2(3)(3-1)地震発生先行過程

「地震発生先行過程」計画推進部会長 中谷正生
(東京大学地震研究所)

 地震発生の予測の時間精度を高め、短期予測を可能にするためには、地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して、予測シミュレーションモテルにそれらの知見を反映させ、直前過程に伴う現象を的確に捕捉して活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によって、地震に先行して発生する現象は多種多様であり、地震発生準備過程から直前過程にまたがって発生する現象の理解を進める必要性が認識されてきた。このために、1)地震に先行する地殻等の諸過程を地震発生先行過程と位置付けて研究し、2)そのメカニズムを明らかにして、特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるかを評価し、3)数値モデルを作成し、4)モデルを予測シミュレーションシステムに組み込む必要がある。地震発生予測システムの研究で行う3)と4)の研究に資するために、地震発生先行過程に関する研究では、上記のうち1)と2)を実施することとされている。

ア.観測データによる先行現象の評価

(電磁気学的現象)

 地震発生に短期的に先行してVHF帯の電波が見通し外に伝播する異常(地震エコー)について、2004年から行ってきた北大えりも観測所構内での観測では、日高山脈周辺で起こる概ねマグニチュード4以上の地震50例以上についてこの伝播異常が観測され、断続的に観測される伝播異常の出現時間の総和がその後発生する地震のマグニチュードの指標になることを示してきた。同観測所で北海道中標津FM局をターゲットとして観測していた89.9MHzの電波には、2010年6月27日より明瞭な異常が観測され、1日当たりの異常観測時間の総和は2010年10月頃をピークとして減少、2011年2月25日まで続いた。89.9MHzの電波は東北地方太平洋沖地震の震源域に近い岩手県北部の葛巻町や種市町にあるFM放送局からも発信されており、これによる電波が異常伝播したと考えることもできる。2月末までの変動が地震に先行する電波伝播異常だとすれば、その異常観測時間の総和は20万分以上になり、上述の経験的関係式からは、マグニチュード8-9クラスの地震に対応する。なお、この異常は2011年の2月末からほとんど観測されなくなったが、同4月以降再び長期にわたって異常が出現している。異常はえりも観測点だけでみられ、近隣の観測点には現れない。素性を明らかにすべく観測装置を増強している(北海道大学[課題番号:1005])。
 一方、日本のGPS網のキャリア位相差データの解析によって、東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の約40分前から震源域上空の電離圏て最大一割近くに達する全電子数(TEC)の正の異常がみつかった。これまで海外のM7-8前半クラスの大地震について報告されてきたのは負の異常であり、センスが逆であるが、データを遡って調べてみたところ。同様の正の前兆変化は2010年2月のチリ地震、2004年12月のスマトラ地震、1994年北海道東方沖地震においても見出されており、M8を超える巨大地震に普遍的なものかもしれない(北海道大学[課題番号:1005])。
 東北地方太平洋沖地震の津波に伴うと考えられる変化が、地電位とTECで捉えられたが、これは津波の早期警報に役立つ可能性がある(北海道大学[課題番号:1005])。
 新島・神津島観測点にけるDC-ULF帯地電位観測は順調に推移した。本予知研究計画における観測が開始して以降(平成22年2月)神津島から20 km以内ではM3を超える地震は東北地方太平洋沖地震による誘発地震以外発生しておらず、Orihara et al.、 2009で報告したような異常電位差変化も観測されていない。これはローカルなノイズを除去する長さ40-100 mの短基線観測網と、リジョナルなノイズを除去するNTT電話回線を用いた長さ1kmを超える長基線観測とが効果的に機能している事を意味する(東海大学[課題番号:2501])。
 伊東における群発地震活動を引き起こすマグマ貫入に伴う熱変化と全磁力観測との関係を調査するために、玖須美元和田観測点において全磁力連続観測を継続した。補正の工夫で効果的に外部変動磁場の影響を大幅に減じることができたが、2011年7月16日と9月18日に発生した群発地震前後で顕著な全磁力の変化は確認されなかった。観測地点から震央がやや離れており震源も深く地震の規模も小さかったため、この影響による全磁力変化は検出されなかったものと推察される。(気象庁[課題番号:7020])

(地球化学的現象)

 地下水溶存ガス観測装置の開発・運用については、22年度の跡津川断層観測点の観測結果に基づいて見いだされた観測安定性の問題点(平均的に3か月に一度程度連続観測が途切れる)のいくつかを点検し解決した。近い将来の多点観測にふさわしい安定性として連続無人観測6か月を第一次の到達目標としていたが、現在、最終調整より6か月間安定して稼働している。メタンの連続観測はほぼ達成された可能性かが高い。一方、帯水層の物理パラメータの連続観測については、当面研究資源を化学に集中させることが成果につながりやすいと判断し、本5か年計画の中での優先度を下げた。東北地方太平洋沖地震によって岐阜県高山地方も相応の地震動が発生し、それに呼応してガス成分の変動が見られた。ただし、井戸から繋がるテフロンチューブ内での断続的なガスだまりの形成(これも小さな問題点の一つであった)による見かけ上の変化の可能性が否定しきれないので、参考データに留めた。本課題の5か年計画の後、多点観測に入ることを計画しているので、観測すべき地下水系の論理的根拠を与える必要があることから、全国の地下水系の化学組成データの収集と解析を開始した。現在、北海道、三重県、岡山県、広島県、徳島県を除く各自治体からのデータの収集が完了した。これらを整理し、データベース化した上で、地質、地形、活断層、火山等の地質情報、及び地形情報を相互参照しながら、地震発生域から上昇する流体が活断層に沿って上昇する水系をスクリーニングした(東京大学理学系研究科[課題番号:1502])。
 東北地方太平洋沖地震前の大気中ラドン濃度変化を調べるため、解析に適した手法で測定されている福島県立医科大学の放射線施設内の排気モニターのデータを入手して解析した。機械室AF-27と機械室AF56の2003/1/1-2011/3/11における日最低値のデータと5点移動平均で平滑化した値の経時変化を図1(a)に示す。測定値は周期的な年変動を示し、年最高値は年々減少していた。図1(b)に平年値からの残差の経時変化を示す。岩手・宮城内陸地震(2008年6月14日、M7.2)、岩手県沿岸北部(2008年7月24日、M6.8)、岩手県内陸南部(2010年7月4日、M5.2)と呼応して残差値は増加し、2010年12月初旬に低下していた。大気中のラドンガスの濃度は季節により規則正しい増減傾向を示すのだが、2008年頃からその変化が乱れ始め、2010年6月から半年間増加、その後急激に減少し東北地方太平洋沖地震までの約3か月間、低いレベルを維持した停滞状態が続いていた。従前からモニターしていた牡鹿半島のデータは津波で被害を受け一部だけした回収できなかったが、上述の福島県立医科大学データの解析結果と整合する傾向がみられる(東北大学[課題番号:2906])。

(地震活動)

 海底地震観測及び陸上観測によるデータを併合処理し、東北地方太平洋沖地震の震源近傍における震源分布を推定した。その結果、本震より海溝軸側において本震に向けたプレート境界型地震である前震活動の移動が見られた。また、本震の発生を境に震源深さ分布に大きな変化が見てとれる。本震の地震時滑りが大きな領域においては、ほとんどプレート境界型地震は発生していない。一方、上盤・下盤側のプレート内において、本震発生前にはほとんど見られなかった地震活動が存在する。メカニズム解にみられるこのような大きな変化は、東北地方太平洋沖地震による応力変化が、背景の絶対応力場に比べて相当の部分を占めていたことを示唆する(東北大学[課題番号:1210])。
 大地震の発生サイクルの中で、中小規模の地震の大半が大地震の破壊域を破壊しているのか、それ以外の部分の地殻を破壊しているものであるか、活断層帯周辺の地震活動を対象として調査を行った。これは、大地震の発生サイクルにおいてスケール間相互作用がどの程度の役割りを果すかに関する手掛かりでもある。地震調査研究推進本部によって長期評価が行われている主要活断層帯において、近年に発生した微小地震の活動度と、地形・地質学的に推定されている最大規模の地震の発生頻度を比較した。その結果、ほとんどの主要活断層帯では、最大規模の地震の発生頻度は近年の微小地震活動度からグーテンベルグ・リヒター則を用いて計算される頻度より大きいことが明らかとなった。つまり、近年の微小地震活動からそのままグーテンベルグ・リヒター則を用いて外挿する手法は、その活断層で発生する大地震の発生確率を過小評価する可能性があることを意味する。また、グーテンベルグ・リヒター則からの乖離度は、平均変位速度が大きい断層ほど、あるいは平均再来間隔が短い断層ほど、大きくなる傾向にあることが明らかであった(図2)。このことは、活断層が活動累積によって成熟・発達していく過程で、その地震発生様式が変化する可能性を示唆する(東京大学地震研究所[課題番号:1419])。
 東北地方太平洋沖地震について、その余震域をみると、過去の複数のM7クラスの地震の震源域を包含していることが分かる(図3)。このような関係は、釜石沖地震や、前年度の研究で中規模地震について見出されたものとよく似ている。このような階層的構造やそこでの地震活動の調査は、東北日本プレート境界でのの地震発生過程を解明する上で重要だと考えられる。今後2011年の地震のアスペリティを含め、大小アスペリティが重なった場所での地震活動を精査する予定である(東北大学[課題番号:1210])。
 先行現象として物理的に期待されるもので、微小地震からしか得られない重要情報の一つは、地震発生層深度の応力場の方位であり、その推定のためには、多数の微小地震の断層面解を精度よくもとめることが欠かせない。観測点間隔ほぼ2-3kmの臨時観測を展開している丹波山地では、M0.5クラスの非常に小さな地震でもルーチン的に断層面解を決定できるようになり、解析の空間・時間分解能が大幅に向上した。近畿地方北部に5km間隔のグリッドを設け、各格子点を中心とした10km四方の小領域において応力テンソルインバージョンを行い、近畿地方北部の応力場の時空間変化を調べた。一見すると時期により推定された応力場に変化が見られる領域があるが、これは地震のクラスターを含むことでバイアスがかかった結果であり、デクラスター操作を行うことで「見かけの時間変化」は消えてしまうことが分かった。これは、小さな地震までデータとして利用可能になると、これまでの同種の解析では意識することの無かった地震活動の偏りに注意が必要であることを示すものである。逆に除去される側のクラスターの内部を詳しく解析することもできる。図4aはM3.7の本震に続く余震群の発震機構を示したものである。差し渡し1km程度の余震域内でも、卓越する発震機構が場所によって変化するなど、大地震の余震活動と同様の内部の不均質を示す複雑な発震機構分布を呈すものがあることがわかった。一方図4bは丹波山地から琵琶湖西岸にかけてのやや広域の応力場の空間変化を求めたものである。先行研究とは異なり1年程度の短い期間でも十分な地震数があるため長期の時間変化の可能性を排除でき、かつデクラスタ操作により地震活動の偏りによるバイアスを排除したデータを用いた。近畿地方北部全域でσ1は東西方向であり、琵琶湖西岸地域は一貫して逆断層タイプの応力場だったのに対し、丹波山地では、多くの小領域でσ2、σ3が分離できない推定結果となった。その境界は、先行研究では花折断層との関連が示唆されていたが、本研究では必ずしも直線的でない複雑な形状の境界となることがわかった。丹波山地ではσ2、σ3がほぼ同じ応力場であり、逆断層、横ずれ断層、その中間タイプ地震がほぼまんべんなく起きていることが分かった。これらは完全にランダムに分布するのではなく、局所的なクラックの特定方向への配向があり、それが1km程度のスケールで変化している状態にあることが考えられる(京都大学防災研究所[課題番号:1811])。
 東北地方太平洋沖地震が及ぼした応力変化は非常に広域で、その中に多数前の主要活動断層帯が含まれる。そこで、主要活動断層帯周辺の地震活動度変化の調査及びそれらの領域における微小地震の活動度と地形・地質学的に推定されている最大規模の地震の発生頻度の調査を実施した。東北地方や中部日本に分布する主要活断層帯の周辺、特に、境峠・神谷断層帯主部、北伊豆断層帯、真昼山地東縁断層帯、長町‐利府線断層帯、横手盆地東縁断層帯北部、牛伏寺断層、十日町断層帯西部、六日町断層帯南部、長井盆地西縁断層帯、高田平野東縁断層帯、猪之鼻断層帯の周辺(活断層帯から5km以内)では、本震前に比べて地震発生率が10倍以上増加していることが分かった。このうち。境峠・神谷断層帯主部、北伊豆断層帯、牛伏寺断層(図5a)では、断層近傍で明瞭な活発化が認められ、東北地方太平洋沖地震によるΔCFF(地震調査委員会、2011による)の増加と調和的であった。一方、真昼山地東縁断層帯(図5b)、横手盆地東縁断層帯北部、猪之鼻断層帯における活発化は、その活断層帯の断層パラメータを仮定したΔCFFでは説明が困難であった。本震後に活発化した領域は、本震前の逆断層型の地震が活発であった領域とは異なり、また、そのメカニズムもほとんどが横ずれ型であった。このことは、地殻内の応力分布が空間的に不均質で、もともと横ずれ場であった領域が選択的に活発化したものとして解釈される(東京大学地震研究所[課題番号:1419])。
 南アフリカEzulwini鉱山における、AE(微小破壊)センサと高周波三軸加速度計からなる観測網の展開がほぼ完了した。Ezulwini鉱山の観測網は、過去に同種の観測を展開したMponeng鉱山に比べてセンサの展開が立体的で、広範囲(約100 m)にわたっており、また、地震活動が圧倒的に高いため、主応力軸の向きを推定するのに必要な地震メカニズム解が多くの地震に対して決定できることが期待できる。本年度、Ezulwini観測網の条件で地震メカニズム解を決定するための解析方法を検討した。まずネットワークに組み込まれている三軸加速度計6台を使った波形解析でメカニズム解の決定を試みた。ネットワーク内のイベントでは特に感度のよい3つのセンサでは、M-4級のイベントでも波形解析が可能なS/Nをもつデータが収録できている。実際、Mw-3.3のイベントに対して、5観測点のP波、1観測点のS波を使った波形解析で、MT解が求まることが確認できた。応力場の推定のためには、なるべく多くのメカニズム解を求める必要がある。より小さなイベントの解析や、解の拘束を向上させるための更なるデータとして、AEセンサのP波初動を使用できることを確認した。解析には隣接したAEセンサと加速度計のペアを用い(センサ間隔2-10m)、センサ間隔に比べて十分に遠いイベントの初動極性を加速度計記録から読み取り、同じ波に対してAEセンサ出力の極性を確認し(図6a)良好な再現性を確認した。
 結果、波形合わせの残差が小さい断層面解候補のなかで、押し引き分布とも調和的なものを見つけることができた(図6b)([東京大学地震研究所[課題番号:1420])。

(測地学的現象)

 小繰り返し地震の積算滑りにより1993-2007の震源域のカップリング率を調べたところ、2011年の東北地方太平洋沖地震地震は、地震前に広域にカップリング率が大きかった場所で発生したことが分かった。更にGPSデータにより推定された地震時滑りは三陸沖や、関東地方の沖、断層深部領域などカップリング率が小さい場所には大きな滑りは及んでいないことも分かった。このような場所が地震の破壊の進展を妨げる働きをした可能性がある(東北大学[課題番号:1210])。
 南アフリカ大深度鉱山内で震源極近傍に設置したひずみ計で、地震に先行する準静的ひずみ変化が検出されたことを昨年報告したが、今年度は、観測例を増やすため、3つの鉱山で6台の石井式ひずみ計の埋設を終え、2つの鉱山で4台のひずみ計の観測を始めた(立命館大学[課題番号:2401])。

(地殻構造)

 地殻構造の時間的変化を監視する新しい手法として注目されている、地震計の雑微動記録を用いる地震波干渉法を用いて、東北地方太平洋沖地震によりもたらされた体積ひずみ変化が、雑微動のACF(自己相関関数)やCCF(自己相関関数)の性状に地震前後で変化を与えたかどうかの解析を行った。同地震に伴う体積ひずみ変化は、これまでに解析を行った2007年能登半島沖地震や同中越沖地震のそれに比較して桁違いに大きく、かつ広範囲にわたっている。解析はまだ継続中であるが、これまでの結果と同様、地震後にACFやCCFの性状が変化している観測点が認められる。CCFについては、1-2Hz帯域と、0.1-1Hz帯域の2種類での調査を、ACFについては、2-10Hz帯域での調査を行った。今回は、強震動を伴わなかった地域でひずみ変化によるCCF/ACF形状の変化がみられるかどうかが重要なポイントなので、強震動に見舞われた地域として東北地方太平洋沿岸を、そうではない地域として中部地方を選び、それぞれでCCF/ACFを解析した。予備的な結果によると、CCFについては、東北地方太平洋沿岸の観測点ペアで、特に0.1-1.0Hz帯域のものに、地震後の速度変化が見られるペアが認められるが、例外も存在する。短周期の0.5-1.0HzのCCFについては、ラグタイムの増減についての系統的なパターンは認めがたかった。また、中部地方のCCFについては、両帯域ともラグタイム増減の系統的パターンは見られなかった。これは、CCFの形状変化が、従前の研究同様、強震動によりもたらされた可能性を示唆しており、ひずみ変化による速度構造変化をCCFで直接的に検出することの困難さを示唆しているかもしれない。一方、ACFについては、東北地方中部地方の双方で明瞭な速度低下を示す観測点が存在することが明らかとなった。また、東北地方と中部地方では、一旦変化したラグタイムが回復するのに要する緩和時間にも差があるように見受けられた。CCFでは検出できなかった構造変化がACFでは可能であるひとつの解釈は、震源域から遠い地域のACFの場合、ひずみ変化による直接的な構造変化を示しているのではなく、従来からひずみ変化に敏感であることが報告されている地下水位等の変化が、ACFに現れているのではないかというものである。これは、Savage and Ohmi (2010、AGU Fall Meeting)でACFと地下水位が同様の時間変化を示す事例が報告されている。ACFは観測点近傍の変化を反映しやすく、局所的な地下水変化等に影響されやすいと考えられるのに対し、CCFは基線全体の平均値を反映するため、変化量が小さく現れるということがあるかもしれない(京都大学防災研究所[課題番号:1810])。

イ.先行現象の発生機構の解明

(電磁気学的現象)

 道東地域の地磁気三成分絶対測量は、既設の8か所すべてにおいて完了し、この結果を用いて観測された永年変化にどの程度見かけの変動が混入しているかを議論した。グローバル地磁気モデル(IGRF-11)から期待される広域の永年変化は、道東地域のデータにも現れており、それを除いた場合、Nishida et al. (2004)で提案された応力磁気モデルを支持する結果がえられたが、有意性を示せるほど大きな変化ではなく、更なる応力の蓄積を待って再検証する必要がある(北海道大学[課題番号:1005])。
 微小破壊を仮定せずにDC-ULF帯の地電位差変動をもたらしうるメカニズムとして、昨年度に行なった室内岩石実験結果から、不均一に圧縮した火成岩試料の圧縮部において正孔電荷キャリアが発現し、非圧縮部へ拡散するモデルを提唱した。そこで今年度は、「正孔発現」の立証を試みた(図7)。自然乾燥させたブロック状のハンレイ岩試料の一端のみを破壊しない程度に一軸圧縮し、温度の異なる端子を試料に接触させ、端子間に発生する熱起電力を計測した。電荷キャリアの種類が正孔の場合には熱起電力は負の値をとり、正孔濃度が大きいほど熱起電力の絶対値は小さくなることが、理論的に知られている。まだ圧縮していない場合には熱起電力は負の値を取り(図7b青線)、圧縮した場合にはその絶対値が減少しており(図7b赤線)、このハンレイ岩試料は不均一圧縮によって正孔の発現していることが立証された。圧縮端以外では、熱起電力の顕著な変化は確認されなかった。以上のことから、圧縮部において正孔が発現しているが、それら正孔の拡散は圧縮部の近傍周辺程度までであることが判明した。図7cに示すように、これら正孔の分布と過酸化架橋に捕捉された電子の分布の偏り(分極)が不均一圧縮に伴う起電力の原因となっていると考えられる。圧縮の度合いが増すに従い、発現する正孔の数が増え分極が大きくなることにより、起電力の増加に繋がっているのであろう。実際の地殻内においても、断層運動前および運動中の周辺地殻応力/ひずみの変化に伴い正孔の発現と拡散が起こり、分極が変化することにより周辺に異常電場を形成すると期待される(東海大学[課題番号:2501])。
 一方で、圧電効果によるコサイスミックな異常の詳細なメカニズムを室内実験から推定するために開発した磁場と電場を多チャンネルで同時測定するシステムによって詳細なメマニズムの検証を行った。大型岩石試料中に地震波を伝播させたところ、それに伴う局所電磁場の時空間分布が検出できた。
弾性波により石英が載荷され、圧電効果によって電荷が分離されて電気的ダイポールが形成され、その時間変化によって変位電流が流れて磁場も生成されるプロセスであるとの仮説を検証するため、岩石表面の石英結晶の分布と電場及び磁場の対応、及び測定された電場と磁場の振動やそれぞれの関係を調べた。発光との対応については、直接実験で確かめることはできなかった(京都大学防災研究所[課題番号:2907])。
 東北地方太平洋沖地震が発生した際、新島・神津島観測点において、地震波の到達に伴う特異なシグナルを検出した。どの観測点にも地震波到達に伴い約5-20秒周期の減衰振動が発生している。同様な波形が奥多摩地域で別途観測している地磁気データにも確認できることから、これらは単なるセンサーの振動によるものではなく、流動電位などにより発生した新たな物理現象である可能性がある。これらシグナルを詳細に解析することにより、地殻中を伝搬する電磁波のモデルを構築することに繋げられる可能性がある。(東海大学[課題番号:2501])
 ギリシャの観測でも知られている通り、DC-ULF帯の地電位差変動の出現する観測点とそれに関連すると思われる地震の発生場所には非常に複雑な関係がある。原因として電気伝導度構造の不均質があげられる。神津島付近地下10kmの震源域に500Cmの電気双極子を仮定し、地殻内における電気伝導性パスの有無による地表電場の違いを、有限要素法により解析した。一例として、図8aに震源域の近くにパスがある場合の2D解析のモデルを、図8bにその結果を、図8cに地表における絶対電位を示す。この例では、パスの有無で地表における絶対電位に大きな差ができ、電極がパスをまたぐような配置をする場合には観測値(電極間における絶対電位の差)に違いの生しることが確認できた。また、VLF帯パルスの地殻内部伝搬の可能性を調べるため、京都産業大学を中心に2次元モデルによりFDTD法による予察的な解析を実施した。モデルとして観測点と震央の距離を130kmとし、震源側の地表は70kmが深さ1kmの海と仮定した。震源の深さは40kmとした。そこに半値幅40μ秒のガウスパルスを印加した時の電磁波伝搬を検証した。図9は地中媒質の導電率を10-4と10-6[S/m]で1kmメッシュの市松模様(チェッカーボード模様)とした場合である。本計算結果は、上記の条件でもVLF帯のパルスが80km以上、地中伝搬する事を示すものである。しかしながら、今回採用した導電率は、dryの花崗岩としても極めて小さく、今後更に議論を進める必要がある。(東海大学[課題番号:2501])。
 フランスのDEMETER衛星の2004年から運用を停止した2011年12月までの電離圏観測データについて、1次データからの検証・解析を行い、「大気圏・電離圏相互作用に起因し、地震先行電離圏擾乱の変動と類似する電離圏変動」をいくつか見いだした。今年度はこれらのまとめと並行して、全データを用いて大地震と電離圏の相関解析を行ったが、蓄積されたデータのみでは目的とする変動が抽出できなかった。今後は地震起因でない変動を経験モデルで取り除いたデータに対して相関解析を行う(東京学芸大学[課題番号:2908])。

(地震活動)

 イベントが起こるたびに時間が進むナチュラルタイムによる解析で、2次相転移でいう臨界点の切迫を予測できることが提唱され、いくつかの地震の例についても有効性を示してきたが、今年度は、時間変化する統計変数であるκ1の値が臨界点への接近にともなって0.07に収斂することを、既知の臨界現象である強磁性体のIsingモデルや、自己組織化現象などについて実証することによって Natural time解析の理論的妥当性を示した(東京大学地震研究所[課題番号:2912])。
 一方で、大地震前に応力場が均質化し、破壊が停止ししにくい場が形成されるという仮説にもとづいて、JAMSTECを中心に離散要素法による大規模計算による付加体に生じる大小多数の断層運動の数値シミュレーションを行い、応力場の時空間発展を広いスケールレンジにわたって観察している。今年度は、付加体内水平断層よりも上の、応力蓄積が比較的ゆっくり進行する部分で間欠的に発生する逆断層運動に着目した。その結果、比較的大きな断層運動に先行して、応力場の均質化(主応力軸の向きのばらつきの減少)が見られた。また、応力場の均質化が進行している間は、規模の大きな断層運動を起こす領域を取り囲む範囲で体積減少(密度増加)が進行していることがわかった。こうした結果は、大規模な断層運動に先行する準備過程の存在を示唆するものである。ただし、今回の結果から大規模な断層運動前には均質化が生じることが言えるが、逆は必ずしも言えない。そこで、均質化に加えてどのような条件が大規模な断層運動に必要かを検討する必要がある(東京大学地震研究所[課題番号:1421])。
 昨年度、実験室の摩擦を正しく表現できるよう修正されたRSF摩擦[Nagata et al.、 2012]を用いても、応力変化から期待される地震活動の変化は従来の摩擦則を用いた場合とほぼ同じであると報告したが、それが誤りであることがわかった。Dieterich [1994] にならって、バネーブロックモデルのサイクル後半の加速滑りの近似的解析式をつくり、応力擾乱を地震サイクルの時計の進みに換算するという手順で得た結論であったが、数値実験結果の検討から、従来の摩擦則と応力弱化項を取り込んだNagata摩擦則では、応力のステップ擾乱による強度・応力の変化がサイクルに影響する仕方に重要な違いがあることがわかった。前者(図10a)では、応力ステップによる変化は、定常載荷での地震サイクルのサイクル軌道にほぼ沿っており時計の進みに換算できるが、後者(図10b)では、ステップ擾乱によって、もとの地震サイクルの軌道から外れた点に移ってしまう。そのため、時計の進みとして解析することはできないと判明し、地震活動度の評価を、様々な初期強度もつ断層の地震サイクルを応力ステップを含めて数値的に追うことでやり直した。Nagata則は、従来の摩擦則に基づく場合よりも二倍程度活発な余震活動を予測する結果となったが、自然の余震の活動度が従来の摩擦則に基づく予想よりも2桁高いという大きな食い違いを解消するには程遠く、有効法線応力を被り圧の1%程度と想定するなどの大きな調整が必要な状況は根本的に解決されなかった(東京大学地震研究所[課題番号:1421])。
 昨年度、数値シミュレーションによって、深部ゆっくり地震活動の特徴が、隣接する巨大地震サイクルに伴って変化することを見出した。今年度では、更に浅部ゆっくり地震も共存させるモデルを構築し、深部との違いを比較した(図11)。その結果、浅部の方が深部よりも変化が大きいことを示した。このことは、近いうちに発生するとされる東南海地震について、海底観測などによって切迫度を評価する上で活用されることが期待されるものである(東北大学[課題番号:1210])。

(測地学的現象)

 1984年以降の中規模繰り返し地震について調べたところ、東北地方太平洋沖地震後その大滑り域内で繰り返し地震の活動が著しく不活発で、その周りで活発であることが分かった(図12a)。これは昨年度報告した中規模繰り返し地震のアスペリティ内での地震サイクルにおける地震活動の時間変化(サイクルの前半が不活発)と大変よく似ている。また中規模の繰り返し地震の積算滑りを用いて余効滑りの時空間分布を推定すると、地震時滑りの周囲で滑りがあり、特に滑り域深部延長で滑りが大きいことが分かった(図12b)(東北大学[課題番号:1210])。
 また、東北地方太平洋沖地震の余効滑りはフィリピン海プレートの北限に沿って伝播している様子が見られる(図13a)。小繰り返し地震の解析より、フィリピン海プレートと太平洋プレートの間は、固着が弱く安定滑りが卓越している。フィリピン海プレートの北限は、南に行くほど浅くなることが知られている。一方で、昨年度までの成果より、余効滑りは摩擦パラメターA(=aσ)の値が小さいほど、遠くに速く伝播することが知られている。このため、卓越した余効滑りがフィリピン海プレート北限に沿ってレール状に伝播する場合、南に行くほど浅くなる(σが小さくなる)ことから、摩擦パラメータの値が南浅でも低いのなら、1677年に発生した房総半島沖地震震源域まで到達する可能性があることを指摘した(図13b)。これらの結果は、巨大地震発生後に誘発される地震について、準静的滑りが重要な鍵となることを意味し、その特徴を理解するためには摩擦特性や、より小規模のスケールで詳細なモニタリングをすることが、今後更に必要となる(東北大学[課題番号:1210])。
 一方、太平洋東北沖地震でその重要性が強く示唆されたアスペリティのスケール間相互作用が震源核形成を含む地震サイクルにどう影響するかを考察するために、破壊成長抵抗の分布に階層的な不均質 [Ide and Aochi、2006]を与えた連続体中のRSF断層のモデル[Hori&Miyazaki; 2010、2011]を用いるアプローチを開始した。予察的な結果(図14)では、大地震が準静的な大きな震源核形成を経て起こる回と、小地震の動的破壊によって核形成が代用される(cascade upによる大地震)回が一回交替になっている(東京大学地震研究所[課題番号:1421])。
 鉱山の地震発生パターンやひずみ観測から応力や強度を拘束する試みとして、2007年12月にMponeng金鉱山(南アフリカ共和国)で発生した地震(M2.1)の震源断層におけるバックアナリシスを行った。
 世界の鉱山では境界要素法による静的弾性応力モデリングや安全評価が広く行われている。モデリングには、応力が与えられた強度に達すると塑性変形する断層を組み込むことができる。鉱山の地震観測網では、検知能力や震源決定精度が低いため、このような試みはこれまで困難であったが、AE観測によって震源断層が克明に描き出されたため、その強度を評価した。その結果、地震前に凝着力12.2MPa摩擦係数0.47と設定すれば採掘に伴って12月にイベントが発生することや、地震後に強度が約10MPa低下すると設定すればその地震のモーメントが再現できることがわかった。さらに、モデルで仮定すべき採掘前の応力値を拘束するためには応力測定が必要であるが、日本で実用化されている口径76mmの円錐孔底オーバーコアリング(CCBO)法を、口径60mmでもできるように小型化し、高品質なドリリングに必要なツールを開発して応力測定することに成功した(立命館大学[課題番号:2401])。

(地殻構造)

 地殻流体の挙動が地震発生やその先行過程に果す役割は、理論的に考えて大きいはずであり、様々な手段で地殻の電気的・力学的構造をモニターすることで、地震に先行する現象が見つかる可能性がある。下部地殻に流体の可能性が高いS波反射面が見つかっており、また微小地震活動が異様に高い丹波山地周辺域において行っている、超稠密な地震観測で得られた多数の地震記録を用いて、精密震源決定ならびに予察的なトモグラフィによる3次元速度構造解析が行われた。図15aは、連携震源決定法(JHD)の結果である。この地域を代表する1次元速度構造と、3次元不均質に起因する各観測点における走時補正値が示されている。走時補正値は各観測点直下の地殻構造を反映しているものと考えられ、琵琶湖西岸から京都盆地、大阪平野にかけて帯状に低速度であることが示唆される。図15bは予察的なトモグラフィの結果である。やはり琵琶湖西岸から京都盆地、大阪平野にかけて帯状に低速度であること、その低速度帯は深いほど西方に位置する(京都大学防災研究所[課題番号:1811])。
 密閉ボアホールを用いた間隙水圧測定で、東北地方太平洋沖地震に対して、これまでの大地震と同じように間隙水圧による地震記録が収録されたほか、地震によるコサイスミックなひずみ変化による周辺の間隙水圧変化もみられた(図16a)。ボアホールひずみ計では、コサイスミックなひずみ変化、ひずみ地震動(図16b)、余効変動が明瞭に記録された。コサイスミックなひずみ量・方向は、例えば国土地理院の断層モデルを仮定して岡田の式によって計算した値と一致する。また、余効変動の変動源の移動をとらえた。更に理論ひずみ地震動波形を計算し、間隙水圧及びボアホールひずみ記録がどの程度説明できるかの検討を行った(京都大学防災研究所[課題番号:1811])。

これまでの課題と今後の展望

 本年度は、多くの課題で本格適な結果が得られ始めた。電磁気現象に関しては、永く重要性が指摘されながら取り組みが遅れていた伝播経路についての研究が進んだ。まだ予察的とはいえ、定量的データのあるケースについて、地殻の不均質な電気伝導度構造を具体的に考慮した定量的モデリングを行うようになった点が重要である。また、実験室でのメカニズム解明も着実に進んでいる。東北地方太平洋沖地震の発生と関連する可能性のある先行現象もいくつか捉えられた。電磁気的手法は観測コストが低く、多点展開が比較的容易なはずである。解析の手法も研究が蓄積されているので、今後は、観測点を一気に地震計並みに増やして、大地震との遭遇率を上げることが研究の飛躍的進展につながると考えられる。時空間カバレレージが先行現象の研究において圧倒的な重要性をもつことは、フランスのDEMETER 衛星の一連の成果がよい例である。ここで述べたことは、大気中ラドン濃度に関する研究にもよくあてはまる。一方、地下水中の化学種測定については、地震発生のプロセスの観点から重要と考えられる複数の化学種を高い精度でフィールド連続測定できるという画期的な装置があらかた完成した。コストを下げられる技術であることもよく考慮して開発されたので、安定した継続運用をなるべく多くの地点で行うべく、体制面を含めた検討を始めるべきだろう。また、密閉ボアホール間隙水測定の、体積ひずみ計としての非常に良好な特性は、ますます多くの変動例で確認されており、これも低コストであることから、やはり継続・多点運用の体制を検討すべきである。摩擦滑り断層モデルから期待される先行現象の研究については、RSF自体の物理的理解の弱さと数値計算における計算量の問題がクリアされ、少なくとも2つ、本質的に重要な進展があった。測地学的な手法で捉えようとしてきた先行現象の最右翼は、本震破壊にむかって加速していく震源核の準静的滑りであるが、直前プレスリップの大きさが本震のサイズと関係するかどうかは、震源物理における主要な問題の一つであり、なかでも破壊物性パラメタ分布の階層的な構造が果す役割が近年大きく注目されている。宮城沖地震よりも1桁大きな上位階層のアスペリティの存在に考えが及ばなかったことが、東北地方太平洋沖地震を予期できなかった本質的な理由として指摘されてもいる。このような階層構造の存在は、カスケード的な地震の成長プロセスを示唆し、破壊の初期プロセスと最終的に破壊が止るサイズに関連がなくなるだろうと考えられてきた。しかし、内部に局所的に不安定な小領域を含む設定でのRSF摩擦断層の計算によって、必ずしも小アスペリティからのカスケードアップに頼らずとも、上位の大きなアスペリティ自体がそれにみあう量のプレスリップを伴なう核形成を起して本震にいたるケースも可能であることが示された。地震サイクルの研究が、階層的不均質の問題に正面から取り組み始めたことは、非常に本質的で重要な進歩である。
 一方で、本震破壊にむかって加速していく現行犯的な直前過程としてのプレスリップとは別に、中長期的な先行現象として、広域的な準静的滑り速度の上昇が期待されることが理論的に指摘されていたが、それと整合的な観測例も指摘されはじめた。このゆっくり滑りを測地的方法で直説観測するのはむずかしくても、環境によっては、小繰り返し地震やゆっくり地震等をインディケーターとできる可能性がある。また、音波透過等の方法で強度(断層の固着程度)の低下としてみることができれば、先行現象として、本震以上の大きな変化として観測できるだろうことが、実験と理論から期待される。これは、先行現象についてよく指摘される、なぜcoseismicな変化が見えないのかという問題に対する答えである可能性がある。物の状態としての破壊は、高速滑り前にあらかた済んでいるのではないかということである。
 小地震の断層面解を用いた応力場のモニタは、地震発生予測において欠かせない要素と考えれらているが、解析で仮定される応力の均一性ということがどの程度のスケールでなりたつのかといった基礎的問題を含め、それ自体まだ未成熟な技術であろう。しかし、いくつかのテストフィールドで、断層面解を求められる地震の下限を下げることで、時空間分解能を飛躍的にあげることに成功した。今後、地殻の応力状態に関する基礎的問題の解決とともに、地震サイクルの進展と関連したなんらかの特徴がみつかることも期待される。
 一方、地震発生数の消長については、応力場の変化を反映することはまちがいないにしても、その代表的な物理モデルが本質的にうまくいっていなことがよりはっきりしてきた。断層面解のある地震データが増えたことなどの利点を考慮して、データと理論の比較をやりなおすことが必要かもしれない。また、多体系のスケール間相互作用を含む協同臨界現象的な観点からの地震活動度の理論的研究も着実に進展している。本計画では、抽象的な多体系ではなく、地殻の弾性応力と局所的滑りを意識した多体系モデルを研究している点が重要と考えられる。
 これまでの3年間を概括していえるのは、重要であることは多くの人が認識していても手がつかなかった、本質的な難しさを抱えた問題の多くに対し、具体的な取り組みができていることである。先行現象の研究において、長期にわたる一貫した観測データの蓄積が欠かせないことは、昔も今も変らないが、どのようなデータがどの程度のコストで取得できるかということ、また、地震発生の物理プロセスに関する理解といった事情は大きく変った。どのような観測を長期にわたって維持すべきかということも含めて考え直す時期にきているのかもしれない。

成果リスト

青木裕晃・片尾浩・飯尾能久ほか(2011):稠密地震観測による近畿地方北部におけるメカニズム解と応力場,日本地震学会秋季大会,D11-04.
青木裕晃(2012):稠密地震観測による近畿地方北部におけるメカニズム解と応力場,京都大学理学研究科修士論文.
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Durrheim, R. J., H. Ogasawara, M. Nakatani, Y. Yabe, A.M. Milev, A. Cichowicz, H. Kawakata, O. Murakami, M. Naoi, N. Yoshimitsu, and T. Kgarume, 2012, Establishment of SATREPS experimental sites in South African gold mines to monitor phenomena associated with earthquake nucleation and rupture, Sixth International Seminar on Deep and High Stress Mining, 30 March 2012, Perth, Australia.
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