3.成果と今後の展望 2.地殻活動モニタリングシステム高度化のための観測研究の推進

2.1.目的

 建議で設定された研究目的は以下のとおりである。
 現在進められつつある基盤的調査観測を軸に、関係各機関により運用されている既存の調査観測システムを高度化し、有機的に連携させ、あるいは必要な機能を追加し、全体として、列島規模で地殻の活動状況を高度に把握診断することを可能とする「広域地殻活動モニタリングシステム」を整備する。そのために、既存の観測網を高度化し、必要な新しい観測網を構築し、それらを統合することを目指す。この観測システムから生み出されるデータの迅速な処理・解析及び広範な有効活用を図るため、データ処理・流通体制の整備を行う。また、広域地殻変動観測、広域地震観測、活断層調査・古地震調査なども実施する。地殻内の応力変化、温度変化、流体移動を検出するために、地球電磁気観測、地磁気測量及び重力測量、地下水・地球化学観測を実施する。活断層に関しては、深部までの構造を調査し、活動度・断層長などの詳細を解明する。
 東海・南関東とその周辺地域で、観測体制やデータのリアルタイム処理・解析能力を更に強化する。特に東海地域で、予知の可能性や確度を一層高めるため、常時監視機能の充実を図る。東海地域は、プレート間カップリング域が陸地の下にまで及び、震源域とその周辺の状態変化を陸域の観測網でも捕えることができる特殊な条件下にあるので、プレート間固着状態の変化の捕捉などを目指す。また、群発地震の発生地域、地震活動に顕著な活発化や静穏化が現われて観測強化の必要性が認められる地域等において、地震、地殻変動、電磁気現象、地下水等に関する多点・多項目観測を実施し、地震発生の準備過程や直前過程をモニターする手法を開発するとともに、必要な「特定域地殻活動モニタリングシステム」の構築を図る。

2.2.成果

(1)広域地殻活動モニタリングシステム

(ア)広域地殻変動観測

 日本列島の広域地殻歪の時空間変動は、国土地理院によって全国に設置された電子基準点等のGPS連続観測によって常時監視されている。この観測により、間欠的な非地震性すべりが検出された。さらに、伊豆半島、伊豆諸島で発生した中規模地震、群発地震に伴う地殻変動が観測された。特に、平成12年6月から始まった三宅島‐新島・神津島近海の群発地震活動では、南関東や東海地方にまで及ぶ広域地殻歪の変動がモニターされ、断層運動とマグマの貫入を取り入れた定量的物理モデルによってこれらの変動が解釈された。平成12年10月の鳥取県西部地震では、GPS連続観測によって得られた地殻変動データから、地震発生直後に震源断層モデルが推定された。
 国土地理院は、電子基準点間を補うため、GPSによる基準点の繰り返し観測(高度基準点測量)を実施した。さらに、GPS連続観測では十分な精度が得られない地殻の上下変動を監視するために、全国の約20,000・の水準路線を対象に約10年周期で繰り返し水準測量を実施した。平成12年度には、日本列島100年間の地殻上下変動を計算し、改測時ごとの地殻変動とともに、日本列島の長期的な地殻上下変動を解析する上で重要なデータを提供した。さらに、25か所での定常潮位連続観測及び機動潮位連続観測により、上下変動データを提供した。
 海上保安庁水路部は、離島・岩礁等で定期的なGPS観測を実施して、相模湾周辺・伊豆諸島間及び同海域の海を隔てた地点間の地殻変動を検出した。また、航行援助施設として運用しているDGPS局28点からのデータを利用して地殻変動を検出した。さらに、潮位の連続観測を行い、平均水面等の変動を監視した。同時に、地殻変動の常時モニターのため、験潮所のテレメータ化を実現するとともに、験潮所にGPS受信機を設置した。海面水位の連続観測とデータの処理を行い、毎月の平均水面、毎年の平均水面を算出して地殻変動の監視を行った。平成12年6月26日の三宅島噴火活動開始時には、地盤の沈降に先立ち隆起が生じたことを示す観測データが、GPS及び験潮の両方で得られた。また、神津島の験潮所の年平均潮位からは、平成2年ごろから平成9年ごろにかけて、神津島が約50cm隆起していることが明らかとなっている。この隆起傾向を示す観測結果は、神津島における平成9年以降のGPS移動観測の結果と調和的であった。
 気象庁は、全国の検潮所において地殻変動上下成分を含む潮位観測を継続して行った。そのうち、9か所の検潮所の遠隔自記検潮装置を更新し、より安定したデータの取得を可能とした。

(イ)広域地震観測

 防災科学技術研究所は、基盤的調査観測として、高感度地震観測、強震観測、広帯域地震観測を実施している。ノイズを軽減するため、深さ100m以上の観測井に地震計を設置し、24ビットのデジタルデータとして流通を行っている。このような高精度、広ダイナミックレンジの観測データの流通が開始され、地震観測の基本的枠組みが達成されつつある。
 気象庁は、地震監視・情報提供体制の強化のため、平成10年度から、仙台、札幌、福岡、大阪の地震津波監視システム(ETOS)の改良更新を行った。南西諸島における地震検知・決定能力の向上を図るため、平成12年度までに当該地域に3か所の津波地震早期検知網型地震観測点の増設を行った。
 平成9年10月に、地震調査研究推進本部の方針に沿って、科学技術庁(現文部科学省)と気象庁が共同処理システムを整備し、気象庁の地震観測データと大学等関係研究機関の地震観測データとを統合して気象庁が震源決定を行う、「一元化処理」が開始された。さらに、防災科学技術研究所の高感度基盤的地震観測網(Hi-net)データの一元化処理への取り込みを、平成12年3月から、大阪及び福岡管内をはじめとし、その後順次、札幌及び仙台管内、東京管内で実施した。海洋科学技術センターは、高知県室戸岬沖及び北海道釧路沖に海底地震総合観測システムを設置した。海域における地震検知・震源決定能力の向上を図るため、ケーブル式海底地震計データも一元化処理に取り込まれた。
 Hi-netの整備と、データの一元化処理によって、全国的な地震活動の監視機能が格段に向上した。気象庁で震源の決められる地震数は、一元化処理開始以前の平成8年では毎月約3、000個であったのに対し、一元化処理開始後は毎月約6,000個になった。さらに、平成12年10月から大阪及び福岡管内でHi-netデータの正式運用を開始した後は、毎月約10,000個に及んでいる。平成12年の有珠山噴火活動に伴う地震活動、三宅島‐新島・神津島近海の地震活動、鳥取県西部地震の余震活動による影響もあるが、データ処理能力が大幅に向上したと言える。また、決定された震源の精度も向上し、特に内陸の地殻内で発生する小・微小地震の線状分布や、クラスター分布が明瞭になった。こうした量的・質的に改善の図られた震源計算結果が、地震発生から2日以内に公開・共有可能となった。
 防災科学技術研究所による広帯域地震波形を用いたモーメントテンソル解析により、特に地震観測網の外側で発生する地震のメカニズム解の精度が向上した。
 気象庁は、データの一元化処理により、従来火山帯周辺では存在が知られていた地殻下部の低周波微小地震が、火山から離れた地域の地殻下部でも発生していることを示した。さらに、四国から東海地方にかけての地殻下部で、低周波微小地震が発生する帯状の領域が存在することを明らかにした。
 防災科学技術研究所は、Hi-netのデータを解析して、この領域に上記の低周波微小地震を含む低周波微動が帯状に分布していることを発見した。微動の振幅は非常に微弱で、従来では人工的又は気象等による雑微動ノイズとの判別が困難であったが、Hi-netによる高密度、高感度地震観測データのエンベロープ波形記録を注意深く解析することにより、その検出が可能となった。微動の継続時間が数日~2、3週間であること、微動源が10km/日程度の速度で移動すること、微動発生が周囲の地震発生と関係していることなどから、その発生には流体の関与が予想されており、海洋プレートの沈み込みによる流体の移動や内陸の地震発生機構の解明に寄与する重要な発見である。
 大学は、特定域における微小地震観測の整備に重点を置きつつも、広域観測にも不可欠な観測点については、基盤的調査観測に協力した。また、データの一元化処理を通して、広域地震活動の把握に貢献した。
 大学は、通信衛星による地震観測テレメータシステムを整備し、平成9年以降、それまでは困難であった機動的観測やデータ共同利用が行われるようになった。また、衛星配信システムによって、全国の研究者が全国データをリアルタイムで共有することが可能になった。こうして、機動的な集中合同観測におけるデータの共同利用が極めて効果的に行われた。さらに、平成9年の衛星システム本格運用とほぼ同時に大学と気象庁とのデータ交換が開始され、ほぼ全国の気象庁観測網のデータが全国の大学の研究者によって利用できる体制が整えられた。平成13年現在、約800観測点のデータが研究者に配信されて、日本列島を一つの巨大な群列観測網に見立てた研究プロジェクトも可能になった。さらに平成14年度からは、地震調査研究推進本部の方針に沿って、すべてのデータが防災科学技術研究所に集まり配信されることとなるため、Hi-netの600点以上のデータも含め、約1,400点のデータが研究者によって利用できるようになる。

(ウ)活断層調査・古地震調査

 産業技術総合研究所は、主要活断層の活動履歴調査として、近畿三角地帯に分布する活断層のトレンチ調査やボーリング調査を実施した。また、濃尾平野西部で反射法地震探査及びボーリング調査を行った。山地・丘陵域及び平野縁辺部の活断層、伏在活断層及び内湾‐沿岸海域の活断層の危険度調査を実施した。さらに、古地震による地震の再来確率と規模予測に関する研究では、北海道東部地域の湖沼において湖上ボーリングを実施し、また、紀伊水道の友ヶ島においてジオスライサーによる津波堆積物の調査を行った。
 国土地理院は、活断層の詳細な位置把握等のため地形解析による調査を行った。「1:25,000都市圏活断層図」(1面の面積、約400km2)を平成9~10年度に11面、11~13年度に33面公表した。
 海上保安庁水路部は、比較的人口密度の高い、又は、活動度の高い断層が存在すると想定される沿岸域において、スパーカーを音源とする音波探査及び3.5kHzを使用した表層音波探査を実施し、沿岸海域の海底活断層を調査した。断層分布調査が終了した海域については、断層の活動履歴を明らかにするために、断層を挟んで堆積物の柱状試料を採取し、解析を行った。
 海上保安庁水路部は、マルチビーム音響測深機を用いた調査により、駿河湾から南海トラフ周辺において詳細な海底の活構造を明らかにした。また、銭洲海嶺の変動地形を対象として、マルチチャンネル反射法音波探査を実施し、銭洲海嶺南方に存在する活構造を明らかにした。
 産業技術総合研究所は、日本周辺海域の地質図を作成するために、海底地質調査を順次進め、駿河湾から遠州灘、日本海東縁北部及びオホーツク海の調査を実施した。また、南海トラフ及び日本海東縁海域において、活断層評価のためのマルチチャンネル音波探査データ及び地震発生頻度を明らかにするための地震性堆積物の取得を行った。

(エ)地球電磁気観測等

 国土地理院は、国土地理院本院(つくば市)、鹿野山・水沢両測地観測所、江刺観測場及び全国11か所に設置した地磁気連続観測施設において、地磁気絶対観測及び地磁気連続観測(全磁力、地磁気3成分)を実施し、鹿野山、水沢及び江刺のデータについてはホームページで公開した。また、全国の高度5,000mの航空磁気測量を実施し(昭和58年度~平成10年度)、高度5,000mの航空磁気図を作成して研究機関に配布した。重力に関しては、大学と協力して、可搬性の高い絶対重力計の国内比較観測を実施した。また、絶対重力計及び相対重力計を用いて、全国の基準重力点等において繰り返し観測を実施した。全国の大学及び研究機関と連携して、日本のブーゲー異常余色立体陰影図を作成し、関係機関に提供した。また、日本のジオイドを重力手法により精密に決定した。御前崎では、絶対重力計により基準重力点の重力値の変化をとらえている。平成10年には、岩手山周辺において、岩手県内陸北部の地震前後で重力値の変化を検出した。
 気象庁は、柿岡、女満別、鹿屋、いわき、北浦、阿蘇山麓等において全磁力精密連続観測を行うとともに、大学等関係機関から提供される全国の地磁気永年変化データを一元的に収集・管理する体制を整えた。大学等関係機関に提供する基準値の精度向上のため、平成9年に柿岡及び女満別の地磁気変化観測装置の更新を行い、また、基準値提供体制の高度化等のため、平成11年に柿岡の地磁気観測総合処理装置の更新、平成13年に柿岡、女満別及び鹿屋の刻時装置の更新を行った。さらに、異常磁場変化の検出精度の向上に資するため、日本列島の地磁気標準磁場モデルを作成した。
 海上保安庁水路部は、地磁気連続観測を八丈水路観測所で実施した。精度0.1’又は1nTの精度で地磁気3成分(偏角、水平分力、鉛直分力)及び全磁力の時間平均値、地磁気擾乱指数、磁気嵐等特異現象等を記載している八丈水路観測所地磁気観測年報(各年)を作成し、公表した。また、伊豆大島(平成9年)、三宅島(平成10年)で地磁気測量を行い、島内の地磁気偏角及び伏角の分布図を作成した。平成12年には、焼尻ほか全国10か所の測点において地磁気観測を行い、地磁気偏角等の絶対値を測定した。重力測量については、伊豆大島、三宅島、新島、神津島における各島内測点の経年変化を求めた。

(オ)地殻構造調査

 産業技術総合研究所は、深谷断層及び立川断層の深部構造や延長部を確認するための反射法調査を行った。また、大阪湾断層に関するデータの解析・解釈を実施し、大阪湾断層の活動史を求めた。さらに、S波速度構造推定に関する反射法基礎実験を行い、最適な探査・解析技術の開発を行った。

(2)特定域地殻活動モニタリングシステム

(ア)東海及びその周辺地域

 気象庁は、平成9年度から12年度にかけて掛川、佐久間、浜北に3成分歪計を中心とする地殻岩石歪観測施設を増設するとともに、静岡県が春野、本川根に設置した同施設のデータについても県の協力を得て気象庁へのリアルタイム伝送を開始した。また、平成11年度からは国土地理院による東海地域のGPS解析結果の準リアルタイム分岐を132地点に増やすなどして、東海地域における地殻変動監視能力を向上させた。また、東海地域の体積歪計について、通常のデータ変動レベルの統計的調査を行い、時間階差ごとの検出可能な変化量を設定するとともに、想定震源域の断層面上に仮想的前駆すべりを置き、数値シミュレーションにより東海監視網の異常地殻変動検出能力の空間分布を調査した。それらの結果に基づき、平成10年4月に判定会招集要請基準を従来の約1/10に改訂し、より微弱な地殻変動の監視を行うことになった。
 産業技術総合研究所は、東海地域における地下水観測を継続して行っている。気象庁の数値シミュレーション結果に基づき、榛原・草薙の2点において予想される前駆的地下水変化を算出した。
 国土地理院は、掛川‐御前崎間の上下変動を監視するため、従来年4回実施している水準測量に加え、25点のGPS連続観測局(高精度比高観測点)による連続観測を平成11年度より開始した。また、御前崎周辺において伸縮計・傾斜計・歪計による地殻変動連続観測を、東海及びその周辺地域において潮位差連続観測を引き続き実施している。
 防災科学技術研究所は、東海地域におけるフィリピン海プレート内及び上盤側地殻内の微小地震活動をモニターし続け、1990年代後半から発生回数などに変化が生じたことを見いだした。そのような変化はプレート間の固着状態の変動を反映しているのではないかと考えられている。また、平成12年度及び13年度に地震・傾斜・3成分歪計・GPSによる総合観測点2点を東海及びその周辺地域に建設し、既設の観測点と組み合わせることにより、ヒンジラインの動きをターゲットとする2本の地殻変動観測線を整備した。
 通信総合研究所は、南関東地域において宇宙測地技術等の統合による信頼性の高い首都圏広域地殻変動観測を行うことを目標に、VLBI定常観測、SLR観測を実施した。また、国際的に例のない最先端のリアルタイムVLBIシステムをNTTと共同開発し、平成12年夏の伊豆諸島の活動観測においては地殻変動の迅速な把握に貢献した。
 大学は、気体交換モジュールを用いた地下水溶存ガス測定システムを開発し、御前崎、竜洋、鎌倉3観測点の5本の井戸に設置した。新システムの導入から1年程度しか経過していないが、その短期間の連続データから、溶存ガス組成が潮汐応答することを見付け、この種の測定が地殻活動監視に役立つことを示した。

(イ)その他特定の地域

 大学及び関係機関は、飛騨山地などで地震、地殻変動、地下水等に関する観測を実施し、顕著な地殻活動のモニタリングを行った。特に、神津島・三宅島近海群発地震(2000年6月の三宅島噴火とそれに引き続く神津島東方海域の群発地震)に際して、気象庁と大学は協力して、衛星回線を利用した観測点を展開し、群発地震の推移を監視した。さらに大学は、ブイテレメータ式海底地震計による準リアルタイム観測と、自己浮上型海底地震計の繰り返し観測を中心とした観測研究によって、地震活動の推移を把握した。関係機関は、群発地震活動域の地殻構造調査、特に、貫入岩体(マグマ)の深度の推定を行い、地殻変動データ(GPS、重力)、地球電磁気データ、温度データを統合して、三宅島、神津島、新島近海で進行しているマグマ活動と地震活動の即時的な推移把握と実態の解明に努めた。
 2000年(平成12年)鳥取県西部地震(M7.3)震源域では、大学及び関係機関の臨時地震観測、GPS機動連続観測、高度基準点測量及び地域基準点測量が行われ、震源域を含む断層地域での地殻活動が把握された。
 また、海外で発生した1999年トルコ・イズミット地震(Ms7.4)、1999年台湾・集集地震(Ms7.7)、2001年インド西部地震(Ms7.8)でも、機動的な地震観測、GPS観測、活断層調査、電磁気観測等が実施されて、大地震後の余効的地殻活動の推移が把握された。
 国土地理院は、跡津川断層等の活断層地域や伊豆半島東部など地殻活動の活発な地域において、光波測距儀による繰り返し観測を実施した。跡津川断層においては、横ずれの非地震性すべりと見られる変動が検出できた。伊豆半島東部(川奈、網代)における観測では、この地域に発生した群発地震と関連する地殻変動を検出した。
 産業技術総合研究所は、近畿及び中部地方の活断層周辺に地下水等の観測を行う観測網を整備し、平成10年に観測を開始した。一部の観測点では、地殻歪・GPS・地震の同時観測も実施している。

2.3.今後の展望

(定常的な広域地殻活動)

 これまで見てきたように、既存の調査観測システムを高度化し、新たに必要な機能を追加し、列島規模で地殻の活動状況を高度に把握診断することを可能とする「広域地殻活動モニタリングシステム」を整備する目標は、広域地殻変動観測、広域地震観測、活断層調査について国の基盤的調査観測の整備が進み、着実に進展してきた。さらに、この観測システムから生み出されるデータを迅速に処理・解析し、広く有効活用されるようにするためのデータ処理・流通体制の整備も順調に進んできた。GPSによる広域地殻変動観測システムは、列島規模で地表の変位場を統一的に把握するモニタリングシステムとしてほぼ目的を達成し、インターネットによるGPSデータの公開など、広域モニタリングに貢献している。地震観測に関しては、基盤的な高感度地震観測網(Hi-net)、強震観測網、広帯域観測網が整備され、さらに、複数の機関の地震観測データが気象庁に集中され一元的に処理される体制が確立した。また、大学による通信衛星を利用したデータ流通システムに防災科学技術研究所の基盤的高感度地震観測データ、気象庁データ等も統合される仕組みも完成し、研究者がリアルタイムで広域の地震波形データを利用できる体制が確立した。
 今後は、GPS広域地殻変動観測システムと地震観測システムを含めた多様な観測データを有機的に統合して、地殻活動の全体像を把握できるシステムの構築を目指す必要がある。また、今後のモニタリングシステムの高度化に向けて、地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の成果と、地殻活動シミュレーションの成果を取り入れる必要がある。さらに、モニタリングシステムから生み出される膨大なデータが、地殻活動の常時監視を含め、様々な要請に対応する形で迅速に処理・解析され、広く有効活用されるよう、データ処理・流通体制の一層の整備が望まれる。

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科学技術・学術政策局政策課

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