3.平成23年度の成果の概要

3-1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進

(1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化

 地震現象と火山噴火現象についての理解を深めるとともに、それらの予測の実現を目指して、日本列島全域に高密度な地震・地殻変動等の観測網、及び全国の主な火山に地震・地殻変動・重力等の火山活動観測網が整備されてきた。これらの既存の観測網から得られたデータを活用した地震活動、地殻変動及び火山活動のモニタリングが進められた。さらに、諸観測網の高密度化及び多項目化といった整備・強化、新たな観測・解析手法の導入、観測データの実時間処理システムの開発と運用といったモニタリングシステムの高度化を図る研究が進められた。各種観測によって得られた成果は、随時、地震調査委員会や地震予知連絡会、火山噴火予知連絡会などに提供され、会報などにまとめられているほか、各機関などのウェブで公開されている。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の発生後は、被災した観測点やデータ収集システムの復旧、観測点の維持、緊急観測の実施に力が注がれた。

・日本列島域

 基盤的地震観測網の維持管理、特に、東北地方太平洋沖地震による被災観測点の復旧に努めた。さらに、地震多発時の自動震源決定精度の向上、発震機構解やマグニチュード決定等の巨大地震発生時への対応が実施された。陸上GPS観測網による地殻変動連続観測を実施し、平成23年度に発生した多数の地震に伴う地殻変動や東北地方太平洋沖地震後の継続的な余効変動を検出し、地震の発生メカニズムの解明等に寄与した(図6)。東北地方太平洋沖地震及び内陸で発生した誘発地震に
ついても、「だいち」のデータを緊急に解析し、その地殻変動の様相を明らかにした。

・地震発生・火山噴火の可能性の高い地域

 宮城県沖では総合的なモニタリングが重点的に行われており、東北地方太平洋沖地震の前震から本震に至る過程、その後の余震活動を記録することができた。海底圧力計によって観測された3月9日の最大前震による地殻上下変動データを用いて、本震発生までの2日間の余効変動の解析を行った。推定された余効滑りは最大前震時の滑り域の南東側で発生しており、前震後の地震活動の南側への拡大傾向は、この余効滑りの拡大に対応していると考えられる。また、本震の初期破壊から大振幅の主破壊に移行する様子を海底地震計の波形記録によって明らかにした。

・東海・東南海・南海地域

 本地域においては、各機関の定常及び臨時の地震観測網、地殻変動観測網が特に高密度に配置されており、重点的に観測が実施されている。ひずみデータと傾斜データを統合して解析したことにより短期的ゆっくり滑り(短期的SSE)の検出精度が向上し、紀伊半島において遠地地震波によって誘発された短期的SSEを見いだした。東北地方太平洋沖地震後には、全国で地下水位や水圧等が低下する現象が認められ、広い範囲で地殻応力が変化したと考えられる。GPSと水準測量のデータから、プレート間の固着と滑りを推定したところ、2000年~2005年に発生したSSEの発生域は従来よりも深部に位置することが分かった。深部低周波微動はSSEの縁ではなく中心部で発生していることになり、長期的SSEは短期的SSEが巨大化したものであることを示唆する。東海地域における地殻変動の監視においては、ひずみ計の観測データを重ね合わせることでデータに含まれるノイズを軽減する手法を開発し、想定東海地震の前兆滑りの検知能力を向上させた。精密制御震源による地殻構造の時間的変化のモニタリングでは、東北地方太平洋沖地震に伴い、地震波速度の低下が起き、それがゆっくりと回復したことが明らかになった。これは表層が大きく揺すられて一時的に発生した地下の微小割れ目等による地震波伝播速度の低下を捉えた可能性があると考えられる。熊野灘における海底地殻変動計測の解析結果は、陸上のGPS観測結果から推定されるプレート間固着のモデルから計算される変動量と整合的であることから、熊野海盆周辺域における固着分布は空間的に滑らかであると考えられる。

(2)地震・火山現象に関する予測システムの構築

(2-1)地震発生予測システム

 地震発生予測システムの構築を目指して、2つの異なる方向性を持った研究を推進している。一方は、地震発生とその準備過程の物理的理解に基づく地殻活動予測シミュレーションによる予測を実現するための研究であり、他方は地震活動の統計モデル・物理モデルに基づく地震活動予測の高度化のための研究である。これらの目的のために、地殻活動予測シミュレーションモデルの開発と高度化、観測データをシミュレーションに反映するためのデータ同化手法の開発、地震活動予測手法の開発と高度化を行った。

・地殻活動予測シミュレーションとデータ同化

 地殻活動予測シミュレーションを実現するためには、現実の観測データを反映したモデルの構築を行う必要がある。そこで、GPSデータから推定されたバックスリップ分布からプレート境界面上における応力分布を推定し、それを初期条件として東海・東南海・南海沖のプレート境界における三次元動的破壊シミュレーションを行った。その結果、破壊開始点の位置に応じて、南海沖のみが破壊される地震、東南海沖のみが破壊される地震、南海沖と東南海沖の両方が破壊される地震を再現することができた(図7)。このことは、観測データを取り込んだ地殻活動予測シミュレーションが、巨大地震のポテンシャル評価に使用できる可能性を示すものである。
 大規模な地殻活動予測シミュレーションの計算負荷を軽減するための計算手法の開発を行ってきた。この手法を用いて、プレート境界面の三次元的な形状を考慮した東北沖の地震サイクルの大規模シミュレーションを行い、東北地方太平洋沖地震を含む地震サイクルの特徴が再現できることを示した。

・地殻活動予測シミュレーションの高度化

 従来の地殻活動予測シミュレーションでは検討されていなかった地震時の摩擦発熱による間隙流体圧の上昇を考慮して地震サイクルのシミュレーションを行った。プレート境界浅部に地震時の摩擦発熱による間隙流体圧の上昇域を、また、深部に速度弱化の領域を設定することにより、プレート境界深部ではM7クラスの地震が数十年間隔で発生し、浅部まで大きく滑るM9クラスの地震が数百年間隔で発生する東北地方太平洋沖で発生する超巨大地震の発生サイクルを再現することができた。

・地震活動評価に基づく地震発生予測

 地震活動を予測するための統計モデルや物理モデルの予測能力を統一的に比較・検証するために、CSEP(Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)と呼ばれる国際研究プロジェクトと連携し、複数の予測領域・予測期間に対して地震発生予測検証実験を行った。関東地方を対象とした1年予測実験では、定量的な評価テストにより8個のモデルのうち2個が、他のモデルよりも有意に優れた予測性能を持つと判定された。

(2-2)火山噴火予測システム

 噴火の時期や場所についての予測は、十分に観測体制が整備されていればある程度可能な状況である。しかし、一旦開始した噴火の規模・様式・推移を予測することは、現在の火山学的知識ではまだ不十分である。そこで、過去の噴火履歴を考慮して、将来発生する可能性のある噴火事象をで
きる限り網羅し、ある程度の確度を付した噴火事象系統図(イベントツリー)、すなわち、噴火シナリオを作成することを目的とした。噴火シナリオの作成は、これまで培ってきた火山学的な知見を総動員する作業である。また、試作した噴火シナリオに基づいて実際の噴火を予測することも本研究計画の課題である。

・噴火シナリオの作成

 昨年度から噴火シナリオの検討を始めた桜島では、姶良カルデラを中心とする隆起現象が継続しており、ほぼ定常的に年間107m3のマグマが供給されている。大正噴火以降およそ30年経過するごとに、大噴火が発生したり、大噴火に相当する噴出物総量を伴う継続的な噴火が発生する傾向がある。1993年からは、大正噴火以降3回目の活動的な噴火が始まった。現在の地殻変動速度を外挿すると、その約30年後に当たる2020年代には、姶良カルデラを中心とする隆起量が大正噴火直前の状態にほぼ達する。大正噴火後の噴出物からは、玄武岩質マグマの関与が認められ、噴火の規模と玄武岩質マグマの関与の度合いに相関があることが分かった。大正噴火直前には地震活動が活発化し、姶良カルデラが隆起した後、島内の隆起が噴火の前兆として起きたと解釈されている。現在観測坑道に設置されている観測装置では、大正噴火クラスの噴火に先行したマグマ貫入と同様の現象が起これば、大きな地殻変動を捉えることが可能である。今回大正噴火と同程度の地殻変動量が観測された場合には、噴火シナリオ上では大正噴火クラス規模の噴火に分岐したと判断できる。
 一般に、噴火現象やそれに関連する事象の観測、解析例が少ない火山においては、確率を付した噴火シナリオを作成するのは困難な場合が多い。そのような火山においては、国内外の類似した火山のデータを元にシナリオ作成を検討することが解決策の1つである。

・噴火シナリオに基づく噴火予測

 2011年に本格的なマグマ噴火を開始した霧島山(新燃岳)では、2011年2月に帯水層の有無と、マグマの上昇速度や火口閉塞、すなわち、脱ガス効率の違いによる噴火形態の違いが考慮され、噴火シナリオを改訂した。また、火口に蓄積した溶岩による火道上部の閉塞の有無や、噴火開始地点の違いにより、どのような噴火形態になるかについても検討した。また、伊豆東部火山群では、過去数十年間にわたる約50回の群発地震の解析データを用いて、群発地震発生時の推移予測を示し噴火シナリオを作成した(図8)。これまでの群発地震の解析結果から、異なるマグマの貫入深度、すなわち、マグマが深部に留まるか、あるいは浅部まで貫入し噴火に至るかについての確率を過去の事例数に基づいて与えた。この群発地震の解析結果を取り入れた噴火シナリオは、気象庁の噴火警戒レベルの導入に役立てられた。これまでの噴火シナリオとは異なり、行政機関や住民が、規模や種類の異なる災害リスクのあることについて、それぞれの発生する可能性とともに認識できるように、複数の噴火事象の分岐とそれぞれの確率を示した噴火シナリオである。

(3)地震・火山現象に関するデータベースの構築

 地殻活動予測シミュレーションモデルの開発のためには、その基礎となるデータが必須である。地震現象や火山現象に関する予測のために必要な「基礎データベース」を構築するとともに、それらに関する情報の統合化を図り、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築に資するための「統合データベース」の構築を目指した。

・地震・火山現象の基礎データベース

 高感度地震観測網、広帯域地震観測網、強震地震観測網等による地震波形データベース、全国の地震カタログ、更にはGPS観測データや潮位観測データのデータベース等は、東北地方太平洋沖地震をはじめとする種々の地殻活動研究に多大な貢献をした基礎データ群となった。全国ひずみ・傾斜データの流通と一元化の作業は順調に進められ、ひずみや傾斜のほか、重力計・水位計・気圧計等の多項目のデータが研究者間で流通している。活火山データベース整備では、全国の活火山の過去の活動についての文献・資料等の再調査が行われている。これは、火山噴火予知連絡会が北海道の3火山(天頂山・雄阿寒岳・風不死岳)を活火山に認定する際の資料として活用された。また、火山噴火予知連絡会委員等の協力のもと、日本活火山総覧(第4版)の原稿を作成した。

・地震・火山現象に関する情報の統合化

 日本列島下の三次元構造モデルとして、地震波速度・減衰・熱・温度・地質等の総合データベースを構築している。地震波速度構造については、Hi-netの読取値とF-netの震源情報を組み合わせることにより解析領域を海域にまで広げ、東北地方太平洋沖地震の破壊開始点付近の地殻構造を推定した。地殻応力場データベース、活断層データベース、活火山データベース、火山衛星画像データベースなどを統合して、地震や火山活動に関係する地質情報データベースを構築している。さらに、将来噴火の可能性の高いいくつかの活動的な火山を選び、火山地質図の整備や、噴火シナリオの作成・高度化等の作業を行っている。

3-2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進

(1)日本列島及び周辺域の長期・広域の地震・火山現象

 日本で地震や火山噴火が発生することは、日本列島下にプレートが沈み込んでいることが大きく関与しているが、プレートの沈み込みと地震や火山噴火の発生機構は完全には解明されていない。
 地震や火山噴火発生の基本的な仕組みを解明し、長期的に見たときに日本列島はどのような場にあるかについて明らかにすることは重要である。そのため、日本列島及びその周辺域で、長期的なプレート運動とそれに伴う応力場を明らかにし、上部マントルにおける水の供給や循環過程及び島弧(とうこ)の発達過程を規定するマグマの生成・上昇機構に関する理解を深め、これらの流体と地震発生との関係を解明することが重要である。具体的には、水やマグマ等の地殻流体の分布を含む広域の地殻・上部マントル構造を明らかにし、プレートの沈み込みに起因するという共通の地学的背景を持つ地震活動と火山活動の相互作用に関する研究を推進する必要がある。さらに、地震現象の予測精度向上に不可欠な長期的な地震発生サイクルに関する理解を深めるために、アスペリティやセグメントの破壊様式について、過去の活動履歴を明らかにすると同時に、長期的な内陸の地殻ひずみの時空間分布を解明する必要がある。2011年東北地方太平洋沖地震の発生により、「長期・広域の地震・火山現象」の研究が極めて重要であることがあらためて明らかとなった。今後は、異分野間の研究交流や共同研究、更には海外の沈み込み帯の比較研究などの国際協力による研究を推進して、巨大地震の発生に至る過程を明らかにしていく必要がある。

・列島及び周辺域のプレート運動、広域応力場

 伊豆小笠原諸島を含む地殻変動データの解析により、伊豆弧がフィリピン海プレート本体とは独立に移動していることが分かり、伊豆弧において背弧拡大が現在も進行していることが明らかになった(背弧拡大の速度は約9mm/年)。これまで背弧拡大は地質学的・地震学的研究からも示唆されてきたが、測地学的研究により今回初めて実証された。また、東北地方太平洋沖地震の地震時の変動とその後の余効変動が遠方のロシアで観測された。このことは、このような大陸プレートの運動を考える上で、太平洋プレートの挙動の影響が無視できないことを意味する。

・上部マントルとマグマの発生場

 日本列島-ユーラシア大陸東縁を含む北西太平洋地域の地震波速度構造を推定した結果、沈み込んだ太平洋プレートが、深さ約500kmの遷移層に停留している様子が明瞭に捉えられ、更に直上のマントルウェッジには大規模なマントル上昇流が存在することが明らかになった。このようなマントル上昇流は大陸リソスフェアの薄化や大陸の火山の形成に大きな役割を果たしていると考えられる。さらに、日本列島の背弧側から火山フロント直下へ続くマントル上昇流は、地震波低速度・高減衰域としてのみならず低比抵抗域として捉えられた。このマントル上昇流は南北方向に不均質に分布し、活火山の直下では低速度と減衰の度合いが特に顕著になるなど新たな知見が得られた。
 さらに、数値シミュレーションにより、沈み込んだスラブ内やマントルウェッジ内の岩石組成や流体の移動が推定できるようになってきた。

・広域の地殻構造と地殻流体の分布

 地震波の散乱挙動を解析することにより、日本列島の地殻及びマントル浅部の短波長の不均質性の空間分布が推定された。短波長の不均質性は、東北地方などの火山地域で強く、西南日本では弱いことが示された。また、紀伊半島や南九州の深部において、沈み込むフィリピン海プレートの海洋性地殻が脱水変成作用を受けて低速度層から高速度層へ遷移することが判明した。
 地殻内大地震や東北地方太平洋沖地震後の誘発地震の震源域の直下には、局所的に低速度・低比抵抗域が存在するという観測事例が増えており、地殻流体の関与が示唆される。例えば、蔵王山を含む宮城県南部における比抵抗構造についての調査結果よると、火山帯に沿う地殻深部の低比抵抗体と、長町利府断層の直下に対応する低比抵抗体の存在が明らかになった。また、非火山性群発地震活動が最も活発な和歌山地域の震源域直下に、その震源域の大きさにおおむね対応する低速度・低比抵抗域が存在することが示された。これらから総合的に判断すると、地殻流体が存在する場所における地殻は塑性変形しやすく、その結果、その周囲の脆性的領域では応力集中が引き起こされ、地震が発生するというモデルが最も妥当と考えられる。

・地震活動と火山活動の相互作用

 伊豆大島及び周辺海域の構造探査実験の解析により、マグマ貫入によって火山周辺に起震応力場が作られ、地震活動の特徴は地下構造の影響を受けていることが明らかになった。具体的には、火口直下において下部地殻の上面が地下浅部へ盛りあがる凸形状を示している。さらに、これまで観測された山体膨張・収縮の圧力源(図9中の☆印)の多くは、上部地殻の深部に位置し、この場所でマグマの密度と周りの岩石の密度がほぼ一致しているためにマグマが上昇しにくくなり、マグマが蓄積しやすい場所となっていることを示唆する結果が得られている。これまで観測された地震活動が、凸形状を示す下部地殻の周辺部に集中して発生する点も興味深い。また、約3年間隔で繰り返されるカルデラ北部でのマグマ蓄積過程や、東北地方太平洋沖地震に伴うΔCFFの変化を推定したところ、極めて小さな応力変化によって地震活動が活発となることがわかった。

・地震発生サイクルと長期地殻ひずみ

 反射法地震探査から得られる地下の地質構造を基に、東北日本弧の背弧域における鮮新世以降の地殻水平短縮量は10~15kmであることが示された。この結果から換算すると、東北日本弧全体で水平短縮速度が3~5mm/年となるため、(1)東北日本弧における非弾性ひずみの蓄積速度が、測地学的に観測されるひずみ速度に比べておよそ一桁小さく、(2)したがって過去100年間以上にわたって東北日本弧に蓄積された大きなひずみの大部分が弾性ひずみであること、及び(3)その弾性ひずみは太平洋プレートの上側境界面で起こる超巨大地震に伴って解消されるという従来の仮説が裏付けられた。
 東北地方太平洋沖地震の発生を受け、青森県から千葉県にかけて(岩手県を除く)、太平洋沿岸における津波の高さや浸水域の確認と津波堆積物調査が行われた。その結果、仙台平野や石巻平野での津波浸水域は、既往研究で解明されていた貞観地震(869年)の浸水域とほぼ同規模であることが判明した。また、津波堆積物の到達限界と実際の津波浸水域の範囲との関係や、浸水深(津波の地表面からの高さ)と津波堆積物の厚さや構成物の特徴(粒径や微化石)、堆積構造との関係など、津波堆積物に基づく今後の津波規模評価において基礎となる貴重なデータが数多く取得された。

(2)地震・火山噴火に至る準備過程

(2-1)地震準備過程

 地震発生の準備過程を解明するために、地殻とマントルで応力が特定の領域に集中し地震発生に至る過程を明らかにする。プレート境界地震に関しては、アスペリティ分布の推定精度を向上させるとともに、アスペリティ域の物性に関する研究を進めることにより、プレート境界の滑りを説明するための「アスペリティモデル」の高度化を図る。さらに、プレート境界面上の非地震性滑りの時空間変化を高精度に把握するとともに、アスペリティ間の相互作用についても理解を進める。内陸地震に関しては、広域の応力によって非弾性変形が進行して、特定の震源断層に応力が集中する過程を定量的にモデル化する。地震発生層(上部地殻)と下部地殻・最上部マントルの不均質とその変形の空間分布を把握し、ひずみ集中帯の形成・発達と地震発生に至る過程に関する定量的なモデルの構築を行う。また、スラブ内地震の発生機構を解明するため、スラブ内の震源分布や地震波速度構造を詳細に明らかにし、スラブ内に取り込まれた流体の分布と挙動の解明を図る。

・アスペリティの実体及び非地震性滑りの時空間変化とアスペリティの相互作用

 GPS/音響結合(GPS/A)方式の海底地殻変動観測や海底水圧観測により、東北地方太平洋沖地震発生に伴って、最大で東南東方向に約31mの水平変動、約5mの隆起変動が観測された。陸域のGPS観測データに海底地殻変動観測データを加えて本震時の滑り分布を推定した結果、海溝寄りの深さ10~20kmの領域で最大約80mの滑りが推定された(図2)。このことは、海溝軸付近のプレート境界でもひずみエネルギーが蓄積されていたことを示唆するものである。また、想定宮城県沖地震の震源域でも5m以上の滑りが推定され、M7クラスの地震の数回分の滑りに相当するひずみが解放されたと考えられる。
 余効変動は、地震時の変動と同様に東向きの成分が卓越しており、地震発生後10か月の間に岩手県中部沿岸で最大90cm弱の水平変動が観測された。推定された余効滑りは、地震時の大きな滑り領域の深部延長である岩手県沿岸部直下のプレート境界で最大となっている。最大滑り量は2.9
mと推定され、M8.6の地震に相当する規模である。
 東北地方太平洋沖地震の発生前に日本海溝沿いのプレート境界で発生したM6.0以上の地震について、地震時の滑り及び地震後の余効滑りによって解放されたエネルギーを比べると、2005年宮城県沖の地震に関しては、両者がほぼ同程度であるのに対して、2008年及び2010年の地震では、余効滑りのエネルギーが地震時滑りに比べてはるかに大きいことが判明した。また、これらの滑りは東北地方太平洋沖地震の震源域を取り囲む場所で発生していた。一方、地殻変動データを再解析した結果、2011年3月9日の最大前震の滑り域、及びその後の前震活動域の浅部延長部において、2008年にもゆっくり滑りが発生していたことが示された。したがって、本震の震源域周辺では、この頃から、プレート間の固着状況に変化が生じていた可能性が示唆された。
 余震活動は1994年三陸はるか沖地震の震源域より北には伸びなかったことが判明した。これは、1994年の地震とその後の余効変動により、ひずみエネルギーが解放されていたためと考えられる。
 また、余震分布の北端の位置は、本震発生からの経過時間の対数に比例するように拡大したことも明らかになった。
 トモグラフィー解析により推定された東北地方太平洋下のプレート境界直上の地震波速度構造によると、宮城県沖を中心に高速度異常域が見られるのに対して、その南北隣の岩手県沖及び福島県沖では低速度異常となっている。高速度異常域は本震時の滑り量が特に大きい領域とほぼ一致しており、構造の不均質に起因する摩擦特性の違いが滑り量の大小を決定づける可能性がある(図4)。
 また、1900年以降のM6以上のプレート境界地震や東北地方太平洋沖地震のM7以上の余震の震源の多くは、高速度異常域内あるいは低速度異常域との境界付近で発生していることもわかった。
 最大前震とその余震活動は、海溝軸から30km程度までの上盤側のP波速度が極端に小さい領域ではほとんど見られないが、この領域は特に大きな地震時滑りが推定されている領域に相当しており、P波速度が遅く、未固結状態の堆積物の存在が、本震発生までは地震活動が低いにもかかわらず、地震時に大きな滑りを起こしたことになることが判明した。
 関東地方における東北地方太平洋沖地震後の相似地震活動の解析結果によると、太平洋プレート上面に加え、フィリピン海プレート上面のほぼすべてのグループで発生間隔が短くなっており、広範囲にわたって、両プレート上面における非地震性滑り速度が加速したことを示唆している。
 中長期的なゆっくり滑り(SSE)は、房総半島南東沖、東海地方、豊後水道の3領域に限られていたが、新たに日向灘においても半年から1年程度の継続時間をもつSSEが、2005年以降約2年間隔で繰り返し発生していることが明らかとなった。その滑り域は、1996年12月の日向灘の地震の余効滑り領域の深部側とほぼ重なり、余効滑り域でSSEが発生し得ることが指摘された。

・ひずみ集中帯の成因と内陸地震発生の準備過程

 GPSデータの詳細な解析から、北海道東部の屈斜路カルデラから阿寒カルデラにかけての地域が、「ひずみ集中域」となっていることが判明した。このことは、屈斜路カルデラ中心部直下の深さ5kmから20kmの領域で低比抵抗異常が推定されていることからも妥当と考えられる。
 福岡県西方沖の地震(2005年)の余震観測データの解析により不均質な応力場が検出され、地震断層深部の破壊開始点付近で本震時滑りの数十パーセントに相当する滑りが発生している可能性が示唆された。GPSによる本震時滑りや余効滑りのモデルを考慮すると、この滑りは地震前から発生していた可能性があり、これが本震の破壊を引き起こした可能性が指摘された。

・スラブ内地震の発生機構

 2011年4月7日に宮城県沖で発生したM7.1のスラブ内地震の震源域周辺の詳細な地震波速度構造を推定した結果、本震及び余震は低速度領域で発生していること、断層面とプレート表面とのなす角は約60度であることがわかった。これらのことから、かつてこの地震の震源域がアウターライズ周辺に位置していた時に、この地域で特徴的な正断層運動によってプレート内に水が取り込まれて含水化した後、沈み込みの進行に伴う温度・圧力の上昇によって脱水分解反応が起こり、断層面に高い間隙圧の水が供給された。そのため、断層面の強度が著しく低下した状態のところに、東北地方太平洋沖地震の地震時滑りによって断層面でのせん断応力が増加したため、地震が誘発されたものと解釈された。

(2-2)火山噴火準備過程

 火山噴火予知研究の目標は、噴火の時期、場所、規模、様式及び推移を予測することである。現状では、研究が進んでいる幾つかの火山において、観測と経験則により異常の原因が推定できる段階になっているが、これを、現象を支配する物理・化学法則を明らかにし、それに基づいたモデルと観測結果を合わせて将来の予測ができる段階に引き上げることを目指している。本研究項目では、噴火に至るまでの現象を理解するため、マグマ上昇・蓄積過程の解明と、地質学的研究による噴火履歴、及びマグマの発達過程の解明を2本の柱として研究を推進している。

・マグマ上昇・蓄積過程

 マグマ上昇・蓄積過程は多様であるが、地盤変動の時間変化と噴火活動との関係に注目すると、1)静穏期にある火山への繰り返しマグマ貫入、2)噴火活動によるマグマ放出のある火山への繰り返しマグマ貫入、に大別できる。1)について、伊豆大島及び岩手山の膨張・収縮変動を解析し、その圧力源の位置や付随する諸現象から、静穏と思われる火山でも繰り返しマグマの貫入が起こっていることを裏付ける重要な結果が得られた。2)のタイプにおいては、地殻変動に加えて、噴出物の時間変化が重要な情報となる。代表例である桜島(図10)においては、山頂下へのマグマ蓄積率の増減が1年ごとに繰り返され、これに対応して表面の爆発活動も多くなる。噴出物の物質科学的分析から、玄武岩質マグマの貫入が山頂下へのマグマ供給率や爆発回数の増加を支配していることが指摘された。また、山頂下への繰り返しマグマ供給に加え、深部マグマだまりへの供給率の増減も5年ごとに現れ、現在活発に爆発活動を続けている昭和火口の活動の最初のピークは、この5年周期の供給率増加期に一致することもわかった。一方、この二つの分類に当てはまらない活動として、山体の膨張が主噴火に直結した新燃岳2011年噴火が挙げられる。この噴火前の地殻変動データを精査した結果、山頂部は単調膨張のまま噴火に至ったわけではなく、膨張と収縮を繰り返していたことがわかった。

・噴火履歴とマグマ発達過程

 クリチェフスコイ火山、十勝岳、有珠山、羊蹄山、蔵王山、伊豆大島、桜島で調査を行い、火山の形成年代史とマグマ供給系の発達過程が理解されつつある。最も重要な成果は、桜島におけるマグマ供給系の変遷過程が明らかになったことである。桜島の現在の活動を支配していると考えられる玄武岩質マグマの関与は、大正噴火の時に始まり現在まで続いていることがわかった。マグマの性質は噴火様式と直結しており、それが時間的に変化しているということは、将来において過去と同様の噴火を繰り返すとは限らないことを示唆する。したがって、将来の噴火活動を予測するためには、マグマの性質の時間的変化について詳しく調べることが重要である。

(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程

(3-1)地震発生先行過程

 地震発生予測の時間精度を高め、短期予測を可能にするためには、地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して、予測シミュレーションモデルにそれらの知見を反映させ、直前過程に伴う現象を的確に捕捉(ほそく)して活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によって、地震に先行して発生する現象は多種多様であり、地震発生準備過程から直前過程に至る過程で発生する現象の理解を進める必要性が認識されてきた。このために、地震に先行する地殻等における諸過程を地震発生先行過程と位置付けて研究し、そのメカニズムを明らかにして、特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるのか評価することが重要である。

・先行現象の発生機構の解明

 異なる大きさを持つアスペリティ間の相互作用が、震源核形成を含む地震サイクルにどのように影響するかについて考察するために数値シミュレーションを行った(図11)。設定したモデルでは、大きなサイズのアスペリティの中に、小さなサイズのアスペリティが分布しており、そこでは断層破壊の拡大に対する抵抗力がやや小さくなっていると仮定した。得られた結果では、準静的に大きな震源核形成を経て大アスペリティが破壊する場合(主地震発生)と、小アスペリティの破壊(小地震発生)に引き続き大アスペリティが破壊する場合(主地震発生)とが交互に起こることが見いだされた。つまり、大小のアスペリティが階層的な構造を形成している場合でも、いつも小アスペリティから破壊が始まるとは限らず、大アスペリティ自身の内部で発生するゆっくり滑りによって震源核が成長し、破壊に至る場合もありうることを示した。
 数値シミュレーションによって、深部ゆっくり滑り(SSE)の伝播(でんぱ)現象については、巨大地震発生前になると、深部SSEの発生間隔が短くなるとともに伝播(でんぱ)速度は速くなり、エネルギーの解放率が増加する傾向が見られることを昨年度示した。今年度は、さらに、浅部SSEも共存させるモデルを構築した。その結果、浅部SSEの方が深部SSEよりも時間変化が顕著であることがわかった。このことは、近い将来発生するとされる東南海地震について、海底観測などによりこれらのSSEのモニタリングを行うことによって、大地震発生の切迫度を評価できる可能性を示唆するものである。

・観測データによる先行現象の評価

 GPS観測データの解析によって、東北地方太平洋沖地震の約40分前から、震源域上空の電離圏で全電子数(TEC)が最大一割近く増大する異常が見つかった。同様の異常変化は2010年2月のチリ地震、2004年12月のスマトラ地震、1994年10月の北海道東方沖地震の際にも見いだされており、M8を超える巨大地震に普遍的なものである可能性がある。

(3-2)地震破壊過程と強震動

 地震や津波の観測データの解析に基づいて、大地震の震源破壊過程を詳しく調べることは、大地震が発生する過程の理解や強震動となる原因の理解を深め、将来発生する大地震の強震動と、津波のより正確な予測につながる。さらに、大地震発生直後に観測データを即時に解析して震源域の広
がりと地震の破壊過程を正確に推定することは、強震動の地域的な広がりと災害の把握に有効である。また、地震や津波の解析技術、データ流通技術、高速計算技術を駆使して沿岸の津波到達・浸水予測を高度化することは、災害軽減に直接つながる。

・断層面の不均質性と動的破壊過程

 東北地方太平洋沖地震の震源過程解析において、高密度観測網で捉えられた強震波形記録や、GPSデータ、遠地実体波波形記録を統合的に用いたインバージョンに基づく詳細な検討を行った(図3)。
 その結果、震源の破壊開始点付近において20~30m以上の大きな滑りが推定された。この領域では過去に大きなアスペリティは知られておらず、日本海溝周辺域で存在が知られていたアスペリティの連動破壊だけでは今回の地震を説明することはできないことが明らかとなった。また、遠地実体波を用いた経験的グリーン関数法に基づく震源解析からは、震源域の周辺で高い周波数(約1Hz以上)の強い地震動が放射されたことがわかった。

・強震動・津波の生成過程

 津波波形データの解析から、海溝寄りの浅部プレート境界で55mを越える非常に大きな滑りが推定された。一方、地震波形データの解析からは、この領域で1Hz程度以下の低周波数の地震動が強く放射されたことが示された。これらの結果から、強震動を作り出している領域と大きな津波を生成している領域が異なることが明らかとなった(図3)。津波予測システムの構築に向けた研究として、沖合に設置されたGPS波浪計や海底ケーブル津波計の記録を用いて、津波波源域を即時に推定する手法の有効性が示された。また、地震記録を用いた解析から断層サイズと滑り量を見積り、津波シミュレーションにより、リアルタイムで沿岸の津波高と津波遡上域を推定する手法や、時間経過とともに新たなデータを取り入れながら予測精度を向上させる手法が検討され、その有効性が示された。さらに、最初に陸上のGPSデータの解析から初期断層モデルと震源域直上の初期海面変動を推定し、次に沖合津波観測データを用いて震源モデルの修正と沿岸津波の予測修正を逐次的に行う手法の開発が進められた。

(3-3)火山噴火過程

 噴火規模や様式、推移を支配する要因を理解するためには、火道浅部におけるマグマの挙動や火山体構造を把握する必要がある。本研究項目では、「噴火機構の解明とモデル化」と「噴火の推移と多様性の把握」の研究を2本の柱とし、両者をあわせて考察することにより噴火シナリオの作成に資することを目的とする。

・噴火機構の解明とモデル化

 繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質科学的観測を行い、爆発的噴火直前の圧力蓄積過程を調べた。諏訪之瀬島では、火道上部で固まったマグマが「キャップ」を形成し、火道最上部に圧力が蓄積されること(図12)が、以下の観測・解析結果から明らかになった。まず、圧力蓄積は山体膨張として観測されるが、その開始が火山灰放出を示す連続微動の停止に同期していること、噴火直前には微小ながら火山ガス放出率も低下することが分かった。また、爆発的噴火に伴う地震を適切に配置した地震計で精密に観測・解析することにより、深さ200~800mの震源に加え、「キャップ」によって生じた火口直下の圧力源の存在を示す波動成分が推定された。噴火直前の噴出孔閉塞を示唆する山体膨張や噴煙活動の停止は、新燃岳でも確認された。また、そこでは、開発が進められている火山ガスのモニタリングの新手法を用いて、爆発的噴火直前に火山ガス放出率が減少していることが確認された。
 火山ガスの発生と放出・蓄積は、爆発的噴火の鍵となる過程であり、そのモニタリング手法の開発やモデルの構築が進められた。口永良部島(くちのえらぶじま)においては、山頂部の膨脹や地震活動の活発化、消磁と同期した火山ガス組成の変動現象を説明するモデルを構築した。霧島山(新燃岳)では、多成分のセンサーを用いた噴煙組成観測システムを用い、噴火直後の火山ガス組成の推定を行った。薩摩硫黄島火山を対象としたマグマ-熱水系のシミュレーションの結果と、地表温度分布測定結果との比較から、火山ガスの供給が地下300m程度の浅所で生じていること、火山ガスが凝縮した酸性熱水の流動と自然電位異常の関連性が明らかになった。また、噴煙の時空間分布のパターンマッチングから噴煙速度を推定し、ガス放出率を算出する新しい方法を考案するとともに、その解析に必要な火山ガス自動測定装置の長期稼働を行った。
 一方、爆発的噴火を引き起こす火道浅部構造を解明するために進めてきた浅間山の観測研究では、雑微動を用いた地震波干渉法により、火山体西部の深さ5~10kmに、局所的なS波の低速度領域が見いだされた。S波の速度は、流体の存在により大きく低下することや、地殻変動から推定されるマグマの貫入位置などを考え合わせると、この低速度領域はマグマ溜まりである可能性が高い。さらに、これまでに実施された比抵抗探査や地震波構造探査の結果や、ミュオグラフィによる密度分布などの各種解析結果と統合することにより、上部地殻から山頂火口に至るマグマの供給経路の全貌が明らかになった。

・噴火の推移と多様性の把握

 浅部噴火発生場の検証研究として有珠山(うすざん)で行われた、地震探査や空中磁気測量及び熱観測の解析が進められた。2000年噴火でできた新山の沈降中心付近では、噴火直後に比べてP波速度が増加しており、陥入したマグマやその周辺領域が押し固められつつあると推定された。2000年噴火新山、山頂火口原及び昭和新山の3地域に、冷却によると思われる帯磁が認められ、新山付近の噴気地からの放熱率も、噴火から3~5年後をピークに減少にしていることがわかった。一方、1910年噴火で生じた明治新山付近には有意な帯磁変化は認められず、1977-82年噴火で生じた噴気地帯では噴火30年経った今も高い放熱量が保たれている。2000年噴火とこれらの過去の噴火とでは、貫入マグマ量や熱水循環システムの発達に大きな違いがあると推察された。
 世界全体の火山活動度の経験則(噴火規模が小さくなるにつれて発生頻度が指数関数的に増大する傾向)が、カルデラを作るような超巨大噴火を除いて、個別の火山においても成立することが明らかとなった。すなわち、大噴火と小噴火の発生する割合は、いずれの火山でも大きく違わず、この結果は中長期的な噴火活動の予測に有効であることがわかった。

(4)地震発生・火山噴火の素過程

 より信頼性の高い地震発生モデルを構築するために必要な、地震発生の各過程を支配する破壊現象や摩擦構成則の素過程を理解するための実験的・理論的研究を行った。時空間的スケールが数桁以上異なる自然地震に対して室内実験の知見を適用することの妥当性を検討するために、摩擦や破壊現象の規模依存性を明らかにするための実験・観測を行った。

・破壊現象の規模依存性

 花崗岩試料を用いた一軸圧縮破壊試験において、広帯域センサーを用いてAEの連続計測を実施した。観測されたAEのS波のスペクトルから地震モーメントとコーナー周波数を推定した。得られた地震モーメントはコーナー周波数のマイナス3乗にほぼ比例することがわかった。これは、自然地震において成り立っている関係と同じであり、自然地震と実験室のAEが同じ物理過程に従って発生することを示唆する(図13)。

・掘削試料の解析

 南海トラフ付加体浅部(海底下約1000m)から採取されたタービダイト起源泥試料、及び半遠洋性泥試料の二種類の泥質堆積物試料について、微細構造観察、粒径・孔隙率計測、粉末X線回折分析、透水実験及び破壊実験、摩擦実験を行った。前者は石英や長石などの砕屑(さいせつ)粒子に富み、粘土鉱物粒子が比較的少なく、孔隙(こうげき)が多く、透水性が高い。一方、後者は、細粒均質で、粘土鉱物粒子に富み、孔隙が少なく、透水性が低い。破壊強度はタービダイト起源泥試料の方が高かった。これらのことは、高速滑り時の摩擦挙動などを理解する上で重要であり、付加体浅部における断層滑り様式を推定するうえで有益な情報である。

・摩擦の素過程

 時々刻々と変化する滑り面の状態をモニターすることは、摩擦現象を理解する上で重要である。高速滑りにおいては、ガウジの生成が摩擦強度の変化に大きな影響を与えており、滑り弱化の主なメカニズムとなっている。室内実験により、人工的に作った断層上で高速滑りを発生させ、断層面を透過する弾性波の振幅及び電気伝導度の連続測定を行った。透過する弾性波の振幅の解析から、滑り面内に形成されるガウジ層の中の空隙と摩擦強度との関係が明らかになった。電気伝導度の解析からは実際の接触面積の時間変化の情報が得られており、これら2つのデータの同時解析から、高速滑り摩擦のメカニズムについてより詳細な知見が得られることが期待できる。高速滑り時の強烈な速度強化を説明するため、粉体動力学に基づく理論を構築した。この理論では、速度強化は粒子の微小変形に伴うエネルギー散逸が原因であるとしており、粒子間の摩擦係数には依存しない。この理論を検証するために、滑り速度を変化させて花崗岩試料を用いた摩擦実験を行った。中程度の滑り速度(1mm/sのオーダー)では顕著な速度弱化であるが、地震時滑りに相当する高速滑り速度(1m/sのオーダー)では速度強化に転じるという結果を得た。この速度強化の程度は新たに構築した理論と矛盾のない結果であった。

・火山噴火の素過程

 霧島山(新燃岳)噴火の溶岩流出期において、調和型振動が観測された。室内モデル実験でその特徴を再現し、また溶岩流出速度や火口内に蓄積した溶岩形状の時間変化とも比較することにより、この振動が固まりつつある溶岩の中を火山ガスが抜けていく時に発生したものである可能性を指摘した。

3-3.新たな観測技術の開発

(1)海底における観測技術の開発と高度化

 陸上GPS観測網によって観測される日本列島のひずみ変化量からプレート間固着率の分布を推定し、地震規模の予測や地震発生サイクルの再現等に関する研究が進んでいる。しかしながら、陸上観測網からでは海域下のプレート間固着率については十分な解像度で把握することはできない。そこで海上におけるGPS測位と海中の音響測位を結合して海底の精密測位を繰り返す海底地殻変動観測(GPS/A)や、海底圧力計による海底上下動変位観測の精度向上に関する研究を進めている。東北地方太平洋沖地震では、地震発生以前から設置されていたGPS/A基準局と海底圧力計によって、巨大地震発生に伴う海底地殻変動量を世界で初めて観測することに成功した(図2:図中緑丸はGPS/A、赤丸が海底圧力計の観測点)。GPS/Aでは、海中の音速を精度よく決定することが重要であり、地震学で利用されている速度決定法を応用して、海中音速構造の不均質性及び時間変化の検出を試行している。また、海底基準局の形状を固定して重心位置の移動のみを求めるアルゴリズムを、これまで取得された全データに適用して再解析し、水平変位速度を5~10mm/年の精度で得られることを示した。
 海底地震観測については、海溝軸近傍等での観測を可能とするため、従来の観測深度限界である6000mを超える超深海用海底地震計の試作を行った。

(2)宇宙技術等の利用の高度化

 陸上でのGPS観測や、衛星搭載合成開口レーダー(SAR)等の人工衛星を利用した技術によって、地震や火山活動をより高い精度で把握することを可能とするための研究を進めている。1秒サンプリングのGPSデータをリアルタイム処理することによって、約10cmの精度で地震発生時の水平地殻変動が捉えられることを確認した。得られた変動を用いて長方形の断層モデルを20秒間隔で逐次推定し、地震の規模を迅速に把握する手法を開発した。これを東北地方太平洋沖地震に適用した結果、地震発生から約3分でM8.7と推定できることを確認した。
 衛星SAR解析については、低精度の速報的軌道情報を用いた干渉処理においても、GPSデータを併用して長波長成分の誤差要因を補正することによって、地震に伴う地殻変動を迅速かつ高精度に抽出することが可能となった。

(3)観測技術の継続的高度化

 宇宙空間から地上に降り注ぐ高エネルギー粒子ミューオンを利用した火山帯内部透視装置では、センサーの改良によってバックグランド・ノイズの大幅な低減を実現し、内部密度画像を得るまでの観測時間がおよそ1/3に短縮された。さらに、現在試験的に用いているセンサーの面積を倍増することによって、時間効率を2倍向上させることが可能と考えられる。
 火山噴火の際には火口近傍での観測が重要である。観測者の安全を確保しつつ機動的観測を行うために、産業用小型無人ヘリコプターにより設置できる観測システムの高度化や、火口周辺の不整地走行が可能で搭載センサーのデータをリアルタイムで基地局に伝送できる無線操縦ロボット「ほむら」の開発を進めている。それぞれ実際のフィールドにおいて、観測の実施及び試験的観測を行った。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成25年02月 --