。 
(岡田委員長)
そうすると、このヒト胚研究小委員会の「胚」というのをどの幅のことを言うのかというようなことですね。 
(勝木委員)
それは、先ほど西川先生がおっしゃったことでよろしいんじゃないでしょうか。胚の中に受精卵も含まれるというふうに考えれば。 
(西川委員)
例えば、もう少しわかりやすい概念でいきますと、私自身の考えですが、1回ばらばらにしてもとに戻るかどうかというクライテリアを考えると、皆わかっていただけるんですね。例えば、8分割の胚をばらばらにして、1個1個別にしてもいいし、もう一回戻しても着床しますね。個体創出しますね。ところが、例えば胚盤胞の時期をとってこられて、一度ばらばらにされて、幾ら細胞を混ぜて着床させても、それは二度と個体になりません。なぜかというのは、もちろんわからないわけですけれども、そういう厳然としたわかりやすい区別というのはありますけれども、基本的にそこで使われている概念というのは、一つの個体を創出できるかどうか。ですから、一つの個体として認めるかどうかという意味で言えば、今あるものではなくて、ポテンシャルを問うているわけです。そうすると、受精卵も一つの個体を創出できるわけですから、それでいいんじゃないかと思います。 
(岡田委員長)
という意見が西川委員から出ていますけれども、それでよろしいですか。 
(高久委員)
私は、そちらの専門ではありませんが、わかりやすいのは、勝木委員がおっしゃったように、受精した瞬間のは受精卵と言って、その後は胚というのが簡単ではないか。 
(村上委員)
ひどい理屈を言うようですが、そうすると、いわばクローンにより生まれたものは胚ではないということになりかねないわけですが、そこはいいんですか。 
(岡田委員長)
そこまでオーバラップしないでおいてほしいんです。というのは、クローン小委員会のところで私が定義した場は、精子と卵子の受精という形からスタートするものと、それを経ないものと。ヒトのクローンの場合には、そういう受精というステップを通っていない非常に人為的なものという形のことをベースにして討論してほしいというのがスタートの原則だったんです。ですから、そことは切ってほしいのです。 
(高久委員)
そうすると、もう一つの確認は、生殖細胞自身は我々の議論の対象から外れているというわけでしょうか。 
(岡田委員長)
難しいことを言えば、生殖細胞なんだけれども、その一番もとで、まだ精子になるか卵子になるかわからないもとなんですよ。その範囲に入っている。 
(勝木委員)
一つは、私が申し上げることじゃないと思いますが、私の理解するところでは、クローンにしましても、ES細胞にしましても、なぜこれが議論しなければならないかということがまずありますね。そのときに、問題が出るたびに小委員会をわざわざ設けなければならない理由は、多分欧米では胚の操作、生殖に関する様々な研究や医療行為に関して、ヒトに対しての適用に関して非常に基本的なスタンスがまず議論されていて、個別のクローンが出てき、ES細胞が出てきたという順序があると思うんです。ですから、日本でもそれをきちんとやっておかないと、また突飛なものが出てきて、それにまた対応するんでは、岡田委員長が委員会を幾つつくられても、たまったものじゃないということがあると思うんですね。 
したがって、今、村上委員のここで議論すべき範囲をどうすべきかという議論だと思うんですが、私は最初は非常に広くとって、その上で原則をきちんとここで議論してというのが本来の目的ですので、生殖細胞のことも必要に応じて議論するべきでると思います。初めからそれを棚に上げて、議論しちゃいけないというふうにしておくと、また特定の議論になってしまうので、広くとっていただくとよいと思います。 
(岡田委員長)
そうしていただくと、永遠に続いて、永遠に終わらないので、それだと委員会の意味での主体ではないと実は思っております。ですから、やはりこの会は、ある意味では行政的な問題を含めていると思います。行政というのは、非常に日本の社会と直結した形のものですから、そこのところで何かあるガイドラインを決めねばならぬということがあるということで始まったものであって、それは生殖の操作というような格好の一般論の是非の話ではないと私自身、実は思っていまして、具体的に出てきた問題がぱっぱと去年、おととしからあって、それの対応をどうするかということがどうしてもありますので。だから、まずはそれで整理してみて、その整理の仕方というのをやってみて、それが現実的にほかの問題と引っかかるかどうかというのは、それを整理した後で考えていくという形のことをした方が、全部を同じ土俵の上に乗せると、議論をそれぞれの土俵でやっていただくことになりますから、これは整理のしようがないということになろうかと思うんですね。ですから、できることなら、今、勝木委員がおっしゃったような形で進めてもらえれば非常に有り難いというのが私の希望です。 
そういうことで、次に今の話にかかわると思うけれども、木勝(ぬで)島さんのあれを言ってもらいましょうか。 
(事務局)
恐れ入ります。資料1−5の方から。 
(岡田委員長)
事務局の方で、今の議論の問題点の整理をしていただいている。大切でした。失礼しました。 

議題:今後の審議の方向性について

 (事務局)

資料1−5でございますが、今ほど議論にもなっておりました点について、事務局の方で議論の出発点のための資料という意味合いでまとめたものでございます。読まさせていただきます。全体としましては、ヒト胚性幹細胞、2番ヒト胚、3番にヒト・動物のキメラ・ハイブリッド、4番に規制の必要性の有無という構成になっております。 
まず1番のヒト胚性幹細胞でございますが、基本的論点としまして、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚との組合せで、ヒト胚自体と類似の性質を持ち得る可能性があるということで、その作成・使用について、どう考えればいいかという視点でございます。研究の在り方としては、作成に係る研究と使用に係る研究が幾つかあると思います。 
作成に係る研究としましては、ヒト胚の滅失を伴う胚盤胞から作成する研究方法と、始原生殖細胞から作成する研究等、その他の研究、これはヒト胚は使わないというものでございまして、アメリカの研究成果もこの二つから出てきております。 
それから、使用研究については、次のような研究が容認されるかどうかということで、試験管内で行う研究でございまして、これはまさにヒトの発生・分化の基礎研究になるものでございます。それから、組織移植、細胞治療、不妊治療、胎児治療、医薬品開発等のための臨床研究、応用研究も考えられます。試験管内の研究は、ヒト個体は生み出さないという点がございます。 
もう一つは、他のヒト胚と混ぜて、新たな胚を作成する研究ということで、人工的な細胞構成を持つヒト胚の創出につながる。さらに、母体に移植した場合は、ヒト個体の産み出しにもつながるということでございます。 
次に、遺伝子組換えを伴う研究ということで、これも人工的遺伝子構成を持つヒト胚性幹細胞の創出になるということで、この細胞をヒト胚と混ぜることによりまして、人工的な細胞構成・遺伝子構成を持つヒト胚の創出につながる。これを母体に移植した場合、ヒト個体の産生になる、こういう研究を容認するかどうか。 
それから、2番目のヒト胚の基本的論点ということで、ヒト胚に関する検討というのは、今、1番のヒト胚性幹細胞の検討の基本的視点を与えるものであると。ヒト胚は、そもそも人として取り扱うべきか、物として取り扱うべきかを十分検討する必要があるのではないか。特に、人としての取扱いが求められる場合に、ヒト胚を研究目的で産み出してよいかどうかというものがございます。以下のようなケースについて、容認されるか否かの検討が必要ではないかということで、一つは試験管内に関するもの、もう一つは新たなヒト胚作成、もう一つは遺伝子組換え。ES細胞の場合と同じ形になります。 
まず最初の○ですが、ヒト胚の分割、培養等を試験管内で行う研究、これはヒト個体は産み出さないということでございます。 
次の漢字の「人」は削除をお願いします。○でございまして、ヒトの発生・分化研究等の基礎研究。それの一つは、不妊治療、胎児治療、医薬品開発等のための臨床研究、応用研究。それから、原始線条出現(卵割開始後2週間)以後の研究ということが容認されるかどうか。 
それから、ヒト胚性幹細胞と混ぜて、新たなヒト胚を作成する場合、これも認められるかどうかということです。 
それから、遺伝子組換えを伴う研究ということでありまして、これは生殖系細胞操作と同様の意味を持ってくる。人工的遺伝子構成を持つヒト胚の創出につながる。これを母体に移植した場合、ヒト個体の産み出しにつながるが、これが認められるかどうか。 
3番目の論点としまして、ヒト・動物のキメラ・ハイブリッドということで、基本的論点としまして、ヒトと動物のキメラ・ハイブリッドを作成することとなる以下の研究は、容認されるかどうかということですが、これはヒト胚性幹細胞を動物胚と混ぜる、あるいは動物胚性幹細胞をヒト胚と混ぜることによりまして混合胚を創出する。字が間違っておりますが、試験管内で培養する研究、こういうことが研究として認められるかどうかということでございます。 
最後の4番は、規制の必要性の有無ということで、ヒト胚性幹細胞、それからヒト胚につきまして、その創出と利用と譲渡等の規制の在り方、禁止したり、許認可したり、届出、審査、公的資金の配分等、こういう観点についての議論が必要ではないかということでございます。 
(岡田委員長)
ありがとうございました。考えられる事項をずっと書いてくださっていると思いますけれども、ES細胞を中心とするこの小委員会をどうしてもつくらねばならなかった最大の理由というのは、どうもヒトのES細胞を使っていろいろ有用なことが確かにできそうだという判断を専門家の方々、世界中の人が持っておられるということと。それから、ここに書いてありますような、勝木委員が説明されたようなキャラクターも持ちあわせているという二つの問題のところを整理しないと、どうも有用さという場合の動きにならぬであろうというふうなことでつくられた委員会です。そういうようなことで、検討すべき事項というのを、しんどいところと、どんどん進めたらいいんじゃないかというところと、どっちがどうとわからないというところとあると思いますが、これらのことを順次といいますか、包括してといいますか、そういうことで検討していかざるを得ないと思いますが。何かこれに関してご発言ございませんでしょうか。 
(高久委員)
今、岡田委員長がおっしゃるとおりだと思います。1ページ目の方の遺伝子組換えを伴う研究の項ですが、移植のために組換えが必要な場合が出てくると思うのですね、細胞移植の場合とか組織移植の場合。この文章を見ますと、遺伝子組換えを伴う研究が、すぐヒトの胚の創出につながるという表現はおかしいの。遺伝子組換えがすぐヒト胚の創出にはつながらないと思います。ネガティブな表現が強過ぎるのではないかと思います。 
(岡田委員長)
今の高久委員がおっしゃったような意見が幾つかおありになろうかと思いますけれども。 
(迫田委員)
これは、まだ余り理解できていないからの発言かもしれませんが、このヒト胚性幹細胞というものがアメリカで既にあるということは理解してはいますが、これは既にそれがあるからといって、そこからスタートするのではなくて、多分この胚性幹細胞をつくるためには、受精卵から分割していく、ある個体というか、ある特別な遺伝子を持ったものが胚があるということになりますよね。既にES細胞があって、そこからそれをどういうふうに考えたらいいかというよりは、ES細胞をつくる過程というところが必ずあるんじゃないかと思って、そこの方が本当は先に、どっちが先でもいいですけれども、大事なのではないかというふうに個人的には理解していたんですが、いかがなものでしょうか。 
(岡田委員長)
原則的には、だれかがそうするわけです。ただし、それを研究者がすべての人がすることはないわけでして、例えば今、アメリカであると。それを培養して増やしてやるというのは、買うこともできるわけです。ですから、このES細胞を使いたいという研究者がすべて受精卵をハンドリングせねばいかぬかというと、そうではないです。 
(石井委員)
今の迫田委員からの質問に関連して、私の基本的理解が欠けている点を説明していただきたいのです。作成方法に2種類あるというご説明で、先ほど図で説明していただいたのは1の方だけですね。 
(勝木委員)
1も2もアメリカで同じ時期に発表されています。違う方向です。 
(石井委員)
2の方も説明いただけると有り難い。 
(勝木委員)
生殖細胞、卵子が発生してくる過程で、最初の発生のもとになる細胞、「源」という字は「原」ですけれども、始原生殖細胞という時期があります。この時期は、まだ普通は受精のときには減数分裂といいまして、染色体を父親と母親とから半分ずつもらって2nというものになるんですが、始原生殖細胞の場合はまだ2nの状態です。その状態を外にとり出しまして、試験管の中で培養していくことがごく最近、マウスで成功しました。その同じ方法を、やはり中絶したんだと思いますが、そこの胎児の時期に既に始原生殖細胞ができていますので、その始原生殖細胞をとり出しまして、試験管の中で培養します。 
これは培養の条件が全部整っていますと、卵子にまで発生して減数分裂をするという直前でとまっているわけです。そこで、精子が来て受精するんですが、現在の段階ではファクターが少ないか多過ぎるか、ちょっとわかりませんけれども、試験管で培養すると、ES細胞(正確にはEG細胞)に分化してしまう。ES細胞というのは、その細胞を先ほど申しました胚盤胞の時期にピペットで注入してやりますと、注入されたものも個体の一部になるという性質を持っているんですね。その性質が一番完全なES細胞の性質なんですが、そういうものを始原生殖細胞から試験管の中で培養したものも持つようになるという実験結果があるんです。つまり受精卵からではなくて、あるいは卵子からではなくて、胎児のまだ卵子に発生しかけている細胞からES細胞をつくることができるということなんです。つまり、生殖細胞はどんどん母から娘へ、そしてその孫娘へと循環しているわけです。だから、受精卵から出発しますと、そこからずっと回ってきて胎児が発生して、そこのところで始原生殖細胞をとってきますと、次の卵を発生するものが既に胎児のときから始まっているわけです。ですから、そこからもとり出してES細胞をつくることができるということなんです。よろしいでしょうか。 
(石井委員)
この議論には直接関係ないことを2点お伺いしたいのですが、一つは今、ES細胞になるというふうにご説明されましたが、私のつたない理解ですと、中絶胎児の卵子を生殖の治療に用いることができる。そういう意味では、卵に培養することができるというふうに私は理解していたのですが。その点が第1点。 
第2点は、今は中絶胎児の始原生殖細胞に限るのですか。成人した大人の生殖細胞あるいはその元の細胞からつくるという可能性はないのですか。 
(西川委員)
逆に、卵子とか精子にするのは難しいです。実際に始原生殖細胞を最終目標として卵子・精子にしたいということで研究しているわけです。ところが、細胞が増えるようになったんだけれども、結局は若干違うんですが、ES細胞とよく似たものになる。すなわち、ブラストシストへ注入し、その個体の中ではじめて生殖細胞へと分化する。したがって、例えば勝木委員がおっしゃった仮親が要るわけです。この細胞からは、残念ながら生殖細胞は直接分化しない。仮親の中では、きちんといろいろな細胞になって、なおかつ生殖細胞になって、個体もつくれる。 
(豊島委員)
今おっしゃったほかに、もう一つあったと思います。動物の受精卵を使って、そこにヒトの核を移植して。それは、ちょっと話が別ですけれども、アメリカのつくったES細胞は三つある。それで、今おっしゃった中で、始原生殖細胞からつくったものは、流産した胎児からつくっています。これは、今のアメリカの法規的に可能なわけです。最初の勝木委員が説明された過程でつくられてきたES細胞は、基本的にはアメリカの法規で規制されている。それから、もちろん他の動物のES細胞に人間の核を入れるというのも問題があります。 
ところが、今おっしゃったような問題が幾つかあって、恐らくそこのところが人間でクリアされているはずがないわけです。ですから、予測としてES細胞として一番優れているのは、恐らく今の法規外のところでつくられた、実験目的でつくってきた試験管内受精でつくられたES細胞ですね。だから、NIHの所長のバーマスは、超法規的にそれを認めることを提案した上で、研究の許可になっているというふうに私は解釈しております。もし、間違っていたら教えてください。 
(迫田委員)
理解が悪くて済みません。アメリカのNIHがES細胞の研究が先ほどの法律に該当しないというふうに言ったということは、受精卵から胚盤胞までにして、そこからつくることそのものではなくて、ES細胞そのものを使った研究はいいというふうに、つまりできたものに対しての研究はいいというふうに言ったという理解なんでしょうか。つまり、胚を破壊し、廃棄し、故意に傷つけ、死にいたらしめる研究は、アメリカでは研究資金を出さないということになっていたというふうに書いていて、それが今回の研究では該当しないというふうに言ったのは、つくるところは無視して。 
(豊島委員)
私の解釈では、そういうふうに思っています。だから、新たにつくると、それは法規を犯したことになるということだろうと。その辺が正規の発表を見ていませんから、私が読んだのは「サイエンス」か「ネイチャー」か、どっちか忘れましたけれども、ニュースで、その辺の感覚が多分もう一遍、つくることは法律に引っかかるよというふうに考えました。 
(事務局)
今、豊島委員がおっしゃられたとおりだと思います。ただし、具体的な細かい事項については、NIHはこれからそれぞれ事項ごとにちゃんと議論をして、最終的に一種の方式を決めると言っています。その方式が決まるまでは、研究費については出さないと言っております。したがって、その辺の細かいそれぞれの事項がどう扱われるかについては、これから決定されていくことになります。しかし、原則の考え方としては、恐らく今、豊島先生がおっしゃられたような考え方で貫かれているだろうと思います。 
(岡田委員長)
ありがとうございました。ということで、石井委員が質問されたように、この二つ両方ともこの小委員会のヒト胚研究というものの中に入ると理解してください。そして、迫田委員がおっしゃったように、とろうと思えば、受精卵の後のハンドリングというのは原則としては要るし、流産したといっても、エンブリオからとるわけですから、そういう意味での問題点も生殖始原細胞の場合にもあるし、どっちにしろ、そういう受精卵とか胚とかというもののハンドリングというものの操作というのはどこかでしないと、こういう細胞がとれてこないものであるということは確かなことだと思います。 
(村上委員)
さっき岡田委員長がおっしゃったことを組み合わせますと、ちょうどHela(ヒーラ)細胞みたいに全世界の研究者たちが既に存在しているヒトのES細胞を使って実験するという可能性は既にあるという前提で出発すべきなんですね。 
(豊島委員)
ここに書いてある検討すべき事項の中に作成研究というのがあって、これが書いてあるということは、今のアメリカのNIHと同じような条件で、ここでそれを禁止するべきかどうかも含めて、検討しようということだというふうに私は思いましたが。 
(岡田委員長)
それでは、木勝(ぬで)島委員がコメントを用意されているそうですので。 
(木勝(ぬで)島委員)
ありがとうございます。先ほど石井委員が始められた議論と深くかかわる論点も含まれておりますのでお聞きください。私は、欧米でのヒトの胚の扱いをめぐる議論あるいは政策決定過程をこの数年フォローしてきました。今日お出ししたこの論点メモは、ヨーロッパやアメリカでこういう議論を延々とやってきたというものとしてご理解いただければと思います。日本では今まで人間の受精卵や胚について、それをどこまでどう扱っていいかということには、ほとんど関心が払われてこなかったと思います。脳死は人の死かという議論に比べると、人間の胚は人かどうかということは日本の社会では余り大きな問題になってきませんでした。これからもそうならないままでいくのでしょうか。日本の社会が、人の生命の始まりについて、欧米ほどのセンシティビティーを持たないかどうかということが、この委員会ができた一つの眼目ではないかと私は考えています。核移植・クローン技術に続いてES細胞開発と、人間の命の始まりを操作する技術が現実のものになった以上、こういう委員会を改めて日本でもつくらなければいけなくなったということです。これは国レベルでは日本で初めて、人間の受精卵と胚の扱いについて議論する場ですので、国内の議論が今までなかった以上、これぐらいの理念的な問題から始めなければいけないのではないかと考えます。 
私が一番危惧しているのは、現在進行中の厚生省の生殖医療の専門委員会が、精子や卵子、つまり生殖細胞と受精卵や胎児の研究利用について、検討の論点から外してしまったことです。ですからそれはここでやるしかないだろうということです。1から順に見ていただきますと、人間の胚を第三者のために譲渡していいか。人間の卵、未受精卵を第三者の不妊治療のために提供していいかどうかということが厚生省の方で話し合われていると思いますが、研究利用ということは、要するに全く自分の治療のためではなく、ほかの人がやる研究のために譲渡するということですから、そもそも一般的に人間の胚を第三者に譲渡していいのかどうかという議論をしないといけないと思います。 
それから、2として人の胚の研究利用は許されるのか、許されるとしたらどの範囲かという問題についてですが、事務方の用意されたきょうの資料の1−5に幾つか抜けている点があったと思います。一つは、日本でも大変問題になっている受精卵遺伝子診断のための研究が認められるかどうかです。人の胚を用いる研究のところで、治療のことしか書いてありませんでしたが、診断研究というのがあると思います。例えばイギリスで認可されている人の胚の研究の幾つかは受精卵診断のための研究ですので、この是非の検討を加えておかないといけないと思います。 
それから、ES細胞の研究の源として何を認めるのかということが非常に大事な論点になると思います。この点は、事務方が用意されたきょうの資料1−5ではあいまいになっていると思います。先ほど始原生殖細胞ということが出てきました。これは、アメリカの研究では中絶胎児からとってきたものです。石井委員が質問されて、まだお答えはないと思いますけれども、これは胎児からしかとれないものなのか、生きている人間からもとれるものかどうかということが問題になると思います。 
そもそもESに限らず人の胚の研究は、何を源とするのか。不妊治療で余った胚をもらってくるのか、それとも研究目的で精子と卵子の提供を受けて体外受精を行っていいのか。この研究目的で胚をつくる場合も、精子や卵子をどこからかもらってこなければいけません。どこから、何を根拠としてもらってくるのかを明確にしておかなければいけません。 
それから、きょうここには書けませんでしたが、何人かの委員が提起されているように、核移植によって作られた胚を材料にしたES細胞研究は認められるのかどうか。これも非常に大事な論点で、資料1−5には余り明確に書かれていないのではないかと感じました。 
最後に、監査体制の在り方ということですが、二つ申し上げたいと思います。公的研究助成が認められる範囲を確定する方がいいという論点として、一つに、先ほどから議論になっているアメリカの政策対応ですけれども、最近のアメリカのNIHの声明や国家倫理委員会のアジェンダを見ておりますと、アメリカではステム・セル・リサーチ(幹細胞研究)という言い方をするようになっています。形容詞のエンブリオニック(胚の)を取って議論しています。これは、フランス人からは言葉を省いていると批判されておりますけれども、アメリカとしてはそれができる精いっぱいということで、胚の扱いを議論するとおさまりがつかないから、でき上がった幹細胞株以降の研究ということにしているようです。ですから、アメリカの言葉の使い方にはこれから気をつけなければいけないと思います。幹細胞という言い方しか出てこなくなっていても、これは源はエンブリオだということを認識しておく必要があるかと思います。 
それから、もう一つ、国外での対応で目立ったものとしては、同じような状況がヨーロッパにもありまして、ヨーロッパ連合がライフサイエンスに相当大きな研究助成をしているプログラムがあります。5年ごとのプログラムですが、これから始めようとされている研究計画で、人の胚を使った研究にヨーロッパ連合の研究助成を出していいかどうかが議論されています。ヨーロッパ連合にはヨーロッパ連合の倫理委員会があるんですけれども、そこが去年11月に答申を出しまして、胚の研究を助成対象から除外すべきではないのではないか、つまり、認めてもいいのではないかという意見を出しました。ですが、ヨーロッパ連合の議会と執行機関であるヨーロッパ委員会と、最高意思決定機関である閣僚評議会という三つのヨーロッパ連合の機関の間で、まだ意見が一致していません。これはこれからも問題になるかと思います。ちなみにヨーロッパ連合の倫理委員会の勧告レポートは、非常によくできたものですので、ご参考にされるといいのではないかと思います。 
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。これから、この委員会をどんな格好で進めていくかという形のことにだんだん話が進んできて、これからどういうステップでどうやっていったらいいか、どういう問題点を掘り下げるかということですが、まだ少し時間がありますので、ご意見を。 
(西川委員)
今のご意見に対して、生物学者としての意見を述べます。かなり危険なアイデアかもしれませんけれども、今、委員がおっしゃってきた問題というのは、社会という問題に重点をおかれているわけです。ところが、例えばこの胚なり受精卵に対しての先生が考えられている態度というのは、もう基本的にはデカルト以前です。はっきり言うと、心身二元論すら満たしていない。西洋でほとんど議論されていないとおっしゃったけれども、胚の中に身体性も精神性も全部含めたものがそこに実存しているという考え方ですね。しかし、多分今のほとんどのヨーロッパの優れた哲学者も含めて、自然科学者、例えば自然科学と哲学と一緒だと思っている人たち、はっきり言うとデカルトの克服をやろうと考えてきた人々は、基本的に胚の中にすべての人間存在が存在しているという立場をとらないと思う。 
しかし、それが社会に返ったときに、当然のことながら、多くの人は、お地蔵さんに精神があると思うわけですね。そういうレベルの議論をもちろん大事にしていかないとすると、今の委員の話をずっと突き詰めていったら、結局、社会が決めたらいいという話になると思うんです。 
(木勝(ぬで)島委員)
ヨーロッパやアメリカではいろいろな考え方をする人がいて、人間の胚を研究利用することに対して非常に抵抗感を持つ人が多いです。それは、科学者の中にもいれば、哲学者の中にもいて、科学者の中にはドライな人もいれば、すごく嫌な人もいる。哲学者の中にもいる。普通の人たちの中にもいる。議会の中にもいる。行政の中にもいるという形で、一度議論を始めると収拾がつかなくなってコンセンサスは難しいので、最低限、国としてやるべき研究は認めよう、いや、いけないと、すごい綱引きがあります。 
いま西川委員は、やるべき研究内容は研究者が決めるべきであるかという問題を持ち出されたのでしょうか。それでしたら、研究者が第一に責任を持って決めてやり始めたことを研究者を支えている社会がどう考えるかという綱引きになるかと思います。まさにそのかねあいをどうしたらいいかということで、この小委員会があるのでしょう。ここが国が設けた科学と社会の接点の一つということだと私は考えています。 
(西川委員)
だから、基本的にはどのレベルでやるかという問題だと思うんですね。極めて哲学的なレベルでやるのか、社会学的な社会政治的なレベルでやるかというと、はっきり言うと社会政治的レベルでやればいいということです。あらゆる多様性を認めて議論していこうということですから。科学者とか哲学者の中にも、例えば受精卵の中に人間の全存在があるかという問題に関しては、例えばヨーロッパでも全存在があるという人もいるし、ないという科学者もいるというふうに先生はおっしゃっているわけです。 
(木勝(ぬで)島委員)
はい。 
(西川委員)
だから、その辺から議論するかどうかですね。多分そこを議論し出すと、委員がおっしゃるように、今、科学そのものが抱えている大事な問題になっていくから、これはやれないと思います。例えば、全存在があるという人もいるという前提で議論をするとすると、生物学の研究という活動とは全くレベルの異なる議論になります。はっきり言うと、せっかく法学部の先生も来ておられるから、すっきりと法律等々、社会学的なレベルで議論すればいいんじゃないかと私は思う。 
(木勝(ぬで)島委員)
要するに、おっしゃりたいことは、哲学的議論はやっても収拾がつかないし、両方の考え方の人がいることは明らかなんだから、この小委員会でそのレベルの議論をやるのはよそうということですね。わかりました。私がこの論点を持ち出したのは、政策決定をする場合、生物学的なものの考え方だけでやろうということであれば、別にこんな委員会は要らないわけです。生命倫理委員会も必要ないわけです。しかし今はそうではいけないという大勢になっていて、人間の生命を扱う場合、慎重であるべきである、あるいは人の生命を保護しなければいけないということがあると思います。ですから、人やその一部をどのようなものとして、どこまで保護すべきかということについては、法的に、あるいは行政として何か決定する場合、やはり人間の範囲をどういうものとして考えるか、人の胚をどう位置づけるかという議論は必要だと思います。その場合、日本の社会はそういう哲学的生命観にはほとんど興味を持たない、それはどうでもいいものだという論議もあるかもしれませんが。 
(西川委員)
それは、基本的にヨーロッパでも一緒だと思います。ヨーロッパでも、哲学として論議されてきたということと、例えば一般の今ここで問題にしているように、基本的には政策決定にかかわるような判断を、哲学議論までもインテグレートした形で議論ができるかという話でいくと、ヨーロッパでもできない。 
(木勝(ぬで)島委員)
いえ、やっているんです。例えば、フランスの国会では、人の何をどこまで実験利用していいかという法律をつくるときに、人の胚は人かどうか延々と何時間も何日も議論しています。科学的現実性を突き詰めていこうとする人と、宗教的な理念を主張する人と、その間で政治的な妥協として、国として最低限のルールを考えようという人と三つに割れて、その最後の人が結果的には一番多数になってやっと立法ができたのです。 
(西川委員)
そうですよね。当然、私もそう思います。 
(木勝(ぬで)島委員)
例えば、先ほど資料1−3に出てきた条約をつくったヨーロッパ協議会でも、人の胚研究についてシンポジウムをやると研究者と宗教者と政策決定にかかわる人たちがみんなで入り乱れてそういう議論をやるんですよ。そこまでやっちゃうから、アメリカでは何も決められなくなってしまうというところもあります。アメリカの議会はそういう状態なわけです。日本はそうなってはいけないというのは、一つの見識かと思いますが、そこまで含めてここで議論すべきだと申し上げているのです。 
(町野委員)
要するに、この委員会で何をすべきかということが、いま一つこのペーパーでわからないということがあると思います。今、木勝(ぬで)島委員が言われましたとおり、我々が議論するときは、当然考えなきゃ議論できないことは明らかなんですね。しかし、その問題がみんなが一致しなければ結論が出ないというものでも、私はないだろうと思います。だから、我々は何をしなければいけないかをまず明確に教えていただいて、このヒト胚研究小委員会というタイトルから見ますと、非常に広範なもの、まさに木勝(ぬで)島委員が言われましたようなことを正面から取り扱うつもりなのかというぐあいに私も一瞬思ったんですが、ここにあるペーパーを見ますと、非常に切り口、入り方としては狭い。そこから議論していこうということだろうと思いますけれども、そこをもう一回明らかにしていただくと時間の節約にもなるだろうと思います。 
(高久委員)
この小委員会の目的は、最初に岡田委員長がはっきりおっしゃったと思うのです。私の手元に2月号の「ネーチャー・メディスン」という、臨床の人が読む雑誌がありますが、その中でヒューマン・エンブリオニック・ステム・セル、ザ・フューチャー・イズ・ナウと書いてあります。どんどん細胞移植や組織移植に使われるようになるだろうと、多くの人がそういう希望を持っていると。しかしながら、当然いろいろなコントロールも必要であるということから、岡田委員長が最初におっしゃったように、将来有望なEmbroyonic Stem Cellの医学的利用をどういう形でコントロールして、しかも世界中でもうすぐ始まるかもしれないというときに、日本がそれに対応できるようにするというのが、この小委員会の一番大きな目的ではないかと理解していたのですが。 
(岡田委員長)
私自身は、生命倫理委員会からの委託というのはそういうことだと思っていました。 
(迫田委員)
今、高久委員がおっしゃったことはとてもよくわかるんですけれども、胚性幹細胞、ES細胞そのものがどういうものであるかということすら、なかなか私たち伝える側としても伝えにくくて、それでも一生懸命理解して、この席にいるわけですけれども、そのことを多くの人が理解し、納得するというのはある程度時間もかかりますし、それはこの議論そのものが伝わることで初めて理解することもあるでしょうし。ですから、最初からES細胞についてどうするかというところから始まると、ほんとに理解を得ることすらできないのではないかというふうにとても危惧しますので、人の胚はどういうものであるかとか、ES細胞というのはどうやってできるものであるか、それはどこが違うものかとか、ある程度議論しないと、それを少し積み重ねていくことが、この会では必要なことだと私は思うんですが、いかがでしょうか。 
(豊島委員)
私もおっしゃられるとおりだとは思いますが、幾つかの現場の問題というのもあるわけです。実際問題としては、ES細胞というのはもうできている。そして、それが先ほど岡田委員長がおっしゃられたように、輸入するとすればできる状態になりつつあるわけです。それで、資料1−5に書いてありますヒト胚盤胞から作成する研究の中に、ヒト胚の創出を伴うということで、ES細胞が現時点の状態から言えば胚とは言えないという考え方に立てば、今の日本でどこか会社が輸入して、それでやったとしても、何の規制もないわけです。 
例えば、国立大学ですと文部省の規制がかかり得るし、国研ですとそれぞれの省庁の規制がかかり得るけれども、それ以外のところでされた場合には何の網もかけられない。だから、そういう場合はどう想定するかという問題も当然含まれてくるわけです。ですから、何らかの一つの対応が必要か。その対応というのは、全面否定なのか、あるいは研究そのものは認めるのかということも含めた議論。 
それと、もう一つは、ここで次の問題として多分出てこなきゃいけない、日本でES細胞をつくってもいいのか、つくってはいけないのかと。もし許可したとして、そういうことも含めての議論も要るし。だから、現場の対応というのと、これから深めていかなきゃいけない議論というのと、大きい問題が二つあるというふうに認識しています。 
(村上委員)
おっしゃることは非常によくわかります。それで、先ほどのご意見の中にもありましたけれども、法律という言葉が純粋の法律か、ガイドラインか、その他は別として、法律的な対応が現在の我々にとってどうしても必要だということもよくわかります。ただ、法律的な対応なら対応をするときに、私たちは合理的な根拠、というのを背後に持っていなければならない。少なくとも、ある程度の人たちがそれなりに納得してくれるような合理的な背景というものがあって初めて、法律というものが成り立ち得るということも、また否定できないと思います。したがって、その部分を何とかつくり上げていく議論というのが、どうしても必要なんじゃなかろうかと思います。 
(勝木委員)
私も村上委員のご意見に賛成なんですが、先ほど西川委員がおっしゃった、原点は動物学といいますか、自然にどう発生していくかということにいかに人が手を加えたかということに様々な問題点が出ているんだと思うんですね。そのときに、私はさっきの哲学的な議論ではないんですけれども、人の出発点は受精卵と考える根拠は、何遍か申し上げていますけれども、遺伝子が少なくとも大きく組合せが変わることにより、全く新しい個体が出発する時点だと考えるからです。このとき、唯一性と非決定性とが個人の尊厳の根拠となる時点こそ、その瞬間にあるわけですね。核移植は、それから外れてくるわけです。したがって、唯一で非決定であるというのが自然界のシャッフリングで起こるということが最も重要な出発点だと考えています。そういうことが原点にあるということが一つですね。 
それから、もう一つは、不妊治療や何かということを理由にして、いろいろな技術が使われていますけれども、ほんとに現在のものが不妊治療と言えるものかどうかというのは非常に問題があると思うんです。不妊治療であれば、例えば卵子を排卵できるようにしたり何かすることですけれども、子供を別のところでつくって、できたら不妊治療というのは、これは問題のすり変えでして、現実問題として、さらに言いますと、子宮の中にいるときに母子の連絡があるということがわかってきたり、人が動物であるという原点から考えますと、子供を作る過程こそ親子を規定するもので、他で作った子供を養子以外の生物的な観点で論ずることはますます難しいと思います。すなわち、私たちはまだ未知のことばかりに囲まれているのです。しかし、切り口としては、先ほど豊島委員がおっしゃったように、人の胚性幹細胞については、極めて有効なサイエンティフィックな、あるいは生物学的にも、我々は人自身を知りたいわけですから、そういう意味での非常に大きなメリットがあることは事実だと思います。 
しかし、それが出てきたゆえんのところが、実は我々が手を触れていけないと結論するとなると、これは大変問題なので、その場合を分けて、研究のところは、私はちょっと生煮えなんですが、基本的にはライセンス制で、きちんとした目的を評価しながら、そしてその結果をきちんと検討して、逸脱しないようなもので徹底的に研究するような体制しかないように思います。ガイドラインをつくるにしても、法律を施行するにしても、把握しやすいような体制にしておかないと、どこからでも使い始めると、法律をつくっても実際に実効がないということでは意味がないですので、そういうものも頭に入れて議論すべきではないか。しかし、基本は、生殖医療に関して、それが本当に先ほど言ったヒトがヒトたるゆえんといいますか、個人の尊厳というものの根拠は、やはり受精の瞬間にあるんだろうと私は思うものですから、それに関しても議論する必要があると思います。 
(木勝(ぬで)島委員)
私も豊島委員が出された現場の問題ということは非常によくわかります。もしそういうやり方で研究をどんどんやっていこうということなのであれば、どうしてES細胞だけ特別扱いしなければいけないのかということが逆に問題にされるべきだと思います。既に様々な人間の細胞株が、国境を越えて日常的にやり取りされています。それは、税関などで結構うるさいチェックとか届出がありまして、先生方はご苦労されていると思いますが、その程度の生物の活性と安全性のチェックだけでどうしていけないのかということになると思うんですね。先ほど村上委員が出されたHela(ヒーラ)細胞のような、人間のほかの実験材料や細胞株と同じに、どうしてES細胞も研究者の手にゆだねておいてはいけないのか。それは、やはりES細胞というのは何か特別なものだとお考えになっているからだと思うんです。 
では、ES細胞は特別なものなんでしょうか。人間の胚からつくったものだからでしょう。では、どうして人間の胚からつくったものが特別なのか。やはり、人間の胚というのは何か特別なものとお考えになっているからでしょう。そうであるからこの委員会ができたんだろうと思います。そうすると、なぜ人間の胚は特別なのかという議論をせずには、政策決定の根拠はつくり得ないと思います。 
(石井委員)
私も木勝(ぬで)島委員の意見に二つの意味で賛成です。最初に、木勝(ぬで)島先生がおっしゃったように、この問題はどこの委員会も議論してこなかった。どこかでする必要性がある。ここがいいかどうかは別として、必要があるということが第一です。 
第二に、人の胚を使ってES細胞をつくることをどうするのかという議論もここでしなくてはいけないですし、それをまた人の胚に戻して利用するということも視野の中にはあるのですから、それを認めるか認めないかという議論をするためにも、人の胚をどう考えるかということを抜きにしては議論できないと思います。余りに哲学的な議論である必要性は私はないと思いますが、ここで必要な範囲で胚をどう考えるのかという議論は、避けて通れないと思います。 
(西川委員)
だから、認めるか認めないかという議論は私もやっていった方がいいし、逆に生物学はほんとに危険か危険でないかという問題をもっとオフィシャルに、生物学者も出ていってはっきりと申し上げていくべきだと思います。ただ、どのレベルでこの議論をするのかが重要です。 
そのためにはどんどん公開のフォーラムをやって、ゼネラルなところでやればいいと思うんです。例えば、今問題になっているような技術はマウスでは全部できていますね。多分ほかの動物でもできていますね。委員がおっしゃったように、ヒト胚でやるのは問題があり、しかもヒト胚でやらなければならないという二面性を持っているわけです。ヒト胚でやらなければならないというのは、基本的には人間が自分の例えば治療であるとか、どういう目的があるかわからないけれども、少なくとも人間の目的のためにいろいろなことをやろうということで、はっきり言うと医療・治療の問題が物すごく大事な問題として出てきているからこそ、緊急度の高い研究になっているわけです。 
逆に、常にヒト胚の問題とかいうものは、長い時間経過で考える問題としてあるわけです。だから、ある意味ではどうやって使おうかという問題と切り離して考えるべきです。ただし委員がおっしゃるようにゼネラルに議論するということは大事。それに関しては、科学者の方もそういう形で努力していくということは極めて大事だと思っています。このES委員会では、スペシフィックな問題を中心にしてやったらいいと私は思うんです。決して、これはゼネラルな議論を拒否しているわけではありません。これについては、はっきり言うとこのぐらいのメンバーでは私は駄目だと思います。もっと違うフォーラムを考えていただいてやられたらいいんじゃないですか。 
(岡田委員長)
そろそろ時間が迫ってまいりました。いろいろなご議論をいただきましたが、とにかく次回をどうするかというあたりのところで、これまた事務局と相談してという格好でお許し願いたいと思います。 
今いろいろなご議論があったところで、ESというもので一体何ができるのか、今は本当は無理なんだと、それをSFみたいに言う人もいるというところもあると思いますので、これもマウスをベースにしてまとめてほしいと思うんだけれども、マウスのESで一体現在何ができるようになっているかという具体的なものを今度のときまでにまとめていただいて、それを議論の対象にする、せぬということではなくて、イリュージョンもいっぱいあると思いますので、胚のハンドリングがどうこうというセオレティックが前にあると思うけれども、まずはESという形のものが今どのぐらいの可能性を、現実にできているものと、具体的に可能性があると考えるものと、これは全く可能性がないものとまとめてあると、それをベースにした格好で、またいろいろな話の場がそこではできるということがあって、こっちの方は多分医療関係者という人たちが、人のESというのをどうしてこんなにわいわい言っているかというあたりのことのご理解を得るための条件としては、存在しておってもいいと思うしということで、勝木委員とか。 
(勝木委員)
多分、それは西川委員が一番いいと思います。なぜかといいますと、ES細胞を使っていろいろ分化されていますので。 
(岡田委員長)
相談してもらって。 
(勝木委員)
逃げるわけじゃないですが、お医者様ですし。 
(岡田委員長)
まとめてもらえないでしょうか。そういうのが具体的に一つあった方が、エンブリオのハンドリングがどうこうということも、一つの具体的な流れの中との対応の中で、我々としてどう判断していくかという形にした方が、一般論からいくよりもいいと思いますので、まずそれをお願いできますか。していただくことにして、一度皆さんに見ていただいて、それを踏まえた格好で、もう一度きょうのような議論をやっていただくという形でどうでしょう。事務局の方にまた相談するけれども、そういうことでひとつお願いします。 
この委員会がちゃんと終結するのかどうか、私には余り自信がないんですけれども、第1回の会合をこういうことで終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。