4 計画推進のための体制の強化

(1)計画を推進する体制の整備

(観測研究計画推進委員会の充実及び関係機関の役割の明確化)

○ 地震・火山現象を理解し、予測するためには、長期にわたる継続的な観測データの取得が不可欠であるとともに、今後発生する事象については、可能な限りの高精度のデータを取得することが重要であることから、国として、継続的な観測とそれを実現する体制の更なる整備が必要である。

○ 現在、測地学分科会地震火山部会の下に設置された観測研究計画推進委員会は、地震及び火山噴火予知のための観測研究に関する1.計画の進捗状況の把握、2.計画の達成度の評価、3.計画の実施に関する問題点と今後の課題の整理、4.各機関の実行計画に関する情報交換及び協力・連携体制の検討を目的とし、その目的達成に向けて関係各機関が協力して、定期的な進捗状況の把握、実施計画及び研究成果の取りまとめ、研究の評価を実施する。

○ 一方、地震予知連絡会については、設立当初からこれまでの活動を積極的に評価し、今後は、観測研究計画推進委員会と適切に連携・協力しつつ、「1 地震・火山現象予測のための観測研究の推進」を図るために、地震活動・地殻変動等に関するモニタリング結果を中心とした情報交換を行い、モニタリング手法の高度化を検討する場として、その役割を明確化した上で充実する。

○ 大学は、引き続き地震・火山噴火予知研究協議会の機能を強化して、関係機関とのより緊密な連携の下、主として、基礎的な観測研究の推進を図り、観測研究計画推進委員会の活動に貢献する。

(地震調査研究推進本部が策定する新しい総合的かつ基本的な施策への反映)

○ 本計画は、予知の実用化を目指し、研究者の自由な発想に基づいた議論の上で策定され、地震予知研究、火山噴火予知研究を大学や関係機関が役割分担をしながら推進するための計画であるのに対して、地震本部が策定作業を進めている「新しい総合的かつ基本的な施策」は、国として今後10年間に推進すべき地震調査研究の基本を定めるトップダウン型の計画である。

○ これまでの地震予知研究の推進により、特に海溝型地震の理解が進み、物理モデルに基づく中期予測も視野に入りつつある。また、南海トラフにおける巨大地震の連動性などの理解も進んでおり、さらに、ひずみ集中帯、糸魚川-静岡構造線断層帯、首都直下地震、海溝型地震を対象とした地震本部の重点調査観測において、基礎研究面を中心として連携を図ってきた。今後も引き続き、本計画に盛り込まれる実施内容が、「新しい総合的かつ基本的な施策」の策定に際して、十分に反映されることを期待する。

(火山監視観測網の整備と火山観測研究の充実、火山噴火予知連絡会の機能強化)

○ 気象庁は我が国の47の火山において連続監視を実施しているが、今後も、火山噴火予知連絡会の検討結果・提言を踏まえて、監視観測網の強化に努める。その上で、各大学、研究機関は、火山研究予算の厳しい状況等も直視しつつ、火山噴火予知の高度化を目指して、観測機器等の研究資源を特定の火山に集中するなど、観測研究の効率化・重点化を図ることを検討する。

○ さらに、このような重点化を受け、例えば防災科学技術研究所等の研究機関において、大学の観測研究の支援を目的とした共通基盤的な観測体制を整備すること等についても検討する。その際、観測点数や観測項目等を含む整備計画の立案に関しては、火山噴火予知連絡会が積極的な役割を果たしていくことを期待する。

○ また、火山噴火発生時に的確な予測を行い、火山災害を軽減するための情報を発表するために、火山噴火予知連絡会の機能の更なる充実を図る。具体的には、火山の監視・観測データに基づく火山活動の総合的評価、成果・情報の交換及び発信、ハザードマップや噴火シナリオ作成、緊急時の観測研究体制の整備等がより的確に行われるよう努める。

(2)基礎的な観測研究体制の強化

○ 地震・火山現象を理解し、予測するためには、長期にわたる継続的かつ基礎的な観測研究が不可欠である。これまでの継続的な観測研究によって多くの新事実が発見され、新しい概念と新モデルの創出が図られた。その主な担い手は国立大学であり、これまで全国共同利用研究所や附属研究センター等を中心に整備が図られてきたところであるが、平成16年の法人化により各大学の自主的・自律的判断の下、大学全体の運営方針の中で位置付けられることとなり、より競争的な研究環境となった。

○ 一方、本計画の推進には、継続的かつ基礎的な観測研究を個々の法人の枠を超え全国の国公私立大学及び研究機関の研究者が連携して拠点を形成して実施して行く必要性がますます高まっている。そのための制度的な位置付けを明確化する必要がある。

○ また、災害及び防災に関する総合研究に資するため、工学・人文社会科学等の他の研究分野との共同研究を促進する。防災科学の共同利用・共同研究拠点としての京都大学防災研究所の役割を活用して、地震学・火山学と地震工学、地盤工学、砂防工学、社会科学的な総合防災研究を行う必要がある。

○ このような状況においては、全国共同利用研究所の役割はこれまで以上に重要なものとなることから、例えば、地震・火山噴火予知研究協議会が置かれている東京大学地震研究所を中核的な研究拠点として、各大学の地震・噴火予知関連研究センターとの連携を一層強化することが必要である。

(3)計画を実施するための予算的措置

○ 国、各大学及び関係機関においては、地震予知研究及び火山噴火予知研究が本計画にのっとり着実に推進されるよう、予算・人材面での適切な措置を講じるべきである。特に国立大学法人については、全国共同利用による人的・物的資源の効率化を図りつつ、必要な経費を運営費交付金等により支援されることや、関係機関における共通基盤的な観測網の整備及び維持について、国による予算的な配慮が必要である。

○ また、本研究は、短期間で目標を達成できるようなものではないことに留意する必要がある。研究者の自由な発想に基づく個々の基礎的研究の果たす役割が大きく、それらの着実な積み重ねにより、より長期間を見通しつつ、段階的に予知の実現を目指すものである。このため、本計画のうち、特に萌芽(ほうが)的な研究や基礎基盤的な研究等に対して、国として支援を行うための研究資金制度等の充実を期待する。

(4)人材の確保、特に若手研究者の養成

○ 大学は、教育研究環境の向上を図るなど、長期的な視野に立って大学院生の確保に努めるとともに、観測研究を生かした教育活動を継続して若手研究者の育成に努力する。また、地震予知研究及び火山噴火予知研究に携わる次世代の人材を確保するため、国、大学及び研究機関、更には研究者自身が、関連する他分野との連携を図り、高等学校や大学等での地学等関連する教育の充実・強化に努める。

○ 大学や研究機関等においては、地震予知研究及び火山噴火予知研究に携わる研究者のキャリアパスを確保するため、若手の准教授、助教等のポストの確保や、ポストドクターの年齢制限等採用要件の柔軟な運用、民間企業等との共同研究を通じた就職先支援等の具体策を講じるよう努力する。また、若手研究者の研究資金を確保するため、国において、特に若手研究者を対象とした競争的研究資金制度等の充実を期待する。

(5)国際共同研究・国際協力の推進

○ 地震・火山現象に関する理解を深め、地震予知及び火山噴火予知の研究を推進し、災害軽減に資するためには、国内外の地震・火山活動に関する国際共同観測・比較研究、多国間の観測データの持続的交換、知識・経験の交換・共有、技術の交換・支援や人材の交流・育成が有効かつ不可欠である。そこで、関係機関は、それぞれの実績や機能を踏まえ、かつ、相互に連携を図りながら、これらの実施に当たる。相互に連携して国際共同研究・国際協力を推進するため、当面は地震・火山噴火予知研究協議会、自然災害研究協議会、防災研究フォーラム等の既存の組織を活用しつつ、新たな連携の仕組みの構築を目指す。

○ 大学は、全国共同利用の地震研究所の国際地震・火山研究推進室の機能を活用して継続的に研究者の招聘(しょうへい)・派遣を行い、地震・火山噴火予知研究に関する国際共同研究を推進する。諸外国で発生する大規模な地震・津波・火山活動に対する緊急調査のために必要な体制の整備を図りつつ、機動的に調査を実施する。また、地震・火山噴火予知研究に関する我が国での国際シンポジウムの開催、及び諸外国で開催される国際会議の企画や研究者の派遣を行う。さらに、留学生や研修生の受入れ等により国際的な人材の育成に努め、国際共同研究推進の基礎を作る。

○ 防災科学技術研究所は、アジア・太平洋・中南米の開発途上国において、地震・火山噴火にかかわる災害軽減のための国際共同研究や観測網整備・運用に対する技術支援を行う。

○ 海洋研究開発機構は、環太平洋及びインド洋における地震発生帯研究推進のため、米国、カナダ並びにインドネシア等の大学研究機関との共同研究・連携研究を実施する。また、米国、カナダ及び欧州の国際的な海底観測ネットワークの研究グループと連携を図り、海底観測の技術開発並びにデータ活用を推進する。

○ 産業技術総合研究所は、アジア太平洋地域を中心に東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)などを通じて、地震・火山情報の共有化のための研究集会などを行う。

○ 気象庁は、国際地震センター、米国地質調査所、包括的核実験禁止条約機構、米国大学間地震学研究連合(IRIS)及び近隣国との地震観測データの交換を継続するとともに、組織的な連携・協力を行う。また、航空路火山灰情報センター、北西太平洋津波情報センター及びインド洋津波監視情報関連の業務を引き続き行う。さらに、開発途上国における地震・火山の観測体制や、津波の警報体制の整備に対して技術的な支援を行う。

○ 国土地理院は、国際GNSS事業(IGS)に参加し、IGS観測局の運用・データのIGSデータセンターへの提供を継続することにより、プレート運動や地殻変動の高精度な監視に必要なGPS衛星の精密軌道の決定に貢献するとともに、国際VLBI事業に参加しVLBI国際共同観測を定常的に実施することで、地殻変動やプレート運動監視の基準となるITRF座標系の構築等に貢献する。また、アジア太平洋地域の広域地殻変動を把握するため、アジア太平洋GIS基盤常置委員会を通じて、当該地域の国家測量機関と連携した測地観測データの交換・収集を行う。

○ 海上保安庁は、国際レーザー測距事業(ILRS)に参加し、レーザー測距データの提供を継続することにより、日本周辺のプレート運動を把握する。

○ 建築研究所は、開発途上国の地震災害軽減に資するために、これらの国の研究者・技術者に対して地震学及び地震工学に関する研修(国際地震工学研修)を行い、地震学、地震工学、地震防災対策、津波防災の専門家の育成に努める。

(6)研究成果の社会への還元

○ 国民に対して、地震予知・火山噴火予知研究の成果を分りやすく継続的に伝えることは、地震及び火山噴火に関する防災意識の向上に貢献し、防災・減災対策に有益である。同時に、研究成果の発信は、地震・火山噴火予知研究の重要性と本計画を推進することへの理解を得るためにも重要である。このため、本計画によって得られた研究成果を社会に分かりやすく伝えることに一層努力して取り組む。

○ 地震に関しては、最新の科学的な知見や情報を基に、地震本部地震調査委員会が地震活動評価や地震発生可能性の長期評価及び強震動評価を行い、その結果を公表している。本計画の成果を、地震調査委員会の評価に適切に活用されるように努める。東海地震予知について、気象庁は、関係機関の協力を得て観測された地殻活動の状況に応じて情報を発表している。本計画で得られた知見を地震防災対策強化地域判定会での議論に随時反映させる。

○ 火山噴火に関しては、気象庁は、火山防災に関する情報を公表している。気象庁は、情報の質的向上を図るため、火山噴火予知連絡会及び関係機関の協力の下、防災対応を分かりやすく表現した噴火警戒レベルを導入する火山を順次増やす。また、海上保安庁は、引き続き、船舶の安全航行確保のため、航行警報による情報提供を行う。本研究計画の成果が、これらの防災情報の改善に寄与できるように努める。

○ 研究成果の普及のためには、関係機関が連携して、計画全体として組織的な情報の発信に努める必要がある。例えば、ホームページ等の充実、講演会の開催、講師の派遣、パンフレットや解説書の発行、防災関係者との研究会や勉強会、さらに、マスメディアへの解説を積極的に行うなど、固体地球科学の分野についてアウトリーチ活動を幅広く強化し、研究成果に基づく正確な科学的な知見の普及活動を進めていくことが必要である。

○ その際、より効果的な普及活動として、防災に関する各種説明会等と連携することにより、より大きな効果が得られることが期待される。また、このような直接的な普及活動以外にも、国や地方自治体の各種委員会等を通して研究成果が社会に生かされることも重要である。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)