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放射線審議会基本部会報告書「規制免除について」

2002年10月17日
放射線審議会


「規制免除について」

国際基本安全基準における規制免除レベルの
国内法令への取り入れ検討結果



平成14年  10月

放射線審議会基本部会


目次

1. はじめに
   
2. 我が国の法令における免除レベル
 
2.1 概要
2.2 放射線障害防止法
  2.2.1 密封された放射性同位元素
  2.2.2 密封されていない放射性同位元素
2.3 その他の法令
  2.3.1 医療法及び薬事法
  2.3.2 労働安全衛生法、船員法及び国家公務員法(人事院規則10-5)
  2.3.3 原子炉等規制法
   
3. 国際機関等で検討された免除レベル
3.1 国際原子力機関
3.2 欧州委員会
3.3 英国放射線防護庁
   

4.

国際基本安全基準免除レベル
4.1 免除レベル算出のための線量規準
4.2 評価対象及び被ばく評価シナリオ
4.3 算出方法及び評価パラメータ
4.4 計算結果
   
5. 我が国における免除レベルの検討
5.1 基本的考え方
5.2 線量規準の妥当性
5.3 評価対象及び被ばく評価シナリオ
5.4 算出方法及び評価パラメータ
5.5 計算結果
5.6 検討結果
  5.6.1 国際基本安全基準免除レベルと試算結果の比較
  5.6.2 結論
   
6. 国内の使用実態と問題点
6.1 定義数量以下の放射性同位元素の使用実態
6.2 国際基本安全基準免除レベルを適用した場合の問題点
   
7. 海外における免除レベルの検討及び取り入れ状況
7,1 国際原子力機関
7.2 欧州委員会
7.3 欧米諸国での取り入れ状況
   
8. 国際基本安全基準免除レベルの国内法令への取り入れ
8.1 基本的考え方
8.2 国内法令等への取り入れに係わる主要事項
  8.2.1 国際基本安全基準免除レベルに示されていない核種の取扱
  8.2.2 密封線源の取扱
  8.2.3 条件付き免除の仕組み
  8.2.4 免除された複数の線源の規制
  8.2.5 教育、医療等の分野における規制
  8.2.6 クリアランスレベルとの整合性
   
9. 今後の課題
9.1 自然放射性物質の扱い
  9.1.1 自然放射線源、製品・生産過程生成物質の影響
  9.1.2 自然起源の放射性物質に係る規制規準に関する国際機関における最近の検討状況
  9.1.3 自然起源の放射性物質に係る規制に関する問題点
9.2 正当化されない行為についての規制
9.3 放射線を発生する装置の規制
   
10. おわりに

参考資料1   放射線審議会基本部会名簿
参考資料2   放射線審議会委員名簿
参考資料3   免除レベルに関する放射線審議会の検討経緯

付録1   用語解説
付録2   BSSの付則 I:免除
付録3   国際基本安全基準免除レベルの算出に関する共通事項とシナリオ別計算内容
付録4   免除レベル一覧
付録5   我が国におけるリスク情報
付録6   我が国における事故統計
付録7   追加シナリオに係る規制免除濃度の評価結果
付録8   我が国における定義数量以下の放射性同位元素の使用実態
付録9   国際的な免除レベルの取り入れ及び検討状況
付録10   免除レベルとクリアランスレベル
付録11   原料及び製品並びに鉱石等の処理産業からの廃棄物中に含まれる放射性物質の典型的な濃度
付録12   一般に利用されてきた一般消費財の例


1.  はじめに
    放射線審議会は、平成10年6月に「ICRP 1990年勧告(Pub.60[1])の国内制度等への取入れについて」をとりまとめ、関係行政機関の長に対して意見具申を行った。この意見具申においては、職業被ばくに対する線量限度等について、その検討結果をとりまとめるとともに、「潜在被ばくa」、「線量拘束値a」、「除外aと免除a」については、今後の検討事項とした。
  「除外と免除」は、規制機能の重要な一部であり、「潜在被ばく」、「線量拘束値」の検討、及び国際原子力機関(以下「IAEA」という)放射性物質安全輸送規則を国内制度等に取り入れるための検討を行うにあたって、前提となるべき事項であった。そこで、放射線審議会基本部会では、「潜在被ばく」、「線量拘束値」の検討に先立って、まず、「除外と免除」を検討することとし、平成11年4月の第80回基本部会において、「除外と免除ワーキンググループ」(以下「ワーキンググループ」という)を設置した。
  ワーキンググループでは、「除外と免除」の検討項目が多岐にわたることから「規制免除」(本報告書では「免除」という)について先に検討することとし、「規制免除レベル計算タスクグループ」(以下「タスクグループ」という)を設置して、我が国の事情を踏まえた免除レベル(以下「免除レベル試算値」という)の計算を行った。これらのワーキンググループやタスクグループにおける検討結果を基に、平成12年12月の第10回ワーキンググループ会合において「規制免除についての検討中間報告」がとりまとめられた。
  平成13年1月の省庁再編に伴い、放射線審議会の体制も一新された。平成13年2月の第72回総会において「規制免除についての検討中間報告」が報告されるとともに「除外と免除」を含めた長期的課題を審議し、特に線量評価方法などの放射線防護に関する専門的な事項を検討するために「放射線審議会基本部会」が新たに設置され、ワーキンググループの審議事項について引続き審議を行うことが了承された。
  本報告書は、意見具申において長期的課題とされた検討課題のうち、放射性同位元素に係る免除についての検討結果をまとめたものである。

2. 我が国の法令における免除レベル
2.1 概要
    我が国においては、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下「放射線障害防止法」という)、「医療法」、「薬事法」、「労働安全衛生法」、「船員法」、「国家公務員法(人事院規則10-5)」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下「原子炉等規制法」という)等のそれぞれの法令、規則等において放射性物質の濃度及び数量の範囲を定め、放射性同位元素、放射性医薬品、核原料物質、核燃料物質等を規制の対象としている。
   
2.2 放射線障害防止法
    放射線障害防止法において規制される放射性同位元素の濃度及び数量を表1に示す。本報告書では、表1に示す放射性同位元素の定義に係る数値的基準値を、便宜上「定義数量」と記述する。定義数量は、規制の対象とする放射性同位元素の濃度、数量の下限値であり、これ以下は規制対象としないという意味でいわば免除レベルを表すものである。また、放射性同位元素であっても原子力基本法に規定する核燃料物質及び核原料物質、薬事法に規定する医薬品及び医療用具で指定するものに装備されているもの、工業標準化法に規定する日本工業規格に該当する鉱工業品等のうち指定する自発光性の塗料については放射線障害防止法の適用を除外している。
  以下、放射線障害防止法における放射性同位元素の規制の概要を述べる。
   
  表1  放射線障害防止法で規制される放射性同位元素の濃度及び数量
区分 濃度 数量
密封されていない放射性同位元素 1種類
74Bq/gを超えるもの(自然に賦存する放射性同位元素を含む固体は370Bq/gを超えるもの)
第1群 3.7kBq
第2群 37kBq
第3群 370kBq
第4群 3.7MBq
を超えるもの
2種類以上 それぞれの群別区分ごとの割合の和が1を超えるもの
密封された放射性同位元素 1個あたり3.7 MBqを超えるもの
集合状態の密封された放射性同位元 素 集合したものごとに3.7MBqを超えるもの
   
2.2.1 密封された放射性同位元素
    放射線障害防止法では、密封線源の明確な定義はないが、その使用方法について、次の2つの条件に適合する状態において使用するように規定している。
  1 正常な使用状態においては、開封または破壊されるおそれのないこと。
  2 密封された放射性同位元素が漏えい・浸透等により散逸して汚染するおそれのないこと。
  密封された放射性同位元素の定義数量は、昭和32年の放射線障害防止法の制定に伴い、放射性同位元素装備機器との関連で検討された結果、政令に密封線源を装備する機器の名称を列挙し、放射性核種によらず放射能bを1 mCiとすることが科学技術庁告示第4号(昭和33年3月31日)において規定された。1 mCiという数値は、機器に装備された密封線源では、機器から放出される放射線による外部被ばくのみを考慮すればよいため、放射線障害の危険性は、密封されていない状態に比べ、はるかに少ないこと及び国内での使用状況を考慮して規定された。昭和35年の法令等改正に伴う科学技術庁告示第22号(昭和35年9月30日)において、装備機器に含まれる放射性同位元素の定義数量1 mCiは、機器に装備されていない密封された放射性同位元素と同じ取扱いとしたうえで、100μCiと改められた。昭和63年に単位の変更が行われ、現在の3.7 MBq に至っている。
   
2.2.2 密封されていない放射性同位元素
    密封されていない放射性同位元素に対する定義数量は、当初、科学技術庁告示第4号(昭和33年3月31日)において、一部の放射性同位元素については核種別に、その他については物理的半減期により、3群に分類して規定された。この規定は、放射性同位元素による放射線障害の危険性の程度と工場・事業所若しくは販売所が実際に取り扱っている放射性同位元素の数量(放射能)を考慮して決められた。その後、昭和35年の告示において、新たに第4群を設け、比較的安全性の高い一部の放射性同位元素について定義数量を高く変更した。さらに、昭和63年に単位の変更等が行われ現在に至っている。
   
2.3 その他の法令
2.3.1 医療法及び薬事法
    医療法は、病院等において使用する診療に用いる放射性同位元素やそれを装備した機器、エックス線装置等の放射線を発生する装置等について放射線防護上必要とする措置を定めている。
  薬事法は、医療用エックス線装置や放射性医薬品を製造する場合等の放射線障害防止の技術的基準を定めるとともに、放射性医薬品の製造所等の構造、設備について定めている。
  医療法及び薬事法において規制対象となる放射性同位元素の濃度及び数量は、放射線障害防止法と同様であるが、核燃料物質及び核原料物質について適用の除外の規定がない。なお濃度については、医療法において診療用放射線照射装置に対して74 Bq/gの規定のみである。
   
2.3.2 労働安全衛生法、船員法及び国家公務員法(人事院規則10-5)
    これらの法律は、放射線障害から労働者等を保護するために事業者等が講じる措置や労働者等が遵守すべき事項を定めている。
  これらの法律で規制対象となる放射性同位元素の濃度及び数量は、放射線障害防止法と同様であるが、医療法と同様に核燃料物質及び核原料物質について適用の除外の規定はない。なお、労働安全衛生法、船員法及び人事院規則10-5ではウランまたはトリウムについては表1の第4群に該当すると規定されているがプルトニウムについては特段の規定がないためアルファ線を放出する同位元素として非密封であれば表1の第1群に該当することとなる。なお濃度については医療法等と同様に74 Bq/gの規定のみである。
   
2.3.3 原子炉等規制法
    放射線障害防止法で適用を除外している核燃料物質及び核原料物質については、原子炉等規制法において、表2に示す放射能濃度及び数量(重量)により規制の対象を定めている。
   
  表2  原子炉等規制法で規制される核原料物質等の濃度及び数量
区分 濃度 数量(重量)
核原料物質(使用の届出を要しない限度) 74 Bq/g

固体370 Bq/g
ウラン量の3倍+トリウムの量

900g
核燃料物質(使用の許可を要しない限度)
ウラン* 300g
トリウム量 900g
   *:U-235のU-238に対する比率が天然混合率であるものまたはそれに達しないもの

3. 国際機関等で検討された免除レベル
3.1 国際原子力機関
    国際原子力機関(IAEA)は、1996年、国連の食糧農業機関(FAO)、国際労働機構(ILO)、経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)、全米保健機関(PAHO)及び 世界保健機構(WHO)と共同して、「電離放射線に対する防護及び放射線源の安全のための国際基本安全基準」[2](以下「BSS」という)を刊行した。このBSSにおいては、295核種分(298の免除レベル値)について規制免除の具体的な基準を定め、付則1に示している(付録2参照)。付則1に示された放射性物質と放射線の規制に関する免除の基本的考え方や原則は、1988年に発行された安全指針「放射線源と行為の規制管理からの免除のための原則」(IAEA Safety Series No.89[3])(以下「IAEA安全指針(SS-89)」という)に基づいている。
  BSSで規定された免除レベル(以下「国際基本安全基準免除レベル」という)には、後で示す欧州委員会の"European Basic Safety Standards Directive (96/29 /EURATOM)" (以下「EU指令書96」という)における「報告(reporting) に関する免除レベル」において算出されたレベル値が採用されている。付則1においては、個々の核種の濃度またはその数量のいずれかが免除レベルを下回る場合には、規制から免除されること(事前の届出や許可等の手続きを要しないこと)、規制当局の定める条件によっては条件付きの免除を認めてもよいこと等が示されている。
  さらに、IAEAは、1996年、放射性物質安全輸送規則「Safety Standards Series No.ST-1」(以下「ST-1」という) を刊行した。ST-1における規制免除については、従来の輸送規則では核種によらず一律に70 Bq/gとされていたものを変更し、国際基本安全基準免除レベル(BSSと共通の253核種分255の免除レベル値に加えて113核種分127の免除レベル値を追加)の考え方を採用している。
  ST-1の付属書として刊行された「Safety Standards Series No.ST-2」によると、『輸送特有のシナリオを付加して算出された輸送特有の免除レベルと国際基本安全基準免除レベルとを比較した結果、異なる値の採用は行為の境界面で問題を引き起こし、法令上及び手続き上、複雑になるおそれがあるとの認識から、ST-1における免除レベルには国際基本安全基準免除レベルを採用した。』と記述されている。
   
3.2 欧州委員会
    欧州委員会(CEC)は、欧州共同体におけるユーラトム協定に基づき、加盟国の放射線防護法令を対象として、基本安全基準指令書(欧州指令書)を1981年に発行しているが、この指令書における放射線規制の免除を確立するための概念と方法を示すことを目的に1993年CEC文書「欧州指令書において、それ以下では報告を必要としない濃度及び量(免除値)を確立するための原則」[4](以下「欧州委員会文書(RP-65)」という)を発行した。免除の基本的な考え方は、ICRP Publ.60やIAEA安全指針(SS-89)に基づいている。この文書では、296核種の免除レベルを規定しているが、この数値はフランスの原子力安全防護研究所(IPSN)と英国放射線防護庁(NRPB)により算出された。
   
3.3 英国放射線防護庁
    英国放射線防護庁は保健安全執行部(Health and Safety Executive)の委託を受けて取りまとめた報告書[5](以下「NRPB-R306」という)を1999年に刊行した。
  この報告書には、上記欧州委員会文書(RP-65)に示された296核種分(299の免除レベル値)の免除レベルとST-1に示された113核種分(127の免除レベル値)の免除レベルに加えて、NRPBが新たに計算した356核種分(361の免除レベル値)の免除レベルが追加され、合計765核種分(787の免除レベル値)の免除レベルについて、放射能濃度と放射能が示されている。
  新たに356核種分(361の免除レベル値)の免除レベルを計算するにあたって、NRPBは、国際基本安全基準免除レベル導出時に使われたものと同じ線量規準の数値、被ばくシナリオ(被ばく評価経路及び評価パラメータを組み合わせたもの)及び計算式を用いている。これは、欧州委員会文書(RP-65)の導出法と同じであるが、その線量計算においては、国際基本安全基準免除レベルの計算の際には発行されていなかったICRP Publ.68[6]及びPubl.72[7]の内部被ばくに係る線量係数が採用されている。

4. 国際基本安全基準免除レベル
4.1 免除レベル算出のための線量規準
    IAEAは、安全指針(SS-89)において、免除のための基本的規準として、個人のリスクと放射線防護の最適化cにおける規準を示している。個人リスクを十分に低くするための規準は、数10μSv/年のオーダーであるとしている。さらに、放射線被ばくを経済的、社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できるかぎり低く保たなければならないという防護の最適化については、集団線量預託cが1人・Svを下回るようであれば達成できると判断している。
  欧州委員会文書(RP-65)では、この免除の規準に基づいて、表3に示す免除レベル算出のための線量規準(以下「線量規準」という)を設定している。後述するように、一定の被ばくシナリオを仮定したうえで、個々の核種について、それらシナリオに基づいて計算された被ばく線量が、線量規準を超えないようにされている。
  線量規準は、通常時のものに加え、事故や使用過誤についても考慮した事故時のものが定められている。事故時の線量規準は、ICRP Publ.60で提案されている潜在被ばくの考え方に基づき、事象の発生確率を考慮して定められている。具体的には、事故の発生確率を年当り100分の1(10-2 事象/年)とし、通常時の実効線量規準(10μSv/年)と同じリスクとなる事故時の年平均実効線量規準を、通常時の10μSv/年を 10-2 事象/年で除することにより算出し、1 mSv/事象としている。また、ある状況では皮膚の局所的な被ばくが問題となることがあることから、皮膚の確定的影響dを防止するために、皮膚に対する等価線量の線量規準を表3のように設定している。事故時については、確定的影響を対象としているため、通常時と同じ値としている。
   
  表3 免除レベル算出のための線量規準(欧州委員会文書(RP-65)より)
  線量規準(mSv/年)
  実効線量 皮膚の等価線量
普通の状況(通常) 0.01 50
最悪の状況(事故) 1 50
   
    欧州委員会文書(RP-65)では、防護の最適化のための規準として集団線量の規準についても考慮している。ほとんどの核種については、最も被ばくする個人に対する線量が集団線量を決める要因となっており、予備調査[8]によると、集団線量預託は、  1×10-6〜 3×10-4人・Svの範囲と推算され、この値は放射線防護の最適化のための規準である1人・Svより十分低いので、詳細な検討は必要ないとしている。
   
4.2 評価対象及び被ばく評価シナリオ
    国際基本安全基準免除レベルを算出するために選択された規制免除の対象となる行為は、少量の放射性物質の産業利用及び教育、研究並びに病院などの施設での小規模な使用としている。
  また、検討対象とする放射性核種及び物理的形態は以下のとおりである。
  1 放射性核種数
295核種を規定し、永続平衡dになっている娘核種dがある場合は、それら娘核種による影響も含めて線量計算を行う。
  2 物理的形態
気体(蒸気)、液体(溶液)、飛散性固体(粉末)、非飛散性固体(薄 膜・箔・密封線源・容器(カプセル))
  評価対象者としては、作業者及び公衆としている。被ばく線量の評価は、最も高い線量を受けると予想される個人を考え、その個人を代表とする集団(このような集団をICRPで決定グループと呼んでいる。ICRP Publ.43[9])を想定し、例えば作業時間や呼吸率などの被ばく線量計算に用いるパラメータ(以下「評価パラメータ」という)については集団の平均的な値を用いている。評価経路については、表4に示すとおり、通常の作業時、事故時及び処分場における公衆の被ばくに対する3タイプ7つのシナリオについて、外部被ばく、経口摂取または吸入摂取の被ばく経路を考慮している。
   
  表4 免除レベルの算出時に考慮された被ばく経路
シナリオ 放射能濃度に関する被ばく経路 放射能に関する被ばく経路
作業者 通常使用
A1.1 線源取扱いによる外部被ばく
A1.2 1m3線源からの外部被ばく
A1.3 気体容器からの外部被ばく
A1.4 ダストの吸入摂取
A1.5 汚染した手からの経口摂取
B1.1 点線源からの外部被ばく
B1.2 線源取扱による外部被ばく
事故 上記と同じ
  ただし、被ばく時間や発生確率を考えると、通常使用時の方が被ばく線量が高くなるため、計算を行っていない。
〈飛散〉
B2.1 汚染した手からの外部被ばく
B2.2 汚染した顔からの外部被ばく
B2.3 汚染した床面からの外部被ばく
B2.4 汚染した手からの経口摂取
B2.5 再浮遊放射能の吸入摂取
B2.6 エアロゾル、ダスト雲からの外部被ばく
〈火災〉
B2.7 皮膚の汚染
B2.8 ダスト、揮発物質の吸入摂取
B2.9 燃焼生成物からの外部被ばく
公衆 処分場 A3.1 処分場からの外部被ばく
A3.2 処分場からのダストの吸入摂取
A3.3 処分場での経口摂取
B3.1 処分場からの外部被ばく
B3.2 処分場からの吸入摂取
B3.3 処分場の物の取扱いによる皮膚の被ばく
B3.4 処分場での経口摂取
   
4.3 算出方法及び評価パラメータ
    国際基本安全基準免除レベルは、以下の1から5までの手順で算出されている。
  1 1 Bq/gの放射能濃度または1Bqの放射能あたりの各被ばく経路における実効線量、皮膚等価線量を計算する。
  2 各被ばく経路の実効線量、皮膚等価線量をそれぞれ以下のグループ毎に合算する。
放射能濃度計算用:作業場所(通常使用)、公衆(処分場)
放射能計算用:作業場所(通常使用)、作業場所(事故、飛散及び火災)、公衆(処分場)
  3 個々のグループ毎の免除レベルを次式で計算する。 個々のグループ毎の免除レベル
  4 上記で計算されたグループ毎の免除レベルのうち、最も厳しい値を採用する。
  5 免除レベルを3×10xから3×10x+1までの値を10x+1と端数を処理する。
  各被ばく経路における被ばく線量の計算方法及び評価パラメータ等についての詳細は付録3に示す。
   
4.4 計算結果
    計算結果としての国際基本安全基準免除レベルは、付録4「免除レベル一覧」に示す。

5. 我が国における免除レベルの検討
5.1 基本的考え方
    現行の我が国の定義数量においては、基本的には核種毎の化学的・物理的性質の違いを細かく考慮して決められてはいない。密封された放射性同位元素は、その物理的形態から、外部被ばくのみを考慮している。密封されていない放射性同位元素については、核種を4群に分類し、定義数量を決めているが、これは主に内部被ばくを考慮して決められている。また、我が国では密封と非密封の放射性同位元素で規制の対象とする数量を区分しているが、米国、欧州などの主要な国ではそのような取扱はされていない。このような我が国の規制は、これまでの長い規制実績の中で十分機能し、その役割を果たしてきたところである。
しかしながら、前述したとおり、国際基本安全基準に示された免除レベルでは、通常時では実効線量を年間10μSv、事故時では実効線量を年間1 mSvとする線量規準を定めた上で、核種毎の違いや一定の被ばくシナリオに基づく被ばく計算により、核種毎に規制を免除する放射能と放射能濃度を定めており、これは科学的、社会的により進んだ規制の考え方と言えるものである。また、このような国際機関等で合意された免除レベルを各国が取り入れることは、放射性同位元素の貿易や輸送を円滑かつ安全に行ううえでも、適切であると判断される。
  したがって、我が国としては、国内法令に基づく現行の定義数量にこだわることなく、国際機関等で合意された免除レベルの考え方等を踏まえ、これをどのように取り入れるかについて検討すべきと判断される。免除レベルの算出方法の検討にあたっては、我が国独自に作成した被ばくシナリオ、パラメータ等に基づく免除レベルの算出も考えられるが、国際的な整合性を維持することも重要な要素であることから、基本的には国際基本安全基準に示された免除レベルを前提にパラメータ、被ばくシナリオの一部において、我が国の事情を考慮した免除レベルの試算を行うこととし、その結果を踏まえ、我が国の国内法令への取り入れ方を検討することが適切と判断される。
   
5.2 線量規準の妥当性
    国際基本安全基準免除レベルの算定に用いられた個人被ばくの線量規準は、IAEA安全指針(SS-89)で述べられている「放射線による影響がとるに足らないほど小さい線量(trivial individual dose)」の考え方に基づいている。すなわち、その線量がもたらす個人のリスクがとるに足らない、あるいは無視できるほど小さいレベルであることと自然放射線による被ばく線量の変動と比較して小さいことの2点を考慮している。
  IAEA安全指針(SS-89)で引用された文献[10],[11],[12]において、さまざまな分野におけるリスクの比較が行われ、個人の年間死亡確率として10-6から10-7のリスクに相当する事象に対し、人が手立てを講じていないことから、このレベルが無視できるほど小さいリスクとされている。このリスクのレベルは、年間線量で10-100μSvに相当するとされている。また、自然バックグラウンドeについては、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(以下「UNSCEAR」という)の1982年報告書[13]によると世界平均として約2 mSv/年であり、この値の1から数%程度である年間20-100μSvは、自然バックグラウンドの変動と比較して無視できるくらい小さいと判断し得るとされている。
  以上の考慮からIAEAは安全指針(SS-89)において、免除のための個人線量の規準は、数10μSv/年のオーダーであると判断している。欧州委員会文書(RP-65)では、複数の免除された行為からの被ばくの重畳も勘案して、1つの行為に対する決定グループの被ばくに対する線量規準として10μSv/年を採用している。
  国際基本安全基準免除レベルを導入する場合、我が国においても線量規準が妥当であることを確認する必要がある。
  我が国における自然放射線による被ばく線量は、約1.5m Sv/年[14]とされているが、10μSv/年は、その1 %以下である。また、自然放射線のうちガンマ線量率についての地域的変動については、市町村ごとの平均値の範囲は0.3〜1.3 mSv/年[15]であり、10μSv/年はこの変動と比べても小さいと考えられる。
  なお、10μSv/年の規準は、放射線審議会の「放射性固体廃棄物の浅地中処分にお
  ける規制除外線量について」(昭和62年12月)において、規制から除外する際の基準値として妥当とされている。この値はさらに、我が国におけるクリアランスレベルの算出においても原子力安全委員会の「主な原子炉施設におけるクリアランスレベルについて」(平成11年)で線量の目安値として設定されている。
  IAEA安全指針(SS-89)では、個人の年間死亡確率として10-6から10-7のリスクが
  無視できるほど小さいリスクとされているが、我が国における種々のリスクの比較について、参考のための資料を付録5に示す。
  国際基本安全基準免除レベル算出において事故のシナリオに関連する線量規準を定める際に、事故の発生確率は、10-2 事象/年であるとしている。我が国における事故発生確率の例を付録6に示す。一例として、労働災害についてほぼ10-2件/人・年(労災保険適用労働者  48,492,908人中の労災保険新規受給者数  602,853人:1999年度労働者災害補償保険事業年報より算出)という統計もある。労働災害と放射性同位元素の取扱や処分の際の事故を単純には比較できないが、労働災害はすべての種類の災害を含んでいるのに対し、国際基本安全基準免除レベル算出で考えられたシナリオでは、火災や処分場での放射性同位元素の流出の限られた種類の事故のみであることから、10-2 事象/年は、安全側の値であると考えられる。
  以上のことから、我が国における線量規準及び事故の発生確率として10μSv/年及び10-2 事象/年を設定することは妥当である。
   
5.3 評価対象及び被ばく評価シナリオ
    評価対象は、国際基本安全基準免除レベルを算出したものと同様に規制免除の対象となる行為、放射性核種、物理形態及び評価対象者を考慮した。
  国際基本安全基準免除レベル算出のシナリオ(以下「BSSシナリオ」という)は、4.2で述べたとおり、7つのシナリオと23の被ばく経路が考慮されているが、これは基本的に使用と廃棄に関するものであり、かつ、比較的少量の放射性同位元素の取扱であることから、製造、販売及び貯蔵のような量が多量になるもの、または作業及び被ばく時間が長期となるものは、規制の免除からは外されていると考えられる。
  BSSシナリオを我が国において適用することの妥当性についてワーキンググループにおいて検討されたが、これについて再検討した結果、これらのシナリオに加え、独自のシナリオとして以下の18の追加シナリオ(経路)についての検討の必要性があると判断された。
  1 商品販売の販売員の被ばく
  2 廃棄物の収集作業者の被ばく
  3 廃棄物の運搬作業者の被ばく
  4 廃棄物の埋設作業者の被ばく
  5 処分場跡地での住居建設に伴う被ばく
  6 処分場跡地での居住に伴う被ばく
  7 地下水を介した被ばく(地下水の飲用及び養殖淡水産物の摂取)
  8 液体状の線源の一般下水道への廃棄に伴う被ばく
  このうち、1については、BSSシナリオの作業場所における通常使用と比較して、店舗での放射性同位元素を含む陳列商品及び倉庫に置かれた商品との距離が比較的離れ(数倍程度)ていて、取扱う時間も短い(10分の1程度)ことからBSSシナリオ(A1.2、表4参照)に包含されると考えられる。さらに商品は店頭において複数個陳列されるが、商品と販売員の距離はBSSシナリオ(1 m)よりも離れていると考えられる。
  例えば、販売員と商品の距離を約3 mと考えれば、10個程度を陳列しても被ばく線量はBSSシナリオと同程度と評価される。また、商品が倉庫に置かれている場合はさらに大きな集合体と考えられるが、商品を補充するために倉庫に取りに入る時間は、BSSシナリオ(200時間/年=4時間/週)よりかなり短いものと考えられる。
  または、数個の商品を取るために倉庫に入り、商品から1 mの距離にいる時間を週あたり2、3分とすれば被ばく時間は約100分の1となり、倉庫の在庫量を100個程度と考えても被ばく線量はBSSシナリオと同程度と評価される。これらより、商品販売の販売員の被ばくはBSSシナリオの作業場所における通常使用(A1.2)に包含されると考えて差し支えない。  
  2については「廃棄」が反復継続して行われないことを前提としていること、また、廃棄される線源の重量も極めて小さい(100 g)ことから、BSSシナリオ(A1.1及びA1.4、表4参照)に包含されると考えられる。
  さらに、8については大量(例えば、年間約100億トン)の下水と一緒に処理されることから、その希釈を考慮すると被ばく評価上問題がないと判断される。
  以上よりワーキンググループにおいては、37までについて、核種の物理的・化学的な特性、放射線医学的な影響等を考慮して、代表的なH-3、C-14、Co-60、Sr-90、Am-241の5核種を選択して、それらについて評価し、免除レベル試算値を算出した。その算出結果と国際基本安全基準免除レベルとの比較を付録7に示す。
  免除レベルは、考え得る被ばく経路で算出したレベル値のうち、最も低い値を選択しているが、この追加シナリオにおける算出結果は、付録7で明らかなようにいずれの核種についても国際基本安全基準免除レベルを上回っているので、経路の追加を検討する必要性はないと考えられる。
  さらに、前述したとおり、販売でのシナリオを3種類、さらに使用から廃棄まで の間のシナリオと廃棄から公衆へのシナリオを4種類考慮した結果は、すべて、BSSシナリオの作業場所の通常使用(表4参照)に包含されている。
  以上より、国際基本安全基準免除レベルの算出のためのBSSシナリオは、我が国における免除レベルの算出に際しても妥当であると判断できる。
   
5.4 算出方法及び評価パラメータ
    算出方法は、基本的に4.3で示した国際基本安全基準免除レベルによる方法と同様である。ただし、ワーキンググループは、評価パラメータのうち、表5に示すものについては、我が国特有の事情を考慮して国際基本安全基準免除レベル算出と異なる値を用いた。これらの評価パラメータを用いて、国際基本安全基準免除レベル算出において検討された295核種分(298の免除レベル値)の計算を行った。その際、公衆被ばくを考慮している処分場シナリオでは、小児(10歳児で代表)についても計算を行った。なお、10歳児の外部被ばくに伴う実効線量の計算については、既存の研究結果を基に、線量換算係数を一律1.3倍にしている。
   
  表5  試算においてBSSと異なる値を用いた評価パラメータの一覧
評価パラメータ名 BSS(RP-65)の数値 試算に用いた数値
呼吸率 (m3/h) 1.0 1.2  (成人)
0.78(10歳児)
内部被ばく線量係数 (Sv/Bq) NRPB R-245 作業者:ICRP Publ.68
(5μm:AMAD)*
公衆:ICRP Publ.72
(5μm:AMAD)*
作業室の体積 (m3) 32 100
揮発割合 (-) ヨウ素:0.1
特定元素以外:0
ヨウ素:1
特定元素以外:0.01
皮膚面積 (cm2) 10,000 18,000(成人)9,610(10歳児)
*:吸入の被ばく線量評価に用いた放射性エアロゾルの空気力学的放射能中央径(AMAD)
   
5.5 計算結果
    計算結果として、我が国における免除レベル試算値を、付録4「免除レベル一覧」にNRPB(R-306)、BSS及びST-1における免除レベルとともに示す。
   
5.6 検討結果
5.6.1 国際基本安全基準免除レベルと試算結果の比較
    免除レベル試算値については、最終的に欧州委員会文書(RP-65)で採用されている方法を用いて桁ごとにまとめた。つまり、計算結果が3×10xから3×10x+1の範囲であれば、最終的に免除レベルは1×10x+1と端数を処理した。
  放射能濃度に対する免除レベルは、α線放出アクチニド核種に対する値(1 Bq/g)と、Ar-37 に対する値(1×106Bq/g)との間の範囲にある。決定グループ(4.2参照)の被ばくをもたらす被ばく経路の一般的傾向として、大部分の核種に対する免除濃度は、作業場所における線源近傍での外部被ばくで決まるが、気体状核種については、ガス容器近くでの外部被ばくが、その他の核種については、作業場所での吸入摂取や処分場での公衆の経口摂取が決定経路となっている。
  放射能に対する免除レベルは、α線放出アクチニド核種に対する値(1×103Bq)と、短半減期希ガスであるKr-83mに対する1×1012 Bqとの間の範囲にある。決定経路の一般的傾向として、α線放出核種については吸入摂取が、β・γ線放出核種については、線源取扱時の皮膚等価線量または外部被ばくによる実効線量で決まるが、一部、作業場所での火災事故時の煙の吸入摂取や処分場における公衆の経口摂取が決定経路となっている。
  免除レベル試算値と国際基本安全基準免除レベルとの間の相違は、放射能濃度に関しては全て1桁以内である。放射能に関しては、希ガス4核種(Kr-79,Kr-81,Xe-131m,Xe-133)は免除レベル試算値の方が大幅に高く、2核種(Mo-93,Ra-228)は免除レベル試算値が2桁低くなっている。
  これらを除いてはすべて差が1桁以内のものであり、これらの差は最終的に計
  算結果の端数を処理することが大きく影響していると思われる。また、希ガス4核種の免除レベル試算値の放射能が高い理由としては皮膚に関する線量換算係数が国際基本安全基準免除レベルの算出に用いられた値と異なることがあげられる。さらに、放射能についてMo-93とRa-228が国際基本安全基準免除レベルより2桁低い計算結果になった理由については、BSSで用いられたパラメータの見直し、特に呼吸率と被ばく対象年齢の変更、内部被ばくにおける線量係数、作業室の体積、揮発割合及び皮膚面積についてのパラメータを変更したために免除レベルが最終的な数値の端数処理を含めて2桁異なったことによるものである。
   
5.6.2 結論
    前述したように、ワーキンググループによる免除レベル試算値と国際基本安全基準免除レベルとの間の相違は、その殆どが1桁以内のものである。その差は異なるパラメータ値を用いたことだけによる差ではなく、数値の端数処理等による変動の範囲と考えられる。希ガスなど気体状の核種では、免除レベル試算値が大幅に大きい値があるが、それらについては、主に皮膚被ばく等の評価方法の差に基づくものであり、国際基本安全基準免除レベルは数値的に安全側となる。
  国際基本安全基準免除レベルとワーキンググループの免除レベル試算値との比較を評価すると、我が国の法令に国際基本安全基準免除レベルを取り入れた場合でも、免除した放射性同位元素からの被ばくに対する国民の安全性を担保する観点で問題は無いと判断される。

6. 国内の使用実態と問題点
6.1 定義数量以下の放射性同位元素の使用実態
    放射線障害防止法に規定された定義数量以下の密封された放射性同位元素は、一般消費財や各種計測・分析機器さらには研究用機材にまでその簡便性と効率性の観点から広く利用されている。特に機器に装備されている定義数量以下の密封放射性同位元素は、研究分野や産業界でも広く利用されており、その経済的効果も大きく評価されている。
  ここでは、定義数量以下の放射性同位元素を意図的に添加、使用している機器について、国内における最近の使用実態について述べる。
  定義数量以下の放射性同位元素を用いた一般消費財として普及しているものは、煙感知器(Am-241)、グロースタータ(Pm-147, Kr-85)、ネオンランプ(Pm-147, Ni-63)などである。
  また、計測機器や分析機器としては、集電式電位測定器(Am-241)、エアロゾル中和器(Am-241)、種々の厚さ計(Sr-90, Tl-204)、携帯型液化ガス液面レベル計(Co-60)、スケールチェッカー(Co-60, Cs-137)、γ線密度計(Co-60, Cs-137)、RI水分・密度計(Co-60, Cf-252)などが利用されている。機器校正用線源として、プラスチック検出器等の測定効率決定用線源、モニタリングポストの校正用線源、液体シンチレーション測定装置の外部標準線源法用線源、エリアモニタ、排気・排水モニタ及びサーベイメータなどの機器の動作確認用線源が利用されている。
  これらの使用実態の詳細は、付録8に示す。
   
6.2 国際基本安全基準免除レベルを適用した場合の問題点
    国際基本安全基準免除レベルを我が国の法令に導入した場合、従来の定義数量と比較して厳しくなる場合と緩和される場合がある。主な核種について、表6に示す。この表によると、濃度については緩和される核種が厳しくなる核種より若干多くなり、緩和される傾向にある。また、数量(放射能)については、非密封の放射性同位元素では、緩和される核種が多いが、密封の放射性同位元素については、厳しくなる核種が多くなる。
  我が国における定義数量以下の密封された放射性同位元素の使用状況調査結果(表7)からも、現在、産業界等において利用されている密封の放射性同位元素の数量(放射能)は、国際基本安全基準免除レベルを超えているものが多い。したがって、国際基本安全基準免除レベルを、我が国の法令に取り入れた場合、これまで自由に使用できた機器等が規制の対象となる可能性がある。
   
  表6  国際基本安全基準免除レベルと現行法令の定義数量との比較
  厳しくなる核種 緩和される核種
濃度 Na-22 , Sc-46 , Mn-54 , Fe-59 , Co-60 Zn-65 , Cs-134 , Cs-137 , Ir-192 , Ra-226 Am-241 , Cf-252 (その他107核種) H-3 , C-14 , P-32 , S-35 , Ca-45 , Cr-51 Fe-55 , Ni-63 , Kr-85 , Sr-90 , Tc-99m I-125 , I-131 , Tl-204 (その他165核種)
放射能 密封 Na-22 , P-32 , Sc-46 , Mn-54 , Fe-55 Fe-59 , Co-60 , Kr-85 , Sr-90 , I-125 I-131 Cs-134 , Cs-137 , Ra-226 , Am-241 Cf-252 , Tl-204(その他207核種) H-3 , C-14 , S-35 , Ca-45 , Cr-51, Ni-63 Tc-99 , Pm-147 (その他66核種)
非密封 Cs-134 , Cs-137 , Ir-192 , Tl-204 , Ra-226 Am-241 , Cf-252(その他57核種) H-3 , C-14 , Na-22 , P-32 , S-35 , Ca-45 Cr-51 , Mn-54 , Fe-55 , Fe-59 , Co-60 Ni-63 , Zn-65 , Kr-85 , Tc-99m , I-125 I-131, Pm-147(その他216核種)
   
  表7  規制対象となる可能性のある機器
機 器 使用放射性核種及び放射能 BSS免除放射能 年間販売数* 国内台数*
レーダ受信部(切替放電管) Am-241 74〜300 kBq 10 kBq 2,000
集電式電位測定器 Am-241 326 kBq 10 kBq 19 81
エアロゾル中和器 Am-241 3.7 MBq 10 kBq 8 60
非接触厚さ計(透過型) Sr-90
Tl-204
3.5 MBq
3.5 MBq
10 kBq
10 kBq

20
30
膜厚測定器(散乱型厚さ計) Sr-90
Tl-204
3.7 MBq
3.7 MBq
10 kBq
10 kBq


携帯型液化ガス液面レベル計 Co-60 3.7 MBq 100 kBq 125 2,855
スケールチェッカー Co-60
Cs-137
3.7 MBq
3.7 MBq
100 kBq
10 kBq
4
45
98
配管密度計 Co-60
Cs-137
3.7 MBq
3.7 MBq
100 kBq
10 kBq


オンライン密度計 Co-60
Cs-137
3.7 MBq
3.7 MBq
100 kBq
10 kBq
20 600
コア密度計 Co-60
Cs-137
3.7 MBq
3.7 MBq
100 kBq
10 kBq
2 4
γ線密度計 Co-60
Cs-137
3.7 MBq
3.7 MBq
100 kBq
10 kBq
8
0
232
60
バルブ開閉探知機 Cs-137 3.7 MBq 10 kBq 0 14
RI水分密度計 Co-60 +
Cf-252
2.59 MBq
1.11 MBq
100 kBq
10 kBq
37 945
水分計 Cf-252 1.11 MBq 10 kBq 2 12
間隙測定器 Cf-252 1.11 MBq 10 kBq 0 1
産業用計測機器校正用線源 Co-60
Cs-137
3.7 MBq
3.7 MBq
100 kBq
10 kBq
25
12

有毒ガス検出器 Am-241 3.7 MBq 10 kBq 200
計測機器校正用線源 Co-60
Cs-137
3.7 MBq以下 100 kBq
10 kBq
169
77


*:平成11年度現在の概数である。「−」印は販売数や国内台数が不明である。

7. 海外における免除レベルの検討及び取り入れ状況
7.1 国際原子力機関
    IAEAでは、1996年にIAEAが提案したクリアランス(IAEA TECDOC-855)や1999年にICRPが提案した介入の免除などの新しい概念を導入するにあたり、それ以前から検討されてきた免除との整合性のある基本的枠組みを確立することについて検討がなされてきている。クリアランスレベルとの整合性をはかるために、国際基本安全基準免除レベルのレベル値を再検討する必要性が指摘された。また、チェルノブイリ事故による汚染地域をかかえるベラルーシから食品や木材などの流通商品を輸出入する際の放射能濃度の基準値について免除レベルとは別に策定してほしいとの要望が出された。  
  これらの問題は、国際貿易に係る放射能レベルに関する技術文書(DS51)とクリアランスに関する技術文書(DS161)の両方に係わることから、これらを統合して新たな技術文書(DS161)を作成することとなり、2001年4月より、放射線安全基準委員会(RASSC)と廃棄物安全基準委員会(WASSC)の合同委員会で検討を始めた。その後の合同委員会で、免除、クリアランス及び貿易のための基準値を策定するための方針について検討され、2002年2月に開催された技術会合(TM)において、新しい技術文書「放射線防護の目的のための規制に要求される商品における放射性核種の含有量の明確化」(DS161)の草案が示された。その中で適用範囲規定レベル(SDL:Scope-Defining Level)という新たなレベル値が提案された。
  SDLは、このレベル以下では、放射性物質として考える必要はなく、BSSで規定される放射線防護の要件を受けず、大規模産業利用においても、自由に貿易できるレベルとして適用されるものであり、クリアランスにも適用できるとされている。
  このDS161の草案作成の過程において、当初は、国際基本安全基準免除レベルの改定も考えられた。この草案においては、放射性物質の使用等に係る行為についての免除レベルは、従来どおり国際基本安全基準免除レベルを用いることが明記されている。
   
7.2 欧州委員会
    BSSの内容を盛り込んだ欧州原子力共同体指令書(EU指令書96)は1996年5月13日に採択された。その効力の発効について記した第56条では、2000年5月13日に従前の指令書を廃止することとされており、それまでに各国に対しEU指令書96に即した法令の改正が求められていた。しかし、2001年 10月現在、取り入れが完了している国はわずか数か国であり、加盟国の約4分の3は各国の国会にて審議中である。EU指令書96の取り入れが遅れている要因として、自然放射性物質の扱いなどを欧州委員会はあげている。自然放射性物質については、特に建材に含まれる自然放射性物質を一般消費財として規制から免除する場合の措置について議論が行われている。さらにEU加盟各国とも関連する国内規制当局が一つではないため、規制当局間の意見調整に時間を要しているようである。
  欧州委員会では、BSSで免除レベルが定められている核種数の295については、一般消費財に含まれるものを含めて主要な核種は全て含まれており、それ以外の核種はいわば特殊なものであり、使用にあたって規制免除の必要性はないとの考え方に立っている。
  また、免除レベル変更に関する従前との整合性については、従来の免除レベルは、100 Bq/g(自然放射性物質について500 Bq/g)であり、一般消費財に含まれる核種については、自然放射性物質以外の放射性物質については従来よりも免除レベルが高いので支障はないとしている。欧州委員会では各国の現行の免除レベルが異なるため、貿易時における問題を解決することを重要視している。
  EU指令書96では、EU加盟国における一般消費財のうち、食品、玩具、装身具、化粧品への放射能の添加は、数量の如何にかかわらず、規制免除が正当化されないとしている。
   
7.3 欧米諸国での取り入れ状況
    英国においては、1999年に定めた電離放射線規則(IRR1999)において、国際基本安全基準免除レベル295核種及びNRPB-R306で算出された470核種について免除レベルを導入している。一般消費財についての型式承認や条件付き免除(8.2.3参照)も関係の規則により規定されている。
  ドイツにおいては、2001年7月の放射線防護法令の改正により、英国と同様に国際基本安全基準免除レベル295核種及びNRPB-R306で算出された470核種を導入し、密封線源については、従来から取り入れている型式承認の方法を見直し、IAEAで規定している条件付き免除の制度を、免除レベルの10倍までという制限などを追加して、型式承認の制度として採用している。
  米国においては、2002年3月現在で、まだ核種別に評価した国際基本安全基準免除レベルの導入は行っておらず、免除レベルは5段階の群別で規定している。
  カナダについても、2002年3月現在で国際基本安全基準免除レベルの導入は行っていない。
  以上で述べた各国での、取り入れ状況と規制方法についての詳細を付録9に示す。

8. 国際基本安全基準免除レベルの国内法令への取り入れ
8.1 基本的考え方
    放射線障害防止法における定義数量は、これまで放射性同位元素の安全確保に十分な役割を果たしてきている。その制定以来40数年が経過し、この間にICRPは1977年と1990年に主要な勧告を発行し、「行為の正当化」、「防護の最適化」、「線量限度」という基本的原則に基づく放射線防護体系hが提唱された。この放射線防護の基本的考え方に基づき、科学的、社会的により進歩した考え方、数値が、免除レベルとしてIAEA等から提案されている。また、欧州を中心として、その取り入れの検討が進められるとともに、一部の国では既に国内法令に取り入れられている。
  これらの状況に鑑み、我が国としても基本的にはこれを取り入れることが適切であると判断される。
  国内法令に免除レベルを取り入れるにあたっては、各国の取り入れ状況や検討状況、更には、引続き国際機関等で議論が深められている事項もあり、これらの国際的動向を十分考慮するとともに、過去40数年間にわたる現行の定義数量に基づく国内の規制対象及び規制対象外の放射性同位元素の使用実態も把握、分析しつつ、規制の仕組みも併せて十分考慮することが重要である。
  また、免除レベルと関係する規制の除外、クリアランスレベル、自然放射性物質に対する介入i等については、本基本部会や原子力安全委員会等で今後より具体的、詳細な検討が進められると考えられる。当面予定する免除レベルの導入に際しては、これら関連する事項の考え方との整合性に配慮する必要がある。
   
8.2 国内法令への取り入れに係わる主要事項
8.2.1 国際基本安全基準免除レベルに示されていない核種の取扱
    免除レベルは、現在の科学技術庁告示第5号(平成12年10月23日)「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」(以下、「数量告示」という)に記載されている1020核種すべてについて値を用意することが望ましいが、現在までにBSSと同じ方法で算出されているのは、NRPB-R306にある765核種までである。数量告示に記載されている核種で、NRPB-R306で規定されているもの以外のものは、主に放射線発生装置で生成される半減期の短い核種(短寿命核種)である。これらの核種については、輸送や輸出入の対象にはなり得ず、国際基準との整合性をとる必要性は低い。そこで、必要に応じてγ・β線放出核種とα線放出核種というように、放出する放射線やその核種の半減期等により、グループ分けして免除レベルを設定することが考えられる。
   
8.2.2 密封線源の取扱
    国際基本安全基準免除レベルは、線源の密封・非密封により数値を区別していない。その理由としては、規制免除された密封線源では、それが廃棄処分されてからは、密封性が永久に担保されるものではないので、非密封線源と同様の扱いをするべきとの点がある。よって、免除レベルとしては、密封・非密封の区別を行わないことが望まれる。ただし、規制対象の線源については、密封・非密封のそれぞれの特性に対応した被ばく管理や処分が行われるように、従来から行われている密封・非密封を区別した規制方法の導入が望まれる。
  現行法令において定義数量以下で用いられている密封線源については、新たに規制対象になるものも多いと考えられるが、これらの密封線源の利用において、安全性を確保しつつ簡便性及び移動使用の特性を考慮した規制方法の検討が望まれる。
  また、日本工業規格(JIS)(Z 4821)では、密封線源とは、「カプセルに収められた放射線源で、そのカプセルは線源の設計条件下で、放射性物質が露出または散逸しないだけの十分な強さを持ったもの」と規定されている。これらを参考にして今後、密封線源の定義や密封性の担保に係る基準について検討する必要がある。
   
8.2.3 条件付き免除の仕組み
  BSSでは以下の要件を満たす機器について、条件付き規制免除の規定を設けている。
    1 規制当局によって認可された型式であること。
    2 放射性物質が人体や物と接触することやそれ自体が漏えいすることを有効に防止するような密封線源の形態であること。
    3 通常の運転状態において、人が触れる装置表面から0.1 mの距離における線量率が1μSv/時を超えないこと。
    4 処分に必要な条件を規制当局が定めていること。
  なお、3に示されている1μSv/時の線量率についての要件は、1962年に発行されたIAEA 基本安全基準(IAEA Safety Series No.9) からすでに用いられている。これは、十分な密封性を担保された密封線源であれば、外部被ばくだけを考慮すればよいとの考えで、これまで長期にわたり適切に用いられてきた基準である。
  この条件付き免除の取り入れについてドイツを例にとると、密封性が確認され、かつ放射能が免除レベルの10倍までの線源を使用した機器については「型式承認」という形で、条件付規制免除を行っている。これは、線源の密封性が担保されるのであれば免除レベルの10倍までは、その安全性が担保されるという考えに基づいている。また、ドイツにおけるこのシステムは「型式承認」という名称で呼ばれているが、これは「ある条件を満たした機器については、規制当局への届け出をしなくても使用できる」という、いわゆる「条件付き免除」であり、「規制の枠に入っているが、その機構が確認されたものについては、使用についての条件を緩和する」といった、我が国の放射性同位元素装備機器(表示付ガスクロマトグラフ用エレクトロン・キャプチャ・ディテクタ)で用いられている機構確認の概念とは異なっている。
  BSSの要件に従ったこのドイツの方法は、条件付き規制免除の仕組みによる、合理的な規制の一例であるものと考える。新たに規制対象になる密封線源や放射性同位元素装備機器については、今までの機構確認制度とともに、この条件付き規制免除による規制の仕組みの検討が望まれる。
   
8.2.4 免除された複数の線源の規制
    免除レベルの算出のシナリオにおいては、一個の線源の取扱についての被ばく線
  量を評価しているが、実際には免除された線源を複数個取り扱うことが考えられる。5.2で示したように、販売の場合における店舗の陳列や倉庫での保管については、国際基本安全基準免除レベル算出シナリオで包含されることが確認された。
  このような商品の販売以外の場合で、複数個の線源を同じ場所で同時に取り扱う作業については、線源全体を集合体としてとらえて、免除の考え方が適用し得ることを確認すべきである。現行の放射線障害防止法の定義数量における密封線源の集合体としての取扱(表1参照)との整合性も考慮して、複数個の免除された線源を取り扱う場合の規制方法について、検討することが必要である。
   
8.2.5 教育、医療等の分野における規制
    教育、医療、研究などの分野については、欧州委員会文書(RP-65)における免除レベル算出の際に、放射線の性質を説明するための教育上の使用、研究用実験室における生化学トレーサーj、病院におけるラジオイムノアッセイjなど少量の放射能を扱うものについては、規制を免除されるべきものとして示されている。このような利用は、BSSで規定された免除レベルを超えるような使用方法も考えられるが、安全が担保されることを前提に、これらの分野において放射性同位元素を利用する環境が整備されることを考慮されてもよい。とりわけ医療分野においては、放射性同位元素を用いた新しい医療技術の取り入れが望まれている。
  これらの分野において、それぞれの使用状況を考慮して、条件付き規制免除などを導入することも考えられる。
   
8.2.6 クリアランスレベルkとの整合性
    規制免除レベルと類似の概念としてクリアランスレベルの概念があるが、クリアランスレベルは放射線防護に係る規制の体系にあるものをその規制の体系から外してもよいものを区別するレベルである。
  これら2つの概念は放射線影響が無視できるほど小さいという線量規準を用いる点では共通している。しかしながら、クリアランスの対象物量については、医療活動など小規模事業から発生する廃棄物のクリアランスのように多くとも1トン規模のものから、原子力施設解体廃棄物のクリアランスのように数万トンから数十万トン規模まで広くまたがっており、免除の対象としている物量がせいぜい1トン規模であることと比較して、大きく異なっている。さらにクリアランスレベルと免除レベルでは、その算出において考慮した評価経路や評価パラメータなどが異なるため、同一核種に対して算出された数値が桁で異なる場合もある。
  このようなクリアランスレベルと規制免除レベルの整合性に関して、IAEAでは、BSSにおいて、「規制当局は、クリアランスレベルについて、規制免除より高くならないように決める」と規定している。また、対象としている物量に応じて異なるクリアランスレベルが規定される場合を想定すれば、年間物量が1トン程度までの比較的少ない廃棄物について最もレベル値が高くなるが、その場合でも、IAEAの報告書「医療、産業及び研究における放射性核種の使用によって生じる物質のクリアランス」(TECDOC−1000[16])においては、国際基本安全基準免除レベルと等しい値に設定されている。参考として、IAEAや我が国の原子力安全委員会において原子炉施設に対して検討された主な核種のクリアランスレベルを、国際基本安全基準免除レベルとともに付録10に示す。
  今後の我が国における放射性同位元素等使用施設についてのクリアランスレベルを検討する際に、以上に述べたクリアランスレベルと規制免除レベルとの整合性について考慮する必要がある。

9. 今後の課題
9.1 自然放射性物質の扱い
9.1.1 自然放射線源、製品・生産過程生成物質の影響
    UNSCEARの2000年報告書では、自然放射線源による被ばくの世界平均は、2.4 mSv/年であると評価されている。
  その内訳は、宇宙線等による外部被ばく 0.39 mSv/年、大地等からの外部被ばく 0.48 mSv/年、ラドン等の吸入による内部被ばく 1.26 mSv/年及び食物摂取による内部被ばく 0.29 mSv/年である。なお、同報告書の評価結果から、最も被ばくの要因となる自然の放射性核種は、U-238、Th-232系列核種であり、年間自然被ばくの約7割を占めている。U-238、Th-232の土壌中の放射能濃度について、人口分布を考慮した世界の平均値はそれぞれ33、45 Bq/kgと評価されている。
  生産活動においては、多くの異なった原料が使用され、それら原料中には、自然起源の放射性物質(Naturally Occurring Radioactive Materials (以下「NORMk」という))が含まれている。リン酸鉱石産業や鉱物砂加工業などの産業においては、前述の平均値よりも高い放射能濃度のU-238、Th-232を含む鉱物資源が原料として使用され、製造過程で発生した廃棄物中(場合によっては製品中)の放射能濃度がさらに高められる場合があり、UNSCEARの2000年報告書では、付録11に示すとおりに典型的な濃度についてまとめられている。これらの産業において、生産規模が大きい場合には、従業員、最も近隣の住民等の被ばくが高くなる可能性がある。
  同報告書では、各種産業の評価結果からリン酸鉱石産業、鉱物砂加工業では、少数の現地住民の被ばくが最大100μSv/年に達する場合があるが一般的には、1〜10μSv/年であろうと報告されている。そして、自然放射線源による年実効線量への寄与は無視できるとされている。
  欧州委員会報告書(RP-68)では、放射性物質を含む一般消費財について調査を行った。
  これによると、EU内で一般に利用されている一般消費財のうち、ウラン、トリウム等の自然放射性物質を含んでいる製品は、付録12に示すとおりであり、製品によっては国際基本安全基準免除レベルを上回るものも見られる。
   
9.1.2 自然起源の放射性物質に係る規制規準に関する国際機関における最近の検討状況
    IAEAでは、規制規準の10μSv/年のオーダーの線量では、実際のNORMのバックグラウンドと区別することが困難であることから、リスクの低減と現実的な規制管理の間には妥協が必要とされている。7.1で述べたように平成13年10月に開催されたIAEA放射線安全基準委員会(RASSC)では、放射性物質を含む商品の貿易の際に用いる介入免除レベルついて検討されているが、その検討において、自然界での通常の範囲の上限値である1 Bq/gのオーダーの濃度や、これによる数100μSv/年の線量に基づくべきとの提案がなされた。しかしながら、NORMについてはIAEAが「1 Bq/gのオーダー」という基準を設定すると、すでに基準値を決めて運用している国にとっては混乱を生じることになるとの意見があり、NORMの扱いについては、その後も検討が重ねられている。
  以上のように、IAEAにおいては、1NORMを含む物質の放射能濃度・放射能の算定に係る線量の目安の定義、2対象とする物質・製品の適用範囲、3欧州内で既に基準値を定めて運用している国との整合性、について検討が行われている。我が国は、今後とも、IAEAでの検討に積極的に参加する必要がある。
   
9.1.3 自然起源の放射性物質に係る規制に関する問題点
    NORMについては、ICRPの考え方によると、すでに線源、経路及び被ばくする個人が存在する場合は、「介入」の対象として取り扱う必要がある。その場合の免除レベルは、「行為l」を規制するための免除レベルではなく、ICRP Publ.82「長期放射線被ばく状況における公衆の防護」でも提案されている介入の免除の考え方を用いることになる。また、NORMは本質的に制御が不可能である場合が多く、規制対象としても、ほとんどそれによる個人の被ばく線量の低減が期待できないと判断できるものは「除外」の対象とすることがICRP Publ.60で明確化されている。我が国においても、ICRPの除外と免除の基本的な考え方に沿って、「除外」の範囲を規定する必要がある。
  しかし、NORMを用いた線源や商品を製造すること及びそれらを一般公衆に広く普及させることは、「行為」であると考えられる。その対象物は、基本的には規制の対象として取り扱うべきであり、その規制免除についても国際基本安全基準免除レベルを用いて判断することになる。
  ただし、規制対象の規準を規定するためには、その利用の実態を把握する必要があるが、NORMの利用は、9.1.1で述べたように諸外国においても多種多様にわたっており、我が国における実態についても現在のところ必ずしも明確ではない。新たに国際基本安全基準免除レベル値を導入する場合、現在明らかに介入や除外の対象から外れているものを「行為」の規制対象とし、その他については実態を踏まえてから、規制対象に加えるという方法をとらざるを得ない。またNORMによる被ばくについての介入は、現行法令の枠組みには取り込まれておらず、今後の検討課題である。
   
9.2 正当化mされない行為についての規制
    ICRPは、放射線被ばくを増やす人間の活動について、それが引き起こす放射線の損害を相殺するに十分な便益を社会や個人にもたらすものでない限り、当該行為は採用するべきではないという「行為の正当化」を放射線防護の基本的原則mとして挙げている。BSSでは、付則1(付録2参照)で示した免除に関する要件を満たせるものは基本的には免除してよいが、正当化ができないと考えられる行為に対しては、免除を認めてはならないと規定している。また、行為が正当化されるか否かは、基本的に社会的、経済的など他の関連要因を考慮して判断されるものと示されている。我が国の放射線防護に関する規制の仕組みにおいて、どのような行為が正当化されないかについて、その範囲を「除外」や「介入」などの課題とともに、今後検討する必要がある。
   
9.3 放射線を発生する装置の規制
    本報告書では、放射性同位元素の規制について検討したが、BSSでは放射線を発生する装置などの規制の免除について以下の規定を設けている。
  規制当局による認可を受けた型の放射線を発生する装置やすべての電子管については,以下のいずれかの条件を満たすこと。
  1 通常の使用状態で、人が触れる装置表面から10 cmにおける線量率が1 μSv/時を超えない
  2 発生する放射線の最大エネルギーが5 keVを超えない
  現在我が国においては、労働安全衛生法、船員法及び国家公務員法(人事院規則10-5)で、装置の防護基準の規制対象となるのは、定格管電圧が10 kV以上のエックス線装置である。なお、労働安全衛生法及び国家公務員法(人事院規則10-5)での設置の届出等の規制対象には管電圧による基準はない。また、医療法及び薬事法では定格管電圧10 kV以上のエックス線装置を防護基準及び届出等の規制対象としている。一方、放射線障害防止法では、装置表面から10 cmにおける線量率が600 nSv/時を超えないか、1 MeVを超えないエネルギーを有する電子線及びエックス線を発生する装置を規制対象外としている。
  このBSSが規定する放射線を発生する装置における規制の免除要件の国内法令への取り入れについては、この要件の妥当性や国内での利用実態を考慮して検討する必要がある。

10. おわりに
    当基本部会は、昨年4月以来、ICRPの勧告やIAEA等の報告書で示された免除に関する考え方や具体的免除レベルに関し、各国の動向、国内の利用実態等も踏まえつつ、被ばく評価のシナリオ等様々な角度から我が国独自の調査審議を進めてきたところ、放射性物質の国際間の移動に伴う国際的整合性等も考慮すれば、IAEA等が提案した国際基本安全基準免除レベルを国内法令に取り入れることが適切との結論を得た。

  国際基本安全免除免除レベルの国内法令への取り入れは、現行の規制と異なり、密封線源と非密封線源を区別せず同じ値を導入し、かつ、現行の規制レベルの変更を伴うことから、現在規制対象外の放射性同位元素が新たに規制対象に加わること、また、医療や教育、研究などの分野においては、放射性同位元素の極めて有効な利用があることから、一律に従来方式の規制方法を適用するのではなく、IAEAの報告書や海外の事例にあるとおり、条件付き免除のような新たな規制の仕組みも行政庁において十分検討し、適切な規制方法を導入することが重要であると判断される。

ss   また、ウラン、トリウム等の自然放射性物質を含む物質については、国内の利用実態や海外の動向を十分調査したうえで、その免除レベルを調査審議する必要がある。また、放射線を発生する装置における免除の要件や正当化されない「行為」に関する免除についても、今後更に本基本部会で検討することが必要である。それらの結論も合わせ、行政庁において規制の仕組みが検討され、放射性同位元素及び放射線を発生する装置に対する我が国の規制方法が全体としてより適切なものになることが期待される。



[1] 1990 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection., ICRP(1991)
a 潜在被ばく、線量拘束値、除外、免除:用語解説(付録1)を参照
本報告書では、「放射性同位元素」を一般的な用語の意味で用いるが、放射線障害防止法で定義される「放射性同位元素」については、イタリック体で表示し区別する。
b 放射能;用語解説(付録1)を参照
*Ci (キュリー)は、放射能を表す単位であり、国内法令において昭和63年に国際単位系(SI)の導入により、Bq(ベクレル)に変更された。1 Ci=3.7×1010 Bq
[2]  International Basic Safety Standards for Protection against Ionizing Radiation and for the Safety of Radiation Sources, Safety Series No.115, IAEA, Vienna (1996).
[3] Principles for the Exemption of  Radiation Sources and Practices from Regulatory Control, Safety Series No.89, IAEA OECD/NEA, Vienna (1988).
[4]  Radiation Protection-65,Principles and Methods for Establishing Concentrations and Quantities(Exemption values)Below which Reporting is not Required in the European Directive., CEC,(1993)
[5]  Exemption concentrations and quantities for radionuclides not included in the European Basic Safety Standards Directive., NRPB, (1999)
[6] Dose Coefficients for Intakes of Radionuclides by Workers., ICRP (1994)
[7] Age-dependent Doses to Members of the Public from Intake of Radionuclides:Part 5, Compilation of Ingestion and Inhalation Dose Coeffecients., ICRP (1996)
c 最適化:用語解説(付録1)「放射線防護体系」を参照
集団線量預託:用語解説(付録1)を参照
[8] Harvey.J.M,Chapuis.A.M,Guetat.Ph. and Renaud. Ph.,Calculation of doses associated with suggested exemption quantities and concentrations and the derivation of proposed exemption levels.
d 確定的影響、永続平衡、娘核種:用語解説(付録1)を参照
[9] Principles of Monitoring for Radiation Protection of the Population., ICRP(1985)
[10] Clarke, RH, Fleishman, AB, The establishment of de minimis levels of radioactive wastes, paper presented at 6th IRPA Congress, Berlin, 1984.
[11] Travis. CC, Richter. SA, Crouch. EAC, Wilson. R, Klema. D., Cancer risk management, Environ. Sci. Technol. 21, 415-420, 1987
[12] Spangler, MB, De minimis risk concepts in the US Nuclear Regulatory Commission, Part 1, As low as reasonably achievable, Project Appraisal 24, 231-242,1987
e 自然バックグラウンド:用語解説(付録1)「バックグラウンド」を参照
[13] Ionizing Radiation:Sources and Biological Effects., UNSCEAR (1982)
[14] 原子力安全研究協会“生活環境放射線”1992年
[15] 阿部史郎、我が国における自然の空間放射線分布の測定、保健物理、17, 169-193, 1982
一般消費財:用語解説(付録1)を参照
介入の免除:用語解説(付録1)を参照
h 放射線防護体系:用語解説(付録1)を参照
i 介入、放射線防護体系:用語解説(付録1)を参照
j 生化学トレーサー、ラジオイムノアッセイ:用語解説(付録1)を参照
[16] Clearance of materials resulting from the use of  radionuclides in medicine, industry and research., IAEA, Vienna (1998).
k クリアランス、NORM:用語解説(付録1)を参照
l 行為:用語解説(付録1)を参照
m 正当化、放射線防護の基本的原則:用語解説(付録1)「放射線防護体系」を参照