(科学技術国際活動の戦略的展開について)
目次
第4期科学技術基本計画を踏まえての科学技術国際活動の戦略的展開 2
1. 基本認識 2
(1) 第4期科学技術基本計画における科学技術国際活動の位置付け 2
(2) 国内外の状況 2
(3) 世界と一体化した国際活動の戦略的展開 3
(4) 基礎研究及び人材育成の強化 4
2. 科学技術国際活動を戦略的に展開するための具体的方策 4
(1) 分野や相手国に応じた多様で重層的な協力 5
(2) 国際的な人材・研究ネットワークの強化 7
(3) 科学技術国際活動を展開するための周辺環境整備、基盤強化 11
附属書1 大学等の若手研究者の国際活動低調化の原因把握とその対応 15
1.若手研究者の国際活動の状況 15
(1)研究者の国際流動性、国際共同研究の状況 15
(2)大学等の若手研究者の意識と国際流動性の状況 16
2.中長期派遣研究者数減少の背景とその対応 18
(1)中長期派遣研究者数減少の背景 18
(2)中長期派遣研究者数減少への対応 18
附属書2 東日本大震災による国際研究交流への影響とその対応 20
1.東日本大震災による国際研究交流への影響 20
2.東日本大震災により生じた科学技術の国際活動を妨げる事象 21
3.東日本大震災を踏まえて我が国に求められる対応 22
「科学技術基本計画」(平成23年8月閣議決定)では、我が国が中長期的に目指すべき国の姿として、1震災から復興、再生を遂げ、将来にわたる持続的な成長と社会の発展を実現する国、2安全かつ豊かで質の高い国民生活を実現する国、3大規模自然災害など地球規模の問題解決に先導的に取り組む国、4国家存立の基盤となる科学技術を保持する国、5「知」の資産を創出し続け、科学技術を文化として育む国、を掲げ、政策を推進することとしている。
また、上記の国の姿を実現するため、世界最高水準の優れた知的資産を継続的に生み出すとともに、我が国が取り組むべき課題を明確に設定し、イノベーションの促進、成果の社会還元に向けて、科学技術政策を総合的かつ体系的に推進することとしている。
科学技術国際活動については、「我が国が直面する重要課題への対応」の一環として「世界と一体化した国際活動の戦略的展開」を図ることとしている(第3章)。また、独創的な研究成果を生み出し、発展させて新たな価値創造につなげるため、「基礎研究の抜本的強化」、「科学技術を担う人材の育成」、「国際水準の研究環境及び基盤の形成」を図ることとしている(第4章)。
(国内)
我が国は少子高齢化や人口減少(図1、2)など、将来の社会的、経済的活力の減退につながる問題に直面しており、今後の国内市場の縮小は避けられない状況にある。国内総生産(GDP)は、近年ほぼ横ばいで推移しており(図3)、国民一人当たりGDPの国際的な順位も低下している(図4)。
また、若者の理工系離れが進み、優秀な技術者・研究者が退職年齢を迎えつつあることから、今後の科学技術人材の確保には懸念がある。我が国のイノベーションシステムの国際競争力強化も大きな課題である。
平成23年3月に発生した東日本大震災の影響により、研究施設と設備が損壊し、海外からの研究者等が帰国あるいは来日延期が確認されたが、現在その影響は回復してきている(図2-1~11)。これまでの科学技術政策の問題点等について真摯に再検討し、その結果を丁寧に、かつ率直に、国内外に情報発信していく必要がある。
(国外)
環境問題をはじめ、世界の国々が協調、協力して取り組むべき地球規模の問題はますますその深刻さを増している。一方、資源、エネルギー、食料などの国際的な獲得競争が激化している。
さらに、経済におけるグローバル化の一層の進展、新興国市場における競争の激化、消費者ニーズの多様化等に伴い、イノベーションの迅速な実現が一層重要となり、イノベーションのシステムがオープン、グローバル、フラットなものに大きく構造変化するとともに、科学技術に関する研究開発の市場化も進展している。
また、世界的に頭脳循環(ブレインサーキュレーション)が進み、科学技術及びイノベーションの鍵となる優れた人材の国際的な獲得競争がますます熾烈となっている。
近年、中国は積極的な研究開発投資と先進国への人材派遣(図5、6)、手厚い処遇による人材呼び戻し政策等により論文数等を大幅に増加させ、急速に存在感を増している(表1、図7)。また、EUでは「欧州研究領域(ERA)」を達成するため「第7次フレームワーク・プログラム(FP7)」等の共同研究事業を実施することで国際共著率、論文被引用度を高めてきている(図8~10)。このような中、我が国は次第に世界の中で論文数、高被引用度論文数、国際共著相手としてのシェアを失いつつある(図11~14)。また、我が国における外国人研究者の割合は欧米諸国と比較して低い状態にある(図15)。
我が国が直面する重要課題は、地球規模課題をはじめ、それ以外の課題も中長期的には世界的な共通課題となることが想定される。また、世界的な成長センターとしてのアジアの台頭、我が国における少子高齢化の趨勢を考えれば、科学技術イノベーションにおける国際競争力の維持、強化を図るため、国として、世界の活力と一体になった科学技術活動の国際展開が一層重要となる。
我が国の科学技術は世界でも有数の高い水準にあり、これを積極的に活用し、先進国から途上国まで重層的な連携、協力を促進することにより、我が国が直面する重要課題への対応、科学技術水準の向上、さらには、これらの外交活動への活用を積極的に推進する。
「科学技術外交の強化に向けて」(平成20年5月総合科学技術会議決定)では、科学技術外交について「科学技術の更なる発展のために外交を活用するとともに、外交目的に科学技術を活用する取組を推進する。今後は特に、科学技術と外交の連携を高度化し、相乗効果(シナジー)を発揮するよう重点的に取り組むべき」としている。
「科学技術外交」は科学技術による国際貢献を含む概念であるが、科学技術国際活動を戦略的に推進するに当たっては、イノベーションシステムのグローバル化が進展していることを勘案し、我が国の科学技術イノベーションに貢献する活動を優先的に推進することとする。
基礎研究の振興は、新たな知の資産を創出するとともに、世界共通の課題を克服する鍵となる。課題達成を進めていくのは、それに携わる人である。
我が国としては、科学技術イノベーションの推進を担う多様な人材を、中長期的な視点から、戦略的に育成、支援していく必要がある。特に、近年、あらゆる活動がグローバルに展開される中、人材の国際的な獲得競争は一層激化しており、国を挙げて科学技術イノベーションを強力に推進する観点から、優れた人材の育成及び確保に関する取組を強化する。また、世界に開かれた研究開発環境を構築し、国際水準の研究開発活動や、人材育成、確保に資する国際的な交流、循環を促進し、国際的な研究ネットワークを強化する。
さらに、我が国が世界トップクラスの人材を国内外から引きつけ、世界の活力と一体となった研究開発を推進していくためには、優れた研究施設や設備、研究開発環境の整備を進める必要がある。このため、国際水準の研究環境及び基盤の整備を一層促進する。
文部科学省では、科学技術イノベーション政策を戦略的に推進していくために、内外の科学技術動向を俯瞰・分析し、政策判断の根拠となる情報を提供する科学技術インテリジェンス機能を強化することとしている。
以下、「(1)分野や相手国に応じた重層的な協力」、「(2)国際的な人材・研究ネットワークの強化」、「(3)優秀な外国人研究者受入れ促進のための周辺環境整備、基盤強化」のそれぞれについて、関係事業の現状、実績、成果等を示す。今後更に改善すべき点については、別途今後の取組方針を示す。
我が国及び相手国の強み、弱みの分析を踏まえ、国際社会における科学技術イノベーション活動における各国の位置付けやその変化等も勘案しながら、先進国から開発途上国まで多様で重層的な国際共同研究を実施する。その際、共同研究の場が科学技術人材の国際的な活躍の場となるよう留意する。
我が国の科学技術の維持・向上を図るため、欧米等の先進国とは先端的な科学技術研究を通じて戦略的な研究ネットワークの構築を推進する。
今後著しい発展が見込まれる東アジア諸国等の新興国に対しては、共同研究を通じて環境・エネルギー等の共通問題の解決に向けて積極的な役割を果たし、優れた人材の研究ネットワークへの取り込み等を図る。
開発途上国に対しては、地球規模課題の解決、開発途上国における科学技術の発展、人材育成等への貢献に資する共同研究を通じて我が国の研究を進展させ、我が国を含む世界の安全・安心に貢献する。
1)欧米等先進諸国や東アジア諸国との国際共同研究等の推進
1 戦略的国際共同研究事業(SICORP)
国際共通問題の解決、国際連携による我が国の科学技術力の強化に資する成果を得るため、欧米等先進諸国や東アジア・サイエンス&イノベーション・エリアの構築を共に目指す東アジア諸国の中から、政府間合意に基づき、戦略的に重要なものとして国が設定した相手国・地域及び研究分野において、イコールパートナーシップの下、国際共同研究を推進する。
平成21年度以降5か国・地域と6分野で協力を実施している(図16)。本事業による国際共同研究を通じて国際共著論文の作成、学会発表、特許出願につながる成果が得られている(図17)。
(東アジア・サイエンス&イノベーション・エリア構想
共同研究プログラム(e-ASIA JRP))
東アジア地域において、科学技術分野における研究交流を加速することにより、研究開発力を強化するとともに、環境、防災、感染症など、東アジア諸国が共通して抱える課題の解決や経済発展、人材育成への寄与を目指すプログラムである。本プログラムでは、メンバー国のうち3か国以上により実施される共同研究を支援する。
平成24年6月には、シンガポールにて第1回理事会を開催し、同プログラムが発足した(図18)。平成24年10月までに共同研究プロジェクト3課題が採択された。
平成24年10月現在、日本をはじめベトナム、タイ、インドネシア、ラオス、フィリピン、ミャンマー、マレーシアの8か国が本プログラムに参加しており、他の関係国においても、参加に向けた検討が行われている。
【今後の取組】
e-ASIA JRPについて、我が国のイニシアティブで開始する本プログラムが軌道に乗るよう、未参加の東アジア諸国の参加を促すとともに、多国間協力による相乗効果が得られるようにプロジェクトを推進する。また、複数国が参加する共同研究に我が国の研究者、特に若手研究者が積極的に関われるよう大学等に情報発信等の働きかけを行っていくことが必要である。
2 戦略的国際科学技術協力推進事業(SICP)
我が国と諸外国との関係強化に資する成果を得るため、政府間合意に基づき、戦略的に重要なものとして国が設定した相手国・地域及び研究分野において、イコールパートナーシップによる国際研究交流を実施する。
平成15年度以降23か国・地域と33分野で協力を実施している(図16)。国内外の研究者間での研究交流を促進しており、本事業による国際研究交流を通じて国際共著論文の作成、学会発表、特許出願、研究者等の相互訪問につながる成果が得られている(図17)。国際研究交流の実績は、二国間科学技術協力協定に基づく科学技術協力合同委員会等の政府間協議の場等において、二国間協力の実績として活用されている(図19)。
(国際緊急共同研究・調査支援プログラム(J-RAPID))
東日本大震災の発生を受けて、本事業の一環として、国際的に重要性を持つ緊急対応が必要な事象に対して行われる国際共同研究・調査を支援するため「国際緊急共同研究・調査支援プログラム(J-RAPID)」を新たに立ち上げた。本プログラムは平成23年10月にタイで発生した水害においても適用され、これまでに35課題の国際共同研究を支援した(図20)。
2)開発途上国との国際共同研究の推進
1 地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)
開発途上国のニーズを踏まえ、地球規模課題の解決と、将来的な社会実装に向けた国際共同研究を推進するため、文部科学省及び独立行政法人科学技術振興機構(JST)並びに外務省及び独立行政法人国際協力機構(JICA)が連携し、国際共同研究と政府開発援助(ODA)を組み合わせた研究支援を行う。
平成20~24年度までに、35か国にて68件(地域別ではアジア34件、アフリカ19件等)を採択しており(図21)、特許出願から企業の協力を得て製品の実証試験につながる成果が得られている(図22)。登録制コミュニティサイト(SNS)である「Friend of SATREPS」を通じた交流も盛んに行われている。
【今後の取組】
本事業では社会実装に向けた取組が行われているが、今後更に現地資源を活用して我が国の研究開発を進展させるとともに、産学等の連携を加速して研究成果の社会実装、イノベーションに向けた取組を推進するべきである。
3)大型国際プロジェクトの推進
統合国際深海掘削計画(IODP)、国際熱核融合実験炉(ITER)計画等の多くの国が関わる国際大型プロジェクトは、研究開発を集中的に進めるだけでなく、これに携わる若手研究者にとっては貴重な成長の機会であり、人材育成にとっても有益であると考えられるため、積極的に推進する。
国際共著論文の増加に見られるように、世界の科学技術コミュニティは一層緊密度を増している。また、世界の一線級の研究者の多くは科学技術のフロンティアを目指し、国や機関を越えた移動を通じて成長している。このため、我が国の若手研究者がグローバルに活躍できるよう育成を図る観点から、若手研究者の海外派遣及び海外の優れた研究者の招へいを促進し、国際的な人材・研究ネットワークを強化することが重要である。
人材・研究ネットワーク上の重要なハブとして日本を位置付けることにより、海外の優秀な研究者や研究機関等の外部資源を日本に取り込むとともに、また、国内資源を海外に展開することにより、世界の活力と密接に連携した強靭な研究開発システムを実現する。
研究者を海外派遣することにより、1日本人研究者が海外の先端研究に参画し研究能力を高める、2国際水準の研究や研究コミュニティの在り方等を直に体験する、3国際研究ネットワークに入り込み、その核として活躍できる力を身につける効果が期待できる。
また、外国人研究者等の受入れにより、1外国人研究者の知識や技能を我が国の研究促進に活用、2世界水準で切磋琢磨する研究環境を国内に醸成、3日本を核とする国際的な人材・研究ネットワークを構築することが期待できる。
1)若手研究者の海外派遣・外国人研究者の招へい
1 頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣事業 (組織支援)
頭脳循環において国際研究ネットワークの核となる優れた研究者の育成を図るため、研究組織の国際研究戦略に沿って、若手研究者を海外へ派遣し、派遣先の研究機関と行う世界水準の国際共同研究に携わり、様々な課題に挑戦する機会を提供する大学等研究機関を支援する。
平成22~23年度の海外派遣実績は計599人であり、主な派遣先は、欧州(47.2%)、北米(30.2%)、アジア(14.1%)となっている(図23)。
2 海外特別研究員事業(個人支援)
優れた若手研究者が、海外の大学等研究機関において、自らの研究計画に基づき長期間研究に専念できるよう支援することにより、我が国の学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保することを目的とする。
平成24年度の採用実績(予定を含む)は419人、うち新規採用数は184人であり、主な派遣先(平成23年度実績)は、北米(62.9%)、欧州(32.7%)となっている(図24)。
3 外国人特別研究員事業(個人支援)
諸外国の優秀な若手研究者を我が国の大学等に受け入れ、共同研究等に従事させることにより、我が国の学術研究水準の向上や研究環境の国際化推進を図るとともに、当該国の研究者養成に寄与することを目的とする。
平成23年度には計1,278人の外国人特別研究員が日本で研究に従事した。地域別では、ほとんどがアジア(45%)、欧州(34%)、北米(11%)となっている(図25)。
本事業で受け入れた外国人研究員が高校を訪問して研究の概要や自国の歴史・文化等を英語で講演する「サイエンス・ダイアログ」を年間100件程度実施し、受け入れ地域との交流を促進している。
【今後の取組】
1 研究者の海外派遣に伴う国際共著論文の作成を促進
「頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣事業」(理工系分野)で平成22年度に採択した事業のうち、派遣者数が多い19事業に対して国際共著論文数を調査したところ、事業によって国際共著論文数には違いが見られたが、全ての事業で派遣研究者当たり1本以上の国際共著論文が作成される見込みであることを確認できた。(表2)
このことを踏まえ、研究者の海外派遣が国際共著論文の作成につながるように、派遣期間の終了後に、派遣研究者が海外の研究機関に所属する研究者と作成した国際共著論文の作成状況について報告を求めるべきである。
2 優れた海外研究機関との人材・研究ネットワークの構築
共著ネットワークと科学協力のパターンに関する既存の研究 から、理論的な研究手法を主体とする分野(数学等)よりも実験的な研究手法を主体とする分野(生物学等)の方が論文当たりの著者数が多い傾向にあることが分かっている。また、研究者同士は数多くの共著を行い影響力のある中心的な研究者を介して平均数人程度の距離でつながっていることが分かっている(表3)。そのため、国際的な研究ネットワークに入り込み、国際共著論文を増加させるには、優れた研究者と共著関係を構築することが重要である。
このことを踏まえ、文献分析等の結果に基づき、日本再生を牽引する革新的なイノベーションの創造を目指して平成25年度概算要求を行っているセンター・オブ・イノベーション(COI)のような我が国の優れた研究拠点と海外の優れた研究拠点との間に強固な人材・研究ネットワークを構築し、国際人材の育成を促進するため、これらの拠点間で行う国際共同研究に携わる若手研究者の派遣・招へいを行う大学等研究機関を支援するべきである。
※ 「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣事業」の平成25年度概算要求では、研究者派遣を行う機関を支援する従来の「一般枠」に加えて上記支援を「特別枠」として要求している。(研究者の派遣に加え、招へいも支援の対象としたことにより、事業名を「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外交流推進事業」に変更している。)(図26)
3 研究者の中長期海外派遣の推進
「日本再生戦略」(平成24年7月閣議決定)では、日本人の海外長期派遣研究者数を2020年度までに2010年度の2倍とする成果目標が示されている。
国際的な人材・研究ネットワークを強化するためには、研究者を海外で開催される研究集会等に一時的に派遣するのではなく、研究者がある程度の期間海外に滞在し、国際共同研究等を通じて海外の研究者と対面してコミュニケーションを行う経験を積むことが重要と考えられる。
「国際研究交流状況の概況(平成22年度)」によると、平成22年度における30日超の海外派遣研究者数は4,272人である(図1-1)。
30日超の海外派遣を促進し、当該目標の達成に資するため、研究者派遣に関する事業を推進するべきである。また、国際研究交流に関する支援事業以外の研究支援事業の審査・評価に、事業の趣旨に応じて、研究者の海外研究機関への中長期派遣を積極的に評価する視点を導入することが望ましい。
4 人材・研究ネットワーク形成に資する取組への積極的な評価
国際的な人材・研究ネットワークを強化するため、国際研究交流に関する支援事業以外の研究支援事業の審査・評価にも、事業の趣旨に応じて、国際共著論文の作成、研究者の派遣・招へい等の取組を積極的に評価する視点を導入することが望ましい。
2)国内における国際研究拠点整備
科学技術の国際活動を活性化する上で、もう一つ重要な観点は、頭脳循環の中核的拠点として我が国に世界トップレベルの研究拠点を整備することである。
中核となる優れた研究者が物理的に集合し、拠点長の強力なリーダーシップのもと、英語の使用を基本とし、スタッフ機能も含めて研究者が研究に専念できる環境を構築する世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、世界の優秀な人材流動の「環」の中に位置づけられる拠点を国内に形成するとの観点で極めて意義が深い。平成24年度には、先鋭な研究領域に焦点を絞ることにより世界トップレベルの拠点形成を目指す構想を3件程度新たに採択し、支援することとしている。研究拠点の国際化は、WPIだけでなく、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)等の支援事業を組み合わせることで更に促進されることから、様々な支援事業を活用して各拠点による研究リソースの獲得を一層促進すること等を通じ、拠点としての機能強化を図っていく必要がある。
また、国際的競争と協調による、国内外の多数の研究者が参画する学術の大規模プロジェクトについては、すべての研究分野を対象に一定の優先順位を明記した「ロードマップ」に基づいて、「大規模学術フロンティア促進事業」により戦略的・計画的に推進しており、国内外の優秀な研究者を引きつける国際的な頭脳循環の核となる研究拠点の形成を促進している。
さらに、世界最先端の研究施設(大強度陽子加速器施設(J-PARC)、X線自由電子レーザー施設(SACLA)及び大型放射光施設(SPring-8)等)においても国際拠点の形成が大いに期待できる。こうした優れた研究設備・施設の整備は優れた外国人研究者を受け入れるための基盤の強化にも有効である。
世界から多様なバックグラウンドを持つ優秀な外国人研究者を我が国に受け入れることにより、切磋琢磨できる研究環境の中で我が国の研究者が触発され、研究の促進が見込まれるのみならず、国際的な人材・研究ネットワークが構築されるなどの効果が見込まれる。
世界的な頭脳循環が進展する中、我が国の研究機関等が国際的な視点を取り入れて新たな発想を生み出していくため、科学技術国際活動を展開するために必要となる周辺環境整備、基盤強化を推進することが必要である。
1 政策対話の推進、海外情報の活用
科学技術合同委員会等の機会を活用して、新たな科学技術協力について合意を交わすなど、科学技術に関する二国間、多国間の国際協力活動を戦略的に進めている。こうした活動を行うに当たり、必要となる海外の科学技術動向等に関する情報は、研究機関の海外拠点や在外公館等を活用して収集している。
また、我が国の国際活動の幅を広げる観点から、民間団体による科学技術に関する政策対話を支援する「科学技術外交の展開に資する国際政策対話の促進」事業を実施している。
2 基礎研究強化のための基盤整備
(a)国内外の優れた人材を引きつける質の高い研究環境、基盤の整備
優れた人材を引きつけ、国際化を推進するためには、十分な機能を持つ質の高い施設や設備を整備する必要がある。我が国においては、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)のほか、世界最先端の研究施設(大強度陽子加速器施設(J-PARC)、X線自由電子レーザー施設(SACLA)及び大型放射光施設(SPring-8)等)の整備を行っている。
我が国では、46%の大学院において、外国人教員の受入れを促進するため、語学に精通した職員を配置して国際対応の事務を行う国際戦略本部を設置、学内の事務連絡に英文と和文を併用、外国人教員・研究員向けの宿舎を整備するなどの取組について実施あるいは実施に向けた検討が行われている (図27)。
「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外交流推進事業」では、優れた国際共同研究に伴う若手研究者の派遣・招へいを通じて国際的に活躍できる人材を育成、将来の頭脳循環につながる国際的な人材・研究ネットワークを構築するとともに、その前提となる研究活動の支援体制が適切に整備される計画であることを審査時に確認することとしている。本事業では、このことにより、COIが革新的なイノベーションの創造という目標を達成できるよう、世界トップレベルの海外研究拠点との交流及び国内外の優れた人材を引きつける魅力的な研究体制の整備を一体的に促進することとしている。
(b)人材・研究ネットワークの維持、強化
JSPSでは、外国人特別研究員事業による支援期間終了後も研究者ネットワークを維持するため、英文ニューズレター(JSPS Quarterly)などによる各種情報提供のほか、事業経験者を中心に設立された研究者コミュニティ(世界13か国で設置)が開催するシンポジウム等への支援を行っている。
また、研究者ネットワークの維持、強化を図るため、研究者コミュニティに所属する外国人研究者を我が国に再招へいし、共同研究・セミナー、講演等の実施を支援する「外国人再招へい事業(BRIDGE Fellowship Program)」を実施している。
(c)出入国管理制度上の優遇等
我が国では、研究者を含んだ外国「高度人材」の受入れを成長戦略の重要な一翼として位置付けており、平成21年5月に高度人材受入推進会議が取りまとめた「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」において、受入れ推進のための基本戦略等が示された。
本報告書を踏まえ、平成24年3月30日に、学歴、研究実績等を考慮したポイント制を活用して高度人材の出入国管理上の優遇措置を講ずる制度に関する法務省告示が制定された。
また、高度人材の卵としての留学生の就労を支援するため、日本学生支援機構による就職支援、厚生労働省による外国人雇用サービスセンター(平成20年度より留学生等の高度人材の就職支援の拠点として設置)によるマッチング等の取組が行われている。
【今後の取組】
1 周辺環境の整備、災害に強い研究基盤の構築
地震等の災害が発生しやすい地理的環境にある我が国において、外国人研究者が我が国で安心して研究を継続できるようにするためには、周辺環境の整備、災害に強い研究基盤の構築が不可欠である。
具体的には、災害時における外国人研究者への情報伝達体制(外国人研究者とのコンタクトパーソン、連絡方法、連絡事項等を定めた災害対応マニュアル)、研究を継続できる体制(災害時の業務継続計画)を整備するとともに、その実効性を確認するため防災訓練を行うことが望ましい。
また、国際共同研究等を通じて世界の共有知として活用が見込まれる防災・減災のための研究(災害等から得られた大量で、多種・多様なデータ(ビッグデータ)を容易に分析可能な形に蓄積・構造化する技術等の研究開発等)を推進するとともに、その成果を国内外に発信するべきである。
2 研究支援事業における英語での周辺環境整備、基盤強化
世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、科学研究費助成事業及び戦略的創造研究推進事業では英語による申請も可能であるが、他の研究支援事業については英語による申請への対応が進んでいない。外国人研究者が、英語で我が国の研究支援事業に応募できるように、事業の趣旨に応じて対応を進めることが望ましい。
3 科学技術国際活動の戦略的推進のためのデータベースの活用
米国の全米科学財団(NSF)では、連邦政府その他の機関による政策形成のための情報源を提供することを目的にして、科学者・技術者に関する統計データをまとめた「SESTAT」(本業と給与、資格、米国政府による研究支援、所属学協会、学位、市民権、年齢、性別、出生国等を収録)等のデータベースを運用している。
JSPSでは、研究者派遣等の国際活動に活用することができるように、研究者の派遣事業を通じて得られた研究機関、研究者情報を蓄積したデータベースを有していることから、こうした既存のデータベース等を科学技術国際活動の戦略的展開に活用することが望ましい。
4 評価方法の改善
現在、若手研究者の中長期派遣が減少している背景として、帰国後のポストの確保に不安があること等を勘案し、独創的で優れた研究者を育成するため、海外での研究実績など、多様な観点から能力本位の公正かつ柔軟で透明性の高い評価を行う人事システムを構築することが望ましい。
近年、中長期(30日を超える期間)で外国に派遣される研究者数の減少等を根拠として、若い世代の「内向き志向」意識が指摘されている。また、我が国の論文数が先進諸国等と比較して伸び悩み、世界的な国際共著論文急増の流れに取り残されている等の問題点が指摘されている。これらの指摘について、データに基づいて現在の状況、その背景を確認した上で、対応の方向性について考え方を整理する。
我が国の研究者が、海外の大学、研究機関や、国内の国際研究拠点で研究活動を行うことで期待される効果として、主に以下のことが挙げられる。
短期(30日以内)で国際的な研究環境に身を置いた場合よりも、中長期で国際的な研究環境に身を置いた場合の方が、研究者に対してこれらの効果をより強く期待できると考えられる。
近年、情報通信技術の発達等により、海外に移動し、長期間滞在することなく国際活動を行うことが可能となってきているが、先進諸国と比較して国際共著論文数等の伸びが低調であることから、国際共同研究を担う人材を養成し、将来にわたって我が国の科学技術活動を推進する観点から、若手研究者の国際活動を振興する必要がある。
短期派遣研究者数は増加を続けてきたが、近年横ばい傾向で推移している。一方、中長期派遣研究者数は平成12年度の半数程度に減少し、近年横ばい傾向で推移している(図1-1)。中長期派遣研究者数の減少について地域別に見ると、特に欧米への派遣研究者数が大幅に減少している(図1-2)。
平成22年度の海外派遣者のうち、若手(37歳以下及びポスドク)の占める割合は、短期21.5%、長期35.2%であり、派遣期間が長期になるほど若い研究者の比率が増える傾向にあることから、中長期派遣研究者の減少は比較的若手研究者の動向を反映したものと考えられる。
豊かな語学力・コミュニケーション能力や異文化体験を身につけ、国際的に活躍できる若い世代を育成する観点から、学生にとって海外留学は貴重な経験であるが、「日本人の海外留学者数」(平成24年1月文部科学省)では、経済協力開発機構(OECD)等における統計をもとに集計した結果、日本人の海外留学者数は平成16年以降減少傾向にあることが示されている(図1-3)。
また、全米の高等教育研究機関を対象に、年齢を問わず、所属する日本人研究者数をほぼ漏れなく集計した「OpenDoors Data: International Scholars」では、米国の高等教育機関に所属する日本人研究者(教員)は減少傾向にあることが示されている。(表2-1)。
研究者の国際流動性について、「我が国の科学技術人材の流動性調査」(平成21年1月文部科学省科学技術政策研究所)では、研究者に対する意識調査の結果、我が国は他先進諸国と比較して流動性が低いという回答が多かったことが示されている(図1-4)。また、「研究者国際流動性の論文著者情報に基づく定量分析-ロボティクス、コンピュータビジョン及び電子デバイス領域を対象として」(平成23年8月文部科学省科学技術政策研究所)では、論文誌の著者情報から学位取得組織と論文発表時の所属組織を抽出し、定量的に解析した結果、我が国の国際流動性が他国と比較して際だって低いことが示されている(図1-5)。
「論文の被引用数から見る卓越した研究者のキャリアパスに関する国際比較」(平成23年8月文部科学省科学技術政策研究所)によると、世界で活躍する日本の高被引用研究者は、7割以上が海外での勤務を経験していることが示されている(図1-6)。
「科学技術人材に関する調査~研究者の流動性と研究組織における人材多様性に関する調査分析~」(平成21年3月文部科学省科学技術政策研究所)によると、若手研究者を中心に機会があれば外国で研究の視野を広げたいとの意向を持つ者が一定規模存在することが示されている(図1-7、表1-2)。
「科学技術人材の関する調査~研究者の流動性と研究組織における人材多様性に関する調査分析~」では、海外の研究コミュニティに参加できること等が海外で研究を行いたい理由として示されており(図1-8)、「ポストドクター等のキャリア選択と意識に関する考察~高年齢層と女性のポストドクター等を中心に~」(平成20年1月文部科学省科学技術政策研究所)では、ポスドク自身が研究職に就く上で必要と思う能力・経験として、語学力や海外経験を挙げていることから(表2-3)、若手研究者は海外経験の必要性を積極的に認めていると考えられる。
また、「我が国における博士課程修了者の国際流動性」(平成22年3月文部科学省科学技術政策研究所)」では、日本人の博士課程修了者で修了直後に就職した者のうち海外就職者の比率は、国外での研究経験がある場合の方が、ない場合より4倍以上高い結果になることが示されている(表2-4)。
しかしながら、「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-大学・公的研究機関への全数調査(2009年度実績)-」(平成23年12月文部科学省科学技術政策研究所)によると、博士課程修了者、ポストドクターのうち、実際に海外に転出しているのはごく少数であり(図1-9、10)、中長期派遣者数も低い水準にとどまっている(図1-1)。
以上のことから、少なくとも若手研究者に「内向き志向」意識があると結論づけるのは偏った見方であり、中長期の海外派遣研究者数が減少した背景には、大学等の若手研究者を取り巻く状況の変化があると考えられる。
そのため、大学等における若手研究者を取り巻く環境を改善し、国際活動を活性化するための支援策を講じる必要がある。
若手研究者の中長期派遣が減少している背景として、以下のことが考えられる。
また、「グローバル人材育成戦略」(平成24年6月グローバル人材育成推進会議)では、日本人学生の海外留学が減少していることについて、若い世代の「内向き志向」意識の問題に安易に還元することなく、背景となる社会システム上の構造的な要因を克服していくことが重要と指摘しており、日本人学生の留学に関する主な障害として、帰国後に留年する可能性が大きいこと、経済的問題、帰国後の単位認定が困難であること等を挙げている。
1)既存の取組
こうした状況の中で、若手研究者の海外派遣を支援することで、研究に対する国際的な広い視野を身につけ、独創的な研究テーマの着想を得るとともに研究手法を磨き上げる機会を提供し、我が国の研究水準を引き上げる事業として、独立行政法人日本学術振興会により「海外特別研究員事業」、「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣事業」等が実施されている。
「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣事業」では、研究者が海外に行くことができない理由として帰国後のポスト確保に不安があること等が指摘されていることを踏まえ、若手研究者が組織に所属したまま海外で研鑽を積むことができるように、採択された研究機関に対して、若手研究者を長期(1~3年間)に派遣するための旅費と国際共同研究の推進に必要な研究費を支援している(1件あたり年間3千万円以内)。
「グローバル化社会の大学院教育~世界の多様な分野で大学院修了者が活躍するために~」(平成23年1月中央教育審議会答申)では、グローバル人材の育成のため、海外機関とネットワークを構築し、外国人教員・留学生の体系的な受入れ、日本人学生の海外派遣や、ダブル・ディグリーの推進、ジョイント・ディグリーが可能となるような制度の検討を行うこととされている。
2)今後の取組
既存の取組を着実に推進するとともに、研究者の中長期派遣を振興するための方策として、国際研究交流に関する支援事業以外の外部資金による研究支援制度の審査・評価に、外国の研究機関への研究者の中長期派遣を積極的に評価する視点を導入することが考えられる。
また、国際化を志向して秋季入学を取り入れている大学も出てきており、こうした取組を行う大学を支援することも、留学生を受入れ、学生が国際的環境の中で切磋琢磨する環境を整備する上で有効と考えられる。
平成23年3月11日に発生した東日本大震災(以下「震災」という。)は、大規模な地震と津波に加え、東京電力福島第一原子力発電所での事故を引き起こし、その影響(以下「震災の影響」という。)は東日本のみならず、我が国の社会・経済の広い範囲に及んだ。
震災後、震源地近くの研究機関では、地震、津波等によって多くの研究施設・設備が損傷した。また震災を理由として、海外からの受入れ研究者等が帰国し、あるいは来日を延期し、我が国の研究開発活動の再興における大きな課題となることが懸念された。
震災による国際研究交流への影響を把握するため、平成23年3~7月を対象にして行った国際研究交流状況の調査結果は概ね以下のとおりである。
(短期受入れ研究者数、短期及び中長期派遣研究者数への影響)
(中長期受入れ研究者数への影響)
(中長期受入れ研究者の国外退避)
また、法務省「出入国管理統計 統計表」より、在留資格(60日を超える在留の場合に取得)が「教授」と「研究」を抽出して月別に集計した結果によると、平成23年3月には、母国政府からの避難勧告等の動きもあり、出国者数が前年3月よりも顕著に増加したものの、平成23年4、5月には前年同期よりも入国者が増加し、6月以降には例年並みとなった。これらの入国、出国者のほとんどは再入国許可のある者であることから、一時的に出国して、1、2か月後に再入国する場合が多かったことが分かる(図2-11)。
震災により発生した、科学技術の国際活動を妨げる事象は以下の通り。
今後、もし同様の事象を及ぼすような災害が発生したとしても、科学技術の国際活動への影響が最小限となるよう備えることが課題となる。
天然資源に乏しい我が国は科学や技術などの知的資産を活用することにより、科学技術創造立国を目指している。また、一国の限られた人材、研究施設等で科学技術イノベーションを推進するには限界があるため、国際研究活動の更なる振興が必要である。
一方、我が国は地震等の災害が発生しやすい地理的環境にあるという事実がある。昨年発生した震災は、そのことを改めて認識させる出来事であった。震災の経験を踏まえ、同様の災害が発生した場合における外国人研究者の国外退避を最小限にとどめ、外国人研究者が我が国で安心して研究を継続できる強くたくましい研究環境を構築するための対応を、以下の通り提言する。
1 災害時における外国人研究者への情報伝達体制の構築
2 国内で研究を継続できる体制の構築
3 災害による影響を考慮した各種研究資金等の機動的対応
4 災害対応研究の成果の国内外への発信
また、外国人研究者の受入れを一層推進する契機とする観点から、外国人研究者の招へいを積極的に推進することが必要と考えられる。
1 災害時における外国人研究者への情報伝達体制の構築
「防災基本計画」(平成23年12月中央防災会議)では被災者への情報伝達活動について、非常本部等、指定行政機関、公共機関、地方公共団体及び事業者は、被災者に役立つ正確かつきめ細やかな情報を適切に提供する際に「高齢者、障害者、外国人等災害時要援護者に配慮した伝達を行うこと」としている。(例えば、これを踏まえて策定される茨城県地域防災計画では、県が行う広報として、外国人も含めた住民からの問合せ等に対応するため「住民問合せ窓口」を設置することや、外国人等に配慮してテレビ、ラジオ、ホームページ等を活用して、字幕や文字放送、外国語等による情報提供を行うことが定められている。)
しかし、震災後、被災地周辺では回線の途絶や情報通信機器の使用中断があったほか震災関連の情報が主に日本語で発信されたこと、人的ネットワークが十分でなかったこと等により、外国人研究者への情報伝達には遅れが生じた。
災害時における確実な稼働を目指した情報収集システムの構築については既に対応する取組が進められているが、外国人研究者への情報伝達については、その多くが大学または研究機関に所属していることを踏まえ、災害発生後に、時期(発生直後、復旧・復興期)に応じて、迅速かつ正確に情報を提供するため、災害対策本部等から発表された情報を英訳の上、文部科学省等から大学、研究機関に提供する仕組みが必要と考える。(表3-1)
2 研究を継続できる体制の構築
震災により、震源地近くの研究機関では、研究施設・設備の損傷のほか、電源喪失によりコンピュータに保存されたデータや温度管理を要する試料が使用できなくなるなど、研究の継続が困難となる事態が生じた。
こうした事態を受けて、大学、大学共同利用機関法人、研究開発法人(物質・材料研究機構、理化学研究所等)では、被災した研究者の受入れ等の各種支援が行われた。また、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構の共同運営によるJ-PARC施設では運転計画が被災により大幅に変更となり、日本原子力研究開発機構の研究炉JRR-3については、現在も運転再開に至っていない。これらの施設では、予定していた実験が行えなかった研究者に対し、類似した中性子線を利用できる米国やオーストラリア等の研究機関から緊急支援として実験時間の提供が提案され、これを受け入れることにより研究者の実験時間の一部確保が図られた。
このように、災害発生時における研究への影響を最小限にし、研究が継続できる体制を構築するためには、機関ごとに業務継続計画を定め、同計画に基づいて、研究資源の分散管理、別機関での受入れ体制整備等を進めることが有効と考える。
また、震災を契機とした、我が国の研究環境についての海外からの懸念を払拭するためには、震源地近くの研究機関の研究環境が概ね回復していることを踏まえ、機会を捉えて我が国の研究環境が十分に困難な状況からの回復力を有していることを示していくことが有効と考える。
3 災害による影響を考慮した各種研究資金等の機動的対応
震源地近くの研究機関では、研究施設・設備等への影響により、各種研究資金等の研究計画の変更を強いられる事態が生じた。
このような事態への対応として、例えば、日本学術振興会(JSPS)では、科学研究費補助金の震災発生に伴う繰越手続きについては、各研究機関からの申請期限を2週間延長して追加の受付を行う措置がとられた。また、科学技術振興機構(JST)でも、被災状況等を考慮して、研究費の繰越を実施したほか、被災地域における研究者の公募機会確保のため、公募事業における公募期間の延長を実施した。
このように、災害発生時にも研究を継続することが出来るよう、特に日本の研究機関で研究活動を行う外国人研究者に対しては、各種研究資金等の使用期限を延長するなどの機動的対応が取られるべきである。
4 災害対応研究の成果の国内外への発信
我が国は地震等の災害が発生しやすい地理的環境にあるため、災害対応研究のテーマが国内に数多く存在し、関連研究が盛んに行われている。特に昨年発生した震災に関しては、国の支援により独自性の高い様々な災害対応研究が行われている。
例えば、内閣府では、中央防災会議の下に専門調査会を設置して、東北地方太平洋沖地震・津波発生メカニズム等について調査分析を行い、同検討結果に基づき、防災基本計画の修正、地震・津波、被害想定の見直し等を行っている。また、科学技術振興機構(JST)では、米国国立科学財団(NSF)が米国の研究者を対象に震災に関する緊急の研究・調査を支援するRAPIDプログラムの公募を開始したことに対応し、平成23年4月には「戦略的国際科学技術協力推進事業(SICP)」の一環と位置づけられる「国際緊急共同研究・調査支援プログラム(J-RAPID)」の公募を開始し、同年6月以降、東日本大震災や同年10月にタイで発生した水害に対応した共同研究を支援している。
国内外の学協会においても震災対応のための議論、調査研究が盛んに行われており、地震・津波への防災対策にとって重要な知見となる地震発生過程の解析結果は、学術誌を通じて国際的にも発信されている。
世界の共有知として活用が見込まれる震災からの復興・再生、安全性の向上及び災害に強い社会の構築に貢献する研究(表3-2)を一層推進し、国民の期待に応えるとともに、国がこれらの研究成果を取りまとめて国内外に発信することにより、国際的な研究交流の端緒とすべきである。
伊藤、鈴野、飯田、山本
電話番号:03-6734-4053
ファクシミリ番号:03-6734-4058
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