4. まとめ

 平成21年度から5か年計画で推進されてきた「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」は,モニタリングされたデータと地震・火山噴火の素過程の物理・化学モデルに基づく地震・火山現象の推移予測の実現を目指し,予測システム構築のための研究を行い,また,予測システムの基礎となる地震・火山現象の解明や技術開発を進めた。平成23年3月11日に発生したM9.0の東北地方太平洋沖地震を受けて平成24年度に計画の内容を見直し,超巨大地震やそれに起因する現象の解明や予測の研究を強化した。
 観測研究は概ね順調に進展し,平成20年度までの観測研究計画の成果の蓄積と合わせて,東北地方太平洋沖地震の地震像と直前過程の解明に貢献した。これまでに開発した海底地殻変動観測技術により,東北地方太平洋沖地震の数十mにも及ぶ大滑りを実測することができ,沖合での津波観測にも成功した。地震,津波,地殻変動等の観測により,東北地方太平洋沖地震の震源過程の詳細が明らかになり,海溝近くの大滑り域とは別に震源域深部に短周期地震波を生成した領域が存在したことが示された。また,東北地方太平洋沖地震発生前のゆっくり滑りの発生や長期的な地震活動の変化など,巨大地震発生前の直前過程についての新たな知見が得られた。さらに,東北地方太平洋沖地震を含むこの領域の長期的な地震発生サイクルの物理モデルが提案され,海溝軸付近での大滑りや地震発生サイクル後半におけるゆっくり滑りの発生などの再現が試みられた。
 火山噴火については,過去の噴火履歴に基づき,いくつかの火山について噴火シナリオを試作し,実際に噴火した火山への適用も行われた。火山噴火準備過程と噴火過程の研究からは,多項目観測を適切に行うことにより,長期的なマグマの蓄積やその時空間変化が定量的に推定できるようになり,噴火直前の地震活動や地殻変動の観測データの解析及び物質科学的データの分析から,噴火の発生時期や規模が予測できる場合があることが分かってきた。また,マグマ上昇や噴火過程について,物理・化学モデルに基づく理解が進んだ。今後は,これまで過去の履歴に主に頼っていた噴火シナリオにある事象分岐の判断に,観測データの解析結果や理論モデルから得られる知見を生かす方法を開発することが,火山噴火予測研究の目指す一つの方向であろう。
 東北地方太平洋沖地震の発生により,これまでの観測研究計画で不十分であった点が明白になった。これまでも歴史記録や地質学的データに基づく過去の地震や火山噴火の研究は行われてきたが,近代的観測データに基づく研究の比重が大きかったことは否めない。発生すると大きな被害につながる低頻度大規模の巨大地震や大規模噴火については,史料,考古データ,地質データ等をこれまで以上に活用して,地震や火山噴火の長期予測の精度を向上させるための研究を進める必要がある。また,地震や火山噴火の発生予測の研究は着実に進展しているが,短期間に予測の精度や信頼性を大きく向上させるのは簡単ではない。現在持っている最大限の科学的知見を利用した,地震や火山噴火による地震動,津波,降灰等の予測研究を強化するなど,少しでも地震・火山による災害軽減に貢献する研究も推進することが必要である。本5か年の研究計画の後半では,地震や地殻変動データの即時解析により大地震の規模や震源域の広がりを迅速に推定する手法や,沖合津波計のデータ等を利用して海岸に到達する前に津波を精度良く推定する手法等が開発され,実用化に向けての研究が続けられている。今後は,地震や火山に関する理解の進展を図るとともに,災害科学の研究者等と連携して,災害軽減に役立てるための研究が必要である。

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-- 登録:平成27年02月 --