1(3)地震・火山現象に関するデータベースの構築

「地震火山データベース構築」計画推進部会長 大見士朗
(京都大学防災研究所)

1.はじめに

 平成21年度から始まった「地震予知・火山噴火予知計画」では、地震現象や火山現象に関する予測のために必要な基礎データベースを構築するとともに、それらに関する情報の統合化を図り、「地震・火山現象に関する統合データベース」として体系化することを目指している。

2.平成23年度成果の概観

以下、平成23年度の主な成果について概観する。

(ア)地震・火山現象の基礎データベース

(地震や地殻変動観測に関する基礎データベース)

 防災科学技術研究所により構築されている高感度地震観測網、広帯域地震観測網、強震地震観測網等による地震波形データベース[課題番号:3007]、気象庁による全国の地震カタログ[課題番号:7015]、更には国土地理院によるGPS観測データや潮位観測データのデータベース[課題番号:6009、6011]等々は、2011年3月の東北地方太平洋沖地震以後の種々の地殻活動研究に多大な貢献をした基礎データ群となった。

(地殻変動観測に関する基礎データベース)

 北海道大学を中心とするグループによる、全国ひずみ・傾斜データの流通と一元化の作業は、平成23年度も順調に進められ、平成23年度末現在、合計91観測点、466チャンネルのデータを試験流通させるに至っている。流通しているデータは、ひずみ・傾斜のほか、重力計・水位計・気圧計など多項目にわたっている。東北地方太平洋沖地震に際しては、津波到達時の明瞭なひずみ傾斜変化が観測され、これを津波の荷重による地殻変形として説明するなど(例えば、高塚、2011)順調に研究成果の発信も行っている[課題番号:1001]。

(火山に関する基礎データベース)

 気象庁では活火山データ整備 [課題番号:7018]として、全国の活火山の過去の活動についての文献・資料等の再調査や、再編成された観測網等の取りまとめを行っている。その内容は火山の資料全般から、週間火山概況、火山活動解説資料等の多岐におよび、火山に関する統合データベースを目指していることがうかがえる。今年度は、火山噴火予知連絡会において、北海道の3火山(天頂山・雄阿寒岳・風不死岳)について活火山認定が適当と判断し、国内の活火山の数は、従来の108から110となった。
 また、平成19年に噴火警戒レベルが導入され、気象庁の噴火警報及び噴火予報発表業務が開始されるなど、火山防災に関する事項を充実させる必要が出てきたことから、日本活火山総覧(第3版)の原稿を改訂する作業を行った。また、国土地理院では、火山基本図や火山土地条件図整備などが行われており、今年度は栗駒山の火山土地条件図の数値データの作成のほか、岩手山の火山土地条件調査を実施するとともに、箱根山の火山基本図の数値データの作成が行われた [課題番号:6010]。

(地球電磁気観測に関する基礎データベース)

 気象庁地磁気観測所では、数少ない地球電磁気観測関連のデータベースのひとつである、地磁気永年変化のデータベースの整備・構築を行っており、柿岡・女満別・鹿屋・父島の地磁気4成分連続観測データを統一的な形式に整理し、地磁気永年変化データベースに登録する作業が続けられている[課題番号:7017]。

(イ)地震・火山現象に関する情報の統合化

 構築したデータベースに基づく情報の統合化に関しても、模索が始まっている。
防災科学技術研究所は、同機関が長年にわたって蓄積してきた基礎データベースから得られた研究成果をもとに、地震波速度・減衰・熱・温度・地質等の総合データベースの構築を試みている。今年度は、Hi-netの読取値とF-netの震源情報を組み合わせることで、解析領域を陸域から海域に広げ、東北地方太平洋沖地震の破壊開始点の地殻構造に関する考察を行った(Matsubara et al.、2011)[課題番号:3008]。
 産業技術総合研究所(産総研)においても、これまでに活断層関係をはじめとする複数の基礎データベースが構築されてきたが、それらの中の、地殻応力場データベース、活断層データベース、活火山データベース、火山衛星画像データベースなどを統合して、地震や火山活動に関係する地質情報データベースとして統合する試みがなされている。火山衛星画像データベースに関しては、本年度、新たに約22,000シーンの追加が行われた[課題番号:5004]。これに加えて産総研では、将来噴火の可能性の高い活動的な火山を数火山選び、火山地質図の整備や、噴火シナリオの作成・高度化等の作業を行っている。
 今年度も、数火山において噴火履歴調査と火山地質図整備を行った。その中で、諏訪瀬島火山の地質図原稿を完成させた。なお、九重、蔵王等の火山での調査研究は継続中である。さらに、桜島火山についても火山地質図の改訂作業を開始した [課題番号:5005]。国土地理院では、前計画に引き続き、都市圏における活断層図の整備が行われており、今年度は能代断層帯、三方・花折断層帯、並びに出水断層帯の3断層帯における活断層図整備が行われた [課題番号:6012]。
 名古屋大学は、「日本列島地殻活動総合相関評価システムの研究」と称して、地殻内部の構造や現象に関する情報を集積し、統一フォーマットでのデータベース化と可視化を試みている。今年度は、前年度までの成果を国際誌に投稿し、受理された(Kawamura et al.、 2012) [課題番号:1703]。
 京都大学防災研究所では、「日本列島の地殻構造データベースのプロトタイプの構築」として、地殻活動シミュレーションや強震動予測シミュレーション等に資するため、南海トラフや西南日本内陸等を初めとする各地を対象としたシミュレーションに資するために既存研究成果の数値化を行い、日本列島地殻構造データベースとして集約することを試みている。今年度は、昨年度から進行中の、西南日本の地殻構造の既往研究から、モホ面・コンラッド面やフィリピン海プレートの研究成果を組み合わせて数値化する試みを継続し、結果をウェブに登載した [課題番号:1804]。

3.これまでの課題と今後の展望

 地殻活動予測シミュレーションモデルの開発のためには、その基礎となるデータが必須であることは論を待たない。これまでの地震予知研究計画(地震予知のための新たな観測研究計画、以下、前計画という)においても、この立場から、種々の機関において基礎データの蓄積及びそのデータベース化にかかる研究が着実に推進されてきた。しかしながら、個別データベースの構築の実績が著しいことに比較すると、相互のデータベースを有機的に統合して活用するという作業の努力が若干欠落していた傾向があり、これらの情報を体系化して地殻活動予測シミュレーションモデルの構築に資するという本部会の最終目標に至ることが困難であったという反省があった。この反省に鑑み、平成21年度から始まった「地震予知・火山噴火予知計画」では、地震現象や火山現象に関する予測のために必要な基礎データベースを構築するとともに、それらに関する情報の統合化を図り、「地震・火山現象に関する統合データベース」として体系化することを目指すことになっている。本計画のこれまでの3年間の成果をみると、まず、前計画に引き続き、地震観測・地殻変動観測等の基礎データの蓄積とデータベース化が着実に行われており、これらのデータが、今年度、東北地方太平洋沖地震後の地殻活動調査研究に多大な貢献をした基礎データとなったことは論を待たない。
 また、本計画により、初めて、大学関係のひずみ計・傾斜計データの流通と一元化が図られ、平成23年の新燃岳噴火や東北地方太平洋沖地震等に際して、その有用性が確認されたことは意義が深い。ただし、Hi-net等の大学以外の微小地震基盤観測網の充実により大学の微小地震観測網が縮小傾向にある状況で、地殻変動観測網の維持を各大学等がどのように位置付けるかなど、今後の長期の安定運用に関しての解決すべき課題が残されているものと考える。
 さらに、本計画の柱ともいうべき、データの統合化に関しては、新しい概念でもあることから、各機関でこれの指向するところを模索している動きがみえる。それらの中から、基礎データから導かれた研究成果をデータベース化する試みや、機関横断型のポータルサイト構築等の試みが現れていることは興味ある成果である。
 しかしながら、本部会の最終的な目標である地殻活動予測シミュレーションモデルの構築に資するための体系化されたデータベースの構築に関しては、いまだに模索の状態が続いているように見える。ひとつの理由は、現在は、データベース課題担当者がイニシアティブをとる形で、シミュレーションに資するデータベースの構築を担当することになっているが、データベース課題担当者は、必ずしも、シミュレーション課題の現状に精通していないことが挙げられる。これに加え、データベース構築そのものは、研究の本質を担うものでなく、後方支援を担当するものであることから、こんにちの短兵急に成果を求められる研究者には馴染みにくいことも挙げられる。
 このような点に鑑み、次期計画での本項に関しては、以下のような検討を求めるものである。すなわち、シミュレーションに資するデータベースの構築は、むしろ、シミュレーション課題の一部として位置付けるべきである。シミュレーションを実行するには、データベース課題の有無にかかわらず、モデルとなる構造が必要であり、構造モデルは研究に必須の産物として生成される。実際に、強震動シミュレーションに資するための構造モデルなど、詳細なチューニングがなされている構造モデルも存在するようである。地下構造を求めることが目標である研究の成果は、他の手段によるモデルの検証が行われる機会が少ないのに対し、当初からシミュレーションに資するために作成される構造モデルは、観測波形データ等をより良く説明するための改良が頻繁に加えられるため、精度の高いモデルが期待できる。
 シミュレーション課題の各担当者に、そのモデルをデータベースとしてフィードバックしていただけるようなシステムを採用することにより、効率的にシミュレーション研究用のデータベース構築に資することができるのではないかと考える。また、これらのデータベースの取りまとめや公開は、もはや研究ではなく、後方支援以外の何物でもないことから、研究課題として実行するのではなく、企画部等のヘッドクォータ的組織がアウトソーシング等の手段によって業務として行うことが望ましい。アウトソーシングにより業務として行うべき「データベース課題」としては、シミュレーション用構造モデルの統括のほか、本計画でも数件の課題がある、「煤描地震記録のデジタル画像化」のようなものも該当するであろう。これらは、個別の研究機関で小規模に行うよりも企画部等が要望を取りまとめ、一元管理することで、より一層、効率的な作業が可能になるものと考えられる。

成果リスト

Geshi, N., K. Nemeth and T. Oikawa, 2011, Growth of phreatomagmatic explosion craters: A model inferred from Suoana crater in Miyakejima Volcano, Japan. J. Volcanol. Geotherm. Res., 201, 30-38.
Kawamura, M., T. Kudo and K. Yamaoka, 2012, Spatiotemporal Relationship between Geodetic and Seismic Quantities: A Possible Clue to Preparatory Processes of M>6 Inland Earthquake in Japan. International Journal of Geophysics, 2012, doi:10.1155/2012/610712
Matsubara, M. and K. Obara, 2011, The 2011 Off the Pacific Coast of Tohoku earthquake related to a strong velocity gradient with the Pacific plate, Earth Planets Space, 63, 663-667.
Miyoshi, T., T. Saito, and K. Shiomi, 2012, Waveguide effects within the Philippine Sea slab beneath southwest Japan inferred from guided SP converted waves, Geophys. J. Int, in press.
大久保慎人,雑賀敦,中嶋唯貴,TRIES 観測網(ひずみ地震動,地動)から見た2011 年東北地方太平洋沖地震,2011, 日本地球惑星科学連合大会予稿集,MIS036-P27.
大久保慎人,寺石眞弘,山崎健一,小松信太郎,加納靖之,2011, 地殻変動連続観測記録に見られる新燃岳噴火の直前挙動,日本地球惑星科学連合大会講演予稿集,SVC070-P33.
大久保慎人,ひずみ地震動解析のススメ,2011, 日本測地学会講演予稿集,53.
大久保慎人・寺石眞弘・山崎健一・小松信太郎・加納靖之,2011, ひずみ記録による噴火・火道生成メカニズムの推定,日本火山学会講演予稿集,A3-02.
Ohta, Y., D. Inazu, M. Ohzono, R. Hino, M. Mishina, J. Nakajima, Y. Ito, T.Iinuma, T. Sato, and H. Fujimoto, K.
Tachibana, T. Demachi, Y. Osada, M. Shinohara, S. Miura, 2011, Co- and post-seismic deformation of the M7.3 foreshock triggering the 2011 M9.0 Tohoku Earthquake, AGU Fall Meeting 2011, San Fransisco, Moscone Center,December 5-9.
太田雄策・稲津大祐・大園真子・日野亮太・三品正明・中島淳一・伊藤喜宏・飯沼卓史・佐藤忠弘・田村良明,藤本博己,立花憲司,出町知嗣,長田幸仁,篠原雅尚,三浦哲, 複合測地観測によるM7.3(3月9日)地震時・地震後地殻変動, 2011, 日本地震学会2011年秋期大会, 静岡, 静岡県コンベンションアーツセンター・グランシップ.
Shinjo A., and H. Takahashi, 2011, The 2011 Tohoku earthquake tsunami recorded by strain and tilt sensors at Erimo, Hokkaido, Japan, 7 th biennual workshop on Japan-Kamchatka-Alaska subduction processes: Mitigating risk through international volcano, earthquake and tsunami sciences, JKASP-2011, Petropavrovsk- Kamchatky, Russia, August 25-30.
高橋浩晃・山口照寛・柴田智郎・岡崎紀俊・宮村淳一,雌阿寒岳の浅部群発地震活動に先行した深部収縮と低周波地震活動,2011, 日本火山学会講演予稿集,A3-07.
Takahashi, H., T. Shibata, T. Yamaguchi, R. Ikeda, N. Okazaki, and F. Akita, 2012, Volcanic strain change priorto an earthquake swarm observed by groundwater level sensors in Meakan-dake, Hokkaido, Japan, J. Volcano. Geotherm.
Res., doi:10.1016/j.jvolgeores2011.11.006.
寺石眞弘, 山崎健一, 大谷文夫, 森井亙, 加納靖之,横坑式伸縮計記録を用いた2011 年新燃岳噴火に伴う圧力源の位置推定,2011, 日本地球惑星科学連合大会,SVC070-P34,2011.山崎健一・寺石眞弘・小松信太郎・加納靖之,伸縮計記録で見る2011 年新燃岳噴火活動時の地殻変動,日本火山学会講演予稿集,P10.

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-- 登録:平成25年02月 --