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18.知的財産戦略大綱(2002年7月3日 知的財産戦略会議) -抄-

はじめに

  日本経済を取り巻く環境は、依然厳しい状況にあり、将来に対する閉塞感を払拭できない中、我が国の国際的な競争力を高め、経済・社会全体を活性化することが求められている。そのためには、我が国を、科学技術や文化などの幅広い分野において豊かな創造性にあふれ、その成果が産業の発展と国民生活の向上へつながっていく、世界有数の経済・社会システムを有する「知的財産立国」とすることが必須である。その目標に向けた諸改革を直ちに実行するため、「知的財産立国」実現に向けた政府の基本的な構想である知的財産戦略大綱をここに策定する。

第1章 現状と課題

2.知的創造サイクルの確立に向けて

  「もの」とは異なり、「情報」は極めて容易に模倣されるという特質をもっており、しかも利用されることにより消費されるということがないため、多くの者が同時に利用できる。特に知的財産については、活用されないとその価値は著しく減殺されてしまうという性質を有しており、保護と活用のシステムの構築が知的創造サイクルの確立には欠かせない。したがって、情報を21世紀の我が国における重要な富とするためには、情報が法により強力に保護されなければならないが、単に法律に規定するだけでは足らず、裁判等を通じて実効的に保護されることが必要である。また、契約や技術開発等によって適切な対価を徴収できる実効的なシステムを確立していない場合、独創的な知的財産を生み出すインセンティブが薄れてしまうとともに、生み出された情報も秘匿されるようになり、その結果として知的財産から生み出される富が大きく減少する結果となる。このように、知的財産については、「もの」に関する所有権的発想ではなく、情報の特質を勘案した保護と活用のシステムを構築することにより、知的創造サイクルのより大きな循環につなげるべきである。
  質の高い知的財産を生み出す仕組みを整え、知的財産を適切に保護し、知的財産が社会全体で活用され、再投資により更に知的財産を創造する力が生み出されてくるという知的創造サイクルがスピードをもって拡大循環すれば、知的財産は大きな利益を生み、経済・社会の発展の強力なエンジンとなる。
  しかしながら、知的創造サイクルに関する我が国の現状は必ずしも満足できるものとはいえない。特許を例にとってみれば、我が国企業は特許の出願に熱心であり、我が国の国内出願は世界で最も多い。他方、グローバルな競争が激化しているにも関わらず、欧米にも共通して出願されている特許はむしろ少ないという現状がある。特許出願のみならず、その上流である研究開発段階における戦略的な対応が十分でないことも懸念される。また、大学においては、近年、技術移転機関(TLO)の活動等を通じて、特許取得や技術移転に対する意識が高まってきているものの、その水準は、いまだ米国に及んでいない。
  特許審査のスピードも米国の水準には達していない。権利を侵害された場合の救済についても、改革の余地がある。知的財産関連訴訟の改善に加え、訴訟外での紛争処理手段の充実に着目した取組も必要である。また、知的財産の活用の促進や、知的創造サイクルを支える人材の充実も極めて大きな課題である。

第2章 基本的方向

1.創造戦略

(1)大学・公的研究機関等における知的財産創造

  かつて「象牙の塔」といわれた大学が、自ら知的財産を生み出す体制へと生まれ変わることが必須である。大学においては、優れた発明が生み出されても、それを権利化することにより、その成果を社会へ還元する体制が整備されていなかった。そのうえ、教員の意識も、研究には熱心でも、その成果を社会へ還元させることには関心が低かった。近年、TLOが数多く設立され、こうした状況に少しずつ変化が見られるものの、米国と比較するとまだまだ不十分な状況にある。
  技術革新の急速な進展をリードする基礎研究を、企業が自前で行うことは資金的な制約等により困難となる中、大学・公的研究機関等が、基本特許の取得につながる革新的ブレイクスルーを達成することや新技術・新産業を創出することへの期待はますます大きくなっている。このため、大学・公的研究機関等が、世界的なレベルの研究開発を進め、より速やかに知的財産を生み出していくための環境整備が必要である。さらに、生み出された成果を権利化し、社会に還元するシステムを確立しなければならない。こうした研究開発成果の創造と活用のシステムを確立することは、大学発のベンチャー企業の育成にも大きな力となり、経済の活性化にも資する。そのためにも、研究に着手する段階から、経済・社会での活用を見据え、実用化に向けて大学・公的研究機関等と企業が協力して取り組むリーディング・プロジェクトを実施するとともに、研究開発や知的財産取得のために特許情報等を活用できる環境の整備を図らなければならない。一方、研究の内容によっては、必ずしもその成果の権利化を優先させず、社会全体で享受する方が科学技術の進歩に資する場合があることにも配慮が必要である。
  大学・公的研究機関等における研究者は、報酬のみが目的で研究しているわけではないが、例えばノーベル賞などを受賞しない限り、一般の人にはなかなか認知されない。多くの若者に、研究者がいかに素晴らしいものであるかということを知ってもらわなければ、将来の我が国を担う世代が研究者になろうという夢を抱かない。野球やサッカーのスター選手が数多くの人に感動を与えているのと同じように、素晴らしいものを生み出した研究者や発明者は、社会に大きな希望や可能性を与えることを認識させる必要がある。
  大学・公的研究機関等における研究者の業績の評価についても、知的財産の創造やその成果の移転、普及活動の実績にも配慮して行われるべきである。また、国立大学等が法人化した際には、知的財産の機関帰属を原則とし、併せて発明者の努力に報いるため、発明者やその研究費への手厚い還元を図らなければならない。

2.保護戦略

(3)営業秘密の保護強化

  我が国の企業活動における営業秘密の重要性が一層高まっている中、企業の営業秘密が国内外の競合他社に流出する事例が増加し、企業の競争力が損なわれている。このため、営業秘密の不正取得等に対する民事上の救済措置を強化し、罰則の導入も図るべく、人材流動化に対する抑止効果等、それらに伴って生じうる問題点にも配慮しながら検討を進め、2003年の通常国会に不正競争防止法改正法案を提出することが必要である。また、我が国では裁判の公開原則が強く意識されているため、裁判において営業秘密が公開され、かえって権利者の不利益が生じることもあることから、現実には営業秘密に関する訴訟は少ない。裁判の公開は憲法上の要請であるが、この問題に目をつぶっていたのでは、裁判において営業秘密が適切に保護されることはあり得ない。営業秘密が産業界で重要性を高めている現在、欧米に比して我が国の営業秘密保護の水準が低いということがないよう、必要な対策を講ずるべきである。

3.活用戦略

(1)大学・公的研究機関等における知的財産の活用の推進

  大学・公的研究機関等は、企業の研究開発では生まれにくい創造的な発明を生み出し、それらを社会へ還元する役割を担うべきであるが、この機能を十分果たしていない。知的財産立国の実現のためには、この機能を十分に果たすことができるような仕組みを整備することが欠かせない。優秀なベンチャー企業の育成という観点からも、大学・公的研究機関等がその発信基地として果たすべき役割は大きい。
  近年、我が国の大学の特許出願件数、取得件数は大幅に増加しているものの、大学技術のライセンス数は、日本は米国の約百分の一、大学の特許の取得件数では約二十分の一にとどまっており、我が国の大学の知的財産に対する取組を大幅に改善しなければならない。このため、大学が優れた発明等を生み出し、その知的財産を基に活力あるベンチャービジネスが生まれ、先端技術を活かした競争力の高い新産業を生み出すという流れができるよう、TLOとも連携しつつ、全国数十か所の主要な国公私立大学において「知的財産本部」の整備を2003年度までに開始し、知的財産の取得・活用体制を強化する等、大学が自ら改革に取り組むとともに、大学を取り巻く環境を果敢に変えていかなければならない。また、知的財産の活用や円滑な流通を図るため、様々な制度を速やかに見直すなど、所要の措置の検討が不可欠である。

第3章 具体的行動計画

2.知的財産の保護の強化

(6)営業秘密の保護強化

  企業が営業秘密に関する管理強化のための戦略的なプログラムを策定できるよう、参考となるべき指針を2002年度中に作成する。併せて、不正競争防止法改正による民事・刑事両面にわたる営業秘密の保護強化について、人材流動化に対する抑止効果等、それらに伴って生じうる問題点に配慮しながら、2003年の通常国会に改正法案を提出する。なお、この際、大学の研究者の自由についても配慮する。(略)

3.知的財産の活用の促進

(1)大学等からの技術移転の促進

1.大学等による機関一元管理の導入

  法人化後の国立大学を含む公的研究機関等において、特許をはじめとする研究開発成果について効率的な活用が図られるよう、2004年度までに、TLOと密接に連携しつつ、TLOの経験やノウハウを活かした機関一元管理を原則とした体制を整備する。(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)

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