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3.国内における自然放射性物質の利用実態
3.1    概要
   UNSCEAR 2000年報告書及びRP-122には、自然放射性物質を含む鉱物等について放射能レベルの情報が記載されている。
   RP-122によると、もともと放射能濃度がBSS免除レベルを超える可能性のあるものだけでなく、放射能濃度が低いものについても、有用物質を抽出する過程で生じる残渣や副産物において、意図せずにウラン及びトリウムの比率が高まることが示されており、結果として濃度がBSS免除レベルを超えることもあると考えられる。また、これらの鉱物等が、化学的・物理的に処理されて一般消費財(製品)として生活環境に数多く存在している。
   このため、自然放射性物質を含むものを取扱う作業及び一般消費財について文部科学省原子力安全課(原子力規制室及び放射線規制室)により調査が行われた。なお、この調査は規制免除の方針を検討するための基礎資料を作成する目的で行われたものである。

3.2    利用実態
    3.2.1    産業利用
(1) 概要
   資源小国である我が国は、産業活動で使用する原材料を海外からの輸入に依存しており、多いものでは年間1億トンを超える量が輸入されている。また、これらの産業活動には長い歴史がある。
   実態調査は、産業利用されている鉱石類のうち、比較的自然放射性物質の濃度が高いと思われるモナザイト、リン鉱石、チタン鉱石、バストネサイト、ジルコン及び輸入量が多い石炭並びに金属単体としての濃度がBSS免除レベルを超える酸化サマリウムを対象とした。
   空間放射線量率は、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータeを用いて測定した。また、放射能濃度は、採取した試料のウラン、トリウム及びサマリウムの含有率を、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP‐MS)eを用いて測定し、それぞれの核種の比放射能を乗じることによりU-238、Th-232及びSm-147について求めた。ウラン及びトリウムを含むものからの被ばく線量は、空間放射線量率等から、サマリウムを含むものからの被ばく線量は、空気中放射能濃度等からそれぞれ算出した。

(2) 調査結果
1    調査の結果、原料鉱石の放射能濃度で、仮に、Th-232系列核種及びU-238系列核種のBSS免除レベルである 1 Bq/g(それぞれTh-232、U-238として)やRP-122の0.5 Bq/gを目安値とすると、この値を超えるものがモナザイト、リン鉱石、ジルコン及びバストネサイトの工場から採取した試料で確認された。リン鉱石はヨルダン産、モロッコ産のものだけが目安値を超えていた。このことは、産出国により放射能濃度に違いがあることを示している。また、モナザイト、ジルコン及びバストネサイトは、化学処理を行わないため原料の化学的成分が変化せずにそのまま、あるいは他の物質と混合され、製品となって市場に出回る。なお、各鉱石とも工程の過程で発生する廃棄物は、産業廃棄物として処理されるが、工程中で希釈されることにより、目安値を超えるものは確認されなかった。
   空間放射線量率の測定の結果、原料鉱石の放射能濃度が低いものでも、工程中に缶石(scale)f等が付着し、対象物から1 m離れた位置で数μSv/時のような比較的高い空間放射線量率を示す場合があった。しかし、作業者の年間外部被ばく線量は、実際の作業時間を考慮すると、最大でもバストネサイトの製品置場での作業における約0.40 mSv/年である。なお、原料粉等の粉末状物質を取り扱う作業においては、作業員は粉塵対策のためマスクを着用していることから、粉塵の吸入は少ないものと推定される。また、敷地境界の空間放射線量率は、全国の自然放射線量率0.004〜0.11 μSv/時(宇宙線を除く)と同程度であり、一般公衆については、安全上特に問題はないと考えられる。
2    酸化サマリウムは、中国、フランス等から年間100トン前後輸入されている。一部がセラミックス材料に加工されており、残りは金属にされコバルトなどと合金を作り、磁石の原料となっている。磁石は、様々な分野で利用されている。サマリウムには、α線のみを放出する自然放射性核種であるSm-147が含まれているため、内部被ばくを考慮する必要がある。合金及び磁石の生産工程中、粉砕及び焼結等の粉塵が発生する工程がある。そこで、各工程における作業場所の空気中濃度を測定し、サマリウムによる実効線量を算出した結果、粉塵の粒子径が1〜50μmの間では、呼吸率1.2 m3/時、年間作業時間2,000時間とした場合、年間約10〜380μSvであった。これは、保守的な仮定により算出したものであり、マスクの着用(マスクの防護係数:10)5、実際の作業時間等を考慮した評価を行えば、さらに低い線量となる。これらの理由により年間1 mSvを超えることはないと思われる。
3    ウラン、トリウムを含む鉱石の利用実態の調査結果を表2-1に示す。この表に記載したモナザイトは、核原料物質として核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)で規制の対象となっている。また、サマリウムの利用実態と被ばく評価結果を表2-2に示す。
   なお、各工場では、過去に原料等の核種分析を実施した経験を有するものもあったが、チタン鉱石を除き、自然放射性物質が含まれるということを前提とした設備対応や継続的な分析は実施されていない。

表2−1   ウラン、トリウムを含む鉱石の利用実態の調査結果
鉱物名 年間輸入量(産出国) 製品
(副産物)
工程 核種分析*4濃度(Bq/g) 空間放射線量率*5
(μSv/時)
被ばく線量評価
(mSv/年)
試料名 U-238 Th-232
モナザイト 過去に約数十トン(ベトナム、マレーシア) 温泉浴素、塗料 砂状のモナザイトを粉砕処理し、健康用品、塗料及び温泉浴素の原料に使用 モナザイト 40
程度
300*6
程度
モナザイト倉庫 表面:100
(Th濃度7%)
0.3(製品製造場所での作業)
(年間作業時間:約360時間、作業場所放射線量率*7:0.75μSv/時)
製品製造場所 1m:0.8
リン鉱石 約90万トン
(中国、モロッコ、ヨルダン、南アフリカ等)
リン安(石膏・蛍石・珪弗化ソーダ) リン鉱石に硫酸を加えて分解して、リン酸と石膏を得る。このリン酸にアンモニアを反応させてリン安(リン酸アンモニウム)を製造 リン鉱石
(ヨルダン産)
0.74 0.0078 リン鉱石倉庫 表面:0.32〜0.46
1m:0.19〜0.22
0.28(リン鉱石倉庫での作業)
(年間作業時間:約1600時間、作業場所放射線量率*7:0.18μSv/時)
リン鉱石
(モロッコ産)
1.2 0.0084
リン鉱石貯蔵庫 床表面:0.26
1m:0.17
リン鉱石
(中国産)
0.10 0.0019
リン酸液工場内タンク 表面:4.6
濃縮リン酸 0.8 0.0038 製品倉庫 表面:0.05
1m:0.05
リン安 0.73 0.0044
チタン鉱石 約40万トン(南アフリカ、インド、ベトナム、オーストラリア、カナダ等) 酸化チタン(石膏・酸化鉄) チタン鉱石に硫酸を加えて分解し、この後、静置、濾過、焼成、乾燥等の工程を経て酸化チタンを製造 チタン鉱石
(南アフリカ産)
0.074
〜0.44
0.13〜
0.16
原料鉱石置場
(南アフリカ産)
表面:0.20〜0.40
1m:0.15〜0.25
0.27(鉱石置場での作業)
(年間作業時間:約1400時間、作業場所放射線量率*7:0.19μSv/時)
酸化チタン製品 0.018 0.0013 静置タンク 表面:0.30
1m:0.15
産業廃棄物 0.21 0.23 産業廃棄物置場 表面:0.30
1m:0.15
バストネサイト 約2千〜3千トン(アメリカ) 研磨材 バストネサイトを湿式の粉砕機で粉砕し、この後、濾過、乾燥、焙焼、粉砕、分級され、研磨材生成 バストネサイト原料 1.1 5.8 原料置場 表面:1.9
1m:0.6
0.40(製品置場での作業)
(年間作業時間:約480時間、作業場所放射線量率*7:0.84μSv/時)
濾過フィルター分離固体分 1.0 4.9 原料投入ホッパー 表面:2.0
1m:0.10
製品置場 表面:3.6
1m:0.88
研磨材製品 1.4 7.1
ジルコン 約7万トン(南アフリカ、オーストラリア等) 耐火物 ジルコンを秤量し、混練、成形、乾燥、焼成の後、耐火レンガ生成。 原料(ジルコンサンド) 4.2 0.77 原料置場(耐火レンガ用ジルコンフラワー) 表面:2.7
1m:1.0
0.14(製品置場での作業)
(年間作業時間:約120時間、作業場所放射線量率*7:1.13μSv/時)
耐火物レンガ(ジルコン100%) 3.5 0.81 ジルコン含有率80%耐火物 表面:1.8
1m:1.2
廃棄物一時置場集塵 0.17 0.037 廃棄物一時置場 1m:0.15
石炭 約1億5,500万トン(オーストラリア、中国、インドネシア、カナダ等) フライアッシュ・クリンカ 石炭をボイラーで燃焼させると、ボイラー下部からクリンカ、集塵装置からフライアッシュを回収 石炭(中国産) 0.015 0.018 貯炭場 表面:0.03
1m:0.03
0.13(クリンカ倉庫での作業)
(年間作業時間:約1100時間、作業場所放射線量率*7:0.12μSv/時)
クリンカ 0.097 0.072 クリンカ倉庫 表面:0.15
1m:0.15
フライアッシュ 0.095 0.091 灰捨場 表面:0.15
1m:0.10
(文部科学省原子力安全課原子力規制室調査   2003年)
*4: 鉱石毎の調査で比較的放射能濃度が高い試料を代表して記載した。
*5: 鉱石毎の調査で比較的高い空間放射線量率が測定された箇所を代表して記載した。また、1mとあるのは対象物から1 m離れた位置での空間放射線量率を示す。
*6: トリウムとして濃度が370Bq/gを超えており、数量が900gを超えるため規制対象となっている。
*7: 対象物から1m離れた位置の空間放射線量率からバックグラウンド(敷地境界測定値)分を差し引いた値。


表2−2   サマリウムの利用実態と被ばく評価結果
物質名 輸入量
(産出国)
製品 工程 空気中濃度 内部被ばく評価(μSv/年)
粒子径1μm 粒子径50μm
マスクなし マスクあり マスクなし マスクあり
サマリウム 約100トン
(中国、フランス)
磁石、セラミックス サマリウムは、酸化サマリウムからセラミックス材料を製造し、金属サマリウムからコバルト等と合金をつくり、磁石を製造 合金製造
場所
空気中濃度:3.1×10-9 Bq/cm3 67 6.7 10 1.0
磁石製造
場所
空気中濃度:1.7×10-8 Bq/cm3 380 38 59 5.9
(文部科学省原子力安全課放射線規制室調査   2003年)

    3.2.2    一般消費財
(1)    概要
   自然放射性物質を含有する鉱物が、化学的又は物理的に処理されて、一般消費財gとして生活環境で数多く使用されている。その用途については、船底塗料や自動車マフラーの触媒のように日常の生活において接することのないものから、衣料や寝具等のように日常生活の中で身体に触れて使用されるものまで多様である。外部被ばくの観点では、壁紙や塗料のように、単位重量あたりの放射能濃度が高くても、壁等に塗布した場合に単位面積あたりの線量が低くなるものや、放射能濃度は低くても、装飾品のように、局所的な被ばくを考慮すべきものがある。このため、これらの一般消費財の中から主なものについて、試料分析調査を行い、その中の一部に対して、通常使用する状態における被ばく評価を行った。

(2)    調査結果
   試料のウラン、トリウムの含有率を、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP‐MS)を用いて測定し、それぞれの核種の比放射能を乗じることによりTh-232及び U-238の放射能濃度を求めた。分析調査の結果、一部の一般消費財でBSS免除レベルを超えるものがみられた。また、使用者の外部被ばく線量を、一般消費財の通常使用状態及び使用する時間、線源等をモデル化して計算コードにより求めた。
   被ばく評価の結果、ラドン温泉浴素で110 μSv/年、肌着で、220 μSv/年、布団で90 μSv/年、壁紙で10 μSv/年となり、使用者の外部被ばく線量が1 mSv/年を超える、又は、それに近い線量になることはないと考えられる。しかし、仮に、使用者が一般消費財を複数、同時に使用する場合には、年間数100 μSvの線量を受けることも考えられる。
   一般消費財中の放射能濃度の分析結果を表3に示す。

表3   一般消費財中の放射能濃度の分析結果
試  料 分析結果(放射能濃度:Bq/g)
U-238 Th-232
ラドン温泉浴素A 34 270
船底塗料 12 81
ラドン温泉浴素B 10 81
ブレスレット・ネックレス   (セラミック) 1.7-8.8 12-71
健康器具   (粉体入) 5.4 34
耐火物、耐火レンガ 2.9-3.5 0.49-0.57
マフラー触媒 3.3 210
衣料(繊維に練込み) 1 8.8
サポーター・リストバンド   (繊維に練込み) 0.011-0.94 0.093-8.5
消臭塗料 0.4-0.82 2.9-5.5
靴下   (繊維に練込み) 0.7 6.2
シート   (繊維に練込み) 0.67 5.4
靴中敷き   (粉体入) 0.085-0.42 0.63-6.2
寝具(繊維に練込み) 0.043-0.26 0.01-2.3
研磨材 0.2 0.7
リン酸肥料 0.038-0.073 0.0014-0.0015
湯の花 0.00084-0.012 0.00081-0.029
((財)原子力安全技術センター調査   平成14年度)


e  サーベイメータ、誘導結合プラズマ質量分析装置:用語解説(付録1)を参照
f 缶石:用語解説(付録1)を参照
5 村田幹生、池沢芳夫、吉田芳和:”着用時における浄気式全面、半面マスクの防護性能”、保健物理、14、115-124(1979).
g 一般消費財:用語解説(付録1)を参照

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