女性技術者が技術士資格を取得する支援の取組事例 (設立順に事例紹介) 岩熊 眞起

1 女性技術士の現状

 平成24年度第一次試験女性受験申込者は1,319名(5.9%)、第二次試験総合技術監理部門を除く女性受験申込者は869名(3.1%)、合格者は108名(3.4%)である。
 平成24年度末(2013年3月)の女性登録数は1,373名(1.4%)、登録者実数は1,120名(1.4%)である。女性技術士の登録者実数の変遷は、およそ30年前は数名、平成17年度末に507名となり、この7年では2倍となっている。参考までに、この7年の男性も含めた全登録者実数は1.3倍(58,314名→77,394名)となっている。(注 数値は公益社団法人日本技術士会(以下「日本技術士会」と記す。)より提供)

2 取り組み事例 

1)土木技術者女性の会(任意団体1983年1月発足)での取り組み

(会員数 174名 2012.4.1)
 土木学会誌の座談会(1982年)をきっかけ設立された。女性土木技術者特有の問題をきめ細かく取り上げ対応していくために、独立した団体として活動。女性技術者の質の向上と活動しやすい環境作りを目指す。会の目的は以下のとおり。
マル1 土木界で働く女性技術者同士のはげましあい
マル2 土木界で働く女性技術者の知識向上
マル3 女性にとって魅力のある、働きやすい土木界の環境作り
マル4 女性土木技術者の社会的評価の向上
マル5 土木技術者を目指す女性へのアドバイス
 発足当時、会員の中に複数の技術士がおり、数年でさらに複数の合格者も出た。そこで、技術士取得への動機づけとして、1992年第11回総会にて資格取得(主に技術士資格)についての研修を実施。その後は特に技術士をテーマとした研修等は行っていないが、継続的に多くの会員が技術士に挑戦している。正確な数値は不明だが合格率は高い傾向にある。
 2005年に実施したキャリアパスアンケート(当時の全会員数155名のうちメール回答可能会員125名対象、回答者70名)では、回答者70名の35%が技術士であり、取得年齢は30-35歳がもっとも多い。土木建設系の女性技術者にとっては、技術士は当たり前の資格であり、他の土木系資格も含め会員は資格について強く意識している。これは2006年発行の学生向け冊子「Civil Engineerへの扉」に記載されている。
 土木学会が土木技術者女性の会、地盤工学会の協力のもと編集した「継続は力なり  女性土木技術者のためのキャリアガイド」(2013年1月,117頁,丸善)では、土木分野で働く女性技術者の仕事やキャリアが紹介されている。10名が紹介されており、うち7名は技術士である。各自のキャリアステージの中で技術士は太字で強調された編集となっている。資料編掲載のキャリアアンケート結果でも技術士は強く意識されていることがわかり、当たり前の資格として、読者にも明確に技術士を意識させるものとなっている。
 会では、特に技術士の増加に焦点を置いているわけではないが、アンケート項目の設定やキャリアパスから見ると、技術士資格は度々登場しており意識していることがわかる。

2)女性技術士の会(1993年10月任意団体 2007年11月特定非営利活動法人)での取り組み

(会員数 正会員70名 協力会員+賛助会員44名  2013.4.30)
 日本技術士会青年技術士懇談会(当時)の企画により、日本技術士会非会員も含めて女性技術士の有志が集まり、科学技術のあり方を巡って女性の視点で意見交換をするため、技術分野の横断的な連絡組織として発足した。その後、NPO法人化。幅広い技術分野に対応できる技術者集団であり、生活者としての知識と経験を活かし、広く一般市民を対象として科学技術発展のための普及啓発事業に取り組む。会の目的は以下のとおり。
マル1 子供たち、女子中高生及び市民が科学技術に親しむ機会の提供
マル2 女性技術者の育成や女性技術者・科学者の社会進出のための支援
マル3 海外の女性技術者との交流をとおした技術者育成の調査研究
マル4 「生活と仕事の調和」を意識したライフスタイルに基づくまちづくり支援及びまちづくりに関する各種事業
 この数年、夏の学校(女子中高生理系選択支援事業 国立女性教育会館)、サイエンスアゴラ(サイエンスコミュニケーションイベント 独立行政法人 科学技術振興機構)へ参加し、女子学生向けには職業と技術士、小中学生向けには理系の職業事例などの展示を行う。ロールモデル集「行動する女性技術士」を編纂、技術サロン(後述)はじめ各種イベントで配布を行っている。定期的に発行するニュースレター(2013年4月30日で15号)では、「技術サロンに参加して」(学生)、「技術士を目指して」(社会人)からの寄稿を連載している。
 NPO法人化にあたり、技術士会内部にも活動組織が必要との観点から日本技術士会登録グループ(以下、登録G)が発足した。そのため、登録G発足以降は女子学生向けの活動と広報は登録Gと共同で行っている。法人として直接的には女性技術士増加が主題ではなく、一般市民向け、女子中高大生向けの活動が中心となる。高校や大学で理系の職業とキャリアについての講演、教育関係者向けの講演なども行っており、多様な場面で「女性技術士」が行動し、発信源となることで技術士の認知度を高めている。
 1999年より国際女性技術者・科学者会議(国際女性科学者・技術者ネットワーク主催 3年ごとに世界各地で開催 通称ICWES)に参加、ポスター展示、シンポジウムの主催などで女性技術士をアッピールしている。
 参考「行動する女性技術士たち-理系は楽しいおもしろい-」
 さまざまな分野の女性技術士が「私のワーキングキャリア」「理系を目指した理由」「技術者の喜び」「若き技術者へ」をテーマに働き方や生き方を紹介した冊子。

3)日本技術士会登録G 技術者を目指す女子学生を支援する会WPETF(2007年3月)(WPETF:Women Professional Engineers Task Force) 

(登録G会員数 11名 2013.3.31)
 JABEE課程ならびに理系に学ぶ女子学生を対象としたキャリア形成支援活動の企画、実施を目的としている。懇話会「技術サロン」、大学への出前説明会などを開催(年4~5回開催)し、女性技術士のロールモデルや技術系職業を紹介している。NPO法人女性技術士の会、日本技術士会修習技術者支援実行委員会とも連携している。登録Gの目的は以下のとおり。
マル1 JABEE認定課程に学ぶ女子学生との交流 
マル2 女性技術者ネットワークへの参加による事業企画・実施
マル3 中高生女子学生への理系進学への支援
マル4 その他上記に関連する活動
 懇話会「技術サロン」は、明確に女子学生・若い女性技術者を対象として技術士取得の動機づけを行う活動である。「技術サロン」並びに登録Gの活動は2011年3月設置にされた日本技術士会男女共同参画推進委員会に引きつがれた。実績報告として、「工学教育 特集「女性エンジニアの育成・支援-現状と可能性-」」(日本工学教育協会2011/ vol.59 №3)の「産業界・技術者団体による取り組み事例紹介」に「技術サロン」の取り組みを紹介した。

4)日本技術士会男女共同参画推進委員会(2011年3月)

(日本技術士会女性会員数 正会員202名 準会員152名 2012.11.1)
 男女共同参画推進の社会的背景・要請を受けて以下の目的で設置された委員会である。
マル1 女性技術士の増加を図るための積極的な広報活動の展開
マル2 女性技術者のキャリアパスにおける技術士資格の優位性の明確化による技術士の知名度向上と共に企業における男女共同参画推進への協力
マル3 新成長戦略における科学技術による豊かな社会の形成、及び男女共同参画社会形成推進に向けた支援活動の展開
 具体的には、以下の活動を行う。その際は、日本技術士会を含めて他の組織との連携も検討する。
ⅰ)教育機関(大学、高専等)との連携の下での女性技術士及び女性会員の増加に向けた活動
マル1 JABEE課程在学中及び理系(技術者を目指す)女子学生への広報及び支援
マル2 女子中高生徒の理系進路選択に向けた広報及び支援
ⅱ)女性技術者に向けた技術士取得推進活動
マル1 企業内女性技術者へのキャリアモデルとしての技術士取得を推進する広報活動
マル2 女性技術者のネットワーク構築、及びそのネットワークを通した活動への協力
 委員会発足により、登録G(技術者を目指す女子学生を支援する会WPETF)主催の女子学生向けの活動を引き継ぐ。「技術サロン」は17回開催(2013年3月時点)。教員を含め述べ146名(学生91名、社会人45名)が参加した。技術士資格がキャリアを積む上での重要なパスポートとなることを理解する機会であるとともに、先輩技術士も含めて参加者同士の励ましあいの場となっている。参加者のほとんどが20代、JABEE課程及び一般課程女子学生から、第二次試験受験可能な準会員までと幅広い。JABEE課程と第一次試験の関係、受験にあたっての所属企業への対応、受験部門・科目と業務との関連などについてアドバイスを行っている。特に社会人は自身のキャリア形成に技術士を意識するようになったと思われる。
 WPETFが2005年より国際女性技術者・科学者会議(国際女性科学者・技術者ネットワーク主催 3年ごとに世界各地で開催 通称ICWES)において、「日本の技術士制度と女性のキャリア」をテーマに「技術サロン」のポスター展示を続けてきており、委員会では2011年よりこれを引き継いだ。
 2013年3月より、企業に働く技術者、管理職向けの女性技術士のロールモデルをWebサイトに掲載している。技術士挑戦の動機、技術士になってよかったこと、ワーク・ライフ・バランスなど、技術士が女性技術者の身近な目標となる内容となっている。
 高等専門学校からも女子学生のキャリア教育のために女性技術士に関連した講演の要請がある。大学からも件数は少ないが「キャリアカフェ」、「理系女性のキャリア形成」講座など、女性技術士に関連した要請に応え、職業と技術士についての講演をしている。
 男女共同参画学協会連合会への加入(2011年10月)により、各活動・行事に対するPRの幅が広がっている。

5)日本技術士会の男女共同参画推進委員会以外による活動

 特に女性技術士に特定している活動ではないが、修習技術者支援実行委員会はJABEE認定課程向けに技術士・技術士制度に関する説明会を実施してきた。説明会は、2011年より広報戦略特別委員会大学WGに引きつがれ、大学WGでは女性技術士に関する資料を準備し、必要に応じて説明を行っている。技術士に限ってはいないが、先輩の女性技術者との懇談会を開催しているところもある。
 地域本部・県支部・部会で教育機関を訪問した際、個別に女子学生と交流を行い技術士について情報提供している。

6)活動実績等から見た女性技術士増加に向けた日本技術士会男女共同参画推進委員会等の今後の課題

ⅰ)組織を超えた連携

 日本技術士会内部では地域本部、県支部との連携が必要である。
 (2012年11月1日 女性正会員と準会員352名のうち地域本部所属は162名)
 さらに、日本技術士会外の女性技術士に関連する多様な組織(NPO法人女性技術士の会 土木技術者女性の会 大学技術士会 学協会 等)との連携が必要である。

ⅱ)女性技術者にとっての技術士の価値の理解促進

 男女共同参画推進委員会では、日本技術士会部会長全員に女性の技術士会活動に関するアンケート調査を実施した。設問の一つである女性技術士の増加に関連しての主な意見は以下のとおりである。技術士取得の動機づけに関連したこれらの課題についても検討が必要である。
マル1 大学、研究機関への働きかけ、さらに高校生も視野にいれる
マル2 産業界での女性の技術士取得支援が必要。JABEE課程についても単なるPRではなく、会の行事への招待など取得支援の試みが必要。
マル3 女性にとって魅力ある資格かどうか検証が必要。
マル4 男女関係なく魅力を高める活動が必要

ⅲ)多様なロールモデルの提供

 冊子への掲載などに向けて日々の売り込みが重要。起死回生の一打もホームランも期待できない。地道な継続的な啓発活動を続けることが重要である。

ⅳ)対象ごとの効果的な広報・宣伝

 日本技術士会Webサイトの改善、視覚に働きかけ、読みやすいリーフレットの作成、話題性のあるテーマでのシンポジウム開催などを効果的に実施する。

参考資料
女性技術士の登録数の推移(Web Site A)
第一次試験女性受験者・合格者の推移(Web Site A)
第二次試験女性受験者・合格者の推移(Web Site A)
日本技術士会男女共同参画推進委員会・登録G女子学生向け活動実績(Web Site A)
日本技術士会男女共同参画推進委員会・ 登録G女子学生向け技術サロン案内(Web Site A)
日本技術士会男女共同参画推進委員会企業女性技術者ロールモデル(Web Site A)
特定非営利活動法人女性技術士の会 ニュースレター(Web Site B)

(Web Site A)公益社団法人日本技術士会 男女共同参画推進委員会(※公益社団法人 日本技術士会 ウェブサイトへリンク)


(Web Site B)特定非営利活動法人 女性技術士の会(※特定非営利活動法人 女性技術士の会ウェブサイトへリンク)
 

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科学技術・学術政策局人材政策課

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