3.平成28年度の成果の概要

3-1.地震・火山現象の解明のための研究

地震や火山噴火が引き起こす災害の予知の基本となる地震・火山現象の科学的理解の深化を目指し,史料・考古・地質データも含めた過去の地震・火山噴火現象に関する研究,地震・火山噴火の発生場と発生過程を理解するための観測・実験に基づく研究を以下のように実施した。

(1)地震・火山現象に関する史料,考古データ,地質データ等の収集と整理

地震・火山噴火とそれに関連する諸現象やそれらによる災害に関する史料,考古データ,地質データの収集と,近代的観測データとの対比・統合を指向したデータベースの構築について,次のような研究を行った。

ア.史料の収集とデータベース化

 新たな地震関連史資料について,東海地方を中心とした1854年安政東海・南海地震に関する史料やその前後の有感地震を含む史料,岩手県大船渡市を中心とする史料や1933年昭和三陸地震津波に関する旧唐丹村行政文書の調査・収集を実施した。
地震・火山噴火史料データベースの構築に向けて,既刊地震史料集に所収されている史料記述について高度な検索に適したデータ化作業を継続して実施し,国土地理院の地理院地図上に地震による被害発生場所を表示できるシステムの試作版を作成した。

イ.考古データの収集・集成と分析

 全国の埋蔵文化財発掘調査報告書をもとに,和歌山県・香川県・福岡県・大分県・熊本県について災害痕跡に関する地質・考古資料を新たに収集し,データ整理を行った。奈良県・鳥取県・山口県の遺跡発掘現場においては,地震痕跡等の地層資料を採取し,災害発生時期を示す考古資料との照合を実施して,整理・分析を進めた。また,構築中の災害考古情報データベースについては,データベース項目の再定義と新たなデータ約1万件の入力作業を行い,地理情報システムの改良を実施した(図5)。

ウ.地質データ等の収集と整理

 平成5年(1993年)北海道南西沖地震の津波堆積物*が認められるロシア沿海州のバレンティン湾周辺や,1994年北海道東方沖地震の津波が最も高かった国後島北東部の海岸での調査から,歴史時代の津波痕跡の候補が発見された。古地震に伴う地殻変動の痕跡となり得る海岸の隆起地形と生物痕跡について,北海道の羅臼町幌萌海岸において調査を行った。
 地震や津波の痕跡が保存される条件を明らかにするため,青森県三沢市の海岸において平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下「2011年東北地方太平洋沖地震」)の津波で形成された津波堆積物を追跡調査した結果,2011年4月に記載された地点のうち47%で津波堆積物が保存されていた。しかし,層厚が1cm以下の堆積物については,検出できなくなっていたものが多かった。
伊豆大島の有史以降の噴火の内,規模の異なる5つの噴火の噴出物について分析を行った。いずれの事例についても複数の組成のマグマの関与が確認されたが,マグマの状態と噴火規模との間に明らかな関係性は見られなかった。また,諏訪之瀬島の全島避難につながった1813年噴火の噴出物分析を行い,マグマ溜まりの状態を最近の火山活動時と比較するための基礎データを得た。

(2)低頻度大規模地震・火山現象の解明

 近代観測データと史料・考古・地質データを総合して,2011年東北地方太平洋沖地震のような低頻度で大規模な地震・火山噴火現象の特徴を抽出し,その理解を目指して次のような研究を行った。

ア.史料,考古データ,地質データ及び近代的観測データ等に基づく低頻度大規模地震・火山現象の解明

 過去の関東地震の多様性を調べるために,房総半島南部の海岸段丘について,ボーリングコア*試料の解析から離水年代の再検討を行った結果,関東地震の発生は従来知られていた年代よりも全体的に新しくなり,さらに再来間隔が非常にばらつくことが明らかになった(図6)。
京都盆地に被害を及ぼした近世の歴史地震のうち,1596年慶長伏見地震,1662年寛文近江・若狭地震,1830年文政京都地震について,信憑性の高い史料記述と過去の研究成果に基づき,地理情報システムを用いて推定震度分布図の試作版を作成した。
各地の地震関連史資料の検討によって,1847年善光寺地震とその5日後に発生した大地震による越後高田での被害状況や,1710年と1711年に山陰地方で発生した地震における家屋倒壊数・死亡者数を明らかにした。また,1855年安政江戸地震における武蔵国幸手領・川崎領の家屋倒壊率に関する従来の算出方法を再検討し,新たな算出方法を試作した。さらに,既存の地震史料の再検討により史料の解釈の誤りを見つけた。例えば,従来は善光寺地震の約3ヶ月前に越後高田で発生したとされてきた地震被害が実際にはそうではなく,後の善光寺地震によるものであったことを指摘した。
史資料と地形・地質を組み合わせた研究成果として,1964年新潟地震における佐渡島両津での津波被害の状況や,中央構造線断層帯が活動した1596年の地震による四国東部の地盤の隆起と,それに伴う入り浜式塩田の技術の普及を明らかにした。
 日本海溝沿いでは,1611年慶長三陸地震の震源モデルを信頼できる史料の全てに基づき推定した結果,三陸沖の長さ250 kmの断層が動いたとすることで説明できることが分かり,2011年東北地方太平洋沖地震で大きく滑った場所は,慶長三陸地震でも滑っていた可能性がある。
 北海道南西部における津波堆積物から13世紀頃に発生したと考えられる津波は,地質学的証拠から地震性と推定され,Mw*7.8相当の断層モデルを用いた津波シミュレーションにより計算された遡上域は津波堆積物の分布と概ね整合的であった。
 過去の地震履歴を知るための新しい手法開発も試みられており,地震時隆起によりサンゴが受ける日射量の変化が骨格中の炭素同位体比組成に記録されていることを明らかにした。
LiDAR* DEM*による地表変動量の解析手法を高度化し,2014年長野県北部の地震前後のデータに適用したところ,地表断層や干渉SAR解析による地震時地殻変動,地震波からの逆解析や余震分布などから求められた震源断層域と整合し,手法の有用性が示された。
 火山噴火の研究としては,福岡県・佐賀県・長崎県の史資料保存機関の他,国立国会図書館,国立公文書館などで1792年雲仙寛政噴火・眉山崩壊に関する史料の複写・撮影を実施し,噴火から眉山崩壊への推移についてより詳細な実態解明に向けて史料の分析と整理を進めた。
7,300年前の鬼界アカホヤ噴火及び12万年前の屈斜路カルデラ噴火のマグマ供給系を物質科学的に検討した。その結果,カルデラ形成噴火に先行して,二酸化ケイ素成分に富む複数のマグマの混合と集積が大規模かつ長期にわたって進行していたことが明らかになり,準備過程を観測できる可能性を示すものとして重要である。そして,この大規模なマグマ溜まりに二酸化ケイ素成分の少ない新しいマグマが不連続に貫入していた痕跡が見られ,カルデラ噴火の発生や噴火様式*の変化に対応していると考えられる。

イ.プレート境界巨大地震

 日本海溝及び南海トラフ沖沿いで行われている海底地殻変動観測により,両海域における地殻変動場の実態が明らかになってきた。日本海溝沿いで観測される2011年東北地方太平洋沖地震後の地殻変動は,大きな滑りが観測された宮城県沖においては粘弾性*緩和変形による西向きの水平変位が卓越するが,福島県・茨城県沖ではプレート境界*面上での余効滑りに起因すると考えられる顕著な東向きの変位が観測されている(図7)。南海トラフ沿いでの海底地殻変動観測の結果を用いて,プレート境界面上での滑り欠損*を推定した結果,1944・1946年の東南海地震・南海地震の震源域よりも広い範囲で滑り欠損が大きく,プレート間固着が強いことが示された。一方,低周波地震の活動度が高い熊野灘,室戸沖や日向灘では,周囲に比べて滑り欠損が小さいことが明らかとなった(図8)。

(3)地震・火山噴火の発生場の解明

 地震・火山噴火の発生場における地下構造や応力場を明らかにし,断層面の摩擦の特性や断層周辺の流体分布,地震と火山噴火の相互作用などを明らかにするため,以下のような観測に基づく研究を実施した。

ア.プレート境界地震

 2011年東北地方太平洋沖地震発生後のおよそ半年間の地殻変動データから,3次元粘弾性構造モデルを用いて粘弾性緩和による寄与を分離して,余効滑りの空間分布を推定した。この結果,余効滑りの領域は,2011年東北地方太平洋沖地震時の滑り領域とはほぼ重ならないことが示された。日本海溝沿いでは,プレート境界面における地震波反射率が,プレート境界周辺で発生する微小地震の活動度と相関をもつことが知られていたが,人工地震探査*から地震波反射率が2011年東北地方太平洋沖地震の前後で変化した可能性が示された。
 紀伊半島周辺の深部低周波微動*発生域の地震学的構造を推定した結果,海洋性地殻の内部に地震波の速度が遅く,P波*速度とS波*速度の比が大きく,減衰が大きな領域が認められた。こうした構造の特性から,深部低周波微動の発生域には流体の存在が示唆され,沈み込むプレートの脱水作用によって生成された流体が深部低周波微動の発生に寄与していると考えられる。一方で,前弧ウェッジマントル*において蛇紋岩*が生成される速度に関する実験から,九州など他の地域と比べて中間的な温度の沈み込み帯では,水に未飽和なマントルを通過して水が湧出している可能性が高いことが分かった。これは,スラブ*とウェッジマントルとの境界で間隙流体圧*が高くなるため,深部低周波微動が起こりやすくなっていると考えられる。

イ.海洋プレート内部の地震

 2011年東北地方太平洋沖地震後の2012年12月7日に,海溝付近で発生した深さ約60kmの逆断層*型地震と深さ約20kmの正断層*型地震との震源断層モデルを,近地津波波形の解析から推定した結果,浅部側で発生した正断層型地震の断層下端は,2011年東北地方太平洋沖地震前における正断層型地震活動域の下端よりも深いことが示された。このことは,沈み込む太平洋プレート内の応力場が2011年東北地方太平洋沖地震により変化したことを示唆する。

ウ.内陸地震と火山噴火

東北日本弧内陸のひずみ*を説明するレオロジー構造モデル*の構築をすすめ,沈み込み帯の2次元熱対流モデルから期待される粘性*率の分布を仮定した数値計算により,2011年東北地方太平洋沖地震後に観測された地殻変動場を大局的に説明することができた(図9)。2011年東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸地震群の応力テンソル逆解析*から推定された応力場は,2011年東北地方太平洋沖地震直後と4年程度経過した後で概ね同じであることが確認された。2011年東北地方太平洋沖地震後に誘発された仙台市大倉周辺の群発地震*活動は,震源再決定と発震機構解の推定により,流体拡散に伴った間隙流体圧の増加がもたらす摩擦強度の低下が原因で発生したことが示唆された。一方,中部地方の跡津川断層近傍における地殻変動の解析から,弾性ひずみを示すと考えられる2011年東北地方太平洋沖地震に伴うひずみの変化が,地震前及び地震後の1年あたりのひずみの変化と全く異なる空間パターンを示した。このことは,跡津川断層近傍では長期間にわたり蓄積された応力*により非弾性変形*が進行している可能性が考えられる。
 跡津川観測井で採取された地下水溶存ガスの組成分析データについて,N2-He-Arの三成分図*により,マグマ,地殻,大気を起源とするガスの混合状態を分析し,地殻の内部状態の変化を評価することが可能であることがわかった。
山陰地方の地震帯において,高密度地震観測により得られた記録を用いて地震波速度構造と広域応力場を推定し,地震帯直下に推定される弱領域が応力場の主軸の回転の原因となる可能性と,大地震の断層の両端において応力が緩和されている可能性を示した。また,2000年鳥取県西部地震震源域における高密度の地震観測データによる詳細な余震分布とそれらの発震機構解などから,余震は本震断層の再破壊ではなく,ほとんどが本震断層の周辺で起きている現象であることが確かめられた。一方,ブロック断層モデル*を用いた西日本の地殻変動の解析から,アムールプレートとフィリピン海プレート間の相対運動は,南海トラフだけでなく,中央構造線から新潟-神戸ひずみ集中帯*,日本海から朝鮮半島の領域,山陰ひずみ集中帯の変動帯で賄われていることが示された 。
 御嶽山において,火山構造性地震のメカニズム解から山頂直下の局所応力場の時間変化を定量的に評価することで,火山活動の状態をモニターできる可能性が示された。また,御嶽山山麓の群発地震発生域において,地震のメカニズム解から地殻内の間隙流体圧分布を推定する新しいインバージョン解析が実施された。蔵王山周辺では, 2016年8月に全磁力観測を実施した。これまでの繰り返し観測の結果をまとめ,2014年6月の観測から断続的に続く消磁*域が,現在噴気を上げている振子沢,丸山沢の直下に推定された。遠地地震波形のレシーバ関数*解析により,阿蘇カルデラの地殻から上部マントルのS波速度構造が求められ,中央火口丘下深さ8~15kmにS波の低速度領域の存在が明らかになった。これはマグマ溜まりと考えられている地殻変動発生源に近接しており,深部からのマグマが蓄積している可能性がある。

(4)地震現象のモデル化

 地震発生過程やプレート境界での滑り過程のシミュレーションに応用するために,これまでの研究成果に基づく標準的構造モデルを構築するとともに,滑りや破壊過程を記述する断層の物理モデルの高度化を目指して,次のような研究を実施した。

ア.構造共通モデルの構築

多くの研究者が利用できる標準的な構造共通モデルの構築を進めた.例えば日本列島下のモホ面*のモデル化では,日本列島直下での既往研究成果を広域的なモホ面構造モデルと接続することを試みた.更に地震波トモグラフィーで得られたP波速度の7.2 km/sの等速度面の深度は,人工地震探査により推定されたモホ面とよく一致するため,モホ面の推定に活用できることがわかった。

イ.断層滑りと破壊の物理モデルの構築

 地震の発生には震源周辺の流体の挙動が深く関与するため,岩石-流体相互作用に関する実験的な研究により,岩石の溶解と析出*による地殻の透水-不透水層境界の形成を明らかにした。その結果,350 ℃の温度付近では急激な溶解による流体貯留スポットが形成され,400℃前後では二酸化ケイ素の急激な沈殿によって不透水層が形成されることを示した(図10)。
2011年東北地方太平洋沖地震後,東北日本で観測されている地殻変動分布の定量的な解釈を目指して,摩擦構成則*に従う余効滑りと,地震時の滑り及び余効滑りによるマントルの粘弾性応力緩和との双方を考慮した地震後地殻変動モデルを構築し,摩擦パラメータ*やマントルの粘性率等のパラメータを推定した。

(5)火山現象のモデル化

 大規模な災害を引き起こす可能性があるマグマ噴火や,噴火規模は小さいものの火口付近での災害を引き起こす可能性のある水蒸気噴火や火山ガスの噴出の予測を実現できるよう,先行現象とそれに続く噴火現象を把握し,それら諸現象のモデル化を行うため,多項目観測及び火山噴出物の解析をすすめた。

ア.マグマ噴火を主体とする火山

桜島昭和火口では2009年後半から2015年前半までブルカノ式噴火*が頻発し,2015年8月15日に発生したマグマ貫入*イベントの後,噴火頻度が減少していた。ブルカノ式噴火に対する多項目観測データの解析や噴出物の分析を継続するとともに,マグマ貫入イベントの解析を進めた。火山ガス成分の一つである二酸化硫黄の放出率変動を高時間分解能で観測した結果と地殻変動観測の結果を解析し,ブルカノ式噴火発生前の膨張量と二酸化硫黄の放出低下量に相関が見られた。このことは,ブルカノ式噴火発生前に火山ガスが地下に蓄積されるものと推定される。上記のマグマ貫入イベントに伴う地震の震源を決定した結果,地殻変動データから推定されたダイク*の走向に沿って震源が分布することが明らかになった。地震波干渉法*による地下構造の変化の抽出も試みたところ,マグマ貫入に伴う干渉波形の変化から,散乱*特性の変化した場所が貫入位置あたりに求められた。
伊豆大島では,地震波干渉法解析から得られた地震波速度変化とGNSS解析から得られた面積ひずみ*との間に相関が見出され,その関係式を推定することができた。
 霧島山新燃岳2011年噴火の噴出物について,1μm以下の微結晶構造分析を行い,異なる噴火様式に対応する構造の違いを明らかにした。さらに高倍率観察を進めたところ,溶岩片中に1nm程度の鉄チタン酸化物の晶出の有無を示す違いが見られた。晶出しているものは火口まで気泡流として上昇してきたマグマが固結したもの,そうでないものは一度破砕したマグマが火口内で再溶結したものにそれぞれ対応すると考えられる。
西之島2013-15年噴火について,2016年6月に無人ヘリコプター調査及び同年10月に上陸調査を行った。この噴火は,安山岩質であるにもかかわらず流動性に富む溶岩流主体の活動となったことが特徴的である。採取された噴出物の分析を行った結果,溶岩の温度が高いことと,含まれる結晶の量が少ないことが流動性に富む原因であることがわかった。さらに,浅所に一時的に滞留し脱ガス*したために,噴火時の急減圧による発泡や微結晶の成長が生じず,爆発的な噴火が抑制されたと推察された。

イ.熱水系の卓越する火山

2006年以降火口域の膨張が続く十勝岳での電磁気探査や熱水変質調査から,山頂火口域では熱水系が上下に厚く,山体膨張の膨張源や,浅部火山性地震*の発生領域に一致することが明らかになった。また,継続的な熱消磁傾向が観測されていることに関連して,熱水流動数値計算を行うことにより,噴気の移動経路の一部で流れにくくなっていることが原因である可能性を検討した。
一方,草津白根山では2014年5月の熱消磁イベント以降は大きな変化がないまま推移しており,高温流体の貫入が続いていたと考えられる。これは,熱化学的研究からも支持される。火口湖底から噴出する流体の熱化学的特性を記述する数値モデルを開発し,それに基づく計算の結果,2014年以降の群発地震に同期して湯釜火口湖へ供給される熱水の化学的特徴が変化したことが判明した。この変化は,地下熱水系において気化しやすい成分が減少し,水に溶けやすい成分が濃縮したためと解釈され,原因はマグマからの高温火山ガス供給率が増加したことにあると考えられる。
 噴出物に含まれる変質鉱物分析によっていくつかの火山を比較したところ,火山によってその特徴が異なることが明らかになった。御嶽山・秋田焼山では,長期的に安定した熱水系の環境下で生じた鉱物組み合わせが認められるのに対して,十勝岳では安定した熱水系の特徴が見られなかった。この違いは,マグマが地下浅部の熱水系に貫入する頻度に起因すると解釈できる。
 御嶽山の東麓においては,2007年の噴火前から継続中の水準測量が実施された.2014年の噴火後は沈降が検出されていたが,今年度の成果により,山頂方向に向かって隆起が増す傾向がわずかに検出された。
口永良部島では2015年の噴火後初めて,水準測量で沈降が確認されたが,地震活動と火山ガス放出量からは火山活動は静穏化*には至っていないと判断される。
 弥陀ヶ原火山・地獄谷の水準測量から,2015年9月以降の1年間で1cmを超える隆起が局所的に観測された。
箱根山大涌谷で2016年10月7日に採取した噴気ではマグマ性揮発性物質の減少が見られ,マグマから浅部熱水系に供給される流量が減少したことを示唆している。

3-2.地震・火山現象の予測のための研究

地震や火山噴火現象の科学的理解に基づき,地震活動や火山活動の予測研究を行った。地震発生予測では,プレート境界地震の長期評価の研究及び先行現象に関する研究を行った。火山噴火の規模,推移,様式の予測のために,噴火事象系統樹の作成や事象分岐*論理の構築を進めた。

(1)地震発生長期評価手法の高度化

プレート境界で発生する大地震に対しては,観測データ等から得られたプレート境界の状態を考慮した数値シミュレーションを実施し,新たな地震発生長期評価につながる手法の開発を行った。内陸地震については,地質データ等と近年の観測データとを統合して得られる地震発生の繰り返し特性の多様性を把握するための調査を実施した。
地下の温度,圧力等の条件による摩擦パラメータの変化を考慮した摩擦構成則を定式化し,日本海溝付近の掘削により得られた試料を用いた実験結果を考慮した,地震発生サイクルのシミュレーションを実施した。その結果,巨大地震や大地震を含むサイクル,海溝まで達する巨大地震の頻度,深部のみの大地震の頻度,巨大地震時の滑り量と発熱量,長期的摩擦発熱量等に関する観測結果の特徴をおおむね説明する結果が得られた。また,最浅部のみが数cm/s程度の低速度で滑る津波地震に相当するイベントも再現された。
 過去に発生した地震像に2種類以上の典型例があることを見出した神城断層について,これらの多様性に関する詳細なデータを得るためのトレンチ調査*等の現地調査を実施した。

(2)モニタリングによる地震活動予測

物理モデルに基づく数値シミュレーションと地震活動や測地等の観測データを比較することにより,プレート境界滑りの時空間発展機構を包括的に理解する研究を実施した。さらに,プレート境界滑りを予測する手法の開発を進めた。また,地殻ひずみ・応力の変動を,断層滑りや広域応力場を基に推定する手法を開発し,地震・火山現象に及ぼす影響を評価した。統計的モデルを用いて,地震活動の予測実験を行うとともに,その予測性能を評価した。

ア.プレート境界滑りの時空間発展

ブロック断層モデルを時間変化も含めて解析できるように拡張し,2011年東北地方太平洋沖地震前の日本列島の地殻変動の解析を実施したところ,平成15年(2003年)十勝沖地震(以下「2003年十勝沖地震」)の余効滑りや,2005年宮城県沖の地震に伴い,宮城県沖合の滑り欠損が小さくなる様子が捉えられた。さらに2008年の茨城県沖や福島県沖の地震後の余効変動により,茨城県沖や福島県沖でのプレート境界の滑り欠損が小さくなっていることが推定された。
相似地震*を利用し,プレート境界の固着状態の時空間変化を推定した。地震活動に関する時空間更新過程モデルを用いて非地震性滑り*の時空間的変化を推定したところ,2011年東北地方太平洋沖地震発生までの太平洋プレート境界では,十勝沖から釧路沖において,2003年十勝沖地震後の滑り速度が長期にわたって以前より高い水準にあること,平成6年(1994年)三陸はるか沖地震の余効滑りの減衰期間が深さにより異なることなどが推定された。日向灘から奄美大島にかけてのフィリピン海プレートが沈み込むプレート境界において,非地震性滑り速度を求めたところ,M6.5以上のプレート境界型地震4個のうち,3個について地震発生の少し前から非地震性滑り速度の増加が認められ,全ての場合において地震発生後は非地震性滑り速度が遅くなったことがわかった。
 海底水圧計のデータの解析により,2013年12月から2014年1月の房総沖のゆっくり滑り*発生場所に近い観測点で2cmを超える隆起が認められた。東海地方で2013年頃からはじまった長期的ゆっくり滑りに関して,GNSS連続記録を用いて時空間分解能の高い解析を行った結果,2013~2015年の最大積算滑り量は約6.5cm,長期的ゆっくり滑り発生時に解放された地震モーメント*は約Mw6.5相当と推定されたほか,長期的ゆっくり滑りと短期的ゆっくり滑りの両方の滑り分布の同時推定に成功した。
 南海トラフ沿いで発生する深部低周波微動から放射される波動のエネルギーを定量的に評価し空間分布を調べたところ,紀伊水道以西の四国地方で高く,東側の紀伊半島,東海地方で低いことが分かり,プレート沈み込み速度との関連性が考えられる。
 房総沖のゆっくり滑りのメカニズムの理解に向けて,1996年に発生したゆっくり滑りの滑り分布の推定を基に,プレート境界面上における応力の時空間変化を求め,これを再現できるような摩擦構成則のパラメータを推定した。

イ.地殻ひずみ・応力の変動

活断層周辺の応力状態を推定するために,観測されたP波初動の向きの分布から応力の空間分布を求める応力逆解析手法を開発・検証し,その有効性を確認した。人工誘発地震が発生する南アフリカ鉱山では,震源貫通掘削コアの楕円度から差応力を推定するための解析を実施した。

ウ.地震活動評価に基づく地震発生予測・検証実験

本震直後に発生する余震活動の欠測を埋めるための統計学的手法が提案され,2016年熊本地震の余震活動に適用したところ,統計的に補充された余震データから,4月14日のM6.5の前震直後の余震活動の中に,日奈久断層北側の布田川断層付近で相対的静穏化が検出された。

(3)先行現象に基づく地震活動予測

大地震発生前の前震について,2016年熊本地震が発生した地域(九州中部)の過去の前震活動の統計的解析を行い,本震前に前震が現れる割合などを調査した。茨城県沖を対象として,連続地震波形記録から群発地震と繰り返し地震*を自動的に検出したところ,大地震の前にはこれらの活動が増加し,また直前には空間的に広がりを持った前震活動として捉えられた。
大地震に先行する地震活動の静穏化を系統的に評価した。北海道からカムチャツカ半島までの千島列島沿いを対象として,長期静穏化にもとづく予測マップを作成したところ,1993年から2012年までの間で地震発生の可能性が高いと予測された領域の予測マップの全領域に占める割合が約15%に対して,期間中におきたMw8.3以上の地震3個すべてが同領域で発生した。また,1990年から2014年までに発生した世界のMw8.0以上の地震23個について,地震活動の長期的静穏化が先行していたかどうかを調査した結果,静穏化の有無が判断できなかった4例を除く19例について,本震発生前に10年程度以上の長期静穏化が見られた。さらに,2016年熊本地震に対しても震源域から九州西方海域にわたり,広範囲な静穏化が2014年末ごろから開始していた事が判明した。
2016年熊本地震に関してb値*の調査を行ったところ,時間的な低下傾向は見られなかったが,前震・本震の破壊の開始点はb値の非常に低い場所に位置していたことがわかった。世界及び東北沖の地震活動と,月の満ち欠けの周期程度で変化する潮汐*応力の振幅とを比較したところ,振幅が大きいときにはb値が小さくなることがわかった。
Mwが8.2より大きい地震の先行現象として,1時間程度先行することが報告されている電離層全電子数(TEC) *の変化を2010年マウレ地震(Mw8.8),2014年 イキケ地震(Mw8.2),2015年 イヤペル地震(Mw8.3)において調べたところ,それぞれMwに応じた空間的広がりや強度,先行時間をもつことを確認した(図11)。さらに,通常は観測可能な大きさのTEC異常は認められていない32個のMw7.0-8.0の地震について解析を行ったところ,例外的に地震前後のTECが大きい状況下では,直前の異常が観測される場合があった。

(4)事象系統樹の高度化による火山噴火予測

平成26年度に火山活動の活発化に伴って緊急的に作成された蔵王山の噴火事象系統樹は,御釜からのテフラ*層の噴火推移に関する最新研究成果などを加えて改定された。また,次年度の阿蘇山の噴火事象系統樹作成に向け,研究集会を開催した。
地質調査,年代測定,岩石学的解析に基づく,今後の噴火事象系統樹作成に必要となる基礎データの収集が,富士山,草津白根山,白根火砕丘*群,摩周火山等について進められた。草津白根山では,約1万年前には山頂域でマグマ噴火による火砕丘の形成が始まっており,約1100年前頃には水蒸気噴火の活動期に入っていたことが明らかになった。
一方,事象分岐の条件を導くことを目指す研究も行われた。桜島火山歴史時代のプリニー式噴火*(文明・安永・大正)の噴出物に含まれるメルト包有物*の揮発性成分含有量から噴出前にマグマが滞留していた深度を見積もったところ,大部分が約0.5~3kmとなることがわかった。この深度範囲にわたってマグマが分布していたとすると,軽石噴火の噴出体積のほぼ全てが,噴火直前には浅部の火道に貫入した状態であったと推定される。これは,噴火規模の予測のためには,マグマ貫入量を正確に決めることが重要であることを示唆する結果である。また,大地震の発生と火山噴火の発生の関連性を調べるため,漏れなく記録されていると考えられる全世界の1976年以降のMw7以上の地震と1966年以降の噴火について統計解析を行った。その結果,Mw7.5以上の地震の発生後,距離200km以内にある火山の噴火数が数年間にわたり約50%増加していることがわかった。また,それ以遠の距離や,Mw7.5以下の地震に対しては,火山の噴火数に顕著な変化が見られなかった。
事象分岐の体系的分析の基盤となるデータセットの収集には,衛星を用いた広域観測が効率的である。ひまわり8号の超高頻度赤外画像,高分解能衛星画像,全球三次元地形データを組み合わせ,インドネシア・ラウン火山の2015年6-8月噴火の解析を行い,前駆期,2回の溶岩噴出期,そして終息期からなる噴火推移の全貌を明らかにした(図12)。
気象庁は噴火警戒レベルの判定基準の根拠を明示して公表するため,過去のデータを改めて精査し,注目すべき現象の整理,判定基準のできるだけの具体化及び必要な見直しを進めた。平成27年度の浅間山,御嶽山,桜島に引き続き,伊豆大島,三宅島,阿蘇山等の8火山について公表した。

3-3.地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究

地震・火山噴火による災害誘因の自然素因への作用,社会素因への影響,社会的影響の波及効果を総合的に研究した。地震・火山噴火の災害事例の研究や,地震・火山噴火の災害発生機構の解明,地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法や即時予測手法についての研究を進めた。また,災害軽減のための情報発信についての研究,地震・火山現象や災害の基礎情報の啓発や予測情報の利用方法に関する研究を行った。

(1)地震・火山噴火の災害事例の研究

 明治29年(1896年)陸羽地震(M7.2)の際に,震源域から離れている現横手市の一地域において住家全壊率が10%以上になった原因を探るために,常時微動*観測による地盤構造の調査を行った。常時微動の水平成分と上下成分のスペクトル比の特徴から,横手盆地では比較的狭い範囲(幅1~2km)で基盤が深くなる構造が存在していることが推測された。
室町時代後期の明応7年(1498年)に,近畿地方で記録された有感地震と地震・災害対応について検討した。「大地震」と記されている明応7年6月11日と,同様に「大地震」と記され東海地震と考えられる同8月25日の地震とについて,畿内で記された日記史料にみられる有感地震の記録に基づいた検討の結果,余震回数や被害様相などの地理的特徴の違いから,これら2つの「大地震」は同じような発生過程をもつ地震ではなかった可能性が高いことがわかった。

(2)地震・火山噴火の災害発生機構の解明

地震災害誘因を評価するための地下構造モデルを構築のために,国内の堆積平野において地震波干渉法を活用することにより地下構造を推定し,長周期から周期1秒までの首都圏の強震動シミュレーションに成功した。また南海トラフ海域の付加体*に対する地震波速度構造を推定し,過大な強震動予測をもたらしていた従来のS波速度や層厚を修正した新たな地下構造モデルを構築した。
大規模噴火避難に関して住民の意向をアンケート調査したうえで,避難シミュレーションを行い,避難勧告の情報を発表するタイミング等避難に関する検討を行った。桜島大正噴火に基づき降灰厚が30cm以上と予測された鹿児島市街地を対象として,車により渋滞のない最適な避難経路を取る場合,80万人の全住民が避難するのに約50時間かかることがわかった。また,アンケート調査からは,県内の降灰の少ない場所や他県に移動する長距離避難の意向をもつ住民は約20%であることが明らかとなった。この結果と,風向きによる降灰域の局在化を考慮すると,避難する住民の数は減少し,避難勧告から避難完了まで数時間程度となる。さらに,事前に避難準備情報等を出すことによってその時間が短縮されるという結果となった(図13)。

(3)地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法の高度化

地震動の事前評価に関しては,震源断層モデル及び地下構造モデルの高度化と,強震動特性の解析を進めた。日本海下の深発地震の広帯域地震波形を詳しく調べたところ,沈み込む太平洋プレート内部を伝わる地震波は,そこでの多様なスケールの不均質構造の影響を強く受けており,特に薄い低速度層は周波数2~4Hz程度の地震動を沈み込む太平洋プレート上部に向けて強く放射し,異常震域*の発現に寄与することを確認した。物理探査に基づいて作られた京都堆積盆地の地震波速度構造モデルを,近地地震のP波を用いたレシーバ関数解析により検証し,速度構造モデルの修正方針を示した。大阪堆積盆地の速度構造モデルの妥当性評価のため,2011年東北地方太平洋沖地震の地震動シミュレーションを行い,震源域から大阪堆積盆地までの地殻構造と堆積盆地構造モデルの検証及び盆地の長周期地震動に対する応答特性の解析を行った。
南海トラフで発生すると考えられている巨大地震のリスク評価の精度向上のために,震源過程,地震波伝播特性,深部地盤構造,強震動予測,浅部地盤構造,構造物被害予測,リスク評価の各項目について,予測モデルの構築・選択とそれらのモデルによるリスク評価の不確かさとに関する検討を実施した。リスク評価の結果,損失額及び木造家屋居住者一人当たりの死亡率は,地域により地盤増幅特性や震源からの距離に大きく依存し,また感度解析の結果,損失額及び死亡率ともに強震動予測式が結果に大きく影響することがわかった(図14)。
地震による地滑りの事前評価に関しては,甚大な被害を引き起こすテフラの地滑りハザードマップ作成方法について,現地調査で得られた崩壊タイプ等の知見を基に試案をとりまとめた。平成27年度に地滑り土塊に設置した加速度・傾斜センサーにより,基盤から移動土塊,地表面に至る地震動の増幅過程を明らかにした。

(4)地震・火山噴火の災害誘因の即時予測手法の高度化

地震動の即時推定について,地震波は伝播中に地下構造の不均質性の影響を受けやすいため,この事を考慮した地震動予測シミュレーションを2016年熊本地震の本震について行ったところ,予測震度と観測震度の差が10%程度改善されるなど,震度の予測精度が向上した(図15)。リアルタイムの揺れの実況値から揺れの伝播を予測する手法の高精度化のため,高密度で配置されている自治体震度計からリアルタイムで震度と最大加速度値を受信するシステム開発をおこない,常時接続状態での安定稼働を実現した。
津波の即時予測に関し,日本海溝・千島海溝海底地震津波観測網(S-net)*程度の観測点間隔の観測網を仮定し,2011年東北地方太平洋沖地震を模して津波数値計算と沿岸の津波浸水域及び浸水高の予測計算とを行った。その結果,地震の破壊過程終了後2~3分程度で十分な精度で津波浸水予測ができることを示した。また,この手法を,カナダ太平洋沖で発生した2012年ハイダグワイ地震(Mw7.8)時にオレゴン州沖海底圧力計で観測された津波データに適用し,手法の有効性を確認した。沖合から海岸に進む津波の高さと水深の関係について,2011年東北地方太平洋沖地震時の津波で得られた観測値から,沿岸の津波高は沖合に比べて水深比の1/5乗に比例して増幅することを見いだした。さらに,津波の生成・伝播過程を,波源と二次波源(散乱源),伝播経路,観測点付近の効果の3つに区分して,それぞれの段階ごとに数理モデル化し,遠地津波の観測事例に適用して減衰定数などのパラメータの推定を進めた。
 火山噴火に伴う降灰の即時予測に関して,噴煙観測による予測精度の向上が進められた。桜島では,LiDAR装置から発射されるレーザーを2016年7月26日の爆発に伴う噴煙に照射することにより,散乱強度と偏光解消度*の時空間分布を調べた。また,2016年3月26日桜島噴火に伴う噴煙について,Kuバンド高速スキャンレーダー*による観測データの解析から,世界で初めて約1分毎に火山噴煙の詳細な3次元構造を捉えた。気象庁レーダー観測網による日本国内における火山噴火噴煙の検知能力,各火山・高度別の検知時間間隔や高度分解能について調査し,小規模な噴火が検知困難な火山や,大規模噴火の検知高度分解能について明らかにした。近年,発生した火山噴火について,レーダー観測による噴出物総量の推定を行い,野外調査の結果と比較して妥当な値の得られたことを確認した。

(5)地震・火山噴火の災害軽減のための情報の高度化

釧路市を対象として避難施設と避難圏域に関するデータの収集と分析から,積雪寒冷地における高齢者福祉施設の津波避難の現状と課題を明らかにする等,各自治体のもつ,災害に対する社会的脆弱性に関する分析を行った。その結果,歩行困難な高齢者が多くそれを介助する職員が不足していることから,自動車避難の検討及び避難高齢者の集団待機場所の確保が有効であると思われる。
富士山周辺市町村における火山防災担当者のスキル向上を目的に,継続的に知識を取得し,共通課題を共有し,地元の火山噴火に的確に対応できる人材育成を目指した研修プログラムの構築を試みた。

3-4.研究を推進するための体制の整備

地震・火山現象に関する研究を推進する体制を構築し,研究成果を災害軽減に活用するため,観測網やデータベースなどの研究基盤の整備・拡充と成果公開,国際的な共同研究の推進,幅広い人材育成,災害軽減に関する教育や理解増進等の取組を組織的に行った。

研究基盤の開発・整備

・地震・火山現象のデータベースとデータ流通

  平成28年度に噴火した阿蘇山と桜島のほか,火山活動の高まりがみられた霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)と薩摩硫黄島において,緊急観測により収集した火山活動の詳細なデータを解析し,データベース化した。平成27年度に確立した新たな検知手法を取り入れた自動震源決定の作業手順を,全国地震カタログ作成に導入した運用を開始した。この結果,カタログに登録される地震数が従来の約2倍に増大した。
 陸上・海底地形データや人工地震探査等の解析から,日本列島周辺の海溝軸とプレート境界形状のモデルを構築し,研究者が共通して用いるコミュニティー・モデルとして研究成果共有システム上に公開した。

・観測・解析技術の開発

 陸域の基盤的地震・火山観測網の整備と維持を行うとともに,海域の地震・津波観測監視システム(DONET)*も含めた海陸観測データの流通システムを構築した。また東日本沖では日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の構築のために,海溝軸外側(北海道沖から千葉県)で観測装置と光海底ケーブルの敷設工事を行った(図16)。
 2015 年に,2011年東北地方太平洋沖地震時の最大滑り域付近の日本海溝において海溝軸を跨ぐ形で,脚形状や搭載センサー等を改良した機器5台を設置し,海底間音響測距観測*を行った。収集された約1年間の連続データ(最長約7.2kmの基線)から,ばらつきで±1~2cm,1年間の変位速度で±2cm/年の精度で基線長を計測できる見込みを得た。
次世代型広帯域海底地震計として自律展開設置・自己浮上回収方式を用いた新型機について実海域での試験を行った。着底時に大きな傾斜をもたらす降下時の傾斜変動が,回収時の浮力確保のために追加した浮力体の張力により大幅に低減されることがわかった。
火山観測の高度化を進めるため,ひまわり8号の全球画像を10分毎にダウンロードし,補正,解析,アーカイブ処理を行う「活火山リアルタイム観測システム」を完成し,東アジアから西太平洋域の火山の熱異常観測を行っている(図12)。また,一般公開用のWebシステムの開発を進めている。火山周辺における重力観測技術向上のため,変位計測の基準となる波長安定化光源1台を複数の観測点の装置の光源として共通に使用し,光ファイバーで分配することで,効率的かつ安定的に計測する絶対重力計観測網の構築を進めた。長距離伝送に適した光通信に使われる光源(波長1550 nm帯)を用いた絶対重力計の動作検証を行い,従来の可視光源を用いる場合と誤差の範囲内で整合する結果を得た。
地殻変動のリアルタイムモニタに関して,数日から1日以下程度の時定数を持つ地殻変動を精密に捉えるためのGNSS解析の高精度化に係る研究開発を進めた。キネマティック*精密単独測位解析において,観測地点,日付毎に最適な対流圏遅延パラメータを推定することが位置推定精度の向上に重要であることがわかった。平成27年度に開発した3軸精密可動台を用いて,キネマティックGNSS時系列の精度評価を行ったところ,海上ブイを模した移動体に設置した実験により,アンテナの回転により大きな誤差が発生することを突き止めた。また,観測点周辺の地形や建造物等からのマルチパス誤差を定量的に評価する手法を開発し,これを補正値としてキネマティックGNSS解析に用いることで,精度の向上が見込めることを確認した。
GNSS観測・解析技術において,GEONETリアルタイム解析システムで処理する衛星系をGPSのみからGPSとGLONASSのマルチGNSS対応に拡張するとともに,リアルタイム・キネマティックGNSS時系列から火山性地殻変動の圧力源の状態を逐次推定するシステムを構築した。

・社会との共通理解の醸成と災害教育

 地震研究の成果や現状を伝えるため,内閣府における南海トラフの巨大地震の防災対策検討に対応した「南海トラフ巨大地震の予測可能性に関するシンポジウム」(平成28年9月)と,甚大な被害を生じた2016年熊本地震に関する「熊本地震シンポジウム」(平成28年10月)を,一般に公開して開催した。
関係機関の観測情報など火山防災情報を収集・統合表示する準リアルタイムシステムを改良し,北海道の火山周辺自治体等に試験的に設置している。2016年11月に活発な熱泥水活動の見られた倶多楽火山大正地獄の事例では,関係機関間のリアルタイムでのデータ共有と防災対応に利用された。本システムは,火山防災のみならず気象監視にも活用できるが,2016年8月の台風被害に関しては,市町村の規模により活用有無が分かれ,平時を含めた活用法の検討など課題も明らかとなった。

・国際共同研究・国際協力

 ニュージーランドのヒクランギ沈み込み帯における地殻活動解明のために,日本,ニュージーランド,米国が共同で海底観測機器を設置して観測を行った。これまでで2番目に大きい規模のゆっくり滑りが観測され,陸上のGNSS観測網による検出の数日前に,海底の上昇(数cm)が捉えられ,滑りがプレート境界の浅部から深部に進行し,ほぼ海溝軸まで達したことを示唆する結果を得た。

3-5.優先度の高い地震・火山噴火

本計画実施期間に災害科学の発展に着実に貢献できることや,発生した場合の社会への影響の甚大さを考慮して,東北地方太平洋沖地震,南海トラフの巨大地震,首都直下地震,桜島火山噴火については,研究項目を横断する総合的な研究として推進している。ここでは,総合的な取り組みについてのみ記述し,それぞれの地震・火山噴火に関連する個別の研究成果は3-1から3-4に記述した。

・東北地方太平洋沖地震

2011年東北地方太平洋沖地震は,日本の観測史上最大の地震であり東日本大震災をもたらした。しかし地震発生の予知はおろか,発生ポテンシャルですら正しく推定できなかった。将来の巨大地震の際の災害軽減に役立てるために,この地震に関する研究が行われた。例えば,今なお続いている余効変動のメカニズムの解明や,広域の応力場の変化による日本列島の陸海域における地震活動への影響,同様の巨大地震の発生による強震動の評価や津波即時予測の高度化が行われた。

・南海トラフの巨大地震

南海トラフ域では,昭和の東南海・南海地震から70年以上が経過し,次の巨大地震発生の可能性は高まっている。海域観測で得られる測地データを基に滑り欠損の分布が求められ,将来発生する地震発生像の理解が進められた。南海トラフの巨大地震によるリスク評価の精度向上のための研究が,大学付置研究所に設置された共同利用・共同研究拠点間の連携共同研究として行われた。

・首都直下地震

地震像が多様な首都直下地震について,その災害誘因予測に必要な基盤となる観測網の維持や拡充とデータの取得が行われた。この観測結果と数多く残されている地震災害に関する史料との比較により,過去に甚大な被害をもたらした地震像が明らかになる可能性がでてきた。

・桜島火山噴火

桜島火山では,2006年以降続いていた昭和火口の噴火活動が,2015年7月以降噴火回数が減少し、2016年度は噴火頻度の低い状態が続いた。活発期には,多項目観測から噴火機構の解明につながる重要なデータが蓄積され,解析やモデル化が継続されている。一方,地殻変動観測によると,1914年大正噴火級の大規模噴火を可能とするマグマはすでに姶良カルデラ下に蓄積されている。この規模の噴火における広域事前避難について検討が行われた。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)