2.第7次火山噴火予知計画の実施状況 2.火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進

火山噴火予知高度化のため、関係機関である情報通信研究機構、大学、防災科学技術研究所、海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、国土地理院、気象庁、海上保安庁海洋情報部は、火山噴火予知計画における各機関の役割に基づき連携して、以下の基礎研究を推進することとした。

(1)噴火の発生機構の解明

1 計画の内容

噴火の発生機構を定量的に理解するために、マグマや熱水等の火山流体の挙動とマグマの上昇に伴う発泡・結晶化・脱ガス過程を各種観測、実験及びシミュレーションによって解明する。また、マグマや火山ガスと地下水との相互作用、及び爆発の発生機構の解明を目指す。

2 実施状況

(ア)大学は、噴火の発生機構の解明のために、諏訪之瀬島、雌阿寒岳などで広帯域地震観測を実施した。また、2004年(平成16年)9月に噴火した浅間山では、噴火の推移観測から噴火機構を明らかにするため、広帯域地震観測及び地殻変動観測網を整備し、絶対重力連続観測を実施した。さらに、噴火の活動度と噴煙の放出状態を検討するため、噴煙の画像解析を行った。防災科学技術研究所は、三宅島、八丈島の地震及び地殻変動観測データからマグマ貫入の理論的解析を進めた。産業技術総合研究所は、有珠山の放熱量・温度変化を再現するための熱水系シミュレーションを実施するとともに、2000年(平成12年)噴火の前後に生じた地下水位変動を観測し、噴火中の流体移動のモデル化を行った。
(イ)大学、産業技術総合研究所、防災科学技術研究所は、雲仙岳において、火口直下の構造とマグマの脱ガス過程を明らかにするため、先の噴火火道と思われる場所を掘削し、物理検層データと採取試料の解析を行った。また、大学は、マグマ上昇に伴う結晶化や脱ガス過程を明らかにするため、雲仙岳、三宅島、有珠山において、最近の噴出物の組織解析を行った。産業技術総合研究所は、雲仙岳の噴出物中のメルト包有物の揮発性物質分析を行い、火山ガスの起源を検討した。また、チリのビジャリカ火山において噴火中に放出される火山ガス組成を測定し、変動及びその起源を検討した。さらには、噴火過程における脱ガス過程を明らかにするため、高温高圧条件下での発泡マグマ中のガス浸透率についての実験を行った。

3 成果

(ア)浅間山では、噴火に先立つマグマ貫入が噴火直前から岩脈状に起きていたことや、地下水蒸気溜りで起きたと思われる特異な流体の震動が噴火に先立って消失したことをとらえた。また、爆発に伴う振動波形の解析から、膨張、爆発、減圧発泡、マグマ上昇のモデルが提案された。さらに、噴火中のマグマ頭位の高さ変化が重力変化でとらえられることを示した。諏訪之瀬島では、爆発機構のモデルが提案された。三宅島においては、2000年噴火活動のマグマ貫入、カルデラ形成に伴う火山流体の動きをモデル化することができた。八丈島に貫入したマグマの形状や性質、その後の変化を把握した。有珠山では、2000年噴火前に生じた地下水位変動から、噴火前の地殻応力の変化を推定した。
(イ)雲仙岳では、先の噴火でマグマが新たな場所に岩脈状に貫入し、マグマからの脱ガスが火道を使って行われたことを明らかにした。マグマの発泡と結晶化が起こる深度が異なることや、上昇速度によって結晶化の仕方が異なることを定量的に示した。また、雲仙岳噴火マグマ中の苦鉄質端成分マグマは硫黄に富んでおり、放出された二酸化硫黄はすべて噴火マグマに溶存していたことを明らかにした。チリ・ビジャリカ火山の噴火で放出された火山ガスは、深部からの気泡の上昇による寄与が小さいことを明らかにした。発泡マグマ中のガス浸透実験からは、従来、天然試料の測定から推定されていた浸透率とは異なる結果を得た。また、噴火直後の熱水系が発達するためには、貫入したマグマの浸透率がより大きい必要があることが明らかとなった。

(2)マグマ供給系の構造と時間的変化の把握

1 計画の内容

噴火活動を定量的に予測するためには、マグマ供給系や噴火発生場の構造とその時間的変化の把握が不可欠であり、引き続き火山体構造探査を推進する。地球物理学的観測のほか、地球化学的観測や地質調査、岩石学的実験なども併せて推進し、総合的なマグマ供給系モデルの構築を目指す。

2 実施状況

(ア)大学では、マグマ上昇過程をより正確に把握するために、噴火の兆しのある北海道駒ヶ岳と口永良部島、深部低周波地震活動の活発化した富士山、及び小噴火した浅間山を対象に、人工地震探査による浅部速度構造の解明を共同して進めた。特に富士山と浅間山では、探査深度を増大するために、稠密地震観測によるトモグラフィー解析や電磁気探査を集中総合観測の一環として実施し、マグマ溜りの検出を試みた。また、富士山では、マグマ供給系を検討するために、試錐調査を含め物質科学的な調査も実施した。浅部速度構造が解明されている岩手山では、自然地震を用いて深部速度構造や速度構造の時間変化を調べた。マグマ供給系や内部構造が推定されている雲仙岳では、既存の人工地震探査データを用いて、後続波解析からマグマ供給系の微細構造の抽出を試みた。さらに、火道掘削データ等の物質科学的な解析結果も加え、マグマ供給系の総合化を進めた。
一方、岩手山、磐梯山や雲仙岳では、地震や地殻変動データなどの詳細な解析を通じて、マグマ供給系やその時間変化を検討した。伊豆大島では、稠密GPS網を展開し、地中二酸化炭素濃度の連続観測などを併せてマグマ供給系の時間変動を調べた。さらに、集中総合観測を実施した御嶽山でも浅部構造を検討した。このほか、マグマ供給系を理解する手掛かりとして、神津島などでは測地データから地殻変動源を推定し、安達太良山等では重力変化を調べた。雲仙岳、九重山や阿蘇山では、繰り返し空中磁気探査から火山体内部の磁気的構造の時間変化の検出を試みた。
(イ)防災科学技術研究所では、三宅島のマグマ供給系や硫黄島で観測された一連の異常現象を説明する総合モデルの構築を進めた。また、浅間山などでは、地震の基盤的調査観測網を用いて噴火などに伴う地震・傾斜の検出に努めた。
(ウ)産業技術総合研究所では、有珠山等において物質科学的手法に基づき、マグマの進化やマグマ溜りの冷却脱ガス過程をモデル化したほか、火山構造の発達過程やアナログ実験も加えてマグマ貫入の制御機構を検討した。
(エ)国土地理院では、地殻変動として観測されるマグマ供給系の時間変化を実時間で把握するために、GEONETの迅速解を用いた準リアルタイム地殻変動解析システムの構築を進め、伊豆東部火山群の地震活動に伴う地殻変動を解析するとともにシステム評価を行った。
(オ)海上保安庁海洋情報部では、中長期的な火山体構造の時間的変化の検出を目指し、北福徳堆などにおいて海底地形などの基礎調査を行ったほか、明神礁では地磁気異常分布の時間変化について検討した。
(カ)海洋研究開発機構では、マグマ発生・分化・固化に関する理解を深めるために東北日本弧・西南日本弧などの成熟度の異なる火山弧において、系統的試料採集・分析・モデリングを行った。

3 成果

(ア)人工地震探査により、北海道駒ヶ岳、富士山、口永良部島及び浅間山の詳細な浅部速度構造を解明し、山体直下に高速度層の盛り上がりを認めた。人工地震と自然地震を併用した構造探査を行った富士山では、浅部から20キロメートル以深までの速度構造を明らかにし、P波、S波速度や電気比抵抗から、深さ10~15キロメートルに超臨界状態の水などの流体、20キロメートル以深にマグマ流体の存在を示唆した。また、掘削データ等の物質科学的な検討から、噴火史を再編し、浅部安山岩質マグマと深部から注入される大量の玄武岩マグマの混合という大局的なマグマ供給モデルを示した。浅間山では、地殻変動解析によるマグマの貫入位置を低電気比抵抗領域に認め、マグマ供給系の理解を深めるために人工地震と自然地震を用いた構造探査を進めた。岩手山では、遠地地震のレシーバー関数解析から深さ30キロメートル前後に分布するS波低速度層を明らかにし、相似地震を用いて1998年(平成10年)の火山活動の活発化に対応したS波の速度変化を検出した。雲仙岳では、後続波解析により、溶岩ドーム直下の背斜構造を描き出したほか、マグマ上昇路を深さ約3キロメートルで顕著な反射面として、3キロメートル以浅では鉛直に延びる弱い反射面としてとらえるなど、探査深度や分解能の向上に後続波解析が有効であることを示した。また、物質科学的に火道掘削データを検討し、溶岩ドーム直下に時代の異なる複数の火道を示す平行岩脈を認め、背斜構造と併せて指状のマグマ貫入モデルを提示した。
(イ)岩手山や三宅島では、既存の地震や地殻変動データ等の再解析によりマグマ供給系のモデル化を進めた。岩手山では、1998年の活動に伴う地震や地殻変動源の西方移動を明らかにし、表面熱活動も併せて岩脈状のマグマ貫入と熱水溜りからなるモデルを示した。三宅島では、マグマ溜りの大きさは未知のままだが、マグマシステムをモデル化し、定量的な噴火予測への道を開いた。
(ウ)磐梯山、硫黄島や伊豆大島では、マグマ供給系を理解する糸口を見いだした。磐梯山では、山頂浅部での低周波地震活動に続いて、超長周期震動が1888年(明治21年)噴火で生じた火口の深さ5キロメートルで励起されていることが分かった。硫黄島では、定常的な収縮変動と間欠的な隆起変動を認め、水蒸気爆発が間欠的な隆起変動時に発生することを明らかにしたほか、マグマの蓄積を示唆する重力変化をとらえた。伊豆大島では、カルデラ内の地震が全島的な伸張・収縮と同期し、膨張速度と地中二酸化炭素濃度の間に正の相関を認めた。
(エ)また、地殻変動データから雲仙岳では、活動終息後におけるマグマ供給量の低下を示唆したほか、御嶽火山では、東麓の群発地震域浅部にAFMT探査などから熱水系と想定される地殻変動源を見いだした。神津島などでも地殻変動源を求め、浅間山の小規模なブルカノ式噴火では前駆する傾斜変化を検出した。さらに、伊豆東部火山群では、準リアルタイム地殻変動解析システムにより地殻変動を数時間の遅れをもってモデル化し、システムの有効性を示した。
(オ)このほか、重力変化の解析から北海道駒ヶ岳では、マグマ蓄積量を推定し、安達太良山では、熱水系の消長をとらえた。雲仙岳、九重山、阿蘇山や明神礁では空中磁気探査を行い、九重山では冷却に伴う磁場変化をとらえ、阿蘇山では中岳火口近傍において帯磁を失った領域を抽出することができた。
(カ)海底火山では、北福徳堆、若尊、鬼界カルデラを調査し、若尊では気泡の湧出するカルデラ中央付近に地層のずれを認めたほか、桜島方向へ広がる1メートル深地温の高温域をとらえた。
(キ)物質科学的な研究では、岩脈の立体的な分布などに関する基礎データや山腹噴火の履歴に関する時系列情報を整理し、応力を媒介としたマグマ貫入の制御機構モデルが富士山などの火山に適応できることを示した。また、有珠山において、定在する二つのマグマ混合が噴火前に起きたことを解明し、時間分解能の高いマグマの化学進化モデルを構築した。薩摩硫黄島では、上部流紋岩マグマ溜りにおける揮発性成分濃度の時間変化を、マグマ溜りの圧力低下、火道内対流による脱ガス、下部玄武岩マグマから揮発性成分の供給という三つのプロセスで説明した。
(ク)また、成熟度の異なる火山弧の調査を通じて、固体地球の進化に沈み込み帯でのマグマ活動が重要な役割を果たしたというサブダクションファクトリー説を提案したほか、マントルウェッジ内の指状を呈する高温域が火山分布を支配していることや、高温マグマの地殻内貫入に伴う未固化なプルトンの再溶融が中間~珪長質マグマの発生に重要であることを西南日本弧・伊豆小笠原弧において示した。伊豆小笠原マリアナ弧では、島弧地殻の進化と大陸地殻の成長に関する包括的モデルも提案した。

(3)火山活動の長期予測と噴火ポテンシャルの評価

1 計画の内容

噴火の長期予測や推移予測の手法を確立するために、活動的火山の中長期的な推移を研究するとともに、静穏期にある火山の噴火ポテンシャルを評価する手法を確立するための研究を行う。

2 実施状況

(ア)大学は、富士山においてボーリング調査及び地表調査を行い、得られた試料について、全岩組成、鉱物組成、メルト包有物等の化学分析を行った。桜島について、産業技術総合研究所と共同で、観測井掘削ボーリングコア及び地表火山岩試料について化学分析と年代測定を行った。また、活動履歴と観測データを基に、数十年スケールのポテンシャル評価の方法等について検討を行った。
(イ)防災科学技術研究所は、富士山周辺の観測井掘削時の岩石コアの岩石学的、層序学的特長を検討するとともに、火山噴出物の間に堆積している有機物を含む土壌について年代測定を実施した。
(ウ)産業技術総合研究所は、雲仙岳山麓で基底に達するボーリングコア及び地表の試料の系統的な年代測定と地質調査を行った。岩手山及び富士山山麓でトレンチ調査を実施し、火山噴火史を解析した。また、伊豆半島地域に分布する火山岩類を採取、年代測定を実施した。

3 成果

(ア)火山活動の長期予測に不可欠な火山活動史に関して、いくつかの火山で新たな知見が得られた。富士山では、組織的な噴火史解析などが行われた結果、富士山山体は、既知の新富士・古富士・小御岳の3期の山体形成期に先立ち、安山岩を主体とする噴出物からなる山体(先小御岳)を形成する活動期があったこと、噴出年代が不明であった過去1万年の山腹噴火の層位と過去2千年間の山腹噴火年代などが明らかになった。また、自然地震を用いた構造探査から推定された10~20キロメートルの低速度層に対応する深部のマグマ溜りから断続的に供給される玄武岩質マグマと浅部のマグマ溜りで分化するマグマの混合が富士山のマグマの多様性を生み出すメカニズムであると推定された。
雲仙岳、伊豆半島地域、岩手山及び桜島についても、火山活動の時空間的変遷、その間の噴火様式やマグマの性質の変化などについて新たな知見が得られた。例えば、雲仙岳の火山活動が約50万年前に始まり、三つの時代に区分され、時代ごとに噴火様式やマグマの性質が異なることが明らかにされた。
(イ)有珠山、伊豆大島、三宅島、雲仙岳等の事例分析から、数十年スケールの噴火ポテンシャルの的確な評価には、過去の活動履歴の知識に加え、地震、地殻変動などの観測データの10年以上の蓄積やデータ評価の基礎となるマグマ供給系に関するモデルや経験則などが必要であり、これらの条件をすべて満たす火山は、10火山程度しかないと結論された。噴火ポテンシャル評価の一例として、数十年以内に顕著な噴火発生の可能性の高い桜島について、予想される活動シナリオ、予想される災害や影響範囲等が示された。

(4)火山観測・解析技術の開発

1 計画の内容

火山噴火予知の高度化と実用化に向けて、新たな観測・解析手法や機器・システムの開発を行う。特に、地下のマグマ供給システムの大規模稠密探査のための観測・解析技術の向上、各種人工衛星・航空機等を用いたリモートセンシング技術の開発と活用、火口近傍での遠隔観測手法の開発と高度化を推進する。また、火山体内部で進行する諸現象を迅速かつ的確に把握するために、多項目観測データ解析手法の高度化及び即時処理と自動評価システムの研究開発を行う。

2 実施状況

(ア)大学では構造探査のための高機能小型オフラインロガーを開発し、このロガーを浅間山における大規模稠密探査で使用した。火山体浅部におけるマグマと地下水の相互作用解明のため、伊豆大島の三原山火口周辺で時間領域電磁法探査を継続的に行うシステムの長期運用を開始した。
(イ)衛星を用いた熱的活動や火山ガス観測では、大学はMODISの赤外データを利用した活火山準リアルタイム熱観測システムを開発し、また産業技術総合研究所ではASTERを用いた観測手法の研究を実施した。航空機による観測では、防災科学技術研究所は航空機搭載MSSの観測手法開発と可視光から熱赤外域までを超多波長帯域で観測する新しいセンサーを製作し、産業技術総合研究所はヘリコプターを用い高標高・急峻な火山体でも調査可能な高分解能空中磁気探査システムの開発とこれにより取得されたデータの解析手法の開発を行った。また、国土地理院では、GPSと干渉SARを総合的に解析し、信頼性を高め、情報を最大限に抽出する手法やGPS電波の伝播遅延を利用して噴煙柱内の大気成分の温度分布を推定する手法を開発した。さらに、衛星SAR解析で培った手法を航空機SARによる浅間山噴火時の火口観測に適用した。防災科学技術研究所と国土地理院では、衛星SARにより火口底の変動を把握する手法を開発し、2004年(平成16年)に噴火した浅間山に適用した。
(ウ)大学や産業技術総合研究所では、二酸化硫黄や水蒸気等の火山ガス測定をより高度化するための新たな機器の開発を実施した。小型紫外分光計を用いた二酸化硫黄放出量測定装置(DOAS)を開発し、三宅島や浅間山、雌阿寒岳などの火山で観測を実施し、噴煙放出量観測に応用した。火山噴煙中の二酸化硫黄分布の可視化装置開発のため、紫外線対応のCCDカメラを用いた装置のプロトタイプを作成し、桜島や浅間山で試験観測を実施した。また、水蒸気放出量測定装置の開発に着手した。
(エ)大学では、伊豆大島で高精度の地震や地殻変動観測と火山ガス測定などの総合的な連続観測を実施している。また、即時処理システム開発の基礎研究として、長期間の地盤変動データから計器のドリフトや季節変化を取り除くための手法を開発し、平成10年~平成14年の岩手山の観測データに適用した。気象庁では、火山活動に伴う地殻変動や地磁気変化を用いて有限要素法により力学的な数値モデルを推定する手法や新しい地磁気解析手法を開発し、手法の評価と実際の観測データを用いた解析を実施した。
(オ)海上保安庁海洋情報部では、GPS-音響測距結合方式による海底地殻変動観測システムの高精度化及び高度化のため、伊豆半島東方や三宅島西方海域等に設置した海底基準点において海底地殻変動観測を繰り返し実施した。また、噴火した福徳岡ノ場での噴火音測定を試みた。

3 成果

(ア)開発された高機能小型ロガーにより多数の観測点を少人数で設置できるようになり、浅間山で実施した火山体構造探査に使用し、稠密な測線を実現して火山体浅部の詳細な地下構造を得ることができた。伊豆大島で実施している長期間の時間領域電磁法探査により高精度の電気抵抗時間変化の三次元的なイメージングが可能になった。
(イ)衛星データを利用した活火山準リアルタイム熱観測システムにより、浅間山で噴火に先行する熱異常レベルの上昇を見いだした。三宅島から放出される二酸化硫黄ガス放出量を衛星や航空機搭載MSSにより推定し、COSPECで測定した値と同等の放出量であることが確認できた。航空機搭載MSSによる温度観測では、複数の画像合成により噴気の影響を低減させる温度観測手法を開発した。高分解能空中磁気探査システムの開発により、すべての火山での調査が可能になり、また高度化した解析手法により精緻な地下構造推定が可能になった。三宅島でのGPS電波遅延量観測値から噴煙柱の大気成分の温度推定に成功した。干渉SAR解析によりGPS観測点の安定性が評価でき、信頼性の高い地殻変動解釈に有効であることが分かった。航空機SARのデータ解析により、浅間山噴火時の溶岩噴出量の経時変化が推定することができ、また衛星SAR画像の火口壁の影から火口底の変動を検出する手法により、浅間山の火口底変動を把握することができた。
(ウ)二酸化硫黄放出量測定装置(DOAS)を開発し、従来の放出量測定装置(COSPEC)より重量・大きさともに、数十分の一に小型化でき、さらに三宅島や浅間山で実用的に使用できる段階に到達した。携帯型センサーを用いた噴煙化学組成観測装置の開発により、従来観測が困難であった活動的火山の火山ガス化学組成の観測が可能となった。噴煙中二酸化硫黄分布の可視化装置の開発により、秒スケールの噴出量変化まで検出可能になった。
(エ)伊豆大島における多項目連続観測により、地震活動、地殻変動、火山ガス濃度の連動的変化が明らかになり、マグマ活動のモデル化のために重要な情報を得た。新しく開発した地盤変動解析手法を岩手山の地殻変動データに適用し、変動源のモデル化に活用した。有限要素法による地殻変動データや地磁気データの総合的解析ソフトウェアの有効性が確認され、浅間山などの観測データに有効に活用された。全磁力観測では開発された確率差分法を用いた火山性変動抽出手法を三宅島等の全磁力連続観測データ処理に導入した。GPSについては、山体を遠方からカバーする観測網と山体に分布する観測網を合体して解析する手法を開発し、単純な連結に比べ、信頼性が大幅に向上した。また、簡易気象補正法の考案により口永良部島の微細な地殻変動の検出に成功した。
(オ)海底地殻変動観測は、観測及び解析手法の改良により、再現性が向上し、海域での火山性地殻変動観測に適用できる見通しが付いた。

(5)国際共同研究・国際協力の推進

1 計画の内容

火山噴火予知の高度化、特に火山活動の推移や噴火様式の予測に関する研究の進展を図るため、国際共同研究を推進する。あわせて、技術協力、研修生・留学生の受け入れ等を通して国際的な火山噴火予知研究のレベルの向上に資する。さらに、世界の中で我が国が、火山噴火予知研究の拠点となることを目指す。

2 実施状況と成果

(ア)大学や国土地理院では、国外の大学や省庁などの研究機関と学術協定締結などの連携を通じて、インドネシア、フランス、アリューシャン、カムチャッカ、台湾などの活火山の観測研究を実施した。また、英国ロンドン大学と連携し、東アジアの火山活動に関する衛星データの解析システムの構築を試みた。防災科学技術研究所は、米国地質調査所(USGS)と共同で硫黄島カルデラ調査を、イタリア国立地球物理学研究所と「火山溶岩流災害軽減手法の開発」研究を実施した。産業技術総合研究所は、オーストリア地質調査所と共同でイタリアの活火山の空中磁気、重力探査を実施し、火山の浅部地下構造を明らかにした。イタリアの国立地球物理学研究所や大学と協力して噴煙観測を実施し、火山ガス供給過程のモデル化を行った。また、インドネシアのカルデラ火山の共同調査を、エネルギー鉱物資源省地質鉱物資源総局と実施し、カルデラ火山の噴火経緯について明らかにした。大学、産業技術総合研究所、防災科学技術研究所などが中心となり、5か国の研究者が参加した雲仙科学掘削では、先の噴火の火道試料を採取しマグマ上昇のモデルを提案した。
(イ)海外での突発火山噴火の対応として、2002年(平成14年)のパプアニューギニア、パゴ火山の噴火において、気象庁と大学は、緊急援助隊専門家チームを派遣し総合調査を行った。パプアニューギニアやマリアナの火山活動を評価し、地元自治体に対して助言を行った。また、2003年(平成15年)に噴火したマリアナ諸島アナタハン火山において、大学はUSGS及びサイパン危機管理局と連携して観測研究を実施した。
(ウ)大学、防災科学技術研究所、気象庁は、国際協力機構の「火山学・総合土砂災害対策」、「地震津波火山観測システムの運用・管理」などの集団研修員や留学生を東南アジア、中米などから受け入れた。また、防災科学技術研究所は、エクアドルに専門家を派遣するとともに、火山観測データの解析手法について技術協力をした。さらに、気象庁は、フィリピン火山地震研究所に対する技術協力のため、専門家や調査団の派遣と研修員の受け入れを行った。
(エ)気象庁は、東京VAAC(航空路火山灰情報センター)において、カムチャッカからフィリピンに至る領域の火山灰の実況及び拡散予測情報を、関係機関、航空会社等へ提供し、航空機の安全運行に寄与した。

(6)評価と課題

1 噴火の発生機構の解明

物理観測に基づく研究では、浅間山、三宅島、八丈島で火山流体の移動が観測によって把握でき、流体移動のモデルが作成された。また、マグマ上昇過程における火山近傍においての地下水観測の有効性も明らかにした。そこでは、火口近傍での観測と基盤構造データなどを加えたシミュレーションが重要である。
物質科学の分野では、掘削試料や噴出物の解析及び火山ガス組成測定により、マグマの上昇・脱ガスなどの噴火過程に関する理解が進んだ。今後、噴火予知の高度化のためには、更にそれらの過程の深さ変化などの理解が不可欠であり、掘削による試料採取と解析、室内でのマグマ上昇の再現実験、ガス浸透圧など地下の条件での物理量測定などの結果を用いたモデル化及び物理観測量を加味した総合モデル化が重要である。

2 マグマ供給系の構造と時間変化の把握

人工地震探査により、北海道駒ヶ岳、富士山、口永良部島において、これまでの探査と同様に山体直下の地震波速度の高い領域の盛り上がりをとらえるなど、浅部地震波速度構造が明らかになり、震源の決定精度を高めることが可能になった。この高速度域の盛り上がりは、雲仙岳においては火道掘削により確かめられた。また、富士山、岩手山、浅間山において、人工地震と自然地震観測の結果を併用し解析深度の増大を図ったこと、雲仙岳で反射波の後続波解析により解析分解能を向上させたこと、及び富士山、浅間山において、地震波速度だけでは解像度が不十分であった深度の火山流体の分布を、地震波速度データと合わせて電気比抵抗データから明らかにしたことは大きな前進であると評価される。
一方、岩手山、磐梯山、伊豆大島、三宅島、硫黄島、雲仙岳では、地震や地殻変動の定常的観測データ等に基づき、マグマ供給系や熱水系のモデル化が進み、いくつかの火山では、マグマ供給系の時間変化もとらえることが可能になった。これらは地震や地殻変動観測などの積み重ねが重要な役割を担っており、観測網の整備と高度化が今後も必要である。
富士山、雲仙岳などでは、掘削やトレンチ調査により、マグマ組成の時間変化に関する情報が得られた。また、雲仙岳、有珠山、薩摩硫黄島では、マグマ貫入、マグマの化学的進化、及び脱ガスのモデルがそれぞれ提案された。今後、上記の結果に、現在の物理化学観測データを加味した統合的なモデル化が必要である。さらに、発達過程の異なる火山弧においては、物質科学的な研究及び地球物理学的観測研究から、マグマの発生や進化過程に関するモデルが提案された。今後は、得られた研究成果を更に噴火予知に絡めたマグマ過程の研究へと結びつけることも必要である。

3 火山活動の長期予測と噴火ポテンシャルの評価

富士山などのボーリングを含む地質調査、系統的な岩石の化学分析や年代測定が組織的になされた火山では、長期予測と噴火ポテンシャル評価の基礎となる新たな知見が得られた。しかし、火山活動の長期予測を目的とした組織的な調査研究は端緒に就いたばかりであり、今後、この種の組織的な調査研究を計画的に実施する必要がある。
より短期的な噴火ポテンシャルの評価に必要な地震やGPSなどのデータの蓄積も進んでいるが、モデルや経験則に基づき中期的な観点から噴火の可能性を評価できる活火山は一部である。今後、噴火ポテンシャル評価が可能な火山数を増すためには、常時観測体制の整備と併せて、集中総合観測や火山体構造探査等の観測研究を実施する必要がある。
最近の噴火例からも自明なように、静穏期の長い火山では大規模噴火や顕著な地殻変動などの異常が発生する可能性がある。過去に大規模噴火が発生していて静穏期の長い火山やカルデラについても、総合的な調査研究を実施する必要がある。

4 火山観測・解析技術の開発

人工地震、自然地震、電磁気を併用した探査によってより詳細な火山体構造を得ることができるようになった。しかし、マグマ溜りを含む深部構造の解像度を上げるためには、自然地震の高密度観測に加えて、導入が開始された小型データロガーを活用した地震探査、及び更なる解析法の工夫や技術開発が必要である。
人工衛星や航空機によるリモートセンシング技術が火山の地殻変動観測、空中磁気観測、熱やガス測定に有効であることが実証された。特に、干渉SARは、既存衛星でも火山の地殻変動把握に有効であることが示された。さらに、火山噴火予知に有効な地殻変動データを得るためには、運用を始めた「だいち」や干渉SARとGPSデータの併用を含めて、継続して観測衛星を使用できることが重要である。
小型火山ガス測定装置の実用化に成功し、火山ガス観測の機動力が格段に向上した。今後は、分析精度の向上や火山噴煙中の二酸化硫黄分布の可視化装置や水蒸気量測定装置の継続的な開発が必要である。
開発した多項目観測データの即時処理・自動評価システムの有効性が確認できた。今後、観測データの高品質化や多量化に適した手法開発やデータ処理の自動化とともに、関連する複数機関の観測データを統一的に解析できる体制を整えるなど、噴火予知に役立てる枠組みの構築が望まれる。また、海底火山の活動に関しては、海底地殻変動観測や水中音によるモニタリング法などの観測システムの開発、更なる観測機器の整備や実験観測が必要である。

5 国際共同研究・国際協力の推進

研修生や留学生は、我が国で学んだ技術・知見を本国で火山観測に活かし、自国の火山学の発展や火山防災に寄与している。また、外国の火山に関する共同研究や噴火への緊急対応は、地元防災機関への貢献だけでなく、国内火山との比較研究や大規模噴火の事例研究として、火山噴火予知の高度化を行う上で有効であることが示された。今後も外国火山での共同研究を発展させるためには、恒常的観測網の設置や維持のための資金と日本側研究者の確保が重要である。また、そのような可能性のある火山地域の観測を展開している研究者や機関との連携網を作ることも重要である。今後、雲仙科学掘削プロジェクトのような、多機関が参加できる物理・化学観測と物質科学分野を含めた国際共同研究も推進することが必要であろう。

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科学技術・学術政策局政策課

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