4.計画推進のための体制の整備

4.1.実施状況及び成果

 国の基盤的調査観測計画により、全国に高密度の地震観測網・GPS観測網が整備されてきた。これは世界でもトップレベルの観測網であり、従来知られていなかった地殻底部に発生する低周波微動やプレート境界面における間欠的な非地震性すべりを検出するなど、まだ整備途上にもかかわらず、既に際立った成果を生み出している。これにより、地震予知研究の基本となる地殻活動モニタリングシステムを構築するための基盤が整備されたと言えよう。また、データ公開・流通のためのシステム整備がなされ、これにより高感度地震観測データの一元化処理が始まるなど、業務機関と大学等の研究機関がそれぞれの機能に応じて適切な役割分担と連携・協力を行う体制を構築するための道筋が付けられた。
 気象庁では、大学や防災科学技術研究所等の関係研究機関の地震観測データも取り入れて統合処理解析を行う一元化処理を的確に遂行すべく必要な要員を新たに配置した。さらに、東海地震監視体制強化のために評価解析官などの担当官を配置するなど、組織の整備強化を図った。
 防災科学技術研究所では、基盤的調査観測計画に基づいて、全国に15~20km間隔の高感度地震・強震観測網、100km間隔の広帯域地震観測網の整備を行った。国土地理院では、基盤的調査観測計画に基づき、電子基準点等のGPS連続観測局を用いて全国に20~25km間隔のGPS連続観測網を構築した。また、地理地殻活動研究センターを新たに置き、地殻変動等に関する研究体制の整備を図った。
 地質調査所は、独立行政法人化に伴い産業技術総合研究所に統合された。その中に活断層研究センターや地球科学情報研究部門等の部門が新たに置かれ、組織の整備を図った。
 海上保安庁水路部では、海底地殻変動観測手法の開発を行ってきたが、平成11年度から釜石沖や三宅島西方沖など7海域に海底基準点を順次設置し、繰り返し観測を開始した。また、地震調査官や海底地殻変動観測の担当官を新たに配置するなど、海域における調査・観測体制の整備を図った。
 大学は基盤的観測網を活用しつつ、研究的調査観測、手法開発のための試験観測や次代を担う研究者育成などの人材養成を分担することが求められているが、平成12年度に九州大学に地震火山観測研究センターが新設された。これにより、既に設置されている北海道大学地震火山観測研究センター、東北大学地震・噴火予知研究観測センター、東京大学地震研究所地震地殻変動観測センター、名古屋大学地震火山観測研究センター、京都大学防災研究所地震予知研究センターと合わせ、全国各地域にこれらの役割を果たす拠点となる地域センターが整備された。
 大学における観測研究体制については、平成10年8月の建議において、「全国共同利用研究所と各センター等で構成されるネットワークの強化」と「関連研究者が広く参加すること」の重要性が指摘されたことを背景に、地震予知研究協議会が平成12年4月1日に新体制として発足した。新しい協議会には、地震予知研究の計画と立案を機能的に行うために企画部と計画推進部会が置かれ、さらに、建議に述べられた「外部の研究者を含めた評価体制の確立」のために、研究計画の進捗状況と結果の評価を行う外部評価委員会が設置された。企画部は、地震予知研究の全体計画をまとめるとともに、大地震発生時の緊急対応を行っている。計画推進部会は、研究課題ごとの実行計画を立てその推進に当たっているが、推進部会には大学に加えて関連機関の研究者も参加し、地震予知研究推進のために、大学と関係機関の密接な協力、連携が図られている。
 また、地震予知連絡会において、大学や関係各機関の地震予知研究に関する情報交換や学術的意見交換が行われ、そこでの討議を通じて、関係各機関の観測研究の進展に貢献している。
 第7次までの予知計画によって整備されてきた下記の事項については、本研究計画においても以下のような進展が図られた。

(1)地震に関する各種資料の広範な活用と保存

 基盤的調査観測計画に基づく高密度地震、GPS観測網については、防災科学技術研究所、国土地理院等においてデータ公開・流通のシステムの整備が進み、広範囲な活用がなされつつある。また、「地震予知計画発足以前のものも含め、地震予知に関する各種の資料のデータベース化」については、まだすべての研究者が容易にアクセスできる状況にはなっていないものの、「地震調査研究推進本部」の下で、その道筋が付けられたところである。また、大学においては過去の観測データの広範囲な活用のための方策の検討が始まった。

(2)人材の養成と確保

 国土地理院においては地理地殻活動研究センターの設置、気象庁においては高感度地震観測データの一元化処理による監視体制の強化が図られるなど、地震予知にかかわる新たな要員の配置により人材の確保がなされた。特に、東海地震監視体制強化のために、気象庁にはGPS担当官、監視・予知業務のための評価解析官及び担当官が配置された。
 また、防災科学技術研究所には全国に整備された高感度地震観測施設、広帯域地震観測施設、強震観測施設から得られるデータの収集・処理や提供を行う防災研究情報センターが新たに設置され、また、法人化に伴う組織改編で、産業技術総合研究所においては、活断層研究センターや地球科学情報研究部門内の地震地下水・地震発生過程・実験地震学研究グループなど、目的を明示した研究グループが体系化され、組織としての研究目標が外部から見ても明らかになると同時に人員も強化された。

(3)火山噴火予知研究との連携

 火山活動に関連する噴火に至る過程の研究においては、噴火予知研究との連携が随時取られてきた。その幾つかの例を挙げると以下のようである。

  • 神津島東方海域での群発地震と三宅島噴火に際しては、海底地震観測等において、火山噴火予知研究との連携の下に観測実施を図り成果をあげた。
  • 岩手山の活動においても、周辺域の地震学的構造探査や水準測量等を同様の連携の下に実施し、火山深部や周辺を含む広域の調査研究が進められた。

(4)国際協力の推進

 総合プロジェクトとしての地震予知研究計画を推進するために国全体として組織化された国際協力の体制は実現していないものの、北アナトリア断層(トルコ)や(集集地震に関連する)台湾、南サハリンなどがその例であるように、個別的な課題においては共同研究が推進された。また、気象庁はフィリピンやカザフスタンに技術協力による専門家派遣や地震観測網構築の支援を行うとともに、韓国との共同研究により両国隣接域の震源決定精度の向上や日本海の歴史津波・地震資料の再評価を行った。さらに、国際地震センター(ISC)や包括的核実験禁止条約(CTBT)の遵守監視のためデータの提供や職員の派遣を行っている。

4.2.今後の展望

 総合プロジェクトとしての本計画の課題を達成するためには、基盤的観測網を主体とする全国規模の定常的な調査観測と、それらのデータを活用しつつより焦点を絞った研究的な調査観測、及び得られたデータを地震発生予測につなげるモデリング研究を、一体として組織的に推進する必要がある。そのためには、計画遂行を担う各大学及び関係機関が、それぞれの機能に応じて適切に役割分担をするとともに、密接な連携・協力を図ることが求められる。
 全国規模の定常的な調査観測については、国の基盤的調査観測計画により、全国に地震やGPSの高密度の観測網が整備され、本計画を推進する上で重要な基盤が作られつつある。今後、一層の整備が期待される。
 基盤的観測網の整備が進められてきたことにより、各大学及び関係機関が役割分担と連携・協力を適切に実施するための体制が整えられた。大学の高感度地震観測網については、準基盤観測点として基盤的観測網の構築に協力しているが、基盤的観測網の更なる整備によって、大学が本来担うべき研究的な調査観測へ一層重点を移すことが期待される。
 大学における観測研究体制については、地震予知研究協議会が新たな体制として発足し、計画全体を組織的に推進する体制が整えられた。大学は基盤的観測網を活用しつつ、重点地域での研究的調査観測、手法開発のための試験観測や次代を担う研究者育成などの人材養成を分担するため、全国共同利用研究所と各センターの連携を強化する体制が、この地震予知研究協議会を中心として整えられてきたが、今後は大学の法人化への対応も含めて、連携機能の一層の整備が必要とされる。また、計画推進部会を通して進められてきた関係各機関との連携を更に密接なものとするため、今後、大学と関係各機関で協力し、研究計画全体を組織的に推進する体制の更なる整備が検討課題として残されている。
 国立大学の法人化に伴い、各大学の地震観測研究センターにおいては、教育と人材養成の機能を確保しつつ、地震予知研究に関する各種資料の広範な活用方策を更に推進する必要がある。また、複雑で多岐にわたる地震現象にかかわる情報を収集し地球規模での理解を一層深めるため、諸外国との共同研究を推進することが期待される。
 なお、地震調査研究推進本部の発足により、地震調査委員会が地震に関する調査結果等の収集、整理、分析、並びにこれに基づく総合的な評価を行うようになったため、現在地震予知連絡会は、これと類似した地震予知に関する総合的な判断を行っていない。しかし、地震予知連絡会は、大学や関係各機関の地震予知研究に関する情報交換や学術的意見交換の場として重要であり、今後一層その役割を明確にして、その機能を果たしていく必要がある。また、これに関連し、地震調査研究推進本部等により行政的に観測体制の整備が進んでいることや平成16年度に向けて地震動予測地図が作成されつつある現状を踏まえて、第二次地震予知計画に基づいて同連絡会が設定した特定観測地域については、その在り方を検討する必要がある。

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