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第1回科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会議事要旨


1.日時    平成10年2月17日(火)14:00〜16:00

2.場所    如水会館「桜の間」

3.出席者

(委 員)
岡田委員長、青木委員、位田委員、勝木委員、菅野(覚)委員、高久委員、武田委員、永井委員、木勝(ぬで)島委員、町野委員、三上委員
(事務局)
科学技術庁 青江研究開発局長 他

4.議題

(1)小委員会の運営について
(2)クローン技術と生命倫理について(自由討論)
(3)今後の審議の方向性について

5.配付資料

資料1−1  クローン小委員会の設置について(クローン小委員会構成員)
資料1−2  生命倫理の論点として考えられる主な事項について
資料1−3  クローン研究の現状について
資料1−4  クローン技術と生命倫理に関する各国の議論について
資料1−5  科学技術生命倫理委員会構成員
資料1−6  生命倫理委員会議事要旨(第1回)
資料1−7  生命倫理委員会議事録(第2回)
資料1−8  ライフサイエンスに関する研究開発基本計画(内閣総理大臣決定)
資料1−9  科学技術会議の概要

参考資料  「大学等におけるクローン研究について(中間報告)」
(学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会)

6.議事

○岡田委員長による開会の発言の後、科学技術庁研究開発局長より、挨拶があった。
○続いて、岡田委員長より、次のような発言があった。

本委員会は、橋本総理の強いご意向もあり、科学技術と社会との接点で生じてくる生命倫理の問題のうち、特にクローンに係る問題について検討するために発足した。文部省では既に、学術審議会において議論がなされ、中間とりまとめがなされているが、これも含め、また、各国の議論も勘案し、本委員会として、極力早く、問題点の整理・検討を行い、親委員会である生命倫理委員会に報告したいと思っている。短期間で検討をお願いすることになるかと思うがよろしくお願いしたい。私自身の事では、細胞融合現象を初めて発表したのが41年前になるが、この技術が今日のような問題にまで利用されるとは思ってもみなかった訳で、ある種の感慨がある。
○事務局から配付資料の説明が行われた後、各委員から自己紹介が行われた。

議題:小委員会の運営について

○岡田委員長より、本委員会の議事の公開について方向性を決めたいので御意見を戴きたい旨、また、本日は、第1回目の委員会であり、会議自体は非公開とし、冒頭のみの撮影を許可したが、2回目以降どのようにするかについて、御意見を戴きたい旨の発言があった。
○事務局より、次のような説明があった。

生命倫理委員会においては、2回にわたり議事の公開について議論が行われ、生命倫理に関する問題は、社会的に非常に関心が高く、何らかの形で公開していくことが重要である一方、生命倫理委員会は、個人の信条にも関わる広範な問題を扱うこともあり、特定の個人名がわかる形で公開とするのもどうかという意見もあり、詳細な議事録は出すが、特定の個人名は出さない形で議事録を公開するということで結論を出した。本日お配りしてある資料6及び7がそれぞれ、第1回及び2回の生命倫理委員会の議事録であるが、ご覧戴ければおわかりの通り、相当細かく御発言戴いた内容を記載している。ただし、発言者の固有名詞は入れておらず、発言内容についても、各委員の再確認を得た上で、公開の手続きを行っている。
○岡田委員長より、生命倫理委員会の議事の公開方法と、本委員会の議事の公開方法について考えてみると、どちらも社会的な関心が非常に高いという点では変わらないと思うが、生命倫理委員会は、非常に幅広い多くの問題を検討する場でもあり、それぞれの委員が違う土俵から御発言されることもあるため、個人名を記さない形での議事録の公開という形をとったと思うが、クローン問題は、土俵が非常にはっきりと決まっており、委員の発言はおそらくその土俵を意識してなされると思うため、会議自体を公開しても差し支えないと思うが、各委員の発言を戴きたい旨の発言があった後、次のような議論があった。

 (高久委員)

私は、厚生科学審議会先端医療技術評価部会に委員として出席しているが、この部会は会議自体を完全に公開している。この部会は、生殖医療等の微妙な問題も扱っており、障害者団体やマスコミ関係の方等も入って戴いて会議を進めているが、何の問題も起こっていない。こうしたことを考えると、本委員会も公開でいいのではないか。
(青木委員)
私は、学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会の委員をしているが、この部会のクローン関係のワーキンググループの会議は会議自体が公開であり、本委員会も公開でいいのではないか。
(木勝島委員)
生命倫理委員会の審議録については、どういう形で公開されているのか。配布先、インターネットの活用状況等について教えて戴きたい。
(事務局)
生命倫理委員会の議事録については、科学技術庁内に行政情報一般の窓口が指定されており、そこで、外部の方が自由に閲覧できるようにしている。また、インターネット上で見られるよう作業中である。
(岡田委員長)
委員会の議事の公開については、次の4通りぐらいが考えられるのではないか。第一は、原則として会議自体を公開とし、公開に支障がある場合は、予め、本委員会の決定により、非公開とする、また、各回の議事概要についても、会議自体を公開しないと決定した場合を除き、公開とする案。第二は、当面、各回の議事概要について、委員名を記載したまま、公開する、ただし、引き続き、本委員会の議論の公開について議論するという案。第三は、第二の案のうち、議事概要については、委員名を匿名とする案。第四は、本日御欠席の委員もおられることから、それらの委員の御意見を伺っておくことも必要かもしれないので、次回の委員会において引き続き議論を行うという案。以上の4つぐらいが考えられるかと思う。只今、高久委員及び青木委員からあった御意見は、第一の案かと思う。私もこのような形で議事の公開を行ってよいのではないかと思うがいかがか。
(木勝島委員)
第一の案というのは、会議自体を公開し、さらに審議録も、委員名を記名して後日活字の形で公開するという理解でよいか。私は、普段は、こうした審議録で審議内容を研究させて戴く立場にあり、各専門分野を代表して出席されている各委員がどのような考えをお持ちかを知る上で、審議録に委員名が記載されていることが大事だと思っている。会議当日の公開はむしろ、マスコミ関係者への公開という要素が大きいため、一般市民への公開という観点からは、審議録に委員名を記名にして戴いて、後日、活字の形で審議の過程が残ることが重要と思う。
(位田委員)
議事を公開することには、大方の賛同が得られるであろうが、問題は公開の仕方かと思う。会議自体を公開とする以上は、会議にどなたが来られても拒まないということになるであろうから、公開の規模をどこまで広げるかは考えておく必要がある。また、会議自体を公開とすれば、発言者の氏名は、外部の方にわかるわけであり、議事録に委員名を記載しないわけにはいかないであろう。議事録の公開の仕方について、インターネットによる公開のほか、どのような公開の方法が考えられるのかを教えて戴きたい。また、会議自体を公開とした場合、マスコミ関係者の方も入られると思うので、マスコミ不信を言うわけではないが、会議内容を正確に報道して戴くよう、会議終了後に事務局からのブリーフィングを実施する等のことをお考え戴ければ、議論する側も議論がしやすいと思う。
(岡田委員長)
議事録の公開については、事務局の方では、現段階でどのような方法を考えているか説明願いたい。
(事務局)
事務局側で考えるには、会議自体の公開といった場合、マスコミ関係者のほか、一般の方々にも入って戴くことになるかと思う。当然、会場という物理的制約もあるとは思うが、公開範囲としては、一般の方も含めることになると思う。事務局としては、こうした審議会で会議自体を公開することには経験もあり、マスコミや一般の方に対して公開しても事務的な意味では対処していけると考える。マスコミの方々に対しては、予め、記者クラブを通して、会議の開催をお知らせし、申し込みを受け付けている。また、一般の方に対しては、インターネットの科学技術庁のホームページ等を通してお知らせし、会場という物理的制約がある場合は、抽選にて、傍聴者を選ばさせて戴いている。これまでのところ問題は生じていない。また、公開の議論をするに際して、委員の先生方の中には、生の発言の片言半句がとらえられて、針小棒大に発言内容が伝えられるのではないか、ということを懸念される方もおられるかとは思う。事務局の経験としては、マスコミ関係者及び委員の方々が双方、この点について、学習されてきているように思う。
(岡田委員長)
インターネットの話が位田委員から出たが、おそらく、本問題に対する社会からの反応を捉える上でも、インターネットの利用は有効かと思うので、インターネットの利用は是非お考え戴きたいと思う。

○以上の議論の後、本委員会としては、原則として会議自体を公開とし、公開に支障がある場合は、予め、本委員会の決定により、非公開とする。また、各回の議事概要についても、会議自体を公開しないと決定した場合を除き、公開することが了承された。

引き続き、本日の議事要旨の取り扱いについて、次のような議論が行われた。

 (岡田委員長)

本日の議事要旨について、委員名を記載するか否かについて、御意見はおありか。
(高久委員)
議事要旨を公開するのか。議事録ならば、委員名の記載について検討する必要があるか、議事要旨であれば、どの程度のものかにもよるが、委員名を記載するほどの分量はないのではないか。
(事務局)
お手元に第一回生命倫理委員会の議事要旨をお配りしてあるが、ご覧戴くとおわかりの通り、これは、ほとんど議事録である。ただ、発言をそのまま記載しているわけではないので、議事要旨と称している。
(武田委員)
生命倫理委員会の議事要旨及び議事録においては、委員長以外、各委員は委員名が記載されていないが、この点に関しては、どのような議論が行われたのか。
(事務局)
生命倫理委員会においても、2回にわたり、議事の公開について議論を行って戴いた。その際の議論で、基本的に、各委員の発言が、個人の信条、価値観に直接触れるものであり、委員会によって、それぞれ、構成メンバーや考え方も異なるため、議事の公開の考え方も異なるであろうが、生命倫理委員会では、議論の中身を詳細に出すことは必要だが、個人名を出すことに対する懸念もあり、無記名となった。しかし、事務局としては、委員会によって議事の公開について考え方が違ってもよいかとは思う。
次回から本委員会の会議自体の公開が決定されたこともあり、本日の議事録も記名で公開させて戴いてはどうかと思うがいかがか。
(高久委員)
議事録を記名で公開する場合には、公開前に内容をチェックさせて戴きたい。
(事務局)
議事録の案をまとめた段階で、各委員に送付し、内容をチェックして戴き、その上で、公開の手続きを進めさせて戴く。

○以上の議論を経て、第1回委員会の議事録については、各委員による内容の確認の後、委員名を記載して公開とすることが了承された。

議題:クローン技術と生命倫理について

○事務局より配付資料の内容について説明が行われた後、次のような議論が行われた。

 (岡田委員長)

クローン問題について、これまでの経緯、今後の問題点等、感じておられることをお話戴きたい。
(勝木委員)
本委員会で論じられるのは主としてヒトクローン個体の作製に関する問題であろうが、実際にこの技術を開発したのは、畜産分野の研究者である。しかし、当該分野だけでなく本技術が与えた基礎生物学・医学に対するインパクトを認識しなくてはいけないと思う。畜産分野で開発された技術は、ほ乳類に対して共通性があるため、ほとんどの技術がヒトに応用可能であると考えてよい。畜産で開発された技術は、細胞周期を合わすなどの手法を用いることで、ヒトに応用できるものが出てくる。これから問題となるのは、クローン技術がヒトに応用できるかどうかということであろうが、こうしたことを考えつつ、議論を進めるべきである。クローン技術のヒトへの応用という問題の検討とは別に、サイエンスはサイエンスとしてきちんと進められるようにすべきである。
私は、学術審議会の関係部会での議論に参加した。そこで感じたのは、クローン技術に係る問題は、それが医療行為であるかどうかということが一つのポイントであるが、医療行為は、治療が一つのターゲットとなるため、クローン臓器の移植やヒトクローン個体作製等を治療とみるかどうかということが問題となる。それを考えるには、治療とは何かという問題にまでさかのぼって論点が存在すると思うが、このような点まで議論するかどうかについては、私自身悩んでいる問題である。いずれにしても、クローン技術はヒトへ応用しうるものであり、安全性の問題もきちんと動物実験等で確認できるという前提で議論すべきである。また、胚や受精卵といった生殖細胞に我々が遺伝子操作を加えてはいけないという考え方があるが、これは、胚や受精卵が個体になるからである。クローン技術を用いることにより、それ以外の体細胞の核を移植すれば、それが個体になるということになると、通常の体細胞と生殖細胞の間に差がなくなるということであり、改めて、その点を加味した議論も必要となる。
(三上委員)
私は畜産分野で研究を行っており、本日は、畜産分野の現状を説明したい。農林水産省においては、昨年、体細胞の核移植を用いたクローンヒツジが生まれてからしばらく、本技術の利用を控えていた。従来から胚由来の細胞のクローン作製は行っていたが、7月28日の科学技術会議の答申を受けて、8月から体細胞を用いた家畜のクローン作製の実験を開始した。おそらく、我々以外のグループでも、実験を行っていると思うが、昨年11月に移植した牛が妊娠しているという状況にある。科学技術会議の答申では、動物に本技術を応用する場合も、情報公開を進めつつ推進すべきとの指摘がなされているため、本年1月20日にこのような情報をマスコミに公表した。
現在、我々のグループで10頭ぐらいが妊娠中であり、これは、核の由来は牛の胎児のものからと耳の細胞からのものであるが、これ以外にも日本全国で、10頭ぐらいが妊娠していると考えられ、全体で、約20頭近くが妊娠していると思われる。今年の8月の末から9月始めに出産予定である。米国においては、マサチューセッツやPPL社でも生まれたという状況にあるが、これは、牛の妊娠期間を考えると、当時の発表直後に実験を開始したと考えられる。日本の場合には、昨年の7月28日以降に実験が開始されたため、本年8月末以降に生まれると予想される。
(武田委員)
ヒトの生殖技術については、これまで、産婦人科学会でも検討してきており、検討結果は、理事会決定ごとに会告として学会誌に掲載しており、さらに毎年8月号にまとめて再掲してきている。体外受精の技術は、技術的に家畜の研究結果を基に応用、改良されてきたものである。これまで、クローンについて、特に、学会として直接議論を行ってはいないが、胚に対する実験や、受精卵の取り扱いについては、学会としては、不妊症の治療に限定して、個体が発生しないという受精後2週間以内を実験に利用してよいという規制をかけている。この規制の対象については、現在のところ不妊症の治療に限定しているが、基礎研究も含めて実験利用が可能となる方向で検討を行っている。最近の検討としては、まだ、会告という形にはなっていないが、受精卵の出生前診断という問題がある。受精卵の遺伝子解析により、Duchenne型筋ジストロフィーの診断を行うことについての検討であるが、現在のところ完全な遺伝子解析が可能という段階ではなく、男性か女性かという診断にとどまってはいるが、どういう方向で議論を進めるかということを学会の倫理委員会で検討中である。これに関しては、市民団体との話し合いも何度か行っているが、市民団体の中でも意見の違いがあり、特に患児の親の会と一般的な市民団体では考え方が違っていた。親の会の方では、遺伝子診断について治療につながるなら是非行ってくださいという意見であった。このような考え方は、クローン技術の適用も関連してくると考えられるため、本委員会で明確にして戴くということが大事だと思う。一方、一般的な市民団体というのは、感覚的にいやだという考え方であった。一般の方々に対する啓発というのも本委員会の役割だと思う。
(木勝島委員)
お手元にお配りしたクローンに関する私の論文及び所見をまとめたメモの最後のページをご覧戴きたい。私は、先端医療を中心に政策研究に携わってきた。生命倫理というと個人の信条や宗教観に関わる問題であるかのように考えられているが、そうではなく、科学技術会議としては、問題点を絞った方がいいのではないかと思う。生命倫理というよりは、研究倫理、リサーチエシックスについて国がどのように関与するかという問題が一番中心になるべきではないか。生命倫理委員会という名前についても、科学技術会議に設置する以上は、英語の名前は、ライフサイエンス・エシックス・コミッティーという方がいいのではないかと思っている。バイオエシックスというのは、アメリカで使われている言葉で、ヨーロッパでは、マスコミで使われることはあっても、行政機関で使われることはない。たとえば、フランスの国家倫理委員会は、生命科学及び医学に関する倫理国家委員会である。科学技術会議でもライフサイエンス及び医学に係わる倫理という方が、生命倫理というよりも対象が明確になるのではないか。お配りした最後のページに図示したように、ドリーの例以来、クローンに少し関心が集中しすぎているが、本来はまず、動物とヒトを対象にした実験研究の公的な管理体制について、議論すべきであると思われる。その点については、去年の3月に科学技術庁から委託を受けて調査研究を行ったが、社会の秩序の兼ね合いにおいて、研究の自由が、何を根拠に制限されうるのかという原則をきちっと議論しておくことが重要であると考える。学術審議会の中間報告書でその辺りは触れられてあるので、それが議論の出発点になるかと思う。その次に、西欧主要国では、ヒトクローン個体作製というのは、生殖関連技術の規制の中の一つの応用問題という枠で議論されてきて、その意味でイギリスやドイツでは議論の基盤が存在していた。それと対極的なのがアメリカで、アメリカでは研究者の自己管理に任せ、国家の関与としては自由主義をとってきており、イギリスやドイツのように生殖技術規制の蓄積がなかったために、クローンのみを対象に特別の立法をしなくてはならない事態となり、かえって議論が紛糾したということがあったかと思う。したがって、日本としても、クローンについて、いきなりこの問題だけを単独にとりあげるのではなく、動物やヒトを対象にした実験研究の管理体制という大枠の中で、次に生殖技術としての位置づけとその管理体制を検討していくという方法がよいと思う。その中で、特に重要なのは、受精卵・配偶子の研究利用をどこまで認めるかという点である。この点について日本産科婦人科学会は会告を出しているが、国がどのように関与するかあるいはしないかというポイントを押さえておかないと、クローン問題だけを議論するのは難しいと思う。逆にヒトの受精卵や配偶子をどこまで研究に使ってよいかについて方針と原則をきちっとしておけば、今後クローン類似の問題が出た時に、その度にそれに対応する小委員会を作るということも必要なくなると思う。こうした枠組みの中でクローン研究・臨床の是非について、特に、個体作製だけでなく、アメリカやフランスでも議論になっている胚性幹細胞(ES細胞)株を用いた特定の臓器や組織の培養の是非についても、議論するべきではないか。フランスでは、ヒトの受精卵を割る研究利用は禁止しているが、国家倫理諮問委員会は去年、ES細胞の研究利用だけは、例外として認めていくべきであるとして、生命倫理法の一部について改正を提案した。先ほどの資料1−4の中のイギリスの規制法律の英文抜粋の中で、体細胞由来の核を受精卵細胞に移植することを法律で明確に禁止している。ここでは、その記載がないので、確認したいと思うが、イギリスでの争点は、未受精卵が核移植を受けることを明示して禁止していないので、法改正を行って明示的に禁止すべきかどうかという点である。イギリスでは目下、この法律により規定されている専門の審査機関とヒト遺伝学諮問委員会が合同でパブリック・コンサルテーション・プロセスというものを開始した。このプロセスは、政府機関が一定の問題について、バックグラウンドと諮問事項を簡単な小冊子にして、関心のある人に配り3ヶ月後ぐらいに意見を戻してもらい、政府としての検討に役立てるというものである。今まで、中絶胎児の卵巣組織を使っていいかどうかという問題について、このプロセスが行われたことがある。ヒトクローンに関する研究について1月29日付で、このプロセスが始まっており、そのようなプロセスを経て、秋までには何らかの考え方が示されるのではないかと思う。
(位田委員)
私はユネスコの国際生命倫理委員会の委員をやっており、ユネスコのヒトゲノムと人権に関する世界宣言の草案作成に係わってきた。その関係で本委員会に参加させて戴いているのではないかと思う。今、何を議論するかという問題があるかと思うが、これまでの議論を聴いていて、私がよくわからないのは、本委員会で何を最終的な目標にして議論をしていくのかということであり、本小委員会のマンデートが不明確になっているのではないかと思う。最終的に政府の立法措置に結び付けるような議論を行うのか、それとも問題点を整理して終わるのかということを明確にすべきである。クローンの問題そのものについては、先ほど事務局から配付資料を説明して戴いたことからも考えられるが、クローンというのはいったいどこからどこまでの部分を我々は議論するべきなのか、本委員会で議論するクローンの定義をまずはっきりさせるべきであろう。それと並んで、クローン技術によるヒトクローン個体作製は禁止すべきであるというのが、おそらくどの国でもそうであろうし、一般的合意もあるかと思うが、問題は、そこを越えて臓器又は組織のクローンがいいのかどうかということが現実的な問題となるのではないかと思う。また、この問題は研究と応用、具体的な治療が密接に関連しており、研究だけを議論していて本当にいいのかということを感じている。検討の主な対象が研究だとしても、治療の問題も念頭におきながら、議論をフレキシブルに進めないと結論を出すのが難しいのではないかと思う。こうした個別の問題はあると思うが、基本的には、私は、バイオテクノロジーのヒトへの応用について基本方針を本来であれば、政府が定めるべきであろうし、日本が、バイオテクノロジーについてどのような立場をとるかということは、この小委員会で議論を始めて、上の委員会、政府レベルまで議論が進めばいいのではないかと考えている。また、生命倫理というのは、主観的な価値観が係わってくるような気がしている。欧州評議会の条約の正式な名称は、生物学及び医学の応用に関する人権と人の尊厳の保護に関する条約であり、ヨーロッパでは、人権や人間の尊厳というある意味で客観的な価値を軸に議論しているように思われるし、生命倫理というよりは人権の保護、人間の尊厳の保護という観点から施策又は立法を行っているのではないかと思われる。また、本問題は、異種間の臓器移植に影響があるように思われる。昨年の10月の末にWHOで異種間移植に関する国際コンサルテーションがあり、私も出席した。アメリカやイギリスでは、この議論が進んでおり、クローンが単にヒトクローン個体の作製ではなく、ヒトの遺伝子を入れて、具体的にはブタを念頭においているが、ヒト型化した動物の臓器を作るといった技術に進んでいくということも考えられるため、この点を視野に入れて議論を進めてはどうかという印象を持っている。
(菅野(覚)委員)
私は倫理学を専門にしているが、いわゆる生命倫理ではなく、一般の倫理学、具体的には、日本の倫理思想を研究している。生命倫理は加藤先生が専門かと思うが、一言お話させて戴きたい。少し乱暴なことを申し上げると、資料1−2に「クローン技術の有用性と倫理性の相克」というタイトルがついているが、「相克」が事実であるならば、クローン技術というのは、倫理的でないということになってしまう。倫理性というのは、人間として究極的に守らなくてはならないこと、人間の人間たる本質ということであるから、相克してしまったら、これは、文句なくだめかと思う。また「倫理性」については、倫理について一番大切なことが抜けているような気がする。例えば、「ヒト個体を生み出すことは」とあるが、クローン技術によりヒト個体を作製することは、「生み出す」ことなのだろうか。私は科学のことはよくわからないが、「作って」いるような気がする。しかも作っているのは、科学的にはヒト個体というであろうが、倫理学では、普通の人間の生活を考えるのであり、普通の人の立場からすれば、私とかあなたとか同じ人間を作っていることになる。その人間は悩んだり苦しんだりといった人生全部を含めて人間である。そのような人間を「作る」というのであれば、作ることが出来るものは壊せるものということであるから、人は壊せないものであるとすると、だめに決まっているということになる。親が生むと言うことと、作ると言うことはそこが違うのではないか。親はとれない責任をとる。それが親である。クローン技術に介入した技術者は、親なのか、責任をとれる者なのかといった問題もよくわからない。クローンで人が生まれるというのはまだ夢物語なのかもしれないが、私は基本的立場として、人間を作るという発想につながることは倫理に反すると考えている。
(岡田委員長)
位田委員の質問の中で一番目の質問について事務局から御説明戴きたい。
(事務局)
本委員会は、単に問題を整理して戴くということではなく、行政施策に一つの方向性を与えて戴ければと考えている。例えば、クローン技術を規制する、これは行政行為であり、その最後の規制に関しては、行政が一定の判断を下して責任をとらなくてはいけないであろうが、その意志決定が行えるだけの方向性をお示し戴ければと思っている。
(岡田委員長)
本委員会の第一義的なものとしては、今、事務局の説明があったようなことを踏まえて議論を進めていきたいと思う。
(高久委員)
私は、文部省のバイオサイエンス部会の中間報告に関する審議に関与し、基本的には、この中間報告の内容に賛成しているが、今後議論するとすれば、永久に禁止するのか、又は技術がある一定のレベルに達し、安全性等が高まったときに禁止を解くのかという問題が重要なのではないか。当面禁止するというのは、皆異存がないと思う。
(岡田委員長)
本日は、いろいろ議論があったかと思うが、次回以降は、本日戴いた御意見も踏まえ、論点を整理し、議論を積み重ねたいと思う。次回は、クローン技術の現状を科学的に評価して戴いて、全委員の共通認識をもつという作業を行ってはどうかと思う。そのような観点からクローン技術の生物学的側面について勝木委員、動物への応用について三上委員、医療としての可能性について武田委員にお話し戴けないであろうか。論点ごとの議論としては、次回私の方で論点を整理した資料を次回お示しし、順次検討をしていきたい。

○次回は、勝木委員、三上委員、武田委員からそれぞれ、クローン技術の生物学的側面、動物への応用、医療としての可能性について、お話し戴くことが了承された。
○次回委員会は、3月9日13時から銀座ラフィナート(京橋会館)にて開催することとし、閉会した。