戻る

脳に関する研究開発についての長期的な考え方

平成9年5月28日
科学技術会議
ライフサイエンス部会
脳科学委員会


目    次

1.研究開発を巡る状況
(1)意義、重要性
(2)研究開発の進展状況
(3)国際的動向
(4)我が国の研究開発体制

2.研究開発推進の考え方
(1)研究開発推進の基本的考え方
     1)自由発想型基礎研究の推進
     2)目標達成型研究開発の推進
(2)目標達成型研究開発における戦略目標の設定
     1)脳を知る
     2)脳を守る
     3)脳を創る
(3)研究開発の推進方策
     1)研究推進体制の整備
     2)研究開発基盤の整備
     3)人材の養成、確保
     4)研究費の充実
     5)研究の評価
     6)国際交流、協力の促進
     7)人間社会との調和

科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会

(別紙)戦略目標タイムテーブル



1.研究開発を巡る状況

(1)意義、重要性

  脳に関する研究開発は、科学的に大きな価値を持つばかりでなく、社会的、経済的にも大きな成果が期待される課題であり、科学技術創造立国を目指す我が国においては、国として積極的に推進すべき重要課題である。

1)科学的意義
  人間が他の生物と本質的に異なる点は、高次の精神機能である心を持つことである。従って、認知、記憶、思考、感情、意志等の心の働きを生み出す脳こそ、人間の本質をなす器官ととらえるべきであり、その意味で脳に関する研究開発は真に人間を理解するための基礎となるものである。
  複雑かつ高度なシステムである脳は、21世紀の自然科学に残された最大の未知領域の一つであり、脳の高次機能に関しては、今後、多くの画期的な発見が行われ、科学そのものの枠組みを変える可能性を秘めている。脳に関する研究開発は、心の理解や人類進化の理解の拡大につながる自然科学的価値の高い成果を生み出すのみならず、その成果に基づき心理学、認知科学、さらには、社会学、倫理学等の人文・社会科学も、新たに展開される可能性を秘めている。
  このように、脳に関する研究開発は、自然科学的に重要な意義があるのみならず、人文・社会科学的にも価値を有する重要な課題である。

2)社会的、経済的意義
  社会の高齢化が進む中で、神経・精神疾患は次第に増加して、社会生活に計り知れない影響を与えているが、脳に関する研究開発を進めることにより、脳の発達障害・老化の制御や、アルツハイマー病、パーキンソン病、精神分裂病、躁うつ病、各種依存症など神経・精神疾患の病因解明、治療・予防法の開発や障害の人工的代替法の開発が可能となり、医療・福祉の向上に貢献することができる。
  また、近年の激しい国際経済競争の中で、我が国における経済フロンティアを拡大し、新産業を創出することが求められているが、脳に関する研究開発を進めることにより、脳の情報処理メカニズムを応用した、新たな原理による情報処理システムや情報通信システムの開発等が可能となり、それらの新技術に基づく新産業の創出を通じて、社会・経済の発展に貢献することができる。
  さらに、最近の社会生活の各種ストレスの増加に伴って、不眠症、心身症、神経症などの障害が深刻な問題となっているが、社会や文化との関連を含め脳の機能を理解することにより、これらストレスへの適切な対処法の確立や育児・教育への適切な助言が可能となり、また、脳の情報処理システムを理解しておくことにより、将来きたるべき情報化社会において、人間が使い易くなじみ易い技術体系を創ることが可能となり、それらを通じて、社会生活の質の向上に貢献することができる。

(2)研究開発の進展状況

  脳に関する研究開発は、近年、分子生物学などの基礎科学の急速な進歩や高度な実験動物の作成技術、計測・分析技術等に関するブレークスルーにより、めざましい進歩を遂げつつある。
  まず、遺伝子工学、細胞生物学等の進展により、神経細胞の細胞間、細胞内の情報伝達に関与する多くの物質や受容体が同定され、その動態や機能的役割が解明されるなど、分子レベル、細胞レベルでの脳に関する研究が進み、モデル動物系を用いた実験技術や微小電極法や実時間光計測法等の工学的技術の進歩もあり、脳の構造と機能に関するシステムレベルでの理解が進んでいる。
  また、陽電子放射断層法(PET:positron emission tomography)、磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)などの非侵襲計測・画像化技術が進歩し、ヒトや動物の脳の構造や活動状態の詳細な観察が可能となってきた。
  さらに、脳の疾患について、非侵襲計測技術等を用いた診断技術や遺伝子の解析研究が進み、遺伝子が関係する脳の疾患の発症メカニズムの解明が進んでいる。また、種々の心理的、社会的要因が関与する心の疾患についても神経生物学的、認知科学的な研究が進みつつある。
  これらに加え、情報科学等の進展もあり、脳の機能を理論モデル化して解明しようとする脳の計算論的・構成論的研究が可能となりつつあり、また、神経細胞とシナプスに関する知見の集積により、神経回路のデバイス化、集積化の研究が進みつつある。

(3)国際的動向

  脳に関する研究開発の持つ科学的、社会的、経済的な意義の大きさを踏まえ、米国においては、1990年代を「Decade of the Brain (脳の10年)」と定め、また、欧州においても、米国の動きに呼応して「欧州−脳の10年」を宣言するなど、欧米各国は、脳に関する研究開発に積極的に取り組んでいる。
  特に、米国においては、神経・精神疾患の病因解明と治療法の開発などを目標に、国立衛生研究所(NIH)を中心に多額の研究資金を投入し、大規模な研究開発が推進されており、これに伴い、研究者数も、若手研究者を中心に飛躍的に増加してきている。
  脳に関する研究開発が、医学、生物学、物理化学、工学や心理学など多くの分野を横断する総合科学となってきていることを踏まえて、専門分野を横断して総合的かつ大規模に研究開発に取り組むことが、最近の脳に関する研究開発への取り組みの特徴となっている。

(4)我が国の研究開発体制

  これに対し、我が国の脳に関する研究開発への取り組み体制は、従来は、個別の分野において小規模に分散して研究開発が行われ、先端的研究機器の整備、実験動物などの研究材料の開発・供給及び研究情報の流通など研究開発基盤の整備も不十分であるなど、幅広い分野の力を結集した総合的な研究開発の推進がなされてこなかった。
  このような状況に対して、日本学術会議(平成8年4月の「脳科学研究の推進について」の勧告)、科学技術庁(平成8年7月の「脳科学の時代」の報告書)、文部省の学術審議会(平成9年3月の「大学等における脳研究の推進について」の報告書)は、それぞれ、その勧告や報告書において、省庁の壁を超えた推進体制及び産学官の研究開発機関が連携して取り組む体制の整備、関係諸分野を横断した共同研究推進のための体制の構築、研究支援基盤の充実や人材養成等が必要である旨を指摘した。

  これらを踏まえ、科学技術会議は、平成9年4月、我が国の脳に関する研究開発を推進するための基本的な方針を示し、関係省庁、関係機関の有機的な連携による脳に関する研究開発の総合的、計画的な推進を図るための組織として、脳科学の各専門分野の代表者及び人文・社会科学分野の代表者等から構成される脳科学委員会を設置した。同時に、関係省庁の連携体制を強化するための連絡・調整等を行う組織として、関係省庁で構成される脳科学研究推進関係省庁連絡会が設置された。
  また、脳に関する研究開発に大規模に取り組む脳科学総合研究センターが平成9年10月に発足する予定であり、科学技術振興調整費による目標達成型脳科学研究推進制度の創設や競争的資金等による各種の特徴ある研究開発推進制度の整備も進みつつある。
  これらにより、国として総合的に脳に関する研究開発を推進する体制が整備されつつある。

2.研究開発推進の考え方

(1)研究開発推進の基本的考え方

  脳に関する研究開発は、科学的のみならず、社会的、経済的にも大きな意義を持ち、国として総合的に推進すべき重要課題であることから、産学官の多くの研究開発機関及び幅広い分野の研究者のポテンシャルを糾合して取り組む必要がある。
  このため、脳に関する研究開発の推進に当たっては、研究開発の進展状況を分析し、国際的な動向も踏まえつつ、効果的に推進することが必要であり、そのために、本委員会が作成するこの長期的な考え方及び本考え方の具体化のための年度毎の重点指針に基づき、研究が進められることが必要である。なお、本考え方については、研究開発の進展状況等を踏まえて、適時に所要の見直しを行うこととする。

  脳に関する研究開発は、研究開発の進展により、豊かな社会の実現に向けての様々な成果を生み出すことが見通せる段階に至っているが、一方では、複雑かつ高度な器官である脳については、未知の領域も多く存在し、21世紀に向けて、現在想定されていないような画期的な発見が行われる可能性も多く存在している。
  このような状況を踏まえると、脳に関する研究開発を効果的に推進していくためには、研究者の自由な発想に基づき、全く新しい知見や技術を生み出していく自由発想型の基礎研究と、研究の目標を定め、それに向かって研究努力を集中していく目標達成型の研究開発とを、相補いつつ同時に推進していくことが重要である。
  なお、如何なる脳に関する研究開発の推進に当たっても、脳が高次な精神機能を生み出す人間の本質をなす器官であること、脳の働きについて未だ未知なる部分が多く残されていること等を踏まえて、生命に対する最大限の敬意を払いつつ謙虚に進める必要がある。

1)自由発想型基礎研究の推進

  自由発想型基礎研究は、研究者の自由で独創的な発想に基づき、新知見や新技術を創造し、また、幅広い分野に新しい方法論を提供することにより、脳に関する研究開発全体の研究開発レベルを高めるとともに、それにより目標達成を確実にしたり目標の達成時期を早めるなど、目標達成型研究を支える基盤ともなるものであり、幅広く推進することが重要である。

2)目標達成型研究開発の推進

  目標達成型の研究開発は、これまでの基礎研究の成果の蓄積により、脳に関する研究開発の長期的な達成点が見通せる段階となったことを踏まえ、一定の達成目標を設定し、その実現を目指して計画的に研究努力を集中することにより、科学的にも、社会的、経済的にも有意義な多くの研究成果の生産を促進しようというものである。
  目標達成型研究開発は、研究開発領域を、性格に応じて、脳の機能の解明を目指す「脳を知る」、脳の発達障害・老化の制御や神経・精神疾患の治療と予防等を目指す「脳を守る」、革新的な情報処理システムや情報通信システム等を生み出すことを目指す「脳を創る」の3領域に分けたうえで、それぞれに達成目標を設定して、その目標達成を目指して研究開発を推進することが適切である。

(2)目標達成型研究開発における戦略目標の設定

  目標達成型研究開発においては、現在までの研究成果の蓄積を踏まえて、将来の達成点が見通せる20年間を期間として、その間に多くの具体的成果を生み出す潜在性を持つ課題を「脳を知る」「脳を守る」「脳を創る」の3領域において特定し、戦略目標として設定する。
  この際、達成に至る途中段階の目標も設定することが、研究開発の推進にとって効果的であると考えられる戦略目標については、それら戦略目標に至る具体的過程を示す中間目標を併せて設定する。

1)脳を知る

  分子生物学、細胞生物学等の進展を踏まえ、分子レベル、細胞レベルでの脳の発生分化機構、神経回路網構築機構の研究を進めるとともに、記憶、学習、感覚、認知、運動、情動、行動、生体リズム、言語、注意、思考、意識等の脳の高次機能のメカニズムを明らかにし、脳の生得的な仕組みに、生後の社会的、文化的な環境要因が積み重なって形成される人間の心の理解を目指すこととする。
  具体的には、本領域においては、「脳の働きの解明」を目指し、1)知情意の脳の構造と機能の解明、及び、2)コミュニケーションの脳機能の解明、を戦略的に取り組むべき分野とし、別紙の戦略目標タイムテーブルのとおり戦略目標を設定する。

2)脳を守る

  非侵襲計測技術等を用いた診断・機能解析技術や遺伝子の解析研究等の進展により、遺伝子が関与する脳疾患をはじめとして各種脳疾患の病態の解明等が進んでいることを踏まえ、脳の発達のメカニズムや老化のメカニズムの解明とその制御法の開発、アルツハイマー病、パーキンソン病、精神分裂病、躁うつ病、各種依存症等の多くの神経・精神疾患の病因の解明とその治療法、予防法の開発を目指すこととする。
  具体的には、本領域においては、「脳の病気の克服」を目指し、1)脳の発達障害と老化の制御、及び、2)神経・精神障害の修復と予防、を戦略的に取り組むべき分野とし、別紙の戦略目標タイムテーブルのとおり戦略目標を設定する。

3)脳を創る

  分子生物学や情報科学等の進展により、脳の中では、膨大な数の神経細胞が相互に結合して神経回路網を形成して、高度な情報処理ネットワークとシステムを構成していることが理解されつつあることを踏まえ、脳の機能を理論モデル化して解明しようとする脳の計算論的・構成論的研究、新しい原理や材料を用いた神経回路のデバイス化、集積化の技術開発等を通して、現在のコンピュータとは異なる原理を用いた脳型の情報処理技術や不可測環境に適応する革新的な情報通信システム技術の開発を目指すこととする。
  具体的には、本領域においては、「脳型コンピュータの開発」を目指し、1)脳型デバイス・アーキテクチャの開発、及び、2)脳型情報生成処理ネットワークとシステムの設計と開発、を戦略的に取り組むべき分野とし、別紙の戦略目標タイムテーブルのとおり戦略目標を設定する。

(3)研究開発の推進方策

1)研究推進体制の整備

  我が国の脳に関する研究開発の効果的な推進を図るための体制に関しては、脳科学委員会及び脳科学研究推進関係省庁連絡会の調整の下、以下の考え方に立って体制整備を進めることが重要である。
○研究拠点の構築
  幅広い分野の研究開発を集中的に推進するとともに、研究開発の基盤となる先端的技術、研究情報や研究材料等の開発・整備も併せて行い、我が国の脳に関する研究開発を総合的に牽引する役割を果たす機関として平成9年10月に設置される脳科学総合研究センターについては、今後とも整備・充実を図る。
  また、脳に関する研究開発の特定の分野において、高度の研究ポテンシャル、設備、人材等を有している研究開発機関については、卓越した研究拠点としての重点的な整備・充実を図る。
  また、大学や大学共同利用機関については、特色ある施設・設備等を共同利用しつつ研究を推進するなど、共同研究の拠点の整備を図る。
  さらに、これら研究拠点を結ぶ拠点間ネットワークを構築し、相互の共同研究や人材交流など、有機的かつ柔軟な連携・協力を推進する。
○産学官及び関係省庁間の連携・協力の推進
  近年の脳に関する研究開発の総合的な展開の様相を踏まえ、今後、確実に成果を上げていくためには、産学官の枠、省庁の枠を超えて研究開発機関等がそれぞれの研究ポテンシャルを生かしつつ連携・協力を図っていくことが重要であり、このため、目標達成型脳科学研究推進制度の活用等により、産学官及び関係省庁間の連携・協力の推進を図る。
○研究者のネットワークの構築
  脳に関する研究開発では、異分野の研究者間の共同研究等の交流を通して専門分野にとらわれない幅広い発想を生み出すことが重要であることから、専門分野の枠を超えた共同研究を重視し、研究者の必要に応じたネットワーク化を積極的に支援する。

2)研究開発基盤の整備

○先端的技術の開発、先端的機器の共同利用体制の整備
  近年の脳に関する研究開発の進展は、最新の理工学技術を駆使した陽電子放射断層法(PET)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI:functional magnetic reson-ance imaging)、脳磁場計測法(MEG:magnetoencephalography)等の先端的な計測・分析技術等に大きく依存しており、今後とも、研究開発の推進に不可欠な研究開発基盤として、先端的技術・機器の開発、高度化を進めるとともに、これら先端的機器の共同利用体制の整備を図る。
○研究情報の基盤の整備
  脳機能局在の計測データ、脳の特定の機能に関係する遺伝子のDNA塩基配列データ等の研究情報は、幅広く研究者間で共有されることにより大きな効果を発揮することから、これら研究情報のデータベース化を進めるとともに、研究開発機関、研究者間において、さらには国際的にも、幅広く利用可能となるような情報交流体制の整備・充実を図る。
○研究材料の開発、供給体制の整備
  研究に適したトランスジェニック、ノックアウトマウス等の遺伝子操作動物や霊長類をはじめとした実験動物、細胞組織等の研究材料についても脳に関する研究開発の貴重な基盤となるものであり、これら研究材料の開発、保存、供給等の体制の整備・充実を図る。

3)人材の養成、確保

○人材養成体制の整備、充実
  脳に関する研究開発は、分野を横断する研究への取り組みが重要であり、研究者の養成においては、専門分野を超えた幅広い資質と能力を養うことが必要である。このため、大学等においては、関連学部の学科、講座や大学院の研究科、専攻等の教育研究体制の整備を図るとともに、幅広い分野からの学生の受入れ、関連研究組織との有機的な連携・協力を推進する。
  また、大学だけでなく、国立研究開発機関や民間研究開発機関等が連携して、セミナーやワークショップを計画的に開催することにより、多くの研究者等が、専門分野を超えて専門的知識や技術の相互の習得を図る機会の拡大を図る。
○若手研究者の養成、確保
  脳に関する研究開発の飛躍的発展には、独創性に富む若手研究者の力が必要であり、若手研究者及び研究者を志す者に、その能力を十分に発揮できる機会と経済的保証を与えることが重要である。特に、優れた若手研究者が自由に研究課題、研究指導者、研究場所を選んで研究に専念できるようにするフェローシップ制度は、幅広い資質・能力を必要とする脳研究の研究者を養成する上でも大きな効果が期待され、その充実を図る。
○研究支援者の養成、確保
  我が国においては、研究補助者、技術者などの研究支援者が不足しているが、脳に関する研究開発では、特に、モデル動物の開発、飼育、供給や先端的研究機器の保守、利用など、研究支援者の能力に負うところが多い。このため、高度な能力を持つ技術者を養成していくとともに、これら要員の確保に努めるなど、適切な措置を講ずる。

4)研究費の充実

  脳に関する研究開発の重要性、発展性についての国際的な認識が高まる中、例えば、米国では、国立衛生研究所(NIH)関係だけで年間1千億円以上の研究費を脳に関する研究開発に投入している状況にある。
  このような状況を踏まえると、我が国が激化しつつある国際的な研究開発競争の中で、国際水準の研究開発を推進し、今後の飛躍的展開を図るため、多様な研究開発を効果的に推進しうる競争的資金や基盤的資金等多元的な研究費の充実が必要である。

5)研究の評価

  脳に関する研究開発は、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」の策定を受けて、それぞれの推進体制、推進制度等において厳密な研究評価を行いつつ推進することが必要である。
  このため、各研究開発機関等において、外部評価の実施を含む厳密かつ効率的な評価を行うとともに、本考え方に関しても、脳科学委員会において、その実施状況を踏まえて定期的に評価を行い、その結果に基づき適時に見直しを行っていく。

6)国際交流、協力の促進

  脳に関する研究開発は、科学的に人類の共通的資産を生み出すとともに、社会・経済的にも人類社会が抱えている共通的問題を克服するための重要課題であり、そのためには、国際交流、協力が不可欠である。また、我が国の研究開発水準を高めるうえでも国際的な研究情報や研究動向等の交流が重要となる。
  このため、国内外で開催されるシンポジウム、ワークショップ等への研究者の派遣や招聘を積極的に推進するとともに、国際社会の一員として、我が国の脳に関する研究開発の成果を世界へ発信していく。

7)人間社会との調和

  脳に関する研究開発は、精神を司る脳を対象とすることから、他の研究開発分野以上に、人間社会との調和が重要である。
○研究成果の公開
  研究開発の推進に当たっては、公開の成果報告会の開催、広報の実施、脳に関する展示等の普及・啓発を通じて、研究開発の成果をわかりやすく説明し、社会の理解を得ることが重要である。
○倫理面の配慮
  脳に関する研究開発は、今後の研究開発の進展に伴い、人間の尊厳や倫理に関わる問題を生ずる可能性を内包していることから、今後、自然科学の観点だけでなく、研究開発がもたらす社会的、倫理的影響等に関する人文・社会科学的な観点からの検討をも十分に行いつつ推進していく必要がある。

(別紙)戦略目標タイムテーブル


科学技術会議ライフサイエンス部会脳科学委員会

(委員長)    伊藤  正男    日本学術会議会長
(委  員)    甘利  俊一    理化学研究所国際フロンティア研究システムグループディレクター
      大石  道夫    工業技術院生命工学工業技術研究所長
      金澤  一郎    東京大学医学部附属病院長
      杉田  秀夫    国立精神・神経センター総長
      関本  忠弘    日本電気(株)取締役会長
      融    道男    東京医科歯科大学医学部教授
      外山  敬介    京都府立医科大学医学部教授
      中西  重忠    京都大学大学院医学研究科教授
      松本    元    工業技術院電子技術総合研究所客員研究員
      村上陽一郎    国際基督教大学教養学部教授
      柳田  敏雄    大阪大学医学部教授
      養老  孟司    北里大学一般教育総合センター教授