2.我が国の人文・社会科学の現状と課題

(1)研究・教育の細分化と閉鎖性の打破

 我が国の人文・社会科学は、明治以降、主として大学における研究・教育組織の創設と、その社会的要請に応じた整備・拡充とともに発展してきた。しかし、学問が進化するにつれ、人文・社会科学を構成する各分野・領域の専門化・細分化が進み、多くの場合、研究・教育活動が閉じたそれぞれの体系の中で行われているのが現状である。
 このため、自然科学との間はもとより、人文・社会科学相互あるいは分野の間、さらには同じ分野の異なる専門の間でさえ十分な交流や協働が行われてきたとは言いがたい。
 また、研究者の課題意識やテーマ設定も細分化された狭い関心のみに向く傾向が強く、個々の研究課題が社会とどのような関わりを持ち、またどのような意味があるのかについて、研究者自身、問いかけや自己省察に消極的であったという面は否めない。
 こうした閉鎖体系化した学問動向の背景には、専門分野・領域ごとに細分化して組織された学会内部における評価が、個々の研究者の研究・教育業績の評価として重要な位置を占めているという面もある。
 このような状況の下での研究・教育体制は、特定の分野・領域の研究を深く掘り下げる上では必要であるが、学問の発展や、新たな問題の出現に対応して新分野を創造し開拓していく活力という観点からは支障となることが多く、そのため、より柔軟で開放的な研究・教育体制への変容が求められる。

(2)現実的課題への関わりの強化

 これまでの人文・社会科学は、現実社会の状態や問題に対するモニタリングや、それによる政策決定過程への貢献等を学術研究の形で行うことに消極的であり、研究成果の現実的課題への関わりも少なかった。
 今後は、現実的な課題解決に対する学問としての責任と応答が不可欠であり、研究成果による社会への提言、問題解決のための素材の提供等を避けて通ることはできない。
 また、現実的課題の解決を志向する学問の在り方の一つとして、政策の実施結果に対するモニタリングや、それによる政策評価を含む政策分析型研究、さらにより直接的な政策提言型研究を推進するなど、学術研究と政策との連携を図り、人文・社会科学の成果が現実の政策に活かされることも求められている。

(3)国際的な交流・発信の積極的な取組

 我が国の人文・社会科学の個々の研究成果及びレベルは諸外国に比べて決して劣るものではない。しかし、これまでの研究は主として日本のみを対象とするか、あるいは諸外国との比較研究が多く、その成果も日本語で表現されることが圧倒的に多かった。こうした「ことば」の問題もあり、英文学術雑誌の刊行、論文投稿など成果の国際発信といった点を含め、人文・社会科学における国際的な取組が不足していた。また自然科学と比べ、研究成果の発信、評価や影響力の面で「日本で自足する」傾向がなかったとは言えない。
 しかし、グローバル化、ボーダレス化は当然のことながら学問の世界にも及んでおり、人文・社会科学においても、我が国の優れた研究成果を英語等で世界に向けて発信する組織的な取組が求められる。
 さらに、世界的規模で生じている諸問題の分析や解決への提案を、国際的ワークショップ、シンポジウム、フォーラムにおける外国研究者との対話や共同研究を介して推進することにより、国際社会における我が国の貢献が期待されている。

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